古村治彦です。
2025年10月21日に臨時国会が召集されて、首班指名選挙が実施される。現在のところ、自民党の高市早苗総裁と国民民主党の玉木雄一郎代表の名前が報道で取り沙汰されているが、自民党と日本維新の会、国民民主党での協議が続いている。高市早苗首相誕生の可能性が高いと見られている。自民党はNHK党や参政党も取り込む動きを見せている。このような重要な政権に関する動きを誰が指揮し、誰がパイプ役、調整役を務めているのか、全く見えてこない。麻生太郎副総裁なのか、義弟の鈴木俊一幹事長なのか、全く分からない。自民党の新執行部は脳内お花畑の素人集団であり、先行きは極めて不安である。
以下に、高市早苗総裁選出の前後に出た、海外での紹介記事を紹介する。「ガラスの崖(glass cliff)」「サッチャー・ルール(Thatcher rule)」という概念が紹介されており興味深い。ガラスの崖は、危機的状況において、目くらまし的に女性をリーダーに据え、危機を回避出来たら御の字、失敗したら「だからやっぱり女性は駄目だ」と男性が留飲を下げるということであり、サッチャー・ルールは、保守勢力の中核的な保守的価値観を強固に守る女性の方が出世しやすいということである。高市総裁は、ジェンダー平等や保守的な価値観の改革ではなく、保守的でかつ好戦的な態度を見せることで、「男社会」を勝ち抜いた女性ということになる。女性初の自民党総裁であるが、本質的に女性が直面している不平等とは戦わない。なぜなら、男性中心、男性優位の極右的な価値観を最優先するからだ。
麻生太郎元首相の傀儡であり、旧安倍派復権政権となる高市政権は、アメリカの国益に資するための対米隷属内閣となる。具体的には、日本の防衛予算の対GDP比を既に決定している2%から3.5%に引き上げることが至上命題となる。石破茂政権ではエルブリッジ・コルビー国防次官からの要求を蹴ったことが報じられている(時事通信2025年6月21日付記事「米、日本に防衛費3.5%要求 反発で2プラス2見送りか―英紙報道」)。防衛予算は現在のところ、対GDP比1.3%程度であるが、これが約2.5倍になると、予算の他の科目、例えば、社会保障や教育を削る、もしくは大増税を行う必要が出てくる。高市政権は対外的な脅威を過剰に演出し、「愛国増税」のようなことを仕掛けてくるだろう。国民生活は破壊される。
日本の先行きは不安が大きい。高市政権がもたらす厄災が可能な限り小さくなることを願うしかない。
(貼り付けはじめ)
日本初の女性首相は強硬派でなければならない(Japan’s First Female Prime
Minister Has to Be a Hard-Liner)
-もし彼女が今週の総裁選で勝利すれば、高市早苗の超国家主義的な政策(ultranationalist
agenda)は地域を揺るがすことになるだろう。
ミン・ガオ筆
2025年10月2日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/10/02/sanae-takaichi-japan-first-female-prime-minister/
土曜日に行われる自民党総裁選挙では、高市早苗が日本初の女性首相となる可能性が高まっている。高市は、国際舞台における進歩とジェンダーの可視化(progress and gender visibility)を力強く示したと言えるだろう。しかし、彼女の政治の本質、師である安倍晋三元首相によって形作られた、極めて硬直した超保守主義的なイデオロギー(a rigidly ultraconservative ideology)は、与党自民党の根深い保守的かつ家父長的な構造を解体するどころか、むしろ強化する方向に作用している。このように、高市の首相就任は、進歩的な飛躍というよりも、女性が日本で真の権力を獲得するには、自民党の最も深く、最も伝統的な理念への「過剰な忠誠心」(an “over-loyalty” to the LDP’s deepest, most traditional impulses)を示すしかないのかどうかという、重大な試金石となるだろう。
