古村治彦です。

 ジェフリー・エプスタインが引き起こした、未成年に対する性的虐待・搾取問題は、エプスタインが逮捕され、裁判で有罪判決を受け、収監され、死亡(自殺説、謀殺説がある)してもなお、アメリカとイギリスの上流社会、エリート社会に深刻な影響を残している。以下の写真を見て欲しい。これは、2000年に、ドナルド・トランプ大統領の邸宅であるマール・ア・ラーゴでのパーティーでの一枚だ。ドナルド・トランプ(Donald Trump、)とメラニア夫人(Melania Trump)の隣にいる人物はイギリス王室ヨーク公アンドルー王子(Prince Andrew, Duke of York、1960年-、65歳)だ。エリザベス女王にとっての次男、現在のイギリス国王チャールズ3世の弟だ。そして、少し離れたところに小さく男性がジェフリー・エプスタイン(1953-2019年、66歳)だ。
donaldtrumpmelaniatrumpprinceandrewjeffreyepstein2000001
ドナルド・トランプ、メラニア夫人、アンドルー王子、ジェフリー・エプスタイン

 アンドルー王子がエプスタインと共に、未成年者に対する性的な虐待・搾取を行っていたことは明らかになっている(王子側は否定)。また、トランプ自身もそのようなことをしていないと否定しているが、数々の写真や証拠からその主張は虚偽であるとも言われている。エプスタインが遺した記録やファイルは、全部が公開されてしまえばアメリカやヨーロッパの上流社会、エリート社会が崩壊してしまいかねない深刻なものだ。トランプはそのようなファイルは存在していないと否定し、自身の支持者たちから攻撃されている。

 アンドルー王子と妻のサラ(1996年に離婚)については、不行跡で母であるエリザベス2世を散々困らせていたということだ。エプスタインのような怪しい人物たちと平気で交際し、彼らに「イギリス王室、王子と知り合いだ」というお墨付きを与えることになった。イギリス王室はスキャンダルが良く起きる印象がある。その中でも、アンドルー王子は特に話題になる。その内容も軽いものではない。こうなると、わざわざ税金で、王室を「養っている」ことの意味に疑念を持つイギリス国民も多く出てくる。国民に近く、親しみを持たれることは王室にとって重要なことであるが、スキャンダルまみれということになると、その存在まで危険に晒すことなる。イギリス王室廃止論がイギリス国民の間で拡大するのが困るのだ。最近のトランプ大統領に対する、イギリスの最大限のおもてなし、国賓待遇は、エプスタイン・ファイルの公開を止めてくれたことに対する、最大限の感謝ということになるだろう。

 トランプも結局、上流階級の人間で、汚れているアメリカ政治、ワシントン政治を徹底的に掃除するまでには至らないのではないかという疑念が出ている。そして、エスタブリッシュメント、エリートたちを守る方向に舵を切っているようである。ポピュリズムは常に裏切られ、敗北する運命にある。しかし、ポピュリズムは何度でも復活する。

(貼り付けはじめ)

女王のゴシップの全て(All the Queen’s Gossips

-2冊の新刊では、王室にまつわる物語と実際の犯罪が織りなす複雑な世界を探求する。

ジェイムズ・パルマー筆

2025年9月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/12/prince-andrew-jeffrey-epstein-queen/

allthequeensgossips001

2024年5月16日、ロンドンのバッキンガム宮殿で、アンディ・ウォーホルのシルクスクリーン版画「統治している女王たち(ロイヤルエディション)連合王国女王エリザベス2世(Reigning QueensRoyal EditionQueen Elizabeth II of the United Kingdom)」を撮影するカメラマン。

ある夜、イングランドの女王がジョニー・キャッシュの夢に現れた。「ジョニー・キャッシュ! あなたは旋風の中のいばらの樹のようなものだ」と彼女は言った。目覚めた後もその言葉は彼の心に残り、その後7年をかけて、彼はそれを終末的な歌『ザ・マン・カムズ・アラウンド』へと昇華させた。

彼の名声にもかかわらず、キャッシュとエリザベス2世は一度も会ったことがなかった。しかし、彼女は、世界中の無数の人々にとってそうであったように、彼の夢の世界において強力な存在感を占めていた。クレイグ・ブラウンの著書『Q:女王をめぐる航海(Q: A Voyage Around the Queen)』は、平凡なものから官能的なものまで、彼女に関する多くの人々の夢を詳細に記している。

