古村治彦です。

 イラン戦争については、2026年6月19日に停戦に関する覚書に署名がなされて、一応停戦することになった。60日間の間にイランの核開発をめぐる交渉を行い、最終的な和平合意に向けて進むことになっていた。これは、戦争の終結を意味していない。あくまで一時的な停戦、休戦(truce)でしかない。実際に、覚書の照明が実施された後も、アメリカとイラン双方による攻撃が続いている。さらに、ペルシア湾のチョークポイントであるホルムズ海峡の封鎖に関する状況も不透明となっている。加えて、迂回航路となっている紅海のバブ・エル・マンデブ海峡(Bab al-Mandab Strait)で、イエメンの親イラン勢力フーシ派によるサウジアラビアのタンカー攻撃が発生した。フーシ派による紅海封鎖ということになり、世界経済への影響もさらに深刻化する。繰り返しになるが、イラン戦争はまだ終わっていない。

 覚書の内容を見れば、アメリカの大幅な譲歩(concession)である。大規模な攻撃直後に、アメリカのドナルド・トランプ大統領もイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が主張した、イラン国内の体制転換(regime change)を達成することができず、イランの反撃能力を排除することもできず、イランによるホルムズ海峡封鎖を引き起こし、世界経済への悪影響を生み出すことになってしまった。イラン戦争は失敗である。核兵器開発を止めた、止めたと宣伝しているが、攻撃前にイランが核兵器を開発したということはなく、核兵器開発に関しては交渉で止めることは可能であった。イラン戦争の意味はなく、かえって、アメリカとイスラエルにとっては「敗北」に近いものとなった。

アメリカの交渉担当は、トランプ大統領の古くからの盟友でビジネス経験豊富のスティーヴ・ウィトコフとトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーである。彼らは「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というビジネス的な手法を用い、イランに対し「ウラン濃縮停止や革命の輸出停止と引き換えに、3000億ドル規模の民間投資や近代化」を提示している。カタールの特使アル・サワディが交渉のキーマンとなり、交渉の仲介し、ペルシア以来の「時間をかけて相手を消耗させる交渉術」やイランの複雑な官僚機構・内部事情を深く理解しながら調整を行っているということだ。イラン国内では、現実的な最終合意を目指す勢力(ガリバフ国会議長など)と革命路線を維持しようとする強硬派との間で権力闘争が激化している。

 イランが近代的な中央集権的な国家体制ではないところが交渉において難しいポイントになる。そうした中で、何とか戦争の「出口(exit)」を見つけることが必要だ。イラン戦争だけではないが、どの戦争でもそうだが、戦争は終わることが何よりも難しいということになる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ政権はいかにしてイランからの出口を構築したか(How the Trump Administration Built Its Exit Ramp in Iran

-紆余曲折を経た交渉(zigzag bargaining)が投資家への売り込み(an investor pitch)を脆弱な和平合意(a fragile peace deal)へと変化させた。

デイヴィッド・イグナティウス筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/trump-iran-cease-fire-deal-nuclear-program-negotiation-hormuz/

アメリカとアラブ諸国の交渉担当者たちが、過去5カ月にわたるイランとの長きにわたる紆余曲折の交渉の内幕を語るのを聞いていると、日曜日に発表された枠組みは、この物語の終着点ではなく、中間段階に過ぎないという印象を受ける。それは、最終的には惨憺たる失敗に終わる可能性もあれば、トランプ政権が期待するように、近代イランへの劇的な変革の始まりとなる可能性もある。

率直に言って、外交的に言えば、この合意は、多大な犠牲を伴い、国民の支持も得られなかった戦争からの出口(an exit ramp)であり、勝利のパレード(a victory parade)ではない。この合意は、ドナルド・トランプ大統領が当初語っていた政権交代(regime change)や無条件降伏(unconditional surrender)には足りない。トランプ大統領の側近の一人でさえ、「現時点では結論は出ていない。大成功とも失敗とも言えない」と認めている。

答えよりも疑問点の方が多い。テヘランの核開発計画を制限する具体的な内容はまだ交渉されていない。ホルムズ海峡は再開されつつあるが、それは一時的なものに過ぎないかもしれない。合意はレバノンに適用されるようだが、イスラエルやヒズボラがそれに従うとは限らない。そして何よりも懸念されるのは、テヘランに強硬派政権(a hard-line regime)が依然として存在し、アラブ諸国やイスラエルを脅かす力を持っていることだ。

