古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 中東政治

 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 イスラエルを中心として、中東地域では不安定さが増している。中東地域においての地域大国としては、サウジアラビア、イラン、イスラエル、トルコなどが挙げられるが、サウジアラビアの動きがあまり見えてこない。イスラエルのガザ地区攻撃については、ムハンマド・ビン・サルマン王太子は「大量虐殺(ジェノサイド)」と呼んで非難しているが、中東情勢安定化のために、具体的には積極的には動いているようには見えない。自分たちは騒動の輪から外れようとしているようだ。

なによりも、サウジアラビアはバイデン政権下でイスラエルとの国交正常化交渉の下準備を進めており、2023年9月の段階で、国交正常化交渉の準備は順調に進んでいるとジョー・バイデン政権のジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が発言していた。それから1カ月後にハマスによるイスラエル攻撃が実施された。私は「サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を阻むための動き」と見ている。サルマン王太子がイスラエルに対して「大量虐殺」という言葉を使ったことは国交正常化に向けて大きなハードルとなる。サウジアラビアは既に中国の仲介で、イランとの関係を正常化している。それ以上のことは、現在は望まないという意思を示しているかのようだ、

以下の論稿では、サルマン王太子が過去の失敗から学び、地域の混乱を避けるために内向きになっている可能性があると指摘している。彼は、国内の安定を確保することに重きを置いており、イランとの関係を利用して地域の安定を図ろうとしている。サウジアラビアは多額の投資を行っているため、基本的な安定を求めることが重要であり、イランとの関係を悪化させる理由はない。サウジアラビアは安定を求めているということだ。中東地域の安定は、サウジアラビアだけではなく、世界にとっても重要だ。

 サウジアラビアが動かないとなると、中東地域に安定をもたらすにはアメリカが出てこざるを得ない。具体的には、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の戦争拡大を止めるのはトランプの役割ということになる。トランプにそれができるかどうかが注目される。

(貼り付けはじめ)

サウジアラビアがイランに傾斜する当の理由(The Real Reason for Saudi Arabia’s Pivot to Iran

-テヘランに対するムハンマド・ビン・サルマンの論調の変化は見かけほど混乱していない。

スティーヴン・M・クック筆

2024年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/02/saudi-arabia-mohammed-bin-salman-pivot-iran/?tpcc=recirc062921

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サウジアラビアの首都リヤドで開催された未来投資イニシアティヴFII会議に到着したムハンマド・ビン・サルマン(2018年10月24日)

ここ数週間、同僚、上司、恩師、そして高校時代の友人たちから、「ムハンマド・ビン・サルマンはどうなっている?」という質問を受けた。11月11日、リヤドで開催されたイスラム諸国首脳会議で、サウジアラビアの王太子は国際社会(翻訳:アメリカ)に対し、イスラエルに「姉妹国であるイラン・イスラム共和国の主権を尊重し、その国土を侵害しない」よう強制するよう呼びかけた。同じ会合で彼は、イスラエル国防軍がガザ地区で行ったことを「集団虐殺(collective genocide)」と表現した。

このレトリックは、ワシントンのほとんどの人々が信じてきたムハンマド・ビン・サルマンについてのすべてに反するものであり、それゆえ「どうなっている?」という疑問が出ている。そして、少なくとも今回は、ワシントンの外交政策関係コミュニティは想像していない。

首脳会談でのムハンマド・ビン・サルマンの言葉は、質的な変化であるように見える。結局のところ、王太子はかつてこう質問した。「イスラム教徒の土地を支配し、(イスラム世界にトゥエルバー・ジャファリ宗派を広めなければならないという)過激派イデオロギーの上に築かれた政権とどのように対話するのか?」。彼は美辞麗句を並べてごまかしていたが、知識がある人が聞けば、彼の発言はイランを指しているのは明らかだった。公平を期すなら、それは2017年のことで、暴徒がテヘランのサウジ大使館を襲撃し、両国関係の断絶を促した翌年のことだった。しかし、中国政府が2023年3月にサウジアラビアとイランの国交再開を仲介した後も、リヤド政府高官はいまだにテヘランの意図に懐疑的で、イラン指導部に対する不信感を抱いている。

イスラエルについて、サウジ当局者は以前から、国交正常化は「もし(可能性)」ではなく「いつ(時期)」の問題だと示唆してきた。彼らはそれを頻繁に発言したので、しばらくすると誰もあまり気に留めなくなった。もちろん、ガザ地区での残酷な戦争によって、サウジアラビアが国交正常化のためにイスラエルに要求する代償は着実に増えている。それでも昨年、リヤドの高官たちはイスラエルとの和解に尽力していたようだ。イスラエルは戦争の初期からジェノサイド(genocide、大量虐殺)で非難されてきたが、11月11日のイスラム諸国首脳会談の前まで、ムハンマド・ビン・サルマンはこの言葉を使うことはなかった。

それでは、いったい何が起きているのか? サウジアラビアは「方向転換(pivoting)」しつつあるのか? 私はサウジのレトリックの変化を説明するために3つの理論を持っている。

第一に、長年議論されてきたアメリカとサウジアラビアの安全保障協定をめぐるドナルド・トランプ次期大統領との交渉の口火を切ることである。ムハンマド・ビン・サルマンはイランに対する態度を変えたかもしれないが、それは皮肉にすぎない。トランプ政権の政権移行関係者がイランに「最大限の圧力(maximum pressure)」をかけ直すと宣言しているのと同時に、サウジアラビアとイランの関係をレトリック的にでも改善することは、サウジアラビアを味方につけておくためにトランプ・ティームから利益を引き出す戦略の一環かもしれない。まるで王太子が、「次期大統領、あなたは交渉の達人気取りのようだ。私がお相手しよう。あなたは何を提供できる?」と述べているかのようだ。

私は数日間、この説に納得していた。しかし、結局のところ、しっくりこない。イラン指導部と仲良くしてアメリカ政府高官を操ろうとするのは、2010年代にトルコのレセップ・タイイップ・エルドアン大統領がやったことだが、サウジアラビアがそれに倣ったようではない。ムハンマド・ビン・サルマンはエルドアンを見習っているのかもしれないが、それが彼のスタイルだとは私には思えない。

第二に、イランに逃げ込むことで、ムハンマド・ビン・サルマンはイスラエルとの国交正常化の可能性から逃げていると考える方が説得力を持つ。ガザ地区におけるイスラエルの軍事作戦の残忍さは、サウジアラビアの多くの人々を激怒させている。最近のサウジアラビア訪問で、私と同僚は、ガザ地区で続いている殺戮をめぐるバイデン政権への批判の集中砲火を浴びた。その中で少なくとも1回は、「恥ずべき(shameful)」という言葉が出てきた。それがムハンマド・ビン・サルマンの考えの一部に違いない。王太子は万能だが、世論と無縁ではない。イスラエルとの国交正常化は、ガザ地区破壊に対する国民の怒りの深さを考えれば、短期的には彼にとってほとんど価値がない。

