古村治彦です。
2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体
最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。
2025年11月にドナルド・トランプ大統領は「国家安全保障戦略(National
Security Strategy、NSS)」を発表した。「国家安全保障戦略」は、アメリカの歴代政権(ジョージ・H・W・ブッシュ政権から)が出す、国家安全保障に関する重要なテーマとその対処について述べる文書である。各政権の外交政策や安全保障政策の基盤となる文書であり、それぞれに特徴がある。今回、2025年版の「国家安全保障戦略」のテーマは、トランプが掲げる「アメリカ・ファースト(America First)」である。何度も書いているが、これは子供じみた「アメリカが何でも一番、何でも最初」という意味ではない。「アメリカ国内に山積する諸問題の解決を最優先になる、世界の諸問題については優先しない」という意味である。
今回の「国家安全保障戦略」において重要なのは「西半球(Western
Hemisphere)」という言葉であり、「モンロー主義を補完するトランプの系譜(Trump
corollary)」である。西半球とは具体的には南北アメリカ大陸を意味し、モンロー主義のトランプの系譜とは、モンロー主義に返るということだ。1830年代のモンロー主義は、「南アメリカはアメリカの勢力圏であり、ヨーロッパ諸国の介入を許さない、その代わりにアメリカはヨーロッパ諸国には介入しない」という外交政策の原理であるが、現在のモンロー主義は、「南アメリカに対して、中国とロシアが介入するのを許さない」ということになる。これは裏を返せば、「西半球以外のことには手を出さない」ということである。「アメリカは世界の警察官を辞める」という宣言でもある。そして、「国内に数多くある深刻な問題を解決することに注力する」ということになる。
「西半球(南米)の勢力圏確保」と「国内問題解決優先」を掛け合わせると出てくる答えが「ヴェネズエラへの圧力」である。ヴェネズエラの反米政権であるニコラス・マドゥロ政権は中露からの支援を受けている。南米から中露の影響力を排除したいトランプ政権としては、マドゥロ政権に圧力をかけて、地上軍を投入するなどのコストをかけずに追い落としたい。そして、そのための大義名分が「国内に蔓延する麻薬問題を解決するために、麻薬密輸を行っているヴェネズエラに圧力をかける」ということになる。
トランプは狂人で、めちゃくちゃな政策施行だという印象を持つ人も多いだろう。しかし、それではアメリカの大統領にはなれない。やはりきちんとした論理構成が必要である。「国家安全保障戦略」という文書はその論理構成を示している。
(貼り付けはじめ)
トランプ大統領の新たな「国家安全保障戦略」は「アメリカ・ファースト」を全面的に打ち出す(Trump’s New National Security Strategy Goes Full ‘America First’)
-長らく待たれたこの計画は、米大統領の世界観を世界中に選択的に押し付けることを狙っている。
リシ・イエンガー、クリスティナ・リウ筆
2025年12月5日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/12/05/trump-national-security-strategy-america-first/
ドナルド・トランプ政権は木曜日の夜遅く、長く待たれた新しい国家安全保障戦略を発表し、アメリカの世界的な優位性と、数十年にわたる世界的な役割の多くの側面からの撤退を両立させようとするヴィジョンを示した。
この戦略の唯一の貫徹線は、介入主義(interventionism)を推奨し、同時に非難する点もいくつかあるが、ワシントンの野望を推進することだ。
ドナルド・トランプ米大統領は、この「国家安全保障戦略」の序文で、「私たちはあらゆる行動においてアメリカ・ファーストを掲げている」と書き、今回の戦略を「アメリカが人類史上最も偉大で成功した国家であり続けるためのロードマップ」と表現した。
しかし、この戦略の冒頭の段落は、「目的と手段の本質的な関連性を説明する具体的かつ現実的な計画」という教科書的な定義で始まるが、冷戦後のアメリカ主導の世界秩序を激しく非難し、そこからの明確な離脱を前面に出している。
