古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 世界政治

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 拙著『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』でも詳しく書いたが、西側諸国では、エネルギー高から波及しての、物価高が続き、ウクライナ支援も合わせて、「ウクライナ疲れ」「ゼレンスキー疲れ」が国民の間に生じている。「早く戦争を終わらせて欲しい」「取り敢えず停戦を」という声は大きい。

ウクライナ戦争勃発後、アメリカとヨーロッパ諸国(西側諸国)は、ロシアに対して経済制裁を科した。ロシアからの格安の天然ガスを輸入していたが、輸入を停止することになった。アメリカはそれに代わって、天然ガスをヨーロッパ向けに輸出することになったが、ヨーロッパの足元を見て、高い値段で売りつけている。これはヨーロッパ諸国の人々からの恨みを買っている。以下の記事では、西側諸国の制裁がロシアに大きな打撃を与えており、ヨーロッパ諸国の経済には影響を与えていないということだが、かなり厳しい主張ということになるだろう。
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 10年ほど前から、ヨーロッパ諸国で勢力を伸長させているポピュリスト勢力(アメリカのドナルド・トランプ大統領誕生も同じ流れ)は、プーティン寄りの姿勢を取り、ウクライナ戦争の停戦を求めている。これは、アメリカで言えば、連邦議会の民主党左派・進歩主義派議員たちと、共和党のトランプ派議員たちの考えと同じだ。彼らもまた、アメリカの国内世論の一部を確実に代表している。
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ポピュリスト勢力は人種差別的と批判される。そういう側面もあるが、彼らは既存の政治に対する、人々の不満を吸い上げ、代表している。エスタブリッシュメントたちが主導する政治が戦争をもたらしていると多くの人々が考えている。トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト(America First)」は「孤立主義(Isolationism)」を基礎としているが、これは「国内問題解決優先主義」と訳すべきだ。そして、「アメリカ・ファースト」は「アメリカが何でもナンバーワン」ということではなく、「アメリカのことを、まず、第一に考えよう」ということだ。ここのところを間違ってはいけない。ポピュリストたちに共通しているのは、「外国のことに首を突っ込んで、税金を浪費するのではなく、自国の抱える諸問題を解決していこう」ということであり、そうした側面から見れば、ポピュリストたちが違って見えてくる。

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ヨーロッパのポピュリストたちが制裁反対の戦いでクレムリンに加わる(European Populists Join the Kremlin in Anti-Sanctions Fight

-彼らは「制裁はロシアよりもヨーロッパを傷つける」と誤った主張を展開している。

アガーテ・デマライス筆

2024年3月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/11/russia-sanctions-oil-gas-populists-europe-elections/?tpcc=recirc_latest062921

ヨーロッパのポピュリスト政党の多くがロシアに友好的な傾向を持つことを考えれば、ヨーロッパのポピュリストたちがしばしばクレムリンの主張をオウム返しにしたがるのも当然と言えるだろう。最近では、極右から極左まで多くのヨーロッパの政党が要求しているように、欧米諸国の対モスクワ制裁の停止を求めることもその1つだ。

対モスクワ制裁解除要求の背後にある通常のシナリオは基本的なものだ。フランスの「国民連合(National RallyRassemblement National)」、ドイツの「ドイツのための選択肢(Alternative for GermanyAlternative für Deutschland)」、ハンガリーのヴィクトール・オルバン首相はいずれも、制裁は裏目に出ており、ヨーロッパ経済には打撃を与えているが、モスクワには打撃を与えていないと主張している。EU全域のポピュリスト政党が6月のヨーロッパ議会選挙に向けて準備を進めており、このような論調はますます目立つようになるだろう。だからこそ、このような誤った主張を論破する絶好の機会なのだ。

ロシアに好意的な政治家たちが最もよく口にするのは、制裁がヨーロッパの企業や消費者を破滅に追いやるというものだ。これらの主張の中で最も広まっているのは、制裁がヨーロッパにおけるエネルギー価格の高騰(およびインフレ)を引き起こしているというものだが、これは最も簡単に反証できる。2022年初頭に世界の炭化水素価格が高騰したのは、ロシアによるウクライナ攻撃とヨーロッパに対するガス恐喝がきっかけだった。欧米諸国がロシアのエネルギー輸出に制裁を課し始めたのは、その年の11月であり、石油・ガス価格はすでに下落していた。

もう1つの主張は、制裁がロシア市場へのアクセスを失ったEUの輸出志向企業にペナルティを与えているというものだ。しかし、現実はもっと穏やかなものだ。ロシアはEU企業にとって決して主要な市場ではなく、2021年にロシア企業がEUの輸出品のわずか4%を購入したにすぎない。EUの対ロ輸出の約半分が制裁の対象となることを考えると、EUの輸出のわずか2%が影響を受けることになる。

フランスの研究機関である国際経済予測研究センター(Centre d'Etudes Prospectives et d'Informations Internationales)の国家レヴェルのデータは、この評価を裏付けている。それによると、対ロ制裁がフランス経済に与える影響はほとんど無視できるもので、フランスの輸出のわずか0.8%、約40億ユーロ(44億ドル)しか影響を受けていない。視点を変えれば、これはフランスのGDPの0.1%ほどに相当する。この調査はフランスのみを対象としているが、おそらく他のEU経済圏でもこの調査結果は劇的に変わることはないだろう。ドイツ企業と並んで、フランス企業はヨーロッパでロシアと最も深い関係にある企業である。このことは、他の多くのヨーロッパ諸国の企業は、より少ない影響しか受けていないことを示唆している。

制裁がヨーロッパ経済を圧迫しているというクレムリン寄りの主張の別のヴァージョンは、EU企業が制裁のためにロシアへの投資を断念せざるを得なかったという考えに基づいている。例えば『フィナンシャル・タイムズ』紙は、ウクライナへの本格的な侵攻が始まってから2023年8月までの間に、ヨーロッパ企業はロシア事業から約1000億ユーロ(約1094億ドル)の損失を計上したと計算している。

この数字は正確かもしれないが、制裁と大いに関係があるという考えは精査に耐えない。現段階では、制裁によってヨーロッパ企業がロシアでビジネスを行うことは、防衛など一部の特定分野を除けば妨げられていない。それどころか、ヨーロッパ企業のロシアでの損失には他に2つの原因がある。1つは、風評リスクを恐れ、ロシアの税金を払いたくないためにモスクワの戦争に加担したくないという理由で、多くの企業が撤退を選択したことだ。

損失の第二の原因は資産差し押さえの急増で、クレムリンは多くのヨーロッパ企業に、場合によってはわずか1ルーブルの価値しかない資産の売却を迫っている。言い換えれば、仮に制裁がない世界であったとしても、かつてロシア市場に賭けていたヨーロッパ企業は現在、大規模な損失に直面している。もちろん、クレムリンは、収用は制裁に対する報復手段に過ぎないと主張している。この台詞は、欧米諸国の侵略から自国を守るためだけだというモスクワのインチキ主張の長いリストの、もう1つの項目にすぎない。

ヨーロッパのポピュリスト政治家たちが好んで売り込むもう1つの論点は、ロシアのエネルギーに対するヨーロッパの制裁は、これまで見てきたように、コストがかかるだけでなく、役に立たないというものだ。この神話(myth)にはいくつかのヴァージョンがあるが、最もポピュラーなものは、G7とEU加盟諸国が合意したEUの石油禁輸と石油価格の上限は、ロシアの石油生産者に影響を与えないというものだ。それは、ロシアは、ヨーロッパ向けの石油をインドに振り向けることができるからだ。

実際、以前はヨーロッパ向けだったロシアのバルト海沿岸の港からの原油輸出の大部分は、現在インドの精製業者が吸収している。しかし、このような見方は、モスクワにとってインドの精製業者に石油を売ることは、ヨーロッパに売るよりもはるかに儲からないという事実を無視している。インドへの航路は、ヨーロッパへの航路よりもはるかに長い(したがってコストが高い)。加えて、インドのバイヤーたちは値切ることができる。彼らは、ヨーロッパ市場の損失を補うことでクレムリンの好意を受けていると考えており、そのためロシア産原油の急な値引きを受ける権利がある。

キエフ経済学院の研究によれば、ロシアの損害は無視できるものではないという。過去2年間で、クレムリンは推定1130億ドルの石油輸出収入を失ったが、その主な原因はEUによるロシア産石油の禁輸だった。EUの禁輸措置とG7とEUの石油価格上限がともに完全に効力を発揮した昨年、ロシア全体の貿易黒字は63%減の1180億ドルに縮小し、ウクライナ戦争を遂行するためのクレムリンの財源に制約を課すことになった。

ロシアの石油輸出企業にとって、今年は良い年にならないかもしれない。先月クレムリンは、輸出収入の減少を国家に補填するため、石油会社は利益の一部を放棄する必要があると発表した。ロシアの石油会社ロスネフチなどにとって、モスクワが国内のエネルギー企業に戦争資金調達への直接的な協力を求めるのは初めてのことだ。

制裁の実施が強化されるにつれ、制裁は無意味だという考えはさらに薄れていくだろう。 2023年10月以来、アメリカはG7とEUの原油価格上限を回避してロシア産原油を輸送していたタンカー27隻に制裁を課しており、これにより、どちらかの圏に拠点を置く企業がこれらのタンカーと取引することは違法となる。これは西側諸国の制裁解釈の劇的な変化を浮き彫りにしている。最近まで、価格上限はG7かEUを拠点とする海運会社または保険会社がロシア石油の輸送に関与する場合にのみ適用されていた。ワシントンは現在、西側企業とのつながりをより広範囲に解釈している。

たとえば、ロシアの幽霊船団(ghost fleet)のかなりの割合を占めるリベリア船籍のタンカーは、リベリアがアメリカを拠点とする企業に船籍業務を委託しているため、現在では石油価格上限の対象となる。これと並行して、西側諸国はインドの石油精製業者への圧力を強め、ロシアからの石油供給を止めるよう働きかけている。クレムリンを落胆させているのは、こうした努力が功を奏しているように見えることだ。今年に入ってから、インドのロシア産原油の輸入量は、2023年5月のピークから徐々に約3分の1に減少している。

制裁はロシアに損害を与えるよりもヨーロッパに損害を与えるというポピュリストたちの主張は、精査に耐えられない。現実には、これらの措置がヨーロッパ企業に与える影響は小さいが、ロシアは原油のルートを欧州から外そうとしているため、ますます逆風に直面している。