王太子が「大量虐殺」という言葉を使ったのは、アブラハム合意に続くものとしてイスラエルとサウジアラビアの国交正常化を重視するトランプ次期政権への明確な警告でもある。サウジアラビアの指導者たちは、イスラエルの入植者たちがトランプは併合の邪魔をしないと信じるようになった今、国交正常化に関わりたいはずがない。元アーカンソー州知事のマイク・ハッカビーを駐イスラエル大使に任命したことは、彼らが間違っていないことを示唆している。イスラエルの正式な主権がヨルダン川西岸地区の一部にまで拡大され、トランプ大統領に祝福されるだけで、王太子が国交正常化の道を歩むのは非常に恥ずかしいことだ。大量虐殺を引き合いに出すことで、サウジアラビアは現状では前進する用意がないことを次期大統領に示しているのだ。

最後に、ムハンマド・ビン・サルマンの明らかな方向転換について、最も説得力のある説明がある。それは、イエメン内戦に介入し、カタールを封鎖し、レバノン首相を辞任に追い込み、リビアで国際的に認められた政府の反対派を支援し、失敗した後だというものだ。王太子は、自分の目標を達成するために、この地域を自分の意志通りに変化させることは自分の力の範囲内ではできないと結論づけた。代わりに、彼は今では内向きになり、王国内の安定を確保しようと努めている。イランに傾斜することは、混乱をサウジアラビア国境外に留め続ける1つの方法だ。

ムハンマド・ビン・サルマンはサウジアラビアの将来を形作るために数千億ドルを投じているため、この変化は彼にとって最も重要である。ネオムの新都市やジェッダのキディヤ海岸観光プロジェクトなど、彼のメガプロジェクトやギガプロジェクトの賢明さに疑問を抱く人もいるだろう。しかし、彼が彼らに多額の投資をした今、サウジアラビアの指導者たちが、たとえそれを達成するために我慢しなければならないとしても、彼らに成功のチャンスを与えるために基本的な経済的および政治的安定を求めないのは賢明ではないだろう。サウジアラビアが突然イランを信頼する兆候はないが、サウジアラビアが国内で行っていることを台無しにする口実を彼らに与えたくはない。

それほど遠くない昔、サウジアラビア人はリヤル(サウジアラビアの通貨単位)政治(riyalpolitik)を実践し、基本的に地域問題が王国を取り囲まないようにするためにお金を払っていた。ムハンマド・ビン・サルマンが世界にイスラエルを抑制するよう呼び掛け、イランを(現金の入った袋を持たずに)家族の一員と見なしていることを明らかにしたときの行動には同様の響きがある。皇太子が座っている場所から見ると、これはイランへの傾斜ではなく、むしろサウジアラビアへの傾斜である。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。外交評議会エニ・エンリコ・マッテイ記念中東・アフリカ研究上級研究員。最新作に『野望の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、将来』は2024年6月に刊行予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

イランとイスラエルの攻撃の応酬は、中東地域の状況を不安定化させている。何よりも核戦争の可能性を高めている。イスラエルは公式には認めていないが、核保有国であり、イランは核兵器開発を進めている。『世界覇権国交代劇の真相』の中で、佐藤優先生は、サウジアラビアは核保有国で、通常はパキスタンに預けてあると述べている。中東における核戦争の危険性は絵空事ではない。
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イランは、イスラエルとは、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった非国家的な勢力を支援することで、「間接的に」対峙してきた。イランは、中東地域において、サウジアラビアとイスラエルと対立してきた。最近になって、中国の仲介によって、サウジアラビアとの国交正常化を行うことで、中東地域における主敵はイスラエルということになった。しかし、イランとイスラエルは国境を接していないので、攻撃は飛行機化ミサイルということに限られる。全面的な地上戦ということにはならないが、イランの国家安全保障戦略の柱はミサイルということになり、核弾頭開発ということになる。イランは核開発の必要性を高めているということが言える。

これもまた『世界覇権国交代劇の真相』の中で、佐藤先生が指摘しているように、イランもイスラエルも政府当局者のほとんど対立をエスカレートさせたくないのである。だから、お互いに激しい言葉で押収しても、攻撃はアリバイ的だったり、限定的だったりしてきた。そのような「制限」が外れてしまうことが何よりも怖いことだ。コントロールが効かない状況で対立がエスカレートするのは避けねばならない。
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 重要なことは、イランとイスラエルの対立は、中東地域を不安定化させ、世界にとってマイナスになっている。中東地域における重要なプレイヤーとして存在してきた、アメリカがこの対立の激化を止められない現状がある。イスラエルはアメリカにとって重要な同盟国(保護国)であるが、同時に、中東におけるアメリカの存在感や影響力にマイナスに働く存在になっている。アメリカがいつまでも世界覇権国であるということはできない。アメリカの国力が低下した場合には、イスラエルの存続にも関わる問題になりかねないという問題が起きる。イスラエルは国の進むべき方向性を再検討する時期に来ている。

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イランの対イスラエル戦略は既に変化している(Iran’s Israel Strategy Has Already Changed

-たとえより広範な戦争が勃発していなかったとしても、この地域は二度と同じようにはならないだろう。

アラシュ・レイシネジャッド筆

2024年10月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/10/11/irans-israel-strategy-has-already-changed/?tpcc=recirc062921

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2005年11月26日、イランのテヘランで、ルーホラ・ホメイニ師によるイスラム共和国創立25周年を記念するイランのバスィージ民兵組織のパレード

イランは10月1日、2回目のミサイル攻撃でイスラエル本土を攻撃し、現在進行中の2つの地域大国(regional power)間の対立を著しくエスカレートさせた。イスラエルが7月にハマスの指導者イスマイル・ハニヤをテヘランで暗殺し、最近では、ベイルートでヒズボラの指導者ハッサン・ナスララとイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)のアッバス・ニルフォルーシャン将軍を殺害した後、イランは宿敵に対してあからさまで、実質的かつ直接的な攻撃を開始した。イランとイスラエルの対立は、今や中東全体を全面的な地域戦争(regional war)の瀬戸際に追いやる危険をはらんでいる。

そのような地域戦争が起こるかどうかにかかわらず、イランとイスラエルによる攻撃の応酬は既に、この特定の対立をはるかに超えて続く、新たな地域の力の方程式(power equation)をもたらした。イランとイスラエルの対立がもたらす7つの遠大な戦略的帰結が明らかになった。

第一に、イランの国家安全保障と軍事戦略の基盤は、地域における非国家軍事同盟への依存(reliance on nonstate military allies in the region)から、新たな形態の抑止(new form of deterrence)へと徐々に移行しつつある。この重大な変革は、イラン軍事組織の主要人物の交代に見られる。地域におけるイランの国外の軍事作戦の責任者で革命防衛隊コッズ部隊の司令官が、元司令官カセム・ソレイマニ将軍からイスラム角栄防衛隊の航空宇宙軍の司令官アミール・アリ・ハジザデ将軍に交代した。これはハマスやヒズボラを含む非国家同盟勢力による間接的衝突(indirect conflict)を優先したイランのグレーゾーン戦略が、今や補完的なアプローチ(complementary approach)になりつつあることを示唆している。

