古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 米中関係

 古村治彦です。

 今回は、私の最新刊でも取り上げた論稿をご紹介する。短い論稿なので抵抗は少なく読めると思う。論稿の著者グレアム・アリソンはハーヴァード大学教授で、「トゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)」という言葉を世の中に広めた人物だ。国際関係論分野では常陽な学者である。トゥキュディデスの罠とは、「古代アテネの歴史家トゥキュディデスにちなむ言葉で、従来の覇権国家と台頭する新興国家が、戦争が不可避な状態にまで衝突する現象」のことだ。古代ギリシアのペロポネソス戦争は、ギリシア世界を軍事力で制覇し、覇権国家だったスパルタと、海洋貿易で経済力を高めた新興大国アテネとの戦いだ。これを現代に敷衍すると米中両国のことになる。以下に、論稿の内容を要約する。
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グレアム・アリソン

中国が南シナ海や東シナ海において攻撃的な姿勢を強めていることは、単なる現象ではなく、今後の国際情勢における重要な兆候だ。アメリカの「パックス・パシフィカ」の下で、アジア諸国は急速な経済成長を遂げてきたが、中国が世界最大の経済大国として台頭する中で、既存のルールの見直しを求めるのは自然な流れだ。

今後の世界秩序において重要な課題は、中国とアメリカが「トゥキュディデスの罠」を回避できるかどうかである。歴史的に見ても、新興勢力の台頭は既存の大国との対立を引き起こし、戦争に至るケースが多かった。特に、アテネとスパルタの例が示すように、台頭と恐怖が競争を生み出し、最終的には紛争に発展することがある。

中国の急速な台頭は、アメリカにとって脅威であるが、国際関係においてより多くの発言権を求めることは自然なことである。アメリカ自身も過去に同様の行動をとっており、その歴史を振り返る必要がある。アメリカは、他国に対して自国の価値観を押し付けるのではなく、相手の立場を理解し、対話を重視する姿勢が求められる。

中国とアメリカの指導者たちは、歴史の教訓を踏まえ、対立を避けるために率直な対話を行い、互いの譲れない要求に応じるための調整を始める必要がある。これにより、将来的な大惨事を回避するための道筋を見出すことができるだろう。

 米中両大国が直接武力衝突を起こす可能性は今のところ低い。それでも、経済面だけではなく、最先端のテクノロジー開発の面で、激しいつばぜり合いを展開している。それは、この面での勝者が軍事面でも有利になるからだ。しかし、こうした競争は良いとしても、それが武力衝突まで進まないようにすることが重要だ。そのためには、米中両国の指導者たちの対話と交渉が必要だ。取引を重視するドナルド・トランプ政権はその点で、ジョー・バイデン前政権よりもずっと期待が持てる。

(貼り付けはじめ)

太平洋でトゥキュディデスの罠が発動した(Thucydides’s trap has been sprung in the Pacific

-中国とアメリカは現代のアテネとスパルタだとグレアム・アリソンは言う

グレアム・アリソン

2012年8月22日

『フィナンシャル・タイムズ』紙

https://www.ft.com/content/5d695b5a-ead3-11e1-984b-00144feab49a

中国が南シナ海や東シナ海の尖閣諸島に対して攻撃的な姿勢を強めていることは、それ自体が重要なのではなく、来るべき事態の兆候として重要なのだ。第二次世界大戦後の60年間、アメリカの「太平洋の平和(Pax Pacifica、パックス・パシフィカ)」は安全保障と経済の枠組み(security and economic framework)を提供し、その中でアジア諸国は歴史上最も急速な経済成長を遂げてきた。しかし、今後10年でアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる大国として台頭してきた中国が、他国が築いたルールの見直しを要求するのは当然のことである。

今後数十年の世界秩序に関する決定的な問題は、「中国とアメリカがトゥキュディデスの罠(Thucydides’s trap)から逃れられるか?」どうかだ。歴史家の比喩は、台頭する大国が支配的な大国に対抗するときに米中両陣営が直面する危険を思い起こさせる。紀元前5世紀のアテネや19世紀末のドイツがそうだったように。こうした挑戦のほとんどは戦争で終わった。平和的なケースでは、関係する米中両国の政府と社会の姿勢と行動に大きな調整が必要だった。

古代アテネは文明の中心だった。哲学、歴史、演劇、建築、民主政治体制-全てがそれまでの想像を超えていた。この劇的な台頭は、ペロポネソス半島の既存のランドパウア(land power)であったスパルタに衝撃を与えた。スパルタの指導者たちは恐怖に促され、対応せざるを得なくなった。脅威と反脅威(threat and counter-threat)が競争(competition)を生み、対立(confrontation)を生み、ついには紛争(conflict)に発展した。30年にわたる戦争の末、両国は滅亡した。

トゥキディデスはこの出来事を次のように書いている。「戦争が避けられなくなったのは、アテネの台頭(rise of Athens)と、それがスパルタに与えた恐怖(fear that this inspired in Sparta)のせいである」。台頭と恐怖(rise and fear)という2つの重要な変数に注目してほしい。

新しい勢力が急速に台頭することは、現状を混乱させる。21世紀において、ハーヴァード大学の「アメリカの国益に関する委員会(Commission on American National Interests)」が中国について述べたように、「このような割合の歌姫が、影響なしに舞台に上がることはありえない」のだ。

国家がこれほど急速に、あらゆる面で国際ランキングを駆け上ったことはかつてなかった。一世代の間に、国内総生産がスペインより小さかった国が、世界第2位の経済大国になったのだ。

歴史的な根拠に基づいて賭けをするのであれば、トゥキディデスの罠に関する質問の答えは明白に見えてくる。1500年以降、支配勢力に対抗する新興勢力が台頭した15件のうち11件で、戦争が起きている。ヨーロッパ最大の経済大国としてイギリスを追い抜いた統一後のドイツについて考えてみよう。1914年と1939年、ドイツの侵略とイギリスの対応が世界大戦を引き起こした。

中国の台頭はアメリカにとって不愉快なものだが、強大化する中国が国家間の関係においてより多くの発言権とより大きな影響力を要求することは何も不自然なことではない。アメリカ人、特に中国人に「もっと私たちのようになれ(more like us)」と説教する人たちは、自分たちの歴史を振り返るべきだ。

1890年頃、アメリカが西半球(western hemisphere)で支配的な勢力として台頭したとき、アメリカはどのように行動したか? 後の大統領セオドア・ルーズヴェルトは、次の100年はアメリカの世紀になると絶対的に自信のある(supremely confident)国家の典型だった。第一次世界大戦前の数年間、アメリカはキューバを解放し、イギリスとドイツに戦争で脅してヴェネズエラとカナダでの紛争に関するアメリカの立場を受け入れさせ、コロンビアを分裂させてパナマという新しい国を作った反乱を支援し(パナマ運河建設の譲歩を直ちにアメリカに与えた)、イギリスの支援とロンドンの銀行家たちの資金提供を受けたメキシコ政府を打倒しようとした。その後の半世紀で、アメリカ軍は「私たちの半球(our hemisphere)」に30回以上介入し、アメリカ人に有利な条件で経済紛争や領土紛争を解決したり、受け入れられないと判断したりした指導者たちを追い出したりした。

