古村治彦です。
NATO(北大西洋条約機構)は冷戦初期に対ソ連、西ヨーロッパ防衛のために構築された多枠組みであり、創設されて約80年が経過している。その間に冷戦が終了し、対ソ連から対ロシアとなっているが、基本的な枠組みに変化はない。アメリカが主導する安全保障の枠組みということは変わらない。しかし、ドナルド・トランプが大統領になり、「アメリカ・ファースト」を掲げ、アイソレイショニズム(Isolationism)、「国内問題解決最優先」となり、NATOに対しては厳しい姿勢を取るようになっている。ヨーロッパ諸国の国防予算の対GDP比の引き上げを求め(これはジョー・バイデン政権でも進められていたが)、結果として、ヨーロッパ諸国は対GDP比5%(直接的な防衛予算3.5%、インフラ整備など1.5%)まで引き上げるということになった。現在が2%弱程度なので2倍弱の増加ということになる。ヨーロッパとしてはアメリカを何としてもNATOにつなぎとめて、西半球に引きこもらせないようにしたい。
今年7月にトルコで開かれたNATO首脳会談では何の破綻もなく、無事に終わることができた。これがNATOにとっての最大の収穫であったという評価になっている。「問題の先送りではないか」という批判も起きているが、NATOの解体が起きなかったことが何よりだということになっている。
NATOの現在の問題は、「共有された危機意識の欠如」が挙げられる。「ロシアによるウクライナ侵攻があったではないか」という指摘もあるが、ソ連に比べて、脅威としての「度合」がどうしても低くなってしまう。ソ連は共産主義の「輸出」も行っていたが、現在のロシアはイデオロギーに関しては脅威とはなっていない。また、「脅威」という点においては、中国が冷戦時代のソ連のような存在になっている。中国はイデオロギーの輸出を行っていないが、経済力と不干渉主義で西側以外の国々(the Rest)の指導的な立場に立っている。アメリカとしては、ヨーロッパではなく、「アジアに軸足を移す(pivot to Asia)」ということになる。この考え方自体は、バラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官時代から出ているものだ。アメリカとしてはヨーロッパの面倒は見切れないということになり、ヨーロッパとしてはこれまで通りお願いしますよ(自分たちであんまり防衛予算を払いたくないんです)ということになる。
ヨーロッパはロシアとの関係を改善すれば安全保障上の脅威は大きく減ることになる。そのことができないのはどうしてか。それはイギリスが邪魔をしているからだ。イギリスは伝統的にヨーロッパ大陸に時刻よりも強力な勢力が出てこないようにさせることを外交の根本原理にしてきた。ヨーロッパ諸国、特にドイツがロシアとの関係を改善することは、イギリスの「国益」にならないということになる。ドイツがロシアの安いエネルギーを大量に使えることはドイツの経済成長において重要である。イギリスはウクライナへの支援を継続しているが、これはウクライナ戦争を終わらせない、ロシアに出血を強いるためのものだ。ロシアとドイツを弱体化させることがイギリスの目的だ。しかし、そのために世界は不安定になっている。イラン戦争ではイスラエル、ウクライナ戦争ではイギリスが「悪」である。
話がそれてしまった。NATOという枠組みは今後も続いていくだろう。しかし、アメリカが国力の低下から西半球に引きこもるという選択をすることで、その性質は大きく変化していくことになるだろう。
(貼り付けはじめ)
NATOは依然として多くの難問を抱えている(NATO Is Still a Sick Puppy)
―アンカラ首脳会談は問題を先送りした(kicked the can down the
road)に過ぎない。
スティーヴン・M・ウォルト
2026年7月13日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/07/13/nato-trump-europe-summit-ankara-alliance-russia-defense-geopolitics/
トルコのアンカラで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議で会談するマーク・ルッテ事務総長とドナルド・トランプ米大統領(2026年7月8日)
2026年のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議は幕を閉じたが、歴史に残るような重要な会議ではなかった。もし共通の目的意識の再燃や、大西洋間の連帯感の回復を期待していたのなら、その期待が裏切られたことには同情を禁じ得ない。一方で、ドナルド・トランプ大統領特有の感情的な爆発をきっかけにNATOが崩壊するような事態を予想していたとしても、それもまた外れたことになる。実際に行われたのは、明白な緊張関係を意図的に無視し、大きな波紋を呼ぶような事態を避け、問題を先送りしようとする試みであり、その試みはおおむね成功したと言える。
しかし、幻想を抱くべきではない。この同盟は今や「山積する難問を抱える組織(a sick