第二に、イランは「戦略的忍耐(strategic patience)」の姿勢も放棄した。イラクとの8年にわたる血なまぐさい戦争が終結して以来、イランの軍事指導者たちは、相当な苦痛を吸収しつつ、好きなタイミングで報復することを基本とする秘密戦略(covert strategy)を採用してきた。それにもかかわらず、数十年にわたるイスラエルによるイラン国内での継続的な破壊工作により、イランの「戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)」は、報復行動をとらないことで知られる消極的な戦略的忍耐へと格下げされた。イランは国内政治において大胆な決断を下すことに消極的であるように見えるが、現在、2度目の戦略的忍耐を放棄している。有力な支持者や国内の広範な世論からの強い圧力を受け、報復に失敗すれば戦略的転換点になると判断したのである。

第三に、イランは現在、抑止力に関する公的に識別可能な政策を確立している。イスラム革命防衛隊の強力な報復は、イスラエルに損害を与える攻撃を行うイランの意志と能力を示すものだった。ほとんどのイランのミサイルと無人機が阻止された4月の最初の攻撃とは対照的に、2回目のミサイル攻撃はイスラエルの高度防衛システム(Israeli advanced defense systems)を貫通し、より成功したことが証明された。イスラエルは世界で最も厳重に防衛された空域の1つであり、最も洗練された対ミサイル技術を備えているにもかかわらず、イランのミサイル数発がイスラエルの重要な飛行場を攻撃することに成功した。このことは、イランの国家安全保障戦略におけるミサイル戦力の中心性を浮き彫りにし、イランのミサイル戦力が今後も西側諸国との協議において譲れないものである可能性を強めるものである。その中には、スホーイSu-35戦闘機の配備、ロシア製対ミサイル防衛システムの購入、モスクワとの軍事協力の拡大などが含まれる。

第四に、イスラエルに対するイランの新たなレッドラインも明確になった。テルアビブは15年近く、シリアのイラン軍基地を破壊的に攻撃し、イランの上級将官を直接標的にしてきた。しかし、4月上旬にイスラエルがダマスカスのイラン領事館を攻撃したことで、重大な閾値(critical threshold)を超えた。これは、イランのイスラエルに対する伝統的なレッドラインの崩壊を意味した。テヘランでのハマス指導者暗殺やベイルートでのヒズボラ暗殺など、イスラエルの継続的な行動に対し、イランの報復は抑止力の再確立を狙ったものだった。イランは自国領土からイスラエル領土を攻撃し、核保有国を標的にするという、2つの重大なレッドラインを越えたのである。興味深いことに、イランはその10カ月も前に、同じく核保有国であるパキスタンの領土を攻撃している。イスラエルの空爆からレヴァント地方(地中海東部沿岸地域)の軍事基地を完全に守ることはできなくても、自国の領土の神聖さは政府と社会の双方にとって基本的なレッドラインである。イランとイスラエルの対立を封じ込めるレッドラインがしっかりと確立されていない以上、特に今年の米大統領選を前に、双方は一触即発の攻撃を続けることで境界線を引き直そうとするだろう。

第五に、アラブ諸国の一般国民に対するイランの影響力が明らかに高まっている。テヘランによるシリアのバシャール・アサド政権への揺るぎない支持によって失墜したイスラム世界におけるイランの人気を、今回の攻撃によってソフトパワーが獲得されたことで、回復できる可能性がある。ガザ地区でのハマスとの戦争以来、パレスティナ人やアラブ社会におけるイランの支持率は著しく上昇している。最近のイラン大統領選挙でのマスード・ペゼシュキアンの勝利は、モハンマド・ジャヴァド・ザリフ戦略問題担当副大統領とアッバース・アラグチ外相が率いる地域協力の強い声と相まって、テヘランとペルシャ湾のアラブ諸国との間の緊張緩和に役立つかもしれない。しかし、イランにはまだ強力な地域主導権がなく、このチャンスを十分に生かし、この影響力を地域の勢力図に具体的な変化をもたらすには、難題に直面する可能性がある。

第六に、イスラエルによるイランへの報復作戦は、テヘランの核政策を大きく変える可能性がある。イランでは、強硬派を中心に、完全な抑止力を回復する戦略的手段として核保有を主張する声が強い。こうした推進派は、イスラエルの侵略を抑止するためのイランの最も効果的な手段は、核兵器を完全に開発するという戦略的決断にあると主張する。この主張の背景には、イスラエルがイランの核インフラを報復攻撃する可能性があることから、その勢いが増す可能性がある。その結果、イスラエルによる軍事攻撃は、テヘランの核保有追求をより加速させることになるかもしれない。イランの完全武装解除に執着する西側諸国は、イスラエルにレヴァント地方やイラン領内のイランの非国家的同盟勢力に圧力をかける白紙委任状を与えることと相まって、「核武装したイラン」という思わぬ結果を招きかねない。

第七に、この紛争は、技術力と地政学的力の間の衝突を浮き彫りにしている。イランが地政学的に大きな利点を得ているのに対し、イスラエルのアキレス腱は、ヨルダン川と地中海に挟まれた小さな領土に限定された地政学的脆弱性(geopolitical vulnerability)にある。この地政学的な違いが、イランが非国家的同盟勢力のネットワークに支えられたグレーゾーン作戦を好むのに対し、イスラエルが技術的優位に根ざした先制攻撃戦略に依存するように、両国の戦略を形成してきた。テクノロジーは軍事革命においてますます重要な役割を果たすようになっているが、地政学的な要因は、地域的な競争の軌跡を形成する上で引き続き不可欠である。テクノロジーは、地政学的な現実の重みを減じるが、それを完全に消し去ることはできない。

その意味で、激化するイラン・イスラエル紛争は、アメリカの外交政策における「中東の終焉(end of the Middle East)」という単純化された物語に挑戦するものだ。より広範な文脈では、インド太平洋地域とユーロ大西洋地域におけるワシントンの大競争の運命は、テヘランがモスクワや北京との結びつきを強めているペルシャ湾・レヴァント地方軸の下にますます投じられるようになっている。このダイナミックな動きは、中東の地政学を再び動かしている。イランとイスラエルの対立は、その初期の表れの1つであるが、最終章にはほど遠い。

※アラシュ・レイシネジャッド:ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンス中東研究センター非常勤研究員。

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 中東情勢は悪化の一途を辿っている。2023年10月にハマスの攻撃に対する報復として、イスラエル軍はガザ地区での軍事作戦を開始し、民間人に多くの死傷者が出ている。ハマスの人質となった人々の救出は思うように進んでいない。更には、イスラエルは、イランの首都テヘランでハマスの最高指導者を殺害し、イランから報復攻撃を受けている。加えて、レバノンの武装組織ヒズボラに対しても軍事作戦を開始している。ヒズボラのメンバーたちが使用していたポケベルに爆発物を仕込み、一斉に爆発して大きな被害を出したニューズは日本でも多く報道された。このポケベルはイスラエルから輸出されたものということが後に分かった。私は「イスラエルからの輸出された製品というのは怖いな。何が仕込まれているか分からないではないか」という感想を持った。イスラエルは危険な国という印象を多くの人々に与えたと思う。

