古村治彦です。

 2026年2月28日にイスラエルとアメリカによるイランに対する大規模攻撃からイラン戦争は始まった。イランによる報復攻撃もあり、3月中は事態が深刻化する可能性について議論されていた。アメリカ軍によるイランへの地上侵攻作戦の可能性が語られていた。具体的には、ペルシア湾のイランの石油積み出し拠点であるカーグ島への侵攻などが語られていた。

 現在は、イランのイスラム革命防衛隊、アメリカ海軍によるホルム海峡封鎖という状況になっている。地上戦の可能性は低いままであるが、ゼロではない。アメリカ軍としては、イラン側への圧力のためにも、地上作戦の可能性については示唆する、匂わせるということになる。しかし、地上作戦ということになれば、アメリカ軍に大きな犠牲が出る。アメリカ軍は、世論の反対も考慮して、犠牲者を出さないようにしながら、相手を圧倒しなければならない、腕を縛った状態で、相手に圧勝しなければならないという状況にある。アメリカ軍は、犠牲者を出さないために、相手を慎重に選ぶ。アメリカ軍よりも圧倒的に弱体で、できれば内通者、協力者がいるような、そういう軍隊を持つ国を相手にしたい。2026年1月に攻撃したヴェネズエラは絶好の標的だった。イランに関しては、リスクがありながら、攻撃を選択し、失敗した。これ以上の失敗はできない。世論をこれ以上反対に振れさせる訳にはいかない。イランの国土は広大であり、海岸から山地まで多種多様で、小規模な地上軍派遣ではすぐに撃破されてしまう。

 ドナルド・トランプ大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が認知機能の衰えや狂気からイラン戦争を開始した訳ではない。彼らなりの使命感と成算があっての攻撃決定であった。そして、戦争がここまで長引くことは予想していなかった。これ以上の失策を重ねることはできない。地上戦という博打を打つ可能性は低い。アメリカ、そして、トランプ大統領は今回の失敗から早く抜け出したい。そのためには、和平交渉が最善の途である。そして、それが世界にとっても最善の途である。

(貼り付けはじめ)

イランに対するアメリカの地上戦の5つのシナリオ(Five Scenarios for a U.S. Ground War on Iran

―複雑な地理的条件により明確な進入地点は存在しない。

アラッシュ・レイシネジャッド筆

2026年3月31日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/31/scenarios-ground-war-iran-trump-israel-kharg-hormuz-oil/

数十年にわたり、アメリカによるイランへの地上侵攻は、エスカレーションの限界点(the outer limit of escalation)とみなされてきた。実行には多大なコストがかかり、継続するにはあまりにも不安定化を招くと考えられていたからだ。しかし、その前提は今、崩れつつある。アメリカとイスラエルによる対イラン戦争が激化する中で、かつては考えられなかったことが、ますます現実味を帯びてきている。もはや問題は、地上侵攻(a ground invasion)が可能かどうかではなく、どこから開始し、戦略的な成果を上げられるか、という点にある。

一見すると、イラン周辺地域はペルシア湾やオマーン湾から西部国境地帯に至るまで、複数の侵入経路を提供しているように見える。しかし、これは中心的な錯覚である。侵攻を可能にする地理的条件は、同時に戦略的に自滅的なものにもなり得る。イランの軍事地理(Iran’s military geography)は、外部勢力を狭い沿岸のチョークポイント(choke point)、エネルギー拠点、そして国境回廊へと誘導する。これらの地域は、成功への道筋というよりも、むしろより広範なエスカレーションの引き金となる。一見すると選択肢の羅列に見えるものは、実際には、結果の地図に過ぎないのだ。

この論理が最も明確に表れるのは、カーグ島、ホルムズ海峡、アブ・ムサ諸島、大トゥンブ諸島と小トゥンブ諸島、チャーバハル・コナラク回廊、そしてアバダーン・ホッラムシャフル軸という5つの拠点である。いずれもアクセス手段となる可能性を秘めているように見えるが、いずれも戦略的な成功への明確な道筋を示すものではない。
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(1)カーグ島(1. Kharg Island

カーグ島は、見かけ上の優位性が戦略的な危険を生み出す最も明確な例と言えるだろう。イランの原油輸出のボトルネックであり、原油輸出量の約90%がここを通過するカーグ島は、まさに一点集中型の潜在的な弱点だ。イラン内陸部から比較的隔絶され、長さ約8キロ、幅約4~5キロのカーグ島は、コンパクトで、外部に晒されさており、重要なインフラが密集している。イラン経済の重心であり、国内で最も経済力が集中し、同時に脆弱性も高い場所だ。純粋に作戦上の観点から見ると、イラン領土への直接的な侵攻を伴わずに、最大限の混乱を引き起こす可能性を秘めている。

しかし、まさにそれがカーグ島を非常に危険なものにしている理由だ。カーグ島への攻撃は、局地的な軍事行動にとどまることはない。イランの石油輸出の要衝を攻撃することで、その影響は直ちに世界のエネルギー市場に波及し、ペルシア湾のインフラの安全保障に対する広範な懸念を引き起こすことになるだろう。さらに重要なのは、事態のエスカレーションを招き、イランが地域エネルギー施設への報復攻撃に踏み切る可能性が高くなる。

