古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

2025年11月21日に『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体』 (ビジネス社)を刊行します。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
 最新刊の刊行に連動して、最新刊で取り上げた記事を中心にお伝えしている。各記事の一番下に、いくつかの単語が「タグ」として表示されている。「新・軍産複合体」や新刊のタイトルである「シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体」を押すと、関連する記事が出てくる。活用いただければ幸いだ。

 サミュエル・ハンティントンの主張した「諸文明間の衝突(Clash of Civilizations)」論は、発表してから数年後に、911同時多発テロ事件が発生して注目を浴びた。中華文明と西洋文明の対立ということは、現在の「西側諸国(the West)対それ以外の国々(the Rest)」にもつながる。

 しかし、世界はそれほど単純ではないというのが下に掲載した論稿の主張だ。世界をこのように単純に切り分けることはできない。様々な文明や文化はお互いに重なり合い、影響を与え合い、発展している。こうした多様性を無視した議論は排外主義に陥る。そうした排外主義が衝突を生み出し、最悪の場合には戦争に至ることもある。排外主義を克服することこそが文明的な営為である。しかし、世界の多くの地域で、このような文明的な営為が後退している。

サミュエル・ハンティントンが「日本文明」という言葉を使ったことで、「日本は凄いんだ」「日本は偉いんだ」という主張がなされるようになった。しかし、下に掲載した論稿には次のように書かれている。「これは、本書が1990年代初頭に執筆されたこと、当時日本が台頭する超大国として広く認識されていたことによる副産物である(a byproduct of the book being composed in the early 1990s, when Japan was widely perceived as a rising superpower)」。これは言い換えるならば、1990年代初頭の日本は世界第2位の経済大国として台頭しており、サーヴィスで1つの文明としてハンティントンは取り扱ったが、現在からみれば、これは現実に即していないということである。1990年代前半の日本の世界のGDPに占める割合は現在の中国と同じ程度で(17%程度)、アメリカにとっても脅威であった。一人当たりのGDPも高かった。それから30年後、日本は世界第5位、GDPの割合は5%程度、必然的に一人当たりのGDPも下がり続け、先進国のレヴェルからずり落ちてしまうところに来ている。「金の切れ目が縁の切れ目」という言葉もあるが、日本が貧乏になってしまって、「日本文明」という言葉も「茶番」のような扱いになっている。日本の文化が海外の人々から好かれているということとは根本的に別の話だ。日本は文明ではない。文明は社会システム、文化は生活様式を指す。日本は中華文明の1つの形態(社会システム)でしかなく、それは数千年前からそうだったということだ。生活様式は環境に合わせて独自の変化を遂げている。しかし、朝鮮半島や中国と似ている部分も多い。

(貼り付けはじめ)

文明の衝突を売り込む方法(How to Sell a Clash of Civilizations
-サミュエル・ハンティントンの有名なテーゼの矛盾は同時にその力でもある。

ニック・ダンフォース筆

2025年6月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/27/samuel-huntington-clash-of-civilizations-civilizational-state/

サミュエル・ハンティントンの『文明の衝突と世界秩序の再構築』は1996年の出版以来、世界的な影響力を持ち、ワシントンから北京に至るまでの指導者たちに引用されている。ハンティントンの主張は、彼が定義する世界の主要文明、すなわち文化、宗教、人種のカテゴリーが混在する文明間で、地政学的な紛争がますます増加するというものだ。批判者たちが指摘するように、ハンティントンの主張はナンセンスだ。

ハンティントンの思想は、彼の文明概念は全く首尾一貫しておらず、混乱していて、「曖昧(mushy)」であり、世界紛争の断層線(fault line)を意味のある形で説明できないと主張する人々から激しく批判され、嘲笑されてきた。しかし、もしかしたら、それがハンティントンのポイントなのかもしれない。

シリア内戦やロシアのウクライナ侵攻といった近年の主要紛争が、ハンティントンの文明区分間のものではなく、その内部で発生したというだけではない。区分自体が地図上に点在している。イスラム教やヒンドゥー教といった文明は広範な宗教的アイデンティティを持つ一方、正教(キリスト教の一派として)は独自のアイデンティティへと昇華されている。一方、東アジアは、中国文明、仏教文明、そして単に日本文明という、曖昧な形で分断されている。これは、本書が1990年代初頭に執筆されたこと、当時日本が台頭する超大国として広く認識されていたことによる副産物である(a byproduct of the book being composed in the early 1990s, when Japan was widely perceived as a rising superpower)。

最後に、「アフリカ」という広義の区分は、粗雑な地理的カテゴリーであると同時に、さらに粗雑な人種的カテゴリーを想起させる。政治学者アンジャリ・ダヤルが指摘するように、ハンティントンの文明は、ボルヘスが架空の中国百科事典で描いた動物の想像上の区分に少し似ている。「(a)皇帝の所有物、(b)防腐処理された、(c)飼いならされた、(d)乳飲み豚…(k)極細のラクダの毛の筆で描かれた、(l)などなど・・・」である。

残念ながら、支離滅裂な概念も、誤った解釈をすれば強力な概念となり得る。ハンティントンの区分の曖昧さこそが、紛争を政治的目的に沿うように枠組みづけるためのレトリック技法として最適である。人間の文化は複雑で絶えず変化しており、宗教、芸術、言語、歴史、そしてイデオロギーといった無数の繋がりが重なり合って成り立っている。

文明に関するレトリック(civilizational rhetoric)は、評論家や政治家に、この構造を切り刻み、自らのアジェンダに最も適した方法で作り変えるための柔軟性を与えている。ある日、ロシアは西洋に挑戦するスラブ国家であった。次の日、ウラジーミル・プーティンはキリスト教文明を多くの敵から守っている。西洋では、人種差別的な恐怖がイデオロギー的な恐怖へと再構成され、ハンティントンの冷戦後の世界では、文明の分断(civilizational divides)として再構成された。黄禍論(Yellow Peril)は赤い中国(Red China)へと、そしてそれは「中国的」世界(“Sinic” world)へと変化した。かつて私たちは常に東アジアと戦争状態にあったが、今や東アジアは常に私たちの文明の敵(civilizational foe)となっている。

文明に関するレトリックの柔軟性は、他にも利益をもたらす。それは、「西洋文明(Western civilization)」を守ることに尽力する連合を維持し、西洋を根本的に世俗的(secular)と考える人と西洋を根本的にキリスト教的(fundamentally Christian)と考える人を結びつける一方で、西洋を根本的に白人的(fundamentally white)と考える人を庇護してきた。

そして、この柔軟性(malleability)こそが、ロシア、中国、インド、トルコといった国々が自らを「文明国家(civilizational states)」として再ブランド化することで、ナショナリズムを一段と高めることに役立ってきた。

文明の曖昧さは、その言葉自体の進化に端を発している。当初は、他社会にも自国の下層階級にも適用できる、普遍的な洗練の基準を指していた。しかし、時が経つにつれ、文明は独自の伝統や価値観を持つ個別の文化単位を指すようになった。ゲーム「シヴィライゼーション」で最もよく表現されているこの概念は、多様な文化を名目上は平等であるかのように提示していた。

しかし、この概念は階層構造から完全には逃れられなかった。文明という用語で語る人々は、ほとんどの場合、自分たちの文明が道徳的または技術的に最も進歩していると考える。一方、他の文明は富や地政学的な力によって順位付けされる。また、ゲームのように、たとえ文字や建築のモチーフが異なっていても、全ての文明は最終的に西洋が開拓した道を辿ると考える人も多くいる。

必然的に、文明の中には他の文明よりも文明化されたものがある。1893年の教室の地理図に描かれたこの美しいイラストを考えてみよう。文明は尖塔で築かれるかもしれないし、パゴダや玉ねぎ型のドームで築かれるかもしれない。しかし、尖塔のある文明は前面に出て、工場がたくさんあるように見える。

こうした根深い排外主義(chauvinism)のおかげで、自国の優位性に絶対的な自信を持ち続けながら、異なる文明を行き来することが容易になる。とりわけプーティンは、この点を巧みに利用している。プーティンはウクライナ侵攻を正当化するためにロシア文明という概念を持ち出したことで悪名高いが、これは彼が用いる数多くの文明の組み合わせの1つに過ぎない。ロシアは、ギリシャへの働きかけで強調されているように、正教文明の守護者(the defender of Orthodox civilization,)であり、セルビアへのロシアからのアピールの定番であるスラブ文明の守護者(the defender of Slavic civilization)でもある。

もちろん、プーティンの野望はこうした限定的な文明的アイデンティティをはるかに超えている。広く報道されているように、ロシアは共通のキリスト教文明的アイデンティティを掲げることで、欧米諸国の右翼運動や福音派運動(right-wing and evangelical movements)に浸透してきた。2013年にプーティンは次のように述べたと伝えられている。「ヨーロッパ大西洋岸諸国の多くは、西洋文明の基盤を構成するキリスト教的価値観を含め、自らのルーツを実際に拒絶している。彼らは道徳的原則、そしてあらゆる伝統的アイデンティティ、すなわち国民的、文化的、宗教的、そして性的アイデンティティさえも否定している」。

