古村治彦です。

 2026年2月28日に始まったイスラエル・アメリカによるイラン攻撃とイランによるペルシア湾岸諸国にあるアメリカ軍基地を中心とする報復攻撃は既に10日ほどが経過している。アメリカのドナルド・トランプ大統領は攻撃の成果を強調しているが、長期化の見通しが出ており、世界全体に影響が出つつある。イラン革命防衛田によるホルムズ海峡封鎖によって石油価格は高騰し、株価は下落している。「有事のドル買い」によって、円安も進行している。石油価格の上昇と円安によって、日本経済に深刻な影響が出ることが予想される。このような状況が長引くほどに、その影響も尾を引くことになる。

 以下の論稿は1年前の、2025年6月の論稿である。この時期にもイスラエルとアメリカによるイランの核開発関連施設に対する約2週間にわたる攻撃が実施された。今回、2026年2月の大規模攻撃に比べて限定的な規模にとどまったが、この2つの攻撃は一連の出来事として捉えるべきだろう。それは、以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿を読むと明らかだが、戦争の構造は同じだからである。

 以下の論稿では、ウォルトの厳しい批判の矛先はトランプに向かう。トランプの「注目を浴びたい、人々からの称賛を浴びたい」という肥大化した自己顕示欲が戦争に向かわせたとウォルトは主張している。ここで、私が僭越ではあるが付け加えるならば、このようなトランプの肥大化した自己顕示欲をイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に利用されたということになるだろう。イスラエル、そしてネタニヤフの狙いは、イランの弱体化である。アメリカはイランが核兵器を持っていないという判断をしていたが、これでは緊急的な脅威ということにはならない。しかし、トランプの自己顕示欲を利用して、ネタニヤフはイラン攻撃を行わせることに成功した。しかし、昨年の場合には、今回の大規模攻撃に比べて、限定的な攻撃にとどまった。今回、トランプが大規模攻撃を決断するにあたっては、マルコ・ルビオ国務長官の影響も大きかったと言われている。そして、ネタニヤフは昨年、2025年を通じて、ルビオとの関係構築を実行してきた。ネタニヤフのこうした根回りは政治家としては非常に重要な能力である。それが今回の大規模攻撃につながった。

 しかし、アメリカとイスラエルの攻撃は世界に深刻なマイナスの影響を与えている。長期化していけばより深刻な状況になり、アメリカとイスラエルに対する反感は募るということになり、それは両国の国益を損なうということにつながる。こうして世界の構造は大きく変化していく。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプのエゴのための戦争(The War for Trump’s Ego

-イスラエルとアメリカによるイラン攻撃は見た目以上に意味を持たなかった。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年6月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/26/trump-iran-war-attack-ego/

まず、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とアメリカのドナルド・トランプ大統領によるイランとの戦争(それは戦争であった)が何を目的としていたのかを明確にしておこう。アメリカをより安全に、より豊かに、あるいは世界中でより尊敬され、賞賛される国にするためではなかった。トランプがトゥルーソーシャルで何を主張しようと、彼の忠実な支持者たちが何を言おうと、中東地域をより安定させること、あるいはイスラエルを長期的に守ることさえ目的ではなかった。

そもそも、イランは核兵器を取得する直前の段階にはなかった。これは、ホワイトハウスが彼女に屈服させ、発言を撤回させる前に、国家情報長官トゥルシー・ギャバードが連邦議会で述べた通りだ。そして、たとえテヘランがいつか核兵器を手に入れたとしても、その指導者たちがアメリカやイスラエルに対してそれを使用できない。それは、国家の自滅行為(committing national suicide)となるからだ。イスラエルは数十発の核爆弾を保有し、アメリカは数千発の核爆弾を保有している。イランの指導者たちはこのことをよく知っている。

さらに、ケネス・ウォルツが最後の論文で主張したように、イランが独自の抑止力を持つことができれば、中東はより安定する可能性がある。安全保障は強化され(つまり代理勢力に頼る必要性が減少し)、イスラエルが望む時に望む者を攻撃する能力は抑制されるだろう。もし気づいていないなら、レバノン、シリア、イエメンへの空爆に加え、2年近くガザ地区を容赦なく爆撃し、ガザ地区とヨルダン川西岸でゆっくりとした民族浄化(ethnic cleansing)を行っているのはイランではない。これらの活動を終わらせることは、地域全体の安定化に大きく貢献するだろう。ウォルツの主張には疑問に思うところもあるが、少なくともイランの爆弾は世界を一変させる大惨事(a world-altering catastrophe)となるので、いかなる犠牲を払ってでも阻止しなければならないという主張と同じくらいの説得力を持っている。