世界的に見ると、日本は依然としてジェンダー平等において外側に置かれている立場(outlier)にある。2025年の世界ジェンダーギャップ指数では、日本は148カ国中118位と、G7諸国の中では最下位に位置しており、懸念されている。この格差は、主に女性の政治参加が著しく不足していることに起因している。石破茂内閣がそれを如実に物語っている。2024年10月、新政権はわずか2人の女性閣僚を任命しただけだった。これは、前政権の5人から大幅に減少したことになる。高市個人の成功は稀有かつ華々しい例外であり、彼女の個人的な成功が真に実質的なジェンダー改革につながるのか、それとも表面的な進歩の象徴に過ぎないのかという疑問を提起する。
この動きは「ガラスの崖(glass cliff)」という概念と密接に符合しているようだ。これは組織の危機や衰退期に、女性(およびその他の周縁化された集団)がハイリスクで不安定な指導的立場に昇格させられる現象を指し、彼女たちを目立つ存在としながらも、避けられない失敗に対して脆弱な立場に置く。例えばオーストラリアでは、2025年5月、保守政党である自由党が史上最低の支持率を記録した時期にスーザン・レイが党首に任命された。この人事は政治評論家たちから「ガラスの崖」シナリオと見なされた。彼女は選挙展望が著しく低下した崩壊状態の党を引き継ぎ、失敗するか、単に将来の男性後継者のために党を安定させる役割を課されたのである。
同様に、高市の台頭は自民党が長期にわたる国民の不信感に直面した直後に起こった。二度の選挙敗北により、自民党は国会での多数派を失ったまま政権維持に苦戦しており、次期党首は分裂した国会を引き継ぐだけでなく、国家予算や経済対策を含む重要法案を可決するため野党との交渉という重大な課題も背負うことになる。強硬派の女性(a hard-line woman)という「非典型的な」候補を推すことは、変化とイデオロギー的揺るぎなさを同時にアピールするという自民党の差し迫った必要性に合致する。もし高市が最終的に党や経済の安定化に失敗した場合、現在の少数与党体制と受け継いだ経済的逆風を考慮すればその可能性は高いが、自民党の保守的で男性中心の既得権層は、彼女の失脚を利用して「女性はトップリーダーシップに適さない」という既存の固定観念を強化し、根強い男性優位の階層構造を集団的非難から効果的に守ることになりかねない。
韓国初の女性大統領となった朴槿恵の歴史的前例は説得力に富む。朴元大統領の保守的で世襲的なリーダーシップは、進歩的な政策の推進や、韓国におけるジェンダーギャップの解消に向けた持続的な取り組みに繋がることはほとんどなかった。実際、朴元大統領の波乱に満ちた任期は政治スキャンダルに彩られ、最終的には家父長制が色濃く残る政治体制における女性リーダーシップの脆弱性を改めて浮き彫りにした。高市にとって、自民党の歴史修正主義と伝統主義への揺るぎないイデオロギー的関与(a nearly non-negotiable ideological commitment to the LDP’s
historical revisionism and traditionalism)は成功の不可欠な前提条件(prerequisites)であり、彼女のジェンダー・アイデンティティは改革の使命というよりも、むしろ戦略的な資産となった。高市の成功は、ジェンダー平等の躍進ではなく、ましてやフェミニズムの躍進ではなく、保守的な同化の勝利として解釈されるべきである。実際、彼女は保守的な支持と政策方針ゆえに、反フェミニスト的な政治家と見なされてきた。
高市パラドックスの核心は、女性としての政治的優位性(political
ascendancy as a woman)と、日本における女性の平等と自立に具体的に役立つ法改正への強硬な反対(fierce opposition to legal changes that would tangibly benefit
women’s equality and autonomy in Japan)という、根本的な矛盾にある。高市は、男系男子による皇位継承法制度(the male-only royal succession law)の断固たる擁護者であり、夫婦が選択的に選択できる法改正(legal changes to allow married couples the option to retain separate
surnames)に強く反対している。
