古村治彦です。
ブログの更新が滞りまして、大変申し訳ございません。先日、「新・軍産複合体」をテーマにした新著の原稿を書き上げました。これから、加筆修正を施しまして、11月上旬に発売予定です。アマゾンでは既にページができておりました。『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』という仮タイトルになっています。
『トランプの電撃作戦』(秀和システム、2025年)、『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店、2023年)、『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』(秀和システム、2021年)で取り上げてきました、「新・軍産複合体」をテーマにして、様々な角度からアメリカ政治を分析した内容になったと自負しています。発売が近づきましたら、また宣伝をいたします。その際には、是非よろしくお願い申し上げます。また、別の仕事の準備も行っております。こちらも追ってご報告をいたします。
これからブログを通常に戻していく。アメリカでも、既に「新・軍産複合体」という言葉が使われ始めている。私の本書に関連しての重要な論稿をいくつかご紹介する。これらを読むと、どのようなことが起きているか、その一端が理解できる。
(貼り付けはじめ)
新しい軍産複合体へようこそ(Welcome to the New
Military-Industrial Complex)
-シリコンヴァレーで生まれた企業、あるいはシリコンヴァレーの破壊的な精神を取り入れた様々なスタートアップ企業が、米国防総省からの高額な受注獲得を目指し、既存企業に挑戦し始めている。
マイケル・T・クラレ筆
2025年2月24日
『ザ・ネイション』誌
https://www.thenation.com/article/economy/anduril-military-industrial-complex-drones/
昨年 4 月、メディアの注目はほとんど集めなかったが、米空軍はカリフォルニア州コスタメサのアンドゥリル・インダストリーズ社(Anduril Industries)とサンディエゴのジェネラル・アトミックス社(General
Atomics)という、ほとんど知られていないドローン製造企業2社を選定し、高リスクの戦闘任務で有人航空機に随伴することを目的とした将来の無人飛行機である共同戦闘航空機 (Collaborative Combat Aircraft、CCA) のプロトタイプを製造することを発表した。米空軍は今後10年間で少なくとも1000機のCCAを1機あたり約3000万ドルで取得する予定であり、これは米国防総省の新規プロジェクトの中で最も費用のかかるものの1つになることを考えると、報道の少なさは意外だった。しかし、メディアが取り上げなかったことのほんの一部に過ぎないと考えて欲しい。CCA契約の獲得で、アンドゥリルとジェネラル・アトミックスは、ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンという国内最大で最も有力な防衛請負業者3社に勝利し、既存の軍産複合体(military-industrial complex、MIC)の継続的な支配に深刻な脅威を与えている。
数十年にわたり、これら3社のような少数の巨大企業が米国防総省の兵器契約の大部分を獲得し、毎年同じ航空機、艦船、ミサイルを生産しながら、株主たちに莫大な利益をもたらしてきた。しかし、シリコンヴァレーで生まれた、あるいはシリコンヴァレーの破壊的精神(disruptive ethos)を取り入れたスタートアップ企業が、米国防総省からの高額な契約獲得を巡り、既存企業に挑戦状を叩きつけ始めている。その過程で、主流メディアではほとんど報道されていないものの、画期的な出来事が起こっている。新しい軍産複合体(MIC)の誕生だ。その目的は、既存の軍需産業とは全く異なるものになり、利益追求者も多様化する可能性がある。新旧の軍需産業間の避けられない争いがどのように展開するかは予測できないが、1つだけ確かなことがある。それは、今後数年間、これらのスタートアップ企業が大きな政治的混乱を引き起こすことは間違いないということだ。
巨大防衛関連企業と連邦議会および軍の有力者を結びつける「軍産複合体(military-industrial
complex)」という概念は、1961年1月17日、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領が連邦議会および国民に向けた退任演説で初めて提唱した。冷戦期のこの時期、強力な外国の脅威に対抗するため、アイゼンハワー大統領は「私たちは巨大な規模の、恒久的な軍需産業を創出せざるを得なかった(we have been compelled to create a permanent armaments industry of
vast proportions)」と指摘した。しかしながら、アイゼンハワー大統領はこの表現を初めて用いて、「軍産複合体による不当な影響力の獲得、それが意図的か否かに関わらず、警戒しなければならない。不当な権力の台頭が悲惨な結果をもたらす可能性は存在し、今後も存在し続けるだろう(we must guard against the acquisition of unwarranted influence,
whether sought or unsought, by the military-industrial complex. The potential
for the disastrous rise of misplaced power exists and will persist.)」と付け加えた。
それ以来、軍産複合体(MIC)の権力蓄積をめぐる議論は、アメリカ政治を揺るがしてきた。多くの政治家や著名人は、ヴェトナム、カンボジア、ラオス、イラク、アフガニスタンなど、アメリカが一連の壊滅的な外国戦争(軍産複合体が政策決定に過度の影響を与えた結果)に参戦したのは、軍産複合体が政策決定に過度の影響を与えたためだと主張してきた。しかし、こうした主張や不満は、米国防総省の兵器調達に対する軍産複合体の鉄壁の支配を緩めることには繋がっていない。今年の国防予算は過去最高の約8500億ドルで、研究開発費1432億ドルと兵器調達費1675億ドルが含まれている。その大半が巨大防衛企業に流れ込む3110億ドルは、地球上の他の全ての国の国防費の総額を上回っている。
米国防総省の数十億ドル規模の契約をめぐる競争は、時を経て軍産複合体のエコシステムを淘汰させ、少数の巨大産業企業が優位に立つ結果となった。2024年には、ロッキード・マーティン(防衛売上高647億ドル)、RTX(旧レイセオン、406億ドル)、ノースロップ・グラマン(352億ドル)、ジェネラル・ダイナミクス(337億ドル)、ボーイング(327億ドル)のわずか5社が、米国防総省の契約の大半を獲得した(アンドゥリルとジェネラル・アトミックスは、契約獲得企業上位100社にも名を連ねなかった)。