制裁にはコストがかかり、効果もないという主張を否定するのは簡単だが、このシナリオがすぐに消えることはなさそうだ。ロシアに好意的な政治家たちがヨーロッパ議会やその他の選挙に向けてキャンペーンを強化するにつれ、このような主張が今後数週間でますます広まることが予想される。制裁がロシアに深刻な影響を及ぼしていないのであれば、クレムリンと西側の同盟国は制裁を弱体化させるためにこれほどエネルギーを費やすことはないだろう。

※アガーテ・デマライス:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ヨーロッパ外交評議会上級政策研究員。著書に『逆噴射:アメリカの利益に反する制裁はいかにして世界を再構築するか』がある。ツイッターアカウント:@AgatheDemarais

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ジョージ・W・ブッシュ大統領(在任:2001-2009年)の外交政策は、ネオコン派と呼ばれる人々によって牛耳られていた。彼らは、介入主義を基盤とする、外交政策を展開した。2001年9月11日の同時多発テロ「911事件」の報復として、アフガニスタン(2001年)とイラク(2003年)に侵攻した。その当時の両国の政権を倒すことはアメリカにとっては容易(たやす)いことだった。それからはアメリカ軍が占領しながら、新体制、新政権を樹立することになった。それからは厳しい状況が続いた。自爆テロや地元の人々の反感を受けて、アメリカ軍の占領は泥沼状態に陥った。結局、アメリカ軍(と同盟諸国の軍隊)は両国から撤退し、両国の状態は大きく改善(西側の視点から)されることはなかった。ベトナム戦争からの撤退を思い出させる混乱があった。

 そもそも論として、アメリカは外交政策を失敗したのだ。安易な介入主義、「アメリカの力をもってすれば、一国の政治体制を変革し、資本主義と民主政治体制を確立することは可能だ」という介入主義の傲慢さが、泥沼化(quagmire)を招き、最終的にはアメリカ軍は撤退するに至った。ブッシュ政権のネオコン派による外交の失敗、介入主義の失敗が、バラク・オバマ大統領を誕生させた。しかし、オバマ政権(リアリズム外交を志向した)も、1期目にはヒラリークリントンを国務長官に据えて、「アラブの春」を演出した。アメリカ軍が介入することはなかったが、介入主義の外交政策が続き、結局それらは失敗に終わった。アメリカの権威を大いに傷つける結果となった。

 介入しての体制転換、政権交代、新体制樹立が成功したのは、敗戦後の日本だ。アフガニスタンやイラクへの侵攻が行われた後、アメリカ国内のメディアでは、「イラク(アフガニスタン)は次の日本になれるか」というようなタイトルや趣旨の記事が多く出た。結局、失敗したのであるが、日本における、特殊な成功体験が、アメリカを狂わせたということになる。「あれだけ激しく抵抗した日本が戦後はおとなしく属国になり果てた」ということが、歴史的に見れば、アメリカの失敗を引き出したということになる。

(貼り付けはじめ)

バイデン政権の外交政策の原罪(The Original Sin of Biden’s Foreign Policy

-ジョー・バイデン政権の外交的弱点は全て、アフガニスタンからの撤退に既に現れていた。

ジョン・カンプナー筆

2024年5月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/05/the-original-sin-of-bidens-foreign-policy/?tpcc=recirc062921

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ワシントンDCのホワイトハウスのイーストルームから、アフガニスタンのカブール情勢について語るジョー・バイデン米大統領(2021年8月26日)。

数週間前、トロントで私は20代半ばの若いアフガニスタン女性に会った。彼女はアフガニスタンの国際援助機関で働いており、精神の健康に関する問題に苦しむ女性たちを支援していた。2021年にタリバン軍が国中に押し寄せる中、彼女は外国人と協力したことで罰せられることを知り、必死に逃げようとした。彼女は最終的に弟と妹と一緒に脱出し、まずイランを経由してブラジルへ逃亡した。その後、彼女は南米を縦断し、パナマのジャングルを抜け、ドナルド・トランプ元大統領の壁を乗り越え、アメリカを通過し、最終的にはカナダに至るという危険な旅を経験した。
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彼女の物語はその勇敢さにおいて並外れたものだが、決して特別なものではない。数え切れないほどのアフガニスタン人が、殺人、拷問、レイプ、強制結婚から逃れるためにできる限りのことをした。カブールの空港から避難する際、西側諸国の軍隊によって空輸された幸運な人たちもいた。多くの人々が故郷に捨てられ、運命に翻弄された。また、危険な旅に出た人たちもいる。幸運な人たちは新しい生活を始めたが、それ以上の人たちは難民キャンプに取り残されている。数え切れないほどの人々が、危険な旅の途中で命を落とした。
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こうした人々は全て、統計の数字であり、より大きなパワーゲームの犠牲者である。彼らは、2001年のアメリカによる侵攻の瞬間から、20年後の悲惨な撤退まで、アフガニスタンにとって何が最善かを知っていると主張していた、アメリカとその同盟諸国に失望させられてきた。3500人以上の外国の将兵たちが戦死された「不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom,)」は、永続する自由をもたらしたわけではなく、アフガニスタン人に与えられた、より良い生活というつかの間の希望だけが、突然そして残酷に打ち消された。

その中で、1人の男が傲慢であった。ジョー・バイデン米大統領は、前任のドナルド・トランプ大統領が打ち出した方針を貫いた。バイデンはホワイトハウスに入るずっと以前から、アフガニスタンとイラクでの無益と思われる軍事作戦に何十万人ものアメリカ軍が投入されることを批判していた。これは、バイデンがトランプの仕事を引き継いだ、アメリカの外交・安全保障政策のいくつかの分野の1つであった。2021年8月にカブール国際空港で起こった、半世紀前のサイゴン陥落を彷彿とさせるような恐ろしい光景の中でさえ、バイデンは自らの評価に固執した。バイデンは「私はこの永久戦争(forever war)を延長するつもりはなかったし、永遠の撤退を延長するつもりもなかった」と述べた。

逆襲の中、連邦議会による多くの調査が行われ、大失敗から数カ月の間に、多くの報告書が発行された。映画も作られ、何が起こったのか、誰に最も重い責任があるのかを説明する本も多く書かれた。それとは対照的に、政策立案者や軍の最高責任者たちはすぐに次の段階に移った。彼らの関心は、ロシアのウクライナ侵攻、そしてイスラエルとハマスの紛争という中東問題へと移った。その間も、中国は西側諸国の利益に対する、長期的な最大の戦略的脅威とみなされている。公平を期すなら、ワシントンやその同盟諸国が、アフガニスタンに駐留し続けるだけの資源や政治的支持を持つとは考えられない。

それにもかかわらず、道徳的な観点だけでなく、政策立案の観点からも、アフガニスタンで何が間違っていたのかに立ち返ることは有益である。アフガニスタンからの撤退は、その後の世界を包んでいる、絶えることのない危機の多くがそうであったように、外交官や軍人たちが善意と誠実な努力で、できる限り多くの人々を守ろうとした物語だった。しかし、それはまた、現地の担当者たちと政治的意思決定者たちの致命的な判断ミスの物語でもあった。

当時のイギリス大使であったローリー・ブリストウによる新たな証言(アメリカでは近日発売予定だが、イギリスではすでに発売されている)は、この大惨事が展開された際の重要な洞察を更に深めるための材料となる。

ブリストウは、2021年6月14日にカブールに到着する前から、自分の任期が短いことを分かっていた。2020年2月29日にトランプ政権が、カタールのドーハでタリバンと署名した「アフガニスタンに平和をもたらす」ための協定(agreement for “bringing peace to Afghanistan”)は、現代の最も評判の悪い協定の1つだった。タリバンが合意されたスケジュールを遵守し、どういう訳か、信じられないことに、より現代的なものに改革したと信じるのは世間知らずだったばかりでなく、キャンペーンを通じて、他の主要な参加者、つまりアフガニスタン政府そのものとアメリカ政府、重要な同盟国、特にイギリスをこれ見よがしに排除した。

2021年前半を通じて、アメリカが兵力を削減することで自国の立場を守ったため、不吉な予感はたちまちパニックにつながった。タリバンはほとんど抵抗を受けることなく、アフガニスタン国内を席巻した。

イギリス大使館にとっての主な任務の一つは、アフガニスタン移転・援助政策(Afghan Relocations and Assistance PolicyARAP)に基づいてどのアフガニスタン人が出国の資格があるかを特定することであった。ブリストウは、日記形式で書かれた自身の説明の中で、運命に見捨てられたらどうなるかを知っていた地元の従業員やアドヴァイザーたちとの困難な会議について説明している。

ブリストウは85日の日記の中で次のように書いている。「私たちは戦没者慰霊碑の隣にある大使館の庭に輪になって座り、必要な人のために男性の1人が通訳となった。私は1人ずつ発言するよう呼びかけた。女性たちが最初に、まとまった長さで話した。そのうちの1人、年配の女性は自信に満ち、自然な威厳をもって話し、男性にまったく譲らなかった。空気には恐怖と怒りがあり、涙も見られたが、アフガニスタン人本来の礼儀と威厳で和らげられた」。ブリストウは続けて次のように書いている。「彼らの目を見て、出国の申請を拒否したのは正当な判断だと思うと言うのは不可能だった」。

何人かは幸運だったが、ほとんどはそうではなかった。いずれにせよ、事態は収拾がつかなくなり、本国の官僚たちが申請を処理し続けることは不可能だった。数日もしないうちに、イギリスをはじめとする、諸外国からの軍隊は大使館を空港に避難させる準備をしていた。彼らはタリバンにプロパガンダの勝利を提供できるものは全て処分した。ブリストウは「女王の写真、旗、公式ワインショップ、全てを撤去するか、破壊しなければならなかった」と書いている。

タリバンによる8月15日の占領宣言から8月21日の最終撤退までの最後の日々の混乱した光景は記憶に刻まれている。ブリストウは次のように回想する。「空港は膨大な数の人々に圧倒されて混雑していた。アメリカ軍だけでも約1万4500人が飛行場にいて、カブールから空輸されるのを待っていた。ゲートや北ターミナルの周り、どこに行っても、どこを見ても、日よけの下、屋外、出入り口に人がいた。子どもたち、年老いた親、惨めな荷物など、ボロボロのケースやスーパーマーケットのビニール袋に人生全体が詰め込まれていた」。