高市が選択的夫婦別姓制度に反対する根拠は、こうした改革が伝統的な家族の価値観を修復不可能なほど損なうという信念にある。彼女は長年、家族の結束を維持し、将来の子孫の混乱を防ぐために、現行の姓制度を維持すべきだと主張してきた。1980年代以降、民法改正を求める夫婦別姓運動は国民の間で支持を強めてきた。しかし、こうした勢いにもかかわらず、現行制度は依然として既婚女性の95%以上が結婚時に職業的および私的なアイデンティティを放棄することを強いている。したがって、高市氏の立場は単なる個人的な信念を反映しているのではなく、権力を求める女性はまさに女性の平等を最も制約する構造を守らなければならないという自民党の期待を体現している。
高市氏の立場に内在する皮肉は明白である。彼女自身、公職において旧姓を使用するという職業上の自律性を享受しているのである。彼女は、選択的二重姓法(optional dual-surname law)は戸籍制度(family
registry system)と国家(国民)統合(national unity)への直接的な脅威であり、個人の自由や男女平等よりも制度的・人口統計的硬直性を優先する保守派の考えであると主張している。
このイデオロギーへの固執は、日本と高市政権を国際的な人権についての関与と直接かつ即時的に衝突させる。国連のジェンダー問題に関する最高機関である女子差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Discrimination Against Women、CEDAW)は、日本の男女別姓強制法と男子のみを定めた皇室典範(the
male-only Imperial House Law)を差別的であると繰り返し明確に非難し、日本政府に対し国際的なジェンダー規範に沿うよう改正するよう求めてきた。CEDAWの総括所見は、これらの法律が制度的なジェンダー不平等を永続させていると繰り返し強調している。高市の政治綱領は、事実上、CEDAWとの継続的な緊張を確実なものにしており、彼女の政権の家族とジェンダーに関する政策は今後も厳しい国際的監視に直面し、CEDAWのジェンダー平等の精神に反することを保証している。
高市が伝統的かつ保守的な価値観に固執していることは、単なる好みではなく、自民党内での彼女の政治的信用と権力の揺るぎない基盤となっていると言えるだろう。彼女の権力基盤は、主に彼女のキャリアを支えた安倍首相の後援とイデオロギー的遺産、そして自民党の超保守派中核の政治的動員によって形成されている。この中核は、強力な超国家主義圧力団体である日本会議(the powerful ultranationalist pressure group Nippon Kaigi、Japan Conference)の影響を強く受けている。日本会議は、2010年代半ばに監視が強化されるまで、主流メディアからほとんど注目されていなかった。
日本会議は、伝統的な家族価値観の回復、歴史修正主義の正常化(日本の戦時下の東アジア「解放[liberation]」を称賛し、戦前のように天皇を崇拝すること)、そして軍隊再建のための憲法第9条改正を含む包括的な修正主義的アジェンダを積極的に提唱している。高市早苗の過去および現在の政策姿勢、例えば「慰安婦(comfort women)」や戦時中の強制労働に関する外国の主張に対抗するため「歴史外交(history diplomacy)」の戦略的強化を提唱したこと、夫婦別姓制度への反対、靖国神社への定期的な参拝などは、この組織の影響圏内における忠誠心のリトマス試験紙になっている。
彼女の強硬なイデオロギー的姿勢は、日本の安全保障姿勢に決定的に及ぶ可能性がある。前回、2021年の総裁選挙挑戦時には、軍事費の大幅増額を主導的に提唱した。今回は国防強化と憲法改正による自衛隊の完全な合法化を主張している。これらの立場は「安倍ドクトリン(Abe Doctrine)」と密接に合致し、国家の主張と防衛拡大に焦点を当てた、強硬で断固とした男性的な日本国家像(masculine image of the Japanese state)を必然的に世界に投影するものである。
超国家主義を助長したとして国際社会の厳しい監視を受けていた安倍首相が、「ウィメン・シャイン」構想を(Women Shine initiative)通じて「ジェンダー重視の外交(pro-gender
