古村治彦です。

 2026年2月28日にアメリカとイスラエルによる大規模攻撃によって開始されたイラン戦争は、4月に停戦合意が結ばれ、その後は散発的に攻撃が行われているが、大規模な戦闘状態にはなっていない。ホルムズ海峡をイラン側、アメリカ側双方がコントロールするべく封鎖し、お互いの許可がない船舶に対しては攻撃が実施されている。石油価格の高騰や物資不足は世界規模で発生している。そうした中で、和平に関する「覚書(Memorandum of UnderstandingMOU)」への署名が早期に行われると報道されている。

 交渉の最大の焦点はホルムズ海峡の再開だ。イラン側は通行料徴収を継続したいが、アメリカ側は自由な航行を確保したいということで折り合いがつかなかった。イランとしてはホルムズ海峡の通糊料徴収を行いたい意向で、アメリカ側はそれに妥協するかどうかだ。アメリカ自体は中東地域からの石油に依存していないが、西側諸国は中東からの石油に依存していることもあり、ここで譲歩できる稼働は不透明だ。しかし、60日間の交渉期間でイラン側には一時的に制裁が解除されることになっている。そして、復興資金や即時現金給付がイラン側に支払われるということになっている。これが実質的な通行料の代替になる可能性とされ、合意に至る可能性もある。

 イランの核開発については、イラン国内で高濃度ウランの希釈を行い、その後に国外に運び出すということになっているようだ。トランプ大統領は現在イラン国内にあるウランに関してはイラン国内にとどめておくことに同意しており、イラン国内での処理で同意している。イランは繰り返し、核兵器開発は行わないとしており、核開発とウランに関しては合意に障害はないように思われる。

 イランとの合意内容について、アメリカ国内の対イラン強硬派は反発を強めている。確かに、彼らの視点(イランは武力で打倒すべき対象だ)からすれば、大幅な譲歩であり、実質的には敗北に近い。イランの体制を保証するような内容になることは、対イラン強硬派にとって受け入れがたいものとなるし、そもそもがイランと交渉をして、取引を行うことが許せないということになる。対イラン強硬派はトランプ大統領を支持してきた人々である。彼らからの反発はトランプ大統領にとっては痛手であるが、痛撃というほどのことはない。アメリカ国民の過半数がイラン戦争に反対している中で、イラン戦争終結に向けた動きを進めているのは国民の声に従っているということになる。

 イスラエルの存在も交渉にとっては難しい存在である。イラン側はイスラエルのレバノン攻撃停止を交渉の条件としている。トランプ大統領はイスラエルの動きに激怒し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を怒鳴りつけたということはすでにご紹介した。ヴァンス副大統領も3月の時点でネタニヤフ首相を電話会談で厳しく批判した。ネタニヤフ首相はレバノンへの攻撃を一時的に停止したが、レバノンの新イランのシーア派組織ヒズボラ解体を目指し、攻撃を続けることになるだろう。そうなれば、イラン側としては、「停戦条件違反」ということになり、合意からの離脱を行い、ホルムズ海峡封鎖を実施することになるだろう。アメリカとしてはイスラエルを止めたいところだが、このブログでも紹介している通り、イスラエルはアメリカの力で止めるには大きくなり過ぎた。

 今回の「覚書(Memorandum of UnderstandingMOU)」という形式は、合意(Agreement)からは一段落ちることになる。「この点は合意しました。この点は双方に相違点があることを理解し、明記します」という形式で、相違点についてはこれから交渉を続けることに合意するというものだ。法的拘束力がどうしても弱い。また、現在残っている相違点は、数カ月間の交渉でも合意に至らなかった「難所」である。完全な合意に向けては困難が待ち構えている。

(貼り付けはじめ)

詳細が明らかになりつつあるイランとの合意に対して批判が強まっている;知っておくべき5つのポイント(Knives come out for emerging Iran deal: 5 things to know

コリン・メイン、マロリー・ウィルソン筆

2026年6月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5921933-us-iran-agreement-details/

ドナルド・トランプ大統領は木曜日、ワシントンとテヘランの間で早ければ今週末にも署名される可能性があると述べた合意の詳細が明らかになるにつれ、対イラン強硬派がすでに警戒の目を向けている。

ワシントンの強硬な反イラン系シンクタンクである民主政治体制防衛財団(the Foundation for Defense of DemocraciesFDD)に所属する元財務省高官ミアド・マレキは、「イランとのいかなる合意も、交渉力が喪失すること(the leverage is out the window)意味する」と、ソーシャルプラットフォーム「X」への投稿の中で述べた。