故郷のホワイトホールでは、夏休みのピーク時期だった。ドミニク・ラーブ英外務大臣は家族とともにギリシャに滞在しており、休暇の邪魔をされたくないと怒って主張した。ティームがカブールとロンドンでできるだけ多くの人々を避難させるために24時間体制で活動している一方で、政治工作員たちには別の優先事項があった。ブリストウはこれを「非難と責任転嫁の醜いゲーム(an ugly game of recrimination and buck-passing)」と形容し、次のように付け加えた。「ロンドンの一部の人たちの優先事項は、閣僚とその側近たちに個人的かつ政治的な恥をかかせないことだと私には見えた。現場の人々からの助言、評価、福利厚生は二の次だった」。ボリス・ジョンソン政権時代の最も不運な閣僚の一人であったラーブ外相は、その職をめぐって多くの競争があったが、その後すぐに政治家としてのキャリアが消滅することになった。

ブリストウの全体的な評価は注目に値する。彼は次のように述べている。「アフガニスタン作戦の失敗は、資源不足のためではなかった。2011年、『オバマ・サージ』の最盛期には、NATOは13万人以上の兵力をアフガニスタンに展開していた。イギリスは2001年から2021年にかけて、アフガニスタンへの軍事作戦と援助に300億ポンド以上を費やした。20年間で1兆ドルから2兆ドルで、この間のアフガニスタンのGDPの累計を上回った。しかし、20年近くにわたって行われたこれらの莫大な支出は、アフガニスタンに平和も安定も良い統治ももたらさなかった」。

ブリストウは続けて次のように書いている。「ドーハ合意は、交渉による解決を達成するための真剣な試みとして理解されれば、史上最悪の合意の有力な候補となる」と付け加えている。しかし、そうではなかった。トランプ大統領の合意は、アメリカの選挙日程というかなり異なるものによって推進された」。ブリストウが会ったアフガニスタンに詳しい人は皆、「トランプ大統領とタリバンとの間の酷い内容の合意と、その後のバイデン大統領の失敗に終わった撤退実行に愕然とした」と述べている。

2024年の多くの危機の渦の中で、アフガニスタンは既に歴史の脚注のように感じられる。ブリストウは、アフガニスタンの失敗がもたらした多くの教訓の1つは、アメリカと同盟諸国との間の協力のあり方だと書いている。ブリストウは「イギリスはジュニア・パートナーであり、アメリカの意思決定に対して対等な発言権はなかった。私たちが軍事的撤退を賢明でなく、熟慮が足りないと考えたからといって、アメリカの方針が変わることはなかった」と書いている。これは言い換えれば、トランプ流とバイデン流の「アメリカ・ファースト」(“America First,” Trump-style and Biden-style)の最初の大きな試練であり、他の誰もがその後塵を拝した。バイデンが再選されようがされまいが、他の紛争地域でもこのようなことが起こるのは間違いない。

ジョン・カンプナー:『なぜドイツ人はうまくやれるのか:成熟した国からの教訓(Why the Germans Do It Better: Notes from a Grown-Up Country)』の著者。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)が刊行されました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 外交政策について語る際に、よく引き合いに出されるのが、「ミュンヘンの教訓(lessons of Munich)」だ。これは、1938年に、イギリスのネヴィル・チェンバレン首相、フランスのエドゥアール・ダラディエ首相、ドイツのアドルフ・ヒトラー総統、イタリアのベニート・ムッソリーニ総統が会談を持ち、ドイツの東方への拡大要求を受けて、チェコスロヴァキアのズデーデン地方をドイツに割譲するという合意を行った。チェコスロヴァキアの意向は全く無視された。チェンバレンは戦争を避けた英雄としてイギリスで歓迎されたが、結果としては、ドイツはポーランドに侵攻することで、平和は破綻し、英仏はドイツに宣戦布告し、第二次世界大戦となった。「独裁者の言うことを真に受けて、譲歩することで宥めようとしても失敗する」という「宥和(appeasement)」の失敗、として、ミュンヘン会談は「ミュンヘンの教訓」と呼ばれている。

 「宥和」という言葉は外交政策分野では評判が悪い。それは、「独裁者に譲歩しても、つけあがらせるだけで、何の得もない」のだから、「独裁者とは交渉しない、叩き潰すのみだ」ということになるからだ。しかし、下の記事にあるように、「宥和」は有効な外交手段になり得る。「ミュンヘンの教訓」で、後任首相のウィンストン・チャーチルに比べて評判の悪いチェンバレンの意図や計画を考えると、ミュンヘン会談での譲歩は間違っていなかったという評価になる(結果は良くなかったかもしれないが)。

 そして、「宥和の過小評価」は、アメリカ式の「独裁者とは交渉取引などしない、叩き潰すのみ」という介入主義的外交政策を正当化する際に使われる。しかし、アメリカは、自分たちに大きな被害が出そうだと考える相手とは事を構えない。自分たちの被害がほとんど出ないだろうと考える相手には威丈高に対応する。しかし、それが失敗に終わることがある。アフガニスタンやイラクに関しては失敗だった。そして、ウクライナ戦争に関しても、計算間違い、認識間違い、誤解を山ほどしてしまい、現状のようになっている。

 「独裁者が攻撃的だ(他国を侵略する)」ということも、詳しく調べてみれば、ほとんど当てはまらない。ヒトラー(ヨーロッパや北アフリカ)やムッソリーニ(エチオピア)といった少数の例を過度に単純化して、一般化してしまうのは危険なことだ。そして、「だから、宥和してはいけない、交渉取引をしてはいけない」となるのは、外交政策を制限してしまい、結局、武力による排除しかなくなる。それでは、アメリカがロシアや北朝鮮を攻撃するだろうか。彼らにはそこまでのチキンゲームをやる度胸があるだろうか。核兵器を積んだミサイルがアメリカ領内に飛んでくる危険性が少しでもある場合、アメリカは攻撃できない。

 交渉取引をして、独裁者とも共存すると書けば、非常に悪いことのように思われるが、それが外交であり、国際関係であり、リアリズムということになる。そして、リアリズムを貫くためには、単純な一般化ではなく、歴史をはじめとする知識を積み重ねての判断が必要となる。

(貼り付けはじめ)

宥和は過小評価されているAppeasement Is Underrated

-ネヴィル・チェンバレンのナチスとの取引を引き合いに出して外交を否定するのは、故意に歴史を無視している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年4月29日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/29/appeasement-is-underrated/

私は検閲には反対だが、政治家や評論家たちがネヴィル・チェンバレンやいわゆる「ミュンヘンの教訓(lessons of Munich)」を引き合いに出して、自分たちの提言を擁護するのを止めれば、ここアメリカでの外交政策論争は劇的に改善するだろう。この歴史的エピソードが、今日アメリカが何かをすべき理由を説明していると言われるたびに、私はいらない商品を売りつけられたのではないかと疑いたくなる。

私が何について話しているか、読者の皆さんはお分かりだろうと思う。今から約86年前、当時のイギリス首相ネヴィル・チェンバレンがミュンヘンでナチス・ドイツの代表と会談したのは、ドイツにスデーテンラント(当時のチェコスロヴァキアの一部で、ドイツ系民族の割合が多い)を獲得させれば、アドルフ・ヒトラーの修正主義的野心が満たされ、「我々の時代の平和(peace for our time)」が保証されると考えたからだと思われる。

しかし実際にはそうならなかった。ヒトラーはチェコスロヴァキアの残りを占領し、1939年9月にはポーランドに侵攻した。その結果、第二次世界大戦が勃発し、数百万人が悲惨な死を遂げた。それ以来、政治家や評論家たちは、ミュンヘンでヒトラーを阻止できなかったことを、おそらく世界史上最も教訓的なエピソード、二度と繰り返してはならない国家運営の誤りとして扱ってきた。

これらの人々にとって、いわゆる教訓とは、独裁者は不変の攻撃性を持っており、決して彼らを宥めようとしてはならないということである。それどころか、彼らの目的には断固として抵抗しなければならず、現状を変えようとするいかなる試みも断固として阻止し、必要であれば完膚なきまでに打ち負かさなければならない。ハリー・トルーマン元米大統領は、朝鮮戦争へのアメリカの参戦を正当化するためにミュンヘンを持ち出し、アンソニー・イーデン英首相(当時)は1956年のスエズ危機の際にエジプト攻撃を決断した。ミュンヘンの教訓は今日でも大いに流行している。今年2月、大西洋評議会のフレデリック・ケンペ会長は、ウクライナに関する議論に「宥和の悪臭(stench of appeasement)」が漂っていると書いた。そしてつい先週、米連邦下院外交委員会のマイケル・マコール委員長は、ウクライナに対する最新の支援策の採決を控えた同僚たちに次のように促した。「皆さん、自分に次のように問いかけて欲しい。私はチェンバレンか、それともウィンストン・チャーチルか?」

はっきりさせておきたい。もし私が米連邦議員だったら(これは確かに恐ろしい考えであるが)、私は、窮地に陥っているウクライナ人にさらなる援助を提供することを支持するだろう。しかし、それは、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が、ナチス・ドイツと同じようにヨーロッパ全土で戦争を仕掛けることに熱中している、もう一人のヒトラーであると私が考えているからではない。1938年にミュンヘンで起こったことは、今日私たちが直面している問題とはほとんど無関係であり、それを持ち出すことは、情報を与えるというよりも誤解を招く可能性が高い。これはバンパーステッカーに書いてある「シリアス・アナリシス(Serious Analysis)」のようなことだ。

第一に、ミュンヘンの教訓を引き合いに出す人は、1938年に実際に何が起こったのかをほとんど理解していない。その後の神話とは対照的に、チェンバレンはヒトラーについて世間知らずではなかったし、ナチス・ドイツがもたらす危険性にも気づいていない訳ではなかった。とりわけ、チェンバレンは1930年代後半のイギリスの再軍備の取り組みを支持した。しかし、彼はイギリスが戦争の準備ができているとは考えておらず、ミュンヘンでの合意は英国の再軍備を進めるための時間稼ぎの方法であると考えていた。ミュンヘンで合意された内容が、ヒトラーを満足させ、ヨーロッパの平和を確保することを望んでいたが、それがうまくいかなかった場合、最終的に戦争が起こったときにイギリス(とフランス)はより有利な立場で戦うことになるだろう、とチェンバレンは考えていた。

チェンバレンの考えは正しかった。1940年の春までに、イギリスとフランスはドイツよりも多くの兵力を準備しており、低地地方の戦いでの彼らの急速かつ予想外の敗北は、戦車、兵員、戦闘機の不足のせいではなく、戦略と諜報の失敗によるものだった。

