古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中東政治

 古村治彦です。

 昨年10月から始まった、イスラエル・ハマス紛争は8カ月を経過し、終息の兆しを見せていない。イスラエルは、ハマスの殲滅と人質奪還のために、ガザ地区での軍事作戦を遂行中であるが、パレスティナの民間人の犠牲者が3万7000人を超え、停戦に向けての国際的な圧力が高まっている。

 昨年のハマスの攻撃から、イスラエルでは中道派も入っての戦時内閣が形成され、紛争へ対処してきた。中道派野党「国民の団結」から、代表のベニー・ガンツ前国防相が閣僚として、ガディ・アイゼンコット元参謀総長がオブザーバーとして、入閣した。残りの4名はベンヤミン・ネタニヤフ首相率いる与党リクードのメンバーである。ガンツとアイゼンコットは、イスラエル国防軍の参謀総長経験者である。国家団結が内閣から離脱ということで、挙国体制の戦時内閣が形成できないことから、戦時内閣の解散ということになった。ネタニヤフ内閣自体は、右派、極右派の連立政権となっている。
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 ガンツは、ネタニヤフ内閣には、ガザにおける戦争戦略の欠如を指摘し、「真の勝利に向けて前進させる」ことを阻害しているとしてネタニヤフを非難した。そして、速やかなクネセト(議会)選挙の実施を求めた。これは、イスラエル国内の、戦争に対する不満や、ネタニヤフ首相の腐敗に対する反感を反映したものだ。

 ネタニヤフ首相は、自身がスキャンダルを抱える身であり、戦争が終了する、選挙に負けるということになれば、逮捕・訴追を受ける可能性が高い。そうした面からも、戦争が継続することは彼個人にとって利益となる。国際社会は、事態のエスカレーションを望んでいない。イスラエルを手厚く支援しているアメリカも停戦を求めている。そうした中で、ネタニヤフは、極右派に更に依存し、戦争を進めていくことになる。

ガンツは、今年5月にレバノン国境の安全について発言している。イスラエルはガザ地区でのハマスの掃討作戦を行い、北部のレバノン国境では、ヒズボラとの戦いを続けている。ハマスもヒズボラもイランからの支援を受けているが、ヒズボラの方が武器のレヴェルが高く、かつ、練度も高い。イスラエルは両組織よりも軍事力としては圧倒的に上であるが、二正面作戦を長期間にわたって継続することで、イスラエル国内では、経済的、社会的な損失を被ることになる。
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 イスラエル・ハマス紛争については、やはりアメリカが圧力を強めての停戦、人道支援の実現ということが重要だ。中道派離脱による戦時内閣の解散は、イスラエルの戦争継続に影響を与えることになるだろう。アメリカとイスラエルは、何が自分たちの国益に適うことなのかを冷静に計算し、判断するべき時に来ている。

(貼り付けはじめ)

●「イスラエル首相、戦時内閣を解散 主要閣僚辞任で「必要性なくなった」と」

2024618日 BBC NEWS Japan

https://www.bbc.com/japanese/articles/cnllv42qn9zo

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は16日、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラム武装組織ハマスとの戦闘を指揮するために昨年10月に発足させた戦時内閣を解散した。中道派のベニー・ガンツ前国防相とその盟友のガディ・アイゼンコット元参謀総長が、6人からなる戦時内閣を辞任したことを受けてのもの。

政府報道官は17日、ガザでのハマスとの戦闘については既存の安全保障内閣と、それより大規模な内閣全体で決定していくと説明した。

ガンツ前国防相が9日に、ガザにおける戦争戦略の欠如を理由に戦時閣僚ポストを辞任して以降、政権閣僚を務める複数の極右政党幹部が後任として戦時内閣入りすることを求めていた。

戦時内閣を解散することでネタニヤフ首相は、連立政権に参加する極右政党や同盟国とのやっかいな状況を避けることになる。

イスラエル国防軍(IDF)の報道官は、指揮系統への影響はないとしている。

ガンツ氏とアイゼンコット氏はいずれもIDFの参謀長を務めた退役将軍。2人は昨年10月の開戦から数日後、ネタニヤフ氏率いる右派連合との挙国一致政府に加わった。

ガンツ氏は辞任の際、ネタニヤフ氏が「我々が真の勝利へ近づくことを妨げている」と述べた。

ガンツ氏の辞任発表直後、極右政党を率いるイタマル・ベン=グヴィル国家安全保障相は、自分を戦時内閣に参加させるよう要求した。

■ガンツ前国防相辞任で戦時内閣「必要なくなった」

ネタニヤフ氏は16日夜、新たなメンバーを迎え入れるのではなく、戦時内閣を解散することに決めたと閣僚に伝えた。

首相は「戦時内閣はベニー・ガンツの要請による連立協定にもとづいたものだった。ガンツが同内閣を去った今、この政府の追加部局はもう必要ない」と述べたと、ダヴド・メンサー政府報道官は17日の定例会見で述べた。

また、「安全保障内閣は、内閣全体とともに、決定を下す権限を国から与えられている」と付け加えた。

イスラエル紙ハアレツは、これまで戦争内閣が議題にしてきた問題のいくつかは、安全保障内閣が担当することになるだろうと報じた。同内閣はベン=グヴィル氏や極右のベザレル・スモトリッチ財務相ら14人で構成される。

同紙によると、センシティブな決定は「より小規模な協議の場」で扱われることになる。そこにはヨアヴ・ガラント国防相やロン・デルメル戦略担当相、超正統派政党シャス党のアリエ・デリ党首が含まれる見込み。この3人は戦時内閣に名を連ねていた。

IDFの作戦に影響なしと、政府と対立も

IDFのダニエル・ハガリ報道官は17日、このような動きがIDFの作戦に影響を与えることはないと主張した。

「閣僚が交代し、方法が変更される。我々には階層というものがあり、指揮系統を知っている。我々は指揮系統に従って動いている。これは民主主義だ」

ハマスは昨年107日、イスラエル南部に前代未聞の攻撃を仕掛けた。これを受け、IDFはハマス壊滅を掲げてガザでの作戦を開始した。ハマス運営のガザ保健省は、同地区で37340人以上が死亡したとしている。

イスラエル政府内ではこの1日の間に、緊張が増している様子。IDFはガザへの人道支援物資の搬送を増やすため、ガザ南部ラファ近郊で日中の「軍事活動の戦術的一時停止」を導入する決定を下したが、ネタニヤフ氏と極右閣僚たちはこれを批判した。

この軍事活動の一時停止は、ラファの南東にあるイスラエル支配下のケレム・シャローム検問所から支援物資を集め、ガザを南北に走る主要ルートまで安全に輸送できるようにするもの。イスラエルが先月にラファでの作戦を開始して以降、同検問所で物資が滞留している。

しかし、ベン=グヴィル氏はこれは愚かな方針だと批判。ネタニヤフ氏は、「我々は軍隊を持つ国であって、国を持つ軍隊ではない」と述べたと、イスラエルメディアは報じた。

IDFは人道支援が確実にガザに届くよう、政治指導者たちの命令を遂行したとしている。

また、活動の一時停止はガザ南部での戦闘停止を意味するものではないとしており、現地では何が起きているのか混乱が生じている。

ガザで最大の人道支援組織、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は、17日時点もラファや南部の他地区で戦闘が続き、「作戦上はまだ何も変わっていない」と報告している。

こうした中、IDFは部隊が「ラファで、情報に基づいて標的を絞った作戦を続けている」とした。また、ラファのタル・アルスルタン地区では複数の武器を発見したほか、爆発物が仕掛けられた建造物を攻撃し、「数人のテロリスト」を排除したという。

UNRWA推計では、ラファには今も65000人が避難している。ハマス戦闘員の根絶とパレスチナの武将集団が使用するインフラ解体のため「限定的な」作戦とIDFが呼ぶものを開始する以前は、この街には140万人が避難していた。

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ガザ紛争戦時内閣の解散でイスラエルの分極化が進む(Israel grows more polarized as Gaza wartime Cabinet dissolves

ブラッド・ドレス筆

2024年6月19日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/defense/4728638-gaza-war-israel-cabinet/

今週の戦時内閣(wartime Cabinet)の正式な消滅は、ガザでの紛争をめぐってイスラエルがいかに分極化(polarized)しているかを明らかにし、かつては団結していた連合が現在、紛争の方向性(conflict’s direction)、人質の返還(return of hostages)、増大するヒズボラの脅威(growing threat from Hezbollah)をめぐって争っている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる内閣から、野党指導者ベニー・ガンツが退いたことで、イスラエルの指導者であるネタニヤフ首相は、極右政党の同盟者たちへの依存度を高めることになる。それによって、人質解放と停戦(cease-fire)に向けた合意形成に向けた取り組みが複雑になる可能性がある。

世界的な防衛情報会社「モザイク(MOSAIC)」社の最高経営責任者(CEO)であるトニー・シエナは、ガンツの「穏健な影響力(moderating influence)」がなければ停戦と人質解放の合意形成の可能性は低いと述べ、ネタニヤフ首相がガザ地区で積極的な行動に出る可能性が更に高まるかもしれないと付け加えた。

シエナは、ネタニヤフ首相の同盟者であるベザレル・スモトリッチ財務相とイタマル・ベン=グヴィル国家安全保障相の名前を挙げている。彼らは、最近、ガザへの人道支援を促進するためにイスラエル軍が日中に戦術的一時停止を行っていることに抗議した。

シエナは次のように語った。「彼らが一時停止を批判したという事実は、ネタニヤフ首相が、より大胆になることで、この状況が今後どうなるかを示している。それは彼に自分の力を再確認する機会を与える」。

ガザ地区には、約120人のイスラエル人の人質が残っているが、何人が生存し、ハマスに拘束されているのかは不明だ。

イスラエルは、数千人のハマスの戦闘員を殺害したと主張しているが、過激派組織ハマスは、イスラエルが以前に掃討した地域で再び勢力を拡大し続けている。イスラエル軍がガザ地区南部の都市ラファで最後に残ったハマスの各大隊と交戦しており、紛争は、ほぼ9カ月を経て、変曲点(inflection point)に達しつつある。しかしイスラエル政府高官たちは、紛争は今年いっぱい続く可能性があると述べている。

イスラエルでは戦争に対する不満が高まっており、イェルサレムにあるネタニヤフ首相の自宅近くで、月曜日の夜にデモが行われ、抗議活動参加者たちが大挙して不満を表明した。

