古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: アメリカ政治

 古村治彦です。

 アメリカとイスラエルがイランに対して大規模攻撃を行うことで始まったイラン戦争は、パキスタンのシャバーズ・シャリフ首相が仲介役となり、2週間の停戦が合意に至ったという発表を行ったことで事態が急速に動いた。アメリカもイランも停戦に合意医したことを認め、イスラエルは停戦に合意するとしているが、イランから支援を受けているヒズボラに対する攻撃を継続するとして、レバノンへの大規模攻撃を継続している。パキスタンのシャリフ首相はレバノン攻撃停止が停戦条件に入っているとしているが、認識の違いはこれからの停戦に方向に影響を与えることになるだろう。
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(左から)トランプ、ヴァンス、ルビオ、スージー・ワイルズ大統領首席補佐官

 そうした中で、ニューヨーク・タイムズ紙は、ドナルド・トランプ大統領によるイラン攻撃決定に進むまでの内幕を報じた。2026年2月11日に、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が極秘裏にホワイトハウスを訪問し、外国首脳はほぼ入ったことがないシチュエーションルームで1時間にわたり、イラン戦争開始を勧奨するプレゼンテーションを行った。プレゼンテーションの内容について以下の記事では、「第一部分は最高指導者の暗殺、つまりハメネイ師の殺害。第二部分はイランの軍事力投射能力と近隣諸国への脅威能力の弱体化、第三部分はイラン国内での民衆蜂起、そして、第四部分は世俗的な指導者を擁立する政権転覆(体制転換)である」としている。アメリカ政府関係者たちは、最初の2つの部分は達成可能であるが、残り2つは達成不可能であるという評価を下していた。このプレゼンテーションの会合には、JD・ヴァンス副大統領は出席していなかった。アゼルバイジャンに外遊中で当日までに帰国できなかった。

 翌日12日にプレゼンテーションの内容を評価する会合が開かれ、ヴァンス副大統領はこちらには出席することが出来た。そして、この会合で、トランプ大統領に対して、イラン攻撃に反対する意見を述べた。以下の記事から引用する。

(引用はじめ)

ヴァンス副大統領は、イランとの政権転覆戦争は破滅的な結果を招くと考えていた。彼の望みは、一切の攻撃を行わないことだった。しかし、トランプが何らかの形で介入する可能性が高いことを承知していたヴァンスは、より限定的な行動へと舵を切ろうとした。その後、大統領が大規模な作戦に踏み切ることが確実になると、ヴァンスは、目的を迅速に達成するためには圧倒的な武力行使が必要だと主張した。

ヴァンスは同僚たちの前で、イランとの戦争は地域的な混乱と計り知れない数の犠牲者をもたらす可能性があるとトランプに警告した。また、トランプの政治連合を崩壊させ、新たな戦争は起こさないという約束を信じていた多くの有権者から裏切りとみなされるだろうとも述べた。

ヴァンス副大統領は他にも懸念を表明した。副大統領として、彼はアメリカの軍需品問題の深刻さを認識していた。生き残りを強く望む政権との戦争は、アメリカを今後数年間、紛争を戦う上で極めて不利な立場に追い込む可能性がある。

副大統領は側近に対し、政権の存続がかかっている状況でイランがどのような報復行動に出るかを、どれほど軍事的見識があっても正確に予測することはできないと語った。戦争は容易に予測不可能な方向へ進む可能性がある。さらに、彼は戦争後に平和なイランを築く可能性は低いと考えていた。

そして、おそらく最大の懸念は、ホルムズ海峡におけるイランの優位性だった。膨大な量の石油と天然ガスを輸送するこの狭い海峡が封鎖されれば、ガソリン価格の高騰をはじめとするアメリカ国内への影響は甚大になるだろう。

(貼り付け終わり)

 現状はヴァンス副大統領の懸念の通りになっている。その他の最高幹部たちでは、ピート・ヘグセス国防長官が攻撃に賛成し、マルコ・ルビオ国務長官は曖昧な態度を取った。ただ全員が、トランプ大統領が攻撃を決定するならば支持し、それぞれの役職で支えるということは変わらなかった。最終的には、2月26日に会合が開かれ、トランプ大統領から攻撃決定の意思が示された。トランプの決断の理由は、記事によると、「イランが核兵器を保有できないようにしなければならないこと、そしてイランがイスラエルや中東地域全体にミサイルを発射できないようにしなければならないことを確実にしなければならない」ということだった。ネタニヤフ首相のプレゼンテーションで示された4つの部分のうちの2つを実行するということだった。これは、「イラン国内での民衆蜂起と世俗的な指導者を擁立する政権転覆(体制転換)」はゴールとはしないということだった。ここから、開戦直前において、アメリカとイスラエルは戦争のゴールが異なっていたということが明らかだ。

 2月11日にネタニヤフ首相がホワイトハウスのシチュエーションルームでプレゼンテーションを行ったが、それよりも前に両国政府の実務者レヴェルですり合わせが行われ、実際に攻撃決定となれば、どの程度の攻撃をどの範囲で実行するかということは決定されていただろう。そうでなければ、攻撃開始までの準備期間が短期間過ぎるということになる。さらに、イスラエル側はヴァンス副大統領がホワイトハウスに来られない日程を狙ってプレゼンテーションを行ったということも考えられる。プレゼンテーションの場所で、ヴァンス副大統領に反対されたら、ネタニヤフ首相の面子はなくなってしまう。ネタニヤフ首相による下準備は2025年から開始されていた。2025年だけで6回もホワイトハウスを訪問している。ここで「説得」、いや「洗脳」「刷り込み」が行われたということは考えられる。

ヴァンス副大統領はその過程を注視している訳で、イスラエルとネタニヤフ首相に対して不信感を募らせていたことは明らかだ。実際に、3月23日、ヴァンス副大統領はネタニヤフ首相と電話会談を行い、そこで、イラン戦争に関して見通しが甘かったこと、イスラエルの入植者たちの暴力をイスラエル政府が統制できていないことを強く口調で非難したという報道が出ている。

 ヴァンスがトランプが錯誤の結果として開始したイラン戦争の尻拭いをするということになるのは当然のことだ。彼にはそれを実行するだけの資格がある。懸念はイスラエルによる妨害である。ヴァンスがイラン戦争停戦を成功させれば、2028年の大統領選挙での勝利に大きく近づく。そうなれば、イスラエルとしては具合が悪い。イスラエルに対して懐疑的な大統領が誕生すれば、イスラエルにとっては利益にならない。イスラエルがヴァンスに対して妨害工作を仕掛けてくるという可能性がある。しかし、ヴァンスは「トランプ主義」、「アメリカ・ファースト」と「アイソレイショニズム」の正統な後継者である。ヴァンスをアメリカ国民が支えることになるだろう。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領はいかにしてアメリカをイランとの戦争へと導いたか(How Trump Took the U.S. to War With Iran

-一連のシチュエーションルームでの会議において、トランプ大統領は自身の直感と、副大統領の強い懸念、そして悲観的な情報機関の評価との間で葛藤した。ここでは、トランプがいかにして運命的な決断を下したのか、その内幕を明らかにする。

ジョナサン・スワン、マギー・ハーバーマン筆

2026年4月7日
『ニューヨーク・タイムズ』紙

https://www.nytimes.com/2026/04/07/us/politics/trump-iran-war.html

ベンヤミン・ネタニヤフ首相を乗せた黒塗りのSUVは、2月11日午前11時前にホワイトハウスに到着した。イランへの大規模攻撃にアメリカが同意するよう数カ月にわたり働きかけてきたイスラエル首相は、記者たちの目から隠れるように、ほとんど式典もなくホワイトハウス内へと案内された。彼の長い政治キャリアの中でも最も重要な局面の一つに向けて進めた準備が実現した瞬間だった。

アメリカとイスラエル両国の高官たちはまず、大統領執務室に隣接する閣議室に集まった。その後、ネタニヤフ首相は階下へ移動し会談本番に臨んだ。ホワイトハウスのシチュエーションルームで、ドナルド・トランプ大統領と側近たちに対し、イランに関する極秘のプレゼンテーションが行われた。このシチュエーションルームは、外国首脳との直接会談にはほとんど使用されていなかった。

トランプ大統領は着席したが、いつものマホガニー製の会議テーブルの最上座ではなく、壁に設置された大型スクリーンが見える反対側の椅子に腰掛けた。ネタニヤフ首相は反対側、大統領の真向かいに座った。首相の背後のスクリーンには、イスラエルの対外情報機関モサドの長官であるダヴィッド・バルネアと、イスラエル軍関係者たちが映し出されていた。ネタニヤフ首相の背後に視覚的に配置された彼らは、戦時指導者が自身の率いるティームに囲まれているような印象を与えた。

ホワイトハウス・大統領首席補佐官スージー・ワイルズはテーブルの端に座り、国家安全保障問題担当大統領補佐官を兼任するマルコ・ルビオ国務長官はいつもの席に着いていた。国防長官ピート・ヘグセスと米統合参​​謀本部議長ダン・ケイン大将は、こうした会談では通常一緒に座るのだが、この日は片側に座った。彼らに加わったのは、CIA長官ジョン・ラトクリフだった。大統領の義理の息子であるジャレッド・クシュナーと、イランとの交渉を担当していたトランプ大統領特使スティーヴ・ウィトコフが主要メンバーを構成した。

会合は情報漏洩を防ぐため、意図的に小規模に抑えられていた。他の閣僚たちは会合が開かれていることすら知らなかった。副大統領も欠席していた。JD・ヴァンス副大統領はアゼルバイジャンに滞在しており、会合は急遽決定されたため、開始時間までに戻ることができなかった。

ネタニヤフ首相がこの後1時間で行うプレゼンテーションは、世界で最も不安定な地域の一つである中東地域において、アメリカとイスラエルを大規模な武力衝突へと導く決定的な役割を果たすことになるだろうと考えられた。そして、この決定は、その後の数日間、数週間にわたりホワイトハウス内で一連の議論へと発展した。その詳細はこれまで報じられていないが、トランプはイラン攻撃でイスラエルと共闘することを承認する前に、選択肢とリスクを慎重に検討した。

トランプがアメリカを戦争へと導いた経緯を詳述した今回の記事の内容は、発刊予定の著書『政権転覆(体制転換):ドナルド・トランプ皇帝型大統領の内幕(Regime Change: Inside the Imperial Presidency of Donald Trump)』のための取材に基づいている。本書は、政権内部での協議がいかに大統領の直感、側近間の亀裂、そしてホワイトハウス運営の実態を浮き彫りにしたかを明らかにしている。匿名を条件に行われた広範なインタヴューに基づき、内部の議論やデリケートな問題について詳述している。

今回の報道は、トランプのタカ派的な考え方が、数カ月にわたりネタニヤフの考え方とどれほど密接に一致していたかを明らかにしている。その一致度は、大統領の主要な補佐官たちの一部でさえ認識していなかったほどだ。両者の緊密な関係は、2つの政権にわたって一貫して見られ、その力関係は、時に緊張をはらむこともありながらも、アメリカ政治の左右両派から激しい批判と疑念を招いてきた。

そして、最終的には、トランプの戦争内閣の中でも懐疑的なメンバーでさえ―全面戦争に最も反対していたホワイトハウス内の人物であるヴァンスを除いて―、戦争が迅速かつ決定的なものになるという大統領の確信を含む、大統領の直感に従ったことを示している。ホワイトハウスはコメントを控えた。

2月11日、ホワイトハウスのシチュエーションルームで、ネタニヤフ首相はイランの政権転覆(体制転換)がまさに実現可能な時期にあると強く訴え、アメリカ・イスラエル合同作戦によってイスラム共和国を終焉させることができるとの確信を表明した。

イスラエル側はトランプ大統領に対し、強硬なイラン政権が崩壊した場合に国家を掌握する可能性のある新たな指導者たちの映像をまとめた短いヴィデオを上映した。その中には、イラン最後のシャー(国王)の亡命中の息子で、現在はワシントンを拠点とする反体制派のレザ・パラヴィーも含まれていた。パラヴィーは、自分自身を、イランを神権政治後の政権へと導くことができる世俗的な指導者として、位置づけようとしてきた。

ネタニヤフ首相とそのティームは、ほぼ確実な勝利を示唆する条件を提示した。イランの弾道ミサイル計画は数週間以内に破壊される可能性がある。イラン政権は弱体化し、ホルムズ海峡を封鎖することは不可能になるだろう。また、イランが近隣諸国のアメリカの権益を攻撃する可能性は極めて低いと評価された。

さらに、モサドの情報によると、イラン国内で再び街頭デモが始まるとみられ、イスラエル諜報機関が暴動や反乱を煽ることで、激しい爆撃作戦はイラン反体制派による政権転覆(体制転換)の条件を整える可能性があるという。イスラエル側はまた、イランのクルド人戦闘員がイラクから国境を越えて北西部に地上戦線を開き、政権軍をさらに分散させ、崩壊を加速させる可能性も指摘した。

ネタニヤフ首相は自信に満ちた単調な口調でプレゼンテーションを行った。その発言は、その場にいた最も重要な人物、つまりアメリカ大統領に好印象を与えたようだった。

トランプ大統領はネタニヤフ首相に「私には良い考えのように思える(Sounds good to me)」と告げた。ネタニヤフ首相にとって、これはアメリカ・イスラエル共同作戦へのゴーサインが出されたことを意味していた。

トランプ大統領が最終的な決断を下したと感じたのはネタニヤフ首相だけではなかった。大統領の補佐官たちは、トランプ大統領がネタニヤフ首相の軍事・情報機関の能力に深く感銘を受けていたことを察知していた。それは、6月のイランとの12日間の戦争前に両者が会談した時と同様だった。

2月11日のホワイトハウス訪問の際、ネタニヤフ首相は閣議室に集まったアメリカ国民に対し、86歳のイラン最高指導者アリ・ハメネイ師がもたらす存亡の危機について改めて認識させようと努めた。

シチュエーションルームにいた他の出席者から作戦に伴う潜在的なリスクについて質問されると、ネタニヤフ首相はリスクを認めつつも、重要な点を1つ強調した。それは、何もしないことのリスクは行動することのリスクよりも大きいという見解だった。攻撃を遅らせれば、イランにミサイル生産を加速させ、核開発計画を防御する「防護壁(a shield of immunity)」を構築する時間を与えてしまうことになり、結果として行動の代償は増大するだけだと首相は主張した。

シチュエーションルームにいた全員が、イランはミサイルとドローンの備蓄を、アメリカが中東地域におけるアメリカの国益と同盟国を守るために、はるかに高価な迎撃ミサイルを製造・供給するよりもはるかに低コストで、はるかに迅速に増強できる能力を持っていることを理解していた。

ネタニヤフ首相のプレゼンテーション、そしてそれに対するトランプ大統領の好意的な反応は、アメリカ諜報・情報機関にとって喫緊の課題となった。アナリストたちは夜通し、イスラエル側がトランプ大統領に伝えた内容の妥当性を評価する作業に追われた。

●「茶番劇」(‘Farcical’

米諜報・情報機関の分析結果は、翌日の2月12日、ホワイトハウスのシチュエーションルームで、アメリカ政府当局者のみが出席する別の会議で共有された。トランプ大統領の到着に先立ち、2人の諜報・情報部門の高官が大統領側近たちにブリーフィングを行った。

諜報・情報機関関係者たちはアメリカ軍の能力に関する深い専門知識を持ち、イランの体制とその構成員を隅々まで知り尽くしていた。彼らはネタニヤフ首相のプレゼンテーションを4つの部分に分解していた。第一部分は最高指導者の暗殺、つまりハメネイ師の殺害。第二部分はイランの軍事力投射能力と近隣諸国への脅威能力の弱体化、第三部分はイラン国内での民衆蜂起、そして、第四部分は世俗的な指導者を擁立する政権転覆(体制転換)である。

アメリカ政府当局は、最初の2つの目標はアメリカの情報収集力と軍事力で達成可能だと判断した。一方、クルド人によるイランへの地上侵攻の可能性を含むネタニヤフ首相の提案の第三と第四の部分は、現実離れしていると判断した。

トランプ大統領が会議に出席すると、ラトクリフCIA長官はトランプ大統領にこの評価を説明した。CIA長官はイスラエル首相の政権交代シナリオを一言で「茶番劇」と表現した。

その時、ルビオ国務長官が口を挟んだ。「それはつまり、それはでたらめということだね」と彼は言った。

ラトクリフ長官は、紛争における事態の予測不可能性を鑑みれば、政権転覆(体制転換)は起こり得るものの、達成可能な目標と考えるべきではないと付け加えた。

アゼルバイジャンから帰国したばかりのヴァンス副大統領をはじめ、数名がこれに加わり、政権交代(体制転換)の見通しについて強い懐疑的な見解を示した。

トランプ大統領は次にケイン大将に目を向けた。「大将、どう考える?」。

ケイン大将は次のように答えた。「大統領閣下、これは私の経験上、イスラエルの常套手段です。彼らは誇張し、計画は必ずしも十分に練られてはおりません。彼らは私たちを必要としていることを知っており、だからこそ強引に売り込んでいると考えております」。

トランプ大統領はすぐにその評価を検討した。政権交代は「彼らの問題だ」と述べた。トランプ大統領が述べた「彼ら」がイスラエル国民を指しているのか、イラン国民を指しているのかは不明だった。しかし、肝心なのは、イランとの戦争に踏み切るかどうかのトランプの決断は、ネタニヤフ首相のプレゼンテーションの第三の部分と第四の部分が実現可能かどうかには左右されないということだった。

トランプは、第一の部分と第二の部分、すなわち最高指導者とイランの最高幹部の殺害、そしてイラン軍の解体という目標の達成に依然として強い関心を示していたようだ。

トランプが「壊し屋ケイン(Razin’ Caine)」と呼んだケイン統合参謀本部議長は、数年前にイスラム国は他の予想よりもはるかに早く壊滅させることができるとトランプに語り、強い印象を与えた。トランプはその信頼に応え、元空軍戦闘機パイロットだったケイン大将を大統領の最高軍事顧問に任命した。ケイン将軍は政治的な忠誠心を持つ人物ではなく、イランとの戦争には深刻な懸念を抱いていた。しかし、彼は大統領に自らの見解を伝える際には非常に慎重だった。

計画に関与していた少数の補佐官たちが数日間協議を重ねる中、ケイン大将はトランプ大統領たちに、イランに対する大規模作戦はミサイル迎撃ミサイルを含むアメリカの兵器備蓄を大幅に減少させるという、憂慮すべき軍事的評価を伝えた。これらの兵器は、ウクライナとイスラエルへの長年の支援によって既に備蓄が逼迫していた。ケイン大将は、これらの備蓄を迅速に補充する明確な道筋は見当たらないと述べた。

また、ホルムズ海峡の安全確保の極めて困難な点と、イランが海峡を封鎖するリスクについても指摘した。トランプ大統領は、イラン政権がそのような事態になる前に降伏するだろうという前提で、この可能性を軽視していた。大統領は、戦争は非常に短期間で終わると考えていたようで、6月のイラン核施設へのアメリカ軍爆撃に対するイランの反応が冷淡だったことが、その印象をさらに強めていた。

開戦に至るまでのケイン大将の役割は、軍事顧問と大統領の意思決定との間の典型的な緊張関係を如実に物語っている。統合参謀本部議長は立場を明確にせず、大統領に指示を与えるのは自分の役割ではなく、選択肢と潜在的なリスク、そして起こりうる二次的・三次的な影響を提示するのが自分の役割だと繰り返し主張したため、聞いている人の中には、まるで問題のあらゆる側面を同時に論じているように見える者もいた。

彼は常に「それで、どうなるのか?(And then what?)」と問いかけたが、トランプはしばしば、自分が聞きたいことしか聞いていないように見えた。

ケイン大将は、前任者のマーク・A・ミリー大将とはほぼあらゆる点で異なっていた。ミリー大将はトランプ政権初期にトランプと激しく対立し、大統領が危険または無謀な行動を

両者のやり取りに詳しいある人物は、トランプがケイン大将からの戦術的な助言と戦略的な助言を混同する癖があったと指摘した。具体的には、ケイン大将は作戦のある側面における困難について警告したかと思えば、その直後に、アメリカには安価な精密誘導爆弾が事実上無尽蔵にあり、制空権を確保すれば数週間にわたってイランを攻撃し続けることができると述べる、といった具合だった。

統合参謀本部議長にとって、これらは別々の見解だった。しかし、トランプは、2番目の見解が1番目の見解をほぼ確実に打ち消すと考えていたようだ。

審議中、統合参謀本部議長はイランとの戦争は恐ろしい考えだと大統領に直接伝えることはなかったが、ケイン大将の同僚の中には、まさにそう考えていたと確信する者もいた。

●タカ派のトランプ(Trump the Hawk

ネタニヤフ首相は、大統領補佐官の多くから不信感を抱かれていたが、首相の見解は、トランプ陣営の反介入主義者や、より広範な「アメリカ・ファースト」運動の支持者たちが認めたがる以上に、トランプ大統領の見解にずっと近かった。これは長年にわたり事実だった。

トランプ大統領が二期にわたって直面した外交上の課題の中で、イラン問題は特に異質なものだった。彼はイランを極めて危険な敵とみなし、イラン政権の戦争遂行能力や核兵器保有能力を阻害するためなら、大きなリスクを冒すことも厭わなかった。さらに、ネタニヤフ首相の主張は、トランプが32歳だった1979年に権力を掌握したイランの神権政治体制を解体したいというトランプの願望と合致していた。イランはそれ以来、アメリカにとって目の上のこぶのような存在だった。

現在、彼は聖職者による政権掌握から47年が経過した現在、イランで政権交代(体制転換)を成し遂げた最初の大統領となる可能性があった。通常は言及されないものの、常に背景には、イランがトランプ暗殺を企てていたというもう一つの動機があった。これは、アメリカではイランの国際テロ活動の推進力と見なされていたカセム・ソレイマニ司令官が2020年1月に暗殺されたことへの報復だった。

大統領に復帰したトランプ大統領は、アメリ軍の能力に対する自信をさらに強めていた。特に、1月3日にヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領を邸宅から拉致した、特殊部隊による華々しい襲撃作戦は、大統領の自信を一層高めた。この作戦でアメリカ兵の死者は一人も出なかったが、これは大統領にとって米軍の比類なき能力を改めて証明する出来事となった。

トランプ政権の中で、イランに対する軍事作戦を最も強く主張したのはヘグセス国防長官だった。

一方、ルビオ国務長官は同僚たちに対し、より複雑な心境であることを示唆していた。イランが交渉による合意に応じるとは考えていなかったものの、全面戦争に踏み切るよりも、最大限の圧力をかけ続けることを望んでいた。しかし、ルビオ長官はトランプ大統領に作戦中止を説得しようとはせず、開戦後は政権の正当化について、確信を持って演説した。

ワイルズ大統領首席補佐官は、新たな海外紛争がもたらす影響について懸念を抱いていたものの、大規模な会議で軍事問題について積極的に発言することはあまりなく、むしろ補佐官たちが大統領に意見や懸念を伝えるよう促していた。ワイルズ補佐官は他の多くの問題では影響力を行使していたが、トランプ大統領や将軍らが集まる場では、一歩引いて傍観していた。ワイルズに近い関係者によると、軍事的な決定について大統領に懸念を表明するのは自分の役割ではないと考えていたという。そして、ケイン大将、ラトクリフ長官、ルビオ長官といった補佐官たちの専門知識こそ、大統領が耳を傾けるべき重要なものだと考えていた。

それでも、ワイルズは同僚に対し、アメリカが中東地域で再び戦争に巻き込まれることを懸念していると語っていた。イランへの攻撃は、中間選挙の数カ月前にガソリン価格の高騰を引き起こす可能性があり、その選挙はトランプ大統領の2期目の最後の2年間が、成果を上げる年になるのか、それとも連邦下院民主党からの召喚状を受ける年になるのかを左右する可能性がある。しかし最終的には、ワイルズは作戦に賛成した。

●懐疑論者ヴァンス(Vance the Skeptic

トランプの側近の中で、イランとの戦争の可能性を最も懸念し、それを阻止するために最も尽力したのは、副大統領のヴァンスだった。

ヴァンスは、まさに今真剣に検討されているような軍事的冒険主義(military adventurism)に反対することで政治家としてのキャリアを築いてきた。彼はイランとの戦争を「莫大な資源の浪費(a huge distraction of resources)」であり「莫大な費用がかかる(massively expensive.)」と述べていた。

