古村治彦です。

 戦争はどの国にとっても大きな負担となる。世界の超大国であるアメリカでもそれは変わらない。そして、イスラエルにとってもそれは同じだ。イスラエルは人口約1000万人(ユダヤ系が約74%、イスラム教が多いアラブ系が約18%、キリスト教徒やドルーズ教徒が約8%)の比較的小さな国であるが、GDPは約5400億ドル(約87兆円)で世界第20位である(日本は約4.38兆ドル、約690兆円で世界第4位)。一人当たりのGDPは約6万ドルとなり、こちらも世界第20位となっている。ちなみに、日本は約3万4000ドルで世界第24位である。出生率(約2.84)も高いが、これは超正統派ユダヤ教徒の出生率(約6.66)が大きく貢献している。超正統派ユダヤ教徒は労働に従事しない傾向があり(イスラエル国家から補助されている)、兵役も免除されている。イスラエル国内で、超正統派ユダヤ教徒の割合が増えており、そうなれば、労働をせず、兵役にも就かない人が増えることになり、イスラエル国家全体にとって大きな負担となる。

 イスラエルは現在、イランとの戦争状態にあり、さらに、ガザ地区を実行支配するハマス、レバノンのシーア派組織ヒズボラ、イエメンのシーア派組織フーシ派との戦闘も続いている。戦争にはお金がかかる。戦費はイスラエル経済に重くのしかかる。アメリカからの支援やイスラエル以外に住むユダヤ人からの支援はあるにしても、戦争が永久的に続くことはイスラエルにとっては大きな負担である。また、人口が1000万人の国家で、一定数の国民が兵役に就くが、同時に兵役が免除されている超正統派ユダヤ教徒が労働に従事しないということはイスラエル経済や社会にとっては大きな痛手だ。

 さらに、イスラエルにとってはアメリカからの支援が頼みの綱であるが、アメリカ国民、特に若年層を中心にしてイスラエルの政策に反対する割合が増加しているのは懸念材料である。アメリカからの無条件の厚遇をいつまでも期待できるということはない。

 こうして見ると、イスラエルにとって武力による制圧というのは得策ではないということになる。圧倒的な軍事力があり、戦争を続けても、最終的な勝利を得られていないという状況は、人命や資金を浪費しているということに他ならない。イスラエル国内の情勢が大きく変化し、極右勢力が退潮しなければ、イスラエルはその大きな力によって滅亡の途をすすることになりかねない。

(貼り付けはじめ)

イスラエルが戦争で払っている代償(The Price Israel Is Paying for Its Wars

―複数の戦線での戦闘はイスラエルの軍事力、経済、そしてアメリカとの関係に大きな負担をかけている。

デイヴィッド・E・ローゼンバーグ筆

2026年4月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/04/14/israel-war-hamas-hezbollah-iran-economy-military/

2月28日にアメリカとイスラエルによるイラン攻撃が始まった時、イスラエルはベンヤミン・ネタニヤフ首相が主張する地域大国(the regional power)、ひいては大国(the great power)そのもののように見えた。ネタニヤフの言葉を疑う理由はほとんどなかった。過去2年半の間、イスラエルは宿敵であるハマス、ヒズボラ、そしてイランを事実上打ち負かしたかに見えた。イスラエル国防軍(IDF)は長期戦を遂行できる能力を示し、ヒズボラへのポケベル攻撃のような卓越した技術力を披露し、イランやイエメンのフーシ派への攻撃を通じて地域全体にその力を誇示してきた。そして今、ネタニヤフ首相が「全ての戦争を終わらせる戦争(a war to end all wars)」と豪語した、イランの核・弾道ミサイルの脅威を排除するための最終決戦(a final blow)に乗り出そうとしていた。

6週間後、イランの軍事力は著しく低下し、経済は崩壊、主要インフラは破壊され、主要な政治・軍事指導者の多くが死亡した。しかし、ネタニヤフ首相とトランプ大統領が作戦開始時に掲げた目標は、達成には程遠い状態にある。イランの政権は依然として権力を維持し、濃縮ウランを保有し、弾道ミサイルとドローンを大量に保有していると報じられている。そして何よりも深刻なのは、イランがホルムズ海峡を封鎖できることを示したことだ。一方、ヒズボラはイスラエルの予想をはるかに上回る抵抗を見せ、武装解除の意思を全く示していない。

それでは、この戦争によってイスラエルは以前よりも弱体化したのか、それとも強くなったのか? これは極めて重要な問いである。なぜなら、ネタニヤフ首相はイラン戦争を大勝利と喧伝する一方で、戦いはまだ終わっていないとも述べているからだ。「私たちにはまだ達成すべき目標があり、合意によってか戦闘再開によってか、いずれにせよそれを達成するだろう。・・・私たちは引き金に指をかけている」とネタニヤフは先週、ドナルド・トランプ米大統領による停戦宣言を受けて述べた。

イスラエルの戦後における国力に関する問いへの答えは、イランとヒズボラにも少なからず関わっている。彼らの損失の程度、そして復興・再建能力は、おそらく時間が経つにつれて明らかになるだろう。この不確実性こそが、イスラエルの戦略的課題をより複雑にしている。一方で、イスラエルの資産と能力ははるかに評価しやすく、現状は決して楽観視できるものではない。

イスラエルの国力は主に3つの柱に支えられている。すなわち、圧倒的な軍事力、ますます費用がかさみ、長期化する戦争を支える経済力と国民力、そしてアメリカとの同盟関係である。ネタニヤフ首相はこれら3本の柱を限界まで活用し、さらにその限界を超えようとしているように見える。

