古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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日本では高齢社会が深化し、社会保障費の増加により、現役世代の社会保障負担が増大し、社会保険制度に対する不満が高まっている。「世代間の助け合い」という聞こえの良いスローガンはあるにしても、現在の高齢者たちが現役時代に負担した割合と、現在の現役世代の負担率を考えるならば、現役世代の不満は理解できる。消費税が全て社会保障に使われるというおためごかしもあって、国民は増税や負担増に辟易している(野党第一党の立件民主党すらもその国民の不満にこたえていない)。

 アメリカでも同様の不満が起きている。イーロン・マスクは社会保障を「最大のネズミ講」と呼んで非難している。社会保障制度に対する不満が起きている。そうした中で、『フォーリン・ポリシー』誌に、アメリカの社会保障制度の歴史に関する論稿が掲載されたのでご紹介したい。アメリカの社会保障制度の歴史は1930年代に始まったもので、100年ほどの歴史を持っている。

制度の歴史を振り返ると、1935年にフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領のもとで始まった。それまでそのような制度は存在しなかった。社会保障は普遍的な給付を重視し、全ての労働者を対象にすることで多様な層の支持を得る仕組みである。しかし、制度の創設当初から南部民主党による黒人労働者や女性の排除があり、その後も特定のカテゴリーの労働者が除外される政治的な障害が続いてきた。

そして、制度開始からの政治的混乱を経て、1950年代には大幅な改善が図られ、保守的な選択肢としての老齢保険が支持を集めた。社会保障税は制度の財源として重要であり、労働者が支払うことで制度の安定が図られてきた。その後、制度は徐々に拡大し、1960年代には医療給付が追加され、民主、共和両党間で給付の増額を競う展開へと発展した。1972年以降、社会保障制度は増税を伴いながらも給付金の調整が行われ、その人気は根強いものである。

これに対し、共和党は制度削減の選択肢を模索したが常に反発に遭い、制度の存続が続いている。例えば、レーガン大統領の提案に民主党が反対したことで、制度が保護される結果となった。現在も社会保障は多くのアメリカ人の重要な収入源であり、87%が優先事項と考えている。特に65歳以上の高齢者にとっての依存度が高く、将来的にも6900万人が受給予定だ。

マスクの「政府効率化省」の案は、この制度に対して新たな脅威となる可能性があり、労働人口の減少や退職者の増加に如何に対処するかが重要な課題である。トランプ政権下での改革が高齢者に与える影響が懸念され、ルーズヴェルト時代の理念が再確認される必要がある。

 社会保障制度がセーフティネットであることはアメリカも日本も共通している。問題は負担と受益のバランスだ。2つがちょうどイーヴンであれば問題ではないが、世代間で、負担よりも受益が大きい、樹液よりも負担が大きいということの不公平が出ているのが現状だ。ここを解決することが制度を存続させ、セーフティネットとしての役割を果たさせるために重要ということになるだろう。「私たちは逃げ切って良かったわ」というような言葉が出てくるようでは、社会保障制度の未来はない。

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社会保障(ソーシャル・セキュリティ)は「ネズミ講」か?(Is Social Security a “Ponzi Scheme”?

-引退した全てのアメリカ人にとって、この恩恵(benefits)は非常に現実的なものだ。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年3月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/03/10/social-security-musk-ponzi-scheme-benefits/

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社会保障システムの紹介を行うポスター(1935年)

大統領のアドヴァイザーであるイーロン・マスクは最近、ジョー・ローガンのポッドキャストに出演し、社会保障制度(Social Security)は「史上最大のネズミ講(the biggest Ponzi scheme of all time)」だと主張した。実際、社会保障制度はアメリカの社会的セーフティネットの中で最も効果的かつ永続的な構成要素の一つである。社会保障制度は、高齢者の貧困問題(problem of poverty amongst the elderly)を緩和するために、他の何よりも大きな役割を果たしてきた。この制度は完璧とはとても言えないが、連邦議会は改革が必要な場合には、長期にわたってその構造を改善・強化し続けてきた。この制度は、赤(共和党優勢州)と青(民主党優勢州)の両方の州に住む家族の生活の中心であるため、国政における「第三のレール(third rail)」となっている。

最近まで、ドナルド・トランプ大統領はこの問題から距離を置くことを十分承知していた。おそらく、トランプ大統領を誕生させた多くの有権者を含め、ほとんどの有権者にとって、この制度の削減はほとんど魅力がないという事実を敏感に感じ取っているのだろう。

しかし、政府の労働力を鑿(のみ、chisel)ではなく大ハンマー(sledgehammer)で再編しようとする彼の取り組みと同様、マスクは結局、政権のエネルギーの多くを消耗する政治的泥沼に大統領を引きずり込むことになるかもしれない。今年90周年を迎える社会保障制度を脅かすことは、民主党を活気づけ、共和党を萎縮させるのに他のほとんど何にもまして効果的だろう。共和党は、社会保障制度を党にとって負ける問題と認識するだろう。

フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領と民主党が過半数を占める連邦議会は、ニューディール(New Deal)の最盛期である1935年に社会保障制度を創設した。アメリカは、ドイツ(1889年)やデンマーク(1891年)のようなヨーロッパ諸国が数十年前に導入したような、退職者のための連邦社会保険制度(federal social insurance programs for retirees)をまだ採用していなかった。1934年、フランシス・パーキンス労働長官を委員長とする経済保障委員会(the Committee on Economic Security)は、退職者に給与税を財源とする年金(pensions)を支給する連邦保険制度(federal insurance program)の創設を連邦議会に提案した。

重要なのは、この制度が普遍的(universal)なものであることで、ミーンズテスト(訳者註:社会保障制度の給付を申請する市民の資格を確認するための資力調査)によって受給者を決定するのではなく、対象となる仕事に従事する全ての労働者を含めることであった。この制度の創設者たちの信念は、歴史的に連邦政府のプログラムに対してアンビバレントな(二律背反的な)国民性において、ミーンズテストが受給者に汚名を着せるのに対し、普遍的給付は手当てとは見なされないというものだった。普遍的給付はまた、保険の傘の下にある全ての人が何かを受け取ることになるため、多くの異なる所得階層をプログラムの継続に投資できるという利点もあった。

加えて、老齢保険(Old-Age Insurance)と呼ばれるこの制度は、一部の改革派が求めていた連邦政府が負担する定額の月額年金に代わる、より保守的な選択肢とみなされていた。ルーズヴェルトは次のように述べた。「私たちは、人生の危険や変化に対して国民の100% を保険で守ることはできないが、失業や貧困に苦しむ老年期(poverty-ridden old age)に対して、平均的な市民とその家族をある程度保護する法律を制定しようと努めてきた」。

社会保障税(Social Security taxes)は、この法案の重要な部分であった。第一に、社会保障税は、一般的な税収に頼らない、財政的に保守的な給付金の支払い方法を提供するものであった。連邦議会は、労働者に増税する必要がないよう、長期的な年間コストを考慮することを余儀なくされた。当初、連邦議会は余剰資金の蓄積も計画していた。第二に、給与税(payroll taxes)は、労働者に制度に「お金を払っている(paying into)」という感覚を与えることで、制度に投資しているという感覚を与え、その結果、将来にわたって給付を受ける資格がある。「この税金があれば、政治家が私の社会保障制度を廃止することはできない」とルーズヴェルトは後に語っている。

しかし、すぐに問題に直面した。

多くの主要委員会を支配していた南部民主党(Southern Democrats 訳者註:アメリカ南部を地盤とする保守的な民主党員たち)は、黒人の雇用が多い2つの労働力層である農業労働者と家事労働者を制度から除外するよう主張した。アメリカ南部は、公民権介入への扉を容易に開く可能性のある連邦政策に、彼らを巻き込みたくなかった。また、連邦議員たちは単身賃金世帯のためのプログラムを構想していたため、女性も除外された。当時、こうした労働者は男性であると想定されていた。最後に、将来のための余剰金という概念は、このパッケージの最も疑わしい部分であった。実際には、余剰資金は国債に投資されることになった。(労働者がまだ大恐慌の影響と闘っていた時期に、短期的には使われない資金を集めることは好都合だった)

