古村治彦です。
2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)が発売になりました。ウクライナ戦争に関しては1章分書いています。是非手に取ってお読みください。
ウクライナ戦争は2022年2月24日に始まり、長期戦となり、2024年まで続く状況になっている。戦況は膠着状態に陥り、ロシアがやや攻勢を強めているという状況だ。最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも書いたが、アメリカ国民はウクライナ支援に嫌気が差しており、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」の状況になっている。ジョー・バイデン大統領はさらなるウクライナ支援をしたいが、予算はアメリカ連邦議会が決めているため、アメリカ連邦議会下院で多数を握る共和党内にウクライナ支援反対派がいる以上、先行きは不透明である。ウクライナ支援の半分以上を占めるアメリカの支援がなくなれば、ウクライナは戦争継続が難しくなる。
2023年10月に始まった、パレスティナ紛争(ハマスとイスラエルの戦い)で、アメリカを中心とする西側諸国(the West、ザ・ウエスト)はハマス避難を行い、その後のイスラエルによるガザ地区への攻撃とその攻撃による犠牲者についての非難を行っていない状況である。一方で、西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)は、即時停戦を求め、イスラエルの攻撃によるパレスティナ側の民間人犠牲者の増大を非難している。ここに国際社会、国際政治の最新の分断線がある。
ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領は、ハマスによる攻撃発生直後から、ハマス非難、イスラエル支持を明確に表明した。これは、もちろん西側諸国からの支援を期待してのことだ。ハマスをテロ組織、ロシアをテロ国家と呼び、同じ悪だと非難した。その後、イスラエルによるガザ地区攻撃については非難ができない状況になってしまった。「強大な力によって虐げられる弱者」という構図を作りたいならば、ウクライナとパレスティナを並べ、ロシアとイスラエルを並べるのが妥当な状況になっているが、それができないようになった。結果として、西側諸国からの支援が先細りすることが確実な状況で、非西側諸国からの支援が期待できない状況になった。このような状況に陥ってしまったのは、ゼレンスキーの国際感覚の欠如と指導者としての才能の欠落が原因である。どちらにもついて、どちらにもつかないということができなければ、強大な勢力に囲まれた小国は生き抜いていくことはできない。これは日本にとっても教訓となる。
更に言えば、より悪質なのは、イギリスである。イギリスのシンクタンクであるチャタムハウス(王立国際問題研究所)の研究員は「プランB」があって、戦争は継続できるというようなことを言っている。ウクライナを焚きつけているのはイギリスである。この狡猾さがイギリスを世界帝国にまで押し上げた訳ではあるが、西側の没落によって、イギリスの力も落ちていく。
ウクライナ戦争は「金の切れ目が縁の切れ目」ということになるだろう。
(貼り付けはじめ)
ウクライナにとっての新たなダメージ:ハマスとガザに対する戦争でイスラエルの側に立つこと(New danger for Ukraine: Taking Israel’s side in war against Hamas
and Gaza)
イソベル・コシウ筆
2023年10月29日
『ワシントン・ポスト』紙
https://www.washingtonpost.com/world/2023/10/29/ukraine-israel-gaza-russia-support/
キエフ発。ウクライナ大統領ヴォロディミール・ゼレンスキーは、ハマスとの戦闘について、イスラエルに対して即座のそして力強い支持を表明した。これは、キエフがこの1年にわたって行ってきた、ロシアとの戦争における、アラブ・イスラム諸国からの支援を勝ち取るための努力を無駄にする危険がある。
ハマスからの奇襲攻撃の後、ゼレンスキーはすぐの段階でイスラエルを支持する声明を発表した。ハマスの奇襲攻撃によって、1400名以上のイスラエル国民が殺害された。この声明は、ウクライナに対する国際的な関心の維持に役立ち、そして、明確に、ウクライナをアメリカの側に立たせることになった。
ゼレンスキー大統領のイスラエル支持の立場によって、イスラエルの不倶戴天の敵であるハマスの主要スポンサーであり、ロシアにとって無人機やその他の武器の重要な供給国でもあるイランとロシアとの関係がますます緊密になっていることにも注目を集めた。
