古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 米中関係

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。

 ヘンリー・キッシンジャーが最後に発表した(と考えられる)論稿を以下にご紹介する。この論稿については、『トランプの電撃作戦』でも取り上げた。論稿の共著者はハーヴァード大学教授グレアム・アリソンだ。これは推測になるが、この論稿の草稿はアリソンが書き、キッシンジャーが目を通し、加筆修正したのだろう。キッシンジャーが共著者として名前を出しているというのは、アリソンがそれだけの実力を持つ学者であるからだ。最新刊『トランプの電撃作戦』でも書いたが、アリソンはキッシンジャーのハーヴァード大学の教え子である。

 冷戦期、アメリカとソ連は、核兵器開発競争から協力しての核兵器管理に移行した。これは、突発的な核兵器を使っての戦争の発生を抑制して、世界を破滅させ異様にするとともに、核兵器開発や保有による負担を軽減するためのものであった。また、核兵器が多くの国に拡散しないようにするということもあった。核兵器の世界規模での管理体制構築が進められた。それによって、冷戦期は「長い平和(long peace)」と呼ばれるような状態を保つことができた(実際に戦争が起きた地域もあるが)。

 20世紀の核兵器開発技術に相当するのが、21世紀ではAIartificial intelligence、人工知能)である。AIの軍事転用は既に進んでいる。そのことも『トランプの電撃作戦』で取り上げている。20世紀に米ソ間で核兵器開発について管理(control)がなされたように、AIに関しても、管理なされるべきだというのが、キッシンジャーとアリソンの主張である。21世紀の管理は米中両国で行われることになる。そのためには米中間での対話が必要である。ドナルド・トランプ米大統領と習近平中国国家主席の間での対話が何よりも重要ということになる。

 『トランプの電撃作戦』で詳しく分析したが、米中露による新たな枠組みができつつある。アメリカ一極支配が終わる中で、アメリカと中露による世界管理ということになっていくだろう。詳しくは是非新刊をお読みいただきたい。

(貼り付けはじめ)

AI 軍備管理への道(The Path to AI Arms Control

-アメリカと中国は大惨事(Catastrophe)を回避するために協力する必要がある

ヘンリー・A・キッシンジャー、グレアム・アリソン筆

2023年10月13日

『フォーリン・アフェアーズ』誌

https://www.foreignaffairs.com/united-states/henry-kissinger-path-artificial-intelligence-arms-control

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上海で展示されるテスラのロボット(2023年7月)

※ヘンリー・A・キッシンジャー(HENRY A. KISSINGER):キッシンジャー・アソシエイツ会長。国家安全保障問題担当大統領補佐官(1969-1975年)、米国務長官(1973-1977年)を歴任。

※グレアム・アリソン(GRAHAM ALLISON):ハーヴァード大学ダグラス・ディロン記念政治学教授。著書に『戦争に進む運命:アメリカと中国はトゥキュディデスの罠を避けられるか?(Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?)』がある。

今年は、史上最も悲惨な戦争(the deadliest war in history)が終結し、近代において大国間戦争(great-power war)がなかった最長期間が始まってから78周年を迎える。なぜなら、第一次世界大戦のわずか20年後に第二次世界大戦が勃発したからであり、第三次世界大戦の亡霊(the specter of World War III)は、理論上全人類を脅かすほど破壊的となった兵器を使って戦い、その後の冷戦の数十年にわたって張り付いていたからである。アメリカによる広島と長崎の原爆を使用しての破壊により、日本は即時無条件降伏(Japan’s immediate unconditional surrender,)を余儀なくされたとき、世界が今後70年間にわたり核兵器の使用を事実上一時停止するとは誰も考えなかった。ほぼ80年後、核兵器保有国がわずか9カ国になるということは、さらにありそうもないことのように思えた。核戦争(nuclear war)を回避し、核拡散(nuclear proliferation)を遅らせ、数十年にわたる大国の平和をもたらした国際秩序の形成において、この数十年にわたってアメリカが示したリーダーシップは、アメリカの最も重要な成果の一つとして歴史に残るだろう。

今日、世界が別の前例のない、ある意味では更に恐ろしいテクノロジーである人工知能(artificial intelligence)によってもたらされる特有の課題に直面しているため、多くの人が歴史に教訓を求めているのは驚くべきことではない。超人的な能力を備えたマシンは、宇宙の支配者としての人類の地位を脅かすのだろうか? AIは集団暴力手段(means of mass violence)における国家の独占を弱体化させるだろうか? AIによって、個人や小集団が、これまで大国の権限であったような規模で人を殺すことができるウイルスを生成できるようになるのだろうか? AI は今日の世界秩序の柱である核抑止力(nuclear deterrents)を侵食する可能性があるだろうか?

現段階では、誰もこれらの質問に自信を持って答えることはできない。しかし、この2年間、AI革命の最前線に立つテクノロジー・リーダーたちと一緒にこれらの問題を探求してきた結果、AIの無制限な進歩がアメリカと世界に破滅的な結果をもたらすという見通しは非常に説得力を持ち、各国政府の指導者たちは今すぐ行動を起こさなければならないという結論に達した(we have concluded that the prospects that the unconstrained advance of AI will create catastrophic consequences for the United States and the world are so compelling that leaders in governments must act now)。彼らも他の誰も未来がどうなるかを知ることはできないが、困難な選択と行動を今日から始めるには十分なことが分かっている。

指導者たちがこうした選択をする際には、核時代に学んだ教訓がその決定に影響を与える可能性がある。何億人もの人々を殺害する可能性がある前例のないテクノロジーの開発と導入を競う敵対者たちでさえ、共通の利益が存在する島を発見した。二者独占(duopolists)として、アメリカとソ連の両国は、この技術が自国を脅かす可能性のある他の国家に急速に拡散するのを防ぐことに関心を持っていた。ワシントンとロシアは両国とも、核テクノロジーが自国の国境内で不正行為者やテロリストたちの手に渡った場合、脅威に利用される可能性があることを認識しており、それぞれが自国の兵器庫のために堅固な安全システムを開発した。しかし、敵対する社会の不正行為者が核兵器を手に入れれば、それぞれが脅される可能性もあることから、両者とも、このリスクを互いに話し合い、これが起こらないようにするために開発した慣行や技術について説明することが自分たちの利益になると考えた。米ソ両国の核兵器の保有量が、どちらも自滅する反応を引き起こさずに相手を攻撃できないレベルに達すると、相互確証破壊(mutual assured destructionMAD)という逆説的な安定性を発見した。この醜い現実が内面化されるにつれ、各勢力は自らを制限することを学び、戦争につながる可能性のある対立を避けるために敵対者を説得して自国の取り組みを抑制する方法を見つけた。実際、アメリカとソ連の両政府の指導者たちは、自国が最初の犠牲者となる核戦争を回避することが重大な責任であると認識するようになった。

今日 AI によってもたらされる課題は、単なる核時代の第2章ではない。歴史は、スフレを作るためのレシピを載せた料理本ではない。AI と核兵器の違いは、少なくとも類似点と同じくらい重要だ。しかし、適切に理解され、適応されれば、80年近く大国間戦争がなかった国際秩序の形成において学んだ教訓は、今日AIに立ち向かう指導者たちに利用できる最良の指針となる。

現時点では、AI 超大国は2つだけだ。最も洗練された AI モデルをトレーニングするために必要な人材、研究機関、大量のコンピューティング能力を備えているのはアメリカと中国だけだ。これは、AI の最も危険な進歩と応用を防ぐためのガイドラインを作成するための狭い機会を彼らに提供する。アメリカのジョー・バイデン大統領と中国の習近平国家主席は、おそらく11月にサンフランシスコで開催されたアジア太平洋経済協力会議の直後に首脳会談を開催することでこの機会を捉えるべきであり、そこでは、今日直面している最も重大な問題の1つと見るべきものについて、延長的で直接、対面で議論することができるだろう。

■核兵器時代からの様々な教訓(LESSONS FROM THE NUCLEAR AGE

1945年、原子爆弾が日本の都市を壊滅させた後、パンドラの箱を開けた科学者たちは、自分たちが作り出したものを見て恐怖に慄いた。マンハッタン計画の主任科学者ロバート・オッペンハイマーは、バガヴァッド・ギーター(Bhagavad Gita)の一節を暗唱した。「今、我は死神、世界の破壊者になれり(Now I am become Death, the destroyer of worlds.)」。オッペンハイマーは、原爆を制御するための過激な手段を熱烈に支持するようになり、機密保持資格(security clearance)を剥奪された。「ラッセル・アインシュタイン宣言(Russell-Einstein Manifesto)」は1955年、バートランド・ラッセルやアルバート・アインシュタインだけでなく、ライナス・ポーリングやマックス・ボルンなど11人の一流の科学者が署名し、核兵器の恐るべき威力を警告し、世界の指導者たちに決して核兵器を使用しないよう懇請した。

ハリー・トルーマン米大統領は、この決断について考え直すとは決して言わなかったが、彼も彼の国家安全保障ティームのメンバーたちも、この驚異的な技術を戦後の国際秩序にどのように組み入れることができるのか、実行可能な見解を持っていなかった。アメリカは、唯一の原子大国としての独占的地位を維持すべきなのか? それは可能なのか? その目的を達成するために、アメリカはソ連と技術を共有できるのか? この兵器のある世界で生き残るためには、指導者たちは各国政府よりも優れた権威を発明する必要があったのだろうか? トルーマンの陸軍長官であったヘンリー・スティムソン(ドイツと日本の勝利に貢献した人物)は、核兵器の拡散を防ぐ大国の「コンドミニアム(condominium)」を作るために、アメリカが独占している原爆をソ連の指導者ヨシフ・スターリンとイギリスの首相ウィンストン・チャーチルと共有することを提案した。トルーマンは、国務次官ディーン・アティソンを委員長とする委員会を設置し、スティムソンの提案を追求する戦略を練らせた。

アティソンは根本的にスティムソンに同意した。破滅的な戦争(catastrophic war)に終わる核軍拡競争を防ぐ唯一の方法は、原子兵器を単独で所有する国際機関を創設することである。そのためには、アメリカが核兵器の秘密をソ連や他の国連安全保障理事会のメンバーたちと共有し、核兵器を新しい国連の「原子力開発機関(atomic development authority)」に移譲し、全ての国が兵器を開発したり、兵器級の核物質を製造する能力を独自に構築したりすることを禁じなければならない。1946年に、トルーマンは、アティソンの計画を実現するための協定を交渉するため、金融家であり大統領顧問であったバーナード・バルークを国連に派遣した。しかし、この提案はソ連の国連代表アンドレイ・グロムイコによって断固拒否された。

3年後、ソ連が独自の(核)爆弾製造に成功すると、アメリカとソ連は人々が冷戦(Cold War)と呼び始めた時代、つまり爆弾と弾丸以外の競争に突入した。この競争の中心的な特徴は、核の優位性(nuclear superiority)を追求することでした。この2つの超大国の核兵器は、最盛期には6万発以上の兵器を備えており、その中には有史以来の全ての戦争で使用された、全ての兵器よりも爆発力の高い弾頭も含まれていた。専門家たちは、全面核戦争(all-out nuclear)が地球上の全ての生きている魂の終焉を意味するかどうかを議論した。

数十年にわたり、米政府とロシア政府は核兵器の開発に数兆ドルを費やしてきた。アメリカの原子力事業の現在の年間予算は500億ドルを超えている。この競争の初期の数十年間、米ソ両国は、決定的な優位性を獲得することを期待して、以前は想像もできなかった躍進を遂げた。兵器の爆発力の増加には、新しい指標の作成が必要だった。元の核分裂兵器のキロトン(1000トンの TNT が放出するエネルギーに相当)から、水素核融合爆弾のメガトン(100万トンが放出するエネルギーに相当)までだ。米ソ両国は、弾頭を30分以内に地球の反対側の標的に届けることができる大陸間ミサイル、数百マイルの高さで地球を周回する衛星を発明し、数インチ以内で標的の座標を特定できるカメラを搭載し、本質的に弾丸を弾丸で攻撃することができる防衛装置を発明した。ロナルド・レーガン大統領の言葉を借りれば、核兵器を「無力で時代遅れ(impotent and obsolete)」にする防衛を真剣に想像する専門家たちもいた。

■概念的な武器庫(THE CONCEPTUAL ARSENAL

こうした発展を形成しようとする中で、戦略家たちは第一撃と第二撃を区別する概念的な兵器を開発した。彼らは、確実な報復対応(retaliatory response)に不可欠な要件を明確にした。そして、敵が1つの脆弱性(vulnerability)を発見した場合でも、兵器の他の構成要素が壊滅的な対応に利用できるようにするために、潜水艦、爆撃機、地上発射ミサイルという核兵器の三本柱を開発した。兵器の偶発的または許可されていない発射のリスクが認識されたことで、許容アクションリンク (核兵器に埋め込まれた電子ロックで、適切な核発射コードがなければ作動しないようにする) の発明が促進された。冗長性(redundancies)は、指揮統制システム(command-and-control systems)を危険に晒す可能性のある技術革新(invention)から保護するために設計され、これがインターネットへと進化したコンピュータネットワークの発明の動機となった。戦略家ハーマン・カーンが有名な言葉で述べたように、彼らは「考えられないことを考えていた(thinking about the unthinkable)」ということになる。

核戦略(nuclear strategy)の中核にあるのは抑止(deterrence)の概念であり、考えうる利益に比例しないコストを脅し取ることで、敵の攻撃を防ぐことである。抑止を成功させるには、能力だけでなく信頼性も必要だと理解されるようになった。潜在的な犠牲者たちには、断固とした対応をとる手段(means)だけでなく、意志(will)も必要だった。戦略家たちは、この基本的な考え方をさらに洗練させ、拡大抑止(extended deterrence)などの概念を導入した。拡大抑止は、政治的メカニズム、すなわち同盟による保護の誓約(pledge of protection via alliance)を用いることで、主要諸国に自国の軍備を増強しないよう説得しようとするものであった。  