社会保障制度開始から最初の5年間、この制度は政治的に不安定な状況にあった。連邦議会は1939年に労働者の未亡人と扶養家族にまで適用範囲を拡大したが、老齢年金保険に対する政治的な支持は弱いままだった。多くの共和党員がルーズヴェルトの施策を攻撃した。1936年、共和党の大統領候補アルフ・ランドンは、この制度は巨大な官僚機構(a massive bureaucracy)を生み出す「残酷な詐欺(cruel hoax)」であり、「彼らが納める現金が現在の赤字と新たな浪費に使われる可能性は十分にある」と考えた。連邦議会の反対派は、1939年から給与税の増税を8回凍結し、一般歳入から給付金を賄うようロビー活動することで、この制度を覆そうとした。一般歳入から給付金を賄うと、政治的に価値のある特定給与税がなくなり、社会保障が他の全ての裁量的制度の変動に左右されることになる。

1950年、民主党のハリー・トルーマン大統領がホワイトハウスに入ると、彼の政党がこの制度を救った。連邦議会は老齢年金保険(Old Age Insurance)を増額し、税金を上げ、農業労働者から始めて徐々に対象となる仕事の種類を拡大した。連邦議会は剰余金を集めるという考えを放棄し、給付金が厳格な賦課方式(strict pay-as-you go basis)で支払われるようにした。今日の労働者たちが今日の退職者を賄うということになった。1954年、共和党のドワイト・アイゼンハワー大統領は弟に宛てた手紙の中で、「いかなる政党であれ、社会保障や失業保険を廃止し、労働法や農業プログラムを撤廃しようとするなら、我が国の政治史上、その政党の名前は二度と聞かれなくなるだろう」と警告した。国民一人ひとりの個人番号が記載された社会保障カードは誇りとなった。社会保障番号はもともと、政府が制度のために労働者の収入を記録できるようにするために作られたものだが、現在では最も一般的な身分証明書の1つとなった。

その後の数十年間、社会保障は着実に拡大した。1964年、共和党候補のバリー・ゴールドウォーターがプログラムを任意にすることを提案し、それによってその普遍的な構造を弱めると、リンドン・ジョンソン大統領はゴールドウォーターを非難した。ジョンソン大統領はゴールドウォーターの提案を、自分が急進的な保守主義者であることを示すもう一つの証拠として使った。1965年、連邦議会は医療給付(これも普遍的な給付として構築されたメディケア)を社会保障に加えた。これはジョンソンの立法上の最大の勝利の一つであった。1972年、ヴェトナム戦争の支出から生じたインフレにアメリカ人が苦しむ中、共和党と民主党は給付の増額を競った。両党間の競争は拡大の是非ではなく、どのように拡大するかについてになった。リチャード・ニクソン大統領と連邦議会の共和党所属の議員たちは、物価上昇時に生活費の自動調整(automatic cost-of-living adjustments)が行われるよう、インフレに対する給付のスライド制(index benefits to inflation)を推進した。連邦下院歳入委員会委員長で民主党のウィルバー・ミルズ議員は、給付金に対する裁量権の維持を目指し、連邦議会に増額を投票させるという昔ながらの方法を選んだ(これにより、控除も確実に受けられる)。最終的な社会保障改正案には、両党の提案が盛り込まれた。給付金はなんと20%も増加し、法案はプログラムを指数化した。

1972年以降、社会保障局や超党派委員会による保険数理予測(actuarial predictions)に基づいて、連邦議会が段階的に増税し、給付金を調整した事例が数多くある。たとえば、1983年の社会保障改正案では、給与税を増税し、生活費調整を延期して、近い将来までプログラムを支払い可能な状態にした。

社会保障給付を直接削減しようとする共和党の努力は決して成功していない。この制度は非常に人気がある。1981年にレーガンが財政不足に対処しようとしたとき、予算管理局(Office of Management and Budget)のデイヴィッド・ストックマン局長は早期退職者への給付を大幅に削減することを提案した。連邦下院民主党はこれに反発し、ティップ・オニール連邦下院議長は「これは制度破壊への第一歩だ(the first step to destroying the program)」と警告した。レーガンは手を引き、この制度がアメリカ政治の「第三のレール(third rail)」になったという見方が生まれた。2005年、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ジョン・ケリー連邦上院議員に勝利して再選を果たしたばかりであったため、社会保障制度を民営化し(privatize)、労働者が給与課税の一部を投資口座に投資できるようにすることで、退職時にその口座がどうなっているかというリスクを負うという大規模な計画を提案した。ナンシー・ペロシ連邦下院少数党(民主党)院内総務とハリー・リード上院少数党(民主党)院内総務は、大統領に大敗を喫した。

2008年には5000万人以上が社会保障給付を受けていた。2025年には、約6900万人のアメリカ人が約1兆6000億ドルの給付を受けることになる。この中には、65歳以上のアメリカ人10人のうちほぼ9人が含まれ、社会保障は収入の31%を占める。加えて、65歳以上の男性の39%、同年齢の女性の44%が、収入の少なくとも50%を社会保障から受け取っている。国立退職保障研究所によると、アメリカ人の87%が、社会保障は予算の優先事項であり続けるべきだと考えている。この数字には共和党員の86%も含まれている。

なぜ多くのアメリカ人が、この制度の創設者が予言したように、この制度に払い込んだというプライドを持ち、毎月の給付金を受け取るに値すると等しく信じているのかは、衝撃的なことではない。

これまでの第二次トランプ政権の実績を考えれば、マスクが本気で社会保障を政権の矢面に立たせようとしていないと信じる理由はない。実際、社会保障の効率化にとって現在最大の脅威は、マスクのいわゆる「政府効率化省(Department of Government Efficiency)」そのものであり、社会保障庁から数千人の雇用を削減する案を推進し、支払いシステムにアクセスできるようになったからだ。

確かに、この制度は退職者の増加や労働人口の減少に対処しなければならない。しかし、トランプとマスクの「焦土作戦的アプローチ(burn-down-the-house approach)」は高齢者にとって危険であり、1970年代から制度の不均衡を是正し続けてきた漸進的改革(賃金の課税上限額の引き上げや給与課税の引き上げなど)よりも悪い選択肢である。例えば、ブルッキングス研究所は、基本プログラムの完全性を維持しながら支払能力を達成する方法を示す1つの包括的な研究を提唱している。

これまでこの戦いから遠ざかっていたトランプだが、パートナーのマスクが、トランプでさえ逃げ出せないような事態に彼を引きずり込んでいることに気づくかもしれない。雇用不安と物価の上昇、そして年金支給額の伸び悩み(stagnant pension coverage)が深刻化している今、ルーズヴェルトの遺産はかつてないほど重要である。

※ジュリアン・E・ゼリザー:プリンストン大学歴史学・公共問題教授。最新刊に『コロンビア・グローバル・リポーツ』誌との共著となった『パートナーシップの防御』がある。Xアカウント:@julianzelizer

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(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。よろしくお願いいたします。

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』で書いたように、世界は西側諸国(ジ・ウエスト、the West)対西側以外の国々(ザ・レスト、the Rest)の対立構造になっている。これはグローバル・ノース諸国とグローバル・サウス諸国の対立と言い換えてもよい。西側以外の国々、グローバル・サウス諸国でリーダー的な立場となっているのが中国とロシアだ。

 中国とロシアの関係は、1950年の中ソ国交樹立から75年が経過している。中ソ両国は冷戦初期には緊密な関係にあったが、1960年代から対立するようになり、1970年代には中国はアメリカと国交樹立し、アメリカとの関係を深化させた。結果として、中国は世界第二位の経済大国にまで成長することになった。ソ連崩壊後、中露関係は再び緊密化しているが、アメリカと中露両国の関係は難しい状況にある。米中関係は経済摩擦(貿易戦争)、米露関係はウクライナ戦争によって悪化している。