しかし、彼は全面的にハト派だった訳ではない。2026年1月、トランプがイランに対しデモ参加者の殺害を止めるように公的に警告し、支援を約束した際、ヴァンスは非公式に大統領にレッドラインを厳格に執行するよう促していた。しかし、副大統領が主張したのは、限定的な懲罰的攻撃であり、2017年にトランプがシリアの民間人に対する化学兵器使用を理由にミサイル攻撃を行ったような形態に近いものだった。

ヴァンス副大統領は、イランとの政権転覆戦争は破滅的な結果を招くと考えていた。彼の望みは、一切の攻撃を行わないことだった。しかし、トランプが何らかの形で介入する可能性が高いことを承知していたヴァンスは、より限定的な行動へと舵を切ろうとした。その後、大統領が大規模な作戦に踏み切ることが確実になると、ヴァンスは、目的を迅速に達成するためには圧倒的な武力行使が必要だと主張した。

ヴァンスは同僚たちの前で、イランとの戦争は地域的な混乱と計り知れない数の犠牲者をもたらす可能性があるとトランプに警告した。また、トランプの政治連合を崩壊させ、新たな戦争は起こさないという約束を信じていた多くの有権者から裏切りとみなされるだろうとも述べた。

ヴァンス副大統領は他にも懸念を表明した。副大統領として、彼はアメリカの軍需品問題の深刻さを認識していた。生き残りを強く望む政権との戦争は、アメリカを今後数年間、紛争を戦う上で極めて不利な立場に追い込む可能性がある。

副大統領は側近に対し、政権の存続がかかっている状況でイランがどのような報復行動に出るかを、どれほど軍事的見識があっても正確に予測することはできないと語った。戦争は容易に予測不可能な方向へ進む可能性がある。さらに、彼は戦争後に平和なイランを築く可能性は低いと考えていた。

そして、おそらく最大の懸念は、ホルムズ海峡におけるイランの優位性だった。膨大な量の石油と天然ガスを輸送するこの狭い海峡が封鎖されれば、ガソリン価格の高騰をはじめとするアメリカ国内への影響は甚大になるだろう。

右派の有力な介入懐疑論者として台頭したコメンテーターのタッカー・カールソンは、前年に何度かホワイトハウスを訪れ、イランとの戦争はトランプ大統領の政権を崩壊させると警告していた。トランプ大統領は、開戦の数週間前、長年の友人であるカールソンに対して、電話で安心させようとした。「心配しているのは分かっているが大丈夫だ(I know you’re worried about it, but it’s going to be OK)」と大統領は言った。カールソンがどうしてそう言えるのかと尋ねると、「いつもそうだったからだ(Because it always is)」とトランプ大統領は答えた。

2月末、アメリカとイスラエルは、作戦のスケジュールを大幅に前倒しする新たな情報について協議した。イランの最高指導者が、他の政権幹部らと白昼堂々と地上で会合を開くという情報だった。これは、イラン指導部の中枢を攻撃するまたとない機会であり、二度とないかもしれない標的だった。

トランプ大統領はイランに対し、核兵器開発への道を阻む合意に至るための新たな機会を与えた。この外交努力は、アメリカが中東地域への軍事資産の移転を進めるための時間的猶予も与えた。

大統領は数週間前に事実上決断を下していたと複数の側近は述べている。しかし、具体的な時期はまだ決めていなかった。ネタニヤフ首相はトランプ大統領に迅速な行動を促した。

同じ週、クシュナーとウィトコフは、イラン当局者との最新の協議後、ジュネーブから電話をかけた。オマーンとスイスで行われた3回の交渉で、両者はイランの合意意欲を探っていた。ある時点で、両者はイランに対し、核開発計画期間中、無償で核燃料を提供すると申し出た。これは、テヘランがウラン濃縮に固執する理由が、本当に民生用エネルギーのためなのか、それとも核兵器製造能力の維持のためなのかを見極めるための試みだった。

イラン側はこの申し出を拒否し、自国の尊厳に対する攻撃だと非難した。

クシュナーとウィトコフは大統領に状況を説明した。交渉は可能だろうが、数カ月はかかるだろうと彼らは述べた。トランプ大統領が、彼らが自分の目を見て問題を解決できると言えるかと問うているのなら、そこに至るまでには相当な努力が必要になるだろうとクシュナーは告げた。それはイラン側が駆け引きをしているからだった。

●「やらなければならないと思う」(‘I Think We Need to Do It’

2月26日木曜日の午後5時頃、最終のシチュエーションルーム会議が始まった。この時点で、会議室にいる全員の立場は明確になっていた。これまでの会議で全てが議論され、全員が互いの立場を把握していた。議論は約1時間半続いた。

トランプ大統領はいつものようにテーブルの最上座に座った。右隣には副大統領ヴァンス、その隣にはワイルズ補佐官、その隣にはラトクリフ長官、ホワイトハウス法律顧問のデイヴィッド・ウォリントン、そしてホワイトハウス広報部長スティーヴン・チャンが座っていた。チャンの向かい側にはホワイトハウス報道官のカロライン・リーヴィットが座り、その右隣にはケイン大将、続いてヘグセス長官、そしてルビオ長官が座っていた。

戦争計画グループは極秘裏に進められ、世界石油市場史上最大規模の供給途絶を管理する必要のある主要幹部2名、スコット・ベッセント財務長官とエネルギー長官クリス・ライト、そして国家情報長官ドゥルシー・ギャバードも除外されていた。

大統領は会議の冒頭で、「さて、現状はどうなっているのか?(OK, what have we got?)」と問いかけた。

ヘグセス長官とケイン大将は攻撃の手順を説明した。その後、トランプ大統領は全員の意見を聞きたいと述べた。

この作戦の前提そのものに反対していたヴァンスは、大統領に対し、「これは悪い考えだと思いますが、もしあなたが実行したいのであれば支持します」と述べた。

ワイルズ補佐官はトランプ大統領に対し、アメリカの国家安全保障のために必要だと感じるなら実行すべきだと述べた。

ラトクリフ長官は実行の是非については意見を述べなかったが、イラン指導部がテヘランの最高指導者の邸宅で収集しようとしている驚くべき新たな情報について説明した。CIA長官は大統領に対し、政権交代は言葉の定義次第であるが、可能だと述べ、「最高指導者の殺害だけを意味するなら、おそらく実行できるだろう」と語った。

ホワイトハウス法律顧問ウォリントンは、質問を受けた際、この計画はアメリカ政府当局者によって立案され、大統領に提示された経緯から見て、法的に許容される選択肢であると述べた。個人的な意見は述べなかったが、大統領から意見を求められると、海兵隊の退役軍人として、数年前にイランによって殺害されたアメリカ軍兵士を知っていたと語った。この問題は、彼にとって非常に個人的なものだった。ウォリントンは大統領に対し、イスラエルが計画を強行するのであれば、アメリカも同様に行動すべきだと述べた。

チャン部長は、予想される広報上の影響について説明した。トランプは、さらなる戦争に反対して大統領選に立候補した。国民は海外での紛争を望んで投票したわけではない。この計画は、6月のイラン爆撃作戦後に政権が述べてきたこと全てに反するものだった。イランの核施設は完全に破壊されたと8カ月月間主張し続けてきたことを、どのように説明するのか。チャンは賛成も反対も表明しなかったが、トランプがどのような決定を下そうとも、それは正しいものになるだろうと述べた。

リーヴィットは大統領に対し、これは大統領の決定であり、報道ティームは最善を尽くして対応すると伝えた。

ヘグセス長官は限定的な立場を取った。いずれイランに対処しなければならないのだから、今やってしまえば良い、というものだ。彼は技術的な評価として、与えられた兵力で一定期間内に作戦を遂行できると述べた。

ケイン大将は冷静に、作戦のリスクと、それが弾薬の枯渇にどのような影響を与えるかを説明した。彼は意見を述べず、トランプ大統領が作戦を命じれば軍は実行する、という立場を示した。大統領の最高軍事指導者2人は、作戦の展開と、イランの軍事力を低下させるアメリカの能力について概説した。

ルビオ長官は発言の番になると、より明確な見解を示し、大統領に次のように述べた。「もし私たちの目標が政権転覆(体制転換)や反乱であるならば、作戦は行うべきではないです。しかし、目標がイランのミサイル計画を破壊することであるならば、それは達成可能な目標です」。

誰もが大統領の直感(instincts)に従った。彼らは大統領が大胆な決断を下し、想像を絶するリスクを負い、そして何とか成功を収めてきたのを見てきた。その時、誰も大統領を阻むことはできなかった。

「私たちは作戦を実行する必要があると思う(I think we need to do it)」と大統領は部屋にいる人々に告げた。彼は、イランが核兵器を保有できないようにしなければならないこと、そしてイランがイスラエルや中東地域全体にミサイルを発射できないようにしなければならないことを確実にしなければならないと述べた。

ケイン大将はトランプ大統領に、まだ時間があるので、翌日の午後4時までに承認を与えればよいと伝えた。

翌日の午後、エアフォースワン機内で、ケイン大将に対して、期限の2分前、トランプは次のように命令を送った。「エピック・フューリー(壮絶な怒り)作戦を承認する。中止はない。幸運を祈る」

※ジョナサン・スワン:ニューヨーク・タイムズ紙ホワイトナイト特派員。ドナルド・J・トランプ政権を担当。シグナル・アカウント:@jonathan.941

マギー・ハーバーマン:ニューヨーク・タイムズ紙ホワイトナイト特派員。トランプ大統領を担当。

※ジョナサン・スワンとマギー・ハーバーマンはニューヨーク・タイムズ紙ホワイトナイト特派員であり、近刊の『政権転覆(体制転換):ドナルド・トランプ皇帝型大統領の内幕(Regime Change: Inside the Imperial Presidency of Donald Trump)』の共著者。この記事は、近刊のために取材した内容に基づいている。

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緊迫した電話会談でJD・ヴァンス副大統領はイラン体制転換の可能性を過大評価しているとベンヤミン・ネタニヤフ首相を批判した:報道(In tense call, Vance knocked PM for overselling likelihood of Iran regime change — report

-アメリカ政府当局者たちは、海外での軍事介入に長年懐疑的であり、イランとの停戦交渉で主導的な役割を担う予定のヴァンス副大統領に対し、「イスラエルによる工作」が行われたと疑っていると報じられている。

『タイム・オブ・イスラエル』紙スタッフ

2026年3月27日

『タイム・オブ・イスラエル』紙

https://www.timesofisrael.com/in-tense-call-vance-knocked-pm-for-overselling-iran-regime-change-likelihood-report/

JD・ヴァンス米副大統領は月曜日の電話会談で、イランにおけるアメリカ・イスラエル共同爆撃作戦がイラン政権を転覆させる可能性を過大に強調したとして、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を厳しく批判したと、米情報筋とイスラエル情報筋の話として『アクシオス』誌が金曜日に報じた。

「開戦前、ネタニヤフ首相は政権交代(体制転換)が実際よりもはるかに容易だとトランプ大統領に説得していた。ヴァンス副大統領はそうした発言の一部について冷静に見抜いていた」とネタニヤフ首相の愛称を用いたアメリカ政府の情報筋は語った。

アメリカ政府当局者たちはまた、イスラエル側の一部関係者がヴァンス副大統領のタカ派姿勢が不十分だと考えており、イスラエル側は戦争終結に向けた取り組みで主導的な役割を担う副大統領の立場を弱体化させようとしていると考えている。

アクシオス誌が引用したある高官は、「イランがヴァンス副大統領と合意できなければ、合意は得られない。彼こそがイランにとって最良の相手だ」と述べた。

しかし、アクシオス誌は、ヴァンス副大統領がイランとの合意を急いでいるという見方に反論する政権関係者の発言も引用している。「これはイスラエルによるヴァンス副大統領に対する策略だ」とイランが副大統領との交渉を望んでいるとの報道を受け、この関係者は述べた。

ヴァンス副大統領の顧問らはまた、イスラエルの批判者たちが、ヴァンス副大統領がヨルダン川西岸地区におけるパレスティナ人に対するイスラエル入植者たちによる暴力の激化をイスラエルが抑制できていないとして、ネタニヤフ首相に電話で怒鳴りつけたとするヘブライ語メディアの報道を捏造したのではないかと疑っている。アメリカとイスラエルの政府当局はこの報道を否定している。

イラク戦争の退役軍人であるヴァンス副大統領は、特に中東地域における無期限のアメリカ軍介入に長年懐疑的な姿勢を示してきた。イランとの戦争前、ヴァンスはトランプ米大統領政権の中でも最も懐疑的な人物の1人であり、戦争の期間、目的、そしてアメリカの軍需物資への影響について懸念を表明していたと、アクシオス誌が引用したアメリカ政府情報筋は伝えている。

しかし、ヴァンスは、イランが反体制派デモ隊を弾圧してから約6週間後の2月28日にアメリカとイスラエルがイランに対して開始した爆撃作戦を支持する姿勢を、トランプ政権内の他のメンバーと公に一致させている。

以前の報道によると、イスラエルの情報機関モサドの長官は、作戦が成功すれば、モサドとCIAが政権転覆(体制転換)につながる蜂起を扇動できると戦争前に評価していたという。

『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、ネタニヤフ首相はイランとの戦争に先立ち、ホワイトハウスとモサドの計画について協議したが、計画が実現せず、トランプ大統領が「いつでも」戦争を終結させる可能性があることに不満を抱いているという。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体』(ビジネス社、2025年11月)では、新・軍産複合体(パランティア社、スペースX社、アンドゥリル社)について詳しく書いた。現在の第二次ドナルド・トランプ政権における重要人物である、イーロン・マスクとJD・ヴァンス、パランティア社の創業者であるピーター・ティールの関係についても詳しく分析した。

 軍産複合体という言葉は1961年にドワイト・アイゼンハワー大統領が退任する際の演説の中で使った言葉である。政府と軍、企業が緊密な関係を築いて、お互いに巨額な利益を生み出す関係である。そのためには緊密な人脈が重要になってくる。私は、これまでの軍複合体の形成過程について分析を行い、20世紀の財界と政界の重要人物たちが協力してきたことを明らかにした。

 アメリカ空軍は、無名に近かった二つのドローン開発企業、カリフォルニア州コスタメサのアンドゥリル・インダストリーズとサンディエゴのジェネラル・アトミックスを選び、協調型戦闘機(CCA)のプロトタイプ製造を発注した。CCAはパイロット搭乗機と連携して高リスク任務を担う次世代無人機と位置付けられ、空軍は今後十年で少なくとも千機、1機能あたりの単価約三千万ドルを調達する計画だが、この重大なプロジェクトが大手メディアでほとんど取り上げられなかった一方で、両社の受注は従来の巨大防衛企業三社(ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマン)を破り、既存の軍産複合体(military-industrial complexMIC)の支配構造を揺るがす可能性を示した。

新・軍産複合体についても同じ構図・図式となる。ピーター・ティールやイーロン・マスク、パルマー・ラッキーとJD・ヴァンス、更にアメリカ軍の文民幹部たちの緊密な協力関係があってこそ、新・軍産複合体は形成され、発展していく。現在は、これまでの巨大な軍事産業を中心とする古い軍産複合体が力を保持しているが、新・軍産複合体が追い上げている状況だ。アメリカ政治の大きな動きについては、これから更に研究・分析を深化させていきたい。
(貼り付けはじめ)
ペンタゴン内部の秘密戦争がトランプ世界を分裂させる可能性(A Secret War Inside the Pentagon Could Divide the Trump Universe

-新たな軍産複合体が誕生しつつあり、その目標と利益追求者は既存のものとは大きく異なる可能性がある。

マイケル・クレア筆

2025年2月12日

『インクスティック・メディア』誌

https://inkstickmedia.com/a-secret-war-inside-the-pentagon-could-divide-the-trump-universe/
昨年4月、メディアの注目をほぼ浴びない中で、アメリカ空軍は無名のドローンメーカー2社、カリフォルニア州コスタメサのアンドゥリル・・インダストリーズとサンディエゴのジェネラル・アトミックス社を選定し、提案中の協調型戦闘機(Collaborative Combat AircraftCCA)のプロトタイプ版を製造させると発表した。CCAは将来の無人機で、パイロット搭乗機と共に高リスク戦闘任務に投入されることが想定されている。アメリカ空軍が今後10年間に、1機あたり約3000万ドル、少なくとも1000機の CCA を調達する予定であり、これは国防総省にとって最も費用のかかる新規プロジェクトの1つであることを考えると、この報道の少なさは驚くべきことだった。しかし、メディアが注目しなかったことはそれだけではない。CCA の契約を獲得したアンドゥリルとジェネラル・アトミックスは、アメリカ最大かつ最も強力な防衛関連企業3社、ボーイング、ロッキード・マーティン、ノースロップ・グラマンを打ち負かし、既存の軍産複合体(military-industrial complexMIC)の継続的な支配に深刻な脅威を与えている。

数十年にわたり、これら3社のような少数の巨大企業が国防総省の武器契約の大半を獲得し、毎年同じ航空機、艦船、ミサイルを生産しながら、株主たちに巨額の利益をもたらしてきた。しかし、シリコンヴァレーで誕生した、あるいはその破壊的技術革新(イノヴェイション)精神を取り入れた様々な新興企業が、収益性の高い国防総省の契約獲得をめぐり、既存企業に挑戦し始めている。この過程で、主流メディアではほとんど報じられていないが、画期的な動きが進行中だ。新たな軍産複合体が誕生しつつあり、既存のものとは全く異なる目標と利益享受者を持つ可能性がある。旧来の軍産複合体と新軍産複合体の間の避けられない戦いがどう展開するかは予測できないが、1つ確かなことがある。今後数年間で、それらが重大な政治的混乱(political turbulence)を引き起こすことは間違いない。

「軍産複合体」という概念、巨大防衛企業と連邦議会・軍部の有力者たちを結びつける存在は、1961年1月17日、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領が連邦議会と国民に向けた退任演説で初めて提唱した。冷戦下のこの時代、強力な外国の脅威に対応するため、アイゼンハワー大統領は「私たちは巨大な恒久的な軍需産業を構築せざるを得なかった」と指摘した。しかし同時に、この言葉を初めて用いて、次のように続けた。「私たちは、軍産複合体が意図的か否かを問わず、不当な影響力を獲得することに対して警戒しなければならない。誤った権力の危険な台頭の可能性は存在し、今後も続くだろう」。

それ以降、軍産複合体の権力拡大をめぐる議論はアメリカ政界を揺るがし続けてきた。数多くの政治家や著名な公人たちは、ヴェトナム、カンボジア、ラオス、イラク、アフガニスタンなどにおける一連の破滅的な海外戦争へのアメリカの介入を、軍産複合体が政策決定に及ぼす不当な影響の結果として描いてきた。しかし、こうした主張や不満が、国防総省の兵器調達に対する軍産複合体の鉄壁の支配を緩めることに成功したことは一度もない。今年度の防衛予算は約8500億ドルと過去最高を記録し、うち1432億ドルが研究開発費、さらに1675億ドルが兵器調達費に充てられる。この3110億ドルの大半は巨大防衛企業に流れ込み、地球上の他の全ての国の防衛費総額を上回っている。

時間の経過とともに、数十億ドルの国防総省契約をめぐる競争は、軍産複合体のエコシステムを淘汰し、その結果、少数の大手産業巨人が支配的な地位を築くこととなった。2024年には、ロッキード・マーティン(防衛関連収益647億米ドル)、RTX(旧レイセオン、406億米ドル)、ノースロップ・グラマン(352億米ドル)、ゼネラル・ダイナミクス(337億米ドル)、ボーイング(327億米ドル)の5社だけが、国防総省の契約の大部分を占めた。(アンドゥリル社とジェネラル・アトミックス社は、契約獲得額トップ100社のリストにさえ登場していない)。

通常、これらの企業は、国防総省が毎年購入を続けている主要な兵器システムの主要、つまり「プライム」契約業者(“prime,” contractors)だ。たとえば、ロッキード・マーティンは、アメリカ空軍の最優先事項であるF-35ステルス戦闘機(運用では明らかに期待外れであることがしばしば証明されている航空機)のプライム契約業者だ。ノースロップ・グラマンはB21ステルス爆撃機を製造している。ボーイングはF-15EX戦闘機を生産し、ゼネラル・ダイナミクスは海軍のロサンゼルス級攻撃型潜水艦を製造している。このような「高額商品(Big-ticket)」は通常、長年にわたって大量に購入されるため、生産者は安定した利益を確保できる。こうしたシステムの初期購入が完了に近づくと、生産者は通常、同じ兵器の新ヴァージョンやアップグレイド版を開発すると同時に、ワシントンで強力なロビー活動を行い、連邦議会に新設計の資金提供を説得する。

長年にわたり、「ナショナル・プライオリティーズ・プロジェクト」や「フレンズ・コミッティ・オン・ナショナル・レギスレーション」といった非政府組織は、軍産複合体のロビー活動に抵抗し、軍事費を削減するよう連邦議員たちを勇敢に説得しようと試みてきたが、目立った成果は得られていない。しかし今、シリコンヴァレーのスタートアップ文化という新たな勢力が参入し、軍産複合体の構図は突如として劇的に変化しつつある。

昨年4月、軍産複合体の大手3社を凌駕し、協働型戦闘機の試作機製造契約を獲得した、目立たない2社のうちの1社であるアンドゥリル・インダストリーズについて考えてみよう。アンドゥリル(JRR・トールキンの『指輪物語』でアラゴルンが所持する剣にちなんで名付けられた)は、仮想現実(virtual-reality)ヘッドセットの設計者であるパルマー・ラッキーによって2017年に設立され、人工知能(AI)を新型兵器システムに組み込むことを目指している。この取り組みは、ファウンダーズ・ファンドのピーター・ティールや、防衛関連のスタートアップ企業パランティア(これも『ロード・オブ・ザ・リング』に由来する名前)の代表者など、シリコンヴァレーの著名な投資家たちの支援を受けた。

ラッキーとその仲間たちは当初から、従来の防衛関連企業を排除し、ハイテク新興企業のためのスペースを確保しようと努めてきた。この2社をはじめとする新興テクノロジー企業は、長年にわたり、多数の弁護士を擁し、政府の書類処理に精通した巨大防衛関連企業に有利になるように作成されていたため、国防総省との主要契約から締め出されることがしばしばあった。2016年には、パランティアは米陸軍が大規模なデータ処理契約の選定を拒否したとして訴訟を起こし、後に勝訴した。これにより、将来的に国防総省から契約を獲得する道が開かれた。

アンドゥリルは、その積極的な法的姿勢に加え、創業者であるパルマー・ラッキーの率直な意見表明によっても名声を得ている。他の企業幹部が国防総省の活動について議論する際には通常、言葉遣いを控えるのに対し、ラッキーは、将来の紛争で中国とロシアを圧倒するために必要だと考える先進技術への投資を犠牲にして、伝統的な防衛関連企業との協力を国防総省が根強く好んでいることを公然と批判した。

ラッキーは、そのような技術は民間技術産業でしか入手できないと主張した。「大手防衛関連請負業者は愛国心旺盛な人材を抱えているが、必要な技術を開発するためのソフトウェアの専門知識やビジネスモデルは持ち合わせていない」と、ラッキーとアンドゥリル社の幹部たちは2022年のミッションドキュメントで次のように主張した。「これらの企業は仕事が遅いが、優秀な[ソフトウェア]エンジニアはスピード重視だ。そして、敵よりも速く開発できるソフトウェアエンジニアの才能は、大手防衛関連企業ではなく、民間部門に存在するのだ」。

ラッキーは、軍の近代化(military modernization )の障害を克服するには、政府が契約規則を緩和し、防衛関連のスタートアップ企業やソフトウェア企業が国防総省と取引しやすくする必要があるとして次のように主張した。「スピードのある防衛企業が必要だ。それは単に願うだけでは実現しない。はるかに寛容な国防総省の政策によって、企業が動くようインセンティヴが与えられる場合にのみ実現する」。

こうした議論やティールのような重要人物の影響によって、アンドゥリル社は軍や国土安全保障省から小規模ながらも戦略的な契約を獲得し始めた。2019年には、日本と米国の基地にAIを活用した境界監視システムを設置する海兵隊の小規模契約を獲得した。1年後には、アメリカ・メキシコ国境に監視塔を建設する5年間2500万ドルの契約を税関・国境警備局Customs and Border ProtectionCBP)から獲得した。2020年9月には、同国境沿いにさらに監視塔を建設する3600万ドルの契約も税関・国境警備局から獲得した。

その後、より大きな契約が次々と舞い込むようになった。2023年2月には、国防総省がウクライナ軍への納入用にアンドゥリル社のアルティウス600監視・特攻ドローンの購入を開始し、昨年9月には陸軍が戦場監視作戦用にGhost-Xドローンを購入すると発表した。アンドゥリル社は現在、小型の偵察・攻撃ドローンの一斉発射を目的とした中型ドローン「エンタープライズ・テスト・ビークル」の試作機を開発するために空軍に選ばれた4社の1社でもある。