1962年、ジョン・F・ケネディ米大統領がソ連のニキータ・フルシチョフ書記長と、ソ連がキューバに配備した核弾頭ミサイルをめぐって対立したとき、米情報諜報機関は、ケネディが先制攻撃に成功したとしても、ソ連が既存の能力で報復し、6200万人のアメリカ人が死亡する可能性があると見積もっていた。1969年、リチャード・ニクソンが大統領に就任したとき、アメリカはアプローチを再考する必要があった。私たちの1人、キッシンジャーは後にこの課題について次のように述べている。「私たちが優勢だった時代に形成された防衛戦略は、新たな現実の厳しい光の下で再検討されなければならなかった。・・・いかなる好戦的なレトリックも、既存の核兵器備蓄が人類を破滅させるのに十分であるという事実を覆い隠すことはできない。・・・核戦争の惨事を防ぐこと以上に崇高な義務はない」。

この状態を明確にするため、戦略家たちは皮肉な頭文字をとってMADという言葉を作った。これは次のような意味である。「核戦争に勝つことはできない。だから決して戦ってはならない」。運用上、MADは相互確証脆弱性(mutual assured vulnerability)を意味した。米ソ両国はこの状態から逃れようと努めたが、最終的にはそれが不可能であることを認識し、米ソ両国の関係を根本的に再認識する必要があった。1955年、チャーチルは「安全が恐怖の丈夫な子供になり、生存が消滅の双子の兄弟になる(safety will be the sturdy child of terror, and survival the twin brother of annihilation)」という最高の皮肉を指摘した。価値観の違いを否定したり、重要な国益を損なったりすることなく、死闘を繰り広げるライヴァルは、全面戦争(all-out war)以外のあらゆる手段で敵を打ち負かす戦略を立てなければならなかった。

こうした戦略の柱の 1 つは、現在では軍備管理(arms control)として知られる、一連の暗黙的および明示的な制約だ。MAD 以前、各超大国が優位に立つためにあらゆる手を尽くしていたときでさえ、米ソ両国は共通の利益のある分野を発見していた。誤りを犯すリスクを減らすため、アメリカとソ連は非公式の協議で、相手国による領土監視(surveillance of their territory)に干渉しないことで合意した。放射性降下物から国民を守るため、大気圏内核実験(atmospheric testing)を禁止した。一方が、相手側が先制攻撃を仕掛けるだろうと確信して攻撃する必要性を感じる「危機不安定性(crisis instability)」を回避するため、米ソ両国は1972年の弾道弾迎撃ミサイル制限条約(Anti-Ballistic Missile Treaty)でミサイル防衛を制限することで合意した。1987年に調印された中距離核戦力全廃条約(Intermediate-Range Nuclear Forces Treaty)では、ロナルド・レーガン大統領とソ連の指導者ミハイル・ゴルバチョフが中距離核戦力を廃止することで合意した。1972年と1979年に締結された条約の締結につながった戦略兵器制限交渉(Strategic Arms Limitation Talks)により、ミサイル発射台の増加は制限され、その後、1991年に締結された戦略兵器削減条約(Strategic Arms Reduction TreatySTART)と2010年に締結された新STARTにより、ミサイル発射台数は削減された。おそらく最も重大なことは、アメリカとソ連が、核兵器の他国への拡散は両国にとって脅威であり、最終的には核の無政府状態(anarchy)を招くリスクがあると結論付けたことだろう。米ソ両国は、現在核拡散防止体制(nonproliferation regime)として知られる体制を樹立した。その中心となるのが1968年の核拡散防止条約(Nuclear Nonproliferation Treaty)であり、現在186カ国がこの条約を通じて独自の核兵器の開発を控えることを誓約している。

AIをコントロールする(CONTROLLING AI

AIを封じ込める方法に関する現在の提案には、こうした過去の響きが数多く聞こえてくる。億万長者のイーロン・マスクによるAI開発の6カ月間の停止の要求、AI研究者のエリゼル・ユドコウスキーによるAI廃止の提案、心理学者ゲイリー・マーカスによるAIを世界政府機関が管理すべきという要求は、核時代に失敗した提案の繰り返しである。その理由は、いずれも主要国に自国の主権を従属させる(subordinate)必要があるからだ。競争相手が新技術を適用して自国の生存と安全を脅かすのではないかと恐れて、大国が自国でその技術の開発を放棄した例は歴史上ない。イギリスやフランスなどアメリカの緊密な同盟国でさえ、アメリカの核の傘に頼るだけでなく、独自の国家核能力の開発を選んだ。

核の歴史から得た教訓を現在の課題に応用するには、AI と核兵器の顕著な違いを認識することが不可欠だ。まず、核技術の開発は政府が主導したのに対し、AI の進歩を推進しているのは民間の起業家、技術者、企業だ。MicrosoftGoogleAmazonMetaOpenAI、そして少数の小規模なスタートアップ企業で働く科学者たちは、政府の類似の取り組みをはるかに上回っている。さらに、これらの企業は現在、間違いなく技術革新を推進しているが、コストがかかる、企業間の闘争に巻き込まれている。これらの民間主体がリスクと報酬の間でトレードオフを行うため、国家の利益が軽視されることは間違いないところだ。

第二に、AIはデジタルだ。核兵器は製造が難しく、ウラン濃縮から核兵器の設計まで全てを実行するには複雑なインフラストラクチャが必要だった。製品は物理的な物体であるため、数えることができる。敵の行動を検証できる場合は、制約が生じる。AIは、全く異なる課題を表している。その主な進化は人間の心の中で起こる。その適用性(applicability)は実験室で進化し、その展開を観察することは困難だ。核兵器は実体があるが、人工知能の本質は概念的だ(the essence of artificial intelligence is conceptual)。

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中国国旗とアメリカ国旗を示すスクリーン(北京、2023年7月)

第三に、AIが進歩し普及するスピードが速く、長期にわたる交渉は不可能であることだ。軍備管理は数十年かけて発展してきた。AI に対する制限は、AIが各社会の安全保障構造に組み込まれる前に、つまり機械が独自の目的を設定し始める前に行う必要がある。専門家の一部には、これは今後5年以内に起こる可能性が高いと指摘している。このタイミングには、まず国内、次に国際的な議論と分析、そして政府と民間部門の関係における新たなダイナミクスが必要だ。

幸いなことに、生成型AIを開発し、アメリカを主要なAI超大国にした各種大手企業は、株主だけでなく、国と人類全体に対しても責任があることを認識している。多くの企業がすでに、導入前にリスクを評価し、トレーニングデータの偏りを減らし、モデルの危険な使用を制限するための独自のガイドラインを作成している。トレーニングを制限し、クラウド コンピューティング プロバイダーに「顧客を知る(know your customer)」要件を課す方法を模索している企業もある。バイデン政権が7月に発表したイニシアティヴは、正しい方向への大きな一歩であり、7つの大手AI企業のリーダーをホワイト ハウスに招き、「安全、セキュリティ、信頼(safety, security, and trust)」を確保するためのガイドラインを確立するという共同誓約を行った。

私たち著者の1人であるキッシンジャーが『AIの時代(The Age of AI)』の中で指摘しているように、進化し、しばしば目を見張るような発明や応用がもたらす長期的な影響について体系的な研究を行うことが急務となっている。アメリカが南北戦争以来の分断状態(divided)にあるとはいえ、AIの無制限な進歩がもたらすリスクの大きさは、政府と企業の両リーダーに今すぐ行動を起こすことを求めている。新たなAIモデルを訓練するマスコンピューティング能力を持つ各企業と、新たなモデルを開発する各企業や研究グループは、その商業的AI事業がもたらす人間的・地政学的影響を分析するグループを作るべきだ。

この課題は超党派的なものであり、統一した対応が必要だ。大統領と連邦議会は、その精神に則り、民間部門、連邦議会、アメリカ軍、情報諜報機関の著名な超党派の元リーダーで構成される国家委員会(national commission)を設立すべきだ。国家委員会は、より具体的な義務的セーフガードを提案すべきだ。これには、GPT-4などのAIモデルのトレーニングに必要な大量コンピューティング機能を継続的に評価することや、企業が新しいモデルをリリースする前に極度のリスクに対してストレステストを行うことなどが含まれるべきだ。ルール策定の作業は困難だが、国家委員会は人工知能に関する国家安全保障委員会(National Security Commission on Artificial Intelligence)にモデルを置くことになるだろう。2021年に発表された委員会の勧告は、アメリカ軍と米情報諜報機関が中国とのAI競争で行っている取り組みに弾みと方向性を与えた。

■二大AI超大国(THE TWO AI SUPERPOWERS

アメリカが国内でAIを統制するための独自の枠組みを構築しているこの初期段階であっても、世界で唯一のもう1つのAI超大国と真剣な対話を始めるのに早すぎることはない。中国のテクノロジー分野の国家的リーダーである百度(Baidu、同国最大の検索エンジン)、バイトダンス(ByteDanceTikTokの制作者)、テンセント(TencentWeChatのメーカー)、アリババ(Alibaba、電子商取引のリーダー)は、中国の政治システムがAIにとって特に困難をもたらしているにもかかわらず、ChatGPTの独自の中国語版を構築している。中国は高度な半導体を製造する技術ではまだ遅れをとっているが、近い将来に先行するための基本技術を備えている。

バイデンと習近平は近い将来、AI軍備管理について私的な会話をするために会うべきだ。11月にサンフランシスコで開催されるアジア太平洋経済協力会議がその機会を提供してくれる。各首脳は、AIがもたらすリスクを個人的にどのように評価しているのか、壊滅的なリスクをもたらすアプリケーションを防ぐために自国は何をしているのか、国内企業がリスクを輸出しないよう自国はどのように保証しているのかについて話し合うべきだ。次回の協議に反映させるため、米中のAI科学者たちや、こうした進展の意味を考察してきたその他の人々で構成される諮問グループを設けるべきである。このアプローチは、他分野における既存のトラックII外交に倣ったものであり、政府の正式な承認はないものの、その判断力と公平性から選ばれた人物でグループを構成するものである。日米両政府の主要な科学者たちとの議論から、私たちはこれが非常に生産的な議論になると確信している。

この議題に関するアメリカと中国の議論と行動は、11月にイギリスが主催するAI安全サミットや国連で進行中の対話など、AIに関する新たな世界的対話の一部に過ぎない。各国が自国の社会の安全を確保しながら国民の生活を向上させるためにAIを採用しようとするため、長期的には世、界的なAI秩序(global AI order)が必要となる。その取り組みは、AIの最も危険で潜在的に破滅的な結果を防ぐための国家的取り組みから始めるべきである。これらの取り組みは、大規模なAIモデルの開発に携わる様々な国の科学者たちと、ここで提案されているような国家委員会のメンバーたちとの間の対話によって補完されるべきである。最初は先進的なAIプログラムを持つ国々の間での正式な政府交渉では、国際原子力機関に匹敵する国際機関とともに、国際的な枠組みを確立することを目指すべきである。

バイデンや習近平をはじめとする世界の指導者たちが、数十年前に核の脅威に対処した先人たちと同じように、AIがもたらす課題に真正面から向き合おうと今行動すれば、果たして成功するだろうか? 歴史という大きなキャンバスと今日の分極化の進展を見れば、楽観視することは難しい。それにもかかわらず、核保有国間の平和が78年続いたという白熱した事実は、AIの未来がもたらす革命的で避けられない課題を克服しようとする全ての人々を鼓舞するのに役立つはずだ。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカで麻薬として流通しているのがフェンタニルという薬だ。このフェンタニルという薬は、医療用の強力な鎮痛薬であり、ガン患者などの疼痛緩和などで、適正に使えば大変効果の高い薬だということだ。これを違法に、過剰摂取することで、中毒となる。アメリカの古都フィラデルフィアのある一角は、フェンタニル中毒者たちが街頭にあふれ、「ゾンビの街」と呼ばれるほどになっている。フェンタニルの蔓延と中毒患者の増加はアメリカにとって深刻な問題となっている。

 アメリカの白人男性の平均寿命が短くなっている問題については、アン・ケース、アンガス・ティートン著『絶望死のアメリカ』(松本裕訳、2021年、みすず書房)に詳しいが、アルコールや麻薬の過剰摂取による死亡は、緩慢な自殺であり、これを著者たちは「絶望死(deaths of despair)」と呼んでいる。

 アメリカにはメキシコから麻薬が流入しており、「麻薬戦争(drug war)」と呼ばれる状態になっている。今回ご紹介する論稿では、フェンタニルの原薬(active pharmaceutical ingredientAPI)や前駆体化学物質(precursor chemicals)は中国から輸出されていること、中国政府の取り締まりもあるが、各地方の省政府がフェンタニル製造を奨励しており、その中で、中小企業がネットワークを形成して、原薬や前躯体化学物質をメキシコなどの外国に輸出している様子が描かれている。

 また、麻薬でお金を儲けても、それを使うためには、資金洗浄(マネーロンダリング)をしなければならないが、マネーロンダリングのネットワークや方法についても論稿で紹介されている。ここで興味深かったのは、フェンタニル輸出に絡んで莫大なお金を設けた中国人たちは、資金洗浄のために、ヴァンクーバーモデルという方法を使っているということだ。

このモデルについて、論稿では「富をオフショアに移そうとする中国人顧客がヴァンクーバーに飛ぶ前にマネーロンダリング業者が管理する銀行口座に人民元を入金することから始まる。到着すると、顧客たちはカナダの通貨(通常は麻薬の販売で得た汚れた金)を集め、すぐにカジノに行き、それをチップと交換する。少額の賭けを数回行った後、クライアントはチップを準クリーンマネーと引き換えるが、事前交渉された全額現金の不動産購入の決済に使用して保護する必要がある」と書かれている。