これは、伝説的に書きにくい題材にブラウンが取り組む手法の1つである。過去10年ほど、英国随一の風刺作家であり続けているブラウンは、その荒唐無稽なものへの目を伝記にも向け始めた。女王の妹マーガレット王女の混沌とした生涯を描いた著作もその1つで、ありえたかもしれない未来(might-have-beens)、噂の分析(dissection of rumors)、パロディ(parody)、逸話(anecdote)が混在している。

マーガレット王女は豊富な材料を提供した。しかし、姉の生涯の大半が公の場で行われたのに対し、エリザベス自身は職業的に退屈であった。彼女は立憲君主の役割を徹底的に体現し、自らの内面を一切明かさなかった。私生活では、十代の頃に心を奪われた若くハンサムな男性と結婚し、90代後半に二人とも亡くなるまで共に過ごした。公の場で発言する際、彼女は自分自身としてではなく、政府の代表として語ったのである。

本書の副題が示しているように、これはエリザベス自身というより、彼女に対する人々の反応を描いた著作である。彼女は不動の中心的存在であり、その周囲を国際的な変わり者や夢想家たちが巡る。病に伏すマーガレット・サッチャーからセックス・ピストルズ、ルーマニアの独裁者の妻エレナ・チャウシェスクに至るまで、魅力的な逸話が散りばめられている。女王は他人の人生を漂いながら、時折「それはとても興味深いですわね」とか「ご遠方からいらっしゃったのですか?」と口にする。

エリザベス女王の人間味が垣間見える瞬間もいくつかある。例えば、アイルランド共和軍の爆撃で双子の兄弟と祖父母を亡くしたばかりの少年を優しく母親のように扱う場面などだ。ブラウンは、エリザベス女王がコーギーを愛する理由は、この雑多で奔放な小型犬が、エリザベスにはできないような振る舞いをするからだと示唆している。1978年にイギリス政府から公式訪問の一環として栄誉を受けたルーマニアのニコラエ・チャウシェスク大統領のように、明らかな悪人(n obvious bad egg)にナイトの称号を授与しなければならない時も、エリザベスは彼の無作法さ(boorishness)について軽く文句を言う程度だった。彼女はある友人に、ドナルド・トランプ米大統領が「とても失礼(very rude)」で、肩越しにじっと見つめるのを止められないと打ち明けた。(トランプ大統領は、自分が女王と交流したときほど「女王がこれほど楽しんでいる姿を人々が見たことがないほどだった」と宣言した。)

allthequeensgossips002
1982年7月28日、英ノーフォークのビーチでコーギー犬と散歩するエリザベス女王。

ブラウンは以前の著書と同様に、伝記の信憑性の低さに着目している。例えば、1982年にエリザベス女王の寝室に忍び込み、話しかけ始めた失業中の男、マイケル・フェイガンについて、様々な主張がなされていることを列挙している。二人の短い会話には、全く異なる解釈が6つも存在する。

エリザベス女王は、富裕層や有名人であっても、言葉を失う者から狂気じみた行動に至るまで、様々な反応を引き起こした。日本の億万長者で超国家主義者にして、戦争犯罪の疑いもある笹川良一がノーベル平和賞獲得のロビー活動の一環としてガーデンパーティーに潜り込み、彼女に会うために泣き叫びながら足元にひれ伏した際、彼女は「立ち上がってもよろしくってよ(He can get up, you know)」と述べた。

笹川良一は、同じく不誠実な人物であるチェコ系イギリス人実業家ロバート・マクスウェルのゲストとしてそのパーティーに招かれた。マクスウェルの娘ギスレーンは現在、父親よりもさらに悪名高い人物となっている。彼女は後に、彼女の恋人であるジェフリー・エプスタインと、エリザベス女王の次男であるアンドルー王子の関係において、重要な役割を果たすことになる。

allthequeensgossips003
2020年7月1日、ロンドンのショーディッチでのヨーク公アンドルー王子の壁画。王子は、ジェフリー・エプスタインとイギリスの社交界の人物、ギスレーン・マクスウェルとの関係について、厳しい疑惑追及の目にさらされていた。

