古村治彦です。

 アメリカとイランとの間で60日間の停戦とその間で核開発に関する交渉を行うという覚書が交わされたが、その後、ホルムズ海峡ではアメリカとイラン双方による攻撃が続いている。事態は沈静化に進んでいない。ドナルド・トランプ大統領はイランが自分の暗殺を企てており、もし暗殺されれば、イランに対してこれまでにない規模の攻撃を実施するように指示しているという報道も出ている。イランがトランプ大統領を暗殺するメリットはないが、そのような話も出てきており、せっかく和平に向けた動きとなっているのに、予断を許さない状況となっている。戦争継続を望むイスラエル、そして、イランとアメリカのそれぞれの強硬派が状況を悪化させているということも考えられる。

 そもそも、アメリカは、イラン革命発生、そして、イスラム共和国成立後のイランの存在を正式には認めていない。外交関係もない。しかし、実際にはこれまで非公式には交渉や取引を実施している。古くはロナルド・レーガン大統領時代のイラン・コントラ事件、新しくはバラク・オバマ大統領時代の核開発をめぐる合意成立である。

イラン・コントラ事件は複雑な事件だ。まず、1985年にレバノンでシーア派組織ヒズボラにアメリカ人兵士が捕らえられた。その解放を目的として、アメリカ側はイラン側と交渉を行い、裏取引を行った。当時、イラン・イラク戦争で劣勢に立っていたイランに対して、アメリカは武器を供与するという条件を出した。当時、イラン・イラク戦争で、アメリカはイラクのサダム・フセイン政権を支援していた。そして、実際にアメリカ側からイランへ武器を売却された。この武器の代金は、ニカラグアの反共右派ゲリラ「コントラ」への支援に流用された。アメリカは支援していたイラクを裏切り、イランと交渉して武器を売却するという取引を行っていた。しかし、表向きにはイランと敵対し、イランを激しく非難していた。「敵と裏でつながる」ということは政治の世界では必要なことである。オバマ政権はイラン側と交渉し、核兵器開発につながる核開発を断念させる代わりに、アメリカから支援を行うということで合意に達した。アメリカにとってイランのイスラム革命政権は不倶戴天の敵であったが、交渉相手として認め、その生存を認めるということになった。

 今年、アメリカとイスラエルはイランの体制転換(regime change、レジーム・チェンジ)を引き起こそうとして、大規模な攻撃を行ったが、その目的を達成することはできなかった。イランからは手ひどい反撃を受け、ホルムズ海峡の封鎖が実施され、世界経済にも大打撃を与えている。そして、アメリカのドナルド・トランプ大統領は体制転換をしようとした相手であるイスラム革命政権と交渉をしなければならなくなった。これはとんだ赤っ恥であり、実質的な敗北である。存在を認めないと攻撃をした相手と交渉をして、譲歩もしなければならなくなった。イラン側から見れば、これは千載一遇の好機である。この機会を最大限に利用するというのは当然のことである。そして、このような隙を与えたアメリカのドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の責任は極めて大きく、それぞれ指導者の地位から退任して責任を取るということも必要になってくる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンが解決を拒むイランのディレンマ(The Iran Dilemma Washington Refuses to Resolve

-アメリカの政策において2つの目標が半世紀近くにわたり対立し続けてきた。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/08/iran-war-united-states-nuclear-weapons-regime-change-donald-trump-foreign-policy/

なぜ世界最強の国が、経済制裁(economic sanctions)や軍事攻撃(military strikes)で疲弊した、はるかに小さく弱い国に対して、自らの意図通りに事を運べないのだろうか? アメリカが直面するイラン問題の構図を理解する最も単純な方法は、ゲーム理論(game theory)を用いることだ。ドナルド・トランプ大統領は、イランとの間で「チキンゲーム(a game of “chicken”)」(2人のドライヴァーが互いに正面から車を走らせて衝突を避ける度胸試し)を演じる道を選んだ。こうした状況では、一方にとっての賭け金(stakes)が国家の存亡に関わるものであるのに対し、もう一方にとってはそれほど大きくない場合、通常は賭け金のより大きい側が勝利を収める。イランの現体制にとって、もし敗北すれば、体制が崩壊し、指導者たちが殺害される可能性が高いからだ。一方、トランプにとっての代償といえば、マール・ア・ラーゴ(別荘)で不快な週末を過ごす程度のことだろう。このチキンゲームにおいて、なぜイラン側の方がハンドルを固定して譲らない覚悟を決めやすいのかは明らかだ。

しかし、アメリカがイランへの対応にこれほど苦労しているのには、トランプや今回の無謀な対立といった個別の事案を超えた、より根本的な理由がある。イランでイスラム体制が権力を掌握して以来、アメリカはその扱いをめぐって常に2つの相反する姿勢の間で揺れ動いてきた。一方では、人質の解放から核開発の制限に至るまで、解決を望む具体的な課題を抱えている。しかし他方では、単なる交渉相手としてではなく、体制そのものの打倒を望んでもいる。これら2つの態度の間にある緊張関係は、半世紀近くにわたりアメリカの外交政策の根底に流れてきた。ワシントンが求めているのは、イランの特定の政策を変えることなのか、それともイランという国そのものを変えることなのだろうか?

