古村治彦です。
イラン戦争は開始から2週間が経過しようとしている。アメリカとイスラエルの大規模な先制攻撃によって、イラン政府や軍の指導者たちの多くが殺害されたが、イランの国歌体制は揺らぐことなく、現在はイスラエルとペルシア湾岸諸国に対いて報復攻撃を行っている。石油タンカーを中心とする民間船舶がホルムズ海峡を航行できず、アメリカ海軍も護衛を拒否しているということもあり、石油価格が上昇している。トランプ大統領は船員たちに「根性を見せろ」と発破をかけているが、アメリカ軍でも航行したくない海峡を丸腰の民間人に行けと言うのはあまりにも酷であり、「お前が行け」と言いたくなるような状況だ。
今回のイラン戦争によって、ペルシア湾岸諸国の経済は大打撃を受ける。私たちは日本の報道でも、アラブ首長国連邦のドバイやカタールのドーハなどの諸都市の発展ぶりを見ることが多い。贅を極めたホテルやレストラン、リゾートに世界中の富裕層が集まり、煌びやかな生活をしている様子は日本でも羨望を持って受け止められている。湾岸諸国は世界中ら投資を受け入れて発展するというモデルを構築しているが、その前提となるのは、地域の安定と安全である。それが今回のイラン戦争で完全に崩れた。
イスラエルと言う国家は地域の暗転や安全に関心を持っていない。イスラエルの関心は生き残りである。私はイスラエルについても詳しい佐藤優先生と対談を行ったが、その中で、佐藤先生はイスラエルの人々の心性について、「イスラエルのない世界などあっても仕方がない」というものであると指摘されていた。「イスラエルが生き残るためならば、世界がどうなろうが知ったことか」ということだ。現在のペルシア湾岸諸国の繁栄と発展など、イスラエルにとっては何の関心もない。それどころか、中東地域が不安定化することで自分たちの利益が得られると考えてもいるようだ。
イスラエルのこのような心性のために、ペルシア湾岸諸国だけではなく、中東地域全体、そして世界全体に大きな悪影響が出ようといている。状況が悪化し、それが長引けば、世界経済は減速する。グローバライゼーションが進んでいる現在、それから逃れることが出来る国は少ない。アメリカとイスラエルが世界に災厄をもたらしたということを私たちは認識しなければならない。日本はこの両国を徹頭徹尾支持するという悪い選択をしている。これは非常に厳しい結末を迎えることになるだろう。
(貼り付けはじめ)
イラン戦争は世界経済全体を危険に晒している(The Iran War Is
Jeopardizing the Entire Global Economy)
-ペルシア湾岸における紛争の余波は単なる石油問題よりもはるかに深刻なものとなるだろう。
エスファンディヤール・バトマンゲリジ筆
2026年3月4日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/03/04/iran-war-dubai-saudi-qatar-global-economy-oil-shipping-trade/
日曜日、ドバイにあるアマゾン・ウェブ・サービスのデータセンターで火災が発生した。この施設は、アラブ首長国連邦の防空システムが迎撃したイランのドローンから飛散した破片と思われる物体に直撃された。この事件は、主要企業のクラウドデータセンターが戦争で損傷した史上初の事例となる可能性があり、中東地域で現在進行中の紛争が前例のない性質を持つことを象徴している。これは、ペルシア湾岸での単なる戦争ではなく、第二次世界大戦以来、グローバル経済の中心地である都市や施設に直接的な影響を与えた初めての紛争である。
先週、アメリカとイスラエルの指導者たちがイランに対して軍事作戦を開始したとき、彼らは強力な反撃を予想していた。しかし、イランはアメリカとイスラエル軍に対する報復にとどまらず、湾岸協力会議(the Gulf Cooperation、GCC)加盟6カ国全ての民間施設を攻撃することで、戦争の痛みを外部化すること(to externalize)を選択した。
ここ数日間、イランのドローンと弾道ミサイルは、石油プラットフォーム、製油所、空港、港湾、ホテル、商船を攻撃している。これらの標的を選択することで、イランは大胆な賭けに出た。イランは、ドナルド・トランプ米大統領が就任して以来、外交を最も効果的に推進してきた国々を攻撃するために、安価なドローンや豊富な弾道ミサイルといった非対称的な能力(asymmetric capabilities)を活用している。ペルシア湾岸諸国の指導者たちは、ホワイトハウスにおける独自の影響力を行使し、アメリカをイランとの選択戦争から遠ざけ、新たな核合意へと導こうと繰り返し試みた。
ペルシア湾岸諸国の指導者たちはイランの攻撃を非難した。アラブ首長国連邦(UAE)の外交政策の主要立案者であるアンワル・ガルガシュは、湾岸諸国への攻撃は「イランを地域における主要な脅威とみなし、そのミサイル計画を不安定化の常態化要因と捉える人々の主張を裏付けるものだ」と警告した。ガルガシュは、地域がさらに深刻な危機に陥る前に、イランが「正気(senses)」を取り戻すよう強く求めた。