イスラム教徒が疎外感を抱かないように、ロシアの文明に関するレトリックは彼らにも通じるものがある。ロシアの外交官たちは、西側諸国では西洋文明のキリスト教的ルーツを擁護する一方で、トルコにおいては共通のユーラシア的アイ​​デンティティを訴えてきた。ユーラシア的価値観の文化的・歴史的基盤は、ステップや強大な国家といった漠然としたものになりがちだが、西洋の覇権に対する共有された敵意(a shared hostility toward Western hegemony)の中にその根拠を見出す。

トルコは、文明に関するレトリックの矛盾した可能性を受け入れてきたもう1つの国である。オスマン文明の継承者を自称するトルコは、国内では民族的・宗教的ナショナリズムを一層強化しつつ、世界に対してはより包括的な姿勢を示すことができる。例えば、911事件の余波で、トルコとスペインは協力して文明同盟(the Alliance of Civilizations)を立ち上げ、アル・アンダルスとオスマン帝国の異宗教間の遺産を称賛したが、1492年や1915年の壊滅的な宗派間の暴力については一切触れなかった。

同様に、イスタンブールは2010年のヨーロッパ文化首都(European Capital of Culture)に立候補し、歴史的な教会、シナゴーグ、モスクを多数紹介する洗練されたビデオを作成した。そして選出された後、レジェップ・タイイップ・エルドアン政権は付随する助成金をモスクの修復のみに充てた。

こうした機会主義的な再構成(opportunistic reframings)は全く新しいものではない。歴史上の帝国はしばしば複数の形で自らを定義してきた。清帝国は、チンギス・ハンの遺産の継承者、東南アジアの人々にとっては「転輪王(wheel-turning king)」に率いられた仏教王朝、そして、中国本土においては儒教の伝統の継承者という立場を同時に主張することができた。オスマン帝国もまた、イスラム教の「カリフ(caliph)」と「ローマ皇帝(Caesar of Rome)」に加えて、中央アジアにおける「カーン(khan)」の称号を主張した。さて、このゲームの文明版は、支配者自身を超えて、その時点で最も強力または有用であるアイデンティティの観点から国全体を左右するようになった。

実際、「文明国家(the civilizational state)」の台頭が盛んに喧伝されているにもかかわらず、この用語はより排他的な形態のナショナリズムを推進する人々によって用いられる傾向がある。例えば、インドを「文明国家」と宣言する与党インド人民党(Bharatiya Janata Party)の指導者たちは、現代インド文化に貢献する多様な宗教的・言語的影響を称賛しようとしている訳ではない。それどころか、彼らはヒンドゥー至上主義を優先するために、その多様性を意図的に排除しようとしているのだ。

ヨーロッパとアメリカ合衆国では、「西洋文明」という概念が、対立する文化的排外主義(cultural chauvinism)を融合させる一因となってきた。この旗印の下、イスラム教徒の統合を啓蒙主義の世俗主義への脅威(a threat to Enlightenment secularism)と非難する新無神論者は、イスラム教徒の移民を十字軍の新たな戦線と見なすキリスト教原理主義者と結束する可能性がある。啓蒙主義やキリスト教の実際の歴史に特に関心がないのであれば、キリスト教は常に他に類を見ないほど世俗的であったと主張することで、この矛盾を解消しようとすることもできるだろう。あるいは、実際には白人について口に出さずに白人について語ることが本当の目的なら、スティーヴ・キング元下院議員が「他人の赤ん坊で私たちの文明を取り戻すことはできない」とツイートした際に念頭に置いていた「西洋文明」の犬笛ヴァージョン(dog-whistle version)に頼ることもできる。

究極的に言えば、文明に関するレトリックは、公然と受け入れることが歴史的な複雑性を伴う国々にとって、新たな形の民族ナショナリズムを提供する。例えば、人種のるつぼイデオロギーを持つアメリカ合衆国(the United States with its melting pot ideology)、対立する各国のナショナリズムを抱えるヨーロッパ連合諸国(European Union states with their rival nationalisms)、共産主義に触発された多国籍国家構造を持つロシアと中国(Russia and China with their Communist-inspired multi-national state structures)、多様なポスト植民地主義の遺産を持つインド(India with its diverse post-colonial inheritance)、そしてナショナリズムが伝統的に世俗的であったトルコ(Turkey, where nationalism was traditionally secular)などである。今や、文明という名のもとで、これら全ての国々のナショナリストたちは、自らが好む言語的、宗教的、文化的アイデンティティ(their preferred linguistic, religious, and cultural identities)を何の弁明もなく祝福することができる。

「西洋文明(Western civilization)」は、その最も熱心な主導者たちにとって様々な意味を持つが、「西洋民主政治体制(Western democracy)」を意味することはあまりない。実際、これらの国々において、文明という概念を最も熱心に受け入れてきたのは、包括的民主政治体制を明確に拒否する人々であった。この用語自体は、やや時代錯誤的で、やや階層主義的であり、20世紀リベラリズムの普遍的な志向とは正反対である。むしろ、驚くほど再現性の高い権威主義モデル(surprisingly replicable model of authoritarianism)に、各国特有の解釈を与えている。

この意味で、ハンティントンの文明区分を地図上に表したり、その矛盾を指摘したりすることは本質を見失っている。文明の観点から見ると、どこに線を引くかよりも、線を引くという行為そのものが重要だ。狂信的排外主義(chauvinism)、これこそがポイントなのである。

※ニック・ダンフォース:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Xアカウント:@NicholasDanfort

(貼り付け終わり)

(終わり)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 


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 古村治彦です。

 私たちが中学校や高校で習う歴史の科目で、日本以外の歴史を「世界史」と呼ぶ。これは、「World History」と訳されるが、ここ数十年、歴史学の成果として、「グローバル・ヒストリー(Global History)」が発達している。西洋中心主義(Western-centrism)から脱却するための試みが行われている。是非、グローバル・ヒストリーについて調べてみて欲しい。
 国際関係論は、歴史学を基礎にしている。歴史の類推(analogy、アナロジー)を使う。私たちは、世界の大きな構造転換の中に生きている。この世界の大きな構造転換とは西洋近代支配500年の終わりと非西洋世界の勃興(再興)である。そうした中で、「アメリカが覇権国ではなくなったら自由な体制が崩れる」「安定した平和が続かなくなる」「自由貿易体制の危機だ」といった声が聞かれる。しかし、それは間違いだ。歴史を学べば、西洋近代こそが、世界の平和と自由を阻害してきた、そして、西洋の世界支配が確立されてから、体制を崩さないように、綺麗事の価値観を主張し出したということが分かる。西洋列強は口では自由、人権、博愛、平等を唱えながら、実際には非西洋世界を植民地化し、それらの綺麗な価値観に反する、残虐な行為を数百年にわたって行ってきた。ユーラシア大陸の西の端の蛮族たちが自分たちの貧しさを武力で覆すために、世界を自分たちに奉仕させるために、残虐な支配を数百年にわたって行ってきた。これから逆回転が起きるが、今更、文化や観光地くらいしか取り柄のない西洋諸国を非西洋世界が植民地にすることは起きないだろうが、経済的には支配することは起きるだろう。

 非西洋世界の真の多様化と共生の歴史がこれから復活することになるだろう。「自由で開かれたインド洋」という言葉を馬鹿の一つ覚えのように唱え続けた、麻生太郎元首相のような人物がいるが、彼らのような人物たちは全くの無知なのだ。「自由で開かれたインド洋」とは、西洋列強が進出してくる前の状態のことだった。西洋近代支配が終焉に向かう中、私たちはグローバル・ヒストリーを学び、大きな構造転換に備えなければならない。

(貼り付けはじめ)

ファラオ、マハラジャ、そして多極世界の形成(Pharaohs, Maharajas, and the Making of a Multipolar World

-非西洋の歴史上の事例は、アメリカの覇権の終焉を示す、より有望な前例を提供している。

アミタヴ・アチャラ筆

2025年7月25日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/07/25/multipolar-world-pharaohs-maharajas-us-primacy/?tpcc=recirc_latest062921

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1970年9月24日、現存する最古の平和条約として知られるカデシュ平和条約(the Kadesh Peace Treaty)の複製が国連本部でトルコのイフサン・サブリ・チャグラヤンギル外相からウ・タント国連事務総長(左)に贈呈された。この条約は紀元前1259年頃、ヒッタイト王とエジプトのファラオの間で調印された。

アメリカの優越時代(the era of U.S. primacy)が終焉を迎えるにあたり、学者や政策立案者たちは当然のことながら、次に何が起こるのかを議論してきた。多極化した世界(a multipolar world)の出現は、本質的に不安定化(destabilizing)をもたらすのだろうか? 単一の強国(a single power)による支配は、平和と繁栄(peace and prosperity)に不可欠なのだろうか?

