古村治彦です。
民主政治体制の根幹については様々な見解があるだろうが、やはり選挙がその根幹をなす。選挙制度についてはここで詳しく述べることはしないが、選挙の結果である人物や政党、組織に権力を託すことになる。日本の場合には国会が国権の最高機関であり、その国会が行政の長である内閣総理大臣を指名する。国会、衆議院の過半数の議席を握る政党、会派の長や代表、指名すると決められた人物が総理大臣(首相)に指名されるのが通例となっている。
以下は民主政治体制に関して、短いが非常に興味深い記事である。イギリスのキア・スターマー首相の人気低迷と日本の高市早苗首相の人気上昇を比較している。しかし、高市首相や日本の有権者を称揚する内容ではない。「有能さ」や「冷静さを保ち少しずつ前進する」といった価値よりも、「かっこいい」「かわいい」といった感情的な価値に重きが置かれている。著者のザカリアは「復興(回復)」という言葉と「反乱」という言葉を対比させている。
日本の高市首相人気は、芸能人や有名人、インフルエンサーを応援する「推し活」に擬せられることが多い。「推し活」とは、自分が好きな対象にできる範囲でお金を使うことで自分の生活を充実させるというものだそうだ。高市首相の勇ましい発言や前任の石破茂前首相とは異なる軽くて中身がない言葉遣いが受けている。難しい政策の話やなかなか政策が進まない現実を有権者は嫌い、高市首相の「目新しさ」や「威勢のよさ」に好感を持ち、アイドルのように応援する。そこには政治家としての技量や器量、経験などは全く加味されない。これが現在の先進西側民主政体国家の日本の現実である。
有権者たちは不満のはけ口をそのような目立つ政治家たちに求める。このような政治家たちは実際には能力も技術もないので何もできないどころか失敗する。しかし、失敗しても良いのだ。それは、失敗して国家や社会を破壊することを有権者が求めているからだ。堅実に仕事をすることを求めていないのだ。
これは現在の西側先進諸国に共通する病理であると私は考える。それは、世界構造の大きな転換を前にした人々の不安感を示したものであるとも考えている。こうして、時代は移り変わっていく。
(貼り付けはじめ)
高市の勝利とスターマーの失速が世界の民主政治体制について語る(What
Takaichi’s Triumph and Starmer’s Slump Say About Global Democracy)
-イギリスから日本まで「冷静さを保ち前進を続ける」というスローガンは忘れ去られつつある。
ファリード・ザカリア筆
2026年2月13日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/02/13/japan-britain-elections-keir-starmer-sanae-takaichi/
2つの衝撃的な政治的事実は今日の世界のムードについて何を物語っているのだろうか?
日本では、高市早苗首相が、長きにわたり政権を握ってきた自民党史上最大の衆議院での圧倒的過半数の議席を獲得したばかりだ。イギリスでは、1年半前に首相に就任したキア・スターマーの支持率は、イギリス首相として史上最低を記録している。
表面的に見れば、これらの出来事は無関係に見える。一方のリーダーは地滑り的勝利を収め(ride
a landslide)、もう一方のリーダーは苦戦(stay afloat)を強いられている。しかし、これらを総合的に見ると、現在の政治情勢についてより深い何かが浮かび上がってくる。有権者たちは、復興(回復)よりも反乱を好んでいるのだ(Voters prefer rebellion to restoration.)。
まずイギリスについて考えてみよう。ボリス・ジョンソン、リズ・トラス、リシ・スナクの波乱に満ちた首相時代―ブレグジットの余波、倫理スキャンダル、財政危機、そして政権交代が目立った時代――の後、スターマーは異なるものを提示した。労働党党首である彼は、「冷静さを保ち、前進を続ける」候補者(the “keep calm and carry on” candidate)であり、真剣さ(seriousness)、安定性(stability)、そして有能さ(competence)を約束した。スターマーは制度を再構築し、有能な大臣を任命し、イギリスの対外的地位を回復させるだろう。アメリカの不安定な政治を、静かなる毅然とした態度で対処するだろう。ドラマチックな演出も、イデオロギー的な煽動もせず、ただ大人としての監督のみを行うだろう。
そして、従来の尺度から判断すると、彼は期待に応えた。市場は安定し、内閣(cabinet
government)が復活した。政策は冷静かつ漸進的だった。しかし、イギリス国民の感情はそれに追いつかなかった。不満は消えなかった。数カ月のうちに、スターマーの純支持率は極めて低い水準にまで落ち込んだ。