「国家安全保障戦略」には次ように書かれている。「アメリカの外交政策エリートたちは、アメリカが全世界を恒久的に支配することが我が国の最善の利益であると確信していた。しかし、他国の動向は、その活動が我が国の利益を直接脅かす場合にのみ、私たちの関心事となる。我が国のエリートたちは、アメリカ国民が国益と何の関係もないと考えるような、世界規模の負担をアメリカが永久に担う意思があるかどうかについて大きく誤算していた」。
グレート・リプレイスメント陰謀論(Great Replacement
conspiracy theory)に関連する白人至上主義的ないくつかの考え(white
nationalist ideas)を反映するレトリックも、この戦略全体に浸透しており、ある箇所ではヨーロッパにおける「文明の消滅(civilizational erasure)」を警告し、ヨーロッパ大陸における「西洋アイデンティティ(Western identity)」の回復を訴えている。また、この戦略はトランプ政権が持つ出生率低下への懸念にも言及し、「健全な子供を育てる、強く伝統的な家族の増加」が「アメリカの精神的・文化的健全性の回復と再活性化」に不可欠であることを強調している。
今回の戦略は、トランプ政権の世界観を5つの領域に分割し、それぞれの領域における同盟諸国、パートナー、敵対諸国、そしてその他全ての人々に向けた処方箋と原則(prescriptions and principles)を示している。
●西半球(Western Hemisphere)
トランプ大統領がアメリカの影響力を近隣地域に再集中させるという戦略(Trump’s
refocusing of U.S. influence on its immediate vicinity)は、この戦略の第一の、かつ最も重要な部分の1つであり、数カ月前から予告されていた。例えば今週初めには、トランプ政権が1823年のモンロー主義を補完する「トランプの系譜(Trump corollary)」を発表し、「アメリカ国民は、外国やグローバリスト機関ではなく、常に西半球における自らの運命を握る」と述べている。
今回の戦略は、この再編(realignment)がトランプ大統領の最重要課題の1つ、すなわち、アメリカ国境を越えた人間と麻薬の流れを食い止めることに大きく貢献していることを明確にしている。「国家安全保障戦略」では、「私たちは、西半球における既存の友好諸国と協力して、移民を抑制し、麻薬の流入を阻止し、陸海上の安定と安全を強化する」と述べている。これには、「西半球における喫緊の脅威に対処するための世界的な軍事プレゼンスの再調整」と「国境の安全確保と麻薬カルテルの壊滅のための、必要に応じて致死的な武力の使用を含む、的を絞った展開」が含まれる。
また、トランプ政権が既に実践しているように、アメリカの安全保障、外交、そしてビジネスの利益の境界線も曖昧にする。「全てのアメリカ大使館は、自国における主要なビジネスチャンス、特に主要な政府契約について認識していなければならない。これらの国々と交流する全てのアメリカ政府関係者たちは、アメリカ企業の競争と成功を支援することが職務の一部であることを理解すべきである」と「国家安全保障戦略」と述べている。
今回の戦略はまた、中国について明示的に言及することなく、ラテンアメリカにおける中国の進出に対抗することを目指しており、「この地域で、あるいはこの地域で活動する全てのアメリカ政府関係者は、有害な外部影響の全体像を把握すると同時に、パートナー諸国に圧力をかけ、私たちの西半球を守るようインセンティヴを与えなければならない」と述べている。
●アジア(Asia)
一方、中国の事実上の裏庭では、アメリカの戦略は同盟諸国やパートナーを結束させ、ワシントンの最大の対抗勢力である中国を抑止することを目指している。「国内で繁栄するためには、現地で競争に勝利しなければならない、-そして我々は勝利している」と述べ、トランプ大統領が10月の地域訪問中に日本、韓国、その他の東南アジア諸国と結んだ協定について強調している。
中国に対抗するための二本柱は経済再均衡と軍事抑止(economic
rebalancing and military deterrence)であり、いずれも戦略が地域(およびその他の地域)の同盟諸国に対し、中国の影響力を弱める支援を促す分野である。「東南アジア、ラテンアメリカ、中東だけでは中国の膨大な過剰生産能力を吸収しきれないため、ヨーロッパ、日本、韓国、オーストラリア、カナダ、メキシコ、その他の主要諸国に対し、中国経済を家計消費へ再均衡させる貿易政策の採用を促さねばならない」と記されている。さらに、「ヨーロッパやアジアの輸出諸国も、中所得国を輸出先として限定的ながら成長する市場と見なせる」とも書かれている。
