古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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カテゴリ: 国際関係論

 古村治彦です。

 イラン戦争は開戦当初、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃が実施され(宣戦布告は行われず)、イラン側に大規模な被害がもたらされた。イラン側は直ちに反撃を実施し、イスラエル、ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地や関連施設に対する攻撃を実施した。イラン側からの攻撃に対して、アメリカとイスラエルの防衛はある程度機能したと見られているが、イスラエルやアメリカ軍基地に一定の被害が出た。イラン側はミサイルやドローンを使っての攻撃を実施し、アメリカやイスラエルの防空システムの隙を突いて攻撃を成功させた。アメリカの世界最強最大の軍事力、イスラエルの最新鋭の防衛システムをもってしても完璧を期すことはできない。アメリカ海軍はホルムズ海峡で民間船舶の護衛を拒否した。イラン側からの攻撃を完全に防ぐことができず、民間船舶と自分たちを完璧に守ることはできないということを事実上宣言した。

 今回のイラン戦争について情報収集、分析を世界中の軍関係者が行っているだろうが、特に熱心に行っているであろう国々が中国とロシアだ。中国とロシアにとっての仮想敵国はアメリカだ。アメリカの攻撃能力、防御能力をある程度把握しておくことは必要不可欠となる。そして、ヴェネズエラのような脆弱な国家ではなく、イランのような地域大国であり、ある程度の軍事力、軍事経験がある国家の軍事組織との戦闘は中露両国にとって貴重なデータ収集の場となる。そして、中露両国はアメリカの卓越した点と弱点を見つけているだろう。中国はイランがペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地やイスラエルに被害を与えることができたということが収穫になっただろう。

 ペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地を、日本や韓国にあるアメリカ軍基地と見なすことができる。アメリカはペルシア湾岸諸国の防衛も担っているが、防衛システムに脆弱性、穴があり、完璧ではないということが明らかになった。これは中国にとって、台湾有事の際の、アメリカ軍と日本の自衛隊との戦闘において大いに参考になる。中国はイランよりもはるかに強大な軍事力を持つ。イラン戦争でイランを打倒できず、実質的にイランに敗北する形となったアメリカは中国と戦うことはできない。アメリカが中国と戦えないのに、日本が戦えると考える合理性は存在しない。それでも何が何でも日本は中国と戦って勝つと信じるのはもう宗教の域である。

 イラン戦争、そしてウクライナ戦争を通して得るべき教訓は「戦争は起こしてはならないこと」「近隣諸国を挑発しないこと」「他国の口車に乗って戦争をさせられるような愚かさは国家を滅亡させること」である。日本はそのことをよくよく拳拳服膺すべきである。

(貼り付けはじめ)

ミサイル防衛はイランに対しては有効だったが、中国に対しては有効ではないかもしれない(Missile Defense Worked Against Iran. It Might Not Work Against China

-現在進行中の戦争は、台湾を巡る紛争において、はるかに深刻な脅威となりうる脆弱性(vulnerabilities)を露呈させた。

デッカー・イヴェレス筆

2026年6月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/12/iran-war-us-china-taiwan-missile-defense-radar-interceptors/?tpcc=recirc_trending062921

イランとの戦争におけるアメリカの戦術的成功、特にイランのミサイル兵器庫の一部破壊と飛来するミサイルおよびドローンの大部分の迎撃成功は、他の戦域におけるミサイルとドローンの脅威の再評価を促した。国防大学のカーター・マルカシアン教授は『フォーリン・アフェアーズ』誌に投稿した論考の中で、これらの成功は、台湾を巡る侵略戦争を遂行するために長距離精密攻撃(long-range precision strikes)を期待していた中国を含む、アメリカの他の敵対国を躊躇させる可能性があると論じた。結局のところ、アメリカの防空・ミサイル防衛システムがイランのミサイル攻撃を大幅に弱体化させることができるのであれば、台湾や太平洋全域における中国の攻撃も防げるのではないか?

マルカシアン教授のような楽観主義者でさえ、イランのミサイル戦力には限界があると指摘している。イランの攻撃は中東地域全体で推定20カ所のアメリカ軍施設に損害を与えたものの、イランのミサイルは破壊力こそ高いが、本格的な対抗作戦に必要な精度を欠いているため、戦闘作戦を深刻に阻害するには至っていない。これに加え、ミサイル迎撃の成功も相まって、イランの攻撃は当初懸念されていたほどの効果を発揮していない。

しかし、中国は全く異なる存在であり、中国が東アジアで実際にどのように戦い、勝利を収めようとしているかを考えると、イランとの比較は成り立たない。中国ははるかに高度な標的設定能力(far more sophisticated targeting capabilities)と、はるかに先進的なミサイル戦力(a much more advanced missile force)を保有しており、これらが中国のドクトリンと作戦計画を形成している。中国はイランのような戦争のやり方はしないだろう。アメリカが台湾紛争に中東紛争のようなやり方で臨まないのと同様である。こうした違いがあるため、イラン戦争から得られた教訓を東アジアに適用することは難しい。

イラン紛争はまた、アメリカのミサイル防衛における重大な脆弱性を露呈させた。それは、レーダーインフラだ。イランはアメリカの最も重要なレーダーシステムの一部を破壊することで、ミサイル防衛網に穴を開けることに成功した。重要なのは、中国が極超音速滑空体(hypersonic glide vehicles)や機動巡航ミサイルな(maneuvering cruise missiles)ど、この任務に特化したシステムに長年投資してきたことである。

レーダーが機能しなければ、ミサイル防衛システム全体が崩壊し、アメリカによる台湾防衛ははるかに困難な課題となる。

2月28日のイラン指導部に対する最初の攻撃後、イランはアメリカとその同盟諸国に対し、地域全体の軍事施設および民間施設へのミサイルとドローンによる波状攻撃(waves of missile and drone attacks)で報復した。1日あたり約20~30発のミサイルが使用された。イランのミサイルは一般的に、個々の航空機や航空機格納庫といった小型インフラを標的とするほどの精度がないため、地上での航空機の損失は限定的だったようだ。イランは燃料タンクや貯蔵タンクなどの大型施設への攻撃には成功したが、特にミサイル防衛システムが飛来するミサイルの一部を迎撃する状況下では、一貫した対敵攻撃を行うことはできなかった。

こうした限界を認識したイラン指導部は、異なる戦略を採用した。アメリカ軍の全面的な軍事的敗北に賭けるのではなく、コスト負担の増大に焦点を当てた。つまり、同盟諸国の軍事作戦の経済的・政治的コストを高め、ワシントンが戦闘継続の意思を失うまで持ちこたえることを目指すことにした。

イランはこの戦略を様々な方法で実行に移してきた。例えば、アメリカ空軍基地の居住区へのドローン攻撃や、イスラエルの民間人居住地域へのクラスター爆弾の使用などにより、アメリカの迎撃ミサイルの保有数を徐々に減少させてきた。弾道ミサイルの命中精度の低さ、同盟諸国の効果的なミサイル防衛システム、重要施設の移転、そして偶然の幸運などが重なり、これらの攻撃の効果は限定的だった。アメリカ軍の死傷者は比較的少なく、確認された死者はわずか13人にとどまった。

イランがより大きな成果を上げたのは、レーダーシステムに対する攻撃だった。安価で一方向攻撃が可能なドローンに続いて強力なミサイルを発射することで、イランはヨルダン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦にあるAN/TPY-2およびAN/FPS-132といった先進的なレーダーシステムを損傷または破壊したとみられる。もしイランが敵のレーダー設備全てを破壊することに成功していたら、アメリカとその同盟諸国は飛来するミサイル攻撃を確実に探知・追跡する能力を失い、迎撃ミサイルを発射して迎撃するタイミングを明確に判断することもできなくなっていただろう。

中国はイランとは対照的に、コスト負担だけで満足するはずがない。台湾を巡る紛争において、北京は地域におけるアメリカ軍および同盟軍に対する完全な軍事的勝利と台湾領土の奪取を目指すだろう。中国は何十年にもわたり、まさにこの事態に備えて準備を進めてきた。少なくとも1990年代以降、中国は台湾奪取に向けた共同作戦を視野に入れ、航空宇宙軍の近代化を進め、大小さまざまな弾道ミサイルやドローンを多数開発してきた。

これらの新型システムの中で最も技術的に高度なのは、DF-17、DF-27、YJ-17極超音速滑空ミサイルである。これらのミサイルは降下中に機動できるため迎撃が極めて困難であり、またYJ-19極超音速巡航ミサイルは高速かつ低高度で接近することでレーダー探知を回避できる。

これらのシステムは、紛争初期段階において、陸上および海上における同盟諸国のミサイル防衛網を破壊することを目的として設計されている。ある中国の軍事評論家がよく引用する言葉にあるように、「どんなに優秀な戦闘員でも、目を抉り取られたらどうやって戦えるというのか?(No matter how formidable a fighter is, how can they possibly fight if their eyes have been gouged out?)」

中国のミサイルシステムの高度化と、イランが到底及ばない電子戦能力を考慮すれば、中国によるアメリカ軍への攻撃は、イランがこれまで展開してきた攻撃よりもはるかに精密なものとなるだろう。イランが安価なドローン数機で複数の高度なレーダー施設を破壊できるのであれば、中国ははるかに高度な技術基盤と幅広い能力を駆使して、それをはるかに大規模に実行できる可能性が非常に高い。

これは、紛争のごく初期段階で、アメリカおよび同盟諸国の防空網の大部分が機能不全に陥る可能性があることを意味する。中国がこれらの防空網を完全に破壊することに成功すれば、迎撃ミサイルの保有数や迎撃率に関する議論は無意味になる。そもそも飛来する脅威を探知・追跡できなければ、ミサイル防衛システムが迎撃ミサイルを発射すべきタイミングを判断する方法がなくなる。

また、より広範な作戦上の問題も存在する。アメリカはこれらのミサイル脅威に対処しつつ、同時に中国の海上および空軍からの攻撃にも対処しなければならない。中東地域における作戦環境は比較的単純だ。アメリカ軍はイランのミサイルとドローン兵器庫に対処すればよいだけだ。しかし東アジアでは、中国南部に配備された数百機の戦闘機と爆撃機に加え、ヘリコプター、水上艦艇、空母、潜水艦にも直面することになる。防空能力が低下すれば、これらの部隊はイランの不正確なミサイル攻撃よりもはるかに強力に地上部隊を攻撃し、壊滅させる能力を持つことになるだろう。

マルカシアンは、アメリカの作戦計画を見直し、中東地域におけるアメリカの成功を考慮に入れるべきだと主張している。「イラン戦争における迎撃ミサイルの命中率や消費率といった実戦的な性能指標を、アメリカのモデル構築、ウォーゲーム、定量的計算に組み込むことで、中国との潜在的な紛争における予測結果が変わり、アメリカ軍の作戦計画の改善に役立つ可能性がある」と述べている。

しかし、上記の分析が示すように、これらの迎撃指標はイランの脅威特有の状況下で作成されたものである。これらを東アジアに適用すると、この重要な背景を見落とす危険性がある。そして、決定的に重要なのは、中国がミサイル防衛を支えるインフラを組織的に標的にし、空軍と海軍の戦力でその隙間を突くことで、ミサイル防衛システムを弱体化させる能力を過小評価してしまうことで(underestimating)だ。

また、イラン戦争で露呈したアメリカの重大な脆弱性(the critical U.S. vulnerabilities)を見落とす危険性もある。中国の習近平国家主席は、抑止されるどころか、自国の通常戦力を適切に活用すれば、陸上でも海上でもアメリカを打ち負かす十分な可能性があると結論づけるかもしれない。

全ての戦争には教訓がある。しかし、ある戦争や戦域で得られた教訓を、当てはまらない別の戦争や戦域に安易に適用することには危険が伴う。歴史はそうした教訓に満ちている。例えば、ドイツ軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテットの事例が挙げられる。彼は、連合軍のノルマンディー上陸作戦に対する防衛計画を、ソ連との戦いで得た教訓に基づいて立てた。

連合軍の戦術航空戦力との戦闘経験を持つ部下エルウィン・ロンメルの反対を押し切って、ルントシュテットは機動性(maneuverability)を維持し、ソ連軍に対して成功を収めたように連合軍に反撃するため、装甲部隊の大部分を予備として温存することを決定した。ロンメルの予言通り、これは悲惨な結果を招くことになる。連合軍の卓越した戦術的阻止能力(tactical interdiction)によって、ルントシュテットが予備として温存していた多くの装甲部隊は前線に到達することなく壊滅的な打撃を受けた。

アメリカは今、同様の過ちを犯す危険に晒されている。中国の軍事技術はイランをはるかに凌駕しており、中国はこれらの戦力を東アジアで効果的に活用できる。そうなれば、中東地域で得られた教訓は無意味なものとなるだろう。イランでの経験に基づく中国に対する過信(overconfidence against China)は、壊滅的な作戦計画の誤りを招き、アメリカ軍を不必要なリスクに晒すことになる。

より良い前進策は、イランにおけるアメリカ軍の作戦遂行状況を詳細に分析し、特にレーダー防衛といった主要な失敗点を特定し、これらの個々の問題が中国との戦闘においてどのような規模に拡大する可能性があるかを批判的に検討することである。

アメリカは中国との潜在的な紛争に臨むにあたり、過信(overconfidence)は許されない。最悪の事態を想定し、それに応じた準備を整える必要がある。

※デッカー・イヴェレス:ワシントンに拠点を置く非営利の研究分析機関CNAアソシエイト・リサーチ・アナリスト。衛星画像を用いて外国の核態勢を研究している。モントレー大学ミドルベリー記念国際大学院で修士号、リード大学で学士号を取得。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 政治家とは自身の間違い、誤りを認められない人たちだ。日本の政治家たちを見てもそうだし、世界中でそうだろうと思われる。人間がそもそも間違いや誤りを認めることに苦痛を感じることが多いので、それは政治家だけの特性ではないかもしれない。人間である以上、誰でも間違う。完璧な人間はいない。「弘法も筆の誤り」という言葉がある。英語では、「Even Homer sometimes nods.」と言う。古代ギリシアの偉大な詩人ホメロスもうっかりミスをしてしまうという意味だ。

しかし、政治家の場合、特に民主政治体制国家の政治家の場合、間違いを認めてしまうと、次の選挙で投票してもらえず、落選してしまうかもしれないという危険性を感じると、頑強に間違いを認めないということになる。それもまた仕方がないことではある。「無誤謬性(infallibility)」に対する過剰な期待と評価を政治家も国民もしてしまうということはある。

 そうした中で、ドナルド・トランプ大統領は特殊な立ち位置の人である。彼は職業政治家ではない。今でもアマチュアのにおいを残している。主張をころころと変えるし、誇張表現は当たり前、嘘もつくということで、これまでの政治家像とは大きくかけ離れた人物である。彼の間違いを数え上げればきりがない。大統領としての伝記が出れば、そこにはありとあらゆる間違いが記載されるだろう。後世の歴史家、後世の人々は「どうしてこんな人が大統領に選ばれたのか」と首をかしげることになるだろう。