 冷戦期、ヘンリー・キッシンジャーの戦略によって、中ソ間に楔(くさび)が打ち込まれ、アメリカは中国を自陣営に取り込むことで、ソ連に対して主導権を握った。現在の中露関係は冷戦期に比べて、経済や軍事、技術協力の面で、より相互依存度が増している。アメリカとしては、ロシアを自陣営に取り込みたいところだが、現在のところそれは難しい。中ロ関係を崩せないとなれば、世界は大きく二つの陣営に分かれて対立する構造となるが、ここで重要なのは、「致命的な対立、戦争を起こし、核戦争までも引き起こすような対立は避ける」ということだ。そのために重要なのは、ドナルド・トランプ、習近平、ウラジーミル・プーティンの「ヤルタ2.0(Yalta 2.0)」体制だ。第二次世界大戦最終盤の1945年2月に、ソ連(当時)のクリミア半島のヤルタで、アメリカのフランクリン・D・ルーズヴェルト大統領、イギリスのウィンストン・チャーチル首相、ソ連のヨシフ・スターリン書記長が集まり、戦争終結と戦後の体制について話し合い、ヤルタ協定が結ばれた。第一次トランプ政権で、この「ヤルタ2・0」の風刺画が示しているように、米中露の関係は、致命的に悪化することはなかった。また、世界で大きな戦争は起きなかった。
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 現在、アメリカ対中露両国という対立の構図となっているが、そうした対立が続く中では、現在の世界が抱える大きな問題を解決することはできない。トランプは二期目の政権で、この「ヤルタ2.0」を復活させるだろう。現在、膠着状態になっているウクライナ戦争と、拡大の様相を見せている中東のイスラエル対ハマス・ヒズボラ(イラン)の戦争を悪化させないことが最重要である。どちらにしても早期の停戦が望まれる。トランプ、習近平、プーティンの「ヤルタ2.0」の復活が待たれるところだ。

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北京・モスクワ枢軸は今回より強力になった(The Beijing-Moscow Axis Is Much Stronger This Time Around

-中露両国のパートナーシップは中ソ時代よりも緊密でありすぐに分裂する理由はない。

ジョー・インゲ・ベッケヴォルド筆

2024年10月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/08/russia-china-axis-alliance-xi-putin-geopolitics/?tpcc=recirc062921

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ソヴィエト連邦最高指導者ヨシフ・スターリンと中国の最高指導者である毛沢東がモスクワで会談(1949年12月)

中国とロシアの連携が強まっていること、そしてそれにどう対抗するかは、西側の戦略的思考を占める主要な問題の1つである。2022年にロシアの侵攻によるウクライナ戦争が始まって以来、北京とモスクワが緊密化していることは一般的に認められている。ロシアの戦争遂行にとって中国の経済的、技術的支援は極めて重要だ。

しかし、中露関係が実際にどれほど強固なものなのか、何がその原動力となっているのかについては、いまだに多くの議論がある。中露両国の困難な歴史に基づく相互不信(mutual distrust)はいまだに根深く、モスクワが中国への依存を強めていることにどれだけ納得しているかは不透明だ。一方、北京はロシアの戦争によって、最大の貿易相手国の1つであるヨーロッパ連合(EU)に対して厄介な立場に追い込まれている。西側の戦略家たちの中には、中露の不和が1960年代から1970年代初頭にかけての有名な中ソ分裂(Sino-Soviet fracture)を彷彿とさせる分裂につながることを期待している人たちもいるようだ。

したがって、冷戦時代の中ソ同盟と比較することで、現在の北京とモスクワの枢軸の強さを評価することは有益な訓練となる。10月2日は、ソ連が建国されたばかりの中華人民共和国を最初に承認し、中国の新体制国家と外交関係を樹立して75年にあたる。1949年12月、中国の最高指導者である毛沢東は、初の海外公式訪問のためモスクワを訪れた。毛沢東はこの2ヵ月間の訪問で、ソ連のヨシフ・スターリンと30年間の友好条約を結んだ。しかし、この準同盟関係は10年ほどしか続かなかった。1961年、北京当局はソ連の共産主義を「裏切り者」の所業(the work of “traitors“)と非難し、1969年には正式な宣戦布告がない形で中ソ国境戦争が勃発した。その後、1971年に中国はアメリカと同盟を結び、立場を変えた。

中露関係の崩壊と同盟関係の切り替えが同じように起こる可能性は、現在ではかなり低くなっているように見える。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が3月に、ロシアと中国の関係は「最高の状態」であると自慢したとき、彼は単なるプロパガンダを表現したのではない。実際にそうだ。実際、地政学、経済、イデオロギー、指導力、制度という5つの重要な要素に沿って、現在の中ロ関係を過去の中ソ関係と比較すれば、あらゆる面で現在の北京・モスクワ軸がより強固であることは明らかだ。

何よりもまず、北京とモスクワの枢軸は現在、より強固な地政学的基盤(more solid geopolitical foundation)の上に成り立っている。冷戦初期と同様、アメリカとの敵対関係(adversarial relationship with the United States)が両国を結びつけている。しかし今日、両国が互いに恐れるものは冷戦時代よりも少なくなっている。ソ連の軍事力の強さと世界的な広がりは、冷戦の期間中、北京にとって潜在的な安全保障上のリスクとなっていた。今日、中国はより強力なパートナーだが、その地理的範囲は限られているため、ロシアにとっての脅威は少ない。中国はロシアを包囲する立場にない。加えて、モスクワは、中国が当分の間、アメリカとの海軍関係におけるライヴァル関係で頭がいっぱいであることを分かっている。

第二に、中ソ友好段階ではソ連の経済・技術援助が支配的であったのに対し、北京とモスクワは過去10年間で、両国の経済の相互補完的な性質(complementary nature of their economies)を基礎とする経済関係を形成してきた。ロシアは現在、中国にとって最大の原油供給源であり、天然ガスの供給源としてはオーストラリアに次いで第2位となっている。北京とモスクワは、衛星航法、宇宙、原子力エネルギーなどの分野での協力強化にも合意している。西側諸国の対ロ制裁が両国の貿易関係の障害になっていることは否定できないが、中国とロシアは貿易を促進するために物々交換の取引システム(a system of barter transactions to facilitate trade)に切り替えることで、金融部門の制裁を回避しようとしていると伝えられている。

第三に、冷戦時代にはイデオロギーが重要だった。共産主義に対する共通の信念が中ソ同盟を支えていた。その後、イデオロギーの相違が中ソの分裂を後押しし、毛沢東はソ連の指導者ニキータ・フルシチョフのスターリン死去後の改革を強く批判した。今日、世界政治においてイデオロギーはそれほど強烈な要素ではない。イデオロギーは今でも中国とロシアを結びつけるのに役立っており、両国の権威主義的な体制(authoritarian regimes)は、西側の思想が自国の政治的安定を損なうことを懸念している。しかし、イデオロギーの相違が今日の中ロ関係の崩壊につながるとは考えにくい。

第四に、外交政策において指導力は重要であり、北京とモスクワのトップ指導部間の対話は、冷戦時代よりも今日の方がはるかに強固である。毛沢東とソ連のスターリンやフルシチョフとの間には、決して大きな信頼関係はなかった。例えば、毛沢東は友好条約交渉の際にスターリンの要求に激怒し、1958年のソ連指導者の訪中時にはフルシチョフにわざと恥をかかせた。プーティンが中国の友好勲章を初めて受章した2018年には、今日とのコントラストが際立った。プーティンと中国の習近平国家主席が互いを親しい友人と呼び続けることに、あまり価値を置くべきではないだろう。より重要なのは、習近平が中国共産党総書記に就任した2012年以降、両者は40回以上会談していることだ。

第五に、中国とロシアの制度的なつながりは、冷戦時代よりも広く深くなっている。中国とソ連が1950年に友好条約を締結したとき、それぞれの共産党は1920年代初頭までさかのぼる密接な関係にあった。しかし、その関係は摩擦がなかったことはなく、それ以上に協力の範囲は、1950年代に中国の工業化を支援するためのソ連の専門家たちの派遣に限られていた。対照的に、現在の中ロ関係は依然としてトップダウンが中心とはいえ、幅広い政府機関にわたって強い結びつきがある。

政治の最高レヴェルでは、中国とロシアは大統領・国家主席、両国首相の間で定期的な会合を設けている。また、ハイレヴェルでの戦略的安全保障協議を18回実施しており、最近では2023年にモスクワで開催され、その他にも多数の政府間委員会や作業部会を運営している。両国間の軍事的結びつきは現在、おそらくこれまで以上に強くなっている。中国とロシアは2003年に初めて共同軍事演習に参加して以来、陸、空、海、サイバー、民兵組織が参加する共同軍事演習を100回以上実施してきた。様々なサーヴィスにわたるこのレヴェルの共同活動は、連携の堅固化に貢献することになる。