その矛盾は明白だ。カーグ島を魅力的なものにしているまさにその特徴、つまりイラン経済における中心的な役割こそが、カーグ島への攻撃が紛争を急速に国際化させることを確実にする。カーグ島は単なる攻撃目標ではなく、戦況を一変させる引き金となる。

(2)ホルムズ海峡(2. The Strait of Hormuz

ホルムズ海峡は、この紛争において依然として最も重要な戦場となる。世界の石油の約5分の1がこの狭い海峡を通過するため、世界で最も重要なエネルギーのチョークポイントとなっている。ホルムズ海峡は、計り知れない戦略的優位性をもたらす支配の要衝として捉えられることが多い。

しかし、この見方は誤解を招く。ホルムズ海峡は、単一の地点を占領できるようなものではなく、複雑な海域・領土システムとなっている。この海峡を効果的に支配するには、イラン最大の港湾都市であるバンダルアッバスと、イラン最大の島であるゲシュム島に対する作戦が必要となる。これらはペルシア湾におけるイランの防衛体制の中核を構成するものである。ホルムズ海峡を支配することは、事実上、領土をめぐる戦争に突入することに他ならない。

これは根本的なディレンマを生み出す。持続的な支配を維持するには、沿岸防衛を弱体化させ、ミサイル能力と非対称的な海軍力を抑制し、激しい争奪環境下で継続的な軍事プレゼンスを維持する必要がある。全面侵攻​​には至らないものの、影響力を行使できると思われる手段は、イランの領土防衛に直接結びついた、長期にわたる資源集約型の作戦へと発展する可能性が高く、世界のエネルギー市場とサプライチェイン全体に長期的な不安定をもたらすだろう。

(3)3つの島嶼(3. The Three Islands

アブ・ムサ諸島と大トゥンブ諸島、小トゥンブ諸島は、ホルムズ海峡への戦略的な西側の玄関口を形成している。カーグ島やホルムズ海峡とは異なり、これらの島々の経済的価値は限られているものの、象徴的かつ地政学的に非常に重要な意味を持つ。

これらの島々を占領しても、軍事バランスを決定的に変えることはなく、イラン内陸部への道を開くこともないだろう。しかし、これらの島々はイランの主権とアラブ首長国連邦(UAE)の長年の領有権主張が交錯する地点に位置しているため、これらの島々に対するいかなる作戦も、極めて大きな政治的影響を及ぼすことになる。

したがって、一見すると低コストで象徴的な行動に見えるものが、アメリカの戦略的立場を改善することなく、戦争を拡大させる可能性がある。これは、象徴的価値は高いが、決定的な戦略的成果が得られないという、より広範なパターンと一致する。標的が容易であればあるほど、戦略的成功への貢献度は低くなり、不利な条件で戦争を拡大させるリスクが高まる。

(4)チャーバハル・コナラク(4. Chabahar-Konarak

最も議論されていない侵入経路(entry point)は、イラン南東沿岸のチャーバハル・コナラク回廊である。ここは、これまでとは異なるタイプの侵入ルートに見える。厳重に軍事化されたペルシア湾岸地域と比べると、地理的に開けており、混雑も少なく、一見すると外部からの作戦行動にとってより容易な場所のように思える。

しかし、このアクセスの容易さには根本的な制約がある。チャーバハルは、影響力を行使できる拠点とはなり得ない。カーグ島とは異なり、イランの石油供給の生命線の中核をなす場所ではない。ホルムズ海峡とは異なり、世界の重要なチョークポイントを支配している訳でもない。ペルシア湾岸地域とは異なり、この地域は重要なインフラが集中していない一方で、自然の防衛障壁も存在する。

しかし、最大の問題は距離である。そこに足がかりを築いたとしても、侵攻部隊はイランの経済的・政治的中心地から遠く離れており、早期の侵入は長期にわたる、兵站コストのかかる作戦となるだろう。作戦上は侵入しやすいように見える場所だが、戦略的には脆弱なのである。

(5)アバダーン・ホッラムシャフル(5. Abadan-Khorramshahr

地上侵攻がより決定的な形をとる場合、最も可能性の高いルートは、イラン南西部の石油資源が豊富なアバダーン・ホラムシャフルだろう。ここはペルシア湾から戦略的に重要な地域へ至る最も直接的なルートである。

しかし、このルートを単独で攻略することはできない。進軍はクウェートを起点とし、イラク南部に入り、バスラを経由してフゼスタン州へと進む可能性が高い。これは、1980年にイラクがイランと戦争した際に当時のイラク大統領サダム・フセインが辿ったルートをなぞるものだ。

しかし、46年後の今日、イラクの領土はもはや受動的な回廊ではない。いかなる作戦も、アメリカ軍がイラン領土に到達する前から、イランと連携する民兵組織、特に人民動員部隊(ハシュド・アル・シャービ)からの圧力に直面する可能性が高い。戦場は、従来の国家間戦争にとどまらないだろう。それは、事実上、イラク南部からイラン南西部に広がる連続したシーア派地政学的空間における、断片的で多層的な闘争という様相を呈する可能性がある。