 中国人たちは、マネーロンダリング業者に資金を入金し、それをカナダで引き出し、現金取引で不動産購入に充てているということだ。その不動産は保有しておいても良いし、売却しても良い。それで、この中国人は、「きれいな」カナダドルを手に入れる。このマネーロンダリングに絡んだ不動産購入で、ヴァンクーバーの地価は7.5%も上昇したということだ。これを敷衍して考えると、現在、東京や日本の大都市圏の不動産価格が高騰していることも、このようなマネーロンダリングに使われている可能性があると言えるのではないか。私たちは、不動産価格高騰で、「中国人が買っているらしい」という噂話を耳にする。中国の小金持ち層までが日本の不動産を割安だとして買いあさっているという話を聞く。それだけではなく、マネーロンダリングの方法として、日本の不動産が売買されているのではないかということが考えられる。

(貼り付けはじめ)

中国はいかにして自国をアメリカのフェンタニル危機に巻き込まることになったか(How China Trapped Itself in America’s Fentanyl Crisis

-中央政府の政策とマネーロンダリングが密売人を助けるネットワークを作り上げた。

ゾンユアン・ゾエ・リュー筆

2024年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/10/china-fentanyl-crisis-america-mexico-api-manufacture-banking/

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中国衡陽市の医薬品工場の生産ラインで働く従業員(1月4日)

意図しない結果と無関心が重なり、中国はアメリカのフェンタニル危機において重要な役割を果たしている。これは北京とワシントンの間で激しい論争の的となっている。アメリカの政治家たちは、中国がアメリカの麻薬危機(U.S. drug crisis)を故意に煽っていると非難している。中国は、自国が重要な役割を果たしているのであり、アメリカは中国をスケープゴートにしているだけだと反論している。

しかし、中国の規制に関する実際のストーリーは、はるかに複雑で厄介であり、利益動機がいかに強力で、規制の効果がいかに意図しない結果をもたらすかを示している。中国政府は、フェンタニルとその前駆体化学物質(precursor chemicals)の生産と流通を規制しているが、その取引を止めるのは至難の業だ。中国の化学・医薬品の開発と輸出を促進することを目的とした政策は、代わりに何十万もの小規模な化学工場や原薬(active pharmaceutical ingredientAPI)製造業者からなる広大な家内工業を生み出し、それに伴い、中国の銀行システムの高度なリアルタイム決済機能を利用した、膨大なマネーロンダリング産業も生み出している。

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2019年6月24日、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港の郵便施設で、米税関・国境警備局(Customs and Border Protection、CBP)の職員が小包の中に錠剤を発見した。数十人の法執行官が小包を調べてフェンタニルを探している。

フェンタニルを制御する方法を理解するには、まず、その製造方法を理解する必要がある。フェンタニルには、化学的には異なるものの、体内で同様の反応を引き起こす、似た響きの名前を持つ多くの変種(variants)が存在する。それらの変種は、単に同じケーキの上に異なトッピングを施したものに過ぎない。

1959年の創出以来、研究者たちはフェンタニルの少なくとも3つの異なる製造方法を開発しており、それぞれがプロセスの一部として異なる前駆体化学物質に依存している。犯罪者たちは、バターがなくなったからマーガリンを使うなど、より簡単に入手できる前駆体化学物質を幅広く使用するために、これらのプロセスを適応させ続けている。可能性のある製造方法は無限だ。フェンタニルから利益を得ようとする犯罪者たちと、フェンタニルの供給を管理しようとする各国政府は、終わりのない競争に巻き込まれており、新たな対策が講じられるたびに、フェンタニル規制を回避する更なる技術革新が促進されている。

長年にわたり、中国の伝統的に厳格な麻薬取締政策を維持しようとする中国の規制当局は、フェンタニルの新たな変種が管理上の規制薬物リストに追加されるよりも早く出現したため、課題に直面していた。2012年から2015年の間に新たに出現したフェンタニルの変異種は6つのみだったが、2016年だけで63件の新たな変種が発生した。これに応じて、中国政府は2019年5月時点で、フェンタニルの全ての変種を規制物質リストに載せている。

米麻薬取締局(U.S. Drug Enforcement AdministrationDEA)が2020年の国家麻薬脅威評価で指摘したように、2019年以来、中国からアメリカへのフェンタニルの直接供給は「大幅に減少(decreased substantially)」している。しかし、米国務省の2023年国際麻薬規制戦略報告書によると、フェンタニル前駆体(メキシコや他の中米諸国でフェンタニルの製造に使用される化学物質)は引き続き中国から供給されている。

中国政府は麻薬の製造を厳しく規制し、原薬や最終的な錠剤の流通を厳しく監視している。2023年12月の時点で、3つのフェンタニル関連原薬(フェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニル)の製造および販売ライセンスを持っている企業は2社だけだ。フェンタニル関連の医療製品を最終剤形で販売するライセンスを持っている企業は、合計で7社だけだ。湖北省に本拠を置く宜昌ヒューマンウェル製薬(Yichang Humanwell Pharmaceutical)は業界の有力企業で、2022年のフェンタニル関連の国内売上高は2億9200万ドルに上った。

宜昌ヒューマンウェル製薬の最も重要な競争相手は、アメリカのコングロマリットであるジョンソン・エンド・ジョンソンと同社のフェンタニル・パッチの輸入である。宜昌ヒューマンウェル製薬は、アメリカにフェンタニルを輸出していない。2017年のフェンタニル輸出に関する同社の最後の声明によると、宜昌ヒューマンウェル製薬の海外顧客は全て、エクアドル、フィリピン、スリランカ、トルコ、ヴェトナムの公的調達機関、現地で認可された販売代理店、または輸入国政府から製造許可を得た工場であった。

法律により、宜昌ヒューマンウェル製薬などの中国の麻薬メーカーは、指定された国内卸売業者3社(シノファーム、上海製薬、重慶製薬)にのみ製品を販売できる。これらの国営卸売業者は、地域の病院やその他の医療機関に医薬品を供給する認定された地域卸売業者に医薬品を流通させる。使用後のパッチの廃棄も厳密に監視されている。

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2019年10月2日、カリフォルニア州サンイシドロにあるメキシコとの国境検問所で歩行者の書類をチェックする米税関・国境警備局職員。

高度な産業集中と厳しく管理された流通経路により、中国で製造された相当量のフェンタニルが違法薬物取引に転用される可能性は低い。

アメリカの路上で販売されているフェンタニルの供給源は中国ではなく、主にメキシコにある秘密製造所で、中国やその他の国々の小規模生産者から購入した前駆体化学物質からフェンタニルを合成している。2022年には、16万社を超える中国の中小企業が政府の監視が比較的少ない状態で化学品を製造していた。原薬製造業者は医薬品ライセンスを必要とし、一定の監視を受けているが、ほぼ全ての州に、1600以上の製造業者が存在するため、政府がコンプライアンスを強制することは困難だ。

2021年、中国政府は、計画の欠如、参入障壁の低さ、監督不足などを理由に、中国の化学工業団地579カ所のうち約20%を「高リスク」または「比較的高リスク」と認定した。中国の化学薬品および原薬メーカーのほとんどは小規模な民間企業であり、設備投資は控えめで、柔軟な運営を行っているだけだ。

フェンタニルに関連し、中国人に対して行われたほぼ全てのアメリカ政府の執行措置は、昨年起訴された中国の化学会社4社と幹部8人、あるいは昨年10月に制裁を受けた中国密輸ネットワークのメンバー28人など、化学前駆物質の製造に関係している。どちらの場合も、関与した企業は中国最大の化学工業団地の建設で知られる江蘇省、福建省、湖北省、河北省、河南省、安徽省などの省に拠点を置く小規模な民間企業だった。

中国の各省は医薬品製造産業を誘致するために互いに激しく競争しており、その結果、規制を緩めてしまうことになる。アメリカ政府の制裁を受けた企業4社が湖北省に進出しており、湖北省政府は原薬生産基地開発のための2021~2025年の実施計画の中で特にフェンタニルを優先事項に挙げている。国家レヴェルでは、政策により、原薬サプライチェーンをより監督が容易な工業団地に統合することが奨励されている。

中国は世界トップの原薬輸出国であり、依然として小規模生産者が業界の根幹を形成している。中国の比較優位は、原材料が最大のコストとなる、汚染が深刻な低価値原薬において最も顕著である。中国がヴァリューチェーンを駆け上がるためには業界の統合が不可欠だが、北京にとっては依然として遠い目標である。薄い利益率で操業する小規模生産者間の熾烈な競争により、一部の企業がフェンタニルやメタンフェタミンなどの合成麻薬の前駆体を世界中の誰にでも、どんな目的であれ、需要のある人に日和見的に販売する傾向が今後も続く可能性が高い。

2017年、中国政府が2つの一般的なフェンタニル関連化学前駆物質を規制下に置いたとき、中国の生産者はフェンタニルの製造に使用されるまだ規制されていない他の3つの化学物質(4-APboc-4-AP、ノルフェンタニル)の販売に切り替えた。これらの化合物は2022年11月に国連の規制物質リストに追加され、米麻薬取締局は、2020年5月から何らかの形でこれらの化学物質を規制している。中国政府当局も近いうちに追随する可能性が高いが、犯罪者側は次々と新たな前駆物質を発見するだろう。

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2023年1月4日、衡陽の製薬会社で働く従業員

アメリカ政府は中国に対し、中国の化学物質輸出業者に対する「顧客確認(know your customer)」(KYC)規則を導入するよう圧力をかけているが、少なくとも現時点では中国が同意する可能性は低い。中国の小規模生産者にとってKYCルールの導入は多大なコストがかかり、施行にも費用がかかる。2022年、当時の駐米中国大使の秦剛は、KYC規則は、国連の麻薬取締条約に基づく中国の義務を「はるかに超えている(far exceed[ed])」と述べた。

これまでのところ、中国政府は生産者に対し、米麻薬取締局が管理する前駆体化学物質のメキシコやその他の国への輸出について「警戒する(cautious)」よう警告しているだけだ。実際のところ、この警告はほとんど効果を持たない。中国の小規模化学メーカーは、麻薬カルテルが新しい生産方法を見つけるのと同じくらい早く、自社の事業を適応させることができる。

中国の小規模化学メーカーは、外国人バイヤーがWeChatのようなインスタント・ペイメントに対応したメッセージングアプリを使って簡単に注文や支払いを行えるようにしている。バイヤーはWeChatのアカウントを開設する際に本人確認をするだけでよく、このステップは簡単に回避できる。完全な匿名性を求めるバイヤーのために、2021年9月以降、中国ではそのような取引が違法となっているにもかかわらず、暗号通貨(cryptocurrency)を支払い手段として受け入れる企業もある。中国の小規模な化学企業の多くは、違法薬物を製造するための既知の前駆体化学物質の「ステルス」販売(“stealthy” sales)を宣伝することで、怪しげなビジネスを誘致しているようだ。

ブロックチェーンおよび暗号分析会社エリプティックの研究者たちは、彼らが取引した90社以上の中国に本拠を置く化学会社がフェンタニル前駆体を供給することに前向きであり、その多くがメキシコへの同じ化学物質の以前の出荷について言及し、フェンタニル自体を供給することに意欲的であることを発見した。また、これらの化学会社の90%が暗号通貨による支払いを受け入れており、そのほとんどがビットコインを使用しており、テザー、いわゆるステーブルコイン(stablecoin)を使用している企業は少数であることも判明した。

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2019年11月7日、中国がアメリカのバイヤーにフェンタニルを違法販売したとして9人を投獄した後、河北省の邢台中級人民法院の外で警備に当たる警察

中国は、アメリカの路上で起きているフェンタニル危機の上流と下流の両方で重要な位置を占めている。中国企業は、フェンタニルの製造に使用される化学前駆体の最大の供給国である。中国はまた、フェンタニルの販売を促進する犯罪マネーロンダリング組織の活動拠点としても機能している。2021年3月の議会証言で、米海軍のクレイグ・S・ファラー提督(当時米南方軍司令長官)は、中国のマネーロンダリング組織を国際犯罪組織の「ナンバーワン身元引受人(No. 1 underwriter)」と表現した。

2021年、一人の中国人がメキシコ麻薬カルテルのために資金洗浄を行った罪で、米連邦刑務所での懲役14年の刑を言い渡された。米検察当局は、この事件は中国の犯罪組織が国際的なマネーロンダリングを「支配(dominate)」するようになった「最近の現象(recent phenomenon)」を反映していると述べた。これらのマネーロンダリング業者は、アメリカ、メキシコ、カナダにある中国人所有の中小企業の広範なネットワークの中に根付いている非公式の融資文化を利用しようとしている。これらのビジネスの多くは現金ベースであり、商品や製品を中国から直接輸入している。スペイン語圏の多くの国では、これらのビジネスが非常に普及しているため、想像できるあらゆるものを販売するディスカウント コーナー ストアを表す新しい俗語が誕生した。

典型的な中国の貿易ベースのマネーロンダリング計画には、少なくとも4つのグループが関与している。それらは、(1)取引を仲介する中国の犯罪組織、(2)中国から商品を輸入する地元企業、(3)資本規制を回避して富を海外に移そうとする裕福な中国人、(4)少額の米ドルの現金を過剰に保有する麻薬密売人である。

最初の2つの関与者は、参加する単純な利益動機を持っている。マネーロンダリング業者は、平均1~2%の手数料を稼ぎ、企業はどの銀行が提供するよりも安価な輸入融資を獲得する。最後の2つの関与者は、ほぼ相殺する問題を抱えている。裕福な中国人は、中国の銀行システムに資本を持っているが、それを取り出して米ドルに換金する方法がなく、麻薬密売人は合法的に使用できない米ドルを持っている。マネーロンダリング業者の目標は、他の全ての当事者間で三者交換を実行し、裕福な中国人の手に米ドルを渡し、麻薬密売人の銀行口座にあるお金を洗浄することだ。