不満を抱いたイスラエルの抗議活動参加者たちは再選挙を要求しており、ガンツとその同盟者たちもこれを推進している。しかしネタニヤフ首相は、それは戦争から注意を逸らす行為(distraction from the war)に過ぎないと言って、これらの呼びかけを拒否した。

大西洋評議会のミレニアムフェローであるアルプ・セビムリソイは、有権者が戦争に対処するための代替案を模索しているため、イスラエルでは「選挙が迫っている(election is looming)」と述べた。

セビムリソイは、「ベニー・ガンツや他の多くの人が戦争全般を支持しているとしても、少なくとも言論を通じて、戦争に向けた代替ロードマップの準備を始めたいという願望は多くの人にある」と述べた。

ガザ地区が更なる人道危機に陥る中、イスラエルは、国際的に、戦争を終わらせるよう求める更なる圧力に直面している。ガザでは3万7000人以上が死亡し、パレスティナ人は食料や水などの基本的必需品にアクセスできない。

ガザ戦争に関して、イスラエルに対する大量虐殺の告発を審理している国連の最高裁判所である国際司法裁判所(International Court of Justice)は、イスラエルに対しラファでの攻撃を停止するよう求めた。そして、独立の国際刑事裁判所は、ガザ紛争に関連した戦争犯罪の容疑で、ネタニヤフ首相とイスラエル国防相ヨアヴ・ガラント、ハマスの幹部らに対する逮捕状を発行した。

戦時内閣では、ガンツ、ネタニヤフ、ガラントの3人のメンバーの間に団結が投影されていた。 

また、ネタニヤフ首相とガンツのような対立する人物たちは、ガザ地区での紛争や、イランの支援を受けた過激派・政治組織ヒズボラがイスラエルにロケット弾や大砲を撃ち続けるレバノンとの国境での紛争をめぐり、意思決定のバランスを取ることも可能にしていた。

アメリカ国家安全保障ユダヤ研究所のマイケル・マコフスキー所長兼最高経営責任者(CEO)は、戦時中の内閣の方が「国にとって良かった(better for the country)」と述べた。

マコフスキーは、「イスラエルの自然な分裂状態は、数カ月ぶりに再発しており、これは状況を更に悪化させる可能性が高い。彼らはガザにどのように対処するかについても解決する必要があるのでこれは不幸なことだ」と述べた。

ガンツが戦時中の政策プロセスに関与しなくなったことで、ネタニヤフ首相に対する政治的圧力はより強まる可能性が高い。

中東研究所のイスラエル担当上級研究員ニムロッド・ゴーレンは、内閣とともに危機感と団結の必要性が消滅しており、ガンツはネタニヤフ首相との連携で「本当にチャンスを与えたのだが、成功できなかった」と述べた。

ゴレンは、戦争への不満が高まる中、一部のイスラエル国民はネタニヤフ首相抜きの新たな指導部を求めるだろうと予想した。

ゴレンは、「人々は現状にうんざりしている。人質は戻ってこない。一般的に言って、より多くの兵士が殺されている。南部と北部の状況は何も変化がなく続いている。戦争は長引いており、戦略目標が何なのかは明らかではない」と述べた。

今月初めに、テレビ中継された辞任を表明する声明発表の中で、ガンツは「真の勝利に向けて前進させる」ことを阻害しているとしてネタニヤフを非難した。

今年5月、ガンツは、ネタニヤフが以下のことを実行しない場合には辞任すると記載した最後通告を発した。ガンツが突きつけた条件とは、レバノン国境にいる住む場所を奪われたイスラエル避難民の帰還、人質の解放とハマスの殲滅、サウジアラビアとの国交正常化の道筋をつけること、ガザ地区に政府を樹立することの諸計画を発表するというものだ。

ガンツと同様、ガラントもまた、ネタニヤフ首相のガザ戦後計画について公の場で懸念を表明し、ハマス壊滅への道筋をめぐって首相と激しく議論してきた。

ネタニヤフ首相は、イスラエルがガザ地区に関して、無期限で治安管理し(indefinite security control)、過激派組織ハマスとつながりのないパレスティナ人が沿岸部の領土を統治することを含む、戦後計画の曖昧な概要しか発表していない。

ヒズボラとの紛争に対処するイスラエルの苦闘は、より深い問題にもなりつつある。イスラエルは、レバノン国境での戦闘から逃れた約8万人のイスラエル人避難民の帰還を望んでいる。

ガラントは、ヒズボラの壊滅を主張しているが、アメリカや他の同盟諸国は外交を通じて緊張を和らげようとしており、イスラエルに対してエスカレーションさせないように警告している。ネタニヤフ首相は、2006年にイスラエルとヒズボラとの間で起こった、犠牲を伴う戦争の舞台となったレバノンを攻撃することに前向きではないようだ。

しかしガンツが内閣から退いたことで、ネタニヤフ首相はガラントや、ヒズボラとの全面戦争を望むスモトリッチ財務相やベン=グヴィル国家安全保障相のような極右の同盟者の攻撃を受けやすくなる可能性がある。

大西洋評議会のアルプ・セビムリソイは、ネタニヤフ首相は、レバノン問題で中道寄りにシフトしているとしながらも、イスラエルの指導者がヒズボラを含む未解決の「軍事的目標の多くに取り組む」ことを近いうちに期待すると付け加えた。

セビムリソイは、イスラエルは「前回の紛争で未解決だった問題の解決」を目指しているため、イスラエル国防軍に言及し、「レバノンへのイスラエル軍の対応が見られるだろう」と述べた。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエル・ハマス紛争は長期化している。イスラエルはハマスのせん滅と、2023年10月7日に連れ去られた人質の解放を目指している。ハマスはガザ地区での抵抗を続けて、民間人の犠牲者が増えている。ハマスはイスラエルの存在を認めておらず、パレスティナとの二国共存はそもそも彼らの中にはない。イスラエルの右派・強硬派にとっても、二国共存という選択肢は存在しない。二国共存の否定という点では、ベンヤミン・ネタニヤフ首相もハマスも奇妙な一致をしている。パレスティナ穏健派、イスラエル穏健派は二国共存で妥協しているので、いわば、両方の強硬派が暴れているということになる。

 アメリカのジョー・バイデン政権はイスラエルに対して厳しい姿勢を取りつつある。イスラエルに対して、と言うよりも、ベンヤミン・ネタニヤフ首相に対してという方がより正確だ。アメリカとしては、ガザ地区での報復攻撃を停止し、停戦させたい。しかし、イスラエルは攻撃を停止しようとしない。アメリカ国内では民主党支持が多い若者・学生たちが抗議活動を活発化させており、大統領選挙を控えるバイデン政権としては、イスラエルを抑えたいということになる。国外的にも、イスラエルに対する批判は高まっており、イスラエルを支援しているアメリカに対しても批判がなされている。

今回、紹介する、スティーヴン・M・ウォルトの論稿では、国際関係論のリアリストたちがイスラエルのガザ地区での攻撃に反対しており、その理由について述べている。リアリストたちは戦争の限界や国家の重要性を認識し、イスラエルの戦略は失敗すると結論づけている。イスラエルの行動とアメリカの関与はアメリカの世界的立場を弱め、ロシアや中国の利益を高めている。一方、アメリカは数十億ドルを支援し、他の重要な問題に時間やエネルギーを費やすべきだと指摘されている。

結果として、アメリカのリーダーシップは揺らぎ、中国やロシアの影響力が増している。リアリストは、現在の政策がアメリカの安全や価値観に反するものであり、安全をもたらすには紛争を政治的に解決する必要があると主張している。彼らは、戦略的利益と道徳的志向を同時に追求できる政策を求めており、アメリカとイスラエルが行っていることに疑問を投げかけている。

 アメリカは国益という観点から、戦後の冷戦期から長きにわたり、イスラエル支援を続けてきた。しかし、世界の構造は大転換を迎えつつある。世界の構造が変われば、アメリカの国益も変化する。イスラエル支援が、アメリカの国益に適うかどうか、ということがこれから重要になっていく。

(貼り付けはじめ)

リアリストたちはガザ地区での戦争に反対する理由(Why Realists Oppose the War in Gaza

-もし、あなたがリアリズムの姿勢に驚いているのなら、それはリアリズムを本当に理解していないからだ

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年5月21日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/21/why-realists-oppose-the-war-in-gaza/?tpcc=recirc062921

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イスラエル南部のガザ国境付近に陣取る部隊のあるイスラエル兵が、自走砲榴弾砲の砲身に頭を預ける(2023年10月9日)。

一見したところ、外交政策分野のリアリストたちは、イスラエルがガザ地区で行っていることなど、どうでもよいと思っているように見える。確かに人道的災害であり、大量虐殺の可能性もあるが、国際政治を行う上で残忍な行動がそれほど珍しいことだろうか? 中央的な権威のないこの世界では、政府は自分たちが得をし、誰もそれを止めないと考えれば、本気になって攻撃を行うということを、リアリストたちは真っ先に指摘するのではないだろうか? 真珠湾攻撃や911後のアメリカの対応、ウクライナでのロシアの動き、スーダンでの対立勢力の動きを考えてみれば、私の言っていることが理解できるだろう。

しかし、チャス・フリーマン、ジョン・ミアシャイマー、そして、僭越ながら私を含む著名な外交政策リアリストたちは、イスラエルのガザ地区での行動とイスラエルの行動を支持するバイデン政権の姿勢を強く批判している。世界政治に対する、硬派で感傷的でないアプローチの信奉者たちが、突然道徳(morality)について語るのは奇妙ではないか?