さらに「ヨーロッパ、日本、韓国などが保有する7兆ドルの純対外資産」と、国際開発銀行などの国際金融機関が保有する1.5兆ドルの資産を動員し、中国に対抗しようとしている。しかし、ここでも計画は明らかにアメリカ・ファーストだ。「トランプ政権は指導的立場を活用し、アメリカの利益に資する改革を実施することに尽力する」と「国家安全保障戦略」は述べている。
トランプ大統領は中国との貿易協定の締結と維持に熱心であり、「国家安全保障戦略」では、「バランスを保ち、非センシティヴな要素に焦点を当てる」必要があるとされているものの、中国の2つの最大の軍事的野望については譲歩していない。「国家安全保障戦略」では、「台湾をめぐる紛争を抑止すること、理想的には軍事力の優位性を維持することが優先事項である。また、長年にわたる台湾に関する宣言政策を維持する。これは、アメリカが台湾海峡の現状の一方的な変更を支持しないことを意味する」と書かれている。
同時に、トランプ政権は日本や韓国といった国々に軍事的負担をさらに押し付けようとしている。「これらの国々に対し、敵対勢力を抑止するために必要な能力、特に新たな能力に焦点を当て、国防費の増額を促さなければならない」と「国家安全保障戦略」は述べている。
これらの目標には、トランプ政権下でアメリカとインドとの関係が20年ぶりの低水準に近づいたにもかかわらず、インドが重要な役割を果たすことも含まれている。「オーストラリア、日本、米国(「クアッド(the Quad)」)との継続的な4カ国協力を含め、インド太平洋安全保障へのインドの貢献を促すため、インドとの商業(およびその他の)関係を継続的に改善する必要がある」と「国家安全保障戦略」は述べている。
●ヨーロッパ(Europe)
新しい「国家安全保障戦略」におけるヨーロッパへのアプローチにおいて、負担の転嫁と政策の規範性は特に顕著である。
2月にミュンヘン安全保障会議で行われたJ・D・ヴァンス副大統領の悪名高い演説を彷彿とさせるこの戦略は、ヨーロッパにおける「文明の消滅という厳しい見通し」を嘆き、その原因の一部は「言論の自由の検閲と政治的反対勢力の弾圧、出生率の急落、国民的アイデンティティと自信の喪失」、そして大陸の移民政策にあるとしている。「私たちは、ヨーロッパがヨーロッパであり続け、文明への自信を取り戻し、規制による窒息という失敗した焦点を放棄することを望んでいる」と「国家安全保障戦略」は述べている。
そして、トランプ政権のアメリカ・ファースト政策の目標にもかかわらず、この戦略は、ワシントンは「ヨーロッパ諸国内で抵抗を育む(cultivating resistance … within European nations)」ことを含め、「ヨーロッパが現在の軌道を修正するのを支援しなければならない(help Europe correct its current trajectory)」と述べている。「国家安全保障戦略」は、「ヨーロッパ諸国の愛国主義的な政党の影響力拡大(the growing influence of patriotic European parties)」を「大きな楽観の根拠(cause for great optimism)」として挙げている。
ヨーロッパとロシアの関係において、さらなる介入を求める声が上がっている。今回の戦略では、ウクライナにおけるロシアの戦争終結に向けたアメリカ主導の交渉が、「ユーラシア大陸全体における戦略的安定の条件を再構築し、ロシアとヨーロッパ諸国間の紛争リスクを軽減するために必要」であると主張している。
この戦略は、「ウクライナにおける敵対行為の迅速な停止(an expeditious
cessation of hostilities in Ukraine)」と「ウクライナが存続可能な国家として存続できるようにする(enable its survival as a viable state)」ための「敵対行為後の復興(post-hostilities reconstruction)」を求めているものの、敵対行為停止の条件については詳細をほとんど示していない。むしろ、「戦争に対して非現実的な期待を抱いているヨーロッパ諸国の政府当局者たち」を非難し、彼らが国民の願いを無視していると主張している。「ヨーロッパ諸国の大多数は平和を望んでいるが、その願いが政策に反映されていないのは、主に各国政府が民主的なプロセスを破壊しているためだ」と「国家安全保障戦略」では述べている。
