古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 ドナルド・トランプ大統領は融通無碍だ。自分の過去の行動や決定、発言に縛られない。これはトランプの強みだ。謝ることはしないが、これは違うと思えばさっと行動を変える。これだと発言や決定に信頼性を欠くことになるが、この柔軟性は事態をそこまで悪化させない。この柔軟性はほかの政治家ではなかなか持てない。

 ドナルド・トランプ大統領は中国を批判し、実際には極端な高関税政策など、厳しい対応を行ってきた。米中貿易戦争という言葉は、第一次トランプ政権の頃から使われている。中国もアメリカに対して厳しい対応を取るということを行ってきた。同時に、製造業での優位を確保し、最先端分野、AI(人工知能)、量子コンピュータ、ドローン、電気自動車などの分野でアメリカと肩を並べ、追い抜くというところまできた。また、レアアース分野における優位性も確保していた。そして、第二次トランプ政権で、このレアアースの優位性を利用して、アメリカに対抗し、アメリカからの譲歩を引き出した。

 今回の米中首脳会談では、具体的な内容はあまり伝わっていないが、中国側が「建設的戦略的安定性(constructive strategic stability)」の堅持で合意した。米中はお互いに緊張関係を欲しないし、競争と協調をミックスした関係を望んでいる。台湾問題にしても、武力衝突までエスカレーションすることを両国が望まない。アメリカにも、台湾にも、日本にも、そして、中国にも、米中日台湾の間で武力衝突をしたい、させたいと狂信的に望む人間や勢力がいる。しかし、実際には、トランプもアメリカも中国戦争をしたいとは望まないし、できない。そんなことをすれば、アメリカの衰退が加速し、国家が立ち行かなくなるからだ、そして、世界の敵と認定されてしまうからだ。

 トランプは対中強硬姿勢から見事に、華麗に変身した。トランプ政権内には対中強硬派が多く入っているが、親分が以前は白と言っていたが、今は「これは黒だよな」と言ったら、「そうですね、真っ黒ですよ」と答えるのが子分だ。裏では「何を言ってやんでぇ」と思っていたとしても、だ。トランプ政権の間は中国に融和的な姿勢とならざるを得ない。それが嫌ならトランプ政権から離れねばならない。トランプは根っからのビジネスマンであり、「金にならない」「損になる」ということを嫌うという本能で生きている。その本能が正しく機能して、中国に対して融和的になっているというのは、それだけで大きな価値があるということになる。そして、対中強硬姿勢を馬鹿みたいに続けるほど馬鹿ではないということだ。それでは、日本の指導者、高市早苗首相はどうだろうか。その答えは明らかだ。

(貼り付けはじめ)

トランプの対中政策における実用主義は歓迎する(Trump’s China Pragmatism Is Welcome

-北京とのライヴァル関係は避けられない。経済の断絶(economic rupture)は壊滅的な事態を招くだろう。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/18/trump-xi-meeting-china-united-states-economics-trade-great-power-competition/

このコラムの読者の皆様さんは、私がドナルド・トランプ大統領の2期目の外交政策を支持してこなかったことを知っている。グリーンランドの併合やカナダの併合をちらつかせたり、一方的に関税を急激に引き上げたり、イラン戦争の失敗に終わったりと、トランプは無謀で(reckless)、混乱させ(chaotic)、深刻な不安定化(deeply destabilizing)をもたらしてきた。しかし、ある重要な分野、すなわち米中関係においては、彼は正しい直感(the right instincts)、そしておそらくは正しい政策さえも持ち合わせているのかもしれない。

トランプが最近、中国の習近平国家主席と会談した際、普段はなかなか見られない一面が見られた。彼は敬意を払い、ほとんど恭順を示し(almost deferential)、二人の個人的な親密さを強調しようと努めていた。一方、習主席は終始形式的で(formal)、規律正しく(disciplined)、決して温かみのある様子を見せなかった。この非対称性は、実態をよく示している。

トランプ氏は権力に執着している。イデオロギーや価値観よりも、彼は影響力と支配力という観点から物事を考えている。トランプはヨーロッパの同盟諸国を侮辱するが、それは彼らが依然としてアメリカの軍事的保護とアメリカ市場へのアクセスにどれほど依存しているかを理解しているからだ。トランプ氏は弱点を見抜き、それを巧みに利用する(Trump senses weakness and exploits it)。

しかし、中国に関しては、ワシントンの多くの人々が未だに感情的に受け入れられずにいる事実をトランプは理解するようになった。それは、北京が経済、技術、産業、軍事において独自の強大な力を持っており、それを効果的に行使できるということだ。従って、トランプは、好戦的な姿勢(belligerence)から、ライヴァル関係と協力関係(rivalry and cooperation)が複雑に絡み合った関係へと変化した。この関係こそ、まさに今求められているものなのかもしれない。