更に言えば、1938年により強硬な姿勢を取ったとしても、ヒトラーの戦争開始を阻止できなかったであろう。ヒトラー自身も、ミュンヘンでの成果に深く失望していたことが分かっている。ヒトラーは、開戦理由(casus belli)を手に入れることを望んでいたが、チェコスロヴァキアを軍事的に粉砕するという、彼が熱望していた機会は、チェンバレンの外交によって否定された。ヒトラーが攻撃を命令していれば、侵略に反対したドイツ軍将校たちは、彼を追放できたかもしれないが、たとえ試みられたとしてもそのような陰謀が成功するという保証はない。不愉快な真実は、ヒトラーは遅かれ早かれ戦端を開こうと考えていて、1938年の結果が異なっていても、第二次世界大戦は防げなかったであろうということだ。

第二に、ミュンヘンの教訓への永続的な執着は、1つの個別の出来事に重きを置きすぎており、大国間で生じた妥協や合意を本質的に無関係なものとして扱っている。歴史を利用するこれほど愚かな方法を想像するのは困難だ。このことはつまり、あるエピソードを普遍的に有効なものとして扱い、別の物語を伝える出来事を注意深く無視することである。中華料理店でたまたまおいしくない食事を食べたとしても、全ての中華料理店はまずいと結論付け、二度と中華料理店などでは食事をしないと決意するのは愚かなことだと分かるだろう。しかし、指導者や評論家たちは、あたかもミュンヘンの教訓だけが歴史から得られるものであるかのように、ミュンヘンでの出来事をこのように利用している。

より具体的に言えば、ミュンヘンの教訓について、繰り返し激しく議論することは、大国がライヴァル国と相互に利益をもたらす協定を結ぶことで、戦争をせずに自らの安全を確保した、全ての機会を都合よく切り捨てることになる。私たちは、適応の成功例を見逃しがちだ。なぜなら、結果が目立ったものでなくても、人生は続いていき、私たちの注意を引く大きな戦争が起こらないからだ。しかし、この種の「非出来事(nonevents)」は、国家が意見の相違を解決できずに戦争に突入したというより、劇的な状況と同じくらい有益である可能性がある。

宥和の成功例を探している? 中立宣言(declaration of neutrality)と引き換えにソ連軍を同国から撤去させた、1955年のオーストリア国家条約はどうだろうか? あるいは、軍備競争を安定させ、核戦争の可能性を低くするのに役立った、アメリカとソ連の間で交渉された、各種の軍備管理条約(arms control treaties)について考えてみよう。ジョン・F・ケネディ米大統領は、ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフがキューバに設置しようとしていた核搭載ミサイルについて、フルシチョフがそれらを撤去する代わりに、トルコに配備していたジュピター・ミサイルを撤去することに同意することで、ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフを宥めた。リチャード・ニクソン米大統領とヘンリー・キッシンジャー国家安全保障問題担当大統領補佐官(当時)は、中国の最高指導者の毛沢東が、冷酷な独裁者であり、数百万の人々の氏に責任があったにもかかわらず、毛沢東率いる中国との「一つの中国」政策(“One China” policy)に合意した際に、同様のことを行った。これは冷戦におけるアメリカの立場を改善する動きだった。何百万もの人々の死の原因となった。

そして、歴史家のポール・ケネディがかなり前に主張したように、大英帝国がこれほど長く存できた理由の1つは、潜在的な挑戦者に対して限定的な譲歩をする、つまり、彼らを宥めようとする指導者たちの意欲があったことで、それによって、直面する敵の数が減ったからだ。帝国の領土を複数の敵から同時に防衛しようとする負担を軽減した。1938年に焦点を当てるのを止めて、より広範囲に目を向けると、時代を超越していると思われるミュンヘンの教訓は、はるかに説得力がなくなるように思われる。

第三に、ミュンヘンの教訓が独裁者への対処法を教えてくれているという主張には、注目すべき矛盾が含まれている。第二次世界大戦の犠牲とホロコーストの恐怖を考えると、当然のことながら、私たちはヒトラーを歴史上最も邪悪な人物の1人と見なすようになった。良いニューズは、ヒトラーほど堕落して、無謀な指導者は珍しいということだ。もしそうだとすれば、そして、ヒトラーの誇大妄想(megalomania)、人種差別(racism)、リスクを冒す自殺願望(suicidal willingness)の組み合わせが、ヨーロッパにおける第二次世界大戦の主な原因であるとすれば、ミュンヘン会談は広範囲に影響を与える非常に代表的な出来事としてではなく、次のように見られるべきである。この非常に珍しい出来事は、大国間のほとんどの相互作用についてはほとんど何も語っていない。私たちは独裁者全てをヒトラーであるかのように扱うのではなく、彼のような指導者が稀であることに感謝し、今日私たちが直面している指導者に賢明に対処することに焦点を当てるべきだ。

全ての独裁者が同様に野心的で、攻撃的で、リスクを受け入れ、危険であると考える理由はほとんどない。確かに、フランスのナポレオン・ボナパルト、イタリアのベニート・ムッソリーニ、そして大日本帝国の軍事指導者たちなど、世界舞台(world stage)で大問題を起こした独裁者も数人いるが、他の著名な独裁者は、民主政治体制の指導者たちほど、武力行使をする傾向はなかった。

ミュンヘンの想定される教訓は、何が国家をそのように行動させるのかについての単純化した見方にも基づいている。この政策を発動する人々は、独裁者たちは常に他国と戦争を始める機会を狙っており、独裁者たちを阻む唯一のものは他国(特にアメリカ)が独裁者たちに立ち向かう意欲だけであると想定している。しかし、ほとんどの指導者にとって、軍事力で現状維持(status quo)に挑戦するという決定は、脅威、能力、機会、流れ、国内の支持、軍事的選択肢などのより複雑な評価から生じており、指導者たちの計算では、他国がそれに反対する可能性はその計算の一項目にすぎない。

ミュンヘンの明白な教訓は、独裁者を決して宥めるべきではないということだが、バイデン政権は、2021年後半にプーティンを宥める努力をせず、代わりに様々な抑止力の脅しを行い、プーティンは本格的なウクライナ侵攻を強行した。同様に、アメリカは、1941年に日本を宥めなかった。日本への圧力を徐々に強め続け、日本からの要求を再検討することを拒否した。ミュンヘンの教訓は忠実に守られましたが、その結果は真珠湾攻撃となった。

ミュンヘンの教訓への執着はコストがかからない訳ではない。アメリカが嫌う全ての独裁者をヒトラーの生まれ変わりであるかのように扱うことは、アメリカの利益を促進し、戦争のリスクを軽減する可能性のある、堅実な妥協を追求することをより困難にする。例えば、イラン・イスラム共和国をナチス・ドイツのシーア派版とみなすことは、イランの核開発計画を後退させた協定を弱体化させ、最終的には破壊することに貢献し、イランは今日、核兵器保有に大きく近づいている。そのアプローチはアメリカや中東地域の同盟諸国の安全を高めたのだろうか?

同様に、プーティンをヒトラーの生まれ変わりだと考え、イギリスのチャーチル首相(チェンバレンの後任)のように行動すべきだと主張することは、ウクライナの更なる破壊を避け、アメリカが他の優先事項に集中できるような外交的解決策を得ることを難しくする。ミュンヘン会談のアナロジー(類推、analogy)は、外交的なギブ・アンド・テイクのいかなる形も侵略への誘いのように思わせることで、アメリカ政府の高官たちが持つ選択肢を、要求を出すか、脅しをかけるか、武器を送るか、自ら戦闘に参加するかに限定している。しかし、このように手段の選択肢を限定する理由は何だろうか?

宥和は常に良い考えであるだろうか? もちろんそうではない。指導者たちは、力の均衡(バランス・オブ・パウア)が相手に有利に大きく変わるような譲歩をすることには特に注意すべきである。相手に有利になるような譲歩をすれば、相手は将来的に譲歩を要求しやすい立場に立つことになるからである。この種のいわゆる宥和は、他に選択肢がない限り避けるべきだ。実際、1950年に次のように指摘したのはチャーチルだった。チャーチルは次のように述べた。「宥和それ自体は、状況によって、良い考えとも、悪い考えともなり得る。弱さと恐怖からの宥和(appeasement from weakness and fear)は、同様に無駄であり致命的だ。力からの宥和(appeasement from strength)は寛大かつ高貴であり、世界平和への最も確実かつ唯一の道かもしれない。」

アメリカの多大な強みと有利な立地を考慮すると、アメリカの外交政策当局者たちは一般に「寛大で高貴な(magnanimous and noble)」道を模索し、慎重に検討された交渉と相互調整のプロセスを通じて、価値観や興味が自分のものと相反する敵対者との相違を解決しようとするべきである。

外交政策コミュニティが「ミュンヘンの教訓」に対する特有の執着を捨てれば、このアプローチはずっと容易になるだろう。早ければ早いほど良いと私は言っておきたい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 世界で核兵器を持つ国々としては、国連安全保障理事会常任理事国(アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア)、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮となっている。アメリカが開発し、ソ連が追い付き、英仏、そして中国が開発していった。そして、他の国々に拡散していった。冷戦下の米ソは、核兵器の管理とそれ以上の拡散を防ぐために、核不拡散条約を締結し、世界各国にも批准を求めた。しかし、その後も核兵器所有を望む国々はあり、実際に核兵器所有に到る国々も出てきた(南アフリカは計画を断念した)。その後、米ソ間で、核兵器削減が始まり(両国が持つ核兵器の数は他国を大きく凌駕する)、核兵器の不拡散(non-proliferation)から軍備管理(arms control)へと進む中で、米中露の間での軍備管理は難しくなっている。

 「核兵器を持てば他国からの攻撃を受けなくなる」という核抑止力思想は、冷戦期には有効であっただろうが、現在はその有効性は疑問視されている。核兵器を先制攻撃用の武器として使うことは、世界各国の非難を浴び、国家として存続できない状態になり、自国の崩壊を意味する。自国の防衛のために持った核兵器が自国の崩壊を招いてしまっては本末転倒だからだ。アメリカは報復兵器として核兵器を保有しており、アメリカに向けて核兵器を使った国を消滅させるだけの核兵器を持つということになっている。

しかし、アメリカは核兵器を自国に打たれない限り、報復手段として核兵器を使用できない。そうなれば、困った問題も出てくる。特に、国土を持たないテロリスト組織に対しては核兵器を使用できない。そうなると、核兵器を持っていても、自国への攻撃を防ぐことはできないということになる。国家間戦争では事情は異なるが、テロ組織との非対称的な戦争では、核兵器を持っても何の効果もない。また、通常兵器で攻撃された場合には、通常兵器で報復するということになる。アメリカの軍事力を考えれば、通常兵器だけでも、ほとんどの国を消滅させることが可能であるが、ブッシュ政権以降の、イラクとアフガニスタンの泥沼化を見てみると、アメリカの軍事力が有効性を持つということについては疑問符がつく。

