古村治彦です。
第二次ドナルド・トランプ政権は政権発足後、第一次政権時代に比べて、軍事攻撃の数や度合いを高めている。アメリカ・ファースト、アメリカが「世界の警察官」であることを止めるというのが旗印であったが、現在は「世界の暴れ者」となっている。第一次政権では、北朝鮮の最高指導者である金正恩委員長と服す会の会談を行い、板門店(パンムンジョム)で軍事境界線を行き来するということまでやって見せた。
以下の論稿にある「ポチョムキン平和(Potemkin peace)」について説明する。帝政ロシア時代に、皇帝が行幸する際に、現実の極貧の生活を隠すために、見せかけの豊かな村落を短期間に作ったことを、「ポチョムキン村」と呼んだことから、見せかけの和平を行うことを「ポチョムキン平和」という言葉で表現している。アメリカのメディアでは、トランプ外交について、「実質的な問題解決を伴わない、表面的な和平が達成されるだけだ」という批判がなされ、「ポチョムキン平和」「ポチョムキン合意(Potemkin agreements)」という言葉が使われている。
イスラエルとハマスの停戦合意(2025年10月)は人質の解放などの一定の成果があったが、有名無実化している。イスラエル側がガザ地区の人道的な状況の悪化を進め、アメリカもそれを容認している。トランプ大統領が一方的にイスラエルに肩入れし、無条件で支持している。ガザ地区の状況を悪化させ、パレスティナ人たちを追放するなどして、ガザ地区の「再開発」を進めることで、多額の利益を得ようという動きになっており、トランプと家族や友人たちの利益のためにそのようなことが実行されようとしている。
このようなことでは、アメリカは外交交渉の相手や仲介者としては信頼を得られない。アメリカは核開発に関連して、イランと交渉を実施しながら、先生軍事攻撃を行った。これでは、アメリカの交渉は軍事的な野心を隠すための隠れ蓑でしかないということになる。これはアメリカにとって非常にまずいことになる。アメリカの信頼が低下することで、交渉の価値も下がり、世界は混乱と無秩序に溢れることになる。このようにして、世界の構造は大きく変化していく。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプ大統領の虚偽の和平合意は危険だ(Trump’s Fake Peace
Deals Are Dangerous)
-ポチョムキン的平和(Potemkin peace)はそれ自体が脅威となり得る。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2025年12月22日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2025/12/22/trump-peace-deals-ceasefire-gaza-ukraine-congo-fake/
ホリデーシーズンは、読者の皆さんに平和の重要性と、平和をより広く永続的なものにするために私たちが取るべきステップについて改めて考えさせる絶好の機会である。私は以前から、近年のアメリカの指導者たちが平和について語る機会が、本来あるべきよりも少なくなっている(前任者よりも少ない)ことに気づいていた。アメリカがより平和な世界への幅広い関心を持っていることを考えると、これは驚くべきことだ。
この点において、ドナルド・トランプ米大統領はある種の例外と言えるだろう。彼は平和について多く語るが、それは主に、自分がノーベル平和賞に値すると主張するためだ(最近、FIFA会長ジャンニ・インファンティーノから授与されたあの奇妙な賞に加えて)。彼は少なくとも8つの戦争を終結させたと主張しているが、残念ながら、この主張は「トランプ大学」が教育を受けるのに良い場所だったという考えと同じくらい正確ではない。紛争の真の終結ではなく、トランプの得意技はポチョムキン平和案、つまり大々的に宣言されてすぐに崩壊する象徴的な「合意」だ(Instead of a genuine end to conflict, Trump’s specialty is a Potemkin peace plan—a symbolic “agreement” proclaimed
with great fanfare that soon collapses)。
例えばガザ地区では、トランプ大統領が「これは戦争の終結だけでなく、恐怖と死の時代の終焉でもある」と称賛した20項目の和平計画は、イスラエルとハマスの間の暴力を終わらせていない。それどころか、イスラエルによるヨルダン川西岸のゆっくりとした征服と、そこに住むパレスティナ人への残虐な扱いを助長している。2025年10月に停戦が成立して以来、400人近くのパレスティナ人(と少数のイスラエル兵)が殺害され、救援物資は依然として限られていて不十分であり、停戦のその後の段階を監視するはずだった平和維持部隊はまだ設立されていない。そして、計画にある「将来のパレスティナ国家への道筋(pathway toward a future Palestinian state)」という意図的に曖昧な表現が本物であり、何かにつながる可能性があると本気で信じている人がいるだろうか?