これらの企業は、米国防総省が毎年購入し続ける主要な兵器システムの主契約者、あるいは「プライム」契約者(“prime,” contractors)だ。例えば、ロッキード・マーティンは空軍の最重要任務であるF-35ステルス戦闘機(運用においてしばしば明らかに期待外れの性能しか発揮していない機体)の主契約者だ。ノースロップ・グラマンはB-21ステルス爆撃機を製造している。ボーイングはF-15EX戦闘機を製造し、ジェネラル・ダイナミクスは海軍のロサンゼルス級攻撃型潜水艦を製造している。こうした「高額(Big-ticket)」な製品は通常、長年にわたって大量に購入され、製造業者に安定した利益をもたらす。こうしたシステムの初期購入が完了に近づくと、製造業者は通常、同じ兵器の新型または改良型を開発すると同時に、ワシントンにおける強力なロビー活動を通じて、連邦議会に新設計への資金提供を働きかける。
「フレンズ国家立法委員会」は、軍産複合体のロビー活動に抵抗し、国防費を削減するよう連邦議員たちを説得しようと勇敢に試みたが、目立った成果は得られていない。しかし今、シリコンヴァレーのスタートアップ文化という新たな勢力が争いに加わり、軍産複合体の方程式は突然劇的に変化しつつある。
●アンドゥリル社の登場(Along Came Anduril)
昨年4月、軍需産業大手3社を圧倒し、協働型戦闘機(the Collaborative Combat Aircraft)の試作機製造契約を獲得した、目立たない企業2社のうちの1社であるアンドゥリル・インダストリーズ社について考えてみよう。アンドゥリル(J・R・R・トールキンの『指輪物語』でアラゴルンが所持する剣にちなんで名付けられた)は、仮想現実ヘッドセットの設計者であるパルマー・ラッキーによって2017年に設立され、人工知能(AI)を新しい兵器システムに組み込むことを目指していた。この取り組みは、ファウンダーズ・ファンド社とアンドゥリルと同じく防衛関連のスタートアップ企業であるパランティア(これも『指輪物語』に由来)の代表を務めるピーター・ティールなど、シリコンヴァレーの著名な投資家たちの支援を受けた。
ラッキーと彼の仲間たちは当初から、従来の防衛関連企業を排除し、ハイテク関連スタートアップ企業のためのスペースを確保しようと努めてきた。この2社をはじめとする新興テクノロジー企業は、長年にわたり、多数の弁護士を起用し、政府の書類処理に精通した巨大防衛関連企業に有利となるよう作成されてきたため、米国防総省との主要契約から締め出されることがしばしばあった。2016年には、パランティアはアメリカ陸軍が大規模なデータ処理契約の選定を拒否したとして訴訟を起こし、後に勝訴した。これにより、将来的に米国防総省から契約を獲得する道が開かれた。
アンドゥリルは、その積極的な法的姿勢に加え、創業者パルマー・ラッキーの率直な意見表明によっても名声を博している。他の企業の最高幹部たちが国防総省の活動について議論する際、通常は言葉遣いを控えるのに対し、ラッキーは、将来の紛争で中国とロシアを圧倒するために必要だと考える先進技術への投資を犠牲にして、伝統的な防衛関連企業との協力を米国防総省が根強く望んでいることを公然と批判した。
ラッキーは、そのような技術は民間技術産業でしか入手できないと主張した。ラッキーは、「大手防衛関連請負業者は愛国心旺盛な人材を抱えているが、必要な技術を開発するためのソフトウェアの専門知識やビジネスモデルを持っていない」と述べた。ラッキーと幹部たちは2022年の「ミッションドキュメント」で次のように主張した。「これらの企業は仕事が遅いが、優秀な[ソフトウェア]エンジニアはスピード重視だ。そして、敵よりも速く開発できるソフトウェアエンジニアの才能は、大手防衛関連企業ではなく、民間セクターに存在するのだ」。
ラッキーは、軍の近代化を阻む障害を克服するには、アメリカ政府が契約規則を緩和し、防衛関連のスタートアップ企業やソフトウェア企業が米国防総省と取引しやすくする必要があると主張した。ラッキーは次のように語っている。「迅速な対応ができる防衛企業が必要だ。ただ願うだけでは実現しない。はるかに寛容な米国防総省の政策によって、企業が動くようインセンティヴを与えられる場合にのみ実現する」。
こうした主張とティールのような重要人物の影響に支えられ、アンドゥリルはアメリカ軍や国土安全保障省から小規模ながらも戦略的な契約を獲得し始めた。2019年には、日本とアメリカの各基地にAIを活用した境界監視システム(AI-enabled perimeter
surveillance systems at bases in Japan and the United States)を設置する海兵隊の小規模契約を獲得した。1年後には、アメリカ合衆国税関・国境警備局(Customs and Border Protection、CBP)のためにアメリカ・メキシコ国境に監視塔を建設する5年間2500万ドルの契約を獲得した。2020年9月には、アメリカ合衆国税関・国境警備局から国境沿いの監視塔の増設に関する3600万ドルの契約も受注した。
その後、より大きな受注が次々と舞い込むようになった。2023年2月には、米国防総省がウクライナ軍への納入に向けて、アンドゥリルのAltius-600監視攻撃ドローンの購入を開始し、昨年(2024年)9月には陸軍が戦場監視作戦用にGhost-Xドローンを購入すると発表した。アンドゥリルは現在、空軍が提案するエンタープライズ・テスト・ビークル(小型の監視・攻撃ドローンを一斉発射するための中型ドローン)の試作機開発のために選定した4社のうちの1社だ。
アンドゥリルは米国防総省から大型契約を次々と獲得しており、防衛関連スタートアップ企業の成長期待から利益を得る機会を模索する富裕層投資家たちの関心を集めている。2020年7月には、ティールのファウンダーズ・ファンドとシリコンヴァレーの著名投資家アンドリーセン・ホロウィッツから新たに2億ドルの投資を受け、企業価値は20億ドル近くにまで上昇した。1年後には、これらの企業やその他のヴェンチャー・キャピタル企業からさらに4億5000万ドルを調達し、推定企業価値は45億ドル(2020年の2倍)に達した。それ以来、アンドゥリルへの資金流入は拡大しており、民間投資家たちによる防衛関連スタートアップ企業の台頭を後押しし、その成長が現実のものとなった暁には利益を得ようとする動きが勢いを増している。
●レプリケーター・イニシアティヴ(The Replicator Initiative)
アンドゥリルは、大型防衛契約の獲得と資本注入に成功しただけでなく、米国防総省の多くの高官に対し、国防スタートアップ企業やテクノロジー企業のための余裕を創出するために、米国防総省の契約業務を改革する必要があると説得することにも成功した。2023年8月28日、当時米国防総省においてナンバー2の高官だったキャスリーン・ヒックス国防副長官は、軍への先進兵器の配備を迅速化することを目的とした「レプリケーター」・イニシアティヴ(the “Replicator” initiative)の開始を発表した。
「(私たちの)予算編成と官僚的な手続きは遅く、煩雑で、複雑怪奇だ」とヒックス国防副長官は認めた。こうした障害を克服するため、レプリケーター・イニシアティヴは官僚主義を打破し、スタートアップ企業に直接契約を交付することで、最先端兵器の迅速な開発と供給を実現するとヒックス国防副長官は示唆した。「私たちの目標は、技術革新の種を蒔き、火をつけ、燃え上がらせることだ」とヒックス国防副長官は宣言した。
ヒックスが示唆したように、レプリケーター契約は確かに「トランシェ(tranches 訳者註:資産や負債をリスクやリターンの異なる複数の部分に分割すること)」と呼ばれる連続したバッチ単位で交付される。昨年(2024年)5月に発表された最初のトランシェには、エアロバイロンメント社製のスイッチブレード600カミカゼドローン(標的に衝突し、接触すると爆発することからこの名がつけられている)が含まれていた。アンドゥリルは、11月13日に発表された第2弾の資金提供で3つの賞を獲得した。米国防総省によると、この資金提供には、陸軍のゴーストX監視ドローンの購入、海兵隊のアルティウス600自爆ドローンの取得、そして空軍のエンタープライズ・テスト・ビークルの開発が含まれており、アンドゥリルは参加ヴェンダー4社のうちの1社である。
