古村治彦です。

 アメリカの国力低下、衰退が続く中で、世界構造も大きく変化していく。アメリカが世界の警察官として世界各地の安全保障に責任を持つということはなくなる。アメリカは世界から撤退していく。世界各国は「自力」で防衛をしなければならないということになるが、これは同時に、アメリカ抜きで地域的な枠組みを構築し、防衛費を抑制する機会でもあるが、現状はそのようになっていない。各国は防衛費増額を進めている。

 アメリカは同盟諸国に防衛費増額を厳命している。NATOのヨーロッパ諸国は防衛費の対GDP比5%への引き上げを決定している。これは防衛費3.5%にプラスして関連インフラ整備1.5%という内訳になっている。2010年代には1%台だったが、現在は2%台になっている。日本も防衛費の対GDP比3%に向けて動いている。少子高齢化で国力が低下していく中で、防衛費だけは増額していく。「周辺の安全保障環境の悪化」という宣伝が日米両政府からなされているが、その環境悪化を招いているのは周辺諸国だけではなく、日米両国の武力増強の動きでもある。「安全保障のディレンマ(Security Dilemma)」と呼ばれるが、近接する国同士が安全保障に不安を持ち、防衛力を増強し合い、結局のところ、お互いの安全は低下するということになる。東アジアの現状はこの安全保障のディレンマの状況でもなく、アメリカ(の一部)に踊らされた日本の政治家たちが勝手に独り相撲で安全保障環境の悪化を喚いているだけのことである。

 NATO諸国が防衛費を増額することで、自分たちの防衛を自分たちで考えるようになると、アメリカの意向に反するようになる、アメリカの言う通りには動かなくなるということになる。これが通常の動きである。「自分でお金を払っているのだから他人にとやかく言われる筋合いはない」ということになる。しかし、日本の場合には、防衛費を増額したところで、アメリカの属国であることは変わらない。「アメリカの属国であるから、アメリカの厳命通りに防衛費を増額し、その多くをアメリカからの武器購入に充てる」ということになる。日本の防衛費増額は「貢物の増額」ということでしかない。この点がヨーロッパと異なる。

 日本がアメリカの属国状態から脱することは非常に困難である。戦後日本の80年間がそうであった。あらゆるシステムが属国であり、アメリカに奉仕することを前提にして作られている。属国であることを止めるということは国家をもう一度作り変える必要があるからだ。それには非常な痛みが伴うし、そのきっかけをつかむことも難しい。しかし、アメリカが衰退し、世界から退場していくという状況になっている。日本も一緒に沈み、衰退していくことになるだろう。しかし、アメリカが世界を手放すと決めた時、日本の属国状態にも変化が起きるだろう。

(貼り付けはじめ)

古いNATOが失われればアメリカはその存在を懐かしむことになるだろう(The United States Will Miss the Old NATO When It’s Gone

-防衛費を増額するヨーロッパはワシントンへの依存度を下げ、同時にその意向を過度に尊重することもなくなる。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/10/trump-nato-summit-rutte-defense-spending-greenland/

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トルコのアンカラで開かれたNATO首脳会議にて写真撮影に応じるトルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、NATOのマーク・ルッテ事務総長、そしてアメリカのドナルド・トランプ大統領(左から)(7月8日)

それは、NATO(北大西洋条約機構)諸国に「公平な負担(fair share)」を求めたことだ。歴代の米大統領も長らく負担の分担について不満を漏らしてきたが、トランプのやり方は粗野で芝居がかっており(theatrical)、取引的なものだった。しかし、彼が示したその考え方自体は、広く共有されていたものでもある。そして、ヨーロッパ側もそのメッセージを理解した。アメリカ以外のNATO諸国の防衛費は、2014年には合計GDP(国内総生産)の1.4%だったが、2025年には約2.3%に達している。

しかし、望んだことの実現については注意深くあらねばならない。

一般的には、ヨーロッパの支出が増えればアメリカの支出は減ると考えられがちだ。それは明らかに誤りだ。ヨーロッパの防衛費がここ数十年で最高水準にあるにもかかわらず、トランプは2027年度予算として1兆5000億ドルという巨額の国防予算を提案している。

アメリカの防衛費は、これまで一度もNATOの必要性だけで決定されたことはない。それは、世界中に基地や艦隊を配備し、様々な責務を負う「世界規模の超大国(a global superpower)」としてのアメリカの役割を反映したものだ。アメリカは、ロシアの抑止、中国への対抗、中東での軍事力行使、世界の海上交通路(シーレーン)の保護、本土防衛、核の優位性維持、宇宙空間での優位確保、ドローンや人工知能(AI)分野での主導権、そして遠隔地で戦闘を行う能力の維持などを求めている。実際、国際戦略研究所(International Institute for Strategic StudiesIISS)の2018年の試算によれば、ヨーロッパにおける直接的な防衛支出は、アメリカの防衛費総額の5%ほどに過ぎなかった。

