古村治彦です。

 ウクライナ戦争や今回のイラン戦争が始まると、私たちはどうしても「第三次世界大戦が始まるのではないか」という不安を覚える。「世界大戦(World War)」と名付けられる大規模戦争はこれまで2回しかない。第一次世界大戦(1914~1918年)と第二次世界大戦(1939~1945年)である。第一次世界大戦では、イギリス、フランス、ロシアの三国協商(Triple- Entente)を中心とする連合国(the Allies)とドイツ、オーストリア=ハンガリー帝国、イタリアの三国同盟(Triple Alliance)を中心とする中央同盟国(the Central Powers)のヨーロッパを主戦場とする大規模戦争であった(イタリアは連合国側で参戦)。第二次世界大戦では、現在の国連安全保障理事会常任理事国であるアメリカ、イギリス、フランス、ソ連(ロシア)、中華民国(中華人民共和国)を中心とする連合国(Allied Powers)とドイツ、イタリア、日本の日独伊三国軍事同盟を中心とする枢軸国(the Axis)のヨーロッパ、北アフリカ、太平洋地域を戦場とする大規模戦争であった。

 以下の論稿で述べられているように、世界大戦となる条件としては、(1)世界の主要大国(昔の表現では列強)の全てもしくは多くが参戦していること、(2)世界規模での戦争が行われていること、(3)戦争が総力戦で行わること、(4)戦争の結果が世界の構造、主要大国間の勢力均衡に変化が出ることが挙げられる。現在のところ、ロシア・ウクライナ戦争もイラン戦争も世界大戦の条件を満たしていない。従って、世界大戦ではないということになる。そして、それは、世界の主要な大国が積極的に参戦して、事態を悪化させないようにしていることが理由である。

 現在の世界の状況で言えば、西側諸国(the West、ジ・ウエスト)と西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)の2つの大きな陣営に分かれている。この2つの勢力が敵対的な関係になっている訳ではないが、アメリカとイスラエルの野蛮な攻撃によって、西側諸国に対する西側以外の国々の反感は高まっている。しかし、積極的に戦争に参加するということはしていない。それは、安易に戦争を拡大すれば、事態はコントロール不能の状態に陥ってしまうからだ。アメリカ、イスラエル、日本(アメリカとイスラエルを無条件に全面支持)以外の国々はそのような賢慮を行っている。事態を悪化させないという多くの国々の時勢に甘えて、アメリカとイスラエルは野蛮な行動をエスカレートさせ、それを日本が支持している。

アメリカとイスラエルは自分たちがワルも担ってしまうという状況を予測していなかっただろう。幕引き、出口を探しているだろう。のんきな日本はとりあえず、アメリカとイスラエルを全面的に支持しますと言っていれば済むと考えている。おめでたい指導者を選んだおめでたい国という認識を世界中に広げることになる。しかし、実際のところは、もう日本には国際的な影響力を行使するほどの国力はなく、世界から無視されているような状況であるので、何をしても大ごとにはならないだろう。それは悲しいことではあるが、衰退国家である日本の現在の位置はそういうことであろう。

(貼り付けはじめ)

第三次世界大戦を想起させる抑えきれない衝動(The Irresistible Urge to Invoke World War III

-誇張された比較は忘れよう。中東戦争もロシアによるウクライナ侵攻も世界規模の大戦の兆候ではなかった。

ヨー・インゲ・ベッケヴォルド筆

2026年3月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/12/world-war-iii-3-middle-east-iran-nuclear-russia-ukraine-china-history-geopolitics/

「第三次世界大戦(World War III)」という言葉は軽々に話し合うべき言葉ではないが、その勃発を予言することは政治評論家たちの常套句(a staple)となっている。中東地域における現在の戦争も例外ではない。イギリス・メディアは、イラン爆撃に向かうアメリカ軍機にイギリス空軍基地の使用を許可すれば、イギリスが第三次世界大戦に巻き込まれる可能性があると議論してきた。2022年と2023年には、ジョン・ミアシャイマー、タッカー・カールソン、イーロン・マスクといった人物が、ウクライナのロシアとの戦闘を支援することは世界的な大戦を引き起こすと警告した。政治専門誌『ポリティコ』誌が最近実施した世論調査では、イギリス、カナダ、フランス、アメリカの回答者の過半数が、今後5年以内に第三次世界大戦が起こる可能性が高いと考えていることが明らかになった。

