古村治彦です。

 2026年2月28日のイラン攻撃に関して、このブログでは何度も文章を投稿してきた。その中で、攻撃開始決定において重要なポイントになったのは、2月11日のベンヤミン・ネタニヤフ首相のホワイトハウス訪問とプレゼンテーションであったことは既にご紹介した。このプレゼンテーションの場に、JD・ヴァンス副大統領はいなかった。いることができなかった。それは、アゼルバイジャンとアルメニアを訪問していたからだ。
azerbaijanarmeniamap001

 日本にいると、これらの国々についてはなじみが薄い。地図でどこにあるかを指し示すことも難しい。しかし、地図を見ていただくと分かる、ロシア、イラン、トルコ、イスラエルなど、国際関係において非常に重要な国々に隣接、もしくは近隣に位置している。
btcpipelinemap001

 アゼルバイジャンとアルメニアには民族紛争が存在し、アゼルバイジャン国内で、アルメニア系住民が多いナゴルノカラバフ自治州の独立をめぐり、緊張関係が続いていた。それでも、2025年に、ドナルド・トランプ大統領が両国の指導者を招いて、関係改善を促し、実現した。2026年2月のヴァンス副大統領の訪問は、この関係改善を確かなものとするためのものとなった。また、南コーカサス地方というロシアと中東を結ぶ「回廊(corridor)」と言うべき重要な地域におけるアメリカの存在感を増大させるということになる。
donaldtrumpazerbaijanarmeniaagreement2025001

azerbaijanarmeniaisraelmap001
jdvancevisittoazerbaijanarmenia001

 ここで私が疑問に思うのは、ネタニヤフ首相はヴァンスの「留守」中にプレゼンテーションを行ったのはどうしてかということだ。なぜなら、翌日2月12日にはヴァンスはアメリカに帰国していたからだ。ヴァンスにもプレゼンテーションを見てもらって、売り込めばよかったのだ。ここからは私の推測になるが、ヴァンスがイラン攻撃に反対するだろうということは容易に予測できる中で、プレゼンテーションの場所で、ヴァンスが強硬な反対論を唱えることで、トランプ大統領に影響を与える可能性があり、それを排除するためだったのではないか。そのために、「ヴァンスの居ぬ間に」プレゼンテーションをして、逃げ帰ったのだろうと思う。

 アゼルバイジャンとアルメニアの和平を確かなものとする裏で、イラン攻撃で地域と世界に不安定をもたらす試みをしていたベンヤミン・ネタニヤフ首相こそは世界にとって、退場してもらうべき存在ということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

ヴァンス副大統領の時宜を得た南コーカサス訪問(VP Vance’s timely TRIPP to the South Caucasus

-今週のアルメニアとアゼルバイジャンでの会談は、2009年にバイデン副大統領がジョージアを訪問して以来、南コーカサス地域への最高レヴェルの訪問となった。

アルティン・デルシモニアン筆

2026年2月11日

『レスポンシブル・ステイとクラフト』誌

https://responsiblestatecraft.org/trump-tripp/

今週、JD・ヴァンス副大統領がアルメニアとアゼルバイジャンを訪問した地域訪問ツアーは、2009年にジョー・バイデン副大統領(当時)がジョージアを訪問して以来、アメリカ政府高官による南コーカサス地域への最高レヴェルの訪問となった。これは、ワシントンがイェレヴァン(アルメニアの首都)とバクー(アゼルバイジャンの首都)を無視しているのではなく、両国の国交正常化プロセスに積極的に関与していることを示している。

ヴァンス副大統領のアルメニア訪問中、イェレヴァンが1100万ドル相当のアメリカ製防衛システムを調達したことが発表された。これはアメリカ初の事例であり、特にシールドAI社のISR(情報収集・監視・偵察)無人航空機システムであるV-BATが含まれる。また、アメリカを拠点とするAIクラウド・インフラ企業であるファイアバードが主導する画期的なAIスーパーコンピュータープロジェクトの第2段階が開始されることも発表された。これは、NVIDIA GB300グラフィックス処理ユニット4万1000個の販売・納入に関するアメリカでのライセンス契約が締結されたことを受けてのことである。

さらに、副大統領とアルメニアのニコル・パシニャン首相は、アメリカとパートナー国間の平和的な原子力協力のための法的拘束力のある枠組みを確立する「123協定」の交渉完了に関する共同声明に署名した。アメリカは、アルメニアの老朽化したソ連時代の原子力発電所を小型モジュール炉(small modular reactors)に置き換える有力候補として浮上しており、この協定はワシントンに有利な決定への道を開くものとなる。ヴァンス副大統領によると、潜在的な取引には、初期合意で「最大50億ドル」、さらに「燃料および保守契約を通じた長期支援として40億ドル」が含まれる可能性があるという。

アゼルバイジャン訪問中、ヴァンス副大統領はイルハム・アリエフ大統領と、地域連携、経済投資、安全保障および防衛問題を網羅するアメリカとアゼルバイジャンの戦略的パートナーシップ憲章(Strategic Partnership Charter)に署名した。ヴァンス副大統領は公式発言の中で、アメリカは領海保護を支援するため、「アゼルバイジャンに新型船舶を数隻送る」計画であると述べた。

ヴァンス副大統領の訪問は、ドナルド・トランプ大統領が昨年8月にホワイトハウスでパシニャン首相とアリエフ大統領を招き、歴史的な首脳会談を開催してから約6カ月後に実施された。この首脳会談の成果として、アメリカは訪問団それぞれと覚書(MOU)を締結し、アルメニアとアゼルバイジャンの外相は既に合意済みの和平・国交正常化協定の本文に署名した。

