古村治彦です。

 イスラエルはハマスからの奇襲攻撃を受け、人質を取られたことで、それを奇貨として大規模な反撃を行い、ガザ地区での大規模な破壊を行った。多くの民間人が犠牲となった。アメリカの仲介による停戦は実行されたが、現在も状況は改善していない。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、自身のスキャンダル隠しと訴追逃れのために、戦争状態を継続している。アメリカのドナルド・トランプ大統領のエプスタイン文書隠し、日本の高市早苗首相の自民党と統一教会の爛れた関係隠しと同様であるが、日本の場合は人間が殺されないだけまだましと言えるだろう。

 話は逸れたが、イスラエルは中東地域において地域覇権ではなく、生存を最優先にしてきた。そのために戦いながら、同時に交渉を行い、スパイ活動を行いながら情報戦を行いながら、近隣諸国と裏舞台では協力関係を保ってきた。中東諸国もイスラエルを公式には認めないスタンスであったが、裏では取引ができるようにしていた。

 ネタニヤフ首相の武力偏重のスタンスで、ガザ地区への大規模な攻撃は、せっかく進められていたサウジアラビアとの国交樹立交渉にも影響を与えた。サウジアラビアとしても、アラブの盟主として、イスラエルを公式に認めることができない状態になってしまった。中東地域の安定という地域共通の利益をイスラエルが破壊していることが根本の問題である。

 イスラエルのガザ地区とイランへの攻撃は短期的には一定の成果を上げるだろうが、中長期的に見て、それがイスラエルの利益になるとは考えられない。イスラエルが中東地域を支配することはあり得ない。武力で中東地域を従わせることはできないし、そもそもがそのような制度設計になっていない。結局のところ、ネタニヤフ首相の私戦を戦っているに過ぎない。これは、イスラエルにとっては一時的な逸脱という見方もできる。

(貼り付けはじめ)

イスラエルは(地域)覇権国にはなれない(Israel Can’t Be a Hegemon

-イスラエル政府は成功する可能性の低い地域支配を狙っている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月16日

https://foreignpolicy.com/2025/06/16/israel-iran-war-middle-east-hegemon/

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イェルサレムの政府報道室(Government Press OfficeGPO)での記者会見で、中東の地図の前で演説するイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(2024年9月4日)

イスラエルによるイランへの広範囲にわたる攻撃は、地域のあらゆる敵対勢力を排除または弱体化させるためのキャンペーンの最新のラウンドである。2023年10月のハマス攻撃を受けて、イスラエルはパレスティナ人を意味のある政治勢力として破壊するための残忍なキャンペーンを遂行しており、主要な人権団体や多くの学術専門家たちはこれをジェノサイド(genocide)と呼んでいる。レバノンでは空爆(airstrikes)、爆弾を仕掛けた携帯電話(booby-trapped cellphones)、その他の手段でヒズボラの指導部を壊滅させた。イエメンではフーシ派を攻撃し、アサド政権崩壊後のシリアを爆撃して武器貯蔵庫を破壊し、危険と見なす勢力が政治的影響力を行使するのを阻止した。そして、イランに対する最新の攻撃は、イランの核インフラに損害を与えたり破壊したりする以上のことを目的としている。イスラエルは少なくとも、イランの核計画をめぐる交渉を終わらせたいと考えている。イランの最高指導者、軍関係者、外交官、科学者を殺害することでイランの反撃能力を弱体化させ、可能であればアメリカを戦争にさらに深く引きずり込む。最大限には、イランの体制を崩壊させるまで弱体化させることを望んでいる。

これらの行動はいずれも、少なくとも短期的には、また部分的には成功している。では、今やイスラエルを地域覇権国(a regional hegemon)とみなすべきだろうか? もしそのような国家が「特定の地域における唯一の大国(the sole great power within a particular region)」であり、「全面的な軍事力の試練において、他のいかなる国家(あるいは国家連合)も本格的な防衛力を発揮できない(no other states (or combination of states) could mount a serious defense in an all-out test of military strength)」と定義されるならば、イスラエルは今やその資格を満たしていると言えるだろうか? もしそうであれば、近隣諸国も覇権国に直面した際に他の国々がしてきたように行動することを期待すべきだろうか? つまり、「その優位性を認め、覇権国にとって極めて重要な問題においては従う(recognize its superior power and defer to it on matters of vital interest to the hegemon)」ということだろうか?