西側諸国では、多極化、すなわち覇権の不在(the absence of hegemony)は容易に混乱を招くというコンセンサスがますます高まっているようだ。しかし、この結論はしばしば、アメリカとヨーロッパの近年の歴史に由来する証拠に依拠している。例えば、ケネス・ウォルツは、冷戦開始前後のヨーロッパ大陸における動向を対比させることで、多極システムの不安定性に関する画期的な議論の根拠を示した。同様に、単一の支配的な勢力のみが市場アクセスと安全保障を促進できるという考え方(チャールズ・キンドルバーガーの研究を基にした学者たちが覇権的安定理論[hegemonic stability theory]と呼んでいるもの)は、主に第一次世界大戦前のイギリスと第二次世界大戦後のアメリカの経験に依拠している。

しかし、20世紀の西洋以外の前例を探せば、国際秩序の未来はより明るいものになるかもしれない。より遠い歴史を振り返ると、多極体制がいかにして平和を維持してきたかを示す劇的な事例がいくつか存在する。今日の世界が直面する課題は、古代中東の偉大な王やファラオが直面したものとは異なり、近代以前のインド洋の貿易商やマハラジャが直面した課題とも異なる。しかしながら、これら両方の事例を探求することで、21世紀において多極体制を機能させるための永続的な教訓が得られる可能性がある。

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アッシリア王アッシュール・ウバリットがエジプト王に宛てたこの王室書簡(紀元前1353年から1336年頃)は、1880年代後半、アケナテン治世下のエジプトの宗教首都アマルナの遺跡で発見された。

紀元前2千年紀の中頃、中東の中心はエジプト、ハッティ、ミタンニ、アッシリア、バビロンといった複数の帝国によって支配されていた。エジプトは最古かつ最も豊かで、最も中央集権的な政体(most centralized polity)として最高の地位を占めていたが、決して覇権国家(a hegemon)ではなかった。北方には、アナトリア半島に勢力を広げたハッティ(ヒッタイト帝国)があった。次に、南東のティグリス川とユーフラテス川沿いには、分権化されたミタンニ帝国、そしてアッシリア、そしてカッシート朝バビロニアが続いた。これら5つの勢力は、本質的に多極的な体制を構成していたが、平等と相互扶助の規範に基づく安定した関係性を築き上げていた。

この体制がどのように機能したかを示す主要な証拠は、1887年にエジプトのテル・エル・アマルナで発見された350通の書簡だ。これらの手紙が示すシステムはより古くから始まっていたものの、その起源は紀元前1360年から1332年の間に遡る。古代メソポタミアの共通語であったアッカド楔形文字(Akkadian cuneiform)で書かれ、ファラオ・アケナテン(アメンホテプ4世としても知られる)の宮殿に保存されていた。

これらの文書を研究した政治学者たちは、それらが「私たちが知る最初の国際システム(the first international system known to us)」を垣間見ることができると主張している。レイモンド・コーエンとレイモンド・ウェストブルックによれば、これらの文書は「地中海からペルシャ湾に至る近東全域の列強が相互に交流し、王朝、商業、そして戦略的な関係を定期的に築いていた(the Great Powers of the entire Near East, from the Mediterranean to the Persian Gulf, interacting among themselves, engaged in regular dynastic, commercial, and strategic relations)」ことを示している。コーエンとウェストブルックは、これらの交流によって「偉大な王たちの代表、そして偉大な王たちの間の意思疎通と交渉を規定する規則、慣習、手続き、そして制度からなる外交体制(a diplomatic regime consisting of rules, conventions, procedures, and institutions governing the representation of and the communication and negotiation between Great Kings)」が生まれたと主張する。

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紀元前2千年紀中頃、中東の中心部はいくつかの帝国によって支配されていた。アミタヴ・アチャラの地図。

外交上のやり取りは、この体制が説得と圧力(persuasion and pressure)を巧みに組み合わせていたことを示している。例えば、同僚である王たちを兄弟のように称えるといった、非常に象徴的な言葉遣いは、より現実的な政治的計算を隠蔽していた。訪問(visits)、贈り物(gift-giving)、そして文化的な敬意(cultural deference)は全て、安定したコミュニケーションを維持し、情報収集を行い、それぞれの王が自らの主権への関与を伝えるために役立った。

この書簡には、後の国際秩序に関連するあらゆる要素が見受けられる。偉大な王たちは、交流を通して常に対等な地位(equal status)を目指していた。現在ニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されているある書簡は、アッシリアが新興勢力として既存の勢力の兄弟関係に加わろうとしている様子を示している。アッシリアの王アッシュール・ウバリットは、おそらくアクエンアテンであろうエジプトのファラオに書簡を送り、贈り物を与えると同時に、迅速な返答を求め、エジプトとその支配者に関する情報を求めていた。バビロンのブルナ・ブリヤシュ王がエジプトのファラオに宛てた別の手紙は、互恵関係の重要性(the importance of reciprocity)を示している。ファラオが贈り物を送らなかったため、バビロン王も贈り物を送るつもりはなかった。書簡には次のように書かれている。「さて、あなたと私は友人だが、あなたの使者が三度もここへ来たが、あなたは私に美しい贈り物を一つも送ってくださらなかったため、私もあなたに美しい贈り物を一つも送っていない」。

この書簡は、外交特権(diplomatic immunity)と継続的な接触を保障する制度に組み込まれており、公式の印章と「神の証人(the presence of divine witnesses)」の前で行動する統治者による正式な批准(formal ratification)が用いられていた。また、主権平等(sovereign equality)という概念もあった。エジプトのファラオは、名目上は多少高い地位を享受していたが、他の全ての大王を平等に扱い、それぞれに同等の価値の贈り物を与えることが求められていた。そのため、アッシリアのアッシュール・ウバリトがエジプトから受け取った金の量がミタンニの王よりも少なかったとき、彼は不満を述べ、受け取った金は「使者たちの往復の旅費にも足りない(not enough for the pay of my messengers on the journey to and back)」と付け加えた。

中東の大王間の外交関係の成果の1つは、エジプトとハッティの間で締結された世界初の和平条約だった。この条約は紀元前1259年に締結された。エジプトのファラオであるラムセス2世とヒッタイト王ハットゥシリ3世の間で締結されたこの条約は、エジプト語とアッカド語の両方で書かれており、両大国間の紛争を管理するための多くの条項が含まれていた。

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エジプトとヒッタイトの間で締結されたカデシュ平和条約を記した粘土板。イスタンブール考古学博物館に展示されている。

ある条項は相互不侵略の諸原則(the principle of mutual non-aggression)を定めていた:「ハッティの大君主は、永遠にエジプトの地に侵入し、そこから何かを奪ってはならない。そして…エジプトの大支配者も、永遠にハッティの地に侵入し、そこから奪ってはならない。」 別の条項は集団安全保障原理(the principle of collective security)を明文化した:「もし他の敵が……エジプトの地に攻め入り、ハッティの大君主に『彼に対する援軍として我と共に来よ』と使者を送った場合、ハッティの大君は彼のもとへ赴き……その敵を討つ」。同様に、「もし他の敵がハッティの大君に攻め入った場合、……エジプトの大君主は援軍として彼のもとへ赴き、その敵を討つ」。引渡に関する規定さえ存在する:「もし偉大な人物がエジプトの地から逃れ、…ハッティへ来た場合…ハッティの大君は彼らを受け入れてはならず…エジプトの大君主のもとに引き渡さねばならない」。

これらの文書を総合すると、大国間の対立が破滅的な戦争を招くという有力な見解に異議を唱えることになる。確かに古代中東にも緊張は存在し、各大国は依然として小国に対して軍事行動を起こしていた。しかし諸大国は互いに戦うことは避けた。コーエンとウェストブルックによれば、5つの帝国は「戦うよりも交渉し(negotiated rather than fought)」、また「稀な例外を除いて(with rare exceptions)」、互いの必要性と野心を「うまく調整することに成功した(succeeded in accommodating each other’s needs and ambitions)」。

もちろん、多極システムも本質的に安定している訳ではない。アマルナ文書は、そのようなシステムが平和的に機能するための条件も示している。定期的なコミュニケーションを維持し、互恵関係の規範を尊重することは、効果的な外交にとって不可欠だ。

その重要性にもかかわらず、古代中東秩序と、2300年後、ナポレオンの敗北後に出現した類似の体制であるヨーロッパ列強協調体制(the European concert of powers)についてはあまり聞かれない。ヘンリー・キッシンジャーたちが称賛したヨーロッパ列強協調体制は、中断を挟みつつも1世紀近く続いた。その前身である中東の協調体制は、相互尊重と互恵関係(mutual respect and reciprocity)がより重視され、少なくとも2倍の期間存続し、おそらく約200年間安定を維持したと言えるだろう。

多極化への懸念と密接に関連しているのは、安定と繁栄には単一の支配的勢力が必要だという、広く信じられている思い込み(assumption)だ。しかし、歴史は多極システムにおいて自由貿易(free trade)を維持するための代替モデルも提供している。その最たる例はインド洋だ。ヨーロッパの植民地勢力が到来する何世紀も前、インド洋は世界最大の開放型海洋貿易システム(the world’s largest open oceanic trading system)だった。インド洋の貿易は、東アフリカのマリンディやモンバサから西アジアのホルムズやアデン、そして今日の南アジアと東南アジアのカリカット、マラッカ、マカッサルに至るまで、一連の都市国家(city states)によって管理されていた。

マラッカ海事法(Undang-Undang Laut Melaka)と呼ばれる法典のおかげで、この交易ネットワークの運営方法についてかなりのことが分かっている。15世紀に船長たちによって起草されたこの法典は、数多くの一般的な海事問題に対する規則を定めていた。この法規は、商船船長の権限や乗組員の責任、海上での契約義務や債務の解決方法を規定した。さらに、利益分配、衝突損害の補償、港湾税の不正行為に対する罰則に関する規則も定めていた。