 しかし、こうした人物であるがゆえに、型破りであるがゆえに、「間違いを認めて素直に謝る」ということができ、それで支持が落ちるどころか、支持が上昇する可能性がある。イラン戦争の決定に関して彼は決して謝ることはないだろう。正しかったと強弁するだろう。しかし、方針を大転換して、間違いを認めて謝るということがあったらどうだろう。国民は怒り、トランプに対する非難は大きくなるだろう。しかし、同時にその素直さに関しては、一定の評価はあるだろう。今のままではトランプ大統領の支持率の回復は難しい。支持率の平均は40%を切り、不支持率の平均は60%を超えるというところまで来ている。イラン戦争に対する支持率も同様の数字だ。ここで、トランプ大統領が謝罪すれば中間選挙の結果も少しは変わるだろう。しかし、それがどれほど難しいかということも私たちは分かっている。そもそも論で「戦争など始めなければ良かったのだ」ということは全くその通りなのだが。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプは失敗を素直に認めるべきだ(Trump Should Just Admit He Screwed Up

-イランとの戦争は明らかに間違いだった。なぜそう言わないのか。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年5月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/28/trump-iran-war-mistake-admit/

アメリカとイランの間で取り沙汰されている合意の詳細―そもそも最終的に合意に至るのかどうかさえ―は不明だが、ある程度の知性(IQ3桁あるような人)があれば、イスラエルとアメリカが戦争を始めたことがとてつもない失策だったことは理解できるはずだ。掲げられた目標は1つも達成されていない。イランの体制は崩壊せず、核兵器の備蓄も放棄しておらず、ミサイルやドローンの能力も残っている。それどころか、近隣諸国に甚大な被害を与えようと思えば、いつでもホルムズ海峡を封鎖できることを実証した。過去3カ月間にわたるドナルド・トランプ米大統領やピート・ヘグセス米国防長官の豪語や威勢のいい発言は、全て中身のない空虚なものだったことが露呈した。

合意が成立すれば、トランプ政権はこの「豚に口紅を塗る」(見かけだけ取り繕う)行為を行い、これを何らかの戦略的勝利だと主張するだろう。しかし、それに納得する観察者はほとんどいないはずだし、そうした試みは、大統領とその取り巻きである追従的な顧問団を滑稽に見せるだけだろう。この大失敗を成功として印象付けるような、説得力のある方法は存在しない。そうしようとすればするほど、彼らは現実離れした妄想を抱いているように見えるだけだ。

そこで考えた。もしトランプが間違いを犯したと認めたらどうなるだろうか? 過ちを認めることは彼が得意とすることではないが、その点について彼だけが例外ということではない。政治家というものは、たとえ誰の目にも明らかな失策であっても、間違いを認めようとはしない。特に重要な問題に関してはなおさらだ。例えば、イギリスのボリス・ジョンソン元首相は今でもブレグジット(イギリスのEU離脱)を擁護し続けているし、アメリカのマイク・ポンペオ元国務長官も、2003年のイラク侵攻やトランプの1期目におけるイラン核開発合意の破棄を今なお賢明な判断だったと主張している。

明白な過ちを認めようとしないこの姿勢は少々不可解だ。誰もが、人間は過ちを犯すものだと分かっている、外交とは不確実なもので、どれほど綿密に練られた計画であっても狂いが生じうる。トランプよりも賢明で衝動的でない指導者(もっとも、トランプとの比較ではハードルは低い)であっても、全ての判断を正しく行えるということではない。また、私たちの多くは、失敗したときには過ちを認め、その経験から学び、同じ過ちを繰り返さないようにするのが最善の策だと学んでいる。言うまでもなく、大きな代償を伴う過ちを繰り返すリーダーは、やがてその報いを受けることになるし、それは当然の帰結と言える。しかし、概して有能であり、時には過ちを認める勇気も持ち合わせている公職者であれば、彼らが最善を尽くしていることやその誠実さが国民に理解され、評価されることで、かえって人気が高まる可能性もあるだろう。

しかし、この道を選ぼうとする指導者はほとんどいない。特に独裁者は、自身の権力基盤が個人崇拝や「自分は決して過ちを犯さない」という幻想の維持に依存しているため、間違いを認めることを極端に嫌う。一方、民主政体国家の指導者であっても、在任中に過ちを認めることには消極的だ。ほんの少しでも非を認めれば、対立勢力が即座にそこを突いてくると分かっているからだ。例えば、歴代の米大統領を見てみよう。ジョン・F・ケネディは「ピッグス湾事件」の失敗について全面的に責任を認めたし、バラク・オバマはトム・ダシュルを保健福祉長官に指名した初期の判断(後にダシュルの税務上の不備が発覚し、裏目に出た)について非を認めた。また、ロナルド・レーガンもイラン・コントラ事件が間違いであったことを事実上認めた。しかし、こうした場面は稀だ。2004年、ジョージ・W・ブッシュ大統領が1期目における自身の過ちを問われた際、彼は1つとして挙げることができなかった。政治家が過ちを認める姿を見たければ、通常は回顧録が出版されるのを待つ必要があるが、それでも期待外れに終わるかもしれない。

しかし、トランプは政治家としてのキャリアを通じて既存の規範を打ち破り続けてきた人物であり、その「テフロン加工(批判をものともしない)」のような性質は、レーガンをも凌ぐほどだ。思い出して欲しい。彼はかつて「五番街で誰かを撃ち殺したとしても、支持者を失うことはないだろう」と豪語したが、残念ながら、この言葉は彼の発言の中でも極めて的を射たものの一つとなった。もし、カメラの前で「とんでもない失敗をした」と認め、その上で前に進むことができる最近の米大統領がいるとすれば、それはトランプだろう。実際、彼は過去にもそうした行動をとったことがある(もっとも、その反省の弁が心からのものだったかどうかは疑問の余地がある)。

そして、それはそれほど難しいことではないかもしれない。トランプはまず、イラン問題が長年にわたる厄介な課題であり、歴代の大統領も誰も解決できなかった問題であることを人々に思い出させることから始められるだろう。彼は、この問題を一挙に解決したいと望んでいたことや、新たな爆撃を行えば事態が好転すると考えたのには十分な理由があったことを主張できるはずだ。さらに、現地の政権が不人気であり、その年の初めには大規模なデモの波を力ずくで抑え込まざるを得なかったという事実を指摘することもできるだろう。この計算は大きく外れたが、トランプらしいやり方で、彼は「何事も100%確実なことなどない」と説き、困難な決断を下すのが自身の務めだと主張した上で、その誤りは各方面から受けた悪い助言のせいだと責任を転嫁することもできるだろう。その際、彼はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を槍玉に挙げることも可能だ。ネタニヤフの好戦的な姿勢はトランプにとって何のプラスにもならなかったばかりか、ネタニヤフは今やアメリカでもイスラエルでも不人気な人物となっているからだ。ネタニヤフの評判がこれほど悪化している現状では、彼を切り捨てることは、むしろトランプの人気を高める結果にさえなり得るかもしれない。

トランプは、自身の意図は称賛に値するものであり、その大胆な賭け(ギャンビット)は試みる価値のあるものだったと主張した上で、この一件から多くのことを学んだと述べ、歴代大統領との違いを強調するかもしれない。彼の口調が目に浮かぶようだ。「何事においても考えを変えず、同じ過ちを繰り返すばかりの『眠たいジョー・バイデン』とは違い、私は常に学び、状況に応じて適応する術を知っている、極めて安定した天才なのだ」と。そして、ホワイトハウスの物議を醸したボールルーム(舞踏室)改修計画など、別の話題に話をすり替えることもできるだろう。

数々の失態を重ねてきた2期目において、最も深刻なこの失敗に対し、トランプはそのような対応をとると私が予想しているかと言えば、正直なところ、そうは思わない。過去には(たいていは無能な側近を解任せざるを得なくなった際に)過ちを認めたこともあったが、彼は、重大な過ちを認めれば自身の権威あるイメージが損なわれ、公然と反旗を翻す者が増え、さらには「偉大な大統領」として記憶されたいという夢(今となっては実現の可能性は低い)が打ち砕かれると考えているのだろう。MAGA(「アメリカを再び偉大に」)を掲げる支持基盤は今後も彼を支え続けるだろうが、数カ月後には、彼の手元に残るのがその支持者たちだけになってしまう可能性もある。

破局的な事態のさなかに勝利の幻想を掴み取ろうとして対立の終結を遅らせるトランプの行動は、アメリカとその同盟諸国が被っている苦痛を増大させ、彼自身の評判にもさらなる傷をつけている。失敗を素直に認め、次へ進む方が誰にとっても有益だろう。しかし、年老いた親から車の鍵を取り上げなければならなかった経験のある人なら誰でも知っているように、頑固な高齢者は往々にして、自分にとって何が最善かについて見えなくなってしまうものである。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 サッカーワールドカップは佳境に入ってきた。決勝トーナメントを勝ち上がるティームはどこも実力者揃いでどこが優勝してもおかしくないという状態で、サッカーファンの人たちは毎日楽しんでいると思う。ほとんど興味がない私でもダイジェストや結果を見て、驚いたり、「勝つだけのことはあるな」と納得したりという毎日である。近々、書籍を発刊する予定で、その加筆修正も行っているが。

 北中米大会ということで、開催国はカナダ、アメリカ、メキシコであったが、これらの国々の代表ティームは残念ながらすでに敗退している。アメリカはベスト8進出をかけて、ベルギーと対戦したが、その際に、前の試合でレッドカードを出されて退場処分となった選手の処遇で大きな批判を浴びることになった。この選手はベルギー戦には出場できないはずであったが、ドナルド・トランプ大統領がFIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長(トランプとは旧知の仲)に電話をかけ、処分について再考を求めた。当該選手は処分が保留となり、ベルギー戦も出場可能となり、先発出場した。これが政治介入や恣意的な処分変更ということで、多くの批判を浴びた。開催国の政治指導者が自国のティームに有利になるように働きかけた(少なくとも外形的には)ということになる。ほかの国の政治家はこのようなことをしないだろうが(独裁者などは別にして)、相手はトランプ大統領である。これくらいのことはするだろう。

 スポーツは政治の道具として使われてきた。古くは古代ローマ時代の剣闘士は庶民の不満を発散させるための格好の見世物であっただろうし、中世の騎士たちの槍試合もそのようなものだっただろう。近代ではオリンピックが始まり、スポーツのグローバル化、商業化が進み、金銭も絡むが、同時に、「国威発揚」「国同士の対決」ということに利用されてきた。冷戦下では共産主義ブロックは体制とイデオロギーの優位性をアピールするためにスポーツを利用した。アスリートたちにはドーピングまで施され、国際大会での優秀な成績獲得が求められた。

 スポーツが政治とビジネスの道具として使われるというのは避けられないことだ。私たちはそれを消費して楽しんでいる。スポーツで国際親善ができるのかと言われると、人類はそれが可能なほどに成熟しているだろうかと疑いたくなる。それでもない、スポーツ好きとしてはスポーツの可能性を信じてみたいという気もする。
sportskaramiruhigashiasiahistory001

スポーツからみる東アジア史: 分断と連帯の二〇世紀
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スポーツ外交は今なお可能なのか?(Is Sports Diplomacy Still Possible?

-今年のワールドカップにはハード・パワーの影響が大いに及んでいる。

J・アレックス・ターキニオ筆

2026年7月2日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/02/sports-diplomacy-politics-world-cup-sportswashing-immigration-war/

foreignpolicysportsdiplomacy001

シアトルのシアトル・スタジアムで行われた年FIFAワールドカップ2026のグループGの試合(エジプト対イラン戦)で「戦争、政治、サッカー」と書かれたTシャツを着たファン(6月26日)

今年ののどかな春の一日、国連の庭園に外交官たちが集まり、サッカーボールを蹴り合った。FIFA男子ワールドカップの開催を控え、また「国連世界サッカーデー」を記念して、彼らは非公式のサッカー大会を企画し、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、ラテンアメリカを代表するティームが対戦した。

スーツとネクタイを脱ぎ、ショートパンツとユニフォーム姿になった多くの外交官が、協力関係を促進するスポーツの可能性を称賛した。「スポーツで紛争や戦争が解決する訳ではないが、スポーツ外交は非常に重要だ」と、国連でのこの大会に合わせてビールとブラートヴルスト(ソーセージ)のパーティーを主催したドイツの国連大使リクレフ・ボイティンは語った。「スポーツは人々の心を開き、人々を団結させる」。

6月には、国連がビジネスリーダーや学者を招き、スポーツ外交に関する本格的な会議を開催した。そして今、ワールドカップが盛り上がりを見せる中、外交官たちは国連本部の代表者用ラウンジに集まり、アメリカ代表部が提供したスクリーンで試合を観戦している。

スポーツ外交(sports diplomacy)は今、大きな注目を集めている。現代の文脈では、1970年代の米中関係の緊張緩和のきっかけとなった「ピンポン外交(ping-pong diplomacy)」の後継的な動きと見なされることもあるが、その概念自体は古代オリンピックの時代にまで遡るほど古いものだ。スポーツ外交は通常、「ソフト・パワー(soft power)」の一形態と見なされている。この用語は、ジョセフ・S・ナイ・ジュニアが外交専門誌『フォーリン・ポリシー』誌で提唱したもので、説得を通じて他者に影響を与える能力を指す。

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愛知県の愛知県体育館で開催された第31回世界卓球選手権の期間中に中国選手団のバスから降りたアメリカ代表のグレン・コーワン(右)が中国の荘則棟と握手を交わした(1971年4月4日)

現代のスポーツ外交は、国連の庭園で行われる個人的な外交から、試合の合間に行われる非公開の首脳会談に至るまで多岐にわたる。その一例として、6月13日にロサンゼルスで行われたアメリカ対パラグアイのワールドカップの試合の際、アメリカのマルコ・ルビオ国務長官とパラグアイのサンティアゴ・ペニャ大統領が会談したことが挙げられる。

しかしながら、そうした注目の的となる一方で、カナダ、メキシコ、アメリカが共同開催するこの夏のワールドカップは、「ソフト・パワー」の限界を露呈させた。依然として「ハード・パワー(hard power)」が現場の状況に影響を与えている。ドナルド・トランプ政権による選手、関係者、ファンへの入国ヴィザ発給の厳格な制限であれ、あるいはサッカーの国際統括団体であるFIFA(国際サッカー連盟)による直接的なパブリック・ディプロマシー(対外広報外交、public diplomacy)の試みであれ、その構図は変わらない。

国際スポーツ界における「中立(neutrality)」という建前は、以前から崩れつつある。第二次世界大戦後最多となる武力紛争の激化を受け、表現の自由への制限、ボイコット、出場禁止措置などが場当たり的に行われるようになったためだ。軍事力や権威主義といったハード・パワーが台頭する中、スポーツ外交は行き詰まりに直面しているのではないかと問うのはもっともなことだ。