ヨーロッパの支出が増加するにつれ、ヨーロッパ大陸はアメリカへの依存度を下げ、アメリカに対して従順ではなくなっていくだろう。

75年以上にわたり、NATO内での圧倒的な優位性は、アメリカに多大な利益をもたらしてきた。アメリカはヨーロッパ全域に30以上の軍事基地を保持し、それらの基地はヨーロッパのみならず、アフリカ、中東、アジアにおいても軍事力を展開する足掛かりとなってきた。イラクやアフガニスタンでの戦争、そして最近の対イラン情勢を含む中東でのアメリカの軍事作戦は、ヨーロッパにおける基地利用や領空通過の権利に大きく依存してきた。NATO諸国は、行われている戦争に反対の立場であっても、アメリカによる施設利用を容認することが頻繁に起きた。しかし、アメリカを信頼できない、あるいは敵対的だと見なすようになれば、ヨーロッパ諸国はアメリカの意向に配慮する必要性を感じなくなるはずだ。

アメリカはこれまで、経済的な対抗措置を含む広範な戦略において、同盟諸国が常に自国の方針に追随すると想定してきた。しかし、元国防総省高官セレステ・ワランダーが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘しているように、ヨーロッパはすでに独自の国益と手段を有している。ヨーロッパはロシアの凍結資産の大部分を保有しており、ロシアの海運、金融、技術分野に対して独自の制裁を科している。また、ロシアの主要銀行を排除したことで極めて重要な役割を果たした決済システム「SWIFT」の本拠地もヨーロッパにある。もしアメリカがウラジーミル・プーティン大統領との取引のためにモスクワへの圧力を緩和しようとしても、ヨーロッパはそれを拒否するかもしれない。あるいは、アメリカがイランや中国への圧力を強めようとしても、ヨーロッパは二の足を踏む可能性がある。

さらに、兵器の問題もあります。NATOにおけるアメリカのリーダーシップがもたらした隠れた利点の1つは、ヨーロッパ諸国がアメリカの兵器を購入してきたことだ。F-35戦闘機、高機動ロケット砲システム(ハイマース、HIMARS)、パトリオット・ミサイル、P-8哨戒機など、数多くのシステムが購入されてきたが、その理由は単にそれらが優れているからだけではない。それらの兵器がヨーロッパとアメリカを結びつける役割を果たしてきたからだ。装備を共通化すれば共同作戦が容易になるし、アメリカ軍が関与し続けるという安心感を最前線の国々に与えることにもなる。

しかし現在、ヨーロッパの当局者たちはアメリカのハードウェアへの依存を減らす必要性について公然と語るようになっている。彼らは、将来的にトランプ政権がソフトウェアの更新や予備部品の供給、あるいは運用支援を差し止める事態を懸念している。アメリカの大統領がグリーンランドに対して脅しをかけるような状況を目の当たりにすれば、デンマークは次世代兵器の調達先としてアメリカを選ぶかどうか、慎重に再考せざるを得なくなるだろう。

アメリカの防衛関連企業にとって、これは大きな損失となり得る。そしてアメリカの戦略にとっても、その影響はさらに甚大なものとなる可能性がある。兵器の販売は単なる商取引ではない。それは協力関係や戦略の共有といった慣行を醸成するものでもあるからだ。

最後に、もう1つの危険がある。「ヨーロッパ」が支出を増やすと軽々しく述べるが、防衛予算は依然として各国の管轄下にある。しかも、ヨーロッパの政府の多くは財政難に陥っている。アナリストのリアナ・フィックスが『フォーリン・アフェアーズ』誌上で指摘しているように、支出能力が最も高い国はドイツだ。そして今、ドイツは驚くべき規模でその支出を拡大し始めている。

これは必要なことだ。ドイツはあまりにも長い間、消極的な姿勢を取り過ぎてきた。ドイツはヨーロッパに深く根を下ろしたリベラルな民主政治体制国家であり、その政治的DNAに攻撃的な衝動が潜んでいるなどと恐れる理由はない。しかし、国際政治においては規模と力が重要だ。近隣諸国をはるかに上回る額を防衛費に充てるドイツの姿は、必然的にフランスやポーランド、そして周辺の小国に不安を抱かせることになるだろう。

1945年以降のアメリカの戦略が際立っていたのは、まさにこの問題を解決した点にある。その戦略のおかげで、ヨーロッパ諸国は、かつての大国のように振る舞ったり考えたりする必要がなくなった。アメリカの「傘(umbrella)」の下で、フランスとドイツは互いに勢力均衡を図る必要がなくなった。アメリカは、何世紀にもわたって壊滅的な戦争を引き起こしてきたヨーロッパ域内の対立を抑え込み、安定的かつ平和で、親米的な体制を築き上げた。

私たちは連鎖反応を引き起こしている。やがてアメリカ人は、かつてのNATOを懐かしく思うようになるだろう。それはNATOが公平だったからではなく、アメリカを中核に据えた、世界史上最も成功した安全保障体制だったからだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



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