マラッカ自体は大国ではなかった。しかし港湾都市(a port city)として、自由で公平かつ透明な貿易体制を確立した。15世紀のマラッカの人口は約10万人で、その大半は外国商人であり、80以上の言語が話されていた。貿易はあらゆる国家に属する人々(nationalities)に開放され、確立された関税(4~6%)が課されていた。貿易は決して無秩序ではなかった。むしろ「よく規制された(well regulated)」、あるいは現代的な表現で言えば「ルールに基づく(rules-bases)」ものであった。現地の支配者たちは外国商人に干渉せず、価格設定や紛争解決は外国商人コミュニティ(アラブ人、インド人、中国人、ジャワ人)の代表者たちによって行われた。マラッカには、船長または船主が到着時に貨物を10~20人の地元商人グループに一括価格で売却し、彼らが貨物を分配する制度があった。この制度により、船は個々の買い手を探す必要なく迅速に貨物を積み下ろせた。これは特に、モンスーンの風に合わせて正確な航海時期を守らねばならない場合に重要であった。また、外国製品がマラッカで得られる価格帯が予測可能であることを意味していた。

重要なのは、この交易システムが特定の地域大国の覇権に依存していなかったことだ。一部の近代史家が異論を唱えているが、インド洋は中国の勢力圏ではなかった。シュリーヴィジャヤ王国、マラッカ、シャムなど、多くの東南アジア諸国が中国と朝貢関係(tributary relations with China)にあったものの、貿易は中国によって支配・管理されていた訳ではない。また、中国は15世紀初頭に鄭和提督(Adm. Zheng He)が率いる大艦隊を7回派遣したが、その目的はインド洋に帝国を築くことではなかった。
同様に、インドはインド洋において文化的・経済的に重要な役割を果たしたが、これは戦略的な優位性を意味するものではなかった。インドからの海軍遠征(naval expeditions)は記録に残るだけで、どちらも南インドのチョーラ王国によるもので、どちらも11世紀のものだ。これらの遠征は破壊をもたらしましたが、インド洋の覇権を握るチョーラ朝帝国を築くことはなかった。強大なムガール帝国でさえ、海洋支配には手を出さなかった。ヴェネツィアのような列強が海域における領土拡大を試みていた一方で、ムガール帝国はそれを禁じる地域的伝統(a regional tradition)に従った。海域が分割されていた地中海や、自由貿易の権利が同盟加盟国にのみ開かれていたヨーロッパのハンザ同盟(the Hanseatic League of Europe)とは異なり、インド洋貿易はあらゆる国籍に開かれていました。

マラッカのような都市がこの開放的でルールに基づくシステムを開拓した一方で、西洋の著述家たちはしばしば、海洋の自由(the freedom of the seas)という概念をオランダの法学者ヒューゴ・グロティウスに帰する。しかし、グロティウスは、その画期的な著作『自由海論(Mare Liberum)』をオランダ東インド会社の給与を得て執筆した。これは、東インドから帰還中のポルトガル船をオランダが拿捕したことを擁護するための委託法律論文の一部であった。偶然にも、この拿捕を実行したのはグロティウスの従兄弟であった。インド洋に最初に到達したヨーロッパ勢力として、ポルトガルはインド洋における独占(a monopoly)を確立し、アジア諸国だけでなく、ライヴァルのヨーロッパ諸国にも平等な貿易アクセスを認めなかった。グロティウスは、従兄弟の行為がポルトガル独占体制への打撃であり、オランダの自由貿易権を支持するものだと主張した。しかし当然ながら、ポルトガルを打ち破った後、オランダ東インド会社は自らも、現在インドネシアとして知られる広大な群島における独占体制を確立していった。やがてグロティウスの雇用主は、この地域のルールに基づく体制を破壊し、現地の支配者たちに相互貿易を停止させ、オランダ経由でのみ取引するよう強制することになる。

17世紀初頭、オランダはゴワ王国のマカッサル(南スラウェシ)の商人に対し、マルク諸島でのクローブ、ナツメグ、メースの購入を禁止した。この自由貿易への侵害に直面し、ゴワの統治者であるアラウディン・スルタンは宣言した。「神は陸と海を創り、陸は人間に分け与え、海は共有のものとした。誰に対しても海の航行を禁じるなど聞いたことがない(God made the land and the sea; the land he divided among men and the sea he gave in common. It has never been heard that anyone should be forbidden to sails the seas)」。この原則的主張に対し、オランダは圧力を強め、ついにマカッサルの主要な軍事拠点である要塞を占領・破壊し、ロッテルダム要塞として再建した。

ここで論じた2つの例、すなわち古代中東の多国間システムと、インド洋における小国による管理貿易ネットワークは、より広い歴史的視点から見ると、多極化がどのように異なる様相を呈しているかを示している。単一国家の支配は、必ずしも平和や自由貿易の前提条件ではなかった。政策立案者や分析家たちは、数世紀や数カ国に焦点を絞った普遍的な主張を展開する歴史を受け入れる必要はない。第二次世界大戦前のヨーロッパの経験が、必ずしも21世紀に再現されるとは限らない。

※アミタヴ・アチャラ:アメリカン大学国際関係学大学院特別教授。最新刊に『かつての世界秩序と未来の世界秩序:何故世界文明は西洋の衰退を生き残るのか(The Once and Future World Order: Why Global Civilization Will Survive the Decline of the West)』(2025年)がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)

※2025年11月に新刊発売予定です。新刊の仮タイトルは、『「新・軍産複合体」が導く米中友好の衝撃!(仮)』となっています。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 2025年6月13日に開始された、イスラエルによるイランへの攻撃は一応の停戦が成立した。6月12日の時点で、アメリカとイランとの間での核開発をめぐる交渉は難航し、イランはウラン濃縮施設の新設を発表した。これを受けて、イスラエルは自国の安全保障上の脅威を理由にして、イランの核開発関連施設や軍事施設を攻撃し、イラン革命防衛隊の最高幹部を複数殺害した。イラクは報復として、イスラエルにミサイル攻撃を行った。イスラエルも攻撃対象を拡大して応戦し、中東情勢は一気に不安定化した。双方に多くの死傷者が出ている。

6月22日にはドナルド・トランプ大統領がアメリカの戦闘機を派遣して、イラン国内の3カ所の核開発関連施設を攻撃させた。6月24日には、イランが報復として、カタール国内にあるアメリカ軍基地を攻撃した(事前通告あり)。その後、トランプ大統領がイスラエルとイランとの間の停戦合意が成立したと発表した。しかし、イスラエルは、イランに停戦合意違反があったとして、イランに攻撃を行う意思を表明した。トランプ大統領はイスラエルの姿勢に不快感を示している。
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 今回のイスラエルのイラン攻撃について分析するためには、私は、イスラエルの国内政治状況と中東地域の情勢の2つのステージに分ける必要があると考えている。イスラエルの国内政治状況で言えば、2023年のハマスによる攻撃と人質奪取を受けてのイスラエルによるガザ地区攻撃、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派との戦闘、更にはこれらの勢力を支援するイランとのミサイル攻撃と進んだ事態の連続だと考えている。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、自身と家族が関わる汚職やスキャンダルのために、訴追され、最悪の場合は有罪判決を受け、収監される可能性があったところに、ハマスの攻撃があった。こうした戦争状態を利用して、首相の座にとどまっている。また、極右派は、戦争を利用してガザ地区やヨルダン川西岸地域を占領することで、パレスティナ問題を「根本的に解決」しようとしている。イスラエルは、アメリカを利用している。
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 トランプ大統領は事態をエスカレートさせたくない。政権内には核兵器使用まで望む声があるが、そのような強硬なことはできない。そして、イスラエルに対して、一定の統制を行いたいところだ。もちろん、イランの核開発については懸念を持っているが、その懸念を小さくするために、トランプ政権はイランと核開発に関しての交渉を行っていた。第1次トランプ政権時には、バラク・オバマ政権で成立した合意から離脱したが、第2次トランプ政権はその枠組みに復帰しようとしていた。この交渉は頓挫することになる。

 トランプ政権は、イスラエルを支援していることを形で見せるために、イスラエルの顔を立てるために、イラン国内の核開発関連施設3カ所を攻撃し、破壊した。しかし、イラン側は事前に重要な機材や資源を他の場所に移動させていた。これは、アメリカ側が事前に通告していたということが考えられる。イラン側も、アメリカに事前通告をして、カタールにあるアメリカ軍基地を正確に「報復」攻撃した。これで、お互いの面子を立てた形になる。お互いにエスカレートさせたくないということでは、アメリカもイランも一致している。そして、お互いに大国らしい態度を取っている。この状況で一番の不確定要素であり、世界にとっての深刻な脅威となっているのはイスラエルだ。イスラエルが停戦合意を守るかどうかという疑念が広がっている。これは、イスラエルに対する国際社会からの信頼がほぼ喪失していることを示している。そして、イスラエルを統制できないとなれば、アメリカの意向も大いに傷つく。また、中東における最重要プレイヤーとしての存在感も失う。

