古村治彦です。
第二次ドナルド・トランプ政権の外交政策はマルコ・ルビオ国務長官が牛耳っている。アメリカの外交政策立案実施の特徴は、国務省とホワイトハウスに二本立てである点だ。が育成策に関して、国務長官(Secretary of State)と国家安全保障問題担当大統領補佐官(National
Security Advisor)が責任者として存在する。2025年5月、国家安全保障問題担当大統領補佐官だったマイケル・ウォルツが更迭されて(2025年5月)、国連大使に転身してからは、ルビオがこの2つの職位を兼務している。ルビオには大きな権限が集まることになった。そして、トランプ政権は介入主義的な色合いを強めた。昨年のイランの核開発関連施設攻撃(2025年6月)もその一環だ。それが今回のイラン攻撃にまで続いている。
ドンロー主義はモンロー主義の変化形である。これはアメリカは西半球まで後退するということであり、世界(全半球)帝国ではなく、西半球帝国になるという宣言である。それだと困ってしまうのはヨーロッパとイスラエルである。これらの国々は置き去りにされてしまう。ユーラシア大陸から西半球に引っ越しをする訳にもいかない。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ドナルド・トランプ大統領を洗脳に近い形で説得して、イラン攻撃を行わせた。ネタニヤフは自身のスキャンダルを免れ、国民の不満を外に逸らし、中東地域を不安定化させることで相対的にイスラエルの立場を強化し、そして、アメリカを中東から撤退させないために、イラン攻撃を実施した。彼の賭けは成功した。アメリカは中東から撤退することが出来なくなった。
トランプ革命、ポピュリズム革命は失敗した。ワシントンの変革(ワシントンの洗濯)のために人々がワシントンに送り込んだトランプはワシントン政治の論理にからめとられてしまった。既存の政治、エスタブリッシュメントの頑強さを思う時、嘆息しか出ない。しかし、それでも人々はまた立ち上がることだろう。
(貼り付けはじめ)
「ドンロー主義」は意味をなさない(The ‘Donroe Doctrine’
Makes No Sense)
-寛大に解釈したとしても矛盾が数多く存在する。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2026年1月8日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/01/08/donroe-doctrine-trump-venezuela-empire/
ドナルド・トランプ政権のヴェネズエラ政策(ニコラス・マドゥロ大統領の最近の拘束事件を含む)の戦略的正当性について、もしあなたが困惑しているなら、私はそれを非難することはできない。なぜなら、これまでに提示された論拠のほぼ全ては検討に値するものではないからだ。
第一に、これはアメリカを「麻薬テロ(narcoterrorism)」から守ることではない。ヴェネズエラはアメリカに流入する違法薬物(ましてやフェンタニル)の主要な供給源ではなかっただけでなく、ドナルド・トランプ米大統領が、麻薬密売で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領ファン・オルランド・エルナンデスに完全恩赦を与えるという決定を最近行ったが、このことはトランプがこの問題をどれほど真剣に考えているかを示している。さらに、米司法省は、トランプ政権が昨年繰り返し騒ぎ立てた危険な麻薬カルテル「カルテル・デ・ロス・ソレス(Cartel de los Soles)」が実際には存在しなかったことを認めた。言い換えれば、それは全くの虚構の政権プロパガンダであり、繰り返し警告されながら発見されなかったイラクの大量破壊兵器と同じくらい現実味を帯びていた。
マドゥロ政権の掌握もまた、アメリカの安全保障を強化するためではなかった。ヴェネズエラは非常に脆弱な国であり、マドゥロが容易に捕らえられたことからもそれが分かる。そして、ヴェネズエラはアメリカの強力なライヴァル国にとって、緊密な戦略的同盟国ではない。中国はヴェネズエラに軍事基地を建設しておらず、イランはアメリカを攻撃するためのミサイルをヴェネズエラに運び入れていなかった。ヴェネズエラには、アメリカの貿易ルートを阻害できるほどの強力な海軍力もなかった。カラカスがもたらす、アメリカが直面する深刻な脅威について、夜も眠れずに心配していた人間は誰もいなかったし、マドゥロ政権がブルックリンで投獄された今、私たちは誰一人として安眠できていない。
トランプ大統領は既に野党指導者マリア・コリーナ・マチャドの政権掌握を断念し、依然として紛れもなく独裁主義的な政権を率いるマドゥロ政権の副大統領と交渉する意向を示していることからも、民主政治体制の促進(promoting democracy)が目的だったのではないことが分かる。
危険な麻薬の撲滅でも、深刻な安全保障上の脅威への対処でも、民主政体回復への願望でもないのであれば、それは石油に違いない、そうではないか?