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 このポケベルでの攻撃は衝撃的であったが、それ以外にも、イスラエルはレバノン、ヒズボラへの攻勢を強めている。ガザ地区に続いて、2つ目の戦線を開いたと言える。イスラエルの軍事的な優位性もあり、二正面作戦はまだ耐えられるだろうが、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は戦争の段階を引き上げようとしている。イエメンのフーシ派の空額も実施している。ハマス、ヒズボラ、フーシ派は全部がイランからの支援を受けている。ネタニヤフ率いるイスラエルはイランとの全面戦争(all-out war)へと進む危険性を持っている。

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そうなると、中東全体が戦争地域ということになり、石油の供給に大きな影響が出る。そうなれば、世界経済は大きなダメージを受ける。もっと怖いのは、核戦争勃発の可能性だ。核戦争に対する禁忌が破られるとなると、核兵器使用のハードルが大きく下がることになる。それはまた世界を危機に晒すことになる。戦争の段階を引き上げるべきではない。

 アメリカは現在、大統領選挙期間中で、しかも現職のジョー・バイデン大統領が再選を目指さないということになり、レイムダック化(無力化)している。そうした中で、イスラエルのネタニヤフ首相は暴走している。アメリカはコントロールする力を失っている。イスラエルへの資金援助や武器援助をアメリカが止めない限り、イスラエルはこうした状況を変えることはしないだろう。

 イスラエルのネタニヤフ首相は家族ぐるみでお金に関するスキャンダルを抱えており、平和に復帰すれば、家族ごと有罪判決を受け、牢獄行きとなる。そのために、戦争状態を続けたいということはあるだろう。しかし、それは世界に追って大きな不幸である。

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ヒズボラのポケベル爆発は皆が考える以上に危険だ(The Hezbollah Pager Explosions Are More Dangerous Than You Think

-人権問題を超えて、今回の攻撃は中東におけるアメリカとイスラエルの政策にも疑問を投げかけるものとなった。

ハワード・フレンチ

2024年9月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/09/24/hezbollah-pager-explosions-lebanon-israel-middle-east-iran-us-policy/

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9月18日、ベイルート南部の地区で、前日にレバノン全土で発生したポケベルの爆発で死亡した人々の葬儀でヒズボラの旗を手にする男性。

先週、イスラエルがレバノンとシリアでヒズボラを攻撃した際、地政学的にどのような立場にあったにせよ、専門家の多くが最初に抱いたのは畏怖の感情(awe)だった。

敵対国も友好国も関係なく、作戦をやり遂げるために必要な、イスラエル情報・諜報機関の洗練の度合いに驚嘆した。イスラエルのために働く諜報員たちは、ポケベルやトランシーバーの中に微量の爆発物を仕込む仕事に重視し、これを宿敵の手にうまく渡さなければならなかった。この偉業は、1967年の六日間戦争でのアラブ連合軍に対する勝利、1976年の民間旅客機ハイジャック事件で捕らえられた人質を解放するためのウガンダのエンテベ空港攻撃、1990年代後半にさかのぼる過激派グループを攻撃するためのブービートラップ付き携帯電話の使用など、イスラエルの技術的・作戦的洗練の長い歴史を思い起こさせるものとなった。

今回の攻撃は、技術的なレヴェルでは素晴らしいものだったが、多くの批判も当然出ている。1つには、民間人に壊滅的な打撃を与えたことだ。ポケベルはヒズボラ・メンバーのものだったが、爆発によって少なくとも40人が死亡、3000人以上が負傷し、多くの非戦闘員が危険に晒される結果となった。もし運転手や親族がポケベルを携帯していたら、車の乗客や食卓にいた子どもたちはどうなっていただろうか? ヴィデオ映像によれば、市場や街角で爆発したものもあった。

政治理論家のマイケル・ウォルツァーは、『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説ページで、攻撃の瞬間には積極的に戦争に従事していなかったヒズボラの工作員を標的にした爆発は、「戦争犯罪の可能性が非常に高い(very likely war crimes)」と書いている。レオン・パネッタ元国防長官・元CIA長官でさえも、今回の攻撃がテロの一形態であることに「疑問の余地はないと考える(think there’s any question)」と述べている。

 

イスラエルへのロケット弾発射に使われる南部のヒズボラ陣地に対するエスカレートする空からの攻撃など、レバノンにおけるイスラエルの最近の戦術に対する私の懸念は、更にその先にある。ポケベルを爆発させての攻撃という衝撃が落ち着いた後、アナリストたちはイスラエルがこの攻撃で戦略的利益を得たかどうかを問い始めた。その答えは依然として不明だ。イスラエルがガザ地区でハマスに対して1年近く攻撃を続けている間、同じことが言える。そこでは、基本的な疑問が未解決のままである。その疑問とは、イスラエルは軍事作戦が終了した後に、一体何をするのか?

この2つのキャンペーンを結びつけているのは、イスラエルは軍事的優位の政策と無制限の攻撃作戦によって長期的な安全保障を達成できるという、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の明白な見解である。アメリカは、イスラエルに対する弱腰の批判とほぼ無制限の武器供給を通じて、この立場を黙認している。ガザ地区が示し始めたように、またレバノンとの戦争が起これば、それが再確認される可能性が高いように、このアプローチは、イスラエルが平和を達成するために、巻き添え被害の有無にかかわらず「悪者たち(bad guys)」を十分に殺せるという妄信的な希望をもって、近隣の土地を焦土と化すことに等しい。

このアプローチの1つ目の、明確な欠陥は、各軍事作戦が新たな敵を生み出し、イスラエルと近隣諸国との間の敵意を永続させる危険性があることだ。例えば、ガザ地区におけるイスラエルの完全な軍事支配は、パレスチナ人の政治的および領土的権利の差し迫った必要性に対処するものではない。実際、この地域の絶望と支配は、将来、イスラエルに対する新たな形態の抵抗を確実にするだろう。同様に、イスラエルのレバノン南部への侵攻は、両国間に敵対の新たな境地を生み出すだけであり、この作戦による死と破壊により、より多くのレバノン人がイスラエルに対する暴力的報復の方向に駆り立てられるのと同じくらい確実である。

しかし、私が最も懸念しているのは、それだけにとどまらず、イスラエルと同様に、アメリカの戦略にも関わることだ。ここ数十年、同盟関係にある両国は、イランを中東における暴力と不安定化の究極の原因とみなしてきた。しかし、イランに核兵器開発を断念させるための国際的な努力を除いては、イスラエルはともかく、アメリカはイランに政治的に関与する創造性をほとんど示してこなかった。イランと政治的な関わりを持つための非現実的な前提条件、たとえばテヘランがまず自国の政治体制を変えることや、イスラエルの生存権を認めることなどは、その数には入らない。

