古村治彦です。
2026年6月14日、アメリカとイランは停戦を60日間延長する覚書の内容に合意したと発表した。停戦期間中に核開発に関する交渉が継続される。ホルムズ海峡については開放されるようだが、イラン側が強く主張してきた管理権と通行料徴収については撤回されたのかどうかが明確になっていない。覚書への署名は金曜日に実施されるが、それまでにどうなるか、また、覚書で定められた60日間の間で不測の事態が発生して、停戦が破られるということも考えられる。予断を許さない状況だ。喜んでばかりもいられない。
覚書には、全ての戦線で戦闘が停止されるとある。これにはレバノンも含まれるとなっている。イスラエルはレバノン南部への攻撃を続けている。レバノンを拠点とする親イランのシーア派組織ヒズボラを弱体化させるための攻撃であるが、レバノン国内に大きな被害が出ている。イランはイスラエルのレバノン攻撃が停止されなければ交渉は行わないという姿勢を見せてアメリカを揺さぶった。ドナルド・トランプ大統領はこの揺さぶりを受けて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に停戦を迫った。非常に激しい、外交の場ではまず使われない言葉でネタニヤフ首相を批判した。ネタニヤフ首相は仕方なく一時停戦したが、合意直前にレバノン攻撃を再開し、それに対して、イランがイスラエルへの攻撃を準備し、和平交渉でアメリカ側は攻撃停止を求めて奔走した。結果としてはイランからのイスラエル攻撃は実施されなかったが、イスラエルが合意に悪影響を及ぼす存在であり、合意の成否のカギを握る存在になっている。
イラン戦争はトランプの戦争ではなく、ネタニヤフの戦争であった。アメリカ側がイランに対して差し迫っての脅威を感じての攻撃ではなかった。イスラエルが中東地域で支配的な地位を確立するための戦争であった。イスラエル単独ではイランに大打撃を与えられないので、アメリカを巻き込むしかなかった。そのためには、浅慮で単純なトランプは格好の標的であった。トランプ政権ではトランプとピート・ヘグセス国防長官以外は反対したイラン戦争はトランプの決断によって開始された。そして、政権幹部たちが揃って予想していた通りに見事に失敗した。トランプはネタニヤフに騙されて、誤った戦争を開始して、イランや世界の人々に対して苦しみを与えた責任がある。ネタニヤフは自身が裁判を回避するために、イスラエルをひたすら戦争状態に置き続け、こちらも世界の人々に苦しみを与えているという責任がある。トランプはイラン戦争の責任をネタニヤフにおっかぶせようとしているが、トランプの責任がそれで消える訳ではない。
イスラエルがアメリカとイランの停戦合意の覚書の成否のカギを握っているということになる。この戦争を終わらせるかどうかはネタニヤフにかかっているということになる。ネタニヤフにとってはアメリカがイラン戦争と中東地域への責任から抜けられないようにして、戦争が続くことが最良である。それは、世界にとっては最悪であるが。トランプは自分では終わらせることができない戦争を始めてしまった。その不明は万死に値する。1日も早い引退こそが望ましい。
(貼り付けはじめ)
ドナルド・トランプは自分ではコントロールできない戦争を始めた(Trump
Started a War He Can’t Control)
-トランプはイラン戦争を終わらせたい。しかし、イラン、イスラエル、そしてヒズボラはそれぞれが別の考えを持っている。
ジョン・ホルティワンガー筆
2026年6月8日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/06/08/trump-israel-lebanon-iran-netanyahu-cease-fire-peace-negotiations/
ドナルド・トランプ米大統領は、数カ月にわたる和平合意に向けた努力が失敗に終わった後も、依然として主導権を握っていると主張しているにもかかわらず、イラン戦争において傍観者のような立場に追いやられている。自分が事態を掌握しているかのように見せかけ、現場の複雑な現実を否定することで、合意はますます困難になっている。
トランプ大統領が戦争の方向性を決定づける能力が限られていることは、4月初旬に停戦が始まって以来初めてイスラエルとイランが交戦した昨夜の出来事によって明らかになった。トランプ大統領が「不満だ(not happy)」と述べた日曜日のイスラエルによるベイルート攻撃の後、イランはイスラエルに向けて弾道ミサイルを発射した。イランのミサイルは迎撃され、死傷者やインフラへの被害は報告されていない。イランのミサイル攻撃後、トランプ大統領は事態を掌握しており、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に報復攻撃を控えるよう要請すると示唆した。「私が指示を出している。私が全ての指示を出している。彼(ネタニヤフ)は指示を出していない」とトランプ大統領は『フィナンシャル・タイムズ』紙に語った。
しかし、イスラエルは最終的にイラン全土への報復攻撃(retaliatory
strikes)を進めた。イスラエルのイェヒエル・ライター駐米大使はXに「イランはイスラエルに向けて11発の弾道ミサイルを発射した」と書き、「世界中のどの国もこのような攻撃を容認しないだろうし、イスラエルも容認しない。イスラエルは現在、イランの地対地ミサイル発射基地を標的にしている」と付け加えた。
