古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領の発言や行動は周囲を振り回す。世界各国も相手をすることには辟易しているが、対応策が少しずつ確立されているようだ。それは「強気で対応して、トランプが引く(TACO)のを促す」というものだ。しかし、それができるのもある程度国力がなければできないことではある。高関税にしても、在外駐留アメリカ軍の削減と国防予算の増額要求も、全てはアメリカの国力低下とアメリカ帝国の崩壊が根本原因である。トランプは、「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again、MAGA)」と訴えて大統領になったが、彼の本当の役割は、アメリカの衰退に少しでも抗うことである。もちろん、その効果はなく、トランプは望んでいないだろうが、「墓掘人(gravedigger)」である。

 トランプは無意識であろうが、「墓掘人」の役割をきちんと果たしている。それは、「アメリカが中心に柱となってしっかりと鎮座する国際社会の構造は終わっていくので、各国はアメリカに頼らない方法を考えること」を各国に実践させている。それは、「トランプ(=アメリカ)は信頼できない」ということを世界各国に認識させることで推進している。

 「トランプの発言や行動に信頼性(credibility)を持てますか?」「首尾一貫している(consistent)と思いますか?」という質問に「イエス」と答える人は世界人口約83億人の中でどれくらいいるだろうか。1億人から2億人であろうか、トランプの熱狂的な支持者以外は「ノー」と答えるだろう。1億人、2億人と言えば数字としては大きいが、世界人口の中の割合で見れば数%だろう。トランプのおかげで、「アメリカは信頼できない、頼りにならない」ということが世界各国に認識されている。世界各国で、好感度調査で、中国がアメリカを逆転して、好感度1位になっているという報道もあった。これは、アメリカの信頼性低下を示す傍証だ。

 その結果として、中東地域を例に挙げれば、中東地域での親米国・同盟国の代表であったサウジアラビアは中国の仲介でイランとの国交正常化を果たし、地域のライヴァルであり、関係の悪かったトルコとも関係改善を行っている。これは、アメリカ一辺倒ではこれからはやっていけないというサウジアラビアの危機感から出た行動だ。地域の安定と平和(平穏)を考えると当然の行動であり、かつ、アメリカがいることで地域の平和が乱されていた側面があることを示している。アメリカがいなくなることで、イスラエルは孤立していく。イスラエルもまずはベンヤミン・ネタニヤフ首相を退陣させて、地域との平和共存を目指す方向に舵を切らねば最後はじり貧で、太平洋戦争時の大日本帝国のようになるだろう。

 日本もまたアジア地域で平和を乱さない参加者となるべく行動しなければならない。アメリカの一部にいる対中強硬論者たちがの考えがアメリカの考えであると妄信する、もしくは妄信するふりをして、中国をはじめとする近隣諸国への敵対的行動を抑えること、日本の国内問題の根本原因はその大部分の期間で与党を務めてきた自由民主党、ひいては自民党を支持してきた日本国民の不明、無思慮、無分別、アメリカに対する属国根性にあるということを認識し、そこからスタートすることである。しかし、これは大変に厳しいことであり、実行は不可能である。結局、日本もイスラエルのような状況になり、アメリカと一緒に沈んでいくということになるだろう。「自立」ということは非常に困難なことである。

(貼り付けはじめ)

いかにして超大国の信頼を浪費するか(How to Squander a Superpower’s Credibility)

-トランプ氏は約束をはったり(bluffs)のように扱う。それに対して同盟諸国は代替手段(alternatives)の構築で応じている。

ファリード・ザカリア筆

2026年8月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/14/united-states-alliances-trump-mecca-pact-diplomacy-credibility/

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ワシントンで開催されたアメリカ・サウジアラビア投資フォーラムに到着したドナルド・トランプ米大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子(2025年11月19日)

先週、中東地域で「地政学上の小規模な地震(a minor geopolitical earthquake)」とも言うべき事態が発生した。過去10年近くにわたり公然と敵対関係にあったサウジアラビアとトルコが、互いを防衛するために参戦することを誓約した。両国はパキスタンを交えて「メッカ共同防衛協定(the Mecca Joint Defense Agreement)」に署名し、NATO(北大西洋条約機構)と同様に、いずれかの国への攻撃を全加盟国への攻撃と見なすと宣言した。パキスタンとサウジアラビアは以前から緊密な安全保障関係にあったが、サウジアラビアとトルコは激しい地域的ライヴァル関係にあった。カタールやエジプト、ムスリム同胞団をめぐって対立し、何よりも決定的な亀裂を生んだのは、イスタンブールで起きたジャマル・カショギ殺害事件だった。トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、この事件の責任がサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子にあると直接的に示唆した。

それでは、何がサウジアラビアとトルコを結びつけたのか? それはドナルド・トランプ米大統領、正確には、トランプとその言葉に対する両国の信頼が揺らいだことだった。

イラン戦争は、いかにして信頼を失墜させるかを示す特別授業(a master class)となった。思い出して欲しいのは、サウジアラビアとカタールの双方が、つい昨年トランプから安全保障上の確約を得ていたという事実だ。しかし、トランプの言葉の信頼性は、かつてニューヨークの銀行家たちに対してそうであったのと同様に、海外の相手国に対しても極めて危うい。彼は、テヘランとの合意はあと数日で成立する(just days away)と繰り返し公言してきた。6月中旬の時点で、合意が近い、あるいはイランが合意を切望しているといった趣旨の発言は、少なくとも38回行われた。それにもかかわらず、今週になってイランのある関係者がロイター通信に語ったところによれば、交渉は「全く進展していない(absolutely no progress)」ということだ。世界は今や、彼がトゥルース・ソーシャルに投稿する内容を、彼自身が投稿するAI生成動画と同様に、事実と虚構が入り混じったものとして受け止めるようになっている。