アンドゥリル社は国防総省から大型契約を獲得し、その成功は防衛関連スタートアップ企業の成長期待から利益を得る機会を模索する富裕層投資家の関心を集めている。2020年7月には、ティールのファウンダーズ・ファンドとシリコンヴァレーの著名投資家アンドリーセン・ホロウィッツから新たに2億ドルの投資を受け、企業価値は20億ドル近くにまで上昇した。1年後には、これらのヴェンチャーキャピタル企業やその他のヴェンチャーキャピタル企業からさらに4億5000万ドルを調達し、推定企業価値は45億ドル(2020年の2倍)に達した。それ以来、アンドゥリル社への資金流入は拡大しており、民間投資家による防衛関連スタートアップ企業の台頭を後押しし、その成長が現実のものとなった暁には利益を得ようとする動きが勢いを増している。

アンドゥリル社は、大型防衛契約の獲得と資本注入に成功しただけでなく、国防総省の多くの高官に対し、国防スタートアップ企業やテクノロジー企業のための余裕を創出するために、国防総省の契約業務改革の必要性を納得させることにも成功した。2023年8月28日、当時国防総省で2番目に高官だったキャスリーン・ヒックス国防副長官は、軍への先進兵器の配備を迅速化することを目的とした「レプリケーター」構想(the “Replicator” initiative,)の開始を発表した。

「(私たちの)予算編成と官僚的な手続きは遅く、煩雑で、複雑怪奇だ」とヒックスは認めた。こうした障害を克服するため、レプリケーター構想は煩雑な手続きを簡素化し、スタートアップ企業に直接契約を交付することで、最先端兵器の迅速な開発と供給を実現すると彼女は示唆した。「私たちの目標は技術革新の種を蒔き、火をつけ、燃え上がらせることだ」とヒックスは宣言した。

ヒックスが示唆したように、レプリケーター契約は確かに連続したバッチ、つまり「トランシェ」で交付される。昨年5月に発表された最初のトランシェには、エアロバイロンメント社製のスイッチブレード600カミカゼドローン(標的に衝突し、接触すると爆発することからこの名がつけられている)が含まれていた。アンドゥリル社は、11月13日に発表された第2回の資金提供で3つの勝利を収めた。国防総省によると、この資金提供には、陸軍のゴーストX監視ドローン購入、海兵隊のアルティウス600特攻ドローン取得、そして空軍のエンタープライズ・テスト・ビークル開発への資金が含まれており、アンドゥリル社は参加ヴェンダー4社のうちの1社である。

おそらく同様に重要なのは、ヒックスがパーマー・ラッキーの示した国防総省の調達改革の青写真を支持したことだろう。「レプリケーター構想は、技術革新への障壁を明らかに低減し、戦闘員に迅速に能力を提供している」とヒックスは11月に断言した。「私たちは従来型および非従来型の防衛・テクノロジー企業を含む幅広い企業に機会を創出している・・・そして、それを繰り返し実行できる能力を構築している」。

*
キャスリーン・ヒックス国防副長官は、ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰した2025年1月20日、多くの高官たちと同様に国防副長官を辞任した。新政権が軍事調達問題にどう取り組むかはまだ不明だが、イーロン・マスク氏やJD・ヴァンス副大統領など、トランプ政権の高官の多くはシリコンヴァレーとの繋がりが強く、レプリケーター構想のような政策を支持する可能性が高い。

先日国防長官に指名されたFOXニューズの元司会者ピート・ヘグゼスは兵器開発の経歴がなく、この件についてほとんど発言していない。しかし、トランプが副長官(そしてヒックス氏の後任)に選んだのは、サーベラス・キャピタル・マネジメントの最高投資責任者(CIO)として軍事スタートアップ企業ストラトローンチを買収した億万長者の投資家スティーヴン・A・ファインバーグだ。これは、彼がレプリケーター構想のようなプログラムの拡大を支持する可能性を示唆している。

ある意味、トランプ政権の今回の動きは、国防総省に関して言えば、これまでのワシントンのパターンに当てはまると言えるだろう。大統領と連邦議会の共和党支持者たちは、国防予算が既に過去最高水準に達しているにもかかわらず、間違いなく国防費の大幅な増額を推し進めるだろう。こうした動きは、従来の元請け企業であれ、シリコンヴェレーの新興企業であれ、あらゆる兵器メーカーに利益をもたらすだろう。しかし、トランプと共和党が支持する減税やその他の高額な対策を賄うために国防費が現状水準に維持されれば、軍産複合体の2つの形態の間で激しい競争が再び勃発する可能性は容易に考えられる。そうなれば、トランプの側近たちの間で分裂が起こり、旧軍産複合体支持者と新軍産複合体支持者が対立する事態に発展する可能性がある。

一般的に、選挙資金は古くからの軍産複合体企業からの献金に依存している共和党議員の大半は、このような競争では主要な元請け企業を支持せざるを得ない。しかし、トランプの主要な側近である JD・ヴァンスとイーロン・マスクの2人は、彼に反対の方向へと働きかける可能性がある。ピーター・ティールやその他のテクノロジー業界の大富豪たちによる強力なロビー活動の結果、トランプの副大統領候補となったとされる、シリコンヴァレーの元幹部であるヴァンスは、かつての同盟者たちから、国防総省との契約をアンドゥリル、パランティア、および関連企業にもっと振り向けるよう促される可能性が高い。ヴァンスのプライヴェート・ヴェンチャー・ファンドであるナリヤ・キャピタル(そうだ、これも『指輪物語』に由来する名前だ!)が、アンドゥリルやその他の軍事・宇宙関連ヴェンチャー企業に投資していることから、それはまったく驚くことではないだろう。

トランプによって、まだ設立されていない政府効率化省の責任者に指名されたイーロン・マスクは、アンドゥリルのパーマー・ラッキーと同様に、自身の企業であるスペースXの契約を獲得するために国防総省と争い、国防総省の伝統的なやり方に深い軽蔑を表明してきた。特に、AI制御のドローンの能力が高まっているにもかかわらず、高価で一般的に性能の悪いロッキード社製のF-35ジェット戦闘機を酷評している。その進歩にもかかわらず、彼が現在所有するソーシャルメディアプラットフォーム「X」に「一部の馬鹿たちは、F-35のような有人戦闘機を作り続けている」と投稿している。続く投稿で彼は「いずれにせよ、有人戦闘機はドローンの時代には時代遅れだ」と付け加えた。

F-35に対する彼の批判はアメリカ空軍を怒らせ、ロッキードの株価は3%以上下落した。「私たちは、世界最先端の航空機であるF-35と、その比類なき性能を、政府および業界パートナーと協力して提供することに全力を尽くしています」と、ロッキードはマスクのツイートに対して声明を発表した。一方、国防総省では、フランク・ケンドール空軍長官が次のように述べている。「私は、エンジニアとしてのイーロン・マスクを非常に尊敬している。彼は戦闘員ではなく、このような大々的な発表を行う前に、この事業についてもう少し学ぶ必要があると思う」と述べた。さらに、「F35が置き換えられることはないと私は考えている。購入を継続し、アップグレイドも続けるべきだと思う」と付け加えた。

トランプ大統領は、F-35や国防総省予算のその他の高額項目について、まだ立場を明らかにしていない。トランプ大統領は、この航空機の購入を遅らせ、他のプロジェクトへの投資拡大を求めるかもしれない(あるいは求めないかもしれない)。それでも、伝統的な防衛請負業者が製造する高価な有人兵器と、アンドゥリル、ジェネラル・アトミックス、エアロバイロンメントなどが製造するより手頃な無人システムとの間にある、マスクが露呈した分断は、新たな軍産複合体が富と権力を増大させるにつれ、今後数年間で確実に拡大していくだろう。旧来の軍産複合体が自らの優位性に対するこの脅威にどう対処するかは未知数だが、数十億ドル規模の兵器メーカーが抵抗なく退くことはまずないだろう。そしてその対立は、トランプ世界を分断することになるだろう。

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『トランプの電撃作戦』
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 古村治彦です。

 スティーヴン・M・ウォルトによる以下の論稿は2025年7月に発表された論稿であるが、現状を理解する上で重要な内容となっている。ここで重要なのは、政治的力、政治的な魅力と政策立案・遂行を分けて考えている点だ。私はこのことが出来ていなかった。第二次ドナルド・トランプ政権に持つ違和感を言語化できていなかったが、この政治的な力と政策立案・遂行を分けることで、私の抱える違和感を言語化できるように思う。

トランプは生粋の政治家ではなく、財界人としても主流から外れたアウトサイダーだ。そうした人物が既存の政治を破壊するためにワシントンに乗り込んだ。彼の個人的な魅力で大きな政治力を持った。しかし、政策立案・遂行は彼一人ではできない。周囲に人材を配置しなければならない。第二次政権の特徴は、イスラエルとの関係が深い人物が揃ったことだ。国家情報長官であるトゥルシー・ギャバードは民主党所属の連邦下院議員時代から、非主流派であり、イランやロシアとの交渉を主張し続けてきた。ギャバード長官以外は親イスラエル派であり、今回のイラン攻撃を推進した。トランプは政治的な力を持つが、政策立案・遂行の力を持たず、結果として、政策の失敗をしてしまうことになった。更に言えば、トランプに周辺に配置された人物たちはワシントンの既存政治、エスタブリッシュメントの息のかかった人物たちであり、彼らによって、トランプ政治が変容させられたということが考えられる。

 トランプが政策立案・遂行を任せる人物の選定に失敗したとも言えるだろう。しかし、選定の過程で述べたことと実際に政権発足後に実行することに乖離がある場合、つまり、嘘をついた、もしくは態度を変化させたと言うことになる。

 私がここで重要だと考えているのは、JD・ヴァンス副大統領の存在である。第二次トランプ政権が大統領選挙期間の公約をことごとく破っている状況で、ヴァンスは非常に苦心してトランプ政権内でバランスを取りながら、選挙期間中の公約を守る、もしくは守る姿勢を見せている。トランプが州に騙されて搦(から)めとられている様子も見ている。そうした中で、彼がトランプの後継者として、トランプの失敗を学んでいると私は見ている。政治力を持ちながら、政策立案・遂行に失敗するのは、自分を利用しようとして集まる、もしくは集められる人物たちの影響が大きいということを学んでいるだろう。

 トランプもまた騙され、利用されたということを考えると、ワシントンの既存の政治、エスタブリッシュメントたちの力は大きく、簡単に打ち破ることが出来ないということが認識される。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプが逃した好機は積み上がっている(Trump’s Missed Opportunities Are Piling Up

-トランプ政権にはアメリカをより良い方向に変えるという前例のない好機があった。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年7月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/07/29/trumps-missed-opportunities-are-piling-up/

好むと好まざるとにかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は、この10年近くにわたり、アメリカ政界で最も重要な人物であり続けている。今や、私たちは彼を評価する十分な時間があり、彼について2つのことが明白になっている。第一に、トランプの政治的魅力は当初から過小評価されていたこと、そして彼は時を経るごとに、より有能な政治家へと成長してきたことだ。度重なる嘘、公約違反、重罪判決、性犯罪、そして自分の望みを阻むあらゆる規範を容赦なく破壊する姿勢にもかかわらず、彼は共和党を自らの理想とする姿へと変貌させ、最初の任期の惨憺たる実績にもかかわらず、2024年の再選を果たした。彼は今、アメリカ史上最も過激な政治変革を試みている。権威主義的な政権掌握(an authoritarian takeover)は着々と進んでおり、成功する可能性が高い。

彼について分かったもう一つのことは、彼が政策立案者として極めて無能だということだ。無知、衝動性、そして能力よりも忠誠心を優先する傾向が相まって、彼は幾度となく愚かな決断を下してきた。彼は権力を集中させ、私腹を肥やし、弱者を威圧することには長けているが、アメリカ全体に利益をもたらす建設的な政策を立案・実行する能力には長けていないことが明らかになった。

政治的手腕(political adroitness)と政策立案能力の欠如(policymaking ineptitude)の組み合わせは、まさに悲劇(tragedy)のようになっている。なぜなら、トランプはそのカリスマ性と有利な立場(共和党が連邦上下両院を支配し、従順とは言わないまでも、トランプに理解を示す最高裁判所が存在する)を活かせば、近年の大統領が国家の深刻な問題に取り組むことを困難にしてきた膠着状態と機能不全(the logjams and dysfunction)を打破できたはずだからだ。もしトランプがこの機会を建設的に、そして異なる政策のために活用していれば、「アメリカを再び偉大にする(make America great again)」ために大きく貢献できたかもしれないし、ひいては彼が長年主張してきた「アメリカ史上最も偉大な大統領の一人(one of the country’s greatest presidents)」という称号にふさわしい人物になれたかもしれない。

しかし、イギリス国教会の祈祷書を言い換えるならば、トランプは「なすべきことをせず、なすべきでないことをした。彼には健全さが全くない([has] left undone those things which [he] ought to have done,; and [he has] done those things which [he] ought not to have done; and there is no health in [him])」となる。そして、アメリカはこれらの失敗によって大きな苦しみを味わうことになるだろう。

私が言いたいことは何か?

まず、トランプはアメリカの過剰な軍事プレゼンスを縮小し、同盟諸国に防衛努力のより大きな分担を促し、国防総省の肥大化した軍事予算を抑制することで、差し迫った国内のニーズに対応し、増大する国家債務を削減するために必要な資源を確保できたはずだ。ロシアのウクライナでの行動も少なからず影響しているものの、トランプは一部の同盟国にさらなる協力を促すことに成功したが、アメリカの世界的な軍事プレゼンスは縮小されておらず、国防予算は増え続けている。その一方で、連邦議会が可決したばかりの予算案は、アメリカの債務水準を数兆ドル増加させ、上位1%の富裕層をさらに富ませ、幅広い公共サーヴィスを削減し、大多数のアメリカ人の生活を改善する効果はほとんどないだろう。さらに、この予算案には、警察国家(police state)の萌芽となる要素も含まれている。

なんという機会の損失だろう! 中国を含む先進工業国を訪れれば、きらびやかな近代的な空港、安全で効率的かつ手頃な価格の公共交通機関、穴だらけではない道路、超高速の都市間鉄道、そして最先端の港湾やその他の重要なインフラが整っていることに気づくだろう。これらの国の多くは、優れた医療制度と高い平均寿命も誇っている。かつてアメリカはそのインフラの質で世界を驚嘆させたが、同盟諸国やライヴァル諸国に追いつくことはできなかった。その代わりに、愚かな対外戦争や長期にわたる介入(foolish foreign wars and protracted interventions)に数兆ドルを浪費してしまった。さらに悪いことに、国内は深刻な分極化に陥っており、政治システムには拒否権が行き渡っているため、私たちが求める長期的なプログラムを立ち上げ、実行することはほぼ不可能となっている。トランプは、自らが繰り返し主張する(そして最高裁が認める意向を示している)大統領権限を行使し、こうした行き詰まりを打開して国内で「国家建設(nation-building)」を行うこともできたはずだ。しかし彼は、大学への脅迫、NPR(公共ラジオ)やPBS(公共テレビ)への資金削減、トランスジェンダーの選手への処罰、メディケイドの縮小、そしてジョー・バイデン前大統領やバラク・オバマ元大統領が関与したあらゆる政策の解体を選んだ。

トランプは、科学に対する連邦政府の支援を大幅に削減し、大学キャンパスには反ユダヤ主義が蔓延しているという荒唐無稽な主張に基づいて高等教育を攻撃する代わりに、連邦政府の権限を活用して、科学研究におけるアメリカの優位性を維持することもできたはずだ。ソ連がスプートニクを打ち上げた後、ドワイト・D・アイゼンハワー大統領がそうしたように、連邦政府の支援によって生み出された発見から、その後の世代のアメリカ人は多大な恩恵を受けてきた。アメリカはまた、世界中から最も優秀な人材を引き寄せ、留める能力からも恩恵を受けてきた。しかしトランプは今、その優位性を逆転させようとしている。中国はすでに研究開発費でアメリカを上回り、研究者たちはより多くの特許や科学論文を生み出しており、電気自動車やクリーンエネルギーといった将来の重要技術のいくつかにおいて主導的な役割を獲得している。トランプの対応とはどうだろうか? それは一方的な知的武装解除(unilateral intellectual disarmament)の政策である。

もし、その強大な権力を公益のために使おうとする強力な大統領であれば、アメリカ国民の健康を守ることを使命とする機関をロバート・F・ケネディ・ジュニアのようなペテン師たちに委ねたりはしなかっただろうし、気候危機に対処するための、遅ればせながらなお不十分な国の取り組みを後退させるようなこともなかったはずだ。もしトランプが真に偉大なことを成し遂げたいと望むなら、彼は自身の第一期政権における数少ない成功事例の一つ記録的な速さで命を救うCOVID-19ワクチンの開発を可能にした「ワープ・スピード」計画を基盤とし、バイデンが推進しようとしたグリーン・トランジションを加速させるはずだ。誤解のないように言っておくが、気候変動は現実のものであり、事態はさらに悪化するだろう。なぜなら、大気物理学の法則はフォックスニューズを見たり、ソーシャルメディア上のプロパガンダに左右されたりしないからだ。パリ協定からの離脱や化石燃料への依存強化を促すというトランプ氏の決定は、問題を悪化させ、米国はその結果に対する備えが不十分になるだろう。

アメリカの偉大さについて言えば、より賢明なトランプであれば、同盟諸国を搾取すべき属国(vassals)のように扱うのではなく、アメリカの戦略的パートナーシップの改革と強化に尽力するだろう。あるヨーロッパ連合(EU)当局者が「ゆすりたかり(shakedown)」と正しく指摘した彼の気まぐれで強圧的な関税政策は、アメリカの消費者の物価を上昇させ、国内外の経済成長を鈍化させるだろう。また、アメリカの同盟諸国がトランプの国防費増額要求に応じることをより困難にするだろう。デンマーク、カナダ、韓国、日本といった親米諸国と対立することは、歴代大統領の中でも最も愚かな決断の一つと言えるだろう。これらの国々は歯を食いしばってトランプの要求の一部を受け入れるかもしれないが、二度とアメリカを以前と同じように見ることはなく、ワシントンの指示に従う、もしくは、将来的にワシントンが望むような調整を行うことに消極的になるだろう。

トランプ大統領が本当に前任者よりも外交手腕に優れていることを示したいのであれば、ガザ地区での虐殺を終わらせるためにアメリカの影響力を活用し、イランとの新たな核合意に現実的なアプローチを取り、ウクライナ和平に向けて飴と鞭(carrots and sticks)を組み合わせるべきだった。しかし、彼はこの問題を素人外交官のスティーヴ・ウィトコフに任せてしまい、結果として中東地域でのさらなる惨劇(carnage)、アメリカのイメージのさらなる悪化(もはやこれ以上悪化する余地があるのか​​どうかも怪しいが)、そしてロシアの前進を招いた。

一方、トランプ大統領とマルコ・ルビオ国務長官は外交団を弱体化させ、かつて多くの国際機関で支配的だったアメリカの地位を放棄している。『ニューヨーク・タイムズ』紙が先週報じたように、北京はこれにいち早く乗じて、様々な国際フォーラムで存在感を高め、取引を成立させている。こうした動きは一見不可解に思えるかもしれないが、これらの機関こそ、多くの国際関係を形作るルールや技術基準が確立される場なのである。中国当局は、将来的に影響力を拡大するための専門知識と人脈を築き上げており、一方で、アメリカはますます存在感を失っている。スコット・ベセント米財務長官は、先日開催されたG20サミットに出席することさえしなかった。なぜか? それは、南アフリカで開催されたからだ。中国は、外交の価値、直接対話の利点、そしてソフトパワーの重要性を理解しているからこそ、すでにアメリカよりも多くの外交官と在外公館を擁している。トランプ大統領はそれを理解していない。アメリカの当局者やビジネスリーダーが、もはや「アメリカ製(made in America)」ではないルールで世界を渡り歩かなければならないことに気づいた時、それは大きな衝撃となるだろう。そして、まさにトランプ大統領がアメリカを導こうとしている世界こそが、そうした世界なのだ。

最後に、トランプは、国をさらに分断するのではなく、共和党に対する影響力と、政府の三権全てを掌握している立場を利用して、国を統一することもできたはずだ。彼は、実績のある女性やマイノリティを政府の要職から追放し、「無能な白人男性のためのアファーマティブ・アクション(affirmative action for incompetent white guys)」を推進するのではなく、より過激な形の「ウォークイズム(wokeism)」からの撤退を(すでに進行中だったプロセスだが)巧みに促し、厳格な実力主義の必要性を強調することもできたはずだ。その好例が、ピート・ヘグセス米国防長官、あるいはダレン・ビーティーだ。ビーティーは、白人至上主義者とのつながりを理由に第一期トランプ政権から解雇された陰謀論者だが、つい先日、アメリカ平和研究所の所長に任命されたばかりだ。トランプは、法的に疑問の残る強制送還を承認し、海外からの有能な人材にとってアメリカをはるかに魅力のない場所にしてしまうのではなく、賢明な移民制度改革を推進することもできたはずだ。

要するに、トランプには、アメリカを弱体化させている政治的分断を縮小し、国際的な地位を強化する可能性のある、広範囲にわたる、そして長らく待望されていた改革(far-reaching and long-overdue reforms)に着手する絶好の機会があった。もし彼がそのカリスマ性と政治的手腕を、より思慮深く、国民の利益を重視する政策に注いでいれば、私を含め、彼を最も厳しく批判する人々も納得したかもしれない。しかし彼は正反対の道を選び、支持率が急速に低下しているにもかかわらず、その姿勢を改める気配は全く見られない。

読者の皆さんが何を考えているかは分かっている。「もしトランプがこうしたことを少しでも実行していたら、穏健な民主党員のような振る舞いになり、MAGA支持層が反旗を翻していただろう」と考えているだろう。私はそうは考えない。ジェフリー・エプスタインのスキャンダルはさておき、トランプの支持層は、たとえ過去の立場と真っ向から矛盾していても、彼が言うことならほぼ何でも飲み込む用意があるようだ。私は、彼が支持基盤を説得し、上述した政策を受け入れさせることができたと確信している。特に、その多くの施策が彼らにとってすぐに利益となるものであったならばなおさらだ。無党派層や穏健派は喜んだだろうし、それによって2024年の大統領選挙で彼に僅差の勝利をもたらした緩やかな連合が固まったはずだ。化石燃料業界は反対しただろうが、その他の経済界は、規制改革や、おそらくは控えめな減税によって、説得できたかもしれない。

しかし、私のこのフィクションのシナリオには致命的な欠陥(a fatal flaw)がある。それは、別のトランプを想定している点だ。自らの天才性を確信し、自己顕示欲にのみ執着し、ルールや規範を軽視する復讐心に燃えるナルシストではなく、私のシナリオが想定するのは、真に民主政治体制を守り、できるだけ多くのアメリカ人の生活を向上させ、世界政治におけるアメリカの特権的な地位を維持したいと願う大統領である。残念ながら、トランプはそのような人物ではない。だからこそ、彼に与えられた機会は浪費され、あるいはそれ以上に台無しにされているのだ。素晴らしい未来はあり得たはずだが、この大統領の下では実現しなかった。トランプ自身が称賛されることを切望していることを考えれば、これは彼自身の悲劇だと捉えることもできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 現在は世界中で過剰さがあふれている。極端さと言っても良いだろう。政治の世界で言えば、ドナルド・トランプ大統領や高市早苗首相がその象徴である。過度なナショナリズム、過度な断定(言い切り)、過度な自己中心、過度な依存が特徴である。有権者にしても、中庸ではなく、過激を求める傾向がある。そのことは日本だけではなく、西側先進諸国において共通の現象になっている。このことはこのブログでも既に紹介した。

※古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ:「20260309日先進西側民主政体国家の有権者は破れかぶれになっているのかもしれない」

https://suinikki.blog.jp/archives/90360730.html

 過剰を求める反対の動きが抑制であり、中庸である。国際関係論ではその考えを持つ人たちを「リアリスト(Realist)」「抑制者(restrainer)」と呼ぶ。ウォルトは「抑制主義」について以下のように書いている。長くなるが、いくつか引用する。「アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている」「抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している」「アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている」。第一次政権時のドナルド・トランプは抑制主義であったが、現在のドナルド・トランプは全くの別人である。下記論硬はスティーヴン・M・ウォルトによる昨年9月の論稿であるが、現在の状況を警告しているかのようでもある。