アメリカ側の主要な交渉担当者は、トランプ大統領の特使であるジャレッド・クシュナーとスティーヴ・ウィトコフだ。それぞれ大統領の義理の息子と親友である。彼らは外交官ではなく投資家である。そのため、この交渉は特異なリスクとリターンの性質(a peculiar risk-reward character)を呈している。外交官のブリーフィングというよりは、投資家への売り込み(an investor pitch rather than a diplomat’s brief)という様子だ。「形式的な手続きを踏む(check the boxes)」のではなく、「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というテーマが中心となっている。

交渉関係者によると、クシュナーは4月にイスラマバードでイランのモハマド・バゲル・ガリバフ国会議長と会談した際、「ロールス・ロイス並みの価格を望むなら、ロールス・ロイス並みの製品が必要だ」と率直に告げたという。つまり、イランがホルムズ海峡の開放を維持し、ウラン濃縮を20年間停止し、革命輸出を止めれば、数千億ドルもの利益を得られるということだ。

アメリカの提案は、事実上、イランの近代化に向けた3000億ドル規模の民間投資計画を通じて、イランの資本増強を図るものだ。例えば、クシュナーはイラン側に対し、イランの国営石油・ガス会社はサウジアラムコよりも規模が大きくなる可能性があるが、それはイランが革命活動を停止した場合に限られると伝えたと関係者は述べている。安定と法の支配(stability and rule of law)がなければ、イランは脆弱なままであり、これらの変化が実現すれば、戦後復興の好景気を享受できるだろう。

ここで、適切な懐疑心を持つべきだろう。イランの指導者たちは、最も強力な強硬派だ。彼らはイスラエルの爆撃や暗殺未遂を生き延びてきた。多くは敬虔な宗教信者であり、西側諸国とその価値観を軽蔑している。彼らの気質は、ウーバーCEOのダラ・ホスロシャヒのような亡命イラン人実業家よりも、北朝鮮の金正恩に近い。彼らが関心を持っているのは、レバレッジド・バイアウトではなく、復讐なのだ。

しかし、クシュナーとウィトコフは、カタールのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・サーニ首相の戦略問題担当相アリ・アル・サワディという並外れた仲介者を通して交渉を進めてきた。アル・サワディは、中東地域とその文化に対する稀有な理解をもたらしている。ある情報筋によると、彼は和平枠組みを固めるために、過去10日間で4回もテヘランを訪問している。アル・サワディは一般にはほとんど知られていない人物だが、ガザ和平交渉、ヴェネズエラ問題、そしてトランプ政権のその他6つのプロジェクトにおいて重要な特使を務めた。また、ジョー・バイデン政権との調停活動にも携わった。

「私たちが心に留めておくべき最も重要なメッセージは、イランは過去47年間、世界から孤立してきた国であり、国民は文字通り自分たちのコミュニティ以外とは一切コミュニケーションを取っていないということ」と調停ティームに近い関係者は説明した。「私たちは彼らに、世界はもっと広く、彼らもそこで受け入れられる可能性があることを示さなければならない」。

アメリカ人はイランを最高指導者の決定が絶対的な神権政治国家だと想像している。しかし、中東地域の人々は、イランを幾重にも重なる官僚機構を持つ、極めてゆっくりとした動きをする制度国家(an institutional country with layers of bureaucracy that move agonizingly slowly)だと認識している。支配組織であるイスラム革命防衛隊でさえ、派閥や個性的な人物が入り乱れる多層構造になっている。こうした文化を理解しているカタール、そしてサウジアラビアやアラブ首長国連邦からの特使たちは、巧みに交渉を進めてきた。

トランプ大統領のようなアメリカ人は迅速な結果を求めているが、アル・サワディはそのプロセスを遅らせることに成功している。調停ティームに近い関係者はこう説明する。「忍耐(patience)はペルシア人のDNAに組み込まれている。彼らと接する際には忍耐が必要だ。なぜなら、それが彼らの秘密兵器(secret weapon)だからだ。彼らは相手を苛立たせて追い詰め、消耗させてから、最大限の成果を引き出すことができるのだ」。アル・サワディが日曜日にテヘランで行った最後の交渉は17時間に及んだ。