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ニューヨークの国連本部で行われた「世界サッカーデー」の記念イヴェントの一環としてミニサッカーのトーナメントに参加する国連常駐代表たち(5月19日)

各国は、ワールドカップやオリンピック、あるいは毎年恒例のユーロヴィジョン・ソング・コンテストといったイヴェントの開催に時間と資源を投じる。それは、そうしたイヴェントが自国の評価を高めると信じているからだ。それだけに、ワールドカップに対するドナルド・トランプ米大統領の、一見すると矛盾したような態度は理解しがたいものがある。トランプ大統領は7月19日にニュージャージーで行われる決勝戦でトロフィーを授与する予定だと報じられているが、これまでのところ、アメリカ代表ティームの試合には一度も姿を見せていない。

その一方で、アメリカ対パラグアイの初戦は、アメリカで放送されたサッカーの試合として史上最多の視聴者数を記録し、平均2750万人が視聴した。かつてNFLのクォーターバックであり、後に連邦下院議員も務めたジャック・ケンプは、「アメリカンフットボールは民主的資本主義だが、サッカーはヨーロッパの社会主義的なスポーツだ(football is democratic capitalism, whereas soccer is a European socialist sport)」という名言(あるいは冗談)を1980年代に残した。しかし、今日の多くのアメリカ人は、この見解には同意しないかもしれない。

一方で、2026年ワールドカップは史上最も国際色豊かな大会となる。出場国数は32から48へと拡大し、多くのティームがディアスポラの選手で構成されている。その一方で、移民に対する反発の高まり特にアメリカにおいて顕著だが、アメリカに限ったことではないにより、今大会は最も排他的な大会の1つともなっている。

皮肉なことに、1930年代の全体主義体制の方がこうした点では寛容だった。「スポーツウォッシング(sportswashing)」という言葉が生まれる何十年も前、ファシスト政権下のイタリアが1934年のワールドカップを主催した際、ベニート・ムッソリーニは手厚い歓迎の姿勢を示した。ナチス・ドイツもまた、高まりつつあったボイコット運動を回避する狙いもあって、1936年のベルリン五輪では黒人やユダヤ人の外国人選手の出場を容認し、アメリカの短距離走選手ジェシー・オーウェンスの歴史的快挙への道を開いた。

それから1世紀近くが経った今、ワールドカップのために渡航する多くの人々が、空港での執拗な尋問を受けたり、アメリカへの入国を拒否されたりしている。ソマリア人として初めてワールドカップの審判を務めるはずだったオマール・アルタンは、マイアミの空港で入国を拒否され、引き返すことになった。イラク代表ティームのカメラマンであるタラル・サラーはシカゴで入国を拒否され、ストライカーのアイメン・フセインも7時間近くにわたって尋問のために拘束されたと報じられている。

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ソマリアのモガディシュにて。アメリカから帰国した国際審判員オマール・アブドゥルカディル・アルタンを連帯サッカーの試合を前に旗や横断幕を掲げて出迎える支持者たち(6月10日)

アメリカ独立250周年の祝賀期間中にワールドカップを開催することは、国家の姿を世界にアピールする絶好の機会となり得る。しかし一部のファンにとって、この大会の記憶として強く残るのは、アメリカの「ハード・パワー」、すなわち厳格な入国管理体制の行使という側面だろう。

その一方で、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長は、前回の男子ワールドカップで掲げられた「サッカーは世界を一つにする(Football Unites the World)」というスローガンを頻繁に唱えている。インファンティーノ会長は、トランプ大統領への「FIFA平和賞」初授与が多くの嘲笑を招いたことを承知の上で、アメリカに入国制限の緩和を促すための必要なジェスチャーだと考えていたのかもしれない。もしそれが狙いだったとすれば、結果はまちまちだったと言える。アメリカは、特定の国からの渡航者に対し課していた1万5000ドルの保証金について、ティーム関係者や親しい関係者、特定のチケット保有者に対しては免除措置をとった。しかし、それでもなお多くのファンが入国を拒否された。

インファンティーノ会長は、自らを一種の政治家のような存在として演出することにも努めてきた。4月にカナダのヴァンクーバーで開かれたFIFAの年次総会では、イスラエルとパレスティナのサッカー関係者の和解を演出しようと試みた。彼は写真撮影の好機を狙っていたのかもしれないし、実際、この場を利用して再選を目指す意向を表明してもいる。しかし、パレスティナ側のサッカー協会トップがイスラエル・サッカー協会副会長との握手を拒否したことで、気まずいやり取りが生じる結果となった。その光景は、この対立がいかに根深く、解決が困難なものであるかを浮き彫りにするだけだった。

同様の例として、2018年の平昌冬季五輪の直前、南北朝鮮の当局者たちが非武装地帯(demilitarized zoneDMZ)で会合を開き、南北合同ティームの結成計画を策定したことが挙げられる。その結果、韓国の女子アイスホッケー代表ティームは23名の選手からなる代表ティームに北朝鮮の選手12名を直前で加えるということが決定された。合同ティームは全5試合に敗れ、韓国の若者たちは、これを政治的なパフォーマンスだと感じ、裏切られたような思いを抱いた。

こうした出来事は、現代世界におけるスポーツ外交、ひいては「ソフト・パワー」そのものの無力さを示唆しているように思える。とは言いながら、伝統的な外交であっても、こうした世代を超えて続く対立を解決できてはいないのだ。

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韓国・江陵市のクァンドン・ホッケー・センターで行われた平昌2018冬季オリンピックのアイスホッケー女子予選で統一コリア代表のイ・ジンユ選手が日本に敗れた後、悔しさを露わにしている(2018年2月14日)

国家機関もスポーツリーグも、スポーツは非政治的であるべきだという陳腐な主張を繰り返す。しかし、国際大会はその性質上、極めて政治的な舞台だ。ロシアは特に、ウクライナとの戦争に起因する競技制限に関して、この主張を繰り返し唱えている。そして、ある程度は、その制限を緩和することに成功している。

オリンピックとテニスのグランドスラム大会では、ロシア人選手は依然として中立旗の下で出場することが認められている。国際チェス連盟は、2022年のチェス・オリンピアードからロシアとベラルーシの代表ティームを除外した。両国の選手は今もチェス連盟の旗の下で個人戦に出場している。ロシアはユーロヴィジョン・ソング・コンテストへの出場も禁止されている。(そのため、今年は複数の国がイスラエルの出場禁止を求め、ボイコットにつながったため、主催者は窮地に立たされた。)

ロシアは4年前のウクライナ侵攻後、ワールドカップへの出場を完全に禁止されたが、これは複数のヨーロッパ諸国が、ロシアの出場を認めれば2022年のカタール大会をボイコットするという脅しに似た要求をした後のことだった。

モスクワがスポーツは非政治的であるべきだと主張すると、批判者たちはロシアのウラジーミル・プーティン大統領が古代オリンピックに由来するオリンピック休戦協定を破り、2014年のソチ冬季オリンピックに向けた軍事力増強を利用してクリミアを併合したことを指摘する。同様に、ロシアは2008年の北京夏季オリンピック開会式中にグルジアに侵攻し、同じく北京で開催された2022年冬季オリンピック後にはウクライナへの本格的な侵攻を開始した。

スポーツ団体もまた、一貫して自らを「スポーツの中立性」の守護者と位置づけている。統括団体は、大会開催の有利な条件やスポンサー契約を確保し、より幅広い層のファンを獲得するためには、政治的とみなされる言動を制限することが必要だと考えているのかもしれない。しかし、「何が政治的なシンボルにあたるか」を定義すること自体が、すでに政治的な行為だ。

ウクライナのスケルトン選手ウラディスラフ・ヘラスケビッチは、ロシアによるウクライナ侵攻で命を落としたウクライナの選手やコーチの画像が描かれたヘルメットの着用を拒否されたため、今年の冬季オリンピックで失格処分となった。また、2022年のFIFAワールドカップでは、欧州の7ティームのキャプテンがLGBTQコミュニティへの支持を示す「One Love(ワン・ラブ)」の腕章を着用する計画を立てていた。これに対しFIFAは、その腕章を着用した選手には即座にイエローカードを提示すると通告した。

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イタリアのヴェネト州にあるコルティーナ・スライディング・センターにて、2026年冬季五輪の男子スケルトン練習に臨むウクライナのウラディスラフ・ヘラスケビッチ選手(2026年2月9日)

アメリカがワールドカップ開催の数カ月前にイランに対して攻撃を行ったことは、1930年の第1回大会以来、前例のない出来事となった。開催国が予選を通過した国を承認しないという事例は、過去にも稀にあった。例えば、冷戦時代に最も政治的緊張が高まった事例の1つとして、西ドイツで開催されたグループステージの試合で、東ドイツが西ドイツを破ったことが挙げられます(なお、西ドイツはその後、優勝を果たした)。

しかし、この夏にアメリカでイランが競技を行うことによる外交上の複雑さは、それらとは次元の異なるものだった。政治的象徴をめぐる議論は、アメリカで行われたイランの試合の期間中に明確に表れた。FIFAは、国外在住のイラン人の間でイスラム共和国体制への抵抗の象徴となっている「革命前の国旗」を観客が掲げることを禁止すると発表したが、この禁止令の運用は緩やかだったようだ。

一方で、イラン代表ティームがメキシコのティフアナに到着した際、選手たちが「168」という数字の入ったバッジを胸につけていたことについて、FIFAはこれを政治的な意思表示とは見なさなかった。この「168」という数字は、2月28日にアメリカの攻撃によってイランの女子小学校で犠牲となった奨学生と教師の数を指すものだった。スタジアムから遠く離れた場所での出来事ではあったが、この一件は、「政治色を排除した国際スポーツイヴェント」とは何なのか、そもそもそのようなものが可能なのか、という問いを投げかけることになった。

この夏、ワールドカップにおけるイラン代表ティームの短くも奇妙な旅路は、世界の人々に強い印象を残した。グループステージで敗退する前、イラン代表はアメリカ当局から試合前後の滞在時間を制限され、一部のスタッフへの入国ヴィザ発給も拒否されたため、拠点をメキシコへ移さざるを得なくなった。これは、スポーツ外交という「ソフト・パワー」が、軍事攻撃やヴィザ発給拒否といった「ハード・パワー」と衝突した一例と言える。

しかし、トランプ政権のこうした対応は、ある意味で「ブーメラン効果(boomerang effect)」をもたらした。イラン代表はメキシコで英雄のような歓迎を受けたほか、試合ごとに十分な休息をとれずに移動しなければならないという競技上の不利な状況を強調することで同情を集め、結果としてイラン政権への批判をかわすことにもつながった。

当然ことだが、アスリートは本来、政治家ではない。スポーツ外交が予測不可能であり、時に見る者を熱狂させるのは、それが容易に筋書き通りにはいかないからだ。実際、1936年のベルリン・オリンピックにおける決定的な瞬間は、ジェシー・オーウェンスが4つ目の金メダルを受け取るために表彰台に立った時だった。彼は一言も発することなく、ナチス党の世界観に異議を唱えた。

悪意ある主体に悪用されれば、スポーツ外交は拙劣なもの、あるいはそれ以上に有害なものになりかねない。しかし一方で、異文化間の理解や称賛を生み出す力も秘めている。コンゴ民主共和国の代表ティームが到着時に着用していた大胆なヒョウ柄の特注スーツに向けられた熱狂や、ノルウェーのファンによる「ヴァイキング・ロウ(Viking Row)」のパフォーマンスが北アメリカの街頭にまで広がった様子を見ればそれは明らかだろう。

従って、ソフト・パワーがハード・パワーによる強圧的な力に対して最近大きな突破口を開けていないからといって、スポーツ外交を「別のリーグ(二の次)」に追いやるべき時ではないと言えるかもしれない。

J・アレックス・ターキニオ:ニューヨークの国連を拠点とする特派員、ポッドキャスト「ザ・デレゲイツ・ラウンジ(The Delegates Lounge)」ホスト。ジャーマン・マーシャル・ファンドのジャーナリズム・フェロー、プロ・ジャーナリスト協会(SPJ)の全米会長を務めた。Xアカウント:@alextarquinio

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(終わり)



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 古村治彦です。

 アメリカはイラン戦争でイスラエルという負債を抱え、ウクライナ戦争でウクライナという負債を抱え、実際には起きていない台湾有事に関して日本という負債を抱えている。アメリカはイスラエルに使嗾されたイラン戦争を戦い、ウクライナ戦争ではロシアを弱体化させるためにウクライナ支援を続け、台湾有事では日本を中国への嫌がらせのために使っている(日本全体が政治家と国民の大多数が馬鹿なので本気で武力衝突をしたがるようになって慌てている)。

 イラン戦争ではイスラエルに唆されて、「アメリカ軍が出れば鎧袖一触、イランはすぐに降参して、体制転換ができる」「これが中東地域での最後の戦争となり、トランプ大統領は歴史に残る偉大な大統領になる」とおだてられ(「豚もおだてりゃ木に登る」という言葉通りに)、ほいほいとアメリカ軍を出してイランを攻撃して、人的、経済的に大きな被害を出した。イラン側はイスラエルやペルシア湾岸諸国のアメリカ軍基地に対して反撃を行い、一定の成果を上げた。さらに、ホルムズ海峡を封鎖してその力を示した。アメリカ軍はイランのホルムズ海峡封鎖を実力で阻止することができず、実力の欠如を露呈した。

 ウクライナ戦争やイラン戦争という世界にとって深刻な、しかも重要な出来事に関して、中国は目立った動きを見せていない。しかし、国際関係や世界政治を注意深く見ている人たちにとっては中国の動きは明らかだ。それが漏れ伝わって、マスコミでも報道されることがある。アメリカとイランの間を取り持っているのは中国である。今年の5月にはアッバス・アラグチ外相が訪中し、記憶に新しいが5月中旬にはドナルド・トランプ大統領が訪中し、更にその後にロシアのウラジーミル・プーティン大統領が訪中している。中国が国際関係、世界政治のキープレイヤーであることは明白だ。アメリカが対外政策で失策を重ねている間に、中国は慎重な動きをすることで、相対的に評価が高まるということになった。

 しかし、中国はそのことを誇らない。目立たないというのは中国の長期戦略である。経済の分野では黙っていても目立つようになっており、他国からの反感を買うこともある訳で、目立つようなことをして失敗することは望ましいことではない。鄧小平が唱えた「韜光養晦(とうこうようかい)」である。中国は実力を蓄え、アメリカが衰退していく中で、それに巻き込まれないようにしながら、完全に追い越すまでじっと待つということになる。熟した柿が自然と落ちるのを待つ、木に登るという危険(落ちて怪我をするかもしれない)を避けて、長期的に待つという「熟柿作戦」とも言える。この時間の幅の取り方は中国人独特と言えるだろう。せっかちな日本人にはできないことだ。

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アメリカの不安定さが中国の長期戦略を加速させている(U.S. Volatility Is Advancing China’s Long Game