計画は真の平和への一歩ではなかった。それは「大イスラエル(greater Israel)」を創り出し、最終的にはパレスティナ人を意味ある政治的実体として消し去ろうとする絶え間ない努力の単なる見せかけに過ぎなかった。
同様に、カンボジアとタイの国境紛争は終結したというトランプ大統領の主張も、数々の出来事によって信憑性を失っている。両国は最近になって戦闘を再開し、タイのアヌティン・チャーンウィラクル首相はトランプ大統領との電話会談で停戦要求を拒否し、「タイは、我が国の国土と国民に対する危害や脅威がなくなるまで軍事行動を継続する」と宣言した。
コンゴ民主共和国でも同様の悲劇的な状況が見受けられる。ルワンダが支援するM23民兵組織がコンゴ軍への攻撃を再開し、領土支配を拡大している。マルコ・ルビオ米国務長官でさえ、これはトランプ大統領が仲介したとされる停戦の「明確な違反()a clear violation」であると認めた。スーダンでは、残虐な内戦を終結させようとするアメリカの努力は、何の成果も生んでいない。インドのナレンドラ・モディ首相は、インドとパキスタン間の国境紛争を一時的に鎮圧したというトランプ大統領の主張を否定した(その過程でトランプ大統領の怒りを買った)。エジプトとエチオピアは、トランプ大統領の散発的な介入にもかかわらず、ナイル川の物議を醸すダム建設計画をめぐって依然として対立している。
これらのケース全てで、トランプ大統領が平和を推進したという主張は、ほとんどが誇大宣伝(hype)に過ぎない。
ウクライナについても同様だ。大統領選挙運動中、トランプ大統領はウクライナでの戦争を「24時間以内に(in 24 hours)」終わらせると豪語したが、これは当時としては突飛な主張であり、ウクライナとロシアの両陣営に戦闘停止を説得しようと試みたトランプの不安定な努力は、未だに実を結んでいない。
そして、こうした効果のない和平努力は、他の場所で戦争の火に油を注ぐ行動を伴っていることを忘れてはならない。トランプ大統領は、イスラエルがイランを攻撃した際にイスラエルに協力した。また、アフガニスタン、ナイジェリア、ソマリア、リビア、イラク、シリア、イエメンで爆撃やミサイル攻撃を命じた。彼の政権は、カリブ海で麻薬密輸の容疑者を法廷外で殺害することを平気で行っており、これはアメリカ国内法および国際法に明確に違反している。さらに、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領率いる政権を打倒するために軍事力を使うと脅迫している。これは「平和推進者(peacemaker)」というレッテルを貼られるに値する経歴ではない。
戦争を終結させ、永続的な平和を築くことは容易ではない。通常は、一方の完全な勝利(その後、敗者が結果を覆そうとするのを思いとどまらせるような妥当な和解が成立する)か、戦闘を継続しても何も得られないという相互承認(mutual recognition)が必要になる。後者の場合、双方は望むもの全てを得られる訳ではないことを受け入れ、満足するために必要なものを十分に得ることに集中しなければならない。
しかしながら、いずれの場合でも、国境の位置、賠償の可能性、捕虜の送還、外交関係の回復、様々な安全保障、そして条件を監視し「関与問題(commitment problem)」(つまり、将来的にどちらか一方が約束を破る可能性)を軽減するためのメカニズム(中立平和維持軍の派遣など)など、多くの詳細を詰める必要がある。理想的には、和平合意は、通常長い時間を要する長期的な和解への道筋も示すものとなるだろう。公平な第三者仲介者は、これらの全ての手順を円滑に進め、合意の履行を確実にするのに役立つ。
