古村治彦です。
冷戦期においてアメリカとソ連という二大超大国は核兵器軍備管理に関しては協力した。核兵器開発と貯蔵を進めていたが、それは同時に世界を核戦争に巻き込む脅威となり、人類の存続も危険に晒すという判断もあった。1962年のキューバ危機で米ソ両国と世界は核戦争に近づき、軍備管理の方向に舵を切った。そして、核兵器の削減を行うという合意も形成できた。ソ連が崩壊しても、米露両国は核兵器の軍備管理と削減の体制を維持してきた。
しかし、現在は中国が核兵器の製造と貯蔵を進め、米露に迫るようになっている。冷戦期は米ソ両国の二極(bilateral)で済んだ話に、新しいプレイヤーが登場し、米中露の3カ国、三極(trilateral)の構造になり、プレイヤーが増えたことで格段に難しくなる。物理学における三体問題(three-body problem)のようなことになる。米中露における新たな核兵器軍備管理、削減の枠組が構築されることが望まれるが、それぞれの思惑もあり、難しい。
しかし、米中露は世界の大国であり、国連安全保障理事国の常任理事国であり、核兵器不拡散条約(NPT)にも加盟している。また、米中露は中国を中心とした「ヤルタ2.0」体制を構築し、相互不可侵の状態になっている。米中露での核戦争の可能性は限りなく低い。
核不拡散条約(NPT)は国連安保理常任理事国である米中露英仏の5カ国を核保有国とし、それ以外の国の核兵器製造と保有を禁じている。しかし、実際には核不拡散条約から脱退、もしくは加入を拒む、核保有国があり、インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルの4カ国である。パキスタンはサウジアラビアと相互防衛協定を結んでおり、パキスタンはサウジアラビアに核兵器による防衛(核の傘)を提供している。ここで重要なのは、イスラエルの核兵器である。
核不拡散(NPT)体制は現在の不平等条約と言っても良いだろう。なぜ国連安保理常任理事国だけが核兵器を独占できるのかと不満を持つ国が出てくるのは自然であろう。そして、この枠組みから外れれば核兵器が持てるではないということになり、4カ国は加盟していない。こうなると、国際社会による監視も行き届かない。どれだけの核兵器を持っているのかが分からないし、適切な環境で危険がないように管理されているかも心もとない。核兵器が「横流し」されてしまっても誰にも分からない。インド、パキスタン、北朝鮮、イスラエルを国家として信用するとしても、それにも限界がある。
米中露英仏に関してはある程度の信用はできる。しかし、NPT外の4カ国に関しては、枠組みに入らない(入ってしまえば核兵器を廃棄しなければならない)ということで信用はできない。米中露に関しては保有する核兵器の数量に危険を感じるが、NPT外の国々関しては保有そのものが危険である。そして、何よりNPT体制外の国々に関しては、その使用可能性についても米中露英仏に比べて格段に高いと言わざるを得ない。
(貼り付けはじめ)
ポスト冷戦の核時代は終焉を迎えたのかもしれない(The Post-Cold War
Nuclear Era Might Have Just Ended)
-新戦略兵器削減条約(New START)の期限切れと中国の核兵器保有量の増加により世界はより危険な場所となった。
ファリード・ザカリア筆
2026年2月9日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/02/09/cold-war-nuclear-new-start-treaty/
世界がより不確実な局面に入りつつあることを私たちは皆感じている。同盟関係は不安定になり、貿易は細分化され、大国間の駆け引きはより露骨になっている。しかし、こうした目に見える変化の裏には、あまり議論されていない、より危険な何かが潜んでいる。それは、核の安定性の緩やかな崩壊(the slow collapse of nuclear stability)だ。
冷戦期間の大半において、人々は核兵器が存在する世界は必然的に核拡散(proliferation)を招き、戦争は核戦争へと発展するだろうと恐れていた。実際、人類の歴史において、兵器庫に未使用のまま保管された兵器はほとんどなかった。しかし、まさにそれが現実となった。兵器庫は存在し続けたが、それらは条約、慣習、そして自制に関するドクトリンによって制約されていた。軍備管理協定によって核兵器の数は制限され、抑止力関係は比較的明確だった。核拡散は、不完全ながらも、規範と圧力によって抑制されていた。安全な世界ではなかった、安定した世界だった(It was not a safe world—but it was a stable one)。
しかし、この時代は終焉を迎えているかもしれない。
最も明確な兆候は、今週、アメリカとロシアの間で唯一残っていた核軍備管理条約(nuclear
arms control treaty)である新戦略兵器削減条約(新START)が失効したことである。世界最大の核兵器保有国である米露両国に対し、50年以上ぶりに法的拘束力のある制限がなくなった。この状況が一時的なものに終わることを期待する声もあり、後継条約の締結に向けた取り組みが始まっている。しかし、より広い視点で見ると、楽観できる状況にはない。
2010年に新STARTが署名された当時は、世界情勢は今とは異なっていた。ロシアの戦略兵器は老朽化が進み、中国の核兵器保有量は少なく、「最小限抑止(minimum deterrence)」と呼ばれる戦略に基づいていた。しかし、エリック・エデルマンとフランクリン・ミラーが『フォーリン・アフェアーズ』誌に書いているように、もはやそのような世界は「存在しない(no longer exists)」。
