古村治彦です。
人間は愚かだ。必ず間違う。必ず失敗する。どんな大天才でも凡才でも、天皇だろうが、国王だろうが、教祖だろうが、法王だろうが、首相だろうが、国会議員だろうが、大学者だろうが、高級官僚だろうが、天才経営者だろうが、間違うし、失敗する。ここで問題になってくるのは、失敗や間違いをした後だ.素直に認めて、どこをどのように間違ったか、失敗したかを明らかにするということは言うのは簡単だが、実際にじっこうすることはかなり難しい。権威や地位のある人々にとっては特にそうだ。無誤謬性(間違わないこと)が基礎になっている場合には権威や地位を失うのではないかという懸念から失敗や間違いを糊塗したり、隠蔽したり、強弁したりということが起きる。「謝ったら負け」という言葉を耳にすることがあるが、そのような状態になる。官僚や政治家、学者にその傾向が強い。
スティーヴン・M・ウォルトの下記論考は、失敗や誤り、間違いが明らかになった後で、人々はどのような行動を取り、発言をするかということを分析している興味深い内容だ。大きく分けると5つになるようだ。つまり、「(1)「私のせいではない。誤って誘導されたのだ」(1:
“It’s Not My Fault; I Was Misled.”)、(2)「私の素晴らしい計画が計画通りに正確に実行されなかった」(2: “My Brilliant Plan Wasn’t Implemented Correctly.”)、(3)「歴史が私の主張の正しさを証明してくれるだろう」(3: “History Will Vindicate Me.”)、(4)「私は間違っていなかった。ただ、私たちはもっと激しく戦う必要があるのだ!」(4: “I Wasn’t Wrong; We Just Need to Fight Harder!”)、(5)「不平を言わず、弁解もせず、二度と言及しない」(5: “Never Complain, Never Explain, Never Mention It Again.”)」ということだ。私たちの身近でもこれらの言い訳の分類に入る言い訳を聞いたことがあるのではないだろうか。失敗や間違いを絶対に認めないという人もいるだろうが。
イラン戦争に関しては、戦争の終わりが見えず、アメリカに戦争の出口の糸口がない中で、苦境に立っている。そうした中で、ドナルド・トランプ大統領は強気の発言を続けている。もちろん、「失敗した」と認めることは難しいだろうが、彼の融通無碍さであれば、素直に「失敗した」と認めて、国民と世界に向けて謝るということをすれば、人気は少しア回復するかもしれない。しかし、トランプであっても、それはできない。それほどに失敗や間違いを認めることは難しい。
(貼り付けはじめ)
良くない助言に対する非難をどのように免れるか(How to Escape Blame
for Bad Advice)
-重要な戦略的判断を誤ったとしても責任を避ける方法がある。
スティーヴン・M・ウォルト筆
2026年6月9日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/06/09/iran-advice-blame-accountability-escape/
ワシントンDCのホワイトハウスにある「ステート・ダイニング・ルーム(公式晩餐会室)」で開かれた「アンティファ(Antifa)」に関する円卓会議でドナルド・トランプ大統領の耳元で言葉を交わすマルコ・ルビオ米国務長官(2025年10月8日)
政治家たちが自らの誤りを認めることに消極的であることは周知の事実だが、国際政治を研究し、時事問題について論評し、時には実行すべきことについて助言を行う私たちのような人間はどうだろうか?
誰もが過ちを犯す可能性を持ち、予測や提言を行う以上、時には判断を誤ることも避けられない。もしある専門家が不運にも(あるいは単に国際政治に関する疑わしい信念に固執していたために)誤った見解を述べ、それが政府の要人に採用されて深刻な悪影響を招いてしまったとしたら、その専門家はどう振る舞うべきだろうか?
前回のコラムで私は、ドナルド・トランプ米大統領がイランとの開戦という大きな過ちを犯したことを素直に認めれば、トランプ自身にとっても、アメリカ全体にとっても、そして世界にとっても有益だろうと述べた。しかし、繰り返し開戦を訴え、戦争は短期間で低コストに済み、多大な利益をもたらすと説くことで、その過ちへの道筋をつけた人々についてはどう考えればよいのか?