 私は昨年の5月頃に第二次ドナルド・トランプ政権における外交政策に大きな転換点があったと考えている。ここで抑制者から介入主義者に変化している。私たちはこのことをより深く研究する必要がある。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプは決して抑制者にはなれない(Donald Trump Will Never Be a Restrainer

-最終判決は下された。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年9月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/09/30/donald-trump-foreign-policy-restrainer-realist-war-defense-diplomacy/

ドナルド・トランプ米大統領が外交政策におけるリアリスト(foreign-policy realist)もしくは、「抑制者(restrainer)」なのかという議論に終止符を打つべき時が来た。確かに、彼の政策決定における気まぐれなアプローチや、言行不一致の傾向は、特に明確な理由もなく極端から極端へと態度を翻す時(ウクライナ問題を参照)には、彼の見解を捉えること(to pin down)を困難にしている。彼の発言や行動の中には、リアリスト・抑制者というレッテル(labels)に合致するように見えるものもあるかもしれないが、彼はリアリスト・抑制者ではない。

私がこの問題を提起するのは、レッテルが重要であり、誰がどのようなアプローチや思想と結びつけられるかによって、様々な考え方や政策提案がどのように受け止められるかが左右されるからだ。公平を期すために言えば、トランプは「永久戦争(forever wars)」への批判、外交政策エスタブリッシュメントへの不信感、裕福な同盟諸国に自衛のための行動を促そうとする姿勢、そして海外におけるリベラルな価値観の擁護への明らかな無関心などにおいて、抑制の提唱者のように聞こえる時もある。(この点において、彼は異例なほど一貫性を見せている。なぜなら、言論の自由や法の支配といった、厄介なリベラルな価値観に対しても、アメリカ国内で同様に敵対的な姿勢をとっているからだ。)要するに、内容ではなくスタイルだけを見れば、トランプはリアリスト・抑制者の典型的なメンバーだと結論づけるかもしれない。

この議論をしているもう一つの理由は、トランプをリアリスト・抑制者とレッテルを貼ることが、時に政治的な得点稼ぎ(to score political points)に利用されることがあるからだ。JD・ヴァンス副大統領のようなMAGA支持者の中には、抑制者というレッテルを受け入れることで、トランプが以前の公約を守り、アメリカが莫大な予算のかかる海外関与に陥るのを防いでいるとアピールする人たちもいる。(トランプ政権1期目には、傲慢なマイク・ポンペオ国務長官も同様の策略を試みたが、説得力はなかった。)対照的に、抑制に反対する人々は、アメリカの外交政策の軍事化(the militarization of U.S. foreign policy)に反対し、世界各地へのアメリカの介入を批判してきた個人や組織(例えば、クインシー責任ある国家運営研究所など)の信用を失墜させるために、トランプにそのレッテルを貼ろうとすることがある。(念のため申し添えておくと、私はクインシー研究所の理事を務めており、時折、同研究所の出版物に寄稿している。)

しかしながら、現時点ではトランプの実績が、この問題を解決する上で重要な手がかりとなる。そのためには、抑制者が何を主張しているのかを明確にする必要がある。そして、その出発点として最も適切なのは、この運動にその名を与えたバリー・ポーゼンの著書『抑制:アメリカの大戦略の新たな基盤(Restraint: A New Foundation for U.S. Grand Strategy)』であろう。さらに、ダリル・プレス、ユージン・ゴールズ、ハーヴェイ・サポルスキーによる初期の論文、クリストファー・レインによる注目すべきエッセイ、そしてジョン・ミアシャイマー、モニカ・トフト、シディタ・クシ、そして私自身による後期の著作も参照すべきだろう。

アメリカ外交政策における抑制という考え方は、アメリカの力を用いて民主政治体制、市場経済、法の支配、その他のリベラルな価値観を世界中に広め、できるだけ多くの国をアメリカが支配する国際機関に取り込もうとする、リベラル覇権(liberal hegemony)の大戦略(grand strategy)に反対する形で生まれた。抑制者は、軍事力によって民主政治体制を広めようとするのは無謀な試みであり、他国を脅迫したり威嚇したりすることは通常逆効果となり、敵対国を疑心暗鬼にさせ、同盟国や中立国を敵に変えてしまうと確信している(Restrainers believe that trying to spread democracy with military force is a fool’s errand, and that threatening or bullying other states usually backfires, making adversaries more suspicious and turning allies or neutrals into enemies)。そのため、外交こそがアメリカ・ファーストの行動であり、武力行使は最後の手段(last resort)であるべきだと彼らは考えている。彼らはアイソレイショニストでも平和主義者でもない。なぜなら、アメリカは主要地域における有利な勢力均衡(balances of power)の維持に貢献する利益を有しており、同盟国は有用ではあるが、責任を果たさせるべきであり、重要な国益を守るためには武力行使が必要となる場合もあり、適切に設計された国際機関は国家間の競争の中でも協力関係を促進できると信じているからである。抑制者は、世界は危険な場所であり、アメリカは一部の国と深刻な利害の衝突を抱えていることを認識しているものの、過剰な軍事費支出や海外での武力行使を正当化するために用いられる、絶え間ない脅威の誇張には反対している。

抑制者はあらゆる問題について意見が一致する訳ではない。例えば、中国に対してより積極的に対抗すべきだと主張する者もいれば、中国の台頭を容認する努力を強化すべきだと主張する者もいる。しかし、彼らは近年の民主党政権と共和党政権下でアメリカの国家戦略を特徴づけてきた、自己中心的で傲慢な姿勢に反対するという点では一致している。何よりも、抑制者は気まぐれな軍事力行使に反対し、アメリカが国家安全保障への支出を減らし、依然として大きな力を持っているにもかかわらず、より賢明にその力を行使すれば、より安全で繁栄した国になると考えている。

それでは、なぜトランプは真の抑制者ではないのか? その理由をいくつか挙げてみよう。

第一に、トランプ大統領はアメリカの国防予算の不必要な増額を依然として支持しており、その額は最近1兆ドルを超え、依然として他のどの国の国防予算をも大きく超えている。さらに悪いことに、彼はこれらの巨額の予算の一部を本来の目的である「外国の脅威からアメリカを守る(defending the United States against foreign dangers)」ことから逸脱させ、国内の架空の敵(fictitious domestic enemies)を追いかけるために流用している。脅威を弱めるどころか、トランプ大統領は国内外の架空の敵を利用して、大統領権限を危険なレヴェルまで拡大することを正当化している。抑制者は長年、過剰な軍事化(excessive militarization)は最終的にアメリカ国内の市民の自由を脅かすと警告してきたが、トランプ大統領は彼らの警告が正しかったことを証明してしまった。

第二に、抑制者は、アメリカはヨーロッパと中東地域における軍事的プレゼンスを縮小し、中東地域ではより公平な姿勢を取るべきだと考えている。トランプ大統領にはこれら両方を行う十分な機会があったにもかかわらず、どちらも実行していない。両地域におけるアメリカのプレゼンスはほぼ変わらず、トランプ大統領は中東地域におけるアメリカの「特別な関係(special relationships)」をさらに強化し、中東地域の敵対勢力との真剣な対話を拒否している。

第三に、トランプ大統領は、際限のない紛争にアメリカ軍地上部隊を投入することには慎重な姿勢を示しているものの、目に見える形ではあるものの戦略的に疑わしい軍事行動に空軍力を行使することには全く抵抗がない。2025年1月に大統領に復帰して以来、イエメンとイランの標的を攻撃し、カリブ海で麻薬密輸に関与していたとされる複数の船舶を軍に撃沈するよう命じた。これらの行動の合法性は疑わしいだけでなく、いずれも重要かつ永続的な戦略的目的を達成する可能性は低い。フーシ派は依然として強硬な姿勢を崩さず、イランは核開発計画を放棄しておらず、数隻の船舶を撃沈すればアメリカへの麻薬流入が減少すると考える者は夢物語を語っているに過ぎない。トランプ大統領の関税政策と並んで、こうした無意味な軍事行動は外交政策における自制とは正反対であり、トランプ政権に今もなお仕えている数少ない真の抑制者たち(彼らは自分が誰であるかを分かっている)が、こうした行動をどう思っているのか、私は疑問に思わずにはいられない。

第四に、トランプ大統領は、抑制者の一部が提唱するように、経済・安全保障に関する諸問題に関して中国と包括的な合意に達することも、また、他の抑制者が主張するように、アジアにおける中国の勢力均衡を図り、地域覇権の確立を阻止するための連合を強化する真剣な努力もしていない。それどころか、トランプ政権は日本、韓国、インドといったアメリカの重要なパートナー国との貿易をめぐって対立を煽り、ジョージア州のバッテリー工場で韓国人労働者を不当に扱うことで韓国との関係をさらに悪化させ、科学技術分野における中国に対するアメリカの競争力を組織的に弱体化させている。

第五に、抑制者、特に超党派を標榜するクインシー研究所のような組織が提唱する重要な提言の1つは、アメリカ外交を活性化させ、軍事力の反射的な行使を控えることである。しかし、以前にも述べたように、トランプ大統領とその側近たちは、準備不足、人員不足、一貫性のない取り組み、そして最終的には失敗に終わる外交交渉の典型例と言えるだろう。トランプ大統領とマルコ・ルビオ国務長官兼国家安全保障担当大統領補佐官は、国務省を骨抜きにし、通常の省庁間協議プロセスを無視し、ガザ地区とウクライナに関する重要な交渉を、明確な資格がなく、潜在的な利益相反を抱える不動産弁護士(スティーヴ・ウィトコフ)に委ねてしまった。彼らがほとんど成果を上げていないのは何も不思議に思うものではないか?

トランプ大統領自身の外交姿勢については、先週の国連総会での彼の全くもって奇妙なパフォーマンスをご覧になることをお勧めしたい。国連が好きであろうと、トランプ大統領を嫌っていようと、彼がそこで見せた光景、そしてそれが我が国とその指導者について世界に何を物語ったのかを知れば、誰もが不快感を覚えるはずだ。トランプは持ち時間15分をほぼ45分も超過し、数十人の世界の指導者たちを前に、支離滅裂で自己憐憫に満ち、虚偽と侮辱に満ちた長時間のスピーチを続けた。この演説は、世界で最も力のある国がこれほど無能な人物の手に委ねられていることに、アメリカの敵対諸国を安堵させ、残されたアメリカの友好諸国を同じ理由で不安にさせたことは間違いない。

従って、トランプは抑制者でもリアリストでもない。もっと適切な表現はいくつかあるが、それらを挙げるには私は礼儀正し過ぎるのかもしれない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 私は昨年11月末に著書『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』を出した。著作の中で私は次のように主張した。ピーター・ティール率いるビッグデータ分析やAI開発のパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスク率いる宇宙開発のスペースX社、パルマー・ラッキー率いるドローン開発のアンドゥリル・インダストリーズ社が「新・軍産複合体(Neo Military-Industrial Complex)」を形成し、アメリカ政府とアメリカ軍に食い込む形で、大型契約を締結し、巨額の利益を生むということになる。その具体例が「ゴールデンドーム」という、ドナルド・トランプ大統領が発表した、アメリカ全土を防衛するシステムである。このシステムの重要な点は、長期契約(サブスクリプション契約)によって、長期にわたり、巨額の利益を上げる点にある。そして、彼らは大規模な戦争を忌避するだろう。新・軍産複合体は長期契約で利益を上げるが、米中衝突などの大規模な演奏は望まないし、そのようなことになったら、技術提供を止めるなどして阻止することになるだろう。


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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 

 今回のイラン攻撃は大規模攻撃である。私の主張の一部は外れているという指摘があるだろう。しかし、今回のイラン攻撃について、イスラエルとアメリカの目論見は、最初の一撃でイランを屈服させるというものであった。しかし、それが外れてしまい、大規模化、長期化せざるを得なくなった。アメリカはこのような形になることを望んでいなかったし、想定していなかった。

 以下の論稿は、私の主張の正当性を担保してくれる内容になっている。「サブスクリプション」という言葉も出てくる。最先端の高度技術を提供する民間企業が政府の政策遂行、軍の作戦遂行においてイニシアティヴを取るという時代がそこまで来ている。最後に宣伝になって恐縮だが、是非、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』をお読みください。よろしくお願いいたします。

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スターリンクは地政学を民営化した(Starlink Has Privatized Geopolitics

-ウクライナからイランまでイーロン・マスクのサーヴィスは外交政策の仲裁者(an arbiter)となった。

ロバート・ムガー、ミシャ・グレニー筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/starlink-spacex-musk-geopolitics-war-ukraine-russia-iran/

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ウクライナのドネツクで戦闘任務中にウクライナ兵がスターリンク衛星モデムを調整している(2025年3月12日)

スターリンクは単なる商用通信サーヴィスではない。それは、戦争をいかに戦われるか、国内の混乱へ国家は以下に対処するか、そして政府の統治が及ばない分野において犯罪組織が如何に活動するかについて、ますます左右する戦略的インフラ(strategic infrastructure)になっている。スターリンクが政治的にこれほど重要な意味を持つのは、その地球規模のネットワーク網だけでなく、その背後にあるガヴァナンスモデルにもある。

今や民間企業が軌道上のゲートキーパーとなり、誰が、どこで、どのような条件で、どのような技術的制約の下で接続できるかを決定する役割を担っている。多くの紛争において、こうした決定は軍事的、政治的な影響を及ぼし、国家はそれを再現したり制御したりすることが困難になっている。多くの戦略的サプライチェインが民間企業に依存している現状において、スターリンクは公共の安全保障機能に対する民間企業の裁量権が極めて集中している事例と言えるだろう。

スターリンクの地政学的な重要性は、その規模に比例する。2025年12月中旬時点で、軌道上には9357基のスターリンク衛星が存在していた。 2026年1月、アメリカ連邦通信委員会(FCC)はスペースXに対し、第2世代衛星7500基の追加配備を承認した。これにより、スペースXの衛星総数は約17000基となる。スペースXは以前から、最大42000基の衛星運用を目指すという野心を表明してきた。

スターリンクのサーヴィス提供範囲も拡大している。現在、160の市場でサーヴィスを展開しており、その決定に対処しなければならない軍、通信規制当局、法執行機関の数も増加している。競合他社と比較すると、スターリンクの圧倒的な優位性はより明確になる。低軌道における最大のライヴァルであるユーテルサット・ワンウェブ(Eutelsat OneWeb)は約650基の衛星を運用している一方、アマゾンのカイパー衛星群(Amazon’s Kuiper constellation)は2月時点でわずか200基強にとどまっている。スターリンクは事実上の独占状態にあり、当面の間、競合相手は存在しないことになる。

スターリンクは現在、世界中で1000万人以上のアクティヴユーザーを抱えていると発表しており、スペースXは2026年末までにその数を倍以上に増やすことを目標としている。その成長は、米国のT-Mobileをはじめとする携帯電話事業者との提携によってさらに加速しており、ドイツテレコムは2028年からヨーロッパでスターリンクを利用した衛星通信サーヴィスを開始する予定だ。

スターリンクの商業的な強みは、地上基地局や光ファイバー網が届かない農村部、遠隔地、災害被災地への接続にある。しかし、こうした重要な通信レイヤーを支配することで、スターリンク社は地政学的に大きな影響力を持つことになる。特に紛争、緊急事態、そして接続性が軍事、政治、人道的な結果を左右するあらゆる状況において、その影響力は顕著になる。

ウクライナ情勢は、スターリンクが戦場の通信にどのような影響を与え、戦略的な依存関係を生み出すかを示す、これまでで最も明確な事例と言えるだろう。2022年のロシアによる本格的な侵攻で地上ネットワークが機能停止した後、ドローン、分散型指揮、迅速な標的設定サイクルが特徴的なこの戦争において、スターリンク端末は運用インフラとなった。2025年初頭までに、ウクライナは少なくとも4万7000台のスターリンク端末を確保したが、その大部分はポーランド、ドイツ、アメリカ、そしてスペースX自身を含むパートナー国政府やその他の支援国から供給されたものだった。安定したモバイル帯域幅がなければ、ウクライナ軍はドローン映像の送信、兵站の調整、そしてこの紛争の特徴である分散型火力支援ネットワークの維持ができなかった。これらの端末は単なる利便性ではなく、効果的な抵抗のための必要条件だったのだ。

この依存関係は即座に攻撃対象領域を生み出した。ロシア軍は第三者ルートを通じてスターリンクへのアクセス権を取得したと報じられており、2024年にはロシア支配地域におけるスターリンクネットワークの利用が繰り返し懸念事項となった。問題は深刻で、スペースXとウクライナ国防省は不正接続を抑制するために認証管理を導入した。ウクライナ当局は、前線におけるロシア軍の利用が阻害されたと述べ、軍事顧問たちは、この影響はロシア軍の作戦にとって重大な後退であると評した。

この一連の出来事は示唆に富む。企業内のエンジニアが商業アクセスに関する方針に基づいて下した決定が、実戦中の戦争における戦術的バランスを崩した。条約による承認も、議会での採決もなかった。その決定を左右したのは、一企業の利用規約(a firm’s terms of service)だった。

戦略的、地政学的な側面はさらに深刻だ。2025年初頭、アメリカの交渉担当者は、ウクライナが重要な鉱物資源に関する合意を受け入れなければ、スターリンクへのアクセスを制限するとア圧迫を与えたとされる。スペースXのオーナーであるイーロン・マスクは関連性を否定したが、圧迫の信憑性と、それがキエフにもたらした不安は、その具体的な内容よりも重要だった。

すでに前例があった。2022年、マスクは、ロシア占領下のクリミア半島近辺でのスターリンクの通信網をウクライナ海軍のドローン作戦支援のために提供することを拒否したと報じられている。その理由として、事態のエスカレーションに関するリスクについて個人的な見解を挙げた。民間供給業者が個人的な直感に基づいて、最前線の国家が実施できる作戦を決定できる場合、その関係はもはや商業的なものではなくなる。それは主権の委譲であり、説明責任を負わない行政機関によって行使される戦略的機能である。

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衛星放送受信アンテナが点在するテヘラン中心部の住宅街の窓(2026年1月20日)

イランは、スターリンクの地政学的影響を示すもう1つの事例である。2026年1月に大規模な抗議デモが発生した後、イランの政権は史上最長かつ最も厳しいインターネット遮断を実施し、国内の接続率を通常の約4%にまで低下させた。近年、密輸され闇市場で取引された数万台のスターリンク端末は、弾圧の様子を外部に伝える重要な経路となったようだ。イラン国内の利用者には利用料が免除されたと報じられており、トランプ政権はスターリンク端末約6000台を密かにイランに持ち込んだ。これらの端末は単なる消費財としてではなく、アメリカの外交政策の手段として利用された。

テヘランの対応は前例のないものだった。政府当局は、地上妨害装置、GPSスプーフィング装置、携帯電話妨害装置を各地域に配備した。報道によると、治安当局は戸別訪問による捜索を行い、ドローンや情報提供者を使って衛星アンテナや端末の位置を特定し、利用者をスパイ容疑で告発した。イラン議会は既に、スターリンク端末の無許可所持・使用を犯罪と定めており、軽微な違反には懲役刑、スパイ行為や協力行為には死刑を含むさらに厳しい刑罰を科すことを規定していた。イランは国際電気通信連合(ITU)に対し、スターリンクが国家主権を侵害しているとして正式に提訴していた。

第2段階は2月28日に始まり、アメリカとイスラエルがイランの軍事施設、核施設、政府機関を標的とした共同攻撃を開始した。最高指導者アリ・ハメネイ師の暗殺は、イランによるイスラエル、中東各地のアメリカ軍基地、湾岸諸国、その他複数の国へのミサイルとドローンによる報復攻撃を引き起こした。イラン国内の通信状況はさらに悪化し、通常の約1%にまで低下した。

この段階において、スターリンクの役割はまさに矛盾をはらんだものとなった。密輸された端末によって、一部のイラン人は政府庁舎への攻撃を記録し、通信規制の努力にもかかわらず映像を拡散することができた。しかし、衛星通信へのアクセスは反体制派に限られていた訳ではないようだ。従来のネットワークが劣化するにつれ、スターリンクは国家と関係のある主体によっても利用された可能性がある。サイバーセキュリティ研究者たちは、インターネット遮断期間中、イラン情報保安省に関連する一部の活動がスターリンクのIPアドレス範囲から発信されていたと指摘している。同時に、イラン政府当局は検閲を回避しようとする市民によるスターリンクへのアクセスを妨害または低下させていたと報じられている。

また、別のサイバーセキュリティグループは、スターリンクを装った罠を利用した監視マルウェアを特定した。これは、同じ通信プラットフォームが抗議活動参加者、監視活動者、そして国家と関係のあるサイバー攻撃者によってどのように利用されうるかを示している。

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カリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられた28基のスターリンク衛星を搭載したスペースX社のファルコン9ロケットが上昇している(2025年9月28日)

米国防総省は、イランを、低軌道システムが持続的な電子妨害や戦時下の混乱下でどのように機能するかを示す好例として捉えている。持続的な圧力によってスターリンクの耐障害性が著しく低下する可能性があるならば、例えば台湾におけるスターリンクの役割を支える前提は見直される必要がある。これはシステムの有用性を損なうものではない。単に、ネットワークが宇宙空間にあるというだけで耐障害性が保証される訳ではないことを意味する。

スターリンク技術は、犯罪組織や反乱組織のネットワークにも浸透しつつある。犯罪組織は、分散型通信の力を活用して作戦を遂行しようとしている。統治能力が低く、スペースXに対する影響力も乏しい脆弱な国家にとって、課題は喫緊の課題だ。通信網が地上の基地局やケーブルではなく、上空から提供されるようになると、遠隔地や紛争地域でのアクセス規制が困難になり、民間事業者がどのような条件で協力してくれるのかを交渉することもさらに難しくなる。

ブラジルのアマゾン熱帯雨林は、その具体的な例を示している。2025年6月、ブラジル連邦検察庁は、違法採掘や犯罪行為におけるスターリンクサーヴィスの利用を抑制するため、スターリンクと協定を締結した。この協定では、アマゾン地域における新規利用者に対し、身分証明書と居住証明の提出を義務付け、捜査対象となっている端末に関するデータをブラジル当局と共有することを認めている。また、違法行為に関与している疑いのある端末については、サーヴィスが停止される可能性がある。ブラジル環境庁の作戦調整官であるヒューゴ・ロスは、犯罪組織がスターリンクを利用して取締チームのリアルタイム位置情報を送信し、摘発を予測したり、現場の職員の安全を脅かしたりしていたことを指摘している。ブラジルは実行可能な合意を取り付けたものの、それは問題が環境犯罪の現場に深く根付いた後のことだった。

メキシコの組織犯罪の状況は、関連するリスクを示唆している。麻薬カルテルは、アメリカ国境沿いで拡大する技術軍拡競争の中で、密輸、監視、治安部隊への攻撃にドローンを活用している。このエスカレーションは、今や民間空域管理にも波及している。2026年2月、アメリカ連邦航空局(FAA)は、アメリカの対ドローン対策の展開への懸念から、テキサス州エルパソ周辺の空域を突然閉鎖したが、数時間後に制限を解除した。この一件は、犯罪組織によるドローンの脅威が、戦術的な安全保障対応だけでなく、深刻な外交的・航空的混乱を引き起こしかねないことを示した。

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左:メキシコ陸軍の対ドローン特殊部隊がメキシコ・ナウカルパン州で報道陣向けにデモンストレーションを行った(2026年2月17日)右:チャド・アドレの難民キャンプで、仮設小屋の横に設置されたソーラーパネルがスターリンク回線に電力を供給している(2026年2月19日)

アフリカのサヘル地域では、状況はさらに深刻だ。イスラム国家ジャマート・ナスル・アル・イスラム・ワル・ムスリミン(JNIM)やイスラム国西アフリカ州(ISWAP)などの反政府勢力は、リビアとナイジェリアからマリ、ニジェール、その他の紛争地域へとスターリンク機器の違法な供給網を構築している。2024年6月、JNIMはマリのガオ地域での作戦中にスターリンク端末が使用されている様子を映した動画を公開した。昨年(2025年)、ナイジェリア軍はボコ・ハラムに対する襲撃作戦で、サンビサ森林地帯の司令官からスターリンクの機器を押収した。

2025年を通して、ジハード主義グループは衛星通信をますます活用し、分散した部隊の連携、プロパガンダの配信、そして地上ネットワークに対する国家統制によって恩恵を受けていた傍受型監視の回避を図った。ニジェールとチャドは監視体制強化のため、2025年初頭にスターリンクの合法化と規制に着手したが、密輸ネットワークは今後も存続する可能性が高い。