現在の中露関係はトップダウンばかりではなく、地域の取り組み、学術協力、学生交流、観光など、人と人との関係も拡大している。これらの関係は、1991年に冷戦が終結して以来、30年以上にわたって途切れることなく発展してきた。制度的・人的なつながりは、それ自体が同盟の原動力となるわけではないが、二国間関係の安定性を左右するものである。

1970年代にアメリカがソ連に対して中国カードを切ることに成功したことを考えると、現在の中国とロシアの連携を弱める可能性を探りたくなる。しかし、前述したように、中露協力の比較的強力な基盤により、冷戦型の分裂(Cold War-type split)が起こる可能性は低くなる。

アメリカとヨーロッパが北京に圧力をかけ、ウクライナにおけるロシアの戦争支援策を縮小させることは理にかなっている。しかし、中国をより広範囲な分野でロシアから遠ざけようとする試みは、おそらく失敗するだろう。なぜなら、北京のロシア政策は、何よりもアメリカに対する超大国としてのライヴァル心(its superpower rivalry)が原動力となっているからだ。それは冷戦時代にソ連を中国から引き離そうとするようなものだ。

理論的には、くさび戦略(wedge strategy)はパートナーシップの弱い方をターゲットにした方が成功する確率が高い。冷戦時代の弱いパートナーは中国であり、現在のロシアはそれにあたる。しかし、西側の制裁にもかかわらず、ロシアは1970年代初頭の中国よりも強い立場にある。毛沢東がワシントンと手を組むことを決めたとき、中国は1960年代初頭にモスクワと分裂してから経済的に孤立しており、その当時はソ連と国境戦争を戦っていた。したがって、北京がワシントンと取引するインセンティヴは高く、ワシントンにとってのコストは低かった。

しかし今日、ロシアは中国とより緊密に連携し、その強力な支援から大きな利益を得ている。もしワシントンがモスクワを北京から引き離そうとすれば、ロシア指導部は厳しい駆け引きで高い代償を引き出すことができるだろう。しかし、ロシアを中国から引き離すには、ヨーロッパにおけるロシアの地位を高めるような甘い取引では不十分かもしれない。中国がロシアの安全保障にとって深刻な脅威であるとは認識していないのに、なぜモスクワは北京との強固な関係を放棄しなければならないのか? モスクワは、北京がワシントンのことで頭がいっぱいであることを知っている。ロシアがウクライナで完敗し、経済が崩壊する可能性があれば、ロシア指導部の計算が変わるだろうか? おそらくだが、中国はアメリカやヨーロッパよりも、ロシアの経済力と軍事力の再建を支援することに熱心になるだろう。

アメリカがソ連に対して中国カードを使うことができたのは、その10年前に中ソが分裂し、北京がモスクワを安全保障上の脅威として認識していたからである。中ソ同盟は内部から崩壊したのであり、アメリカが外圧をかけたり、抗しがたい取引を持ちかけたりしたからではない。中露関係が完全に安定することはないだろうが、中ソの断絶のようなことが両国の同盟関係を脅かすとは考えにくい。冷戦時代とは対照的に、現在の北京とモスクワの枢軸は、強固な経済関係、イデオロギー的摩擦からの解放、両国の指導者間の強固な関係、二国間および制度的なつながりの確立された網の目など、強固な地政学的基盤の上に成り立っている。

※ジョー・インゲ・ベッケヴォルド:ノルウェー国防研究所中国担当上級研究員、元ノルウェー外交官。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。  アメリカでも、西側先進諸国でも、移民をバックグラウンドにした人々に対する攻撃が増加している。ヨーロッパ諸国では、白人による非白人への攻撃が起きている。また、アメリカでも同様の事象が起きている。アメリカの場合はネイティヴアメリカンの人々以外は、全員が元を辿れば別の国や地域からやって来た人々であり、移民や移民の子孫同士で嫌い合って、攻撃をしているという滑稽なことになっている。

 このような状況に対して、人種差別は良くない、外国人を嫌うことは良くない、それぞれ悪いことだというのが社会の前提になっている。それは全くその通りだ。これに異論を挟むことはできないし、物理的な攻撃を加えることは誰にしても犯罪行為であって、きちんとした裁判を行い、判決を確定させた上で、刑を執行しなければならない。法の下に差別があってはならない。

 下記論稿は、ドイツ国内での移民や移民のバックグラウンドを持つ人々への物理的な攻撃を行った過激派に関する書籍の内容を紹介する内容となっている。ドイツでは2000年代から、反移民思想を掲げる「国家社会主義地下組織」が組織され、実際に物理的な攻撃を実施し、複数の人々が殺害されるということが起きた。ドイツ警察の対処が遅かったために、このような考えが広がり、それが「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭を許したということになっている。
 私は、このような人種差別や外国人排斥に反対する。しかし、同時に、このような考えを持つ人々が生まれながらにそのようになったとは思わない。こうした考えを持つ人々はドイツ東部に多いとされている。ドイツは1989年に統一を果たしたが、旧東ドイツの人々は体制の大変化に戸惑い、ついていけず、置いてけぼりにされた。西側の人々から蔑まれ、待遇の良い職にありつくこともできず、結局、外国人や移民と低報酬の仕事を争うことになった。結果として、彼らには不満が鬱積し、それの向く先が移民や移民のバックグラウンドを持つ人々ということになった。彼らとて、安定した生活ができていれば、そのような考えを持つことはなかっただろう。「衣食足りて礼節を知る」という言葉もあるが、「衣食」が満足いくものであれば、そのようなことはなかった。

 また、資本主義の行き過ぎによる、優勝劣敗があまりにもきつく効きすぎてしまったのも問題だ。資本側は労働者を安くでこき使いたい。そのためには、国内で安く使える人々の大きなグループ、層を作らねばならない。貧乏人の大きな集団を作らねばならない。国内に「発展途上国」「貧乏国」を作る必要がある。ドイツであれば、ドイツ東部がそうだ。そして、そうした人々の不満は移民や外国人、移民のバックグラウンドを持つ人々に向けさせる。そうして、人種差別や排外主義が台頭してくるのである。一部政治家たちは自分たちの票を獲得し、政治家としての生活を守るために、このような劣情を利用する。日本でも全く同じことが起きている。

 犯罪行為をした者たちをただ罰するだけでは犯罪を抑止することはできない。大きな視点で、構造的に見ていく必要がある。「人種差別は駄目」「排外主義は駄目」とお題目のように唱えるだけでは何の意味もない。それを解決するためには現状を把握し、分析しなければならない。

(貼り付けはじめ)

ドイツの極右の台頭は新しい現象ではない(Germany’s Far-Right Surge Isn’t New

-2000年代初頭にドイツが致命的な過激派に立ち向かうことができなかったことは、警告となるはずだ。

エミリー・シュルテイス筆

2024年6月1日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/15/germany-far-right-neo-nazi-terrorism-europe-nsu-murders-white-nationalism/

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ドイツのミュンヘンで国家社会主義地下組織の犠牲者たちの写真を掲げる抗議者たち(2018年7月11日)

2011年11月のある朝、ドイツ東部の都市アイゼナハの銀行に2人組の男が押し入り、銀行の窓口職員をピストルで殴り、約99000ドルを盗んだ。地元警察が男たちを近くの道路脇のキャンピングカーまで追跡した後、銃声が鳴り響き、車は炎上した。警察官は車内で2人の男の死体を発見した。1人がもう1人を撃ち、銃を自分に向けたのだった。その日のうちに、アイゼナハで起こったことを聞いた約100マイル離れた女性が、自分のアパートにガソリンをまいて火をつけ、逃走した。

ウーヴェ・ベンハルトとウーヴェ・ムンドロスという2人の男は、典型的な銀行強盗ではなかった。ベアテ・ツェーペという女性とともに、彼らはドイツから移民を排除し、この国の白人としてのアイデンティティを脅かすと思われる人物を排除しようとするネオナチ・テロリストのトリオを形成していた。そして警察の捜査は、一連の銀行強盗以上のものを発見した。ベーンハルトとムンドロスは、彼らが率いる地下テロ集団である「国家社会主義地下組織(the National Socialist UndergroundNSU)」の資金源として金を盗み、当局の目を逃れながらドイツ全土で連続殺人を計画、実行していた。

