古村治彦です。
今年11月の中間選挙に向けて、現在、各地で連邦上下両院議員選挙や知事選挙の、民主党と共和党の予備選挙が実施されている。予備選挙はそれぞれの党の候補者を決める選挙であり、予備選挙を勝ち抜いて党の候補者となり、11月の本選挙に挑むということになる。現職の議員でも予備選挙で敗北して本選挙に出られずに退任ということは頻繁に起きる。連邦下院議員選挙は2年おきに実施され、野心を持つ挑戦者にとっては良いチャンスとなる。現職にとっては選挙対策に忙殺され、4期、5期くらい務めると心身ともに疲弊し、自ら引退して、ロビイストに転身したり、元の職業に戻ったりする人も多い。
日本でも、民主党の予備選挙で、民主社会主義者、進歩主義者の候補者たちが勝利を収めていることが報じられている。このブログでもすでにご紹介している。それと同時に、左派の有権者の投票だけでは本選挙には勝てないということで、民主党支持の有権者をまとめるために、アメリカ民主社会主義者(DSA)を抜けて、民主党の候補者になるという人も出ていることもご紹介した。
共和党がトランプの党になり、元は民主党を支持していた、労働組合に加盟していた白人労働者たちの党になりつつあることは知られている。以前は「共和党は経営者や白人の党、民主党は労働者やマイノリティの党」という色分けになっていたが、それが崩れつつある。労働者階級だからと言って民主党を自動的に支持することはないということを2016年の大統領選挙が明らかにした。こうした有権者は「民主党を支持してきたが、民主党は自分たちを見捨てて、新自由主義を受け入れ、自分たちの生活は悪くなった。それを隠すために、同性愛や人種、DEIといった社会や文化に関わる問題に傾注してきた」という感情を持っている。生活の心配がないエリート層は経済問題よりも、社会・文化問題に関心を持ち、よりリベラルな方向に進めようとしている。それについていけない労働者階級は「頭が悪い」と切り捨てるということになる。
しかし、有権者の数で言えば、エリートよりも非エリートの方が多く、労働者介入の方が多い。民主党内部ではリベラルなエリートたちは大きな集団であっても、社会全体で見れば、その大きさと影響力は小さくなる。本選挙で勝つには、中道派やエスタブリッシュメント、更には共和党支持者も巻き込んでいかねばならない。
民主社会主義者たちは経済問題を中心にして選挙戦を戦っているが、文化や社会問題について、あまり急進的にならずに、国民の世論に従う形で、底から半歩位離れるくらいの主張をするようにすれば、本選挙でも勝つ可能性が高まる。しかし、熱心な支持者である社的な有権者たちが離れるというディレンマを抱えることになる。ここをどのよう差配するかということが民主党にとって重要になってくる。
(貼り付けはじめ)
民主党は間違った問題の解決をしようとしている(Democrats Are
Solving the Wrong Problems)
-民主党は文化的な問題において信頼に足る存在であることを中道派の有権者に示す必要がある。
ファリード・ザカリア筆
2026年8月7日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/08/07/democrats-moderates-liberals-progressive-politics-working-class-primary-elections-republican-party-trump/
ミシガン州上院議員選挙民主党予備選挙で勝利したアブドゥル・エルサイードがミシガン州デトロイトで行われた記者会見で話をしている(8月6日)
民主党はディレンマに直面しており、ミシガン州の連邦上院議員選挙民主党予備選挙はその状況を如実に示していた。カリスマ性のある進歩主義派のアブドゥル・エルサイードが、民主党エスタブリッシュメントの支持を受けた穏健派のヘイリー・スティーヴンス連邦下院議員を破った。エネルギーは間違いなくエルサイードにあった。しかし、『ワシントン・ポスト』紙の分析によると、エルサイードの支持はミシガン州内で最も高学歴な郡や大学町に集中しており、一方のスティーヴンスは多くの地方や低所得地域で善戦していた。ここにディレンマがある。左派には情熱があるものの、本選挙で民主党が勝利するために必要な票は、依然として中道派が握っているのだ。
進歩主義派の答えは、経済面でよりポピュリスト的な姿勢を取ることでこの問題を解決できるというものだ。つまり、富裕層を批判し、給付を拡充し、それによって労働者階級にアピールするのだ。しかし、こうした考えは実際の労働者階級には響いていない。ピュー・リサーチ・センターの調査によると、民主党支持者のうち、自らを「民主社会主義者(democratic socialists)」と称する政治家を好むと答えたのは、大卒者では41%に上るのに対し、大卒でない層ではわずか26%にとどまっている。また、高所得の民主党支持者の方が低所得の支持者よりも民主社会主義者に好意的であり、その比率は40%対24%となっている。