 このブログでも紹介したが、イランの後ろには、ロシア、インド、中国がいる。イスラエルが火遊びをすることは、世界にとっての深刻な脅威となる。中国をはじめとする「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」はイスラエルを許さないだろう。今回の構図は、ウクライナ戦争と同じ構図となるが、イスラエルの無軌道な攻撃に対しての批判派より大きな説得力と正当性を持つ。そして、イスラエルを支持する西側諸国は、世界から孤立していく。日本の石破茂首相は、イスラエルのイラン攻撃を擁護せず、アメリカのイラン攻撃に対して、即座の支持を表明しなかった(アホで間抜けの小泉純一郎がホイホイとイラク戦争を即座に支持したのとは大違いだ)。このような重厚な姿勢を取れる人物がこの時期に日本の首相であることは慶賀すべきことだ。これから注目されるのは、ベンヤミン・ネタニヤフがどれほどドナルド・トランプを舐めて、不羈奔放な行動をして、どこまでトランプが我慢するかというところだ。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプと、イスラエルとベンヤミン・ネタニヤフ首相との緊張が表面化(Trump tensions with Israel, Netanyahu rise to the surface

ラウラ・ケリー筆

2025年6月24日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/international/5367708-trump-netanyahu-iran-ceasefire/?tbref=hp

ドナルド・トランプ大統領が火曜日、イスラエルとイランに対し、攻撃を停止し停戦を選択するよう公然と強く求めたことは、平和と交渉の担い手としての自身の姿勢を守るため、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と対峙することを恐れていないことを示した。

アメリカの同盟国であるイスラエルと、イランが戦闘を放棄すべきだというトランプ大統領の、冒涜的な言葉まじりの苛立ちは、MAGAワールドに対し、トランプ大統領がネタニヤフ首相の戦争目的に縛られていないというシグナルを送った。

アメリカがイランの体制転覆(regime change)を支援する可能性があるという以前の脅しを撤回した後、トランプ大統領はテヘランとの貿易やイラン産の原油の原油市場への流入の可能性さえ示唆した。

元駐米イスラエル大使のマイケル・オレンは「今日起こっていることは、トランプ大統領がイスラエルに圧力をかけていること、停戦を維持したいこと、これ以上の戦闘は彼の外交に疑問を投げかけるだけでなく、アメリカがより深く、より長期的な軍事的関与に巻き込まれる危険性があることを大統領自身が知っていることだ」と述べた。

予測不可能なトランプ政権は、前例のないアメリカの軍事力の誇示をしたことから、非エスカレーションと平和と協力の話へと大きく舵を切ったことは、保守メディアの大物たちの間で好評を博している。

保守系活動家のチャーリー・カークは、トゥルース・ソーシャルに「歴史的な手腕を発揮したトランプ大統領(President Trump with a historic masterclass)」と投稿し、イランとの戦争激化を回避したトランプを称賛した。

トランプの元顧問で、MAGA運動において今も影響力のある発言者であるスティーヴ・バノンは、ネタニヤフに対するトランプの苛立ちを支持した。

バノンは自身のポッドキャストで、「あなた(ネタニヤフ)が彼(トランプ)に嘘をついたから、彼(トランプ)は激怒している。これほど怒っているアメリカ大統領は見たことがない。考えてみて欲しい。彼があなた方のために尽くしてきたこと、そして彼が受けているプレッシャーのことを考えると、どうしてこれほど怒ることができるのだろうか?・・・これが彼に与えられる感謝なのか?」と語った。

トランプ大統領がイスラエルを支持していることを考えると、こうしたイスラエルへの批判は注目に値する。

トランプ大統領はアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転し、ゴラン高原におけるイスラエルの支配を承認し、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区に対するアメリカの制裁を解除し、ネタニヤフ首相が反対していた2015年のイランとの核合意から離脱し、イスラエル、アラブ首長国連邦、バーレーン間の関係構築(アブラハム合意[the Abraham Accords])を仲介した。

しかし、2020年に、トランプ大統領とネタニヤフ首相との関係は、激しい対立に発展した。ネタニヤフ首相がジョー・バイデン大統領の選挙勝利を認めたことを受けて、トランプは、ある記者にネタニヤフ首相のニックネームを使って「ファック・ビビ(F‑‑‑ Bibi)」と発言した。

また、トランプ大統領によるイランへの軍事攻撃は、イランの核兵器取得阻止において政権がイスラエルと足並みを揃えていることを示したが、トランプ大統領は一連の主要な外交政策課題においてネタニヤフ首相の立場に反対してきた。

2024年の大統領選挙の選挙運動中、トランプはイスラエル問題に関して共和党の典型的な論点を覆し、ガザ地区の破壊を批判した。また、2020年にイランの最高レヴェルの将軍を殺害したアメリカ軍の攻撃にネタニヤフ首相が参加を拒否した際には、イスラエルは「私たちを失望させた(let us down)」と述べた。

トランプはイスラエル各地を回り、ガザ地区でハマスに拘束されていた人質を解放させた。イスラエルの反対を無視して、トランプはシリアに対する全ての制裁を解除した。さらに、ハマスとの戦争が解決しない限り、サウジアラビアがイスラエルとの関係を改善するよう圧力をかけるのを控えている。

2025年4月、ネタニヤフ首相は、トランプがイランの核開発計画をめぐって直接交渉を開始すると発表した際、大統領執務室で静かに座っていた。

トランプ大統領のイランとの会談の目標はイスラエルの利益とは相容れないものだったようだ。イランが核濃縮能力を放棄することだけに焦点を当て、地域全域のイランを代理する民兵グループへの支援、ミサイル計画、世界的なテロ支援には触れなかった。

オレンはエルサレム記者クラブ主催の記者会見で「トランプは平和の使者(peacemaker)、そして交渉の仲介者(dealmaker)になりたい。イスラエルにとっての問題は、イスラエルの重要な利益がどの程度守られるかだ」と述べた。

オレンは「この点では、2015年にバラク・オバマ元大統領がイランと合意を結ぶことになると、イスラエルの利益は守られないのではないかと懸念していた状況と大差ない」と語った。

バイデン政権下で中東問題担当高官を務めたアモス・ホックシュタインは、イスラエルの指導者が安全保障に関して強硬な見解を示し、タカ派の安全保障当局者や強硬な政治的パートナーとともに、アメリカをスケープゴートにしてそれを抑え込むというパターンを説明した。

ホックシュタインは6月19日のポッドキャスト「アンホーリー:トゥー・ジュウイッシュ・オン・ザ・ニューズ」で「少し物議を醸すかもしれないが、私の考えでは、ロナルド・レーガン以来、イスラエルには停止ボタン(a stop button)がない」と述べた。

ホックシュタインは次のように語った。「右派、左派、中道派の首相は皆、その時のどんな人物であっても、軍、諜報機関、あるいは過激派政党に『私はあなたたちの意見に賛成だが、あの忌々しいアメリカ人たちが私に止めさせようとしている』と言う。すると彼らは『分かった、いいだろう、私たちは止めて取引をしよう』と言う。1980年代以降のあらゆる作戦でそうだった」。

トランプのネタニヤフに対する不満は、オバマ政権とバイデン政権で繰り広げられた同様の緊張関係を反映している。イスラエルの長年の指導者であるネタニヤフは、バイデン、トランプ両大統領を重要な安全保障上の課題で試した。

これには、ネタニヤフ首相が2015年に連邦議会で、当時のオバマ大統領によるイラン核合意に反対する演説を行ったことも含まれる。アメリカ主導のイスラエルとパレスティナの和平交渉の決裂も、オバマ政権とネタニヤフ首相の関係を著しく悪化させました。

バイデン大統領とネタニヤフ首相は、イスラエルにおける物議を醸した司法制度改革をめぐって激しい対立を経験し、その後、停戦と人質解放の仲介を試みるアメリカの動きをよそに、ネタニヤフ首相がハマスとの戦争を強行したことで、関係は悪化した。

こうした緊張関係は、外交上の冷淡な対応という形で表面化するのが常態だった。しかし、バイデン大統領は私的な場でネタニヤフ首相を「最低最悪な奴(bad f‑‑‑ing guy)」「クソ野郎(son of a b‑‑‑‑)」と呼んだと報じられている。

ある元政府高官は「ネタニヤフ氏は非常に才能のある政治家であり、非常に才能のある交渉者、雄弁家であり、アメリカについて非常に詳しい。・・・彼はワシントンをまるで楽器でも操るかのように動かすことに慣れている」と語った。

この元高官は「ネタニヤフは概して、アメリカの指導者たちを並外れたレヴェルで圧倒する。ドナルド・トランプが他と違うのは、支持基盤とアメリカに関する自身のヴィジョン以外のことは何も気にしないという点だ」と述べている。

元高官はさらに、ネタニヤフは「これまでどのアメリカ大統領に対しても、大いに神経を逆なでしてきたが、ドナルド・トランプはドナルド・トランプであり、彼は物事を内に秘めない」と述べた。

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●「トランプ氏、発言を修正 イランの体制変更は「望まない」」

6/25() 5:29配信 朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/00f5257d56f68bac9b67df250519206439a651e0

 トランプ米大統領は24日、イスラエルとイランの停戦は「引き続き有効で長期間維持されるだろう」という期待を語った。イスラエルのネタニヤフ首相と電話協議し、イランへの攻撃に向かった戦闘機を引き返させたとも主張。イランの体制変更は望まない考えも示し、自身の発言を修正した。

 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(サミット)に出席するためオランダ・ハーグに向かう途中、大統領専用機内で記者団の質問に答えた。

