古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

 NATO(北大西洋条約機構)は冷戦初期に対ソ連、西ヨーロッパ防衛のために構築された多枠組みであり、創設されて約80年が経過している。その間に冷戦が終了し、対ソ連から対ロシアとなっているが、基本的な枠組みに変化はない。アメリカが主導する安全保障の枠組みということは変わらない。しかし、ドナルド・トランプが大統領になり、「アメリカ・ファースト」を掲げ、アイソレイショニズム(Isolationism)、「国内問題解決最優先」となり、NATOに対しては厳しい姿勢を取るようになっている。ヨーロッパ諸国の国防予算の対GDP比の引き上げを求め(これはジョー・バイデン政権でも進められていたが)、結果として、ヨーロッパ諸国は対GDP5%(直接的な防衛予算3.5%、インフラ整備など1.5%)まで引き上げるということになった。現在が2%弱程度なので2倍弱の増加ということになる。ヨーロッパとしてはアメリカを何としてもNATOにつなぎとめて、西半球に引きこもらせないようにしたい。

 今年7月にトルコで開かれたNATO首脳会談では何の破綻もなく、無事に終わることができた。これがNATOにとっての最大の収穫であったという評価になっている。「問題の先送りではないか」という批判も起きているが、NATOの解体が起きなかったことが何よりだということになっている。

NATOの現在の問題は、「共有された危機意識の欠如」が挙げられる。「ロシアによるウクライナ侵攻があったではないか」という指摘もあるが、ソ連に比べて、脅威としての「度合」がどうしても低くなってしまう。ソ連は共産主義の「輸出」も行っていたが、現在のロシアはイデオロギーに関しては脅威とはなっていない。また、「脅威」という点においては、中国が冷戦時代のソ連のような存在になっている。中国はイデオロギーの輸出を行っていないが、経済力と不干渉主義で西側以外の国々(the Rest)の指導的な立場に立っている。アメリカとしては、ヨーロッパではなく、「アジアに軸足を移す(pivot to Asia)」ということになる。この考え方自体は、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官時代から出ているものだ。アメリカとしてはヨーロッパの面倒は見切れないということになり、ヨーロッパとしてはこれまで通りお願いしますよ(自分たちであんまり防衛予算を払いたくないんです)ということになる。

 ヨーロッパはロシアとの関係を改善すれば安全保障上の脅威は大きく減ることになる。そのことができないのはどうしてか。それはイギリスが邪魔をしているからだ。イギリスは伝統的にヨーロッパ大陸に時刻よりも強力な勢力が出てこないようにさせることを外交の根本原理にしてきた。ヨーロッパ諸国、特にドイツがロシアとの関係を改善することは、イギリスの「国益」にならないということになる。ドイツがロシアの安いエネルギーを大量に使えることはドイツの経済成長において重要である。イギリスはウクライナへの支援を継続しているが、これはウクライナ戦争を終わらせない、ロシアに出血を強いるためのものだ。ロシアとドイツを弱体化させることがイギリスの目的だ。しかし、そのために世界は不安定になっている。イラン戦争ではイスラエル、ウクライナ戦争ではイギリスが「悪」である。

 話がそれてしまった。NATOという枠組みは今後も続いていくだろう。しかし、アメリカが国力の低下から西半球に引きこもるという選択をすることで、その性質は大きく変化していくことになるだろう。

(貼り付けはじめ)

NATOは依然として多くの難問を抱えている(NATO Is Still a Sick Puppy

―アンカラ首脳会談は問題を先送りした(kicked the can down the road)に過ぎない。

スティーヴン・M・ウォルト

2026年7月13日

『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/07/13/nato-trump-europe-summit-ankara-alliance-russia-defense-geopolitics/

markruttedonaldtrumpnato2026001

トルコのアンカラで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で会談するマーク・ルッテ事務総長とドナルド・トランプ米大統領(2026年7月8日)

2026年のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は幕を閉じたが、歴史に残るような重要な会議ではなかった。もし共通の目的意識の再燃や、大西洋間の連帯感の回復を期待していたのなら、その期待が裏切られたことには同情を禁じ得ない。一方で、ドナルド・トランプ大統領特有の感情的な爆発をきっかけにNATOが崩壊するような事態を予想していたとしても、それもまた外れたことになる。実際に行われたのは、明白な緊張関係を意図的に無視し、大きな波紋を呼ぶような事態を避け、問題を先送りしようとする試みであり、その試みはおおむね成功したと言える。

しかし、幻想を抱くべきではない。この同盟は今や「山積する難問を抱える組織(a sick puppy)」と化しているからだ。最強の加盟国が全てを台無しにして脱退するのではないかという懸念の中で首脳会議が始まり、最悪の事態は回避されたと皆が安堵して終わる。こうした状況が繰り返されること自体、戦略的な足並みの揃った結束や価値観の共有を示すものとは到底言えないだろう。

大西洋間の緊張の原因をすべてトランプ大統領のせい(これについては後述する)にしたくなる気持ちは理解できるが、NATOが抱える根本的な問題は構造的なものだ。軍事同盟それ自体が目的ではなく、あくまで国家が共通の脅威に直面した際、自国の安全を確保するための手段に過ぎないからだ。今日のロシアをどう見るかはさておき、NATO加盟国は、1949年の同盟結成当時のような、脅威の所在が明確で意識を集中させる必要があった状況には直面していない。確かにロシアは懸念すべき隣国ではあるが、かつてのソ連のような世界的な超大国ではない。ロシアがヨーロッパに対して深刻な覇権的脅威(a serious hegemonic threat)をもたらしているという懸念は笑止千万と言える。モスクワの脅威の度合いについてNATOのヨーロッパ加盟諸国間で意見は完全には一致しておらず、トランプ政権がロシアをそもそも脅威とみなしているのかどうかも定かではない。中国の台頭により、アメリカの戦略的関心は以前からヨーロッパから離れつつある。その理由は、中国が(ロシアとは異なり)真に対等な競争相手であること、そしてアジアが今やより大きな経済的舞台となっていることにある。私は、ヨーロッパが重要でないとか、NATOに価値がないと言っているのではない。ただ、ヨーロッパとアメリカを結びつけていた絆は、トランプが政界入りするよりもずっと前からすでに弱まりつつあったと言いたいだけだ。

以上のことから、NATOには新たな役割分担が必要であることは明らかだった。すなわち、ヨーロッパ加盟諸国が自国の防衛について徐々に主たる責任を担うようになり、一方でアメリカはアジアにより多くの資源と関心を向ける(focusing more resources and attention on Asia)という形だ。理想を言えば、こうした移行は10年ほどの歳月をかけて、わだかまりなく進められるべきものだった。アメリカは同盟諸国による軍の再建を支援し、変化する戦場の要件に適応できるよう協力し合うべきだった。バランスが再調整されたNATOrebalanced NATO)であっても、アメリカやその他の加盟諸国にとって依然として重要な資産であり続けたはずだ。その理由は、ヨーロッパの静謐維持(これは全ての当事者に利益をもたらす)に寄与するからというだけでなく、単独行動よりもパートナーと協力する方が効果的なシナリオ(アフリカや中東での紛争など)が数多く存在するからだ。

残念なことに、円滑かつ友好的な調整の可能性は、2024年にトランプが再選され、アメリカのヨーロッパ同盟諸国に対して露骨に搾取的な姿勢を取るようになったことで断たれてしまった。トランプのヨーロッパに対する軽視の姿勢には長い経緯がある。例えば、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを食い物にする(screw the United States)」ために創設されたという虚偽の主張や、かつては支持していたイタリアのジョルジア・メローニ首相を含むヨーロッパの要人たちへの軽蔑的な扱いにその姿勢は表れている。グリーンランドの領有を繰り返し示唆したり、恣意的かつ懲罰的な関税を課したり、さらにはロシアのウラジーミル・プーティン大統領に度々すり寄るような態度を見せたりしたことからも、ヨーロッパの安全保障や繁栄に対するトランプの関心が極めて希薄であることが浮き彫りになっている。2025年のミュンヘン安全保障会議におけるJD・ヴァンス副大統領の敵対的な演説(および、今年2月にマルコ・ルビオ国務長官が、多少は配慮ある表現を用いつつも同様の趣旨で語った内容)もまた、トランプの姿勢と軌を一にするものだった。ヨーロッパで高く評価されていた傑出した軍人である米陸軍のクリストファー・ドナヒュー将軍が、時期尚早かつ強制的に退役させられたことさえも、現政権の軽視の姿勢を反映したものと見なすことができる。

公平を期して言えば、トランプやその前任者たちが、それまでのヨーロッパの不十分な防衛努力について不満を抱いたのはもっともなことだった。実際、トランプの「陶器店で暴れる雄牛(bull-in-a-china-shop)」のような暴力的な手法が、ヨーロッパの長年にわたる安穏とした姿勢を打破する一助になったとさえ言えるだろう。ヨーロッパは今、第二次世界大戦後で最大規模の軍備増強に乗り出している。もっとも、アメリカが同盟諸国に対して経済戦争を仕掛けたり、イランとの実質的な戦争を始めたりしていなければ、この取り組みはより成功しやすかったはずだ。こうした失策は、アメリカの納税者に巨額の負担を強いただけでなく、ヨーロッパ経済がアメリカの役割を肩代わりしようとしていたまさにその時期に、ヨーロッパ経済に打撃を与えた。

トランプはまた、ウクライナ支援の負担をアメリカが過剰に負っていると固く信じていたが、EUやヨーロッパ各国もその分野で関与を強めてきた。彼は、ペルシャ湾での事態においてNATO加盟諸国が自分を助けなかったと不満を漏らし続けているが、彼らに相談することなく愚かな戦争を始め、その結果事態を悪化させた後で、一体何を期待していたというのだろうか? アメリカ海軍でさえ成し遂げられなかったホルムズ海峡の開放という任務のために、なぜ彼らが自国の海軍を危険にさらさなければならないのか?

それでは、今日のNATOはどのような状況にあるのか? 第一に、ヨーロッパの指導者たちは、アメリカの関与がもはや信頼できず、いずれは自分たちだけで対処しなければならなくなることを明確に理解している。たとえ2028年の選挙でアメリカ人が筋金入りの大西洋主義者(つまりJD・ヴァンスでもマルコ・ルビオでもない人物)を選出したとしても、同盟を弱体化させてきた構造的な要因は依然として残るだろうし、トランプの「新たなヴァージョン」のような人物がいずれホワイトハウスの主になる可能性を完全に排除することはできないからだ。アメリカへの依存を減らす取り組みは、ヨーロッパ各国の国内政治や集団行動につきものの問題によって妨げられてきたが、彼らがその歩みを止めることはないだろう。

第二に、アンカラでの首脳会談は、ヨーロッパの人々がトランプを、言葉通りに受け取るべきでも、真剣に相手にすべきでもない人物だと見なすようになっていることも示した。彼らは、トランプがカメラを意識して振る舞ったり、時折常軌を逸した暴言を吐いたりすること(スペインとの貿易を遮断するという無意味な脅しなど)を理解している。しかし、そうした彼の虚勢を無視しつつ、アメリカへの依存を減らしていくことこそが賢明な対応だ。ポール・クルーグマンの意見に賛成だ。アメリカの同盟諸国は、トランプいついて、誰もが彼の遺言に名前を残しておきたいがために我慢している、老いぼれた金持ちの叔父のように見なすようになっているとクルーグマンは述べている。しかし、ジョンズ・ホプキンス大学SAISヨーロッパ校のナタリー・トッチが『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったように、「トランプの度重なる侮辱と空虚な脅迫は、もはや通用しなくなっている」。アンカラで見られたように、ヨーロッパの指導者たちは今や丁寧にうなずき、トランプが依然として切望する無意味なお世辞を述べ、彼の発言のほとんどを無視し、独自の考えを胸に秘めている。

現時点でヨーロッパ諸国の最大の目標は、十分な防衛力を構築するために必要な時間とアメリカの兵器を確保することにある。また、彼らはアメリカがウクライナを見捨てないことを望んでいる。そうすることでロシアに資金と兵員を消耗させ続け、最終的にはキエフが受け入れ可能な条件で戦争を終わらせたいと考えているからだ。したがって、トランプがウクライナでの「パトリオット」防空ミサイルの生産を許可すると約束したことは歓迎すべきニューズとなった。たとえウクライナがその高度なミサイルを実際に生産できるようになるまでには何年もかかるとしても、これは良いニューズだった。なぜかといえば、単にそれが、トランプが過去に見せていた態度よりもキエフに対して好意的な姿勢を示すものだったからだ。アメリカの核の保証を全面的に信頼するのは難しいとはいえ、トランプがヨーロッパのどこかを守るためにマール・ア・ラーゴを危険に晒すと本気で考える人がいるだろうか?少なくとも友好関係の体裁を保つことは、ある程度の抑止力になり得る。理性的であれば、外国の同盟諸国を守るためだけに核戦争を始める指導者はいないとしても、潜在的な侵略者は、偶発的な事故や誤算によって通常兵器による紛争が核戦争へとエスカレートする可能性を懸念せざるを得ないからだ。核の使用がもたらす甚大な代償を考えれば、「不確実な要素を残す」ような脅しであっても、十分な抑止効果を発揮し得るのである。

まとめると、アンカラでの首脳会談の主な目的は、何事もなく無難にやり過ごすことであった。その目的は達成された。しかし、それをNATOが極めて健全な状態にあることの証拠だと勘違いしてはならない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。彼は、現代世界を理解・展望する上で不可欠な主要概念を解説する5部構成のニューズレター・シリーズ『新しい地政学(The New Geopolitics)』著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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 古村治彦です。

 第二次世界大戦でアメリカは、現在の国連安全保障理事会常任理事国(米英仏中露)で連合国(Allied Powers)を形成し勝利を収めた。その後の冷戦(the Cold War)もソ連を倒して勝利を収めた。しかし、個別的な戦争では良い結果を収めていない。朝鮮戦争は引き分け、ヴェトナム戦争は敗北(撤退)、湾岸戦争は多国籍軍を率いて勝利を収めたが、アフガニスタン戦争やイラク戦争は泥沼の果てに撤退、現在のイラン戦争はイランの反撃(ホルムズ海峡封鎖やドローン攻撃)によって不利な状況に置かれている。アメリカ軍は世界最強であることは誰もが認めているところだ。そのアメリカ軍が戦闘(battle)では勝利を収めることができるが、アメリカとして戦争(war)で勝利を収めることができなのはどうしてか?

 アメリカの国益と戦争の目的がうまく合致していなかった場合に戦争に負けている。簡単に言えば、そこまで必死にならない、必死になれない戦争の場合には勝利を収めることができない。相手は必死だ。そして、各戦闘で負けても、戦争を引き延ばし、アメリカ側に多大の犠牲を強いることで、アメリカ国内に厭戦ムードを生み出し、アメリカが撤退に追い込まれるように仕向けるということになる。アメリカの国益という言葉は非常に曖昧で、使う人の考えが大きく反映される。国益ということを考えると、国家の安全と存続が最低限の内容になると考えられるが、アメリカは地理的に非常に恵まれている。敵対している国家と隣接しておらず、また、大西洋と太平洋に囲まれているのも大きい。国家の安全と存続を守りやすい。

しかし、超大国ということで、世界の平和にも責任があるという主張が出てくると、途端に事態が難しくなる。また、世界を平和に保つために、民主政治体制を拡散することを使命と考える一部エリートたちのために、積極的な海外介入が行われることで、かえって恨みや反感を買うということも起き、それが安全を脅かすということにもなっている。

 問題は、失敗する戦争が繰り返されることだ。どうして、戦闘で勝てても、戦争に勝てないのかということをアメリカのエリートたちが真剣に反省することが何よりも重要だ。

(貼り付けはじめ)

なぜアメリカは戦争に負け続けるのか(Why the United States Keeps Losing Wars

-ワシントンは誤った目的のために誤った戦争を戦ってきた長い歴史がある。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年8月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/08/05/iran-trump-lost-wars-us-military-history-strategy-geopolitics/

georgewbush20030501001

ジョージ・W・ブッシュ米大統領が空母エイブラハム・リンカーン艦上でイラクにおける主要な戦闘作戦の終了を宣言した(2003年5月1日)

この記事を読んでいるあなたがアメリカ人であれば、戦争に負け続けることにうんざりしているかもしれない。私自身もそうだ。「なぜこんなことが繰り返されるのか?」と自問することもあるだろう。これは興味深くも、同時に落胆させられる謎だ。アメリカは何十年にもわたって世界最強の国であり続け、その軍事予算や純粋な軍事力は他国の追随を許さないものだが、近年の戦績は敗北続きだからだ。これには、ドナルド・トランプ政権が掲げた目標を何一つ達成できていないばかりか、イランを戦略的により有利な立場に立たせて終わる可能性が高い、現在のイランとの戦争も含まれる。

敗北した戦争のリストを見てみよう。朝鮮戦争は引き分けでした(これについては後述する)。ヴェトナム戦争は明白な敗北であり、2003年のイラク戦争やアフガニスタンでの「終わりのない戦争(forever war)」も同様だ。1999年のコソヴォ紛争も、決して勝利とは言えない。セルビアは、戦闘開始前に提示された条件よりも有利な条件で終戦を迎えたからだ。1983年の小さな島国グレナダへの侵攻(圧倒的な戦力差があり、戦争と呼ぶのもはばかられるような事案だ)を含めない限り、この数十年間でアメリカが収めた唯一の明白な勝利は、1991年の湾岸戦争だけだ。もちろん、アメリカと同盟諸国が冷戦に「勝利(win)」したことは承知している。しかし、それは例外と言えるでしょう。なぜなら、冷戦はソビエト連邦との直接的な武力衝突を伴わない「戦争(war)」だったからだ。