世界政治の混乱を理解するためには、様々な種類の戦争を区別することが重要である。これは単なる言葉の綾(semantics)や学術的な厳密さ(academic exactitude)の問題ではなく、冷静な政策決定を行うための前提条件(a prerequisite)であり、言うまでもなく、私たちの正気(sanity)を保つためにも不可欠である。

ロシアによるウクライナ侵攻と、アメリカとイスラエルによるイランへの戦争は、関係諸国に壊滅的な影響を与える深刻な紛争ではあるものの、いずれも地域戦争(regional wars)である。イランが近隣諸国を攻撃し、それらの国々が参戦するかどうかが不透明な状況下でも、この事実は変わらない。世界大戦(world war)は、地域戦争、限定戦争(limited wars)、あるいは様々な形態のハイブリッド戦争と非対称戦争(hybrid and asymmetric warfare.)と比べて、大国間政治(great power politics)、安定(stability)、経済成長(economic growth)、そして国際システム(the international system)に、はるかに深刻な影響を及ぼす。

確かに、中東地域における戦争の激化は、地域を超えて深刻な影響を及ぼす可能性がある。しかし、この紛争、あるいは他のいかなる紛争も、世界大戦と呼ばれるためには、以下の4つの基準を満たさなければならない。

第一に、世界大戦は国際システムにおける主要諸国全て、あるいは大多数を直接対峙させる。第二に、戦争に関連する軍事作戦は世界規模、少なくとも2つ以上の大陸で行われる。第三に、世界大戦は限定戦争ではなく総力戦(total wars)であり、主要諸国は相当量の軍事力やその他の重要な資源を動員して戦う。第四に、戦争の結果は体系的な影響、すなわち主要諸国間の勢力均衡(the balance of power between the great power)の明確な変化をもたらす。

第二次世界大戦は明らかにこれら4つの基準を満たしている。当時の全ての主要諸国が関与し、全ての有人大陸(all inhabited continents)を巻き込み、総力戦であり、そして重大な体系的影響をもたらした。この戦争はアメリカ合衆国とソヴィエト連邦を超大国の地位(superpower status)へと押し上げ、一方、かつてのヨーロッパの主要諸国は徐々にその地位と植民地を失っていった。また、この戦争は国際連合とブレトンウッズ体制の設立にもつながり、国際システムを組織する全く新しい方法が生まれた。

第一次世界大戦は本質的にはヨーロッパの戦争だったが、最終的にはオスマン帝国やアメリカ合衆国を含む当時の全ての列強(all the great powers at the time)が参戦した。この戦争は世界規模で展開され、アフリカやアジア太平洋地域にはヨーロッパの植民地を含む複数の戦線が存在した。200万人以上のアフリカ人と100万人以上のインドの植民地住民が戦闘に参加したり、何らかの形で戦争に関与したりした。連合国(the Allies)は、1914年にドイツ帝国に宣戦布告した日本も加わり、南西アフリカから中国、ニューギニア、マーシャル諸島に至るまで、ドイツの植民地を支配下に置いた。第一次世界大戦は間違いなく総力戦だった。この戦争は、ロシア帝国、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国の崩壊をはじめとする、体系的な影響を生じさせた。

歴史上、世界大戦の資格を持つ戦争の数は非常に少ない。ウィンストン・チャーチルや他の人々は、七年戦争(1756年~1763年)こそが最初の真の世界大戦だったと主張している。イギリス、フランス、プロイセンをはじめとするヨーロッパの主要諸国は主に時刻がある大陸で戦ったが、北アメリカ(フレンチ・インディアン戦争と呼ばれる)、南アジアなどでも戦争は激化した。この戦争は、イギリスの世界的な地位をさらに高めた。

一方、他のヨーロッパの大規模紛争、例えば九年戦争(1688年~1697年)、スペイン継承戦争(1701年~1714年)、フランス革命戦争(1792年~1802年)、ナポレオン戦争(1803年~1815年)なども、主要諸国の植民地領土にまで戦火が及んだことから、世界大戦に分類される。もう1つの候補は、13世紀におけるモンゴルによるユーラシア大陸の大部分の征服だ。しかし、世界大戦のリストを拡張しても、その数は限られている。

冷戦(the Cold War)は、米ソ対立の結果として複数の地域戦争や代理戦争(proxy wars)が展開され、世界規模で行われたが、米ソ両超大国が直接軍事衝突することはなかったため、「冷戦」という名称が付けられた。ワシントンのいわゆる「テロとの戦い(war on terror)」も世界規模だったが、それは大国間の紛争ではなく、極めて非対称的な戦争(a highly asymmetric war)だった。