軍事:純粋に戦術的なレヴェルでは、イスラエル国防軍は2023年10月7日のハマスによる攻撃以降、数々の目覚ましい成果を上げてきたが、それらは莫大な兵器、人員、そして資金の投入によって達成された。イスラエル銀行の推計によると、イランとヒズボラとの現在の戦争が始まる以前でさえ、他の戦争によってイスラエルの6600億ドル規模の経済に対し、約1160億ドルの直接的な国防費が費やされた。現在のイラン攻撃の費用については議論の余地があるが、110億ドルから180億ドルと推定されている。

たとえイランとレバノンでの作戦が間もなく終結したとしても、イスラエルの国防費は依然として高水準にとどまるだろう。イスラエル軍はガザ地区の半分とシリア南部の広範囲に部隊を配備し続けている。ヨルダン川西岸にも多数の新たな入植地を守るため、さらに多くの兵士が派遣された。ネタニヤフ首相はレバノンとの交渉に渋々応じたものの、レバノン南部にいわゆる「安全保障地帯(security zone)」を設置する構想も示しており、そのためにはさらに多くの地上部隊が必要となる。ネタニヤフ首相はどこからも撤退するつもりはなく、先月「私たちは安全保障の概念を変えた。攻撃を開始し、敵を奇襲するのは私たちだ」と述べた。

イスラエル政府は軍の資源が無限であるかのように扱い、新たな攻勢や占領の拡大を軍に求めている。しかし、それらを遂行するのに十分な人員を確保するための措置は一切講じていない。徴兵制の延長や、超正統派ユダヤ教徒に認められている徴兵免除の廃止に関する法案は未だに可決されていない。人員不足を補うため、予備役兵がほぼ不可能なほど長い期間召集されている。エヤル・ザミル参謀総長は先月、閣僚に対し、約1万5000人の兵員不足を背景に「イスラエル国防軍は崩壊寸前だ(IDF is going to collapse in on itself)」と警告したと報じられている。装備に関しては、イスラエル国防軍の備蓄量や装備の摩耗状況は厳重に秘密にされているが、特に迎撃ミサイルの供給において、問題の兆候が時折表面化している。

経済:過去20年間、イスラエル経済は度重なる戦争に直面しながらも、驚くべき回復力を見せてきた。最近の戦争も例外ではない。2023年のハマスによる攻撃後の数カ月間、そして昨年6月のイランとの12日間の戦争中、GDPは縮小した。そして、現在の戦争でもほぼ確実に再び縮小しただろう。しかし、いずれの場合も経済活動は急速に回復し、戦争によってイスラエルの国防費負担が世界最高水準にまで上昇したにもかかわらず、経済は成長を続けた。

この回復力の一因は、イスラエルの企業や労働者が戦争に慣れ、対処メカニズムを発達させてきたことにある。しかし、政府が財政を健全に保ち、比較的小幅な財政赤字にとどめ、債務(対GDP比)を削減してきたことも同様に重要である。イスラエルのハイテク産業と天然ガス生産は、数十億ドル規模の海外投資を呼び込み、経常収支の黒字を継続的に維持することを可能にしてきた。ガザ紛争勃発以来、アメリカから総額約220億ドルに上る多額の援助を受けてきたことも、経済的な負担を軽減する一因となっている。イスラエルは戦争費用を負担できる経済力を持っている。

しかし、ネタニヤフ首相の政策は、この経済力の限界を試している。膨大な戦闘費用を賄うため、イスラエル政府は概して増税や民間向け支出の削減を避けてきた。これは経済成長を維持するのに役立ってきたが、同時に、イスラエルの公的債務はガザ紛争前のGDP比60%という比較的低い水準から、2026年末には70.5%に達すると予測されるほどに急増した。この債務水準は危険なほど高いとは言えないものの、ネタニヤフ首相は軍事費への支出を止めようとはしていない。今後10年間で国防予算に1160億ドルを追加する計画であり、これはGDPの6%という巨額の国防費を国防に充てることになる。この支出水準は、債務の増加、増税、民間支出の削減などを通じて、経済に重くのしかかるだろう。アメリカ:2023年のハマスによる攻撃は、イスラエルに前例のない規模のアメリカの軍事的、財政的、外交的支援をもたらした。イランへの共同攻撃は、その支援を新たなレヴェルへと引き上げたように見える。しかし、これら全ては、実際にはアメリカ・イスラエル関係の頂点となる可能性もある。

イスラエルの国力を構成する3つの要素全てがますます脆弱になっているにもかかわらず、ネタニヤフ首相はまるで何事もなかったかのように振る舞っている。彼には他に選択肢があるのだろうか?

批判者たちは、ネタニヤフ首相はイスラエルの軍事的成果を外交的合意形成に活用すべきだと指摘する。しかし、ネタニヤフ首相は国家安全保障が絡む合意にはほとんど信頼を置いていないことを示してきた。ある程度、彼の見解は正当化される。レバノンとシリアの政府は約束を履行する力が弱く、イランとハマスはイスラエルの存在そのものにイデオロギー的に反対しており、実質的な合意交渉に応じる姿勢は見られない。

問題は、イスラエルが敵国に対して圧倒的な軍事的優位性を持っているにもかかわらず、彼らを屈服させることができていないことだ。ハマスでさえ、戦前の軍事力と指導部をほぼ全て失い、ガザ地区の半分を支配下に置いたにもかかわらず、屈服を拒否している。したがって、イスラエルは資源が枯渇し、後ろ盾であるアメリカの全面的な支援も得られない中で、終わりのない戦争(forever wars)という不確実な未来に直面する運命にあるように見える。

※デイヴィッド。E・ローゼンバーグ:『ハアレツ』紙英語版経済担当編集員兼コラムニスト。著書に『イスラエルのテクノロジー経済(Israel’s Technology Economy)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める