なぜアメリカはこれほどうまくいかないのか? 資金不足が原因でないことは明らかだ。アメリカの国防予算は巨額であり、連邦議会も求められればいつでも追加予算を承認してきたからだ。火力不足でもない。アメリカは、自国の領土から遠く離れた場所であっても、標的を破壊することにかけては依然として驚異的な能力を発揮するからだ。ドナルド・トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官が、イランとの愚かな戦争で高性能ミサイルの備蓄を浪費してしまったため、その能力は現在いくぶん低下しているかもしれない。しかし、勝利を収められない理由を説明する要因としては不十分だ。アメリカ軍の勇気が足りない訳でもない。アメリカ軍は、しばしば英雄的な行動をもって、自らを危険に晒すことを厭わない姿勢を持ち続けている。そして、あの「負ける」戦争担当長官(secretary of (losing a) war)がどう考えていようとも、アメリカ軍に十分なテストステロンが欠けているからなどでは決してない。

実際のところ、アメリカが戦争に負け続けている真の理由は、戦略的かつ構造的なところにある。アメリカはこれまで、自国のささやかな国益と、外国の社会をアメリカ流に作り変えるといった極めて野心的な目標とを組み合わせた「選択の戦争(war of choice)」を遂行してきた。その結果、敵対勢力はワシントンよりもはるかに強い決意で臨むことになる。彼らにとっては、自らの存続や、少なくとも独立と自律(independence and autonomy)の維持がかかっているからだ。一方、アメリカの場合は、望ましい目標ではあるものの、究極的には「死活的に重要」とまでは言えない目的のために戦っていることがほとんどだ。こうした状況下では、アメリカ以上に敵対勢力の方が、進んで犠牲を払う覚悟を持つのは当然のことと言える。非対称な紛争(asymmetric conflicts)の多くあるいは全てに見られるように、弱者が勝利するのは、戦場での決定的な勝利によってではなく、負けずに、強大国が泥沼(a quagmire)の状況に兵士や資金を投入し続けることの無意味さに気づくのを待つことによってだ。

この単純な構図は、近年の戦争の全てについて多くのことを物語っている。朝鮮半島において、アメリカは重要な国益を守ろうとしていた。もし共産主義勢力が朝鮮半島で完全な勝利を収めれば、アジアにおける冷戦の情勢に重大な影響が及ぶ恐れがあったからだ。しかし中国は、アメリカによる朝鮮半島統一の動きを自国の存亡に関わる脅威と見なし、その事態を阻止するために、最終的に少なくとも20万人の兵士(実際にはそれ以上だった可能性が高い)を犠牲にした。3年に及ぶ激しい戦闘の末、結果は実質的に引き分けに終わった。

ヴェトナムにおいてアメリカが直面したのは、ヴェトナム共産主義運動の激しいナショナリズムだった。それは、かつてフランスの植民地支配を打ち破り、決して根絶やしにできないことが証明されていた勢力だ。アメリカの指導者たちは、共産主義の勝利を阻止することが死活的に重要であると国民に説得することに、一時は成功した(主に「ドミノ倒し(falling dominos)」や「失われた信用(lost credibility)」といった誇張された恐怖を煽った)。しかし最終的には、終わりの見えない戦争に対して国民の反発が高まり、アメリカ軍の撤退を余儀なくさせ、ハノイの最終的な勝利への道を開くことになった。

イラクやアフガニスタンでの悲惨な結末も、同様の経緯をたどったものだった。サダム・フセインは絶えず問題を起こす人物だったが、2003年の時点ではすでに封じ込められており、兵器開発計画も雲散霧消し、911テロ攻撃への関与も皆無だった。したがって、中東地域を親米民主政治体制国家の海に変えようと夢見ていたアメリカのネオコンたちが何と言おうと、フセインを打倒することはアメリカの死活的な国益にはかなっていなかった。サダム・フセインの排除は容易だったが(これは彼が実際には大した脅威ではなかったことを明らかにした)、占領軍はすぐに強力な反乱勢力(a powerful insurgency)に直面することになった。この勢力は外国による支配に反対し、イランやシリアの支援を受けていた。両国とも、ワシントンの次の標的になることだけは避けたかったからだ。こうして、野心的に開始された選択の戦争は、多大な犠牲を伴う大失敗に終わった。似た話は他にもあったのではないか?

アフガニスタンにおいても、無知、理想主義、そして戦略的重要性の低さが相まって、アメリカの戦争努力は最終的に破綻した。ワシントンがオサマ・ビン・ラディンとその庇護者であるタリバンを追撃したことには正当な理由があったが、アフガニスタンを西側式の民主政体国家に変えようと居座り続けたことが、「帝国の墓場(graveyard of empires)」という悪名にふさわしい社会からの激しい抵抗を招いた。結局のところ、反乱勢力にとっては「アメリカを追い出すこと」の方が、アメリカ側にとっての「反乱勢力を打ち負かすこと」(そもそもそれが可能だったとしても)よりも重要だった。そして最終的に、トランプ大統領(当時)とそれに続くジョー・バイデン大統領が、長らく無意味なものとなっていた紛争に終止符を打った。

ワシントンの芳しくない実績の中で、1991年の湾岸戦争は明白な例外と言える。厳密に言えば、この戦争も「選択の戦争(war of choice)」だった。アメリカ自身の安全保障に対する差し迫った脅威に直面することなく、イラクによるクウェート占有を容認することも可能だったからだ。しかし、イラクがクウェートとその石油収入を支配し続ければ、湾岸地域の勢力均衡(the balance of power)が懸念すべき形で変化する恐れがあった。また、ジョージ・HW・ブッシュ政権は、こうした無抵抗のまま行われる侵略を成功させてしまえば、危険な前例を作りかねないと懸念していた。しかし極めて重要なのは、このケースではアメリカの目標がアメリカの国益と完全に合致していたという点だ。アメリカと同盟諸国はイラクをクウェートから排除し、イラクの軍事力を壊滅させ、さらに国連による徹底的な査察を課して兵器開発計画を解体させた。しかし、ブッシュは賢明にも「バグダッドへ進軍(go to Baghdad)」して政権を打倒する道を選ばなかった。そうすることは国連安全保障理事会による承認の範囲を超えるものであり、また、分断され反感を抱く社会を占領・統治することをアメリカに強いることになったからだ。アメリカの目的は国益と合致しており、ブッシュが戦争を迅速に終結させたことから、この戦争は極めて大きな成功を収めたものと正当に評価されている。

しかし、超大国が自国の利益と目標を整合させることは容易ではない。アメリカは圧倒的な力を持ち、客観的に見ても安全が保障されているため、国家の存亡に関わるような極めて重大な利益が脅かされる事態や、第二次世界大戦時にアメリカ国民が払ったような多大な犠牲を正当化できる事態は、そう多くは生じないからだ。同時に、アメリカの力と技術的優位性は、あらゆる場所への介入を容易にし、政策立案者たちに「紛争には容易に勝利できる」と思い込ませる要因にもなっている。まとめると、問題はアメリカが戦争に弱いということではない。問題は、アメリカが往々にして「間違った目的のために間違った戦争(fighting the wrong wars for the wrong objectives)」を行っていることにある。そうした行動は、アメリカの判断に対する同盟諸国の信頼を損ない、中国のような真のライヴァルとの競争をより困難にしている。

「終わりのない戦争」への反対を掲げ、自らを「平和の候補者(peace candidate)」と称した大統領の下でさえ、なぜこうした事態が繰り返されるのか? 理由は数多くがあるが、その1つとして、アメリカの外交政策エリート層が、自らの責任を認めたり過去の過ちから学んだりすることに依然として躊躇していることが挙げられる。この問題を如実に物語っているのが、ロバート・ケーガンが『レスポンシブル・ステイトクラフト』誌のインタヴューで語った内容だ。ケーガンは、トランプがイランとの戦争に踏み切ろうとした動きを公然と批判した点では評価されるべきだが、一貫してアメリカの外交政策における強硬姿勢を支持しており、2003年のイラク戦争を公に強く主張した人物の一人でもあった。イラク戦争が過ちだったかどうかを問われた際、彼は次のように答えた。「それが過ちだったと認めることに、どんな意味があるのか​​分からない。死者が生き返ることもないのだから」。さらに彼は、自身の最大の心残りは、あの戦争によって、彼が好むような「介入主義的な外交政策(interventionist foreign policy)」に対する国民の支持が低下してしまったことだと付け加えた。

外交政策に関わる人々の間で、現時点ではMAGA支持層の多くを含め)、過ちを認め責任を取ることへの消極的な姿勢が蔓延している限り、アメリカ人は失望を味わうことに慣れざるを得ないだろう。

訂正(2026年8月10日):本記事の以前のヴァージョンには写真のキャプションに不正確な日時が含まれていた。写真は2023年ではなく、2003年に撮影された。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争とイラン戦争によって私たちはドローン兵器が有効であることを知った。有効であるというのは「殺傷能力が高い(正確に目標である建物や人間を破壊、殺傷できる)」ということを意味するので使いたくない言葉である。ウクライナは西側諸国からの支援もあり、戦争を継続できている。西側諸国はこの4年以上にわたる大規模戦争で貴重なデータ、実戦でしか得られないデータをウクライナ側から得ることができた。

 拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体』(ビジネス社)で、私はシリコンヴァレーのIT企業、スタートアップ企業が米国防総省やアメリカ軍に深く食い込み、巨額の予算を分捕っていることを紹介した。彼らは、これまでの戦闘機や戦車、ミサイルなどの兵器を製造し、国家(軍隊)に買ってもらうことで巨額の利益を得てきた旧・軍産複合体(主要な軍需産業5社を「プライム」と呼ぶ)とは異なり、ソフトウェアやシステム、そしてドローンを主力製品・主力商品としている。

 戦争は、「精密な大量攻撃の時代(precise mass in war)」になりつつある。最新鋭で高価なミサイルや戦闘機、戦車の時代から、大量のドローンでの一斉攻撃(コンピュータで制御されている)の時代になりつつある。そして、これらの武器の方が安価だということになる。国家の経済力や生産力が軍事力の基盤になるという時代が長く続いたが、それも終わりを迎えつつある。

さらに重要な点について、下記論考の著者ファリード・ザカリアは次のように指摘している。

「1991年の湾岸戦争は、先進技術が戦争をより精密なものにできることを世界に示した。2026年、イランは世界にさらに重大なことを教えている。それは、精密さが大量生産される時代(Precision will now be mass-produced)が到来したということだ。勝利を収めるのは、単に最高性能の兵器を保有する国ではない。少数の精巧で高価な兵器と、膨大な数の安価なドローンを組み合わせられる国こそが勝利を収めるだろう。人間の判断は、やがてコンピュータアルゴリズムに取って代わられるだろう(Human judgment will over time give way to computer algorithms)。これが戦争の未来だ。そして、それは私たちの想像をはるかに超える速さで到来している」

 コンピュータアルゴリズムで攻撃対象を識別するということは、どの人間を攻撃し、命を奪うかをコンピューターが決める時代が来るということだ。ウクライナでは電波障害で人間の操縦ができなくなった段階で、ドローンがAIによって自力で(自律的に)攻撃対象を識別し、攻撃を実施するということが実現している。映画『スターウォーズ』に出てくる、ドロイト兵器(キラーロボット)が近い将来実現するということだ。AIによって人間が選別される時代というのはSFとしては興味深いが、現実として恐怖を掻き立てる未来である。

(貼り付けはじめ)

イランと新たな戦争の計算(Iran and the New Arithmetic of War

-安価な自律型兵器(autonomous weapons)は戦闘の経済性(the economics of combat)を根底から覆しアメリカに重要な教訓を与えている。

ファリード・ザカリア筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/iran-drone-war-lessons-fareed-zakaria/

中東地域における日々の攻撃と報復攻撃のニュースの裏側で、​​戦争は根本的に変化しつつある。テヘランによる報復攻撃の最初の1週間で、ペルシア湾岸諸国への攻撃のうち約71%がドローンによるものだった。アラブ首長国連邦(UAE)だけでも、わずか8日間で1422機のドローンと246発のミサイルが探知されたと報じられている。こうした傾向の多くは、すでにウクライナで垣間見ることができた。しかし、イランにおいては、戦争の未来像が明確に浮かび上がってきた。

外交問題評議会(the Council on Foreign RelationsCFR)のマイケル・ホロウィッツは、「私たちは現在、精密な大量攻撃の時代(precise mass in war)に突入した」と述べている。まさにその通りだ。数十年間、精密戦争(precision warfare)とは、少数のトマホークミサイル、ステルス爆撃機、あるいは戦闘機を意味していた。しかし今や、市販の部品で組み立てられ、群れをなして発射される一方向ドローンを意味するようになった。かつては巨大な工業国が必要としていたものが、はるかに小さな国々によって組み立て、改良され、規模を拡大できるようになっているのだ。

戦争の経済構造は根底から覆されつつある。シャヘド型ドローンは1機あたり約3万5000ドルだ。パトリオット迎撃ミサイルは約400万ドルで、100機以上のドローンが購入できる。これが新たな紛争の計算(the new arithmetic of conflict)だ。攻撃側は数千ドル、防御側は数百万ドルを費やす。そして、たとえ防御が成功したとしても、それは消耗戦(a form of attrition)となる可能性がある。

しかし、この革命はドローンだけにとどまらない。真の核心は、新たな軍事アーキテクチャ(a new military architecture)にある。安価な自律システム(cheap autonomous systems)、人工知能による標的設定(artificial intelligence-assisted targeting)、商用衛星画像(commercial satellite imagery)、強靭な通信(resilient communications)、統合センサー、そしてサイバーツール(integrated sensors and cyber tools)が全て連携して機能する。目的は単に攻撃することではない。時間を圧縮すること(to compress time)、つまり敵が移動、隠蔽、あるいは態勢を立て直すよりも速く、敵を発見し、判断し、攻撃することにある。昨年行われた実験で、アメリカ空軍は、機械が10秒以内に推奨事項を生成し、人間だけのティームの30倍もの選択肢を提示したと発表した。

古い軍事的優位性のモデル(the old model of military supremacy)は、精巧なシステム(exquisite systems)に依存していた。壮大で高価、生産に時間がかかり、失うと大きな痛手となるシステムだ(magnificent, costly, slow to produce, painful to lose)。しかし、それだけではもはや十分ではない。2023年、キャスリーン・ヒックス米国防副長官は、アメリカが敵対国に対抗するために発表されたばかりの国防総省のレプリケーター構想(the Pentagon’s just-unveiled Replicator)について、「小型で、スマートで、安価で、多数存在する(“small, smart, cheap and many”)」システムの必要性を訴えた。明日の戦争に勝利するのは、単一の最高のプラットフォームを持つ側ではないかもしれない。十分な数の優れたプラットフォームを、安価に、迅速に配備し、それらを十分にインテリジェントにネットワーク化できる側かもしれない(t may be the one that can field enough good platforms, cheaply enough, quickly enough, and network them intelligently enough)。少数の優れたものよりも、多数の優れたものの方が勝るだろう(Lots of good stuff will beat small numbers of great stuff)。

アメリカはイランのシャヘド136をモデルにした低コスト攻撃ドローン「ルーカス」を実戦配備した。世界で最も先進的な軍隊が、事実上、制裁対象のならず者政権(a sanctioned rogue regime)から学んでいるのは、戦争の論理(the logic of warfare)が変化したためだ。量そのものが独自の価値を持つようになった特にソフトウェア、自律性、リアルタイム接続と融合した場合はそうなる。ホロウィッツは、精密な大量生産は「機関銃や戦車のように(just like machine guns or tanks)」戦争の常態となるだろうと主張する。

ウクライナはこの新時代の偉大な実験場であり続けている。必要に迫られ、戦時下における迅速な適応モデルを構築してきた。ウクライナの迎撃ドローン「スティング」は1機約2000ドルで、最高時速280キロで飛行し、製造元によると2025年半ば以降3000機以上のシャヘドを撃墜しており、ロイター通信によると月産1万機以上となっている。ウクライナのテストパイロットの一人は、一人称視点ドローンを既に操縦できる者であれば、このドローンの操縦を習得するのに「3~4日」しかかからないと述べている。

そして、ソフトウェア面も重要だ。ウクライナは、同盟諸国がドローンAIを訓練できるよう、戦場データへのアクセスを開放した。これにより、パターン認識能力と標的探知能力が向上する。ミハイロ・フェドロフ国防相は、ウクライナは現在、「数万回の戦闘飛行で収集された数百万枚の注釈付き画像」を含む、「世界に類を見ない独自の戦場データ群」を保有していると述べている。つまり、この戦争で最も価値のある成果は、ハードウェアだけではないかもしれない。データこそが、その真価を発揮する可能性があるのだ。

