古村治彦です。

 アメリカとイスラエルがイランに対して大規模攻撃を行ったが、それ以前はオマーンを仲介役として核開発に関する交渉を行っていた。イギリスの『ガーディアン』紙の報道によると、イラン側の譲歩によって核兵器開発繋がる物質の放棄を受け入れ、アメリカによる経済制裁の大幅解除に合意直前であったが、結局、イスラエルの使嗾によって、アメリカとイスラエルはイランに大規模攻撃を行った。アメリカ軍の制服組はイラン攻撃のリスクの大きさを助言し、JD・ヴァンス副大統領(海兵隊時代にイラク派遣を経験)は攻撃に消極的で、「攻撃するならば、長引かないように、大規模で短期間に終わるようにすべき」と主張していた。結局、ドナルド・トランプ大統領によって攻撃が決断されたが、当初の想定と大きく外れ、戦争は長引くことになった。攻撃開始から1カ月弱が経とうとしているが、停戦の目途は立っていない。

 アメリカのウクライナと中東(イラン)の外交交渉の最前線に立っているのが、スティーヴ・ウィトコフ特使とトランプ大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーである。ウクライナ戦争の停戦がうまくいかず、イランとの関係も結局戦争になってしまったことで、ウィトコフとクシュナーに対する評価は低い。実際、以下の論稿にあるように「落第」「不合格」「F」という評価になっている。しかし、私はあえて両者を擁護したいと思う。

ウクライナに関しては、トランプが選挙戦から政権発足直後のように、ウクライナに対する支援を打ち切るというカードを使って、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に停戦を迫っていれば、停戦は実現していた可能性は高い。もちろん、条件交渉はする必要があるが、大枠ではその方向に進んでいただろう。しかし、トランプが中途半端にウクライナ支援を継続するという方向転換を行ったために、ゼレンスキー大統領は嫌な決断を先延ばしできる状況になっている。これでは条件交渉もできない。

 イランについては、戦争開始の隠れ蓑のために交渉を続けさせられていたということになる。ガーディアン紙の報道の通りならば、イランの譲歩もあって、アメリカとの合意は間近であったようだ。それで困難な立場になるのがイスラエルだ。イスラエルはイランが核兵器外の通常兵器を維持したままで、アメリカの経済制裁解除を勝ち取ってしまえば、経済力の上昇と共に軍事力強化も進み、中東地域におけるイスラエルの優位性が崩れてしまう。そして、アメリカの西半球撤退もあり、孤立してしまう危険性を避けるために、アメリカを中東地域に縛り付けておくために、戦争を選択した。トランプ周辺には親イスラエル人脈が張りめぐらされている。ウィトコフとクシュナーも親イスラエルである。しかし、交渉役としてイランと合意直前であったことは強調されるべきだろう。

 交渉役の出来ることは限られている。その後ろの指導者たちの意向が最重要である。交渉役が仕事を失敗していると非難することは簡単だが、その後ろにいる指導者たちこそが最も批判されるべき立場である。

(貼り付けはじめ)

スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーの外交手腕は落第(F評価)(Witkoff and Kushner Get an F in Diplomacy

-経験不足で任務に手を広げすぎたトランプ政権の特使たちは3つの最前線で失敗した。

アーロン・デイヴィッド・ミラー、ダニエル・C・カーツァー筆

2026年3月3日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/03/witkoff-kushner-trump-fail-diplomacy-iran-ukraine-gaza/

オマーンとスイスで行われたアメリカとイラン交渉の失敗と、戦争への急展開は、イランとの交渉がいかに困難であるかを痛烈に思い起こさせる出来事である。しかし同時に、ドナルド・トランプ米大統領が紛争解決のために構築した交渉体制が、いかに混乱を極めているかも露呈している。

アメリカ外交の歴史において、大統領が3つの歴史的な紛争の解決を、親友と義理の息子に同時に委ねるという前例は存在しない。ヘンリー・キッシンジャー元国家安全保障担当大統領補佐官兼国務長官は、1970年代に中国との国交正常化、ヴェトナム戦争に関するパリ和平協定、そして1973年の第四次中東戦争後の3つの撤退協定という、3つの偉業を成し遂げた。しかし、スティーヴン・ウィトコフとジャレッド・クシュナーはキッシンジャーとは似ても似つかない。そして戦略的思考という点では、トランプはリチャード・ニクソンとは比べ物にならない。

トランプの家族や友人にアメリカの外交を委ねることには、もちろんメリットもある。それは、仲介者がトランプと個人的なつながりや信頼関係を築き、主要な意思決定者と接触できる点だ。しかし、デメリット、特に大統領執務室に大人の監督者がいないという点は、そうしたメリットをはるかに上回る。トランプの三段構えの交渉術(three-ring negotiating)は失敗に終わっている。その理由は以下の通りだ。