強力な構造的要因を認識することは、指導者たちが歴史の鉄則の囚人(prisoners of the iron laws of history)であると主張することではない。むしろ、課題の大きさを理解するのに役立つ。中国とアメリカの指導者たちが古代ギリシャや20世紀初頭のヨーロッパの先人たちよりも優れた行動をとらなければ、21世紀の歴史家たちはその後に起こる大惨事(catastrophe)を説明するためにトゥキュディデスを引用するだろう。戦争が米中両国にとって壊滅的である(devastating)という事実は重要だが、決定的ではない。全ての戦闘員たちが最も大切なものを失った第一次世界大戦を思い出して欲しい。

このような結果のリスクを考慮すると、中国とアメリカ両国の指導者たちは、起こりうる対立や火種(flash points)についてもっと率直に話し合う必要がある。さらに困難で苦痛なことに、米中両国は、相手の譲れない要求に応えるために大幅な調整を始めなければならない。

※筆者はハーヴァード大学ベルファー科学・国際問題センター所長。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選した。トランプ政権下、アメリカのトランプ、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領、中国の習近平国家主席との間で「ヤルタ2.0」体制が構築されて、三国協商(Triple Entente)が構築された。今回、トランプ大統領が大統領に復帰するということになり、「ヤルタ3.0」体制となる可能性が高まっている。
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 習近平は「最高指導者(国家主席・中国共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席)は2期10年(1期の任期は5年)で退く(新たな体制を作る)」という不文律を撤廃して、3期目を務めている(2022年から)。こうなると、習近平はこの3期目の5年間で退くのか、4期目を目指すのかということを考えると、やはり、後継者が誰になるか、後継者がしっかり決まらねば退くことは難しいだろう。今のところ、習近平の後継者というのは明確に決まっていないようだ。

元オーストラリアの首相で政治学者でもあるケヴィン・ラッドの論稿によると、習近平国家主席が退陣した後、中国の長期的なイデオロギーの方向性については、習近平の後継者が彼のイデオロギーを引き継ぐか、あるいはその理念が衰退するかが鍵となる。習近平の「マルクス主義的ナショナリズム」は政治的には左傾化し、外交的には右傾化するが、忠誠を誓う若い世代がより過激化する可能性もある。一方で、習近平思想は過去の毛沢東主義のように衰退する可能性もあるということだ。つまり、誰になるかは分からないが、習近平に忠誠心を持っている人物になるということだ。

 現在の中国共産党中央委員会中央政治局常務委員の7名(チャイナセヴン)の中に「後継者」になりそうな人物はいない。生年で言えば1960年代がその対象になりそうだが、序列第6位で、国務院筆頭副総理である丁薛祥(ていせつしょう、Ding Xuexiang、1962年-)で、彼は習近平の秘書出身で、実力者であるが、国家主席となれないだろう。また、今回の中央政治局政治委員(24名)のうち、国防・航空宇宙産業(中国語では工航天系、jungonghangtianxi)出身者、テクノクラートたちが多くなっている。また、今回の中央政治局政治局員からは共青団が排除され、「習近平派」が多く登用されることになった。
※2022年10月30日 中国共産党第20回党大会人事について https://suinikki.blog.jp/archives/86741740.html
※2022年09月15日 第20回中国共産党大会のキーワードは「宇宙クラブ」 https://suinikki.blog.jp/archives/86587517.html 
今回の第二次トランプ政権の人事を見てもそうだが、「忠誠心」が重要なキーワードになっている。そして、習近平にしても、トランプにしても、自身の唱えた「マルクス主義的ナショナリズム」「中国式社会主義」(習近平)、「アメリカ・ファースト」「アメリカを再び偉大に(Make America Great AgainMAGA)」(トランプ)の後継者を作り出す、キャリアの終盤ということになるだろう。トランプの後継者としては、JD・ヴァンス次期副大統領ということになるだろう。習近平についてはこれからということになるが、1960年代を飛ばして、一気に1970年代生まれが後継者ということになる可能性がある。

(貼り付けはじめ)

ポスト習近平の中国はどのようになるか?(What Will a Post-Xi China Look Like?

-習近平の長期的イデオロギー・プロジェクトの脆弱性についてケヴィン・ラッドが語る。

ケヴィン・ラッド筆

2024年10月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/25/china-xi-jinping-politics-domestic-foreign-policy-ideology-ccp-marxism-future/

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2017年9月5日、福建省アモイで開催されたBRICS首脳会議の記者会見を終えて退席する中国の習近平国家主席

習近平国家主席が退陣した後、中国の長期的なイデオロギーの方向性はどうなるのだろうか? 習近平主席退任の可能性はすぐにはないだろう。しかし、その可能性は、私たちが真剣に考え始めなければならないほど現実的である。実際、習近平がもたらした深い構造的・文化的変化が、次世代の中国指導者の下でも持続するかどうかという核心的な問題に関わる。習近平の「マルクス主義的ナショナリズム(Marxist nationalism)」は、政治や経済では左傾化し、外交では右傾化するのが特徴だが、習近平に忠誠を誓う若い世代が習近平の旗印を引き継ぐにつれて、より過激になる可能性はあるのだろうか? もしくは、「習近平思想(Xi Jinping Thought)」は、1976年から1978年にかけての毛沢東主義(Maoism)が、鄧小平とその後継者たちによって最終的に否定されるまでそうであったように、徐々に衰退していくのだろうか?

ポスト習近平の中国は多くの要因によって形成されるだろうが、その中でも最も重要なのはタイミングである。習近平は、自分の後を継いで党の最高指導部に就任する世代が、習近平のイデオロギー的方向性と熱意を共有できると確信できるまで、政権にとどまりたいと考えるだろう。これには問題がある。習近平は常に、腐敗(corruption)、出世主義(careerism)、イデオロギーの混乱(ideological confusion)を許してきた自分の世代とそのすぐ下の世代を非難している。だからこそ、習近平の党内改革キャンペーンは、個人的・政治的な恐怖と厳しさを植え付けるように設計されている。

習近平はおそらく、前任者の下で政治的権威のある重要な地位に就いた人物を自分の後任として信頼することには慎重であり続けるだろう。習近平はまた、その人物が習近平のイデオロギーと政治プログラムを将来にわたって継続するのに十分な個人的関与を持っているかどうかも疑ってかかるだろう。習近平の本能は、習近平の下で大学教育を受けた若手党幹部が政治的地位を得るまで政権を維持することだろう。習近平の「闘争への挑戦(dare to struggle、敢于斗争、ganyu douzheng)」への絶え間ない呼びかけは、国内の党学校ネットワーク(party school networks)を通じて行われ、特に若い幹部に焦点が当てられてきた。そうすることで、習近平は、過去に横行した物質主義とブルジョワの影響にまだ堕落していない彼らの若々しい理想主義(idealism)に訴えかけている。

しかしながら、将来の党指導部の地位を浄化するこの取り組みは、主に習近平が権力の座に就いた当時は子供だった1995年以降に生まれた幹部に依存することを意味する。しかし、2032年の第22回党大会までに「習世代(Xi’s generation)」はせいぜい37歳で、通常の状況ではかろうじて中央委員の補欠に任命される年齢に達するだろう。その後の2037年と2042年の2回の党大会では、習主席は85歳と90歳になるが、彼らは40代半ばになるだろう。この年齢は、この新興世代の若い中国国家主義者を、政治局のような実際の権威の地位に就かせるのに最適な年齢だ。つまり、このポスト「改革・開放(reform and opening)」世代を党の最高ポストに多数任命するには長い時間がかかるだろう。