 イスラエルとイランの交戦では、トランプ氏が停戦発効を宣言した後も、イスラエル側はイランがミサイルを発射したとして反撃すると主張していた。トランプ氏はハーグへの出発前、記者団に、イランからの発射物は「おそらく誤射で着弾もしなかった」のに、イスラエルが強硬な反撃を準備し戦闘機が出撃したとして「気に入らない」と不満を述べていた。その後、専用機内では、ネタニヤフ氏との電話協議で「飛行機を引き返せと言ったら彼らはそうした」と主張した。

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●「CNN独自「米軍攻撃はイラン核施設を破壊できず」」

6/25() 6:19配信 テレビ朝日系(ANN

https://news.yahoo.co.jp/articles/e98c724180fda0f3079740db453f7bf161e8cc82

アメリカのCNNは独自ニュースとして、アメリカ軍による攻撃でイランの核施設は破壊できておらず、数カ月の遅延を引き起こした程度だとする情報機関の初期調査結果を報じました。

 CNN24日、関係者3人からの情報として、アメリカ国防情報局が作成した初期調査の結果について報じました。

 これによりますと、イランの核施設への攻撃では重要部分の破壊はできておらず、電気系統など復旧に数カ月かかる程度の被害しか与えられていないということです。

 関係者2人は、濃縮ウランの備蓄は破壊できていないとしていて、もう1人は遠心分離機は「無傷だ」と話しているということです。

 これまでトランプ大統領は「イランの核濃縮施設は完全に破壊された」と主張しています。

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「歴史的勝利」双方主張 停戦合意おおむね維持

6/25() 5:32配信 共同通信

https://news.yahoo.co.jp/articles/686d9cc4ea224fbfe3d31e1fee873cbcd189aa4c

 【テヘラン、エルサレム共同】イランのペゼシュキアン大統領は24日、イスラエルとの停戦合意を巡り、イスラエルが一方的に始めた戦闘を「イランの意志で終わらせた」とし「歴史的な大勝利だ」と誇示した。イスラエルのネタニヤフ首相も同日の声明で、核と弾道ミサイルというイランの二つの脅威を排除したとし「歴史的勝利」だったと主張した。停戦合意後も双方の攻撃があったが、停戦はおおむね維持されているもようだ。

 トランプ米大統領は、米東部時間25日午前0時(日本時間25日午後1時)ごろに正式な戦闘終結が実現すると宣言した。

 イランは24日、外交攻勢を強化。ペゼシュキアン氏はサウジアラビアのムハンマド皇太子と電話会談し「国際的な枠組みに基づき、米国との問題を解決する用意がある」と述べた。アラグチ外相は中国の王毅外相との電話会談で、イランの攻撃は正当防衛だと主張した。イランの立場を説明し、各国の支持を取り付けたい考えだ。

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アメリカ、イランによるホルムズ海峡封鎖の阻止を中国に要請

BBC NEWS JAPAN 2025623

https://www.bbc.com/japanese/articles/cwyg3y4yz99o

アメリカのマルコ・ルビオ国務長官は22日、世界で最も重要な海路の一つであるホルムズ海峡をイランに封鎖させないよう、中国に対応を呼びかけた。

ホルムズ海峡をめぐっては、イランの議会が封鎖計画を承認したと、同国国営のプレスTVが報じている。ただし、最終決定権は国家安全保障最高評議会にあると伝えている。

石油の輸送路が封鎖され、供給が途絶えれば、経済に深刻な影響が及ぶとみられる。とりわけ中国は、イランの石油の世界最大の買い手で、同国との関係も密接なことから、影響は大きいと考えられる。

アメリカがイランの核関連施設を攻撃したことで、原油価格は急騰している。指標となるブレント原油価格は、過去5カ月で最高値となっている。

原油価格は、ガソリン代や食料品の価格など、あらゆるものに影響を与える。

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 古村治彦です。

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 イスラエルがイランに対して攻撃を仕掛け、その後、イスラエルとイランの間でミサイル攻撃の応酬が続いている。両国で既に多数の死傷者が出ている。イスラエルは、イランの核兵器開発を阻止することを大義名分としているが、世界各国の原子力発電所などに査察を行う専門機関である世界原子力機関(IAEA)は、イランの核兵器開発の証拠はないと報じている。そして、2025年6月21日に、アメリカのドナルド・トランプ大統領は、イランの核開発関連施設3カ所をアメリカ空軍の戦闘機を使って攻撃を行った。

 イスラエルのイランに対する攻撃に関しては、中国、ロシア、インドが国際法違反だとして非難している。イランは、2023年から上海協力機構(Shanghai Cooperation OperationSCO)に正式加盟し、2024年にはBRICSの正式メンバーになっている。中東地域における大国であり、かつ、私がこれまでの著作で述べてきた「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)対西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の西側以外の国々にとっての重要な国である。イランを攻撃するということは、それらの国々との関係を緊張させるということになる。非常に拙劣な手法であると言わざるを得ない。戦術レヴェルでの攻撃が成功したとして、それだけで、戦略的な成功をそれで引き寄せることはできない。アメリカは中国との間でレアアースの貿易で命綱を握られていると言っても過言ではないが、ホルムズ海峡の封鎖やレアアースの輸入に何かしらの障害となってしまえば、自分で自分の首を絞めることになる。
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 世界を俯瞰して見ると、ウクライナとイスラエルは、私がこれまでの著作で述べてきた「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)対西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造の最前線である。ウクライナとイスラエルは、アメリカやヨーロッパ諸国(そして、日本も含まれる)が直接関わりたくない「汚れ仕事(dirty work)」をやっている。その上で、姑息なヨーロッパの諸大国(イギリス、ドイツ、フランス)は「まあまあ、落ち着いて。外交で解決しましょう」とにやにやした、したり顔で出てきて、交渉を行って、手柄を持っていく。実力もないくせに大国ぶるという最低最悪の存在だ。

 ウクライナが対ロシア、イスラエルが対イランということになれば、対インドはパキスタンになるだろうし、もっと言えば、対中国は日本ということになる。トランプ政権は、「アメリカ・ファースト」「アイソレイショニズム」を政策の柱に掲げてきたが、政権内部には強硬派が存在する。彼らが暴走してしまえばこういうことになる。私たちが恐れるべきは、日本が中国との戦争をけしかけられることである。そして、アメリカに切り捨てられることである。
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中国がイスラエルとの戦いでイランを支援した(China Backs Iran in Fight Against Israel

-北京の対応はこれまで以上に強力かつ直接的だ。

ジェイムズ・パルマー筆

2025年6月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/06/17/china-iran-israel-conflict-diplomacy-oil-trade-defense-weapons/

『フォーリン・ポリシー』のチャイナ・ブリーフへようこそ。

今週のハイライト:イラン・イスラエル紛争における中国の立場、習近平国家主席のカザフスタン訪問、そして中国がレアアース元素をめぐるアメリカへの影響力行使。

●中国がイランを支持し、イスラエルを非難した(China Supports Iran, Condemns Israel

中国は、進行中のイラン・イスラエル紛争について明確な立場を表明した。土曜日、王毅外相はイスラエル外相との電話会談で、イスラエルによるイランへの攻撃は「容認できない(unacceptable)」ものであり、「国際法違反(violation of international law.)」であると述べた。

王外相は、イラン外相に対し、「(イランの)国家主権を守り、正当な権利と利益を擁護し、国民の安全を確保する」という点で支援を表明した。習近平国家主席も火曜日の声明で同様の発言を行った。中国の対応は、昨秋のイラン・イスラエル紛争への対応よりも強力かつ直接的なものとなっている。

中国は外交資源を総動員し、イランも加盟している上海協力機構(the Shanghai Cooperation OrganizationSCO)を通じてイスラエルの最新の攻撃を非難する声明を出した。これに対し、上海協力機構加盟国でありイスラエルと強い武器取引関係を持つインドは、声明について協議を受けていなかったにもかかわらず、非難を向けた。

イランは近年、中国との関係を緊密化させており、両国は定期的に軍事演習で協力し、2021年には経済・軍事・安全保障協力協定に署名した。イランの原油輸出の90%以上は中国向けで、制裁を回避するため、西側諸国の銀行や海運会社を迂回し、人民元建て取引を行うといった迂回策が用いられている。

イスラエルがイランの石油産業を混乱させることに成功すれば、中国にとって痛手となる可能性がある。しかし、イランは中国にとって6番目の供給国に過ぎないため、中国は打撃を吸収できるだろう。

中国はイランに対し、強い声明を出しているものの、言葉上の支援以上のことは行わない可能性が高い。中国は中東情勢にこれ以上巻き込まれることを望んでおらず、むしろアメリカにとっての混乱を歓迎している。ワシントンのタカ派は、中国とイランの関係を実際よりも強固に見せかけようとしているが、イランは結局のところ、中国の中核的利益(core interest)にとって重要ではない。

中国が介入するのであれば、おそらくイランが過去に脅迫したようにホルムズ海峡を封鎖しないよう圧力をかけるためだろう。中国の主要な石油供給国はロシアだが、中国の石油輸入の約半分は湾岸諸国から来ている。ホルムズ海峡の封鎖とそれに伴うエネルギー価格の高騰は、既に低迷している中国経済にとって痛手となるだろう。