いや、そうではない。

こうした混乱の一部は、リアリズムについてのよくある誤解(common misconception)から生じている。つまり、リアリズムの支持者たちは、外交政策の遂行において倫理的考慮(ethical considerations)はほとんど、あるいは全く役割を果たすべきではないと考えている、という誤解である。これは馬鹿げた批判(silly charge)であり、リアリストたちの著書をざっと読むだけでも分かる。ハンス・J・モーゲンソーは、政治的効力(political efficacy)と道徳的原則(moral principles)の間の緊張関係を探求した本を1冊書き、「[政治の]道徳的問題は声を上げて答えを求めている(the moral issues [of politics] raise their voice and demand an answer)」と強調した。EH・カーは真のリアリストではなかったが、リアリストの古典的著作を一冊書き、政治生活から道徳的配慮を排除することはできないと明言した。ケネス・ウォルツの国際政治に関する著作のほとんど全ては、平和の問題と、それを強化または損なう条件や政策に焦点を当てており、彼は強力な国々が理想主義的な目的を追求するために悪行を犯す傾向(the tendency of powerful states to commit evil acts in the pursuit of idealistic objectives)を繰り返し批判した。そして、ジョージ・ケナン、ウォルター・リップマン、モーゲンソー、ウォルツなどの著名なリアリストたちや、彼らの知識人の後継者たちは、戦略的および道徳的見地から、アメリカが最近選択した戦争の多くに反対した。

全ての人間と同様、リアリズムが世界政治を考える上で役立つと考える私たちも道徳的信念を持っており、そうした原則がより一貫して守られる世界(a world where those principles were observed more consistently)に住みたいと願っている。実際、リアリストたちが国際政治の道徳的側面に関心を持つのは、国家やその他の政治グループがいかに簡単に不道徳な行為を犯すかを認識しているからだ。リアリストたちはガザ地区で起きていることに驚いていない。前述のように、他の多くの国も自国の重大な利益が危険に晒されていると感じたときに恐ろしい行為を行ってきた。しかし、だからといってリアリストたちがイスラエルとアメリカの行為を承認している訳ではない。

ガザ地区での戦争に対するリアリストたちの批判は、軍事力の限界とナショナリズムの重要性(the limits of military power and the importance of nationalism)を認識していることから生じている。彼らは、外国の侵略者たちが武力で他民族を支配・破壊しようとするときに、通常直面する困難を痛感している。だからこそ、イスラエルがガザ地区を爆撃・侵攻して、ハマス壊滅を図ろうとする試みは失敗する運命にあると結論づけたのだ。ハマスがイスラエルの猛攻撃を生き延びようとしていることは益々明らかであり、たとえ生き延びられなかったとしても、パレスティナ人たちが占領され、基本的な政治的権利が否定され、徐々に土地を奪われていく限り、新たな抵抗組織が出現するに違いない。

同様に重要なのは、リアリストたちがイスラエルの行動(およびそれに対するアメリカの共謀[U.S. complicity])に反対するのは、その組み合わせがアメリカの世界的立場を弱めているからだ。ガザ地区での戦争は、アメリカの「ルールに基づく秩序(rules-based order)」への関与が無意味であることを明らかにした。率直に言って、アメリカ政府高官たちがいまだに真顔でその言葉を口にできるとは信じがたい。最近の国連総会(U.N. General Assembly)でのパレスティナへの新たな「権利と特権(rights and privileges)」付与の投票は、賛成143、反対9、棄権25で可決されたが、これはアメリカの孤立(isolation)が深まっていることを如実に示している。停戦(cease-fire)を求める国連安全保障理事会(U.N. Security Council)の決議(resolution)に対するアメリカの度重なる拒否権(veto)も同様だ。国際刑事裁判所(International Criminal CourtICC)の最高検察官(top prosecutor)は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とヨアブ・ギャラント国防相に対し、戦争犯罪と人道に対する罪(war crimes and crimes against humanity)で逮捕状(arrest warrants)を請求した(ハマスの指導者ヤヒヤ・シンワル、イスマイル・ハニヤ、モハメド・ディアブ・イブラヒム・アル・マスリも対象となっている)。ワシントンは間違いなくこの措置を拒否するだろうが、これはワシントンが世界の多くの国々といかに足並みを揃えていないかを更に強調することになる。

各種世論調査では、アメリカの人気は中東で大幅に低下し、ヨーロッパでもわずかに低下している一方、中国、ロシア、イランへの支持が高まっていることも示されている。戦争開始か1カ月も経たないうちに、親イスラエルのワシントン近東政策研究所(Washington Institute for Near East Policy)の報告書では次のように書かれている。「ガザ地区での戦争により、アメリカは敵国に負けつつある。この戦争でアメリカがプラスの役割を果たしていると考えるアラブ人の割合はわずか7%で、ヨルダンなどの国では2%にまで低下している。対照的に、中国が紛争でプラスの役割を果たしていると考えるアラブ人の割合は、エジプトで46%、イラクで34%、ヨルダンで27%であった。加えて、この戦争でイランが大きな恩恵を受けているようだ。平均すると、イランが戦争にプラスの影響を与えたと答えた人の割合は40%であるのに対し、マイナスの影響を与えたと答えた人は21%である。エジプトやシリアなどの国では、イランがガザに良い影響を与えていると答えた人の割合はさらに高く、それぞれ50%と52%に達している。」

そして戦争は安くつくことはない。アメリカ連邦議会は、イスラエルがガザ地区を壊滅させるための数十億ドルの追加援助を承認した。また、私たちが支援している「同盟国(ally)」が人道支援(humanitarian aid)を届けるために救援団体にトラックを送らせてくれないため、アメリカが建設しなければならなかった浮桟橋のための3億2000万ドルもある。アメリカ軍はイエメンのフーシ派に対し、高価なミサイルや爆弾を使い果たしている。フーシ派はイスラエルがやっていることに抗議して、紅海やその周辺の船舶を恐怖に陥れ始めたのだ。私には分かっている。しかし、ガザ地区でパレスティナ人を殺すのを助ける代わりに、アメリカ人を助けるためにこのお金を使うのはいいことだ。今度、アメリカ連邦議会の予算タカ派が国内プログラムを削減しなければならないと言い出したら、彼らがイスラエルの戦争にどれだけ熱心にお金を出していたかを思い出して欲しい。

この戦争はまた、バイデン政権高官たちの膨大な時間、エネルギー、そして関心を浪費している。アントニー・ブリンケン国務長官とウィリアム・バーンズCIA長官は何度も現地に赴き、数え切れないほどの時間をこれらの問題に費やしてきた。ジョー・バイデン米大統領を含む他の高官たちも同様だ。アメリカの指導者たちがイスラエルとパレスティナのおよそ1500万の人々の間の紛争に費やしてきた時間は、他の重要な同盟国を訪問したり、ウクライナでより良い政策を考案したり、アジアで効果的な経済戦略を開発したり、気候変動に対処するために世界的な支援を集めたり、あるいははるかに重要な問題の数々に費やすことができなかった時間である。

勝者は誰だ? もちろんロシアと中国だ。世界中の多くの人々、特にグローバルサウスの多くの人々にとって、ガザ地区での大虐殺は、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席が繰り返し主張している、アメリカの世界的な「リーダーシップ(leadership)」は紛争と苦しみの種をまいており、力がより平等に分配される、多極秩序(multipolar order)の方が世界はより良くなるという主張を正当化するものだ。あなたはその主張に同意しないかもしれないが、何百万人もの人々が既に同意しており、私たちの現在の政策により、その主張ははるかに信憑性があるように見えてしまっている。一方、中国の指導者たちは、ネタニヤフから屈辱を受ける特権を得るためにイスラエルに飛んで時間を無駄にしてはいない。彼らは関係を修復し、経済関係を育み、ロシアとの「無制限の(no limits)」パートナーシップを強化することに忙殺されている。彼らは、ガザ地区での戦争が、アメリカにとって高くつく混乱になったことに、毎日感謝しているに違いない。

最後に、リアリストたちはイスラエルの行動に反対している。なぜなら、それがアメリカにまったく戦略的利益(strategic benefits)をもたらさないからだ。その価値は誇張されることもあったが、冷戦中はイスラエルが中東におけるソ連の影響に対する有効なチェック機能を果たしたともっともらしく主張できた。しかし、冷戦は30年以上前に終結しており、今日、イスラエルへの無条件の支援は、アメリカ人の安全を高めていない。イスラエル擁護者の中には、イスラエルがイランに対する強力な防壁であり、テロに対する貴重なパートナーであると主張する者もいる。彼らが言及していないのは、アメリカとイスラエルの関係が、アメリカがイランとの関係を悪化させている理由の1つであり、アルカイダのようなテロリスト勢力がアメリカを攻撃することを決めた理由の1つであるということだ。

明白な事実は、ガザ地区を爆撃して石器時代(Stone Age)に戻しても、アメリカ人はより安全になったり、より豊かになったりはしないということであり、それはアメリカ人が主張したい価値観とはまったく相容れない。むしろ、故オサマ・ビン・ラディンのような反米テロリストの新世代を刺激すれば、アメリカの安全はわずかに低下するかもしれない。また、この政策でイスラエルが安全になるものでもない。紛争を政治的に解決することだけが、安全をもたらすのである。

だからこそ、私のようなリアリストたちは、アメリカとイスラエルが現在行っていることに首をかしげるのだ。稀で素晴らしい状況では、国家は戦略的利益(strategic interests)と道徳的志向(moral preferences)を同時に促進する政策を追求できる。また別の場合には、両者のトレードオフに直面し、難しい選択を迫られる(通常は前者を優先する)。しかし今回の場合、アメリカは戦略的利益を積極的に損ない、罪のない人々の大量殺戮を支援している。その主な理由は、アメリカの指導者たちが紛争に関する時代遅れの見解にとらわれ、強力な利益団体に過度に従順であるためだ。良きリアリストにとっては、善良な目的なしに悪事を働くことは、最悪の罪業(sin)である。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 中東におけるキープレイヤーとしては、サウジアラビア、イラン、イスラエル、アメリカが挙げられる。これらの国々の関係が中東情勢に大きな影響を与える。アメリカは、イスラエルと中東諸国との間の国交正常化を仲介してきた。バーレーンやアラブ首長国連邦(UAE)といった国々が既にイスラエルとの国交正常化を行っている。アメリカにとって重要なのは、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化であった。昨年、2023年前半の段階では、国交正常化交渉は進んでいた。こうした状況が、パレスティナのハマスを追い詰めたということが考えられる。

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中東諸国がイスラエルと国交正常化を行うと、自分たちへの支援が減らされる、もしくは見捨てられるという懸念を持ったことが考えられる。ハマスをコントロールしているのはイランであり、イランの影響力はより大きくなっていると考えられる。イランは、レバノンの民兵組織ヒズボラも支援している。イランは、ハマスとヒズボラを使って、イスラエルを攻撃できる立場にいる。イランの大後方には中国がいる。

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 イスラエルとしては、サウジアラビアと国交正常化を行い、中東地域において、より多くの国々をその流れに乗せて、自国の安全を図りたいところだった。イランを孤立させるという考えもあっただろう。しかし、ここで効いてくるのが、2023年3月に発表された、中国の仲介によるサウジアラビアとイランの国交正常化合意だ。これで、イランが中東地域で孤立することはなくなった。イスラエルとすれば、これは大きな痛手となった。そして、アメリカにしてみても、自国の同盟国であるサウジアラビアが「悪の枢軸」であるイランと国交正常化するということは、痛手である。これは、中国が中東地域に打ち込んだくさびだ。