おそらく同様に重要なのは、ヒックスが、パルマー・ラッキーが示した米国防総省の調達改革の青写真を支持したことだろう。ヒックスは11日、「レプリケーター・イニシアティヴは、技術革新への障壁を明らかに低減し、戦闘員に迅速に能力を提供している」と断言した。彼女は続けて、「私たちは、幅広い伝統的および非伝統的な防衛・テクノロジー企業に機会を創出している。・・・そして、それを繰り返し実行できる能力を構築しているのだ」
●トランプ支持者たちの登場(Enter the Trumpians)
キャスリーン・ヒックスは、ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰した1月20日、国防副長官を辞任した。彼女の側近の多くも辞任した。トランプ新政権が軍事調達問題にどのように取り組むかはまだ分からないが、イーロン・マスクやJ・D・ヴァンス副大統領など、トランプの側近の多くはシリコンヴァレーと強いつながりを持っているため、レプリケーターのような政策を支持する可能性が高い。
最近国防長官に人事承認されたフォックス・ニューズの元司会者ピート・ヘグゼスは、兵器開発の経験がなく、このテーマについてほとんど発言していない。しかし、トランプ大統領が副長官(そしてヒックスの後任)に選んだのは、億万長者の投資家スティーブン・A・フェインバーグ(Steve Feinberg)だ。彼はサーベラス・キャピタル・マネジメントの最高投資責任者(CIO)として軍事スタートアップ企業ストラトローンチ社(military startup
Stratolaunch)を買収しており、レプリケーター・イニシアティヴのようなプログラムの延長を支持する可能性を示唆している。
ある意味、米国防総省に関して言えば、トランプ大統領の注目すべき瞬間は、過去のワシントンのパターンに当てはまり、大統領と議会の共和党の盟友たちは、軍事予算がすでに史上最高額になっているにもかかわらず、間違いなく軍事費の大幅増額を推し進めるところにある。伝統的な元請け企業であれ、シリコンヴァレーの新興企業であれ、あらゆる兵器メーカーがこのような動きから利益を得る可能性が高い。しかし、トランプ大統領と共和党が好んでいる減税やその他の高価な施策の財源を確保するために、国防費が現在のレヴェルに維持されれば、軍産複合体の2つのバージョンの間に激しい競争が再び起こりやすくなる。その結果、トランプ大統領の側近たちは分裂し、旧・軍産複合体の支持者と新・軍産複合体の支持者が対立するかもしれない。
共和党連邦議員の多くは、選挙資金を旧・軍産複合体からの献金に頼るのが一般的で、このような対立では大手元請企業を支持するに違いない。しかし、トランプ大統領の重要な側近であるヴァンスとマスクの2人は、トランプ大統領を反対の方向に向かわせる可能性がある。ヷンスは元シリコンヴァレーの有力者で、ピーター・ティールをはじめとするテック業界の億万長者たちから激しいロビー活動を受けた末にトランプ大統領の伴走者になったと言われているが、かつての盟友たちから、米国防総省との契約をアンドゥリル、パランティア、そして関連企業に増やすよう促される可能性が高い。ヴァンスのプライベート・ヴェンチャー・ファンドであるナリヤ・キャピタル(そう、これも『指輪物語』に由来する名前だ!)は、アンドゥリルやその他の軍事・宇宙ヴェンチャー企業に投資している。
トランプ大統領によって、まだ設立されていない政府効率化省の責任者に任命されたイーロン・マスクは、アンドゥリルのパルマー・ラッキーと同様に、自身の企業の1つであるスペースXの契約獲得を巡って国防総省と争い、米国防総省の伝統的なやり方を深く軽蔑している。特に、AI制御のドローンがますます高性能化している時代に、高価で概して性能の低いロッキード・マーティン製F-35戦闘機を酷評している。こうした進歩にもかかわらず、マスクは現在自身が所有するソーシャルメディアプラットフォーム「X」に、「一部の愚か者はいまだにF-35のような有人戦闘機を製造している」と投稿している。その後の投稿では、「いずれにせよ、ドローンの時代には有人戦闘機は時代遅れだ」と付け加えている。
F-35に対するマスクの批判は空軍の反感を買い、ロッキード・マーティンの株価は3%以上下落した。ロッキード・マーティンはマスクのツイートに対し、「世界最先端の航空機であるF-35とその比類なき性能を、政府および業界パートナーと共に提供することに全力を尽くす」と表明した。一方、米国防総省では、空軍長官フランク・ケンドールが次のように述べた。「私はイーロン・マスクをエンジニアとして深く尊敬している。彼は戦闘員ではない。今回のような壮大な発表をする前に、もう少しビジネスについて学ぶ必要があると思う」。さらに、「F-35が代替されるとは思わない。F-35の購入を継続し、アップグレードも継続すべきだ」と付け加えた。
トランプ大統領は、F-35や米国防総省の予算案におけるその他の高額項目について、まだ立場を明らかにしていない。F-35の購入ペースを落とし、他のプロジェクトへの投資拡大を求めるかもしれない(あるいはしないかもしれない)。しかし、マスクが示した、従来の防衛関連企業による高価な有人兵器と、アンドゥリル、ジェネラル・アトミックス、エアロバイロンメントといった企業によるより安価な無人システムとの間の溝は、今後数年間で拡大していくことは必至だ。新世代の軍産複合体が富と権力を増大させるにつれ、旧来の軍産複合体がこうした脅威にどう対処するかはまだ分からないが、数十億ドル規模の兵器企業が抵抗することなく撤退する可能性は低い。そして、その争いはトランプ政権を二分するだろう。
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連邦上院議員たちはこの億万長者が利益相反の当事者であることを無視している(Senators
ignore that this billionaire is a walking conflict of interest)
-火曜日に実施されたスティーヴン・フェインバーグの国防副長官の承認公聴会では彼の軍需産業とのつながりについて超党派の評価が行われた。
スタヴロウア・パブスト筆
2025年2月26日
『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌
https://responsiblestatecraft.org/feinberg-pentagon/
大富豪の投資家で、著名なプライベート・エクイティ企業であるサーベラス・キャピタル・マネジメントのスティーヴン・フェインバーグCEOが米国防総省ナンバー2のポストに就く可能性は軍産複合体の回転ドアの教科書的なケースだ。
しかし、昨日の連邦上院軍事委員会による、トランプ大統領が国防副長官に指名したフェインバーグ氏の人事承認公聴会では、その事実は明らかになっていない。連邦上院議員たちはフェインバーグの兵器産業での経歴を概ね歓迎しつつも、トランプ政権下の政治的混乱の中で、政府効率化省(DOGE)の予算削減案やウクライナ情勢について、フェインバーグの見解を詳しく尋ねた。
●スティーヴン・フェインバーグとは誰か?(Who is Stephen
Feinberg?)