中国は、2023年のイラン・サウジアラビア和解の仲介を足掛かりに、和平交渉の仲介役を務めることを期待しているかもしれない。しかし、イスラエルが中国を中立的な仲介者として受け入れるとは考えにくい。イスラエルとハマスとの戦争の中で、中国の親パレスティナの立場と中国のインターネット上での反ユダヤ主義の蔓延により、両国の関係は悪化している。中国に合意を求めることは、気難しいアメリカ大統領を遠ざけるリスクもある。

中国にとって、イラン・イスラエル紛争のプラス面は、自国の防衛技術の新たな市場獲得となる可能性がある。パキスタンは最近のインドとの小競り合いで予想を上回る成果を上げており、その成功は主に中国製システム、すなわちこの紛争で初めて実戦投入されたJ-10C戦闘機と、主に中国製の防空システムの使用によるものだ。

これまでイスラエルは、イランの時代遅れの防空システムと空軍を圧倒してきた。余裕ができれば、その改善はイランにとって最重要課題となるだろう。中東のバイヤーはかつてJ-10に懐疑的だったが、イランは今回の紛争以前から関心を示していたようだ。

中国はかつてイランの主要な武器供与国だったが、両国は2005年以降、新たな契約を締結していない。しかし、今や状況は一変する可能性がある。

●注目のニュース(What We’re Following

習近平国家主席は中央アジアに接近している。習近平国家主席はカザフスタンを訪問し、中央アジアの指導者らと会談した。エネルギー資源が豊富な中央アジア地域における中国の貿易拡大を目指している。習近平国家主席は就任以来、ロシアに次いでカザフスタンを最も多く訪問している。その間、中国はロシアに代わりカザフスタンの主要貿易相手国となった。

しかし、カザフスタン国民は隣国に対してそれほど好意的ではなく、自国のエリート層が中国政府に身売りしているという意見を表明する人も多い。中国による新疆ウイグル自治区におけるカザフ族の強制収容はカザフスタンで激しい反発を引き起こしているが、カザフスタン政府は中国政府を宥めるため、新疆ウイグル自治区の人権活動家たちへの弾圧を行っている。

恋愛小説を取り締まりしている。中国警察は、男性同士の同性愛関係を描いた人気のオンライン恋愛小説、いわゆるボーイズラブ小説(boys’ love fiction)の作者を再び逮捕している。日本で生まれたこのジャンルは、主に女性によって、女性向けに書かれている。習近平政権下では、オンライン検閲が繰り返しこのジャンルを標的にしてきた。

この敵意は、同性愛嫌悪、反日感情、そして女性のセクシュアリティに対するますます強まる家父長制的な態度といった、複数の要因が重なり合って生じている。今回の一連の動きは、警察が管轄外で発生した犯罪を探し出し、罰金を科して私腹を肥やす「深海漁業(deep-sea fishing)」の表れでもあるように思われる。

全国で少なくとも100人の作家が、他省の当局から発行されることが多い警察からの召喚状を受け、罰金や懲役の可能性に直面していると推定されている。

スコット・ケネディが『フォーリン・ポリシー』誌に書いているように、中国はこの分野で明らかに影響力を発揮している。レアアース生産のほぼ完全な独占状態は、アメリカの製造業の重要部門を停止させる力を持っている。北京はこれまで、その力を十分に行使することを避けてきた。それは主に、ワシントンがレアアース精錬の国内回帰に追い込まれることを懸念していたためだ。

しかし、この一時停止は、中国が援助の蛇口を閉める用意があることを示していた。ロンドン会合の前に、アメリカ当局は重要な技術輸出に対する新たな制限を課すことを検討したがこのチキンゲームで中国が明らかに勝利した。

ここ数日、ドナルド・トランプ米大統領の発言はますます融和的になり、中国人留学生のヴィザ取り消しの脅しを撤回し、中国とその友好国であるロシアをG7に招待したいという意向を表明した。

香港の労働団体が閉鎖された。中国本土の抗議活動、賃金紛争、ストライキに関する情報を香港に拠点を置いて提供してきた中国労働公報が、財政問題を理由に31年間の活動に幕を閉じた。トランプ政権下でのアメリカの対外援助打ち切りが、中国労働公報に影響を与えた可能性がある。

しかし、中国労働公報の突然の閉鎖とウェブサイトの消失は、香港当局の標的となった可能性を示唆している。2020年に厳格な国家安全法が導入され、香港では言論の自由が事実上排除されたが、一部の団体は生き延びている。

中国労働公報は、天安門事件の反体制活動家で中国本土から亡命した韓東方によって設立された。彼は1989年の民主化運動において、しばしば忘れられながらも極めて重要な役割を果たした労働者の出身だ。中国では、公式労働組合は機能不全に陥っているが、それ以外は労働組合の結成は違法であり、劣悪な労働条件や賃金不払いが蔓延している。

非公式の労働組合や活動家は、移民労働者の労働権擁護において大きな役割を果たしているが、他の市民社会と同様に、習近平政権下では彼らも標的にされている。

※ジェイムズ・パルマー:『フォーリン・ポリシー』誌副編集長。Blueskyアカウント: @beijingpalmer.bsky.social

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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『トランプの電撃作戦』←青い部分をクリックするとアマゾンのページに行きます。
 

 私は拙著『トランプの電撃作戦』(秀和システム)の帯で、「アメリカと日本は友達(TOMODACHI)ではない」と書いた。これは、2011年の東日本大震災発生後に、在日アメリカ軍を中心となって、「トモダチ作戦(Operation TOMODACHI)」なる支援活動を行ったことから由来している。世界各国からの支援について私たちは感謝すべきであるが、アメリカが「トモダチ」という言葉を使ったのが私には何とも違和感があったので、このことをずっと覚えていた。「同盟」と「友達(トモダチ)」は全く異なる。そもそも、国際関係において、国に「友達」は存在しない。自国の利益のために協力するパートナーは存在するが、個人間の友達関係のようなある種のウエットさを持つ関係は存在しない。

 アメリカが日本と日米安全保障条約を結び、アメリカ軍を10万人単位で日本に駐留させているのは(駐留経費は日本負担)、アメリカの国益に資するからだ。「日本が友達だから、損得抜きで守ってあげよう」ということはない。しかも、駐留経費は日本持ちだ。世界規模で見れば、「アメリカが世界の警察(world police)で、世界の平和と秩序を守るために日本にアメリカ軍を駐留させる」という理屈になる。そして、現在では、「拡大を続ける中国を抑えるために、アメリカを中心とするアジア地域の同盟諸国を団結するためにアメリカ軍は存在する」という理屈で、アメリカ軍が日本にいる存在理由になっている。そして、「トランプは内向きで、アメリカを世界から撤退させる、つまり、アメリカ軍を世界から撤退させる方針である。そうなれば、アジアは中国のものになる。それは危険だ」ということが声高に主張されている。果たしてそうだろうか。

 アジアという地域を定義するのは意外と難しい。どこからどこまでがアジアかと言われると、東は日本から東南アジア、ユーラシア大陸のヨーロッパ地域以外というのが一般的な捉え方となるだろう。そして、中国が拡大して云々というのは、主に東南アジア地域と東アジア地域ということになるだろう。ここに、アメリカが存在しているから、中国の拡大を押さえ、アジアの平和を守れるという理屈だ。果たしてそうだろうか。第二次世界大戦後、アジア地域で起きた戦争(朝鮮戦争やヴェトナム戦争)や国内紛争(インドネシアでの架橋虐殺やクーデターなど)を見てみれば、アメリカが当事者(直接的にも間接的にも)となってきた。アメリカがいたからアジア地域の平和が乱されたと言うこともできる。

アジアでは、ASEANという枠組み、更にASEANプラス3(日中韓)という枠組み、中国の一帯一路計画、BRICSという多国間の枠組みが重層的に積み上がっている。この多国間枠組みで、地域の平和と安全を担保しようとしている。「中国を押さえる」というアメリカの意図を、同盟諸国という名の下請け国家にやらせようというのが、アメリカが現在やっていることだ。それに面従腹背で、だらだらとお付き合いをしているのが日本以外の国々だ。

 アメリカの国力の衰退は大きな流れである。いつまでも世界の警察をやってはいられない。撤退の時期が刻々と近づいている。それを何とかしようと色々と画策するのは、「引かれ者の小唄」である。私たちは「アメリカの世紀(American Century)」の黄昏を目撃している。

(貼り付けはじめ)

アジアは危険なまでに不均衡に陥っている(Asia Is Getting Dangerously Unbalanced

-ドナルド・トランプ政権は依然として注目を集めているが、真の物語は別のところにあるのかもしれない。
スティーヴン・M・ウォルト

2025年4月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/01/asia-trump-china-xi-hegseth-japan-south-korea-balance/

現在、アメリカの外交政策を揺るがす混乱の中で、国際政治のより根本的な側面を見失いがちだ。シグナルゲート事件(Signalgate)、ロシア・ウクライナ交渉(the Russia-Ukraine negotiations)、トランプ政権のますます明らかにするヨーロッパへの敵意(the Trump administration’s increasingly obvious animus toward Europe)、迫り来る貿易戦争(a looming trade war)、悪化する米加関係による自業自得の傷(the self-inflicted wound of a deteriorating U.S.-Canada relationship)、そしてアメリカ国内の民主政治体制への組織的な攻撃など、私たちは皆、気を取られている。こうした混乱についていくのに苦労しているのなら、それはあなただけではない。