民主党は長年、労働者階級の支持を取り戻すことを夢見てきた。ジョー・バイデン大統領は、経済政策を前面に打ち出し、ここ数十年で最大規模の労働者階級への働きかけを行った。バイデン政権はインフラ、工場、クリーンエネルギー、半導体分野に数千億ドルを投じたが、その多くは共和党支持の強い郡へと流れていった。それにもかかわらず、2024年の選挙では、ドナルド・トランプが大卒でない有権者や年収5万ドル未満の有権者の支持を獲得し、労働者階級のヒスパニック系や黒人有権者の間でも支持を伸ばした。過去30年間、民主党は経済政策において左傾化してきたが(クリントンよりオバマが左寄り、オバマよりバイデン氏が左寄り)、同じ期間に労働者階級は着実に民主党から離れていった。
ここから得られる教訓は、経済政策が重要ではないということではない。しかし、民主党の問題は、経済政策において中道寄りすぎると見られていることにあるのではない。民主党は、医療や、現在も大きな関心事である生活コスト(the cost of living)といった問題では、常に共和党をリードしている。民主党の弱点は、犯罪、移民、国境管理、そしていわゆる「ウォーク(woke:社会正義や差別に高い関心を持つ姿勢)」なアジェンダといった、文化的・社会的な問題にある。一例を挙げると、「アーギュメント(The Argument)」による世論調査では、トランプを支持しないものの共和党への投票に傾いていた有権者の間において、犯罪対策への信頼度で共和党が47%対1%で、民主党を大きくリードしていた。
民主党は圧力を受けているが、文化的な問題で中道寄りになるよりも、経済政策で左派寄りになる道を選ぶ方がはるかに容易だと感じている。国境管理の徹底、常習的な違反者への処罰、能力主義の擁護、あるいは生物学的な性の重要性といったことを率直に口にすれば、活動家や権利擁護団体、そして高学歴な党スタッフからの反発を招く恐れがあるからだ。そのため、多くの有権者を自分たちから遠ざけている文化的な姿勢には手をつけず、代わりに巨額の補助金や新たな給付策を提示したり、億万長者への攻撃を強めたりする。
しかし、事実はその逆であることを示唆している。ある研究では、29の政策課題における民主党の方針転換が検証されたが、選挙で最も大きな成果が得られたのは、社会・文化的な問題において中道寄りへ舵を切った場合であることが明らかになった。また別の報告書によれば、労働者階級の有権者は、リベラルな大卒層に比べて、国境警備の強化、犯罪の減少、警察官の増員をはるかに重視していた。一方、リベラルな大卒層が重視したのは、権威主義への抵抗、トランスジェンダーの権利や中絶へのアクセスの保護、そして気候変動対策だった。
この溝が深まったのは、労働者階級の有権者が単に右傾化した(lurched to the
right)からではなく、むしろ大卒の民主党支持者がより急激に左傾化した(moved left further)からだ。アメリカ政治学者ニコラス・ジェイコブスの分析によると、2000年の時点では、民主党支持者と労働者階級の有権者の双方において、移民の受け入れ拡大を支持する割合は約8%に過ぎなかった。しかし、2020年には、民主党支持者の48%がこれを支持したのに対し、労働者階級の有権者では24%にとどまった。中絶に関する意見の差は、1980年には3ポイントだったが、2024年には30ポイントにまで拡大した。宗教や家族のあり方、そして政府が税金を無駄遣いしないという信頼感についても、大きな隔たりが生じている。
トランプは、こうした乖離が持つ政治的な力を理解している。選挙集会で彼が激しく批判する内容を聞いてみて欲しい。トランスジェンダーの選手、DEI(多様性・公平性・包摂性)を推進する官僚機構、エリート大学、犯罪、そして制御不能な国境といった問題だ。彼は、こうした問題が有権者の直感(gut)に深く訴えかけるものであることを知っている。
民主党がトランプを模倣したり、マイノリティを見捨てたり、反動的になったりすることが解決策ではない。国民皆保険制度や富裕税によってニューディール時代の連合が復活するという幻想を捨てるべきだ。あの時代もあの連合ももはや存在しない。幸いなことに、民主党は既に強力な現代的連合を築いている。大卒者、女性、マイノリティ、若年層、そして大都市圏の多くの労働者階級や中間層の有権者たちの連合だ。これらの有権者が求めているのは社会主義革命(a socialist revolution)ではなく、手頃な価格の住宅、質の高い学校、利用しやすい医療、安全な街路、国境管理、合法的な移民、そして経済成長といった、成果を出す効果的なリベラルな政府だ。そして、おそらくこれは、民主党が他の労働者階級にも再び支持を広げる助けとなるだろう。
民主党は、文化的に中道派の有権者に対し、リベラリズムは思いやりと寛容、開放性と無秩序、平等とイデオロギー的同調を明確に区別できることを示す必要がある。ミシガン州は、民主党の支持基盤、つまり予備選挙で投票するアメリカ人のごく一部にとって、民主党のエネルギーがどこにあるのかを示した。試練は、民主党がそのエネルギーを、国民全体に受け入れられる常識的な政治へと転換できるかどうかだ。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
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『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』




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