フェインバーグは長年にわたり軍事投資を行ってきたが、様々な業界への投資で約650億ドルの資産を保有するサーベラス・キャピタル・マネジメントを通しての投資を行っているので、利益相反の可能性が米国防総省のポストへの就任を左右する可能性がある。
実際、フェインバーグのサーベラスは、防衛分野において物議を醸す投資実績を誇っている。トランプ政権第1期の情報諜報諮問委員会委員長を務めたフェインバーグは、サーベラスを通じて国家安全保障請負業者のダインコープ(現在はアメンタムが所有している)を所有していた。フェインバーグの在任中、ダインコープはイラク、リベリア、アフガニスタンでアメリカが支援した、戦闘員訓練を担当し、物議を醸した。サーベラスの防衛関連ポートフォリオの保有銘柄の中には、ナヴィスター・ディフェンスやトランスダイムなどがあり、米海兵隊などの顧客向けに装備品の価格をつり上げていることで悪名高い。また、サーベラス傘下のティア1グループは、2018年に『ワシントン・ポスト』紙の記者ジャマル・カショギを殺害したサウジアラビアの暗殺チームのメンバーを訓練していたことでも悪名高い。
これらの問題を考慮すると、火曜日の公聴会でこれらの問題が全く取り上げられなかったのは不思議だ。それは、フェインバーグは米国防総省の副長官として、国防予算の管理を含む日常業務を監督することになるからだ。
公平を期すために言えば、フェインバーグは人事承認されれば利益相反を避けるため、サーベラス株を売却すると述べている。実際、エリック・シュミット連邦上院議員(ミズーリ州選出、共和党)は公聴会でフェインバーグの売却表明に感謝の意を表した。
しかし、クインシー研究所の上級研究員ウィリアム・ハートゥングは、「売却だけでは将来の利益相反の可能性を排除できない」と説明している。
ハートゥングは、「(フェインバーグは)米国防総省を去った後、自分が働きたい、あるいは投資したい企業に利益をもたらすような決定を下したり、影響を与えたりする可能性がある。この大きな問題に対処する唯一の方法は、フェインバーグが米国防総省を去った後、兵器関連企業に働いたり投資したりしないと誓約することだ」と述べた。
利害関係にもかかわらず、フェインバーグの物議を醸した軍事契約の経歴は、人事承認公聴会ではほとんど問われなかった。むしろ、出席したロジャー・ウィッカー連邦上院議員(ミシシッピ州選出、共和党)、ティム・ケイン連邦上院議員(ヴァージニア州選出、民主党)、ジム・バンクス連邦上院議員(インディアナ州選出、共和党)、リック・スコット連邦上院議員(フロリダ州選出、共和党)たちは、この経歴を長官職に不可欠な経験だとしばしば強調した。
ウィッカー連邦上院議員は次のように述べた。「国防長官と共に働き、アメリカ精神を駆使してアメリカが敵に打ち勝つことができる人物、組織改革、成果向上、革新の活用方法を知っている人物が必要だ。フェインバーグさん、貴方は国家安全保障に不可欠な分野への投資で豊富な経験をお持ちであるだけでなく、大統領情報諜報諮問委員会にも尽力された。その点を感謝を申し上げたい」。
バンクス連邦上院議員はフェインバーグを称賛し、「米国防総省における(軍事)調達のあり方を変えるには、貴方の経歴はまさにうってつけだ」と述べた。
フェインバーグの兵器産業に関するノウハウを高く評価する複数の連邦上院議員が、アメリカの防衛産業基盤を活性化し、兵器調達を効率化する方法について質問した。民間セクターのニーズをしばしば強調するフェインバーグの回答は、彼が長年にわたり軍産複合体(MIC)の責任者を務めてきたことを如実に示している。
例えば、中小兵器メーカーの成功を支援するため、フェインバーグは軍事契約に関する規制緩和を提案した。フェインバーグは次のように述べた「民間セクターの現状を見れば分かるだろう。(軍事請負業者に対する)要件は、金メッキが施され、硬直的で、柔軟性に欠けている。・・・要件を緩和し、よりミッションに基づいたものにすべきだ。金メッキを控え、より迅速かつ機敏に、だ」。
フェインバーグは、中国などの脅威を挙げ、極超音速技術を含む先進兵器技術の開発強化を繰り返し訴えた。また、兵器生産における自律システムの必要性も支持した。興味深いことに、サーベラスは昨年、極超音速技術の発展事業であるノース・ウィンドを設立した。また、2023年に設立されたノース・ウィンドのヴェンチャー・キャピタル部門であるサーベラス・ベンチャーズは防衛技術重視の投資戦略を掲げている。
エリザベス・ウォーレン連邦上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)は、マサチューセッツ州に拠点を置く複数の病院システムにおけるサーベラス社の物議を醸す経営を厳しく批判したものの、公聴会ではフェインバーグの兵器産業との取引については批判を控えた。
しかし、ウォーレン議員の事務所から2月17日に発表されたプレスリリースとフェインバーグ宛ての書簡には、ウォーレン議員がフェインバーグの軍事産業とのつながりとカショギ殺害事件との関連性についてそれぞれ懸念を表明していた。
しかし、公聴会は容易なものではなかった。他の出席議員もフェインバーグを厳しく追及した。主にトランプ政権の他の動向についてである。
リチャード・ブルーメンソール連邦上院議員は、米国防総省における政府効率化省(DOGE)の人員削減案に触れ、「イーロン・マスクが解雇しようとしている米国防総省のヴェテラン職員たちに対しどのようなコメントをするか?」と質問した。トランプ政権のウクライナ戦争に関する方針転換に言及し、タミー・ダックワース連邦上院議員(イリノイ州選出、民主党)とマーク・ケリー連邦上院議員(アリゾナ州選出、民主党)は、ロシアがウクライナに侵攻したかどうかを明確にフェインバーグに尋ねた。フェインバーグは、進行中の外交展開の敏感さを理由に質問を避けた。
フェインバーグは、予算や人員削減も含め、トランプ政権による米国防省の合理化の取り組みが正式に決定されれば、それを実行する可能性が高いと明言した。ただし、これまで提案された予算「削減」は、基本的に米国防総省内の資金を移動するものだ。
それでも、フェインバーグが民間セクターへの支持を表明し、兵器調達の合理化や自律システムや極超音速技術といった先進技術の強化について発言していることから、フェインバーグが米国防総省に人員配置されれば、契約に飢えた兵器産業に最終的に好意的な姿勢を示す可能性が示唆される。
フェインバーグの連邦上院人事承認投票は正式に予定が決められていない。
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「部屋の中の唯一の理性的な人物:トランプ大統領が任命したこの億万長者は自分の仕事ぶりを熟知している(‘The Adult In The Room’: This Billionaire Trump Appointee Actually