習近平が信頼するイデオロギー保守派や個人的な忠誠心を持つ人々は党の上層部にいるだろうが、この若い世代は習近平が現場を離れた後の最大の希望であり、イデオロギー修正主義に対する政治的な防波堤となる。彼らは、習近平の後継者が政権から追放されないようにするために必要な、党中央指導部全体の政治的支持のバラスト(ballast of political support)を提供するだろう。したがって、習近平の任期が長ければ長いほど、習近平の後継者計画(succession plan)は長期的なイデオロギー的継続性を実現できる可能性が高くなる。

習近平以降の中国政治は、今後10年間に展開する地政学(geopolitics)と地経学(geoeconomics)の影響も受けるだろう。対外戦略上、最も重要なのは台湾の行方である。アメリカ、台湾、同盟諸国の軍事力不足、あるいはアメリカの政治的意思の失敗によって、アメリカの抑止力が失敗し、習近平が迅速かつ(比較的)無血で台湾を武力奪取すれば、中国国内政治における習近平の地位は揺るぎないものとなる。習近平は、毛沢東が達成できなかった祖国統一(reuniting the motherland)を成し遂げたことになる。そして習近平は、アジア全域、やがては世界全域でアメリカの地政学的衰退が始まる中、「中国による平和(パックス・シニカ、Pax Sinica)」の新時代という枠組みを打ち立てるだろう。台湾は、中国とより広い地域で、地政学的に重大な転換点と見なされるだろう。

国内的には、習近平が望む政治的継承とイデオロギー的遺産の継続の両方を確保するために、最大限の有利な状況が整うことになる。これとは対照的に、習近平が台湾を武力で解決しようとして軍事的に敗北した場合、習近平が退陣に追い込まれるのは間違いない。このような敗北は、習近平だけが中国を強大にしたという10年以上にわたる公式宣伝(official propaganda)の後にもたらされるものであり、最高レヴェルの国家的屈辱(national humiliation of the highest order)となる。それゆえ、最高の政治的代償を支払う必要がある。実際、政権そのものの正当性が真っ向から問われることになるだろう。

しかし、第3のシナリオは、現段階では、2020年代まで抑止力が維持され、戦争が回避されるというものである。この場合、習近平の長期的な内部後継者計画にとって、台湾はほとんど意味をなさないだろう。

同様に重要なことは、自己主張が強く現状に挑戦することで有名な習近平が最終的に台湾を武力で占領するにはリスクがまだ大きすぎると判断したとしても、その後の後継者がそうする用意があるとは考えにくいということだ。こうした状況下では、長期的な国家統一に向けた代替的な外交枠組みが、北京と台北の間の新世代の交渉で可能になるかもしれない。こうした理由から、国家統一における毛沢東の業績を超え、2049年の中華人民共和国建国100周年までにそれを達成したいという習近平の願望を考えると、習近平の在任期間は台湾をめぐる戦争の可能性に関して危険がピークに達している時期を表している可能性が高い。習政権時代に効果的な抑止力によって台湾問題を解決することは、依然として現状維持支持者にとって最も重要な戦略的課題であり、これが私の前著『避けられる戦争』の焦点だ。

習近平が最終的に退場した後の中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)内の支配的な内部政治力学は、おそらく党自体の中にある長年にわたる自然な自己修正プロセスの一部となるだろう。中国共産党はその歴史を通じて、左派と右派、保守派と改革派、孤立主義者と国際主義者の間で揺れ動いてきた。これは「制御と解放(control and releasefangzhou)」の現象である。たとえば、1949年以降の時期には、毛沢東の左派が階級闘争(class struggle)、反地主運動(anti-landlord movement)、集団化された農業(collectivized agriculture)、国有化された産業(nationalized industry)に重点を置いて支配的だった。これは1956年の第8回党大会まで続き、そのとき現実主義者たちは安定した経済発展、貿易、商業を促進するために党の経済的重心を再調整しようとした。毛沢東は1958年に大躍進運動(Great Leap Forward)で報復し、通常の農業生産を犠牲にして工業化を加速しようとしたため、飢餓(famine)が蔓延した。1960年代初頭には鄧小平率いる経済現実主義者が攻勢をかけ、毛沢東は文化大革命(Cultural Revolution)で反撃し、「右派」政敵(“rightist” political opponents)を粛清し、農業と産業の集団化を強化した。これは1976年の毛沢東の死、毛沢東の左翼的誤りの正式な否定、そして鄧小平の35年に及ぶ改革開放時代の開始によって終わり、数十年ぶりに民間部門を再び受け入れた。

習近平は、中国共産党内部におけるこの長い一連の歴史的論争を、「正しい(correct)」党路線(party line)を確立するための内部弁証法的対立(internal dialectical confrontation)、矛盾(contradiction)、闘争の必然的な産物として見ていた可能性が高い。それゆえ、彼は2012年以降、特に2017年以降、鄧小平政権時代に残された経済的・社会的不均衡を是正しようと努力している。習近平の左派イデオロギー・プロジェクトに対する政治的・経済的な機運はすでに手ごわい。しかし、毛沢東の時と同様、習近平指導者が正式に退場するまで、根本的な政治的是正(fundamental political correction)を強いるほどの勢いはないだろう。習近平は間違いなく、自分の後任がどのような暫定指導部であれ、自己修正力が働く危険性を認識しており、より若く、より理想主義的で、より民族主義的な幹部をできるだけ早い時期に党指導部に登用することに拍車をかけている。

しかし、習近平の問題は時間がないことだ。習近平の政治戦略を根付かせるには、90代まで権力を維持し、イデオロギー的に信頼できる若手幹部を十分に登用しなければならないだろう。この戦略に立ちはだかるのは、政治的惰性(political inertia)、官僚的エントロピー(bureaucratic entropy)、そして歴史的に政治的平均に回帰する傾向にある党、これらの根源的な力である。習近平のような屈強な政治家であっても、政治的、経済的、社会的な敵対勢力との長期的な闘いに打ち勝つことは厳しい任務になる。

したがって皮肉なことに、弁証法の達人(the master dialectician)である習近平は、自らが作り出した弁証法的な力によって敗北する可能性がある。習近平が後20年以上持ちこたえられない限り、習近平が去った後、中国がイデオロギー的に極端になる可能性は低い。習近平のイデオロギー的プロジェクトが、現代中国における多くの個人の願望(individual aspirations)、社会規範(societal norms)、そして深い経済的利害(deep economic interests)に反していること、また、少なくともエリートたちの間で、中国が世界の多くからいかに孤立しているかという懸念が生じていることを考えれば、習近平以降の国も、中国現代史の過去の時代と同様、おそらく中央への修正(correction toward the center)を歓迎するだろう。

こうした理由から、より広い世界にとっての課題は、危機(crisis)、紛争(conflict,)、戦争(war)に頼ることなく、抑止力(deterrence)と外交(diplomacy)を組み合わせて習近平時代を効果的に乗り切ることだ。戦争は、その結果がどうでも、想像を絶する規模の死と破壊を生み出すだろう。また、中国、アメリカ、そして世界の政治と地政学を、予測不可能な方法で再定義することになるだろう。そして、世界は二度と同じようにはならないだろう。

