古村治彦です。
アメリカとイスラエルがイランを攻撃して始まったイラン戦争は開戦から約1カ月が経過した。停戦の見通しは立っていない。人命や世界経済に対するマイナスの影響を考えると一日も早い停戦が望ましい。ホルムズ海峡の安全に関する懸念が続く中で、日本をはじめとする世界各国で石油に関する不安が出ている。アメリカとイスラエルは当初の目論見を完全に外しており、失敗を認めて、イラン側の要求に従って謝罪と賠償を行うべきであるが、それはできないことであろう。
アメリカとイスラエルは開戦直後に、イラン政府と軍の最高指導層を排除すれば、国内での体制に対する不満が高まり、政権転覆、体制転換に進むと考えていた。2026年1月にアメリカが実施したヴェネズエラ攻撃とニコラス・マドゥロ大統領拘束連行の成功によって、イラン攻撃へのハードルも下がった。成功体験によって、冷静なリスク分析が受け入れられることはなかった。さらに、イランの報復攻撃とホルムズ海峡の封鎖によって、アメリカとイスラエル側が圧力を受けることになった。アメリカ海軍が民間船舶のホルムズ海峡通貨護衛を拒否したことで(事態のエスカレーションを避けるという意向もあるが)、世界経済も混乱に陥った。戦力的に見れば、アメリカとイスラエルはイランを上回っているが、世界でも有数のチョークポイントであるホルムズ海峡をイランは「武器」として利用することによってアメリカとイスラエルに対抗するという戦略を取っており、それは成功している。
現状を打破するためにはアメリカとイスラエルは地上軍の派遣までも検討する段階になっているが、そうなればイラン戦争はエスカレートしていき、更なる混乱と不安を世界に与えることになる。そうなればアメリカとイスラエルは非常に厳しい状態に追い込まれることになる。
(貼り付けはじめ)
イラン戦争はその立案者たちの意図から外れている(The Iran War Has
Escaped Its Authors)
-事態のエスカレーションはワシントンが抱く支配の幻想を既に打ち砕いている。
ロバート・A・ペイプ、アリ・ヴァエズ筆
2026年3月30日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/03/30/iran-war-trump-israel-escalation-hormuz/
アメリカとイスラエルがイランへの軍事攻撃を開始してから1カ月が経過した。数週間にわたる反撃によって、迅速かつ決定的な勝利への期待は薄れつつある。ワシントンとテヘランは、それぞれの作戦によって相手側に対して最大限の要求を突きつけるだけの圧力をかけたと考えているため、外交的解決への見通しはしばらくの間は暗いことになるだろう。
選択戦争には、ある種の自信がつきまとう。それは、暴力の度合いを制御できると信じる指導者たちの自信だ。攻撃は鋭く、標的は限定的で、エスカレーションは制御される。敵は挑発されるのではなく懲らしめられ、戦争は開始した側の意のままに進行すると考える。
戦争の過程で、アメリカとイスラエルはイランに大きな打撃を与えることに成功した。イランの政治・軍事指導者たちを標的にし、ミサイルの備蓄と生産能力を低下させ、多数の海軍艦艇を撃沈した。しかし、テヘランはこれに対し、イスラエル、ペルシア湾岸地域の各国にあるアメリカ軍基地、そして湾岸アラブ諸国に向けて、ドローンやミサイルによる定期的な攻撃を実行してきた。特にホルムズ海峡とその周辺における南岸沖での船舶への一連の攻撃は、この重要な航路の交通量を大幅に減少させるのに役立っている。
ここ数週間、事態収拾や交渉の可能性についての議論が飛び交っている。しかし、ワシントンとテヘランの立場が根本的に相容れないことを考えると、事態はエスカレーションすると考える方が、可能性が高いように思われる。アメリカにとっては、イラン領土へのアメリカ軍派遣、あるいはイランによるホルムズ海峡の継続的な利用の阻止といった形が考えられる。一方、イランにとっては、イエメンのフーシ派同盟軍の紛争に介入することで、紅海の交通を脅かし、さらなる不安定化を招く可能性がある。