Knows What He’s Doing)
-ウォール街では、スティーヴ・フェインバーグが約700億ドルの資産を管理していた。これは、米国防総省の8500億ドルの予算をまとめるための良い準備となった。
ダン・アレクサンダー(『フォーブス』誌スタッフ)筆
2025年4月2日
『フォーブス』誌
https://www.forbes.com/sites/danalexander/2025/04/02/the-adult-in-the-room-this-billionaire-trump-appointee-actually-knows-what-hes-doing/
ドナルド・トランプ大統領の国防副長官スティーヴ・フェインバーグは、政権内で最も有能な億万長者だ。同時に、最も葛藤を抱えている人物でもあるかもしれない。
ピート・ヘグセス国防長官が携帯電話から戦争計画をテキストメッセージで送信したいなら、スティーヴ・フェインバーグに相談するのが良いだろう。最近、国防副長官に就任したこの億万長者投資家は、プリヴォロ(Privoro)という企業に数百万ドルを投資していたことが判明した。プリヴォロは、ハッカーの侵入を防ぎ、職員が機密区域に持ち込める携帯電話ケースの開発を軍と共同で進めている。
プリヴォロは、フェインバーグが民間部門で行った数多くの防衛投資の1つに過ぎず、これにより彼はドローン、衛星、極超音速ミサイル、人工知能など、現代戦争におけるほぼあらゆる最先端の話題に関する知見を得ている。プライヴェートで愛国心旺盛なフェインバーグは、ウォール街のサーベラス・キャピタル・マネジメントを通じて、そして自身の資産を使って、こうした事業に投資した。フェインバーグはまた、ジョージ・H・W・ブッシュ政権の副大統領(訳者註:ダン・クエール)やバラク・オバマ政権のCIA長官代行(訳者註:マイケル・モレル)など、元政府高官たちを周囲に集めた。
これらのことから、フェインバーグ国防副長官は現政権では異例の存在といえる。資金と知性を同一視する大統領は、政府のトップレヴェルを億万長者で固めたが、フェインバーグほど適任者はいない。プロレス経営者のリンダ・マクマホンは教育省を率いる。不動産開発業者のスティーヴ・ウィトコフは外交を担当。テスラの共同創業者イーロン・マスクは不正を探し回る。ヘグセスが企業の顔として活躍する一方で、国防部門の日常業務を取り仕切る立場にあるフェインバーグは、自分が知り尽くしている分野に全力を注いでいる。
フェインバーグの人事承認公聴会の最後に、連邦上院軍事委員会の共和党所属の委員長ロジャー・ウィッカーは、「私たちは超一流の能力と知性、そして能力を目の当たりにした」と述べた。ヒラリー・クリントンのかつての伴走者であるティム・ケインは、「あなたは、この指名に伝統的なスキルセットではないものを持っていると思う。非伝統的なスキルが今必要なのだ。米国防総省がクリーンな監査を達成したことがなく、世界中で新たな脅威に直面していることを考えれば、疑問の余地はない」と述べた。
しかし、フェインバーグは専門知識に加えて、潜在的な利益相反の武器も手にしてしまっている。政府高官たちはしばしば就任時に持ち株を売却する。フェインバーグ副長官はその代わりに、自分の持ち株を相続人や慈善団体に譲ることを示唆した。家族信託がすでに彼の国防投資の多くを保有しており、彼は以前からさまざまな大義に寄付していたことを考えると、彼の売却方法は、個人投資からの決別というよりも、彼の遺産計画の発展形のように見える。
それにもかかわらず、3人の娘を持つフェインバーグにとって、この隔たりは連邦倫理法の適用を免れるのに十分なものだ。利益相反に関する刑事法は未成年の資産保有を規制する一方で、18歳以上の相続人の投資は適用除外となっている。時代の流れを反映して、フェインバーグの人事承認公聴会で質問した上院議員のほとんどは、倫理問題を懸念していないようだった。
一方、この大富豪自身は、自身のビジネスキャリアが政府における仕事に活かされることを疑う余地なく示している。米国防総省のエリック・パホン報道官は声明の中で、「フェインバーグ氏は、米国防総省をより効率的で強力なものにするために必要な、数十年にわたる民間部門での経験と戦略的洞察力をもたらしてくれる」と述べ、具体的な質問への回答は避けた。パホン報道官は、「フェインバーグは、自身の行動が米国防総省とアメリカの国家安全保障の利益のみに資するよう、引き続きあらゆる倫理上の義務を遵守していく」とも述べた。もし、フェインバーグがその約束を果たし、娘たちの投資に思考を曇らされなければ、まさに今、この国が必要としている人物、激動の時代における真摯な指導者となる可能性を秘めている。65歳になる、物静かなフェインバーグは、約8500億ドルの国防予算について次のように述べた。「財政的な説明責任も、財務指標も、貧弱なシステムも、簡単に達成できる目標が山積みだ。これは私の得意分野だ(This is in my wheelhouse)」。
フェインバーグの人となりは、常に読みにくいものだった。1970年代後半、ニューヨーク州スプリングヴァレーの質素な家からプリンストン大学に移り住み、テニスチームとROTCプログラム(Reserve Officers' Training Corps、予備役将校訓練課程)に参加した。当時の友人たちは、フェインバーグを次の一言で表現することが多い。それは「熱心さ(intense)」だ。高級な飲食クラブで有名なキャンパスで、彼はほぼ誰でも受け入れるクラブに入会した。元同級生は次のように述べている。「プリンストンでは、彼は一種の異端者(outliner)だった。キャンパスを歩いていると、彼は自分の世界に閉じこもっていた。先ほども言ったように、私は彼を社交的な場に見たことがなかった。彼は一種の独りよがりだった」。
フェインバーグは政治学を学び、幼い頃から逆張り思考(contrarian
thinking)に傾倒していた。売春と麻薬の合法化の是非を問う卒業論文を完成させるため、彼は書物に頼らず、ニューヨーク市の路上で警察官、売春婦、ポン引きにインタヴューを行い、独自の結論を導き出した。売春婦がいかにして警察の目を逃れるかを実験するため、フェインバーグはタイムズスクエア近くのマッサージパーラーに水鉄砲をポケットに入れて入った。すると、ホステスが彼に擦り寄ってきて、階上へ行ったのが目に入った。「おそらく上司に警告するためだろう」と彼は書いている。論文の結論はこうだ。売春と違法薬物は、フェインバーグが個人的に嫌悪感を抱いていると述べながら、取り締まりは不可能であり、したがって合法化されるべきだという。彼は、アメリカ政府が薬物を輸入し、それを薬局に流通させ、使用者が処方箋で購入できるようにすることを提案した。