-北京はワシントンの混乱に対し、勝ち誇った態度(triumphalism)ではなく、未来を勝ち取るための忍耐強い動き(a patient campaign to win the future)で対応している。

ファリード・ザカリア筆

2026年4月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/04/20/united-states-china-economic-industrial-great-power-competition/

世界の舞台で不思議な事態が起きている。アメリカは無謀で予測不能、そして法を無視した行動で世界の多くの国々を激怒させている。一方的な軍事行動を仕掛け、世界経済を混乱させ、同盟関係を覆し、長年守られてきた規範を不都合なものとして扱っているのだ。にもかかわらず、台頭する超大国である中国は、アメリカを激しく非難したり、信頼できないアメリカに代わる責任ある選択肢を自ら宣言したりしていない。その理由を理解することで、北京の長期的な戦略をより深く理解できるだろう。

私はこの1週間中国に滞在したが、今回のアメリカの中東戦争に対する人々の反応が、前回の大規模な戦争とは全く異なっていることに驚いた。イラク戦争の際、中国の戦略家たちは、アメリカが砂漠で泥沼にはまる様子を喜​​んでいるかのように見えた。しかし今回は、政府関係者、シンクタンクの研究者、そしてビジネスリーダーたちは、アメリカの混乱した政策に困惑し、懸念を抱き、ドナルド・トランプ大統領が次に何をするのかについて、深い不安を抱いていた。

こうした動きには、ある程度の自国の利益も関係している。中国はホルムズ海峡を通過する石油と天然ガスを必要としている。より広く言えば、中国はロシアと同様のならず者国家(a rogue state)ではない。自国の成長は、開かれた航路(open sea lanes)、機能する市場(functioning markets)、そして、堅固なゲームのルール(steady rules of the game)にかかっていることを理解している。中国政府当局者は、習近平国家主席の発言を引用しながら、繰り返し、アメリカが世界を「弱肉強食の時代(law of the jungle)」に逆戻りさせていると私に語った。これは道徳的な批判(a moral critique)というより、戦略的な不安(a strategic anxiety)の表れと言えるだろう。グローバル化した世界において、覇権国が全く予測不可能な存在になれば、それは誰にとっても不利益となる。

中国政府当局者たちは、中国がアメリカに取って代わろうとしているのではないと主張する。中国のビジネスリーダーたちは、アメリカは依然としてより革新的な経済国であると断言する。アメリカが中国に対して冷淡な態度をとっているにもかかわらず、これらのリーダーたちはシリコンヴァレー、アメリカの大学、そしてアメリカ市場の規模と洗練度を依然として高く評価している。

​​中国の戦略は、この危機を利用して経済力と世界的な影響力を強化することにある。中国は、次世代の成長を決定づけると信じる最先端技術、すなわちグリーンエネルギー、ロボット工学、製造業などの産業への人工知能の応用、高度な製造業、そしてサーヴィス業に注力している。これらの分野における中国の支配力は既に驚異的だ。世界の太陽光パネルの80%、風力タービンの約60%、バッテリーの75%を生産している。また、世界の電気自動車の70%を供給している。

中国は過去3度の経済危機を巧みに利用し、その支配力をさらに強固なものにしてきた。パンデミックの間、中国企業は医療機器を世界各地に供給するべく躍進した。AIブームが拡大するにつれ、中国はデータセンターに必要な金属、電気機器、バッテリー、冷却システム、産業部品といったインフラ整備の中心的存在となった。そして今、イラン戦争は新たなエネルギー源をめぐる世界的な争奪戦を引き起こしている。ここでも中国は不可欠な存在であり、各国が石油・ガス輸入への依存度を低減するために必要となる太陽光発電、風力発電、バッテリー、電気自動車といったグリーンテクノロジーを支配している。

北京はこうした産業の強さを影響力へと転換させている。資金、インフラ、サプライチェインを提供し、各国を中国製システムに縛り付けている。アメリカは不安定性をもたらす一方、中国は設備、信用、そして安定供給をもたらすと各国政府に示している。2000年から2025年にかけて、北京は世界90カ国の港湾プロジェクトに資金を提供した。先月、北京は台湾に対し、平和的統一を受け入れれば中国本土がエネルギー安全保障を保証するという一種の取引を持ちかけた。

中国による今後の影響力拡大は極めて重要だ。習近平国家主席は最近、人民元を世界的な準備通貨(a global reserve currency)にするという北京の野心を明言した。ある元中国政府高官は、投資家がアメリカをリスクの高い市場と見なすようになった場合に備え、中国が債券市場と金融インフラを着実に拡大していく方針を説明した。ここ数週間、目立たないが不吉な兆候が見られている。世界銀行やヨーロッパ投資銀行といった機関が、実質的に安麗華国債と同等の低金利で債券を発行できるようになった。

こうした状況は、これまで世界の基軸通貨(the world’s reserve currency)というアメリカの「特権(exorbitant privilege)」と呼ばれてきた地位を脅かすものだ。もしこの地位が揺らげば​​、アメリカ政府や家計がこれほど低金利で多額の資金を借り入れることができなくなり、アメリカは大きな痛手を被ることになるだろう。

中国はこの機会を利用して自国の評判を高めようとしているが、何よりもその目的は国力の増強にある。勢力相関(correlation of forces)が着実に中国に有利な方向に進み、アメリカが世界的な影響力を浪費し続けるならば、いつの日か中国はやはり世界の覇権を握ろうと決意するかもしれない。そしてその時、ワシントンにできることは何も残っていないだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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 古村治彦です。

 2026年6月19日にアメリカとイランの間で60日間の停戦合意の覚書(MOUMemorandum of Understanding)に署名された。そして、核開発の関する交渉が実施されるということになった。世界はイラン戦争の深刻化の回避に安堵し、イスラエルはイラン戦争の停戦に失望した。ホルムズ海峡の高校の自由は保証されることになったが、イラン側からの攻撃とアメリカによる報復があり、その後、停戦が再び合意された。

 覚書は戦闘終結、戦争終結の完全な合意ではない。一時的な停戦合意に過ぎない。その期間は60日間である。この60日間の期限が近付いたら延長で両者が合意するだろうが、確実な停戦、戦争終結への道のりは遠いだろう。イラン国内には対米強硬派がおり、イスラム革命防衛隊にも戦争を継続したいと考える跳ね上がりがいるだろう。アメリカ国内には対イラン強硬派がおり、今回の覚書は「恥ずべき敗戦」と考え、無効化したいと考えているだろう。また、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はアメリカ主導の覚書に巻き込まれて、イスラエルの独自の動きが封じられ、戦争ができないことで、国内での自身への批判の高まることを恐れている。

 覚書署名後にイラン側がホルムズ海峡でタンカーへの攻撃を行ったが、このことについて私は懸念を持っている。イラン政府内、革命防衛隊内部のかなりの上層にイスラエルの情報・諜報機関のエージェントがいることは確実だ。イランのマスード・ペゼシュキアン大統領就任式の際、テヘランでハマスの最高指導者がイスラエルのモサドによって爆殺された。これは、イラン政府の中に高度機密情報を入手できるほどのイスラエルのエージェントが存在することを示している。イラン側からの攻撃が、イスラエルのエージェントによる働きかけによって、跳ね上がり分子がその働きかけによって短慮にも攻撃をしたという可能性はある。イスラエルは覚書の無効化を行うことができるし、アメリカ国内にもそれを支援する勢力がいるということを考えると、イラン戦争の和平の途はかなり険しいということになる。

 イラン戦争によって混乱した世界は落ち着きを取り戻しつつあるが、それは不確定な要素、不安な要素を皆で見ないふりをして、「まぁ何とかなって良かったね」と言い合っているようなものであり、根本的な解決にはなっていないし、これから何が起きるかは分からない。イスラエルを止めるだけの力がアメリカにあるかも不透明だ。世界は不安なまま、暑い夏を迎える。

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アメリカ・イラン和平合意について分かっていることと分かっていないこと(What We Do and Don’t Know About the U.S.-Iran Peace Deal

-イランの核開発計画など主要な諸問題は依然として未解決のままだ。

ジョン・ホルトィワンガー筆

2026年6月15日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/15/us-iran-peace-deal-trump-nuclear-sanctions-war-israel-lebanon-mou/?tpcc=recirc_featured_horizontal051524

アメリカとイランは日曜日、数千人の死者と世界経済への甚大な被害をもたらした数カ月に及ぶ戦争を終結させるための暫定合意に達したと発表した。これは数週間停滞していた和平プロセスにおける前向きな一歩となるが、合意文書が公表されていないため、多くの詳細は不明のままだ。両国は金曜日に合意の署名式を行う予定である。

イランが覚書(a memorandum of understanding)と表現したこの暫定合意について、分かっていることと分かっていないこと、そして今後の展開について、以下に詳しく解説する。

さらなる協議への道筋は以下の通りだ。この合意は戦争終結のための枠組みを提供するものであり、主に軍事作戦の停止、既存の停戦の延長、そしてホルムズ海峡をめぐる膠着状態の打開を目的としている。特に戦略的に重要なこの海峡の再開は、戦争によるガソリン価格の高騰やその他の経済的影響をめぐり、国内で批判が高まっているドナルド・トランプ米大統領にとって重要な目標である。

この合意により、ワシントンとテヘランの間の停戦状態が60日間延長される見通しであり、その期間中に核開発協議が行われる予定だ。その間、ホルムズ海峡の開放とイランの港に対するアメリカの封鎖解除が行われることになっており、これはエネルギー市場やイラン経済にとって大きな安堵材料となる。また、この合意の一環として、レバノンにおけるヒズボラとイスラエルの戦闘も終結する予定だ(詳しくは後述)。

主にパキスタンとカタールが仲介したこの合意は、金曜日にスイスのジュネーブでアメリカとイランによって正式に署名される予定で、その時点から60日間の期間が開始される。トランプ政権は月曜日、双方が日曜日に電子的に合意文書に署名済みであることを明らかにしたが、正式な署名式は予定通り6月19日に行われるとしている。

パキスタンのシャバズ・シャリフ首相は日曜日にXへ投稿し、「合意が成立したことを受け、仲介役が今週、一連の会合を調整する。実施に向けたこれらの事前協議は、技術的な協議や正式な署名式のための基盤となるだろう」と述べた。

アメリカ側が述べていることは以下の通りだ。トランプはトゥルース・ソーシャルへの投稿で次のように投稿した。「イラン・イスラム共和国との合意が完了した。皆さんおめでとう!私はここに、ホルムズ海峡の自由な通行を全面的に許可し、同時にアメリカ海軍による封鎖の即時解除を承認する。世界の船よ、エンジンを始動せよ。石油を流通させよう!」

トランプはその後の投稿で、合意が署名されるまでは海峡は開放されないと述べ、機雷の除去作業に時間を要するとの見通しを示した。しかし、トランプの発表にもかかわらず、アメリカの封鎖が具体的にいつ、どのような形で解除されるのかは完全には明らかになっていない。また、海峡を「通行料無料」で開放するというトランプの主張についても疑問が残っている。イランの国営メディアは、60日間の交渉期間終了後、ホルムズ海峡を通る民間船舶からイラン側が経済的利益を得ようとする意向を示唆している。

月曜日、この点について問われたJD・ヴァンス米副大統領はCNBCに対し、政権としては「長期的には海峡が通行料無料で開放されることを見込んでいる。そうした詳細については、今後の実務者協議で詰めていくことになる」と述べた。

ヴァンスはまた、CBSの番組「CBSモーニングス」のインタヴューで、イランが「自らの義務を履行する限り」、ペルシア湾岸諸国が拠出する3000億ドル規模の復興基金を利用できるようになる可能性があるとも示唆した。

こうした詳細が明らかになっていないことは、今後のプロセスが直面しうる数多くの障害を浮き彫りにしている。特にイランの核開発計画をめぐる協議(高濃縮ウランの備蓄や将来のウラン濃縮活動などの問題を含む)は、激しい対立を招く公算が大きく、包括的な合意に向けた最大の難問の1つとなる可能性がある。

トランプは今回の暫定合意を歓迎する一方で、日曜日の『ニューヨーク・タイムズ』紙とのインタヴューにおいて、最終的な核合意に至らなかった場合には、イランに対する軍事攻撃の再開を含むあらゆる選択肢があり得ると述べた。

イラン側が述べていることは以下の通りだ。イランのカゼム・ガリブアバディ外務次官が日曜日、合意の成立を認めるとともに、これをテヘラン(イラン政府)の勝利と位置づけた。

イランの最高国家安全保障会議は声明の中で、「最終交渉は、覚書に基づく相手側の義務が履行された後まで延期される」と述べた。しかし、アメリカとイランの間では、それらの義務の性質をめぐって見解の相違があるようだ。

イラン政府当局者は、次の段階の交渉はアメリカが凍結資産を解除した後にのみ開始されると示唆しているが、トランプ政権は、そうした措置はあくまで核開発問題に関する進展に応じて講じるものだという立場を崩していない。

連邦議会におけるトランプの有力な盟友であり、対イラン強硬派として知られる共和党のリンジー・グラハム連邦上院議員は日曜日、X上で、合意内容の一部をめぐるワシントンとテヘランの認識の食い違いについて懸念を表明した。グラハムは「イランの核開発計画やその他の事項に関する今後の交渉を注視していく」と述べ、「合意に対するイラン側の見解が、アメリカの交渉チームの主張とは異なっているように見える点に、少なからず懸念を抱いている」と語った。またグラハムは、アメリカの法制度上、イランとの核開発合意は「検討および採決」のために連邦議会へ送付されることになるとの見通しを示した。

イスラエルの要素は以下の通りだ。交渉の障害となり得る要素である。イスラエル政府はこの新たな和平合意の当事者ではなく、イスラエル政府高官たちはすでに反対の意を表明している。イスラエルのイタマル・ベン・グヴィール国家安全保障相は声明の中で、「トランプの合意は私たちを拘束するものではない。イスラエルはアメリカの従属下にはなく、私たちは独立した主権国家である」と述べ、「私の立場は明確だ。私たちの安全を保障しないこの合意に私たちは関与しない」と強調した。

レバノンを拠点とするイラン支援の武装組織ヒズボラとのイスラエルの戦争は、今後の交渉において深刻な問題を引き起こす可能性がある。トランプ政権はこの紛争をイランとの戦争とは切り離されたものとして位置づけようとしてきたが、両者は根本的に密接な関連がある。

パキスタンとイランは、レバノンもこの合意の対象に含まれていると述べており、テヘランは一貫して、合意の成立はイスラエルとヒズボラの間での敵対行為の停止にかかっていると主張し続けている。しかし、総選挙を控え政治的な先行きが不透明な状況にあるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ヒズボラとの戦闘を継続するよう国内から圧力を受けている。