だからこそ、その影響はウクライナやペルシア湾岸地域にとどまらない。ウクライナ軍最高司令官は、モスクワが現在、シャヘド型ドローンを1日404機生産しており、最終的には1日1000機を目指していると述べている。対照的に、ロッキード・マーティン社は2025年に約600機のパトリオット迎撃ミサイルを生産し、2027年までに2000機まで増産する計画だ。この対比こそが、現状を物語っている。問題はもはや単なる技術の高度化(technological sophistication)ではない。産業規模(industrial scale)、ソフトウェアの統合(software integration)、そして戦場で得られた教訓を大量生産に迅速に反映させるスピード(the speed with which lessons from the battlefield are turned into mass production)こそが、真の課題なのである。

この軍事革命(revolution in military affairs)は、より深い意味合いを数多く含んでいる。ドローンが配備されたことで、戦場はあらゆる場所に広がり、兵士たちは休息を取る暇もなくなる。人間が戦場から遠く離れることで、戦争は構想しやすくなる一方で、膠着状態に陥りやすくなる可能性もある。そして、こうした致命的な兵器が容易に生産できるようになったことで、テロ組織、麻薬カルテル、ギャングなどが、かつては兵器庫を持つ正規軍(organized armies with arsenals)の領域だったような戦争を仕掛けることが可能になるのだ。

1991年の湾岸戦争は、先進技術が戦争をより精密なものにできることを世界に示した。2026年、イランは世界にさらに重大なことを教えている。それは、精密さが大量生産される時代(Precision will now be mass-produced)が到来したということだ。勝利を収めるのは、単に最高性能の兵器を保有する国ではない。少数の精巧で高価な兵器と、膨大な数の安価なドローンを組み合わせられる国こそが勝利を収めるだろう。人間の判断は、やがてコンピュータアルゴリズムに取って代わられるだろう(Human judgment will over time give way to computer algorithms)。これが戦争の未来だ。そして、それは私たちの想像をはるかに超える速さで到来している。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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 古村治彦です。

 国際関係において、「マッドマン(狂人)理論」という考え方がある。これは、ある国の指導者が「狂人」のように常軌を逸した行動を取ると、相手国に思わせることで、譲歩を引き出すということだ。たとえば、核兵器を保有している国の指導者で、この人物が「狂気の人物」という評価が周辺国にあったとすると、「この指導者を怒らせると核兵器による攻撃をするかもしれない」という恐怖が周辺国にあり、譲歩をしてしまうということだ。ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が時に核兵器使用をちらつかせるのはこの「マッドマン理論」をつかっているということになる。そして、現在の世界で、「マッドマン(狂人)」だと思われているのはドナルド・トランプ大統領だ。同盟国であっても平気で高関税をかける、敵対国であれば武力を行使するということを行う。行動の予測ができないということが周囲の不安を掻き立てる。その結果、怖がって、トランプ大統領の言うことを聞く、妥協するということになる。

 しかし、トランプは「狂人」ではない。計算ずくで(合理的に)、行動している。そして、「都合が悪くなれば態度をころっと変えて弱腰になる」ということを周囲に見透かされている。これは「TACOTrump Always Chickens Out)」と呼ばれている。「トランプはいつも弱腰になる」ということだ。中国に対する高関税についても中国が強気な態度に出れば、すぐに引っ込める。2026年2月28日からのイラン戦争についても、「文明を消し去る」というような強気な発言をしていたが、今は譲歩を行いながら、和平交渉の最中である。イラン側からイスラエルのレバノン攻撃が交渉の障害になると言われれば、慌てて、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を怒鳴りつけ、「あんたは狂っている」というようなことを言うほどだ。

 トランプは「弱腰になる」ということは見透かされている。今回のイラン戦争においても、TACOが発揮されている。イラン側がトランプ張りのマッドマンぶりを発揮することで、トランプは怖気づいている。「トランプが狂人ではない」ということになれば、世界各国は必要以上に恐れることはなくなる。そうなれば、アメリカの要求は通りにくくなるということになる。トランプ政権は外交の分野で厳しい状況が続くことになる。

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マッドマン(狂人)の逆襲(The Madman Strikes Back

-リチャード・ニクソンの予測不可能性の力に関する理論(Nixon’s theory on the power of unpredictability)は現実の狂人である敵の存在を想定していなかった。

ダニエル・W・ドレズナー筆

2026年5月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/28/trump-madman-theory-iran/

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ドナルド・トランプ米大統領が2期目に選出された際、多くの外交専門家は、彼が強圧的な交渉手段(a tool of coercive bargaining)として「狂人理論(the madman theory)」を用いる可能​​性が高いと指摘した。リチャード・ニクソン米大統領が提唱したこの理論は、まるで狂気じみた行動に出そうな指導者は、相手国を抑止し、本来なら譲歩しないであろう譲歩を引き出す可能性が高いというものだ(a leader who behaves as if he might do something crazy has a better chance of deterring and coercing actors into making concessions that they otherwise would not make)。言い換えれば、核兵器使用を厭わないほど常軌を逸した指導者の方が、そのような脅し文句を使わないほどに理性的な指導者よりも、各国は譲歩しやすいということだ(countries might be willing to acquiesce more to a leader insane enough to use nuclear weapons than a leader too rational to try such a bluff)。

トランプは大統領の1期目、この「狂人理論」を強く信奉していた。2024年の大統領選挙でもこの主張を繰り返し、『ウォールストリート・ジャーナル』紙に対し、中国の習近平国家主席は「私を尊敬しており、私がとんでもなく狂っていることを知っている(respects me and he knows I’m fucking crazy)」ため、中国に対して武力を行使する必要は決してないと語った。政権移行期において、歴史家のナイオール・ファーガソンは、トランプが型破りで予測不可能な人物(wild and unpredictable)として振る舞うため、アメリカのライヴァル諸国は彼に挑むことを躊躇するだろうと主張した。

昨年、まさにこの紙面で、私は狂人理論を検証し、その理論は一般的にも、そして特にトランプに関しては不十分であると結論づけた。実際、国際関係論の研究者にとって、「狂人理論」はホラー映画に登場する狂人キャラクターのようなものだ。ついに死んだと思われた途端、墓から蘇り、再び物語に登場してくる。この理論に説得力がないとする学術論文が数多く発表されているにもかかわらず、トランプがこの理論を用いている可能性、そしてそれが突飛な発想ゆえに効果を発揮するかもしれないという可能性は、メディアによって繰り返し取り上げられている。

例えば、アメリカとイランが4月に停戦に合意した際、トランプ大統領がイランを「石器時代に逆戻りさせる」爆撃という脅し(the threat of bombing Iran “back to the Stone Ages”)をしながら設定した期限の直前だったが、『ニューヨーク・タイムズ』紙のデビッド・サンガー記者は当初これを「土壇場での戦術的勝利(a down-to-the-wire tactical victory)」と評し、「トランプがレトリックを天文学的なレベルまでエスカレートさせる戦術は彼が何週間も探し求めていた出口を見つけるのに確かに役立った。この成功だけでも、彼がニューヨークの不動産業界で学んだ戦術古い慣習を無視し、最大限の要求をする(ignore old conventions, make maximalist demandsが地政学(geopolitics)でも通用するという信念を強めるかもしれない」と書いた。

もちろん、サンガーは停戦によってホルムズ海峡の航路が開かれると信じてこれらの言葉を書いた。しかし、それは誤りであることが明らかになった。狂人理論が実際に有効であるという証拠と同様に。実際、トランプの大統領2期目のこれまでの実績を検証すると、彼の狂人戦略は概ね失敗に終わったと結論づけざるを得ない。さらに悪いことに、狂人を演じようとした彼の試みは、この理論を完全に覆す決定的な要因、つまり、敵対国に本物の狂人を生み出してしまったのかもしれない(an actual madman for an adversary)。

狂人理論の問題点は今やよく知られている。概念的には、狂気を装うことで挑発的な脅迫の信憑性(the credibility of provocative threats)は高まるかもしれないが、同時に、その狂人が緊張を減らすための合意を履行するという信憑性(the credibility that the madman will follow through on any agreement to reduce tensions)は低下する。さらに、自分が狂人のように振る舞っていると公言することは、戦略そのものを弱体化させる。そしてトランプは、こうしたことを公言することを好むのだ。

こうした事情から、トランプが狂人を演じようとする試みが成功しそうになかったのは、彼特有の理由によるものだ。まず、1期目の試みは概ね失敗に終わった。そして、彼の注意力散漫さゆえに、極端な脅迫を実行に移すような行動をとることが難しくなっている。

それでは、この状況は過去16カ月間でどのように展開してきたのだろうか? トランプの2期目の外交政策は、確かに少々常軌を逸していると言えるだろう。米国際開発庁(the U.S. Agency for International DevelopmentUSAID)の解体、包括的な関税の導入、グリーンランドとカナダの併合への野望、そして中東地域、ラテンアメリカ、そしてアメリカ国内の都市における数々の武力行使などがその例だ。専門家たちは、2期目のアメリカ外交政策はトランプ独自の嗜好の延長線上にあることを痛感している。これは、1期目には外交政策閣僚とトランプの意見が食い違うことが多かったのとは対照的だ。

それでも、トランプが実施した数々の狂人の策略(madman gambits)の成果は乏しい。確かに、トランプの威嚇が効果を発揮した例もある。例えば、パナマに対する脅迫は、中国による港湾施設の支配に関するパナマの姿勢を変えさせた。また、トランプの過激なレトリックは、コロンビアなどの国々から象徴的な譲歩を引き出した。関税措置は、その有効性が議論の的となっている経済安全保障協定をいくつか生み出した。ヴェネズエラに対するトランプの脅迫は、ニコラス・マドゥロ大統領を屈服させることはなかったが、「南部の槍作戦(Operation Southern Spear)」は事実上ニコラス・マドゥロ政権を崩壊させ、より従順な指導者が後任となることを可能にした。

しかしながら、ほとんどの場合、譲歩したり方針転換したりしたのはトランプ自身である。大統領は、2025年4月に発表した関税措置を、脅迫からわずか1週間足らずで一時停止した。その大きな理由の1つは、金融市場の変動(financial market gyrations)だった。トランプは中国との貿易戦争でも譲歩し、中国にNVIDIAの最高級チップへのアクセスを提供するという譲歩まで見せた。グリーンランド併合を公言していたにもかかわらず、市場が再び動揺すると、トランプは方針を転換した。

そのパターンは容易に見て取れるようになった。トランプは、より小さい国や弱い国を相手にする際には、徹底的に狂気じみた振る舞いを厭わない。一方で、より強力な国を相手にすると、たちまち冷静な交渉姿勢に転じる。これは、市場が彼の外交・貿易政策に否定的に反応した際に特に顕著だった。このパターンは、中国の習近平国家主席との最近の首脳会談でも説明がつく。この会談では実質的な合意は得られず、台湾問題でトランプが譲歩する意思を示した。

実際、このパターンはあまりにも早く明確になったため、2期目の就任からわずか数カ月後、『フィナンシャル・タイムズ』紙のコラムニストはこれを「TACO原則」(トランプはいつも弱腰になる[Trump Always Chickens Out])と名付けた。ヨーロッパ外交評議会のジェレミー・シャピロは、「トランプは脅迫と武力を行使するが、それはまるで校庭のいじめっ子のようだ。体格が大きく外見上は強そうに見えるが、実際には、少しでも公平な戦いになりそうな状況では武力行使を恐れている」と結論づけた。

トランプが、これほど予測可能で交渉力に乏しいという評判を得てしまったことが、彼が「狂人」を演じようとする試みを困難にしている。トランプは、過激な脅迫を実行に移せなかったために、「狂人」戦略を真の譲歩へと結びつけるのに苦労してきた。こうした評判は、戦略の実行を難しくする。なぜなら、常軌を逸した脅迫の信憑性が損なわれるからだ。

しかしながら、ヴェネズエラ侵攻とイラン戦争が示すように、トランプ大統領は必ずしも尻込みする訳ではない。実際、マドゥロ政権に対するハイリスク作戦である「南部の槍作戦」の戦術的成功は、トランプ大統領の脅威の信憑性を高めたと言えるだろう。マルコ・ルビオ国務長官は作戦直後の記者会見で、「トランプ大統領が何かをすると言ったり、問題に対処すると言ったりするときは、本気だ(When he [Trump] tells you that he’s going to do something, when he tells you he’s going to address a problem, he means it)」と強調した。

ヴェネズエラ侵攻作戦直後にトランプ大統領のグリーンランドへの関心が再燃し、イランに対する脅威もエスカレートしたことは、決して偶然ではない。そして、マドゥロ政権侵攻後、他の国々もトランプ大統領の脅威をより真剣に受け止めるようになった。デンマークはグリーンランドで積極的な防衛措置を実施した。複数の専門家は、トランプ大統領がイランに対して核兵器を使用する可能性さえあると指摘した。

注目すべきは、デンマークもイランもトランプ大統領の脅迫に屈しなかったことだ。もし屈服していたら、狂人理論は成功したと言えるだろう。しかし実際には、イランの「壮大な怒り作戦(Operation Epic Fury)」への対応は、狂人理論の大きな欠陥を露呈している。つまり、狂人のように振る舞う意思のある相手国に対してはこの理論は通用しないということだ(It does not work against another state willing to act like a madman)。

アメリカ・イスラエル共同攻撃への対応として、イランは複数の側面で戦争をエスカレートさせた。イランのロケット弾とドローンはペルシャ湾岸諸国の標的を攻撃し、その多くは民間インフラを狙ったものだった。さらに、ホルムズ海峡を商船の航行に対して閉鎖することを決定したのもイランであり、これにより世界経済に深刻な打撃を与え、グローバルサウス諸国におけるイランへの同情を冷え込ませた。通常、エスカレーションにおいて優位に立っていると考えるトランプ大統領は、さらにエスカレーションを厭わない敵に直面した。神権政治体制(the theocratic regime)の比較的極端な政治的嗜好と経済的苦痛を容認する姿勢は、イランを狂人による奇策の標的とするには特に困難なものにしている。

イランの反応は、トランプが「狂人理論」を適用することの問題点を他にも露呈させた。テヘランとの交渉は様々な理由で難航しているが、おそらく最大の理由は、交渉中に二度も爆撃を受けたことで、イランの指導者たちがトランプ政権を信用していないことだろう。狂人のように振る舞うことで威圧はもっともらしく聞こえるかもしれないが、同時に紛争解決のコストも増大させる。

トランプの2期目の初めに、私は「トランプが自分が本当に狂人だと誰にも納得させられないなら、それを証明する唯一の方法は、最も突飛な脅迫を実行に移すことだろう。もしかしたらそれでうまくいくかもしれないが、紛争が制御不能に陥る可能性もある」と警告した。イラン紛争が当初の予想よりも長引くにつれ、避けられない結論は、トランプもかつてのニクソンと同様に、「狂人理論」は、理論上はもっともらしく聞こえるが、実際にはそうではないことを学んでいるということだ。

※ダニエル・W・ドレズナー:タフツ大学フレッチャー記念大学院学術担当学院長・国際政治卓越教授。ニューズレター「ドレスナーズ・ワールド」の著者。Xアカウント:@dandrezner

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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領が共和党のビル・キャシディ連邦上院議員(ルイジアナ州選出)と激しい言い争いになったことについてこのブログで昨日書いた。キャシディ議員は、イラン戦争停戦決議に共和党から賛成に回った4名の上院議員のうちの1人だ。キャシディ議員はトランプ大統領に対して長年にわたり批判的であり、2021年の弾劾裁判で、有罪に賛成票を投じており、トランプとは「犬猿の仲」だった。

 キャシディ議員は今年11月の中間選挙で改選となるということで、共和党予備選挙に立候補していた。トランプ大統領はルイジアナ州選出のジュリア・レットロー連邦下院議員に上院議員選挙への立候補を促し、支持を表明した。これは同時に現職のキャシディ議員を支持しないということになった。そして、ルイジアナ州選出連邦所運議員選挙の共和党予備選挙が実施され、レットロー議員が45%、ジョン・フレミング州財務長官が28%、キャシディ議員が25%の得票率となり、現職のキャシディ議員は惨敗した。共和党優勢州でのトランプ大統領の影響力のすさまじさを改めて見せつける結果となった。

 トランプ大統領はイラン戦争の失敗もあり、現在、支持率が低迷している。そのあおりを受けて、11月の中間選挙での共和党の苦戦が伝えられている。共和党の候補者になるためにはトランプ大統領の支持が必要であるが、本選挙(民主党の候補者と戦う)では、トランプの支持が足枷になる可能性もある。それでも最初から共和党が勝利を確実にしている共和党優勢州ではトランプ支持が絶大な効果を発揮する。

 下記論考では、大統領の影響力について、トランプ大統領と、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領を比較している。ルーズヴェルト大統領は社会主義に近い、リベラルな政策を実施したことで知られているが、そのために、いわゆるニューディール連合を形成しようとした。リベラルな議員たちを多く当選させようとした。しかし、民主党の地盤は南部である。南部には強固な保守イデオロギーを持つ議員たちが多くいた。ルーズヴェルト大統領は彼らをリベラル派に取り換えようと、トランプと同じような動きをしたが、ルーズヴェルト大統領はトランプ大統領ほどにはうまくいかなかった。有権者が地方政治への介入を嫌ったということが理由に挙げられているようだ。トランプ大統領は、「党内粛清力」だけならば、歴代トップ3の評価になるルーズヴェルト大統領を上回るということになる。

