古村治彦です。
「スピード信仰」が蔓延している。「ファストフード」「ファストファッション」「タイムパフォーマンス」「倍速視聴(ドラマや映画を倍速で見る)」「本を読まないでAIに内容をまとめさせて読む」といったことが行われている。時間がかかること、手間がかかること、面倒くさいことは確かに嫌だ。しかし、それが行き過ぎているようだ。佐藤優先生との対談本『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』でも、このことについては話をした。ますます急速に変化し続けていき、複雑化していく社会を深く理解するためには、本を読むこと、できれば古典を読むことが重要だということで意見が一致した。通り一遍の表面的な情報を知って理解した気持ちになっていてはいけないということである。
「スピード信仰」は政治にも向けられている。「何も決まらない・何も決められない政治」「アメリカをはじめとする外国の政治はスピーディ」という誤ったイメージを前提にして、日本政治が改悪されてきた。そもそもが民主政治体制は議論が基礎基本であり、様々な意見や考えが集約されて方向性を見出すということであり、時間がかかり、手続きが煩雑で、迂遠なものである。それが嫌なら、独裁政治が一番良いのである。民主政治体制など廃止してしまえばよいということになる。そのように言ってしまえば身も蓋もないことになるのでより検討してみる必要がある。
現代の「スピード信仰」は最新の技術革新の結果である。簡単に言えば「便利な生活になればなるほどこらえ性が亡くなっている」ということである。技術革新によって私たちの生活は便利になっているのは間違いない。しかし、同時にこれまでなかった技術に振り回されることにもなり、不安を感じる。そのために政治に対する要求も高まる。以下の論考から引用する。
(引用貼り付けはじめ)
偉大な政治学者サミュエル・ハンティントンは、「政治における根本的な問題は、社会や経済の変化に対して政治制度の発展が遅れてしまうことにある(the primary problem of politics is the lag in the development of
political institutions behind social and economic change)」と指摘した。大規模な変化は不安を招く。そして不安を抱えた社会は、政治に対してより多くのことを求める。市民は指導者に対し、秩序を回復し、安全を確保し、そして誰の手にも負えないように思える力に対して自分たちが再びコントロールを取り戻せるよう支援することを望む。
しかし、今日のテクノロジーは人々の期待を劇的に高める一方で、それと比較すると、民主的な政府の対応能力を低下させてもいるものだ。
(引用貼り付け終わり)
国民は民主政治体制の存続を望むのならば、その本質を理解し、安易な方向に流れないということが重要である。しかし、それは非常に困難なことでもある。
(貼り付けはじめ)
世界中の有権者が激怒している真の理由(The Real Reason Voters
Everywhere Are Furious)
-ロンドンから東京に至るまで各国政府は技術革命がもたらした期待に応えられずにいる。
ファリード・ザカリア筆
2026年7月24日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/07/24/technology-revolution-ai-democracy-voters-politics-populism-fear-anxiety/
パリで開催された技術革新の展示会「VivaTech(ヴィヴァテック)」で演説を行うフランスのエマニュエル・マクロン大統領(6月19日)
今週、イギリスはわずか10年余りで7人目となる首相を迎えた。フランスでも、ここ数年の間にほぼ同数の首相が入れ替わっている。次期大統領には、かつては「のけ者(outcast)」扱いされていたマリーヌ・ル・ペンが選ばれる可能性も十分にある。ドイツでは、数年前までは小規模な勢力に過ぎなかった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、現在世論調査で首位に立っている。安定していて慎重、あるいは退屈でさえあると見なされがちな東アジアの民主政治体制諸国でさえ、日本、韓国、台湾の政権は、高まる国民の怒りの中で苦境に立たされている。ポピュリストが政権を握っている国々でも、状況はそれほど変わらない。ドナルド・トランプは現在、任期のこの時点における歴代のアメリカ大統領の中で、最低水準に近い支持率にとどまっている。
今日の民主政治体制は機能できるのだろうか?