diplomacy)」を唱えたのと同様に、高市も同様にジェンダー・エンパワーメントの言説を、特に総裁選において採用してきた。これには、現金給付を伴う減税といった現実的な提案や、閣僚人事における「北欧的」な男女比(a “Nordic” gender balance)で国民を「サプライズ(オドロイテ)(surprise)」という注目すべき公約が含まれる。重要なのは、現代の「北欧基準」である閣僚人事(the modern “Nordic standard” for cabinet balance)でさえ、スウェーデンのような国に代表されるものであり、現在のクリステルソン内閣は当初、総勢24名のうち11名を女性閣僚に任命した(女性閣僚比率は約45.8%で、ほぼ男女比が同数である)。しかし、この計算された政策転換は、強硬な政策内容を隠蔽するためのソフトパワー・レトリックの戦略的な展開(a strategic deployment of soft-power rhetoric)である可能性が高い。
高市のナショナリズムの中核を成す憲法改正(constitutional
revision)、明白な防衛計画、そして歴史修正主義(historical revisionism)は、即座に外交摩擦(diplomatic friction)を引き起こす可能性が高い。高市はここ数日、日本は「重要な隣国(important neighbor)」である中国と良好な関係を維持すべきとの見解など、物議を醸すいくつかの話題について発言を和らげる兆候を見せているが、中国と韓国の両国では既に超国家主義者、あるいは「安倍首相の女性版(the female Abe)」と広く見られている。
議論の対象となっている靖国神社への彼女の定期的な参拝は、特に扇動的である。靖国神社は、第二次世界大戦でA級戦犯として起訴された人々を含む、240万人以上の日本の戦没者を祀っている。北京とソウルは、こうした行動を日本の歴史修正主義の公式な承認と解釈し、戦後処理(postwar settlements)を揺るがすものと見ている。最近、フジテレビで首相として参拝するかどうかを問われた高市は、明確な表明を避け、「戦犯の刑は執行された(carried out)」ため「もはや犯罪者ではない(no longer
criminals)」と述べ、「どこにいても手を合わせたい(still want[s] to put my
hands together in prayer … from wherever I am)」と続けた。彼女の発言は、外交上の発火点(a diplomatic flash point)を戦略的に回避しながらも、戦没者への敬意を払い続けるという彼女の強い意志を強調したものと広く見なされている。したがって、高市政権は、地域和解(regional reconciliation)よりも国家主義的な記憶を優先する人物によって日本が率いられているというシグナルを送ることになるだろう。
さらに、高市は、領有権を公に主張したり、物議を醸したりしている「竹島の日」行事への閣僚出席を主張するなど、紛争の的となっている独島・竹島に関する最近の発言で韓国の感情を刺激しており、当選後にこれらの発言を実行に移せば、韓国との即時、厳しい外交的対立を招くことになるだろう。
この特定の島嶼紛争にとどまらず、高市の「台湾有事は日本にとっての有事である(a
Taiwan contingency is a contingency for Japan)」という安倍首相の宣言に同調する高市の強硬な外交姿勢は、既に北京から意図的な挑発行為であり、安定への直接的な脅威(deliberately provocative and a direct threat to stability)とみなされている。中国はこの姿勢を、領土保全(territorial integrity)という中核的利益を直接侵害するものであり、日本が戦後の平和主義(postwar pacifism)を放棄し、地域の紛争において積極的な自己主張を展開する政治的シグナルであると捉えている。しかしながら、高市の外交政策と安全保障政策は、現在の自民党少数与党政権と「平和主義」を掲げる公明党との連立政権によって制約を受ける可能性が高い(However, Takaichi’s foreign-policy and security agendas are likely
to be constrained by the current minority government of the LDP and its
coalition with the “pacifist” Komeito party)。