 アメリカはサウジアラビアと防衛協定を結ぼうとしているが、それには、イスラエルとの関係が関わってくる。アメリカはサウジアラビアとイスラエルという2つの同盟国を防衛するということになるが、サウジアラビアとイスラエルとの関係が正常化されないと、アメリカとサウジアラビアとの間の防衛協定交渉も進まない。サウジアラビアのアメリカ離れということもある。ここで効いてくるのはサウジアラビアとイランの国交正常化合意だ。アメリカとイスラエルの外交が難しくなり、中国の存在感が大きくなる。

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サウジアラビアは次のエジプトへの道を進んでいる(Saudi Arabia Is on the Way to Becoming the Next Egypt

-アメリカ政府はリヤドとの関係を大きく歪める可能性のある外交協定を仲介している。

スティーヴン・クック筆

2024年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/08/saudi-arabia-us-deal-israel-egypt/?tpcc=recirc062921

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サウジアラビアの紅海沿岸都市ジェッダのホテルで開催されたジェッダ安全保障・開発サミット(GCC+3)期間中に、家族写真のために到着したジョー・バイデン米大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子(2022年7月16日)

彼らはそうするだろうか、それとも、しないだろうか? それがここ数週間、中東を観察している専門家たちが問い続けてきた疑問だ。アメリカとサウジアラビアは、両国当局者たちが少なくとも2023年半ばから取り組んでいる大型防衛協定プラス協定(big defense pact-plus deal)を発表するだろうか?

2024年4月末のアントニー・ブリンケン米国務長官のリヤド訪問と、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官の保留中のリヤド訪問計画により、合意の可能性の話に緊迫感と期待感が注入された。報道によると、サウジアラビアとジョー・バイデン政権は準備ができているが、「いくつかの障害は残っている(obstacles remain)」という。これはイスラエルを指す良い表現だ。

ワシントンとリヤドの当局者間の協議が始まったとき、バイデン政権はサウジアラビアとの単独合意では、米連邦議会から適切な支持は決して得られないという確信を持っていた。連邦上院で過半数を占める民主党の議員と少数派の共和党の議員(防衛協定に署名する必要がある)は、アメリカをサウジアラビアの防衛に関与させることに二の足を踏む可能性が高い。しかしホワイトハウスは、そのような協定がイスラエルとサウジアラビアの国交正常化を巡るものであれば、連邦議会の支持が得られる可能性が高いと推測していた。

2023年9月時点では、それは素晴らしいアイデアだったが、今ではやや理想的過ぎる考えになっている。ガザでの7カ月にわたる残忍な戦争の後に、サウジアラビアがイスラエルとの国交正常化実現に求めている代償は、イスラエル人にとって大き過ぎ、イスラエル人の約3分の2がこの考えに反対している。それだけに基づいて、国防協定のための正常化協定を追求し続ける正当性はない。

しかし、ワシントンの当局者、そして、特にリヤドは、いずれにせよイスラエルをこの協定案から外したがっているはずだ。そうでなければ、アメリカとサウジアラビアの二国間関係に三国間関係の論理を持ち込むことになる。アメリカとエジプトの関係が何かを示すものであるとすれば、それはワシントンとリヤドの関係を深く不利な方向に歪めかねない。

ジョー・バイデン米大統領がサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子を本質的にペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物、persona non grata)であると宣言し、米連邦議会の議員たちがサルマン王太子の人権侵害疑惑の責任を追及するよう要求したのは、ずいぶん昔のことのように思える。

リヤド当局者たちが当時予測していたように、バイデン大統領がサウジアラビアの指導者たちを必要とする時が来るだろう。彼らはそれほど長く待つ必要がなかった。新型コロナウイルス感染拡大後の旅行客の急増とロシアのウクライナ侵攻によるガソリン価格の上昇圧力は、ホワイトハウスに特別な難題を突きつけた。その結果、世界規模のエネルギー価格の高騰はアメリカ経済の健全性を脅かし、ひいてはバイデンの選挙での見通しを脅かした。このためバイデンはリヤドに外交官を派遣し、最終的には2022年7月に自らリヤドを訪問するに至った。サウジアラビア政府高官たちにもっと石油を汲み上げるよう説得し、アメリカ人のガソリン代負担を軽減させ、大統領は低迷する世論調査の数字を少しでも改善することを望んでいた。

そして、エネルギー価格の高騰が部分的に後押ししたインフレと、ヨーロッパにおけるロシアのウクライナ侵攻は、ホワイトハウスの中国に対する厳しいアプローチを背景にしていた。バイデンは政権発足当初から、世界中で北京を出し抜くことを優先課題としていた。最も影響力のあるアラブ国家として、サウジアラビアはその戦略の重要な要素になると期待されていた。

そしてイランの脅威が存在した。ドナルド・トランプ米大統領(当時)が2018年にワシントンを脱退させた核合意である「包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action)」にテヘランが再加盟するよう、米政府高官たちが政権発足後2年の大半の期間を費やして追い回した結果、バイデンは、イランが実際にはアメリカやペルシャ湾西側の近隣諸国との新たな関係を望んでいないという結論に達したようだ。

結果として、アメリカ政府はイランの封じ込め(containing)と抑止(deterring)を目的とした、地域の安全保障を強化する取り組みに乗り出したが、その取り組みにおいてサウジアラビアが重要な役割を果たすことが期待されている。しかし、核合意と、2019年の自国領土へのイラン攻撃に対するトランプ大統領の反応に消極的だったことを受けて、リヤド当局者らは賢明に振舞った。その結果、彼らは現在、サウジアラビアの安全保障に対するアメリカの取り組みを大枠で規定する、正式な合意を望んでいる。

2017年と2018年に自らが負った傷のせいで、米連邦議事堂内におけるサウジアラビアの不人気が続いており、その結果、かつてはサウド家の忠実な召使であったが、ムハンマド王太子を激しく批判するようになった、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害にまで至ったことを考えると、連邦議会では支持大きいイスラエルが協定を締結するはずだった。しかし、このアイデアはうまく設計されているかもしれないが、サウジアラビアとアメリカとの防衛協定のための、サウジアラビアとイスラエルとの国交正常化は、アメリカとサウジアラビア当局者が最も重要であると信じている関係に、重大な下振れリスクをもたらすことを示している。

アメリカのサウジアラビアへの関与が、サウジのイスラエルとの国交正常化を条件とするならば、その関係、すなわちイスラエルとサウジアラビアの関係の質は、明白な意味でも、そうでない意味でも、ワシントンとリヤドの二国間関係に影響を及ぼす可能性が高い。

エジプトは、このダイナミズムがどのように展開するかを示す典型的な例である。ホスニ・ムバラク前大統領の時代を通じて、とりわけ長期政権末期には、アメリカ・エジプト・イスラエルの三者関係の論理がエジプト政権に対する、破壊的な政治批判をもたらした。ムバラクの敵対勢力、特にムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)は、イスラエルのせいで、ワシントンがエジプトをこの地域の二流大国(second-rate power)にしたのだと主張した。

換言すれば、ムバラクと側近たちは、イスラエルが2度にわたってレバノンに侵攻し、ヨルダン川西岸とガザ地区を入植し、イェルサレムを併合するのを傍観していた。そうしなければイスラエルとの関係が危険に晒され、ひいてはイスラエルとの関係が損なわれるからである。そうなれば、エジプトとアメリカとの関係を損なうことになる。その結果、エジプトはイスラエルに直接挑戦するのではなく、国連やその他の国際フォーラムの場でイスラエルに抗議をする、つまり弱者の武器(weapons of the weak)を使うことになった。

2007年頃、エジプトからガザ地区への密輸トンネルの存在が初めて発見されたとき、イスラエルとその支持者たちはワシントンでそれを喧伝した。もちろん、彼らが憤慨するのは当然のことだが、エジプト政府関係者たちは、イスラエルがこの事態を二国間問題として処理せず、ワシントンを巻き込むことを選択したため、エジプトはカイロの軍事支援が危険にさらされることを恐れたと、私的な会話で苦言を呈した。米連邦議会の議員たちも、エジプトの軍事援助を削減し、他の支援にシフトするかどうか公然と議論していた時期だった。エジプトから見れば、特に敏感な時期に密輸トンネルをめぐって批判を浴びせられたことで、エジプトとイスラエルの二国間の問題が、ワシントンとカイロの問題になり、アメリカとエジプト関係に不当に緊張が走ることになった。

サウジアラビアとの安全保障協定を確保する努力にイスラエルを含めることは、既に複雑な二国間関係を更に複雑にすることを求めるだけだ。そのようなことをする価値はほとんどない。もちろん、エジプトとサウジアラビアには多くの違いがある。国境を接していないことから、イスラエルの安全保障上の懸念が、アメリカとエジプトとの関係で見られるような形でアメリカとサウジアラビアとの関係に影響を与えることはないだろう。

それでも、イランを管理するサウジアラビアの微妙なアプローチがイスラエルを怒らせた場合はどうなるのか? エジプトと同様、サウジアラビアは、アメリカの安全保障援助に依存している。イスラエルがサウジアラビア王室の外交政策の進め方を好まなければ、アメリカとサウジアラビアの関係に問題が生じる可能性は現実のものとなる。

バイデン政権がサウジアラビアとの防衛協定を望むなら、締結しよう。協定を結ぶにあたり、十分な根拠があるはずだし、バイデン大統領は懐疑論者を説得できるほど熟練した政治家だ。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。外交評議会エニ・エンリコ・マッテイ記念中東・アフリカ研究上級研究員。最新作に『野望の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、将来』は2024年6月に刊行予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

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(終わり)

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。2023年を回顧し、2024年、その先を見通す内容となっています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 新刊でも取り上げたが、2023年10月7日からパレスティナ紛争が続いている。ハマスによるイスラエルに対する攻撃とそれに対するイスラエルの大規模な報復攻撃によって、多くの民間人が犠牲になっている。1948年にイスラエルが建国されて以来、パレスティン紛争は、強弱はありながらも継続中で、もうすぐで75年が経過しようとしている。問題は親から子へ、子から孫へと引き継がれて、より複雑化しているようだ。どうしてパレスティナ紛争は解決しないのか。1993年にパレスティナ解放機構(PLO)とイスラエルの間で成立したオスロ合意に基づく、二国家共存解決策(two-state solution)は破綻寸前なのはどうしてか。