イスラエル軍は日曜日にベイルートを攻撃したが、トランプ政権はこの攻撃が和平交渉を台無しにしかねないと懸念していました。トランプはトゥルース・ソーシャルへの投稿で、イスラエルによるこの攻撃について、「特にイランとの和平合意まであと一歩という特別な日に、あってはならないことだった」と述べた。

ヴァンスは日曜日にフォックス・ニューズに対し、「イスラエルがベイルートを攻撃した後、私たちは非常に懸念していた」と述べた。「イランがイスラエルに向けて大量のミサイルを発射しようとしているという多くの兆候が見られたからだ」。最終的にイランは攻撃を見送太が(報道によればトランプの働きかけによるものとされている)、イスラエルはレバノンでの姿勢を崩さない構えを見せている。イスラエルのイスラエル・カッツ国防相は月曜日、イスラエル軍がレバノン南部に駐留し続けると述べるとともに、イランからのいかなる攻撃に対しても報復すると警告した。

レバノンにおけるイスラエルの軍事行動に対しホワイトハウスの懸念が高まっていることを示すように、トランプは日曜日にニューヨーク・タイムズ紙に対し、ネタニヤフを「扱いにくい人物(difficult guy)」と評した。その上で、もしイランが核兵器を保有していれば「イスラエルは2時間も存続できないだろう」のだから、ネタニヤフは「私たちがこうした取り組みを行っていることに深く感謝すべきだ」と語った。

※ジョン・ホルトワンガー:『フォーリン・ポリシー』誌スタッフライター。Blueskyアカウント:@jchaltiwanger.bsky.socialXアカウント:@jchaltiwanger

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 サッカーのワールドカップ北中米大会(カナダ、アメリカ。メキシコでの開催)が佳境に入っている。日本代表は予選リーグを突破し、決勝トーナメント1回戦で強豪ブラジルと対戦し、1対2で敗れた。そのブラジルはノルウェーに1対2で敗北を喫した。日本は1998年のフランス大会で初出場して以来、8大会連続で出場し、アジアの強豪となった。私が子供の頃、1980年代は、アニメ『キャプテン翼』の影響でサッカー人気は高まっていたが、韓国や中東の国々に歯が立たなかった。それを思えば日本のサッカーは急成長だと考えられるが、専門家や目の肥えたファンの人たちからすれば不満が残る結果だったかもしれない。
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サッカーと地政学 -ゴールの先に世界が見える -

 今大会は、アメリカによる、選手やファンに対する不公平な取り扱い、ドナルド・トランプ大統領が介入したのではと取り沙汰されたアメリカ代表選手の退場処分保留などの、政治と絡んだニューズが多く出ている。しかし、参加数が48になったことで、参加枠が拡大したことで、あまり有名ではない小国も参加し、どんな国なのかと興味を持って調べるという楽しみもある。キュラソーやカーボベルデなど申し訳ないが、全く知らなかった。

 今大会の参加ティームの多くは国外生まれの選手たちが多くを占めるようになっているそうだ。1930年の第1回大会の時はその割合が約5%だったが、今大会は約25%になっている。私はラグビーが好きでよく見ているが、ラグビーの場合には代表ティームのメンバーになるには条件が異なり、多くの外国出身選手が日本代表としてプレーしているが、サッカーはもっと条件が厳しいのかと思っていたが、少し緩くなっているようだ。

また、ヨーロッパの有名プロティームの育成組織、アカデミー出身者が様々な国の代表に入っているということだ。有名なティームは途上国などの身体能力に優れた子供たちを青田買いして、育成組織に入れるということは昔から行われ、そこからスーパースターが生まれているが、同時に、途中で怪我をしたり、技術が伸びなかったりした場合には放り出されて、行き場もなく、教育も受けていないために仕事にもありつけずに犯罪に走るという若者たちがいるということもある。

 日本代表にも帰化選手や外国にルーツを持つ選手が昔からいたし、これからもどんどん増えていくだろう。それはグローバリズムの結果だ。同時に、移民、外国から来た(自発的、非自発的は問わず)が作った国であるアメリカで、これだけグローバル化したサッカーの世界大会ワールドカップが開催されているのに、出入国で不公平な取り扱いがあったことはグローバル化の副作用と言うべきであろう。別の副作用はトランプ大統領の出現であるが。

 以下の記事を読みながら、サッカーは世界の歴史や大きな流れを映す鏡だということを改めて認識した。

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ワールドカップの新たな地理学(The New Geography of the World Cup

-移民、植民地時代の歴史、そしてエリート・アカデミーが、現代の代表ティームのあり方を再定義した。

ジル・ゲラ、ダイアン・ロイ筆

2026年6月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/24/world-cup-soccer-football-immigration-nationality-haiti/

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男子サッカーハイチ代表ティームが初めてFIFAワールドカップに出場した1974年当時、ティームは完全に国内育ちの選手で構成されていた。登録メンバー22名全員がハイチ生まれであり、1名を除いて全員が国内クラブに所属していた。

それから50年以上が経過した今日、6月13日に行われたスコットランドとの初戦に出場した26名の選手のうち16名はハイチ以外の生まれであり、その大半は北アメリカやヨーロッパのクラブでプレーしている。これらの選手の多くは、ハイチにルーツを持つことで代表資格を得ている。国内を拠点とする選手は、ウデンスキー・ピエールただ1人だ。代表ティームを率いるフランス人のセバスチャン・ミニェ監督は、代表ティームにとって史上2度目となるワールドカップ出場を果たし、ティームを指揮しているが、これまでハイチの地を踏んだことはない。

ハイチ代表が国外生まれの選手に依存している背景には、経済の不安定さ、政情不安、そして蔓延する治安の悪化といった、多くの人々を国外流出へと追いやってきた状況がある。2021年のジョブネル・モイーズ大統領暗殺事件以降、ギャングによる暴力が横行し、代表ティームが国内で試合を行うことは事実上不可能となった。そのため、ハイチ代表はワールドカップ予選のホームゲームをキュラソーで開催し、フロリダやニュージャージーでトレーニングを行ってきた。

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しかし、ハイチ代表の選手構成は決して例外的なものではない。アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国が共同開催する今年のワールドカップでは、多くのティームが、自国以外の国で生まれた選手を所属させている。こうした傾向は1980年代以降加速しており、ワールドカップ出場ティームの構成に対する移民の影響力の増大や、サッカーというスポーツがますます国境を越えた広がりを見せている現状を反映している。

2004年、カタール・サッカー協会がカタールと縁もゆかりもない選手に金銭的報酬を提示して帰化させたことを受け、FIFA(国際サッカー連盟)は代表資格に関する規定を厳格化し、選手が代表する国との間に「明確なつながり(clear connection)」を持つことを義務付けた。現在では、出生であれ帰化であれ、その国の国籍を保有していれば代表ティームでプレーすることが可能だ。ただし帰化の場合、FIFAは、本人、親、祖父母の出生地や血縁関係による直接的なつながり、あるいは少なくとも5年間の継続的な居住実績といった条件を求めている。こうした変更は、便宜的な帰化を制限しつつ、血縁やルーツに基づく代表入りを正当なルートとして明文化したことで、今年の大会に見られるような、ディアスポラ(he diaspora、国外在住者やその子孫)を多く含むティーム構成を形作る一因となった。

ワールドカップの代表ティームには以前から外国生まれの選手が含まれてきたが、その割合は時代によって変動しており、これは移民の動向やプロサッカーのグローバル化を反映していると考えられる。2022年に『ヴォックス』誌が発表した分析によれば、1930年の第1回大会では参加ティームはわずか13で、全選手のうち出生国以外の国を代表していた選手の割合は5%強だった。一方、32ティームが参加した2022年のカタール大会では、その数字は16.5%に上昇した。

2022年大会ではモロッコがその傾向を牽引し、代表選手の約54%が国外生まれだった。チュニジアやセネガルも、主にフランス生まれの選手を多数起用していた。

今年のワールドカップでは、国外生まれの選手の割合が23.2%へと著しく上昇した。この増加の主な要因の1つは、今大会の出場ティーム数が過去最多の48に拡大されたことだ。この拡大により、国境を越えて選手を招集できる(ディアスポラなどの)選手層を持つ国々が、より多く本大会への出場権を獲得できるようになった。

同時に、各国のサッカー連盟は最強のティームを編成するために、積極的に国外へと目を向けるようになっている。人口の少ない国にとっては、国外在住のディアスポラのネットワークを活用することが不可欠だ。その最も顕著な例と言えるのがキュラソーだ。人口約15万6000人のキュラソーは、ワールドカップ出場権を獲得した史上最小の国だ。26名の代表メンバーは、そのほぼ全員が国外生まれの選手で構成されている。1人を除く全員がオランダ生まれであり、これは約400年に及ぶオランダによる植民地支配の名残と言える。

他にも、コンゴ民主共和国(76.9%)、モロッコ(73.1%)、アルジェリア(61.5%)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(57.7%)、チュニジア(57.7%)など、国外生まれの選手に大きく依存している出場国がいくつかある。その一方で、オーストリア、ブラジル、コロンビア、南アフリカのように、国外生まれの選手が誰もいないティームもある。
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2026年ワールドカップに出場する国外生まれの選手の多くに共通する出身国がある。それはフランスだ。全48ティームの中で、フランス生まれの選手は99人に上り、そのうち54人はパリ都市圏(Greater Paris)の出身だ。この事実は、サッカーの才能を輩出する地域として世界で最も多くの人材を送り出しているという、フランスの首都が長年築いてきた評価を改めて裏付けるものとなっている。比較として挙げると、ロンドン都市圏から今大会に送り出された選手は14人だった。

世界最高峰のサッカーを支えるインフラのような役割をごく一部のクラブが事実上担うようになっている。ヨーロッパのいくつかのクラブのアカデミーが多国籍なルーツを持つ選手をワールドカップに送り出している。

マンチェスター・シティのユース組織で育った選手は10の異なる代表ティームでプレーしており、マンチェスター・ユナイテッドとアーセナルのアカデミー出身者はそれぞれ8ティーム、パリ・サンジェルマンは7ティーム、バイエルン・ミュンヘンは5ティームの代表選手を輩出している。エリート選手の育成で名高いアムステルダムのクラブであるアヤックスは、今大会において他のどのアカデミーよりも多くの出身選手を送り出しており、その数は5つの代表ティームにまたがる計17名になる。
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今年のワールドカップは史上最も真にグローバルな大会である一方、国境を越えた人の移動に対する障壁も高まっている。大会全試合の4分の3にあたる78試合を開催するアメリカは、ドナルド・トランプ大統領の下で入国管理や渡航に関する政策を厳格化した。

一部の国については、サポーターがアメリカへ渡航することが事実上不可能になっている。ハイチとイランはアメリカの全面的な渡航禁止措置の対象となっており、両国の国民は移民ヴィザ・非移民ヴィザを問わず、その取得がほぼ全面的に認められていない。ただし、選手や必要不可欠なスタッフについては例外が設けられている。さらに、本大会出場国であるセネガルとコートジボワールも12月に一部渡航禁止リストに追加され、新規の観光ヴィザ発給が停止された。そのため、1月1日時点でアメリカのヴィザを保有していなかったファンは現在ヴィザを取得することができない。

こうした規制は広範囲にわたる影響を及ぼしている。少なくとも15名のイラン関係者がアメリカのヴィザの発給を拒否されたほか、イラン・サッカー連盟は、出場全連盟に認められているはずの「自国ファン向けのアメリカ開催試合のチケット割り当て権限」をFIFAに取り消されたと発表した。また、ワールドカップで主審を務める初のソマリア人審判となる予定だったオマール・アルタンは、「テロ組織の容疑者との関わり(association with suspected members of terror organizations)」が疑われたとしてマイアミの空港で拘束された後、アメリカへの入国を拒否された。イラク代表のストライカーであるアイメン・フセイン選手も、シカゴ到着時に7時間近くにわたって拘束され、尋問を受けた。

アメリカによる最も厳しい入国制限は、主に国外出身の才能ある選手でティームを構成している国々に向けられる傾向がある。この両者の重なりは偶然ではない。自国のサッカーの才能を国外へ流出させる原因となる不安定な情勢や機会の欠如は、同時に、その国のファンを入国させることへの「リスク(risk)」を高いとみなさせる要因にもなっている。特例措置が設けられたとしても、その適用範囲は意図的に限定されている。それらは旅行者個人ではなくワールドカップの観戦チケットに紐づけられており、大会終了とともに効力を失うからだ。
アルジェリア、カーボベルデ、チュニジア、セネガル、コートジボワールの5カ国は、アメリカの「ヴィザ保証金(ボンド)」制度の対象国となっている。この制度により、選手を除くこれらの国の国民は、観光ヴィザを取得する際に5000ドルから1万5000ドルの保証金(返金可能)を預け入れることが義務付けられている。トランプ政権は先月、4月中旬の時点でアメリカ開催試合のチケットを購入し、かつ「FIFAパス」に登録しているファンに対しては、この保証金要件を免除すると発表した。しかし、この免除措置が恩恵をもたらすのは、アルジェリア、カーボベルデ、チュニジアのサポーターに限られる。セネガルとコートジボワールのファンにとっては救済策にならない。両国に対しては部分的な渡航制限が課されており、保証金の対象となるはずの観光ヴィザの発給自体がすでに停止されているからだ。

他の開催国による救済策も限定的だ。カナダは、これらアフリカや中東地域の国々(およびその他の対象国)のファンに対し、訪問者ヴィザの取得を義務付けているが、その取得はアメリカのヴィザと同様に困難だ。メキシコは、有効なアメリカのヴィザ(あるいはカナダ、イギリス、日本、またはシェンゲン協定加盟国のヴィザ)をすでに所持している旅行者にはヴィザを免除している。しかし、ハイチやイランの国民のようにアメリカへの入国を拒否されているファンは、メキシコのヴィザを直接申請せざるを得ないだろう。

チュニジアはグループステージの3試合のうち2試合をメキシコで行い、セネガルとコートジボワールはそれぞれ1試合をカナダで行う予定だが、どの国へ入るにもヴィザという壁が立ちはだかっている。これは、開催国がファンの入国障壁を緩和していた過去の大会とは異なる状況だ。2018年のロシア大会では、政府発行の「ファンID」を取得した全てのチケット保有者に対し、ヴィザなしでの入国が認められた。2022年のカタール大会でも同様の措置がとられ、ファンは通常のヴィザなしで大会期間中の入国が可能だった。
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その結果、出場ティームの国際色はかつてないほど豊かであるにもかかわらず、スタジアムの観客席の構成は以前とほとんど変わらないという大会になるだろう。出場ティーム数が48に拡大されたことで、ディアスポラを中心に構成された代表ティームを擁する国々がいくつか加わった。ヴィザ取得のハードルが最も高い国々を応援することになるファンの多くもまた、そうしたディアスポラ・コミュニティの出身者となるだろう。

こうした傾向は、6月16日にニュージャージーで行われたフランス対セネガル戦で如実に表れた。両ティームは、同じ現象の異なる側面を映し出している。フランス代表のメンバーの多くは、フランス生まれの移民の子供たちである一方、セネガル代表の国外生まれの選手たちは、フランスのクラブでキャリアを築いたアフリカ系ディアスポラの人々だ。