中国のマネーロンダリング組織は、競合他社よりも安く、速く、安全だ。米麻薬取締局特殊作戦課のヴェテラン捜査官であるトーマス・シンドリックによると、コロンビアのマネーロンダリング業者は通常、サーヴィスに対して13~18%の手数料を請求する。それに比べて、中国のマネーロンダリング業者は通常、わずか1~2%、場合によっては0.5%という格安料金を請求する。

中国の犯罪者たちは、他の犯罪組織と同じ基本的なマネーロンダリングモデルを使用している。彼らはその資金を現金ベースのビジネスを運営するパートナーのネットワークに分配し、そこで正規の資金源からの現金と混ぜて、小分けにして銀行システムに入金する。中国人を際立たせているのは、そのターボチャージされたスピードと、膨大な米ドルの流れを吸収する能力だ。これが可能なのは、中国のマネーロンダリング業者が中国の銀行システムへのアクセスを利用して、違法に入手した米ドルの供給と、裕福な中国人による闇市場での海外ドルの需要を一致させているからである。中国居住者が合法的に米ドルを購入するには、フォームに記入して銀行に申請し、返答を待つ必要がある。承認後も、海外電信送金は年間わずか5万ドルに制限される。

中国政府は、中国の自国通貨である人民元(通常は元として知られる)を米ドルなどの外国通貨に販売する独占権を熱心に守っている。これは、個人が自由にお金を両替できるようにすると、経済に悪影響を与える資本逃避(capital flight)につながる可能性があるという懸念である。最近の中国経済の低迷、アメリカとの関係悪化、習近平国家主席の「共同繁栄(common prosperity)」政策のおかげで資本逃避はさらに深刻化しており、中国のエリート層には、海外での自分たちの財産がより安全になるかもしれないと考える多くの理由が与えられている。

昨年8月、上海市警察は外貨の闇市場(black market for foreign currency)取り締まりの一環として、「移民サーヴィス(immigration services)」会社の有力幹部を含む5人を拘束した。同様の顧問会社の多くは、裕福な中国人が犯罪的なマネーロンダリング組織のサーヴィスを利用できるように、慎重かつ慎重な仲介者として機能している。

汚いお金の引き渡しが確認されるとすぐに、マネーロンダリング業者は、中国の顧客が米ドルに変換するために送金した人民元を使用して、中国の銀行システム内で一連のミラー取引を実行するという作業を開始する。マネーロンダリング業者は、資金の出所を曖昧にし、資金を少額に分割するために資金洗浄用口座やダミー会社を利用する。5万元(約7000ドル)以下の銀行口座間の送金は、中国の中央銀行である中国人民銀行が運営する高額決済システムを使用して、異なる銀行間であってもほぼ瞬時に決済される。このプロセス全体は、モバイルバンキングアプリのみを使用して行うことができ、完了までにかかる時間はわずか3時間だ。

マネーロンダリング業者は、中国から汚いお金の元の所有者の居住国に輸出される商品の支払いに利用できる、顧客の追跡が不可能な新しい人民元の銀行預金を作成することを目指している。この貿易ベースのマネーロンダリングモデルでは、商品の輸入業者は、汚い米ドルを提供するために使用された中国所有の小規模企業の同じネットワークのメンバーである。これらの現金ベースの中小企業は、輸入品を地元経済に販売している。これらの販売による収益は、現地通貨でのクリーンな銀行預金として、ダーティマネーの元の所有者に送金され、合法的に使用したり、必要に応じて別の通貨に変換したりすることができる。他の場所では、マネーロンダリング業者の中国人顧客が目的の米ドルを集める。かつては汚いお金だったが、現在はきれいになっている。これにより、お金の循環の流れが完成する。

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邢台市での会見中に、予海斌(左)中国禁毒委員会副主任と、中国駐在米国移民関税執行官オースティン・ムーアが握手する(2019年11月7日)

アメリカと中国の当局は、マネーロンダリング対策コンプライアンスチームが厳しく監視しているSWIFTなどの国境を越えた決済システムを利用していないため、このモデルのマネーロンダリングと戦うのに苦労している。中国の銀行システム内では、当局への報告のきっかけとなる送金金額は比較的高額で、個人口座の場合1日あたり50万元(約7万ドル)だ。対照的に、アメリカの銀行は通常、1日の合計取引額が1万ドルを超えるたびに報告書を提出する。経済指標に対する貿易ベースのマネーロンダリングの影響を検出することさえ容易ではない。1つの兆候は、中国の公式貿易黒字と税関領収書に基づく暗黙の貿易黒字水準との間のギャップが拡大していること(年間約5000億ドル)だろう。

広く普及しているものの、あまり洗練されていないマネーロンダリング手法の1つは、ヴァンクーバーモデルとして知られている。ヴァンクーバーモデルは、多くの中国人エリートの子供たちが故郷と呼ぶカナダの都市にちなんで名付けられた。このモデルでは、富をオフショアに移そうとする中国人顧客がヴァンクーバーに飛ぶ前にマネーロンダリング業者が管理する銀行口座に人民元を入金することから始まる。

到着すると、顧客たちはカナダの通貨(通常は麻薬の販売で得た汚れた金)を集め、すぐにカジノに行き、それをチップと交換する。少額の賭けを数回行った後、クライアントはチップを準クリーンマネーと引き換えるが、事前交渉された全額現金の不動産購入の決済に使用して保護する必要がある。ブリティッシュコロンビア州政府の委託による2019年の報告書は、2018年の同州の不動産取引で最大53億カナダドル(約40億米ドル)がマネーロンダリング活動に関連し、住宅価格を最大7.5%押し上げたと推定した。

これまでのところ、逮捕や処罰は中国人犯罪者のマネーロンダリング行為を阻止するのにほとんど役に立っていない。2021年10月、中国国籍でアメリカに帰化したリー・シージは、グアテマラの薄汚いカジノを通じて麻薬カルテルのために少なくとも3000万ドルを洗浄した罪で、懲役15年の判決を受けた。リーのような大物が自らの行為で処罰されるたびに、さらに多くの犯罪者がその見返りはリスクを冒す価値があると考えている。

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メキシコの捜査当局は、エンセナダ近郊で押収された数百ポンドのフェンタニルとメスをメキシコのティフアナにある本部に降ろす(2022年10月18日)

ワシントンと北京は、この問題をめぐってしばしば激しい言葉の応酬をしているが、双方は違法なフェンタニル取引を阻止することに共通の関心を持っている。フェンタニル危機との関連によって、中国の国際的イメージに与えられた損害は、化学製造産業に生じる可能性のある関連利益をはるかに上回っている。アメリカの法執行機関は、メキシコで処罰を受けずに活動している麻薬カルテルへの化学前駆体の供給を抑制するために、中国の地方政府当局者や警察の協力を必要としている。麻薬密売に関連した国際的なマネーロンダリング活動を容認することは、政府部門の汚職も可能にするため、どちらの政府にとっても利益になることではない。

中国は、フェンタニルについては、時間をかけて対処できる問題とみているが、アメリカはフェンタニルを今すぐ行動が必要な危機とみている。昨年1月に初めて開催された米中麻薬対策作業部会(U.S.-China Counternarcotics Working Group)の会合では、双方が実質的な解決策について話し合う準備ができていることが示された。しかし、アメリカ政府は中国政府に優先事項を再考するよう、うまく要請する以上のことをしなければならないだろう。中国政府にとって重要な他の分野での譲歩も俎上に上らなければならないだろう。潜在的な段階的な措置には、中国企業がより厳格な取引規制リスト(Entity List、エンティティリスト)に移行するまでに米商務省の未検証リストに残ることができる期間の延長や、中国企業と個人に対するより柔軟な輸出最終用途検査が含まれる。中国政府は、国連の麻薬および向精神薬の違法取引禁止条約(U.N. Convention Against Illicit Traffic in Narcotic Drugs and Psychotropic Substances)に含まれるリストと一致するように、中国の規制前駆体化学物質のリストを更新することで報復する可能性がある。

アメリカ政府と中国政府は、フェンタニルの違法取引に深刻な打撃を与えるために協力するためのインフラとツールを整備している。この問題で中国の協力を勝ち取る代償は、アメリカ国民が既にフェンタニルに支払った恐るべき代償に比べれば微々たるものである。

※ゾンユアン・ゾエ・リュー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。外交評議会中国研究モーリス R. グリーンバーグ記念研究員。最新作に『ソヴリン・ファンド:中国共産党は如何にして世界的な野心に対して資金を調達しているか(Sovereign Funds: How the Communist Party of China Finances Its Global Ambitions)』(ハーヴァード大学出版局、2023年)がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカの国力低下と中国の台頭という現象が起きている。これは世界の構造が大きく変化していくことを示している。私たちは西洋近代600年の支配構造が変容し、新たな世界になっていく道筋の入り口に立っていると言える。国際政治におけるアメリカの地位と影響力は低下し、中国の存在感は増大し続ける。アメリカと中国は多くの面で違いがあるが、外交政策においてはその違いは顕著である。以下の、ウォルトの論稿ではその違いについて、以下のように主張している。

中国は外交政策で国家主権を強調し、他国とビジネスライクな関係を維持している。一方、アメリカは普遍的な自由価値観の推進者としての立場を取り、民主政体を広める使命を持つと信じている。アメリカの外交政策はしばしば他国の人権や民主化を重視し、中国の現実的アプローチから学ぶ必要性がある。このような中で、アメリカは自己の基準に合致しない場合もあり、これにより偽善の非難を受けやすい状況にある。結論として、中国の成功とアメリカの失敗から学び、他国の間違いだけでなく正しい点からも教訓を得るべきである。

 アメリカは介入主義的な(interventionist)外交政策を推し進め、アメリカの価値観を拡散することで、世界の秩序を維持しようとした。中国は現在、内政に干渉することを控え、中国の価値観を押し付けるようなことはしていないし、そもそもそれは不可能である。アメリカは超大国として介入主義的な外交政策を実行するだけの国力を維持してきたが、中国はそこまでの余裕がない。しかし、そうした制限がかえって、中国の外交政策を抑制的なものにしている。アメリカは国力の低下もあり、海外への介入や関与はこれまで通りにはいかない。それが苛立ちを招いているが、アメリカ国民の多くは、「これまで外国には十分にしてやった。これからはアメリカ国内の疲弊している地域を建夫なすことに注力すべきだ」という考えになっている。アメリカはこれから、抑制的な外交政策を採用しなければならない。そのために中国から学ぶべきというのが下の論稿の趣旨だ。

 バラク・オバマ元大統領が世界の警察官を辞めると発言して10年近く経過した。その後、ドナルド・トランプ大統領が出現し、アメリカは世界で戦争を行わなかった。トランプ大統領については賛否両論激しいが、この点は評価すべきだ。世界構造は、アメリカ一極から米中二極へと転換していくことが予想される。そして、長期的に見れば、非西洋の、グローバルサウスが世界の中心になっていく更に新たな世界構造になっていく。そこでは様々な価値観が共存していくことが必要となる。日本はこれから、「アメリカ中心」「西洋中心」=アメリカの属国をしていれば安心という構造の価値観外交から脱却していく必要がある。

(貼り付けはじめ)

アメリカが中国から学べるもの(What the United States Can Learn From China

-中国の台頭の中で、アメリカ人は中国政府が何を正しく行っているのか、そして何を間違っているのかを問うべきである。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年6月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/20/united-states-china-rise-foreign-policy-lessons/?tpcc=recirc_trending062921

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北京の八一ビルで協定書に署名した後、握手するアメリカ統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将と中国人民解放軍房峰輝総参謀長(2017年8月15日)。

どのような競争の分野でも、ライヴァルたちは常により優れた結果を得ようと努力する。彼らは、自分たちの立場を改善する革新的なものを探しており、敵対して効果があるように見えるものは何でも真似しようと努める。この現象は、スポーツ、ビジネス、国際政治でも見られる。模倣するということは、他の人がやったこととまったく同じことをしなければならないという意味ではないが、他の人が恩恵を受けてきた政策を無視し、適応することを拒否することは、負け続ける良い方法だ。

今日、中国とより効果的に競争する必要性は、おそらくほぼ全ての民主党と共和党の政治家たちが同意する唯一の外交政策問題である。この合意がアメリカの国防予算を形成し、アジアにおけるパートナーシップを強化する取り組みを推進し、ハイテク貿易戦争(high-tech trade war)の拡大を促進している。しかし、中国について警告を発する専門家たちの大合唱は、アメリカの技術を盗み、以前の貿易協定に違反したとして中国を非難することは別として、中国がこれを成功させるのに役立った、より広範な措置を考慮することはほとんどない。もし、中国が本当にアメリカの利益を奪っている(eating America’s lunch)のであれば、アメリカ人は中国政府の何が正しくて、アメリカの何が間違っているのかを自問すべきではないだろうか? 中国の外交政策へのアプローチは、ワシントンの人々に有益な教訓を提供するだろうか?