不名誉な形で王室の職務から解任されたアンドルーは、母親とは正反対の、無分別で精力的なプレイボーイであり、パブで退屈な意見を口にする傾向があった。そのため、彼については書きやすい。イギリス王室に関するより伝統的な書籍は、おべっか使いか、スキャンダルを暴くかの 2つに分類される。文学エージェントであり歴史家でもあるアンドルー・ラウニーの『有資格者:ヨーク家の興亡(Entitled: The Rise and Fall of the House of York)』は、明らかに後者に属し、伝記というよりも、ラウニーが見つけたあらゆる卑劣な話や宮廷のゴシップを駆使してアンドルーを攻撃する、いわば小銃(a blunderbuss shot)のような著作となっている。

その中には、アンドルー王子とエプスタイン、そしてマクスウェルとの関係の程度に関する新たな主張も含まれている。ラウニーによれば、マクスウェルもアンドルーの「たまの逢瀬を楽しむ恋人(occasional lover)」だったという。その関係により、アンドルーは王室の職務のほとんどを失った。それは、エプスタインの犠牲者の1人であるヴァージニア・ジュフレ(彼女が17歳のときに王子と3回寝たと証言している)の証言と写真による証拠がありながら、アンドルー王子が彼女と会ったことをきっぱりと否定したという、悲惨なインタヴューの後だった。イギリスにおけるアンドルー王子の評判は最悪である。この本は、著者が、この本で取り上げた人物が名誉毀損訴訟を起こすことは決してないという確信を持って書いたものである。

ヨーク公アンドルー王子に同情の念を抱くことは難しいが、ラウニーの著書は、情報源のない話でさえ、王室の人々にどれほど簡単に貼りつくかを、意図せずに実証している。エリザベス女王は手出しできない存在であるため、王室の他のメンバーには、さらに簡単にデマが貼りつく。

この本は、アンドルー王子とエプスタインのつながりなど、よく知られた事実と、何十年も前にアンドルー王子を知っていた人物や匿名の元スタッフからラウニーが一度聞いた話とを区別できないという欠点がある。アンドルー王子は13歳になる前に、本当に複数の女性とセックスをしたのだろうか? 彼はハンサムな若い船乗りたちに密かな嗜好を持っているのだろうか? ある元ガールフレンド(彼女の名前はファーストネームのみで言及されている)が主張するように、彼は「2人の女性が同時に施術する4つの手マッサージ」を好んでいるというのは本当だろうか? 彼は、カーテンを開けるためだけに、メイドを自宅の4階に呼び上げているのだろうか?

これらの噂はどれも真実かもしれない。しかし、その全てが真実であるということについては、私は強い疑いを持っている。宮殿のスタッフや王室関係者は、厳密な正確さを陽気に無視する、非常にゴシップ好きな集団だ。1990年代初頭、フィリップ王配の警護担当者から、当時のチャールズ王太子がダイアナ妃よりカミラを好んだ真の理由について聞いた話があるが、それは『フォーリン・ポリシー』の読者の皆さんには伝えられない。その話は真実とは思えなかったが、卑猥でありながら非常に滑稽で、それゆえに魅力的な話だった。
allthequeensgossips004

1988年2月11日、英リヴァプールを公式訪問中のアンドルー王子とヨーク公夫人サラ。この日、夫妻は最初の子供を妊娠していることを発表していた。

ラウニーが得意とするのは、収入と支出の両方に関するお金のことだ。彼は、アンドルー王子と、ファーギーとしてよく知られる元妻サラ・ファーガソンが、結婚後の1986年の合計収入が、必要額よりもはるかに少ないと感じていたことを明らかにしている。アンドルー王子の海軍からの給与とファーギーの出版社の給与は合わせて3万2000ポンド(現在の約16万ドル)だった。しかし、この収入以外に、イギリス政府が公的な支出を賄うために、現在の金額で約25万ドルに相当する金額を、毎年、王室関係歳費として支払っていた。また、複数の住宅も与えられ、かなりの家産も相続していた。

しかし、それでも彼らのニーズには十分ではなかった。ラウニーの記述では、ファーギーは夫よりも好印象で、親切で寛大な友人であるだけでなく、子供向けの本からダイエット・プログラムの広告契約に至るまで、数百万ポンドの収入を生み出す、ある種の前衛的なキム・カーダシアンのような存在として描かれている。だが夫妻の浪費は途方もない規模で、資金源に疑問が集中した。特に2010年、ファーギーが中東の長老であるシェイク(sheikh)に扮したタブロイド記者に対し、元夫への接触権を50万ドル超で売却すると約束する様子が録音された事件後はなおさらだった。

