古村治彦です。

 アメリカとイスラエルがイランに大規模攻撃を実施し、3カ月は経過した。アメリカとイスラエルは数週間で片が付く、うまくいけばイランの体制が崩壊し、中東地域はイスラエル一強状態になるという目論見で始めてみたがその通りにはいかなかった。このブログでも紹介したが、『ザ・フナイ』に掲載していただいた論考でも書いたが、イラン攻撃、イラン戦争は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相がアメリカのドナルド・トランプ大統領に売り込んで始まったものだ。ネタニヤフ首相がホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領を前にして、(1)イランの最高指導層を殺害、(2)イランの軍事力の弱体化、(3)イランの民衆の反対運動の促進(イスラエルの支援あり)、(4)イランの政権転覆(体制転換)という目標と実現可能性を、1時間にわたり、プレゼンテイションを行い、トランプ大統領を納得させた。アメリカ側のほかの政権幹部たちは誰も納得しなかったが。

 この売込みの中で、ネタニヤフ首相はトランプ大統領に対して、「これが中東地域における最後の戦争になる。トランプ大統領は中東地域に平和をもたらしたとして歴史に名前が残る。そして、アメリカからイスラエルに対して毎年実施されている軍事支援は必要なくなる」とも訴えた。イスラエルがハマスから攻撃を受け、報復攻撃を実施した2023年以降は2年間で約3.3兆円がアメリカから支援されている。これまでであれば年間で約6000億円程度であった。ちなみに日本とアメリカとイスラエルの防衛予算とGDPについてみてみると以下の通りとなる。

・日本の国家予算は約122兆円、防衛費は約10兆円、GDPは約677兆円(国家予算に占める割合約8%、対GDP比約1.47%)

・アメリカの国家予算は約1200兆円、防衛費は約135兆円、GDPは約4500兆円(国家予算に占める割合約11.25%、対GDP比約3%)

・イスラエルの国家予算は約43兆円、防衛費約5.6兆円、GDP約90兆円(国家予算に占める割合約13%、対GDP比6.2%)

 イスラエルにとってアメリカらの軍事支援は防衛予算において大きな割合を占める。しかし、アメリカ側か見ればこれは負担となる。アメリカが軍事支援をしなくて済むということになればこれはアメリカにとってはありがたいことだ。さらに、アメリカではこれまでイスラエル支持の世論が大きかったが、若い人たちを中心にしてイスラエル支持が低下している。これは、イスラエル国防軍がガザ地区、ヨルダン川西岸地区、レバノンなどで民間人殺害を行い、多くの犠牲者が出ていることを受けてのことだ。また、イスラエルが「ユダヤ人差別」を看板にして、「イスラエル批判」を封じ込め、やりたい放題をしているという見方も広がっている。そう下動きを受けて、民主党側からイスラエルへの軍事支援を停止するという動きも出ている。これまでであれば、アメリカ国内の強力な「イスラエル・ロビー」がそのような動きを封じ込めてきたが、それもできなくなりつつある。アメリカ側でも対イスラエルに関しては変化が起きている。

 イスラエルが極右勢力に引きずられ、「世界の同情を引いて生き残るよりも誇り高く滅びる」というようなことを言い立てて、傍若無人に振る舞うようであれば、世界から孤立する。イスラエルを支援することが不正行為に加担することと同義になれば、支援を得られにくくなる。それはアメリカも例外ではない。しかし、イスラエルは既に核兵器まで保有している。アメリカは自身の意に沿わない国々をならず者国家(rogue state)というラベリングをして攻撃してきた。しかし、アメリカ自身が、そして、アメリカという虎の威を借りる狐となっているイスラエルこそがならず者国家ではないかという考えが出てきている。イスラエルをそこまで付け上がらせたアメリカの責任は重い。

(貼り付けはじめ)

なぜアメリカがイスラエルへの軍事援助を縮小すべきなのか(Why the U.S. Should Wind Down Military Aid to Israel

-ワシントンはもはやイスラエルの不正行為に対して責任を負うべきではない。

スティーヴン・A・クック筆

2026年5月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/26/israel-united-states-military-aid-gaza-trump-netanyahu/

