古村治彦です。

 今回は、イラン攻撃直前に発表された、ファリード・ザカリアの論考をご紹介する。2月末、27日の段階で発表された論稿だ。27日は攻撃の前日、攻撃命令はすでに下されていた。ザカリアはおそらくイラン攻撃命令が下されたことを掴んでいただろう。その前に、既に中東地域にアメリカ軍が展開していたこともあり、イラン攻撃については秒読み段階という手応えもあっただろう。

 ザカリアの主張は、「爆撃と願いは戦略ではない」ということだ。これは、アメリカが明確な戦略的目標を設定して、その実現のために攻撃をするならばいざ知らず、そのようなことがない状況で、攻撃をしても、「後は野となれ山となれ」の状態になって失敗するというものだ。アメリカがイランの核兵器開発能力を排除するということで攻撃するということならば、それは2025年6月の攻撃で成功している。また、イランの弱体化についても、経済制裁なども絡めて実施しており、その効果は出ている。アメリカの情報・諜報機関もイランは核兵器を開発していないという報告を出している。イランの政権転覆、体制転換を目標とするならば、空爆だけでは成功しない。地上軍の侵攻と占領が必要となるが、アメリカ軍は地上軍派遣を実施できない。アメリカ軍がイランに対して地上侵攻を行えば、双方に多大な犠牲者が出る。アメリカ軍は犠牲者が出ることを嫌う世論とも戦わねばならない。アメリカはイランの体制転換、政権転覆を短期的には望んでいなかった。

 アメリカのイラン攻撃は全く意味のないものということになる。イスラエルにとっては、自力ではできないことであるが、アメリカを利用してイラン攻撃をしてあわよくばうまくいってくれると嬉しいという博打としての攻撃で会って、それが今回失敗したことになる。イスラエルとしてはイランの政権転覆、体制転換が望ましいが、自力で行うことは不可能だ。イスラエルが地上軍を派遣することはできない。モサドがイラン国内、イラン政府内に張り巡らしたネットワークを利用して情報を取り、暗殺を実行することはできるが、それが政権転覆、体制転換にはつながらない。

 こうして、合理的に考えれば、イラン攻撃の判断は誤ったものということになる。アメリカのドナルド・トランプ大統領やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はその責任を取る必要があるが、今のところは早期の停戦合意をしなければならない。そのためにJD・ヴァンス副大統領が事態の収拾にあたっている。イスラエルがその邪魔をしようとするという見方もあるが、そのようなことをすれば、イスラエルはアメリカ国民からの支持も失い、亡国の坂道を転げ落ちていくだけのことになってしまうだろう。

(貼り付けはじめ)

「爆撃と願い」は戦略ではない(‘Bomb and Hope’ Is Not a Strategy

―イラン政権が崩壊しなければならないなら、その後に起こる事態の責任はトランプ大統領が負うことになる。そして、それは決して穏やかなものではないだろう。

ファリード・ザカリア筆

2026年2月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/27/iran-united-states-trump-bomb-war/

ドナルド・トランプ大統領は、1時間47分に及ぶ一般教書演説(State of the Union address)の中で、イランについてわずか3分しか触れなかった。これは憂慮すべき事態である。なぜなら、アメリカはイランとの戦争の瀬戸際(the verge of a war)に立たされているにもかかわらず、そのことについて公の場でほとんど議論されていないからだ。トランプ政権は、イラク戦争以来最大規模のアメリカ軍をこの地域に集結させ、2つの空母打撃群と少なくとも150機の航空機を近隣に展開させている。この地域には最大4万人のアメリカ軍兵士が駐留している。それにもかかわらず、軍事作戦を成功させるための核心は、依然として不明確で定義されていない。戦争目的は一体何か?

トランプ大統領は一般教書演説の中で、基本的な目標は、イランに「私たちは決して核兵器を持たない」という秘密の言葉を言わせることだ(those secret words: ‘We will never have a nuclear weapon)と示唆したように思われる。しかし、イランは数十年にわたり、このことを繰り返し述べてきた。イスラム共和国の最高指導者は2003年に核兵器保有を禁じるファトワ(fatwa、宗教令)を発布し、その後も何度もそれを繰り返している。この主張は、バラク・オバマ政権とイラン政府が合意したイラン核合意の冒頭部分で改めて確認されている。トランプ大統領が望むのがこの立場の再確認だけなら、この危機はすぐに終結するはずだ。