中東地域の問題を特に扱いにくくしているのは、イスラエルとイランの両方が古い文明的および宗教的アイデンティティの化身であるということだ。西側諸国の多くは、イスラエルが聖書の国であり、多くのユダヤ人がシオニズムへの正当な支持を、部分的には古代イスラエルの存在に基づいており、その物語が旧約聖書の本質を構成していることを知っている。専門家の領域以外ではあまり理解されていないが、イランははるか古代に遡る言語、文化、アイデンティティ、帝国、国家の伝統の継承者でもある。

ガザ地区での終わりの見えない暴力に対し、多くの人々が怒りの声を上げている。ユダヤ人もパレスチナ人も、現在紛争で分断されている土地から消えることはないということを認識することに代わるものはない。つまり、永続的な和平には、この深い溝を隔てた両側の人々、ひいては国家が、互いのニーズと利益を認識することが必要である。

これはイランにも同じことが言える。人口9000万人の国を悪者扱いする政策では、イランを消し去ることはできない。実際、西側諸国がイランの孤立化を図ろうとしても、イランはヒズボラやイエメンのフーシ派といった非国家的な代理勢力を増強し、ロシアや中国との関係を深めようとする決意を強めるだけである。

イスラエルと同様、西側諸国でも中心的な関心事となっているのは、イランの核開発計画であり、テヘランが長引く研究・精製段階を脱し、すぐにでも使用可能な核兵器を開発するのではないかという見通しである。残念ながら、核保有国の核軍縮に関する世界的な実績は極めて芳しくない。ウクライナは、ソ連時代から受け継いだ核兵器を廃棄した唯一の例であり、このことが悲しいことに、ウラジーミル・プーティンのロシアに対して脆弱な国になってしまった。例えば、北朝鮮をめぐる欧米諸国とアジアの長年にわたる外交は、平壌に核プログラムを放棄するよう説得することができなかった。好むと好まざるとにかかわらず(私は好まないが)、それは北朝鮮の体制がその将来について根本的な不安を感じているからだ。更に言えば、イスラエルは公式には認めていないが、何十年もの間、核兵器を保有していることは広く知られている。

イランの核開発プログラムに対する懸念は、テヘランともっと話をし、この地域の敵対関係を和らげる方法を模索する妨げになるはずはない。イスラエルを含む中東地域の広範な安全保障を確保する唯一の方法は、何らかの形でイランを西側諸国とより深く接触させ、最終的にはイスラエルやサウジアラビアなどの他国、パレスチナ人とともに、イランの安全保障上の懸念に対処することである。欧米諸国がそうするのは早ければ早いほどよい。

※ハワード・W・フレンチ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授。長年にわたり海外特派員を務めた。最新作に黒人として生まれて:アフリカ、アフリカの人々、そして近代世界の形成、1471年から第二次世界大戦まで(Born in Blackness: Africa, Africans and the Making of the Modern World, 1471 to the Second World War.)』がある。ツイッターアカウント:@hofrench

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年10月7日にガザ地区を実効支配するイスラエル過激派ハマスのイスラエルに対する攻撃、人質連れ去りとイスラエルのガザ地区への報復攻撃はまだ継続している。停戦交渉も行われているようだが、まだ厳しい状態だ。ガザ地区での民間人犠牲者が増加していること、イスラエルから連れ去られた人質たちの解放が進まないことに対して、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に対する批判が大きくなっている。

 今回のイスラエル・ハマス紛争に対しては、イスラエル北部国境を接するレバノンの過激派民兵組織ヒズボラ、イエメンのフーシ派がハマスを支援する形で、攻撃を行っている。イスラエルはヒズボラとも戦闘状態にある。イスラエルは南部ガザ地区でハマス、北部国境地帯でヒズボラと二正面作戦を展開しなければならない。ヒズボラはイランからの支援を受けやすく、装備や訓練がハマスに比べて上回っている。また、ヒズボラがレバノンの北部に撤退しながらの戦闘ということになれば、イスラエルはレバノン国内に入っての戦闘を行うことになり、そうなれば、戦争はどんどんエスカレートしてしまう危険がある。
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 イスラエルはハマスとヒズボラとの戦闘を、イランのとの戦争の一部と見なしている。この二正面作戦はイランとの戦争における2つの戦線ということになる。二正面作戦はあまり得策ではない。各個撃破が戦術の基本だ。ハマスもヒズボラもイスラエル国防軍にしてみれば強敵という訳ではない。将兵の人数や装備で言えばイスラエル国防軍が圧倒している。しかし、これまで殲滅できなかったのは、ハマスやヒズボラが正規軍ではないからだ。イスラエルが戦線を拡大し、ヒズボラとも激しい戦いということになれば、イスラエル国内も不安定になり、また、中東全体も不安定になる。今のところ、全ての当事者がエスカレートを望んでいないようであるが、戦闘で予想外の出来事が起きればどうなるか分からない。まずは、停戦が何よりも重要である。

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イスラエルとヒズボラの間の戦争はどのようなものになるのか(What a War Between Israel and Hezbollah Might Look Like

-レバノンの武装集団はハマスよりもかなり優れた訓練と装備を備えている。

エイミー・マキノン筆

2024年6月18日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/18/israel-hezbollah-lebanon-conflict-war-border-gaza/?tpcc=recirc_latest062921

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イスラエル軍とヒズボラ戦闘員の間で国境を越えた衝突が続く中、6月16日、レバノンとの国境に近いイスラエル北部の町キルヤット・シュモナで、ヒズボラのロケット弾が当たった家を確認するイスラエル兵士

ガザ地区でのイスラエルとハマスとの戦争は過去8カ月間、世界の多くの注目を集めてきたが、第二前線(second front)、つまりレバノンとの北部国境での戦闘は現在激化している。

レバノンの過激派組織ヒズボラは先週、ヒズボラ幹部を殺害したイスラエルの空爆への報復として、これまでで最も大規模なロケット攻撃をイスラエルに対して開始し、紛争が急速に悪化する可能性があるとの懸念が高まった。

イランの支援を受けるヒズボラが数千発のロケット弾、対戦車ミサイル、無人機をイスラエルに発射し、イスラエル空軍も数千回の空爆で対抗しており、北部国境での戦闘は何か月も継続している。国境の両側で約14万人が家を追われている。

火曜日、アントニー・ブリンケン米国務長官は、イスラエルもヒズボラもより広範な戦争を求めていないと信じているが、それでも「潜在的にその方向への勢い(momentum potentially in that direction)」があると述べた。イスラエル側のカウンターパートであるイスラエル・カッツ外相は火曜日、イスラエルが開戦するかどうかの決定に近づいていると指摘し、「総力戦になればヒズボラは破壊され、レバノンは大きな打撃を受けるだろう(in a total war, Hezbollah will be destroyed and Lebanon will be hit hard)」と警告した。