 アメリカでは歴代政権がアメリカの「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」を行う。バイデン政権でもNPRは行われており、削減よりも核抑止力の維持を基本線としている。中国の台頭とロシアの脅威を受けて、削減傾向からの転換を図っている。しかし、核兵器を持っていることがどれほどの効果を持つのかということについて、その前提を疑うということはしていないようだ。米中露が直接的に核兵器を撃ち合う状況にならないように、管理することが基本線であるが、核兵器の抑止力に今も頼ろうと考えているようだ。

 インドとパキスタン、イスラエルとイラン(核開発進行中)といった敵対国同士が核兵器を撃ち合うという可能性についても私たちは考えておかねばならない。しかし、核兵器は使用にかなりの高いハードルがあり、「伝家の宝刀」「最終秘密兵器」ということになる。結局、使えない、持っているだけということであるならば、今からおっとり刀で、日本でも核兵器保有を行おうと考えることは愚の骨頂だ。

(貼り付けはじめ)

バイデンの核戦略は危険な世界と共存するための戦略である(Biden’s Nuclear Strategy Is About Living With a Dangerous World

-「核態勢の見直し(Nuclear Posture Review)」から5つの教訓が得られる。

マシュー・ハリス筆

2022年11月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/11/15/biden-nuclear-posture-review-deterrence-russia-china/

先月、新たな「国防戦略(National Defense Strategy)」の一環として、またロシアがウクライナで核の威嚇を続ける中、バイデン政権は「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」の公開文書を発表した。何故核兵器を保有するのか、いつ、どのように使用を検討するのか、今後どのような核兵器が必要なのか、といった方針を示すもので、ビル・クリントン大統領以降の各米大統領は1期目の早い段階で、核態勢の見直しを実施してきた。しかし、ウクライナで敗走するロシアが核兵器を振り回し、中国との緊張が高まる中、アメリカの立ち位置には注意を払う価値がある。25ページに及ぶ「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」から、5つのポイントを挙げる。

(1)中国も核兵器による威圧を試みる可能性がある(China could try nuclear coercion, too

戦略に関する見直しは、しばしば「最後の戦争を戦う(fighting the last war)」と非難される。バイデンによる「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、現在の戦争と戦うことに大きな焦点を合わせている。ロシアは核兵器のレトリックを使って、ウクライナと西側諸国に戦争目的を縮小するよう説得しようとしている。そして、ロシアが自分たちにとっての有利な条件で戦争を終わらせるために少数の核兵器を使用するかもしれないという懸念が、この「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」に大きく関わっている。ロシアの指導者たちは、核兵器を「近隣諸国に対する不当な侵略を行うための盾(shield behind which to wage unjustified aggression against their neighbors)」と考えており、「地域紛争におけるロシアの限定的核使用の阻止は、アメリカとNATOの高い優先事項である(deterring Russian limited nuclear use in a regional conflict is a high U.S. and NATO priority)」と報告書は述べている。

最近の米国家安全保障戦略は、ウクライナにおけるロシアの通常兵器の災禍が、将来的に核兵器への依存を強めることになるため、この問題が更に悪化する可能性が高いことを示唆している。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、中国がアジアで同様の戦略を採用する可能性を指摘している。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」によれば、中国の驚くべき核兵器増強は、核兵器による強制や限定的な先制使用など、地域の危機や戦争における選択肢を増やすことになるという。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」が中国の将来の核兵器を「多様(diversity)」であり、「高度な生存性、信頼性、有効性(high degree of survivability, reliability, and effectiveness)」を持つと表現している点は、核兵器で先制攻撃された場合に大規模な報復を行えることに重点を置いてきた中国の歴史的に初歩的な態勢とは大きく異なる。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」自体には、これ以上具体的なことは書いていない。しかし、中国の目標は、アメリカとの本格的な核戦争にまでエスカレートすることなく、この地域での通常型紛争に勝利するために、低程度・短距離のシステムで限定的な核攻撃を用いると威嚇したり、実際に実行したりできるようにすることだという憶測に信憑性を与えている。

ワシントンは、核兵器による強制、あるいは限定的な使用が勝利の戦略であるという考えを打ち砕くことに明確な関心を持っている。これは、核のリスクそのものだけでなく、アメリカ軍の行動の自由に関するものである。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、「限定的な核兵器使用を抑止する能力は、非核兵器の通常兵器による侵略を抑止する鍵である」と述べている。敵対国が、核兵器によるエスカレーションで脅せば思い通りになると知れば、「我が国の指導者たちが、重要な国家安全保障上の利益を守るために通常の軍事力を行使するという決断を下すことはより難しくなり、その決断を下すことははるかに危険になる」と「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は述べている。

こうした懸念からは2つの現実的な意味が読み取れる。まず、広範な『国家防衛戦略(National Defense Strategy)』の他の施策と同様に、この見直しでは、限定的な核攻撃に対する回復力を高めるよう求めている。これには、通常兵器システムの防護強化、アメリカ軍と同盟諸国の軍隊の防護装備、通常戦に使用される宇宙システムの「任務保証の強化(enhanced mission assurance)」などが含まれる。その論理は、アメリカの同盟諸国が限定的な核兵器使用後も戦い続けられることを敵対国が知れば、核兵器使用は戦争を終わらせるクーデターとしての魅力を失うというものである。しかし、それは次の点を示唆している。

(2)核兵器削減は限定的であり、新兵器も準備中である(Nuclear cuts will be limited, and new weapons are in the pipeline

バイデン政権は、限定的な核兵器使用を抑止するには、比較的限定的な核攻撃で報復を脅かすことができる必要があると考えている。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、この目的のために航空爆弾と巡航ミサイルを保持しているだけでなく、潜水艦発射弾道ミサイル用のW76弾頭タイプの低出力ヴァージョンであるW76-2弾頭も保持している。バイデンは大統領候補として、トランプ政権時代に開発されたW76-2を「悪いアイデア(bad idea)」と呼んだ。しかし、「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、「W76-2は現在、限定的な核使用を抑止するための重要な手段を提供している」と率直に述べ、ロシアと中国に対する抑止力の一環としてそれを挙げている。

トランプ政権はまた、核兵器を搭載した海上発射巡航ミサイル(sea-launched cruise missileSLCM-N)を提案し、計画を開始していた。バイデン政権の「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」によれば、この兵器は、W76-2の追加により、アメリカには限定的な核戦争を遂行するための十分な選択肢があることを根拠に削減されるということだ。連邦議会の共和党所属議員と一部の民主党所属議員は別の考えを持っている。連邦上下両院の軍事委員会は、来年の国防権限法案(draft defense authorization bill)にSLCM-Nを再び盛り込むべく奮闘している。連邦議会がバイデン政権に研究開発費の支払いを継続するよう強制する可能性は十分にあり、共和党はバイデン政権の任期切れを待って、共和党側から出た大統領の就任によって、SLCM-Nを手に入れることを期待していると指摘している。SLCM-Nは、米戦略軍司令官の声高な支持を受けている。同様の力関係が、バイデン政権が退役を決定し、連邦議会がまだ維持しようとしている可能性がある高出力重力爆弾であるB83-1に関しても働いている。

一方、バイデン政権が新世代の大陸間弾道ミサイルを製造せず、代わりにミニットマンIIIMinuteman III)を延命させるのではないかという一部の擁護者たちの期待は完全に裏切られた。「核態勢の見直し(Nuclear Posture ReviewNPR)」は、そのような決定は「リスクとコストを増大させる(increase risk and cost)」と断言し、後継のセンチネルミサイルに全面的なゴーサインを出した。イギリスが自国の後継核弾頭の基礎としているW93/Mk7核弾頭も、続行される。アメリカの核弾頭製造コンプレックスは、過去数十年の「部分的改修(partial refurbishment)」戦略から脱却し、ゼロから新兵器を製造するための態勢を再び整えることになる。

(3)核抑止力と非核抑止力の統合は、依然として目標である(Integrating nuclear and nonnuclear deterrence is still a goal

「核態勢の見直し(NPR)」の中核をなす国家防衛戦略は、「統合抑止(integrated deterrence)」という考えを大々的に打ち出している。バイデン政権によれば、これは「戦闘領域、戦域、紛争範囲、米国のあらゆる国力手段、同盟とパートナーシップのネットワークをシームレスに連携する(working seamlessly across warfighting domains, theaters, the spectrum of conflict, all instruments of U.S. national power, and our network of Alliances and partnerships)」ことを意味する。従来の軍事領域では、この概念が有用かどうかについて活発な議論が行われている。そのリスクには、抑止の概念を拡大し過ぎたり、各軍が既にやりたいと考えていることを「統合抑止」として再ブランド化することを奨励したりすることだけでなく、実際に変化を導くことに失敗したりすることが含まれる。

戦略の領域では、統合には明確で具体的な意味があり、その中には物議を醸すものもある。 「核態勢の見直し(NPR)」は、どの非核兵器が抑止態勢において核兵器を「補完(complement)」できるかを評価し、「これらの能力を作戦計画に適切に組み込む(integrate these capabilities into operational plans, as appropriate)」と約束している。国家防衛戦略は、アメリカがロシア国境にある同盟諸国やパートナーが「コストの賦課を可能にする対応オプション(response options that enable cost imposition)」を開発するのを支援すると述べているのは的を射たものである。つまり、アメリカは同盟諸国の防衛を強化するだけでなく、同盟諸国がロシアの侵略を積極的に懲罰する準備を支援するだろう。バイデンの「核態勢の見直し(NPR)」はまた、核と非核の計画と演習の「より適切な同期(better synchronizing)」の必要性を強調することで、トランプ大統領時代の見直しの重要な特徴を基礎にしている。限定的核攻撃(limited nuclear attacks)に対する回復力を強化するという決定と、限定的核使用の抑止が通常戦争の抑止の一部であるという主張に加えて、今回のバイデン政権での「核態勢の見直し(NPR)」は、核と非核の政策と計画の間に明確な防火帯を避けることで、前任者の道を踏襲している。

(4)中国の核兵器増強は厳しい変化を意味するかもしれない(China’s buildup might mean tough changes

ロシアが数千の核兵器を保有しているのに対し、中国の核兵器は現在数百に過ぎないという事実は、中国が「アメリカの防衛計画における全体的なペース配分の課題」である国家防衛戦略と、ロシアがアメリカ本土に対する唯一の存立的脅威であり続けるとされるNPRとの間で、焦点の必要な非対称性をもたらしている。しかし、この見直しは、大きく変化しつつある世界を正しく指摘している。中国は「核戦力の野心的な拡大、近代化、多様化に着手し、初期の核三極体制を確立した(embarked on an ambitious expansion, modernization, and diversification of its nuclear forces and established a nascent nuclear triad)」国であり、「我が国の核抑止力を評価する上で、ますます重要な要素となっている(growing factor in evaluating our nuclear deterrent)」と「核態勢の見直し(NPR)」は指摘している。

この変化の意味は斜めに表現されている。「核態勢の見直し(NPR)」では、「安全保障環境が進化するにつれて、米国の戦略と兵力態勢を変更することが、ロシアと中国の両国の抑止、保証、雇用の目標を達成する能力を維持するために必要になる可能性がある(as the security environment evolves, changes in U.S. strategy and force posture may be required to sustain the ability to achieve deterrence, assurance, and employment objectives for both Russia and [China])」と述べている。しかし、この答えに踊らされている疑問を解くのにそれほど解読は必要ない。中国がロシアの核保有国に加わった場合、アメリカは更に核兵器を必要とするのだろうか?