確かに、中国の台頭の大部分は純粋に国内の改革によるものだ。世界で最も人口の多いこの国は常に巨大な権力の潜在力を秘めていたが、その潜在力は深い内部分裂や誤ったマルクス主義の経済政策によって、1世紀以上にわたって抑圧されてきた。ひとたび国の指導者たちがマルクス主義(レーニン主義ではない!)を捨てて市場を受け入れると、この国の相対的な力が急激に増大することは避けられなかった。そして、インフレ抑制法やその他の措置を通じて国家産業政策(national industrial policy)を策定しようとするバイデン政権の取り組みは、いくつかの主要技術で優位に立とうとする中国の国家支援による取り組みを模倣しようとする遅ればせながらの試みを反映していると主張する人々もいるだろう。

しかし、中国の台頭は、国内改革や西側諸国の無頓着(complacency)だけによるものではなかった。更に言えば、中国の台頭は、外交政策への広範なアプローチによって促進されており、アメリカの指導者たちは、それについて熟考するのがよいだろう。

まず、最も明らかなことは、中国がアメリカを何度も陥れてきた、高コストの泥沼を回避してきたことである。中国政府は、その力が増大しているにもかかわらず、海外で高額の費用がかかる可能性のある約束を引き受けることに消極的だ。例えば、イランを守るため、あるいはアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアのさまざまな経済パートナーを守るために戦争をするという約束はしていない。中国は、ロシアに軍事的に価値のある軍民両用技術(militarily valuable dual-use technologies)を提供している(そしてその対価として高額の報酬を得ている)が、中国はロシアに強力な武器(lethal weaponry)を送ったり、軍事顧問団(military advisors)を派遣するかどうか議論したり、ロシアの戦争勝利を支援するために自国の軍隊を派遣することを検討したりしている訳ではない。中国の習近平国家主席とロシアのウラジーミル・プーティン大統領は「制限のない(no-limits)」パートナーシップについて多くのことを語るかもしれないが、中国はロシアとの取引において厳しい取引を続けており、最も顕著なのはロシアの石油とガスを格安で入手することを要求していることである。

対照的に、アメリカは外交政策の泥沼状態(quicksand)に対する、間違いを犯さない本能を持っているようだ。

独裁者たちを追い落とし、アフガニスタン、イラク、リビアなどに民主政治体制を輸出するために何兆ドルも費やしていないにもかかわらず、決して守る必要のない安全保障を世界中の国々に拡大し続けている。驚くべきことに、アメリカの指導者たちは、また別の国を守るという任務を引き受けるたびに、その国が戦略的価値に限界がある場合や、アメリカの利益を促進するのにあまり貢献できない場合でも、それをある種の外交政策の成果だと今でも考えている。

アメリカは現在、歴史上かつてないほど多くの国々を防衛することを正式に約束しており、これら全ての約束を守ろうとしていることは、なぜアメリカの国防予算が中国よりもはるかに大きいのかを説明するのに役立つ。中国の支出と、私たちの活動との差が毎年5兆ドル以上もある中で、アメリカが何をできるか想像してみて欲しい。もし全世界を取り締まろうとしていなければ、おそらくアメリカも中国と同様に世界クラスの鉄道、都市交通、空港のインフラを整備でき、財政赤字も低く抑えられていたはずだ。

これは、NATOを離脱し、アメリカの全ての約束を破棄し、「アメリカ要塞(Fortress America)」の内側に撤退することを主張するものではないが、新たな約束を延長することについてより賢明であり、既存の同盟諸国がその役割を果たすべきであると主張することを意味する。世界中の何十か国を守ると誓わなくても、中国がより強くなり影響力を増せるのであれば、なぜアメリカにそれができないのだろうか?

第二に、アメリカとは異なり、中国はほぼ全ての国々とビジネスライクな外交関係を維持している。他のどの国よりも多くの外交的な目的を持ち、大使のポストが空になることはめったになく、成功した大統領候補のために資金を集める能力を主な資格とする素人ではない、外交官たちはますますよく訓練された専門家になっている。中国の指導者たちは、外交関係は他人の善行に対する報酬ではないことを認識している。彼らは情報を入手し、中国の見解を他国に伝え、強引さ(brute-force)ではなく説得(persuasion)によって、自国の利益を推進するために不可欠なツールである。

対照的に、アメリカは依然として、対立している国々からの外交承認を保留する傾向があり、それによって彼らの利益や動機を理解することがより困難になり、我が国の利益や動機を伝えることがより困難になっている。アメリカ政府は、イラン、ベネズエラ、北朝鮮の政府と定期的に意思疎通ができれば有益であるにもかかわらず、これらの政府を公式に承認することを拒否している。中国はこれら全ての国ともちろん対話しており、アメリカの最も緊密な同盟国全てとも対話している。私たちも同じようにすべきではないだろうか?

中国は、例えばイスラエルやエジプトなど、アメリカと緊密な関係にある国を含む中東のあらゆる国と外交関係や経済関係を持っている。対照的に、アメリカはイスラエル(そしてエジプトとサウジアラビアとはある程度)と「特別な関係(special relationship)」を持っており、それはイスラエルが何をするにしても、イスラエルを支持することを意味する。一方、イランやシリア、イエメンの大部分を支配しているフーシ派との定期的な接触はない。アメリカの地域パートナーは、アメリカの支援を当然のことと考えており、アメリカがライヴァルに手を伸ばすかもしれないと心配する必要がないため、アメリカの助言を頻繁に無視している。その好例は次のようなものだ。サウジアラビアは、ロシアや中国と良好な関係を維持しており、暗黙の脅威(tacit threats)を利用して、ワシントンからますます大きな譲歩を引き出そうとしているが、アメリカ政府当局者たちは、その見返りとして、同様の勢力均衡政治(balance-of-power politics)のゲームを決してしようとはしていない。この非対称的な取り決めを考慮すると、サウジアラビアとイランの間の最近の緊張緩和を支援したのがワシントンではなく北京であったことは驚くべきことではない。

第三に、中国の外交政策に対する一般的なアプローチは国家主権(national sovereignty)を強調することである。つまり、全ての国が自国の価値観に従って自由に統治すべきであるということだ。中国とビジネスをしたいのであれば、中国が国の運営方法を指図してくるのではないかと心配する必要はない。また、中国の政治制度と異なる場合に制裁を受けるのではないかと心配する必要もない。

対照的に、アメリカは自らを、一連の普遍的で自由な価値観の主要な推進者であると考えており、民主政体を広めることが世界的な使命の一部であると信じている。いくつかの注目すべき例外を除いて、アメリカはしばしばその力を利用して、他国に人権を尊重し民主政体に向けてより努力させるよう努めており、時には他国が人権を尊重し民主政体に向けてさらに努力すると誓約することを支援の条件とすることもある。しかし、世界の国々の大多数が完全な民主政体国家ではないことを考えると、多くの国が中国のアプローチを好む理由は簡単に理解できる。特に、中国が自国に具体的な利益を提供している場合にはそうだ。米財務長官を務めたラリー・サマーズは次のように述懐している。「発展途上国の誰かが私にこう言った。『私たちが中国から得られるものは空港だ。アメリカから得られるのはお説教だ。あなたが悔い改めない独裁者、または完全とは言えない民主政体国家の指導者なら、どちらのアプローチがより魅力的だと思うか?』」。

事態をより悪化させているのは、アメリカが道徳的な姿勢(moral posturing)を貫く傾向であり、そのため、アメリカ自身の基準を満たさない場合には、常に偽善(hypocrisy)の非難を受けやすい状態にある。もちろん、どんな大国もその公言する理想を全て実現することはできないが、国家が独自に高潔であると主張するほど、それが達成できなかった場合のペナルティは大きくなる。ガザ戦争に対するジョー・バイデン政権の、常識外れの、戦略的に支離滅裂な対応ほど、この問題が顕著に表れた場所はない。双方が犯した犯罪を非難し、戦闘を終わらせるために、アメリカの影響力を最大限に活用する代わりに、アメリカはイスラエルが復讐に満ちた残忍な破壊活動を行うための手段を提供し、国連安全保障理事会でそれを擁護し、却下した。大量虐殺(genocide)の証拠が豊富にあり、国際司法裁判所と国際刑事裁判所の首席検察官の両方が厳しい評価を下しているにもかかわらず、大量虐殺のもっともらしい容疑がかけられている。そしてその間ずっと、「ルールに基づいた秩序(rule-based order)」を維持することがいかに重要かを主張している。これらの出来事が中東やグローバルサウスの多くの地域におけるアメリカのイメージに深刻なダメージを与えていること、あるいは中国がそれらの出来事から利益を得ていることを知っても、誰も驚かないはずだ。注目すべきことに、アメリカ政府当局者たちは、この悲劇に対するアメリカの対応が、どのようにしてアメリカ人をより安全にし、より豊かにし、あるいは世界中でより賞賛されるようになったのかを説明する明確な声明をまだ発表していない。

重要なのは、中国がアメリカの主要なライヴァルとして台頭したのは、その潜在的な力をより効果的に動員することによってもあるが、海外への関与を制限し、アメリカの歴代政権が被ってきた自傷行為(elf-inflicted wounds)を回避することによってでもあった。だからといって、中国の記録が完璧だと言っているのではない。習近平国家主席が平和的な台頭に関する政策(policy of rising peacefully)を公然と放棄したのは間違いで、習の非常に国家主義的な「戦狼」外交(nationalistic “wolf warrior” diplomacy)は、これまで中国政府との緊密な関係を歓迎していた国々を遠ざけた。大騒ぎされている一帯一路構想は、よく言っても玉石混交で、善意と怒りの両方を生み、中国政府が回収に苦労するであろう巨額の負債を生み出している。ウクライナにおけるロシアに対する暗黙の支持は、ヨーロッパでのイメージを傷つけ、各国政府に経済統合の緊密化からの撤退を促しており、また、国家主権の原則に対する想定されている約束を常に守っている訳ではない。

しかし、中国の台頭を深く懸念しているアメリカ人は、中国政府が何をうまくやって、何をワシントンがうまくやらなかったかを反省すべきだ。ここでの皮肉を見逃すのは難しい。中国は、アメリカが以前に世界超大国の頂点に上り詰めたのを模倣する部分もあり、急速に台頭してきた。誕生したばかりのアメリカには、肥沃な大陸、まばらで分断された先住民族、そして 2つの広大な海による保護など、多くの生来の利点があり、国外でのトラブルに巻き込まれず、国内で権力を築くために、それらの資産を活用した。アメリカが外国と戦ったのは 1812年から1918年の間に2度だけであり、それらの戦争の相手国 (1846年のメキシコと1898年のスペイン) は、重要な同盟国を持たない弱小国家だった。そして、ひとたび大国になると、アメリカは他の大国が互いにバランスを保てるようにし、可能な限り紛争から遠ざかり、両世界大戦での被害を最小限に抑え、「平和を勝ち取った(won the peace)」。中国も1980年以来同様の経過をたどっており、これまでのところ大きな成果を上げている。

ドイツのオットー・フォン・ビスマルク首相はかつてこう述べた。「自分の間違いから学ぶのは愚か者だけだ。賢者は他人の間違いから学ぶ(Only a fool learns from his own mistakes. The wise man learns from the mistakes of others.)」。彼の発言は修正される可能性がある。賢明な国は、他国の間違いからだけでなく、彼らが行ったこと正しいことからも学ぶ。アメリカは中国のようになろうとすべきではない(とはいえ、ドナルド・トランプ元大統領は明らかに一党独裁体制[one-party system]を羨んでいるが)が、世界の他の国々に対する中国のより現実的で利己的なアプローチから何かを学ぶことはできるだろう。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
(貼り付け終わり)
(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 米中戦争についてはその危険性が高まっているということを主張する人々が多くいる。台湾有事、中国が台湾に軍事侵攻して、台湾を防衛するアメリカ、そして、日本と戦争状態になるという主張がある。中国は既に武力に訴えなくても、台湾を統一することができるようになっているということはアメリカでも言われている。台湾に対して武力を用いないとなれば、中国が他に武力を用いることは考えられない。また、中国がアメリカに代わって、世界覇権国になる可能性が高いが、アメリカの凋落を中国は熟した柿が落ちてくるのを待つ、熟柿作戦で十分だ。わざわざ木を揺さぶって、柿を無理やり落とすようなことは必要ない。アメリカが挑発しない限り、中国は戦争を起こさない。

 しかし、中国は習近平がこれまでのルールを変更して、3期目の国家主席を務めている。また、中国国内政治において重要な勢力である中国共産主義青年団派(Communist Youth League FactionCYLF、共青団派、団派)を最高指導部層から排除している。そして、「工航天系、jungonghangtianxi」と呼ばれる、国防・航空宇宙産業出身者たちが多数、中国共産党中央政治局に入っている。彼らは、軍事と最先端技術の知識を持つ人材である。そして、こうした人事は、中国の戦争に備えた体制、アメリカの不安定さから起きるかもしれない突発的な事態に備える体制を整えている。中国は戦争を起こす意図は持っていないが、怠りなく、戦争に備える態勢を整えている。

 アメリカとアメリカの同盟諸国(アジアでは日本ということになる)は、中国の膨張に備えて、中国を抑止できるようにしておかねばならない。抑止力の強化、中国の封じ込めこそが重要だという論である。しかし、これでは、アメリカ(と同盟諸国)、中国の双方が軍拡競争を行うということになる。軍備を増強して、安心感を得ても、相手は不安を感じ、軍備を更に増強する。これがずっと繰り返されていくという、「安全保障のディレンマ(security dilemma)」に陥ってしまう。国力が減退し続けているアメリカは中国との軍拡競争をすべきではない。そんなことをすれば、自分で死期を早めるようなものだ。また、アメリカは西側諸国を対中包囲網に引き入れようとしているが、西側先進諸国の国力も衰退しつつある。一方、非西側諸国は国力を増進させている。大きな流れで言えば、中国を封じ込めることはできないし、非西側諸国の国力の膨張を停めることはできない。

 短期的、中期的に見て、米中両国は「G2」体制を形成し、世界の平穏維持に努めるべきだ。そして、G2の枠組みを通じて対話を行い、無用な衝突を避ける、このことが何よりも重要だ。米中戦争という馬鹿げた幻想に乗せられて、衝突することこそは人類の大いなる不幸である。

(貼り付けはじめ)

中国はどれほど戦争の準備ができているのか?(How Primed for War Is China?

-紛争の危険信号が赤色で点滅している。

マイケル・バックリー、ハル・ブランズ筆

2024年2月4日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/02/04/china-war-military-taiwan-us-asia-xi-escalation-crisis/

中国が戦争を始める可能性はどのくらいあるか? これは今日の国際情勢において最も重要な問題かもしれない。中国が台湾や西太平洋の別の目標に対して軍事力を行使した場合、その結果はアメリカとの戦争、つまりこの地域とより広い世界の覇権(hegemony)をめぐって争う核武装した二人の巨人の間の戦いになる可能性がある。ウクライナと中東で続く戦争の最中に中国が攻撃すれば、世界はユーラシアの主要地域全体で連動する紛争に飲み込まれ、第二次世界大戦以来例のない世界規模の大火災となるだろう。

米中戦争についてどれだけ心配すべきだろうか?