先月ワシントンでは、マルコ・ルビオ米国務長官とアルメニアのアララト・ミルゾヤン外相が、TRIPPTrump Route for International Peace and Prosperity、トランプ国際平和繁栄ルート)実施枠組みに関する共同声明を発表した。この枠組みは、アゼルバイジャンとトルコをアルメニア南部経由で結ぶ貿易回廊の技術的・規制的要素を概説するものである。

この枠組みでは、新たな回廊の輸送、貿易、エネルギー、通信インフラを建設する共同開発会社の初期契約期間を49年間と定めている。アメリカは74%の株式を保有し会社をコントロールし、アルメニアは残りの26%を保有する。在イェレヴァン米大使館によると、アメリカのエンジニアリングコンサルティング会社AECOMが最近アルメニアを訪問し、TRIPPプロジェクトの実現可能性調査を開始した。この調査は「アルメニアの長期的な経済成長、連結性、地域統合を支援する」ことを目的としている。

昨年8月の発表以来、このプロジェクトはワシントンとこの地域との関わりと関心を再び高めてきた。今週のヴァンス国務長官の地域訪問中も、こうした協議は継続された。

ワシントンの視点から見ると、TRIPPは、中央アジアとトルコ、そしてヨーロッパを結ぶアメリカ主導の戦略的動脈(an American sponsored strategic artery linking Central Asia to Turkey and Europe)として機能する、相互に連結された南コーカサスという、より広範な戦略的ヴィジョンに合致する。これは、ロシアとイランの領土を迂回しながら、ユーラシア大陸を横断する重要な貿易とエネルギーの流れにとって重要な回廊となる可能性が高い。

これらの合意は既に地域に一定の成果をもたらしている。昨年8月の会談でトランプ大統領が和平プロセスに個人的な影響力を及ぼして以来、アルメニアとアゼルバイジャンの間で戦争が再開される可能性、あるいは暴力的な衝突が起こる可能性は低下した。イェレヴァンとバクーはともに、TRIPPプロジェクトから自国が経済的、政治的に大きな利益を得られることを認識しており、ワシントンを怒らせることは戦略的に賢明ではないことも理解している。

最近、アゼルバイジャンからジョージア経由でアルメニアへの輸送が行われたが、これは主に象徴的な意味合いを持つものの、ささやかな突破口であり、互いのインフラネットワークへの直接的かつ相互的なアクセスが認められれば、将来的にさらに大きな利益につながる可能性がある。 1993年以来閉鎖されていたアルメニアとトルコの国境再開は、地域間の相互連結性を拡大する上で重要な一歩となるだろう。

南コーカサス地域は30年以上にわたり、地域といっても名ばかりになっており、繁栄を促進し、治安悪化を緩和するような統合が欠如していた。かつて南コーカサスにおけるアメリカの関与の旗手であったジョージアを、発展途上にある地域経済構造に再び組み込むことは、その長期的な成功にとって極めて重要である。最近のジョージア代表団のワシントン訪問は、トビリシとワシントンが実務的な協力関係を再構築する可能性を示唆する、心強い兆候である。昨年、ジョージアの首都トビリシで開催されたアルメニア、アゼルバイジャン、ジョージアの外務次官による三者会談は、前向きな進展であり、外務大臣レヴェルで継続されるべきものだ。

まとめると、2025年1月の政権復帰前に好ましい条件が整っていたとはいえ、トランプ政権は最終的に、過去の政権が成し遂げられなかったことを実現した。こうした過去の成功を、南コーカサスにおける長期的かつ安定したアメリカの政策へと転換させることは、同様に重要である。また、このデリケートな地域へのアメリカの関与が、さらなる不安定化を招かないようにすることも、極めて重要である。

その過程で、細心の注意を払って対処しなければならない多くの外部的な落とし穴が間違いなく存在するだろう。中でも、南コーカサスにおけるロシアとイランの利害関係、そして特にTRIPP協定に関する懸念は、極めて重要である。

ワシントンが旧ソ連全域にわたってロシアに勢力圏を「付与する(grant)」準備をしているという懸念とは対照的に、アメリカはむしろ、自国の経済的・政治的利益を放棄することなく、他の大国の安全保障上のレッドラインを尊重する姿勢を示しているように見える。実際、あるロシア人コラムニストはこう書いている。「モスクワでは失望、苛立ち、そして無力感が蔓延している。なぜなら、まさにこの地域において、近年ロシアの立場は著しく低下しているからだ」。

アメリカにとって、これはまさに綱渡りのような状況であり、その成否は、冷戦後の世代のアメリカの政治エリートにはほとんど馴染みのない、慎重な政治手腕にかかっている。ヴァンス副大統領のアルメニアとアゼルバイジャンへの訪問は、アメリカが南コーカサス地域とその周辺地域に新たな重要性を見出し、それが今後何年も続くであろうという強いメッセージを発信している。

※アルティン・デルシモニアン:クインシー責任ある国家運営研究所のユーラシア・プログラムのジュニア・リサーチ・フェロー。2022年にグラスゴー大学でロシア、東欧、ユーラシア研究の修士号を取得。修士論文では「1878年から1890年までの帝政末期ロシアにおける親ドイツ外交政策の衰退」をテーマとした。

(貼り付け終わり)

(終わり)
thefunal202607cover001

ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
sillionvalleykarasekaishihaiwoneraugunsanfukugoutainoshoutai001
シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
trumpnodengekisakusencover001
『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める