ロシアのウクライナ戦争と、中国がアメリカと同格の核兵器保有国の地位(nuclear peer status)に達するまでにはまだ長い距離があることを考慮すると、この議論はまだアメリカの公的領域に本格的に現れていない。しかし、誤解しないで欲しいのだが、それは現実のものであり、最初の警告射撃はすでにいくつか行われている。例えば、ジョージ・W・ブッシュ政権下の高名な元高官2人は2022年9月、連邦上院軍事委員会で次のように指摘した。他の核兵器保有諸国は、先制攻撃を吸収し、侵略者に報復すると同時に、他の近隣諸国を阻止するのに十分な兵力を予備として保持するために、将来的には、新STARTで現在許可されているよりも多くの弾頭の配備が必要となる可能性がある。将来、ロシアと米国の間に残された最後の核軍備管理条約である「新START」で現在許可されているよりも多くの弾頭の配備を必要とする可能性がある。

アメリカの核兵器計画に質的な変化がない場合、そしてアメリカが、核兵器で対抗する2カ国の同時先制攻撃を吸収し、なおかつその2カ国の標的を現在と同等に攻撃できるようにしなければならないと考えている場合、この論理は成り立つ。アメリカがロシアと中国の核兵器保有量に追いつくためには、より多くの核兵器が必要になる。しかし、それは物理的にも財政的にも不可能かもしれないし、ロシアや中国の反応や世界の核不拡散規範への影響という点で、受け入れがたい政治的・戦略的結果をもたらすかもしれない。バイデン政権のNPRはこの疑問に答えられなかったかもしれないが、次のNPRはおそらく答えなければならないだろう。

(5)抑止力は削減よりも優先される(Deterrence is placed over reduction

クリントン以降の全ての大統領が、戦力と政策の変更を行う手段として、アメリカの核態勢の見直しを命じてきた。しかし、大きな変化はなかなか起きていない。バラク・オバマは、アメリカの同盟諸国がこのニューズをどう受け止めるかという懸念から、彼が望んだよりも野心的でない軍縮策を受け入れるよう説得され、アメリカ連邦上院が新STARTを批准した代償として、アメリカの核兵器インフラに彼が望んだ以上の支出を強いられた。ブッシュは、新たな抑止コンセプト[deterrence concept](いわゆる新トライアド[new triad])と新しい核兵器(強力地中貫通型核兵器[Robust Nuclear Earth Penetrator]と信頼性の高い代替弾頭[Reliable Replacement Warhead ])に関する挑発的なアイデアを持っていた。連邦議会は両方の新兵器を否決し、新抑止コンセプトは定着しなかった。

バイデンは40年以上にわたって核戦略に関する議論に熱心に参加し、一貫して軍備管理(arms control)を主張してきた。昨年(2021年)3月に発表された、バイデンの暫定戦略指針は、「わが国の安全保障における核兵器の役割を減らすための措置を講じる(take steps to reduce the role of nuclear weapons in our national security)」という指示から始まった。それは実現していない。ロシアのウクライナ侵攻以前から、核兵器の「唯一の目的(sole purpose)」は他国による核兵器の使用を抑止することであるとアメリカが言うべきだという重要な提案は失敗に終わっていた。これはバイデンが副大統領として提唱していたものであり、バイデンは国内の反対派から、「この政策は弱さを露呈している」、もしくは「核兵器の先制使用はしないと約束したに等しい、政治的な妥協に過ぎる」といった批判を受けることは避けられないと覚悟していたに違いない。しかし、アメリカの同盟諸国は、バイデン政権に対して、「唯一の目的(sole purpose)」と言えば、ロシア、中国、北朝鮮がアメリカの核兵器をあまり心配しなくなり、アメリカの「核の傘(U.S. nuclear umbrella)」の抑止効果が損なわれ、核兵器開発の意思と能力を持つ国々(the nuclear threshold)の間で、侵略を助長することになりかねないと伝えた。

トランプ政権時代に傷ついた同盟諸国との関係を揺るがしたくないと決意した政権にとって、これは殺し文句(killer argument)となった。昨年(2021年)の今頃には、「唯一の目的(sole purpose)」が事実上消滅したことは既に明らかだった。核態勢の見直し(NPR)は、「核兵器の基本的な役割は、アメリカ、同盟諸国、パートナーに対する核攻撃を抑止すること(fundamental role of nuclear weapons is to deter nuclear attack on the United States, our Allies, and partners)」というオバマ政権時代の公式見解を繰り返し、「核兵器は、核攻撃だけでなく、狭い範囲の他の高い影響力を持つ戦略レヴェルの攻撃を抑止するためにも必要だ(nuclear weapons are required to deter not only nuclear attack, but also a narrow range of other high consequence, strategic-level attacks)」と説明している。

このように宣言的な政策が後退し、通常兵器と核兵器の統合(conventional-nuclear integration)が重視され、限定的な核オプションの必要性が主張され(そして核戦争が「限定的(limited)」にとどまる可能性があるという前提を暗に容認している)、トランプ大統領の核兵器ポートフォリオにおけるいくつかの能力を除く、全てのの能力が維持されていることから、核兵器の役割を減らすことよりも抑止力を強化することに価値を置く見直しが行われている。

この見直しは、アメリカがこれから迎える核の10年がもたらすリスクについて、バイデン政権の少なくとも一部が真剣に考えていることを示している。それは、抑止戦略(deterrence strategy)を設計する際に守るであろう危機安定のための原則と、(アメリカとその反対国の両方による)誤った認識を回避するためのメカニズムを特定しており、核兵器の無許可発射に対する予防措置についてある程度詳細に踏み込んでいる。新STARTの後継を求め、中国との対話の優先事項を示している。しかし、アメリカは「軍備管理、核不拡散、リスク削減に改めて重点を置いている(placing renewed emphasis on arms control, nuclear nonproliferation, and risk reduction)」という「核態勢の見直し(NPR)」の主張は空虚に聞こえる。トランプ政権と比較すると、確かに改めて強調されているが、それはハードルが低いままである。

これは全て正当化できる。「核態勢の見直し(NPR)」はしっかりとした主張を行っている。戦争が起こり、継続中だ。戦争を始めた張本人は、ロシアの核兵器を誇示してアメリカ人やヨーロッパ人を威嚇しようとしている。ヨーロッパとアジアの同盟諸国を念頭に置くアメリカは、弱さを示すメッセージを送ることを懸念しただろう。そして、好むと好まざるとにかかわらず、世界的な傾向として、核兵器の重要性は低下するどころか高まっている。

バイデン政権は、核の世界を変えるために一方的なリスクを冒すのではなく、来るべき核の世界で、可能な限り生き残ることを決断した。この決断は、政府外にいる、軍備管理擁護を主張する人々(arms control advocates)を失望させ、おそらく政府内部にも失望している人々がいるだろう。いつの日か、将来の「核態勢の見直し(NPR)」は、核抑止力に依存することの長期的なリスクが大きすぎると大統領が判断し、アメリカの核兵器の役割を抜本的に縮小することが、政治的コストと敵対勢力が優位に立つ危険性の両方に見合うと決断する瞬間を示すかもしれない。しかし、今回の見直しはそうではない。

※マシュー・ハリス:ロンドンに本部を置くロイヤル・ユナイテッド・サーヴィシズ研究所核拡散・核政策部門部長。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 ドイツのオラフ・ショルツ首相が訪中を行った。昨年にもショルツ首相は訪中を行っており、ドイツの対中重視の姿勢が見て取れる。ウクライナ戦争が続く中、また、最先端技術分野での西側と中国の競争が続く中で、ショルツ首相訪中は西側を中心として批判を浴びている。「対中弱腰」「自国の経済的利益のみを追求」「必要なことは何も言わないで媚中的な態度」といった批判を浴びている。対中姿勢については、ショルツ政権内でも意見が割れている。

現在のドイツの内閣は、ショルツ首相が所属する社会民主党(SPDSozialdemokratische Partei DeutschlandsSocial Democratic Party of Germany)、同盟90・緑の党(Bündnis 90/Die GrünenAlliance 90/The Greens)、自由民主党(FDPFreie Demokratische ParteiFree Democratic Party)の連立政権になっている。ドイツ連邦議会で3番目の議席を有する緑の党は対中強硬姿勢を取っている。人権問題や経済問題、中国のロシア支援などについて、厳しい批判を行っている。ショルツ政権には、重要閣僚である副首相並びに経済・環境保護相(ロベルト・ハーベック)と外相(アンナレーナ・ベアボック)に緑の党から入閣している。これらの人物たちは、中国に対する強硬姿勢を崩していない。閣内不一致と言える状態だ。ちなみに、ドイツの緑の党や環境保護運動には戦後、多くの元ナチス党員やナチ支持者たちが参加しており、ファシズムとの共鳴性があることが指摘されている。