クシュナーとウィトコフにとって、この交渉は数カ月前から始まっていた。2月26日、イランのアッバス・アラグチ外相との会談で合意に近づいた。イランは枠組み合意案を提示したが、「網に8つの穴が開いていて、そのうち5つを塞ごうとしているようなものだった」と交渉関係者は振り返る。

アメリカ側は、交渉が「時間切れになる可能性がある」と警告した。その2日後、イスラエルが戦争を開始し、アメリカも参戦した。イラン当局者によると、戦争が始まった当時、イランはミサイル生産を増強しており、月に最大100発のミサイルを製造し、2025年6月の「ミッドナイト・ハンマー」作戦で破壊されたものを「急速に再建」していたという。

戦争は政権の結束を強めた。しかし、イスラマバードでの停戦合意後、最終合意を目指すイラン指導者と、革命路線を維持しようとする指導者の間で亀裂が生じ始めた。

ガリバフはイスラマバードでの21時間に及ぶ交渉において、理性的で分別のある人物であることを示し、アメリカ側に好印象を与えた。しかし、テヘランに戻った後、武装勢力に襲撃され、一時的に政界から遠ざけられた。イスラマバード後の指導権争いは「まるでジャンプボールのようだった」と交渉関係者は語る。

この関係者は、「私たちは、イランの政権内部に緊張を生み出すような状況を作り出した」と説明する。ガリバフとその支持者たちは現在、主導権を握っているように見える。彼は金曜日にジュネーブで枠組み合意に署名する予定だが、政権内部の権力闘争は今後も続く可能性が高い。

ホルムズ海峡という重要な問題について、アメリカ政府当局者は、イランの国家安全保障会議議長を務め、戦争初期にイスラエル軍の爆撃で殺害されたアリ・ラリジャニの発言を回想した。「彼は、西側諸国の反応を考えると、海峡を封鎖することは一度しか使えない切り札だと述べた(He said closing the strait was a card they could only play once)」とこの当局者は語った。その評価は正しかったと当局者は述べた。戦後の変化により、海峡の防衛が強化され、石油を海上タンカーではなく陸上のパイプラインで輸出する代替ルートが確保されるだろう。

アメリカ政府当局者によると、ここ数週間であまり注目されていない進展の1つは、「プロジェクト・フリーダム」として知られるタンカー護衛計画がひっそりと継続されていることだという。この計画はサウジアラビアの反対を受けて5月に正式に棚上げされていた。当局者によれば、限定的な形で継続されており、湾岸地域を経由して1日700万バレルの原油輸出が認められている。

交渉関係者によると、アメリカの交渉担当者は、イランが和平合意後に経済投資と近代化の機会を捉えることを期待しているが、同時にそれは賭けであるとも認識している。「彼らが政治的な駆け引きをうまくこなし、実際にそれを実行できるかどうかは、時間が経てば分かるだろう。今後数カ月で明らかになるだろう。・・・私たちは可能な限り最も変革的な選択肢を目指している」と当局者は述べた。

私がこの地域を取材して見てきたが、中東における数々の壮大な計画が失敗に終わるのを見てきた者であれば、この壮大な変革構想が成功するかどうか疑問に思わざるを得ないだろう。しかし、イランの運命を革命から責任ある近代国家(a responsible modern state)へと転換させることこそが最大の課題であり、政権交代の失敗を鑑みると、トランプ政権が提案している案以上に良い道筋は見当たらないというのが率直な見解だ。

イラン和平交渉の中心人物であるこの高官は、交渉担当者としての自身の見解を要約するよう求められ、トランプとその和平案に対する評価に関わらず、おそらく全ての関係者が共有するであろう見解を述べた。「私が得た最大の教訓は・・・戦争を始めるのは非常に簡単だが、そこから抜け出すのは非常に難しいということだ(My biggest lesson … is it’s very easy to start a war and it’s really hard to get out)」。

※デイヴィッド・イグナティウス:『ワシントン・ポスト』紙コラムニスト。彼の記事は頻繁に『フォーリン・ポリシー』誌に転載される。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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