しかし、イスラエルも血にまみれることになるだろう。国際戦略研究センター(Center for International and Strategic StudiesCISS)によると、ヒズボラはハマスよりもはるかに手強い敵である。ヒズボラは世界で最も重武装した非国家主体であると考えられているからだ。このグループはイラン、シリア、ロシアの援助を受けて洗練された兵器を獲得している。

オバマ政権時代に駐米イスラエル大使を務めたマイケル・オーレンは「ハマスはイスラエル国家に対する戦術的脅威(tactical threat)を表している。ヒズボラはイスラエル国家にとって戦略的脅威(strategic threat)だ」と語った。

ヒズボラは約13万発のロケットとミサイルを保有していると推定されており、これらはすぐに国の高度な防空システムを制圧し、最大都市を攻撃する可能性がある。

オーレンは「ヒズボラが3日間で私たちに何をするかという試算を読んだことがあるが、それはまさに恐ろしいことだ」と語った。オーレンは、イスラエルの核研究施設の敷地について言及し、「我が国の重要なインフラ、製油所、空軍基地、ディモナの全てを破壊することについて話している」と語った。

火曜日、ヒズボラは、レバノン国境から27マイル離れたイスラエルのハイファ港のドローン映像を公開したが、これは明らかにイスラエルの防空網を突破して国内奥深くまで到達する能力を実証する目的で行われた。

イスラエルとヒズボラは、2006年に34日間の戦争を戦い、緊迫した膠着状態に終わった。それ以来、ヒズボラは兵器を強化し、シリアで重要な戦場経験を積み、内戦中に窮地に陥ったシリアの指導者バッシャール・アル・アサドを支援するために、イランのイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard Corps)と共闘した。ヒズボラの司令官は2016年にヴォイス・オブ・アメリカに対し、この紛争は次のイスラエルとの戦争に向けた「予行演習(dress rehearsal)」だったと語った。

ハマスと同様、ヒズボラもレバノン地下を通るトンネル網を開発したと考えられており、イスラエルのアナリストの一部は、そのトンネル網はハマスが使用したものよりも、更に広範囲であると主張している。そして、テヘランの支援者から地理的に孤立しているガザ地区とは異なり、イランは、全面戦争の際にヒズボラ軍を維持するために使用できる、イラクとシリアを経由してレバノンに至る地上および空からの補給ルートを確立している。

イスラエルがレバノンの首都ベイルートやその他の都市を標的にする可能性が高く、ヒズボラが「国家の中の国家(state within a state)」を運営していると評されているレバノンにとっても、エスカレーションは壊滅的な打撃となるだろう。

イスラエルのヨアヴ・ガラント国防大臣は、戦争が起きた場合、イスラエルは「レバノンを石器時代に戻す(return Lebanon to the Stone Age)」だろうと警告を発した。

ガザ地区のハマスと同様、ヒズボラはレバノンの民間人に深く浸透している。2006年の戦争中、イスラエルは過剰な武力行使を行い、銀行、学校、政治事務所などヒズボラに関連する各種の非軍事目標を攻撃し、国の民間インフラを攻撃したとして、人権団体から広く批判された。

シンクタンクの民主政治体制防衛財団の研究担当上級副会長ジョナサン・シャンツァーは、「その計画は、ヒズボラが支配するこの国におけるヒズボラの支配の見せかけをすべて破壊することを目的とするだろう。私たちは多大なる被害について懸念している」と語った。

2006年の戦争後の数年間の比較的平穏な日々は、2023年10月7日の攻撃を受けてヒズボラが明らかにハマスとの団結を示し、イスラエルにロケット弾とミサイルを一斉射撃したことで突然終わった。ジョージタウン大学外交学部のダニエル・バイマン教授は、イスラエル北部国境の危機を緩和する道は、ガザ地区を通る可能性が高いと述べた。

バイマンは、「ハマスが停戦に同意すれば、ヒズボラもそれを尊重すると思う。ヒズボラは、全体として、ハマスの動きに合わせようと努めてきた」と語った。ヒズボラの幹部たちはエスカレーションを望まないとも述べた。

イスラエル内外の当局者やアナリストの多くは、ガザ地区をイランとの広範な戦争における前線の1つにすぎないと見ており、ヒズボラとの衝突激化はほぼ避けられないと確信している。イスラエルの元国家安全保障問題担当補佐官エヤル・フラタは、「彼ら(イラン)が核開発で前例のない進歩を遂げる一方で、ヒズボラとの衝突はそれから目を背けさせるものではないかと心配している」と語った。

ジョー・バイデン米大統領の世界エネルギー担当特使であるエイモス・ホッフスタインは、先月カーネギー基金が主催したイヴェントで、両国が戦争を回避することを望んでいたとしても、戦争に至る可能性があると述べた。ホッフスタインは、「イスラエルとヒズボラはほぼ毎日のように銃撃戦を続けており、事故やミスによって状況が制御不能になる可能性がある」と述べた。

ホッフスタインは、国境沿いの緊張緩和を目指すバイデン政権の交渉の中心人物となった。ホッフスタインは今週、レバノンとイスラエルの代表者らと会談する予定だ。

ホッフスタインは次のように述べている。「私が毎日心配しているのは、計算ミスや事故、目標を狙った誤ったミサイルが目標を外したり、他のものに衝突したりすることだ。そうなれば、どちらかの国の政治体制が、私たちを戦争に引きずり込む形で報復せざるを得なくなる可能性がある」。

イスラエル政府は、9月の新学期開始に合わせて、戦闘によって家を追われた約6万人が北部国境沿いのコミュニティに戻れるような解決策を見出すよう圧力を強めている。

バイマンは「双方向に政治的圧力がある。国中のイスラエル人を避難所に強制収容するような、終わりの見えない大規模な全面戦争は、政治的にもあまり魅力的ではない」と述べた。

アナリストたちは、10月7日のハマス主導の攻撃をヒズボラの戦略の1ページと評し、ハマスがイスラエルへの地上侵攻に備えて何年にもわたって訓練を行っていたことを指摘した。たとえ交渉がロケット弾発射の阻止に成功したとしても、ヒズボラによる更なる攻撃への懸念により、イスラエル国民の安全感を回復する取り組みは困難になる可能性が高い。

ホッフスタインはカーネギー財団のイヴェントで、「双方が発砲を止めただけでは、基本的に10月6日の現状に戻ることだけのことになり、イスラエルの人々が安全に自宅に戻ることはできない」と述べた。ホッフスタインは、民間人が国境の両側の故郷に戻れるようにするためには、より広範な合意が必要だと述べた。