スターリンクは宇宙分野における唯一の存在ではない。商業宇宙セクターは、国​​家防衛と軍事力にとってますます重要な役割を担うプレーヤーで溢れている。その結果、各国が同時に受け入れ、統制しようとする戦略的サーヴィスの市場が拡大している。通信分野では、イリジウムが防衛通信に深く根付いている。2024年、スターリンク社は合えりか宇宙軍と、高度なモバイル衛星サーヴィスとその維持管理に関する5年契約を発表した。これは、見通し外通信における商用プロバイダーへの依存が続いていることを示している。

ユーテルサット・ワンウェブとアマゾンのカイパー衛星群も防衛・政府市場で競合しており、ヨーロッパ連合(EU)のIRIS2構想は、EUの主権能力強化への野心を反映している。マクサール(Maxar)、プラネット(Planet)、ブラックスカイ(BlackSky)の商用画像データは、カペラ(Capella)とICEYEのレーダーデータとともに、軍事目標設定と状況認識に組み込まれている。

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ウクライナのロボティネ近郊の最前線の雪原に立つスターリンクデヴァイス。ドローン偵察・攻撃部隊の一部(2024年1月23日)

近年の紛争は、こうした仕組みをさらに深化させている。商用衛星、端末、データ契約は、今や軍事サプライチェインの一部となっている。そして、弾薬や防空システムと同様に、政治的圧力によってその供給が制限、転用、あるいは兵器化される可能性がある。商用宇宙は、国家が権力を行使し、また抑制する手段の一部になりつつある。

イランが最も鮮明に露呈させたのは、ウクライナやその他のスターリンク利用事例で部分的にしか明らかにならなかった統治上の欠陥である。国際人道法は、国家に対し軍事目標と民間目標を区別することを求めているが、午前中に反体制派に利用されていた端末が、午後には軍事攻撃を支援するために利用される可能性もある。

国連憲章の下で、商用衛星ネットワークの妨害行為を武力行使とみなすべきかどうかを判断するための、確立された国際的な枠組みは存在しない。商用機器の秘密裏の配備が情報戦行為に該当するか否かを規定する規則もない。CEOの意見が戦場の結果を左右する場合、民間事業者の責任を問う仕組みも存在しない。また、リアルタイムで民生用と軍事用を行き来するシステムを運用する商用衛星事業者の義務についても、明確な合意は得られていない。

戦略的な接続性は、もはや地理的な問題ではなく、ガヴァナンスの問題となっている。帯域幅は軌道上から供給され、情報はサブスクリプション方式(subscription)で購入される。主権(sovereignty)は、民間企業との関係、交渉によるアクセス協定、そして争点となる技術的設定を通じて、ますます行使されるようになっている。商用衛星インフラを、それに伴う規律、冗長性、そして法的枠組みといったあらゆる要素を含めた戦略的依存関係として扱わない国家は、危機に際して、その依存関係が他国によって管理されることを覚悟しなければならないだろう。

スターリンクの新たな地政学は既に始まっている。問題は、各国がそれを統治するのか、それとも単に反応するだけなのか、ということである。

※ロバート・ムガー:「セクデヴ」グループ最高責任者、イグナイト研究所共同創設者、ロバート・ボッシュ・アカデミー研究員。著述家であり、イアン・ゴールデンとの共著『未知の地:今後100年を生き抜くための100枚の地図(Terra Incognita: 100 Maps to Survive the Next 100 Years)』がある。Xアカウント:@robmuggah

※ミシャ・グレニー:人間科学研究所所長。多くの著作があり、『マクマフィア:深刻な組織犯罪(McMafia: Seriously Organised Crime)』と『宿敵:ブラジル最重要指名手配犯の追跡(Nemesis: The Hunt for Brazil’s Most Wanted Criminal)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 なぜアメリカのドナルド・トランプ大統領がイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に乗せられて(ほぼ洗脳のような形で)、イランに対して大規模攻撃に踏み切ったのかということはこれから様々な分析がなされるだろう。大きく分ければ、トランプの個人的な資質や考え、アメリカ政府やホワイトハウス、アメリカ国内の状況とそれによる影響、そして、国際関係の状況の大きく3つに分けることが出来るだろう。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルト(ハーヴァード大学教授)は、2007年に、ジョン・J・ミアシャイマー(シカゴ大学)と『イスラエル・ロビー』(邦訳は副島隆彦訳、講談社、2007年)を発表した。『イスラエル・ロビー』は衝撃を持って迎えられた。アメリカ国内では称賛を集める一方で、激しい批判にも晒された。特にユダヤ系諸団体や親イスラエル派の個人からは罵詈雑言に近い非難が寄せられた。「アメリカの外交政策に国内のロビー団体が影響を与える」というのは先ほどの分類で言えば、二番目の分類になる。是非、『イスラエル・ロビー』をお読みいただきたい。
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スティーヴン・M・ウォルト(左)とジョン・J・ミアシャイマー
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 今回のイラン攻撃について、ウォルトはイスラエル・ロビーの影響があったと分析している。ドナルド・トランプ大統領の周辺人物はほぼ親イスラエル、親ネタニヤフの人物で方得られていること、トランプが選挙資金の面から恩義を感じていること、民主党側もイスラエル・ロビーの影響力を受けて、戦争阻止や停戦に積極的に動いていないということを挙げている。確かに、アメリカ連邦議会ではトランプ大統領のイラン戦争に関する権限を制限する決議案を上下両院で否決している。『イスラエル・ロビー』で詳しく分析されているが、アメリカの選挙区(都市部がほとんど)によってはユダヤ系アメリカ人が集住しており、有権者グループとして力を持っている、もしくは弁護士や医師などの高学歴で専門職に就く割合が高く、巨額の政治資金を提供できるということから、政治家に影響を与えることが出来るということから、選挙に勝とうと思えば、イスラエル・ロビーやユダヤ系の人々の意向に反対することは難しいということになる。

 ウォルトは論稿の結語で「ロビー活動の影響力が弱まり、アメリカがイスラエルとのより正常な関係を確立するまで、こうした事態は繰り返される可能性が高く、アメリカは冷酷ないじめっ子のように見え、私たち全員にとって不利益となるだろう」と書いている。今まさに、このような状況になっている。そうした中で、アメリカ一辺倒の外交を行う日本と高市早苗首相は異常と言わざるを得ない。

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イラン戦争におけるイスラエル・ロビーの責任(The Israel Lobby’s Responsibility for the Iran War

-アメリカ・イスラエル間の特別な関係を擁護する人々は特別な役割を果たしてきた。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年3月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/17/israel-lobby-iran-war-trump-responsibility/
写真

ドナルド・トランプ氏が2016321日、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)の年次政策会議で演説を行った(2016年3月21日、ワシントンDC

速報:イラン戦争は予想通りに進んでいない。「計画通り(planned)」に進んでいないと言いたいところだが、この状況ではその言葉は全く不適切に思える。アメリカをはじめとする各国が、またしても中東地域で惨敗を喫する中、誰が責任を負うべきかを知りたがっている。責任の所在を明確にすることは極めて重要だが、同時に、責任のない人間が不当に非難されることもあってはならない。

当然のことながら、有識者の一部は、これはイスラエルのために戦われている戦争だと考えている。彼らはその証拠として、マルコ・ルビオ米国務長官の発言を挙げている。ルビオ長官は、トランプ政権はイスラエルが攻撃を仕掛けてくることを知っており、イランがアメリカ軍に対して報復する可能性を予測したため、先制攻撃を選択したと述べていた。さらに、イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは数カ月前からイランとの戦争を強く主張しており、元『イェルサレム・ポスト』紙編集長で、現在は『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニストであるブレット・スティーヴンスのような親イスラエル派の評論家は、過去に繰り返しイランに対する戦争を訴え、現在もなお今回の戦争を擁護している。

ここで1つの明らかな疑問が生じる。アメリカ国内の「イスラエル・ロビー(Israel Lobby)」はこの戦争にどの程度の責任を負っているのだろうか? しかしながら、この問題を詳しく検討する前に、2つの注意点を述べておく。

第一に、まだ初期段階であり、今後数カ月の間に、この事態がどのように、そしてなぜ起こったのかを示す証拠がさらに明らかになるだろう。また、事態がさら​​に悪化すれば(go further south)、いつものように責任転嫁や混乱(kick up dust and shift the blame)を招く動きも出てくるだろう。2003年のイラク戦争とは異なり、今回の紛争はアメリカ国民に戦争を正当化するための長期にわたるキャンペーンが行われなかったため、誰が戦争を推進し、誰が疑問を呈していたのかを正確に把握するのは困難だ。

第二に、ロビー活動の影響を評価する際には、その定義を正しく定めることが不可欠となる。ジョン・ミアシャイマーと私が2007年に出版したこのテーマに関する著書で明らかにしたように、イスラエル・ロビーは宗教や民族によって定義されるものではなく、むしろその構成員が推進しようとする政治的立場によって定義される。それは、アメリカとイスラエルの「特別な関係(special relationship)」を維持することを共通の目標とする、諸団体や諸個人の緩やかな連合体である。実際には、この特別な関係とは、イスラエルがどのような行動を取ろうとも、寛大な軍事的・外交的支援を提供することを意味する。このイスラエル・ロビーはユダヤ人と非ユダヤ人の両方で構成されており、多くのアメリカ系ユダヤ人はイスラエル・ロビーに属しておらず、特別な関係を支持していない。さらに、イスラエル・ロビーの中核を成す人々(キリスト教シオニスト[Christian Zionists]など)の中には、ユダヤ人ではない人もいる。

したがって、イラク戦争の責任をアメリカ系ユダヤ人コミュニティに押し付けることは、2003年のイラク戦争の責任をアメリカ系ユダヤ人コミュニティに押し付けたのと同様に、分析的に誤りであるだけでなく、危険な分断を招くことになる。実際、2002年から2003年にかけて行われた調査では、ユダヤ系アメリカ人はアメリカ国民全体に比べて、イラクのサダム・フセイン大統領に対する戦争への支持が低いことが示された。イスラエルのユダヤ人政策研究所(Jewish People Policy InstituteJPPI)は最近、ユダヤ系アメリカ人の大多数がイランとの戦争を支持していると主張する世論調査結果を発表したが、これは慎重に選ばれた、明らかに代表性のない回答者グループによるものであり、ほぼ間違いなく偽りだ。(ちなみに、JPPIがこのような疑わしい調査結果を発表するのは無責任であり、まさに私たちが皆阻止したい反ユダヤ主義を助長する危険性がある。)また、最大の主流派リベラル系親イスラエル団体であるJストリートや、ニュー・ジューイッシュ・ナラティブ、ユダヤ平和の声といった進歩的な団体が、既に戦争を非難する声明を発表していることも注目に値する。

それでは誰に責任があるのか?

第一の、そして最も明白なのは、ドナルド・トランプ大統領と、彼の無能で無責任な忠実な側近たちだ。2003年のジョージ・W・ブッシュ大統領と同様に、トランプも決断を下し、その結果に対する最終的な責任を負う。そしてもちろん、地域全体におけるイスラエルの覇権確立を目指しているものの、米国の積極的な支援なしにはそれが不可能なベンヤミン・ネタニヤフ首相も、直接的な責任を負う。

しかし、トランプ大統領が私たちに信じさせようとしていることとは違い、どの大統領も完全に単独で行動する訳ではなく、トランプ大統領が周囲の人々から聞くことに左右される可能性があることは周知の事実である。そして、トランプ大統領の側近たちには、イスラエルを熱烈に擁護する者、イスラエルからの選挙資金を長年受け取ってきた者、あるいはその両方である者が多数含まれている。トランプ大統領の中東特使であるスティーヴ・ウィトコフとジャレッド・クシュナーは、駐イスラエル米大使のマイク・ハッカビーと同様に、イスラエルの熱烈な支持者である。国家安全保障担当大統領補佐官も兼務するルビオ国務長官は、連邦上院議員時代からイスラエルとの特別な関係を反射的に支持し、親イスラエル派の選挙資金を最も多く受け取った人物の1人である。現ホワイトハウス大統領首席補佐官のスージー・ワイルズは、ネタニヤフ首相の2020年の再選キャンペーンでコンサルタントを務めた。国家情報長官を務めたトゥルシー・ギャバード(トランプ政権発足以前にイスラエルへの過剰な支援を批判していた)を除けば、政権上層部でイスラエルとの距離を置くことを公然と支持する人物はほとんどいない。

第二に、トランプ大統領自身も、故シェルドン・アデルソンとその妻ミリアムといった熱心な親イスラエル派の人物に恩義を感じていることを認めている。エリ・クリフトンとイアン・ラスティックが『ザ・ネイション』誌の最近の記事(および近刊予定の著書)で述べているように、トランプ大統領は2025年10月のクネセト(イスラエル議会)演説で、近年のアメリカの選挙で最大の献金者であるミリアム・アデルソンを名指しし、彼女はアメリカよりもイスラエルを愛しているかもしれないとさえ示唆した。こうした懸念は、一部の民主党指導者がイスラエルの開戦やトランプ政権の参戦を批判することに消極的で、むしろ戦争計画の不備に焦点を当てている理由を説明するかもしれない。

第三に、この戦争は突如として起こったものではない。確かに、アメリカとイランは何十年にもわたって対立しており、両国が互いに抱く疑念は、イスラエルやロビー団体だけの責任ではない。とはいえ、AIPAC、民主政体防衛財団、アメリカ・シオニスト連盟、反核イラン連合といったロビー団体は、長年にわたりイランを悪者扱いし、アメリカ企業がイランで事業を行うことを阻止し、イランの元大統領であるアクバル・ハシェミ・ラフサンジャニとモハメド・ハタミによる関係改善の試みを妨害してきた。(後者の点については、2007年に出版した書籍の第10章をお読みいただきたい。)Jストリートとは異なり、これらの団体は、イランのウラン濃縮能力と核兵器備蓄を削減した2015年の合意を阻止するために奔走し、イランが完全に合意を遵守していたにもかかわらず、最終的には2018年にトランプ大統領に合意を破棄するよう説得した。トランプがそうしていなければ、当然ながら、今日イランの核開発計画を懸念する理由ははるかに少なかっただろう。

最後に、民主党と共和党のどちらの大統領もイスラエルに実質的な圧力をかけることをほぼ不可能にすることで、ロビー活動はネタニヤフ首相が地域全体で「無謀な行動(reckless driving)」を取ることを可能にした。イスラエルによるパレスチナ住民への継続的な抑圧、ガザ地区、レバノン、イエメン、シリア、イラン、そしてカタールへの度重なる攻撃などがその例だ。スティーヴン・サイモンが指摘するように、イスラエルがアメリカを今回の戦争に参加することを「強制(compel)」したのではない。トランプ政権は自発的に、そして熱心に参戦した。このことは事実だが、ロビー活動が特別な関係を守り、イスラエルが平和を乱し続けることを可能にした役割は、なぜアメリカ人が遠く離れた地で多大な犠牲を伴う紛争に巻き込まれ続けるのかを理解する上で役立つ。

結論は以下の通りだ。今回の惨事が展開する中で、アメリカ人をはじめとする人々は、責任者を追及したいと考えるのは当然のことだ。彼らは、大統領をはじめとする特定のグループや個人に焦点を当てるべきだ。彼らは、イスラエルの地域政策を支持し、さらなる暴力の乱発がアメリカの国益になると自らを納得させた。ロビー活動の影響力が弱まり、アメリカがイスラエルとのより正常な関係を確立するまで、こうした事態は繰り返される可能性が高く、アメリカは冷酷ないじめっ子のように見え、私たち全員にとって不利益となるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領は第二次政権を発足させて以降、ヴェネズエラ攻撃、グリーンランド領有への野心表明、更にはイラン攻撃と、対外的に積極的・攻撃的な動きを見せている。第一次政権時とは全く異なった動きであり、有権者がトランプに期待した、アイソレイショニズムとアメリカ・ファーストを裏切る動きである。イラン攻撃に関しては、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に乗せられてのことである。

グリーンランドに関しては、トランプの大学時代(ペンシルヴァニア大学ウォートン経営学部)からの友人で、世界的なコスメブランドであるエスティローダーの総帥ロナルド・ローダーの影響と働きかけがあったことが明らかになっている。ローダーは、グリーンランド内でのレアアース利権を持っており、その開発で巨額の利益を得るために、アメリカによるグリーンランドの領有をトランプに進言しているということだ。ローダーはトランプ大統領に多額の献金を行っている。

 ローダーは世界ユダヤ人会議(World Jewish CongressWJC)の議長を務めている。世界ユダヤ人会議はイスラエルを支援しているが、極右的ではなく、穏健な姿勢を取ることで知られている。アメリカのイスラエル・ロビー諸団体のような、極右的な姿勢ではない。しかし、戦前からの組織であり、その議長というのは大きな権威を持つ。ローダーの義理の息子(娘婿)は、トランプ大統領が連邦準備制度理事会議長に指名したケヴィン・ウォーシュである。ローダーはトランプ人脈の中に入っている。
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 ローダーは影響力と人脈を使い、トランプの政策を「買おう」としているのである。個人の利益のために大統領との人脈や影響力を利用して、政策に関与する。トランプを支持したのは、失業した白人労働者たちだ。彼らは自分たちの願いをトランプに託した。それは、アメリカの上流階級や政界の汚れを一掃することだ。一般国民の既存政治への異議申し立てがポピュリズムである。トランプ大統領の誕生はポピュリズム革命であった。しかし、実際にはこのポピュリズム革命は裏切られつつある。悲しいことだが、ポピュリズムは常に敗北の運命を背負っていると言うべきなのかもしれない。

(貼り付けはじめ)

●「情報BOX:次期FRB議長指名のウォーシュ氏、その横顔」

ロイター通信 2026131日午前 7:35 GMT+92026131日更新

https://jp.reuters.com/markets/japan/HFATL7XEKNNPLLC5X7R2ILAJOU-2026-01-30/

[ワシントン 30日 ロイター] - トランプ米大統領は30日、次期連邦準備理事会(FRB)議長にケビン・ウォーシュ元FRB理事を指名すると発表した。ウォーシュ氏とはどのような人物なのか。

<史上最年少のFRB理事、金融危機に対応>

ウォーシュ氏(55)は、米スタンフォード大学とハーバード法科大学院卒。米金融大手モルガン・スタンレーに勤務した後、ブッシュ(子)前大統領の国家経済会議(NEC)での経験を経て、2006年に史上最年少となる35歳でFRB理事に就任した。08─09年の世界金融危機では、ウォール街の人脈を生かし、当時のバーナンキFRB議長を支え、破綻した金融機関の救済などで重要な役割を果たした。11年まで理事を務めた後、スタンフォード大学フーバー研究所の特別客員フェローを務めたほか、同大学のビジネススクールで講師を務めた。

<タカ派かハト派か?答えは両方か>

ウォーシュ氏は、FRBは金利を大幅に引き下げるべきと主張する。特に人工知能(AI)による生産性向上が物価抑制の一助となるため、FRBはインフレ抑制に向け雇用市場を犠牲にする「選択」をする必要はないとし、トランプ氏と一致している。

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しかし、FRB理事を務めていた5年間にはインフレ「タカ派」として知られた。また、住宅ローンやその他の長期金利引き下げに向け、FRBの大規模な債券保有を恒久的な金融政策手段として利用することに批判的な見方を示していた。

<FRBの独立維持望む、改革は必要>

ウォーシュ氏は長らく、FRBが物価安定と最大雇用という二大責務から外れ、独立性を危うくしていると批判してきた。昨年4月には、政策決定の指針を修正の可能性がある「陳腐な」政府データに頼るのをやめるべきだとしたほか、政策当局者の経済予測や金利の方向性を国民に知らせる「フォワードガイダンス」を批判した。また5月には、バランスシートを拡大しないようにすれば、政策金利を引き下げることができるという認識を示した。

<妻は富豪の娘>

ウォーシュ氏の妻は、米化粧品大手エスティローダーの創業家一族で富豪のロン・ローダー氏の娘ジェーン・ローダー氏。米誌フォーブスによると、ジェーン氏の純資産は27億ドルと推定されている。

<知り合いに多くの富豪>

ウォーシュ氏は、著名投資家スタンリー・ドラッケンミラーの資産を管理するオフィスのパートナーを務めた経歴がある。

また、義父であるロン・ローダー氏はトランプ大統領の元同級生かつ有力な支持者とされる。ウクライナのリチウム鉱床開発権を獲得した投資家グループの一員と伝えられているほか、デンマーク自治領グリーンランドにも権益を持っているという。
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グリーンランド取得、トランプ氏を本気にさせた6人衆 富豪や反中派

ワシントン支局長 河浪武史

日本経済新聞 202619 5:00

[会員限定記事]

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN07CMP0X00C26A1000000/

トランプ米大統領のグリーンランド(デンマーク自治領)取得構想は、今に始まった話ではない。発端は第1次政権時の2018年。当初は「最優先事項ではない」(トランプ氏)はずだったが、対中強硬派が構想を膨らませて「絶対に必要」な重要戦略となった。

●「ルイジアナ、アラスカに並ぶ偉業に」

18年に取得案を最初に振り付けたのは、米化粧品大手エスティローダー創業家のロナルド・ローダー氏とされる。同氏は学生時代からの友人で、有力な資金支援者でもあった。同社はニューヨーク創業で、トランプ氏が生まれ育った地でもある。

グリーンランド買収は19世紀のルイジアナ、アラスカ取得に並ぶ大偉業になる――。狙いは領土拡張をトランプ氏のレガシー(遺産)にすることだった。周辺は「不動産の知識を持つ大統領らが言っているだけ」と受け流したが、対中強硬派が野心的な重要戦略へと引き上げた。

「中国が狙っている。その前に米国がグリーンランドを買うべきだ」。トランプ氏にそう迫ったのは対中強硬派の代表格であるトム・コットン上院議員(共和)だった。

北極海と北大西洋の間にあるグリーンランドは中国とロシアの地政学的な要衝。北極海周辺を往来する船舶数は10年間で4割も増えた。グリーンランドは世界8位のレアアース(希土類)埋蔵量があり、中国の市場独占に切り込む力を持つ。

コットン氏は「グリーンランドを取得すれば地理的利益と経済的利益の両方が得られる」と説いた。その気になったトランプ氏は198月に買収計画を明らかにした。
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●まずレアアース鉱床に資金供給

コットン氏は自らデンマーク政府に領地売買を打診。トランプ氏もグリーンランドに金色のトランプタワーが建つ合成画像をSNSに投稿して挑発した。デンマークが売却を拒絶するとトランプ氏は国賓訪問を突如中止。両国の分断は深まった。

「国家安全保障のためにグリーンランドの所有権が絶対に必要だ」。24年末、トランプ氏は政権発足前に再表明した。第2次政権が発足すると領土拡張を目指すチームにバンス副大統領とルビオ国務長官が加わり「デンマークの頭越しにグリーンランド内で切り崩し工作を始めた」(議会外交筋)。

目をつけたのはグリーンランド最大規模の「タンブリーズ鉱床」。米国輸出入銀行は256月、レアアース開発へ12千万ドル(約190億円)の巨額資金供給を決定した。米国がグリーンランドに資金を直接入れる住民懐柔策の始まりだった。

8月になると、同鉱床からルイジアナ州にレアアースを供給する長期事業計画も決定した。立役者である同州知事のジェフ・ランドリー氏は、トランプ氏からグリーンランド担当特使に任命され、資源開発で得た利益を現地住民に分配する経済協力案を提唱する。

●ブレーキ役欠く危うい大国

ルビオ氏やランドリー氏が目指すのは、住民投票でのグリーンランドの独立や米国資金による領地買収とされる。そこに軍事介入も辞さない強硬論を持ち込んだのが、トランプ氏のスピーチライターを長く務めたスティーブン・ミラー大統領次席補佐官だった。

「北大西洋条約機構(NATO)の利益を守るために、グリーンランドは米国の一部であるべきだ」。ミラー氏は6日、米CNNにそう答えた。呼応するようにレビット大統領報道官も日本経済新聞の取材に「米軍活用は選択肢の一つ」と回答した。

ルビオ氏は7日、デンマーク政府高官と「来週会う予定だ」と表明した。デンマークや欧州各国は米国のグリーンランド取得構想に激しく反発しており、現時点で受け入れる機運はない。19世紀のアラスカ、ルイジアナの買収も、そもそもロシアとフランスが財政難で領地を手放したことが発端だ。