トランプは下手な平和構築者である。それは、彼自身も彼のティームがこれらの要件を全て無視しているからだ。トランプ自身も、せっかちで細部に関心を示さないことで有名だ(notoriously impatient and uninterested in details)。1978年のキャンプ・デイヴィッド合意にエジプトとイスラエルの当局者たちを署名させるために長時間を費やしたジミー・カーター元米大統領や、1905年の日露戦争終結の合意の仲介にほぼ1カ月を費やしたセオドア・ルーズヴェルト元米大統領とは異なり、トランプには、戦闘当事者間の溝を埋めるための独創的な提案を自ら袖をまくり上げて練り上げる意欲も能力もない。また、彼の集中力は非常に短いため、敵対国は彼が他のことに移ると、ただ待つだけで戦闘に戻れることを知っている。
大統領の直接関与が絶対条件ではないのは当然だが、その場合、大統領は有能な代表者を指名し、自身に代わって役割を担わせなければならない。残念ながらトランプは、必要な専門知識を持つプロの外交官ではなく、スティーヴ・ウィトコフやジャレッド・クシュナーのような素人外交官(amateur diplomats)に依存することを好み、潜在的な合意が実行可能かどうかを判断する経験豊富な官僚を信頼していない。ここでトランプの「ディープステイト(the deep state)」に対する敵意は自業自得と言える。専門家たちの助言は極めて貴重であり、プロの外交官は政治任命者(political appointees)を凌駕する傾向があるからだ。ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジのジョナサン・モンテンが最近指摘したように、「(トランプは)自らを中核的存在と見なされたい。・・・そのため準備の質、専門性の質、外交交渉の質はいずれも極めて低い」のである。
トランプの「カウボーイ外交(cowboy diplomacy)」を擁護しようとする者でさえ、「しかし平和が空虚な合意(hollow agreements)—ホワイトハウスの芝生で振りかざされる箇条書きの書類—の上に築かれるなら、その平和は長く続かないかもしれない」と認めている。
さらに、トランプとその選任した使節たちの一部は公平さを欠いている。その結果、紛争当事者の一部は彼らを信頼しておらず、仲介者たちは、行き詰まるか、署名後すぐに破綻する一方的な解決策を推し進める可能性が高い。この問題は、ウィトコフ、クシュナー、そして駐イスラエル米大使のマイク・ハッカビーの親イスラエル的な感情を考えると、中東で最も顕著であるが、ウクライナに対するトランプの軽蔑や、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に対する賞賛にも明らかである。
トランプを称賛すべき点は、主要な軍事紛争、特に地上部隊の投入やその他の重大なリスクを伴う紛争を真に警戒しているようで、戦争は費用がかかり、収益性の高いビジネス取引の妨げになることを認識しているように見えることだ。それは良い直感であるが、主要な紛争を解決し、将来の問題の種をまかないようにするには、それ以上のものが必要だ。
もし私がこのホリデーシーズンで欲しい贈り物が何かと質問されたら、私はこう答えるだろう。平和構築(peacemaking)を単なる広報活動(public relations)や大統領の自己顕示(presidential preening)と捉えるのではなく、困難ではあるが真剣に取り組む価値のある課題として捉える姿勢が欲しい、と。以前にも書いたが、世界平和はアメリカの国益にかなう。なぜなら大規模な紛争は、アメリカの驚くほど安全で特権的な立場に永続的な損害を与えうる数少ない事象の1つだからだ。平和は道徳的にも望ましい。戦争は計り知れない人間の苦痛を伴うからだ。和平を真剣に追求しても、既存の紛争が全て終結する訳でも、新たな紛争の発生を完全に防げる訳でもないかもしれない。しかし、少なくともいくつかの紛争が終結する可能性は高まるだろう。このホリデーシーズンに、それこそが最も歓迎すべき贈り物となる。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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