 ハーヴァード大学教授スティーヴン・M・ウォルトはその主要な理由を5つ挙げている。ウォルトは、妥協不可能な目的、イスラエルが拡大すればするほど国内が脆弱になってしまう安全保障のディレンマ、無責任な部外者の介入、過激派の存在、アメリカに存在するイスラエル・ロビーが主要な5つの理由として挙げている。

 興味深いのは、イスラエルが拡大を続けて、アラブ人、パレスティナ人が住む領域を国土に編入していくと、イスラエル国民の構成がユダヤ人とアラブ人で半々になってしまう、そうした場合に、アラブ人にユダヤ人と同等の政治的権利を与えるべきかどうかということが大きな問題になるということだ。ベンヤミン・ネタニヤフ首相はアパルトヘイト政策を実施して、アラブ系のイスラエル国民に政治的権利を認めないということを実行しているが、それでは、イスラエルが建国の理念として掲げる民主政治体制の公平性を毀損することになる。これは国家の存在理由を毀損することになる。イスラエルを拡大し、二国家共存路線を否定すればするほど、イスラエルの建国の理念は毀損され、イスラエル国家の正統性は失われていく。

 イスラエルの過激派は、二国家共存路線を放棄させようとして、パレスティナの過激派であるハマスと手を結んだ。彼らは共通の目的である「二国家共存路線の放棄」のために共闘できた。その結果が現在である。この過激派同士が手を組むというのはよく見られる現象である。ここで重要なのは、穏健派同士が手を組んで主導権を握ることだ。そうすることで、問題解決の糸口が見つかるだろう。パレスティナ紛争の解決(もしくは小康状態)は世界にとっても重要である。そして、それを75年間も成功させられなかったアメリカは、仲介者や保護者の役割を降りるべきではないかと私は考えている。パレスティナとイスラエル、双方と話ができる、非西側諸国(the Rest、ザ・レスト)の旗頭である中国に任せてみたいとなどと言えば、反発を受けるだろうが、サウジアラビアとイランの国交正常化交渉合意を取り付けた実績がある。アメリカの失敗を土台にしてそこから学び、方法を見つけることができるのではないかと考える。

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イスラエルとパレスティナの紛争がすぐには終わらない5つの理由(5 Reasons the Israel-Palestine Conflict Won’t End Any Time Soon

-過激派、ロビイスト、お節介な部外者、そしてより深い構造的問題の存在は、この問題が未解決のままであることを意味するものだ。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年1月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/01/08/israel-palestine-conflict-gaza-hamas/

関連する歴史にあまり馴染みがなく、今現在のように何か酷いことが起きている時にしかこの問題に注意を払わない傾向があるのなら、あなたは自問するかもしれない。それは次のような一連の疑問だ。「何が問題になっているのだろうか? なぜイスラエルとパレスティナは和解し、うまくやっていくことができないのだろう? アメリカは第二次世界大戦後、ドイツや日本と和解したし、アメリカとヴェトナムの関係は現在友好的だ。南アフリカや北アイルランドのような問題を抱えた社会でさえ、正義と平和に向かって進んできた。それなのになぜ、これらとは別の紛争を終わらせるための多種多様な努力が失敗に終わり、1948年にイスラエルが誕生して以来最悪のイスラエルとパレスティナの血を見ることになったのだろうか?」

私は疑問解消の手助けをするためにここにいる。イスラエルとパレスティナの紛争が、罪のない人々の命を奪い続け、地域を不安定化させ、ワシントンの政治的処理能力(Washington’s political bandwidth)を不釣り合いなほど消費し、恐怖、苦しみ、不正義を永続させ続けている理由のトップ5を紹介しよう。

(1)割り切れない目的(Indivisible objectives)。紛争の核心には、深い構造的問題がある。イスラエルとパレスティナの民族主義者・ナショナリストたちはともに、同じ領土に住み、その支配を望んでおり、それぞれがそれを自分たちの正当な権利だと確信している。両者はそれぞれ主張の根拠を持っており、それぞれが自分の立場が相手の立場を打ち負かすべきだと熱烈に信じている。国際関係学者たちはこのような状況を「不可分性(indivisibility)」問題と呼ぶ。紛争を解決するためには、当事者双方が納得できるような方法で問題を分割する必要がある。さらに、三大宗教の聖地であるイェルサレムの複雑で争いの絶えない地位が加われば、紛争が繰り返されることになる。過去100年にわたり、土地の共有に関するいくつかの提案がなされてきたが、妥協を求める声は、係争中の領土の全てを求める人々によってかき消され、あるいは排除されてきた。悲しいことに、ナショナリズムとは通常このように機能するものだ。

(2)安全保障のディレンマ(The security dilemma)。1つ目の問題と、紛争地域の狭さが相まって、2つの共同体は安全保障上の深刻なディレンマに直面している。シオニストの指導者たちは当初から、アラブ人が多数派どころかかなりの少数派として存在する、ユダヤ人が支配する国家を作ることは困難か不可能であると認識していた。その信念が、1948年のアラブ・イスラエル戦争、そして1967年にイスラエルがヨルダン川西岸を占領した際の民族浄化行為(acts of ethnic cleansing)につながった。しかし、このような行為は、アメリカを含む、他の多くの場所で国家建設の努力が同じような性質の行為に及んでいるように、決して特異なものではなかった。当然のことながら、追放されたパレスティナ人もイスラエルのアラブ近隣諸国も、この事態に激怒し、結果を覆そうと躍起になった。

更に悪いことに、イスラエルは人口が少なく、地理的に脆弱なため、指導者たちは国境を拡大することで国の安全性を高めようとする強力な動機を持っていた。ダヴィド・ベン=グリオン(David Ben-Gurion)首相は、1956年のシナイ戦争(Sinai War[第二次中東戦争]でイスラエルが占領した土地の一部を保持することを一時的に望んだが、アメリカからの確固とした圧力により、この計画を断念せざるを得なかった。その11年後、同じ拡張主義的な衝動によって、イスラエルは1967年の6日間戦争(the Six-Day War[第三次中東戦争]後もヨルダン川西岸とゴラン高原を支配し、1967年から1979年のエジプト・イスラエル和平条約調印まで、シナイ半島の大部分を支配し続けた。

残念なことに、ガザ地区を支配しながらヨルダン川西岸を保持し定住するということは、数百万人のパレスティナ人が永久にイスラエル支配下に置かれることを意味し、事実上、建国者が避けようとしていた人口動態の問題(demographic problem)、つまりイスラエルが支配する領域でユダヤ人とパレスティナ人の数がほぼ同数になるという問題を引き起こすことになる。「大イスラエル(Greater Israel)」という目標を追求すれば、その指導者たちは、ほぼ同数のパレスティナ人従属民に完全な政治的権利を与えるか、彼らの大半を追放する別の口実を見つけるか、イスラエルの民主政治体制と人類への公約とは相容れないアパルトヘイト制度(apartheid system)を導入することを強いられるだろう。元イスラエル外務大臣シュロモ・ベン=アミは2006年に、「民主政治体制とユダヤ国家の地位と領土拡大とを両立させることはできない」と書いた。最も悪くない選択肢は、イスラエルが現在支配している領土のかなりの部分を放棄し、パレスティナ人が独自の国家を持つことを認めるという選択肢だ。この目標は、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、そして現在のジョー・バイデン政権が掲げた政策である。

しかし、安全保障のディレンマは、「2つの民族のための2つの国家(two states for two peoples)」を交渉する努力を複雑にしている。イスラエルの交渉担当者たちは、パレスティナの国家がイスラエルを深刻に脅かすことがないよう、イスラエルが国境と領空を実質的に支配したまま、将来のパレスティナの実体(あるいは国家)を事実上非武装化しなければならないと主張している。しかし、そのような取り決めをすれば、パレスティナ人はイスラエル(そしておそらく他の国家)に対して永久に脆弱な立場に置かれることになる。それぞれの安全意識を向上させ、最終的な和解を促すような取り決めを想像することは可能だが、絶対的な安全は到達不可能な目標である。残念なことに、10月7日のハマスの犯罪と、現在ガザで罪のないパレスティナ人に加えられている犯罪は、当面の間、2国家解決を達成することをより困難にするだろう。

(3)役に立たない部外者。 この2つの人々の間の対立は、利己的な介入(self-interested interventions)が通常は逆効果である一連の第三者によっても煽られ、維持されてきた。イギリスは1917年のバルフォア宣言(Balfour Declaration)によって問題が始まり、戦間期(the interwar period)には国際連盟(League of Nations)の任務を誤って管理し、第二次世界大戦後は問題を国際連合(United Nations)に突きつけることになった。1948

年以降、繰り返される一連のアラブ間対立の一環として、競合するアラブ諸国はパレスティナ内部の別々の派閥を支援し、パレスティナの統一を損なった。

冷戦時代、アメリカはイスラエルを、ソ連はいくつかのアラブの重蔵国を、それぞれ利己的な理由から武装させたが、どちらの大国も問題解決の糸口が見つからないパレスティナ問題や、ヨルダン川西岸一帯に入植地(settlements)を建設するというイスラエルの決定を覆すことには十分な関心を払わなかった。そしてイランは、ハマス、パレスティナを根拠とするイスラム聖戦、レバノンを根拠とするヒズボラを支援することで、主にテヘランが脅威とみなす方法でこの地域を再編成しようとする、アメリカの努力を頓挫させようとしてきた。こうした外部からの介入はいずれも、イスラエル・パレスティナ紛争の解決には役立たず、むしろ悪い状況をより悪化させる傾向にあった。

(4)過激派。中東でも他の地域と同様、少数の過激派が、困難な問題を解決しようとする善意の努力(well-intentioned efforts)を頓挫させることがある。1990年代のオスロ和平プロセスは、両陣営がこれまでで最も紛争終結に近づいたものだったが、両陣営の過激派がこの希望に満ちた和平への道を台無しにした。ハマスとパレスチナ・イスラム聖戦による一連の自爆テロはイスラエルの和平派を弱体化させ、1994年にはイスラエル系アメリカ人入植者が和平努力を阻止するために意図的にパレスティナ人29人を殺害し、その後、別のイスラエル人狂信者がイツハク・ラビン首相を暗殺し、ベンヤミン・ネタニヤフが首相に就任するのを間接的に助けた。