puppy)」と化しているからだ。最強の加盟国が全てを台無しにして脱退するのではないかという懸念の中で首脳会議が始まり、最悪の事態は回避されたと皆が安堵して終わる。こうした状況が繰り返されること自体、戦略的な足並みの揃った結束や価値観の共有を示すものとは到底言えないだろう。
大西洋間の緊張の原因をすべてトランプ大統領のせい(これについては後述する)にしたくなる気持ちは理解できるが、NATOが抱える根本的な問題は構造的なものだ。軍事同盟それ自体が目的ではなく、あくまで国家が共通の脅威に直面した際、自国の安全を確保するための手段に過ぎないからだ。今日のロシアをどう見るかはさておき、NATO加盟国は、1949年の同盟結成当時のような、脅威の所在が明確で意識を集中させる必要があった状況には直面していない。確かにロシアは懸念すべき隣国ではあるが、かつてのソ連のような世界的な超大国ではない。ロシアがヨーロッパに対して深刻な覇権的脅威(a serious hegemonic threat)をもたらしているという懸念は笑止千万と言える。モスクワの脅威の度合いについてNATOのヨーロッパ加盟諸国間で意見は完全には一致しておらず、トランプ政権がロシアをそもそも脅威とみなしているのかどうかも定かではない。中国の台頭により、アメリカの戦略的関心は以前からヨーロッパから離れつつある。その理由は、中国が(ロシアとは異なり)真に対等な競争相手であること、そしてアジアが今やより大きな経済的舞台となっていることにある。私は、ヨーロッパが重要でないとか、NATOに価値がないと言っているのではない。ただ、ヨーロッパとアメリカを結びつけていた絆は、トランプが政界入りするよりもずっと前からすでに弱まりつつあったと言いたいだけだ。
以上のことから、NATOには新たな役割分担が必要であることは明らかだった。すなわち、ヨーロッパ加盟諸国が自国の防衛について徐々に主たる責任を担うようになり、一方でアメリカはアジアにより多くの資源と関心を向ける(focusing more resources and attention on Asia)という形だ。理想を言えば、こうした移行は10年ほどの歳月をかけて、わだかまりなく進められるべきものだった。アメリカは同盟諸国による軍の再建を支援し、変化する戦場の要件に適応できるよう協力し合うべきだった。バランスが再調整されたNATO(rebalanced NATO)であっても、アメリカやその他の加盟諸国にとって依然として重要な資産であり続けたはずだ。その理由は、ヨーロッパの静謐維持(これは全ての当事者に利益をもたらす)に寄与するからというだけでなく、単独行動よりもパートナーと協力する方が効果的なシナリオ(アフリカや中東での紛争など)が数多く存在するからだ。
残念なことに、円滑かつ友好的な調整の可能性は、2024年にトランプが再選され、アメリカのヨーロッパ同盟諸国に対して露骨に搾取的な姿勢を取るようになったことで断たれてしまった。トランプのヨーロッパに対する軽視の姿勢には長い経緯がある。例えば、ヨーロッパ連合(EU)は「アメリカを食い物にする(screw the United States)」ために創設されたという虚偽の主張や、かつては支持していたイタリアのジョルジア・メローニ首相を含むヨーロッパの要人たちへの軽蔑的な扱いにその姿勢は表れている。グリーンランドの領有を繰り返し示唆したり、恣意的かつ懲罰的な関税を課したり、さらにはロシアのウラジーミル・プーティン大統領に度々すり寄るような態度を見せたりしたことからも、ヨーロッパの安全保障や繁栄に対するトランプの関心が極めて希薄であることが浮き彫りになっている。2025年のミュンヘン安全保障会議におけるJ・D・ヴァンス副大統領の敵対的な演説(および、今年2月にマルコ・ルビオ国務長官が、多少は配慮ある表現を用いつつも同様の趣旨で語った内容)もまた、トランプの姿勢と軌を一にするものだった。ヨーロッパで高く評価されていた傑出した軍人である米陸軍のクリストファー・ドナヒュー将軍が、時期尚早かつ強制的に退役させられたことさえも、現政権の軽視の姿勢を反映したものと見なすことができる。
公平を期して言えば、トランプやその前任者たちが、それまでのヨーロッパの不十分な防衛努力について不満を抱いたのはもっともなことだった。実際、トランプの「陶器店で暴れる雄牛(bull-in-a-china-shop)」のような暴力的な手法が、ヨーロッパの長年にわたる安穏とした姿勢を打破する一助になったとさえ言えるだろう。ヨーロッパは今、第二次世界大戦後で最大規模の軍備増強に乗り出している。もっとも、アメリカが同盟諸国に対して経済戦争を仕掛けたり、イランとの実質的な戦争を始めたりしていなければ、この取り組みはより成功しやすかったはずだ。こうした失策は、アメリカの納税者に巨額の負担を強いただけでなく、ヨーロッパ経済がアメリカの役割を肩代わりしようとしていたまさにその時期に、ヨーロッパ経済に打撃を与えた。
トランプはまた、ウクライナ支援の負担をアメリカが過剰に負っていると固く信じていたが、EUやヨーロッパ各国もその分野で関与を強めてきた。彼は、ペルシャ湾での事態においてNATO加盟諸国が自分を助けなかったと不満を漏らし続けているが、彼らに相談することなく愚かな戦争を始め、その結果事態を悪化させた後で、一体何を期待していたというのだろうか?
