古村治彦です。

ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
アメリカとイスラエルによる攻撃から始まったイラン戦争は正式な最終和平が達成されずに3カ月が過ぎようとしている。4月7日にパキスタンの仲介により、2週間の一時停戦が合意され、4月22日からは停戦が継続しているが、お互いにホルム海峡を封鎖し合い、にらみ合っている状況だ。5月24日には、60日間の停戦合意間近という報道が出た。アメリカのドナルド・トランプ大統領は再攻撃を検討しているが、ペルシア湾岸諸国が攻撃をしないように依頼しているという報道も出ているが、アメリカはウクライナ戦争も抱え、思うように武力行使ができない状況にある。
イラン戦争に関しては、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がアメリカのドナルド・トランプ大統領に戦争を「売り込んで」、トランプをやる気にさせて始まったことは、このブログですでにご紹介した。イスラエルにとっての最大の利益は「イランを弱体化させること」であり、中東地域を一種の混乱状態にすることで、自分たちに攻撃を向けないようにして、「目立たない」うちに、「パレスティナ処分」を行うということだ。それが現在はうまくいっている。アメリカを中東地域から撤退させないで、泥沼に足を取られるようにするということにも成功した。さらには、「保険」として、ペルシア湾を挟んでのイランの隣国UAEを味方に引き入れ、依存させ、イランと敵対させることで、「喉に刺さった魚の小骨」のようにすることにも成功した。イスラエルはペルシア湾に対イラン橋頭保(bridgehead)を確保したと言える。
しかし、アメリカと中東諸国にとっては良い迷惑である。平和と安定がなければ、ビジネスもうまくできない。石油が輸出できなければ、他に主要な産業がないは干上がってしまう。他の産業として、金融や観光を発展させようとしてきたが、これらの産業分野こそは平和と安定が必須条件となってくる。危険な場所に投資はしないし、人は観光に行こうとは思わない。中東諸国が石油を売って儲けたお金(ドル)でアメリカへの投資も行われていた訳だが(ペトロ・ダラー体制)、この投資の流れが細くなれば、アメリカの利益にもならない。このように考えると、イラン戦争はアメリカの国益には適わない。そのことを痛感し、じりじりとしているのがトランプ大統領だろう。一日も早い停戦と和平達成こそがイスラエル以外の世界にとって望ましいことだ。
(貼り付けはじめ)
イラン内戦はアメリカの国益にはならない(An Iranian Civil War Is
Not in America’s Interest)
-イスラエルは政権崩壊(regime collapse)による混乱を歓迎するかもしれない。しかし、アメリカとその同盟諸国は歓迎できない。
ファリード・ザカリア筆
2026年3月6日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/03/06/iran-civil-war-united-states-allies-regime-collapse/
「ジャズの即興演奏による政権転覆(Regime change by jazz
improvisation)」。イラン研究の権威であるカリム・サジャドプールは、トランプ政権がイランとの戦争で用いた戦略をこう評した。残念ながら、これはワシントンから発せられる、散漫で、変化に富み、不確実なアプローチを最も的確に表現した言葉と言えるだろう。
トランプ大統領はこの戦争を、イラン国民に政府打倒を呼びかけることで開始した。おそらく彼は、政権が即座に崩壊すると想定していたのだろう。しかし、そうならなかったため、わずか1、2日で方針転換した。政権内部の潜在的な指導者への対処を検討し始め、ヴェネズエラへのアメリカの介入を模範とすべき「完璧な(perfect)」事例だと称賛した。なぜなら、ヴェネズエラへの介入は政権転覆とは程遠く、逮捕したのはたった2人だったからだ。ピート・ヘグセス国防長官は、この戦争が「政権転覆[体制転換]戦争(regime change
war)」であることを明確に否定し、側近のエルブリッジ・コルビーも同様の見解を示した。両者とも、目標はイランの軍事力を弱体化させることだけだと述べていた(昨年6月、ステルス爆撃機を含む12日間の爆撃で、イラン軍の多くはすでに「壊滅(obliterated)」していた)。しかしその後、事態は一転し、ドナルド・トランプ大統領はイランとイラクのクルド人指導者に接触し、イランの軍事力を弱体化させるためではなく、テヘラン政権の転覆、ひいてはイランの国境線の変更さえも視野に入れ、戦闘に参加するならば支援を約束した。トランプ大統領は現在、イランの「無条件降伏(UNCONDITIONAL SURRENDER)」なしには合意はあり得ないと宣言している。