二国家解決(two-state solution)への反対はネタニヤフ首相の政治キャリア全体の道標であり、二国家解決を実現させることに関心を持っていた穏健派パレスティナ自治政府(moderate Palestinian Authority)を弱体化させるという明確な目的のために密かにハマスを支援したほどだ。その政策の悲惨な結果は10月7日に明らかになった。

(5)イスラエル・ロビー。AIPAC、名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)、クリスチャンズ・ユナイテッド・フォー・イスラエル(Christians United for Israel)のような諸団体が紛争を長引かせていると考える人もいるだろうが、紛争を長引かせている唯一の責任があるとは思わない。しかし、彼らや他の志を同じくするグループや個人が問題解決にとっての重大な障害となっている。彼らの行動の詳しい説明については、『イスラエル・ロビー』の第7章を​​参照するか、ピーター・ベイナートの最近の論稿を読んで欲しい。

これらのグループは、アメリカの政治家に紛争に対する一方的な見方を教え込むだけでなく、紛争を終結させようとするアメリカ大統領の真剣な試みをことごとく妨害することに積極的に取り組んできた。ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの各大統領は、いずれも二国家による解決を公に約束し、クリントンとオバマはそれを実現しようと真剣に試みた。それはなぜか? オバマが言うように、2つの民族のための2つの国家は「イスラエルの利益、パレスティナの利益、アメリカの利益、そして世界の利益(Israel’s interest, Palestine’s interest, America’s interest, and the world’s interest)」だからである。しかし、大きな影響力を行使できるにもかかわらず、どの大統領もイスラエルに深刻な圧力をかけようとはしなかった。イスラエルが入植地建設を中止し、占領地のアパルトヘイト体制を解体し始めることを条件に、アメリカの援助や外交的保護を行うことさえできなかった。

Jストリートやアメリカンズ・フォー・ピース・ナウのような、二国家間解決を支持する著名な親イスラエル団体でさえ、アメリカの指導者たちにこの措置をとるよう公然と呼びかけたり、イスラエルに意味のある圧力をかけることを支持するよう連邦議会議員に圧力をかけたりすることはなかった。イスラエルはその主要な後援者であり庇護者(principal patron and protector)であるアメリカから責任を追及されることがなかったため、歴代のイスラエル政府は妥協する必要性を感じることもなく、自分たちの行動の長期的な影響を考慮することもなかった。その結果、ジョン・ミアシャイマーと私が(そして他の多くの人々が)何年も前に警告したように、イスラエルとパレスティナ人が今日直面しているような災難が起こった。

これら5つの要因はそれぞれ、単独でも和平への困難な障害となるだろうし、このリストから外した他の障害も間違いなく存在する。こうしたことが物語っているのは、残念なことだが、この紛争はすぐには終わらないということだ。それは、イスラエル人にとってもパレスティナ人にとっても悲劇(tragedy)である。パレスティナ人が最大の損失を被っているとおりそれは悲劇であるが、イスラエル人にとっても悲劇である。

更に言えば、現在のガザ戦争におけるイスラエルの行為は、反ユダヤ主義(antisemitism)を煽ることによって、世界中のユダヤ人を危険にさらすかもしれない。バイデン政権は、イスラエルのガザにおける残忍かつ大量虐殺の可能性のある作戦に積極的に加担しているため、アメリカはこの惨事(disaster)における役割のために、道徳的にも戦略的にも深刻な代償を払うことになるだろう。「ルールに基づく国際秩序(rules-based international order)」の指導者であると自称するアメリカの信用を失墜させようと躍起になっている世界の指導者たちにとって、これ以上素敵な休暇のプレゼントはないだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 今回はアメリカとサウジアラビアの関係、更にウクライナ戦争開始以降の両国関係に関する記事を紹介する。長くなってしまって読みにくくなってしまっていることをお詫び申し上げる。ご紹介したい関連記事が複数あってこのように長くなってしまった。
 現在、世界の石油価格は高騰している。新型コロナウイルス感染拡大で石油価格が下落していたが、その騒ぎも収まりつつある中で石油価格が上昇していった。それに加えて2月末からのウクライナ戦争で対ロシア経済制裁と先行き不安のために石油価格は高騰している。

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石油価格の推移(2021年11月から) 

 アメリカはロシアからの石油が輸入の7%を占めていたがそれが入らなくなったために、これまでさんざん虐めてきたヴェネズエラとの関係修復を試みている。しかし、世界全体では増産まで時間がかかる上に、何より最大の産油国であるサウジアラビアがアメリカに非協力的であるために、石油価格が上昇している。

 サウジアラビアのアメリカに対する非協力的な態度はサウジアラビアの実質的な支配者であるサルマン王太子のバイデン政権に対する怒りが源泉となっている。ジョー・バイデン米大統領は大統領選挙期間中からサウジアラビアとサルマン王太子に対して批判的であり、『ワシントン・ポスト』紙記者だったジャマル・カショギ殺害にサルマン王太子が関与しているというインテリジェンスレポートを公表するということを約束しており、就任後に実際に公表した。また、バイデン政権は、ドナルド・トランプ前政権との違いを強調するためもあり、サウジアラビアの人権状況に批判的となっている。更には、サウジアラビアが関与しているイエメンの内戦でサウジアラビアの立場を支持してこなかった。こうしたことはサルマン王太子とサウジアラビア政府を苛立たせてきた。そして、サルマン王太子の中国とロシアへの接近ということになった。

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プーティンとサルマン王太子
 今回のウクライナ戦争で、アメリカは慌ててサウジアラビアとの関係を改善しようとしている。サルマン王太子とジョー・バイデン米大統領との直接の電話会談を実現させようとしたが、サウジアラビア側から拒否された。バイデン政権はサウジアラビアからしっぺ返しをされている。また、イエメン内戦でイランから支援を受けているフーシ派武装勢力がサウジアラビアの石油関連施設に攻撃を加えていることで、「石油の増産したいのだが、フーシ派が邪魔をしてうまくいかない」という大義名分も手に入れた。
 アメリカは理想主義的な建前外交をやって、アメリカ国民と世界の人々の生活を苦境に陥れている。実物を握っている国々はいざとなったら強い。だから、理想主義でどちらか一方に偏っていざとなったらしっぺ返しを食ってしまうという外交は結果としてよくない。汚い、裏がある、両天秤をかけて卑怯だ、そんな人々から嫌われるような外交がいざとなったら強い。「敵とも裏でつながっておく」ことが基本だ。

 

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フーシ派からの攻撃の後、サウジアラビアは石油不足について「責任を持たない」と発表(Saudi Arabia says it 'won't bear any responsibility' for oil shortages after Houthi attack

クロエ・フォルマー筆

2022年3月21日

『ザ・ヒル』

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/599014-saudi-arabia-says-it-wont-bear-any

サウジアラビアは、イランに支援されたフーシ派の反政府勢力が国営石油施設を最近攻撃したことによる流通への影響について、イエメンの内戦に対処するアメリカを明らかに非難し、石油増産に対して責任を取らないことを明らかにした。

国営サウジアラビア通信は、世界最大の石油輸出国サウジアラビアは、「石油施設へ攻撃を受けたこともあり、世界市場への石油供給が不足しても、いかなる責任も負わないことを宣言する」と報じている。

サウジアラビア外務省は、「イランに支援されたテロリストのフーシ派民兵から我が国の石油施設が攻撃されたこと」を受けて声明を発表した。

サウジアラビアの指導者たちは、エネルギー市場を安定させ、禁輸されているロシアの石油を相殺するために供給を増やして欲しいというアメリカらの要請に抵抗しているため、ロシアのウクライナ侵攻でアメリカ・サウジ間の緊張は既に高まっている。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日、国営石油大手アラムコが所有する石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、製油所などがドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省は、この攻撃により「製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と述べた。

サウジアラビア外務省は、西側諸国がサウジアラビアと共にイランとフーシを非難し、「世界のエネルギー市場が目撃している、この極めて微妙な状況において、石油供給の安全に対する直接的な脅威となる彼らの悪意ある攻撃を抑止する」よう呼びかけた。

2018年にイスタンブールのサウジアラビア領事館に誘い込まれて殺害された『ワシントン・ポスト』紙のジャーナリスト、ジャマル・カショギの殺害以来、アメリカ政府はサウジアラビアへの批判を強めている。

サウジアラビアの人権記録やイエメン内戦をめぐる緊張が、アメリカ連邦議会において超党派の議員たちからの批判を招き、それがまた両国間の争いに拍車をかけている。

しかし、アメリカのジョー・バイデン政権は、ロシアのウラジミール・プーティン大統領に最大限の圧力をかけるために外交政策を立て直し、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子との関係を再構築しようとしていると複数のメディアが報じている。

『ウォールストリート・ジャーナル』紙は日曜日、ここ数週間にわたり、アメリカはサウジアラビアに「相当数」のパトリオット迎撃ミサイルを送り込んだと報じた。サウジアラビア政府はアメリカ政府に対してフーシ派からの攻撃に対処するための防衛的な武器を送るように求めていた。

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フーシ派勢力がサウジアラビアのエネルギー施設に複数のミサイルを発射(Houthi's fire missiles at Saudi energy facility

オラミフィハーン・オシン筆

2022年3月20日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/middle-east-north-africa/598959-houthis-fire-missiles-at-saudi-energy-facility?utm_source=thehill&utm_medium=widgets&utm_campaign=es_recommended_content

ロイター通信は、サウジアラビア政府は、イエメンのイランから支援を受けているフーシ派が土曜日の夜から日曜日の朝にかけて、様々なエネルギー施設や淡水化施設に向けて複数のミサイルを発射したと発表したと報じた。

サウジアラビアのエネルギー省は日曜日に発表した声明で、ジザン地方の石油製品流通ターミナル、天然ガスプラント、紅海のヤンブ港にあるヤスレフ製油所がドローンとミサイルによる攻撃を受けたと発表した。

サウジアラビアのエネルギー省からの声明には、「ヤスレフ製油所への攻撃により、製油所の生産が一時的に減少したが、これは在庫から補填される」と書かれている。

サウジアラビアのエネルギー省はまた、多くの石油物流工場が攻撃され、ある工場で火災が発生したと付け加えた。サウジアラビア政府のある高官によると、火災は制御され、死傷者は報告されていないということだ。