ゼレンスキー大統領は2023年10月9日にNATO議会で演説しその中で、ハマスとロシアは、「同じ悪であり、唯一の違いは、イスラエルを攻撃したテロ組織があり、ここにはウクライナを攻撃したテロ国家があるということだ(Hamas and Russia are the “same evil, and the only difference is that
there is a terrorist organization that attacked Israel and here is a terrorist
state that attacked Ukraine)」と述べた。
しかし、イスラエルの軍事作戦が4週目に入り、パレスティナ人の犠牲者が増えるなか、ガザでの戦争は、2022年2月のロシアの侵攻以来、ウクライナにとって最も困難な外交的試練の一つとなっている。
ウクライナに重要な支援を提供してきたトルコ、サウジアラビア、カタールなどの国々は、イスラエルに対する控えめな批判と比較して、ウクライナでの民間人の死亡に対する広範な非難を示唆しながら、ガザにおける二重基準(ダブルスタンダード、double standards)で西側諸国を非難している。
しかし、イスラム諸国やアラブ諸国との緊張は、キエフが直面しているリスクの一つに過ぎない。キエフは現在、世界の関心が中東での新たな戦争に大きく移っていることに加え、ウクライナへの追加援助に反対している連邦下院共和党のマイク・ジョンソン新議長(ルイジアナ州選出)が選出されたばかりの時期に、アメリカの軍事支援に対する競合する要求とも戦わなければならない。
一部の専門家たちは、イスラエルは既にウクライナへの支援拡大で応酬するつもりはないことを明らかにしていると指摘した。
中東研究所の平和構築(peace-building)の専門家であるランダ・スリムは、ロシアがシリアを支配していることもあり、イスラエルはモスクワとの関係を維持するしかなかったと述べ、イスラエルがハマス攻撃後にゼレンスキーの訪問申し出を拒否したことを指摘した。
ゼレンスキー大統領の親イスラエルの立場は「意味がなかった」とスリムは述べ、多くのアラブ・イスラム諸国は、イスラエルとウクライナよりも攻撃的な軍事大国としてのイスラエルとロシアの類似点が多いと見ていると付け加えた。
スリムは次のように述べている。「これがアラブ地域の現状です。彼らはバイデンの言う、ロシアとハマスの比較を受け入れるつもりはない。ロシアとイスラエルを比較するのは、死者数や民間人を標的にすることに関してのことである」。
スリムは続けて次のように述べた。「ゼレンスキーが、ロシアがウクライナでやっていることは、イスラエルがガザでやっていることと同じだと言う用意があれば、もっと多くの友人を獲得できただろう。しかし、ウクライナがそのような発表を行う準備ができている、もしくは進んでやろうとしていると私は考えていない」。
ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が当初、イスラエルに直接哀悼の意を表することもなく、ハマスに対する断固とした非難もしなかったように、イスラエルが報復空爆を強化する中、ゼレンスキーはガザのパレスティナ市民を保護する必要性についてなかなか口を開かなかった。
ハマスの攻撃のニューズが最初に流れた時、ゼレンスキーと彼のティームのメンバーはハマスとロシアを比較し、ウクライナ人はイスラエル人に「何が起こっているのか特別に理解している」と述べた。イスラエルには多数のウクライナ人とロシア人移民が住んでいる。
そのわずか10日後、ゼレンスキーは、民間人を保護する必要性と非エスカレーションの必要性を訴え、ガザへの砲撃を間接的に支持した。
一方、ゼレンスキーは、ガザで数千人のパレスティナ市民と少なくとも21人のウクライナ市民が死亡したにもかかわらず、イスラエルの攻撃を批判することを避けている。
捕虜交換(prisoner-of-war exchanges)やロシアによるウクライナの穀物輸出封鎖などの問題でウクライナとロシアの交渉に重要な役割を果たしてきたトルコとカタールの外相は、西側諸国の偽善(hypocrisy)を主張する共同声明を発表した。
カタール外相のムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・タニは「ある文脈では民間人の殺害を非難し、別の文脈ではそれを正当化することは許されない」と述べた。トルコのハカン・フィダン外相は、「西側諸国がガザでの殺害を非難しないのは非常に深刻な二重基準(ダブルスタンダード)だ」と付け加えた。