これらの理由から、高市が首相に就任する可能性は、日本における実質的な男女平等の実現に向けた画期的な勝利(a landmark victory for substantive gender equality in Japan)というよりも、むしろ自民党の政治的な回復力と保守的な中核の強さ(the LDP’s political resilience and its conservative core)を示すものであると言える。高市の台頭は、自民党の硬直した組織体制の中で女性が権力を握る最も現実的な道は、党綱領の最も家父長的かつ国家主義的な要素(the most patriarchal and nationalist elements of the party’s
platform)を揺るぎなく、完全に受け入れることであることを、おそらく最も如実に示している。もしそれが成功すれば、高市のリーダーシップは、ジェンダーに基づく改革よりもイデオロギーの同化が勝利したことを示すものとなるだろう。
※ミン・ガオ:ルンド大学(スウェーデン)歴史学部東アジア研究者。日本、韓国、中国に関する現代および歴史的な問題についての幅広い著作を持つ。
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新たな総裁選挙が迫る中、日本の真のボスたちは現状を見つめ直す(As Another Leadership
Election Looms, Japan’s Real Bosses Take Stock)
-名目上の指導者たちは党の権力構造において二次的な存在だがそのシステムは揺らぎを見せ始めている。
ウィリアム・スポサト筆
2025年9月30日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/09/30/japan-ishiba-prime-minister-elections/
今月、石破茂首相が辞任したことで、政府は新たな混乱に陥った。混沌とした世界秩序に対し、日本政府は安定した対応を求められているまさにその時期に混乱が起きた。
石破は、7月の参議院選挙における与党・自民党の惨憺たる結果の責任を取るため、辞任すると述べた。これは、2009年の衆議院選挙で敗北し辞任した麻生太郎元首相や、同様に惨憺たる選挙結果を受けて最初の任期を終えて辞任した安倍晋三元首相など、多くの歴代首相の足跡を辿るものだ。日本の政治において、このような後退は永続的なものではない。安倍首相は2012年に首相に返り咲き、約8年間の在任期間を経て、日本史上最長の首相在任期間を記録した。
日本の指導者たちはまるで回転ドアのように交代を繰り返しているように見える。ほとんどの首相は、他の世界の指導者たちが誰と対峙しているのかさえ分からないうちに退任してしまうからだ。しかし、これは日本にとって新しい現象ではなく、時に有益な場合もある。
例えば、自民党は1955年の結党以来、過去70年間のうち約64年間、いわゆる「合意に基づく一党支配(consensual one-party rule)」の下で政権の座を維持してきた。自民党のやり方は、世論調査で支持率が急落した党首を容赦なく追放することだ。支持率の基準値は定められていないものの、30%を下回ると危険水域(a danger zone)とみなされる。石破の最新の支持率は、7月の選挙後、21%から30%の間で推移している。
この決定は、戦後日本の政治を支配してきた自民党にとって、依然として混乱を招いている。党は10月3日と4日に党員投票を実施し、自民党議員に加え、各地方の党員代表も参加する。有力候補は、いずれも2024年の総裁選で総裁選に敗れた常連の顔ぶれだ。
高市早苗前経済安全保障担当大臣がトップに立っているが、強い国家主義的見解を持つ彼女は、最も物議を醸す選択肢となるだろう。彼女は麻生太郎をはじめとする党右派の有力者たちから支持されており、安倍首相の側近でもあった。こうした支持を受け、昨年9月の自民党総裁選では石破に僅差で次点となった。
一方、高市は、第二次世界大戦の責任を日本に押し付けるべきかどうかという歴史修正主義的な立場や、過去の日本の公式謝罪に対する批判などから、党内穏健派(the more moderate parts of the party)からも強い嫌悪感を持たれている。彼女が首相に選出されれば、日本初の女性首相となり、「サッチャー・ルール(the “Thatcher rule”)」、つまり女性は左派よりも右派からトップに上り詰める傾向があるという考え方を体現することになる。
