古村治彦です。

 ヨーロッパは2度の世界大戦の舞台となり、その反省から二度と域内で戦争を行さないという決意の下で、経済協力から政治統合、安全保障協力という道筋をたどり、ヨーロッパ連合と共通通貨ユーロまで生み出した。ヨーロッパで戦争が起きるということを想像することは難しくなっている。

 ヨーロッパの安全にとって重要なのはドイツの動向である。19世紀からドイツ問題(Germann Question)という課題がある。それは、「統一された強力なドイツがヨーロッパ全体の安全環境を不安定化させるのでそれ以下に防ぐか」ということである。考えてみると、2度の大戦共に「主役」となったのはドイツである。もちろん、その他の大国(昔風に言えば列強、powers)も重要なプレイヤーであったが、統一ドイツが戦争の理由となったのは歯科なことだ。ドイツの隣にはフランスがある。フランスもまた列強であり、ヨーロッパの強国であり続けた。ドイツとフランスの関係が悪化することがヨーロッパの安全に大きな悪影響を与えるということは確かである。長年の「宿敵(nemesis)」と言うことができる。

 戦後のヨーロッパ史は、一面ではドイツとフランスの和解の歴史であった。両国の間で紛争の理由となった石炭と鉄鋼の共同管理のために1952年に、フランス・西ドイツ・イタリア・ベネルクス3国(ベルギー・オランダ・ルクセンブルク)ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(European Coal and Steel CommunityECSC)が発足した。これがヨーロッパ連合(EU)につながった。フランスとドイツは「恩讐を越えて」、「小異を捨てて大同につく」ということで協力関係を築いてきた。

 しかし、最近になって、その協力関係がうまくいっていないということがあるようだ。以下の記事に紹介されている。共同での戦闘機開発計画が破綻したのはその一例だ。1990年に、アメリカのシカゴ大学教授ジョン・J・ミアシャイマーは「バック・トゥ・ザ・フューチャー:冷戦後のヨーロッパにおける不安定性(Back to the Future: Instability in Europe After the Cold War)」という論文を発表した。1990年に当時の西ドイツと被害ドイツが統合することでドイツが再統一された。このことはお祝いムードを持って迎えられたが、ミアシャイマーは、そのようにうまくいかない、良いことばかりではないという主張を行った。

米ソ両両大国がヨーロッパから撤退することで、二極システム(bipolar system)から多極システム(multipolar system)に移行(復帰)することから不安定さが増す(以前のヨーロッパのようになる)、ヨーロッパ各国は相互に不信感を持ち軍拡競争に進む可能性がある(安全保障のディレンマ[Security Dilemma])、ナショナリズムの台頭が起きるなどの指摘を行った。論文の発表当時は、「過激な内容だ」という批判も起きたが、現状では予言的な部分もある論文となっている。仏独関係の悪化と不安定化はこの論文の通りとなっている。

 アメリカの撤退によってヨーロッパが過去に戻るということは不安定化が進むということになる。このヨーロッパの教訓から私たちは国際協調と不安定化に進む要因の排除について考えねばならない。その見本となるのが東南アジア諸国連合(ASEAN)である。ヨーロッパの様に統合に進まなくても地域内協力を進めることができ、それがいかに安定を生み出すかということを私たちは学び、東アジアにおいても実行するべきだと考える。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパは1952年の状態に逆戻りしている(Europe Is Back in 1952

-フランスとドイツが再び軍事的なライヴァル関係に陥ったことはヨーロッパの他の国々にとって悪いニューズである。

キャロライン・デ・グロイター筆

2026年7月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/20/europe-germany-france-eu-1952/

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モンテネグロのティヴァトにあるポルト・モンテネグロで開催されたEU・西バルカン首脳会議の合間に行われた会談の前にドイツのフリードリヒ・メルツ首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領が言葉を交わした(2026年6月5日)