イランの攻撃は、ペルシア湾岸諸国を紛争に巻き込み、アメリカ軍に領空を開放させ、さらにはイラン国内の標的への攻撃作戦に加わらせる可能性もある。今のところ、湾岸諸国の指導者たちは、深刻化する経済混乱に耐えかね、トランプ政権に停戦(a cease-fire)を迫っていると報じられている。
過去25年間、ペルシア湾岸諸国は中東の経済大国として台頭し、世界経済において重要な役割を担うようになった。彼らがこうした発展を遂げられたのは、主に統治者たちが約束した安定と安全保障、そしてオマーンを除く全ての湾岸諸国に軍事基地を維持するアメリカによる支援があったからである。しかし、第一波のイランのドローンが湾岸諸国の防空網を突破した時、地域の安全保障という建前は崩れ去った。アメリカは、地域における全てのパートナーの安全保障を損なう戦争を引き起こし、その反動から湾岸諸国を守ることができていないように見える。
月曜日、アラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザイード・アル・ナヒヤーン大統領は、不安に駆られた住民や足止めされた観光客を落ち着かせようと、ドバイ・モールを散策した。ナヒヤーン大統領と他の湾岸諸国の指導者たちは、湾岸経済モデルの持続的な持続可能性(the continued viability of the Gulf economic model)について、世界の企業や投資家を安心させるために、さらに多くのことを行う必要があるだろう。
アラブ首長国連邦のドバイ、カタールのドーハ、サウジアラビアのリヤドにそびえ立つきらびやかな高層ビル群の光景は、もはや見慣れたものとなっている。しかし、これらはこの地域の経済発展を示す最も目に見える例に過ぎない。湾岸地域が世界経済においていかに重要であるかを理解するには、商品、物品、サーヴィス、資本、そして人の流れをたどる必要がある。戦争がこれらの流れに与える影響は、この紛争を真にグローバルな次元へと押し上げている。
最も明白な影響は、エネルギーと石油化学製品の輸出の途絶である。ロシアによるウクライナ侵攻は、トレーダーに地政学的リスクの価格設定に関する貴重な経験を与えたが、ペルシア湾での長期戦は、既存のあらゆるモデルを崩壊させるだろう。データ企業ケプラー社(Kpler)の分析によると、世界の原油、メタノール、肥料の約3分の1、そして液化天然ガス(liquid natural gas、LNG)およびブタンやプロパンといった天然ガス誘導体の約5分の1が、ホルムズ海峡を経由して輸出されている。
これらの輸出が長期にわたって途絶えれば、価格ショックは重大なものとなるだろう。今のところ、エネルギー価格の上昇は小幅にとどまっているが、これはトレーダーたちが今回の戦争を短期で終結すると見込んでいることを反映していると考えられる。価格が長期にわたって高止まりすれば、ロシアにとっては追い風となり、主要エネルギー市場である中国において、湾岸諸国の供給業者から市場シェアを奪う可能性も出てくる。
ホルムズ海峡を通過する船舶のほとんどは、石油タンカーやLNGタンカーではなく、ペルシア湾岸諸国の経済をグローバルサプライチェインに繋ぐコンテナ船だ。2003年にアメリカがイラクに侵攻した当時、ドバイのジェベル・アリ港の年間取扱量は約500万個のコンテナに相当した。それ以来、取扱量は3倍に増加し、ジェベル・アリ港は世界で最も活発なコンテナ港トップ10に入る港となり、アメリカやヨーロッパのどの単一港よりも高い稼働率を誇り、世界150以上の港と接続してるす。
この港は、特に中国の輸出拡大に象徴されるように、グローバル化のエンジンとなっている。現在、ジェベル・アリの自由貿易地域には500社以上の中国企業が進出しており、その数は過去5年間で倍増した。アフリカの製造業者が中国のサプライヤーから機器を調達する場合、その輸送ルートはほぼ間違いなくジェベル・アリを経由することになる。
ペルシア湾岸諸国は、世界の海運に加え、世界の航空ハブとしても台頭してきた。特にドバイとドーハをはじめとする湾岸地域の空港は、世界で最も利用客が多く、接続性にも優れた空港の1つとなっている。世界の人口の3分の2が、これらのハブ空港から8時間以内のフライト圏内に居住している。旅客輸送に加え、湾岸諸国の空港は航空貨物輸送においても重要な役割を果たしており、世界の貨物量の約10%を取り扱っている。
ペルシア湾岸諸国経済を通過するエネルギーと物資の流れの増加に伴い、湾岸地域のサーヴィス部門の発展が不可欠となり、現在では世界的に競争力があり、システム上重要な銀行部門も含まれている。湾岸協力会議(GCC)諸国の商業銀行預金総額は昨年2兆3000億ドルに達し、イタリアの預金総額とほぼ同額となった。しかし、イタリアとは異なり、これらの預金のかなりの部分は非居住者によって保有されている。カタールでは預金の約5分の1が国外居住者によるものであり、UAEではその割合は約10分の1となっている。