ロシアは戦略核戦力の約95%を近代化したとウラジーミル・プーティン大統領は主張している。さらに懸念されるのは、モスクワが広大な地域核兵器庫を構築したことである。専門家たちは、陸海空から展開可能な戦術核兵器を約1500発保有していると推定している。これらのシステムは新戦略兵器削減条約(新START)の対象外である。ウクライナ戦争中、プーティン大統領は繰り返し核の脅威をちらつかせ、恐ろしい脅迫ゲームを仕掛けてきた。
中国の動向はさらに重大な影響を及ぼす可能性がある。習近平国家主席が2012年に政権を握った当時、中国は約240発の核弾頭を保有していた。現在、中国は600発以上を保有しており、アメリカの推定によれば、2030年までに1000発に達する見込みである。中国は地上配備型ミサイル、弾道ミサイル潜水艦、空中発射型ミサイルという完全な核戦力三本柱(a full nuclear triad)を配備し、警戒態勢の頻度を高めている。これには、敵のミサイルがまだ空中にある間に発射できる「警告発射(launch on warning)」能力も含まれる。
ジョー・バイデン政権は対話を通じてこの軍備増強を抑制しようと試み、北京に核軍縮協議への参加を促した。しかし、中国の反応は冷淡だった。中国は、自国の核兵器保有量がアメリカとロシアのそれとより近い水準に達した場合にのみ、真剣に協議に応じるとした。エデルマンとミラーが指摘するように、北京は透明性と検証を信頼醸成措置ではなく、むしろ弱点とみなしている。軍備管理は、避けるべき制約と捉えられているのだ。
その結果、冷戦時代の二極対立よりもはるかに複雑な、三つ巴の核競争が繰り広げられている。『エコノミスト』誌はこの変化を鮮やかな比喩で表現している。原子爆弾の父であるロバート・オッペンハイマーがかつて「瓶の中の2匹のサソリ(two scorpions in a bottle)」と呼んだものが、今や3匹になった。瓶の中が混み合っているということは、サソリの動きが予測しにくくなるということだ。
これは重要な問題だ。なぜなら、システムが複雑化するにつれて抑止力は脆弱になるからだ(deterrence
grows more fragile as the system grows more complex)。二極化した核世界は危険ではあったが、その構造は明確だった。しかし、三極化(tripolar)、あるいは多極化(multipolar)の世界はそうではない。ロシアと中国は緊密に協力し、技術交流や合同軍事演習を実施しており、時には核保有能力を持つ部隊も参加している。2023年、超党派のアメリカ戦略態勢委員会は、「日和見主義的な侵略(opportunistic aggression)」、あるいは複数の戦域にわたる協調的な圧力のリスク(coordinated pressure across multiple theaters)について警告した。主に二国間競争を想定して設計されたアメリカの核戦力は、2つの同等の敵対国を同時に抑止することを目的としたものではない。
軍拡競争(arms races)は危険だ。核兵器の数は徐々に増加し、ドクトリンは曖昧になる。誤算のリスク(the risk of miscalculation)は高まる。それは戦争時だけでなく、危機、演習、あるいはパニック状態においても同様だ。現代の核システムは、サイバーネットワーク、宇宙空間に配備されたセンサー、そして短縮された意思決定時間とますます密接に結びついている。誤報や信号の誤読は、過去よりもはるかに速いスピードで事態をエスカレートさせる可能性がある。
危険は主要大国だけに留まらない。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、約40カ国が核兵器製造技術を有している。
数十年にわたり、核不拡散(nuclear nonproliferation)は一種の取引の上に成り立っていた。ほとんどの国は、安全保障の保証(security guarantees)と核保有国が核兵器について責任を持って管理するという約束(the promise that nuclear states would manage their arsenals
responsibly)と引き換えに、核兵器を放棄するというものだった。しかし、この2つの柱は今、危機に瀕している。
アメリカが同盟諸国を一貫して守る意思があるのかどうか疑念が深まるにつれ、一部の国は静かに選択肢の見直しを始めている。韓国では、独自の核抑止力獲得に関する議論が、これまで周縁的なものだったのが主流へと移行しつつある。日本では、かつては考えられなかったような議論が、戦略家たちの間で囁かれるようになっている。こうした動きが北東アジアで始まれば、そこで終わることはないだろう。
私たちは、管理された抑止力(managed deterrence)から競争的な再軍備(competitive rearmament)へ、制限(limits)から蓄積(accumulation)へ、予測可能性(predictability)から即興(improvisation)へと漂流しつつある。
何十年もの間、私たちは歴史上最も強力な兵器の脅威の下で暮らし、それらをどのように使ってはいけないかを不完全に学んだ。この成果は画期的なものだが、脆弱で、一時的なものに終わる可能性もある。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



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