※ケヴィン・ラッド:オーストラリア元首相・元外相。アジア・ソサエティ元会長、現在は駐米豪大使。オックスフォード大学で政治学博士号を取得。複数の著書を持ち、代表作に『避けられる戦争(The Avoidable War)』がある。ツイッターアカウント:@MrKRudd

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(終わり)

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界の構造について大きく分類すると、一極(超大国が1つ)、二極(超大国が2つ)、多極(大国が多く存在する)ということになる。一極の例で言えば、ソヴィエト連邦崩壊後、世界ではアメリカのみが超大国として君臨する状態ということになる。二極は、冷戦期の米ソ、現在の米中ということになる。多極は第一次世界大戦前、第二次世界大戦前のような状況だ。ヨーロッパではヨーロッパの協調ということで、複数の大国が平和を維持するという体制になっていたが、相互に誤解と誤った認識をしてしまうと、平和が破綻するということが起きた。このことから、二極の方がお互いの意図を誤らずに認識できるということで、平和が続くということが言われている。冷戦期は世界各地で戦争や紛争は起きたが、米ソ双方が直接戦い、核戦争まで至らなかったということで、「長い平和(Long Peace)」という評価がなされている。

 一極体制は最も安定しているように見えるが、新興大国が出てくると、不安定さが増す。また、一極体制の支配国、覇権国が安全保障などで、不公平な取り扱いをするということになれば、各国が反感や怒りを持つということもある。アメリカの一極体制は、アメリカが介入した外国からの反感による「ブローバック(blowback、吹き戻し)」に遭った。

 現在の世界は、米中による「G2」体制(Great of Two)となっている。そして、世界は、これから多極化していくという予想も出ている。

下に掲載した論稿の著者ジョー・インゲ・ベッケウォルトは以下のように主張している。

政治家、外交官、国際政治の専門家たちが世界の多極化に関する議論を展開しているが、現実はまだ多極化していない。現在、アメリカと中国のみが経済的、軍事的に大国として存在し、他の国はそのレベルに達していない。インドやロシアも有力候補として挙げられるが、極になるには経済力や軍事力の面で足りていない。

多極化論が人気の理由は、規範的概念としての魅力や対立回避の希望があるからだ。一極、二極、多極体制では行動や政策が異なり、誤解は誤った政策を生む可能性がある。多極化は未来に期待される可能性もあるが、現状では二極化した世界に生きる必要があり、戦略と政策はその状況に応じて考えられるべきだ。

 私は、現在は二極体制であるが、これはあくまで、アメリカがまだまだ強く、中国が弱いというところであり、二極体制の性格がこれから変化していく途中であり、しばらくは多極化しないと考えている。アヘン戦争勃発200周年の2040年、中華人民共和国建国100周年の2049年、この2040年代に中国はアメリカを追い抜くということを考えていると思う。この時期でも米中に匹敵する国は出てこず、それ以降は、中国が大、アメリカが小の二極体制が続くものと考える。その時期には、ヨーロッパ連合、インド、ロシアなどが米中に続く存在となっているだろうが(日本は脱落しているだろう)、世界の重要な決定に関与できるまでは行っていないだろう。短期的(10~30年)、中期的(30~50年)でみれば、米中二極体制が関係性の面で変化を起こしながら、続いていくことになるだろう。二極体制が安定し、平和が続いていくためには、相互の正しい理解と認識が必要ということになる。

(貼り付けはじめ)

いいえ、世界は多極的ではない(No, the World Is Not Multipolar

-新興大国の出現という考えは人気を集めているが、間違っている。そして、深刻な政策の誤りを導くことになるだろう。

ジョー・インゲ・ベッケウォルト筆

2023年9月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/22/multipolar-world-bipolar-power-geopolitics-business-strategy-china-united-states-india/

政治家、外交官、国際政治の専門家たちが主張する最も根強い議論の1つは、世界は多極化(multipolar)している、あるいはまもなく多極化するだろうというものだ。ここ数カ月、この議論は国連事務総長のアントニオ・グテーレス、ドイツのオラフ・ショルツ首相、ドイツのアンナレーナ・ベアボック外相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領によってなされてきた。ヨーロッパ連合(EU)のジョゼップ・ボレル外務上級代表は、2008年の世界金融危機以来、世界は「複雑な多極化(complex multipolarity)」のシステムになっていると主張している。

この考え方はビジネス界でも普及しつつある。投資銀行のモルガン・スタンレーは最近、「多極化した世界を乗り切る」ための戦略文書を発表し、ヨーロッパの名門ビジネススクールであるINSEADは、そのような世界におけるリーダーシップ能力について懸念している。

しかし、政治家、専門家、投資銀行家たちが言うことに反して、今日の世界が多極化に近いというのは単なる神話に過ぎない。

その理由は単純明快だ。極性とは、国際システムにおける大国の数のことだ。そして、世界が多極化するには、そのような大国が3カ国以上存在する必要がある。現在、極を形成できるほどの経済規模、軍事力、世界的な影響力を持つ国は、アメリカと中国の2カ国だけだ。他の大国はどこにも見当たらず、当分の間は見当たらない。人口が多く経済が成長している中堅国や非同盟国が台頭しているという事実だけでは、世界が多極化する訳ではない。

国際システムにおける他の極の不在は、明らかな候補を見れば明らかだ。2021年、急成長を遂げるインドは、力を測る指標の1つである防衛費支出で第3位だった。しかし、ストックホルム国際平和研究所の最新の数字によると、インドの軍事予算は中国の4分の1にすぎない。(そして、中国の数字は一般に信じられているよりも更に高いかもしれない。)今日、インドは依然として主に自国の発展に集中している。インドの外交サーヴィスは規模が小さく、インド太平洋での影響力の重要な尺度である海軍は、過去5年間で5倍の海軍トン数を進水させた中国と比較すると小さい。インドはいつかシステムの極になるかもしれないが、それは遠い将来のことだ。

経済的な豊かさは、権力を行使する能力を示すもう1つの指標である。日本は世界第3位の経済大国だが、国際通貨基金の最新の数字によると、日本のGDPは中国の4分の1以下である。ドイツ、インド、イギリス、フランスという日本に続く、4つの経済大国は、更に小さい。

また、エマニュエル・マクロンや他の多くの人々がそのような主張を精力的に展開してきたとしても、EUは第三極(third polar)ではない。ヨーロッパ諸国には様々な国益があり、ヨーロッパ連合には亀裂が生じやすい。ヨーロッパ連合(EU)のウクライナ支援は一見結束しているように見えるが、ヨーロッパの防衛、安全保障、外交政策は統一されていない。北京、モスクワ、ワシントンがパリやベルリンと対話し、めったにブリュッセルを訪れないのには理由がある。

もちろん、ロシアは国土の広さ、膨大な天然資源、膨大な核兵器の備蓄から、大国になる可能性のある候補である。ロシアは、国境を越えて影響力を持っていることは確かだ。大規模なヨーロッパ戦争を繰り広げ、フィンランドとスウェーデンをNATOに加盟させた。しかしながら、経済規模はイタリアより小さく、軍事予算はせいぜい中国の4分の1に過ぎないため、ロシアは国際システムの第三極にはなれない。せいぜい、ロシアは中国を支援する役割しか果たせない。