しかし実際には、トランプ大統領はそれ以上のものを望んでいる。それは一体何なのか? トランプ政権内部には、イランのウラン濃縮計画の破壊を望むと述べる人物もいる。しかしながら、6月にアメリカがイランを爆撃した際、大統領はイランの核開発計画を「壊滅させた(obliterated)」と声高に繰り返し宣言した。彼は間違いをしてしまったのか? それとも私たちを欺いているのだろうか? もしそうでないとすれば、イランは制裁と禁輸措置の下で、わずか数カ月で核開発計画全体を再構築できたのだろうか? そのため、最初の爆撃よりもさらに大規模な2度目の爆撃が必要になったというのだろうか? そのような主張には到底信頼を置くことができない。

トランプ政権とイランの協議は、主に核問題に焦点を当ててきた。政権はレッドラインを何度も変更してきた。時には、イランのウラン濃縮を容認する可能性があると述べてきた。これは、核不拡散体制の下で全ての国が有する権利だと多くの人が主張している。一方で、マルコ・ルビオ国務長官のような政権高官は、いかなるウラン濃縮も容認できないと述べている。ルビオ長官はまた、イランが弾道ミサイル問題(これは別の問題である)について協議を拒否していることを「大きな問題(big problem)」と指摘した。トランプ政権高官たちは、ヒズボラやハマスといった同盟者へのイランの支援を制限する必要性について言及することもある。そしてトランプ大統領はここ数カ月、政権交代を目標としていることを示唆する発言を繰り返してきた。では、真の目的は何なのか?

イランの核能力を制限することは一つの目標であり、トランプ大統領がかつて指摘したように、昨夏の爆撃によってその目標はほぼ達成された。ヒズボラとハマスは、イスラエルによる壊滅的な攻撃によって、かつての面影を失っている。イラン軍は、空爆で多くの指導者が死亡し、弱体化している。それでは、真の目的は政権交代(体制転換、regime change)なのだろうか? もしそうだとすれば、空爆だけでそれが達成される可能性は極めて低い。地上部隊が実際に侵攻して政権転覆を行うことなしに、政権が崩壊した例は、これまで一つも思い当たらない。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子やアラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザイード・アル・ナヒヤーン大統領など、長年イランの敵対国であった人々が、焦点の定まらない軍事力が制御不能に陥り、中東地域全体を不安定化させる恐れがあるとして、慎重な対応を促していることは、まさにそれを物語っている。

たとえアメリカがイランの最高指導者を含む多くの高官を殺害する壊滅的な攻撃を行ったとしても、最も可能性の高い結果は、イラン軍が社会に対する支配力をさらに強めることである。戦争は、兵士が支配する。聖職者たちは排除され、イランの現在の聖職者と軍人による混合政権は、より一般的な将校主導の政府に取って代わられるかもしれない。しかし、それは自由民主政治体制への道としてはありそうもない。もしイランの民主化(democratization)がトランプ政権の目標であるならば、それを明確に表明し、計画を立て、反体制派を支援し、指導者を探し出し、彼らに支援を提供するべきである。爆撃と願いは戦略ではない(Bomb and hope is not a strategy)。

戦争理論の巨匠カール・フォン・クラウゼヴィッツは、軍事力は明確な政治目標によって導かれなければならない(military might must be directed by a clear political objective)と主張した。明確な目標なしに戦うことは、戦争を目的のない暴力(aimless violence)に変え、その結果が偶然に左右される危険性があるとクラウゼヴィッツは説明した。ワシントンの政策立案者は、立ち止まって単純な問いに答えなければならない。私たちが目指す最終状態は一体何なのか、そして軍事行動はそれをどのように達成するのか? 漠然とした目標―「弱体化(degrade)」「抑止(deter)」「行動変容(change behavior)」―は、任務の拡大を招く。もしイランの核兵器開発を阻止することが目的なら、条件が満たされていることを確認するための査察(inspections)を伴う合意こそが目標となる(そう、まさにトランプ大統領が離脱した合意だ)。もし政権交代(体制転換)が目的なら、ワシントンは事後的な政治的責任を受け入れる包括的な戦略を準備する必要がある。これ以下の対応は、アメリカ軍と数百万人の人々の未来を賭けた賭けに他ならない。

※ファリード・ザカリア:CNN番組「ファリード・ザカリアGPS」司会者、著述家。最新作に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週に一度コラムを掲載し、『フォーリン・ポリシー』誌に転載されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)

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