フーシ派のスポークスマンであるヤシャ・サレアは、過激派グループがサウジアラビアで多くの施設を攻撃したことを認めた。

サウジアラビア主導の軍事連合によると、武装勢力フーシ派はこの他、アル・シャキークの海水淡水化プラント、ダーラン・アル・ジャヌブの発電所、カミス・ムシャイトのガス施設などを攻撃対象として攻撃を加えてきた。ロイター通信によると、サウジアラビア国防軍は弾道ミサイル1発とドローン9機を迎撃したと報じている。

ハンス・グルンドベルグ国連特使は、数万人が死亡し、数百万人が飢餓に直面している7年間の戦闘を終わらせるための条約の可能性について、双方が協議したと述べたとロイター通信は報じている。

ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は日曜日の声明の中で、フーシ派からの攻撃を非難した。

サリヴァン補佐官は声明の中で、「アメリカは内戦終結に向けた取り組みを全面的に支持し、フーシ派の攻撃から自国の領土を守るパートナーを今後も全面的に支援していく。国際社会にも同じことをするよう求める」と述べた。

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ムハンマド・ビン・サルマンはバイデンに対して影響力を持ち、それを利用している(Mohammed bin Salman Has Leverage on Biden—and Is Using It

-サウジアラビアの原油価格引き下げへの協力は欧米諸国の価値観の犠牲の上に成り立つ。

アンチャル・ヴォウラ筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/24/mohammed-bin-salman-saudi-ukraine-oil-biden-opec/?tpcc=recirc_trending062921

ウクライナ侵攻後にロシアへ科された制裁によって、世界のエネルギー市場には大混乱がもたらされた。西側諸国は、1バレル140ドル近くまで高騰した原油価格をどう抑制するか、ロシアのエネルギー供給への依存からどのように脱するかでパニックに陥った。アメリカとイギリスはロシアの石油購入の禁止を発表し、伝統的な同盟国であるサウジアラビアに対して石油の供給を開始し、世界の石油価格を下げるように説得することに躍起となっている。

しかし、最大の産油国であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦は、この危機を自分たちの好機と捉えて、それに応じようとはしなかった。アメリカと欧米諸国へのメッセージは明白である。サウジアラビアは、人権侵害で批判され続ける対象として扱われるには、あまりにも大きな影響力を地政学的に持っている、ということである。

サウジアラビアはアラブ首長国連邦以上に油田の鍵を握っており、油田を開放し、親ロシアの石油政策を転換する前に、アメリカから大きな譲歩を得ることを期待している。エネルギー安全保障のために人権が再び犠牲になることを、活動家たちは恐れている。アメリカもイギリスも、サウジアラビアが3月中旬に行った81人の大量処刑を公然と批判していない。欧米諸国の対サウジアラビア政策は、消費者の財布への圧力を緩和するためのおだてが中心となっている。

サウジアラビアとアラブ首長国連邦は日量300万バレル以上の余力を持ち、その一部を放出することで原油価格を下げることができる。さらに、ロシアは日量約500万バレル、その8割近くを欧州に輸出しているため、リヤドとアブダビが支援を確約すれば、欧州諸国の懸念を払拭し、ロシアへの依存を減らすよう促すことができる。

しかし、湾岸諸国は、ロシアを含む石油カルテルの拡大版である「OPEC+1」への参加を理由に、これを控えている。その理由は、ウクライナ戦争は今のところ石油の供給に大きな支障をきたしていないため、生産量を増やす必要がないためだとしている。しかし、専門家たちは、これは世界政治の大きな変化を反映した政治的決断であると見ている。ロシアの戦争マシーンをも利する価格を維持する選択は、湾岸諸国の独裁者たちがもはやアメリカの緊密な同盟諸国の地位にいる必要性を感じず、同じような権威主義者たちとの新たな同盟を受け入れていることを示すものである。過去に何度か、サウジアラビアの支配者はアメリカの同盟諸国を喜ばせるために増産や減産を行ったことがある。

しかし今回、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ジョー・バイデン米大統領に復讐をするチャンスが到来したと見ているようだ。サルマンはこれまでバイデンから数々の侮辱を受け、優遇されてこなかったと考えているようだ。バイデンはまだ大統領選挙の候補者だった時期に、サウジアラビアをパーリア国家(pariah state 訳者註:国際社会から疎外される国家)と評し、大統領就任後にサウジアラビアの反体制派でワシントン・ポスト紙の記者ジャマル・カショギの暗殺に王太子が関与したとする情報報告書を公開した。さらに、サウジアラビアもアラブ首長国連邦も、イラン核合意の再開の可能性についての懸念を持っているがこれは無視され、イエメンのフーシ派が自国の船や都市を攻撃したことに対してアメリカが行動を起こさないことには、軍事同盟国としての義務を果たさなかったと感じたという。最近では、フーシ派を指定テロリストのリストに入れ続けて欲しいという嘆願さえもワシントンによって無視された。

ロシアのプーティン大統領の戦争をきっかけに燃料価格が上昇したため、ホワイトハウスはバイデンと不貞腐れた王太子の電話会談を実現しようと奔走したが拒否された。しかし、サウジアラビアの後継者サルマンはカショギ殺害を命じたという疑惑を通してプーティンの側に立ち、女性人権活動家が逮捕され囚人が大量に処刑されても非難を囁くこともなかった。サルマンはプーティンの緊密な同盟者と見られることに全く不安を感じていないのである。

サウジアラビアが同じ権威主義者プーティンに近づいたのは、当時のバラク・オバマ米大統領との関係が悪化した2015年に遡る。その1年後、ロシアがOPECに加盟した。リヤドはその後、モスクワとの関係を強化する一方、アメリカとの関係は、オバマ時代のイランとの核合意から離脱したドナルド・トランプ米大統領の在任中に改善し、バイデンが指揮を執って合意復活のための協議を再開すると再び悪化するなど、一進一退を繰り返している。トランプ政権時代、ムハンマド・ビン・サルマンは改革者として描かれていたが、バイデン政権下では、サウジアラビアのイエメン攻撃で民間人が死亡したことや、自国内の人権侵害で再び厳しく批判されるようになった。

クインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフトの共同設立者であり上級副会長を務めるトリタ・パルシは、サウジアラビアがロシアを支持している理由は、サルマン王太子がロシア大統領の地位をプーティンが継続し、アメリカで政権交代が起きることを確信しているからだと述べている。

パルシは次のように発言している。「サウジアラビアの王太子サルマンはプーティンに賭けている。サルマンはプーティンを信じているだけでなく、共和党が中間選挙で勝利し、バイデンがレイムダックになることを望んでいる。2025年までに、バイデンと民主党は政権を失い、プーティンはロシアの大統領に留まるとモハメド・ビン・サルマン王太子は信じているようだ」。

今回の危機は、アメリカが主張するエネルギーの独立性を改めて認識し評価することを余儀なくさせた。新型コロナウイルス感染拡大によって大きな損失を被った国内のエネルギー産業をよりよく管理するために、より首尾一貫した長期計画を打ち出すか、口を閉じて権威主義者たちを容認するかのどちらかでなければならない。

エネルギー分野の専門家たちによれば、いずれにせよ、米国のフラッキング企業(訳者註:シェールガス採掘を行う企業)が新たな井戸を掘るには数カ月かかるという。イランやヴェネズエラに対する制裁が解除されたとしても、その石油を世界市場に供給できるようになるにはまだ時間がかかるだろう。先週末、ドイツはカタールと液化天然ガス(LNG)輸入の長期契約に調印した。カタールはロシア、イランに次いで3番目に大きなガス埋蔵量を持つ国であり、この契約によりドイツは液化天然ガスを迅速に輸入することができる。この協定により、ドイツはカタールのガスを輸入できるように2つの液化天然ガス基地の建設を急ぐが、それでもそのガスがドイツの家庭に供給されるまでには何年もかかるだろう。これまでドイツは、パイプラインで輸送される安価なロシアのガスに頼っていた。

現在世界最大の産油企業であるサウジアラムコは、2021年に過去最高益となる1100億ドルを稼ぎ出し、前年の490億ドルから124%増の純利益を記録した。サウジアラムコは石油の増産に向けた一般的な投資を発表したが、短期的に供給を増やすことは何もしていない。サウジアラムコのアミン・ナセルCEO(最高経営責任者)は、「私たちは、エネルギー安全保障が世界中の何十億人もの人々にとって最も重要であると認識しており、そのために原油生産能力の増強に引き続き取り組んでいる」と述べた。

国際エネルギー機関(IEA)は、今年末までにロシアから少なくとも日量150万バレルの原油が失われる可能性があると発表している。それが更なる価格高騰につながることは間違いない。OPEC+は次回今月末に会合を開き、状況を把握して原油の生産量を決めると見られている。しかし、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の要求についてアメリカに耳を傾けてもらえたとどれだけ感じられるかに大きく左右される。

彼らは、アメリカが核取引に関する立場を変えないことを確信しているが、イエメンのフーシ派との戦いにおいて湾岸諸国を支援し、人権侵害に対する批判を減らすことができるだろうか? 厳しい国益の世界で最も低い位置にあるのは、個人の自由である。サウジアラビアの活動家たちは、世界の石油の安定と価格の引き下げのために、再び代償を払うことになるかもしれない。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、バイデンからそれ以上のものを求めるかもしれない。

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バイデンはロシアを支持するサウジアラビアを罰するべきだ(Biden Should Punish Saudi Arabia for Backing Russia

-リヤドは石油市場に変化をもたらすことができたが、アメリカではなく、権威主義者の仲間に味方することを選択した。

ハリド・アル・ジャブリ、アニール・シーライン筆

2022年3月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/03/22/biden-mbs-oil-saudi-arabia-russia-ukraine/

アメリカとその同盟諸国が一致団結してロシアのウクライナ侵攻に反対している中、サウジアラビアはロシアに味方している。侵略を公に非難せず、OPEC+協定へのコミットメントを繰り返したことで、サウジアラビア政府はアメリカとの長年のパートナーシップに亀裂が入っていることを露呈した。

原油増産の懇願にもかかわらず、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子は、ロシアのプーティン大統領と会談した1週間後に、ジョー・バイデン米大統領との会談を拒否したとされる。ロシアの石油の補償を拒否することで、王太子は国際社会が科す制裁に直面してエネルギーを武器として、エネルギーに依存するヨーロッパ諸国をロシアの石油とガスの人質にすることを許可し、プーティンの侵略を助長している。