トランプ氏の今回の訪問を、2021年にアンカレッジで行われたバイデン政権関係者と中国側関係者の初会談と比較してみよう。アメリカ側はテレビ中継で、人権問題、サイバー攻撃、国際秩序を巡って中国を激しく非難した。中国側の外交官たちも同様に激しく反論した。それは真剣な外交的対話というより、ケーブルニューズでの罵り合い合戦(a cable news shouting match)に過ぎなかった。

多くの中道派民主党連邦議員たちは、「中国に弱腰だ(soft on China)」と見なされることを恐れている。そのため、彼らはしばしば過剰なレトリックを用い、極端な表現を使い、象徴的な対立をエスカレートさせる。ジョー・バイデン大統領は、トランプ政権の対中関税に懐疑的な姿勢を示し、撤廃を約束したにもかかわらず、ほぼ全ての関税を維持した。また、バイデンは大統領として中国を訪問したことはなく、習近平国家主席をワシントンに招待することもなかった。

バイデン陣営は、トランプ政権が最初に主張した、中国の新疆ウイグル自治区における行為は大量虐殺(ジェノサイド、genocide)に当たるという主張を支持した。ジェノサイドという言葉は、ホロコーストや1994年のルワンダ虐殺のような、組織的な大量虐殺(extermination campaigns)を想起させる。中国の新疆ウイグル自治区の刑務所や再教育キャンプは残虐で恐ろしいものであり、数十人の学者がウイグル族に対する中国の行為をジェノサイドと呼んでいる。しかし、『エコノミスト』誌が指摘したように、それは多くの人がこの言葉を思い浮かべたときに連想するものとは異なる。

トランプの最大の強みは、右派からの攻撃を受けないことだ。2016年の大統領選挙後、彼は北京を激しく非難し、製造業の雇用喪失、貿易不均衡、そしてアメリカの産業衰退の責任を中国に押し付けて政権を握った。ある意味、これは「ニクソン大統領が中国へ向かった」というよりは、リチャード・M・ニクソン大統領よりも右派に位置する超タカ派のロナルド・レーガン大統領がソ連へ向かったという構図に近い。トランプが同様の方向転換を成し遂げられる可能性があるのは、彼の支持層が彼の先導する方向に従うからに他ならない。トランプがイランへの軍事介入を支持する姿勢を示した途端、多くのMAGA支持者がいかに迅速に態度を翻したかを見れば明らかだ。

なぜ中国とのより協調的なアプローチが理にかなっているのだろうか? それは、中国はソ連ではないからだ。ある指標によれば、冷戦終結時のソ連経済規模はイタリアよりも小さかった。一方、中国は世界第2位の経済大国であり、120カ国以上にとって最大の貿易相手国であるだけでなく、電気自動車やバッテリーからドローン、先端製造業、人工知能に至るまで、幅広い分野で技術大国としての地位を確立している。製造業の生産高は、米国、日本、ドイツを合わせた額を上回る。

このような国に対して本格的な冷戦を仕掛けようとすれば、世界が既に分断されていたソ連との闘争とは全く異なるものになるだろう。冷戦を仕掛けることは世界経済そのものを崩壊させることを意味する(It would mean tearing apart the global economy itself)。アメリカの消費者は物価上昇と供給ショックに直面するだろう。アメリカ企業は世界最大級の市場へのアクセスを失うだろう。大学は多くの優秀な学生を失うだろう。危険は単なる経済的苦痛にとどまらない。それは、敵対する2つの技術・地政学的ブロックが生まれ、対立が激化するという事態を招くことになるだろう。

もちろん、アメリカと中国はライヴァル関係にある。二極化した世界(a bipolar world)において、それは避けられないことだ。米中両国は今後数十年にわたり、経済、軍事、戦略のあらゆる面で競争を繰り広げるだろう。しかし、ライヴァル関係は必ずしも完全な断絶(total rupture)を意味するものではない。ヘンリー・キッシンジャーは亡くなる数週間前、私に次のように語った。「米中両国の指導者は、1914年に国家主義的な競争が結果を顧みずに追求された結果、世界秩序を根底から覆す世界大戦が勃発したことを心に留めておくべきだ(leaders of both countries should keep in mind how in 1914, nationalist competition pursued with no concerns of its consequences led to a world war that upended the entire global order)」。

人工知能、サイバー戦争、核兵器の時代において、協力関係を維持することはこれまで以上に重要だ。米中両国は激しく競争しながらも、核兵器の安定(nuclear stability)、AIの安全性(AI safety)、パンデミック(pandemic)、金融危機(financial crises)といった分野で、可能な限り取引、対話、協力関係を維持すべきである。冷戦時代、ワシントンとモスクワは激しい敵対関係の最中でも軍備管理交渉を継続した。それは、米ソ両国が制御不能なライヴァル関係が破滅的な結果を招くことを理解していたからだ。

それは今日においても変わらない。そして、もしトランプが、哲学(philosophy)というよりはむしろ本能的(instinct)な理由から、この基本的な現実を認識するに至ったのだとすれば、少なくともこの問題に関しては、彼の実用主義(Pragmatism)は理にかなっていると言えるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)
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