トランプ大統領は、これが真の理由であり、アメリカ企業が石油を奪い取ってアメリカを偉大な国にするだろうと繰り返し主張している。これもまた間違いだ。トランプ大統領は好きなように信じればいい(そしてよく信じている)が、近いうちにあmエリカにとって大規模な石油ブームが待ち受けている訳ではない。火曜日、トランプ大統領はヴェネズエラが最大5000万バレルの石油をアメリカに引き渡すことに同意したと自慢したが、これはアメリカの原油生産量の4日分にも満たない量であることを考えると、このことを知らなければ、一見素晴らしい話に聞こえる。トランプは、売却益を管理し、ヴェネズエラ経済の支援に充てると述べた。もしそう信じるなら、トランプの略奪的本能(predatory instincts)に耳を傾けていないと言えるだろう。たとえその石油収入が最終的に得られたとしても、ヴェネズエラ経済の再建に必要な資金のほんの一部になるに過ぎない。
そうだ、ヴェネズエラは世界最大の確認埋蔵量を誇っているが、その重質原油は採掘が難しく、精製コストも高い。率直に言って、良識ある生産者なら開発を試みようとしないであろう、ヴェネズエラの石油開発に最後と言えるだろう。ヴェネズエラの老朽化したインフラの危機的状況と、昨今の原油価格の低迷を考えると、なおさらだ。そして、もし奇跡的に大量の原油が世界市場に流入すれば、価格はさらに下落し、アメリカのシェール掘削業者の多くは廃業に追い込まれるだろう。
そして、トランプや大手石油会社が何を考えているかに関わらず、世界は徐々に炭化水素から離脱し、他のエネルギー源へと目を向けつつあり、ヴェネズエラの埋蔵量の価値をさらに低下させていることを忘れてはならない。実際、気候変動の現実を考えると、最も賢明なのは、石油をできるだけ地中に残しておくことだ。つまり、中国が未来のグリーン産業を支配し、その結果、影響力を拡大することにレーザー光線のように集中している一方で、トランプと彼を取り巻く戦略の天才たちは、地球を脅かす、まるで前世紀的なエネルギー政策に邁進しているのだ。
従って、この作戦の戦略的根拠についてあなたが混乱するのも無理はない。私がここで見出す唯一の「戦略的」目的(“strategic” objective)は、西半球(the Western
Hemisphere)におけるアメリカの覇権(hegemony)を再確立するという大まかな考えだ。トランプはあらゆるものに自分の名前を冠することで自らのテリトリーを示すことを好むため、この考えは現在「ドンロー・ドクトリン(Donroe Doctrine)」として宣伝されており、最近出された「国家安全保障戦略(National
Security Strategy、NSS)」にも明確に示唆されている。これは外交政策のリアリストなら支持できる合理的な考えのように聞こえるかもしれないが、綿密な検証にも耐えられない。
モンロー・ドクトリンの本来の目的は、アメリカが西半球におけるライヴァル大国の軍事介入を心配しなくて済むようにすることだった。ジェイムズ・モンロー大統領の構想が実現するまでにはほぼ1世紀が必要であったが、最終的にアメリカは他の全ての大国を西半球から追い出し、歴史家C・ヴァン・ウッドワードが「自由な(無料の)安全保障(free security)」と呼んだものの恩恵を享受することに成功した。
しかし、トランプらが言っているのはそういうことではない。なぜなら、現在、西半球で重要な軍事的役割を果たしている大国はおらず、また、そのような役割を担おうとしている大国も存在しないからだ。「国家安全保障戦略」が明らかにしたように、トランプ政権は、発生する可能性のあるあらゆる問題において、可能な限り多くの近隣諸国に、自らの指示に従わせようとしている。彼らは現在、マドゥロ大統領の後継者たちにこう言い放っている。「私たちの要求に応じなければ、封鎖を続け、もしかしたらもっとひどいことをするかもしれない」。そして、トランプ大統領と周辺の人々は地域の他の国々がこのメッセージを理解し、従順に行動してくれることを期待しているのだ。