月曜日になっても、サウジアラビア政府はロシアの行動を非難することを拒否している。その代わりに、サウジアラビアの外務大臣はロシア側と会談し、両国の二国間関係とそれを「強化・統合する方策」を確認した。

サウジアラビアの強硬姿勢にもかかわらず、バイデン政権は最近、フーシ派がサウジアラビアの水とエネルギー施設を攻撃したため、パトリオット対ミサイルシステムをサウジアラビアに追加配置した。サウジアラビアは、アメリカの保護が必要であることを表明し、これらの攻撃による石油供給不足の責任を否定する声明を出した。米国は、アラムコによる投資拡大の約束にもかかわらず、リヤドによる増産の保証を報告することなく防衛策を送ったのである。

バイデン米大統領から要求を受けてもサウジアラビアが石油の増産に消極的なのは、忠誠心が変化していることを示す最新の兆候である。70年にわたるパートナーシップを通じて、ワシントンはリヤドの主要な安全保障の保証人として機能し、その見返りとして、サウジアラビアの歴代国王はエネルギー問題でアメリカと緊密に協調してきた。しかし、ムハンマド・ビン・サルマン王太子が権力を掌握して以降、二国間関係は、7年間続くイエメン戦争などサウジアラビアの無謀な外交政策の決定や、ジャーナリストのジャマル・カショギの殺害で最も顕著に表れた人権状況の悪化によってますます緊迫してきた。

複雑な関係にもかかわらず、バイデン政権関係者の多くは、サウジアラビアの安全保障に対するアメリカのコミットメントを繰り返し表明し続けた。このような発言は、フーシの越境ミサイルやドローンによる攻撃からサウジを防衛するために最近6億5000万ドルの武器売却を行うなど、サウジアラビア主導のイエメン戦争に対するアメリカの継続的支援に裏打ちされたものである。

更に言えば、アメリカは最近、カタールを重要な非NATO加盟国に指定し、1月にアブダビで起きたフーシ派の無人機攻撃を受けてアラブ首長国連邦に追加の軍事資産を動員するなど、他の湾岸諸国のパートナーの安全確保に献身的であることを示している。このような安心感を持ちながらも、サウジアラビアは石油の増産と引き換えにイエメンでの戦争に対するアメリカの支持をもっと強要しようとしている。

現実には、サウジアラビアはアメリカの安全保障に関する保証を疑っていない。王太子が望んでいるのは、自らの支配を確実にすることである。アメリカは、湾岸諸国のパートナー諸国の物理的な安全を支援するために行動することはあっても、権威主義的なアラブの指導者が行うように、自分たちの好む体制を守るために民間人を攻撃することはないことを示してきた。湾岸諸国の支配者たちは、「アラブの春」におけるアメリカの中立的な姿勢が、エジプトにおけるワシントンの長年にわたるパートナー、ホスニー・ムバラクの失脚を許したと考えている

サウジアラビアの王室は、2011年にサウジアラビアが直接軍事介入したことでバーレーンのアル・ハリファ王家を救うことができた、マナーマの港に米海軍の第5艦隊がいたにもかかわらず、アメリカは役に立たなかったと考えている。それ以来、サウジアラビアの対米不信と国内の異論に対するパラノイア(被害者意識)は高まる一方である。サウジアラビアはサルマン国王とムハンマド・ビン・サルマン王太子の統治下で、ロシアや中国との密接な関係の育成を加速させている。

アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史も、湾岸における意味のある軍事的プレゼンスもない。

プーティンや中国の習近平のように、サウジアラビアの歴代の支配者たちは資本主義における独裁的モデルを好み、権威主義体制の生存と国家間関係からの人権の排除に基づいた代替的な世界秩序を構築しているのである。

中国やロシアが両国内のイスラム系少数民族を虐待していることに対してサウジアラビアや他の主要イスラム国家が無関心であることは、これらの政府が人権に反対していることの相性の良さを示している。中国とロシアがイスラム主義運動を政権の不安定要因と考えて偏執狂的に恐れているが、サウジアラビアとアラブ首長国連邦はこうした考えを共有している。

サウジアラビアの国王と王太子は、イスラム教の重要性をサウジアラビアの国家戦略から切り離し、王室の役割を中心に据えることで、イスラム教徒を積極的に疎外しようとしてきた。例えば、2022年2月22日、サウジアラビアは初めて建国記念日を祝った。この新しい祝日は、サウジアラビアがワッハーブ派の創始者であるムハンマド・イブン・アル・ワッハーブと提携し、それによってサウジアラビアの宗教的正当性を高め、領土拡大を開始した1744年ではなく、ムハンマド・ビン・サウドが支配権を得た1727年を起源とするものであった。

西側諸国の多くは、サウジアラビア政府が宗教警察のようなアクターを無力化し、厳しい男女分離を若干緩和する決定を歓迎したが、これらの変化はまた、前例のないレヴェルの内部抑圧に対応している。人権活動家の投獄、海外での反体制派に対する弾圧、そして最近の81名の囚人の大量処刑は、ムハンマド・ビン・サルマン王太子の意図の本質を明らかにしている。それは、かつて国家権力を握っていた聖職者や保守派エリートを含む全ての反対意見を、より西側の社会規範の皮をかぶって黙らせることだ。

カショギの殺害をめぐる長引く憤慨と政治的疎外は、王太子に、欧米諸国から見たサウジアラビアのブランドを再構築する努力は失敗したと確信させたのかもしれない。その代わりに、中国とロシアは、ジャーナリストを殺害した皇太子を決して非難しないパートナーである。ロシアの場合、最近の歴史では、その行為すらも支持する可能性さえある。

しかし、中国とロシアに安全保障の保証に賭けるのはギャンブルである。アメリカと異なり、ロシアと中国にはサウジアラビアを保護した歴史もなければ、湾岸地域における軍事的なプレゼンスもない。仮にサウジアラビアが米国製の軍備から移行する場合、そのプロセスには数十年と数千億ドルを要するだろう。

更に言えば、中国とロシアはイランと緊密な互恵関係にあり、サウジアラビアの顔色をうかがってこの関係を犠牲にすることはないだろう。サウジアラビアは、アメリカと対話する際、イランやイランが支援する集団に対するアメリカの保護をこれまで以上に保証するよう主張してきた。リヤドが北京やモスクワとの提携のためにそうした懸念を払拭したいと望んでいるとすれば、こうした姿勢はテヘランに対するアメリカの不信感を煽ることが主な目的であることが明らかになるであろう。

サルマン王太子のイランへの不安は本物だとしても、それ以上に国内状況への不安もまた大きい。そのためには、民間人に多大な犠牲を強いてでもシリアのアサド政権を維持しようとする姿勢を示したプーティンのようなパートナーが望ましい。今のうちにロシアと手を組んでおけば、サウジアラビア市民の大規模な抗議行動など、いざというときにクレムリンが助けてくれるだろうと期待しているのだ。

現在の米国のサウジアラビア宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているという王太子の認識を強めているだけのことだ。

ムハンマド・ビン・サルマン王太子は、任期付きで選出された欧米諸国の政府高官たちのためにプーティンと敵対するリスクを冒すよりも、むしろプーティン支持という長期的なギャンブルに出るだろう。ボリス・ジョンソン英首相やジェイク・サリヴァン米国家安全保障問題担当大統領補佐官、ブレット・マクガーク米国家安全保障会議中東担当調整官らアメリカ政府高官たちによる最近の直接の懇請の失敗や、アントニー・ブリンケン米国務長官との面会を拒否したことは、サウジアラビア王太子が心を決めていることの証拠である。プーティンのエネルギー力を弱め、ロシアの石油ダラーの生命線を断つような石油政策を採用することはないだろう。彼は、ワシントンよりモスクワを選んだのだ。

同様に、バイデン政権がヨーロッパの同盟諸国にロシアの化石燃料を手放すよう圧力をかけているこの時期に、アメリカ政府がサウジアラビアに石油を懇願するのは止めるべきだ。アメリカの民主政治体制とサウジアラビアの権威主義体制は相容れず、長い間その関係を緊張させてきた。アメリカがサウジアラビアに石油をねだるのを止めるのは、もう過去のことだ。もう一つの残忍な炭化水素を基盤としている独裁国家に力を与えている場合ではないのだ。

ロシアの石油をサウジアラビア、イラン、ヴェネズエラの石油に置き換えるという不愉快な見通しに直面したとき、イラン核取引に再び参加し、イランの化石燃料を世界市場に戻すことは、最近の価格上昇に対処するためという理由はあるにしても、最悪の選択だ。イラン産原油の購入は、再交渉された核取引の条件によって制約されたままである。一方、サウジアラビア(またはヴェネズエラ)の要求に応じれば、アメリカが懸念する分野に対処するための追加の安全措置はないことになる。長期的には、バイデンは化石燃料への依存を減らし、それによって避けることができない石油価格ショックからアメリカ経済を守るよう努力しなければならない。そうしてこそ、アメリカ政府は石油を保有する権威主義者たちとの偽善的な取引を止めることができる。

リヤドは、最近の関係の冷え込みにもかかわらず、依然としてワシントンの保護を当然と考えているようだ。その理由の一つは、カショギの殺害とイエメンの荒廃についてサルマン王太子の責任を追及するというバイデン大統領の約束が守られなかったことが挙げられる。

現在のアメリカのサウジアラビアに対する宥和政策は、リヤドがワシントンを必要としている以上にバイデンが自分を必要としているというムハンマド・ビン・サルマン王太子の認識を強めるだけであり、この見解は、アメリカ政府が自分を支援し続ける以外に選択肢がないと考えて、ロシアや中国とより緊密に提携することを促すだろう。

その代わり、バイデンはこの機会に、全ての武器売却を中止し、サウジアラビア軍への保守(メンテナンス)契約を停止するなど、アメリカとサウジアラビア王国の関係を根本的に見直すべきだ。そうすることで、リヤドに対して唯一の安定した安全保障上のパートナーを失う危険性があることを示すことができる。

もし、サルマン王太子が独裁者たちへの支援を強化するならば、アメリカにとって大きな損失にはならないだろう。

※ハリド・アル・ジャブリは、医療技術の起業家であり、心臓専門医でもある。サウジアラビアから追放され、兄弟2人が政治犯となっている。ツイッターアカウント:@JabriMD

※アニール・シーラインはクインシー・インスティテュート・フォ・レスポンシブル・ステイトクラフト研究員である。ツイッターアカウント:@AnnelleSheline

(貼り付け終わり)

(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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