最近のワシントンと中国の間のハイレヴェル外交の慌ただしさにもかかわらず、危険な兆候は確かに存在している。中国の習近平国家主席の下、中国政府はここ数十年で最大規模の軍事力増強の一環として、船舶、航空機、ミサイルを増強している。気まぐれな海外投資を呼び戻そうとする最近の取り組みにもかかわらず、中国は燃料と食料を備蓄し、制裁に対する経済の脆弱性(vulnerability)を減らそうとしている。これは紛争が近づくと取られるかもしれない措置である。習主席は、中国は「最悪かつ極端なシナリオ(worst-case and extreme scenarios)」に備え、「強風、荒れた海、さらには危険な嵐(high winds, choppy waters, and even dangerous storms)」に耐える準備をしておく必要があると述べた。これら全ては、中国政府がフィリピン、日本、インドを含む近隣諸国との関係でますます高圧的(時には暴力的)になり、台湾を攻撃し、封鎖し、場合によっては侵略する能力を定期的に宣伝している中で起こっている。

アメリカ政府高官の多くは、戦争の危険性が高まっていると考えている。ウィリアム・バーンズCIA長官は、習主席が2027年までに台湾を占領する能力を模索していると述べた。また、中国経済が苦戦する中、一部の観察者(伝えられるところによれば、アメリカ情報アナリストを含む)は、ピークに達した中国が中国からの注意をそらすために攻撃的になる兆候を探している。内部の問題を解決するか、まだ可能なうちに利益を固定するためだ。

他のアナリストたちは、中国の侵略のリスクは誇張されていると考えている。一部の学者は、アメリカが中国を刺激しなければ、この危険は管理できる可能性が高いと述べているが、これは中国が自国に有利に機能してきた現状をひっくり返すつもりはないという長年の主張の反映だ。中国は、1979年のヴェトナム侵攻以来、戦争を始めていないと指摘する人もいる。また、中国には陽動戦争(diversionary war)の歴史がないと主張して、経済減速やその他の国内問題に対応して中国が戦争を起こす可能性があるという見通しを否定する人もいる。これらの議論を結びつけているのは、中国の行為の基本的な継続性に対する信念である。つまり、40年以上悲惨な戦争を始めていない国が今も戦争を始める可能性は低いという考えである。

私たちは、この自信は危険なほど見当違いであると考えている。国の行動は、その戦略的伝統に劣らず、その国の状況によって深く形成されており、中国の状況は爆発的に変化している。政治学者や歴史家たちは、大国が多かれ少なかれ戦争する傾向にある様々な要因を特定している。このような4つの要因を考慮すると、かつては、平和的な隆盛を可能にしていた条件の多くが、現在では暴力的な衰退を促進している可能性があることが明らかになる。

第一に、中国が争っている領土問題やその他の問題は、かつてほど妥協や平和的解決(compromise or peaceful resolution)が受けにくくなり、外交政策がゼロサムゲームになっている。第二に、アジアの軍事バランスは変化しており、中国政府が戦争の結果について危険なほど楽観的になる可能性がある。第三に、中国の短期的な軍事的見通しが改善するにつれて、長期的な戦略的および経済的見通しは暗くなっており、この組み合わせが過去に修正主義諸大国(revisionist powers)を更に暴力的にすることがよくあった。第四に、習国家主席は中国を、特に悲惨な誤算と多大な費用がかかる戦争(disastrous miscalculations and costly wars)を招きやすい種類の個人崇拝的独裁政治体制(personalist dictatorship)に変えてしまった。

これは、中国が特定の週、月、または年に台湾を侵略すると言っているのではない。紛争の引き金は予期せぬ危機であることが多いため、紛争がいつ起こるかを正確に予測することは不可能だ。1914年にヨーロッパが戦争の準備を整えていたことは今では分かっているが、もしオーストリア大公フランツ・フェルディナンドを乗せた車の運転手が歴史上最も運命的な誤った道を歩まなければ、第一次世界大戦はおそらく起こらなかったであろう。戦争は地震に似ている。戦争がいつ起こるかを正確に知ることはできないが、リスクの程度の高低につながる要因を認識することはできる。現在、中国のリスク指標は赤く点滅している。

米中戦争の可能性は一見すると遠いように見えるかもしれない。中国政府は44年間大規模な戦争を行っておらず、中国軍は1988年に南沙諸島での小競り合いで中国のフリゲート艦がヴェトナム海軍の水兵64人を機銃掃射して以来、外国人を殺害していない。いわゆるアジアの平和、つまり、1979年以来、東アジアで国家間戦争が起こっていないことは、中国の平和の上に成り立っている。

戦争がないことは、侵略がないことを意味する訳ではない。中国政府は軍事力と準軍事力を利用して、南シナ海と東シナ海での権限を拡大してきた。近年、中国はインドとも血なまぐさい争いを繰り広げている。それにもかかわらず、アメリカがいくつかの戦争を戦った一方で、中国政府が大規模な戦争を回避してきたという事実により、中国政府当局者たちは、自国が世界的大国への道を独自に平和的に歩んでいる(peaceful path)と主張することができた。そして、戦争を心配する人々は、二世代にわたる平和によって記録的な成長を遂げた中国が、なぜこれほど劇的な方向転換をするのか説明するよう強いられる。

一見平和そうに見える新興大国が破綻するのはこれが初めてではない。1914年以前、ドイツは40年以上大規模な戦争をしていなかった。1920年代、日本は海軍の制限、アジアでの権力の共有、中国の領土一体性の尊重を誓約する条約に署名する際、多くの外国専門家たちを責任ある利害関係者のように見ていた。2000年代初頭、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領はNATOに加盟し、ロシアを西側に近づけることについて熟考した。それにもかかわらず、これらの国々がそれぞれ野蛮な征服戦争を開始したということは、状況は変化するという基本的な真実を強調している。同じ国でも、状況に応じて、異なる行動を取る可能性があり、場合によっては極端な行動する可能性がある

そのような状況の1つは、領土紛争に関係する。ほとんどの戦争は、地球のどの部分を誰が所有するかをめぐる争いだ。1945年以降に起こった国際紛争の約85%は、領土の主張を中心に展開している。領土には象徴的または戦略的な重要性があることが多いため、共有するのは困難だ。国家が地域を分割することに同意した場合でも、都市、石油埋蔵量(oil reserves)、聖地(holy sites)、水路、戦略上の高地などの最も貴重な部分をめぐって争いになることがよくある。更に言えば、領土を確保するには、フェンス、兵士、入植者(settlers)の形で物理的に存在する必要がある。したがって、国家が同じ縄張りを主張すると、頻繁に望ましくない接触が発生する。領土紛争は、一方の側が自国の主張が急速に侵食されることを懸念している場合、特にエスカレートする可能性が高い。神聖な土地が失われつつある、あるいは国が敵によって解体されるかもしれないという信念は、国境をより安全に保っている国であれば避けるであろう侵略を引き起こす可能性がある。

戦争の第二の原因は、軍事バランスの変化だ。戦争は様々な問題をめぐって行われるが、全ての根本的な原因は共通している。それは誤った楽観主義だ。こうした事態は、両方が目的を達成するために武力を行使できると信じている場合、言い換えれば、双方が勝てると考えている場合に起こる。もちろん、両方にとって、真に有利な戦争はほとんどない。つまり、少なくとも一方が、そして非常に多くの場合は両方が、敵の力を悲惨なほど過小評価していた。つまり、競争的または曖昧な軍事バランスが戦争を引き起こす。したがって、新しい技術の導入や弱い側による大規模な軍事増強など、特定のバランスを、競争力を高めたり曖昧にしたりすると、戦争のリスクが高まります。

第三に、諸大国は将来の衰退を恐れると好戦的になる。地政学的競争は強烈で容赦がないので、各国は相対的な富と力(wealth and power)を神経質に守っている。最も強力な国であっても、経済の停滞、戦略的包囲網、または自国の国際的地位を脅かし、敵の略奪に晒される、その他の長期にわたる傾向に悩まされると、暴力的な不安に陥る可能性がある。武装を強化しながらも不安は増大し、衰退の瀬戸際にある大国は、必要なあらゆる手段を使って不利な傾向を阻止しようと熱心に、あるいは必死になるだろう。ドイツ帝国、大日本帝国、そしてプーティン大統領のロシアにとって、それは最終的には戦争を意味した。

最後に、国家の行動はその政権によって形作られる。個人崇拝的な独裁国家は、多数の手に権力が握られている、民主政体国家や専制国家に比べて、戦争を起こす可能性が2倍以上高い。独裁者は紛争の代償に晒されることが少ないために、より多くの戦争を起こす。過去100年間で、戦争に負けた独裁者が権力の座から転落したのはわずか30%であったのに対し、戦争に負けた他のタイプの指導者は投票で排除されるか、その他の方法で政権の座から追放された。ほぼ100%排除される。独裁者が過激主義に傾くのは、親愛なる指導者の要求に全力で応えようとするおべっか使いたちに囲まれているからだ。独裁者はまた、血と土のナショナリズムが国内での圧制を正当化するのに役立つため、海外に現実の敵や想像上の敵を仕立て上げていく。そのため、限られた政府の指導者は通常、控えめに統治し、忘れ去られていくのに対し、ドイツのアドルフ・ヒトラー、イタリアのベニート・ムッソリーニ、ソ連のヨシフ・スターリン、中国の毛沢東、イラクのサダム・フセイン、ロシアのプーティンなどの独裁者は、しばしば歴史書に名前を残すようになっている。

これら4つの要因、つまり、確定していない国境、競争的な軍事バランス、否定的な予測、独裁政治は、中国の歴史的な武力行使を説明するのに役立ち、今日でも不気味な影響を及ぼしている。

中華人民共和国は戦いの中から誕生した。中国は一世紀にわたる外国帝国主義(foreign imperialism)に耐え、1937年の日本侵攻後、アジアで第二次世界大戦の矢面に立たされた。少なくとも1400万人の中国人が死亡した。その後、1945年から1949年にかけて、中国国共内戦は血なまぐさい最高潮に達し、共産主義者が権力を握るために戦う中で少なくとも200万人以上が殺害された。

こうした紛争のさなか、中国は極度の好戦国家(hyper-belligerent state)として台頭した。数十年にわたり、この国は世界で最も苦境に立たされた国の1つであり、5つの戦争を戦い、冷戦時代の米ソ両超大国(superpowers)の主敵となった。中国は戦争のあらゆる危険因子を示していたため、この暴力的な記録は驚くべきことではない。

第一に、中国は個人支配(one-man rule)の権化(apotheosis)である毛沢東によって率いられていた。毛沢東は日常的に同僚を粛清し、不可解で移り変わる論理的根拠に基づいて、しばしば夜中に寝ぼけながら一方的に決定を下した。彼はまた、人命に対する驚くべき軽視を示した。毛沢東が生きているうちに中国を超大国に変えるという無謀な計画である大躍進政策中に、およそ4500万人が飢えたり、殴られたり、射殺されたりした。この悲惨な作戦の背後に国民を結集させる必要もあり、毛沢東は1958年に台湾の国民党政府が保有する島々を砲撃して国際危機を煽動した。

毛沢東はサディスティックだったかもしれないが、これほど冷酷でない指導者であったら、これほど打ち砕かれた国家について、平和で統一された状態に保つのにより苦労したことだろう。内戦に勝利した後、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)は中央政府の権限を村ごとに再賦課し、少数民族、軍閥(warlords)、国民党支持者による抵抗勢力を苦労しながら、根絶しなければならなかった。更に悪いことに、日本とヨーロッパの諸帝国の崩壊により、中国の一部は、敵対的か不安定な、あるいはその両方の新たな国々に囲まれた状態になった。中国の国境の大部分はある程度争われていた。1960年代までに、ソ連との国境は世界で最も軍事化された地域となった。台湾はアメリカの支援を受けた、ライヴァルの中国国民党政府の拠点であり、本土の再征服を公然と計画していた。インドはチベット亡命政府(Tibetan government in exile)を受け入れ、広範囲の中国領土を自国領土と主張した。そして中国の中心地は、冷戦の2つのホットスポット、インドシナと朝鮮半島の間に挟まれていた。

中国は自らが常に引き裂かれる危険に晒されており、毛沢東が引き起こした経済的大惨事と政治的混乱によって、こうした歴史的トラウマはさらに強調された。しかし、北京は陸の隣国それぞれに対して常に実行可能な戦略を持っていた。なぜなら、中国の巨大な人口により、北京が「人民戦争(people’s war)」と呼ぶ、人海攻撃(human wave attacks)とゲリラ襲撃(guerrilla raids)を組み合わせた方法で敵国を飲み込むことができたからである。全体として、それは、領土紛争に巻き込まれ、無尽蔵に見える人的資源で武装した残忍な独裁政権という、可燃性の高い組み合わせ(combustible combination)となった。

このように中国は紛争から紛争へと戦い続け、特に脆弱だと感じたり、差し迫った立場の低下を恐れたりすると暴力を振るった。 1950年、中国は核報復(nuclear retaliation)の危険を冒して、北朝鮮奥深くまで進軍してきたアメリカ軍を攻撃した。1950年代後半、中国は台湾海峡の沖合の島々にある国民党の守備隊を砲撃し、更に2つの戦争を始めるところだった。1962年、中国が領有権を主張するヒマラヤ山脈にインド軍が前哨基地を建設した後、中国政府はインド軍を攻撃した。ヴェトナム戦争中、中国はアメリカ軍と戦うために数万人の軍隊を派遣した。1969年、ソ連軍の大幅な増強を受けて、北京はウスリー川沿いでソ連赤軍を待ち伏せ攻撃し、再び核戦争の危険を引き起こした。10年後、ヴェトナムがソ連軍の受け入れを開始し、中国政府の唯一の緊密なパートナーの一つであるカンボジアに侵攻した後、中国はヴェトナムを攻撃した。