アメリカからイスラエルへの軍事援助と武器売却の削減または停止は、近年大きな注目を集めている。4月には、民主党所属連邦上院議員の大多数が、イスラエルへの2億9500万ドル相当の装甲ブルドーザーと1億5100ドル相当の1000ポンド爆弾の売却に反対票を投じた(売却自体は共和党側の圧倒的な支持を得て承認された)。これは劇的な変化だった。2023年10月にガザ戦争が始まって以来、バーニー・サンダース連邦上院議員は、アメリカがイスラエルに武器を売却することを阻止するための法案を4つ提出してきた。4月の採決では、民主党側の連邦上院議員の過半数がサンダース議員に賛同した初めての事例となった。

明らかに、民主党所属の連邦上院議員たちは、イスラエルによるガザ戦争の遂行と、ヨルダン川西岸地区の漸進的な併合(creeping annexation)に、ますます不快感を募らせている。しかし、イスラエルの行動を変えさせたり、あるいは制裁を加えたりするために、アメリカが毎年割り当てている38億ドルの援助をイスラエルに利用しようとする提案は、ハマスによる2023年10月7日の攻撃や、ベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる併合主義政権(annexationist government)の誕生以前から存在していた。2020年の米大統領選挙期間中、サンダース議員はネタニヤフ首相にパレスティナとの交渉を迫るため、援助に条件を付けることを提案した。大統領選挙期間中、民主党の大統領候補ピート・ブティジェッジは、イスラエルがヨルダン川西岸を併合すれば援助を打ち切ると示唆したが、後に撤回し、親パレスティナ活動家から批判を浴びた。エリザベス・ウォーレン連邦上院議員は、イスラエルが併合を進めた場合、援助停止を含め「あらゆる選択肢が検討対象だ(including suspending aid if Israel proceeded with annexation)」と宣言した。

私はイスラエルへの援助停止を支持する。私は2020年に『フォーリン・ポリシー』誌に初めてこの件について書き、その後、2024年にその考えをさらに発展させた。その際、イスラエルは先進的な工業経済を有し、一人当たりのGDPはアメリカのNATO加盟同盟諸国を上回っていると主張した。イスラエルは自力で費用を賄うことができるはずだ。したがって、2028年に更新され2038年まで続く、この援助に関する10年間の覚書(the

私だけが援助停止を支持しているのではない。イスラエルの元国会(クネセト)議員ヨッシ・ベイリンと元駐イスラエル米大使ダニエル・カーツァーは、2020年に『ナショナル・インタレスト』誌でこの考えを提起した。ヴィクトリア・コーツとロバート・グリーンウェイも、2025年のヘリテージ財団の報告書で同様の主張を展開し、アメリカン・エンタープライズ研究所のダニエル・サメットも『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙への寄稿で同様の意見を述べている。ネタニヤフ首相率いるリクード党所属のクネセト議員アミット・ハレヴィは、戦略的自立(strategic independence)を進めるために援助を段階的に廃止すべきだと一貫して主張してきた。

しかし、私自身もこの考えを支持しているが、考慮すべき問題点もいくつかある。まず、イスラエルへの援助に反対する人々は、しばしばこれを施し(a handout)だと批判するが、覚書ではイスラエルが援助資金の全額をアメリカで支出することが義務付けられており、これは数千もの雇用を支えている。批判者たちは、軍事援助はボーイングやレイセオンなどの雇用数以外の要素に基づいて決定されるべきだと主張しているが、これは決して間違っていない。とはいえ、イスラエルが今後10年間で380億ドルをアメリカに支出するのをやめれば、一部のアメリカ人が職を失う可能性は否定できない。これは、選挙区に雇用をもたらすことを責務とする連邦議会議員たちにとって難しい判断となるだろう。

第二に、援助を段階的に削減すれば、アメリカはイスラエルの不正行為への関与を減らすことになるだろうが、イスラエルが制約を受けるとは考えにくい。イスラエルがアメリカから1000ポンド爆弾を購入するのを止めたとしても、イスラエル国防軍(IDF)が爆弾を全く使用できなくなることはない。2025年初頭、イスラエル政府はエルビット・システムズ社に、これまでイスラエルが輸入していた重爆弾とその関連原材料の製造を委託する2件の契約(総額2億7400万ドル)を発注した。イスラエルが独立独歩(self-reliance)へと進むにつれ、ワシントンの影響力はさらに低下するだろう(もっとも、イスラエルに対するアメリカの影響力という考え方は概して誇張されていると考えられる)。