それでは、今日の政治議論における候補はどうだろうか? ウクライナは確かにロシアとの全面戦争に突入している。その利害は、国家としてのウクライナの存亡に他ならない。さらにこの戦争は、ヨーロッパの安全保障、アメリカの戦略、国際経済に極めて大きな影響を及ぼす。北朝鮮はロシアと共に戦う兵士を派遣しており、戦争の行方は中国の準属国(quasi-vassal)を通じたヨーロッパへの影響力拡大に影響する。しかし、それだけでは世界大戦とは言えない。軍事作戦はウクライナとロシア国内でのみ行われている。現在の国際システムにおける二大勢力であるアメリカと中国の間には直接的な軍事的対立が存在しない。したがって、ロシア・ウクライナ戦争の結果は、システム全体に影響を与えることはない。

ロシア・ウクライナ戦争は依然として地域紛争であり、この点において朝鮮戦争(1950~1953年)に類似している。しかし、朝鮮戦争では、当時二大超大国の1つであったアメリカが主要な役割を担っていた。アメリカ軍が中国人民解放軍と直接戦闘を行ったにもかかわらず、朝鮮戦争は体系的な影響を及ぼさなかった。

イランと中東地域における現在の紛争もまた、アメリカの関与、エネルギー価格への劇的な影響、国際航空便の混乱、そしてイランのミサイルやドローンによって影響を受ける多数の国々といった点にもかかわらず、地域紛争である。実際、イランが近隣諸国に対してドローン攻撃をエスカレートして使用していることは、現代の危機がいかに容易に紛争地帯周辺の国々を巻き込むかを示している。

それにもかかわらず、この紛争は依然として地域的な危機である。ロシアがイランにアメリカ軍の標的に関する情報を提供しているとの報道や、ロシアがイラン製のシャヘド無人機を使ってウクライナを攻撃しているという報道があるにもかかわらず、この紛争はロシアのウクライナ侵攻とは直接関係がない。中国も、イランとの緊密な関係、中東地域からの原油輸入、中東地域における積極的な外交活動にもかかわらず、この戦争において重要な役割を担っている訳ではない。中国にとって、この紛争に介入することは国益にそぐわない。たとえ介入を望んだとしても、中国は中東地域に軍事的拠点も、戦争に参戦できるほどの戦力投射能力(the power projection capacity)も持ち合わせていない。

今日の中国とアメリカ、そして冷戦時代の米ソ対立といった二極構造の国際権力構造(bipolar international power structures)は、3つ以上の大国による多極構造(multipolar systems of three or more great powers)よりも安定しており、紛争の発生リスクが低い傾向にある。さらに、核兵器の出現は、大規模な大国間戦争のリスクをさらに低下させている。

今日、米中両超大国が関与する戦争の最も可能性の高いシナリオは、中国による台湾併合の意図に関連した米国と中国の対立である。しかし、北京とワシントンがエスカレーションのリスクをどのように管理するかによって、米中両大国間の紛争が限定戦争にとどまる可能性もある。核兵器使用の閾値(threshold)を下回る範囲で(限定核戦争については議論が続いているが)、戦闘が西太平洋地域に限定されれば、限定戦争にとどまるかもしれない。

しかし、中国とアメリカが台湾をめぐる限定戦争の可能性を検討しているという事実そのものが、垂直的および水平的なエスカレーションの危険性を鑑みると、より大規模な紛争のリスクとなる。ヨーロッパ諸国が米中紛争に巻き込まれる可能性があり、ロシアはアジアでの戦争を、ヨーロッパにおけるヨーロッパとアメリカの決意を試す機会として利用するかもしれない。

現代社会における経済的・技術的な相互関係(the economic and technological interconnections)を考えると、西太平洋における限定的な戦争、あるいはヨーロッパや中東地域における地域戦争でさえ、紛争の中心地をはるかに超えた国々、経済、そして国民に計り知れない影響を与えるだろう。一方、新たな世界大戦が勃発した場合の影響は、ほとんど想像を超えるものだ。

いかなる種類の戦争も避けるべきであり、より広範な紛争へのエスカレーションはなおさら避けるべきだ。政策選択の分析を研ぎ澄まし、ますます混沌とする世界で正気を保つためには、言葉によるエスカレーションも避けるべきである。

※ヨー・インゲ・ベッケヴォルド:ノルウェー防衛学研究所中国担当研究員。元ノルウェー外交官。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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