ラウニーによれば、アンドルー王子夫妻がアメリカの金融業者であり性犯罪者でもあるジェフリー・エプスタインと初めて出会ったのは1989年、アンドルー王子が現在主張している時期よりも約 10年も前のことだった。エプスタインとアンドルー王子の関係に関する資料は興味深く、多くの場合新しい情報であり、英国のマスコミに激しい論争を巻き起こしたが、その構成は混沌としており、文脈にも欠けている。ラウニーは、アンドルー王子が単なる友人ではなく、エプスタインと長年にわたる親密な関係にあり、その価値を金融業者であるエプスタインが認識しており、彼を「スーパーボウルのトロフィー(Super Bowl trophy)」と呼んでいたことを明らかにしている。より思慮深い本であれば、エプスタインが活動していたより広範な社会、つまり社会学者アシュリー・ミアーズが著書『極めて重要な人物たち(Very Important People)』で述べているように、性的対象として見なされる若い女性を提供することが、富裕層や権力者間の重要な社会的つながりの形態となっている社会について考察していたかもしれない。

allthequeensgossips005
左から:2000年2月12日、フロリダ州パームビーチのマー・ア・ラゴ・クラブで開催されたパーティーでのメラニア・トランプ、アンドルー王子、グウェンドリン・ベック、エプスタイン。

アンドルー王子は、中東のプレイボーイ、中央アジアの独裁者、アメリカの億万長者、中国のスパイ容疑者など、その世界の人々の多くと親しい間柄だった。エプスタインのスキャンダル以前、彼のライフスタイルの多くは、イギリス政府の暗黙の了解のもとで成り立っていた。イギリス政府は、外国の独裁者たちに好印象を与えるため、アンドルー王子を貿易に関する「特別代表(special representative)」として活用していた。

アンドルー王子が付き合う人々は特に酷いようだが、複数の王室関係者に、どれほど多くの詐欺師や児童虐待者が取り付いているかについては驚くほどのレヴェルだ。ブラウンは、2005年にエリザベス女王の80歳の誕生日に肖像画を描いた、かつて愛されたオーストラリアの芸術家であり歌手でもあるロルフ・ハリスを取り上げている。しかし、その数年後、彼は児童に対する連続性的犯罪で有罪判決を受けた。死後、イギリスで最も多作な性犯罪者の1人であることが明らかになった有名人、ジミー・サヴィルは、チャールズの非公式顧問であり、アンドルー王子の無神経な発言を受けて、王室のための広報ハンドブックを編集した。チャールズの長年の友人であり、精神的指導者でもあった南アフリカ人作家ローレンス・ヴァン・デル・ポストも、死後、14歳の少女を性的虐待した常習的な嘘つきであることが明らかになった。

allthequeensgossips006
1965年12月頃、王室専用列車の中で、窓から手を振る若いアンドルー王子(左)と、別の窓に映るエリザベスと他の3人の子供たち。

エリザベス女王は、この種の不気味な人物や取り巻きをほとんど避けるために、十分な距離感を保っていた。しかし、より依存心が強く、世間に疎い子供たちはそうではなかった。アンドルー王子はさらに一歩進んで、エプスタインのような人物に王室の庇護を与えるだけでなく、セックス、強制、搾取の世界にも参加していた。エプスタインに関する資料がさらに明らかになるにつれて、世界でも最も人脈の広い小児性愛者の1人と親しい他の著名人と同様、アンドルー王子の関与の全容がさらに明らかになるかもしれない。

アンドルー王子の(名前の明かされていない)元側近の1人は、王子が何度も繰り返し読んでいるというお気に入りの本は『リプリー(The Talented Mr. Ripley)』だと主張している。パトリシア・ハイスミスによるこのスリラーは、性的両性具有の社会病質者(a sexually ambivalent sociopath)が、裕福な怠け者を魅了し、そして破滅させるという古典的な作品である。アンドルー王子にとっては、これは一種の戒めとなる物語かもしれない。

※ジェイムズ・パルマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Blueskyアカウント:@beijingpalmer.bsky.social

(貼り付け終わり)

(終わり)

※2025年11月に新刊発売予定です。新刊の仮タイトルは、『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』となっています。よろしくお願いいたします。
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める