アメリカ海軍でさえ成し遂げられなかったホルムズ海峡の開放という任務のために、なぜ彼らが自国の海軍を危険にさらさなければならないのか?
それでは、今日のNATOはどのような状況にあるのか? 第一に、ヨーロッパの指導者たちは、アメリカの関与がもはや信頼できず、いずれは自分たちだけで対処しなければならなくなることを明確に理解している。たとえ2028年の選挙でアメリカ人が筋金入りの大西洋主義者(つまりJ・D・ヴァンスでもマルコ・ルビオでもない人物)を選出したとしても、同盟を弱体化させてきた構造的な要因は依然として残るだろうし、トランプの「新たなヴァージョン」のような人物がいずれホワイトハウスの主になる可能性を完全に排除することはできないからだ。アメリカへの依存を減らす取り組みは、ヨーロッパ各国の国内政治や集団行動につきものの問題によって妨げられてきたが、彼らがその歩みを止めることはないだろう。
第二に、アンカラでの首脳会談は、ヨーロッパの人々がトランプを、言葉通りに受け取るべきでも、真剣に相手にすべきでもない人物だと見なすようになっていることも示した。彼らは、トランプがカメラを意識して振る舞ったり、時折常軌を逸した暴言を吐いたりすること(スペインとの貿易を遮断するという無意味な脅しなど)を理解している。しかし、そうした彼の虚勢を無視しつつ、アメリカへの依存を減らしていくことこそが賢明な対応だ。ポール・クルーグマンの意見に賛成だ。アメリカの同盟諸国は、トランプいついて、誰もが彼の遺言に名前を残しておきたいがために我慢している、老いぼれた金持ちの叔父のように見なすようになっているとクルーグマンは述べている。しかし、ジョンズ・ホプキンス大学SAISヨーロッパ校のナタリー・トッチが『ニューヨーク・タイムズ』紙に語ったように、「トランプの度重なる侮辱と空虚な脅迫は、もはや通用しなくなっている」。アンカラで見られたように、ヨーロッパの指導者たちは今や丁寧にうなずき、トランプが依然として切望する無意味なお世辞を述べ、彼の発言のほとんどを無視し、独自の考えを胸に秘めている。
現時点でヨーロッパ諸国の最大の目標は、十分な防衛力を構築するために必要な時間とアメリカの兵器を確保することにある。また、彼らはアメリカがウクライナを見捨てないことを望んでいる。そうすることでロシアに資金と兵員を消耗させ続け、最終的にはキエフが受け入れ可能な条件で戦争を終わらせたいと考えているからだ。したがって、トランプがウクライナでの「パトリオット」防空ミサイルの生産を許可すると約束したことは歓迎すべきニューズとなった。たとえウクライナがその高度なミサイルを実際に生産できるようになるまでには何年もかかるとしても、これは良いニューズだった。なぜかといえば、単にそれが、トランプが過去に見せていた態度よりもキエフに対して好意的な姿勢を示すものだったからだ。アメリカの核の保証を全面的に信頼するのは難しいとはいえ、トランプがヨーロッパのどこかを守るためにマール・ア・ラーゴを危険に晒すと本気で考える人がいるだろうか?少なくとも友好関係の体裁を保つことは、ある程度の抑止力になり得る。理性的であれば、外国の同盟諸国を守るためだけに核戦争を始める指導者はいないとしても、潜在的な侵略者は、偶発的な事故や誤算によって通常兵器による紛争が核戦争へとエスカレートする可能性を懸念せざるを得ないからだ。核の使用がもたらす甚大な代償を考えれば、「不確実な要素を残す」ような脅しであっても、十分な抑止効果を発揮し得るのである。
まとめると、アンカラでの首脳会談の主な目的は、何事もなく無難にやり過ごすことであった。その目的は達成された。しかし、それをNATOが極めて健全な状態にあることの証拠だと勘違いしてはならない。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。彼は、現代世界を理解・展望する上で不可欠な主要概念を解説する5部構成のニューズレター・シリーズ『新しい地政学(The New Geopolitics)』著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.social Xアカウント:@stephenwalt
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(終わり)

『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』

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