2次トランプ政権は、大統領の功名心をあおる火付け役ばかりが並ぶ。ブレーキ役を欠く大国は一段と危うさを増す。
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グリーンランドに権益を持つ億万長者はいかにしてドナルド・トランプ大統領にグリーンランド獲得を促したのか(How a billionaire with interests in Greenland encouraged Trump to acquire the territory

-北極圏拡大を最初に提案した米大統領の友人であるロナルド・ローダーが現在、グリーンランドで取引を行っている

トム・バージス筆

2026年1月15日

『ザ・ガーディアン』紙

https://www.theguardian.com/us-news/2026/jan/15/ronald-lauder-billionaire-donor-donald-trump-ukraine-greenland

一期目の任期中のある日、ドナルド・トランプは新たなアイデアについて話し合うため、側近を招集した。「トランプが私を大統領執務室に呼び出した」と、2018年に国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたジョン・ボルトンはガーディアン紙に語った。ボルトンは、「ある著名な実業家がアメリカにグリーンランド買収を提案したと言われた」と述べた。

それは異例の提案だった。しかも、その提案は大統領の長年の友人から持ちかけられたもので、後にデンマーク領グリーンランドで事業権益を取得することになる人物だった。

ボルトンが知ったのは、その実業家とはロナルド・ローダーだった。世界的な化粧品ブランドであるエスティローダーの財閥を継いだ彼は、同じく裕福なニューヨーク出身のトランプとは60年以上の付き合いである。

ボルトンによると、彼とローダーはグリーンランド買収案について話し合ったという。この大富豪の介入後、ホワイトハウスのティームは、デンマークが実効支配する広大な北極圏におけるアメリカの影響力拡大策を模索し始めた。

ボルトンは、トランプ大統領が第二期目にローダーの構想を再び追求するのは、大統領の典型的なやり方だと指摘した。ボルトンは「友人から聞いた断片的な情報を真実として受け止め、その意見を覆すことはできない」と述べた。

この提案はトランプ大統領の帝国主義的野心(imperialist ambitions)を掻き立てたようだ。8年が経った今、トランプはグリーンランドを買収するだけでなく、武力行使で奪取することさえ検討している。

トランプ大統領の周囲の多くの人々と同様、ローダーの政策提言は彼のビジネス上の利益と重なっているようだ。トランプがグリーンランド奪取の脅しを強める中、ローダーはグリーンランドで商業資産を取得してきた。また、ローダーはウクライナの鉱物資源へのアクセスを希望するコンソーシアムの一員でもあり、このコンソーシアムがトランプに戦争で荒廃したウクライナの資源の分配を要求するきっかけとなったようだ。

ローダーは、1960年代に同じ名門ビジネススクール(ペンシルヴァニア大学経営大学院[ウォートン・スクール])に通っていた時にトランプと出会ったと述べている。家業の化粧品会社で働いた後、ローダーはロナルド・レーガン政権下で国防総省に勤務し、その後オーストリア大使を務め、1989年にはニューヨーク市長選に立候補したが落選した。

トランプ大統領が2016年に大統領選に勝利した際、ローダーはトランプ勝利募金委員会に10万ドルを寄付した。2018年にトランプの正気が疑われた際、ローダーはトランプを「驚くべき洞察力と知性を備えた男性(a man of incredible insight and intelligence)」と評した。

2018年、ローダーはトランプを「想像し得る限り最も複雑な外交課題のいくつか()some of the most complex diplomatic challenges imaginable」で支援していると述べた。これには北極圏拡大構想(the idea of Arctic expansion)の具体化も含まれていたようだ。2019年、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙がトランプのグリーンランドへの関心を報じた。デンマークの首脳陣は憤慨した。トランプはこれに対し、村の上にそびえ立つ金色のトランプタワーの画像をツイートし、「グリーンランドにはこんなことはしないと約束する!」とキャプションを添えた。

トランプ大統領のグリーンランドへの執着は、ローダーと同様に、長引いた。2025年2月、トランプ大統領がホワイトハウスに復帰した直後、世界最大の島であるグリーンランドの軍事占領を大統領が公に検討した際、ローダーは大統領を擁護した。

「トランプ大統領のグリーンランド構想は決して突飛なものではなく、戦略的なものだった」とローダーは『ニューヨーク・ポスト』紙での記事の中で書いている。さらに、「グリーンランドの氷と岩の下には、AI、先進兵器、そして現代技術に不可欠な希土類元素の宝庫(a treasure trove of rare-earth elements)が眠っている。氷が減少するにつれて、新たな海路が出現し、世界の貿易と安全保障のあり方を変革している」と続けて書いている。

ローダー氏は、グリーンランドが「大国間の競争の震源地(the epicentre of great-power competition)」となっていることから、アメリカは「戦略的パートナーシップ(strategic partnership)」を模索すべきだと主張した。さらに、「私は長年にわたり、グリーンランドのビジネス界や政府指導者と緊密に協力し、グリーンランドへの戦略的投資を推進してきた」と付け加えた。

2018年にローダーがトランプ大統領の関心をグリーンランドに向けさせたことは、米国人ジャーナリストのピーター・ベイカーとスーザン・グラッサーが共著『ザ・ディヴァイダー』で初めて報じている。化粧品業界の億万長者であるローダーは、北極圏の領土に多額の私財を投じてきたようだ。

デンマークの企業記録によると、ニューヨークに拠点を置き、所有者が匿名の企業がここ数カ月でグリーンランドへの投資を行っている。

この企業の事業の一つは、バッフィン湾の島から「高級な」湧き水を輸出することだ。12月にデンマークの新聞が、ローダーが投資家の一人であると報じた際、この事業に関与するグリーンランドの実業家の言葉を引用した。「ローダーと彼の投資家グループの同僚たちは、高級品市場を非常によく理解し、市場へのアクセスも有している」と彼は述べた。

この投資家グループはまた、グリーンランド最大の湖でアルミニウム製錬所を建設するための水力発電も検討していると報じられている。

アメリカが侵略、買収、あるいは説得によってグリーンランドを掌握した場合、ローダー社のグリーンランドにおける商業的利益にどのような影響が及ぶかは不明だ。

ヴェネズエラ大統領を捕らえるためにアメリカ軍を派遣した後、トランプ大統領が「アメリカはグリーンランドを非常に必要としている」と発言したことを受け、デンマーク首相はNATO加盟国による他国への軍事行動は同盟関係を崩壊させると警告した。

トランプ大統領は動じていないようだ。「グリーンランドに関しては、何らかの対応をするつもりだ、穏便な方法か、より困難な方法かは別として」と大統領は先週述べた。水曜日のホワイトハウスでの会合後、デンマークのラース・ロッケ・ラスムセン外相は、「アメリカの立場を変えることはできなかった。大統領がグリーンランドを征服したいという願望を持っているのは明らかだ」と述べた。

ローダーがアメリカの政策形成に関与しているように見えることは、トランプ大統領の第2期における利益相反(conflicts of interest)、そして大統領側近による私腹を肥やす行為をめぐる疑惑をさらに深めるものとなっている。トランプ大統領の2人の息子、ドン・ジュニアとエリックは、ヴェトナムからジブラルタルに至るまで、世界的な金儲け活動を展開してきた。

彼らは、自分たちの事業活動と、現存する最強の権力者である父親の地位との間には「巨大な壁(huge wall)」があると主張している。トランプ大統領の報道官は、「大統領もその家族も、利益相反に関与したことはなく、今後も関与するつもりはない」と述べている。しかし、外国の支配者たちはファーストファミリーの富の増大を助長し、時には大統領の支持を得ているように見せかけてきた。

しかし、ローダーはかつて旧友と決別したように見えた。

2022年、大統領職を離れている間、トランプ大統領は自身のマール・ア・ラーゴ・クラブに極右扇動者のニック・フェンテスを接待した。世界ユダヤ人会議の議長を務めるローダーも非難に加わった。「ニック・フェンテスは、端的に言って、強烈な反ユダヤ主義者であり、ホロコースト否定論者だ」と彼は述べた。ローダーは「彼と付き合うことなど考えられない」と批判した。

しかし、トランプがホワイトハウスに復帰すると、ローダー氏は資金援助を再開した。2025年3月には、トランプの運動のための資金調達団体であるマガ・インク(Maga Inc.)に500万ドルを寄付した。4月には、ローダーは大統領との特別なキャンドルライト・ディナーに出席したと報じられている。チケットは1枚100万ドルで、マガ・インクに支払われた。

その時までに、ローダーの事業利益は再びトランプ政権の政策と重なり合っているように見えた。

2023年11月に鉱業会社テックメットの社長がウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領に送った書簡が流出し、ローダーが戦争で荒廃したウクライナのリチウム鉱床の開発を目指すコンソーシアムの一員であると記されていた。

ローダーは当時、ウクライナの鉱物資源についてトランプ大統領自身と話し合ったことはないが、「長年にわたり、アメリカとウクライナの利害関係者にこの問題を提起してきた」と述べている。共和党の有力者たちは、アメリカがウクライナの膨大な資源を掌握するためのキャンペーンに加わり、トランプ大統領はそれを最も強く支持するようになった。

ローダーがマガ・インクに寄付を行ってから数週間後、アメリカとウクライナは、ウクライナの鉱物資源を共同で開発する協定に署名した。これは、トランプ大統領が大統領執務室でゼレンスキー大統領をアメリカの支援に対する感謝が不十分だと非難し、テレビで激しい非難を浴びせた後、ウクライナへの支持をある程度維持するのに役立った。

リチウム鉱床は、この鉱物資源取引における最初の入札だった。今月、ローダー・コンソーシアムが落札したと報じられている。コンソーシアムを率いるテックメット社は、ローダーと同様にコメントを控えた。グリーンランドのビジネスパートナーとホワイトハウスにも、ガーディアン紙の取材に対し回答はなかった。
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報告:世界ユダヤ人会議(WJC)のロナルド・ローダー会長がドナルド・トランプ大統領のグリーンランド進出に関与している(World Jewish Congress President Ronald Lauder involved in Trump’s push for Greenland – report

-『ザ・ガーディアン』紙によると、ローダー会長はトランプ大統領の任期1期目以降、グリーンランドの商業用不動産を複数取得してきた。アナリストの中には、ローダー会長がトランプ大統領にこの提案をしたのは、個人的な利益を得るためだと見ている人たちがいる。

レオ・フィアバーグ・ベター筆

2026年1月20日

『イェルサレム・ポスト』紙

https://www.jpost.com/international/article-883900
木曜日のガーディアン紙の報道によると、世界ユダヤ人会議(WJC)会長でドナルド・トランプ米大統領の長年の友人であるロナルド・ローダーが、トランプのグリーンランド買収への関心を掻き立てた可能性があるということだ。

2019年にトランプ政権を去ったジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当大統領補佐官は、ガーディアン紙に対し、トランプ大統領から大統領執務室に呼び出され、後にローダーと特定された大富豪がアメリカによるグリーンランド買収を提案したと告げられたと語った。

ボルトンによると、トランプ大統領の行動は親しい友人によって左右されているという。「友人から聞いた断片的な情報を彼は真実として受け止め、彼の意見を揺るがすことはできない」とボルトンはガーディアン紙に語った。

ローダーとトランプ大統領の関係は1960年代にまで遡ることができる。ローダーは保守派の政治キャンペーンに多額の寄付を行っており、その中にはトランプ支持のスーパーPACへの500万ドルの寄付も含まれている。

ガーディアン紙によると、トランプ政権の最初の任期中にこのアイデアを提唱して以来、ローダーはグリーンランドの商業資産を取得しており、アナリストの一部はトランプへの提案は個人的に利益を得るための手段だと見ている。

ローダーは『ニューヨーク・ポスト』紙に寄稿し、デンマーク領(グリーンランド)がアメリカの支援を得て「経済と防衛を確保(secur[ing] its economy and defenses)」することで「独立の夢を実現する(achieve its dream of independence)」よう訴えた。記事の中でローダーはグリーンランドを「アメリカの次のフロンティア(America’s next frontier)」と呼び、トランプ大統領の支援によって北極圏の潜在能力を最大限に発揮すべきだと主張した。

●ローダーがアメリカの外交政策と重なる事業に関与か(Lauder linked to ventures overlapping with US foreign policy

ローダーは以前、アメリカの外交政策と重なる事業に関与しているとの報道があった。今月初め、『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ウクライナがローダーを含むコンソーシアムに、少なくとも数億ドル相当の大規模リチウム鉱床の採掘契約を発注したと報じた。

ローダーは著名なユダヤ人指導者であり、長年にわたりイスラエルの擁護者でもある。2007年から世界ユダヤ人会議の会長を務め、世界中のユダヤ人コミュニティの支援に深く関わっている。

ローダーは数多くの親イスラエルの取り組みや文化プログラムに資金を提供し、外交や慈善活動での活動により世界のユダヤ人問題における重要人物となっている。

(貼り付け終わり)
(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 古村治彦です。

 2028年の大統領選挙に向けて水面下で動いている。以下の記事は1年前の記事だが、重要なキーワードは「アンドゥリル社」「パルマー・ラッキー」「ジョン・ハステッド」である。オハイオ州は大統領選挙における激戦州(battleground state)の1つである。そして、重要なのは、JD・ヴァンス副大統領の出身地であり、副大統領に就任するまでは、オハイオ州選出の連邦上院議員を務めていた。ヴァンスが副大統領就任のため連邦上院議員を辞職して、その後釜となったのが、下の記事に出てくるジョン・ハステッド州副知事(当時)である。
koizumishinjiropalmerluckey101

また、今年2026年にはオハイオ州知事選挙が実施される予定になっているが、共和党側の候補者としてトップランナーになっているのが、ヴィヴェック・ラマスワミである。ラマスワミは2024年大統領選挙共和党予備選挙で無名の泡沫候補であったがトランプ支持を表明しながらの選挙戦で人気を高めた。そして、第二次ドナルド・トランプ政権では、イーロン・マスクと共に政府効率化省(Department of Government EfficiencyDOGE)のトップを務めることが決まっていた。しかし、オハイオ州知事選挙の準備に集中するということで辞退していた。ラマスワミはインド系移民の子供としてオハイオ州で生まれ育ち、ハーヴァード大学卒業後に、イェール大学法科大学院に進学した。イェール大学大学院でJD・ヴァンスと同級生となり、親友となった。ヴァンスとラマスワミは法科大学院世時代に、パランティア社創業者にして、「ペイパル・マフィア」の総帥であるピーター・ティールの知己を得ている。さらに、アンドゥリル社と創業者パルマー・ラッキーは、ピーター・ティールとイーロン・マスク、更にヴァンスからの支援を受けて、アンドゥリル社を創業した。これらのことは拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社、2025年)で詳しく解説した。是非お読みいただきたい。
vivekramaswamyjdvance101

 アンドゥリル社が向上をオハイオ州に建設し雇用を創出する、オハイオ州は補助金や優遇税制で支援するという形で「ウィン・ウィン」の関係を築いている。そして、これは大きくは、ラマスワミの2026年のオハイオ州知事選挙(既に、ドナルド・トランプ、JD・ヴァンス、イーロン・マスクからの支持表明がなされている)、2028年のJD・ヴァンスの大統領選挙のために布石ということになる。パルマー・ラッキーにしてみれば、JD・ヴァンスが大統領になることで、トランプから継続して、アメリカ政界に食い込み、大きな利益を得るための布石ということが出来る。新・軍産複合体の伸長が長期的に進んでいる。

(貼り付けはじめ)

AI兵器軍がオハイオ州へ向かう(The AI weapon army goes to Ohio

-コロンバスに計画されている大規模なアンドゥリル社工場はドローンによる雇用創出を約束し、州から約5億ドルの補助金を受ける予定だ

スタヴロウラ・パブスト筆

2025年2月20日

『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌

https://responsiblestatecraft.org/anduril-ohio/

兵器技術業界の新しいスターであるアンドゥリル・インダストリーズ社がオハイオ州の支援を受けてオハイオ州に進出する。

先週、オハイオ州管理委員会は、オハイオ州開発局のオール・オハイオ・フューチャー・ファンドからの7000万ドルという巨額の資金提供を承認した。これは、アンドゥリル社がオハイオ州コロンバスのリッケンバッカー空港近くに建設を計画している、500万平方フィート(約460万平方メートル)の「ハイパースケール」製造施設「アーセナル1」と呼ばれる兵器工場建設のための資金である。

この資金提供は、管理委員会の会合で異議なく承認されたが、州下院議員トリスタン・レーダー(レイクウッド選挙区選出、民主党)が「多額の公的資金」が「民間の開発に流れている」と認めたこと以外は、ほとんど話題にもならなかった。

●オハイオ州がアンドゥリル社を全面支援(Ohio goes all in for Anduril

アーセナル1の推進派は、このプロジェクトがオハイオ州民にもたらす経済的利益を大々的に宣伝している。4000人の雇用創出を約束するアーセナル1は、オハイオ州史上最大の雇用創出プロジェクトとして称賛されている。州はアンドゥリル社に対し、約4億55000万ドルの減税措置を承認しており、アンドゥリル社自身もこのプロジェクトに約10億ドルを投資する予定だ。2026年半ばに操業開始予定のこの工場は、近隣のリッケンバッカー空港で製品の試験・開発を行うことも可能になる。

​​「私たちはアンドゥリル社を歓迎し、最先端の防衛製造業における数千人の新規雇用創出を祝福する」と、オハイオ州副知事ジョン・ハステッドは1月、アンドゥリル社がオハイオ州への進出を表明した後にこのように述べた。さらに「この投資は、先端技術と国家安全保障におけるオハイオ州のリーダーとしての地位を強化するものだ」と述べた。

アンドゥリルがアーセナル1で実際に提案しているのは、ほとんど精査されないという点だ。しかし、倫理的に問題のある自律型および半自律型兵器の大量生産計画は精査に値する。

自律型兵器システムに関する懸念は、概して、致命的な意思決定を人間から、おそらく判断力に乏しく、しばしば不正確な機械へとアウトソーシングすることにある。AI研究者たちはまた、AI技術の軍事化によって、戦闘(そして死)の責任が人間から戦闘用の自律型機械へと移行され、各国の紛争回避意欲が低下する可能性を懸念している。

こうした懸念にもかかわらず、ガザ地区のような地域ではAI支援兵器の拡散が止まっていない。イスラエル軍はパレスチナ人への攻撃において、AI軍事照準システムを利用してきたが、これに対して厳しい批判が集まっている。

そして今、自律型兵器の製造をさらに進めているアーセナル1は、軍事請負業者(military contractors)、特に新世代の防衛技術スタートアップ企業による、桁違いに多くの兵器や軍事プラットフォーム、特にAI支援型を大量生産できるアメリカの防衛産業基盤の刷新(アンドゥリル社の言葉を借りれば「ハイパースケーリング(hyperscaling)」)に向けた、より大規模な防衛技術推進の一環である。

アーセナル1や、防衛志向の産業自動化スタートアップ企業ハドリアンの「高度に自動化された精密部品工場」といったアメリカに拠点を置く新たな施設を通じて兵器の大量生産を増強する防衛技術スタートアップ企業は、その過程で重要な経済的機会を軍国主義と結び付けている。こうした流れの中で、ハドリアンは2022年の資金調達発表において、自社の取り組みを「アメリカの先進製造業基盤の変革(transform America's advanced manufacturing industrial base)」に向けた取り組みであると明確に表現した。

支持者たちにとって、この取り組みは、ますます不安定化する地政学的状況の中で、アメリカの国家安全保障にとって極めて重要である。この点で、アンドゥリル社社長のパルマー・ラッキーは、軍産複合体が売り込む中国の脅威に対抗し、アーセナル1をはじめとする兵器製造事業を民間に売りつけることに激しく反発している。

ラッキーは1月下旬にアーセナル1に関するインタヴューで述べ、「従来通りのビジネスをしている余裕はない。・・・中国で紛争が発生した場合、最初の8日以内に兵器が枯渇すると予測されていることから、(アーセナル1のようなプロジェクトによって)製造を超大規模化する必要がある」と、中国との戦争が現実的な可能性として指摘した。

これらの兵器企業の軍国主義的な動きが、経済機会の約束と相まって、世論を同じ方向に導くのではないかと懸念する声もある。「パルマー・ラッキーの冷戦的信念は、中西部でますます広まっている」と、コロンバスを拠点とする『マター・ニューズ』所属のジャーナリストであるテイラー・ドレルは次のように指摘する。「例えば、ニューアルバニー(オハイオ州)のインテル工場建設は、半導体戦争で中国に勝つための新たな冷戦戦略として批判されている」。

●アーセナル1をめぐる議論が激しくなる(Debate over Arsenal-1 brews

しかし、オハイオ州民全員がアンドゥリル社の工場開設を歓迎している訳ではない。アーセナル1を「国家防衛における大きな賭け(a high stakes gamble in national defense)」と呼び、『サイオト・ヴァレー・ガーディアン』紙のジェイ・サリーは、このプロジェクトに割り当てられた「多額の」公的補助金に対する地元の懐疑的な見方を強調した。

実際、ヴェテランズ・フォー・ピース(VFP)第183支部をはじめとするオハイオ州を拠点とする支援団体は、日曜日にオハイオ州リッケンバッカー空港前でアーセナル1への抗議活動を行う予定だ。これらの団体は、このプロジェクトへの多額の公的資金提供、環境への影響の可能性、そして前述のアンドゥリル社のような企業によるAIの軍事化に伴う倫理的影響を問題視している。

オハイオ州民がアーセナル1の導入をめぐって議論を交わす中、自律型兵器システムの大量拡散と将来、そしてそれらが将来の戦争をより危険なものにする可能性について、批判的な議論が切実に必要とされている。

※スタヴロウラ・パブスト:『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌記者。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001
世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2025年11月末、私は、拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』(ビジネス社)を刊行した。その中で、ピーター・ティールが率いるパランティア・テクノロジーズ社、イーロン・マスクが率いるスペースX社、パルマー・ラッキーが率いるアンドゥリル・テクノロジーズ社(ティールとマスクの出資を受けている)が企業コンソーシアムを形成して、ゴールデンドーム計画に参画し、巨額の利益を上げるだろう、そして、彼らがアメリカの「新・軍産複合体」として台頭するだろうということを書いた。
goldendomeusoutlines101

 ゴールデンドーム計画は数重兆円規模の巨大プロジェクトであるが、その内容も不透明なのが実際だ。そして、現在、予算承認が進んでいないということだ。しかし、準備段階でも相当な予算が投入される。陸海空に宇宙という多層的なミサイル防衛システムということになると、パランティア社のビッグデータ分析、スペースX社の宇宙開発、ロケット打ち上げ技術、アンドゥリル社のドローン技術の融合が必要となる。そして、ドナルド・トランプ大統領誕生に、ピーター・ティールやイーロン・マスクが重要な役割を果たしたことを考えると、ゴールデンドーム計画は彼らに対する利益供与ということもできる。

 中国は、2015年に「中国製造2025」というプロジェクトを発足させ、AI、ドローン、量子コンピュータなどの分野でアメリカに対抗している。同じ年、中国は、「軍民融合(Civil-Military Fusion)」プロジェクトもスタートさせた。これは、民間企業が開発した、最先端技術の中国軍による利用を促進するものだ。アメリカでも同様の軍民融合を行おうということになれば、ゴールデンドーム計画のような形になる。

 詳しくは是非拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』を読んでいただきたい。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領はゴールデンドームを愛している。彼自身のホワイトハウスは支出を遅らせている(Trump Loves Golden Dome. His Own White House Is Slow-Rolling Spending

-行政管理予算局によって承認された数十億ドルの支出が差し止められている。

サム・スコーヴ筆

2026年2月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/02/23/golden-dome-spending-omb-budget-pentagon-trump-missile-defense-drones/
写真
ピート・ヘグゼス米国防長官(右)がワシントンのホワイトハウスでドナルド・トランプ米大統領とゴールデンドームについて協議している(2025年5月20日)
『フォーリン・ポリシー』誌が入手した国防総省の文書によると、トランプ政権の目玉となる国家安全保障戦略である「ゴールデンドーム」ミサイル防衛システムとドローン生産増強計画への数十億ドル規模の予算が支出されていないことが明らかになった。

ドナルド・トランプ米大統領は2025年5月、ゴールデンドームへの支出を称賛し、政権は「アメリカ本土へのミサイルの脅威を永遠に終わらせる」と約束した。

ミサイル防衛兵器を宇宙に配備するなど技術的な課題を抱えながらも、トランプ大統領はわずか3年、つまり大統領の2期目が終了する前に、迅速にプロジェクトを完遂すると約束した。トランプはプロジェクト費用を1750億ドルと見積もっているが、他の推計ではそれよりかなり高額になるとされている。