NSUに関する暴露が初めて明らかになったとき、ドイツを根底から揺るがしたが、この話は国外では比較的知られていない。ジャーナリストのジェイコブ・クシュナーの新著『目を背ける:殺人、爆弾テロ、そしてドイツから移民を排除しようとする極右キャンペーンの物語(A True Story of Murders, Bombings, and a Far-Right Campaign to Rid Germany of Immigrants)』は、その状況を変えようとしている。

クシュナーは次のように書いている。「人種差別的な過去を償ったと思いたがっていた国は、暴力的な偏見が現在のものであることを認めざるを得なくなる。アドルフ・ヒトラー率いるナチスがホロコーストでユダヤ人やその他の少数民族を死に追いやってから60年、ドイツの警察はバイアスに目がくらみ、周囲で繰り広げられている人種差別的暴力に気づくことができなかった。この事件は、ドイツ人に、テロリズムは必ずしもイスラム教徒や外国人によるものではないことを認めさせるだろう。多くの場合、テロリズムは自国の白人によるものだ。そして、他に類を見ない大移動の時代において、白人テロの標的はますます移民になっている」。

『目を背ける』は主に被害者の家族や、右翼過激派テロの根絶に積極的に努めた人々の視点を通して語られており、3部構成になっている。クシュナーはまず、1990年代後半にベーンハルト、ムンドロス、ズシャペがドイツ東部の都市イエナでどのように過激化したかを説明する。彼らだけで自分たちの意見を過激化させた訳ではない。ベルリンの壁崩壊後、ドイツに入国する亡命希望者の数が急増した。これらの新たな到着者たちは、少数の注目を集める暴動や難民住宅への攻撃を含む、抗議活動や暴力にしばしば遭遇した。当時イエナでは右翼過激派の活動が盛んであった。それは、一種の二重スパイ(double agent)であるティノ・ブラントによって率いられていた。ブラントはネオナチの活動を報告することになっていた政府の情報提供者を務めながら、極右イデオロギーを推進する自分のグループに資金を提供していた。

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ドイツ・ツヴィッカウのウーヴェ・ベンハルト、ウーヴェ・ムンドロス、ベアテ・ツェーペの住居だったアパートの焼け跡(2011年11月13日)

本書の第2部では、3人の過激派が13年間にわたり、ドイツ当局の目をかいくぐって、ドイツ全土で10人の移民を殺害する計画を立て、実行に移した経緯が描かれている。2011年に銀行強盗事件が起きてから、この殺人事件は解決に至った。クシュナーは、NSUが10年間も殺人を繰り返した責任の多くは当局ン位あると主張している。当局の捜査は、移民が麻薬や組織犯罪に関与しているという、ドイツのメディアに後押しされた有害な風説(tropes)に誘導されていた。

被害者家族の直接の証言は、警察官の被害者に対する思い込みがどれほど被害者を迷わせたかを力強く物語っている。たとえば、2006年にドルトムント市内のキオスクで父メフメト・クバシクを殺害されたガムゼ・クバシクは、メフメトの違法行為について母親とともに何時間も尋問されたと説明した。ガムゼ・クバシクは「もう聞いていられなかった。私たちはまるで犯罪者のようだった」と証言した。

捜査のいくつかの側面は馬鹿馬鹿しいものに近づいている。たとえば、2005年にベーンハルトとムンドロスがニュルンベルクのケバブスタンドでイスマイル・ヤサールを射殺した後、ドイツ警察はヤサールがスタンドで麻薬を密売していたという説を執拗に追及した。警察は自分たちの仮説を裏付けるために、スナック・バーを開いて、ケバブとソーダを秘密裏に売り、1年間と約3万6000ドルの税金を費やし、誰かがやって来て麻薬の購入について尋ねてくるのを待った。しかし、誰も来なかった。「なぜなら、ヤサールが麻薬売人ではなかった」とクシュナーは書いている。ヤサールの息子ケレムは、「もし父親が生粋のドイツ人だったら、彼の殺人はすぐに解決されただろうと感じずにはいられなかった」と述べている。

しかし、クシュナーはまた、ドイツ社会全体が第二次世界大戦後の反移民、白人ナショナリズムの範囲を認めることに満足してきたと主張する。クシュナーは次のように書いている。「白人ナショナリズムは決して消えてはいなかった。ホロコーストを引き起こしたのと似たような出来事、つまり、ポグロム(pogroms 訳者註:ユダヤ人大虐殺)、ユダヤ人経営の企業に対する攻撃、ユダヤ人の家屋からの追放が、いまや移民に対しても起こっている。特にドイツ東部では、1990年代にネオナチや右翼過激派が急増し、東部全域で暴力行為を行ったスキンヘッドを指して、その時期は 『野球のバットの時代(baseball bat years)』と呼ばれることもあるほどだった」。

この本の第3部では、NSU裁判について取り上げており、この裁判は2018年に 10件の殺人罪とトリオの共犯者数名に対するズシェペの有罪判決で最高潮に達した。この判決は、殺害された人々の家族に冷たい慰めだけをもたらした。「NSUは私の父を殺害した。しかし、捜査当局は父の名誉を傷つけた。警察は父を二度目に殺害した」とガムゼ・クバシクは語った。

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2015年12月9日、ミュンヘンで殺人罪の裁判を受けるツェーペ

ドイツがNSU事件から十分に教訓を学んだと誰も信じないように、クシュナーはそれを、ドイツの移民コミュニティのメンバーに対する憎悪と暴力のより最近の事例と結びつけている。NSU スキャンダルは、ドイツの公の場から完全に消え去った訳ではないが、裁判が終わった後は新聞の見出しから外れ、他の右翼過激派暴力事件をきっかけに言及されることが最も多くなった。2020年2月、ドイツ中部の都市ハーナウで右翼過激派が人種差別的な暴挙で2軒のシーシャバーをターゲットに移民のバックグラウンドを持つ9人を殺害した。2022年11月、54歳の男が政治家、ジャーナリスト、その他の公人らに脅迫文を送った罪で約6年の懲役刑を言い渡された。その中にはフランクフルトのトルコ出身弁護士で、数人のNSU犠牲者の遺族の代理人を務めたセダ・バサイ=ユルディスも含まれていた。脅迫状には「NSU 2.0」と署名されていた。

ドイツにおける白色テロリズム(white terrorism 訳者註:右派が左派を攻撃するテロ)撲滅の問題点の1つは、反移民感情が国政でも健在であることだ。ドイツの調査報道機関コレクティブは1月、右翼過激派が昨年末に秘密裏に会合し、ドイツ国民を含む数百万人の移民のバックグラウンドを持つ人々を国外追放する計画について話し合っていたことを明らかにする暴露報告を発表した。ベルリン郊外のポツダムでの会合に出席した者の中には、ドイツ議会で77議席を占め、当時全国での投票率が22%だった極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の幹部政治家も含まれていた。コレクティブ報告書とその発表以来、無関係なスキャンダルが相次ぎ、同党の支持率は現在16%に低下したが、最近のヨーロッパ議会選挙では2019年よりも5%ポイント近く良い成績を収めた。

移民のバックグラウンドを持つ人々の「再移住(remigration)」に関するこれらの過激派の計画は、誰がドイツに帰属し、誰が属さないのか、そして最終的には誰が決定するのかをめぐる戦線に光を当てている。多くの人にとって、これらはまた、ナチスの歴史をどのように処理してきたかを誇りに思っている国において、ドイツ当局が極右イデオロギーによってもたらされる脅威を過小評価していたことを思い出させるものでもあった。コレクティブの報告書はドイツ国民の間で広範な反発を引き起こし、数百万人が街頭に出て「二度と起こさない」と宣言した。

それでもAfDは、ベーンハルト、ムンドロス、ズシャペが育ったチューリンゲン州と、彼らが本拠地を置いていたザクセン州を含む、今秋のドイツ東部3州の選挙で勝利を収める見通しだ。AfDの政治家たちは引き続き、ドイツから移民を排除したいと考える人々の、議会における代弁者だ。「これらの新たなネオナチたちは、ドイツが過去の恐怖を思い出すことに執着しすぎていると信じる政党のレトリックに勇気づけられていると感じている」とクシュナーはAfDについて書いている。