一見すると、この可能性は非現実的に思える。人口1000万人にも満たない国(そのうちユダヤ人は約75%に過ぎない)が、数億人(主にイスラム教徒のアラブ人)と9000万人以上のペルシャ人を抱える広大な地域を、どのようにして支配できるのだろうか?

しかしながら、イスラエルが近隣諸国に対して多くの優位性を持っていることを考えると、この考えはより説得力を持つように思える。イスラエル国民はアラブ諸国の国民よりも教育水準が高く、愛国心が強く、より有能な指導者に導かれてきた。イスラエルは裕福で政治的に影響力のあるディアスポラ(diaspora、離散民)から惜しみなく揺るぎない支援を受けており、過去にはイギリスやフランスといった大国からも多大な支援を受けてきた。アラブ諸国のライヴァル諸国の多くは、様々な内部分裂(internal schisms)、動乱(upheavals)、クーデター(coups)に直面し、アラブ諸国間の対立(divided by inter-Arab rivalries)によって分断されてきた。

さらに言えば、現代の軍事力は単なる兵力よりも、技術力、訓練、そして能力の高い指揮統制に大きく依存しているため、イスラエル国防軍(Israel Defense ForcesIDF)は常に、敵対する軍よりもはるかに優れた能力を誇ってきた。この優位性は、戦争が高価で高度な兵器にますます依存するようになるにつれて、さらに高まっている。ヒズボラとハマスは共に時とともに能力を高めていったものの、どちらもイスラエルの存在を脅かしたり、イスラエルがヒズボラとハマスに与えることのできる損害に匹敵したりすることはできなかった。イスラエルの膨大な核兵器と評価の高い情報能力はその立場をさらに強化した。

何よりも重要なのは、イスラエルがアメリカから広範かつほぼ無条件の支援を受けていることだ。アメリカ政府はイスラエルの行動の如何に関わらずイスラエルを支持し、イスラエルの「質的軍事優位性(qualitative military edge)」を維持することを正式に約束している。この支援がなければ、約1000万人のイスラエル人は自国の領土を守ることはできるが(核兵器を保有していることを忘れてはならない)、周辺地域を支配する可能性はほとんどない。

以上の点を考慮すると、イスラエルがより広い中東知己を支配するという考えはそれほど突飛なものではない。しかし、イスラエルを真の地域覇権国と見なすのは誤りだろう。

第一に、地域覇権国は近隣諸国に比べて非常に強力であるため、近隣諸国から重大な安全保障上の脅威を受けることはなく、真のライヴァルがすぐに出現することを心配する必要もない。これは、20世紀初頭までにアメリカが達成した立場だ。他の大国は西半球(the Western Hemisphere)から撤退し、この地域のどの国や組み合わせも、アメリカの経済力と軍事力の組み合わせに近づくことはできなかった。キューバ危機(外部の大国(ソ連)が核兵器搭載ミサイルを西半球に送り込んだ)という短い例外を除けば、アメリカは19世紀後半以降、西半球地域からの重大な軍事的脅威に直面していない。この特権的な立場により、ワシントンは外交・防衛政策をユーラシアに集中させ、戦略的に重要な地域で他の大国が同様の地位を獲得するのを阻止することができた。

今日のイスラエルは、その基準を満たしていない。例えば、フーシ派は依然として反抗的な姿勢を崩しておらず、イスラエル国防軍はガザ地区の住民に甚大な被害を与えたにもかかわらず、依然として泥沼に足を取られている状況だ。イスラエルはヒズボラとハマスを著しく弱体化させたが、これらは非国家アクターであり、イスラエルの存在に実存的な脅威を与えたことはこれまで一度もない。今日、アラブ諸国や連合軍でイスラエルに匹敵するものは存在しない。しかし、トルコとイランはどちらも強力な軍事力とはるかに大きな人口を有しており、総力戦(all-out war)が発生した場合、たとえ最終的に敗北するにしても、それぞれ信頼性の高い防衛体制を構築することができる。つまり、イスラエルはこれらの国々を計算から除外したり、これらの国々が従うと想定したりすることはできない。イランの継続的な抵抗がそれを如実に示している。最近の攻撃に対するイランの報復は、被った被害に比べれば少ないものの、決して軽微なものではなく、紛争はまだ終わっていない。たとえ今回の戦闘で敗北することになったとしても、テヘランが自国の利益をイスラエルに進んで従属させる兆候は見られない。その理由だけでも、イスラエルは地域の覇権国とは言えない。