もう一人の有力候補は、自民党議員の「新世代(new generation)」を代表する小泉進次郎農相だ。しかし、彼は少なくとも一つの伝統的な要素、すなわち政治王朝(political dynasties)を継承している。44歳の小泉はテレビ映りが良く、非常に人気のある父である小泉純一郎元首相の恩恵を受けている。小泉元首相は、安倍首相と並んで、平均2年の任期を超えて首相を務めた数少ない日本の元首相の一人だ。
小泉進次郎は、5月に突然の米不足に見舞われた直後に農水大臣に就任し、高い注目を集めた。米価高騰は、既にくすぶっていたインフレに拍車をかけ、米が文化において神聖な役割を担う日本にとって、感情的なレヴェルで大きな衝撃となった。
有力候補として、内閣官房長官の林芳正と、与党のヴェテランである茂木敏充が挙げられる。穏やかで温厚な林は、元外務大臣で、英語も堪能(日本のエリート層では珍しい)であり、カントリークラブで活躍する頼れる人物として、穏健派の代表格となるだろう。同じく元外務大臣の茂木は、より闘争心が強く、ドナルド・トランプ米大統領とその側近たちと渡り合うには最適な人物と目されている。
しかし、日本では集団指導体制(a system of collective
leadership)において、首相自身はそれほど重要ではないという見方もある。集団指導体制では、主に党内の派閥(factions within the party)を率いて権力を握る、舞台裏にいる実力者たち(figures behind the scenes)が、領袖に忠実な議員たちで構成される派閥を率いていた。森喜朗元首相と麻生元首相は、支持率の急落を受けてわずか1年で辞任したが、不名誉な辞任にもかかわらず、辞任後も相当の権力を握っていた。
さらに、政治権力の変動が激しい中で、日本の高級官僚たちは、いわゆるアメリカの「ディープステート」(U.S. “deep state”)も羨むほどの権力を握ってきた。第二次世界大戦後、日本を経済大国(an economic powerhouse)へと変貌させた功績は、第一線で政策を立案したティームにある。
しかし、自民党は現在、この戦後モデルが危機に瀕している兆候に直面している。有権者たちが上からのリーダーシップを受け入れる意欲が低下している。これは、日本の国会である参議院の議席の半分を争った7月の選挙で顕著に表れた。参議院は衆議院に比べて力を持っていないが、世論の指標と捉えられることが多い。
この低迷により、宗教色の強い連立政権を組む公明党の支持を得ても、自民党は両院で過半数を獲得できない状態となった。与党は現在、参議院248議席中121議席、衆議院465議席中わずか220議席しか保有しておらず、政権維持は困難を極めている。他党との何らかの協力関係の構築が不可欠となっている。
同時に、自称「日本ファースト(Japan first)」を掲げる参政党の台頭により、ポピュリズムの台頭も見られるようになった。参政党は参議院で議席を2議席から15議席に増やし、今回の選挙での比例代表候補の得票率も12.6%と好調だった。
自民党の内紛はこれまで、同性婚や平和主義の立場を撤廃あるいは弱体化させるべきかどうかといった社会・政治問題に大きく焦点が当てられてきたが、今回の選挙戦の焦点は明らかに経済だ。ジョー・バイデン前米大統領が指摘したように、物価上昇率が賃金上昇率を上回っていると考える国民は、怒りの有権者となる可能性が高いだろう。
日本の小売物価上昇率は2.5~3.5%程度だが、凶作と政府の過剰生産抑制策により米価がほぼ倍増したため、7月の食料品インフレ率は7.6%に達し、日々の家計に非常に大きな影響を与えている。日本では食品の60%が海外から輸入されており、急激な円安(外国人観光客にとっては恩恵)が大きな原因となっている。
提案されている解決策は、根本的な問題に取り組むのではなく、政府が負担すべきでない資金をばら撒いて打撃を和らげるというものだ。
物価上昇による痛みを和らげるために、所得税の減税、10%の消費税の一部軽減、あるいはその他の補助金を講じるという考えは、7月の選挙で主要政党の主要政策課題となった。日本の巨額の政府債務問題に目を向けていた石破茂率いる自民党は、この分野での大胆な公約を最も躊躇し、一時的な現金給付を限定的にしか提供しなかった。これが党の低迷の主な原因と見られていた。
