古村治彦です。
イラン戦争は開戦当初、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃が実施され(宣戦布告は行われず)、イラン側に大規模な被害がもたらされた。イラン側は直ちに反撃を実施し、イスラエル、ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地や関連施設に対する攻撃を実施した。イラン側からの攻撃に対して、アメリカとイスラエルの防衛はある程度機能したと見られているが、イスラエルやアメリカ軍基地に一定の被害が出た。イラン側はミサイルやドローンを使っての攻撃を実施し、アメリカやイスラエルの防空システムの隙を突いて攻撃を成功させた。アメリカの世界最強最大の軍事力、イスラエルの最新鋭の防衛システムをもってしても完璧を期すことはできない。アメリカ海軍はホルムズ海峡で民間船舶の護衛を拒否した。イラン側からの攻撃を完全に防ぐことができず、民間船舶と自分たちを完璧に守ることはできないということを事実上宣言した。
今回のイラン戦争について情報収集、分析を世界中の軍関係者が行っているだろうが、特に熱心に行っているであろう国々が中国とロシアだ。中国とロシアにとっての仮想敵国はアメリカだ。アメリカの攻撃能力、防御能力をある程度把握しておくことは必要不可欠となる。そして、ヴェネズエラのような脆弱な国家ではなく、イランのような地域大国であり、ある程度の軍事力、軍事経験がある国家の軍事組織との戦闘は中露両国にとって貴重なデータ収集の場となる。そして、中露両国はアメリカの卓越した点と弱点を見つけているだろう。中国はイランがペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地やイスラエルに被害を与えることができたということが収穫になっただろう。
ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地を、日本や韓国にあるアメリカ軍基地と見なすことができる。アメリカはペルシア湾岸諸国の防衛も担っているが、防衛システムに脆弱性、穴があり、完璧ではないということが明らかになった。これは中国にとって、台湾有事の際の、アメリカ軍と日本の自衛隊との戦闘において大いに参考になる。中国はイランよりもはるかに強大な軍事力を持つ。イラン戦争でイランを打倒できず、実質的にイランに敗北する形となったアメリカは中国と戦うことはできない。アメリカが中国と戦えないのに、日本が戦えると考える合理性は存在しない。それでも何が何でも日本は中国と戦って勝つと信じるのはもう宗教の域である。
イラン戦争、そしてウクライナ戦争を通して得るべき教訓は「戦争は起こしてはならないこと」「近隣諸国を挑発しないこと」「他国の口車に乗って戦争をさせられるような愚かさは国家を滅亡させること」である。日本はそのことをよくよく拳拳服膺すべきである。
(貼り付けはじめ)
ミサイル防衛はイランに対しては有効だったが、中国に対しては有効ではないかもしれない(Missile
Defense Worked Against Iran. It Might Not Work Against China)
-現在進行中の戦争は、台湾を巡る紛争において、はるかに深刻な脅威となりうる脆弱性(vulnerabilities)を露呈させた。
デッカー・イヴェレス筆
2026年6月12日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/06/12/iran-war-us-china-taiwan-missile-defense-radar-interceptors/?tpcc=recirc_trending062921
イランとの戦争におけるアメリカの戦術的成功、特にイランのミサイル兵器庫の一部破壊と飛来するミサイルおよびドローンの大部分の迎撃成功は、他の戦域におけるミサイルとドローンの脅威の再評価を促した。国防大学のカーター・マルカシアン教授は『フォーリン・アフェアーズ』誌に投稿した論考の中で、これらの成功は、台湾を巡る侵略戦争を遂行するために長距離精密攻撃(long-range precision strikes)を期待していた中国を含む、アメリカの他の敵対国を躊躇させる可能性があると論じた。結局のところ、アメリカの防空・ミサイル防衛システムがイランのミサイル攻撃を大幅に弱体化させることができるのであれば、台湾や太平洋全域における中国の攻撃も防げるのではないか?