※エイミー・マキノン:『フォーリン・ポリシー』誌国家安全保障・情報諜報担当記者。ツイッターアカウント:@ak_mack

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 パレスティナのガザ地区を実効支配している武装組織であるハマスがイスラエルとの紛争状態に入り、ガザ地区での戦争が続いて既に8カ月になろうとしている。イスラエルはハマスを徹底的にせん滅するまで作戦を続けるとしているが、同時に、10月7日のハマスによる攻撃で連れ去られた人質の奪還も目指している。人質の奪還のためには、交渉も必要となる。
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 現在の中東の国際関係を見れば、イスラエル対ハマス・ヒズボラ・これらを支援するイランということになる。ガザ地区での紛争がイスラエル・イランの戦争に拡大し、新たな中東戦争になるのではないか、両者が核兵器を撃ち合うことになるのではないかという懸念の声は、昨年の紛争ぼっ発直後から出ている。アメリカはイランと国交を持たないために、影響力、交渉力が限定的であり、イランとイスラエルの仲介をすることはできない。仲介することができるとすれば、両国と関係を持つロシアということになる。
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 イスラエル、イラン両国の指導者層は、核兵器を使った本格戦争まで望んでおらず、両国間関係を悪化させないようにしている。両国は国境を接しておらず、本格戦争となれば、戦闘機やミサイルによる攻撃ということになる。しかし、ハマス、ヒズボラといった武装組織がイランの代理勢力としてイスラエルと対峙している。この点では、イスラエルの方が直接対峙している分、厳しい状況となる。イスラエルはこれらの武装組織を支援している、イランのイスラム革命防衛隊の担当者たちを殺害することで報復をしている。

 イランとしては、後方にロシア、そして中国の支援を期待できる状態であり、紛争がエスカレーションしないように管理しながら、紛争を続けることができる。イスラエルとしては、外敵からの脅威をアピールすることで、国民の納得も得られやすい。現状は、両国にとって、ある面では非常に望ましい状態である。「誰も大規模な中東戦争を望んでいない」という前提のもとで、現状は維持される。問題は突発的な、予想外の、計算違いのことが起きる可能性があるということだ。そうなれば、どうなるか分からない。最終的に必要なのは、イランの持つ恐怖、不安感を持たせないようにすることで、それにはアメリカとイスラエルとの間に意思疎通のチャンネルを開くということが必要である。

 日本は民間、経済レヴェルでイランとの関係が深い国であり、その関係は今も続いている。この点で、日本は国際関係に貢献できるところがある。

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イラン・イスラエル戦争は始まったばかりだ(The Iran-Israel War Is Just Getting Started

-イラン・イスラエル両国が紛争し続ける限り、同盟諸国がどのような助言をしても、両国は打撃を与え合うことになるだろう。

ラファエル・S・コーエン筆

2024年4月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/22/israel-iran-attack-war-retaliation-escalation/

4月13日の早朝、2つの小さな奇跡が起った。1つ目としては、イスラエルが、イギリス、フランス、ヨルダン、アメリカの支援を受けて、驚くべき技術的能力を発揮し、主にイランからイスラエルに向けて発射された約170機の無人機、約120発の弾道ミサイル、約30発の巡航ミサイルを迎撃し、99%の成功率を記録し、迎撃の効果は大きく、人命やインフラへの被害は最小限度に抑えられたという報告があった。2つ目としては、何ヶ月にもわたって主に否定的なメディア報道と国際的圧力の高まりを受けてイスラエルは苦しい立場にあったが、今回のイランからの攻撃で、イスラエルはある程度の同情と肯定的な報道を享受できた。攻撃の撃退とイスラエルのイメージ向上という二重の成功を踏まえ、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に次のように助言したと伝えられている。「あなたは1つの勝利を手にした。最終的な勝利を掴め(You got a win. Take the win)(訳者註:イランとの紛争に入るな)」。他の多くの同盟諸国の指導者たちや専門家たちもイスラエルに対して同様のアドバイスをした。

しかし、イスラエルはこの助言を受け入れることにほとんど関心を示していない。報じられているところによると、即時反撃(immediate counterattack)を中止し、バイデン大統領が要請してきていた通りに「事態を遅らせる(slow things down)」ことに満足しているようだ。しかし、ヨアヴ・ガラント国防相、ヘルジ・ハレヴィイスラエル国防軍司令官、ベニー・ガンツ戦時内閣閣僚、そしてネタニヤフ自身を含むイスラエル指導者たちは全員、報復を約束した。そして、金曜朝、イスラエルはイラン中部のイスファハーンにあるイラン空軍基地の防空システムに対する反撃を実施した。この攻撃は主に象徴的なものだったようだが、それにもかかわらず、「なぜイスラエルは再びアメリカや他の同盟諸国の意見に従わないのか、そもそもこれらの国々はイスラエルの支援をしているのに?」という疑問が生じている。

結局のところ、イスラエルが反撃した理由については、悪いものが多く挙げられている。しかし、重要な良い点も1つある。それは、イスラエルとイランはもともと戦争状態にあり、この戦争は今日以降も続くという事実だ。この紛争が続く限り、この紛争の操作ロジックはエスカレーションに向かって進む。

なぜイスラエルが反撃したのかという疑問に対する答えは、ネタニヤフ首相の野心に帰着するという人もいる。この物語によれば、彼は単に自分自身を救おうとしているだけのこととなる。ネタニヤフ首相はイスラエル国内で非常に不人気だ。彼の支持率はわずか15%に過ぎない。彼の政治的正統性の主な源泉である、イスラエルの安全保障を保証するという彼の主張は、10月7日のハマスによる虐殺とその後に起こったあらゆる出来事によってひどく打ち砕かれている。したがって、当然のことながら、イランの現政権を含む、観察者の一部は、ネタニヤフ首相が国内でのイメージを回復するため、あるいは少なくとも10月7日の大惨事からの政治的清算を長引かせるため、イランとの戦争を望んでいると主張している。このプロセスにより、彼の政治的生存の可能性が高まるということになる。

ネタニヤフ首相は絶望しているのかもしれないが、報復への動きは彼だけから出ている訳ではない。実際、反撃を求めるイスラエル国内の大きな声の一部は、ガンツやギャラントをはじめとする、ネタニヤフの失敗で政治的に最大の利益を得る、ネタニヤフの政敵たちからのものだった。世論調査の結果によると、今日選挙が行われればガンツが首相になる可能性が高い。

また、イランに対する攻撃がネタニヤフ首相や他の誰かにとって良い政治的行動であるかどうかも明らかではない。ヘブライ大学が先週発表した世論調査によると、イスラエル人の約74%が「同盟諸国とのイスラエルの安全保障同盟を損なう場合には」、イランに対する反撃に反対すると答えた。同じ世論調査では、イスラエル人の56%が、「長期にわたって持続可能な防衛システムを確保する」ために、イスラエルは「同盟諸国からの政治的、軍事的要求に積極的に対応すべき」と回答していることが判明した。ネタニヤフ首相の連立政権内でさえ、金曜日のイスラエルの限定的な反撃は明確な政治的勝利と考えない閣僚がいた。例えば、右翼のイタマール・ベン・グヴィル国家安全保障相は、X(ツイッター)上で、今回の行動を「不十分(lame)」であると批判した。