これに対し、今回の自民党総裁選挙の候補者全員が何らかの対策を公約しており、財政ハト派(a
fiscal dove)の高市は最も野心的な提案をしている。彼女は出馬表明の際に、所得税控除と現金給付を組み合わせた対策を講じ、所得基準を引き上げると述べた。
彼女はこうした対策の財源について具体的な説明を避けたが、これは既に先進国の中で最大規模となっている日本の政府債務水準に更なる負担をかけることになるだろう。国際通貨基金(International Monetary Fund、IMF)は、日本の総債務残高をGDP比236.7%と推定しているが、これは2020年のピーク時の約260%からは減少している。財政余地を見出した政治家たちは、長期的な影響を顧みず、これまで通り、その余地を埋めようとするだろう。
ドイツ銀行東京支店チーフエコノミストの小山健太郎は「補助金の増額は財政拡大につながり、インフレ率を上昇させる可能性がある。家計の購買力は一時的に改善するかもしれないが、高インフレが定着しているため、この効果は長くは続かないだろう」と述べた。
これは、日本銀行が2024年3月以降に「ゼロ金利」政策(“zero interest
rate” policy)から段階的に金利を引き上げる計画にも影響を与える可能性が高い。この政策は、数十年にわたるデフレ圧力から経済を脱却させるために策定されたものである。為替レートは厳密には日銀の管轄外であるが、金利上昇に伴う円高は、輸入コストの低下を通じてインフレ圧力をいくらか緩和するのに役立つだろう。
戦略や防衛問題はあまり目立たないが、日本は決して手をこまねいているわけではない。安倍首相の約9年間の任期が2020年に終了して以来、3人の短期政権を経験したが、日本は「志を同じくする」国々(“like-minded” countries)との関係構築に熱心に取り組んできた。これは使い古された表現であるが、世界中のアメリカの同盟諸国がワシントンからの混乱に直面し、独自のネットワーク構築に奔走していることを示している。
最近の例としては、イギリス海軍の空母プリンス・オブ・ウェールズを筆頭とする機動部隊が、日本を含むアジア地域に8カ月間展開したことが挙げられる。イギリスとイタリアは、日本国旗を掲げるだけでなく、アメリカの軍装備品への依存からの脱却を図るため、イタリアと戦闘機プログラムで提携しています。
近年、このような協定が相次いで締結されています。日本は、オーストラリア、イギリス、アメリカを連携させるAUKUS(オーカス)プロジェクトの非公式パートナーだ。また、アメリカ、オーストラリア、インドを連携させる四カ国安全保障対話(the Quadrilateral Security Dialogue)にも参加している。この3カ国は、それぞれ独自の緊張関係を抱えている。
日本は、この地域の他の国々、特に中国との対立を抱えるフィリピンを支援している。これには、1980年代から1990年代にかけて海上自衛隊が使用した中古フリゲート艦の移転も含まれると見込まれている。また、オーストラリアが次世代フリゲート艦の建造を巡る入札で、日本は意外な落札者となったが、契約交渉はまだ続いている。
日本では、政権が交代しても、このような戦略的取り組みの方向性が変わることはほぼない。国内の政治的混乱にもかかわらず、日本は依然としてアジアおよび世界においてある種の安全な避難場所を提供している。前例と安定を重んじる国が、突然トランプのような方向転換(a Trumpian detour)をするリスクは低いように思われる。
※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリスト。2015年から『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。ロイター通信と『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙で勤務し、20年以上にわたり日本の政治と経済を取材してきた。彼はまた、カルロス・ゴーン事件とその日本への影響に関する2021年の本の共著者でもある。
(貼り付け終わり)
(終わり)

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



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