つまり、目標は政権交代ではない―ただし、時折そうなることもある。
しかし、この戦争で最も危険な要素は、主役がサックス奏者のように即興で行動していることではない。戦争を遂行する2国が、それぞれ異なる、そしておそらく相容れない目的を持っていることだ。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にとって、この戦争の目的は明らかにイスラム共和国の破壊である。彼は、この戦争が40年来の夢の集大成であることを認めた。また、この機会を利用してヒズボラを根こそぎ排除しようとしている。
イスラエルの軍事戦略は、的確かつ巧みに実行され、その目標に完全に合致している。イスラエルの攻撃は、イラン指導部を壊滅させ、軍事力を弱体化させ、指導部施設を攻撃し、さらには警察施設までも標的にしている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙が報じたように、イスラエルはイランの抑圧的な国家体制を組織的に破壊し、政権崩壊の危機をもたらしている。そして、現状のままでは、イスラエルは目的を達成する可能性が高い。そうなれば、イラン国内に権力の空白が生じ、反乱を招く恐れがあるが、ほぼ確実に内戦へと発展するだろう。誰が権力を握ろうとも、この政権は必ず抵抗するだろう。ここで適切な具体例は、10年以上内戦に苦しみ、数十万人が死亡し、数百万人が難民となったシリアである。
トム・フリードマンが指摘したように、イランは容易に崩壊する可能性のある国だ。クルド人、アルメニア人、アゼルバイジャン人など、近隣諸国と繋がりを持つ民族集団が多数存在する。彼らはこれまで平和的に共存してきたが、歴史が示すように、バルカン半島からイラクに至るまで、秩序が崩壊し力の空白(a power vacuum)が生じると、人々は部族集団に引きこもり、他者への信頼を失う。そして、こうして内戦が始まるのだ。この戦争を煽る要因は、イラン政府が、いかなる新政府や新勢力に対しても戦う覚悟のある、武装した献身的な兵士を多数擁しているという事実である。革命防衛隊は推定20万人規模で、さらに数十万人規模の準軍事組織であるバシジも存在する。そして、約40万人の正規軍も存在する。サダム・フセインの軍隊がアメリカの侵攻後に崩壊し、その多くが反乱軍として再び姿を現したように、革命防衛隊も別の装いで戦い、いかなる新政府も国を支配できないようにするだろうと想像できる。リビアでは、カダフィ政権崩壊から14年以上経った現在もなお、国全体を掌握する単一の勢力は存在しない。国家を破壊することは、再建するよりもはるかに容易なのだ。
イスラエルにとって、これはおそらく受け入れられる結果だろう。最大の敵を排除できたのだから、イラン(とレバノン)に混乱が生じても仕方がない。シリア内戦は、イスラエルが、イスラエルと戦うことを使命とする主要なアラブ国家と対峙しなくてよくなったため、実際にはイスラエルの安全保障を向上させた。しかし、イラン内戦はアメリカの国益にはならず、石油、物資、資金、そして人々の自由な往来を可能とするために、地域の安定と予測可能性に依存しているアメリカの最も緊密なアラブ同盟国にとっても国益にはならない。
ワシントンは、イランを内戦に陥れることなく、この戦争で得た成果―武装解除され、牙を抜かれたイラン―を確実に維持する方法を見つけ出す必要がある。
成果を強化し、この戦争を終結させる方法はまだ残されている。いつものように、カタールは仲介者として有益な役割を果たすことができるだろう。しかし、時間は刻々と過ぎている。いずれこの戦争は転換点(a tipping point)に達し、誰もその波及効果(the spillover)を制御できなくなるだろう。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最近では『革命の時代(Age of Revolutions)』を著した。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)
(終わり)

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