古村治彦です。
アメリカとイランの和平交渉で重要な条件となっているのが、ホルムズ海峡の自由航行の保証である。イラン側はホルムズ海峡の管理を主張し、通行するタンカーから「通行料」を徴収するという考えを示している。これは、アメリカとイスラエルによる攻撃でイラン国内には大きな被害が出ており、その補償や修復のために使われるとされている。アメリカとイスラエルはイランに対する賠償金支払いを拒絶しているために、イラン側としてはこのような対応するしかないということになる。アメリカとイスラエルの大規模攻撃によって死傷した民間人に対する補償、民間や社会資本(インフラ)の修繕費や再建にかかる費用をきちんと支払うことが最優先されるべきだと私は考える。しかし、そんなことをすれば、トランプ政権もネタニヤフ政権も国内での支持基盤を失い、倒れてしまうことになるだろう。それなら倒れてしまえというのが私の主張だ。トランプにはJ・D・ヴァンス副大統領が控えている。イスラエルは極右勢力が退場しない限り、国家としての明るい未来はない。
ホルムズ海峡の通行料に関して、アメリカ側から、アメリカとイランで「共同管理」して、「通行料」を徴収するという案が4月上旬に出た。トランプらしい考えと提案だ。自分で攻撃をして、ホルムズ海峡封鎖という非常事態を引き起こしながら、その事態を利用して、「金儲け」をしようというのがしたたかである。さすがにこのような「みっともない」ことはできないとこの案は立ち消えとなり、トランプ大統領はそんなことは考えていないと強く否定した。しかし、そのような発言があったという事実は消えない。
アメリカは石油の純輸出国となっているので、国内の生産量で基本的には国内の需要を賄える。国際的な関係や設備の種類のこともあり、カナダや中南米諸国から石油を輸入している分もあるが、基本的には輸入量は少ない。しかし、イラン戦争開始によって、国内のガソリン価格は高騰し、戦争前は1ガロン(約3.785リットル)が平均で3ドルだったものが、戦争は4ドルを突破し、4.5ドルとなっている。アメリカでは生活費の高騰も進んでいるが(高いインフレ率となっている)、石油・ガソリン価格は押し上げ効果を持つ。トランプ大統領としては「掘れ、ひたすら掘れ」で、石油の生産量を増加させたいだろうが、そう簡単にはいかない。
アメリカはドルを世界の基軸通貨とし、アメリカ軍を世界各地に駐屯させて、アメリカの世界覇権国の地位を確立し、維持してきた。世界各国はそれらを利用することができた。アメリカは直接的な代価を受け取ることはなかった。日本は、在日アメリカ軍に「お番犬さま」の「餌料」をお支払いしている。日本が在日アメリカ軍に支払う費用(正式名称は同盟強靭化予算)は年間で約2100億円(2022年から5年間で約1兆5500億円)となっている。しかし、多くの場合、こうした直接的な代価の支払いはなかった。それは、アメリカは世界覇権国、世界帝国であることでの巨大な利益を得ていたからだ。トランプには、そうした前提知識はない。したがって、ハーヴァード大学教授スティーヴン・M・ウォルトが「略奪的覇権国(predatory hegemon)」と呼ぶような、直接的な代価を受け取るようなことを志向する。
アメリカが「略奪的覇権国」となるということは、世界覇権国としての末期を迎えているということになる。世界覇権国としての役割を果たすことが国力の面から厳しくなっているということを示している。これは「終わりの始まり」ということである。
(貼り付けはじめ)
アメリカの力は公海に支えられている(U.S. Power Rests on Open
Seas)
-ドナルド・トランプ大統領によるホルムズ海峡の金銭化発言は基本的な戦略的利益を損なう。
ファリード・ザカリア筆
2026年4月10日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/04/10/united-states-trump-iran-war-strait-hormuz-navigation-freedom-open-seas/
「美しいことだ」とドナルド・トランプ大統領は最近、ホルムズ海峡の門番役(the
gatekeepers)をイランと共同で担う構想について語った。同じ日、彼はトゥルース・ソーシャルに「交通渋滞(traffic buildup)」への対応で「巨額の利益が生まれるだろう」と投稿した。