多極化を信じる人々の間で広く議論されているのは、グローバルサウスの台頭と西側の地位の低下だ。しかし、インド、ブラジル、トルコ、南アフリカ、サウジアラビアなどの新旧中堅大国(middle powers)の存在は、システムを多極化するものではない。これらの国はいずれも、自国の極となるための経済力、軍事力、その他の影響力を持っていないからだ。言い換えれば、これらの国にはアメリカや中国と張り合う能力がないのだ。

アメリカの世界経済におけるシェアが縮小しているのは事実だが、特に中国と合わせると、依然として優位な立場にある。この二超大国は世界の防衛費の半分を占めており、両国のGDPを合計すると、それから下の経済大国33カ国の合計とほぼ同等となる。

先月ヨハネスブルグで開催されたBRICSサミットでBRICSフォーラムが拡大したこと(以前はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのみだった)は、多極秩序(multipolar order)が到来したか、少なくとも前進しつつある兆候と解釈されている。しかし、ブロックは極(poles)として機能するにはあまりにも異質であり、簡単に崩壊する可能性がある。BRICSは首尾一貫したブロックには程遠く、加盟諸国は国際経済秩序に関する見解を共有しているかもしれないが、他の分野では大きく異なる利益を持っている。協調関係を示す最も強力な指標である安全保障政策では、2大加盟国である中国とインドは対立している。実際、北京の台頭により、インド政府は米国とより緊密に協調するようになっている。

従って、世界が多極化していないのなら、どうして多極化論はこれほど人気が​​あるのだろうか? 国際関係に関する事実や概念を無視するという怠惰なやり方に加えて、3つの明白な説明が浮かび上がる。

第一に、多極化の考えを推し進める多くの人々にとって、それは規範的な概念である。それは、西洋の支配の時代は終わり、権力は分散している、あるいは分散しているべきだと言っている、あるいは望んでいることの別の言い方である。グテーレスは、多極化(multipolarity)を、多国間主義(multilateralism)に修正し、世界システムに均衡(equilibrium)をもたらす方法と見なしている。多くのヨーロッパ各国の指導者たちにとって、多極化(multipolarity)は二極化(bipolarity)よりも好ましい選択肢とみなされている。なぜなら、多極化はルールによって統治される世界をより良く実現し、多様な主体とのグローバルなパートナーシップを可能にし、新しいブロックの出現を防ぐと考えられているからだ。

実際に、多国間枠組は確かに想定通りに機能しておらず、西洋の人々の多くは、多極化の考えをより公平なシステム、多国間主義を復活させるより良い方法、そして、グローバルサウスとの拡大する断絶を修復する機会と見ている。言い換えれば、存在しない多極化を信じることは、世界秩序に対する希望と夢の花束の一部だ。

多極化の考え方が流行している2つ目の理由は、30年にわたるグローバル化(globalization)と比較的平和な状況の後、政策立案者、専門家、学者たちの間で、アメリカと中国の間にある激しく、包括的で、二極化した対立の現実を受け入れることに非常に抵抗感があることだ。この点で、多極化を信じるということは、一種の知的回避(intellectual avoidance)であり、冷戦が再び起こらないようにという願いの表れだ。

第三に、多極化に関する議論はしばしば権力争いの一部である。北京とモスクワは、多極化をアメリカの力を抑制し、自国の立場を前進させる手段と見なしている。アメリカが圧倒的な優位を占めていた1997年に遡ると、ロシアと中国は多極化世界と新国際秩序の確立に関する共同宣言に署名した。中国は今日では大国であるが、依然としてアメリカを主な課題と見なしている。北京はモスクワとともに、多極化という概念は、南半球を喜ばせ、自国の大義に引き付ける手段として利用している。多極化は2023年を通じて中国の外交的魅力攻勢の中心テーマであり、プーティン大統領は7月のロシア・アフリカ首脳会談で、出席した指導者らが多極化世界を推進することで合意したと宣言した。同様に、ブラジルのルラ大統領のように台頭する中堅国の指導者が多極化という概念を推進する場合、それは自国を主要な非同盟国として位置づけようとする試みであることが多い。

極、そしてそれに関する誤解が広まっていること自体が重要なのかと疑問に思う人もいるかもしれない。簡単な答えは、世界秩序における極の数は非常に重要であり、誤解は戦略的思考を不明瞭にし、最終的には誤った政策につながるということだ。極が重要な理由は2つある。

第一に、一極(unipolar)、二極(bipolar)、多極(multipolar)体制では、国家の行動に対する制約の度合いが異なり、異なる戦略と政策が必要となる。例えば、6月に発表されたドイツの新しい国家安全保障戦略では、「国際および安全保障環境は多極化が進み、不安定になっている」と述べている。多極体制は確かに一極や二極体制よりも不安定であると見なされている。多極体制では、大国は同盟や連合を結成して、1つの国が他の国を支配することを避ける。大国が忠誠心を変えた場合、継続的な再編や突然の変化につながる可能性がある。二極体制では、2つの超大国が主にお互いのバランスを取り、主なライバルが誰であるかを疑うことはない。したがって、ドイツの戦略文書が間違っていることを願うべきだ。

極は企業にとっても重要だ。モルガン・スタンレーと INSEAD は、顧客と学生を多極化した世界に向けて準備させているが、二極化したシステムで多極化戦略を追求することは、高くつく間違いとなる可能性がある。これは、貿易と投資の流れが極の数によって大きく異なる可能性があるためだ。二極化システムでは、二大国は相対的な利益を非常に気にするため、経済秩序はより二極化し、分裂する。秩序の種類ごとに異なる地政学的リスクが伴い、企業が次の工場をどこに建設すべきかという戦略を誤ると、非常に高くつく可能性がある。

第二に、明らかに二極化している世界が多極化すると、友好国にも敵国にも同様に誤ったシグナルを送る可能性がある。4月のマクロン大統領の中国訪問中に発せられた発言が引き起こした国際的な騒動が、この点を物語っている。ヨーロッパに帰る途中の機内でのインタヴューで、マクロン大統領はヨーロッパが第三の超大国になることの重要性を強調したと伝えられている。マクロン大統領が多極化について熟考する姿勢は、ワシントンやヨーロッパのフランスの同盟諸国には受けが悪かった。中国側のホストは喜んでいるように見えたが、マクロン大統領の多極化に関する考えを、米中対立で中国を支持するフランスや欧州の姿勢と混同すれば、誤ったシグナルを受け取ったことになるかもしれない。

多極体制は、敵対する超大国が2つある世界ほど、露骨に二極化していないかもしれないが、必ずしもより良い世界につながるわけではない。多国間主義の手っ取り早い解決策ではなく、更なる地域化(regionalization)につながる可能性もある。多極化を望み、存在しないシステムにエネルギーを費やすよりも、より効果的な戦略は、既存の二極体制内で対話のためのより良い解決策とプラットフォームを探すことである。

長期的には、世界は確かに多極化する可能性があり、インドはアメリカと中国に加わる最も明白な候補である。しかし、その日はまだ遠い。私たちは予見可能な将来、二極化した世界に生きることになるだろう。そして、戦略(strategy)と政策(policy)はそれに応じて設計されるべきである。

※ジョー・インゲ・ベッケウォルト:ノルウェー国防研究所中国担当上級研究員、元ノルウェー外務省外交官。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカの有名なシンクタンクである、アメリカ・エンタープライズ研究所から「台湾とコントロールするための中国の3つの方途(China’s Three Roads to Controlling Taiwan)」という報告書が出たのは2023年3月13日だった。
下記アドレスから見ることができる。
https://www.aei.org/research-products/report/chinas-three-roads-to-controlling-taiwan/