バート・ケリーは、ファインバーグと別のプロジェクトで一緒に仕事をしたことを覚えている。そのプロジェクトでは、個人的な生活でリスクを受け入れることを厭わない人ほど、アメリカ軍を戦争に送ることを支持する傾向があるかどうかを調べようとした。ケリーは、病弱な母親など個人的な問題に直面しながらも、フェインバーグを「非常に勤勉だった(very diligent)」と振り返る。フェインバーグの母親がいつ他界したかは定かではないが、彼のクラス年鑑のメモによれば、母親は卒業式には間に合わなかったようだ。フェインバーグは、「母に全てを負っている。母が安らかに眠ってくれますように。ジョン、スチュアート、アルター、ゾット、デーブ、マイスター、そして僕の数少ない本当の友達に幸あれ」と書いている。
当時のフェインバーグを知る人々は、彼の現在の地位に勇気づけられている。ケリーは、「彼は、トランプ政権が指名する候補者全員が、反射的なリベラル派が思い描くような人物ではない。彼は資格があり、有能で、熱意にあふれています」と語っている。プリンストン大学でフェインバーグの友人だったケヴィン・ドアティは、「彼は部屋の中の唯一の理性的な人物になるだろう」と語っている。
フェインバーグはウォール街でキャリアをスタートさせ、すぐにアメリカで最も洗練された、そして物議を醸す金融家たちと出会うことになった。ドレクセル・バーナム・ランバートでトレーダーとしてキャリアをスタートさせたが、結局この会社は詐欺スキャンダルで倒産し、億万長者のマイケル・ミルケンは刑務所送りとなった。フェインバーグは倒産前に会社を辞め、グランタル・アンド・カンパニーに移り、そこでスティーヴン・コーエンと働く機会を得た。コーエンの会社は後にインサイダー取引で有罪となり、コーエンは個人として18億ドルの損害を被った。
こうした問題を避けながら、フェインバーグは「ハゲタカ(a vulture)」と呼ばれる、倒産寸前の企業から利益を得る投資家として、独自の地位を築いた。1992年にグランタルを去り、地獄の門を守る三つ首の犬にちなんで名付けられたケルベロスを設立した。この時期、事態は悪化した。例えば1990年代後半、フェインバーグはヘルスケア企業の取締役を務めながら、この企業の負債の大部分を保有していた。取締役たちが債権者と再編交渉を行った後、取締役会側の弁護士によると、フェインバーグは協議中に辞任したとのことだ。しかし、フェインバーグが擁立したCEOが会社を破産に追い込んだことで株主から苦情が寄せられ、債権者が不当に会社を乗っ取ろうとしているのではないかという疑惑が浮上した。破産裁判所はフェインバーグの主張を支持した。
知名度が上がるにつれ、フェインバーグは影に隠れようと努めた。何年もの間、コネチカット州スタンフォードにある、森に囲まれ人影の少ない比較的質素な家に住み続けた。やがてマンハッタンにタウンハウスを購入したが、近所の住人によると、そこでも人目につかない生活を送っていたという。フェインバーグはかつて投資家たちの前で次のように語ったと伝えられている。「私たちは常に身を隠そうとしている。サーベラスの人間が、自分の写真やアパートの写真が新聞に掲載させるようなことがあったら、解雇どころか、殺すつもりだ」。
しかし、名声には利点もある。1999年、フェインバーグは元副大統領のダン・クエールを雇った。クエールは29歳で連邦下院議員、33歳で連邦上院議員、41歳でジョージ・H・W・ブッシュ政権の副大統領を務めたが、ビジネス経験は限られていた。しかし、クエールは知名度とスポットライトへの慣れを備えており、どちらも資金調達において有利な武器となった。サーベラスの運用資産は、2001年の推定70億ドルから、2006年初頭には165億ドルにまで膨れ上がった。2006年、フェインバーグはジョージ・W・ブッシュ政権の財務長官ジョン・スノーも加えた。運用資産は2007年には推定260億ドルに達した。
この資金は全て、ドイツの不動産、日本の銀行、アメリカの食料品業者など、幅広いポートフォリオに流れ込んだ。フェインバーグは、その過程で一握りのブランド名(アラモレンタカー、イエローページ、フィラ)を手に入れ、大企業に埋もれた部門を解放し、断片化した競合他社を再編成し、疲弊した企業を再生させるという、極めて典型的なプライヴェート・エクイティ・プレイブックに依拠した。サーベラスは高利のローンにも投資し、ある時はシカゴにあるトランプ・タワーの負債を抱え、またある時は億万長者マギー・ハーディの製材会社に命綱を投げた。ハーディは後にフォーブスの取材に対して、「彼らは今日に至るまで、私が取引した中で最も賢い人たちだった」と語っている。フェインバーグは、不良債権投資家仲間にも感銘を与えた。5Pキャピタル・マネジメントの創設者、デビッド・ストーパーは、「私が資金を振り向けるファンドの候補リストがあるとすれば、間違いなくその中に入るだろう」と述べている。
とはいえ、物事が常に順調に進んだという訳ではない。2006年と2007年、サーベラスは投資家コンソーシアムを率いて、ゼネラル・モーターズの金融部門であるGMACの株式51%を購入した。あるクライスラー社幹部は2007年にフォーブスに「フェインバーグはこの国のためにやっている。彼はこれを恩返しの方法だと考えている」と語った。しかし、国は結局、大不況の中で自動車産業を救済し、両社を救済した。もうひとつ、問題にぶつかった投資がある。
2018年、ドナルド・トランプ大統領に、情報諜報諮問委員会の委員長に任命され、フェインバーグは国に貢献する新たな機会を得た。この役職には実質的な権限はなく、フェインバーグは事業を継続することができたが、膨大な量の情報を得ることができた。フェインバーグは3000回以上のブリーフィングを受け、情報機関、FBI、国防総省、国土安全保障省、商務省、財務省など、各省庁に深く入り込んだ。フェインバーグは連邦上院の人事承認公聴会で、「非常に勉強になる仕事だった。そして、非常に恐ろしい経験ともなった」と説明した。フェインバーグは、「米国防総省や情報機関の契約業者として、私たちは多くの機密契約を請け負ってきましたが、これははるかに幅広いものだった。ある意味、これ以上ないほど幅広い教育となった」とも語った。
情報諜報収集は投資へとつながり、特にアメリカが中国と競争する上で役立つ可能性のある事業への投資につながった。フェインバーグは、マイクロソフトの共同創業者ポール・アレンが「未来の世代のために地球を守る」という使命を掲げて設立した宇宙ヴェンチャーであるストラトローンチに投資した。ストラトローンチは、アメリカ軍が超高速ミサイルを発射することを可能にする新興技術である極超音速技術(hypersonics)に注力する方向へと事業を転換した。2018年には、世界のデータを伝送する海底光ファイバーケーブルを専門とする唯一の米国大手企業サブコムも買収した。このケーブルはデジタル時代の重要なインフラであり、理論上はスパイ活動や妨害行為の標的になりやすい。このサブコムは、フェインバーグの最大の保有銘柄の1つとなった。