マルカシアン教授のような楽観主義者でさえ、イランのミサイル戦力には限界があると指摘している。イランの攻撃は中東地域全体で推定20カ所のアメリカ軍施設に損害を与えたものの、イランのミサイルは破壊力こそ高いが、本格的な対抗作戦に必要な精度を欠いているため、戦闘作戦を深刻に阻害するには至っていない。これに加え、ミサイル迎撃の成功も相まって、イランの攻撃は当初懸念されていたほどの効果を発揮していない。
しかし、中国は全く異なる存在であり、中国が東アジアで実際にどのように戦い、勝利を収めようとしているかを考えると、イランとの比較は成り立たない。中国ははるかに高度な標的設定能力(far more sophisticated targeting capabilities)と、はるかに先進的なミサイル戦力(a much more advanced missile force)を保有しており、これらが中国のドクトリンと作戦計画を形成している。中国はイランのような戦争のやり方はしないだろう。アメリカが台湾紛争に中東紛争のようなやり方で臨まないのと同様である。こうした違いがあるため、イラン戦争から得られた教訓を東アジアに適用することは難しい。
イラン紛争はまた、アメリカのミサイル防衛における重大な脆弱性を露呈させた。それは、レーダーインフラだ。イランはアメリカの最も重要なレーダーシステムの一部を破壊することで、ミサイル防衛網に穴を開けることに成功した。重要なのは、中国が極超音速滑空体(hypersonic glide vehicles)や機動巡航ミサイルな(maneuvering
cruise missiles)ど、この任務に特化したシステムに長年投資してきたことである。
レーダーが機能しなければ、ミサイル防衛システム全体が崩壊し、アメリカによる台湾防衛ははるかに困難な課題となる。
2月28日のイラン指導部に対する最初の攻撃後、イランはアメリカとその同盟諸国に対し、地域全体の軍事施設および民間施設へのミサイルとドローンによる波状攻撃(waves of missile and drone attacks)で報復した。1日あたり約20~30発のミサイルが使用された。イランのミサイルは一般的に、個々の航空機や航空機格納庫といった小型インフラを標的とするほどの精度がないため、地上での航空機の損失は限定的だったようだ。イランは燃料タンクや貯蔵タンクなどの大型施設への攻撃には成功したが、特にミサイル防衛システムが飛来するミサイルの一部を迎撃する状況下では、一貫した対敵攻撃を行うことはできなかった。
こうした限界を認識したイラン指導部は、異なる戦略を採用した。アメリカ軍の全面的な軍事的敗北に賭けるのではなく、コスト負担の増大に焦点を当てた。つまり、同盟諸国の軍事作戦の経済的・政治的コストを高め、ワシントンが戦闘継続の意思を失うまで持ちこたえることを目指すことにした。
イランはこの戦略を様々な方法で実行に移してきた。例えば、アメリカ空軍基地の居住区へのドローン攻撃や、イスラエルの民間人居住地域へのクラスター爆弾の使用などにより、アメリカの迎撃ミサイルの保有数を徐々に減少させてきた。弾道ミサイルの命中精度の低さ、同盟諸国の効果的なミサイル防衛システム、重要施設の移転、そして偶然の幸運などが重なり、これらの攻撃の効果は限定的だった。アメリカ軍の死傷者は比較的少なく、確認された死者はわずか13人にとどまった。
イランがより大きな成果を上げたのは、レーダーシステムに対する攻撃だった。安価で一方向攻撃が可能なドローンに続いて強力なミサイルを発射することで、イランはヨルダン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦にあるAN/TPY-2およびAN/FPS-132といった先進的なレーダーシステムを損傷または破壊したとみられる。もしイランが敵のレーダー設備全てを破壊することに成功していたら、アメリカとその同盟諸国は飛来するミサイル攻撃を確実に探知・追跡する能力を失い、迎撃ミサイルを発射して迎撃するタイミングを明確に判断することもできなくなっていただろう。
中国はイランとは対照的に、コスト負担だけで満足するはずがない。台湾を巡る紛争において、北京は地域におけるアメリカ軍および同盟軍に対する完全な軍事的勝利と台湾領土の奪取を目指すだろう。中国は何十年にもわたり、まさにこの事態に備えて準備を進めてきた。少なくとも1990年代以降、中国は台湾奪取に向けた共同作戦を視野に入れ、航空宇宙軍の近代化を進め、大小さまざまな弾道ミサイルやドローンを多数開発してきた。
これらの新型システムの中で最も技術的に高度なのは、DF-17、DF-27、YJ-17極超音速滑空ミサイルである。これらのミサイルは降下中に機動できるため迎撃が極めて困難であり、またYJ-19極超音速巡航ミサイルは高速かつ低高度で接近することでレーダー探知を回避できる。
これらのシステムは、紛争初期段階において、陸上および海上における同盟諸国のミサイル防衛網を破壊することを目的として設計されている。ある中国の軍事評論家がよく引用する言葉にあるように、「どんなに優秀な戦闘員でも、目を抉り取られたらどうやって戦えるというのか?(No matter how formidable a fighter is, how can they possibly fight