トランプの他の著名な支持者で、戦争を支持してきたリンジー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)、FOXニューズの司会者マーク・レヴィン、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストでるマーク・ティーセンといった人々は、報道された内容に懸念を表明しつつ、より詳細な説明を求めている。

トランプ大統領は木曜日の朝、14項目からなる覚書を詳述したイランメディアの報道を否定した。

「イランのメディアが報じているいわゆる合意は虚偽(fake)だとトランプ大統領から聞いて私は大変喜んでいる。イラン側が述べている合意はひどいものになるだろうから(大統領がそれを否定してくれて)」とグラハムはXに投稿した。

これまでのところ、渡地たちが把握している合意内容は以下の通りだ。

(1)核兵器に関する約束は依然として曖昧だ(Nuclear commitments remain vague

金曜日、あるアメリカ政府高官は、合意に基づき、イランの高濃縮ウランは廃棄され、イランは核兵器を保有しないという長期的な約束をする可能性があると述べた。

イランは以前から核兵器開発を目指さないと表明しており、バラク・オバマ政権時代の合意でもまさにその約束をしていたが、トランプ大統領は1期目にこの合意から離脱した。

より重要なのは、イランが合意に基づきどのような行動を約束するかである。

トランプ大統領は、イランが兵器となるウランの備蓄を引き渡すことは交渉におけるレッドライン(最低ライン)だと述べているが、イランは今のところこれを拒否している。

妥協案となるであろうアイディアとしては、イラン国内で核物質を希釈、つまり「ダウン・ブレンディング(down-blending)」して、核兵器に使用できないようにすることだ。

しかし、トランプ大統領は木曜日、当面は地下に核物質を放置しておくことにも異論はないと示唆した。

トランプ大統領は大統領執務室で記者団から核物質に関する確約を得たのかという質問をされた。これ対して、「山の下に埋まっているから、誰も近づくことはできない」と答えた。

トランプ大統領は以前、昨年夏のアメリカとイスラエルによる空爆で激しい攻撃を受けた地下核施設からイランが核物質を回収しないよう、アメリカはイランを監視していると述べていた。

(2)制裁緩和に関する混乱したシグナル(Mixed signals on sanctions relief

複数のアメリカ政府当局者は、イランが特定の措置を履行するまで、資産凍結は解除されず、資金も受け取れないと述べている。

算定合意に関して、「イランが履行するまで、資金は一切解放されない」とあるアメリカ政府高官は木曜日に「ニューズネーション」に対し語った。

しかしながら、『アクシオス』誌によると、この合意は、現在進行中の交渉を待つ間、イランの石油輸出に対するアメリカの制裁を60日間免除するという内容が入っている。

これは、ホルムズ海峡におけるアメリカの封鎖によって麻痺状態に陥っているイランのエネルギー市場にとって極めて重要な経済的生命線(economic lifeline)となるだろう。

マレキは、60日後に制裁を再発動することは困難であり、アメリカは「60日間の猶予期間が失敗に終われば、外交的影響力が低下し、制裁執行姿勢も一時的に弱まる」と警告した。

イラン国営メディアは、この合意によってイランは復興資金(reconstruction money)として3000億ドル、さらに240億ドルの即時現金給付(an immediate cash)を受けることになると報じた。

トランプ大統領は木曜日、トゥルース・ソーシャルでこれらの報道を真っ向から否定したが、どの部分が事実と異なるのかは明言しなかった。

(3)ホルムズ海峡が再開される(Strait of Hormuz reopens

いかなる合意も、戦争と不安定な停戦期間中にほぼ閉鎖されていた重要なエネルギー回廊(the key energy corridor)であるホルムズ海峡の船舶航行の再開を双方が認めることを前提とするのはほぼ間違いないだろう。

『アクシオス』誌によると、現在の合意案では、イランは30日以内に通行料なしでホルムズ海峡を完全に再開する。その見返りとして、アメリカはイランの港を出入りする船舶に対する封鎖を解除する。

イラン国営メディアは、イランがホルムズ海峡の支配権を公式に放棄することはないだろうと報じている。いずれにせよ、イランはここ数カ月、ホルムズ海峡を封鎖し世界のエネルギー供給を混乱させることで、絶大な影響力を行使できることを証明してきた。