しかし、この声明は、ウクライナのNATO加盟に関するロシアの主張と重なり、「NATOが永続的に拡大する同盟であるという認識を終わらせ、その現実を阻止すること」をアメリカの主要目標として挙げている。
●中東(Middle East)
対照的に、この戦略における中東へのアプローチは、世界中で民主政治体制を促進するというアメリカの長年の目標からの大きな逸脱を反映している。この地域の国々と連携するためには、「これらの国々、特に湾岸諸国の君主制国家に対し、伝統と歴史的な統治形態を放棄するよう圧力をかけるという、アメリカの誤った試みを放棄する必要がある。私たちは、改革が自然発生的に生じる時と場所において、それを奨励し、称賛すべきであり、外部から押し付けるべきではない」と述べている。
この政策は、戦略の冒頭で示されている「柔軟なリアリズム(flexible
realism)」というより広範な原則を反映している。「国家安全保障戦略」では「私たちは、世界の国々との良好な関係と平和的な通商関係を追求するが、彼らの伝統や歴史から大きく異なる民主政治体制やその他の社会変革を押し付けることはない」と言及されている。
トランプ政権は、この地域における長引く紛争は「見出しで信じられているほど深刻な問題ではない」と主張する。「国家安全保障戦略」は、イランはイスラエルとアメリカの攻撃によって「大きく弱体化」し、イスラエルとパレスティナの紛争は「依然として厄介な問題」ではあるものの、「より恒久的な平和に向かう」道筋にあり、シリアは「潜在的な問題を抱えたままではあるが、安定し、地域における不可欠かつ前向きなプレーヤーとしての正当な地位を取り戻す可能性がある」と主張している。
一方、前述の湾岸諸国は、今年初めにトランプ大統領がこの地域を訪れたことで確固たる地位を築いた「アメリカの優れたAI技術への支援」の重要な供給源となっている。
全体として、「国家安全保障戦略」では、「中東がアメリカの外交政策の長期計画と日常的な実行の両面で支配的だった時代は、ありがたいことに終わった。中東がもはや重要ではなくなったからではなく、かつてのように常に人々を苛立たせ、差し迫った大惨事の潜在的な原因ではなくなったからだ」と宣言されている。さらに「むしろ、中東はパートナーシップ、友情、そして投資の場として台頭しつつあり、この傾向は歓迎され、奨励されるべきである」と述べている。
●アフリカ(Africa)
トランプ政権は29ページにわたる戦略のうち、長らくワシントンの政策立案者からほとんど注目されてこなかったアフリカ地域に、わずか3段落を割いただけだった。この新たな戦略は露骨に取引中心であり、アメリカ企業の利益を高め、投資収益を生み出すパートナーシップの構築に明確に焦点を合わせている。
「国家安全保障戦略」では、「あまりにも長い間、アメリカのアフリカ政策は、リベラルなイデオロギーの提供、そして後にその普及に重点を置いてきた」と明言されている。今後、アメリカは援助重視のアプローチから、「アメリカの製品とサービスへの市場開放にコ関与した」国々との貿易と投資に重点を置くアプローチへと転換しなければならないと述べている。
戦略によれば、差し迫った投資機会はエネルギーと重要な鉱物セクター分野に存在し、「高い収益が見込める」上、「アメリカ企業に利益をもたらす」可能性がある。この戦略では、アメリカは進行中の紛争の解決交渉を支援し、紛争予防にも貢献できるとしているが、ワシントンは「イスラム過激派テロ活動の再燃を警戒し続けなければならない」とし、「アメリカの長期的な駐留や関与」を避けなければならないとしている。
※リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』スタッフライター。Blueskyアカウント:@iyengarish.bsky.social、Xアカウント:@Iyengarish Instagram: @iyengar.rishi
※クリスティナ・リウ:『フォーリン・ポリシー』誌記者。Blueskyアカウント:@christinalu.bsky.social X: @christinafei
(貼り付け終わり)
(終わり)
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



コメント