対照的に、イスラエルは反撃が象徴的な内容にとどまった理由を述べている。イスラエル政府高官たちはテヘランに「メッセージを送り」、「教訓を教える」必要性について語った。しかし、イスラエル自身の最近の歴史は、しっぺ返しの暴力(tit-for-tat violence)が意図した教育効果をもたらすことはほとんどないことを示している。10月7日の虐殺が如実に示したように、今回の戦争以前のガザ地区でのイスラエルによる4回の限定的な軍事作戦は、その間に更に限定的な攻撃を挟んだが、ハマスを排除したり抑止したりすることはできなかった。そしてイランは、イスラエルへの攻撃を正当化するために、シリアやその他の地域にいる工作員を攻撃しないようイスラエルに「教える」必要があるというほぼ同じ言葉を使っている。これら全てが、今度は、イスラエルがイランを「教える」努力をもっと効果的に行うことができるかどうかという疑問を提起する。

公平を期すために言うと、イスラエルが実際に敵対者に教訓を教えることに成功した例は数例ある。おそらくその最良の例は、ヒズボラ工作員がイスラエルに侵入し、8人のイスラエル兵を殺害し、残り2人を誘拐した後に始まった2006年のレバノン戦争だろう。紛争後、ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララは記者団に対し、作戦開始の決定を遺憾に思うと語った。ナスララは「もしこの作戦がそのような戦争につながることを事前に知っていたら、私はそれを実行するだろうかと質問しているのか。その答えはノーで、絶対に実行しなかったと言える」と述べた。しかし、この教訓のために、121人のイスラエル兵士、数百人のヒズボラ戦闘員、1000人以上の民間人の命が犠牲となり、イスラエル・レバノン双方で100万を超える人々が避難した、34日間にわたる本格的な非常に破壊的な戦争が含まれていた。イスラエルがイランに対して行ったばかりの限定的攻撃とは程遠いものだった。

もちろん、イスラエルがイランを攻撃したいという背後には、より基本的な動機がある、それは復讐(revenge)である。結局のところ、攻撃が最終的に効果などなかったとしても、イランは約60トンの爆発物をイスラエルに直接投げつけ、イスラエルとイランの影の戦争(Israel-Iran shadow war)の不文律を打ち破り、たとえ一夜限りとはいえ、国全体を緊張状態に保ったのだ。当然のことながら、一部のイスラエル人は反撃を望んでおり、反撃したいと考え続けている。

しかし、ブレット・スティーブンスが『ニューヨーク・タイムズ』紙で読者に思い出させたように、「復讐は忘れたころにするのが良い(revenge is a dish best served cold、復讐は冷めてから出すのが最良の料理だ)」。一般に、感情的な決定は賢明な戦略にはならない(emotional decisions do not make for a prudent strategy)。地域戦争が勃発した場合、イスラエルと地域全体の軍事的・外交的利害を考慮すると、これは特に妥当性を持つ言葉だ。そして実際、イスラエルによる、イスファハーンに対する攻撃はそのようなエスカレーションを引き起こさないように意図的に調整されているように見える。

更に言えば、イスファハーン以前から、あるレヴェルでは既にバランスシートは均衡していた。結局、イランはイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)の高級幹部7人を失った。モハマド・レザー・ザヘディ将軍は、2020年にアメリカがイラクでカセム・スレイマニを殺害して以来、殺害された最高位のコッズ部隊メンバーである。ザヘディダマスカスのイラン外交施設に対するイスラエルの攻撃で死亡した。イスラエルはイランの攻撃によって、これに匹敵するものを何も失っていない。

しかし、現在および将来のイスラエルによるイラン攻撃には悪い理由がたくさんあるとしても、少なくとも1つの良い理由がある。それはイスラエルとイランが戦争状態にあるということだ。この戦争は何年間もほぼ秘密にされてきたが、10月7日以降、影から姿を現した。ハマス、ヒズボラ、フーシ派、そして半年以上にわたってイスラエルを攻撃してきた他の組織の共通点は、程度の差こそあれ、いずれもイランから資金提供、訓練、装備を受けていることだ。その結果、イランとヒズボラおよびアサド政権との関係を調整したザヘディを含む7人の革命防衛隊工作担当者たちが3月下旬にダマスカスに現れたとき、イスラエルは、彼らがシリアの複数のレストランで試食するために来たのではないと結論づけた。これは、おそらく正しい結論である。

イランの報復集中砲火とイスラエルの反撃の後、この奇妙にパフォーマンス的な軍事力の誇示というゲームにおいては、ボールはイラン側にある状態である。最初の兆候は、イランが少なくとも当分の間、ボールに触らない可能性があるということだ。そうなれば、アメリカも地域も安堵のため息をつくだろう。

しかし、残念なことに、どんな休息も長くは続かないだろう。イスラエルは、イランから代理勢力への物的・戦略的支援の流れを断ち切る、あるいはおそらく妨害するためだけでも、海外のイラン工作担当者たちに対する攻撃を続ける必要があるだろう。「問題は解決したと見なせる」というイランの主張に反して、イランが代理勢力を支援し続け、その代理勢力がイスラエルとの紛争に関与し続ける限り、ダマスカスのイラン大使館でのような攻撃の作戦上の必要性は残ることになる。

そして、くすぶっている従来の紛争がイスラエルの対イラン軍事行動を促す十分な理由でないとすれば、イランの核開発という、より大きな理由が迫っていることになる。イラン核合意としても知られる包括的共同行動計画が崩壊して以来、イラン政府は核兵器保有に一歩ずつ近づいている。イスラエルの指導者たちは、核武装したイランが、イスラエルを全面的に攻撃するために兵器を使用しないとしても、代理勢力への支援を増加させる勇気を得るのではないかと長年懸念してきた。多くのイスラエル人にとって、先週末のイラン攻撃はそうした不安を強めるだけだった。結局のところ、広く疑われているイスラエルの核兵器が、イランの通常攻撃を抑止するには不十分であることが現時点で証明されているのであれば、なぜイスラエルは、ひとたび核兵器を持てばイランを首尾よく抑止できると信じられるだろうか? このため、いくつかの重大な軍事的課題にもかかわらず、イスラエルがイランの核開発計画に対して先制攻撃を行う可能性が一層高まっている。

その観点からすれば、イスラエルは、たとえ疑わしい政治的動機、あいまいな抑止力の考え方、あるいは単なるありのままの感情を取り除いたとしても、イランの目標を攻撃し続ける必要があるだろう。イスラエルとイランが紛争を継続する限り、米国や他の同盟国が激化を避けるためにイスラエルにどのような助言をしようとも、両国は打撃を与え合うことになるだろう。

結局のところ、アメリカとヨーロッパが中東での地域戦争の可能性を未然に防ぎたいのであれば、イランに対して、代理勢力の力を抑制し、核開発計画について何らかの措置を講じるよう説得する必要があるだろう。そうしないと、紛争はさらにスパイラル化するだろう。

※ラファエル・S・コーエン:ランド研究所「プロジェクト・エア・フォース」戦略・ドクトリンプログラム部長。

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