ドバイは、ペルシア湾岸諸国に駐在する外国人労働者だけでなく、アフリカやアジア諸国間で国境を越えた送金を行う移民労働者も利用する、ノンバンク金融機関や両替所の中心地でもある。また、世界の金(きん)取引の15%をドバイが取り扱っている。このため、ドバイは南アジアやアフリカの金融サーヴィスが十分に整備されていない国々にとって、システム上重要な存在となっている。
湾岸協力会議(GCC)諸国における高度な商業銀行の台頭は、この地域における国際資本の流れを促進した。この地域の資本市場は依然として小規模だが、ドバイ、アブダビ、ドーハといった都市は、中東地域、ヨーロッパ、中央アジア、アフリカといった主要地域からの富裕層による投資先として、非常に大きな役割を果たしている。
この特異な役割を最も象徴する出来事の1つは、アメリカ大統領でさえドバイの不動産に直接的な利害関係を持っているという事実だ。トランプ・オーガナイゼーションがこの地域で計画している一連の開発プロジェクトの第一弾となるトランプ・インターナショナル・ホテル・アンド・タワーがドバイで建設中だ。
ペルシア湾岸諸国は外国資本の誘致を目指す一方で、対外直接投資を活用することで地政学的な目標も推進してきた。同地域の主要7つの政府系ファンドは、2025年までに世界の国営投資家による投資総額の43%を占め、総額1260億ドルの資金流出を記録した。2025年の取引の中には、カタール投資庁によるジャレッド・クシュナーの投資会社への大型投資も含まれていた。
今回の戦争は、こうした資金の流れ全てに脅威を与えている。主要なエネルギー施設では生産が滞り、ホルムズ海峡を通過する船舶数は日曜日には通常の5分の1にまで減少した。月曜日の時点で、アラブ首長国連邦、カタール、バーレーンへのフライトの70%以上が欠航となっている。カタールとサウジアラビアの株価は下落し、アラブ首長国連邦とクウェートの証券取引所は取引を停止した。ドバイの金(きん)取引市場も停滞している。
断片的な対策が散発的に発表されていることにより、トランプ政権が今後予想される数々のショックに対処する計画を持っている兆候はほとんどなく、ましてや今後数週間戦争が続く場合にそれらのショックがどのように顕在化するかを明確に理解している様子もない。マルコ・ルビオ米国務長官は記者団に対し、政権はエネルギー価格の高騰を「緩和する(mitigate against)」ための措置を講じると説明した。また、この問題は「予見されていた(anticipated)」と主張した。トランプ政権は、国際開発金融公社(International
Development Finance Corporation)を通じて「船舶用船者、船主、主要な海事保険会社」に政治リスク保険を提供すると発表した。アメリカ政府が世界規模で海運を支援するために保険商品を動員したのは、第二次世界大戦中に戦時海運局(the War Shipping Administration)が実施したプログラム以来のことである。
国際貿易と金融の台頭を振り返り、ウッドロウ・ウィルソン元米大統領はかつて「戦争の影響はもはや戦場だけに限定されるものではない(“effects of war can no longer be confined to the areas of battle)」と述べ、「全世界の生活を混乱させるような行為は、実行に移される前にまず全世界の世論の場で検証されなければならない(whatever is done to disturb the whole world’s life must first be
tested in the court of the whole world’s opinion before it is attempted)」と主張した。グローバル化を支える市場とネットワークは、軍事紛争が常に主要な拠点から遠く離れた場所で発生した戦後環境において発展した。朝鮮戦争、ヴェトナム戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争といったアメリカの戦争は、世界経済を脅かすものではなかった。
今日のアメリカの政策立案者たちは、ウィルソンのこの警告を忘れてしまったようだ。トランプ大統領がこの戦争に乗り出した時、彼はペルシア湾岸諸国を前例のない攻撃に晒し、ひいては世界経済の生命線である資金の流れを混乱させたのである。
※エスファンディヤール・バトマンゲリジ:ブールス&バザール財団創設者。Xアカウント:@yarbatman
(貼り付け終わり)
(終わり)

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『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



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