対イラン強硬派は、イランに再開条件を提示するのではなく、トランプ大統領にホルムズ海峡を武力で封鎖解除するよう強く求めている。アメリカはここ数週間、100隻以上のタンカーについて、密かに海峡を通過させているが、これは通常の航行量のごく一部に過ぎない。

エネルギー価格の高騰が3年ぶりの高インフレを招き、世界的な原油在庫の枯渇が経済苦境をさらに悪化させる恐れがあるため、トランプ大統領に対しては合意形成を求める国内からの圧力が高まっている。

トランプ大統領は、ホルムズ海峡が再開すればガソリン価格は急速に下落すると主張しているが、エネルギー専門家たちは、アメリカが戦前の水準にすぐに戻る可能性は低いと指摘している。

(4)いつどこで署名されるか(When and where

トランプ大統領は木曜日、記者団に対し、合意の署名は早ければ週末にも行われる可能性があり、場所はおそらくヨーロッパになると述べた。

トランプ大統領は出席できないと述べ、代わりにJD・ヴァンス副大統領を派遣するとした。また、義理の息子であるジャレッド・クシュナーと特使のスティーヴ・ウィトコフが合意に向けて「素晴らしい仕事をした(great job)」と称賛した。

合意はヨーロッパで署名される可能性もあるが、イランはパキスタンが交渉で中心的な役割を果たし、過去の協議を主催したことから、この暫定合意を「イスラマバード宣言(the Islamabad declaration)」と呼んでいる。

事情に詳しいある外交官がニューズネーションに語ったところによると、カタール代表団は水曜夜遅くまでテヘランで交渉を続け、最終的にアメリカとイランの最高指導者が受け入れ可能な文言で合意に達したという。

金曜日の報道によると、覚書の署名式はジュネーブで行われることが検討されている。ジュネーブは、トランプ大統領とアメリカ代表団が来週フランスで開催されるG7サミットに出席する場所から離れていない。

トランプ大統領は日曜日、ホワイトハウスでUFCイヴェントを開催し、誕生日を祝う予定だ。

(5)攻撃は継続する(Strikes continue

トランプ大統領が合意に楽観的な見方を示しているにもかかわらず、ある国防総省当局者によると、アメリカ軍は木曜夜、海峡で船舶を標的にしていたイランの攻撃ドローン2機を撃墜した。

大統領は金曜、自身のソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルへの投稿でこの行動を批判し、イランが国営メディアを通じて発表した合意内容も非難した。

「彼らとは誠意をもって交渉するなどということはあり得ない。“驚きだ!”」とトランプは書き込んだ。「さらに、昨夜ホルムズ海峡を出港するインド船に対するドローン攻撃は完全に撃退されたが、“これは全く容認できない”。彼らは“すぐに”態度を改めるべきだ!」。

トランプ大統領は木曜日、イランへの攻撃を示唆し、カーグ島と石油関連施設を次の標的にすると警告していた。しかし、同日中にこの脅迫を撤回し、両国は和平合意に近づいていると述べた。

今回の攻撃は、アメリカ軍アパッチヘリコプター撃墜事件を受けてアメリカが火曜日と水曜日にイランを攻撃したのに続き、今週3度目の攻撃となるはずだった。

イラン最高指導者直属の準軍事組織であるイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps)は、これらの攻撃への報復として、ヨルダン、クウェート、バーレーンのアメリカ軍基地を標的にしたと発表した。

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戦闘終結に向けた合意はホルムズ海峡の再開につながるとイランは述べている(Deal to end fighting would lead to Hormuz reopening, Iran says

ガリー・オドネル(北アメリカ担当上級特派員、ワシントンDC)、オリヴィア・アイルランド筆

2026年6月12日

BBC
https://www.bbc.com/news/articles/c39y02x98k8o

イラン外相は、アメリカとの間でイラン戦争終結に向けた合意が間近に迫っており、ホルムズ海峡の再開も含まれると述べた。

セイイェド・アッバス・アラグチ外相は国営テレビに対し、合意にはアメリカによるイランへの海上封鎖解除も含まれるが、イランの核開発計画に関する協議は後日開始されると語った。

複数のアメリカ政府当局者は合意内容の一部を確認し、イランへの経済的利益はテヘランが義務を履行するかどうかにかかっていると述べた。

イラン戦争は2月28日、アメリカとイスラエルによるイラン全土への空爆で始まり、これを受けてイランはイスラエルとペルシア湾岸のアメリカの同盟諸国を攻撃し、世界の石油と液化天然ガスの主要輸送路であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。