 ルーズヴェルト大統領の考えはその後、民主党に引き継がれ、良い評価、悪い評価それぞれあるが、リベラル政党となった。2016年にドナルド・トランプが大統領に当選し、共和党は金持ちのための政党から変質しつつある。これまで民主党を組合関連で応援していた白人労働者たちが支持するようになった。また、特に共和党優勢州で強固な支持基盤もある。これからトランプの「遺産」がどのようになるかということが検証され、評価されていくことになるだろう。

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ドナルド・トランプはフランクリン・D・ルーズヴェルトができなかったことをやっている(Trump Is Doing What FDR Could Not

-しかし、トランプ大統領による党内粛清の成功は長期的には共和党にとって大きな代償となる可能性がある。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2026年6月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/08/trump-republican-party-purge-fdr/

ドナルド・トランプ大統領は苦闘している。支持率は過去最低を記録し、2024年の大統領選挙で支持基盤を構築した主要有権者層、特にラテン系有権者からの支持も急激に低下している。彼は、生活費の高騰や人工知能が中流階級の雇用に及ぼす脅威など、勤労しているアメリカ人にとって最も重要な問題に目を向けようとしない、あるいは向けることができないでいる。あらゆる指標において、トランプ政権は、来る中間選挙で共和党が連邦上院を含む連邦議会の過半数を維持できる見込みを著しく低下させている。共和党にとって、大統領以上に大きな問題となっているものはない。彼らを救う唯一の道は、選挙区の再編成、投票制限、そして都市部への連邦軍の駐留といった手段が、民主的な意思の自然な流れを覆すことだろう。

しかし、トランプは依然として極めて強力な党指導者である。彼は共和党内で確固たる支持基盤を維持し、政敵に閥を与える能力を繰り返し示してきた。近年の予備選挙では、彼に反抗したと彼が考える複数の共和党現職連邦議員を落選させることで、その強さを改めて示した。

インディアナ州では、トランプの州議会選挙への介入が、選挙区再編要求に応じなかった共和党現職議員の落選につながった。ケンタッキー州では、トランプは反対運動を組織し、トーマス・マッシー連邦下院議員の予備選敗北を確実にした。ルイジアナ州では、ビル・キャシディ連邦上院議員も敗北した。キャシディは医師であり、ロバート・F・ケネディ・ジュニアが医療承認済みのワクチンを執拗に攻撃していたにもかかわらず、ケネディを保健福祉長官の承認に賛成した。

テキサス州の共和党連邦上院予備選挙では、トランプの支持が、スキャンダルにまみれたケン・パクストン州司法長官の勝利を確実なものにした。多くの共和党員は、民主党のジェイムズ・タラリコに勝つ可能性はコーニンの方がはるかに高いと考えていたにもかかわらず、このような結果になった。

言い換えるならば、トランプは党内粛清(a primary purge)を敢行し、成功した。彼は党をしっかりと掌握しており、政治的リスクを顧みず、党を思いのままに操れることを証明した。共和党にとってのパラドックスは、党の利益を顧みず、党の政治的イメージを自らも引きずり下ろしている党の指導者に、依然として依存せざるを得ないという点にある。

トランプが党をいかに支配しているかを理解するには、1938年の中間選挙を振り返ることが有効だ。当時、アメリカ史上最も影響力のある大統領の1人であるフランクリン・D・ルーズヴェルトは、民主党の方向性を統一することに失敗した。ルーズヴェルトは、ニューディール政策を阻害する保守的な南部出身議員たち(conservative Southern legislators)を民主党から排除しようとしたが、結果的に敗北を喫し、まさに阻止しようとしていた勢力を勢いづかせてしまった。

ルーズヴェルトが、自身の政策を妨害する党内の南部出身連邦議員たちに立ち向かうことを決意した時、2期目の任期中だった。1936年以降、ルーズヴェルトは勢いに乗っていた。共和党のアルフ・ランドンを圧倒的な勝利で破り(連邦下院で334対88、上院で77対16の多数派)、ニューディール連合(New Deal coalition)を確固たるものにし、連邦政府を大幅に拡大する一連の革新的な法案を連邦議会と協力して可決させた。

しかし、こうした立法実績を築くにあたり、ルーズヴェルトは民主党内の深い分裂に常に対処しなければならなかった。民主党は扱いにくい連合体(an unwieldy coalition)だった。社会保障ネットの整備、産業別労働組合との連携、経済の行き過ぎた行為の規制を政府に求める北部リベラル派(Northern Liberals)、人種関係への干渉を防ぐためにこれらのプログラムの運営を自分たちで管理できる限り連邦政府の支援を受け入れる南部民主党員(Southern Democrats)、20世紀初頭に北部の大都市に移住してきた労働者階級や少数派移民、知識人や進歩主義者、そしてリンカーンの党から離れ始めていた黒人有権者など、様々な勢力が入り混じっていた。

南部民主党員は、1936年の勝利においてこれらの派閥が果たした影響力に動揺したものの、連邦下院と連邦上院の主要委員会を多数支配していたため、党内で不均衡な権力を握っていた。彼らはニューディール政策の多くを支持していた。貧しい白人農業コミュニティは、連邦政府の支援を最も必要とする地域の1つだったからだ。しかし、連邦政府が労働力を管理することや、地域における労働組合の結成を容認するような政策には断固として反対した。例えば、家事労働者や農業労働者が当初社会保障制度から除外されたのは、これが大きな理由の1つだった。

南部の白人民主党員は、大統領とその政策に対してますます反対の姿勢を強めていった。1937年、彼らはルーズヴェルト大統領がニューディール政策に比較的寛容な判事を最高裁判事に加えることで最高裁判所を拡大しようとする、いわゆる「裁判所詰め込み計画(court-packing plan)」に最も強く反対したグループの1つだった。産業別組合会議(the Congress of Industrial OrganizationsCIO)が南部労働者の組織化に本格的に取り組み、民主党指導部が南部の有力候補であるミシシッピ州のパット・ハリソンではなく、ケンタッキー州のアルベン・バークリーを連邦上院多数党(民主党)院内総務に選出したことで、緊張はさらに高まった。ホワイトハウスがバークリー支持を議員たちに圧力をかけた結果、ハリソンはわずか1票差で敗れた。「私たちはアメリカを巡る大いなる戦いに身を投じている。境界線は引かれた」とノースカロライナ州選出のジョサイア・ベイリー連邦上院議員は警告した。「アメリカの社会主義勢力は社会党だけに留まらない」。ルーズヴェルト大統領はヘンリー・モーゲンソー財務長官に対し、南部派が「保守民主党(Conservative Democratic Party)」の結成を目指していると伝えた。モーゲンソー長官もこれに同意し、「戦いと粛清が必要だ(There has got to be a fight and there has got to be a purge)」と述べた。

ルーズヴェルト大統領は自ら事態の解決に乗り出すことを決意した。大統領は通常、党の予備選挙には介入しないものだが、ルーズヴェルトは党が右傾化するのを防ぐために必要だと考え、介入を選んだ。1938年6月の炉辺談話(a fireside chat)で、彼はアメリカ国民に対し、多くの民主党予備選挙は「一般的にリベラルと保守に分類される2つの思想潮流(between two schools of thought, generally classified as liberal and conservative)」の衝突を中心に展開されるだろうと語った。「民主党の党首(head of the Democratic Party)」として、ルーズヴェルトは「1936年の民主党綱領に示された、明確にリベラルな原則宣言」を擁護することが自分の責任だと説明した。

ルーズヴェルトは、ジョージア州のウォルター・ジョージ、サウスカロライナ州のエリソン・“コットン・エド”・スミス、メリーランド州のミラード・タイディングス、アイオワ州のガイ・ジレットなどの民主党連邦議員に加え、連邦下院規則委員長を務めていたニューヨーク州のジョン・オコナーという、問題のある北部民主党議員を破るために選挙運動を展開した。彼は全ての保守派を攻撃した訳ではないが、数人の保守派に勝利することで、党内の保守派に対し、彼にもっと従わなければならないという強いメッセージを送ることができた。これは、彼が最高裁判事の増員をちらつかせた後、最高裁がより彼に同情的な判決を下すようになったのと同様の効果を狙ったものだった。

大統領は遠慮なく行動した。ジョージア州バーンズビルで行われた、新たな農村電化計画の開始を祝う式典で、FDRはジョージの実績を公然と批判し、もし可能であればジョージの対立候補に投票すると述べた。この式典には、5万人以上がゴードン・インスティテュート・スタジアムに詰めかけた。ジョージが怒りを隠そうと前を見つめる中、ルーズヴェルトはこう言い放った。「私の旧友であり、この州選出の連邦上院議員である彼は、私の判断では、リベラルな思想の持ち主とは到底言えない。したがって、彼が長年連邦上院議員を務めてきたという主張は、全く説得力に欠ける。」

彼は他のいくつかの州でも同様の発言をした。サウスカロライナ州への列車旅行の途中、ルーズヴェルトは「1日50セントで生活できる家族や人はいないと思う」と述べた。これは、ルーズヴェルトの最低賃金法案に反対し、その立場を説明する際に「サウスカロライナ州では1日50セントで生活できる」と述べていたスミスへの暗黙の批判だった。

ミシガン州選出の共和党連邦上院議員アーサー・ヴァンデンバーグは、「アメリカに起こったこの『粛清(purge)』は、極めて不吉な意味合いを持つ」と警告した。「政治指導者が同情的な支持者を求めるのはよくあることだが、このいまだ自由な共和国の大統領が、立憲政府の立法府と司法府を支配しようとするのは全く別の問題となる」。

スーザン・ダン著『ルーズヴェルトの粛清(Roosevelt’s Purge)』によれば、この一連の取り組みは全体的に拙劣だった。ルーズヴェルトは一貫性のない計画で場当たり的な戦いを展開し、この取り組みを監督した「粛清委員会(elimination committee)」も機能不全に陥った。さらにダンは、アメリカ国民は地方選挙への大統領の介入を望んでいなかったと指摘している。

この取り組みはルーズヴェルトにとって良い結果にはならず、彼は大統領権限の限界を痛感することになった。ルーズヴェルトが選挙戦で対抗した候補者のうち4人が当選した。大統領が唯一成功を収めたのは、ニューヨーク州のオコーナーに対する選挙戦だけだった。

オコーナーの失脚は、ルーズヴェルトが大敗したというメディアの報道を覆すには至らなかった。南部民主党は中間選挙で非常に好成績を収め、共和党も連邦下院(81議席)と連邦上院(8議席)の両方で議席を大幅に増やした。その後、保守派連合が出現した。南部民主党員と共和党員によるこの同盟は、ルーズヴェルトの国内政策への野望、そしてより広範なリベラルに対する防波堤として、1960年代を通じて機能することになる。

​​ルーズヴェルトは自身の決断を擁護し続けた。1941年の『コリアーズ』誌のインタヴューで、ルーズヴェルトは「私が最も関心を寄せていたのは、民主党と共和党が互いに単なるつまらない政党にならないようにすることだった。私は、民主党がアメリカ合衆国において、自由主義的で、未来志向的で、進歩的な政党であり続けることを何よりも望んでいた」と述べている。

トランプは党指導者として、はるかに手強い手腕を発揮してきた。もちろん、彼の成功の多くは、1970年代以降、民主、共和両党が内部的に均質化してきたという事実に基づいている。ルーズヴェルトにとって厄介な存在だった南部民主党員は、1990年代以降、大部分が共和党員となった。今日、両党には1930年代のような内部分裂は存在しない。さらに、大統領が予備選挙に影響を与えるために利用できる手段、例えば政治活動委員会(PAC)、ソーシャルメディア、高度なコンピューターデータ分析などは、88年前には存在しなかった。

しかし皮肉なことに、1938年の敗北にもかかわらず、ルーズヴェルトは最終的に、より強固な民主党連合の構築に貢献したのである。時が経つにつれ、党内のリベラル派は勢力を増し、1960年代には、投票権法の成立や1965年のメディケア創設など、いくつかの主要な問題において南部の抵抗を打ち破ることに成功した。ルーズヴェルトはアメリカ政治において深く尊敬される人物であり続けたため、民主党は彼とその遺産との結びつきによって、数十年にわたり党の地位を高めてきた。

一方、トランプは、極めて不人気な指導者と政策に党を縛り付けてしまった。共和党は今や、個々の連邦議員がトランプ大統領の支配から容易に抜け出すことができない状況に陥っている。もし抜け出そうとすれば、次の選挙での敗北はほぼ確実となる(ワイオミング州のリズ・チェイニーの例を見て欲しい)。トランプは共和党の長期的な将来をほとんど顧みず、短期的にも長期的にも党に害を及ぼすような行動を厭わない。

今日に至るまで多くの民主党員がルーズヴェルトの遺産を誇り高く主張しているのに対し、共和党員が数十年後もトランプを同じように称えることができるかどうかは全く不透明である。むしろ、彼らは、党内での地位を利用して意思決定を行い、内部抗争に巻き込まれた、並外れた影響力を持つ人物を振り返ることになるのかもしれない。その人物は、共和党が長期的なヴィジョンを持ち、広範な共和党連合の構築を目指し、永続的な足跡を残す法案に注力する指導者に運命を委ねていれば築けたであろう潜在的な優位性を損なった。ルーズヴェルトの直感は、今なお絶大な人気を誇る政策を生み出し、民主党が支持基盤を頼りにできる理由の1つとなっている。数年後、共和党も同じことをするだろうか?

※ジュリアン・E・ゼリザー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。プリンストン大学歴史学・公共問題担当教授。ニュースを多角的に捉えるニュースレター「ザ・ロング・ヴュー」の著者。彼が編集した新刊『ジョセフ・R・バイデン・ジュニア大統領:初の歴史的評価(The Presidency of Joseph R. Biden Jr.: A First Historical Assessment)』は、プリンストン大学出版局から47日に刊行された。Xアカウント:@julianzelizer

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2026年2月28日にアメリカとイスラエルによる大規模攻撃によって開始されたイラン戦争は、4月に停戦合意が結ばれ、その後は散発的に攻撃が行われているが、大規模な戦闘状態にはなっていない。ホルムズ海峡をイラン側、アメリカ側双方がコントロールするべく封鎖し、お互いの許可がない船舶に対しては攻撃が実施されている。石油価格の高騰や物資不足は世界規模で発生している。そうした中で、和平に関する「覚書(Memorandum of UnderstandingMOU)」への署名が早期に行われると報道されている。

 交渉の最大の焦点はホルムズ海峡の再開だ。イラン側は通行料徴収を継続したいが、アメリカ側は自由な航行を確保したいということで折り合いがつかなかった。イランとしてはホルムズ海峡の通糊料徴収を行いたい意向で、アメリカ側はそれに妥協するかどうかだ。アメリカ自体は中東地域からの石油に依存していないが、西側諸国は中東からの石油に依存していることもあり、ここで譲歩できる稼働は不透明だ。しかし、60日間の交渉期間でイラン側には一時的に制裁が解除されることになっている。そして、復興資金や即時現金給付がイラン側に支払われるということになっている。これが実質的な通行料の代替になる可能性とされ、合意に至る可能性もある。

 イランの核開発については、イラン国内で高濃度ウランの希釈を行い、その後に国外に運び出すということになっているようだ。トランプ大統領は現在イラン国内にあるウランに関してはイラン国内にとどめておくことに同意しており、イラン国内での処理で同意している。イランは繰り返し、核兵器開発は行わないとしており、核開発とウランに関しては合意に障害はないように思われる。

 イランとの合意内容について、アメリカ国内の対イラン強硬派は反発を強めている。確かに、彼らの視点(イランは武力で打倒すべき対象だ)からすれば、大幅な譲歩であり、実質的には敗北に近い。イランの体制を保証するような内容になることは、対イラン強硬派にとって受け入れがたいものとなるし、そもそもがイランと交渉をして、取引を行うことが許せないということになる。対イラン強硬派はトランプ大統領を支持してきた人々である。彼らからの反発はトランプ大統領にとっては痛手であるが、痛撃というほどのことはない。アメリカ国民の過半数がイラン戦争に反対している中で、イラン戦争終結に向けた動きを進めているのは国民の声に従っているということになる。

 イスラエルの存在も交渉にとっては難しい存在である。イラン側はイスラエルのレバノン攻撃停止を交渉の条件としている。トランプ大統領はイスラエルの動きに激怒し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相を怒鳴りつけたということはすでにご紹介した。ヴァンス副大統領も3月の時点でネタニヤフ首相を電話会談で厳しく批判した。ネタニヤフ首相はレバノンへの攻撃を一時的に停止したが、レバノンの新イランのシーア派組織ヒズボラ解体を目指し、攻撃を続けることになるだろう。そうなれば、イラン側としては、「停戦条件違反」ということになり、合意からの離脱を行い、ホルムズ海峡封鎖を実施することになるだろう。アメリカとしてはイスラエルを止めたいところだが、このブログでも紹介している通り、イスラエルはアメリカの力で止めるには大きくなり過ぎた。

 今回の「覚書(Memorandum of UnderstandingMOU)」という形式は、合意(Agreement)からは一段落ちることになる。「この点は合意しました。この点は双方に相違点があることを理解し、明記します」という形式で、相違点についてはこれから交渉を続けることに合意するというものだ。法的拘束力がどうしても弱い。また、現在残っている相違点は、数カ月間の交渉でも合意に至らなかった「難所」である。完全な合意に向けては困難が待ち構えている。