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2013年56日、ミュンヘンでのNSU殺人裁判の初日、オーバーランデスゲリヒト・ミュンヘン裁判所の法廷入口の外で機動隊と格闘するデモ参加者たち。

『目を逸らす』はドイツ国内の物語だが、クシュナーは関連性を引き出して、反移民右翼過激派の暴力に立ち向かうことができていないことが、西側民主政治体制諸国全体の問題であることを例示している。具体例は無数にある。サウスカロライナ州チャールストンの教会での黒人信者たちの虐殺、ニュージーランドのクライストチャーチにある2つのモスクの礼拝者たちの虐殺、あるいはテキサス州エルパソのウォルマートでメキシコ系アメリカ人やその他の買い物客たちの虐殺などが挙げられる。NSUトリオの原動力となった核心的なイデオロギー、つまり白人至上主義(white supremacy)は国境を越えている。

このため、NSUの記事は、白色テロリズムという自国の問題に取り組むアメリカへの警告となっている。右翼過激派によるテロ攻撃は近年増加傾向にあり、名誉毀損防止連盟(Anti-Defamation LeagueADL)によると、主に白人至上主義者らによって行われたこのような攻撃により、2017年から2022年の間に、アメリカで58人が死亡した。「私たちが目を背け続ければ、ドイツの危機や大虐殺から逃れることはできないだろう」とクシュナーは結論付けている。

※エミリー・シュルテイス:ロサンゼルスを拠点とするジャーナリストで、ヨーロッパ諸国の選挙と極右勢力の台頭を取材している。ツイッターアカウント:@emilyrs

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争が起きて以降、ヨーロッパ各国で徴兵復活の動き、女性にも徴兵を拡大する動きが出てきている。アメリカでも徴兵用の名簿に女性を載せるかどうかで共和党、民主党の間で議論が起きていることはこのブログでもご紹介した。先日、イスラエルでは、超正統派の神学校の生徒の徴兵免除が最高裁によって取り消された。徴兵の枠が拡大することになる(そこまで多い数ではないだろうが)。アジア各国では徴兵を行っている国も多い。韓国や台湾では若者たちが徴兵され、軍務に就いている。韓流スターでも徴兵で軍務に就いている様子やファンたちが集まって見送っている様子が日本でも報道されることがある。韓国や台湾の友人がいる人は、その時の話を聞いたり、「日本は徴兵がないからいいね」と言われたりしたことがある人も多いと思う。

 先進国では、いやいや徴兵された兵士よりも、志願してきた兵士の方が、意欲が高く、プロとして、長期間の訓練を行うことができ、結果として、質の良い兵士に仕立て上げることができて、結果としてその方が良いということになっていた。しかし、先進国を中心に真贋兵だけでは必要な数を充足することは出来ないので、徴兵という話になっているようだ。ドローンやロボットを使えば兵士の代替になるのではないかという話もあるが、実際には、ウクライナ戦争でも、イスラエル・ハマス紛争でも、生身の兵士が最前線で戦って、血を流している。「AIやロボットの発達で、これからなくなる職業」などという特集を雑誌やインターネットニューズサイトで見かけることがあるが、兵士という職業はまだまだなくならない。

下記論稿でユニークな視点は、「世界中で増大する政治的分極化(political polarization)を含む社会の分断(societal divisions)に対抗する手段」として徴兵を捉えていることだ。徴兵という共通の、そして厳しい体験をすることで、人々の間の分断を小さくしようという試みもあるようだ。これは、国民の均一化(homogenization)を図るということにつながる。社会統合のための徴兵という共通体験というのは、国外の脅威に備えるというよりも、国内の脅威、すなわち、国家分裂や内戦を回避するということである。そう考えると、グローバリズムによって、「同じ国家に住む国民」というナショナリズムに基づいたアイデンティティが薄まってきたが、それに対する揺り戻しとして、ナショナリズムに基づいたアイデンティティの復活のための動きとしての徴兵復活の議論が起きているという捉え方もできる。先進諸国は「内憂(国家分裂や内戦)外患(国家間戦争の可能性)」の二正面に備えなければならないという状態になっているようだ。

(貼り付けはじめ)

軍隊の徴兵への回帰(The Return of the Military Draft

-ウクライナとガザ地区での戦争は、テクノロジーは兵士の代わりになれないということを示している。その反対はない。

ラファエル・S・コーエン筆

2024年7月10日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/10/military-draft-conscription-soldiers-technology-nato-europe-russia-ukraine/?tpcc=recirc_trending062921

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カリフォルニア州サンディエゴ近郊のキャンプ・ペンドルトンで16マイルの行軍訓練を完了するアメリカ海兵隊リマ中隊の新兵たち(2021年4月22日)
ここ数十年もの間、ますます稀になっていたのだが、軍隊への徴兵は再び議論の対象となっている。

長年にわたり義務(mandatory conscription)徴兵を実施してきたイスラエルは現在、ハマスやヒズボラとの戦争が続いていることを受け、予備役兵役(reservists)の期間を延長するか否かを議論しており、間もなく徴兵の対象を現在免除されている超正統派の人々(ultra-Orthodox population)にも拡大する可能性がある。イスラエル最高裁判所は先月、超正統派の徴兵免除を無効とする判決を下した。ウクライナは5月、ロシアの侵略との戦いを続ける中で兵力を補充するために徴兵枠を拡大した。ロシアも同様に、ウクライナでの死傷者の増加に対応して兵役義務を拡大している。バルト三国では、ロシアのウクライナ攻撃を受けて、ラトビアが2023年に徴兵を再導入した。リトアニアは、2014年のロシアによるウクライナ侵攻に対抗して、2015年にそれを再導入した。エストニアは決してそれを廃止しなかった。そして世界の裏側、台湾は最近、ますます脅威となる中国の脅威に対応して徴兵期間を延長した。

直接の最前線にいない国でも、徴兵の再制定や既存の徴兵の拡大について話し合っている。 今年1月、イギリス参謀総長パトリック・サンダースは、イギリスが大規模な戦争に陥った場合には、「市民軍(citizen army)」が必要になると発言し、政治的な波紋を呼んだ。この発言は徴兵の再導入を求めるものだと多くの非地人に解釈されている。デンマークは3月、女性を含む徴兵を拡大し、服務期間を延長する計画を発表した。そして5月、ドイツのボリス・ピストリウス国防相は「ドイツには何らかの徴兵が必要であると確信している」と述べた。この問題は、若い女性に選抜兵役(selective service)への登録を義務付けるかどうかをめぐる最近の議会の議論で浮き彫りになっているように、米国でもある程度の注目を集めている。

アメリカなどで徴兵が国民的議論に再び浮上していることは、数十年来の傾向の逆転を示している。アメリカ軍は昨年、志願兵だけで構成される軍(all-volunteer force)の発足から半世紀を祝った。イギリスでは、最後の徴兵は更に遡って、1963年までで、それ以降は動員解除(demobilized)となった。世界中の多くの国では、形式上は何らかの形で徴兵が定められてきたが、それを強制しないことを選択した。遠征戦争(expeditionary wars)が多かった限定的な戦争の時代、ほとんどの西側民主政治体制国家のコンセンサスは、戦闘は少数のプロに任せるのが最善であるということであったようだ。

徴兵の復活は、主に機械の台頭が中心となってきた戦争の未来についての支配的な概念とは全く対照的である。このヴィジョンでは、人工知能の進歩と陸、海、空での無人システム(unmanned systems)の普及により、軍隊はより少ない技術的知識を持つ軍人の数でやっていけるようになるだろう。この予測は現実になったが、それはテクノロジーに適用される場合に限られ、人員配置のニーズには適用されない。ウクライナとガザ地区での戦争が証明しているように、あらゆるタイプの無人機は現代の戦場の必需品であり、フーシ派のような第二級のテロ組織でさえ、これらの兵器の独自ヴァージョンを展開している。しかし、戦争はより無人システムに移行したかもしれないが、この傾向は兵士の需要を減少させていない。

