古村治彦です。

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体
中東情勢は、イスラエルとハマスとの間で停戦合意がなされても、不安定なままだ。これは、アメリカの中東政策の失策とも言えるが、中東地域が持つ複雑さも原因となっている。そうした中で、ロシアも中東情勢において、重要な役割を果たそうとしている。ロシアの場合は、イランとの親密な関係を維持していると同時に、イスラエルとも良好な関係を持っている。それは、イスラエル国内に多くのロシア系ユダヤ人たちを抱えているからだ。彼らはイスラエル国内で一大勢力となっており、ロシア語を話せることから、ロシアとも関係を保っている。
ロシアは非西洋の一員として、イランを支援しているが、イランとイスラエルとの間の紛争には介入していない。あくまで中立を保っている。イスラエルによるガザ地区の攻撃について、イスラエルを非難しているが、最終的な断絶には至っていない。イランは、中東地域内に、イスラエルとサウジアラビアという潜在的な敵対国、ライヴァル国を抱えている。中国の仲介によって、イランはサウジアラビアとの関係を改善した。そうなると、イスラエルに集中することができる。イスラエルは軍事面、そして、情報・諜報面において、イランを凌駕している。アメリカの軍事支援を受けており、イスラエルが有利な立場にあってもおかしくない。しかし、実際はそうではない。イスラエルは狭小な国土に少ない人口を支えるのが精一杯だ。アメリカの支援がなければ厳しい。現在のような強硬姿勢をいつまで続けられるのかは不透明だ。ロシアとしては自分たちを高く売るために、イスラエルが弱体となるのを待っているように見える。イスラエルが強硬な姿勢を取る極右勢力とアメリカのために沈んでしまうのを選ぶかどうかは注目される。それは、日本にも当てはまる構図だからだ。
(貼り付けはじめ)
ロシアが今回のイスラエル・イラン紛争に介入しない理由(Why Russia Is
Sitting Out This Round of the Israel-Iran Conflict)
-ウラジーミル・プーティン大統領はイランへの依存度を低下させつつあり、その中で、彼はイランの地域ライヴァル諸国との関係維持を目指している。
ディミタール・ベチェフ筆
『フォーリン・ポリシー』誌
2025年6月25日
https://foreignpolicy.com/2025/06/25/russia-putin-iran-israel-nuclear-diplomacy/
10年前、ロシアは中東で最高の時を持っているように見えた。しかし、現在の視点から見ると、その瞬間は紛れもなく一時的なものに過ぎない。モスクワは2024年12月にシリアのバシャール・アサド大統領の失脚を阻止するために介入することはなかった。これは多くの人々を驚かせた。現在、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、イスラエルとイランの対立において中立的な姿勢を装い、テヘランへの具体的な支援ではなく、和平仲介者(a peacemaker)としての役割を果たすことを申し出ている。
プーティン大統領のそうした決断は、弱さによってなされている。窮地に陥った時、ロシアにはパウア・ポリティックス(power politics)に介入する意志も能力もない。しかし、距離を置くという決断は、モスクワの相反する動機(Moscow’s conflicting motives)も反映している。ロシアの利益は、イランの敵対者たちや競争者たち(Iran’s adversaries and competitors)を含む地域のプレイヤーたちとの複雑な関係をうまく切り抜けることを求めている。
2022年のウクライナ侵攻後、ロシアはイランとの関係を劇的に改善させた。その動機は実利的なもので、モスクワはテヘランを、テヘランがモスクワを必要とするよりも。はるかに必要としていた。イランはロシアにシャヘド・ドローンと関連技術を提供し、ロシアはこれらを用いてウクライナの都市やインフラを攻撃した。また、イランは西側諸国の制裁を回避するための実証済みのノウハウを共有し、モスクワの石油タンカー船団「ゴースト・フリート(ghost fleet)」がイランの経験から学ぶことを可能にした。両国はまた、ユーラシア大陸を横断する南北貿易ルートを強化するため、鉄道と港湾インフラの強化にも着手した。
ロシアはテヘランとの関係から間接的な利益も得ている。イランによるハマスとヒズボラへの支援は、2023年10月7日のイスラエルへの攻撃と、それに続く地域紛争(regional conflict)への道を開いた。中東における暴力の激化は、ウクライナから国際社会の注目を逸らし、西側諸国と南半球の大部分の間に確執(bad blood between the West and large parts of the global south)を生み出し、重要な大統領選挙を前にアメリカの国内政治に緊張をもたらした。さらに、中東の不安定化は通常、原油価格の上昇を招くが、これはロシア連邦の財政にとって常に好材料となる。
しかし、ロシアはイランへの支援に報いる形で対応した。10月7日の直後、ロシアの対応は、本来であれば考えられなかったほど反イスラエル連合寄りになった。ハマスの代表団は10月下旬にモスクワに到着し、表向きはロシア国籍を持つ人質の解放交渉を行った。2024年1月には、フーシ派の代表団がロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官と会談した。また、アメリカの情報機関は、ロシアの軍事情報機関であるGRU(参謀本部情報総局)が、紅海を通過する西側諸国の船舶へのイエメン民兵による攻撃を支援しているとの報道を示唆している。
さらに重要なのは、プーティン大統領がイスラエルからの直接攻撃を受けたイランへの支持を表明したことだ。2024年8月にイスラエルの攻撃でハマスの指導者イスマイル・ハニヤが殺害された後、プーティン大統領は最高指導者アリー・ハメネイ師に接触し、自制を促した。そして今回とは異なり、プーティンはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に電話をかけなかった。その後、イスラエルがロシア・ウクライナ戦争で中立を装おうとしていた一方で、モスクワは2025年1月にテヘランと安全保障提携を締結した。
しかし、イランとイスラエルの最近の戦闘に対するロシアの反応は、ロシアとテヘランの友好関係が決して「無制限(no limits)」な類のものではなかったことを示している。第一に、両国の絆を裏付ける文書には、依然として漠然とした希望的観測に満ちた表現が散見される。テヘランとの安全保障パートナーシップに署名してから5カ月が経過したが、ロシアはイスラエルの戦闘機に対抗するための防空ミサイルシステム(air defense missile systems)といった、意味のある軍事支援(meaningful