 そして、今年5月に『ザ・ヒル』誌にその内容の概略が、報告書の著者であるダン・ブルーメンソールとフレッド・ケーガンによって論稿として発表された。ブルーメンソールは中国専門家として知られ、国務省に勤務した経験を持つ。フレッド・ケーガンは、アメリカのネオコン派の「名家」ケーガン一族に属しており、兄はロバート・ケーガン、義姉は、ヴィクトリア・ヌーランド前国務次官、妻は戦争研究所(Institute for the Study of War)の所長を務めるキンバリー・ケーガンである。フレッドは、2007年のイラクへのアメリカ軍増派作戦(「大波」計画[Surge Plan])の立案者として知られる。アメリカを戦争の泥沼に引き入れた一族の一員だ。

 この報告書の内容は、「中国は武力侵攻などしなくても台湾統一を実現できるということに今気づいた。アメリカは非武力的な方法にも注意をしなくてはいけない」というものだ。

 私は拙著『悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める』や『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』、このブログで、散々、「中国は台湾に侵攻しなくても統一できるし、現状は既にぴったりとくっついていて、両岸関係は緊密だ」と書いてきた。中国が武力で台湾に侵攻することなど書いてきた。「台湾有事だ」「ウクライナの次は台湾だ」「日本はアメリカと一緒になって台湾防衛のために中国と戦う」といったお勇ましい言論は、為にする言論であって、日本にとって害悪だ。

 私が不思議に思っているのは、昨年に発表した報告書の内容を今年になって論説にまとめて発表したことだ。どうしてこんなことをするのだろうかと考えて、私なりの答えにたどり着いた。それは、彼らの飯の種を何とか確保するということだ。現在のアメリカh、ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争の2つに注目が集まり、お金を出す出さないでお重めしてきた。しかし、共和党系のネオコン派や民主党系の人道的介入主義派の主敵は、中国である。ウクライナ戦争もパレスティナ紛争も先行きが見えない現状では、中国のために割くエネルギーは残っていない。それでは、この人たちは困るのだ。

 だから、バイデンが中国製の電気自動車に100%の関税をかけると発表した時期に、「中国も大変なんだよ」というアピールをするということだ。何とも迷惑な話である。

 中国はアメリカの衰退という大きな政界史的転換期の動乱を乗り越えようとしている。しかし、それが過ぎて安定期に入り、世界覇権国になっていく時期には、少しずつ、自由化や民主化を行っていくだろう。それはしかしまだ10年単位で先の話である。そして、台湾をゆっくりと中国に近づけさせていきながら、中国国内の制度も変更していき、台湾の人々が統一を選べるようにしていくだろう。そこにアメリカが付け入るスキはないし、アメリカが介入して良い問題でもない。もっとも、その頃にはアメリカは力を失っているだろう。

(貼り付けはじめ)

台湾統一を実現するために中国は侵攻する必要はない(China doesn’t need to invade to achieve Taiwanese unification

ダン・ブルーメンソール、フレッド・ケーガン筆

2024年5月13日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/opinion/international/4657439-china-doesnt-need-to-invade-to-achieve-taiwanese-unification/

アメリカは第二次世界大戦後、最も厳しい国際安全保障環境に直面している。

戦争が続いており、中東においても拡大する恐れがあるにもかかわらず、ウクライナ戦争は激化している。一方、中華人民共和国は近隣諸国への嫌がらせと威嚇を続けており、アメリカ政府は台湾に対する中国の攻撃の脅威をより強く認識している。

台湾の安全保障への関心が高まるのは歓迎されることだが、現在の言論は、中国による台湾侵攻の脅威に焦点を当てすぎている。北京には、台湾に対する現在進行中のハイブリッド戦争作戦(hybrid warfare campaign)をエスカレートさせるなど、侵攻という手段を取らずに統一を強制する他の選択肢がまだある。アメリカの政策は、そのような戦略を抑止したり打ち負かしたりするようには設計されていない。

中国は、主に次の3つの理由により、台湾侵攻よりも限定的な運動行動(limited kinetic action)を伴う政治的・経済的戦争を中心とした、私たちが「戦争に至らない強制作戦(short of war coercion campaign)」と呼ぶ作戦を追求する可能性が高い。

第一に、戦争ではない手段で台湾を併合すれば、中国の他の大戦略目標(Chinese grand strategic objectives)にダメージを与える可能性を大幅に抑えることができる。中華人民共和国の長期的な戦略目標は、包括的な国力を構築し続け、世界を主導する超大国になることだ。そして、国際政治秩序を決定的に再編成し、自らをその中心に据えることを目指している。中国の国家最高指導者の習近平は、台湾を大陸と統一することがこの大戦略の重要な要素であると考えていることは明らかだが、本格的な、そしておそらく、世界規模の戦争を始めることで、中国の地政学的支配への歩みを危険に晒すことを嫌っているのかもしれない。

第二に、政治戦(political warfare)と限定的な運動行動を中心とした、戦争に至らない戦略が成功する可能性がある。台湾の直近の選挙では、国内の政治的分裂が浮き彫りになり、アメリカの支持に対する懐疑的な見方が高まった。このような感情は、台湾が国際的に孤立しているという事実によって更に強化されている。台湾の地位は国際問題において特異なもの(sui generis)であり、世界の諸大国に承認されていない、完全に機能する国民国家(nation-state)である。このことは、台湾の見捨てられてしまうという、理解できる恐怖を中国が操る隙を生み出す。

第三に、戦争に至らない戦略は、中国の戦略的思考とこれまでの行動と一致している。中国の戦闘コンセプトの中には、伝統的な運動論的武力の行使を超える手段を用いて戦争を戦うことの有用性に言及しているものが数多くある。これらのコンセプトは、南シナ海や東シナ海、台湾海峡における中国の「グレーゾーン作戦(gray zone operations)」において定期的に採用されてきた。一般的な成功例からすると、中国は台湾併合作戦において、これらの手段の採用を強化する可能性が高い。

私たちの新しい報告書は、北京が現実的にそのような戦略を達成できることを示している。中国の戦略立案者たちの考え方を採用することで、私たちは、中国が侵略や明白な軍事封鎖(overt military blockade)を行うことなく台湾に対する政治的支配を確立できるような、実現の高い戦争に至らない強制作戦を考案した。

私たちがモデルとした作戦は、台湾の新総統の就任からその一期目までの4年間にわたって実施された。この期間中、中国は米台関係を破壊し、台湾政府の統治能力を低下させ、台湾の抵抗意志(Taiwanese will to resist)とアメリカの台湾支援の意欲を著しく損なうだろう。

私たちは、4年間にわたる絶え間ない中国の空軍および海軍の侵攻、準封鎖(quasi-blockade)、政治戦と工作(political warfare and manipulation)、台湾の重要インフラに対する大規模なサイバーおよび物理的破壊行為(extensive cyber and physical sabotage of Taiwan’s critical infrastructure)、および沖合の島々への致命的な武力が、台湾政府内で「認知的過負荷(cognitive overload)」を引き起こし、台湾国民全体が混乱を感じるようになっている。