 しかし、ドイツのようなアメリカの属国の立場ではこれは賢いやり方だ。アメリカにあくまで追従して、中国に敵対するという姿勢を見せながら、実利的に、特に経済面において、中国と良い関係を保っておくということを行うことは重要だ。ドイツの産業界は、日本の産業界と同様に、中国との緊密な関係を望んでいる。政治は政治として、経済は別という立場で、経済成長が鈍化したとは言え、まだまだ経済成長を続ける中国と中国市場から排除されることは大きな損失である。また、成長を続ける中国企業の海外投資もまた魅力的である。「ドイツの外交政策は大企業の役員室で決められている(だから対中弱腰なのだ)」という悪口がある。それで、平和が保たれ、経済的利益が生み出されるならば、何よりも結構なことではないか。政治家が、自分たちは安全地帯にいて、排外的、好戦的な、強硬姿勢を見せるのは、あくまで政治の方便としてならともかく、本気でそのようなことをしているのは馬鹿げたことであり、何よりもそれが平和に慣れ切って、平和の大切さを忘れて、平和をいじくろうとする、想像力の欠如した、「平和ボケ」ということになる。ショルツ首相の舵取りを日本も見習うべきだ。いや、水面下では既に中国とうまくやっているのだとは思うが。

(貼り付けはじめ)

オラフ・ショルツの戦略的不真面目さ(The Strategic Unseriousness of Olaf Scholz

-彼の最新の訪中は、ドイツの対中国政策は大企業の役員室で作られていることを示すものだ。

ジェイムズ・クラブトゥリー筆

2024年4月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/22/olaf-scholz-germany-china-policy-companies-mercedes-vw-xi-jinping/

 

4月16日、釣魚台国賓館でのドイツのオラフ・ショルツ首相と中国の習近平国家主席

中国への最善の対応を巡るヨーロッパとアメリカの間に存在する、深く長期間続く分裂が再び全面的に露呈した。アントニー・ブリンケン米国務長官は4月24日に中国を訪問する予定だ。訪中前、ブリンケン国務長官は、中国がクレムリンへの兵器関連技術の提供を通じて、対ウクライナ戦争におけるロシアの支援をやめない限り、厳しい措置を講じると警告を発した。対照的に、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、口調も内容もはるかに融和的な中国訪問を終えたばかりだが、このアプローチはドイツ、ひいてはヨーロッパを、驚くほど甘い態度のために、経済と安全保障を前にして、危険に晒している。経済と安全保障をめぐる諸問題は中国が提起する課題となっている。

ブリンケンの訪中は、米中関係の改善が進めようとする試みに続くものだ。ジョー・バイデン米大統領と習近平国家主席は、2023年11月にカリフォルニア州ウッドサイドで生産的な会談を行い、今月はそれに続く電話会談を行った。ジャネット・イエレン米財務長官も4月初めに北京を訪問した。新たな閣僚レヴェルのコミュニケーション・チャンネルは、昨年、制御不能(out of control)に陥る危険性があると思われた関係を安定させた。イエレンは現在、中国の何立峰副首相と経済問題に対処し、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官は中国の王毅外相と交渉している。

ホワイトハウスはサリヴァンと王毅のチャネルが特に成功していると見ているが、その理由の1つは、王が現在、政府と中国共産党の外交政策責任者という2つの役割を兼ね備えているからだ。これにより、これらの役割が2つに分割されていたときと比較して、より効率的なコミュニケーションが可能になる。

それにも関わらず、アメリカのアプローチは基本的に競争力を維持している。今週到着するブリンケン国務長官がウクライナについて警告を発したのと同じように、イエレン財務長官もまた、中国の不公平な工業生産慣行(China’s unfair manufacturing practices)と彼女が表現したものについて厳しいコメントを訪問中何度か行った。

ショルツのアプローチは著しく異なっており、良い内容ではなかった。このことは、彼の代表団の詳細が明らかになった瞬間から明らかだった。ドイツには、ロベルト・ハーベック副首相やアンナレーナ・ベアボック外相を筆頭に、中国に対して強硬で戦略的な見方をする閣僚がいる。しかし、どちらも北京にはいなかった。代わりにショルツは、北京との緊密な協力を好む農業などの分野の閣僚や、中独貿易・投資を推進する産業界の重鎮たちを連れて行った。

ショルツはまたお膳立てされた厳しい内容の演説を拒絶した。実際、ショルツ首相は、中国のロシア支援から産業の過剰生産能力の増大するリスクに至るまで、ヨーロッパの経済と安全保障の重要な利益に打撃を与える問題について、公の場において、驚くほどほとんど発言しなかった。ショルツのこうした態度について、中国メディアが大喜びしたのは当然だ。ロディウム・グループの中国アドヴァイザーであるノア・バーキンはショルツの訪中後に、「報道は熱狂的だったと言えるだろう。中国が弾丸を避けたという感覚があるのは明らかだ」と書いている。

ショルツのアプローチは、ドイツの経済的利益に対する認識を基盤にしている。ドイツの対中経済的利益は昨年、著しく悪化した。3月上旬の全国人民代表大会(National People’s Congress、全人代)で習近平は、中国が「新たな質の高い生産力(new quality productive forces)」を発揮することを要求した。これは、電気自動車(electric vehiclesEVs)やバッテリーを含む先進的な製造業に巨額の資金を投入し、中国の経済モデルの失速を補うことを意味する。国内需要が限られている以上、その成果は必然的に輸出されることになり、中国はヨーロッパや北アメリカの先進製造業経済と衝突することになる。

ヨーロッパ連合(European UnionEU)は、中国政府からの補助金(subsidies)が自動車やソーラーパネルを含む産業の企業に競争上の優位性を与えているかどうかを調査しており、ショルツが指摘したように、中国の電気自動車に対する関税を検討し始めている。しかし、中国が国家補助金を削減するという、極めてあり得ないシナリオがあったとしても、その膨大な生産量と低コストのために、ヨーロッパ各国が対抗するのは極めて困難である。電気自動車からエネルギー転換技術、よりシンプルなタイプの半導体まで、ヨーロッパは現在、中国製の工業製品に支配される未来が明らかに近づいている。

ベルリンは、ドイツが誇る製造業の中で最も重要な自動車部門において、特別な課題に直面している。BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンといった企業にとって、中国は何十年もの間、最も重要で最も収益性の高い市場だった。しかし、その時代は終わった。中国のBYD(比亜迪)は現在、テスラ(Tesla)と、世界最大の電気自動車メーカーの座を争っている。BYDは、アメリカのライヴァルであるテスラとほぼ同等の性能を持ち、それよりもはるかに安価な自動車を生産している。北京や上海の通りには、他の中国電気自動車ブランドで作られた車でごった返しているが、そのほとんどは西側職の人々には知られていない。伝統的な内燃エンジン(traditional combustion engines)の需要は崩壊しつつある。

クライスラーの中国における元責任者で、現在はコンサルタント・グループであるオートモビリティの責任者であるビル・ルッソは、こうした状況の変化に伴い、中国国内の自動車市場における外国ブランドの総シェアは、2020年以降の短期間で、64%から過半数を割る40%に急落したと述べている。現在、フォルクスワーゲンは、まだ中国で多くの自動車を販売しているが、それも長くは続かないだろう。「これらの企業に未来があるとは思えない」とルッソは述べている。

ドイツには二つ目の懸念がある。それは、自国市場へのリスクだ。中国製のバッテリーやその他の部品を対象とした規制のため、現在アメリカでは中国製電気自動車はほとんど販売されていない。中国からの電気自動車輸入の波に直面し、ヨーロッパは関税をアメリカとほぼ同じ水準に引き上げる可能性が高い。

しかしながら、ショルツは自国ドイツの自動車メーカーからは正反対の要求を突きつけられている。電気自動車への移行に多額の投資を行ってきたメルセデス・ベンツのオラ・ケレニウスCEOは、ブリュッセルに電気自動車関税の引き上げではなく引き下げを求め、競争がヨーロッパの自動車メーカーの改善に拍車をかけると主張した。中国をヨーロッパ市場から締め出すだけでは、ドイツが電気自動車で競争力を取り戻すことはできないだろう、という意見には真実味がある。ドイツが電気自動車分野で競争力を取り戻すためには、ドイツ企業は少なくとも自国での製造方法を確立するまでの間、バッテリーなどの分野で中国の技術を利用する必要がある。ドイツはまた、ヨーロッパの関税が中国のドイツ自動車メーカーを標的にした相互措置につながることを恐れている。

したがって、好意的に見れば、ドイツのアプローチは、2008年の世界金融危機を前にした当時のシティグループCEOチャック・プリンスの有名な格言の変形である。その格言とは「音楽が流れている限り、立ち上がって踊るしかない」である。2007年、プリンスは、災難が近づいている兆候が明らかになる中で、なぜ自分の銀行がリスクの高い金融取引を続けたのかを説明しようとしてこの言葉を使った。これと同じように、ショルツはドイツ企業がかつての国際競争力を取り戻そうとする一方で、中国市場の残りのシェアで稼ぎ続けられることを願っている。

もちろん、中国の工業力が高まっていることを考えれば、これがうまくいく確率は低い。しかし、たとえうまくいったとしても、この戦略はドイツ企業にとっての利益と、ドイツやヨーロッパ全体にとっての利益を混同するという、昔からの過ちを犯していることに変わりはない。

このアプローチが甘く見える理由は2つある。1つは、中国の進路が決まってしまったことだ。ショルツは上海で学生たちを前にして、中国に節度ある行動を求めた。「競争は公正でなければならない」とショルツ首相は述べ、北京がダンピング(dumping)や過剰生産(overproduction)を避けるよう求めた。しかし、中国のシステムは現在、この道を十分に進んでおり、北京がショルツの言葉に耳を傾けたとしても、そのような要求の実現は実際には不可能だ。

それどころか、中国は自国の経済モデルを復活させるために製造業を強化しようとしている。ドイツの自動車メーカーが自国(中国)の市場で成功することなどまったく考えておらず、電気自動車やその他の産業で世界的なリーダーになることに全力を注いでいる。ドイツの自動車メーカーは、中国での地位が救われると誤解しているかもしれないが、ドイツの政治指導者たちが同じ作り話を信じる必要はない。ショルツのソフト・ソフト・アプローチ(softly-softly approach)もまた、中国との競争によってもたらされる自国の経済モデルへの巨大な挑戦に対して、ドイツの国民や企業を準備させることはほとんどない。

ドイツのアプローチには、ヨーロッパと西側の団結に対する地政学的な二つ目のコストが伴う。中国の熱烈な報道が示すように、ショルツの訪独は、ヨーロッパ内、そしてアメリカとの分断を狙う北京の長年のアプローチへの贈り物であった。この分断は、貿易をめぐっても明らかだった。しかし、それはウクライナ問題でも同様だった。ショルツ首相の官邸は、ショルツ首相が習近平との個人的な会談でウクライナを取り上げ、ロシアの「再軍備(rearmament)」は「ヨーロッパの安全保障に重大な悪影響(significant negative effects on security in Europe)」を及ぼし、ヨーロッパの「核心的利益(core interests)」に直接影響すると主張したと述べている。しかし、中国にロシアへの支援を止めるよう求める私的なメッセージは、同様の公的なメッセージが既に失敗している以上、効果があるとは考えにくい。