いずれにせよ、もしこの戦争の目的がイランによる核兵器取得の阻止だったとしたら、逆の効果をもたらす可能性が高い。トランプ大統領とその代弁者たち(mouthpieces)は、アメリカの攻撃は完全に成功し、イランの核インフラを破壊したと主張し続けているが、初期の被害評価では、これらのバンカーバスターの投下はイランの努力を数カ月遅らせたに過ぎないと結論付けられている。フォードウ施設内の主要構造物は無傷だっただけでなく、イランは最も濃縮度の高いウランの一部または全部を分散・隠蔽したと見られており、さらに濃縮する能力を保持している。また、これらの攻撃は、長年アメリカとの交渉に反対し、自国で核兵器を取得することを主張してきたイランの強硬派の支持を強めたようにも見え、トランプ大統領は彼らの主張に一層の説得力を与えた。もし将来イランが核兵器を取得した場合、その責任の大部分はトランプ大統領とネタニヤフ首相に帰せられるだろう。

もしこれがイランによる自国での核兵器製造を阻止するための綿密に練られた努力でなかったとしたら、一体何のためだったのだろうか? イスラエルが戦争を始めた以上、まずイスラエルの指導者たち、特にネタニヤフ首相が何を得ようとしていたのかを考えなければならない。明白な目的の1つは、イスラエルがガザ地区、そして程度は低いもののヨルダン川西岸地区で日々犯している戦争犯罪と破壊行為から世界の目を逸らすことだった。もう1つの目的は、アメリカとイランの交渉を妨害することだった。イスラエルはアメリカがイランの核インフラの一部を保持することを容認するのではないかと懸念しており、ネタニヤフ首相はイランとアメリカを対立させ続けたいと考えていた。ワシントンとテヘランの真の和解を阻止することが、ネタニヤフ首相が包括的共同行動計画(JCPOA)に反対した理由の1つである。バラク・オバマ政権は、JCPOAがアメリカとイランの緊張緩和への第一歩となることを期待していた。最後に、イスラエルはイラン高官を組織的に殺害することで、イランの体制転換につながり、イスラエルの地域的優位が確立されることを期待していた。前回のコラムで述べたように、この目標は単なる空想に過ぎないと思うが、だからといって、ますます強硬路線を強めるイスラエル政府(Israel’s increasingly hard-line government)にとって魅力的な空想ではなかった訳ではない。この地域の緊張状態を維持することは、ネタニヤフ首相を権力の座に留め(そして投獄から守ることにも)役立つ。

しかし、これらの点だけでは、トランプがなぜこの合意に同意することにしたのか、あるいはなぜ戦争は大成功だったという主張を改めて強調しているのかを説明することはできない。そこには、いくつかの明白な要因が作用していた。

第一に、この戦争は、少なくともアメリカの中東政策に関しては、ネオコンがまだ死んでいないこと、そしてイスラエル・ロビーが依然としてこの分野で大きな影響力を持っていることを改めて認識させるものだ。親イスラエルのアメリカ系ユダヤ人と福音派キリスト教シオニスト(evangelical Christian Zionists)の両方を含むこのロビーは、アメリカとイスラエルの間に特別な関係を維持したいと考えている。実際には、彼らはアメリカがイスラエルの行動に関わらずイスラエルを支持し、アメリカの力を利用してイスラエルの安全保障を強化することを望んでいる。2018年にトランプにJCPOA(包括的共同行動計画)を放棄させるにあたり、このロビーが重要な役割を果たしたことを思い出す価値がある。この戦略的失策は、イランの遠心分離機の増強と濃縮ウラン備蓄の増加を許した。先週末、AIPACや民主政治体制防衛財団(the Foundation for Defense of Democracies)といった組織団体、ミリアム・アデルソンのような裕福な政治献金者、そしてマルコ・ルビオ国務長官やマイク・ハッカビー駐イスラエル大使といった政治家たちは、ついに長年の希望であるイラン攻撃を実現させた。トランプ大統領が裕福なアラブ諸国の指導者たち(彼らは近年イランとの関係を冷やそうとしてきた)や、新たな中東戦争に反対するリアリストたちの声に耳を傾けてくれることを期待していたアメリカ国民は、またしても失望させられた。トランプ大統領は依然としてアメリカ軍地上部隊の投入には消極的で、イスラエルが「一体何を(what the fuck)」をしているのか分かっていないと批判するほどだったが、イスラエルから参戦を求められた際に、自らが戦争に踏み切った。「変化すればするほど、それは同じものである(Plus ça change, plus c’est la même chose)(The more things change, the more they stay the same)」。