民主政治体制諸国の多くで、政府は巨額の税収を確保し、借入を行い、支出を続けている。経済協力開発機構(OECD)加盟国における政府支出は現在、平均して国内総生産(GDP)の40%以上となっており、中央政府の対GDP債務比率は過去30年間で2倍以上に膨れ上がった。しかし、国民は自分たちがその恩恵を受けているとは感じていないようだ。
なぜこのようなことが起きたのか? その要因の一部は経済にある。住宅価格の高騰、所得の伸び悩み、そして格差の拡大が、国民の怒りを増幅させてきた。しかし、経済的な要因は物語のほんの一部に過ぎない。アメリカは他の多くの先進国よりも力強い経済成長を遂げてきた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領の下では失業率が低下し、アーンスト・アンド・ヤング(EY)の分析によれば、フランスは7年連続でヨーロッパ最多の外国直接投資案件を獲得している。韓国は経済的な成功を収めた国であり、日本もかつては復活の兆しを見せていた。それにもかかわらず、至る所で民主政体政権は不人気だ。
より大きな要因として挙げられるのは、私たちが歴史的な大技術革命(great
technological revolutions)の只中に生きているという点だ。こうした変革は、常に深い不安や恐怖を伴うものだ。
これほどの規模の技術的変革(technological transformation)が前回起きたのは、おおよそ1880年から1920年にかけてのことだった。電気、電話、鉄道、自動車、そして映画といった技術が、あらゆる産業や人々の生活様式を一変させた。何百万人もの人々が農村を離れて都市へと移り住み、世界貿易が地域経済を揺るがした。一夜にして巨万の富を築く者が現れる一方で、古くからの職業は姿を消していった。こうした激動の中で、人々の不満や怒りは政治的な動きへと結びついていった。左派は共産主義へ、右派はファシズムへと傾倒していった。その後に続いたのは、新たな大衆運動、文化的な激変、そして世界大戦だった。
私たちが今経験している革命は、電気ではなくデジタル技術によるものだ。コンピュータに始まり、インターネット、スマートフォン、ソーシャルメディア、そして現在は人工知能(AI)へと進化してきた。中でもAIは、最も大きな変革をもたらすものとなるかもしれない。先週、ディープマインド社のデミス・ハサビスが語ったように、「私たちは本質的に、砂に思考させる方法を見つけ出した(We’ve essentially found a way to make sand think)」のだ(シリコンチップは砂から作られている)。知能を大量生産する能力―それも、月を追うごとに強力になっていく知能を生み出す能力―は、間違いなく史上最大の技術的偉業と言えるだろう。しかし、それは同時に、社会に最も大きな混乱をもたらす可能性を秘めていることも意味する。
偉大な政治学者サミュエル・ハンティントンは、「政治における根本的な問題は、社会や経済の変化に対して政治制度の発展が遅れてしまうことにある(the primary problem of politics is the lag in the development of
political institutions behind social and economic change)」と指摘した。大規模な変化は不安を招く。そして不安を抱えた社会は、政治に対してより多くのことを求める。市民は指導者に対し、秩序を回復し、安全を確保し、そして誰の手にも負えないように思える力に対して自分たちが再びコントロールを取り戻せるよう支援することを望む。
しかし、今日のテクノロジーは人々の期待を劇的に高める一方で、それと比較すると、民主的な政府の対応能力を低下させてもいるものだ。
私たちは車を3分で呼べ、荷物はその日のうちに届く。AIは複雑な質問に数秒で答え、人間なら数カ月かかるような難題をわずか数分で処理する。当然ながら、市民は政府にも同様の効率性を求めるようになる。しかし、民主政治体制はスピードを重視するようには設計されていない。その設計の根底にあるのは「正統性(legitimacy)」だ。民主政治体制は交渉や妥協を重ね、司法の判断を仰ぎ、弱者を保護し、対立する利害のバランスを取る。こうした歯止めこそが、民主政治体制を権威主義(authoritarianism)から区別する要素なのである。それにもかかわらず、テクノロジーが猛スピードで進化する現代において、それらのプロセスはしばしば「機能不全(paralysis)」のように見えてしまう。
ソーシャルメディアはこの溝をさらに広げている。政府の失策は即座に露見し、期待外れの出来事は瞬く間に拡散して論争となる。不満を抱いた市民は、政府が対応を始める前に、何千人もの人々を動員することさえできる。
こうした状況は、現代のポピュリズムがたどる奇妙な軌跡を説明する一助となる。トランプ(アメリカ)、ボルソナーロ(ブラジル)、ミレイ(アルゼンチン)といった政治家たちは、制度的な行き詰まりを強引に打破すると約束することで台頭した。しかし、いざ政権の座に就くと、彼らの多くは、自らが取って代わった指導者たちと同じ現実に直面することになる。今日の「反体制派の挑戦者(insurgents)」も、明日には「期待外れの現職指導者(disappointing
incumbents)」に早変わりしてしまう。
人々が民主政治体制への信頼を失ったようには見えない。選挙や憲法、独立した司法制度に背を向けてはいない。しかし、民主政治体制のパフォーマンスには強い不満を抱いている。民主政治体制国家は今一度、住宅やインフラの建設、公共サーヴィスの近代化、技術変化への対応、不平等の是正といった課題を、迅速かつ効果的に成し遂げられることを証明しなければならない。
歴史を振り返れば、楽観視できる根拠も見えてくる。自由な社会は、技術の激変期には往々にして最も脆弱に見えるものだ。動きが遅く、絶えず議論を繰り返すからだ。しかし長い目で見れば、自由な社会は権威主義体制よりも優れた適応力を見せてきた。なぜなら、暴力や弾圧に頼ることなく、学び、過ちを正し、進路を変更することができるからだ。
民主政体の指導者たちは、テクノロジーとスピードを競おうとすべきではない。それは不可能だからだ。しかし、粘り強い取り組みと有能さを示すことで、民主政治体制が確実に成果を上げられることを証明すべきだ。そうすれば人々は理解するだろう―説明責任(accountability)に伴う「摩擦(friction)」や正統性の重みは、システムの「欠陥(bugs)」などではないのだということを。それらこそが、私たちの自由を守るのである。
※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria
(貼り付け終わり)
(終わり)

『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』




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