その後、中国の銃はほとんど沈黙した。例外はあるが、最も顕著なのは1995年と1996年に中国が台湾付近にミサイルを発射した時だ。しかし一般的に言えば、1980年から2000年代半ばにかけて状況が劇的に変化したため、中国政府はそれほど苛烈で攻撃的ではなくなった。

まず中国最高指導部が軟化した。1976年に毛沢東が亡くなり、最終的に鄧小平が後任となったが、鄧小平は毛沢東によって粛清され、個人支配の危険性を理解していた。鄧小平の指導の下、最高級指導者たちの任期制限(term limits)が設けられた。全国人民代表大会と中国共産党中央委員会は、定期的に会合を開き始めた。専門化された官僚制(professionalized bureaucracy)が形成され始めた。これらの制度は完璧とは程遠いものだったが、毛沢東政権下では全く欠けていた権力に対するチェック機能(checks on power)を生み出した。

第二に、中国の地政学的立場が改善され、領土保全に対する脅威が減少した。1970年代にアメリカが中国に対して開放した後、台湾の敵対政府は外交上の承認とアメリカとの軍事同盟の大部分を失った。ソ連を追い詰めるため、アメリカは中国と準同盟(quasi-alliance)を結び、先端技術を中国企業に移転した。台湾、ソ連、インド、ヴェトナムは、アメリカの反応を引き起こす可能性なしに中国の領土を侵害することはもはや不可能となった。そして、1991年にソ連が崩壊すると、中国の陸上国境に対する主要な脅威はほぼ完全に消滅した。ロシアの支援がなければ、インド、ヴェトナム、そして中央アジアの新興諸国は中国の国境に対抗できる立場になかった。その代わりに、中国との関係正常化に動いた。

第三に、中国の将来に対する見方が明るいものとなった。アメリカや他の民主政体諸国との接近を経て、中国は世界経済への容易なアクセスと国連安全保障理事会の常任理事国の地位を獲得した。1970年代後半から2000年代初頭にかけて、その経済は驚異的なペースで成長した。各国は急成長する市場にアクセスするため、中国政府に好意を示した。イギリスは香港を返還した。ポルトガルはマカオを放棄した。アメリカは中国の世界貿易機関(WTO)への加盟を急いだ。中国経済が大混乱に陥り、世界の最も強力な国々が中国の台頭を歓迎している中、中国政府には日に日に良くなっているように見える現状をひっくり返す動機がほとんどなかった。

最後に、中国には征服の機会がほとんどなかった。経済的、外交的影響力が拡大していった一方で、中国軍は未だ係争中の領土、そのほとんどが海上にある領土を占領する能力が明らかに無かった。2000年代以前のみすぼらしい空軍と海軍では、中国の台湾侵攻は「百万人の水泳大会(million-man swim)」のようになり、日本の最先端の部隊との衝突は数時間でけりがついていたかもしれない。最も重要なことは、アメリカが海洋アジアにおける中国の侵略を鎮圧することが期待できることだった。湾岸戦争でアメリカ軍がイラク軍を壊滅させたのを見た中国指導者たちは、鄧小平の格言を受け入れて、「韜光養晦(とうこうようかい、to hide their light and bide their time)」、光を隠し、時を待つ傾向にあった。

今日の中国は隠れて入札することは終わった。その代わりに、第二次世界大戦後、どの国よりも速いペースで軍艦やミサイルを大量生産している。中国の航空機と軍艦は台湾とアメリカの目標への攻撃をシミュレートしている。アジアのシーレーンには中国軍の前哨基地が点在し、中国沿岸警備隊や漁船があふれており、中国政府が主張する海域から近隣諸国を図々しくも追い出している。一方、中国はロシアによるウクライナへの残虐行為を支援し、中印国境に軍隊を集結させている。

中国が戦闘的になった理由の1つは、それができるからだ。中国のインフレ調整後の軍事予算は、1990年から2020年の間に10倍に拡大した。現在、中国政府はアジアの他の全ての国を合わせた支出を上回っている。世界最大の弾道ミサイル戦力と海軍を擁する。2020年代の終わりまでに、中国の核兵器保有量はワシントンの核兵器に匹敵する可能性がある。台湾から500マイル以内にある唯一の基地である、沖縄のアメリカ軍基地を粉砕できる通常ミサイルでは、国防総省が中国の台湾攻撃に即座に対応できるか、ましてや打ち破ることができるかは、もはや明らかではない。歴史的に、アメリカは長引く戦争で敵国を上回る生産力を誇る製造力に頼ってきた。しかし、中国が世界の工場となった今、中国政府は、正しいかどうかにかかわらず、戦争が長引けば長引くほど軍事バランスは、更に中国側に有利に変化すると信じているかもしれない。

領土紛争(territorial disputes)が激化する中、中国も戦争への動機を強めている。第一に、台湾を統一する平和的手段は急速に失われつつある。1995年には、台湾人よりも自分たちはもっぱら中国人であると考える台湾国民の方が多く、独立よりも中国との統一に向かうことを好む人が多かった。現在、人口のほぼ3分の2が自分たちをもっぱら台湾人であると考えているのに対し、もっぱら中国人であると自認する人はわずか4%だ。台湾人の多くは、今のところ現状維持を支持しているが、人口の49%は、無期限の現状維持(27%)や統一(12%)よりも、最終的には独立することを望んでいる。一方、アメリカは台湾との関係を強化しており、ジョー・バイデン米大統領は、アメリカが中国の攻撃から台湾を守ると少なくとも4回宣言している。アメリカと台北が中国との潜在的な紛争に備えて軍事体制を見直している中、中国政府は最も切望する領土の運命について警戒を強めている。

南シナ海における中国の軍事的プレゼンスは大幅に拡大しているが、その外交的地位は損なわれつつある。2016年、ハーグの常設仲裁裁判所は、南シナ海に対する中国の広範な主張は無効であるとの判決を下した。訴訟を起こしたフィリピンは、2022年以来、自国の海洋権(maritime rights)を再主張し、アメリカが自国の領土を防衛するために、追加の軍事基地にアクセスすることを認めている。日本は、マニラと準同盟(quasi-alliance)を結んでいるほか、イギリス、フランス、ドイツを含む多くの国が中国政府の主張に反して、南シナ海に軍艦を派遣している。これに対抗して、中国は物理的に攻撃的になった。例えば昨年、中国沿岸警備隊の船はフィリピンの補給船を放水銃で爆破し、第二トーマス礁に駐留する軍関係者に食料を届けることを妨害した。

中国の軍事力が増大するにつれて、そのより大きな地政学的見通しは暗くなっている。中国経済は最近、アメリカに比べて停滞し、縮小している。生産性は低下し、負債は爆発的に増加している。中国政府がこの問題に関する統計の発表を一時停止した2023年半ばの時点で、若者の20%以上が失業しており、この数字はほぼ間違いなく問題の深刻さを過小評価している。裕福で教育を受けた大勢の中国人が金と子供たちを国外に送り出そうとしている。中国が世界史上最悪の高齢化危機に見舞われるにつれ、こうした問題は更に悪化するだろう。今後10年間で、中国は7000万人の労働年齢成人を失う一方で、1億3000万人の高齢者が増えることになる。

最後に、中国はますます敵対的な戦略環境に直面している。世界で最も裕福な国々は、経済と軍事の革新の生命線であるハイエンド半導体へのアクセスを遮断し、中国政府に対して、毎年新たな貿易と投資の制限を課している。 AUKUS、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQUAD)、日米韓三カ国協定などの反中協定が急増している。中国の唯一の大国の同盟国であるロシアは、ウクライナで軍隊による破壊を引き起こし、多くのヨーロッパ諸国の世論を反中国にさせている。

もし中国がテクノクラートたちの委員会によって統治されていれば、外交的妥協と経済改革で、こうした圧力に対抗するかもしれない。しかし、中国は独裁者によって統治されており、その壮大な目的を達成するためには、中国国民の幸福を犠牲にする用意があることを既に示している。

2012年に権力の座に就いて以来、習近平は自らを終身主席(chairman for life)に任命し、自らの統治哲学を憲法に盛り込み、数千人の潜在的なライヴァルを粛清してきた。習近平は、中国の広大な領土主張に関して妥協のない立場をとっている。習は2018年、「祖先が残した領土を1インチたりとも失うことはできない」とジェームズ・マティス米国防長官に警告した。習は中国を超大国にすることの正当性を主張してきた。国営メディアは現在、毛沢東の下で中国は立ち上がったと宣言している。鄧小平の下で中国は豊かになった。そして習金平の下で中国は強大になるだろう。近年、習近平は内部演説で中国軍に戦争の準備をするよう指示し、中国国民に「極端なシナリオ(extreme scenarios)」に備えるよう指示した。

おそらく、このレトリックはただの暴言なのかもしれない。しかし、残忍なゼロコロナ封鎖、新疆の強制収容所、香港の自由の粉砕など、習近平の行動の多くは、本質的な冷酷さを示すものだ。中国が経験している他の変化と組み合わせると、これらの形態の内部侵略は、今後待ち構えているかもしれない、外部侵略について私たちを非常に緊張させるはずだ。

もちろん、国家が何も考えずに戦争か平和を選択するということはない。彼らはまた、世界のより大きな国家からヒントを得る。1930年代、連鎖的に起こる国際的な混乱は、既存の秩序を守る人々の士気をくじき、それを攻撃しようとする人々を勇気づけた。それでは、ヨーロッパにおける第二次世界大戦以来最大の戦争と、中東での拡大する紛争によって、中断された現在の混乱は、中国の選択をどのように形作る可能性があるのだろうか?

一つの見方は、ロシアのウクライナ戦争が、どれほど手厳しく裏目に出るかを示し、他の侵略戦争の可能性を低くするというものだ。バイデン政権高官たちや学識経験者の一部が支持するこの話では、中国はプーティン大統領の不正な土地強奪から厳粛な教訓を学んでいるということになる。中国政府は、献身的な防衛者に対する征服がいかに難しいか、独裁的な軍隊が戦闘でいかに劣悪なパフォーマンスを発揮するか、米諜報機関が略奪計画の探知にどれほど熟達しているか、そして民主世界が自由に基づいた秩序の規範に反抗する国をいかに厳しく罰することができるかを学んでいる。中国軍はロシア軍を弱体化させた腐敗の有無を厳しく調べており、その腐敗が思ったよりもずっと深刻であることが判明した。アメリカ政府当局者たちは、中国が最近の出来事を同様の観点から解釈していることを期待しているに違いない。

しかし、私たちはこの解釈を注意深く精査する必要がある。まず、中国がウクライナ戦争についてどう考えているかを知るのは非常に難しい。結局のところ、重要な教訓は、中国人民解放軍の上級大佐や北京のシンクタンク研究員によって発表されたものではない。重要な教訓は、世界に対する認識が個人崇拝政権のあらゆる通常の病理によって彩られている可能性がある、甘やかされた独裁者によって描かれている。習近平の公の発言からすると、今回の紛争が習近平の野心を和らげたり、中国の国家政治を根本的に穏健にしたりする証拠はほとんどない。習近平は、2023年3月にモスクワを訪問した際、プーティン大統領に対し、「現在、私たちがこの100年にしたことのないような変化が起きており、私たちはその変化を共に推進している」と語った。

加えて、習近平は、ウクライナと台湾を比較できるものとは考えていない可能性がある。プーティンが派遣したロシア軍がウクライナで苦戦したのは、ウクライナ戦争が、彼らが準備され、教化されてきた(indoctrinated)戦争ではなかったからでもある。中国は何十年にもわたって台湾をめぐる戦争の準備をしており、統一(unification)が「中華民族の偉大な復興(great rejuvenation of the Chinese nation)」の中心であると兵士たちに厳しく教えていることを考えると、台湾への侵攻は問題ではないだろう。さらに、社会全体で抵抗する能力において、台湾はウクライナより劣ると習近平が考えているとしても、それは彼だけのことではない。アメリカ政府の高官や専門家たちも同様の懸念を表明している。

あるいは、もしかしたら習近平は、アメリカは核武装した大国とはいかなる戦争もしないと結論づけているのかもしれない。なぜなら、アメリカがモスクワと正面から対峙しない理由をバイデンが説明する際に、同じことを言ったからである。おそらくバイデンは、西側諸国の制裁は実際にはそれほど懲罰的ではないと考えているのだろう。戦争が始まって2年が経ち、ロシアはウクライナ領土の20%を支配し、石油やその他の輸出品は新たな市場を開拓し、工場は兵器を大量生産しており、経済は崩壊の危機に瀕していない。そして、おそらくバイデンは、ロシアがウクライナの反撃を切り抜ける一方で、アメリカの政治家たちがキエフに更なる資金と武器を送るかどうかで争っている最近の戦争の軌跡を、独裁国家は民主的な敵よりも強さと回復力を発揮できるという証拠だと考えているのだろう。

明確にしておきたい。習近平が実際に何を考えているのかは分からない。しかし、中国の戦争への動機を強める可能性のある、あまり安心できない別の教訓ではなく、まさにアメリカ人が彼に学ばせたい教訓を彼が学んでいると考えるのは危険である。

中国は最終的に、2025年、2027年、2029年、あるいはこれからも、台湾、あるいはインド、日本、フィリピン、あるいは他の国を攻撃するかもしれない。北京がいつ武力を行使するか、あるいは行使するかどうかを確実に予測することはできない。しかし、戦争になりやすい国なのか、なりにくい国なのか、中国の内的特徴や外的条件によって、暴発するリスクが高いのか、低いのかを評価することはできる。今日、歴史家や政治学者たちが戦争の原因について知っていることの多くは、中国が暴力を振るう素地があることを示唆している。