(貼り付けはじめ)

詳細が明らかになりつつあるイランとの合意に対して批判が強まっている;知っておくべき5つのポイント(Knives come out for emerging Iran deal: 5 things to know

コリン・メイン、マロリー・ウィルソン筆

2026年6月12日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/homenews/administration/5921933-us-iran-agreement-details/

ドナルド・トランプ大統領は木曜日、ワシントンとテヘランの間で早ければ今週末にも署名される可能性があると述べた合意の詳細が明らかになるにつれ、対イラン強硬派がすでに警戒の目を向けている。

ワシントンの強硬な反イラン系シンクタンクである民主政治体制防衛財団(the Foundation for Defense of DemocraciesFDD)に所属する元財務省高官ミアド・マレキは、「イランとのいかなる合意も、交渉力が喪失すること(the leverage is out the window)意味する」と、ソーシャルプラットフォーム「X」への投稿の中で述べた。

トランプの他の著名な支持者で、戦争を支持してきたリンジー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)、FOXニューズの司会者マーク・レヴィン、『ワシントン・ポスト』紙のコラムニストでるマーク・ティーセンといった人々は、報道された内容に懸念を表明しつつ、より詳細な説明を求めている。

トランプ大統領は木曜日の朝、14項目からなる覚書を詳述したイランメディアの報道を否定した。

「イランのメディアが報じているいわゆる合意は虚偽(fake)だとトランプ大統領から聞いて私は大変喜んでいる。イラン側が述べている合意はひどいものになるだろうから(大統領がそれを否定してくれて)」とグラハムはXに投稿した。

これまでのところ、渡地たちが把握している合意内容は以下の通りだ。

(1)核兵器に関する約束は依然として曖昧だ(Nuclear commitments remain vague

金曜日、あるアメリカ政府高官は、合意に基づき、イランの高濃縮ウランは廃棄され、イランは核兵器を保有しないという長期的な約束をする可能性があると述べた。

イランは以前から核兵器開発を目指さないと表明しており、バラク・オバマ政権時代の合意でもまさにその約束をしていたが、トランプ大統領は1期目にこの合意から離脱した。

より重要なのは、イランが合意に基づきどのような行動を約束するかである。

トランプ大統領は、イランが兵器となるウランの備蓄を引き渡すことは交渉におけるレッドライン(最低ライン)だと述べているが、イランは今のところこれを拒否している。

妥協案となるであろうアイディアとしては、イラン国内で核物質を希釈、つまり「ダウン・ブレンディング(down-blending)」して、核兵器に使用できないようにすることだ。

しかし、トランプ大統領は木曜日、当面は地下に核物質を放置しておくことにも異論はないと示唆した。

トランプ大統領は大統領執務室で記者団から核物質に関する確約を得たのかという質問をされた。これ対して、「山の下に埋まっているから、誰も近づくことはできない」と答えた。

トランプ大統領は以前、昨年夏のアメリカとイスラエルによる空爆で激しい攻撃を受けた地下核施設からイランが核物質を回収しないよう、アメリカはイランを監視していると述べていた。

(2)制裁緩和に関する混乱したシグナル(Mixed signals on sanctions relief

複数のアメリカ政府当局者は、イランが特定の措置を履行するまで、資産凍結は解除されず、資金も受け取れないと述べている。

算定合意に関して、「イランが履行するまで、資金は一切解放されない」とあるアメリカ政府高官は木曜日に「ニューズネーション」に対し語った。

しかしながら、『アクシオス』誌によると、この合意は、現在進行中の交渉を待つ間、イランの石油輸出に対するアメリカの制裁を60日間免除するという内容が入っている。

これは、ホルムズ海峡におけるアメリカの封鎖によって麻痺状態に陥っているイランのエネルギー市場にとって極めて重要な経済的生命線(economic lifeline)となるだろう。

マレキは、60日後に制裁を再発動することは困難であり、アメリカは「60日間の猶予期間が失敗に終われば、外交的影響力が低下し、制裁執行姿勢も一時的に弱まる」と警告した。

イラン国営メディアは、この合意によってイランは復興資金(reconstruction money)として3000億ドル、さらに240億ドルの即時現金給付(an immediate cash)を受けることになると報じた。

トランプ大統領は木曜日、トゥルース・ソーシャルでこれらの報道を真っ向から否定したが、どの部分が事実と異なるのかは明言しなかった。

(3)ホルムズ海峡が再開される(Strait of Hormuz reopens

いかなる合意も、戦争と不安定な停戦期間中にほぼ閉鎖されていた重要なエネルギー回廊(the key energy corridor)であるホルムズ海峡の船舶航行の再開を双方が認めることを前提とするのはほぼ間違いないだろう。

『アクシオス』誌によると、現在の合意案では、イランは30日以内に通行料なしでホルムズ海峡を完全に再開する。その見返りとして、アメリカはイランの港を出入りする船舶に対する封鎖を解除する。

イラン国営メディアは、イランがホルムズ海峡の支配権を公式に放棄することはないだろうと報じている。いずれにせよ、イランはここ数カ月、ホルムズ海峡を封鎖し世界のエネルギー供給を混乱させることで、絶大な影響力を行使できることを証明してきた。

対イラン強硬派は、イランに再開条件を提示するのではなく、トランプ大統領にホルムズ海峡を武力で封鎖解除するよう強く求めている。アメリカはここ数週間、100隻以上のタンカーについて、密かに海峡を通過させているが、これは通常の航行量のごく一部に過ぎない。

エネルギー価格の高騰が3年ぶりの高インフレを招き、世界的な原油在庫の枯渇が経済苦境をさらに悪化させる恐れがあるため、トランプ大統領に対しては合意形成を求める国内からの圧力が高まっている。

トランプ大統領は、ホルムズ海峡が再開すればガソリン価格は急速に下落すると主張しているが、エネルギー専門家たちは、アメリカが戦前の水準にすぐに戻る可能性は低いと指摘している。

(4)いつどこで署名されるか(When and where

トランプ大統領は木曜日、記者団に対し、合意の署名は早ければ週末にも行われる可能性があり、場所はおそらくヨーロッパになると述べた。

トランプ大統領は出席できないと述べ、代わりにJD・ヴァンス副大統領を派遣するとした。また、義理の息子であるジャレッド・クシュナーと特使のスティーヴ・ウィトコフが合意に向けて「素晴らしい仕事をした(great job)」と称賛した。

合意はヨーロッパで署名される可能性もあるが、イランはパキスタンが交渉で中心的な役割を果たし、過去の協議を主催したことから、この暫定合意を「イスラマバード宣言(the Islamabad declaration)」と呼んでいる。

事情に詳しいある外交官がニューズネーションに語ったところによると、カタール代表団は水曜夜遅くまでテヘランで交渉を続け、最終的にアメリカとイランの最高指導者が受け入れ可能な文言で合意に達したという。

金曜日の報道によると、覚書の署名式はジュネーブで行われることが検討されている。ジュネーブは、トランプ大統領とアメリカ代表団が来週フランスで開催されるG7サミットに出席する場所から離れていない。

トランプ大統領は日曜日、ホワイトハウスでUFCイヴェントを開催し、誕生日を祝う予定だ。

(5)攻撃は継続する(Strikes continue

トランプ大統領が合意に楽観的な見方を示しているにもかかわらず、ある国防総省当局者によると、アメリカ軍は木曜夜、海峡で船舶を標的にしていたイランの攻撃ドローン2機を撃墜した。

大統領は金曜、自身のソーシャルメディアのトゥルース・ソーシャルへの投稿でこの行動を批判し、イランが国営メディアを通じて発表した合意内容も非難した。

「彼らとは誠意をもって交渉するなどということはあり得ない。“驚きだ!”」とトランプは書き込んだ。「さらに、昨夜ホルムズ海峡を出港するインド船に対するドローン攻撃は完全に撃退されたが、“これは全く容認できない”。彼らは“すぐに”態度を改めるべきだ!」。

トランプ大統領は木曜日、イランへの攻撃を示唆し、カーグ島と石油関連施設を次の標的にすると警告していた。しかし、同日中にこの脅迫を撤回し、両国は和平合意に近づいていると述べた。

今回の攻撃は、アメリカ軍アパッチヘリコプター撃墜事件を受けてアメリカが火曜日と水曜日にイランを攻撃したのに続き、今週3度目の攻撃となるはずだった。

イラン最高指導者直属の準軍事組織であるイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps)は、これらの攻撃への報復として、ヨルダン、クウェート、バーレーンのアメリカ軍基地を標的にしたと発表した。

=====

戦闘終結に向けた合意はホルムズ海峡の再開につながるとイランは述べている(Deal to end fighting would lead to Hormuz reopening, Iran says

ガリー・オドネル(北アメリカ担当上級特派員、ワシントンDC)、オリヴィア・アイルランド筆

2026年6月12日

BBC
https://www.bbc.com/news/articles/c39y02x98k8o

イラン外相は、アメリカとの間でイラン戦争終結に向けた合意が間近に迫っており、ホルムズ海峡の再開も含まれると述べた。

セイイェド・アッバス・アラグチ外相は国営テレビに対し、合意にはアメリカによるイランへの海上封鎖解除も含まれるが、イランの核開発計画に関する協議は後日開始されると語った。

複数のアメリカ政府当局者は合意内容の一部を確認し、イランへの経済的利益はテヘランが義務を履行するかどうかにかかっていると述べた。

イラン戦争は2月28日、アメリカとイスラエルによるイラン全土への空爆で始まり、これを受けてイランはイスラエルとペルシア湾岸のアメリカの同盟諸国を攻撃し、世界の石油と液化天然ガスの主要輸送路であるホルムズ海峡を事実上封鎖した。

4月に停戦合意に至ったにもかかわらず、アメリカとイランは断続的に交戦を続けており、今週も2度にわたり報復攻撃が行われた。

ドナルド・トランプ米大統領は木曜日、交渉担当者たちが「素晴らしい合意に達した(just made a great settlement)」ため、イランに対する「予定されていた攻撃(scheduled attacks)」を中止したと述べた。この合意は間もなく署名される見込みだ。

金曜日、イランのメディアは、トランプ大統領が「合意された条件とは全く関係がなく」「真実とは無関係だ」と述べたとされる14項目の合意内容の一部を報じた。

数時間後、合意の仲介役を務めたパキスタンのシャバズ・シャリフ首相は、アメリカとイランの間で覚書(the Memorandum of UnderstandingMOU)が合意され、最終承認(finalising)を待っていると述べた。

イランのアラグチ外相は国営メディアに対し、イランの最高安全保障機関である最高国家安全保障会議(Supreme National Security CouncilSNSC)内には、合意の最新条項について「賛成派と反対派(supporters and opponents)」が存在すると述べた。

しかし、アラグチ外相は集団的な決定には至っていないと付け加えた。「今は待つしかない。承認されれば、合意は遠隔で署名されるだろう」と述べた。

イスラエルは、停戦延長とイランの核開発計画を含む主要問題に関する交渉開始を目指す今回の協議には参加していない。イランは数十年にわたり、西側諸国から核兵器開発を企てていると非難されてきた。イラン側は、核開発計画は発電や研究といった平和目的のためだと主張し、これらの非難を否定している。

金曜日午後、複数のアメリカ政府当局者は記者団に対し詳細な説明を行い、今回の合意によってホルムズ海峡が再開される代わりに、アメリカはイラン船舶に対する海上封鎖を解除すると述べた。

これらの措置はほぼ即座に発効する見込みだ。その後、60日間の交渉期間が設けられ、原子爆弾製造に不可欠なイランの濃縮ウラン問題に焦点が当てられる。アメリカ政府当局者によると、この交渉の結果、濃縮ウランは全て現地で破壊され、その後国外に搬出される予定だが、具体的な実施方法はまだ検討中だ。

経済面では、アメリカ政府当局者は、前払い金は一切提供されないことを強調した。これは、本格的な交渉開始前にイランの資産の一部が凍結解除されるという、以前のイランの報道を明らかに否定するものだ。

複数のアメリカ政府当局者によると、制裁解除や資産凍結解除などの措置は段階的に実施され、イランは段階的に世界経済に再統合される見込みだ。

この合意では、イランが地域内の代理勢力[proxy groups](ヒズボラをはじめとする中東各地のイラン系代理勢力)への資金提供を停止することが求められている。

複数のアメリカ政府当局者は、この覚書は信頼や約束に基づくものではなく、「履行(performance)」に基づくものであると強調した。イランは、約束した措置を履行したことが確認された場合にのみ、経済的利益を得られることになる。

アメリカ、イラン、パキスタン、そして仲介努力に貢献したカタールなど、関係各国は慎重ながらも楽観的な見方を示しているものの、解決にはまだ道のりは遠い。この合意案は過去1、2カ月の間に何度か修正案が提示されたものの、いずれも最終段階で頓挫している。

トランプ政権関係者によれば、今回の違いは、合意内容に対する楽観的な見方と、その内容に関する透明性の向上にある。

一方、イラン外相は「交渉の最終段階が完了次第、この合意は署名され、発表されるだろう」と述べた。

アラグチ外相はイラン国営テレビに対して「数日中に実現する可能性がある。私は非常に期待している」と語った。

アラグチ外相は、覚書(MOU)で最初に言及されたのは、アメリカによるイランへの海上封鎖の解除であると強調した。

世界の石油と液化天然ガスの約20%が通過する重要な航路であるホルムズ海峡について、アラグチ外相は「その管理は以前とは全く異なるものになるだろう」と述べた。ホルムズ海峡を封鎖して以来、イランは通過を希望する船舶に通行料の支払いを要求してきたが、アメリカは全ての船舶の通行を無料にすべきだと主張してきた。

イラン政府高官はまた、この覚書はイスラエルとレバノンのヒズボラ間の紛争終結を想定していると述べた。アメリカ国内の以前の報道では、イランがレバノンをこの合意に含めないことを強く主張しているため、レバノンはこの合意に含まれない可能性があると示唆されていた。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ヒズボラがイスラエル北部への攻撃を続けるならば、イスラエルはヒズボラを攻撃すると述べている。

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 古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 イラン戦争は、停戦合意が大詰め段階だとドナルド・トランプ大統領が発表しながら、同時に「合意を急がないように」と述べたと発表し、トランプらしさ全開で状況が進んでいる。アメリカとしては、イランの政権転覆(体制転換)が望めない中で、核兵器開発につながるウラン濃縮の廃棄を求めている。イランとしては、戦争の被害の賠償と体制の保証、ホルムズ海峡の管理権を求める。イスラエルとしては、中東地域の混乱が続けば良いということなので、和平は静観しているようだ。イスラエルは、既にUAEという「魚の小骨」をイランの喉(ペルシア湾)に刺すことに成功しているので、これ以上のことは望んでいないだろう。
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 下記論稿において、著者ファリード・ザカリアは、イスラム革命後のアメリカは、イランについてディレンマを抱えてきたと指摘している。それは「イランの体制を転換させるのか、イランの政策を転換させるのか」ということだ。

 イランの体制を転換するためには、アメリカはイランに対して軍事攻撃をするしかない。しかし、それは実態としては不可能であった。今でもそうだ。今回のイラン戦争は、規模で見れば大規模な戦争ではない(犠牲となった人たちには非常に申し訳ない表現になってしまって心苦しいが)。範囲も期間もそこまでではない。しかし、ペルシア湾、ホルムズ海峡というチョークポイントがそこに含まれることで、世界規模で影響を受け、大きくなってしまった。逆に、ホルムズ海峡がなければイランはここまで持ちこたえることはできなかっただろう。アメリカはイランほどの大国を攻撃して体制転換させるほどの力をすでに失っている。第二次世界大戦の時期とはもう違う。しかし、公式的には、イランとの国交はないし、外交関係はない。

 しかし、アメリカとイランは実際には交渉はしなければならないし、イランは国連にも加盟している。実質的には国家として認めている。しかし、外交関係はない。それでも、バラク・オバマ大統領時代には核開発に関して合意が結ばれた。建前とは違うのだ。今回、イラン側がアメリカ側に体制の保証を求めている。これをアメリカ側が認めてしまうと、アメリカは建前が崩れてしまう。国家として認めてしまうことになる。それはそれでアメリカにとっては良いことかもしれないが、今回のイラン戦争の失敗はこの点にある。「イランと交渉して、体制保障をしてしまわねばならない」ことで歴史は動くが、アメリカの建前は崩れる。これこそがアメリカの敗北である。このアメリカの敗北を世界に喧伝してしまうことになってしまう。アメリカ帝国の崩壊をここに明白に示すことになる。アメリカの終わりの始まりということになる。

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ワシントンが解決を拒むイランに関するディレンマ(The Iran Dilemma Washington Refuses to Resolve

-アメリカの政策において2つの目標が半世紀近くにわたり対立し続けている。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/08/iran-war-united-states-nuclear-weapons-regime-change-donald-trump-foreign-policy/

世界で最も強力な国家が、経済制裁と軍事攻撃によって荒廃した、はるかに小さく弱い国家に対して、なぜ思い通りにできないのだろうか? イラン戦争におけるアメリカの抱える問題を理解する最も簡単な方法は、ゲーム理論(game theory)を用いることだ。ドナルド・トランプ大統領はイランと「チキン」ゲーム(a game of “chicken”)を仕掛けた。まるで2台の車が互いに真っ直ぐに突進し合うようなものだ。このような状況では、一方の存亡に関わる利害が他方の利害がはるかに低い場合、利害の大きい方がたいてい勝つ。イラン政権にとって、負ければ政権が崩壊し、国民が虐殺される可能性が高い。一方、ドナルド・トランプ大統領にとっては、マール・ア・ラーゴでの週末が台無しになる程度だろう。イラン側がこのチキンゲームでハンドルを握りしめることを厭わない理由が容易に理解できる。

しかし、アメリカがイランへの対応にこれほど苦しんでいるのには、トランプ大統領と今回の拙速な戦争(ill-conceived war)だけではない、より広範な理由がある。イランでイスラム政権が樹立されて以来、アメリカはイランに対して相反する態度(two minds)を取り続けてきた。一方では、人質解放から核兵器制限に至るまで、アメリカが解決を望むいくつかの課題があった。他方では、単に交渉するだけでなく、政権を打倒したいと考えている。この2つの姿勢の間には、半世紀近くにわたってアメリカの外交政策を貫いてきた緊張関係が存在する。ワシントンはイランの特定の政策を変えたいのか、それともイランそのものを変えたいのか?(Does Washington want to change certain policies of Iran or does it want to change Iran?