私がここで彼らにさらなる恥をかかせようとしているのではない(私が何もしなくても、事態そのものが彼らの過ちを浮き彫りにしている)。むしろ、重要な戦略的問題において判断を誤った後、どのような対応があり得るのかを考察したい。
もちろん、自らの誤りが明らかになった際の最も率直な対応は、その過ちを公に認め、そこから教訓を得ようとすることだ。私自身、過去に何度かそうした試みを行ってきたが、自身の過ちを認めるという点でどれほど成功したかについては、読者の皆様の判断に委ねたい。こうした姿勢をとったのは私だけではない。例えば、ジャーナリストのアンドリュー・サリヴァンは、2003年のイラク侵攻を支持したことが誤りであったという趣旨の長文を書いた。『ニューヨーク・タイムズ』紙の元編集主幹ビル・ケラーも、ニューヨーク・タイムズによる開戦に向けた報道姿勢について、ある種の「自己批判(mea culpa)」を行った。著名な「リベラル・ホーク(liberal hawks、介入主義的なリベラル)」であるアン・マリー・スローターも同様だ。彼女は後に、侵攻は不必要かつ無謀であると警告していた人々の声にもっと耳を傾けるべきだったと認めた。
自分の過ちを認めることには多くの利点がある。誠実さを保てるだけでなく、他者がその失敗から学ぶ助けにもなるし、何より正直かつ現実的な姿勢を示すことで、かえって周囲からの尊敬を集めることさえあるからだ。こうした利点を考えれば、事態が予想通りに進まなかった際、より多くの評論家や政治アナリストがこの道を選ばないというのは、少々不可解に思う。その代わりに彼らは、誤った助言をしたことの責任を回避するための「手段トップ5」のいずれか(あるいは複数)に頼る。
(1)「私のせいではない。誤って誘導されたのだ」(1: “It’s Not My Fault; I
Was Misled.”)
隠せない失敗を犯したものの、自分のミスを認めたくない場合、他者から提供された不正確な情報のせいにすることは明白な戦術だ。典型的な例として、イラク侵攻への支持を「不正確な諜報情報(faulty intelligence)」のせいにした多くの人々が挙げられる。当時、イラクが大量破壊兵器を多数保有し、核兵器の開発を積極的に進めているといった主張がなされていた。しかし、こうした弁明は往々にして不誠実だ。なぜなら、開戦前のイラクに関する諜報情報が、戦争を正当化するために意図的に歪められていたことを示す証拠が少なからず存在したからだ。それを信じることを選んだのは、あくまで自分自身の責任だ。イランとの戦争について同様の主張をする人はまだ見かけないが、そうなるのも時間の問題だろう。
(2)「私の素晴らしい計画が計画通りに正確に実行されなかった」(2: “My Brilliant Plan Wasn’t Implemented Correctly.”)
責任を回避するもう1つの一般的な方法は、自分の提言は正しかったものの、担当者がそれを適切に実行できなかったと主張することだ。この言い訳(alibi)には長い歴史がある。ジョン・F・ケネディ大統領が「勝利には千人の父がいるが、敗北は孤児である(victory has a thousand fathers and defeat is an orphan、勝利の功績は多くの人が主張するが、敗北の責任は誰も負おうとしない)」と嘆いた言葉にもその傾向が表れている。実際、敗北の後には決まってスケープゴート探しが行われ、戦争を支持していた人々が「どうすれば勝てたか」という持論を展開するものだ。しかも、この主張は「もっと有能な指揮官がいれば」「別の戦略をとっていれば」「もう少し運が良ければ成功していただろう」といった、証明不可能な反事実(counterfactuals)に基づいているため、完全に反証することができない。これほど多くの人がこの言い訳を使うのも無理はない。
(3)「歴史が私の主張の正しさを証明してくれるだろう」(3: “History Will Vindicate Me.”)