ヨルダンのラニア女王もCNNのインタヴューで鋭い批判を展開した。女王は「私たちは、銃を突きつけられて家族全員を殺すのはいけないことだが、砲撃して殺すのは構わないと言われているのだろうか?」と述べた。
他の専門家たちは、ゼレンスキーが比較しようとしたところで、アラブ諸国には響かないだろうと述べた。
ライス大学の研究員で、ウクライナとアラブ世界の関係について執筆しているクリスティアン・ウルリクセンは、ウクライナはアラブ世界にとって「最前線に立ったことがない」とし、「彼らにとって、ウクライナは関心のない紛争だ」と述べている。
ウリクセンはさらに、「イスラエルが多くの帯域幅(bandwidth)を占めているので、中東の誰も今ウクライナのことを本当に考えているとは思えない」と付け加えた。
今週末、ウクライナは、占領下のウクライナ領土からロシア軍を一方的に撤退させ、ウクライナの領土主権を完全に回復することを求める「和平計画(peace plan)」への世界的な支持を促進することを目的とした第3回協議の開催を予定していた。
サウジアラビアが主催し、ほぼすべての主要な非同盟諸国(major unaligned
powers)の代表が出席した8月の第1回ウクライナ和平公式会合(Ukraine peace formula
meeting)とは異なり、サウジアラビアの高官たちが今週末のマルタでのイヴェントに出席するかどうかは不明だった。
ゼレンスキーは月曜日、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子と会談したが、リヤドから発表された会談内容の公式発表では、マルタ会談やウクライナへのさらなる支援についての言及はなかった。
ブルームバーグ・ニューズが報じたところによると、中国はここ数日、ロシアとともにイスラエルとパレスティナの紛争を解決するための二国家解決策(two-state solution)への回帰を求めているが、マルタのイヴェントには参加しなかった。
トルコはマルタへの代表団派遣を計画していたが、ここ数日、トルコのレジェプ・タイイップ・エルドアン大統領はイスラエルに対して強硬に発言し、ハマスを抵抗運動(resistance movement)と表現しており、ゼレンスキー大統領の表明した立場とは全く対照的である。
ロシアが東部戦線での攻撃を強化している今、ウクライナは友好国を失うわけにはいかない。連邦議会の共和党議員たちがウクライナへの援助増額に反対を強めていることを考えれば、なおさらである。
バイデン大統領は、ウクライナへの600億ドルの追加援助を提案し、最近の演説では、イスラエルへの資金援助やアメリカ国内の国境警備の強化と結びつけている。
しかし、ホワイトハウスは、「ウクライナへの追加資金援助に繰り返し反対票を投じ、イスラエルへの援助からウクライナへの資金援助を切り離すつもりだ」とフォックス・ニューズに出演して語ったジョンソン新連邦下院議長に対処しなければならない。
ジョンソンは、ワシントンはウクライナを見捨てないと述べているが、ホワイトハウスの最終目標には疑問を呈している。一方、ヨーロッパでは、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相が最近、中国での会議の傍らでプーティンと会談し、ヨーロッパ連合(EU)からのウクライナへの500億ユーロの援助案を却下しようとしている。
ヨーロッパ連合(EU)は12月、2023年から2027年にかけての予算案の一部として、加盟27カ国の全会一致で承認される必要がある。
ウクライナの元経済大臣であるティモフィー・マイロバノフは、ゼレンスキー政権がウクライナに対する国際的な支援を再強化し、短期、中期的に戦争への関心を維持するための計画を打ち出すだろうと自信を示した。
ウクライナ外務省、ウクライナ大統領府、そしてゼレンスキー報道官は、彼らの計画がどのようなものなのか、コメントを求めたが回答はなかった。
一方、ロンドンのシンクタンクであるチャタムハウス(王立国際問題研究所)でウクライナ・プログラムの部長を務めるオリシア・ルツェビッチによれば、ウクライナはアメリカの支援が先細りになる可能性に備えてきたという。
ウクライナの「プランB」は、最近のドイツやトルコの武器企業との合弁事業や、イギリスとアメリカのメーカーとの交渉に見られるように、対外政治からできるだけ距離を置くことだとルツェビッチは言う。
ルツェビッチは、「アメリカがウクライナを完全に見捨てたら、それは非常に難しいことだ。しかし、ウクライナは自国の資源とヨーロッパの同盟諸国からの資源で戦い続けるだろう」と述べた。
カリーム・ファヒムがこの記事の作成に貢献した。
(貼り付け終わり)
(終わり)

ビッグテック5社を解体せよ