したがって、イランへの最も直接的なルートに見えるものは、同時に最も危険なルートでもあり、イランだけでなく、イラク全土に及ぶ大規模な戦争のリスクが存在する。この枢軸を作戦上実現可能にしているまさにその特性こそが、政治的、軍事的に危険なものにしている。ここでは、決断力があるという幻想が最も強く、同時にリスクも最も高い。

さらに考慮すべき点は、これら5つのシナリオのいずれにおいても、クルド人が果たす役割である。アメリカの侵攻は、イラン西部国境沿いでのクルド人の蜂起を伴う可能性がある。その結果、イランの防衛力は複数の戦線に分散されることになるだろう。

イラン西部国境地帯では、長年にわたりクルド人グループとの紛争が続いており、イラン・クルド民主党、クルディスタン自由党、クルディスタン自由生活党、ハバト、クルディスタン労働者コマラ、イラン・クルディスタン・コマラ党などが挙げられる。これらのグループは、テヘランに対峙する連携強化に向けて動き出していると報じられている。

しかし、この選択肢には大きな制約がある。これらのグループは分裂しており、能力も多種多様で、テヘランとの大規模な衝突に踏み切る意思があるかどうかは依然として不透明なままである。さらに、イラク・クルディスタン地域政府は報復のリスクを懸念し、事態のエスカレーションを避ける強い動機を持っている。一方、イラク国内のイラン系民兵組織は、この地域を二次的な戦場に変えてしまう可能性がある。トルコがクルド人の軍事化に反対していることも、もう一つの制約要因だ。さらに重要なのは、この戦略はイラン国内で逆効果となる可能性があるということだ。紛争が国家の弱体化ではなく、領土保全と愛国的結束の強化という構図に転換されてしまう恐れがある。

総合的に見ると、勝利のための戦略ではなく、エスカレーションの地図となる。それぞれが侵入経路を提供するものの、いずれも予測可能な結果を​​もたらす限定的な行動を可能にはしない。侵入を可能にする経路そのものが、成功の達成を困難にし、維持をさらに困難にする要因となる。効果的な圧力を生み出す標的は、より広範な経済的・地域的混乱を引き起こすリスクがあり、一方、封じ込めを図る努力は戦略的な効果を生み出せない。一見すると複数の選択肢に見えるものが、結局は一つのディレンマに集約される。すなわち、限定的な影響を受け入れるか、制御不能なエスカレーションを招くかのどちらかである。

このようなエスカレーションは、間違いなくペルシア湾のエネルギーシステム全体に影響を及ぼし、イランと連携するフーシ派が海上交通を妨害する能力を保持しているバブ・エル・マンデブ海峡での反撃圧力を引き起こすだろう。その結果、世界的な影響を及ぼす複数のチョークポイント危機が生じることになる。

もう一つの危険は、罠に陥る可能性だ。国家対テロセンター元所長ジョー・ケントが警告したように、ホルムズ海峡の島々を占領すれば、アメリカ軍は有利な立場に立つことはなく、標的となり、孤立して機雷、ミサイル、ドローン群による攻撃に脆弱な状態に置かれる可能性がある。

もちろん、アメリカはナタンズやフォルドゥといった場所への限定的なヘリコプター攻撃を選択することもできる。しかし、約400キログラムの濃縮ウランが既に未知の場所に分散している可能性があり、誤算や急速なエスカレーションのリスクが高まるため、このような作戦は特に危険だ。あるいは、テヘランに向けてヘリコプターまたは空挺部隊を投入する可能性もある。しかし、地理的な制約を回避し、紛争を圧縮しようとする試みは、こうしたシナリオに長年備えてきた体制に直面することになる。革命と数十年にわたる非対称戦争によって形成されたイラン・イスラム共和国は、圧力を吸収し、近接戦闘に特化している。迅速な作戦として始まったものが、たちまち長期化し、分散化し、さらには都市部を中心とする抵抗へと発展し、支配権の問題は解決するどころか、むしろ深刻化する可能性がある。

イランへの地上侵攻は、ますます現実味を帯びてきているように見えるかもしれない。しかし、それは地理に対する根本的な誤解に基づいている。イランは長年にわたり、単に地理的条件に適応してきたのではなく、むしろそれを武器として活用してきた。山岳地帯、砂漠、海岸線、島嶼、そして要衝は、戦場における受動的な要素ではなく、圧力を吸収し、戦力を分散させ、敵に損害を与えるために設計された防衛戦略の能動的な構成要素なのである。この意味で、イランの地理は単に軍事作戦の様相を形作るだけでなく、それを世界的な出来事へと変容させるのである。

※アラッシュ・レイシネジャッド:タフツ大学フレッチャー大学院非常勤講師。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス中東地域センター非常勤研究員。Xアカウント:@arashreisi

(貼り付け終わり)

(終わり)

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