ドイツのアプローチはまた、近年中国への依存を減らすために真剣に取り組んでいるインドや日本を含む、より広いインド太平洋地域の新たなパートナーとの信頼できる関係を構築することを、ヨーロッパにとって難しくしている。インドと日本の指導者もまた、中国がもたらす経済的・安全保障的脅威を率直に公言している。ニューデリーや東京から見れば、ショルツの今回の訪中は、単にヨーロッパの信頼性のなさ(unreliability)と戦略的真剣さの欠如(strategic unseriousness)の証拠としか受け取られないだろう。

もっと良いテンプレートがあることを考えると、ドイツのアプローチは特に奇妙に見える。ブリンケンとイエレンの訪中は、厳しいメッセージを発信しながらも北京でのビジネスが可能であることを示している。ヨーロッパ委員会のアーシュラ・フォン・デア・ライエン委員長は、昨年(2023年)12月に北京で開催された直近のEU・中国首脳会議で、リスク回避に関して同様のバランスを取った。オランダのマーク・ルッテ首相も2024年3月に同様のことを行い、中国のサイバースパイ戦術とウクライナでのロシア支援を公然と批判した。 

ショルツ首相がヨーロッパのパートナーやワシントンと調整し、最も有能な閣僚とともに北京に到着し、明確な飴と鞭を携えて公の場でしっかりと共同方針を表明するような、これまでとは異なるドイツの姿勢を見せると想像することは可能だ。その代わり、ドイツのアプローチは長期的な戦略的洞察に欠けているように見えた。ドイツの政策立案者たちは、ドイツの経済政策や外交政策がベルリンの首相府や省庁ではなく、企業の役員室で決定されるという考え方に歯がゆさを感じている。しかし、ショルツの訪中を、そして気の遠くなるようなことだが、ドイツの中国政策の多くを、それ以外の方法で説明するのは難しい。

※ジェイムズ・クラブトゥリー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アジア国際戦略研究所元上級部長。著書に『億万長者による支配:インドの新しい黄金時代を通じての旅路(The Billionaire Raj: A Journey Through India’s New Gilded Age)』がある。ツイッターアカウント:@jamescrabtree

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オラフ・ショルツは本音を隠せないままに中国訪問に向かう(Olaf Scholz Is on a Telltale China Trip
-ヨーロッパは中国に対して強硬な姿勢を取っているが、ドイツが本当にそれに協力しているかどうかはすぐに分かるかもしれない。

ノア・バーキン筆

2024年4月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/13/scholz-germany-china-trip-europe-derisk-decouple/

 

2022年11月3日、中国に向かうためにベルリンで飛行機に乗り込むオラフ・ショルツ

ヨーロッパ連合(European UnionEU)は、これまで何年も小さな棒を持ち、やわらかく話してきたが、安価な中国製品の流入が自国産業を衰退させることを懸念し、中国に対して経済的な力を行使し始めた。大きな問題は、EU圏最大の経済大国であるドイツが、より積極的なアプローチに全面的に賛同するかどうかだ。

これが、ドイツのオラフ・ショルツ首相の来週の中国訪問を特に興味深いものにしている。ベルリンの対中国政策は近年、硬化している。昨年(2023年)7月、ショルツ政権は厳しい文言の対中戦略を発表し、焦点をリスク回避(de-risking)、多様化(diversification)、対中依存度の削減(reduction of dependencies on China)に移行した。

しかし、もしショルツ1人だけが戦略を立案していたら、そもそもこの戦略は発表されなかったかもしれない。新たな批判的アプローチの原動力となったのは、ショルツの連立パートナーの1つである緑の党(the Greens)だ。ショルツ自身は慎重な姿勢を崩しておらず、中国市場を将来と結びつけている一握りのドイツ大企業に対して北京が報復するのではないかという懸念もあって、中国をあまり強くプッシュしたがらない。

2021年の首相就任以来、最長となる二国間訪問の1つであるショルツ首相訪中は、4月14日から16日まで3日間フルに中国を滞在し、重慶と上海のドイツ企業を訪問した後、習近平国家主席および李強首相と会談するために北京へ向かう予定となっている。中独両国は様々な協力分野が存在することの強調について熱心である。

ショルツは、ドイツ経済の弱体化と、タカ派もハト派も満足させられないウクライナ政策によって、国内ではプレッシャーにさらされている。ドナルド・トランプの再選によって大西洋を越えた関係に衝撃が走るかもしれない今年、北京と新たな戦線を開くことを避けたいとショルツは考えている。習近平は、中国経済が不動産危機、新型コロナウイルス規制解除後の経済不振、そしてアメリカの技術規制によって大きな圧力にさらされているときに、中国とドイツが互いに協力することを約束し続けるというシグナルを送りたいと考えているだろう。

しかし、水面下には、両首脳が封じ込めるのが難しい、様々な対立問題(a range of divisive issues)が潜んでいる。

ウクライナ戦争におけるロシアの戦争継続に対する中国の支援は、ドイツにとって重要なアジェンダとなるだろう。北京が西側のレッドラインを越え、軍事作戦に不可欠な物資や技術援助をモスクワに提供しているという懸念が高まっているからだ。

ジャネット・イエレン米財務長官は先週中国を訪問した際、ロシアの戦争に物質的支援を提供した中国企業は制裁という形で「重大な結果(significant consequences)」に直面するだろうと警告した。ショルツが同様のメッセージをより穏やかな口調で伝えることを期待したい。

しかし、おそらく最重要のアジェンダは、ヨーロッパ連合と中国の貿易関係の悪化だろう。ブリュッセルでは、中国が安価な補助金付き商品(cheap, subsidized goods)をヨーロッパ市場に膨大に流入させることで、経済の停滞から脱出しようと考えて、対ヨーロッパ輸出を試みるのではないかという懸念が高まっている。同時にヨーロッパ諸国は、ワシントンからの圧力が強まる中、中国への機密技術の輸出(export of sensitive technologies to China)をどこまで制限するかについて議論している。

昨年(2023年)6月、ヨーロッパ委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は、中国との技術協力のレッドラインを定めることを目的とした経済安全保障戦略(economic security strategy)を発表した。その数カ月後、ヨーロッパ委員会は中国からの電気自動車(electric vehicles)輸入に関する調査を開始した。そしてここ数週間は、風力タービン(wind turbines)、ソーラーパネル(solar panels)、鉄道に関連する補助金についての調査結果を発表し、中国企業が自国で受けている手厚い国家支援のおかげでヨーロッパ市場で不当な優位性を得ていると非難している。

これらを総合すると、これは、これまで私たちが目にすることがなかった、ヨーロッパからの最も強力な中国に対する反発に相当するが、それはほんの始まりにすぎない。

今週、プリンストン大学で行われた重要な講演で、競争問題ヨーロッパ委員のマルグレーテ・ヴェステアーは、新たな措置を強調したが、ヨーロッパの「モグラたたき(whack-a-mole)」戦術では不十分かもしれないと認めた。

「ケース・バイ・ケース以上のアプローチが必要だ。系統だったアプローチが必要だ。そして、手遅れになる前にそれが必要である。ソーラーパネルで起きたことが、電気自動車や風力発電、あるいは必要不可欠なチップで再び起きるような事態は避けたいと考えている」。

ヴェステアーは、重要なクリーン技術に対する「信頼性(trustworthiness)」基準の策定を提案した。これは、ファーウェイのような「ハイリスク」の5Gサプライヤーに対するアプローチと同じものだ。サイバーセキュリティ、データセキュリティ、労働者の権利、環境基準などの分野でヨーロッパの基準を満たさない国は、自国の企業が制限を受けるか、市場から排除されることになる。これは、ヨーロッパと中国との経済関係の重大な変化を意味する。

しかし、その戦術が機能するためには、ドイツからの支援が不可欠である。そしてショルツが、中国との特権的な経済関係を、たとえそれがますます緊張状態にあるとしても、危険に晒す覚悟があるかどうかは不明である。ショルツは、近年中国市場への進出を倍増させている三大自動車メーカー(BMW、メルセデス、フォルクスワーゲン)のCEOを含むドイツ産業界のリーダーを集めた代表団とともに中国を訪問する予定だ。ロディウム・グループの統計数字によれば、ドイツの対中直接投資額は2022年に71億ユーロを記録し、驚くべきことに、EU全体の79%を占めた。

2022年11月に首相として初めて中国を訪問する数週間前、ショルツは中国の海運大手コスコにドイツ最大のハンブルク港のターミナルの株式を与えるという取引を強行した。ショルツはまた、ファーウェイをドイツの通信ネットワークから段階的に排除する決定を下すよう、連立パートナーから受けている圧力に抵抗している。ファーウェイはドイツの5Gネットワークにおいて、59%のシェアを持っており、これはヨーロッパで最も高いレヴェルに達している。

このような背景から、ヨーロッパ委員会の担当者たちは、ショルツ首相が中国で発するメッセージを注視している。貿易関係に対するヨーロッパの懸念が深刻であることを中国側に説明し、EUが対応するという意思表示をするのだろうか? そうすれば、中国経済が苦境に立たされ、北京の指導者たちがヨーロッパからの投資を誘致し、欧州市場へのアクセスを維持しようと必死になっているときに、ドイツとそのパートナーが経済的な影響力を行使する用意があることを示すことができる。

それとも、ドイツ産業界がショルツに強く求めているように、貿易摩擦(trade tensions)を軽視し、その過程において、ブリュッセルを弱体化させるのだろうか?

その答えは、11月のアメリカ大統領選挙を頂点とする重要な年に、ヨーロッパが中国に対してどれだけ団結しているかを多く物語ることになるだろう。ショルツ首相訪問の数週間後、習近平は5年ぶりにヨーロッパを訪問し、フランス、ハンガリー、セルビアをそれぞれ訪問する。ショルツとフランスのエマニュエル・マクロン大統領が習近平に同じメッセージを伝えれば、それは強力なシグナルとなるだろう。それができなければ、致命的である。

※ノア・バーキン:ロディアム・グループ上級アドヴァイザー、アメリカのジャーマン・マーシャル基金非常勤上級研究員。

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