ワシントンがテヘランと交渉すれば、ギヴ・アント・テイクがあり、必然的に双方の譲歩(concessions on both sides)があり、敵対関係はいくらか緩和される。何よりも、アメリカ政府はイランと関わることで、イスラム共和国に一定の正当性を与え、真剣な交渉相手として扱い、国際舞台でイランを代表する存在として認めることになる。しかし、この容認は一部のアメリカのエリート層にとっては受け入れがたいものだった。彼らは、イラン・イスラム共和国は非合法であり、存在すべきではなく、ワシントンがイランに対して取るべき唯一の政策は、イランを打倒することだと考えているからだ。それでも、ワシントンが望むものの中には、イランでしか実現できないものもある。だからこそ、ロナルド・レーガン大統領でさえ、公にはイランの聖職者たちを非難しながらも、密かに彼らと交渉していた。

トランプ大統領のイラン政策には、ほぼ毎日、矛盾した態度が見られる。あるソーシャルメディアの投稿では、イラン文明を破壊し、47年にわたる悪行に終止符を打つと脅迫する一方で、同じ日に別の投稿では、イランとの交渉が進展していると述べている。トランプ大統領は交渉に臨み、イランとの合意に楽観的な姿勢を見せたかと思えば、交渉の合間にテヘランとの戦争を始め、イラン国民に政府打倒を促す。そして1週間も経たないうちに、イランが要求に応じれば明るい未来が待っていると約束する。

アメリカはソ連に対しても同様に矛盾した態度をとっていた。1917年に共産党がロシアを掌握すると、ワシントンはソ連との国交を断絶し、小規模ながらソ連打倒を試みたことさえあった。フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領がソ連の存在を認め、モスクワと大使を交換するまでには、それから約16年もの歳月を要した。この緊張関係は第二次世界大戦後に再び表面化した。1970年代、ヘンリー・キッシンジャーのソ連との交渉政策は、悪の帝国(evil empire)の地位を強化するものとして右派から激しく非難された。キッシンジャーは常に、アメリカはソ連とはイデオロギー的に対立しているものの、核兵器管理(the control of nuclear weapons)など、モスクワとの合意なしには解決できない国益も抱えていると主張した。

イラン問題におけるキッシンジャーの立場に相当するのが、バラク・オバマ大統領である。オバマ政権は、イランに別の政権を望むかもしれないが、アメリカの国益に対する最大の脅威(ソ連の場合と同様、核兵器問題)に対処するためには、現政権と向き合わなければならないと判断した。イラン核合意は、イランの外交政策における最も危険な要素を無力化(neutralize)するための試みであり、実際にその目的は達成された。しかし、多くの右派にとって、その代償は、ある意味でイラン政権を正当化(legitimized)してしまったことだった。トランプ大統領はアメリカを核合意から離脱させたが、これはハサン・ロウハニ大統領の失脚とテヘランの強硬派の復権を招き、彼らはイランのウラン濃縮計画を加速させた。そしてトランプ大統領は再び同じディレンマに陥った。合意を結ぶべきか、それとも毅然とした態度を取るべきか?(Does he make a deal or take a stand?

現時点で、トランプ大統領が合意を望んでいることは明らかだ。しかし、合意に至れば、イラン・イスラム共和国が47年間求め続けてきたもの、つまりアメリカ国内の最も強硬な勢力からも無制限の承認(unqualified acceptance)を得ることになるかもしれない。テヘランにとって、それは多くの譲歩に値するほどの大きな報酬となるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、最新刊に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)
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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

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ザ・フナイ vol.225(2026年7月号)

 2026年5月14日から15日にかけて米中首脳会談、20日に中露首脳会談が北京で実施された。アメリカのドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーティン大統領が北京を訪問し、習近平中国国家主席が出迎える形となった。20世紀の第二次世界大戦後の世界を二分し、冷戦を戦った超大国である米露(旧ソ連)の最高指導者たちが21世紀の覇権国となる中国を訪問したことは歴史の皮肉である。中露首脳会談後、今度は中朝首脳会談の話が出てきた。習近平主席が7年ぶりに北朝鮮を訪問し、金正恩委員長と会談を持つということだ。トランプとプーティンを北京に来させた習近平がわざわざ北朝鮮を訪問するというのは、北朝鮮と金正恩委員長を尊重しているという外形を取りながら、中身は厳しい対処を行うということではないかと私は考えている。
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 それは、「北朝鮮は誰のおかげで存続できているのか」ということを改めて認識させるということだ。最近でいえば、ロシアと北朝鮮の接近ぶりが際立つ。北朝鮮はウクライナ戦争に北朝鮮人民軍を派遣し、多数の戦死者と負傷者を出している。その代わりにロシアから武器開発や資源などの支援を受けている。北朝鮮とロシアは北朝鮮の核開発でも旧ソ連時代から協力関係にある。ロシア(旧ソ連)は北朝鮮を中国に対する一種の牽制要員として利用している。しかし、実際に北朝鮮が国家として存続できているのは中国からの支援が大きい。そもそもが朝鮮戦争で鴨緑江まで追い詰められた北朝鮮に中国が人民義勇軍による支援を行ったことで、38度線付近まで押し返すことができた。中国側の膨大な死傷者や武器の犠牲があって北朝鮮の存立は守られた。北朝鮮のロシアへの接近は中国を苛立たせる。北朝鮮がロシアと接近することで中国の影響から脱しようという動きは中国としては許せないことになる。そのために、あくまで北朝鮮のメンツをつぶさない形で、北朝鮮に釘を刺すということになる。
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 中朝露の関係が今は中国とロシアが接近していることで二等辺三角形になっている。これでは下がぐらつくことで関係が安定しない。あくまで正三角形にならねばならない。そのための動きであると私は考えている。

(貼り付けはじめ)

習近平国家主席がトランプ退任後を見据えて外交攻勢を加速させている(Xi’s Flurry of Post-Trump Diplomacy

-中国の習近平国家主席は異例かつ重要な北朝鮮訪問の準備を進めている可能性がある。

リシ・イエンガー筆

2026年5月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/22/xi-north-korea-putin-trump-beijing-visit/

中国の習近平国家主席は、ドナルド・トランプ米大統領と(多額の費用をかけずに[without breaking the bank])北京での初会談を行った(breaking the ice)わずか数日後、より長年のパートナーとの関係に目を向けた。

習主席は火曜日、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領を北京に迎え、実質的でより友好的な会談を行った。中露両首脳は、中国とロシアの「永遠に続く友情(everlasting friendship)」をテーマにした写真展に出席し、原子力エネルギーからヒョウ、パンダ、サルなどの保護に至るまで、あらゆる分野で「協力を深化させる(deepen cooperation)」ことを誓う長文の共同声明を発表した。また、トランプ大統領が提案したゴールデンドームミサイル防衛システムを「戦略的安定に対する明白な脅威(clear threat to strategic stability)」と名指しし、米露核兵器条約(新戦略兵器削減条約[New START])の失効を容認したトランプ大統領の「無責任な政策(irresponsible policy)」を非難した。

しかし、この包括的な会談は、全く予想外という訳ではなかった。習近平国家主席は、プーティン大統領の中国公式訪問が25回目であることに触れ、中露両国が築いてきた緊密なパートナーシップを強調した。

しかしながら、習主席はプーティン大統領の訪問に続き、さらに稀で重要な外交的行動を計画している可能性がある。複数の報道によると、習主席は数日中、早ければ来週にも北朝鮮を訪問する準備を進めているという。中国は公式には訪問を発表しておらず、在ワシントン中国大使館もコメントを拒否している。

もし実現すれば、習主席の北朝鮮訪問は、中国の最高指導者となって2度目、そして7年ぶりとなる。中朝両国は何十年にもわたり緊密なパートナーシップを築いてきた。北朝鮮の貿易のほぼ全ては中国とのものであり、北朝鮮は中国が相互防衛条約(a mutual defense pact)を結んでいる世界で唯一の国である。

しかし、北朝鮮とロシアの緊密化、特にウクライナにおけるロシアの戦争への軍事支援は、中国の立場をやや後退させている。北朝鮮の金正恩委員長とプーティン大統領は2024年に独自の相互防衛条約を締結した。

ワシントンのブルッキングス研究所の上級研究員で、SK-コリア財団韓国研究講座担当のアンドリュー・ヨーは、「習近平国家主席は、モスクワと平壌の強固で深まる関係にあまり乗り気ではないという見方がある。北朝鮮に対する影響力を失うリスクがあるため、中国は自国の存在感を維持したいと考えている」と述べている。

ヨー続けて次のように述べている。「中国は不安定性(instability)も懸念している。独自の路線を歩む北朝鮮にロシアの兵器や技術が渡れば、不安定化を招く可能性がある。中国が最も恐れているのはまさにその点であり、だからこそ北朝鮮が自国の勢力圏(orbit)に留まるようにしたいと考えている」。

中国が北朝鮮との関係強化を図る動きは、昨年1年間で勢いを増している。昨年9月には習近平国家主席が北京で行われた軍事パレードに金正恩委員長(プーティン大統領も同席)を迎え入れた。また、王毅外相も先月、北朝鮮の首都平壌を訪問し、金委員長と会談した。その中で、中朝両国が「主要な国際問題および地域問題について意思疎通と連携を強化する」必要性を強調した。

北朝鮮外交に関心を示す最近の訪問客は、プーティン大統領だけではない。トランプ大統領は政権復帰後、2019年の金委員長との歴史的な会談を再現したいと繰り返し示唆してきた。昨年、トランプ大統領は何度か金委員長と「会いたい」と述べ、先週、北京で習主席と北朝鮮問題について話し合ったことを記者団に明らかにした(ただし、会談内容の詳細は明らかにしなかった)。

しかし、北朝鮮はトランプ政権1期目、金正恩委員長がトランプ大統領と3度会談した時よりもはるかに自信に満ち、強硬な姿勢を見せている。この自信は、ロシアからの支援に加え、サイバー攻撃で数十億ドル相当の仮想通貨を奪取し、国際的な制裁を乗り切るための資金源としていることも一因だ。バイデン政権の国家安全保障会議で東アジア・オセアニア担当上級ディレクターを務めたミラ・ラップ=フーパーは、こうした状況も平壌と北京の関係に影響を与えるだろうと指摘する。

ラップ=フーパーは次のように語っている。「北朝鮮はここ2年間、ここ数十年で最も自信に満ち、制約の少ない立場にある。近年、北朝鮮にはほとんど焦りの兆候が見られない。北朝鮮が望んでいるのは、中国との関係をより強固なものに再構築することだろう。つまり、北朝鮮はもはや従属的なパートナー(a junior partner)や副官(a sheriff’s deputy)のような存在ではなく、中国・ロシア間のパートナーシップにおいて、より対等な立場に立つことを目指している」。

一方、中国の野心ははるかに広範で、よりグローバルなものだ。習近平国家主席の活発な外交活動は、世界における中国の地位と国際社会における台頭を示すシグナルを送るためだ(彼は将来のアメリカ軍の北京訪問についても強硬な姿勢を示している)。

オバマ政権、第一次トランプ政権、バイデン政権を通じて、国家安全保障会議や国務省などでアジア担当の政府高官や外交官を務めたダニエル・クリテンブリンクは、「ここで重要なのは、中国が世界の舞台でリーダーシップを発揮しようとしていることであり、個々のやり取りに焦点を絞りすぎるのは避ける必要がある」と述べた。

現在、ワシントンに拠点を置く地政学コンサルティング会社であるアジア・グループのパートナーを務めるクリテンブリンクは、3月の北京訪問時にその雰囲気を肌で感じたと述べ、トランプ大統領とプーティン大統領による相次ぐ首脳会談によってその思いはさらに強まったと述べた。クリテンブリンクは次のように述べている。「中国の自信はかつてないほど高まっている。国際情勢が中国に有利に働き、中国の時代が到来し、中国はそのチャンスを活かさなければならないという確信を持っている。こうした変化の多くは不安を掻き立て、混乱を招くものだが、それでも中国指導部からは公私ともに、中国はこれらの課題全てに対する解決策を持っており、その解決において中国が中心的な役割を果たすだろうというメッセージが伝わってきたように感じた」。

習近平国家主席の平壌訪問は、主に二国間関係の強化とロシアとの関係調整を目的としたものとなるだろうが、同時に、中国が不可欠なグローバルプレーヤーとしての地位を確立しようとする、より広範な動きの一環でもある。

ブルッキングス研究所ジョン・L・ソーントン中国センター所長ライアン・ハスは次のように述べている。「2026年前半、北京は世界外交の中心地(the center of gravity for global diplomacy)となった。北京は、国際秩序の維持に努める予測可能な主体として自らを位置づけている。中国は、世界の舞台で外交的影響力を蓄積するために、アメリカとの対比を巧みに利用している」。

※リシ・イエンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@iyengarish.bsky.socialXアカウント:@Iyengarish Instagram: @iyengar.rishi

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカ一極支配体制がすでに終焉を迎えつつあるということを私たちは日々目撃している。毎日毎日の報道ではどうした、こうしたという細かい動きが報じられるが、少し長いスパン、数年のスパン、数十年のスパンで見ていけば、アメリカは国力を大幅に低下させ、世界を支配する力を失いつつあることは明らかだ。

 2022年のウクライナ戦争によってはっきりしたのは、「西側諸国(the West、ジ・ウエスト)」対「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の二極構造だ。ロシアに侵攻されたウクライナを西側諸国が支援し、ロシアに対しては結束して経済制裁を加えるという構図になったが、ロシアは戦争を継続できた。これは、ロシアに対して、積極的ではないが、西側以外の諸国が陰ながら支援を行ってきたことが理由の一つに挙げられる。さらに、イラン戦争において、「西側諸国」を率いるアメリカの世界支配の正統性にまで疑義が出ている。

 中国とロシアをはじめとする西側以外の国々は経済成長が進み、これから世界において重要な役割を果たすようになっていく。その中核がBRICS(拡大されたBRICS)であり、G20に入っている菱西側諸国である。一方で、欧米に日本を含む西側諸国は少子高齢化がますます進行し、経済力を失い、世界の中心的な役割を担えなくなっていく。拡大BRICSを見ると、それぞれの地域の中心的な諸国が入っている。これらがそれぞれの地域で大国として主導的な役割を果たすようになる。
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拡大BRICS
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G20諸国

 現在から約15年後の2040年には世界の状況は大きく変化しているだろう。1945年に第二次世界大戦が終結し、2045年で100年、中国が西洋(イギリス)に敗れ、屈辱の苦しい時代に入ったアヘン戦争開戦からは2040年で200年、屈辱的な不平等条約となった天津条約からは2042年で200年ということになる。2040年から2045年となるとまだ先のようであるが、それまでの20年ほどという期間は、世紀単位のスパンで見れば、短い期間とも言える。西側諸国の衰退、西側以外の国々の経済成長と台頭は進んでいるだろう。そうした中で、アメリカ一極支配は終わり、「そんな時代もあったね」と、有名な歌の歌詞にあるセリフを私たちは話していることになるだろう。下記論稿のサブタイトルの通り、「10年後、世界は大きく様変わりしているだろう」。

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トランプ後の世界における3つのシナリオ(Three Scenarios for a Post-Trump World

―10年後、世界は大きく様変わりしているだろう。

ハル・ブランズ筆

2026年3月23日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/23/post-trump-world-order-cold-war-spheres-of-influence/?tpcc=recirc_more_from_fp051524

イタリアの哲学者アントニオ・グラムシは1930年に次のように記した。「旧世界は滅びつつあり、新世界は生まれようとあがいている(The old world is dying, and the new world struggles to be born)」。マルクス主義の信条を持つグラムシだが、トランプ時代にも違和感を覚えるだろう。ここでいう旧世界とは、第二次世界大戦後、アメリカ合衆国が西側諸国に築き上げ、冷戦勝利後にグローバル化を目指した国際秩序(the international order that the United States built in the West after World War II and then sought to globalize after its victory in the Cold War)のことである。この計画は、世界を変えるほどの平和、繁栄、そして自由をもたらした。しかし今日、旧秩序はその役割を終えようとしている。