私は最近、あるヨーロッパの外交関係の高官に、77日、8日にトルコのアンカラで開催されたNATO首脳会議から得た、最重要の教訓は何かと質問した。この人物は躊躇なく次のように答えた。「ヨーロッパ諸国の全首脳が、一部の者が足並みを乱したり(breaking ranks and bending over)、ドナルド・トランプの機嫌を取ろうと必死になったりすることなく、1つのグループとして行動した初めての機会だったことだ」。

これは、長年アメリカの軍事的保護に依存してきたヨーロッパ各国が、ついに自立に向けて態勢を整えつつあるかのように聞こえるかもしれない。しかし、この新たな結束(newfound unity)は、彼らが共同の決意を持って強力なヨーロッパ防衛に取り組む準備ができていることを意味するということではない。

ヨーロッパの中で最も環大西洋関係を重視してきた(trans-Atlantic-oriented)国々でさえ、アメリカがヨーロッパの防衛責任から徐々に手を引こうとしている現実を、ようやく受け入れ始めている段階にあると言える。しかし現時点では、ヨーロッパ各国は依然としてアメリカの防衛関連企業に大きく依存している。2024年にはアメリカ製の防衛関連製品に680億ドルを費やたが、これは2017年から2021年の平均支出額である110億ドルと比べると桁違いの数字だ。さらに悪いことに、ヨーロッパの二大経済大国であるドイツとフランスの間には大きな亀裂が生じている。ヨーロッパの防衛体制の要となるべき独仏間の信頼関係が、崩壊の危機に瀕している。

これはヨーロッパ全体にとっての問題となる。ヨーロッパ統合は1952年に「二度と戦争をしない(no more war)」をスローガンに掲げて始まった。当時、フランスと西ドイツ(およびイタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は、自国の防衛産業について、国家を超越した権限の下に置いた。その唯一の目的は、再び世界大戦が起こることを不可能にすることだった。しかし、長い平和と数十年にわたる軍事軽視の時代を経て、ロシアからのハイブリッドな脅威や軍事的脅威に直面する中、かつて戦争の当事者であったヨーロッパ各国は再び自国の防衛産業への投資を始めている。ただし今回は共同で取り組むのではなく、単独で進める傾向が強まっている。ここ数カ月の間に、フランスとドイツの共同防衛プロジェクトの1つが大きな音と共に破綻し、他のプロジェクトも停滞している。

第一に、その破綻について取り上げる。ヨーロッパの防衛統合を象徴するプロジェクトとして構想された「将来戦闘航空システム(Future Combat Air SystemFCAS)」は、各国間の産業競争を「仏独共同開発の戦闘機(a Franco-German fighter jet)」という共通の目標へと転換するヨーロッパの能力を象徴するものとなるはずだった。6月初旬に発表されたこの計画の失敗は、ヨーロッパにおいて産業の分断が再燃していることを浮き彫りにした。それは、共通の防衛イニシアティヴへの協力が最も必要とされているまさにその時に、協力を阻害する要因となっている。

スペインも参加していた将来戦闘航空システム計画が暗礁に乗り上げた主な理由は、主導的な役割を担う2つの企業が協力関係を築けなかったことにある。当初の主要契約企業であったフランスのダッソー社は主導権を握ることに固執し、パートナーであるドイツのエアバス・ディフェンス社には情報をほとんど共有しなかったと報じられている。エアバス社の幹部は、知的財産(intellectual propertyIP)や特許に関する合意形成の難しさを指摘していた。

これは、産業ナショナリズムが防衛協力を損なった明確な事例だ。事態が収拾不能に陥った背景には、ヨーロッパにおいて防衛プロジェクトにおける役割分担や、ノウハウおよび知的財産から生じる将来的な利益(非軍事分野を含む)の配分に関する枠組みが存在しないという問題がある。明確なルールや規制がない状況では、最も力のある主体が全てを独占することになる。こうした事態は、かつて規制が不十分(あるいは不適切)だった銀行や製薬業界でも見られたことだ。