さらに言えば、これらの最新の攻撃の正当化の根拠は全て、イランがいつの日か核兵器を入手するかもしれないという懸念にあった。リスクは、イランが自殺行為となる核兵器でイスラエルを攻撃することではなく、むしろイランの核兵器が、イスラエルがこの地域で無制限に武力を行使する能力を制限する可能性にあった。イスラエルの指導者たちが、より大きな抑制をもって行動せざるを得なくなる可能性を危険と見なしたことは、彼らが世界唯一の真の地域覇権国であるアメリカが長年享受してきたような「無料の安全保障(free security)」を享受していないことを示している。

イスラエルの最近の戦場での成功も、イスラエルが支配する地域の人口の約半分を占めるパレスティナ人というより根本的な問題を解決してはいない。イスラエルの優れた軍事力と情報能力は、2023年10月にハマスが数百人のイスラエル人を殺害するのを防げなかった。また、それに対する報復としてイスラエルが5万5千人以上のパレスティナ人を殺害したことで、この紛争の政治的解決に近づいた訳でもない。むしろ、イスラエルの世界的なイメージは著しく傷つき、長年の同盟諸国でさえ支援を弱めている。

最も重要なのは、イスラエルが依然としてアメリカ国内の後援者に決定的に依存している点だ。アメリカは、隣国を攻撃するために必要な航空機、爆弾、ミサイルの大半を供給し、絶え間ない外交的保護を提供している。真の地域覇権国は近隣地域を支配するために他国に依存する必要はないが、イスラエルは依存せざるを得ない。強力な国内利益団体の影響力により、アメリカの支援は何十年にもわたって揺るぎないものだったが、近年、この関係には緊張の兆しが見られ、アメリカの力そのものの衰退に伴い、この関係を維持することはさらに困難になるだろう。そして、今回の戦闘が最終的に米国を巻き込むことになれば、ドナルド・トランプ米大統領がアメリカの平和を維持すると信じていた MAGA の支持者たちを含め、より多くのアメリカ国民が、「特別な関係(special relationship)」のためにアメリカが支払っている多大な代償を認識することになるだろう。

最後に、永続的な地域覇権は、近隣諸国が覇権国の優位な地位を受け入れる(場合によっては歓迎する)ことを必要とする。そうでなければ、覇権国は常に新たな反対勢力の出現を懸念し、反対勢力の出現を阻止するために繰り返し行動を取らざるを得なくなる。自らの特権的な地位(privileged position)を他国に受け入れてもらうためには、永続的な覇権国はある程度の寛容さ(forbearance)をもって行動しなければならない。これは、フランクリン・D・ルーズヴェルト元米大統領がラテンアメリカに対して「善隣(Good Neighbor)」政策を採用した際に示したものである。ナポレオン時代のフランス、ナチス・ドイツ、大日本帝国といった地域覇権国を志向した国々が一時的に優位な地位を獲得したものの、当初の成果を固めることができず、最終的にはより強力な反対勢力の連合に屈服したことを想起することに価値がある。

しかし、隣国への寛容を持っての処遇はイスラエルの得意分野ではなく、イスラエルの右翼勢力や宗教過激派の影響力拡大によって、その可能性はさらに低くなっている。これらを総合すると、イスラエルが地域の覇権国となるには程遠い。指導者たちがその地位を望んでいることは疑いない—当然だろう—。しかしそれは永遠に手の届かないものとなる。つまりイスラエル国家の長期的な安全保障は、結局のところパレスティナを含む近隣諸国との永続的な政治的解決の達成にかかっている。これは、永続的な安全保障が最終的に依存するのは力だけではなく政治であるという、また1つの教訓なのである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialX:アカウント@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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