長年にわたり、修正主義国家、特に中国とロシアは、この秩序を徐々に侵食してきた。そして今、アメリカ合衆国もまた、この秩序と戦っているように見えることがある。10年後、世界は大きく様変わりしているだろう。しかし、この過渡期の先に何が待ち受けているのか、新しい世界がどのような形をとるのかは、まだ誰にも分からない。

一つの可能​​性は、冷戦時代を彷彿とさせる二極世界シナリオ(a two-worlds scenario reminiscent of the Cold War)、すなわち世界がワシントンと北京が率いる二つの陣営に分断されるシナリオだ。二つ目の可能性は、二つの陣営ではなく、複数の帝国が跋扈する時代(an age not of two blocs but of several empires)、すなわち様々な勢力が地域的な勢力圏を掌握していく(an array of potentates capture regional spheres of influence)時代だ。三つ目の可能性は、自力救済の世界(a self-help world)、すなわちアメリカの行動が略奪的になり、システムが無政府状態の深淵へと陥る世界(U.S. behavior turns predatory and plunges the system into an anarchic abyss)だ。

現状がこれほど不安定に感じられるのは、これらのシナリオがどれも現実味を帯びており、しかもそれぞれが、葛藤を抱える超大国の外交政策によって支えられているからだ。多くのことが不確定要素であり、今後のアメリカの決断と選挙サイクルに大きく左右される。しかし、この過渡期(interregnum)の先に何が待ち受けているのかを探ることは、たとえ最良のシナリオであっても、私たちがこれまで経験してきた世界よりもさらに分裂し、激化するだろう未来に備えるための第一歩となるだろう。

現代世界はアメリカが生み出したものだ。第二次世界大戦後、アメリカはユーラシア大陸周辺に世界規模の同盟関係を築き上げた。荒廃した国々を復興させ、世界貿易を再建した。遠洋航路の航行の自由(freedom of navigation)を守り、その他の公共財(public goods)を提供した。世界政府に最も近い存在は、国連ではなくアメリカだった。こうした政策は、繁栄する西側体制の基盤となり、その後ソ連を打倒し、冷戦後には拡大する自由主義的な秩序へと発展した。

あらゆる英雄的偉業と同様に、この偉業にも神話、省略、誇張(myths, elisions, and exaggerations)が存在する。ワシントンは、時に残忍な軍事介入(military interventions)や秘密工作(covert intrigues)といった非自由主義的な手段を用いて自由主義秩序を維持した。同盟諸国の連帯を称える賛歌は、1956年のスエズ危機から2003年のアメリカ主導によるイラク侵攻に至るまで、民主政治体制世界を揺るがした激しい対立を無視している。アメリカは、都合が悪くなると自らのルールを無視したり変更したりしてきた。1971年に国際金融のブレトン・ウッズ体制を離脱したのもその一例だ。偽善と強制(hypocrisy and coercion)なしに秩序は成り立たない。

しかし概して言えば、パクス・アメリカーナ(Pax Americana)は、驚異的な力(power)を用いて、極めて広範な自己利益観を支えてきた。それは、地理的に孤立した大国であっても、弱小国を繁栄させ、安全を確保することによってのみ、自らの力で繁栄できるという認識である。この組み合わせは、歴史を覆すほどの恩恵をもたらした。一世代のうちに二度の世界大戦を経験した後、アメリカが築いた秩序は、数十年にわたる大国間の平和をもたらした。アメリカ主導の経済は、生活水準の飛躍的な向上をもたらした。アメリカの影響力は、民主政治体制の優位性を確立し、「国家の死(state death)」、すなわち独立国家の暴力的な消滅(the violent eradication of independent countries)を、衝撃的で稀なものにした。ワシントン自身も、比較的平和で活気に満ちた時代に生きたことだけでなく、同盟やその他の協力ネットワークによって、比類なき力を増幅させ、世界的な影響力を拡大させたことで、莫大な利益を得た。

しかしながら、何事も永遠ではない。そして、アメリカが築き上げた秩序、特に冷戦後に台頭したグローバル志向の秩序は終焉を迎えつつある。この秩序は外部からの攻撃にさらされている。北京、モスクワ、そしてその同盟諸国は、この秩序を自らの野望を阻む障壁であり、これらの国々の独裁体制への脅威とみなしている。彼らは、ユーラシア大陸全域で、勢力均衡(the balance of power)や、海洋の自由、武力による征服の禁止といった重要な規範を揺るがしている。これらの国々、特に中国は、内部からも秩序を破壊しようとしている。北京は世界経済への参入を利用して、現在アメリカに挑戦するために用いる製造力と軍事力を築き上げてきた。一方、ワシントン自身も、自らが築き上げた秩序に疲弊し、おそらくは致命的な幻滅を感じているのだろう。

こうした複雑な感情は、現実的な問題に根ざしている。アメリカの同盟関係における根強い不均衡とフリーライダー問題、グローバライゼーションに伴う経済的・物理的な不安、中東地域におけるアメリカの戦争がもたらした反動、そして自由主義秩序が中国の台頭を助長した経緯などだ。こうした感情は、少なくともアメリカの関与の条件を積極的に再交渉しようとする政権、そしてしばしばアメリカの国力を回復するには既存の体制を解体する必要があると主張する政権に、今や顕著に表れている。

こうした状況が、今の不安定な雰囲気を生み出している。ワシントンの国力は依然として比類なきものである。アメリカの同盟関係やG7といった、既存の秩序を支える主要な構造は依然として健在だ。しかし、その秩序の将来は暗く、おそらくは終焉を迎えようとしているように見える。断末魔(the death throes)の苦しみが終わった後、一体何が起こるのだろうか?

過去10年間、アメリカ主導の世界は二つの世界に分裂し、統合された世界秩序という夢は、陣営間の争いへと転じるだろうと思われていた。このシナリオでは、中国主導の陣営には、攻撃的なユーラシアの独裁国家に加え、キューバからパキスタン、そしてグローバル・サウス(global south)の広範囲にわたる国々が加わる。一方、アメリカ主導の陣営は、ユーラシア周辺部の民主政体同盟諸国で構成される。インドからサウジアラビア、ブラジルからインドネシアといった様々なスイングステート(swing states)は、これらの陣営に選択的に加わりながら、その間を巧みに動き回るだろう。国際政治の未来は、冷戦時代へと回帰するだろう。

これは完全な再現ではない。世界と繋がった中国は、クレムリンがかつて持っていたよりもはるかに優れた経済的誘引力と強制力を持っている。しかし、このシナリオでは、制裁とサプライチェインが武器化されるにつれ、国際経済は徐々に分断されていくことになるだろう。デカップリング(decoupling)は、起こるかどうかという問題ではなく、いつ、誰の条件で起こるかという問題となるだろう。冷戦時代と同様、二極構造の対立(a bipolar rivalry)があらゆる地域を巻き込むことになる。ウクライナ、台湾、南シナ海といった最も危険な地域は、地政学的な境界線上に位置することになる。

好むと好まざるとにかかわらず、強力な構造的力(strong structural forces)がこの未来を後押ししている。米中間の緊張は、首脳会談や危機によって高まったり低まったりするかもしれない。ドナルド・トランプ米大統領は習近平中国国家主席について畏敬の念をもって言及すべきかもしれない。しかし、中国が基幹技術、世界貿易、西太平洋における覇権を追求する動きが、アメリカの国力と特権に衝突するにつれ、根本的な対立は激化する一方だ。大国間の争い(Great-power fights)は世界政治を分極化させる傾向があり、相互依存(interdependence)は激しい紛争の中で脆弱性(vulnerability)の源泉となる。多くの点で、この未来への勢いは加速している。ロシアによるウクライナ侵攻は、ユーラシア大陸の独裁国家間の経済、技術、軍事面での連携(alignment)を加速させた。習近平国家主席とウラジーミル・プーティン大統領は、民主政体国家を相手に一斉に戦うことでしか勝利できないことを理解している。真の問題は、ワシントンが依然として自由世界を結集できるかどうかである。

トランプ政権の政策における善意の側面は、新たな冷戦においてワシントンとその同盟諸国を成功へと導く可能性を秘めている。しかし、その裏にある悪意は全く異なる様相を呈している。

トランプ政権の功績として、相互に絡み合う脅威に対抗するため軍事費の増額を要求することで、武装した民主政体共同体を構築している点が挙げられる。同盟国からの投資をアメリカの技術革新基盤にもたらす貿易協定は、中国の経済規模に対抗するために必要な資源と生産の統合を促進する可能性がある。重要鉱物資源に関するパートナーシップは、中国の支配から脱却するための道筋を示す(ただし、その道のりは長い)。そして何よりも、トランプはイランとヴェネズエラという弱小国を攻撃することで、独裁国家の枢軸に打撃を与えた。次はキューバかもしれない。歴史が示唆するところでは、西半球における覇権の再確立を目指すトランプの熱意(his drive to reassert hemispheric hegemony)―ドンロー主義(Donroe Doctrine)―は、より広い世界における影響力拡大の前提条件となるだろう。

大国が主導権を握り(call the shots)、小国は運命を受け入れる(accept their lots)というトランプの姿勢は、彼をアメリカの同盟国の大半よりも習近平やプーティンにとって都合の良い相手にしている。彼の強圧的で非対称的な交渉手法は、民主政体共同体の強化よりも、そこから最大限の譲歩(maximum concessions)を引き出すことに重点を置いているという印象を与える。グリーンランドとカナダに対するトランプの要求は、ワシントンを領土拡大を渇望する修正主義者たちと結びつけ、自由世界の核心である大西洋を挟んだ同盟関係を崩壊させる恐れがある。ヨーロッパの同盟諸国は、中国、ロシア、そしてアメリカという三つの強欲な大国に挟まれることをますます恐れている。もしそうなれば、新たな冷戦は起こらないだろう。なぜなら、独裁国家の勢力を弱める民主政体ブロックは存在しないからだ。

それでも、二極世界シナリオを軽視すべきではない。トランプ時代は、破壊(carnage)だけでなく建設(construction)ももたらすだろう。独裁政権の脅威が強まるにつれ、民主政体国家間の取引的な協力さえも促すインセンティヴが高まる。トラ​​ンプの後継者たちが、単なる自己利益追求ではなく、共通の目的を訴える物語を語ることができれば、新たなレヴェルの集団的努力(collective effort)と負担分担(burden-sharing)への新たなアプローチを伴う、自由世界の協定を再構築できるかもしれない。この未来にも危機と紛争はつきまとうだろう。危険は尽きない。しかし、それでもなお、全ての民主政体国家にとって最善のシナリオである。二極世界は、中国が支配する体制、あるいはさらに分裂する体制よりも望ましい。

第二のシナリオは、ポスト・アメリカ世界が二つの巨大ブロックではなく、いくつかのより小さな地域圏に分裂するというものだ。アメリカは、ホノルルからヌーク(グリーンランド)、北極圏、アルゼンチンにまたがる半球帝国(a hemispheric empire)に再び焦点を当てることで、戦略的な孤立(strategic insulation)を図る。ワシントンが大洋を越えた重荷から解放されるにつれ、中国は東南アジアから北東アジアにかけての広大な三日月地帯(the vast crescent)で支配権を握る。ロシアは、旧ソ連圏と東ヨーロッパの一部で、おそらくは血なまぐさい手段を用いて、支配を固めるだろう。

しかし、この勢力圏の分割(this spheres-of-influence partition)は、大国間のゲームにとどまらない。分裂する世界において、インドは南アジアとインド洋での支配を狙う。トルコは、ヨーロッパ、中東地域、アフリカの交差点に、オスマン帝国崩壊後の領域を築こうとする。イスラエル、サウジアラビア、その他の国々は、ペルシャ湾とアフリカの角を結ぶ紅海地域で覇権を争う。パクス・アメリカーナの後には、諸帝国存立の新たな時代(a new age of empires)が到来する。

これらの帝国は、ナチス支配下のヨーロッパのように、完全に閉鎖されたり軍事占領されたりする必要はなく、覇権は多様な形態で表現される。しかし、この未来において、世界秩序は勢力政治の岩礁に打ち砕かれる。

国際法が崩壊し、地域の有力者たち(regional potentates)が許容される行動規範を定め、従わない従属諸国(disobedient clients)に圧力をかけたり、打倒したりする。地域の支配者たちは貿易、投資、資源の流れを再構築し、弱い近隣諸国の他国との関係に厳しい制限を課す。新たな帝国の時代において、ラテンアメリカにヨーロッパやアジアの軍事基地は存在せず、ワシントンの海外同盟は崩壊するか、あるいは崩壊寸前となるだろう(Washington’s overseas alliances are dead or in tatters)。これは、世界の様々な地域におけるモンロー主義の集合体と考えることができる。

歴史的には、勢力圏はギャングの協定によって形成されてきた。その典型的な例は、アドルフ・ヒトラーとヨシフ・スターリンによる東欧分割(the division of Eastern Europe)である。現代のアナリストの中には、習近平、トランプ、プーティンが世界分割を企むような協定を結ぼうとしていると考える者もいる。しかし、勢力圏は非公式に、あるいは段階的に形成されることもある。

もしアメリカがNATO加盟国から領土を奪うことでNATOを崩壊させれば、西半球におけるアメリカの勢力圏の台頭は、東ヨーロッパにおけるロシアの勢力圏の台頭を助長する可能性がある。もし中国の容赦ない軍備増強によって、日本から台湾、フィリピンに至る第一列島線(the first island chain)が防衛不可能になれば、たとえ国防総省が明言しなくても、西太平洋は北京の影に覆われることになるだろう。つまり、ワシントンが半球覇権に全力を注ぎ込み、トランプ大統領自身が述べているように、遠い海を隔てた出来事は他国の問題だと考えるならば、多圏的な世界(a multisphere world)が生まれる可能性がある。

まさにその方向に向かっているように感じられる。ロシアと中国は長年にわたり地域支配(regional mastery)を争ってきた。そして今、トランプ大統領は南北アメリカ大陸においてワシントンの権威を容赦なく押し付けている。敵対的な支配者を強制的に排除し、重要な資源を主張し、公海上で致命的な武力を行使する一方で、ユーラシア大陸の最前線に位置する同盟諸国には自国の防衛を担うよう迫っている。トランプ大統領の国際法に対する軽視は、19世紀にリチャード・オルニー国務長官が「ワシントンはこの大陸において事実上主権者である(practically sovereign on this continent)」と宣言した言葉を21世紀に彷彿とさせる。西半球支配が、グローバルなプレゼンスを可能にするのではなく、いずれ取って代わる可能性が、今まさに見え始めているのだ。

しかし、トランプは決して厳格な半球主義主義者(hemisphericist)ではない。遠く離れた大陸での和平交渉を推進し、中東地域では野心的な戦争を繰り広げながら、ドンロー主義を声高に主張している。おそらくそれは、世界が厳密に勢力圏に分割されることが超大国アメリカにとって大きな痛手となることを彼が理解しているからだろう。

アメリカの保護を必死に求めるユーラシアの同盟諸国との一方的な貿易協定はもはや成り立たなくなり、日本やドイツがドルの支配を支える理由もなくなる。活気ある経済、重要な貿易ルート、そして高付加価値のサプライチェインを擁する東アジアからアメリカが締め出されれば、中国との競争は間違いなく困難になるだろう。台湾とホンジュラスの交換は、決して良い取引とは言えない。グローバルな影響力は、グローバルな関与から生まれる。

そして、勢力圏に基づくシステムがアメリカの国力を弱体化させるならば、その支持者が切望する安定性そのものをも弱体化させる可能性がある。理論上、勢力圏は小国の従属(lesser-power subservience)を通じて大国の平和を維持する。強大な国家は世界を分割し、手に負えない勢力を抑え込む。確かに、ワシントンが西太平洋から撤退すれば、台湾を巡る米中衝突は起こらないだろう。しかし、永続的な平和を期待することはできない。

複雑な相互依存関係は、勢力圏への移行を険悪なものにする。南アメリカにおける中国のデジタル浸透とインフラ整備を後退させるには、アメリカによる相当な圧力が必要となるだろう。逆に、東アジアにおける勢力圏の確立は、中国の野望の終わりではなく、始まりに過ぎないかもしれない。アメリカにとって、西半球における支配は、世界への介入の出発点だったのだ。

より重要なのは、勢力圏は単に与えられるものではないということだ。その起源はしばしば血塗られた歴史に彩られている。野心的な独裁国家は、支配地域において残虐行為、さらには大規模虐殺さえも厭わない傾向がある。そして、中小国家は、自分たちに何が待ち受けているかを認識しているため、支配をただ受け入れる以外の選択肢を持っている。ウクライナはロシア帝国から逃れるために激しく戦ってきた。日本も同様の行動をとるかもしれないし、あるいは単に核兵器を開発して北京に対する服従を避けるかもしれない。この危険性は、衰退していく秩序の後に起こりうる第三のシナリオ、すなわち醜悪で暴力的な混乱(ugly, violent disarray)を示唆している。

今年の世界経済フォーラムで、カナダのマーク・カーニー首相は、旧秩序の崩壊はミドルパワー国家にとって好機をもたらすと宣言した。協力し、能力を強化することで、これらの国々は大国間の道を切り開き、自らにとって許容可能なシステムを維持できると彼は主張した。