歴史的に見て、強大な国家は、一連の明らかな勝利の後にこそ、最大の危険を冒す傾向がある。1月のヴェネズエラ空爆のような成功は、ドナルド・トランプ大統領に、武力行使はクリーンかつ予測可能で、長期的な代償を伴わずに済むという印象を強固なものにした。成功という認識は、支配力の錯覚を生み出し、指導者のリスク許容度を高め、エスカレーションを加速させる。
これは、現在アメリカとイスラエルがイランと戦っている戦争を形作っている力学である。精密な作戦として提示されたこの作戦は、戦略的な過信というお決まりのパターンにますます似てきている。ワシントンは、初期の軍事的成果を政治的な影響力と誤解し、戦術的な成功を永続的な秩序への道と混同している。イランは最高指導者、司令官、核施設、そして軍事資産を失ったかもしれない。しかし、より重要な問題は、イランに打撃を与えることができるかどうかではなく、この打撃が政府の降伏につながるかどうかであった。
そこには、空軍力の錯覚が働いている。攻撃を受けている政権は、崩壊するよりもむしろ強固になることが多い。爆撃を受けた社会において、必ずしも支配者に反旗を翻すとは限らない。多くの場合、爆弾を投下する外国勢力に対して最初に反旗を翻す。
イランも例外ではない。この戦争以前、イラン・イスラム共和国は国内で深刻な不満を抱えており、その多くは正当なものだった。しかし、外部からの攻撃は政治的感情を変容させる力を持っている。かつて不満が占めていた空間を、ナショナリズムが埋め始めている。平時には脆弱に見えた国家が、自国が包囲されると、より強固に見えるようになる。
ワシントンで語られる論評の多くは、依然としてイランを単に攻撃を受け、怒りに任せて反撃しているだけの国として捉えている。しかし、テヘランは長年にわたりその戦略を形作ってきた論理に基づいて戦っている。それは、通常戦力でアメリカやイスラエルに対抗できないのであれば、その戦力を行使することをより困難かつ高コストにすることで、両国を凌駕できるという論理である。
イランの攻撃パターンは、派手な報復というよりも、戦略的な混乱を狙ったものであることを示唆している。標的設定は、レーダーの無力化、指揮系統の弱体化、ミサイル迎撃ミサイルの備蓄量の減少、そしてホルムズ海峡を通る船舶とエネルギー輸送のほぼ停止による経済的圧力の増大という4つの優先事項を示している。
テヘランの視点から見ると、これは戦争を火力による戦いから持久戦へと転換しようとする試みを反映している。イランの計画立案者たちは、紛争の初期段階では迎撃ミサイルの備蓄を枯渇させ、ミサイル防衛網の弱点を露呈させるために、高頻度で攻撃を行う必要があると長年考えてきた。そうして初めて、戦争はより持続可能な消耗戦の段階へと移行し、より少ないミサイルやドローンで弱体化した防衛網を突破できる可能性が高まる。イスラエルにおける警戒時間の短縮や湾岸地域の一部における防衛網の弱体化を示唆する報告は、この論理が既に機能し始めていることを示している。
イランの地域的な標的設定についても同様のことが言える。中東地域各地のアメリカ軍基地が繰り返し圧力に晒されれば、アメリカ軍の作戦維持コストは急激に上昇する。イランはアメリカ軍を完全に打ち負かす必要はない。必要なのは、アメリカ軍の軍事的優位性を行使する際のコストと政治的負担をより大きくすることだ。
イランの視点がしばしば見落とされているのは、まさにこの点である。テヘランの目的は単なる報復ではない。新たな戦略的均衡を強制的に作り出すことにある。その均衡は、ミサイルだけでなく地理的要因にも深く関わっている。ホルムズ海峡は常にイランの抑止力ドクトリンの中核を成してきたが、今回の戦争は、テヘランが抽象的な影響力を具体的な交渉力へと転換しようとしていることを示唆している。もし海峡の航行がイランの寛容さにますます依存するようになり、あるいは各国が安全な航行を確保するために独自の取り決めを模索し始めるならば、それはワシントンが長年否定しようとしてきた事実、すなわちイランが世界の主要経済動脈の1つに対して依然として大きな強制力を持っているという事実を、静かに認めることになるだろう。