熟練した有能さへの期待も、労働党の重要人物の一人、長年究極のインサイダーと目されていたピーター・マンデルソンが、ジェフリー・エプスタインとの過去の関係をめぐって新たな批判に直面したことで、打撃を受けた。多くの有権者にとって、この出来事は、政権復帰は既に拒絶していた、かつての繋がりを保っていたエリート層の復活を意味するのではないかという疑念を強めるものとなった。『ポリティコ』誌の世論調査によると、現在、有権者の大多数がスターマーは辞任すべきだと回答し、留任すべきだと回答したのはわずか34%だった。
イギリスにとってより大きな問題は構造的なものだ。移民問題は、西側諸国におけるポピュリズムの推進力となってきた。イギリスは2023年3月までの1年間で、約95万人の純移民を記録した。これは、国境の「管理権を取り戻す(take back control)」という目的もあってEU離脱に投票した国としては驚異的な数字だ。多くの有権者の目には、コスモポリタンのエリート層がこの問題への対応を誤ったように映った。この裏切り感は今も薄れていない。
加えて、ヨーロッパは長きにわたり緊縮財政に耽溺してきた。2008年の金融危機後、イギリスは他の多くのヨーロッパ諸国と同様に財政緊縮政策を採用した。歳出は圧縮され、公共投資は削減され、実質賃金は10年近く停滞した。一人当たりGDPは、不況期にはるかに大規模な景気刺激策を選択したアメリカを大きく下回った。その結果、じわじわと悪化する不況が続き、政治家への信頼は揺らいだ。
続いて、日本について見てみよう。高市首相は冷静に運営するのではなく、対立(confrontation)を前面に出して政権を運営した。高市首相は移民問題について、激しい口調で語った。日本の外国生まれの人口は3%程度で、イギリスのほんの一部に過ぎないにもかかわらずだ。彼女は文化の浸食と社会的な緊張(cultural erosion and social strain)を警告した。中国に対してはより強硬な姿勢を示した。数十年にわたる慎重な漸進主義(cautious incrementalism)に終止符を打ち、経済政策に変革をもたらすと約束した。
有権者たちは高市首相に、自民党史上最大の衆議院の過半数の議席という報酬を与えた。
その魅力の一部は象徴的なものだ。世界基準で見て、日本は依然として家父長制社会(a
patriarchal society)である。女性が政権を握ること自体が、一つの断絶を意味する。たとえ党の基盤が健全であっても、そのイメージは変化を示唆する。目新しさを求める時代に、象徴性は力を持つ。
イギリスと日本の間には明確な違いがある。日本は、西側諸国の政治を不安定にさせたほどの大規模な移民流入を経験したことはない。また、ヨーロッパ式の緊縮財政も受け入れなかった。確かにここ数十年、経済停滞に苦しみ不安を招いたが、その原因と結果は、西側諸国の怒りを煽った緊縮財政に起因する停滞とは異なっていた。日本が継続してきた景気刺激策は、緊縮財政が生み出した怒りから日本を守ってきた。
こうした構造的な対比は重要である。しかし、今日では、それらの対比よりもむしろ、日本の雰囲気の方が重要かもしれない。
先進民主政治体制国家全体で、現職議員は2024年という世界選挙の節目に、異例の高率で苦戦を強いられた。有権者は落ち着きがなく、政策の詳細よりも感情的な承認を求めている。復興(回復)は理性に訴え、反乱は直感に訴える(Restoration speaks to the head; rebellion speaks to the gut)。現在は、直感が勝っている。
日本の首相は雰囲気を変えた。長年与党が優勢を占めてきたにもかかわらず、高市首相は行動力、破壊力、そして反抗心(motion, disruption and defiance)を体現している。一方、スターマーは安定と修復(steadiness and repair)を体現している。平穏な時代であれば、この対照的な姿勢はイギリスのアプローチに有利に働くかもしれない。しかし、今はそうではない。
政治には周期がある。破壊への欲求は、その代償が明らかになれば薄れるかもしれない。しかし今のところ、イギリスと日本という全く異なる国々において、そのムードは紛れもなく存在している。不安の時代(an age of anxiety)にあって、有権者は回復よりも反乱を好むのである。民主党は中間選挙を控えているが、このことを心に留めておくべきだ。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」司会者。数多くの著作があり、最新作に『様々な革命の時代(Age of
Revolutions)』がある。毎週『ワシントン・ポスト』にコラムを執筆し、『フォーリン・ポリシー』誌に転載される。Xアカウント:@FareedZakaria
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(終わり)

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