この一見逆説的な事実には、少なくとも2つの説明が存在する。まず、あらゆる技術的変化にもかかわらず、現代の戦争は依然として人的資源を大量に必要としていることが明らかになった。新しいテクノロジーは兵士の必要性を排除するのではなく、サイバー、宇宙、その他の専門知識に対する、以前は存在しなかった新たな需要を生み出した。そして、ウクライナとガザ地区での戦闘でより明らかになったように、歩兵や戦闘機パイロットなど、より伝統的な軍事専門職は、現在は無人機や自律システムによって強化されているとしても、依然として多くの需要がある。最後に、ロシア・ウクライナ戦争でこれまでに数十万人が死傷したことが示すように、戦争は時が経つにつれて血塗られたものになり、その隊列を埋めるための新兵に対する厳しい需要が生じている。

志願者だけを基本にして大規模な人員を動員することは困難だ。冷戦後のヨーロッパ社会では兵役がますます異質な概念となりつつあり、ヨーロッパ各国の軍隊は長年にわたり人材不足に悩まされてきた。アメリカは歴史的に良好な状態にあるが、陸軍、空軍、海軍は2023会計年度の新兵員数が約4万1000人も不足している。一方、新たな奨励金とより控えめな目標の組み合わせにより、一部の軍部門は2024年度の必要な新兵募集を達成できるだろう。アメリカ軍は、パイロットやサイバーオペレーターなど、市場性の高いスキルを備えた職業を採用し、維持することが難しいことは認識している。これらは全て、重大な死傷者を出した大規模な戦争がなかった時代の文脈での話だ。紛争が継続すれば、軍役の魅力はさらに薄れる可能性が高い。

もちろん、徴兵に頼ることには重大な運用上の欠点が存在する。多くの場合、本人の意志に反して人々に奉仕を強制しているため、徴兵では士気(morale)の問題が発生する可能性がある。その結果、命が危険に晒されるような場合に、規律(discipline)の問題が発生する可能性がある。そして、たとえそれがこうした問題につながらないとしても、多数の市民兵士に依存するということは、徴兵された軍隊が職業軍(professional forces)とは異なる戦い方をすることを意味する。徴兵期間の長さに応じて、徴兵される者は、専門の者よりも制服を着ている期間が短いため、訓練の内容が少ない、もしくは異なる場合がある。徴兵された軍隊は専門の軍隊よりも規模が大きいことが多いため、兵士1人あたりに同じ量のリソースを投資できない場合がある。それはひいては、徴兵された軍隊の訓練、装備、配備の能力に影響を与える。そして、社会の一部の人たちに自分たちの意志に反して戦うことを強制することの政治的コストはより高くなるため、それらを使用するかどうか、そしてどこで使用するかについての決定も異なるものになる可能性がある。

純粋な作戦上のニーズを超えて、徴兵は別の理由で復活しつつある。それは、世界中で増大する政治的分極化(political polarization)を含む社会の分断(societal divisions)に対抗する手段であるということである。この傾向には、ポピュリズム運動の台頭からソーシャルメディアの成長、そして人間の本質そのものに至るまで、理由はたくさんある。原因が何であれ、複数の専門家は、極端な分極化が放置されると、内戦(civil war)を含む社会の亀裂(societal rifts)につながる可能性があると懸念している。

少数だが増加している観察者たちにとって、徴兵を含む国家奉仕が解決策を提供しているように見える。彼らの見解では、このようなサーヴィスは障壁を取り除き、共通の経験を提供し、最終的にはより一貫した社会を構築する。具体的な特典は国によって異なる。例えば、イスラエルは、超正統派の徴兵免除を解除することで、この閉鎖的だが成長を続ける社会層(insular but growing segment of society)をより広範な国民に統合するのに役立つことを期待している。対照的に、デンマークの女性を含む徴兵の拡大は、デンマークの首相によって「男女間の完全な平等(full equality between the sexes)」に向けた動きとして組み立てられた。しかし、その核心では、これらの議論は同じテーマのヴァリエーションであり、兵役によって競争の場が平準化(playing field)され、社会が更に統合されるというものだ。

徴兵が団結を促進するというこの主張が実際に真実であるかどうかについては、未解決の疑問が残っている。アメリカでは、ヴェトナム戦争中の徴兵が大規模な抗議活動を煽り、徴兵の不均一な実施方法が社会の亀裂を緩和するどころか悪化させた。ヴェトナムはアメリカの歴史の中で一度限りの例(one-off example)ではない。南北戦争中の1863年にニューヨークで起きた徴兵暴動(the 1863 New York draft riots)は、今でもアメリカ史上で最も死者数が多く、最も破壊的なものの1つとなっている。また、徴兵で部門分けが行われる傾向はアメリカに限定されない。2023年10月7日のずっと前から、表向きは統合的な徴兵にもかかわらず、イスラエルは政治的、宗教的分裂に伴う抗議活動に混乱していた。ウクライナでも、戦争が長引くにつれて徴兵忌避(draft dodging)の重大な事件が報告されている。

徴兵の復活が社会にとって前向きな展開であるかどうかに関係なく、徴兵が復活しつつあるという事実は、戦争の将来についての考え方について重要な教訓を私たちに教えてくれるはずだ。戦争を研究する私たちは、戦争を行う人々よりも戦争の技術に、不変のものよりも新しいものに焦点を当てることがあまりにも多い。そして実際、クロスボウ、マスケット銃、ドローンなど、戦争の戦い方を根底から覆すテクノロジーは存在してきた。

しかし、徴兵など一部の議論は古くから続けられてきた。軍隊は常に、小規模な専門化された軍隊とより大きな大衆的な軍隊の間で揺れ動いてきた。そして、私たちは主に機械によって行われる無血戦争(bloodless wars)にますます進むという考えに夢中になっているかもしれないが、戦場の現実はその逆であることが証明されている。おそらく、専門化(professionalization)の一時期を経て、最近の徴兵の上昇を捉える最良の方法は、戦争においては、物事が変われば変わるほど、変わらないということだろう。

※ラファエル・S・コーエン:ランド研究所クン軍プロジェクト戦略・ドクトリンプログラム部長。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いたが、西側諸国では、エネルギー高から波及しての、物価高が続き、ウクライナ支援も合わせて、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が国民の間に生じている。「早く戦争を終わらせて欲しい」「取り敢えず停戦を」という声は大きい。

ウクライナ戦争勃発後、アメリカとヨーロッパ諸国(西側諸国)は、ロシアに対して経済制裁を科した。ロシアからの格安の天然ガスを輸入していたが、輸入を停止することになった。アメリカはそれに代わって、天然ガスをヨーロッパ向けに輸出することになったが、ヨーロッパの足元を見て、高い値段で売りつけている。これはヨーロッパ諸国の人々からの恨みを買っている。以下の記事では、西側諸国の制裁がロシアに大きな打撃を与えており、ヨーロッパ諸国の経済には影響を与えていないということだが、かなり厳しい主張ということになるだろう。
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 10年ほど前から、ヨーロッパ諸国で勢力を伸長させているポピュリスト勢力(アメリカのドナルド・トランプ大統領誕生も同じ流れ)は、プーティン寄りの姿勢を取り、ウクライナ戦争の停戦を求めている。これは、アメリカで言えば、連邦議会の民主党左派・進歩主義派議員たちと、共和党のトランプ派議員たちの考えと同じだ。彼らもまた、アメリカの国内世論の一部を確実に代表している。
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ポピュリスト勢力は人種差別的と批判される。そういう側面もあるが、彼らは既存の政治に対する、人々の不満を吸い上げ、代表している。エスタブリッシュメントたちが主導する政治が戦争をもたらしていると多くの人々が考えている。トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」は「孤立主義(Isolationism)」を基礎としているが、これは「国内問題解決優先主義」と訳すべきだ。そして、「アメリカ・ファースト」は「アメリカが何でもナンバーワン」ということではなく、「アメリカのことを、まず、第一に考えよう」ということだ。ここのところを間違ってはいけない。ポピュリストたちに共通しているのは、「外国のことに首を突っ込んで、税金を浪費するのではなく、自国の抱える諸問題を解決していこう」ということであり、そうした側面から見れば、ポピュリストたちが違って見えてくる。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパのポピュリストたちが制裁反対の戦いでクレムリンに加わる(European Populists Join the Kremlin in Anti-Sanctions Fight