military assistance)を一切提供していない。テヘランが2023年に購入した最新鋭のSu-35戦闘機はまだ移管されておらず、イランは1970年代に購入したアメリカ製の航空機に頼らざるを得ない状況にある。
モスクワの姿勢は、イランに対するより根深い、相反する反映している。確かに、プーティン大統領はイスラエルの攻撃を非難し、アメリカが自らの攻撃によって「世界を非常に危険な状況に陥らせている(bringing the world to a very dangerous point)」と非難している。そして、介入主義的な行動を断固として拒否してきたクレムリンにとって、テヘランの政権交代の可能性は真に憂慮すべき事態である。しかし一方で、2010年にモスクワが国連安全保障理事会によるイランへの制裁を支持したことからもわかるように、核保有国であるイランはロシアにとっても利益にならない。同盟国としてのテヘランの有用性も低下しつつある。何しろ、シャヘド・ドローンは現在、ジェットエンジンやスターリンク対応のナビゲーション・コンポーネントといった主要なアップグレイドが施された状態で、ロシアで製造されている。
ロシアがイスラエル・イラン戦争に事実上介入しないという決定は、近年のイランとの関係を考えると意外に思えるかもしれないが、これはこの地域におけるモスクワのこれまでの行動と合致する。2015年にロシアがシリアに介入して以来、ロシア軍と対空ミサイルは、イスラエルがヒズボラをはじめとするイランの代理勢力を攻撃する間、傍観してきた。2018年9月のイスラエル空襲で、ロシア機がラタキア上空で撃墜されたことは事実だが、これはアサド政権の防空システムが引き起こした事故だった。モスクワの政策は、シリアにおける新たな地位を活用し、トルコ、サウジアラビア、そして程度は低いもののイスラエルを含むイランのライヴァル諸国と交渉することだった。
クレムリンはシリアへの軍派遣という選択において、確かに賭けに出た。しかしその後、外交的に利益を得ようと、比較的バランスの取れたアプローチを練り上げた。モスクワは、イランとイスラエル、アサド大統領とシリア反体制派、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領とクルド労働者党(Kurdistan Workers’ Party、PKK)など、地域内のあらゆる利害関係者と交渉することで、地域間の対立を回避しようと努めてきた。戦時中のイランへの傾倒を経て、ロシアは今、この均衡(equilibrium)を取り戻そうとしている。
モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長線上にあるかのように描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。
しかし、こうした態度は、時に隠されながらも、しばしば非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して軍事力を行使し、既成事実を作り上げようとする姿勢を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければ、ロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。最後に、イスラエルに居住する大規模なロシア系移民の存在は、両国の間に強い絆を生み出している。
最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦からは約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。
モスクワがテヘランに対して相反する感情を抱いているとすれば、ロシアの指導部と社会全体はイスラエルに対して愛憎入り混じった関係にあると言えるだろう。モスクワから発信されるプロパガンダは、イスラエルをアメリカの覇権の延長(an extension of the U.S. hegemony)として描くことが多い。さらに、反ユダヤ主義(antisemitism)は東欧全域、そしてもちろんロシアにおいても、歴史と社会に深く根付いている。
しかし、こうした態度は、時に隠され、時に非常に明白な、根深いイスラエル愛と共存している。多くのロシア人は、イスラエルの強硬な外交政策と、国際的な非難を無視して既成事実を作り上げるために軍事力を行使する傾向を称賛している。テレグラム上のロシアの超国家主義者たちは、イスラエルの軍事力を称賛し、腐敗したエリート層がいなければロシアも同等の力を発揮できたはずだと主張している。さらに、イスラエルに多数のロシア系移民が存在することが、両国の間に強い絆を生み出しているとも主張している。
最近、プーティン大統領は「旧ソ連とロシア連邦出身の約200万人がイスラエルに移り住んでいる。今日、イスラエルはほぼロシア語圏の国だ」と宣言した。このレトリックは誇張かもしれないが、その感情は実際的でもある。
ロシアの行動は、結局のところ、中東における自らの影響力の限界を反映している。ワシントンを羨ましがるロシアだが、地域秩序の要としてアメリカに取って代わる立場にはない。また、地域諸国ほどリスクを負うことも決してないだろう。ロシアの最優先事項は、ウクライナを従属させ、旧ソ連圏における優位性を維持することにある。そのため、ロシアは中東において機会主義的(opportunistic)であると同時に、ある程度リスク回避的(risk averse)でもある。
結果として、ロシアはイスラエルを含む全ての地域プレイヤーと引き続きビジネスを行うだろう。イラン指導部はこのことを痛感している。
※ディミタール・ベチェフ:オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ・ヨーロッパ研究センター・ダーレンドルフ・プログラム部長。著書に『ライヴァル勢力:南東ヨーロッパにおけるロシア(Rival Power: Russia in Southeast Europe)』(イェール大学出版局、2017年)がある。
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(終わり)
『人類を不幸にした諸悪の根源 ローマ・カトリックと悪の帝国イギリス』
『トランプの電撃作戦』
『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』