フランス代表の26名のうち、国外生まれはわずか3名で、ティームの88.5%がプロキャリアの大半をフランス国内で過ごしている。対照的に、セネガル代表のメンバーは半数近くが国外生まれであり、そのうち10人がフランスで生まれている。また、セネガル代表選手の4分の3近くが、フランスでプロとしてのプレー経験を持っている。

代表ティームは時に、その国が抱く理想的な自己像の反映と見なされることがある。しかし、2026年ワールドカップの代表メンバー構成は、あるがままの国家の姿を映し出しているようだ。そこには、その国にとどまった人々、国を離れた人々、そしてその双方の子供たちが含まれており、彼らがひと夏の間、サッカー界最大の舞台に集結している。

—インフォグラフィック制作:ロリ・ケリー(エグゼクティヴ・クリエイティヴ・ディレクター)

訂正(2026年6月24日):本記事の以前の版に掲載された図において、ボスニア・ヘルツェゴビナおよびヨルダンの代表選手に関する色分けに誤りがあった。現在は修正済みだ。

訂正(2026年6月25日):ボスニア・ヘルツェゴビナ代表メンバーの直前の変更を反映し、同国の国外生まれ選手数にヨヴォ・ルキッチを追加する形で図を更新した。

更新(2026年6月29日):エボラ出血熱に関連する渡航制限についての情報を追加し、本記事のインフォグラフィックを更新した。

※ジル・ゲラ:ニカネン・センター移民・安全保障政策担当上級アナリスト。Xアカウント:@gildeguerra

※ダイアナ・ロイ:米外交評議会ラテンアメリカ・移民担当上級ライター兼編集者。Xアカウント:@Diana_royy

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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 下記論考は、現在の世界には4つの大国(昔は「列強と呼んでいた」)があり、大国に分類されるのは、アメリカ、中国、イギリス、ロシアであると主張している。下記論考の著者のケンブリッジ大学教授ブレンダン・シムズは、大国の条件として、(1)資源(resources)、(2)影響力(reach)、(3)名声(reputation)、(4)回復力(resilience)を挙げている。軍事力や経済力だけではなく、諸外国からの評価や歴史的な経緯を総合的に判断して、大国仮想ではないかということを決めている。ドイツや日本、インド、インドネシア、ブラジルなどは大国には認定されていない。

下記論考では、国連安保理常任理事国であるフランスを大国としては分類していない。しかし、私から見れば、イギリスもフランスもすでに昔日のような軍事力や経済力、世界への影響力を失っている。そうした点では似たり寄ったりであり、フランスどころか、イギリスも大国の分類から外れるのではないかと考える。国連安保理常任理事国、つまり第二次世界大戦の戦勝国側である、連合国(Allied Powers)が戦後世界の大国ということになっていたが、現在はそこから英仏が外れ、準大国[quasi great powers]ということになる。

そうなると、米中露が大国であり、この3カ国が「ヤルタ2.0(Yalta 2.0)」体制を構築しているのが現状ということになる。ヤルタ2.0体制の中心は中国である。20世紀の冷戦期に超大国であったアメリカとロシア(旧ソ連)は、現在、それぞれがイランとウクライナで戦争状態となっている。それぞれが停戦を模索する中で、その仲介役を引き受けられるのは21世紀の超大国である中国だ。中国は21世紀型の超大国、世界覇権国として新たな型を模索している。こうした動きを象徴しているのが、2026年に実施された、米中首脳会談、中露首脳会談である。
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 米中露の「ヤルタ2.0」体制は相互に戦争をしないようにということを取り決めている枠組みである。米中露が直接戦争をすることは世界に甚大な被害を与え、人類の文明に計り知れない影響を与える。そして、この枠組みは、21世紀における世界覇権国交代を平和裏に進めるための枠組みということも言える。「覇権戦争(hegemonic war)」を起こさないことが米中露の共通の目標であり、利益ということになる。

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大国は4つのみ存在する(There Are Only Four Great Powers

-大国間の競争の時代が始まった―しかし、全ての競争相手が資格を満たしてはいない。

ブレンダン・シムズ筆

2026年6月2日
『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/02/great-powers-four-united-states-china-russia-great-britain-france-germany/

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大国間競争(great-power competition)の新たな時代において、競争相手を特定することは重要だ。しかし、大国について語ることは、それを定義するよりも常に容易だった。大国の地位、特にどの国が「最も偉大な(greatest)」国であるかについての意見の相違は、過去と同様に、今日の国際システムの特徴となっている。大国を構成する要素についての共通の定義はなく、大国がいくつ存在するかといった基本的な問題についても合意は存在しない。

それにもかかわらず、大国を共通の特徴によって区別することは可能だ。これらの特徴から、今日存在する大国は4つしかないことが明らかだ。そして、それらは必ずしも予想通りの国家ではない。

第一に、大国には共通の行動様式(a set of behaviors in common)がある。彼らは常に、その時々の主要な国際問題について、自らが影響力を行使するか、少なくとも意見を求められることを期待する。彼らは自らの存在感を強く示し、彼らの不在は埋めるべき空白を生み出す。多くの場合、大国は自らの絶対的な主権(absolute sovereignty)を主張する一方で、特に近隣の小国には限定的な主権(the qualified sovereignty)しか認めない。大国は、極限状況下では、自らを脅かしたり不快にさせたりする政権を転覆させる権利を留保する一方で、自国に対してはそのような権利を一切認めない。

大国は時に国際法を超越した存在(to be above international law)であると主張する。またある時は、国際法を擁護することを美徳とし(make a virtue of vindicating that law)、国際規範を守ると主張する。言い換えれば、大国はルールを作る力と破る力の両方を持ち、決してルールに従うだけの国ではない。彼らは秩序を与える側であり、秩序を与えられる側ではない。

大国がこのような振る舞いをできるのは、中堅国や小国(the middling and smaller states)に比べて圧倒的に優れた能力を持っているからである。その第一の能力は資源(resources)である。この国家は、自国の意思を押し付けたり、他国の意思に抵抗したりするだけの軍事力を持っているだろうか? 軍事力を完全に満足のいく形で評価する方法はないが、軍事費の額とその効果は、防衛能力を大まかに測る指標となる。

配備可能な核兵器(deployable nuclear weapons)もまた、今日の大国としての地位に不可欠な要素である。原子爆弾を運搬する確実な能力、ひいては核攻撃を抑止する能力を持つことは、国家に世界における特別な地位を与える。だからこそ、大国はこれらの兵器に関連する計画、研究、維持、保管、訓練、そして安全保障といった膨大な負担を担うのである。全ての核保有国が大国であるとは限らないが、すべての大国は核保有国である。

次に経済の問題がある。国家は地政学的競の経済的逆風(the financial headwinds of geopolitical competition)を乗り越え、大規模な軍事活動を維持できるだけの強さを持っているだろうか? 通常、経済力はGDPで測定される。GDPは国家の国境内で生産される全てのものを網羅している。購買力平価(purchasing power parity)という代替指標は、国内経済において一定額の資金がどれだけの価値を持つかを考慮に入れている。購買力平価は、生活水準や生産コストが低い非西洋諸国が高く出る傾向がある。

非常に重要でありながら評価が難しいのは、これらの資源がどれほど国家固有のものであるかという問題だ。平時のGDP、紛争時のGDP、そして戦時のGDPは、全く異なる。関税、制裁、あるいは封鎖によって国家を市場、信用源、原材料、食料供給から切り離せば、その経済はたちまち全く異なる様相を呈するだろう。だからこそ、特定の国家の管轄外にあるグローバル・コモンズ、特に世界の海上交通路を支配することが、大国の地位、あるいは少なくとも大国間の序列を決定する上で非常に重要だ。

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左:メリーランド州アナポリスで行われた卒業式と任官式(a graduation and commissioning ceremony)で、ブルーエンジェルスによる祝賀飛行(a flyover salute)を見守るアメリカ海軍兵学校の卒業生たち(2026年5月22日)、右:北京で行われた軍事パレードのリハーサルで、人民解放軍の兵士たちを指導した後、持ち場に戻る士官(2025年8月20日)

経済力は重要ではあるが、大国としての地位を決定づける唯一の要素ではない。過去20年間の軍事力と軍事費で測ると、世界最強の軍隊は、圧倒的なリードを誇るアメリカと中国であり、イギリスとロシアがそれに続く。上位3カ国は、世界経済大国ランキングでも5位、もしくは6位に入る。経済的に弱いロシアは、世界最大の核兵器保有量を誇ることで、大国としての地位を確立している。

大国としての地位を決定づける2つ目の基準は影響力(reach)である。その国家は世界的大国(global power)なのか、それとも単なる地域大国(regional power)なのか。また、本国から遠く離れた地域に武力を行使する意思と能力はどの程度あるのか? 地理的に認められた勢力圏を有しているのか。世界的な基地ネットワークを活用できるのか? 主要な輸送拠点やチョークポイントを支配しているのか? 情報・諜報機関は、世界のほとんどの地域、そしてサイバー空間や宇宙空間に関する質の高い情報を提供できるのか? 大規模で高度な外交組織を有しているのか? 多額の海外援助予算を有しているのか?

影響力は地理的な(geographic)ものと仮想的な(virtual)ものの両方を含む。大国は自国地域をはるかに超えて存在感を示す能力を持つだけでなく、国連、市場、その他の国際機関といった国際機関に影響を与え、場合によっては取り込む能力も持つ。

今日、影響力は各国間で非常に不均等に分布している。アメリカは、広大な軍事基地ネットワークによって際立っている。イギリスはかつてのような世界的な地位を享受してはいないが、ジブラルタル、キプロス、フォークランド諸島など、世界各地に重要な主権拠点を維持している。また、インド洋に面したオマーンのドゥクムなどにも拠点を置いている。ロシアは近隣諸国に勢力圏(a sphere of influence)を主張しているが、近年アフリカや中東では勢力を失っている。ロシアはまた、プロパガンダ、偽情報、破壊的なデジタル活動の分野で世界的な影響力を誇っている。

中国は、ジブチに基地を構え、世界各地のインフラプロジェクトを保護する大規模な準軍事組織を擁し、いずれは世界的な軍事大国となる可能性を秘めている。しかし、その真のグローバルな影響力は、世界のサプライチェインと、技術革命やグリーン革命を支える重要な鉱物資源(リチウムなど)を部分的に支配している点にある。

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3日間の国賓訪問中、ロンドンのザ・モールを馬車に乗ったチャールズ3世国王と日本の徳仁天皇が騎馬警官隊の先導で進んでいる(2024年6月25日)

3つ目の基準は、国家としての評判(reputation)である。その国は、他国、特に他の大国から大国とみなされているか? そして、ほぼ同じくらい重要なのは、その国自身が自らを大国と認識しているかだ。今日、アメリカと中国が大国であることに疑いを持つ者はほとんどおらず、ロシアも、世界秩序を形成、あるいは少なくとも混乱させる軍事力を持つ国として、多くの人が大国とみなしている。イギリスの地位については議論の余地があるものの、ほとんどのヨーロッパ人は依然として英国を主要大国とみなしている。

例えば、フィンランドとスウェーデンは、NATOの安全保障体制が発動する前の2022年に、英国から二国間安全保障の保証を求めた。イギリス主導の統合遠征軍は、バルト海と北極圏の安全保障に大きく貢献している。イギリスはまた、日本をはじめとするアジアの重要国、そしてレヴァントやペルシャ湾岸諸国からも同盟国として高く評価されている。さらに、アメリカがヨーロッパとアジアから撤退すれば、イギリスの限られた軍事力は重要性を増すだろう。

加えて、大国は常に武力以上のものを象徴している。その偉大さは、文化的、イデオロギー的なものだ。今日、イギリスをはじめとする西側諸国は、民主政治体制の原則と自由貿易に基づく自由主義的な国際秩序(a liberal international order)を支持している。イギリスは、ドナルド・トランプ米大統領によるイラン攻撃への参加を拒否することで、アメリカに追従する「プードル(poodle)」ではないことを証明し、そのイメージを強化した。他の国々は、より文明的な観点から自らの立場を表明している。

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ロシア国営通信社スプートニクが配信した写真で、モスクワでヴィデオリンクを通じて核訓練を視察するウラジーミル・プーティン大統領の姿が写っている(2023年10月25日)

例えば、中国の習近平国家主席は、中国は「巨大国家(major country)」として、「際立った中国らしさと中国のヴィジョン(salient Chinese feature and a Chinese vision)」を特徴とする「独自の(distinctive)」外交を展開すべきだと述べている。大国の中でも最も残忍な国の1つであり、軍事力と核兵器の威力を常に誇示するロシアでさえ、「魂のない(soulless)」西側諸国に対抗し、キリスト教的価値観と家族の価値観(Christian and family values)を世界的に代表していると主張している。かつてルールに基づく国際秩序の要であったアメリカが、トランプ政権再選後、一体何を象徴するのかはまだ明らかではない。

国家の評判は、グローバル・ガヴァナンスの構造におけるその国の立場によって左右される部分が大きい。アメリカは、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった経済機関において、主要な役割を担っており、支配的であると言う人もいる。ロシア、中国、イギリス、フランスとともに、国連安全保障理事会の常任理事国(a permanent member of the United Nations Security Council)でもある。これら5カ国は国際システムにおいて大きな特権を享受しており、その特権はしばしば批判にさらされるが、国連改革は依然として実現の可能性は低い。

大国としての地位を決定づける4つ目の基準である「回復力(resilience、レジリエンス)」は、社会と経済がどれだけの苦痛に耐えられるかを示す。歴史的な実績は重要な役割を果たす。過去において、勝利は必ずしも最も大きな損害を与えられる者にもたらされるとは限らず、時には最も大きな苦痛に耐えられる者にもたらされることもあった。ハプスブルク帝国のような過去の大国は、逆境の中で驚異的な粘り強さ(enormous staying power in adversity)を示した。敗北とそこからの回復は、勝利と同じくらい重要である。国家が豊富な資源を保有し、目覚ましい影響力と名声を誇っていたとしても、回復力を欠いていれば大国とは言えない。

長年にわたり最も回復力の高い国は、イギリスとアメリカだ。米英両国は長期にわたる戦いを戦い抜き、アメリカ植民地の喪失やヴェトナム戦争といった深刻な敗北から立ち直る能力を証明してきた。米英両国とも現在、それぞれ異なる形で国内危機に直面しているものの、比較的速やかに回復することが期待される。一方、ロシアと中国は、現在の形では比較的若い大国であり、中露両国とも政治的な混乱と分裂を経験したばかりである。他の多くの事柄と同様に、回復力は歴史、特に長期にわたる社会的な結束の発展に根ざしている。