将来戦闘航空システム計画の破綻は、防衛産業における役割分担や知的財産の公正な配分に関するヨーロッパのルールが早急に必要であることを示している。れおは、ロシアの脅威やアメリカのヨーロッパからの撤退といった状況下で、各国や企業は防衛分野への投資を急ピッチで進め、共同プロジェクトを立ち上げているからだ。

例えば、フランス、ドイツ、イタリア、スペインは「ユーロドローン(Eurodrome)」の開発に取り組んでいる。また、複数の国々が「宇宙の盾(スペース・シールド、space shield)」の構築を進めており、ウクライナを支援したり、ウクライナと共同生産を行ったりしている。さらに今月には、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、ノルウェー、オランダ、スウェーデン、イギリス、ウクライナからなる「弾道ミサイル防衛連合(antiballistic coalition)」が、フランスの革命記念日の前日にパリで会合を開いた。この会合は、ウクライナの民間人を標的とするロシアの兵器を迎撃可能なミサイル防衛システムを生産するため、各国および各産業界の取り組みを調整することを目的としていた。7月14日には、ヨーロッパの決意を示すべく、ウクライナ軍を含む外国部隊がパリ市内を行進した。

ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相もその式典に同席していた。しかし、1950年代のようにフランスとドイツが資源を出し合って兵器を共同購入・生産するのではなく、現在ではより小規模な国々がそうした動きを主導している。それらの国々はヨーロッパ連合(EU)からの資金援助を受け、共同調達を行っている。自国だけでは必要な兵器を生産できないため、共同プロジェクトこそが、最も低コストかつ効率的な選択肢となっている。

あらゆる事態が猛烈なスピードで動いている。動く金額も天文学的だ。ヨーロッパ各国は1990年代のベルリンの壁崩壊以降、国防費を削減してきたが、今やほぼゼロからの再出発を余儀なくされている。北大西洋条約機構(NATO)の最新の統計によれば、ヨーロッパの加盟国およびカナダにおける2025年の国防費は、2024年と比べて20%増加する見通しだ。こうした活発な動きは新たな機会をもたらす一方で、懸念されるリスクもある。それは、政府の支援を受けた巨大企業が他社を市場から締め出し、弱肉強食のジャングルのような状況に陥ってしまうことだ。

仏独共同の戦闘機開発計画が破綻したのはまさにこのためだ。ドイツとフランスには強力な兵器メーカーが存在するが、それらはヨーロッパのレヴェルでの協力を目指す政治指導者の決定を無視しているかのように振る舞っている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が将来戦闘航空システム(FCAS)を、ヨーロッパの新たな戦略的自律と主権を象徴する仏独共同生産のショーケースにしようとしていた一方で、フランスのダッソー社はドイツのパートナー企業をあらゆる面で排除し始めた。費用の半分を負担していたドイツ側は、激しい不満を持った。この問題は最高レヴェルの政治の場で幾度となく取り上げられたが、ついにメルツ独首相が我慢の限界に達し、6月に計画を白紙撤回する結果となった。スペイン側には事前の連絡さえなかった。

もしフランスとドイツが今後、防衛力を主に自国主導で再構築するようなことになれば、ヨーロッパは元の状態に戻ることになる(come full circle)。そもそも、各国の軍事力を統合し、アメリカの安全保障の傘と組み合わせることで、ヨーロッパ大陸は80年間にわたり平和を享受してきたのだ。もしヨーロッパ各国が80年ぶりに再び互いに戦争を始められるような状況になるのであれば、とるべき唯一の道は、各国の防衛産業を規制し、再び超国家的な権限の下に置くことであろう。

だからと言って、防衛を国単位で行えないということではない。適切に規制されたEU防衛市場において、各国が互いに兵器や装備品を発注・生産し、調達を調整(ソフトウェアの互換性がある兵器システムで相互に協力できるようにする)している限り、懸念すべきことはほとんどない。小規模な国々では、すでにこうした動きが広がっている。問題が生じるのは、ヨーロッパ全体を統括する基本計画が存在せず、その結果、ドイツがほぼドイツ国内の工場に、フランスがフランス国内の工場にのみ発注を行うような場合だ。