トランプ政権初期、アメリカ指導者たちはフィリピンにある旧海軍造船所の倒産を懸念していた。中国企業2社がこの土地の買収を試みたものの、フェインバーグが参戦した。政府関係者と協力し、サーベラスを利用して造船所の経営権を掌握し、海底ケーブル事業の拠点へと転換した。現在、米比両軍もこの海域に駐留している。「もしスティーヴと彼のチームが問題解決に尽力していなかったら、中国共産党は今日、南シナ海に極めて重要な戦略的インフラを保有していた可能性が高い」と駐日大使としてフェインバーグと共にこの投資に尽力したビル・ハガティ連邦上院議員は、人事指名承認公聴会でフェインバーグを紹介した際に述べた。ハガティ議員は、「アメリカとそのパートナー諸国の安全保障に対する脅威は甚大なものとなるだろう」と述べた。
サーベラスを通じた投資に加え、ファインバーグはオバマ政権でCIA長官代理を務めたマイケル・モレルをアドヴァイザーに迎え、トラッカー・キャピタルという会社とサイド取引を始めた。財務公開報告によると、これらの投資資金は家族信託に由来する。2021年、フェインバーグは人工衛星用の宇宙推進システムを開発するマサチューセッツ工科大学から出たアクシオン・システムズに投資した。元CIA長官代理のマイケル・モレルは声明で、「人工衛星用の宇宙推進システムは、宇宙産業の最大かつ最も高価な課題の1つだ」と述べた。もう1つの副次的投資は、携帯電話安全対策企業プリヴォロ社だ。
フェインバーグは情報諜報機関へのアクセスを拡大するにつれ、会社に蓄積された資金も増加した。サーベラスの運用資産は、2017年初頭の推定300億ドルから、2022年には600億ドル、そして現在は約700億ドルに拡大し、フェインバーグの個人純資産は推定50億ドルに達した。莫大な資金を抱えながら、民間部門で証明できるものがほとんど残っていない状況で、彼は新たな使命を考え始めた。
アメリカの納税者たちは、政府のどの部局よりも多くの裁量的支出(discretionary
spending)を国防費に充てている。フェインバーグの最初の仕事のひとつは、国防費の使途を明らかにすることだ。人事承認公聴会において、フェインバーグは、「私たちは作戦室(a war room)を設置するつもりだ。私たちは、24時間365日、それが完了するまで、全てのプログラム、全てのコストを、一行一行、軍と一緒に調査するつもりだ」と語っている。
数字が整理されれば、彼はいつもやっているようにリストラを行うだろう。トランプ政権のコスト削減派はすでに、同省の約8500億ドルの予算から500億ドルを引き下げ、その資金を他の優先事項に振り向けると約束している。フェインバーグがその資金をどこに投資するかは、彼がどこに投資したかを見れば分かる。南シナ海の造船所資産を購入したフェインバーグは、「私たちの最大の脅威であり、最も困難なのは中国だ。中国は、経済大国であると同時に軍事大国でもあり、私たちがこれまで競合してきた初めての国だ」と述べた。
どの兵器システムが特に注目に値するか? それは、「ハイパーソニックス(極超音速ミサイル)」とフェインバーグは答えている。彼は、「大きな問題だ。投資不足だ。この技術は、国家安全保障に不可欠なものだ」と述べている。核戦争になれば、核弾頭を最初に着弾させた方が勝者となる。しかし、フェインバーグには別の関心もある。「大量の無人機が必要になるだろう」とフェインバーグは指摘し、彼の会社の1つが戦場に無人車両の軍隊を作る仕事をしていることには触れなかった。無人機は「中央の頭脳(central brain)」で行動する必要がある、と彼は付け加えた。
これらの課題に対処するため、フェインバーグは契約プロセスを根本から改革したいと考えている。米国防総省は、アプリケーションの組み立ては得意でも必ずしも技術開発は得意ではない大手請負業者に頼りすぎていると考えている。彼は、自動車大手(聞き覚えがあるだろうか?)や防衛関連のスタートアップ企業など、他の企業を巻き込みたいと考えている。彼の計画の1つは、サプライチェーンに深く入り込み、下請け業者とより直接的に連携することで起業家を刺激することだ。フェインバーグは次のように述べている。「請負業者として、私は常に死の谷に陥っていた。優れた技術があっても、大企業はそれを利用する気がない。米国防総省は、ある程度、その中間に介入することができる。全てではないが、中小企業の技術革新と能力を刺激する機会は数多くある。そして、私たちはそれを実行しなければならない」。
これは、フェインバーグが部下に任せようとしている類の仕事ではない。フェインバーグは、「私の考えでは、国防総省副長官はプログラムごとに、一行一行に目を通すべきであり、他人任せにすべきではない」と語っている。これがディレンマの核心だ。スティーヴ・ファインバーグは、まさにアメリカが米国防総省を改革するために必要な人物かもしれない。彼は莫大な資金を後継者に押し付けるかもしれない。しかし、長年にわたり倫理的問題に鈍感になっていたアメリカは、そのトレードオフに完全に満足するかもしれない。
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テクノロジー業界の億万長者たちがペンタゴンへの侵攻を準備(Tech
billionaires prepare to invade the Pentagon)
-シリコンヴァレーの一握りの経営者たちが、国内最大の官僚機構を変革する手助けをするかもしれない。
ポール・マクリーニー、ジャック・デッチ筆
2024年12月11日
『ポリティコ』誌
https://www.politico.com/news/2024/12/10/silicon-valley-takes-over-pentagon-00193576
ワシントンでは、リスクをものともせず、スピード重視のシリコンヴァレーの気質と、アメリカ最大の連邦機関の鈍重な官僚主義がぶつかり合う、文化衝突(a culture clash)が起ころうとしている。
ドナルド・トランプは既に、億万長者の金融幹部を海軍長官と米国防総省ナンバー2に指名しており、スタートアップ企業の成功者たちも米国防総省の他のポストに名乗りを上げている。もし全員がポストを得れば、米国防総省の意思決定の遅々たるペースに長年不満を募らせてきたシリコンヴァレーの有力者たちは、米国防総省に真の変革をもたらす可能性があり、その過程で自らも利益を得ることになるだろう。