少しの間、ニューズの見出しから少し離れて、長期的な影響を持つ大きな問題、つまりアジアにおけるアメリカの同盟諸国の将来について考えてみよう。ピート・ヘグゼス米国防長官は、同僚たち(とあるジャーナリスト)にイエメン攻撃計画についてメッセージを送るために安全でないアプリを使うのを止め、アジアの同盟諸国を安心させるために奮闘している。ヘグゼスの経験不足とこれまでの政権の政策を鑑みると、容易な話ではないだろうから、彼の成功を祈る。

つい最近まで、私はこのテーマを、古き良きリアリスト的な勢力均衡・脅威論(good old-fashioned, realist balance of power/threat theory)に基づいた、シンプルで馴染み深く、むしろ安心感を与える物語で説明していた。その物語は、中国が貧困(poverty)、技術力不足(technological deficiency)、軍事力の弱さ(military weakness)から世界第2位の地位へと驚異的な台頭を遂げ、南シナ海の領有権を主張し、国際社会および地域の現状維持(the international and regional status quo)におけるその他の重要な側面を見直そうとする継続的な努力から始まる。

この物語において、これらの劇的な展開は最終的にアメリカと中国の近隣諸国のほとんどを警戒させた。その結果、バランスをとる連合(a balancing coalition)が形成され始めた。当初はアメリカの既存のアジア同盟諸国が中心となり、徐々に他のいくつかの国も加わって拡大していった。この連合の明確な目的は、中国によるこの地域支配(dominating the region)を阻止することであった。その取り組みの主要な要素は、この地域へのアメリカ軍の追加配備、オーストラリア、英国、米国間のAUKUS協定の交渉、アメリカ、韓国、日本の安全保障協力強化のためのキャンプ・デイヴィッド合意への署名、フィリピンに方針転換を促し、アメリカとの関係強化(アメリカ軍のプレゼンス拡大を含む)、インドとの安全保障協力の拡大、そしていわゆるクアッド[QUAD](アメリカ、インド、日本、オーストラリアを含む)の活動継続であった。もう1つの兆候は、台湾に対する地域の支持の強化であり、2021年6月に当時の岸信夫防衛大臣が「台湾の平和と安定は日本に直結している(the

この物語の教訓は明白だ。誰がホワイトハウスに就任しようとも、アメリカとそのアジアのパートナー諸国には同盟関係を継続・深化させる強力かつ明白な理由がある。また、楽観的な結論も導き出されている。すなわち、力のバランスは前述の通り機能し、中国がこの地域を支配しようとする試みは自滅的となるだろう、ということだ。

誤解しないで欲しい。私は自分のシンプルな物語を気に入っており、そこにはかなりの真実が含まれていると考える。しかし、この物語に疑問を抱く理由も増えている。そして何よりも、過度に油断すべきではない。

第一に、中国は手をこまねいている訳ではない。新たな状況に適応し、場合によっては成功を収めている。ディープシーク(DeepSeek)の人工知能モデルの発表は「スプートニクの瞬間(Sputnik moment)」とまでは言えないが、アメリカが中国の技術開発に課そうとしてきた障壁の一部を克服する革新能力を示した。中国は国内の半導体製造能力と量子コンピューティングに多額の資金と労力を注ぎ込み続けており、アメリカが背を向けている多くのグリーンテクノロジー(電気自動車など)で既に優位に立っている。トランプ政権がアメリカの大学を不当な理由で標的にし、アメリカの科学者と外国の研究者の共同研究を困難にし、研究開発への連邦政府資金を削減している中で、中国の大学や研究機関は発展を続けている。アメリカが常に技術の最先端をリードするだろうと考えることに慣れているなら、もう一度考え直した方がいい。

第二に、アメリカにとって最も重要なアジアの同盟諸国の1つである韓国は、弾劾訴追された尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が2024年12月に戒厳令を布告しようとして失敗に終わった後、政治的混乱に陥っている。たとえ現在の危機が最終的に解決され、安定が回復したとしても、韓国社会は依然として深刻な分極化が続く可能性が高いだろう。野党の李在明(イ・ジェミョン)が最終的に大統領に就任する可能性も十分にある。李は米韓関係に懐疑的で、これまで中国と北朝鮮に対してより融和的なアプローチを好んできた。

第三に、中国は深刻な人口動態問題に直面しているが、日本と韓国も同様だ。台湾の年齢の中央値は44歳、韓国は45歳近く、日本は50歳近くになっている。アメリカは約38歳、中国は40歳を少し超える程度だ。対照的に、インド、インドネシア、フィリピンの人口ははるかに若く、年齢の中央値は30歳未満だ。前者のグループの場合、人口減少と高齢化が進むことで、若い男女を労働力から引き離して軍人にすれば経済の生産性が低下するという理由だけでも、軍事力を大幅に増強することが難しくなるだろう。

そして、集団行動(collective action)の問題がある。たとえ各国が共通の脅威に直面し、互いに協力して対処する明らかなインセンティヴがある場合でも、他国に重労働を委ねたり、最大のリスクを負わせたりしようとする誘惑に駆られる。これはもちろん新しい現象ではないが、今後もなくなることはない。強力な同盟諸国のリーダーシップと持続的な外交によって克服することは可能だが、今後数年間、どちらも豊富に得られるとは考えにくい。

ここでトランプ政権についてお話しする。

Which brings me to the Trump administration.

一方で、ドナルド・トランプ大統領は中国を経済的および軍事的なライヴァルだと述べており、政権の要職には著名な対中強硬派がいる。中国との対峙は、超党派の幅広い支持を得られる数少ない課題の1つでもある。しかし他方では、アメリカのビジネスリーダー(特にイーロン・マスクのような人物)は、中国との衝突によって自国と北京との商業取引が阻害されることを望んでいない。トランプ大統領は過去に台湾防衛に懐疑的な姿勢を示しており、政権が最初に取った行動の1つは、台湾の半導体メーカーTSMCに対し、今後数年間でアメリカに約1000億ドルを投資するよう圧力をかけることだった。トランプ大統領は(実績こそパッとしないものの)自らを交渉の達人だと自認しており、良好な関係にあると主張する中国の習近平国家主席と何らかの取引を成立させたいと考えている。しかし、その際に彼が何を譲歩するかは誰にも分からない。結局のところ、トランプ政権が中国をどのように見ているのか、そしてアジアで何をする(あるいはしない)用意があるのか​​を正確に知ることは難しい

さらに、中国に対抗するという戦略的目標と、同盟国・敵対国を問わずトランプの保護主義的なアプローチとの間には、深刻な矛盾がある。トランプが最初の任期開始時に環太平洋パートナーシップ協定(the Trans-Pacific PartnershipTPP)を破棄して以来、アメリカはアジアに対する真剣な経済戦略を持たず、バイデン政権も同様に戦略を打ち出していない。先日発表された外国製自動車・自動車部品への関税は、韓国と日本に大きな打撃を与えるだろう。これは、両国との戦略的連携を強化する理想的な方法とは到底言えない。北京はこの好機を逃さず利用し、王毅外相は先日、日本と韓国の当局者との会談で貿易と安定の「大きな可能性(great potential)」を強調し、「近い隣国は遠く離れた親戚よりも良い(close neighbors are better than relatives far away.)」と述べた。

トランプとマスクは、重要な政府機関を混乱させ、経験豊富な政府関係者を忠実な人物に交代させ、国家安全保障会議(the National Security CouncilNSC)と国防総省で素人同然の活動を続けている。もし私がアジアにおけるアメリカの同盟国だったら、専門知識の喪失と大統領の気まぐれに対する制約の撤廃を心配するだろう。それも非常に心配する。

最後に、アメリカ政府の基本的な性格が、これまでアメリカとアジア諸国の同盟関係を結びつけてきた絆を弱めるような形で変容しつつあるのかどうかを検討する必要がある。これらの同盟関係は、共通の価値観や制度に依存してきた訳ではない(例えば、韓国、台湾、フィリピンはいずれも長期にわたって独裁政権下にあった)が、近年、アジアにおけるアメリカのパートナー諸国のほとんどが志を同じくする民主政治体制国家であったという事実は、これらの絆を強化するのに役立ってきた。しかし、アメリカ自身が独裁政治体制(autocracy)への道を歩んでいるのであれば、このもう1つの結束の源泉(そして、これまで明確に区別されていた米中の政治秩序も)は失われてしまうだろう。

私はリアリストだが、それでも私のシンプルな物語には一理あると考えている。世界には国家以上の上位存在がない、つまり無政府状態の中にある国家は脅威に対して極めて敏感になる傾向があり、強大で野心をますます強める中国は、近隣諸国とアメリカが協力して北京の影響力を抑制する十分な理由を与えている。強いて推測するなら、アメリカのアジア同盟は存続するだろう。なぜなら、アメリカは中国がアジアで覇権大国(hegemonic power)となることを望んでいないからだ。地域におけるパートナーなしではそれを阻止することはできない。そして、潜在的なパートナーは中国の勢力圏内に居ることを望んでいない。しかし、以前ほどこの予測に自信を持っているわけではない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt
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