●戦略における空白(Strategic vacuum

ロシア・ウクライナ、イラン、イスラエル・パレスティナという3つの紛争におけるアメリカの政策は、方向性が欠如しており、全体的な戦略もなく、手段と目的の連携もほとんど取れていない。トランプ大統領はウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領に対して強い偏見を示し、この紛争における明白な侵略者であるロシアに圧力をかけることにも同様に消極的である。制裁(sanctions)を通じてロシアの諸機関にかけられたわずかな圧力は、トランプ大統領がウクライナへの圧力、すなわちヨーロッパにウクライナ向けアメリカ製兵器の費用を負担させ、キエフの長距離攻撃能力を否定することでウクライナにかけた圧力に比べれば、取るに足らないものだ。アメリカの交渉担当者は、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に戦争停止を迫ろうとしない大統領によって身動きが取れなくなっている。表面的には、プーティン大統領の戦争目的からすれば、いかなる合意もほぼ不可能である。それにもかかわらず、トランプ大統領の指示を受けたクシュナーとウィトコフは、ロシアに迎合し、トランプ大統領が持つ強力な影響力を行使することを拒否することで、自ら交渉の場から退いてしまった。

現在進行中のアメリカとイスラエルによるイラン攻撃も、同様に戦略的なポイントを欠いている。トランプ大統領と報道官たちは、戦争開始を正当化するに足る重大な理由を説明しようと、必死に言葉を選んでいる。トランプ大統領は体制転換(regime change)を理由に挙げたものの、その後の発言ではその点に触れていない。一方、ピート・ヘグセス米国防長官は体制転換ではないと述べている。ダン・ケイン米統合参謀本部議長は、イランの海外への軍事力投射能力(Iran’s capacity to project its power abroad)を破壊することを目的としたと述べた。トランプ大統領は、イランのミサイルがアメリカに向けて発射される寸前だと述べたが、軍関係者はイランがアメリカを攻撃する計画を立てている証拠はないと述べている。

ウィトコフとクシュナーは、トランプ大統領の意図を察知し、その指示の下、トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が戦争を画策する一方で、イランと交渉し、実現不可能な要求を突きつけるという欺瞞戦略(a deception strategy)を実行したことは明らかだ。2025年6月のイランとの戦争と現在の紛争の両方において、トランプ政権は戦争が差し迫っていることを知りながら、フォローアップ協議を予定し、マルコ・ルビオ米国務長官のイスラエル訪問まで計画していた。オマーン外相は、アメリカが戦争に突入する前日、ワシントンで不運にも孤立無援の状態に陥った。

ガザ地区については、ウィトコフとクシュナーの茶番劇(charade)はさらに顕著だ。トランプ大統領は停戦を皮切りに、イスラエルに20項目の和平案を受け入れさせることに成功したが、その後は真剣な交渉ではなく、一連のパフォーマンス的な行動が続いている。いわゆる「平和評議会(Board of Peace)」はガザ地区への資金調達に役立つ可能性を秘めているが、ハマスに非武装化(demilitarizing)を、イスラエルに撤退(withdrawing)を迫る真剣な圧力がなければ、ハマス支配地域では資金となる建設事業は存在しないだろう。ネタニヤフ首相とハマスは明らかに現状維持(status quo)を望んでいる。

クシュナーがダヴォスで開催された今年の世界経済フォーラムで発表したガザ地区の近未来計画(a day-after plan)は、ホームレス、食糧不安、健康被害が依然として存在する社会について、ディズニーランドのような幻想的な空想を描く内容に過ぎなかった。ガザ和平案にはパレスティナ側の高官代表は関与しておらず、パレスティナ自治政府の役割もほとんどなく、トランプ政権はヨルダン川西岸におけるイスラエルの併合政策を抑制しようとする努力すら見せていない。ましてや、イスラエルが現在占領しているガザ地区の50%以上からイスラエルを撤退させるなど、なおさらである。イランとの戦争はトランプ案の実施を遅らせるだけであり、ガザ地区は分断され、機能不全に陥り、散発的な暴力が蔓延するだろう。

●専門知識もなく、プロセスもない(No expertise, no process
ウィトコフとクシュナーの不動産取引能力を評価するには、私たちよりも、不動産業界の専門家たちの方が適任だろう。外交官として数十年の経験を持つ私たちは、ウィトコフとクシュナーのティームがイスラエル・パレスティナ紛争の根深い問題、共有する宗教空間の重なり合い、そして双方の要求とニーズについて、明らかに無認識もしくは無理解であると結論づけることができる。これは確かに不動産取引の一面もあるが、それ以上に複雑な問題だ。トランプ政権1期目、クシュナーは私たちの1人に、過去の合意や交渉について聞く気はないと語った。その後、イスラエルとパレスティナ間の和平交渉の過去の試みから学ぶべきことは何もないと宣言した。クシュナーはアブラハム合意ではより大きな成果を上げた。しかし、トランプ政権のパレスティナに対する政策は完全に失敗だった。実際、トランプが1期目にパレスティナとの関係を断ち、イスラエルが既に支配している歴史的パレスチナ・イスラエルの大地(Eretz Israel、エレツ・イスラエル)の78%に加えて、ヨルダン川西岸の30%を併合することを容認する一方的な計画を提示したことは、外交がいかに現実からかけ離れていたかを如実に示している。