このような作戦の過程で、アメリカは中国の情報戦(information warfare)に晒され、特に中国との新たな経済協定の後、台湾は戦争をする「価値がない(not “worth”)」と確信するようになるだろう。アメリカの対応を麻痺させる中国の能力に懐疑的な人々は、2015年以来、ウクライナをめぐるNATOとの決裂につながりかけたロシアの対アメリカ政治戦争に注目していない。特に、中国による苦痛を与える作戦が、アメリカが準備している侵攻の兆候や警告を何ら引き起こさないのであれば、アメリカは中国の強制的な作戦には参加しない可能性が高い。

私たちが想定している作戦では、台湾が混乱に陥り、最強の同盟国から見捨てられたように見えるということになる。中国は「和平(peace)」を申し出る機会を捉え、北京が指示するガイドラインに従って協力する代わりに、強制的な作戦を停止し、ある程度の自治を保証することを約束する。

そして、台湾政府は中国の一部になることを望んでいないにもかかわらず、最終的には中国の望む統一につながるであろう計画に同意することで、国民の苦しみを終わらせることを選択する。

私たちの報告書に概説されているシナリオは、私たちが必然的に起こると考えていることの評価を表している訳ではない。むしろ、戦争による強制という短時間のシナリオが現実的であり、非常に危険であることを示そうとしている。

このような戦略を阻止するために、アメリカ、台湾、そして地域の同盟諸国が取るべき手段はいくつかある。これらの政府は、国際法の下での台湾の主権的権利(Taiwan’s sovereign rights)を明確に示すことから始めなければならない。そうすることで、封鎖や船舶検査体制(shipping inspections regimes)を「内政問題(internal matters)」として正当化する中国の法律戦作戦(lawfare campaigns)に対抗することができる。

台湾とアメリカの両政府は、台湾の対干渉・対破壊工作の法的権限と能力(Taiwan’s counter-influence and anti-subversion legal authorities and capabilities)を向上させるためにも協力すべきである。この協力は、台湾が封鎖や封鎖に類似した経済活動に耐えられるようにするための、より広範な取り組みにも及ぶべきである。

最後に、アメリカ主導の連合は、中国の軍事的威嚇努力を阻止するために政治的、経済的コストを課すべきである。例えば、現在の台湾海峡での中国の空軍侵攻に対する回答は、台湾と国際社会との間の民間航空協力の拡大と、地域の防空体制への台湾の統合の両方であるべきである。

中国政府は、進行中の「グレーゾーン(gray zone)」作戦を強化するなど、台湾の支配を成功させるための多くの方法を持っている。中国は、台湾社会に多大な苦痛を与え、アメリカの介入(U.S. intervention)を阻止するための、戦争強制以外の組織的な作戦において、主に台湾の国際的孤立(Taiwan’s international isolation)と同盟関係の欠如(lack of alliance relations)といった台湾の脆弱性(Taiwanese vulnerabilities)を利用しようとする可能性がある。

中国が威圧的な取り組みを強化しそうな手段に焦点を当てることで、アメリカはそれを克服することができる。

※ダン・ブルーメンソール:アメリカ・エンタープライズ研究所上級研究員。
※フレッド・ケーガン:アメリカ・エンタープライズ研究所クリティカル・スレッツ・プロジェクト部門部長。

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(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカのジョー・バイデン大統領は、中国からアメリカに輸出される電気自動車の関税を100%に引き上げると発表した。電気自動車をめぐり、米中の間は争いになっている。

バイデン大統領が強いドル政策を維持していれば、自然とアメリカからの輸出は高くなり、中国からの輸入は安くなる。関税を引き上げて、国内メーカーを保護するにしても、アメリカ最大の電気自動車メーカーであるテスラは中国との関係は悪くないし、既に進出して一定のシェアを保っている。

アメリカのテスラ(Tesla Motors)のイーロン・マスクは、中国との関係が悪くないどころか、良好である。上海にテスラの工場があり、テスラにとっての最大の市場は中国市場である。テスラのイーロン・マスクにしてみれば、バイデン政権の輸入電気自動車の関税引き上げは、中国からの報復を引き起こす可能性があり、迷惑なことだろう。テスラは電池だけの電気自動車に特化しており、バッテリー関連で制裁されると、テスラにとっては大きな痛手となる。イーロン・マスクがバイデンを支持していないこと、アメリカの三大メーカーが電気自動車で後塵を拝していることから、関税引き上げがやりやすかったということが考えられる。

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 バイデンの関税引き上げは、国家安全保障上の懸念から実施された面がある。アメリカ国内で中国メーカーの電気自動車が「コネクテッド・ヴィークル(connected vehicles)」であり、個人情報の流出やハッキングを警戒している。コネクテッド・ヴィークル「インターネットを介し、さまざまな情報を送受信できる次世代の自動車」のことであり、ジーナ・ライモンド米商務長官は中国製の電気自動車を「車輪のついたスマートフォン」と呼んでいる。個人情報が外国(中国)に流れることを懸念している。また、ハッキングされたり、遠隔操作をされたりして、運転できない状態にされることや、この電気自動車を通じて、政府機関のコンピュータへの侵入されてしまうことを懸念している。アメリカ国内市場で、安価な中国製の電気自動車がシェアを伸ばすことは、こうした懸念を増大させることになる。しかし、他国からすれば、アメリカ製の電気自動車に対して、同様の懸念がある。
 今回のバイデン大統領の措置は経済的な懸念というよりは、安全保障上の懸念の側面が強いということになる。また、政治的に見て、自分の再選に大きな影響がないと判断したものでもあるだろう。

(貼り付けはじめ)

●「バイデン氏、中国製品国家経済会議分への関税引き上げ 電気自動車は100%に」

2024.05.14 Tue posted at 20:30 JST CNN

https://www.cnn.co.jp/usa/35218904.html

ワシントン(CNN) バイデン米大統領は14日までに、中国からの輸入品のうち、国家安全保障に戦略的な重要性を持つ180億ドル(約2兆8000億円)相当の製品に対する関税を引き上げる方針を明らかにした。

鉄鋼やアルミニウム、汎用(はんよう)(レガシー)半導体、電気自動車、バッテリー部品、重要鉱物、太陽電池、クレーン、医療用品などに適用される。

電気自動車の関税を現行の27.5%から100%と約4倍に引き上げるほか、太陽光パネル関連は50%、他分野の製品は25%とする。

米国家経済会議(NEC)のブレイナード議長は、中国が自国の成長のために他国を犠牲にする戦略を続けていると批判した。

トランプ前大統領は在任中、中国から輸入される3000億ドル相当の製品に追加関税を課した。この措置は4年に1度、効果を検証することが法律で義務付けられている。バイデン政権の新たな関税は、この検証結果に基づいているという。

ホワイトハウス当局者らによると、バイデン政権は政策の優先順位に沿って算定法の見直しも図り、クリーンエネルギー技術に重点を置いた。

中国はこれまでの関税に、高い報復関税で対抗してきた。ホワイトハウスは、中国が今回どのような対抗措置を取るかについての言及を避けた。

=====

バイデン氏、中国の電気自動車を取り締まる(Biden Cracks Down on Chinese Electric Vehicles

-外国の「コネクテッド・ヴィークル(connected vehicles)」に関する新たな調査は、将来的に北京のハイテク部門に対する措置を可能にする可能性がある。

A new investigation into foreign “connected vehicles” could enable future action against Beijing’s tech sector.