この計画の財源として、トランプ大統領は昨年連邦議会で可決された「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(the One Big Beautiful Bill Act)」の一環として、この計画に250億ドルを支出すると発表した。

しかしながら、米国防総省の文書によると、ゴールデンドームに関連する宇宙能力への支出のうち、最大140億ドルが連邦資金を配分する行政管理予算局(OMB)の「承認待ち(pending approval)」となっている。

これには、宇宙ベースセンサーに72億ドル、軍事衛星とその防護に36億ドル、標的捕捉関連の軍事衛星に20億ドル、次世代大陸間弾道ミサイル防衛システムに8億ドル、宇宙指揮統制システムに3億5000万ドル、そして宇宙通信システムに1億2500万ドルが含まれる。

アメリカンエンタープライズ研究所上級フェローのトッド・ハリソンは、この資金繰りの停滞により、トランプ大統領が提案した野心的なスケジュールでのゴールデンドーム配備が遅れる可能性があると述べた。「会計年度のほぼ半分が過ぎていることを考えると、この資金の多くを2026年度に使用することは困難であり、つまり配分は2027年度に繰り越されることになる」とハリソンは述べた。

国防総省もドローンの調達を最優先事項としており、ピート・ヘグゼス国防長官は「ドローン優位性(drone dominance)」の実現を約束している。しかし、文書によると、小型ドローン船に15億ドル、中型ドローン船に21億ドルの予算が承認待ちのまま保留されている。

行政管理予算局(OMB)が資金拠出を保留している理由は不明だが、これは行政管理予算局と国防総省の間で資金配分の最適解をめぐる意見の相違を示唆しているとハリソンは述べた。国防総省はコメント要請に応じなかった。

コメントを求められた行政管理予算局広報部長のレイチェル・コーリーは、「これは事実ではない。誰がそう言っているにせよ、誤解している。ホワイトハウスが競争政策と単独調達契約についてどのような立場を取っているかは秘密ではない」と述べた。

『フォーリン・ポリシー』誌は当初、競争政策や単独調達契約について質問していなかった。その後、フォーリン・ポリシー誌はコーリーに対し、ゴールデンドームやドローンの契約プロセスが競争的でないという懸念から資金拠出を差し控えているのではないと言っているのかと尋ねた。

コーリーは「その資金のほとんどは全く保留されていない。全くのナンセンスだ」と答えた。

現在承認待ちとなっている項目の少なくとも1つは、「空中移動目標指示」衛星システムへの20億ドルの割り当てである。『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙は以前、スペースXがこの契約を獲得する見込みだと報じていた。ゴールデンドームは、スペースX、アンドゥリル、パランティアによるシステム建設の入札で、以前から世間の厳しい批判に晒されてきた。

※サム・スコーヴ:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Xアカウント:@samuelskove
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トランプ大統領のゴールデンドームは万能薬ではない(Trump’s Golden Dome Is No Silver Bullet

-アメリカ最大の防衛計画の1つは発表からほぼ1年が経過した現在も構想の域を出ていない。

アレクサンドラ・シャープ、ジョン・ホルティワンガー筆

2026年1月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/01/22/golden-dome-trump-missile-defense-explained-greenland/

ドナルド・トランプ米大統領は、1年足らずで歴代大統領の誰よりも多くのことを成し遂げたと主張している。しかし、「トランプ2.0」の最大の提案の一つである「ゴールデンドーム」ミサイル防衛システムは、発表から12カ月近くが経過した現在も、構想の域を出ていない。トランプ大統領は2期目終了までにゴールデンドームを完成させると述べているものの、その実現はますます困難になりつつある。さらに、グリーンランドへの進出もこの構想と結びつけ、今週スイスのダヴォスで行った演説では、デンマーク領であるこの地こそ「史上最大のゴールデンドームを建設する地(land on which we’re going to build the greatest Golden Dome ever built)」だと述べた。

このようなシステムが本当に費用に見合う価値があるのか​​、建設と維持にかかる費用(一部の推計では数兆ドルに上る)と、新たな軍拡競争を煽る可能性の両方において、多くの疑問が残る。一部の専門家は、現在のアメリカのミサイル防衛能力には悪用される可能性のある脆弱性が存在することに同意しているものの、ゴールデンドームが真の解決策となるかどうかについては疑問を呈している。

現在、アメリカは複数のミサイル防衛システムを保有している。その中には、飛行中期段階における中・長距離大陸間弾道ミサイルからアメリカ本土を守るために設計された地上配備型中間段階防衛システム(Ground-Based Midcourse DefenseGMD)、飛行中期段階における短・中距離弾道ミサイルを防御するために地上および海上に配備されたイージス弾道ミサイル防衛システム(the Aegis Ballistic Missile DefenseBMD)、そして飛行最終段階における短・中距離弾道ミサイルを防御するために設計された迅速展開・移動式の最終高高度防衛システム(Terminal High Altitude Area Defense THAAD)がある。

しかし、専門家の中には、ロシア、中国、北朝鮮といった主要敵国が兵器の増強と近代化を進めている現状において、極超音速ミサイル、ドローン、先進巡航ミサイルといった新技術がアメリカの防衛体制に危険な隙間をもたらしていると警告を発している人たちもいる。

米国防総省は、小規模で的を絞った取り組みによってこれらの脆弱性(vulnerabilities)に対処しようとしている。しかし、トランプ大統領ははるかに大胆で包括的な解決策を求めている。大統領は、ゴールデンドームによってアメリカ本土へのミサイルの脅威が「永遠に(forever)」なくなると述べている。

ゴールデンドームについて、その目的、期待される能力、潜在的なコスト、開発スケジュール、そして考えられるリスクなど、知っておくべきことを以下に挙げていく。

●ゴールデンドームとは何か、そしてその目的は何か?(What is Golden Dome, and what is it meant to do?

ゴールデンドームは、多様な空中脅威を阻止できる多層型ミサイル防衛システム(a multilayered missile defense system capable of thwarting a wide range of aerial threats)であるが、特に長距離ミサイルの破壊に重点を置く。多くの点で、これは防衛のために宇宙を兵器化する(weaponizing space for the sake of defense)ということだが、地上、海上、空中の層も含まれることになる。

ゴールデンドームは、1984年にロナルド・レーガン米大統領が提唱した「スターウォーズ(Star Wars)」の愛称を持つ戦略防衛構想(Strategic Defense InitiativeSDI)の近代化された拡張版と言えるかもしれない。しかし、この計画が実用化されることはなかったことは注意すべき点だ。

トランプ政権はゴールデンドームを「次世代ミサイル防衛シールド(next-generation missile defense shield)」と表現している。この構想を主導する米宇宙軍のマイケル・グートライン大将は、これを「マンハッタン計画に匹敵する規模(on the magnitude of the Manhattan Project)」と評した。しかし、プロジェクトの規模はそれよりもさらに大きくなる可能性がある。

ゴールデンドームは、基本的にあらゆるもの、つまり国防総省が2025年5月に発表したプレスリリースにあるように「あらゆる敵からの空中攻撃(aerial attacks from any foe)」から防衛することを目指している。当初の構想は、主にロシアや中国などのアメリカの敵対諸国が発射する大陸間弾道ミサイル(intercontinental ballistic missilesICBM)の迎撃に重点を置いていた。ICBMは、核兵器を搭載して宇宙空間に発射され、大気圏に再突入して標的を攻撃する先進的な長距離ミサイルで、射程は通常3400マイル(約5600キロメートル)以上だ。

しかし、ホワイトハウスが2025年1月下旬にこの構想を初めて発表して以来、この防衛システムの提案能力は拡大し、「巡航ミサイル、弾道ミサイル、極超音速ミサイル、ドローン(通常兵器か核兵器かを問わず)」を含む、他の多くの潜在的な脅威も含まれるようになったと、ピート・ヘグゼス米国防長官は昨年5月に述べた。

これは、冷戦時代の核への恐怖からドローン技術の実際的な懸念へと現代戦争の変遷に対応するための取り組みの一環だ。ロシアとウクライナの戦争は、偵察から直接的な標的攻撃まで、あらゆる用途における低コストで使い捨て可能なドローンの有効性を特に示した。この戦争における両陣営の死傷者の約70%はドローンによるものと推定されている。

「この分野では、十分な速さで対応できない」と、米陸軍副参謀総長のジェームズ・ミンガス将軍は昨年7月に述べた。その理由として、多くの軍指導者や専門家が、短距離ドローンの脅威への対応においてアメリカは後れを取っている点を強調した。

ゴールデンドームがドローンの脅威に具体的にどのように対処するのかについては疑問が残るものの、国防総省は他の方法でこの問題に取り組んでおり、特に現代の戦場で好んで使用される小型無人航空機(small, unmanned aerial vehicles)への対抗能力をアメリカ軍にいかに強化するかに重点を置いている。このため、陸軍はドローンの訓練にますます力を入れている。昨年8月、国防総省は小型ドローンに対抗する軍の能力強化を加速させるため、新たな省庁間合同タスクフォースを設置した。これは、この問題が軍にとって優先事項となっていることを示す新たな兆候である。

しかし、ゴールデンドーム推進の推進は、音速の5倍(マッハ5)以上で飛行するため迎撃が極めて困難な極超音速ミサイルの開発競争をめぐる世界的な懸念によっても促進されている。

But the push for Golden Dome has also been catalyzed by concerns over the global race to produce hypersonic missiles, which travel at five times the speed of sound (Mach 5) or faster, making them exceptionally difficult to intercept.

●ゴールデンドームは理論上どのように機能するのだろうか?(How will Golden Dome function in theory?

ゴールデンドームは、センサーと迎撃衛星を搭載した数百、あるいは数千もの衛星群を用いて、極超音速ミサイルをはじめとする兵器システムを追跡・破壊する。

トランプ政権は、この宇宙配備型システムがブースト段階、つまり発射後約5分間の初期段階にあるミサイルを迎撃できる能力を持つことを想定している。ブースト段階のミサイルは探知が容易ですが、破壊は困難だ。なぜなら、ミサイルを破壊には発射地点付近に迎撃衛星を配置する必要があるからだ。迎撃衛星を低軌道に配備することで、ゴールデンドームは理論的には、ブースト段階、つまり飛行初期段階にある敵ミサイルを破壊する能力をアメリカに提供する可能性がある。

アメリカの現在のミサイル防衛システムは、中間段階(ブースターの燃焼が終わった後、ミサイルが最大20分間宇宙空間を滑空する段階。これはミサイルの飛行の中で最も長い段階であり、大気圏再突入前の迎撃の絶好の機会である)と最終段階(ミサイルが大気圏に再突入し、目標に命中するまでの段階)におけるミサイルの迎撃に重点を置いている。

もし今日、ICBMがアメリカ本土に向けて発射された場合、ワシントンの主要な防衛線は地上配備型の中間段階防衛システムであり、ミサイルが中間段階にある間に迎撃する。しかし、アメリカ西部のカリフォルニア州とアラスカ州に設置されている地上配備型中間段階防衛システム(GMDシステム)の一部として運用されている地上配備型迎撃ミサイルはわずか44基である。GMDシステムは全50州を防衛する設計となっているが、北朝鮮のような敵対国による限定的な攻撃に対抗することを目的としており、ロシアや中国のより大規模で高度な兵器に対する防御は想定されていない。

イージスBMDシステムは信頼性が高いと考えられているが、ICBMの迎撃を目的として設計されている訳ではない。これは地域に特化した防衛システムであり、大規模な攻撃に対抗したり、アメリカ本土全体を防衛したりすることを目的としたものではない。

アメリカには最終高高度防衛システム(Terminal High Altitude Area Defense THAAD)とパトリオットシステムがあり、ミサイルを最終段階で迎撃することが可能ですが、限られた時間(1分未満の場合もあり)やミサイルが標的に近接していることなど、様々な課題から、最終段階はそのような脅威を迎撃するには最も理想的なタイミングとは言えない。これらのシステムは、一般的にICBMや長距離ミサイルの迎撃を目的として設計されていない。

ここでゴールデンドームの出番だ。提案されているシステムは、より高度な技術を持つ敵から発射される様々な射程のミサイルを、ブースト、ミッドコース、そして最終段階の全ての飛行段階で迎撃することができる。

しかし、繰り返すが、これはあくまでも理論上の話だ。

ゴールデンドームの開発には、その機能を果たすために必要な宇宙配備型迎撃ミサイルの膨大な数をはじめ、重大なハードルが存在する。

「核兵器に対処する場合、真に安全だと感じるためには、非常に高い迎撃率が必要だ」と、ブルッキングス研究所の防衛専門家マイケル・オハンロンは次のように述べている。「多層防御が必要だ。そして問題は、多層防御の多くは、大国によって偽装されたり、欺かれたり、あるいは飽和状態に陥ったりする可能性があるということだ」。

つまり、アメリカの敵対国がゴールデンドームの能力を圧倒するには、システムを水浸しにするか、デコイを使うだけで済むということだ。アメリカはまだ、宇宙空間にある弾頭が真の脅威なのか、それとも欺瞞なのかを判断する技術を開発している。

●ゴールデンドームの費用はいくらかかるだろうか?(How much will Golden Dome cost?

ゴールデンドーム開発における重大なハードルはおそらく費用となるだろう。トランプ大統領はこのプロジェクトの費用は約1750億ドルだと述べているが、実際の費用ははるかに高額になると推定されている。

宇宙配備型迎撃ミサイルに頼るのは、飛来する飛行体1個を撃墜するのに数十基の迎撃ミサイルが必要となるため、費用のかかる戦略となる。「不在率(the absentee ratio)こそが真の致命的な問題だ。これらの迎撃ミサイルやレーザーミサイルのほとんどは、高度が高いため常に周回しているため、適切な位置に配置できず、適切な位置にある1基に対して10基ほどの迎撃ミサイルを宇宙に配備しなければならない」とオハンロンは述べている。

アメリカンエンタープライズ研究所上級研究員のトッド・ハリソンによると、迎撃ミサイル1基の調達コストは平均440万ドルから890万ドルと推定されている。つまり、ゴールデンドームが最大2発のミサイルに対抗するために全世界を継続的にカヴァーするために1900基の迎撃ミサイルが必要だとすると、総調達コストは86億ドルから172億ドルとなる。しかし、(例えばシステムを氾濫させる戦略の一環として)発射される弾道ミサイルの数が増えると、より多くの迎撃ミサイルが必要となり、調達コストは急騰する。連邦議会予算局の推計によると、限定的な宇宙配備型迎撃ミサイルシステムでさえ5000億ドル以上のコストがかかるということだ。

これはゴールデンドームの総費用を考慮に入れていない。ゴールデンドームの総費用は、どの脅威を優先するか、そしてどこでカヴァーするかによって、20年間で2520億ドルから3兆6000億ドルと推定されている。

これまでに、連邦議会はゴールデンドーム構想に約250億ドルを拠出している。この構想は2026年国防権限法にも漠然と言及されているものの、具体的な支出指示は示されていない。

2025年10月、ロッキード・マーティンのジム・タイクレットCEOは、ロッキード・マーティンは2028年までにゴールデンドーム構想の一部である宇宙配備型ミサイル迎撃ミサイルを少なくとも1基試験する計画だと述べた。

ミサイル防衛プロジェクトのディレクターであり、戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員であるトム・カラコは、ゴールデンドームは「システム(system)」ではなく、むしろ「数年にわたって段階的に展開される構想(initiative” that will be rolled out in phases over a “number of years)」であると述べた。ミサイル防衛へのこのようなアプローチはずっと前から必要だったと述べるカラコは、ゴールデンドームを「会計機能(accounting function)」と表現し、この構想に関する多くの詳細が依然として未確定であることを強調した。

トランプ政権には「計画のコンセプト(concept of a plan)」があると元国防次官(政策担当)のエリック・エデルマンは述べた。エデルマンは続けて次のように語った。「トランプ政権が実際に成果を上げたいのであれば、現状の巡航ミサイルの脆弱性への対処といった、容易に達成できる目標に取り組むだろう。そうでなければ、3年で成果を上げることは難しいだろう。なぜなら、はるかに長い時間がかかるからだ」。

しかし、国防総省は依然として楽観的な姿勢を崩していない。2025年10月、ある国防関係のお当局者は『フォーリン・ポリシー』誌に対し、ゴールデンドームは国防総省にとって依然として「戦略的に不可欠なもの(strategic imperative)」であり、同省は「作戦上の安全保障を最優先に考えている(operational security top of mind)」ため、これ以上の情報提供はできないと述べた。

「私たちは大統領のヴィジョンを実現するために、引き続き尽力していく」と公式コメントを控えたこの当局者は付け加えて述べた。

フォーリン・ポリシーは2025年を通して国防総省に複数回連絡を取り、ゴールデンドームの開発状況について最新情報を求めたが、追加情報は得られなかった。

国防専門家の中には、イスラエルのアイアンドーム・システムをトランプ大統領のゴールデンドーム構想の実現可能性を示す証拠として挙げている。しかし、重要な違いがあるため、この比較は不完全である。

第一に、イスラエルは地理的にアメリカ合衆国よりもはるかに小さく、守るべき領土も多くない。イスラエルの面積はアメリカ合衆国ニュージャージー州とほぼ同じである。さらに、イランの代理組織であるハマスやヒズボラなど、イスラエルの敵対勢力の多くは、単純な軌道と小型の通常弾頭を持つ安価なロケットを主に発射している。アイアンドーム・システムはコストを抑えるため、ネゲブ砂漠のような無人地帯を狙ったロケットも攻撃対象としている。これらの地域は民間人に実質的な脅威を与えないからだ。一方、アメリカは世界最大級の核兵器に対抗することになる。これらの核兵器は大都市圏を標的とする可能性が高く、攻撃を放置する余裕はない。

エデルマンは、「全てを攻撃しなければならない。これが核弾頭漏れ防止防衛の問題点だ」と述べた。

ロシアは5400発以上の核弾頭を保有しており、中国は約600発の核弾頭を保有しているが、2035年までに1500発の核弾頭を保有すると予想されている。北朝鮮の核弾頭の総数は未確認だが、アメリカ科学者連盟は平壌が50発以上を保有していると見ている。(アメリカは約5225発の核弾頭を保有している。)

新アメリカ安全保障センターの防衛プログラムのディレクターであるステイシー・ペティジョンは次のように述べている。「ゴールデンドームは、ロシアや中国が保有する量のミサイルを迎撃できるような防御力場にはならないだろう。中露両国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の兵器規模は大きすぎるからだ。むしろ、限定的な攻撃を迎撃できる盾となることを意図している」。

●ゴールデンドームのリスクは何か?What are the risks of Golden Dome?

効果への懸念に加え、多くの批評家はゴールデンドームが世界的な軍拡競争(arms race)を誘発するのではないかと懸念している。ペティジョンは次のように語っている。「つまり、敵対国がゴールデンドームを見て、アメリカが先制攻撃を仕掛けてくると想定し、ミサイルの増強、そしてシールドを迂回するためのより高度なミサイルの開発に着手するのではないかという懸念だ。つまり、ゴールデンドームが対処できるものに加えて、さらに強力なミサイルを開発し、さらに新システムの弱点を突こうとする新型ミサイルも開発するだろう」。

これは、オハンロンが懸念した、戦場への電子線(flooding)やデコイの使用という戦略にも繋がる。アメリカにはまだ対抗できる技術力がない。

しかし、一部の専門家は、外国の敵対国がゴールデンドーム構想に不満を抱いていることは良い兆候だと主張する。カラコは次のように述べている。「ミサイル防衛は抑止力に貢献するために存在する。空に浮かぶスピードバンプ(スピードを落とさせるための道路上の段差)のようなものだ。中国人がそれについて不満を言うのを聞くのは、私たちが何か建設的なことをしているという良い兆候となるだろう」。

※アレクサンドラ・シャープ:『フォーリン・ポリシー』誌「ワールドブリーフ」担当ライター。Blueskyアカウント:@alexandrassharp.bsky.socialXアカウント:@AlexandraSSharp

※ジョン・ホルティワンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@jchaltiwanger.bsky.socialXアカウント:@jchaltiwanger
(貼り付け終わり)

(終わり)

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2026年2月25日、ドナルド・トランプ大統領は連邦議場で一般教書演説を行った。1時間48分に及ぶ演説は、史上最長記録となった。もっとも一般教書演説が連邦議事堂で実施されるようになったのは20世紀になってからで、歴史としてはそこまで古くはない。事前の予想通りに、分断を印象付ける一般教書演説となった。連邦議場内の分断は、アメリカ国内の分断を象徴するものとなった。民主、共和両党の議員たちがあれほど刺々しい態度を取ったのはこれまでに例がなかったのではないかと思う。

 現在、トランプ大統領の支持率は芳しくない。それでも40%以上はある。トランプ支持の基盤は強固であることも事実だ。今年11月の中間選挙(mid-term elections)は、文字通り、第二次ドナルド・トランプ政権の中間テスト(mid-term examinations)になる。現在は連邦上下両院で共和党が過半数を握っているが、現状では民主党が下院で過半数を奪還するのではないかという見通しになっている。そうなればトランプ政権にとっては痛手となる。トランプ政権としては経済で成果を上げたいところだが、厳しい。目玉政策の高関税政策は連邦最高裁に差し止められ、先行きは不透明だ。ドル安も進行している。インフレ率は落ち着いているが、アメリカ国民の中で不満を抱えている人たちが多くいる。

 外交政策は、西半球に焦点を当てたドンロー政策を採用しているが、アメリカの国益に適っているとは言い難い。何よりも、他国からの信頼が大きく揺らいでいる。第二次トランプ政権の外交政策は第一次政権時と異なり、ネオコン的な介入主義的となっている。中国とは融和を行うような姿勢を取りつつも、対決姿勢も取っている。こちらも先行きが不透明だ。アメリカ帝国の衰退だけが印象付けられている。

 一般教書演説は、英語では「State of the Union Address」と言う。直訳すれば、「統一されたアメリカ国家(the Union)の現状に関する演説」となる。今回の演説が示したのは「分断された国家(division)の姿」である。「分断されたアメリカ国家の現状任官する演説( State of the Division Address)」と言うべきものだった。アメリカはこうして、帝国であることを止め、国内の不安定さを増して、衰退していく。このブログでも何度も書いたが、私は、トランプ大統領はアメリカ帝国の墓堀人の役割を果たすと考えている。今回の一般教書演説はそれにふさわしいものとなった。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領の一般教書演説から得られる5つのポイント(Five takeaways from President Trump’s State of the Union address

ナイオール・スタンジ筆

2026年2月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5754101-trump-state-union-address-takeaways/

ドナルド・トランプ大統領は火曜日、2期目初の公式の一般教書演説(the first official State of the Union address of his second term)を行った。

大統領は、特に経済政策に関する支持率の低迷に悩まされながらも、11月の中間選挙を前に党の結束を強めようと努める形で演説は行われた。

トランプ大統領は、イランとの緊張が高まる中で、1時間50分弱に及ぶ演説を行った。大統領は、この地域に2つの空母群を派遣した。

演説の主要なポイントは以下の通りだ。

(1)イランに関する様々な計画は不透明な状態のままを維持している(Iran plans remain murky

今回の演説に関して、最も重大な政策課題は、トランプ大統領が対イラン計画をより明確にするか否かという点にあった。しかし、トランプ大統領は計画について明確にしなかった。少なくとも、それほど明確にはしなかった。

トランプ大統領は次のように述べた。「私たちは彼らと交渉中だ。彼らは合意を望んでいるが、『私たちは決して核兵器を持たない』という秘密の言葉をまだ聞いていない。私は外交を通じてこの問題を解決することを望んでいる。しかし、一つ確かなことは、世界最大のテロ支援国である彼ら(イラン)に核兵器を持たせることなど決して許さないということだ。絶対に許すことはできない」。

木曜日にジュネーブで予定されているイランとアメリカとの協議を前に、この問題には多くの複雑な要素が絡んでいる。

第一に、イランのマソウド・ペゼシュキアン大統領は昨年9月、国連総会で次のように述べた。「イランは核爆弾の製造を試みたことはなく、今後も決して試みることはないだろう」。

第二に、トランプ大統領は演説の他の部分で、これまで同様、イランの長距離兵器能力(核兵器か非核兵器かを問わず)がそれ自体の障害であると示唆した。また、イラン政府が年末に起きた抗議デモの複数の参加者を殺害したことを非難した。

まとめると、トランプ大統領が曖昧に定義された問題に対する解決策として具体的に何を提案しているのか、あるいはテヘラン政権の存続を想定しているのかどうかは依然として不明確である。