特に、トランプ政権は近隣諸国の経済政策を統制する権利、そして中国などの国々にとって経済的に有益となる可能性のある政策に対して拒否権を行使する権利を主張している。「国家安全保障戦略」の中で書かれているように、「私たちは敵対的な外国の侵入や重要資産の所有から自由な半球を望む」とし、外部勢力が「戦略的に重要な資産を所有または支配」してはならず、アメリカは「非米州圏の競争相手が地域での影響力を拡大することを困難にしなければならない」と付け加えている。トランプ政権は、ラテンアメリカ諸国の一部が「低コストと規制障壁の低さ(low costs and fewer regulatory hurdles)」に「惹かれて他国と取引を行う(attracted to doing business)」傾向にあることを理解しているため、「各国にそのような支援を拒否させる(induce countries to reject such assistance)」と主張している。しかしトランプ政権は、一般的に対外援助に反対し、あらゆる二国間関係において利益の大部分を独占しようとする略奪的な政権であるため、欲しいものを手に入れるのに、寛大さ(generosity)ではなく脅し(threats)に頼らざるを得ない。
しかしながら、問題は、アメリカがこのように近隣諸国の経済に干渉し続けるならば、その地域の経済状況に対する責任を負わねばならなくなる点だ。アメリカ製品より安価な中国製品(電気自動車など一部では大幅に優れた製品)をラテンアメリカ諸国が購入しないようにと命じれば、現地の消費者は不満を抱くだろう。さらに、インフラ整備や新たな機会創出につながる中国やその他の外国投資を拒否するようこれらの政府に指示すれば、ワシントンは自らそれを提供せざるを得なくなる。さもなければ、ラテンアメリカの人々を貧困に陥らせていると非難されるだろう。これに、トランプ政権が自国の問題をラテンアメリカ地域からの移民・難民のせいにする傾向や、可能な限り多くを国外退去させるという強硬な姿勢を加えれば、安定した覇権ではなく、反米感情の高まりと地域の不安定化を招く処方箋となる。
より成功したアメリカの政策との対比は明らかである。例えば第二次世界大戦後、アメリカはヨーロッパやアジア(かつての敵国であるドイツや日本を含む)で極めて成功したパートナーシップを築いた。その背景には、これらの国々がソ連からの共通の脅威を認識していたこと、そしてアメリカが新たなパートナーが第二次世界大戦から可能な限り迅速に復興できるよう、善意をもって行動したことがある。しかし、トランプは「善意のある(benevolent)」という言葉の意味を知らない。彼の人生観は「自分のものは自分のもの、あなたのものは交渉可能(what’s mine is mine and what’s yours is negotiable)」である。
銃の威力で西半球を支配しようとしても、それは過去と同様に、将来も決してうまくいくことはないだろう。トランプ大統領の補佐官であるスティーヴン・ミラーは、「歴史の鉄則(iron laws of history)」の1つは、世界は力によって支配されているということだと考えている。しかし、彼が言及しなかった「鉄則」は、力だけが重要だと考える指導者は、必然的に多くの愚かなことをしてしまうというものである。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアヵウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



コメント