責任を回避するためのもう1つの古くからの手法は、今日では大失敗に見える事態も、やがては「天才的な一手(a stroke of genius)」として称賛されるだろうと主張することだ。前述の2番目の手法と同様、こうした主張は反証が難しいため好まれる。十分な時間を待てば状況はいずれ好転するだろうし、そうなれば、その惨状を招いた張本人たちが手柄(credit)を主張し、自分たちは最初から正しかったのだと言い張ることができるからだ。例えば、イランの現体制は永遠には続かない。もし将来、より好ましい方向へ体制が変化すれば、現在の戦争を声高に求めた人々は(もし彼らがまだ存命であれば)、自分たちの助言に従わなければそのような変化は決して起こらなかったはずだと間違いなく主張するだろう。
この論法のヴァリエーションとして、「現状がいかに悪くとも、何もしなければ事態はさらに悪化していただろう」と主張するものがある。この種の議論は、「今の戦争がなければ、イランは(いずれ)核兵器を手にしていただろう」という決まり文句によく見られる。しかし、以下の事実は無視されている。すなわち、アメリカの情報機関は、テヘラン(イラン政府)が過去20年間にわたり積極的な核兵器開発計画を持っていなかったと繰り返し結論付けていること、トランプが2018年に破棄した核合意によってイランの核兵器保有への道が大幅に断たれていたこと、そしてイスラエルの指導者たちが30年にわたって「イランが核兵器を手にする寸前だ」と警告し続けてきたものの、その予測が当たったことは一度もないということだ。
(4)「私は間違っていなかった。ただ、私たちはもっと激しく戦う必要があるのだ!」(4:
“I Wasn’t Wrong; We Just Need to Fight Harder!”)
戦争を主張したもののうまくいかなかった場合、自説を曲げずに(文字通り「銃を構えたまま」)強硬姿勢を貫き、事態を激化させ、決意を固め、当初の方針を維持することこそが必要だと主張する方法もある。これは、ウクライナへの初期侵攻が失敗した際にロシアのウラジーミル・プーティン大統領がとった対応であり、今日、ブレット・スティーヴンスのような戦争支持派のコラムニストたちがイランに関して主張し続けていることでもある。これに付随する主張として、たとえ開戦の当初の判断が軽率だったとしても、今や私たちの「信頼性(credibility)」が懸かっている以上、勝利のためにあらゆる手段を講じるべきだというものがある。こうした考え方をする人々は、往々にして開戦を正当化した際と同じ論拠に頼る。すなわち、敗北を認めれば破滅的な結果を招くとか、敵は追い詰められているとか、あと少しの時間と圧力をかければ輝かしい勝利を収められるといった主張だ。そして、紳士淑女の皆さん、これこそが「終わりのない戦争(forever wars)」が生まれる仕組みなのだ。
(5)「不平を言わず、弁解もせず、二度と言及しない」(5: “Never Complain, Never Explain, Never Mention It Again.”)
最後に、失態を演じてしまった専門家たちは、イギリスのベンジャミン・ディズレーリ首相の言葉とされる「不平を言わず、弁解もせず(Never complain, never explain)」という助言に従うこともできる。自分の過ちを認めたり、こじつけの言い訳をしたりする代わりに、単に「なかったこと」にし、失言に飛びつく批判者たちを無視して、そのまま先へ進む。著名なシンクタンクや有力メディアで安泰な地位(あるいは立派な大学での終身在職権)を確保しているなら、自分の間違いを認めたり、それについて思い悩んだりする必要はほとんどない。確かに、過去の過ちを認めようとしない態度は決して称賛されるべきものではないし、なぜ大きな間違いが起きたのかを私たちが理解する助けにもならない。しかし、現代の大衆の記憶は長く続かない。集団的な記憶喪失(collective amnesia)を当てにすれば、誤った予測を繰り返す専門家(や元政府高官)は、自らの助言がどのような結果をもたらしたかにかかわらず、その地位や影響力を維持できる。
不完全な点はあっても、私は依然として、対立する見解が自由に表明される「アイデアの市場(marketplace
of ideas)」こそが、強制された思想の正統性よりも優れていると確信している。だからこそ、多くの人々が外交政策について深く考え、検討すべきアイデアを提示してくれることを望んでいる。しかし、そうした貢献の質を時間の経過とともに評価し、誰が正確で有益な助言をする傾向があり、誰の処方箋が事態を悪化させる傾向があるのかを見極めることができれば、そのプロセスはよりうまく機能するだろう。たとえ誤りを犯しがちな専門家が自分の間違いを認めたがらなくても、こうした評価の視点を持っていれば、彼らが間違いを犯した後に自身の評判を守ろうとして起こす「煙幕(dust-kicking)」を見抜き、誰の助言を受け入れるべきかを判断する助けになるはずだ。
自国の外交政策のあり方を提言する仕事に携わっている人々への助言としては、自分の過ちを素直に認めることを勧めたい。マーク・トウェインの賢明な言葉を借りれば、「正しいことをしなさい。そうすれば、ある人々は喜び、残りの人々は驚くでしょう(Do the right thing. It will gratify some people and astonish the
rest)」ということだ。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social、Xアカウント:@stephenwalt
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』




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