(2)中間選挙へのメッセージを追求(Seeking a midterms message

演説の序盤、つまりテレビ視聴者の視聴率が例年最高値に達する時間帯は、主に経済に焦点を当てていた。

トランプの主張の中には、株価が過去最高値、あるいはそれに近い水準にあるなど、妥当なものもあれば、そうでないものもあった。トランプが主張するように、いかなる基準で見ても「記録的なインフレ率(inflation at record levels)」にある国を引き継いだ訳ではない。2期目が始まった2025年1月の年率インフレ率は3.0%だった。最新の今年1月の数値では2.4%となっている。

トランプの支持率は、物価上昇に対する国民の認識に関しても、特に不安定な状況にある。

『ワシントン・ポスト』紙、ABCニューズ、イプソス社が最近実施した世論調査では、成人の65%がトランプのインフレ対応に不満を示し、支持したのはわずか32%だった。

火曜日の夜、トランプは以前から繰り返してきた攻撃を再び展開し、民主党は「突然『手頃な価格(affordability)』という言葉を使った。誰かが与えてくれた言葉だ」と主張した。そして、物価高騰の責任は実際には民主党にあると主張した。

また、昨年の減税・歳出法案に反対票を投じた野党を激しく非難し、「彼らは大規模な増税で国民を苦しめようとした(they wanted large scale tax increases to hurt the people instead)」と述べた。

(3)移民をめぐる対立(A confrontation on immigration

演説で最も劇的な場面は、おそらく予想通り、移民に関する部分で訪れた。

ある場面でトランプは、「アメリカ政府の第一の義務はアメリカ国民を守ることであり、不法移民を守ることではない」という発言に賛同する聴衆は「立ち上がって支持を表明する」べきだと述べた。

民主党所属の連邦議員たちは圧倒的多数が着席したままだった。これは、移民関税執行局(ICE)や国土安全保障省(DHS)傘下の他の機関による強硬な執行措置に彼らが強く反対していることを考えると、驚くべきことではない。

これらの措置は、1月にミネソタ州でレニー・グッドとアレックス・プレッティという2人のアメリカ国民が射殺される事件につながった。

その間、トランプは民主党議員たちを睨みつけ、「立ち上がらないのは恥ずべきことだ」と述べた。

イルハン・オマル連邦下院議員(ミネソタ州選出、民主党)をめぐっては、「トランプがアメリカ人を殺した」と叫ぶなど、激しい口論も繰り広げられた。

トランプが、オマルも属する「ソマリア人コミュニティ」が数十億ドルもの税金を「略奪した」と非難すると、オマルは「彼は嘘つきだ」と叫んだ。

オマルが「彼は嘘つきだ」と叫んだのも聞こえた。

(4)最高裁への怒りは小さいものとなった(Supreme Court draws only a bit of ire

トランプ大統領は、先週、判事が自身の主要関税措置の多くを無効にした直後から、既に最高裁を批判していた。

大統領は特に、自身の意に反する判決を下した保守派判事3人に憤慨していた。この中には、自身が最初の任期中に任命したニール・ゴーサッチ判事とエイミー・コニー・バレット判事も含まれている。先週、トランプ大統領はこの判決は「彼らの家族にとって恥ずべきものだ」と述べた。

この発言は、ジョン・ロバーツ判事、エレナ・ケーガン判事、ブレット・カヴァノー判事、バレット判事の4名が出席した火曜日の夜、激しい対決の緊張を高めたように思われた。

トランプ大統領はこの判決を「残念」で「失望した」と述べたが、最高裁を完全に非難することはなかった。

(5)政治的には両党とも望むものを得た(Politically, both parties got what they wanted

現代において、一般教書演説はかつてほど重要ではなくなった。
つい最近まで、この年次演説はアメリカ大統領が国民に率直に語りかける稀有な機会と見られていた。しかし最近では、トランプ大統領はソーシャルメディアで一日に何度も国民に語りかけている。

それでも、この演説はテレビで多くの視聴者を獲得している。

共和党は、移民やトランスジェンダーの権利といった重要な問題でトランプ大統領が対比を描いたこと、そして他の全てをかき消してしまうような大規模な論争を巻き起こさなかったことに概ね満足していると思われる。

民主党は、少なくとも11月には連邦下院の過半数を奪取できると期待している政治情勢において、トランプ大統領が何ら変化をもたらしたとは考えていない。

ヴァージニア州知事アビゲイル・スパンバーガー(民主党)は、党の立場から反論し、3つの質問を中心に論点を整理した。

「大統領はあなたとあなたの家族の生活費を安くするために尽力しているか? 大統領は国内外でアメリカ国民の安全を守るために尽力しているか? 大統領はあなたのために働いているか?」と彼女は修辞的に質問した。

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トランプ大統領の一般教書演説の注目すべき5つの瞬間(5 stand-out moments from Trump’s State of the Union address

ジュリア・ミュラー、サラ・デイヴィス筆

2026年2月25日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5754028-trump-state-of-the-union-memorable-moments/

ドナルド・トランプ大統領は火曜日、連邦議会で記録的な長さの演説を行い、「アメリカの黄金時代(golden age of America)」というヴィジョンを掲げ、政権の成果を誇示するとともに、支持率の低迷と経済への不満を抱えながらも、ライヴァルである民主党を攻撃した。

大統領は、共和党所属の連邦議員たちからのスタンディングオベーションや民主党所属の議員たちへの非難を含む、多岐にわたる演説の中で、この国は「かつてないほど大きく、より良く、より豊かに、より強くなった(bigger, better, richer and stronger than ever before)」と宣言した。

多くの民主党議員が演説をボイコットし、トランプ大統領への抗議として反対集会に参加した一方で、多くの党員は大統領の演説中、終始沈黙を貫いた。テキサス州選出の民主党議員1人が議場から退場させられ、共和党議員のスタンディングオベーションを理由に大統領に野次を飛ばした議員もいた。

1時間48分のプログラムは、トランプ大統領が昨年、連邦上下両院合同会議で行った100分間の演説(厳密には一般教書演説ではない)よりも長く、クリントン元大統領が保持していた一般教書演説(SOTU)の記録を破った。

(1)物議を醸す中でトランプ大統領は男子アイスホッケー米代表ティームを歓迎(Trump welcomes U.S. men’s hockey team amid controversy

演説開始直後、トランプ大統領は、オリンピックで金メダルを獲得したアメリカ男子アイスホッケーティームを議場に迎えた。選手と大統領の電話通話を捉えた動画が拡散し、物議を醸している中、彼らの発言は大きな話題となった。

「今夜、ここにいるのは、アメリカ全土を誇らしくさせた勝者たち、オリンピックで金メダルを獲得した男子アイスホッケーティームだ」とトランプ大統領は述べ、ティームを連邦議場上部の記者席に案内すると、拍手と「USA」コールが沸き起こった。

トランプ大統領とアイスホッケー選手たちは、ロッカールームでの電話の映像で批判を浴びた。その映像では、大統領が男子アイスホッケーティームに対し、女子アイスホッケーティームをホワイトハウスに「招待しなければならない」、さもなければ「おそらく弾劾されるだろう」と告げていた。

トランプ大統領は演説の中で、日曜日の金メダル決定戦における男子アイスホッケーティームの勝利を称賛したが、その後、議会演説への出席を辞退した女子アイスホッケーティームをあえて批判した。

「彼女たちは、誰もが見ていたように、延長戦で素晴らしいカナダチームを破った。間もなくホワイトハウスにやってくるアメリカの女子アイスホッケーティームも同様だ」とトランプ大統領は述べた。

トランプ大統領はまた、2028年にロサンゼルスで開催される「夏季」アイスホッケーにも言及し、同市での移民取り締まり強化に言及し、「安全な大会になるだろう」と述べた。大統領は長らくカリフォルニア州を批判し、移民法執行やその他の取り組みをめぐって同州民主党指導部と対立してきたが、オリンピックはアメリカ本土で開催されると繰り返し主張してきた。

(2)トランプ大統領は複数の勲章を授与(Trump hands out several medals

トランプ大統領は演説中に招待客に複数の勲章を授与し、自身も名誉勲章を受章することに引き続き意欲を示していると述べた。

トランプ大統領は、アメリカ男子アイスホッケーのゴールキーパー、コナー・ヘレビュックに「我が国における最高の民間人栄誉」である大統領自由勲章を近日中に授与する計画を発表した。ケイティ・レデッキーやマイケル・ジョーダンなど、他のオリンピック選手もこの勲章を受章している。

今秋、ホワイトハウスから数ブロック離れた場所で銃撃を受けた州兵2名に、戦闘で負傷または死亡した軍人に与えられる名誉ある軍の勲章パープルハート勲章が授与された。

アンドリュー・ウルフ二等軍曹はトランプ大統領の演説中に勲章を授与され、事件後に銃撃で死亡した州兵サラ・ベックストロムさんの両親も娘に代わって勲章を受け取った。

また、トランプ大統領は軍の最高勲章である名誉勲章を授与した。

メラニア夫人は、トランプ大統領が「生ける伝説(living legend)」と呼んだ100歳の元海軍戦闘機パイロットのロイス・ウィリアムズ大尉に名誉勲章を授与した。また、軍当局者は、ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ大統領逮捕に向けた1月の軍事作戦を指揮したエリック・スロバー准尉に名誉勲章を授与した。

昨年、テキサス州で発生した壊滅的な洪水の際にキャンプ・ミスティックで164人の少女を救助した沿岸警備隊の水泳選手スコット・ラスカンには、レジオンド・オブ・メリット勲章が授与された。

(3)トランプ大統領、最高裁の関税判決を「残念」と批判(Trump pans ‘unfortunate’ Supreme Court tariffs ruling

最高裁判所判事たちが傍聴席にいたトランプ大統領は、先週、自身が課した広範な関税措置の大部分を無効とする最高裁の「残念な」決定を嘆いた。

「わずか4日前、連邦最高裁判所から残念な判決が下された」とトランプは述べた。判事たちは両手を膝に当てまっすぐ前を見つめていた。

最高裁は先週、6対3の票決で、政権が第二期の目玉として掲げてきた国際経済戦略を無効にする判決を下した。トランプは国際緊急経済権限法(IEPA)を発動して関税を課そうとした初の大統領だが、判事たちは、国際緊急経済権限法はトランプにその権限を与えていないと判断した。

最高裁のジョン・ロバーツ長官に加え、エレナ・ケーガン判事、ブレット・カヴァノー判事、エイミー・コニー・バレット判事も同席した。カヴァノー判事は、関税問題に関する最高裁の反対意見に賛同した唯一の判事だった。

政権は現在、その看板となる経済政策を継続するため、他の代替的な権限に目を向けている。先週金曜日、トランプは別の緊急条項である1974年通商法に基づき、新たに10%の世界的な関税を課すと発表した。彼は後に、計画されていた輸入税を15%に引き上げた。

「少し複雑ではあるが、実際にはおそらくより優れたものであり、これまでよりもさらに強力な解決策につながるだろう」とトランプ大統領は火曜日、これらの代替権限について述べた。

「連邦議会の措置は必要ないだろう」とトランプ大統領は続けた。「すでに議論の的となっているが、時が経てば、外国が負担する関税が、過去と同様に、現代の所得税制度に実質的に取って代わり、私の愛する人々から大きな経済的負担が軽減されるだろうと信じている」。

(4)民主党議員たちがトランプ大統領に野次を飛ばし、グリーン議員は2年連続で議場から退場させられた(Democrats heckle Trump; Green escorted out for second year

演説中、数名の民主党議員が大統領に野次を飛ばしたが、過去の激しい対立―バイデン前大統領が前回の一般教書演説で当時のマージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員(ルイジアナ州選出、共和党)と対立した時のような―、に比べると、やり取りは比較的穏やかだった。

トランプ大統領が不法移民と国境問題について話している間、ラシダ・タリブ連邦下院議員(ミシガン州選出、民主党)はトランプ大統領に向かって「あなたたちはアメリカ人を殺している」と怒鳴りつけた。イルハン・オマル連邦下院議員(ミネソタ州選出、民主党)は「あなたたちはアメリカ人を殺した」と叫んだ。

他の民主党議員もトランプ大統領を野次った。ノーマ・トレス連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)は、今冬ミネソタ州で入国管理官に殺害された2人のアメリカ人アレックス・プレッティとレニー・グッドの写真が印刷された両面プラカードを掲げた。

大統領の演説冒頭、アル・グリーン連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)は2年連続で連邦下院議場から退場させられた。

グリーン議員は「黒人は類人猿じゃない!(BLACK PEOPLE AREN’T APES!)」と書かれたプラカードを掲げた後、退場させられた。大統領が共有した、AIで加工された、現在は削除された動画への言及として、黒のマーカーで殴り書きされた。その動画には、オバマ前大統領とミシェル前大統領夫人の顔が猿の体に映し出されていた。

グリーン議員は連邦下院議場を去る際にザ・ヒル誌に、「これは大統領と大統領夫人だけでなく、黒人である私への侮辱だ。・・・私は彼に、誰かが彼に面と向かってそう言う勇気を持っていることを知って欲しかった。そして、私はそうした」と語った。彼は、自身の解任は「驚きではない」と述べた。

昨年、テキサス州選出のグリーン下院議員は、大統領の演説中に野次を飛ばした後、議場から強制的に退場させられた。その後、連邦下院の採決で「適切な行動規範違反(breach in proper conduct)」として非難された。

大統領に野次を飛ばしたり、あからさまに抗議したりしなかった民主党議員でさえ、共和党議員が何度か立ち上がって大統領に拍手喝采する中、着席したまま異議を唱えた。

「立ち上がらないなんて、恥じるべきだ。自分たちを恥じるべきだ」と、トランプは国土安全保障省の一部閉鎖を受けて、予算措置を求めた際に、着席したままの民主党議員たちに語りかけた。

「見て見ろ、誰も立ち上がらない。この連中は狂っている。本当にそうだと言いたい」とトランプは別の場面で述べた。

しかしながら、トランプ大統領が国民に「いかなる種類の政治的暴力も完全に拒否する」よう呼びかけた時や、ハマスに拘束されていた最後の人質の帰還における政権の成功などを誇示した時には、民主党議員たちは立ち上がって拍手を送った。

(5)議員の株式取引禁止を求める声が上がる状況でトランプ大統領はペロシ元連邦下院議長を批判(Trump jabs at Pelosi amid push to ban lawmaker stock trades

トランプ大統領は、議員の株式取引禁止を支持したナンシー・ペロシ連邦下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)を批判した。

「株価上昇の恩恵を全てのアメリカ国民が享受できるようにすると同時に、連邦議員がインサイダー情報を利用して不正な利益を得ることができないようにしなければならない」とトランプ大統領は述べた。

民主、共和両党の議員が拍手し、トランプ大統領は一部の民主党議員が立ち上がったことに驚きを隠せない様子で述べた。

「信じられないことだ。ナンシー・ペロシ議員がここにいて、立ち上がった?」とトランプ大統領は質問した。

20期連続で連邦下院議員を務めているペロシは、夫の株式取引の成功をめぐって批判に晒されて、かつては株式取引禁止を支持しなかったことで批判を浴びたが、後に方針を転換した。カリフォルニア州選出の民主党所属の連邦下院議員である彼女は、自身は株式を保有していないことを強調し、昨年は議員とその配偶者に対する別途の株式取引禁止法案を支持した。

連邦議会は長年、議員による株式取引の禁止を目指してきたが、提案はなかなか実現しなかった。トランプ大統領は、共和党主導の「インサイダー取引禁止法案(Stop Insider Trading Act)」を「遅滞なく(without delay)」可決するよう議員たちに求めた。

ペロシ議員とトランプ大統領は、トランプ大統領の最初の任期以来、特に連邦議会での演説の際に確執を続けてきた。

当時下院議長だったペロシ議長は、2020年の一般教書演説の最後に、トランプ大統領が用意した演説原稿を破り捨てた。彼女は、火曜日のトランプ大統領の演説に先立ち、別の原稿を破り捨てている画像をソーシャルメディアに投稿した。

当時連邦下院議長だったペロシは、2020年の一般教書演説の最後に、トランプ大統領が用意した演説原稿を破り捨てた。彼女は、火曜日のトランプ大統領の演説に先立ち、今回の演説の原稿を破り捨てている画像をソーシャルメディアに投稿した。

ペロシ元議長は11月、トランプ大統領を「地球上で最悪の存在(the worst thing on the face of the earth)」と呼び、現連邦下院議長マイク・ジョンソン(ルイジアナ州選出、共和党)への影響力によって事実上「連邦下院を廃止した(abolished the House of Representatives)」と非難した。

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ドナルド・トランプ大統領の一般教書演説は民主党との衝突が支配した(Clashes with Democrats dominate Trump’s State of the Union

マイク・リリス筆

2026年2月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/house/5754005-trump-state-of-the-union-democrats-clashes/

ドナルド・トランプ大統領は火曜日の夜、連邦議事堂に突入し、政権復帰1年目の成果を称賛し、民主党を無能なライヴァルと痛烈に批判し、11月の中間選挙では共和党が連邦議会の支配権を維持するべきだと主張した。

この長時間にわたる一般教書演説は、約1年前に同じ議場で行った演説に見られた特徴的な闘争心に満ちていた。そして、長年トランプをアメリカの民主政治体制の実験に対する脅威とみなしてきた民主党議員たちからの同様の露骨な抗議を引き起こした。

黒人議員連盟の重鎮であるアル・グリーン連邦下院議員(テキサス州選出、民主党)は、今回も群衆から際立った存在だった。昨年3月、グリーン議員は議場から立ち上がり、杖を演壇に突きつけながら大統領に野次を飛ばしたため、議場から退場させられ、最終的には譴責処分を受けた。

今年のグリーン議員は、以前より物静かだったものの、以前ほど遠慮はなくなった。トランプを人種差別主義者だと非難する手書きのプラカードを掲げていた。「黒人は類人猿じゃない」と書かれていた。これは、トランプが最近ソーシャルメディアで、バラク・オバマ前大統領とミシェル夫人を猿に見立てた加工動画を宣伝したこと(現在は削除されている)への言及だった。この動画は両党の議員たちから反発を招いた。

グリーン議員の沈黙のデモは、おそらく、連邦下院少数党(民主党)院内総務のハキーム・ジェフリーズ連邦議員(ニューヨーク州選出、民主党)が、議場内では静かに抗議するよう民主党議員に要請したことへの敬意を表したものだったのだろうが、座席を確保することはできなかった。演説開始からわずか数分後、議場警備隊員がグリーン議員を議場から連れ出した。これは年に一度の恒例の行進となった。

通路を歩いていて退場する途中、保守的なトランプの熱烈な支持者であるトロイ・ネルズ連邦下院議員(テキサス州選出、共和党)がプラカードを奪おうとした。

その後、グリーン議員は堆積させられる覚悟はしていたが、演説を見るよりもメッセージを伝えることの方が重要だと主張した。

グリーン議員は次のように述べた。「トランプ大統領は黒人、それも二人の著名な黒人、(元)大統領とファーストレディを類人猿のように描写してきた。これを見過ごすことはできない。あまりにも長い間、私たちは彼の卑劣な行為を許してきた。なぜなら、彼はまた別の卑劣な行為に手を染めるからだ。私はこれを見逃すことはできない」。

この出来事はあっという間に終わったが、その後の長時間にわたる一般教書演説の基調を決定づけることになった。演説では、トランプ大統領が民主党を攻撃し、民主党もそれに応じ、連邦議会とアメリカ国家を分断する党派間の分極化(the partisan polarization that divides Congress and the country)、特にトランプ政権下で顕著な分極化を鏡のように映し出していた。

人種、犯罪、移民がしばしば論争の的となった。

トランプ大統領の演説は、国土安全保障省(DHS)の歳出をめぐる行き詰まりの最中に行われた。ミネアポリスで連邦移民局職員による銃撃で2人のアメリカ市民が死亡した事件をきっかけに、国土安全保障省は部分的な閉鎖に追い込まれた。そして、これらの悲劇は、火曜日の夜に起きた数々の記憶に残る衝突の背景となった。

ある場面でトランプ大統領は議場においてこう問いかけた。「この発言に賛同される方は、立ち上がって支持を表明して欲しい。アメリカ政府の第一の義務は不法移民ではなく、アメリカ市民を守ることだ(If you agree with this statement, stand up and show your support — the first duty of the American government is to protect American citizens, not illegal aliens)」。

共和党議員は長い拍手で立ち上がったが、民主党議員はほぼ全員が冷静に座ったままだった。トランプ大統領はこの違いに気づいた。

「立ち上がらないことを恥じるべきだ」と民主党議員に語りかけた。

「あなた方はアメリカ国民を殺した」とミネアポリス選出のイルハン・オマル連邦下院議員(ミネソタ州選出、民主党)は叫び声を上げた。「恥じるべきだ」と叫んだ。

ノーマ・トレス下院議員(カリフォルニア州選出、民主党)も殺人事件を取り上げ、被害者のレニー・グッドとアレクサンダー・プレッティの顔を反対側に描いたプラカードを掲げた。

民主、共和両党は選挙のセキュリティと、より厳格な投票法の妥当性についても対立した。この問題は、トランプ大統領が、民主党がバイデン前大統領の勝利を確実にするために投票を「不正操作(rigging)」したと虚偽の非難をした2020年の選挙以降、特に顕著になっている。実際には、重大な不正投票の証拠はなかったが、それでもトランプは古い主張を増幅させ、11月の中間選挙は腐敗に汚染されるだろうと新たな警告を発し続けている。

トランプは「なぜ有権者IDを欲しがらない人がいるのか? 一つには、不正をしたいからだ」と問いかけた。

この非難は、ラシダ・トライブ連邦下院議員(ミシガン州選出、民主党)にとってあまりにも受け入れがたいものだった。彼女は、トランプがきっと自分のことを言っているに違いないと叫んだ。

その後、オマル、トライブ、トレス各議員は抗議のため全員退席した。

また、稀にだが超党派の合意が見られる場面もあった。演説開始からわずか数分後、トランプ大統領は、日曜日にイタリアで金メダルを獲得した米男子オリンピックホッケーティームのメンバー数名を二階にある記者席に招待し、ゴールキーパーのコナー・ヘレビュックに大統領自由勲章を授与すると発表した。

両党の議員たちは、長い間立ち上がって拍手を送った。

トランプ大統領が、軍たちの並外れた勇敢な行動に対し、様々な栄誉勲章を授与すると発表した時も、同様の結束の姿勢が見られた。

しかし、この演説は概ね、両党と国全体との間の激しい分裂(stark divisions)を浮き彫りにする結果となった。多くの民主党議員は異例なことだが演説を全面的にボイコットした。その中には、連邦下院少数党(民主党)院内幹事のキャサリン・クラーク連邦下院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)をはじめとする有力議員も含まれていた。ボイコットした議員の中には、トランプ大統領に聴衆を割きたくないと不満を抱くリベラル派が、対抗メッセージを発信する場として企画された、議場外で行われたライヴァルイヴェントに参加した人たちもいた。

もしトランプ大統領が空席に少しでも不快感を覚えていたとしても、彼はそれを表に出さなかった。むしろ、彼は民主党が、犯罪率の高さ、国境開放、そして猛烈なインフレという状態の国を作ったと激しく非難した。彼はこれらの問題術得てを、この1年で解決したと主張していた。

「民主党は我が国を破壊しようとしているが、間一髪でそれを阻止した」とトランプ大統領は述べた。

しかしながら、トランプの激しい口調は昨年の演説と同じだったとしても、政治の雰囲気は大きく異なり、大統領と共和党にとってはるかに有害なものだった。

当時、トランプ大統領はワシントンでの統一政府の公約と、わずか数カ月前の圧倒的な選挙勝利に支えられ、絶好調だった。この選挙は、アメリカ史上最も異例の政治的復活の一つとなった。

しかし、その後、政治の風向きは変わり、国内外でより困難な問題に直面している。不安定な経済(a volatile economy)、ウクライナとガザでの血なまぐさい紛争(bloody conflicts in Ukraine and Gaza)、最高裁による世界的な関税の否決()the recent defeat of his global tariffs at the hands of the Supreme Court、そしてミネアポリスでの銃撃事件を受けてあらゆる層の有権者から支持を失った移民政策(an immigration agenda that’s lost favor from voters of all stripes following the deadly shootings in Minneapolis)などだ。

民主党はこうした問題を使い、11月の投票で有権者が大統領とその与党に罰を与え、2027年には連邦下院の支配権を民主党に返すだろうと予測している。

ジェフリーズ氏は演説の直前に次のように述べた。「ドナルド・トランプ大統領の下での私たちの国歌の状態は完全なる惨事だ。そしてアメリカ国民はそれを知っている」。

(貼り付け終わり)
(終わり)



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