4月に停戦合意に至ったにもかかわらず、アメリカとイランは断続的に交戦を続けており、今週も2度にわたり報復攻撃が行われた。

ドナルド・トランプ米大統領は木曜日、交渉担当者たちが「素晴らしい合意に達した(just made a great settlement)」ため、イランに対する「予定されていた攻撃(scheduled attacks)」を中止したと述べた。この合意は間もなく署名される見込みだ。

金曜日、イランのメディアは、トランプ大統領が「合意された条件とは全く関係がなく」「真実とは無関係だ」と述べたとされる14項目の合意内容の一部を報じた。

数時間後、合意の仲介役を務めたパキスタンのシャバズ・シャリフ首相は、アメリカとイランの間で覚書(the Memorandum of UnderstandingMOU)が合意され、最終承認(finalising)を待っていると述べた。

イランのアラグチ外相は国営メディアに対し、イランの最高安全保障機関である最高国家安全保障会議(Supreme National Security CouncilSNSC)内には、合意の最新条項について「賛成派と反対派(supporters and opponents)」が存在すると述べた。

しかし、アラグチ外相は集団的な決定には至っていないと付け加えた。「今は待つしかない。承認されれば、合意は遠隔で署名されるだろう」と述べた。

イスラエルは、停戦延長とイランの核開発計画を含む主要問題に関する交渉開始を目指す今回の協議には参加していない。イランは数十年にわたり、西側諸国から核兵器開発を企てていると非難されてきた。イラン側は、核開発計画は発電や研究といった平和目的のためだと主張し、これらの非難を否定している。

金曜日午後、複数のアメリカ政府当局者は記者団に対し詳細な説明を行い、今回の合意によってホルムズ海峡が再開される代わりに、アメリカはイラン船舶に対する海上封鎖を解除すると述べた。

これらの措置はほぼ即座に発効する見込みだ。その後、60日間の交渉期間が設けられ、原子爆弾製造に不可欠なイランの濃縮ウラン問題に焦点が当てられる。アメリカ政府当局者によると、この交渉の結果、濃縮ウランは全て現地で破壊され、その後国外に搬出される予定だが、具体的な実施方法はまだ検討中だ。

経済面では、アメリカ政府当局者は、前払い金は一切提供されないことを強調した。これは、本格的な交渉開始前にイランの資産の一部が凍結解除されるという、以前のイランの報道を明らかに否定するものだ。

複数のアメリカ政府当局者によると、制裁解除や資産凍結解除などの措置は段階的に実施され、イランは段階的に世界経済に再統合される見込みだ。

この合意では、イランが地域内の代理勢力[proxy groups](ヒズボラをはじめとする中東各地のイラン系代理勢力)への資金提供を停止することが求められている。

複数のアメリカ政府当局者は、この覚書は信頼や約束に基づくものではなく、「履行(performance)」に基づくものであると強調した。イランは、約束した措置を履行したことが確認された場合にのみ、経済的利益を得られることになる。

アメリカ、イラン、パキスタン、そして仲介努力に貢献したカタールなど、関係各国は慎重ながらも楽観的な見方を示しているものの、解決にはまだ道のりは遠い。この合意案は過去1、2カ月の間に何度か修正案が提示されたものの、いずれも最終段階で頓挫している。

トランプ政権関係者によれば、今回の違いは、合意内容に対する楽観的な見方と、その内容に関する透明性の向上にある。

一方、イラン外相は「交渉の最終段階が完了次第、この合意は署名され、発表されるだろう」と述べた。

アラグチ外相はイラン国営テレビに対して「数日中に実現する可能性がある。私は非常に期待している」と語った。

アラグチ外相は、覚書(MOU)で最初に言及されたのは、アメリカによるイランへの海上封鎖の解除であると強調した。

世界の石油と液化天然ガスの約20%が通過する重要な航路であるホルムズ海峡について、アラグチ外相は「その管理は以前とは全く異なるものになるだろう」と述べた。ホルムズ海峡を封鎖して以来、イランは通過を希望する船舶に通行料の支払いを要求してきたが、アメリカは全ての船舶の通行を無料にすべきだと主張してきた。

イラン政府高官はまた、この覚書はイスラエルとレバノンのヒズボラ間の紛争終結を想定していると述べた。アメリカ国内の以前の報道では、イランがレバノンをこの合意に含めないことを強く主張しているため、レバノンはこの合意に含まれない可能性があると示唆されていた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ヒズボラがイスラエル北部への攻撃を続けるならば、イスラエルはヒズボラを攻撃すると述べている。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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