これらの発言は示唆に富む。トランプはこれまでにも数々のとんでもない発言をしてきたが、これらの発言が彼の世界観(a worldview)を凝縮しているからだ。それは、アメリカが自らの役割をどのように捉えるかという変化を示唆している。すなわち、体制の保証人ではなく、取引の参加者(a participant in a deal)としての役割である。
アメリカは歴史の大部分において、これとは異なる見解を取ってきた。航行の自由(freedom
of navigation)は、売り渡すべき特権(a privilege to be sold)ではなく、守るべき権利(a right to be defended)として扱われてきた。若い共和国の最初の軍事介入(military intervention)を行ったフランスとの準戦争(the
quasi-war with France)は、アメリカの船舶航行への妨害が一因となっていた。その後間もなく、アメリカはバルバリア海賊と対峙し、安全な航行のための貢納を拒否し、代わりに武力を行使して、海上貿易は自由に行われるべきであるという原則を確立した。
この取り組みは時とともに深まっていった。現代において、アメリカは世界の海洋をパトロールし、ホルムズ海峡からマラッカ海峡に至るまで、重要なチョークポイント(choke points)の安全を確保してきた。これは通行料を徴収するためではなく、グローバル・コモンズ(global commons)を維持するために多大な費用をかけて行われてきた。開かれた海は自由な貿易を支え、ひいては成長(growth)、安定(stability)、そして最終的には平和(peace)を促進する。
トランプの考え方はそうではない。彼にとってホルムズ海峡は世界の動脈(a global
artery)ではなく、資産(an asset)、つまり収益化すべき対象(something to be monetized)だ。公共財(a public
good)として安全保障を提供するよりも、それをビジネスチャンスに変えた方が良いのではないか? 入場料を徴収できるのに、なぜシステムを維持する必要があるのか?
この考え方は、単なる言葉の裏に隠された、より根深いものだ。それは、国際関係を共通の秩序と価値観の管理ではなく、一連の取引と捉える、より広範な世界観を反映している。そのような世界では、あらゆる約束は交渉可能であり、あらゆる同盟は条件付きであり、あらゆる公共財は潜在的な利益源となる。
第二次世界大戦後、アメリカは地球上で最も強力な国家として台頭しただけでなく、ルール、開放性、協力に基づいた国際システムの設計者としても台頭した。ワシントンは自由貿易(free trade)を推進し、多国間機関を支援し、自国の国境をはるかに超える安全保障の傘を維持した。それは単なる利他主義(altruism)からではなく、そのようなシステムが自国の利益に資することを理解していたからである。
そして、実際にそうだった。開かれた市場と安全な海上航路のおかげで、アメリカを中心とした世界規模の商業が繁栄した。アメリカ企業は繁栄し、ドルは主要通貨となり、アメリカが外国からますます多くの資金を借り入れる一方で、国民の金利は低く抑えられた。アメリカの影響力は、強制ではなく、魅力と相互依存(attraction and interdependence)によって大陸を越えて広がった。(そして、強制を行った場合でも、その力は拡大するどころか縮小することが多かった。)
これら全てには、ある種の精神が必要だった。それは、目先の利益にとらわれず、長期的な優位性を見据えることだった。また、安全保障、制度、同盟といった分野への投資は、すぐに成果を上げないものの、数十年かけて大きな利益をもたらすことを受け入れることでもあった。そして、正当性と信頼(legitimacy and trust)が戦略的資産であることを理解することだった。
トランプのアプローチは、この論理を逆転させている。持続的なものよりも目先の利益を、無形のものよりも有形のものを優先する。同盟諸国に圧力をかけてより多くの負担を負わせることができれば、それは勝利だ。貿易相手国から譲歩を引き出すことができれば、それは成功だ。戦略的な約束を収益源に変えることができれば、なお良い。信頼性の低下、同盟関係の崩壊、信頼の喪失、システムの弱体化といったコストは、分散的で先送りされる(diffuse and deferred)。利益は即座に、そして目に見える形で得られる。