これは古くからの夢である。1970年代以来、学者や戦略家たちは、支配者なきルールの世界、つまり小国家が、たとえアメリカの指導力が失われた後でも、アメリカが築いた秩序の最良の部分を何とか維持できる世界が実現できると期待してきた。しかし、それは幻想(an illusion)に過ぎない。秩序は、最も強大な国々の関与なしには、ましてや反対を押し切っては維持できない。したがって、新たな冷戦や新たな帝国主義の時代に対する最も可能性の高い代替案は、無政府状態の混乱(an anarchic mess)である。

このシナリオでは、アメリカは暴走する。トランプのより暗い衝動は、残忍で規範を破る超大国の出現を予兆している。ワシントンは攻撃的な領土拡大に乗り出すだろう。アメリカは、武力や強制によって弱小国家から重要な資源を奪い取り、従属国家にますます大きな貢納(tribute)を要求し、非自由主義的なポピュリストのためにヨーロッパをはじめとする地域の政治に絶えず干渉している。アメリカは、自らのグローバルな役割を放棄するどころか、むしろ武器として利用している。

このような状況が深刻なのは、アメリカの行動によって、三大強国(米中露)全てが強欲で貪欲な歴史修正主義者として振る舞う世界が作り出されているからだ。特にユーラシア大陸の紛争地帯に位置する小国家は、四方八方から圧迫される危険に晒される。自助努力、つまり各国が自国のために戦うことこそが、唯一現実的な対応策と言えるだろう。

領土侵略、ひいては国家の消滅さえも、現状維持(status quo)や弱小国家の主権擁護に尽力する大国が存在しないために、はるかに頻繁に起こるようになる。自助努力の世界では、脆弱な国家が破壊され、従属させられ、あるいは分断されることになるだろう。ウクライナ戦争は、過去の醜い記憶ではなく、未来の予兆となるかもしれない。他の国々は、生き残るための最善策として核兵器を求めるなど、猛烈な勢いで軍備を増強するだろう。

一方、アメリカの力によって長らく抑え込まれてきた対立が再燃する可能性もある。ヨーロッパ連合が(おそらくアメリカとロシアの圧力によって)分裂する中で、ヨーロッパ諸国が再軍備を進めれば、かつてヨーロッパ大陸で頻繁に見られた軍拡競争と安全保障上の競争が再び激化する恐れがある。航行の自由はもはや過去のものとなるだろう。国際社会の安定が崩壊するにつれ、各国、さらには準国家主体(quasi-state actors)までもが、パナマ運河や北極海航路からバブ・エル・マンデブ海峡、ホルムズ海峡に至るまで、重要なチョークポイントの支配権を巡って争奪戦を繰り広げることになる。無法地帯と化した世界(a lawless world)では、貿易、資源、市場の物理的な支配がますます重要視されるようになり、それは征服の動機をさらに強めるだけである。

たとえ世界が最終的に新たな安定モデルを見出したとしても、1945年以降の輝かしい成果が、その間の混乱の中で失われてしまう可能性もある。

これは悪夢のように聞こえるかもしれない。しかし、歴史の視点から見れば、決して荒唐無稽な話(a stretch)ではない。

1900年代初頭のイギリス覇権の終焉は、すぐに新たな世界をもたらしたわけではない。それは数十年にわたる混乱の幕開けとなったのだ。イギリスの覇権が台頭する何世紀も前、当時は国際システムの中心地だった多極化したヨーロッパ(a multipolar Europe)は、専制政治と戦争の温床(a hothouse of tyranny and war)だった。

相対的な安定が常態であり、横行する残虐行為は例外であるという私たちの信念は、何世代にもわたるアメリカの穏やかな覇権が残した知的遺産(the intellectual residue)である。もしその覇権が終焉を迎えるか、あるいは略奪的なものへと変貌すれば、恐ろしい逆戻りに備えなければならない。

実際、無政府状態は私たちが考えているほど完全に抑圧されることはなく、自助努力の世界の兆候は既に現れている。アメリカの信頼性(U.S. reliability)に対する懸念は核への関心を刺激している。韓国と日本が原子力潜水艦の取得に関心を示していること、あるいはスウェーデンやドイツでさえ核兵器に関する議論が激化していることがその証拠だ。最悪の事態を想定した計画が広まりつつある。カナダは、何世代にもわたって初めて、アメリカの侵略から自国を守るための準備を進めていると報じられている。

新たな防衛協力関係が生まれつつあり、しばしば新たな緊張を生み出している。昨年締結されたパキスタンとサウジアラビアの防衛協定は既にインドの不安を煽っており、トルコが加われば、イスラエルとの中東における対立をさらに激化させる可能性がある。主要地域では、対立(rivalry)が激化している。ペルシャ湾岸地域は言うまでもなく紛争の渦中(awash in conflict)にある。しかし、複数の大国が資源と戦略的要地を巡って代理戦争(proxy wars)を繰り広げるリビアやアフリカの角地域における状況は、これから起こる多極化の混乱(multipolar disorder)を予見させるものかもしれない。

この混乱は永遠に続くものではない。いずれは新たなルールに基づく新たな階層構造(a new hierarchy)が確立されるだろう。しかし、パクス・ブリタニカとパクス・アメリカーナの間の空白期間を埋めるには、世界恐慌と二度の世界大戦が必要だった。たとえ世界が最終的に新たな安定モデルを見出したとしても、その間の混乱の中で、1945年以降の輝かしい成果が失われてしまったことに気づくかもしれない。

今この瞬間を、世界の政治がいくつもの道筋を辿る岐路について考えてみよう。それぞれの道が全く異なる目的地へと繋がるため、不確実性(uncertainty)は極めて大きい。すでに分かっているのは、次の時代は前時代よりも分断され、危険な時代になるということだ。

10年前、新たな冷戦は最悪のシナリオのように思われた。しかし今や、それはおそらく私たちにとって最良の希望と言えるだろう。二つの世界が存在するシナリオでは、危険な危機が頻発し、世界経済はさらに分断されるだろう。自信に満ち、好戦的な中国に対抗するには、民主政体陣営からの莫大な資源と卓越した知恵が必要となる。しかし、このシナリオは少なくとも、かつてディーン・アチソン元米国務長官が述べたように、「世界の半分(half a world)」を維持するものだ。それは、許容範囲内の勢力均衡を維持し、北京の最も野心的な衝動を抑えるために、十分な民主主義的協力が必要となることを意味する。他のシナリオ―宣伝されていたほど安定も利益も得られない新たな帝国の時代、あるいは再び混沌へと陥るシナリオ―は、より悲惨なものだ。そうした道は、パクス・アメリカーナ以前の時代がいかに悲惨だったかをほとんど忘れてしまった超大国を誘惑するかもしれないが、その結末は必ず暗黒に終わる。

皮肉なことに、アメリカは自らが築き上げた秩序のその後に何が起こるかについて、依然として大きな発言力を持っている。なぜなら、良くも悪くも、世界最強のアクターの選択が依然として最も重要だからだ。もしアメリカがトランプ政権の最良の政策を踏襲すれば、大きく動揺しながらも改革された民主政体共同体を、独裁的な圧力に抵抗するために必要な集団的努力へと導くことができるかもしれない。しかし、ワシントンが海外の舞台から撤退すれば、勢力圏争奪戦(a spheres-of-influence scramble)を招くことになるだろう。もしアメリカが反逆者(renegade)となれば、旧秩序を破壊しようとする修正主義者たちに加わり、世界を新たな自助努力の時代へと突き落とすことになるだろう。

トランプの折衷的な(eclectic)外交政策には、これら3つの傾向全てが見られる。今後数年間、そしてアメリカの選挙サイクルによって、これらの傾向のうちどれが定着し、覆すことがますます困難になるパターンへと発展していくかが決まるだろう。

グリーンランド併合に対するアメリカ国内の支持の欠如は、トランプの行き過ぎた行動が、いずれ彼の過激な本能を失墜させることを示しているのかもしれない。後継者、民主党であれ共和党であれ、より伝統的な外交政策の理念を、「アメリカ・ファースト(America First)」時代の国内政治の現実と融合させる方法を見出すかもしれない。その大統領は、トランプの混乱を緩和しつつ、彼の有益な遺産を活用して、新たな冷戦(a new cold war)に向けて自由世界を再構築するだろう。

あるいは、トランプの軍事冒険の一つが裏目に出る可能性もある。その結果、MAGA運動のネオアイソレイショニズム派、つまりタッカー・カールソンなどの評論家から影響を受けた派閥が勝利し、超大国が自国の勢力圏に固執することになるかもしれない。あるいは、共和党と大統領職におけるトランプの真の後継者は、彼がアメリカの力を駆使して既存秩序を破壊するには不十分だったと主張する人物かもしれない。革命が最終的に最も過激な勢力に乗っ取られるというのは、決して初めてのことではない。

旧秩序は崩壊しつつある。グローバル志向のリベラルな国際秩序を称賛したところで、それが復活するわけではない。今後10年間で答えを出すべき重要な問いは、ワシントンがその世界を、困難を伴うものの容認できるものに置き換えようとするのか、それとも現在の不確実性をさらに悪化させる方向へと推し進めるのかということだ。

※ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際関係大学院(School of Advanced International StudiesSAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念国際問題担当教授。アメリカ・エンタープライズ研究所上級研究員。マクロ・アドヴァイザリー・パートナーズ経営担当部長。Xアカウント:@HalBrands

(貼り付け終わり)

(終わり)

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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は膠着状態に陥っている。ホルムズ海峡の閉鎖が解かれなければ、世界経済の混迷は続く。石油価格の高騰や石油由来の物品の不足は続くことになる。現在、表ではパキスタン、裏では中国が米中間を取り持ち、和平の条件を整えている。アメリカとイラン両国はできるだけ自分に有利な条件でと考えているだろうが、落としどころを見つけて、一日も早く停戦合意、和平合意を達成してもらいたいところだ。アメリカはイランの核兵器開発能力の完全廃絶、イランは体制の保証、安全の保証を求めている。ここで問題になっているのは、「アメリカの信頼性の欠如」だ。より正確に言えば、「トランプのする約束の信頼性の欠如」だ。

 トランプは、前政権が行った約束を反故にするということをしてきた。たとえば、第一次政権時、バラク・オバマ政権がイランとの交渉の末締結した核開発に関する合意を放棄した。また、キューバとの間の国交正常化や経済関係正常化についても反故にする決定を行った。トランプはアメリカ政府の継続性を無視し、約束を反故にするということをしてきた。それがここにきて重荷になっている。「トランプが約束したとしてもそれが守られる保証はない」というのは非常に厳しい。しかしそれでもなお、和平交渉は再開され、和平合意は達成されなければならない。なぜなら、アメリカはこれ以上、大規模な攻撃はできないし、実行する意志もない。地上軍を派遣してイラン国内で大規模な戦闘を展開するということはもってのほかだ。

 イランはアメリカ側が音を上げるまで、嫌気がさして、「何でも言うことを聞く」というところを目指しているだろう。中国やパキスタンは「アメリカにも少しは花を持たせないと、現状が続くことはイランにとっても得策ではない」という説得を続けているだろう。そして、アメリカ側に対しては「トランプの信頼性のなさが問題だ」ということは伝えているだろう。そうなれば、「少なくとも外交に関してはJD・ヴァンス副大統領が主導権を握って進めてくれなければ困る」ということになるだろう。「いざとなれば、トランプを座敷牢に閉じ込めてでも」という決意をもって、責任をもって外交運営ができる人物はヴァンスであり、トランプ自身が後ろに引くことで、和平が進むということになる。トランプにとっては不満が募ることになるだろうが、和平がなければ中間選挙の結果もおぼつかず、そうなれば完全に無力化してしまうことになるとなれば、ここは妥協するしかないということになる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプのレッドラインは今や何の意味も持たない(Trump’s Red Lines Mean Nothing Now

―イランは、虚勢(bluff)、場当たり的な対応(improvisation)、そして服従の儀式(submission rituals)の上に築かれた大統領制の限界を露呈させている。

ファリード・ザカリア筆

2026年3月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/27/donald-trump-red-line-iran-war-barack-obama-syria-maga-foreign-policy-middle-east/

バラク・オバマ大統領の退任後、彼の外交政策における最大の誤りの一つは、シリアの「レッドライン(red line)」だったという見方が定説となった。オバマはシリアが化学兵器を使用すれば攻撃すると明言していたが、実際に化学兵器を使用した証拠が出てくると、介入(intervention)の是非を連邦議会に委ね、連邦議会は行動を起こさなかった。

当時、ドナルド・トランプはこれを「大惨事(a disaster)」と呼び、マルコ・ルビオ連邦上院議員(当時、フロリダ州選出、共和党)は「世代を超えて、そしてアメリカの評判を傷つける(generational and reputational damage)」出来事だと非難した。数年後、ピート・ヘグセスは、オバマの外交政策は「支離滅裂な迷路(an incoherent maze)」の一部だと批判した。リンジー・グラハム連邦上院議員(サウスカロライナ州選出、共和党)は、オバマが自ら引いたレッドラインを無視したことで、世界におけるアメリカの信頼性を失墜させる危険を冒したと説明した。

オバマのレッドラインの二転三転(flip flop)は、イラン・イラク戦争以降に見られる政策決定の模範例と言えるだろう。先週、トランプ大統領はソーシャルメディアに「イランが今この瞬間から48時間以内に、脅威を与えることなくホルムズ海峡を完全に開放しない場合、アメリカ合衆国はイランの様々な発電所を攻撃し、破壊するだろう。まずは最大の発電所から攻撃を開始する」と投稿した。

その後の展開は皆さんがご存じの通りだ。イランはこの脅威に屈することなく、攻撃と海峡封鎖を継続した。トランプ大統領の対応はどうだったか? 急遽方針を転換し、エネルギーインフラに関するあらゆる措置を5日間延期すると発表した。そして、突如として、一晩にして、イランとアメリカが「中東における敵対関係の完全かつ全面的な解決(complete and total resolution of our hostilities in the Middle East)」に向けた「生産的な協議(productive conversations)」を開始したと主張した。イラン側はこうした協議が行われていることを否定した。そして今、トランプ大統領は延期期間をさらに1週間半延長すると発表している。

トランプ大統領の評価が相対評価(on a curve)で行われていることは、もはや明らかだ。関税を130%に引き上げるとか、イラン最大のガス田を爆破するとか、「戦争はほぼ終結した(the war is very complete, pretty much)」などと言っても、これらの発言にはほとんど意味がない。これらは実際のアメリカの政策かもしれないし、そうでないかもしれない。あるいは、1日か1週間だけ政策として通用し、その後変更される可能性もある。戦争はほぼ終結したと発言した直後、トランプは同じ日に「私たちはまだ十分な勝利を収めていない(we haven’t won enough)」「敵が完全に、そして決定的に敗北するまで、私たちは決して諦めない(we’ll not relent until the enemy is totally and decisively defeated)」と断言した。イランの指導者たちと交渉することに同意したものの、彼らが次々と殺されるため交渉できなくなったと述べているが、実際に殺戮を行っているのは紛れもなくトランプ自身の軍隊(そしてイスラエル軍)である。これで全て理解できるだろうか?

トランプの支持者たちは、この矛盾こそが戦略的な天才の所業であり、人々を油断させているのだと主張する。しかし、その政策は様々な理由で変化しているようだ。例えば、株価が下落したり、標的国がトランプを称賛し、金塊を贈呈したりするかもしれない。トランプの最大の強みは、瞬時に方針転換できる柔軟性(he is flexible enough to turn on a dime)と、彼が提案するものなら何でも受け入れる支持基盤(a base that will accept anything he proposes)を持っていることだ。かつては中東戦争に断固反対していたトランプのMAGA支持者の多くは、今や改宗者のような熱狂ぶり(the zeal of converts)でこの中東戦争を信じている。トランプ大統領は敵対行為を終結させたいと明言しているものの、今回の問題は関税問題とは異なり、彼自身が始めたことを止めることができない点にある。イランには投票権があり、現在イランは戦闘継続に投票している。弱体化しているとはいえ、世界経済に打撃を与え、ひいてはアメリカに痛手を与えるだけの軍事力は依然として持っていると判断している。

世界にとって、もはやアメリカの信頼性などというものは存在せず、ただ主人公が危機を巧みに回避し、昨日の発言によって引き起こされた危機を今日の発言で解決できると期待する、奇妙なリアリティ番組のようなものになっている。イランの発電所を破壊すると脅迫する前日、トランプはアメリカがイランに対する軍事作戦を「縮小(winding down)」することを検討していると主張し、ホルムズ海峡の防衛は自分の問題ではなく、海峡を通過する輸入品を扱う他国が対処できると示唆した。また別の時には、他国の助けは必要ないと述べた。かつてビジネスマンたちは政策の不確実性を理由に前政権を非難していたが、今ではトランプの混乱の祭典がほぼ毎週市場を揺るがす中、彼らはこぞってトランプを称賛している。

トランプ大統領は、アメリカの強大な力を弄び、従わない者を罰し、従う者を褒賞することに慣れきっている。そうすることで、彼は数十年にわたって築き上げてきた信頼を、短期的な利益を得るために浪費している。時には、それは彼自身の家族のビジネス上の利益にもつながっている。しかし、イランにおいては、彼は自分のルールに従わない敵対者と対峙しているように見える。

※ファリード・ザカリア:CNN番組「ファリード・ザカリアGPS」司会者、著述家。最新作に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週に一度コラムを掲載し、『フォーリン・ポリシー』誌に転載されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

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