クリスティーナ・リュー、リシ・イエンガー筆

2024年3月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/01/biden-china-electric-vehicles-tech-security-investigation-commerce/

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中国東部の江蘇省にある蘇州港にある国際コンテナターミナルで船への積み込みを待つBYD製の電気自動車(2023年9月11日)

バイデン政権は木曜日、米商務省に対し、中国製の「コネクテッド・ヴィークル(connected vehicles)」がもたらす潜在的な国家安全保障上の脅威を調査するよう命令した。これは、中国との関係のリスクを軽減し、中国のハイテク産業に対して、圧力をかけようとするアメリカの最近の取り組みを示すものである。

ジョー・バイデン米大統領は声明の中で次のように警告している。「これらの電機自動車は、私たちの電話やナビゲーションシステム、重要なインフラ、そしてそれらを製造した企業に接続されている」と述べた。このような自動車は、わが国の市民やインフラに関する機密データを収集し、そのデータを中華人民共和国に送り返す可能性がある」。これらの電気自動車事態は「遠隔操作でアクセスされたり、機能停止させられたりする」とバイデンは述べている。

中国は電気自動車(electric vehicleEV)生産大国に成長し、アメリカとヨーロッパの同盟諸国を動揺させてきた世界の産業内で支配的な地位を築いている。バイデン政権が発表した調査は、テクノロジーへの懸念が米中関係を支配するようになった最新の例であり、車両を対象とした将来のアメリカの措置の基礎を築く可能性がある。

バイデンは続けて次のように述べている。「中国は、不公正な慣行を用いるなどして、将来の自動車市場を支配しようとしている。中国の政策は、私たちの市場に中国製の電機自動車を氾濫させ、私たちの国家安全保障にリスクをもたらす可能性がある。私の目の前でそのようなことが起こるのを許すつもりはない」。

バイデン政権の最新の攻撃は、テクノロジーの未来と未来のテクノロジーの両方をめぐる米中競争の、より広範なエスカレートに当てはまる。半導体チップ(semiconductor chips)、人工知能(artificial intelligence)、対外技術投資(outbound tech investment)に対する行動が最も注目されているが、ワシントンは更に多くの蛇口を閉めようとしているようだ。

コロラド鉱山大学ペイン研究所のモーガン・所長は、本誌に宛てた電子メールの中で、バイデン政権が発表の中で国家安全保障上の必要性を強調したことに触れながら、「これは米中間の現在進行中の貿易戦争の一環のように考えられる」と書いている。

バジリアンは、「確かに、サイバーとデータの面で実際のセキュリティ上の脅威は存在するが、私にとって主な推進力は経済的な闘争のように見える」と付け加えた。

こうした経済的懸念は、アメリカに限ったものではない。ここ数カ月間、安価な中国製電気自動車の流入に対する懸念は、中国政府の主要電気自動車市場の1つであるヨーロッパでも動揺しており、ヨーロッパ議会議員らは、中国政府が国内の電池式電気自動車メーカーに与えた補助金疑惑について調査を開始するまでに至っている。中国政府は、中国の電気自動車に補助金を与えることで、EUの電気自動車メーカーを圧倒しているという疑いだ。中国の電気自動車輸出は過去3年間で851%と爆発的に増加し、中国製のほとんど電気自動車がヨーロッパ市場に上陸した。

アメリカにおける中国製電気自動車の販売は依然として比較的小規模だが、特にバイデン大統領と共和党の対抗馬となる可能性が高いドナルド・トランプ前大統領が、11月の大統領選挙に向けて準備を進める中、アメリカの政治論争でも、ヨーロッパにおけるのと同様の懸念が浮上している。バイデンは先月、全米自動車労働組合がバイデン大統領の再選を正式に支持し、政治的に大きな勝利を確実にした一方、トランプ前大統領は自動車労働者の支持を集めるために選挙期間中、バイデンの電気自動車政策を激しく非難してきた。

そして実際、バイデンは木曜日の声明で、自身の政治的動機を隠そうとはしなかった。バイデンは次のように述べた。「大統領として、私は自動車労働者と、自動車産業に雇用を依存する中流家庭に対して正しいことをすると誓った。今回の措置やその他の措置によって、私たちは、自動車産業の未来がここアメリカでアメリカ人労働者によって作られることを確実にするつもりだ」。

戦略国際​​問題研究所の中国ビジネス専門家イラリア・マッツォッコは、「自動車産業をめぐる政治経済は非常に強力かつ重要だ。中国の電気自動車が先進諸国の主要産業を、非常に破壊的な形で脅かす可能性があるという深刻な懸念があると考えている」と述べている。

複数の米政府高官は、今回の調査は、データをめぐる国家安全保障上の懸念に根ざしていると強調する。ジーナ・ライモンド米商務長官は、「コネクテッド・ヴィークルにアクセスできる外国政府が、国家安全保障とアメリカ国民の個人的プライバシーの双方に深刻なリスクをもたらす可能性があると考えるのは、ほぼ想像力を必要としないものだ」と述べ、電気自動車を「車輪のついたスマートフォン(smart phones on wheels)」と例えた。

ライモンド長官は、「これらの自動車に搭載され、広範囲のデータを取得したり、コネクテッド・ヴィークルを遠隔操作で無効化したり、操作したりできる技術の範囲を理解する必要がある」と続けて述べた。

バイデン政権の今回の発表は、中国やロシアを含む6つの「懸念国(countries of concern)」に対する、アメリカ人の個人データの売却を制限することに焦点を当てた大統領令を発表した翌日に行われた。この大統領令では、ゲノムデータ(genomic data)、バイオメトリックデータ(biometric data)、金融データ(financial data)、個人健康データ(personal health data)、地理位置情報(geolocation data,)、そして個人を特定できる特定のカテゴリーという6つの機密情報のカテゴリーについて概説している。

しかし、データの流れを監督し取り締まることはより難しくなる可能性があり、バイデン政権による最新の規制は、アメリカ市民にとって意図しない結果をもたらす可能性があると、アメリカ自由人権協会(ACLU)は水曜日に警告した。ACLU上級政策顧問コーディ・ヴェンスキは声明の中で次のように述べた。「この大統領令は、政府の干渉を受けずに情報を共有しアクセスする私たちの権利を更に侵食し、消費者たちがプライバシーとセキュリティのニーズに最も適したオンラインサービスを選ぶことを禁じ、プライバシーを保護するどころか、むしろ害する結果になりかねない」。

ヴェンスキは続けて、「私たちのオンライン上の安全を本当に守るために、バイデン政権はその代わりに、私たちに関して収集されるデータの氾濫を食い止め、暗号化のような強力な保護を受け入れる、強固なプライバシー法を可決するよう議会を後押しすることに集中すべきだ」と述べた。

この2つの措置は互いに接近しており、中国のアメリカのテクノロジーへのアクセスを遮断することを目的とした過去数年間にわたる一連の大統領指示の最新のものである。

戦略国際​​問題研究所(CSIS)の貿易・技術専門家エミリー・ベンソンは、「これらの政策を総合すると変化が起こり、新たなパラダイムが生まれる。全体として、テクノロジーがこの新たな経済と国家安全保障の課題の最前線にあるということは、改めて非常に明白な象徴であり、それがすぐに変わる可能性は低い」と述べている。

※クリスティーナ・リュー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@christinafei

リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』誌記者。ツイッターアカウント:@Iyengarish

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