学者スティーヴン・ウォルトは、これを「略奪的覇権国(predatory hegemon)」の行動と呼んだ。実際、ほとんどの覇権国は略奪的だった。大国は交易路に課税し、貢納を徴収し、支配力を利用して直接的な利益を得てきた。ローマ帝国も、ハプスブルク家も、ナポレオン時代のフランスも、そして帝政ドイツもそうだった。自由主義的と見なされがちなイギリスでさえ、宗主国を豊かにする形で帝国を統治した。
アメリカ合衆国が他と異なっていたのは、自己利益を欠いていたからではなく、より広範な方法でそれを追求した点にある。アメリカは、幅広い利益をもたらすことで他国が参加できるシステムを構築した。力を行使しながらも、同時にその力を抑制した。言い換えれば、アメリカは啓蒙された覇権国(an enlightened hegemon)となることを選択した。つまり、支配を維持する最も確実な方法は、それを社会に受け入れられるものにすることだと理解していた。
その選択に現在、疑問が出ている。
ホルムズ海峡をグローバル・コモンズではなく、単なる通行料徴収所のように扱うことは、歴史と戦略の両方を誤解している。アメリカが最も利益を得るのは、船舶ごとに通行料を徴収することではなく、貿易が自由に流れ、ワシントンの中心的な地位が強化される世界を構築することである。短期的な利益のためにこのモデルを放棄することは、永続的な優位性を束の間の利益と引き換えにすることになる(To abandon that model for short-term extraction is to trade a
durable advantage for a fleeting gain)。
アメリカが単なる別の略奪的な覇権国(predatory hegemon)になれば、歴史が長年示してきたことを思い知ることになるだろう。そのような権力は恐れられ、反感を買って(resented)、最終的には抵抗を受ける。そして、いずれは維持されることなく、覆される。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
=====
●「船舶の「ホルムズ」通航料徴収、米イラン「共同事業」案…トランプ氏「素晴らしいものになる」と実現に意欲」
読売新聞 2026/04/09 11:20
https://www.yomiuri.co.jp/world/20260409-GYT1T00160/#google_vignette
【ワシントン=池田慶太】米国のトランプ大統領は8日、米ABCニュースのインタビューで、ホルムズ海峡を通過する船舶の通航料金徴収を米国とイランの「共同事業」とする案を検討していると述べた。
トランプ氏は、「共同事業」が海峡の安全を確保する方法の一つだとの認識を示し、実現すれば「素晴らしいものになる」と語った。
キャロライン・レビット大統領報道官は8日の記者会見で、共同事業案は「大統領の提案」と説明し、今後2週間で米国とイランの間で協議が行われるとの見通しを示した。「現時点での大統領の優先事項は、通航料の徴収などいかなる制限も設けずに海峡を再び開放することだ」とも指摘した。
一方、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は8日、イランが、米国と合意した2週間の停戦期間中、ホルムズ海峡を通過する全ての石油タンカーに対し、暗号資産(仮想通貨)で通航料の支払いを求めることを検討していると報じた。海峡での支配権を維持する狙いとみられる。
イランの石油やガスなどを輸出する業者組合の広報担当者の話として伝えた。通航料は原油1バレルあたり1ドルで、中身が空のタンカーは通航料を支払わずに通過できる。武器が移送されないように監視する目的もあるという。
イラン国会では、ホルムズ海峡の通航料徴収に関する法整備の審議が進んでおり、3月30日に草案が委員会で承認された。通航料の額は公表されていない。
(貼り付け終わり)
(終わり)


シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』



コメント