10月7日のテロ攻撃以降、そして一部のアメリカの政治家の反応を受けて、イスラエルは独立独歩の美徳を再認識しつつある。元財務大臣のネタニヤフ首相は昨年、「イスラエルはますます自給自足の特徴を持つ経済(an economy with autarkic characteristics)に適応していく必要があるだろう」と発言したが、この考えは行き過ぎだった。イスラエルは今後もアメリカから戦闘機などの高額品を購入したいと考えるだろう。しかし、イスラエルは弾薬や一部の兵器システムを自国で製造する能力を十分に備えている。実際、ドローン、対ドローンシステム、防空システム、人工知能技術といった、現在のウクライナとイランの戦争で不可欠となった兵器の製造において、イスラエルはすでに卓越した能力を発揮している。

最後に、イスラエルへの軍事援助の段階的廃止は、エジプトへの年間13億ドルの軍事援助に影響を与えるのだろうか? イスラエルへの制裁に躍起になっている連邦議員たちは、ワシントンとカイロの関係の価値について深く考えていないように思われる。アメリカ・エジプト間の戦略的関係は、1970年代初頭にアンワル・サダトがヘンリー・キッシンジャーに語ったような理想とは程遠いものだったことは認めよう。さらに、エジプトは長年にわたり人権侵害を繰り返しており、アメリカはスエズ運河を軍艦が優先的に通過できる特権のために費用を支払っており、エジプトは中国とロシアの両国と強固な関係を築いていることも認めよう。

一般に信じられている通説とは異なり、イスラエルとエジプトへの援助には正式な関連性はなく、1979年のエジプト・イスラエル平和条約、1978年のキャンプ・デイヴィッド合意、あるいは両合意に関連する覚書にも、援助に関する記述は一切ない。とはいえ、エジプトへの軍事援助は、エジプトとイスラエルの和平における非公式な支えとなってきた。イスラエル政府はこのことを認識しており、そのため、エジプトが連邦議会に対してロビー活動を行い、資金の流れを維持できるよう支援することもある。イスラエルへの援助が段階的に削減されれば、エジプトへの援助についても議論が始まる可能性が高い。

イスラエルへの援助が削減される一方で、エジプトへの援助は維持されるべきだと主張するには、和平協定に依拠しない論拠を見出す必要があるだろう。例えば、エジプトへの援助は地域安定への投資である、援助額は管理可能な範囲内である、援助の段階的削減はカイロを北京の懐に追いやる、といった主張が考えられる。こうした主張は理解できるが、説得力に欠ける。エジプトは長らく地域情勢を主導したり、方向付けたりすることができておらず、既に中国との関係が緊密になっている。中国は紅海沿岸のアイン・ソフナ近郊に大規模な工業地帯を保有し、スエズ運河地帯にも大規模な投資を行っているほか、カイロ近郊のラマダーン10日市やナイルデルタにも工業施設を構えている。最も説得力のある主張は、軍事援助は巨額の投資ではなく、ワシントンがカイロで一定の影響力を得るための手段であるという点かもしれないが、その主張でさえ、エジプトへの援助を縮小するよう求める圧力に耐えられるとは限らない。

米連邦議会議員、活動家、そして国民の一部が、イスラエルの実際の犯罪と認識されている犯罪の両方に対してイスラエルを罰したいと考えていることは明らかだ。アメリカの軍事支援を停止することの利点は明白だ。アメリカはもはやイスラエルの不正行為に直接関与することがなくなり、イスラエルに関するアメリカの議論から感情的な要素がいくらか軽減されるだろう。イスラエルとの距離を少し置くことは良いことだが、軍事支援を停止してもイスラエルの領土併合を阻止することはできないし、イスラエル国防軍の戦闘力を弱めることも、パレスティナ国家の樹立を実現させることもできない。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、外交問題評議会(the Council on Foreign RelationsCFR)のエニ・エンリコ・マッテイ記念中東・アフリカ研究上級研究員。最新刊に『野心の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、そして未来(The End of Ambition: America’s Past, Present, and Future in the Middle East)』がある。Xアカウント:@stevenacook

(貼り付け終わり)

(終わり)
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