もしワシントンがテヘランと交渉すれば、必然的に「ギブ・アンド・テイク(a give-and-take)」が生じ、双方が譲歩(concessions)し、敵対関係もいくぶん緩和されることになる。何よりも、交渉に関与するということは、アメリカ政府がイスラム共和国にある程度の正当性を与え、対等な交渉相手として扱い、国際舞台においてイランの現体制がイランを代表する存在であることを認めることになる。しかし、こうした承認は、アメリカのエリート層の一部にとっては受け入れがたいものだ。彼らは、イスラム共和国は正当ではない存在であり、本来あるべきではないと考え、ワシントンがとるべき唯一の政策は体制の打倒であると信じているからだ。それにもかかわらず、ワシントンが望むもののうち、イランにしか実現できない事柄が存在する。だからこそ、ロナルド・レーガン大統領でさえ、公の場ではイランの聖職者たちを激しく非難しながら、裏では彼らと秘密裏に交渉を行っていたのだ。

トランプの対イラン政策に見られる緊張関係は、ほぼ日常的に目にすることができる。あるソーシャルメディアへの投稿では、イランの文明を破壊し、47年にわたる「悪(evil)」に終止符を打つと脅しをかける一方で、同じ日に別の投稿では、イランとの交渉が進展していると語ることもある。トランプは交渉の席に着き、合意に向けて楽観的な姿勢を見せたかと思えば、交渉の合間にテヘランとの戦争を始めたり、イラン国民に政権打倒を促したりしている。そして1週間もしないうちに、自身の要求を受け入れればイランには明るい未来が待っていると約束する。

アメリカはかつて、ソヴィエト連邦に対しても同様に矛盾した態度をとっていた。1917年に共産主義者たちがロシアの権力を掌握すると、ワシントンは関係を断絶し、小規模ながらも政権転覆を試みることさえあった。ソ連の存在を承認し、モスクワと大使を交換するに至ったのは、それから16年近く経って、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領の代になってからのことだった。第二次世界大戦後、再び緊張が高まった。1970年代、ヘンリー・キッシンジャーによる対ソ交渉政策は、「悪の帝国(an evil empire)」の地位を強化するものと見なされ、右派から激しい批判を浴びた。それに対するキッシンジャーの答えは常に次のようなものだった。アメリカはソ連とイデオロギー的に対立しているものの、核兵器の管理といった特定の国益に関しては、モスクワとの合意なしには対処できないというものだった。

イランをめぐる議論において、キッシンジャーに相当する役割を果たしたのはバラク・オバマ大統領だった。オバマ政権こそが、ある種の決断を下した政権だった。オバマ政権は、イランに別の体制が望ましいとは考えつつも、アメリカの国益に対する最大の脅威(ソ連の場合と同様、核兵器が関わる問題)に対処するには、現行の体制と向き合うほかないと判断した。イラン核合意は、イランの外交政策の中で最も危険な要素を取り上げ、無力化しようとする試みであり、その点では成功を収めた。しかし、保守派の多くにとっては、その代償として、ある意味でイラン体制を正当化してしまうという問題があった。そこで、トランプは合意から離脱したが、その結果、ハッサン・ロウハニ大統領の求心力が低下し、テヘランでは強硬派が復権してウラン濃縮活動を拡大させる事態となった。こうしてトランプは、再び同じディレンマに直面することになった。すなわち、「合意を結ぶべきか、それとも強硬な姿勢を貫くべきか?」での間の選択だ。

現時点において、トランプが合意を望んでいることは明らかだ。しかし、合意に至る過程で、彼は結果として、イラン・イスラム共和国が47年間にわたって追い求めてきたものを与えてしまうことになるかもしれない。それは、アメリカ国内の最も強硬な勢力からさえも「無条件に認められる」という地位だ。テヘランにとって、それこそは多くの譲歩をしてでも手に入れる価値のある「賞品(a prize)」なのだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



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