しかしながら、イスラエル・ロビーはアメリカの政策を支配しておらず、戦争の最終決定権は依然としてトランプに委ねられていた。ここで鍵となったのは、トランプが持つ、注目の的でありたいという飽くなき欲求だった。彼は世界中が自分の一挙手一投足に注目し、議論し、そして理想的には称賛することを望んでいる。真の外交政策の成果、つまりアメリカをより安全で、より豊かに、より影響力のある国にする具体的な成果には、それほど関心がない。なぜなら、外交政策における大きな飛躍には、真摯な努力が必要だからだ。トランプはむしろ、自分と仲間が私腹を肥やしている間、偉業を成し遂げているように見せかけたいだけなのだ。イスラエルとの最新の戦争に加わったことで、彼は再び見出しのトップに躍り出た。そして、他国を爆撃することは、多くのアメリカ人(そして一部の洗練された観察者でさえ)が「大統領らしい(presidential)」と考える行為の1つだ。これはリアリティ番組のような政権であり、トランプはかつて人気番組「アプレンティス」で成功した実業家を演じたのと同じように、大統領を演じている。

トランプが結果(results)よりも体裁(appearances)を重視する傾向は、今に始まったことではない。トランプは最初の任期を北朝鮮の金正恩委員長とのオンライン上での激しい舌戦でスタートさせ、その後、突然、書簡を交換し「恋に落ちた(fallen in love)」と発表し、直接会談することになった。結果として行われた首脳会談は、トランプが好むようなメディアの熱狂的な反応を巻き起こしたが、準備不足の交渉は成果を上げず、北朝鮮の核兵器備蓄はそれ以来着実に増加し続けている。

この問題は他の多くの問題にも顕著に表れている。貿易政策を見てみよう。トランプが関税を脅迫、課す、延期、修正、停止、あるいは復活させるたびに、メディアは大騒ぎする。しかし、彼が交渉を約束した数々の「素晴らしい(beautiful)」貿易協定は、一度も実現していない。トランプはウクライナ戦争を「24時間以内に(in 24 hours)」終わらせると宣言し、大統領執務室でウォロディミール・ゼレンスキー大統領を叱責する(あの痛ましく気まずい会談は「素晴らしいテレビ中継だった(great television)」と発言した)が、戦争終結が予想以上に困難であることが判明すると、関心を失ってしまう。彼はメキシコ湾を「アメリカ湾」と改称したことは意義深い成果だと考えている。最近、「国防長官」ではなく「戦争長官」という肩書きに戻すことについても考えていた。トランプにとって重要なのは、肩書きと世間の印象であり、高官の能力や彼らが監督する政策の有効性ではない。目に見える成果を上げることではない。目標は、トランプとその行動に皆の注目を向け続けることだ。

現時点でこの傾向に誰も驚かないはずだ。なぜならトランプのキャリアは、何百万人もの人々に自分がそうでない何かであると信じ込ませる驚異的な能力の上に成り立っていたからだ。彼は平凡なビジネスマンだったが、新しいカモに金を貸すよう巧みに説得し、テレビで成功した大物実業家を演じることに長けていた。彼の再選は、何百万人もの人々を騙して、自分は国を偉大にする先見の明のある人物だと信じ込ませる彼の能力を改めて証明した。その一方で、彼の政権は、一般のアメリカ人が頼りにし、アメリカの力と影響力の基盤となっている多くの制度を解体している。現代アメリカの政治は、トランプのような人物のために作られている。彼の高尚な野心と真実を軽視する姿勢は、事実や実績よりもイメージ、クリック数、視聴者数が重視される世界にぴったり合っているのだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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