残念なことに、ワシントンは北京をこの危険な道へと突き進ませているいくつかの要因に影響を与えることはできない。アメリカは中国の人口危機を解決することも、構造的な経済問題を解決することも、習近平のワンマン支配を止めることもできない。例えば、北京の高度技術へのアクセスを緩和したり、インド太平洋でより強力な連合を構築する努力を放棄したりすることで、中国の将来に対する否定的な期待を変えることはできるかもしれないが、そうすることはワシントンの立場を致命的に弱めるかもしれない。アメリカは、競争に勝ち抜くと同時に、深刻な衝突を避けなければならない。その中で、アジアでの戦争がどのような結果をもたらすかについての、中国の楽観論を抑え、北京が屈辱的な敗北を避けるために戦わなければならないと結論付けるのを防ぐことを目指すべきである。

戦争の結果についての中国の楽観論を否定するための要件は、たとえ簡単に満たされるものではないとしても、非常に単純である。その中には、対艦ミサイル、機雷、移動式防空システム、その他の安価だが致死的な能力を持つ武器が満載の台湾も含まれる。無人機、潜水艦、ステルス航空機、そして膨大な量の長距離攻撃能力を使用して、西太平洋に決定的な火力をもたらすことができるアメリカ軍もそうした要因の1つとなる。そして、アメリカ軍に地域内のより多くの基地へのアクセスを許可し、更に多くの国を中国政府との戦いに参加させる恐れのある同盟諸国やパートナーとの協定。中国経済を制裁で打撃し、海洋貿易を阻止できる世界規模の国々の連合。そして経済的、財政的優位性が最終的に決定的であることが判明するまで、民主政体諸国が戦いを継続できる、活性化された産業基盤といったものもある。ワシントンとその友人たちは、既にこれらのあらゆる取り組みを推進している。しかし、彼らは、急速に成熟する中国の軍事的脅威を上回るために必要なスピード、リソース、緊急性を持ってはいない。

2つ目の課題には、抑止力(deterrence)と安心感(reassurance)を組み合わせることが含まれる。これは、習近平の目から見ると、不作為が中国を解体(dismemberment)と屈辱(humiliation)に導く可能性がある程度を制限することだ。中国政府高官たちは、アメリカの政策と台湾の政治が台湾を独立やその他の形での永続的な分離(permanent separation)への道に導いていることを心から懸念しているが、その傾向の主な原因が自国の行動にあることを認識していない。したがって、アメリカは台湾に関して慎重に対処しなければならない。

アメリカ政府は、2022年8月のナンシー・ペロシ連邦下院議長(当時)の台湾訪問のような、台湾の防衛強化には何の役にも立たず、中国の不安と怒りを大いに煽る派手な見せ物は避けるべきだ。アメリカは、とりわけマイク・ポンペオ前米国務長官が提案した「一つの中国」政策(“One China” policy)を捨てて台湾を正式に承認する(formally recognizing Taiwan)という考えを拒否すべきだ。台湾の指導者たちによる独立推進の宣言や行動については反対すべきだ。言い換えるならば、アメリカは台湾を防衛するための信頼できる能力を行使すると同時に、米中どちらの側も一方的に現状を変更すること(unilaterally changing the status quo)を阻止することを目指すという信頼できる誓約を提示しなければならない。

このアプローチには多くの矛盾があるので、その実施は非常に困難だ。アメリカとの同盟関係の強化は、中国の軍事的楽観主義(military optimism)を低下させる可能性があるが、同時に戦争の予感(sense of foreboding)を強める可能性がある。抑止力を強化するために必要な緊急性は、特に中国政策が米大統領選挙戦に巻き込まれる中で、両岸外交(cross-strait diplomacy)に必要な慎重さと一致させるのは難しいかもしれない。強力だが問題を抱えた中国は悪い方向へ進んでいる。戦争への突入を防ぐには、アメリカとその友好諸国が結集できるあらゆる力と節度(strength and sobriety)が必要となる。

※マイケル・バックリー:タフツ大学政治学准教授、アメリカン・エンタープライズ研究所非常勤上級研究員。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念世界問題担当優等教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界を大きく見るための枠組みを提示しています。是非手に取ってお読みください。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年は中国にとっても厳しい年となりそうだ。経済が減速し、若者たちは就職で苦労し、結果として、社会に対する幻滅や国家に対する信頼が揺らぐということになる。中国は経済運営に関して、人類史上でも類を見ないほどにうまく対応してきた。日本の戦後の成長は「奇跡の経済成長」と賞賛されてきたが、中国の経済成長は期間とその規模で日本を上回っている。

 2024年の中国に関する5つの予測という記事が出た。この記事によると、中国の2024年は暗いようだ。不動産価格の下落、若者の就職が厳しい状態、若者たちの幻滅はすでに起きており、今年も続くということだ。中国の不動産価格は下落するだろう。日本の都市部の不動産価格の高騰は中国マネーが入ってきているからであり、中国の富裕層は日本に目を向けている。中国の若者たちの厳しい現実と幻滅に中国政府は本格的に対処することになるだろう。

 中国の政治指導部で複数の閣僚の更迭が起きたが、これは、アメリカとの不適切なつながりがあったためだ。中国の最高指導層はこの点を非常に厳しく見ている。敵と不用意にかつ不適切につながっている人物を排除するということで、非常に厳しい態勢を取っている。それだけ米中関係のかじ取りが難しいということも言える。お互いに、敵対的な関係にはなりたくないが、好転するという状況にはない。ジョー・バイデン政権はウクライナとイスラエルという2つの問題を抱えて、更に中国と敵対することは不可能だ。何とか宥めながら、状況を悪化させないようにしようとしている。

 台湾の総統選挙は民進党の候補が勝利すると見られている。これで何か起きるということは米中ともに望んでいない。現状がそのまま続くことになる。台湾に関しては、バイデン政権が超党派の代表団を送り、台湾の代表もアメリカで活発に動いているようであるが、大きな変化はないだろう。アジアで何かを起こすことは、アメリカにとっても致命傷になってしまう。アジアの平穏は世界にとっても重要だ。日本も中国とは敵対的な関係にならないように配慮していく2024年になるだろう。

2024年の中国に関する5つの予測(5 Predictions for China in 2024

-台湾に関する小さな危機から若者層で拡大する幻滅まで、来年(2024年)に中国が直面するであろう5つの問題について見ていく。

ジェイムズ・パーマー筆

2023年12月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/26/china-predictions-2024-taiwan-economy-xi-jinping/

2020年代は今のところ、中国の失われた数十年のように感じられる。経済は減速し、若者は幻滅して、職を失い、彼らの親は資産価値の暴落を目の当たりにしている。経済は減速し、若者たちは幻滅し、職を失い、親たちは資産価値の暴落を目の当たりにしている。2023年は北京にとって困難な1年であり、次の1年もそれほど幸せなるとは見えない。以下に、2024年の中国に関する5つの予測をまとめた。

(1)台湾の小規模な危機(A Taiwan Mini-Crisis

台湾では1月13日に総統選挙が行われ、今年は海峡における小さな危機から始まる可能性がある。蔡英文(Tsai Ing-wen)総統の下で働き、民進党(Democratic Progressive PartyDPP)に所属する現台湾副総統、頼清徳(Lai Ching-te)が、世論調査の結果では僅差でリードしている。彼の選出は北京を激怒させるだろう。彼はより独立した台湾の擁護者であり、中国共産党 Chinese Communist Party (CCP) に強く反対しています。

頼は、北京の最終防衛線(レッドライン)である台湾の正式な独立や中華民国を名乗ることはないと述べているが、台湾の主権は「事実(fact)」であり、北京の基準では候補者全員が独立派であることを念押ししている。

頼が勝利すれば、海軍の作戦行動や領空侵犯など、北京の積極的な動きが予想される。先週、習近平が11月にジョー・バイデン米大統領と会談した際、台湾との統一について発言したという報道があり、ワシントンはパニックに陥ったが、侵攻の可能性は極めて低い。特に中国が他の危機と闘っているときには、それは危険で困難なことだろう。

1月13日に台湾の野党・国民党(KuomintangKMT)が勝利したとしても、いくつかの問題が生じる可能性がある。国民党は民進党よりも親中派だが、この島の鍵を中国政府に渡すことはまずないだろう。中国当局者は、国民党の選挙勝利を台湾における中国の影響力の表れとみなして、その重要性を過大評価している可能性がある。最近の調査では、台湾の有権者の17%が中国を主な関心事だと答えたが、その2倍以上が経済を選んだ。

(2)拡大する不動産苦境(Growing Property Woes

中国の住宅価格は何年にもわたって危険な状態に陥っていたが、2024年はついに危機の瀬戸際に立たされる年になるかもしれない。今年の不動産開発業者たちの危機は、カントリー・ガーデン(Country Garden)のような、かつては比較的安全と考えられていた企業にまで及んだ。しかし、中国政府が本当に恐れているのは住宅価格の下落だ。結局のところ、中国の家計資産の70%は不動産に投資されている。

政府はデータを改ざんし、解説者たちを脅迫して、中国経済が実際にどれだけ厳しい状況にあるのかについて人々が語るのを阻止しようとしているようだ。現在、公的な住宅価格指数と実際に市場で売れる不動産価格の間には大きな乖離がある。多くの都市では価格が少なくとも15%下落し、北京では最大30%下落している。

こうした傾向が広がるにつれ、公式の数字ですら現実をよりよく認識する必要が生じる可能性があり、そうなるとより広範囲にわたる信頼の危機を引き起こすことになるだろう。

(3)政治指導者の交代(Political Leadership Shake-ups

2023年には、秦剛(Qin Gang)外交部長と李尚福(Li Shangfu)国防部長という2人の最高指導層の指導者たちが失脚した。両者の解任の全容は依然として不透明だが、習近平が昨年トップポストに忠実な人物を詰め込んだにもかかわらず、中国共産党の最高指導部の政治は新年を迎えても不安定なように見える。

それは驚くべきことではない。習近平は政党政治において有能であるが、彼の統治は、特に過去3年間、中国にとって酷いものとなった。義務的な崇拝によっても、彼は不安を感じたり、多くの人がこの国の現状について自分を責めていることを認識したりするのを止めることはできない。この不安は、習近平の気まぐれに生命、富、自由が左右される他の指導部にも影響を与える。こうした緊張が来年、劇的な政治な結果を生み出す可能性が高い。

派閥や協力者たちについて語られることはあっても、中国共産党の政治はある意味で組織犯罪の力学に似ている。もし習近平に対して重大な動きがあるとすれば、それは習近平が推し進め、後援してきた人々から起こるかもしれない。

(4)若者たちの幻滅(Youth Disillusionment

先週、AP通信のデイク・カン記者は、過去3年間の中国における大衆の気分の変化を捉えた2つの微博(Weibo)メッセージを自身のアカウントで共有した。2020年6月、見知らぬ人が彼に「中国から出て行きやがれ(Get the fuck out of China)」とメッセージを送った。 今月(2023年12月)、同じアカウントから「申し訳ありません」というメッセージが届いた。

中国の若者の多くがここ数年で同じ道をたどった。国家主義的な教育は、2020年の夏に新型コロナウイルス感染症に対する明らかな勝利とともにもたらされた誇りと勝利の感情を彼らに呼び起こし、世界の他の国々が緊急体制を取る一方で、中国は比較的正常な状態に戻った。その感情は西側諸国、特にアメリカに対する敵意(hostility)の高まりと融合し、アメリカを非難するパンデミックに関する、複数の権力者共同謀議論(conspiracy theories)が定着した。

しかし、2021年と2022年の中国の新型コロナウイルス感染ゼロ政策への不満と経済危機が相まって、国民、特に若者の感覚は大きく変化している。この変化の兆候の1つは、中国の対米世論が急上昇していることである。これは、中国政府の方針に対する不満を表現する暗号化された方法である。 2024年には、2020年代の初めに既に明らかだった将来に対する悲観が更に悪化する可能性が高くなる。

民衆の間にあるナショナリズムの低下と若い新卒者たちの悲惨な経済見通しが、中国の18歳から24歳のうつ病の増加につながっているようだ。若者の失望と怒りは2022年12月に爆発し、中国は新型コロナウイルス感染ゼロ政策に反対する過去数年で最大の大規模抗議デモを経験した。来年(2024年)はそのようなことはないだろうが、虚無主義と他国への逃亡願望(そうする資力のある人々の間での)は、2024年もいわゆる逃避学(runology)を煽り続けるだろう。

10年前、中国共産党が反体制派潰しに走った主な理由の1つは、党が若者の支持を失っているという確信だった。この新たな恨みに対する政府の対応は、強制的な愛国心の誇示とネット空間の検閲強化を主張することだろう。2023年には、別のゲーム機性が終わったが、中国政府に中国の若者が望むような未来を提供する能力はほとんどない。

(5)米中関係の崩壊はないが、回復もない(No Collapse in U.S.-China Relations, but No Recovery Either

2023年11月にサンフランシスコで行われた習近平とバイデンの首脳会談は成功し、双方はこれを勝利とみなしたようだが、長年下り坂だった関係に一時的な冷却期間をもたらした。重要なのは、北京とワシントンのハイレヴェル軍事協議が再開されたことだ。中国の国営メディアでは、反米的な言動は比較的控えめだが、それでも絶え間なく流れ続けている。

それが長続きするとは思わない方がいい。両大国間の構造的緊張は十分に激しく、何らかの新たな危機が中国をいわゆる狼戦士モードに戻すことは避けられないだろう。しかし、この態勢が2020年のような高みに達することはないだろう。中国には、しばらくの間、あまり大きな問題を起こすリスクを避けるために十分な他の問題がある。

選挙期間中、ワシントンの反中レトリックが関係を悪化させるという懸念は常にある。しかし実際のところ、アメリカの有権者たちは投票箱を前にして中国を気にしていないようだ。本当に危険なのは、中国による選挙干渉の試みかもしれない。選挙干渉は、中国系有権者の多い地域の特定の政治家を狙ったものだろうが、おそらくはドナルド・トランプ支持路線に沿ったものとなるだろう。

※ジェイムズ・パーマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。ツイッターアカウント:@BeijingPalmer

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(終わり)

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