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南アフリカのヨハネスブルグで開催されたG20サミットで、イタリアのジョルジア・メローニ首相(左)が日本の高市早苗首相と挨拶を交わす。傍らにはフランスのエマニュエル・マクロン大統領が立っている(2025年11月22日)

これらの基準に基づくと、大国候補として挙げられる国々のいくつかは除外される。ドイツや日本といった経済的に重要な国々は、大国となるための軍事力、特に核兵器を欠いている。

影響力という点では、ドイツ、日本、ブラジル、インドネシアは主に地域的な軍事力を有している。これらの国々の中には、外交活動や海外援助政策を通じて相当な国際的影響力を持つ国もある。ドイツと日本は大きなソフトパワーを持っているが、ブラジルとインドネシアはそうではない。これら4カ国は過去に脆弱な面を見せており、必要な回復力を欠いている。

多くの支持を得ているにもかかわらず、インドもほとんどの基準を満たしていない。インドは核兵器を保有し、世界第5位または第6位の経済規模を誇るが、ニューデリーの軍事力は主に地域的な範囲にとどまっている。インドは「世界の教師(world teacher)」としての評判を自負しているが、その役割を大国としての役割とは異なる視点から捉えている。近代国家としてのインドの歴史は比較的浅いため、その回復さを測るのは難しい。しかし、テロや民族間の暴力に悩まされやすく、貧困が根強く残っていることは、脆弱性(vulnerabilities)を示唆している。

フランスは評価することが難しい。巨大な経済規模を持ち、イギリスよりも独立した核兵器を保有しているが、国境管理や通貨管理といった主権の重要な部分をヨーロッパ連合に譲り渡している。パリは依然としてアフリカで大きな影響力を持ち、インド太平洋地域にも重要な存在感を示しているが、アフリカでは後退傾向にあり、インド太平洋地域では反植民地運動の脅威にさらされている。また、フランスはアングロサクソン諸国、中国、ロシアとは異なる独自のグローバルブランドを確立している。

しかし、回復力という点では、フランスは19世紀と20世紀に幾度となく国家崩壊を経験しており、中でも1940年にドイツに占領され、戦後英米連合(the Anglo-Americans after the war)によって再建されたことは特筆すべきである。フランスはイギリスよりもはるかに脆弱(brittle)である。

明らかなのは、大国が持つ資源(resources)、影響力(reach)、名声(reputation)、そして回復力(resilience)の程度、そしてこれらの能力のバランスは、国によって大きく異なるということである。どの大国も全く同じ構造ではなく、能力と脆弱性(capacity and vulnerabilities)において大きな違いがある。これは常にそうであった。過去には、どの大国も他の大国と全く同じ強さではなく、中には著しく弱い国もあった。例えば、18世紀のプロイセンや19世紀末のオーストリア=ハンガリー帝国などが挙げられる。

同様に、今日の大国も、個々の強みと総合的な強さの両面において、互いに大きく異なっている。アメリカと中国は経済力と軍事力においてロシアとイギリスをはるかに凌駕しているものの、これら4カ国はいずれも、世界の舞台における主要国の中でも、他の国々とは一線を画す特徴を持っている。また、フランスという、大国としての地位が明確でない国も存在する。

このリスト―含まれる国と含まれない国―は、一部の人々を驚かせるかもしれない。しかし、歴史的に見ると、その一貫性は驚くべきものだ。各国間の力関係は大きく変化してきたものの、この大国構成は、私たちの祖父母だけでなく、曽祖父母の世代にも馴染み深いものだっただろう。そしておそらく、私たちの子供や孫の世代にも、この構成は変わらないだろう。

※ブレンダン・シムズ:ケンブリッジ大学地政学センター部長。著書に『大国の復活(The Return of the Great Powers)』がある。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 ウクライナ戦争とイラン戦争によって私たちはドローン兵器が有効であることを知った。有効であるというのは「殺傷能力が高い(正確に目標である建物や人間を破壊、殺傷できる)」ということを意味するので使いたくない言葉である。ウクライナは西側諸国からの支援もあり、戦争を継続できている。西側諸国はこの4年以上にわたる大規模戦争で貴重なデータ、実戦でしか得られないデータをウクライナ側から得ることができた。

 拙著『シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体』(ビジネス社)で、私はシリコンヴァレーのIT企業、スタートアップ企業が米国防総省やアメリカ軍に深く食い込み、巨額の予算を分捕っていることを紹介した。彼らは、これまでの戦闘機や戦車、ミサイルなどの兵器を製造し、国家(軍隊)に買ってもらうことで巨額の利益を得てきた旧・軍産複合体(主要な軍需産業5社を「プライム」と呼ぶ)とは異なり、ソフトウェアやシステム、そしてドローンを主力製品・主力商品としている。

 戦争は、「精密な大量攻撃の時代(precise mass in war)」になりつつある。最新鋭で高価なミサイルや戦闘機、戦車の時代から、大量のドローンでの一斉攻撃(コンピュータで制御されている)の時代になりつつある。そして、これらの武器の方が安価だということになる。国家の経済力や生産力が軍事力の基盤になるという時代が長く続いたが、それも終わりを迎えつつある。

さらに重要な点について、下記論考の著者ファリード・ザカリアは次のように指摘している。

「1991年の湾岸戦争は、先進技術が戦争をより精密なものにできることを世界に示した。2026年、イランは世界にさらに重大なことを教えている。それは、精密さが大量生産される時代(Precision will now be mass-produced)が到来したということだ。勝利を収めるのは、単に最高性能の兵器を保有する国ではない。少数の精巧で高価な兵器と、膨大な数の安価なドローンを組み合わせられる国こそが勝利を収めるだろう。人間の判断は、やがてコンピュータアルゴリズムに取って代わられるだろう(Human judgment will over time give way to computer algorithms)。これが戦争の未来だ。そして、それは私たちの想像をはるかに超える速さで到来している」

 コンピュータアルゴリズムで攻撃対象を識別するということは、どの人間を攻撃し、命を奪うかをコンピューターが決める時代が来るということだ。ウクライナでは電波障害で人間の操縦ができなくなった段階で、ドローンがAIによって自力で(自律的に)攻撃対象を識別し、攻撃を実施するということが実現している。映画『スターウォーズ』に出てくる、ドロイト兵器(キラーロボット)が近い将来実現するということだ。AIによって人間が選別される時代というのはSFとしては興味深いが、現実として恐怖を掻き立てる未来である。

(貼り付けはじめ)

イランと新たな戦争の計算(Iran and the New Arithmetic of War

-安価な自律型兵器(autonomous weapons)は戦闘の経済性(the economics of combat)を根底から覆しアメリカに重要な教訓を与えている。

ファリード・ザカリア筆

2026年3月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/03/20/iran-drone-war-lessons-fareed-zakaria/

中東地域における日々の攻撃と報復攻撃のニュースの裏側で、​​戦争は根本的に変化しつつある。テヘランによる報復攻撃の最初の1週間で、ペルシア湾岸諸国への攻撃のうち約71%がドローンによるものだった。アラブ首長国連邦(UAE)だけでも、わずか8日間で1422機のドローンと246発のミサイルが探知されたと報じられている。こうした傾向の多くは、すでにウクライナで垣間見ることができた。しかし、イランにおいては、戦争の未来像が明確に浮かび上がってきた。

外交問題評議会(the Council on Foreign RelationsCFR)のマイケル・ホロウィッツは、「私たちは現在、精密な大量攻撃の時代(precise mass in war)に突入した」と述べている。まさにその通りだ。数十年間、精密戦争(precision warfare)とは、少数のトマホークミサイル、ステルス爆撃機、あるいは戦闘機を意味していた。しかし今や、市販の部品で組み立てられ、群れをなして発射される一方向ドローンを意味するようになった。かつては巨大な工業国が必要としていたものが、はるかに小さな国々によって組み立て、改良され、規模を拡大できるようになっているのだ。

戦争の経済構造は根底から覆されつつある。シャヘド型ドローンは1機あたり約3万5000ドルだ。パトリオット迎撃ミサイルは約400万ドルで、100機以上のドローンが購入できる。これが新たな紛争の計算(the new arithmetic of conflict)だ。攻撃側は数千ドル、防御側は数百万ドルを費やす。そして、たとえ防御が成功したとしても、それは消耗戦(a form of attrition)となる可能性がある。

しかし、この革命はドローンだけにとどまらない。真の核心は、新たな軍事アーキテクチャ(a new military architecture)にある。安価な自律システム(cheap autonomous systems)、人工知能による標的設定(artificial intelligence-assisted targeting)、商用衛星画像(commercial satellite imagery)、強靭な通信(resilient communications)、統合センサー、そしてサイバーツール(integrated sensors and cyber tools)が全て連携して機能する。目的は単に攻撃することではない。時間を圧縮すること(to compress time)、つまり敵が移動、隠蔽、あるいは態勢を立て直すよりも速く、敵を発見し、判断し、攻撃することにある。昨年行われた実験で、アメリカ空軍は、機械が10秒以内に推奨事項を生成し、人間だけのティームの30倍もの選択肢を提示したと発表した。

古い軍事的優位性のモデル(the old model of military supremacy)は、精巧なシステム(exquisite systems)に依存していた。壮大で高価、生産に時間がかかり、失うと大きな痛手となるシステムだ(magnificent, costly, slow to produce, painful to lose)。しかし、それだけではもはや十分ではない。2023年、キャスリーン・ヒックス米国防副長官は、アメリカが敵対国に対抗するために発表されたばかりの国防総省のレプリケーター構想(the Pentagon’s just-unveiled Replicator)について、「小型で、スマートで、安価で、多数存在する(“small, smart, cheap and many”)」システムの必要性を訴えた。明日の戦争に勝利するのは、単一の最高のプラットフォームを持つ側ではないかもしれない。十分な数の優れたプラットフォームを、安価に、迅速に配備し、それらを十分にインテリジェントにネットワーク化できる側かもしれない(t may be the one that can field enough good platforms, cheaply enough, quickly enough, and network them intelligently enough)。少数の優れたものよりも、多数の優れたものの方が勝るだろう(Lots of good stuff will beat small numbers of great stuff)。

アメリカはイランのシャヘド136をモデルにした低コスト攻撃ドローン「ルーカス」を実戦配備した。世界で最も先進的な軍隊が、事実上、制裁対象のならず者政権(a sanctioned rogue regime)から学んでいるのは、戦争の論理(the logic of warfare)が変化したためだ。量そのものが独自の価値を持つようになった特にソフトウェア、自律性、リアルタイム接続と融合した場合はそうなる。ホロウィッツは、精密な大量生産は「機関銃や戦車のように(just like machine guns or tanks)」戦争の常態となるだろうと主張する。

ウクライナはこの新時代の偉大な実験場であり続けている。必要に迫られ、戦時下における迅速な適応モデルを構築してきた。ウクライナの迎撃ドローン「スティング」は1機約2000ドルで、最高時速280キロで飛行し、製造元によると2025年半ば以降3000機以上のシャヘドを撃墜しており、ロイター通信によると月産1万機以上となっている。ウクライナのテストパイロットの一人は、一人称視点ドローンを既に操縦できる者であれば、このドローンの操縦を習得するのに「3~4日」しかかからないと述べている。

そして、ソフトウェア面も重要だ。ウクライナは、同盟諸国がドローンAIを訓練できるよう、戦場データへのアクセスを開放した。これにより、パターン認識能力と標的探知能力が向上する。ミハイロ・フェドロフ国防相は、ウクライナは現在、「数万回の戦闘飛行で収集された数百万枚の注釈付き画像」を含む、「世界に類を見ない独自の戦場データ群」を保有していると述べている。つまり、この戦争で最も価値のある成果は、ハードウェアだけではないかもしれない。データこそが、その真価を発揮する可能性があるのだ。

だからこそ、その影響はウクライナやペルシア湾岸地域にとどまらない。ウクライナ軍最高司令官は、モスクワが現在、シャヘド型ドローンを1日404機生産しており、最終的には1日1000機を目指していると述べている。対照的に、ロッキード・マーティン社は2025年に約600機のパトリオット迎撃ミサイルを生産し、2027年までに2000機まで増産する計画だ。この対比こそが、現状を物語っている。問題はもはや単なる技術の高度化(technological sophistication)ではない。産業規模(industrial scale)、ソフトウェアの統合(software integration)、そして戦場で得られた教訓を大量生産に迅速に反映させるスピード(the speed with which lessons from the battlefield are turned into mass production)こそが、真の課題なのである。

この軍事革命(revolution in military affairs)は、より深い意味合いを数多く含んでいる。ドローンが配備されたことで、戦場はあらゆる場所に広がり、兵士たちは休息を取る暇もなくなる。人間が戦場から遠く離れることで、戦争は構想しやすくなる一方で、膠着状態に陥りやすくなる可能性もある。そして、こうした致命的な兵器が容易に生産できるようになったことで、テロ組織、麻薬カルテル、ギャングなどが、かつては兵器庫を持つ正規軍(organized armies with arsenals)の領域だったような戦争を仕掛けることが可能になるのだ。

1991年の湾岸戦争は、先進技術が戦争をより精密なものにできることを世界に示した。2026年、イランは世界にさらに重大なことを教えている。それは、精密さが大量生産される時代(Precision will now be mass-produced)が到来したということだ。勝利を収めるのは、単に最高性能の兵器を保有する国ではない。少数の精巧で高価な兵器と、膨大な数の安価なドローンを組み合わせられる国こそが勝利を収めるだろう。人間の判断は、やがてコンピュータアルゴリズムに取って代わられるだろう(Human judgment will over time give way to computer algorithms)。これが戦争の未来だ。そして、それは私たちの想像をはるかに超える速さで到来している。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体 
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカや日本で中国脅威論が盛んに主張されるようになって久しい。その派生で、中国崩壊論、中国経済失速論、米中戦争論、日中戦争論なども多く語られている。これらの主張は人々の耳目を引きやすく、本にしても売り上げが良いので、「麻薬」のようになっている。「麻薬」は出版社にとっては、出版不況の中で、売り上げが良いとなるとどうしてもそういう極端な、派手な主張の本が多くなるということを意味する。そして、生活が苦しく、その不平不満を政治に向けるのではなく、外国に向けることで解消する人々にとってはこれらの本を読むことは娯楽の一種となっている。出版社と国民にとっての「麻薬」「アヘン」ということになる。

 第一次ドナルド・トランプ政権、ジョー・バイデン政権、第二次ドナルド・トランプ政権で継続されているのは、中国に対する敵内的な通商政策である。中国に対して高関税を課すことで、中国製品の流入を止め、アメリカ国内の製造業を復活させるということは第一次トランプ政権から行われている。米中間では、米中貿易戦争、関税戦争という状態になっている。中国はアメリカに対抗し、レアアースの規制で対抗し、トランプ大統領は中国への攻撃を止めるということになった。アメリカは製造業の復活もできず、重要な資源の管理もできていないという点で、既に旗色は悪くなっている。