if their eyes have been gouged out?)」
中国のミサイルシステムの高度化と、イランが到底及ばない電子戦能力を考慮すれば、中国によるアメリカ軍への攻撃は、イランがこれまで展開してきた攻撃よりもはるかに精密なものとなるだろう。イランが安価なドローン数機で複数の高度なレーダー施設を破壊できるのであれば、中国ははるかに高度な技術基盤と幅広い能力を駆使して、それをはるかに大規模に実行できる可能性が非常に高い。
これは、紛争のごく初期段階で、アメリカおよび同盟諸国の防空網の大部分が機能不全に陥る可能性があることを意味する。中国がこれらの防空網を完全に破壊することに成功すれば、迎撃ミサイルの保有数や迎撃率に関する議論は無意味になる。そもそも飛来する脅威を探知・追跡できなければ、ミサイル防衛システムが迎撃ミサイルを発射すべきタイミングを判断する方法がなくなる。
また、より広範な作戦上の問題も存在する。アメリカはこれらのミサイル脅威に対処しつつ、同時に中国の海上および空軍からの攻撃にも対処しなければならない。中東地域における作戦環境は比較的単純だ。アメリカ軍はイランのミサイルとドローン兵器庫に対処すればよいだけだ。しかし東アジアでは、中国南部に配備された数百機の戦闘機と爆撃機に加え、ヘリコプター、水上艦艇、空母、潜水艦にも直面することになる。防空能力が低下すれば、これらの部隊はイランの不正確なミサイル攻撃よりもはるかに強力に地上部隊を攻撃し、壊滅させる能力を持つことになるだろう。
マルカシアンは、アメリカの作戦計画を見直し、中東地域におけるアメリカの成功を考慮に入れるべきだと主張している。「イラン戦争における迎撃ミサイルの命中率や消費率といった実戦的な性能指標を、アメリカのモデル構築、ウォーゲーム、定量的計算に組み込むことで、中国との潜在的な紛争における予測結果が変わり、アメリカ軍の作戦計画の改善に役立つ可能性がある」と述べている。
しかし、上記の分析が示すように、これらの迎撃指標はイランの脅威特有の状況下で作成されたものである。これらを東アジアに適用すると、この重要な背景を見落とす危険性がある。そして、決定的に重要なのは、中国がミサイル防衛を支えるインフラを組織的に標的にし、空軍と海軍の戦力でその隙間を突くことで、ミサイル防衛システムを弱体化させる能力を過小評価してしまうことで(underestimating)だ。
また、イラン戦争で露呈したアメリカの重大な脆弱性(the critical U.S.
vulnerabilities)を見落とす危険性もある。中国の習近平国家主席は、抑止されるどころか、自国の通常戦力を適切に活用すれば、陸上でも海上でもアメリカを打ち負かす十分な可能性があると結論づけるかもしれない。
全ての戦争には教訓がある。しかし、ある戦争や戦域で得られた教訓を、当てはまらない別の戦争や戦域に安易に適用することには危険が伴う。歴史はそうした教訓に満ちている。例えば、ドイツ軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテットの事例が挙げられる。彼は、連合軍のノルマンディー上陸作戦に対する防衛計画を、ソ連との戦いで得た教訓に基づいて立てた。
連合軍の戦術航空戦力との戦闘経験を持つ部下エルウィン・ロンメルの反対を押し切って、ルントシュテットは機動性(maneuverability)を維持し、ソ連軍に対して成功を収めたように連合軍に反撃するため、装甲部隊の大部分を予備として温存することを決定した。ロンメルの予言通り、これは悲惨な結果を招くことになる。連合軍の卓越した戦術的阻止能力(tactical interdiction)によって、ルントシュテットが予備として温存していた多くの装甲部隊は前線に到達することなく壊滅的な打撃を受けた。
アメリカは今、同様の過ちを犯す危険に晒されている。中国の軍事技術はイランをはるかに凌駕しており、中国はこれらの戦力を東アジアで効果的に活用できる。そうなれば、中東地域で得られた教訓は無意味なものとなるだろう。イランでの経験に基づく中国に対する過信(overconfidence against China)は、壊滅的な作戦計画の誤りを招き、アメリカ軍を不必要なリスクに晒すことになる。
より良い前進策は、イランにおけるアメリカ軍の作戦遂行状況を詳細に分析し、特にレーダー防衛といった主要な失敗点を特定し、これらの個々の問題が中国との戦闘においてどのような規模に拡大する可能性があるかを批判的に検討することである。
アメリカは中国との潜在的な紛争に臨むにあたり、過信(overconfidence)は許されない。最悪の事態を想定し、それに応じた準備を整える必要がある。
※デッカー・イヴェレス:ワシントンに拠点を置く非営利の研究分析機関CNAアソシエイト・リサーチ・アナリスト。衛星画像を用いて外国の核態勢を研究している。モントレー大学ミドルベリー記念国際大学院で修士号、リード大学で学士号を取得。
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』






