ホルムズ海峡だけが圧力のかかるポイントではない。フーシ派が参戦したことで、圧力はバブ・エル・マンデブ海峡にも及び、紅海の航行も遮断される可能性がある。そうなれば、紛争はアジア、ヨーロッパ、中東を結ぶ海上交通の要衝を巡る争いへと発展する。
だからこそ、ドナルド・トランプ米大統領は、イランにホルムズ海峡の再開を迫るため、地上部隊をイラン領の島々に派遣することを検討しているのだ。しかし、これは単なる段階的な行動ではなく、エスカレーションの罠に足を踏み入れる一歩となる。空軍力は混乱や弱体化をもたらすことはできるが、領土を確保したり、永続的な政治的成果を強制したりすることはできない。そして、これらの目標が達成できない場合、地上部隊への圧力が高まる。いったんその一線を越えれば、紛争の構造は変化する。
同時に、イラン・イスラム共和国の旧体制派、つまり経験豊富でより慎重な行動を取ってきた人物が殺害されたことで、イランはより危険な賭けに出やすくなっている。たとえこうした事態がなくても、イラン領土への地上部隊の投入は、海峡への機雷敷設、アメリカ地上部隊への攻撃、地域インフラへの放火、そしてフーシ派によるバブ・エル・マンデブ海峡封鎖といった事態のエスカレーションを招く可能性を著しく高めるだろう。
イランは軍事的にも経済的にも依然として深刻な圧力に晒されており、国民は甚大な犠牲を払っている。しかし、弱体化は戦略の排除を意味するものではない。強大な側は、あらゆる段階でより大きな損害を与えることができるため、エスカレーションを支配できると考える。
しかし、エスカレーションの支配(escalation dominance)が、エスカレーションの制御(escalation control)につながらない。アメリカとイスラエルは、あらゆる武力衝突で勝利したとしても、紛争の軌道と目的を制御できなくなる可能性がある。これが、制御の幻想に駆り立てられた戦争の根本的な危険性だ。全体的な道筋がますます危険になり、方向転換が困難になっても、一歩一歩が前の行動によって正当化されているように見えてしまう。
現実には、抑止力(deterrence)、制裁(sanctions)、主権(sovereignty)、そして核問題(the nuclear issue)をスローガンや空想ではなく、より真剣な形で扱う停戦に向けた真剣な取り組みがなければ、戦争はアメリカやイスラエルだけでは制御できない形でエスカレートしていくことになるだろう。そうなれば、戦争が数週間から数カ月に及ぶにつれて、その代償は取り返しのつかないものになる。地域のアクターたちは紛争を拡大させる動機をますます強め、直接的な戦域を超えたテロのリスクも高まる。
各国が制御された戦争(controlled war)という幻想に陥る最も危険な瞬間は開戦時ではない。むしろ、問題となるのは、見かけ上の成功の後、つまり指導者たちが前回と同じ理由で次のエスカレーションも成功すると信じ込んでしまう瞬間だ。こうして国家は自らの力に囚われ、戦争は自らの意図から逸脱してしまうのである。
※ロバート・A・ペイプ:シカゴ大学政治学教授、シカゴ大学安全保障・脅威プロジェクト部長。著書に『勝利のための爆撃:戦争における航空攻撃力と威圧(Bombing to Win: Air Power and Coercion in War)』と『サブトラックのエスカレーションの罠(The Escalation Trap on Substack)』がある。
※アリ・ヴァエズ:「インターナショナル・クライシス・グループ」イラン・プロジェクト部長。共著に『制裁はどのように機能するか:イランと経済戦の衝撃(How Sanctions Work: Iran and the Impact of Economic Warfare)』がある。Xアカウント:@AliVaez
(貼り付け終わり)
(終わり)

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