-彼らは「制裁はロシアよりもヨーロッパを傷つける」と誤った主張を展開している。

アガーテ・デマライス筆

2024年3月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/11/russia-sanctions-oil-gas-populists-europe-elections/?tpcc=recirc_latest062921

ヨーロッパのポピュリスト政党の多くがロシアに友好的な傾向を持つことを考えれば、ヨーロッパのポピュリストたちがしばしばクレムリンの主張をオウム返しにしたがるのも当然と言えるだろう。最近では、極右から極左まで多くのヨーロッパの政党が要求しているように、欧米諸国の対モスクワ制裁の停止を求めることもその1つだ。

対モスクワ制裁解除要求の背後にある通常のシナリオは基本的なものだ。フランスの「国民連合(National RallyRassemblement National)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAlternative für Deutschland)」、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相はいずれも、制裁は裏目に出ており、ヨーロッパ経済には打撃を与えているが、モスクワには打撃を与えていないと主張している。EU全域のポピュリスト政党が6月のヨーロッパ議会選挙に向けて準備を進めており、このような論調はますます目立つようになるだろう。だからこそ、このような誤った主張を論破する絶好の機会なのだ。

ロシアに好意的な政治家たちが最もよく口にするのは、制裁がヨーロッパの企業や消費者を破滅に追いやるというものだ。これらの主張の中で最も広まっているのは、制裁がヨーロッパにおけるエネルギー価格の高騰(およびインフレ)を引き起こしているというものだが、これは最も簡単に反証できる。2022年初頭に世界の炭化水素価格が高騰したのは、ロシアによるウクライナ攻撃とヨーロッパに対するガス恐喝がきっかけだった。欧米諸国がロシアのエネルギー輸出に制裁を課し始めたのは、その年の11月であり、石油・ガス価格はすでに下落していた。

もう1つの主張は、制裁がロシア市場へのアクセスを失ったEUの輸出志向企業にペナルティを与えているというものだ。しかし、現実はもっと穏やかなものだ。ロシアはEU企業にとって決して主要な市場ではなく、2021年にロシア企業がEUの輸出品のわずか4%を購入したにすぎない。EUの対ロ輸出の約半分が制裁の対象となることを考えると、EUの輸出のわずか2%が影響を受けることになる。

フランスの研究機関である国際経済予測研究センター(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)の国家レヴェルのデータは、この評価を裏付けている。それによると、対ロ制裁がフランス経済に与える影響はほとんど無視できるもので、フランスの輸出のわずか0.8%、約40億ユーロ(44億ドル)しか影響を受けていない。視点を変えれば、これはフランスのGDPの0.1%ほどに相当する。この調査はフランスのみを対象としているが、おそらく他のEU経済圏でもこの調査結果は劇的に変わることはないだろう。ドイツ企業と並んで、フランス企業はヨーロッパでロシアと最も深い関係にある企業である。このことは、他の多くのヨーロッパ諸国の企業は、より少ない影響しか受けていないことを示唆している。

制裁がヨーロッパ経済を圧迫しているというクレムリン寄りの主張の別のヴァージョンは、EU企業が制裁のためにロシアへの投資を断念せざるを得なかったという考えに基づいている。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ウクライナへの本格的な侵攻が始まってから2023年8月までの間に、ヨーロッパ企業はロシア事業から約1000億ユーロ(約1094億ドル)の損失を計上したと計算している。

この数字は正確かもしれないが、制裁と大いに関係があるという考えは精査に耐えない。現段階では、制裁によってヨーロッパ企業がロシアでビジネスを行うことは、防衛など一部の特定分野を除けば妨げられていない。それどころか、ヨーロッパ企業のロシアでの損失には他に2つの原因がある。1つは、風評リスクを恐れ、ロシアの税金を払いたくないためにモスクワの戦争に加担したくないという理由で、多くの企業が撤退を選択したことだ。

損失の第二の原因は資産差し押さえの急増で、クレムリンは多くのヨーロッパ企業に、場合によってはわずか1ルーブルの価値しかない資産の売却を迫っている。言い換えれば、仮に制裁がない世界であったとしても、かつてロシア市場に賭けていたヨーロッパ企業は現在、大規模な損失に直面している。もちろん、クレムリンは、収用は制裁に対する報復手段に過ぎないと主張している。この台詞は、欧米諸国の侵略から自国を守るためだけだというモスクワのインチキ主張の長いリストの、もう1つの項目にすぎない。

ヨーロッパのポピュリスト政治家たちが好んで売り込むもう1つの論点は、ロシアのエネルギーに対するヨーロッパの制裁は、これまで見てきたように、コストがかかるだけでなく、役に立たないというものだ。この神話(myth)にはいくつかのヴァージョンがあるが、最もポピュラーなものは、G7とEU加盟諸国が合意したEUの石油禁輸と石油価格の上限は、ロシアの石油生産者に影響を与えないというものだ。それは、ロシアは、ヨーロッパ向けの石油をインドに振り向けることができるからだ。

実際、以前はヨーロッパ向けだったロシアのバルト海沿岸の港からの原油輸出の大部分は、現在インドの精製業者が吸収している。しかし、このような見方は、モスクワにとってインドの精製業者に石油を売ることは、ヨーロッパに売るよりもはるかに儲からないという事実を無視している。インドへの航路は、ヨーロッパへの航路よりもはるかに長い(したがってコストが高い)。加えて、インドのバイヤーたちは値切ることができる。彼らは、ヨーロッパ市場の損失を補うことでクレムリンの好意を受けていると考えており、そのためロシア産原油の急な値引きを受ける権利がある。

キエフ経済学院の研究によれば、ロシアの損害は無視できるものではないという。過去2年間で、クレムリンは推定1130億ドルの石油輸出収入を失ったが、その主な原因はEUによるロシア産石油の禁輸だった。EUの禁輸措置とG7とEUの石油価格上限がともに完全に効力を発揮した昨年、ロシア全体の貿易黒字は63%減の1180億ドルに縮小し、ウクライナ戦争を遂行するためのクレムリンの財源に制約を課すことになった。

ロシアの石油輸出企業にとって、今年は良い年にならないかもしれない。先月クレムリンは、輸出収入の減少を国家に補填するため、石油会社は利益の一部を放棄する必要があると発表した。ロシアの石油会社ロスネフチなどにとって、モスクワが国内のエネルギー企業に戦争資金調達への直接的な協力を求めるのは初めてのことだ。

制裁の実施が強化されるにつれ、制裁は無意味だという考えはさらに薄れていくだろう。 2023年10月以来、アメリカはG7とEUの原油価格上限を回避してロシア産原油を輸送していたタンカー27隻に制裁を課しており、これにより、どちらかの圏に拠点を置く企業がこれらのタンカーと取引することは違法となる。これは西側諸国の制裁解釈の劇的な変化を浮き彫りにしている。最近まで、価格上限はG7かEUを拠点とする海運会社または保険会社がロシア石油の輸送に関与する場合にのみ適用されていた。ワシントンは現在、西側企業とのつながりをより広範囲に解釈している。

たとえば、ロシアの幽霊船団(ghost fleet)のかなりの割合を占めるリベリア船籍のタンカーは、リベリアがアメリカを拠点とする企業に船籍業務を委託しているため、現在では石油価格上限の対象となる。これと並行して、西側諸国はインドの石油精製業者への圧力を強め、ロシアからの石油供給を止めるよう働きかけている。クレムリンを落胆させているのは、こうした努力が功を奏しているように見えることだ。今年に入ってから、インドのロシア産原油の輸入量は、2023年5月のピークから徐々に約3分の1に減少している。

制裁はロシアに損害を与えるよりもヨーロッパに損害を与えるというポピュリストたちの主張は、精査に耐えられない。現実には、これらの措置がヨーロッパ企業に与える影響は小さいが、ロシアは原油のルートを欧州から外そうとしているため、ますます逆風に直面している。

制裁にはコストがかかり、効果もないという主張を否定するのは簡単だが、このシナリオがすぐに消えることはなさそうだ。ロシアに好意的な政治家たちがヨーロッパ議会やその他の選挙に向けてキャンペーンを強化するにつれ、このような主張が今後数週間でますます広まることが予想される。制裁がロシアに深刻な影響を及ぼしていないのであれば、クレムリンと西側の同盟国は制裁を弱体化させるためにこれほどエネルギーを費やすことはないだろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

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