ドイツは将来戦闘航空システム計画の失敗から教訓を得たのだろうか? エアバス社のミヒャエル・シェルホルンが「ドイツの産業界に中心的な役割を担ってほしい」と発言したことは、そうではないことを示唆している。一部の人々は、ドイツが非ドイツ系企業と真のヨーロッパ・コンソーシアムを形成するような対応をとることを期待していた。彼らの考えでは、ドイツは産業ナショナリズム(industrial nationalism)の犠牲者となった経験がある以上、他国に対して同様のことを強いるのではなく、全ヨーロッパ規模での解決策を選ぶはずだと思われたからだ。

しかし、実際にはそうならなかった。ドイツはエアバス社を主導役とし、数社のドイツ系パートナー企業を従えた新たな戦闘機開発プログラム「ティーム・ジェネレーション6Team Gen 6)」を立ち上げた。要するに、ドイツはダッソー社に対抗しうる「ナショナル・チャンピオン(national champion、自国を代表する有力企業)」を育成することで、報復に出ようとしているのかもしれない。

フランスとドイツの企業が共同所有するKNDS戦車プロジェクト(KNDS tank project)も順調とは言えない。ここでもドイツは共同所有のあり方に不満を抱き、独自の戦車開発に乗り出したと報じられている。新たな戦車コンソーシアムには他のヨーロッパ企業も参加しているが、ドイツ主導であり、フランス企業は排除されている。一方、海洋哨戒プログラムである「仏独海洋航空戦システム(Maritime Airborne Warfare SystemMAWS)」もストップした。さらに宇宙・衛星プロジェクト(偵察や通信を担う最大1000基の衛星群を構築する計画)においても、ドイツは当初協力を予定していたフランスのパートナーを計画から外した。

ヨーロッパ統合の伝統的な推進役であるフランスとドイツが防衛プロジェクトを巡って対立し、時には報復的な動きさえ見せる中、今や他の国々には、そうした報復の連鎖を未然に防ぎ、この分野における業務分担や知的財産の扱いに関するヨーロッパ共通のルール作りを推進する役割が求められている。

ここで北ヨーロッパ諸国が役割を果たすかもしれない。世界的な地政学的危機の渦中にあり、バルト三国、ベネルクス諸国、ポーランド、そしてEU非加盟のノルウェーに囲まれたスウェーデン、デンマーク、フィンランドといった国々は、共同プロジェクトの必要性を痛感しており、ブリュッセル(EU中枢)において初めて声を上げ、主導権を握ろうとしている。特にスウェーデンは強固な防衛産業を擁しており、ベルリンのシンクタンクであるドイツ外交評議会で地政学経済プログラムを率いるシャヒン・ヴァレは、「ヨーロッパの防衛における調整役(aggregator)として台頭する可能性がある」と指摘している。ヴァレによれば、スウェーデンは「周辺に位置する重武装の中立国(well-armed neutral on the margins)」という立場からヨーロッパの表舞台へと移行しつつあり、フランスやドイツを含む複数の企業や国々と契約を結んでいる(ただし、フランスとドイツが揃って関与する案件ではない)。

北ヨーロッパの各小国は、ヨーロッパ防衛の「要衝(anchor)」となり得るだろうか? あるいは少なくとも、機能不全に陥った仏独の防衛連携に対する十分な対抗勢力となり得るのだろうか? そして、もしフランスやドイツで極右勢力が政権を握った場合、この機能不全はヨーロッパにとってどれほど深刻な事態を招く恐れがあるのだろうか?

多くの疑問が残されている。しかし、一つ確かなことがある。その答えは、ヨーロッパの人々が自らの近年の歴史から何かを学んだのか、それとも学ばなかったのかを、いずれ明らかになるだろう。

※キャロライン・デ・グロイター:『フォーリン・ポリシー』誌のコラムニストであり、オランダの新聞『NRC』の欧州特派員兼コラムニストを務めている。現在はブリュッセル在住。Xアカウント:@CarolineGruyter

(貼り付け終わり)

(終わり)



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