ウクライナにおいて、トランプ大統領はウィトコフとクシュナーに対し、ゼレンスキー大統領に自国領土の戦略的に重要な部分を、ウクライナ全土の征服という長年の目標を放棄する気配すら見せない侵略者に割譲するよう迫るよう指示した。プーティンの特使キリル・ドミトリエフは、トランプ政権に対し、トランプや側近、その家族のビジネス利益につながるロシアでの商業取引案で誘惑してきた。アメリカ側交渉担当者は、紛争の複雑な背景や大西洋横断・世界的安全保障への広範な影響にはほとんど関心を示さず、むしろウクライナがロシアの要求に屈服する形で合意を急ぐ姿勢を見せている。

同様にイランでは、オマーンのホスト兼仲介者たちが、ウィトコフとクシュナーが真剣に交渉しているという幻想を剥ぎ取った。トランプが2018年に包括的共同行動計画(JCPOA)から離脱した後、新たな合意達成のハードルは越えられないほど高くなった。イランがウラン濃縮制限や侵入的な査察を受け入れる可能性はあったが、濃縮をゼロにすることを期待するのは最初から無理な話だった。ウィトコフとクシュナーは、JCPOAを破棄した大統領から「無償の濃縮ウラン供給(free enriched uranium)」を約束されても、イランがそれを信じるだろうと本気で考えていたのだろうか? 戦争直前にフォックスニューズで語ったウィトコフの発言は、イランがアメリカの圧力に「屈服(capitulated)」しなかったことに驚愕していることを露呈していた。

●規律の欠如(No discipline

トランプ大統領と交渉担当者は、国内外を問わず、交渉や戦略的コミュニケイションにおいて一切の規律を示していない。ガザ問題では、トランプがネタニヤフ首相の目標に同調し、イスラエルの利益に従属する姿勢が致命的な欠陥となっており、1990年代半ば以降のアメリカの仲介努力の大半を損なってきた。イスラエル・パレスティナ紛争には2つの当事者が存在するが、ウィトコフとクシュナーはネタニヤフの利益のみに対処しようとしてきた。

トランプのトゥルース・ソーシャルのプラットフォームが国内政治で彼に提供する利点はあるが、外交政策、特にこれら3つの交渉においては、それは極めて大きな負担となっている。ウィトコフとクシュナーがロシア、ウクライナ、イスラエル、オマーンと接触する一方で、トランプはSNSで威嚇と空虚な誇大発言を繰り返している。結果としてアメリカの交渉相手は、何を信じればよいのか全く判断がつかない状態だ。

このような外交を行うことがいかに困難なことかを私たちは知っている。特に、紛争終結よりも自らの地位維持やイデオロギーへの固執に重きを置く指導者たちとの交渉はなおさらだ。私たちもその場に立ち会い、成功と失敗を経験してきた。したがって、キッシンジャーを復帰させ、ジェームズ・ベイカーとタッグを組ませ、ジョージ・HW・ブッシュのような外交判断力と経験を持つ大統領をホワイトハウスに据えたとしても、ロシアとウクライナ問題を打開できるかどうかは分からない。ましてやイランやイスラエル・パレスティナ紛争の解決などなおさらである。仲介者がどれほど有能であろうと、紛争当事者双方に「合意が望ましく実現可能である(a deal is desirable and possible)」という共通の切迫感がなければ、仲介者がインセンティヴとディスインセンティヴを用いて合意へと導くことはできない。

しかし、気まぐれな大統領、戦略の欠如、強い偏見、素人同然で無理な交渉担当者、そして自己利益追求の度合いが重なり、ウィトコフとクシュナーが3つの交渉全てで失敗に終わった理由が明らかになった。これらの紛争のいずれも、最良の状況下でも外交的解決が可能だったかどうかは定かではない。しかし、トランプ大統領の失敗したリーダーシップと、ウィトコフとクシュナーの失敗した交渉によって、状況は悪化する一方だ。アメリカ、イスラエル、イランは戦争状態にあり、ロシアとウクライナは依然として戦争状態にあり、イスラエルとハマスも事実上戦争状態にある。寛大に評価するならば、クシュナーとウィトコフには今学期の成績評価を「評価保留(incomplete)」とするべきだろう。しかし、実際に何か重要な成果を出すまでは、彼らにはF評価を与えざるを得ない。

※アーロン・デイヴィッド・ミラー:カーネギー国際平和財団上級研究員。歴代の共和党政権と民主党政権の両方で米国務省の中東アナリスト兼交渉官を務めた経歴を持つ。著書に『偉大さの終焉:なぜアメリカはもう偉大な大統領を持てないのか(そして望まないのか)(The End of Greatness: Why America Can’t Have (and Doesn’t Want))』がある。Xアカウント:@aarondmiller2

※ダニエル・C・カーツァー:駐エジプト米大使、駐イスラエル元米大使を歴任。プリンストン大学公共国際問題大学院で外交と紛争解決について教鞭を執っている。Xアカウント:@DanKurtzer

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める