月曜日、トランプ大統領はイスラエルとイランの双方に即時停戦を呼びかけ、両国は当面の間、互いに攻撃を停止した。しかし、イランはレバノン南部を含む地域での攻撃が続けば、「はるかに厳しく、壊滅的な措置(far more severe and crushing measures)」を取ると警告した。一方、イスラエルはヒズボラとの戦闘を継続すると表明している。
トランプ大統領が和平合意を急ぎ、全面戦争の再発を回避しようとする中、イランはホルムズ海峡をめぐる膠着状態(およびそれに伴うエネルギー危機)とイスラエルのレバノン侵攻を交渉における切り札として利用できることを認識しているようだ。
イスラエルのテルアビブ大学傘下のシンクタンクである国家安全保障研究所(the Institute for National Security Studies、INSS)の研究員オフェル・シェラは、「テヘランは中東地域に新たな方程式(equation)を確立した。イスラエルによるヒズボラへの攻撃が、イランによるイスラエル攻撃の引き金となる可能性がある」と指摘する。
この状況は、トランプ大統領が中東地域における複雑に絡み合った難題を解決しようとする中で、今後も直面するだろう困難さを物語っている。アメリカはイスラエルの最も緊密な同盟国ではあるが、イスラエルの指導者に対するワシントンの影響力はそこまで大きくはない(Washington’s influence over Israeli leaders only goes so far)。
ホワイトハウスはレバノン紛争に関する声明の中で、イスラエルの自衛権を擁護し続けている。しかし、イランとの戦争からの脱却策を模索し続けるトランプ大統領にとって、これは依然として頭痛を与えている。イラン戦争によってトランプ大統領の支持率を急落しており、11月の中間選挙で共和党に悪影響を与える可能性もある。
トランプ政権はレバノン紛争とイラン戦争を切り離そうと努めてきたが、イランはレバノンでの敵対行為の停止を和平合意の条件としている。先週火曜日、マルコ・ルビオ国務長官は複数の連邦上院議員に対して、「私たちはレバノンとイスラエルの協議をイランとは別個のものとして捉えようとしているが、イランはそれらを一緒にして混ぜてしまおうとしている」と語った。
トランプ大統領は、イスラエルがヒズボラに対する作戦をエスカレートさせていることに対し、ネタニヤフ首相への苛立ちを露わにしている。報道によると、トランプ大統領はレバノン情勢に関する最近の電話会談で、ネタニヤフ首相を罵倒し、感謝が足りないと非難したということだ。
しかし、ネタニヤフ首相には、より身近な問題も考慮しなければならない。支持率が低迷し、総選挙が目前に迫る中、自身の政治的将来を懸けて戦っているイスラエルの首相は、ヒズボラへの攻撃を継続し、攻撃を控えるよう求めるワシントンの要請を無視するよう、国内から強い圧力を受けている。
ヒズボラの攻撃を最も受けてきたイスラエル北部の住民は、特にネタニヤフ首相を批判しており、さらに強硬な姿勢を取るよう求めている。これはイスラエル全土で広く共有されている感情だ。5月下旬に国家安全保障研究所(イスラエル社会調査研究所)が発表した世論調査によると、イスラエル国民の過半数(59%)が、ヒズボラとの戦闘を強化すべきだと考えている。
トランプ大統領がネタニヤフ首相に対し、イランとの和平合意の可能性を損なわないようレバノンへの攻撃を控えるよう促したことは、イラン戦争とレバノン紛争の2つの問題が切り離せないというテヘランの立場を強めるばかりだ。そして実際、レバノン紛争とイラン戦争は根本的に結びついている。イスラエルとヒズボラは長年にわたり断続的に戦闘を繰り広げてきたが、今回の紛争はイラン戦争の勃発後に始まった。
イラン戦争の停戦合意が成立した当初から、レバノン問題がトランプ大統領にとって厄介な存在となり、最終的な合意の障害となることは明らかだった。アメリカとイスラエルが当初、レバノンを合意に含めることを拒否したため、停戦は崩壊寸前まで追い込まれた。イスラエルとレバノンは最終的に4月中旬に停戦協定に署名したが、情勢は依然として緊迫しており、ヒズボラとイスラエル軍の間ではその後も銃撃戦が続いている。
政治組織としても武装組織としてもレバノンで絶大な影響力を持つヒズボラは、武装解除の要求を拒否している。レバノン軍はヒズボラに武装解除を強要する能力がないと広く見なされており、ネタニヤフ首相はこれをイスラエル軍のレバノン駐留と活動継続の正当化の理由として挙げている。
前述のシェラは、「ネタニヤフ首相、そしてイスラエルが今理解しているのは、トランプ大統領にとって戦争は終わったということ、そして彼が今唯一気にしているのは、戦争終結を宣言できるようなイランとの何らかの和解だけだということだ」と述べている。
シェラによると、1月に当時のヴェネズエラ大統領ニコラス・マドゥロを拘束した作戦の成功後、トランプ大統領はイランで「容易な勝利(easy victory)」を収めるチャンスを見出したという。しかし、この「マドゥロ状況(Maduro situation)」は実現せず、トランプ大統領は関心を失い、次の段階に進みたいと考えているようだとシェラは付け加えた。だが、トランプ大統領以前の複数の米大統領が既に経験しているように、中東地域での戦争は容易には抜け出せない泥沼(quagmires)へと陥る傾向がある。
※ジョン・ホルティワンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@jchaltiwanger.bsky.social、 Xアカウント:@jchaltiwanger
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