彼らには、兵器製造の迅速化(building weapons faster)、機能不全の造船システムの修復(a broken shipbuilding system)、そして中国の技術力に匹敵する(matching China’s tech prowess)という任務が課せられる。新政権が次々と米国防総省の浄化に努める中、この部外者たちはテクノロジー業界を活性化させてきた。
ソフトウェア会社パランティアの創業者で、スタートアップ投資家のジョー・ロンズデールは最近の防衛フォーラムで次のように語った。「私たちの多くは革命の到来を期待している。官僚機構に責任を負わせ、官僚機構に衝撃を与える革命だ(A lot of us are hoping there’s a revolution coming where we hold the
bureaucracy accountable, where we shock the bureaucracy)」。
トランプ陣営は、米国防総省に、内部事情に詳しくはない裕福な投資家のスティーヴン・フェインバーグを副長官に起用するなど人材を充てようと尽力してきた。『ポリティコ』誌が最初に報じたように、パランティアの最高技術責任者(CTO)であるシャム・サンカーは、米国防総省の最高研究・エンジニアリング職に就くことが検討されている。アンドゥリル・インダストリーズの共同創業者兼会長であるトレイ・スティーヴンスも、米国防総省の高官候補に挙がっている。
これらの幹部たちは皆、米国防総省と提携している複数の企業に投資や株式を保有しており、アンドゥリルのドローン開発や、米国防総省が資金提供しているパランティアのソフトウェア・プラットフォームなど、潜在的な利益相反の網をいかに解きほぐすかを見極める必要がある。
防衛企業に深い関心を持つ他の複数の連続投資家、例えばスペースXのイーロン・マスクやヴェンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンもトランプと親しく、新政権の発足に役割を果たしている。
シリコンヴァレーではトランプ大統領の人選を歓迎する声が多く、特に長年の協議や協力強化の約束にもかかわらず米国防総省が自国の技術をもっと全面的に導入していないことに不満を抱いていた人たちは歓迎した。
1980年代のシリコンヴァレーにおけるテクノロジーの爆発的な発展の先駆者の1人である起業家スティーヴ・ブランクは次のように述べた。「新政権には、白紙の状態であること、そして今まさに危機的状況にあることを認識して欲しい。危機に対応したいのであれば、10年前と同じ人材を任命し続けることはできない。10年前と同じ組織、同じプロセスを維持することはできない」。
しかし、米国防総省の業務運営方法に大きな変化がもたらされるとしても、それは民間テクノロジー業界の猛スピードには及ばないだろう。これは、制度的慣行に基づいて構築された、無秩序に広がる官僚機構においては特に当てはまる。
米国防総省との小規模な契約獲得に成功したある起業家は、「彼らは同じ言語を話す方法を学ばなければならないだろうが、それにも時間がかかるだろう」と述べた。この起業家も他の起業家同様、新政権からの反発を避けるため匿名を条件に話した。
スタートアップ企業と米国防総省の間の緊張は、カリフォルニア州シミヴァレーで開催されたレーガン国防フォーラムで最近顕著になった。かつては共和党議員と防衛産業の幹部が集まるこの年次イベントは、過去2年間、ドローン、レーザー、ソフトウェアソリューション、そして従来の政府管理プロセスの外で開発されるその他の新兵器に関する防衛契約への参入を狙うスタートアップ投資家の参加が中心となっている。
連邦上院軍事委員会の共和党幹部委員デブ・フィッシャー連邦上院議員(ネブラスカ州選出、共和党)は新任の議員たちに警告を発した。
フィッシャー議員は、「政府プログラムや政府支出の効率化や削減を検討する際には、私たち全員、そして皆さん一人一人が、個人的に恩恵を受け、削減しても構わないと思うプログラムを提案する必要がある」と述べた。
また、シリコンヴァレーの「既存のものを壊す(break things)」という精神が、300万人の職員と多層的なプロセスを抱える組織で通用するかどうか疑問視する声もあった。
あるテック企業幹部は、「より厳しい問題は、十分な資金を十分な柔軟性を持って次世代プログラムに振り向け、変化を起こせるかどうかだ。それがまさに第一の課題だ」と語っている。
トランプ大統領の支持を得ている数人の億万長者は、すでにF-35戦闘機とエイブラムス戦車を廃止し、無人機に置き換えるべきだと主張している。こうした動きは、アメリカだけでなく数十カ国との数百億ドル規模の契約に影響を及ぼすことになるだろう。
アメリカ軍の将軍や米国防総省の幹部の多くは、変化に憤慨しているのではない。しかし、欠陥はあるものの戦場で効果を発揮する兵器を、性急に改良することには依然として慎重だ。
アメリカ空軍参謀総長デイヴィッド・アルヴィン大将はレーガン・フォーラムで次のように述べた。「戦争は常に人間の営みである。私自身の信念は、未来は真に最も効果的な人間と機械の連携にある(Warfare is always a human endeavor, My own belief is that the future
is really about the most effective human-machine teaming. )」。
そして、多くの旧来の兵器システムは、高価ではあるものの、ウクライナにおけるロシア軍への対抗手段、あるいはロシア、イラン、北朝鮮が製造した弾道ミサイルやドローンの撃墜に有効であることが実証されている。
国家安全保障顧問会社ビーコン・グローバル・ストラテジーズのマネージングディレクターであるクロン・キッチンは次のように述べた。「『これらの建物の中にパラシュートで降りれば何でもできる』と言うテックリーダーは数多くいる。ワシントンとシリコンヴァレーがこれまでで最も緊密に連携することになるだろう」。
マスクのように、少なくとも今のところ米国防総省と協力している発言力のある億万長者でさえ成果は限定的だ。マスクはコメント要請に応じなかった。
キッチンは、「アメリカ政府は大規模なプログラムも小規模なプログラムも、全てを望んでいる。シリコンヴァレーが求めているのは、実際に物品を購入できる顧客だ」と述べている。
(貼り付け終わり)
(終わり)
『トランプの電撃作戦』
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



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