同様のパターンはヨーロッパでも見られる。5月、トランプはドイツ駐留アメリカ軍5000人を撤退させると発表し、さらなる削減の可能性も示唆した。これを受けて国防総省は、ポーランドへの約4000人の部隊派遣計画を白紙撤回した。ところがその数日後、トランプは一転して、新たに5000人の部隊をポーランドに派遣すると発表した。ロシアに対してヨーロッパを防衛しないと脅したかと思えば、防衛すると言うこともある。こうした状況下で10カ年軍事計画を策定しようとするヨーロッパ各国の国防大臣の立場を想像してみて欲しい。

トランプは今週、アメリカがホルムズ海峡を「完全に管理(total control)」していると宣言した。しかし、船舶追跡データが示す最近の同海峡の1日あたりの通過隻数はわずか14隻にとどまっており、これは紛争前の1日130隻超という数字とは対照的である。

これは単に大統領のスタイルやレトリックの問題ではない。アメリカの力の中心(the heart of American power)に関わる問題なのだ。

アメリカは80年にわたり、空母やF-35戦闘機部隊に匹敵するほど強力なものを築き上げてきた。それは「信頼性(credibility)」である。同盟諸国は、アメリカの関与がアメリカ国内での政権交代を経ても維持されると信じてきた。敵対国もまた、アメリカの威嚇には時に誇張が含まれるとはいえ、それが現実的な重みを持つものであると理解していた。このシステムは完璧なものではなかった。ワシントンが約束を破ったり、過ちを犯したりすることもあった。それでも、アメリカは予測可能な行動をとる国(a predictable actor)であり、大統領の言葉には重みがあるという前提が広く共有されていたのである。

トランプは、約束や威嚇を、まるで壮大な「はったりのゲーム(a grand game of bluff)」でもするかのように扱っている。しかし、同盟関係における「予測不可能性(unpredictability)」は、不動産取引におけるそれとは全くの別物だ。軍隊が派遣されるのか撤退するのか、関税が引き上げられるのか引き下げられるのか、今日署名された合意が明日まで有効なのか、同盟諸国がこうしたことを予測できなければ、彼らはアメリカに従順になるどころか、むしろ独自路線を歩むようになるだろう。

各国は保険をかけ始めている。デンマークはアメリカのパトリオットではなく、フランス・イタリア共同開発の防空システム「SAMP/T」を選択した。カナダはF-35戦闘機の購入計画を見直している。ヨーロッパ各国政府は自国の兵器産業への投資を拡大している。韓国はヨーロッパのNATO加盟国に対する兵器販売で第2位の地位を確立し、パトリオットより安価なシステムで湾岸諸国の防空体制構築を支援している。オランダ中央銀行は、アメリカのテクノロジーへの依存を減らすため、重要なクラウドサービスをヨーロッパのプロバイダーへ移行させた。そして今、サウジアラビア、トルコ、パキスタンも独自の安全保障体制を構築しようとしている。

これらの動きの一つひとつが、直ちにワシントンとの決別を意味する訳ではない。しかし、それらはアメリカが公言することへの信頼が揺らいでいることを如実に示している。

アメリカの「脅し」についても同様のことが起きている。ワシントンが関税をちらつかせて譲歩(concessions)を引き出し、その後また関税をちらつかせるようなことを繰り返せば、各国政府は「妥協しても安全は得られない(accommodation does not produce safety)」という結論に至っている。今年初めのカナダ首相マーク・カーニーの言葉を借りれば、従順な態度を取ることで安全が買えるなどと期待しても、それは叶わないということだ。したがって、合理的な対応策は「代替手段」を構築することになる。

あのネタニヤフ首相でさえ、トランプの提案をそれほど真剣には受け止めていない。彼は今週、ガザ地区に関するトランプ大統領の15項目の計画をあっさりと拒絶した。彼はこれまで、鳴り物入りで発表されながら、すぐに忘れ去られていったトランプの計画を数多く目にしてきた。「ガザ・リビエラ」計画を覚えているだろうか?

大国とはこのようにして衰退していくものだ。必ずしも劇的な敗北によってではなく、他国がその大国を中心に世界を構成することを、静かに止めることによってだ。

アメリカは依然として圧倒的な力を有している。それは、世界最強の軍事力、最先端技術、巨大な資本市場、強固な同盟関係、そして米ドルを擁しているからだ。しかし、「信頼性」もまた1つの資産である。それは何世代にもわたって苦労して築き上げられるものだが、驚くほど容易に費やされ、浪費されてしまうものでもある。

キューバ危機の間、ジョン・F・ケネディ大統領は、キューバにおけるソ連の核ミサイル配備の事実をシャルル・ド・ゴールに説明させるため、ディーン・アチソン元国務長官をパリに派遣した。アチソンは、その事実を裏付けるための偵察写真(reconnaissance photographs)を持参していた。しかし、決してアメリカにへつらうような人物ではなかったド・ゴールは、それらを一蹴した。彼は、証拠など必要ないと言った。米大統領の言葉だけで十分だったからだ。

今日、そのような光景は想像もつかない。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)

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