それでも下記論考のように、アメリカが西側諸国を取り込んで、対中包囲網を構築すれば、中国は恐れる必要はないという「お勇ましい」主張は出てくる。西側諸国というのは、具体的にはドイツと日本ということになるだろうが、両国にとって最大の貿易相手国は中国である。日本の貿易総額の約20%を中国が占めている。ヨーロッパにとっても中国は最大の貿易相手国であり、貿易総額の約15%を中国が占めている。中国に敵対するようなことをすれば経済に悪影響が出る。現在の日本を見てみれば明らかだが、レアアースを止められてしまえば干上がってしまう。

世界の貿易全体で見ても、最大のシェアを占めるのは中国で約14%、アメリカは約8%、ドイツは約6%となっている。日本は2%ほどとなっている。世界各国にとって中国の存在感と影響力は大きくなっている。前述したように、アメリカは中国に貿易戦争を仕掛けたが、目論見通りにはいかず、結局、関税率を引き下げざるを得なかった。

 このように考えるならば、「中国経済恐るるに足らず」などと勇ましいことを言うのではなく、いかにして中国を利用して利益を上げるかということを考えることが得策だ。いたずらに敵視して、うっかり失言をして、関係が冷え切って、改善することもできないというような下の下の策を取らないようにすべきであるが、日本以外の諸外国の指導者はそのことが分かっているから、馬鹿なことはしない。残念なのは日本ということになる。

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中国経済を恐れる必要はない(There’s No Need to Fear China’s Economy

-ワシントンとの経済闘争を容易にエスカレートさせる余裕を北京は持っていない。

セオドア・ブンゼル筆

2026年5月13日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/13/china-economy-us-trade-negotiations-trump-visit/

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上海の金融街を背景に黄浦江沿いで女性が龍の飾りを振っている(2025年4月14日)

アメリカは中国との貿易交渉で窮地に立たされているように見える。ドナルド・トランプ政権は就任後、北京に対し強硬な姿勢を示し、2025年4月には一時的に145%の関税を課し、過去1年間は対中実効関税率を40%前後と2倍以上に引き上げた。ワシントンの狙いは、中国からアメリカ市場を取り上げることで、北京に市場アクセスと二国間貿易赤字の削減について譲歩させることだった。スコット・ベセント財務長官は、2024年に約5000億ドルに達した対米輸出への依存度の高さを指摘し、中国は「不利な状況で戦っている(2のペアで遊んでいる、playing with a pair of twos)」と豪語したほどだ。

しかしながら、トランプ大統領の貿易戦争の犠牲となった多くの国々とは異なり、北京は猛烈な反撃に出た。中国は同等のレヴェルまで関税障壁を引き上げ、レアアース鉱物の生産における中国の圧倒的な優位性を利用して、これらの重要な産業資材の供給を遮断し、自動車から航空機、兵器に至るまで、あらゆる製品のアメリカでの生産に脅威を与えた。アメリカは事実上白旗を挙げ、最も厳しい関税措置を撤回した。今週、ワシントンは5月14日、北京との貿易協議に嫌々ながら臨み、中国のレアアース輸出規制の延長と、アメリカ産農産物およびエネルギーの購入拡大という大々的な約束を求めた。

その見返りとして、トランプ政権は先端技術に関する一部の輸出規制の撤廃、あるいは台湾への支援の縮小さえも譲歩せざるを得ないかもしれない。アメリカのドナルド政権関係者たちは、おそらく小声でではあるが、今のところ中国が経済的なエスカレーションにおいて優位に立っていることを認めているかもしれない。

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『分断された時代:地政学の再燃が世界経済をどのように分裂させるか(The Fractured Age: How the Return of Geopolitics Will Splinter the Global Economy)』(ニール・シアリング著)

もし米中競争が21世紀における最も重要な地政経済の展開であるならば、この事態はワシントンにとって決して良い兆候とは言えないだろう。経済学者のニール・シアリングが著書『分断された時代』で厳しく論じているように、世界経済は必然的に、とはいえ徐々に、そして不均等に、2つの陣営に分裂しつつある。1つはアメリカを中心とする陣営、もう1つは中国を中心とする陣営である。この分断の兆候は、国際通貨基金(IMF)が指摘するように、地政学的に連携する国々の間で資金がますます流れるようになっている世界貿易や海外直接投資のパターンに見て取れる。そして、より競争の激しい環境下では、経済戦争(economic warfare)は両陣営間の主要な戦線となるだろう。両ブロックともに自陣の政策利益を追求し、もう1つの陣営からの圧力に抵抗するために、互いに影響力を行使しようとするからだ。

この新しい、分断された世界において、中国は優位に立っているのだろうか? 昨年の対立を見れば、そう思えるかもしれない。しかし、数字は異なる事実を示している。元米財務省高官のベン・A・ヴェイグルとダートマス大学教授のスティーヴン・G・ブルックスは、示唆に富む分析書『商業の支配』の中で、アメリカが優位に立っていると主張している。世界で最も重要で、収益性が高く、高度な技術を持つ企業は、主にアメリカと西側諸国に集中しており、中国の輸出産業自体もこれらの国々の投資に依存している。彼らの研究によれば、中国と西側諸国が突然全面的にデカップリングした場合、短期的には中国経済への打撃はアメリカよりも5倍から11倍も大きくなり、長期的には中国経済はより深刻な経済的ダメージを受けることになるだろう。

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『商業の支配:アメリカの中国に対する永続的な経済力の優位性(Command of Commerce: America’s Enduring Economic Power Advantage Over China)』(ベン・A・ヴァーグル、スティーヴン・G・ブルックス著)

それでは、なぜアメリカは中国を恐れているのだろうか? その理由の1つは、中国がレアアース規制という完璧な非対称兵器を見出したことだ。これは自国経済への負担はわずかである一方、アメリカ産業に大きな打撃を与えることになる。ワシントンの最も強力な経済兵器、例えば金融制裁などは、たとえ北京に不均衡な損害を与えたとしても、アメリカ企業や消費者に大きな負担を強いることになる。

もう1つの理由は、アメリカは中国よりも本質的に痛みに弱い、あるいは長年にわたる(大部分は的外れな)経済衰退への不安から自信を失っている可能性があるということだ。

しかし、大きな理由は、現政権が中国との経済戦争を仕掛けてきた方法だ。特に効果の低い手段である、一方的な関税を用い、統一戦線を築くどころか、同盟諸国を疎外してきた。アメリカは経済的圧力に対抗し、北京がアメリカの政策に拒否権(a veto)を行使するのを阻止するのに十分な影響力を持っているが、西側諸国の支持を維持できれば、その任務ははるかに容易になるだろう。

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ジョージア州ローマにあるクーサ・スティール社の工場を視察するドナルド・トランプ米大統領。(2月19日)

「超グローバル化(hyperglobalization)の時代は終わった」というのはもはや陳腐な表現だ。1989年から2010年にかけて輸出が世界GDPの20~30%に急増した後、世界金融危機以降、貿易は世界GDPに占める割合としてほぼ停滞している。世界の総資本フローは2007年のピーク時の世界GDPの20%から現在では約5%にまで減少しており、世界貿易機関(WTO)のような、国際貿易のルールを定め、自由な国際貿易を促進するために設立された多国間機関はまさに風前の灯火と言える。

この「グローバル化の減速(slowbalization)」の背景にあるものを問うと、批評家たちは、世界的な紛争の増加、ポピュリズムの台頭、格差の拡大、そしてトランプ大統領の2期目による衝撃など、様々な理由を挙げるだろう。

しかし、シアリングは最も強力な要因を正確に指摘している。それは、数十年にわたるグローバル統合を崩壊させつつある米中間の緊張(U.S.-China tensions)だ。「21世紀初頭の世界経済を特徴づけた超グローバル化の時代はもはや終わった」とシアリングは書いており、その理由として「非現実的な期待に応えられなかったこと、そして新世代のポピュリスト政治家にとって都合の良いスケープゴートとなったこと」を挙げている。しかし、最大の理由は「中国がアメリカにとって戦略的ライヴァル(a strategic rival)として台頭したこと」だと主張している。

このライヴァル関係は、今後どのように世界経済を歪めていくのだろうか? シアリングは、世界は徐々にアメリカ主導のブロックと中国主導のブロックに分裂し、アメリカ主導ブロックにはヨーロッパ、日本、インド、メキシコ、その他の西側諸国が含まれるだろうと主張する。しかし、ブロック間のデカップリングは戦略産業(strategic industries)にとどまり、世界貿易の約15%がリスクにさらされることになるだろう(シアリング氏の包括的なタイトルを考えると、比較的軽微な分裂と言える)。

シアリングの『分断された時代』が執筆されたと思われるバイデン政権時代、これが最も現実的な道筋のように思われた。アメリカは、ヨーロッパ諸国を中国関連の規制に、ためらいながらも着実に引き込むことに成功していた。インドはアメリカとの連携を強化し、ジョー・バイデン大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官ジェイク・サリヴァンは、対中規制は「小さな庭に高い塀を(small yard, high fence)」という形をとるべきだと主張していた。

しかし、歴史は思いもよらない形で前提を覆すものだ。トランプ政権は、玩具から電子機器に至るまであらゆる中国製品への関税を引き上げ、サリヴァンの提唱した「塀(fence)」を破壊した。その結果、2025年には中国からアメリカへの輸出が20%減少すると予測され、より広範なデカップリングがますます現実味を帯びてきた。大西洋を挟んだ激しい貿易戦争や、グリーンランドとイランをめぐる争いを経て、ヨーロッパとの経済同盟関係は今や疑問視されている。ブリュッセルはより多くの「戦略的自律性(strategic autonomy)」を求め、アメリカへの技術的依存度を減らそうとしているからだ。

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中国東部山東省煙台港でメキシコ行きの天然ガスバスを積んだ船が停泊している(2月6日)

トランプ大統領の任期がさらに2年半延長され、2029年にトランプに近い共和党政権が再び誕生すれば、たとえ大西洋を挟んだ経済関係がアメリカとヨーロッパにとって依然として最も重要な関係であったとしても、アメリカとヨーロッパの間にはより深刻で恒久的な亀裂が生じる可能性がある。

これは非常に残念なことだ。シアリングは著書『分断された時代』の中で、ヨーロッパとその他の西側諸国を含むアメリカ主導の経済圏の経済規模を算出し、中国経済圏と比較するという、非常に示唆に富む分析を行っている。その結果は圧倒的な差だ。アメリカ経済圏のGDPは中国経済圏の2.5倍以上であり、中国はアメリカ経済圏全体の経済生産高の実に3分の2を占めている。

おそらく同様に重要なのは、アメリカ圏には商品輸出入国、発展途上国と先進国など、はるかに多様な経済圏が存在し、それがさらなる強みとなっている点だ。この多様性によってアメリカは独自の経済エコシステムを構築できる一方、中国圏は依然として北京への依存度が高く、商品と製造品の輸出を西側諸国に大きく依存している。そして、シアリングが指摘するように、中国の10兆ドル(しかも増加中)に上る対外資産は、中国がドルからの脱却にどれほど努力しても、アメリカの金融制裁に対して脆弱なままであることを意味する。

ヴァーグルとブルックスは著書『商業の支配』の中で、この重要な洞察(insight)をさらに展開している。彼らは、従来の経済分析は、アメリカとの経済覇権争いにおける中国の能力と影響力を過大評価していると主張する。

この主張を裏付けるために、彼らはまず中国の真のGDPを算出することに焦点を当てている。中国のGDP統計が誇張されていることは周知の事実であり、中国は毎年、公式目標を驚くほど正確に達成しているにもかかわらず、ほとんどの国際的な経済分析では依然としてこれらの数値が絶対的な真実として扱われている。一流の経済調査会社であるロジウム・グループは、商業データと公式データに対するボトムアップ分析を用いて、2025年の中国の真のGDP成長率は、報告されている5.2%に対し、2.5%から3%の間であると推定している。

ブルックスとヴァーグルは、経済生産高と正確に相関することが示されている夜間の輝度に関する衛星画像に基づき、中国のGDPが約3分の1も過大評価されていると主張する。このデータに基づくと、中国のGDPは2022年のアメリカのGDPの52%(購買力平価ではなく名目為替レートを使用)となり、公式統計で算出された72%をはるかに下回る。参考までに、これは1975年のソ連のGDPピーク時における対アメリカGDP比58%よりも低い。中国がアメリカを置き去りにしているという主張は、これで完全に覆されるだろう。

しかし、彼らの説得力のある分析はさらに進んでいる。著者たちは、ほぼ全てのセクターにおいて、世界の利益シェアが欧米企業によって独占されていると算出している。中国の産業政策が構造的に利益率を低下させる激しい競争を促しているのは事実だが、それでもなお、その結果は驚くべきものだ。ブルックスとヴァーグルの研究によると、アメリカと同盟諸国の企業はそれぞれ世界の利益の38%と35%を占めているのに対し、中国と香港を合わせた利益はわずか16%にとどまっている。ハイテク産業においては、この差はさらに顕著で、アメリカが55%、同盟諸国を合わせた利益は83.8%を占める一方、中国のシェアはわずか6.1%である。ハイテク産業における付加価値についても同様だ。世界の製造業全体の付加価値に占める中国の割合は29%で、アメリカは16%、同盟諸国は33%だが、ハイテク産業における付加価値に限ると、中国は18%にとどまり、アメリカは29%、同盟諸国は37%となっている。

付加価値と利益は重要な指標である。なぜなら、電子機器などの中国の主要輸出産業においても、中国企業ではなく欧米企業が、かけがえのない経済的価値の大部分を提供していることを示しているからだ。実際、ヴァーグルとブルックスは、中国が世界のテクノロジーハードウェア付加価値の31%を占めているにもかかわらず、中国企業がこの分野で世界売上高のわずか13%しか生み出していないと指摘している。つまり、ノートパソコンから携帯電話に至るまで、中国の付加価値の大部分は、主に輸出目的で中国に進出している外国企業によるものだということだ。

欧米企業にとって、製造エコシステムの効率が低い他の発展途上国にサプライチェインを移転することは、苦痛とコストを伴うだろう。しかし、中国にとって、欧米のサプライチェインが撤退すれば、輸出産業は長期的に深刻な打撃を受けることになる。

それでは、BYDやファウェイといった高度な技術を持つ中国企業、あるいはCATLのような中国のクリーンエネルギー分野のリーディングカンパニーはどうだろうか? 国家補助金に支えられ、中国は多くの戦略産業で急速にヴァリューチェインを上昇させており、電気自動車やバッテリーなどの分野では、世界をリードする企業や製品を擁している。

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左:中国江蘇省連雲港市の玩具工場で従業員が輸出用のぬいぐるみを製造している(2月28日)右:中国東部浙江省義烏市にある太陽光発電式プラスチック製品専門工場でトランプのプラスチック製玩具の部品が見られる(2025年4月11日)

しかし、これらは中国経済全体のごく一部に過ぎない。著者たちは、中国の付加価値の高い製造業の約60%が、金属、プラスチック、玩具といった低技術分野に集中していると指摘している。太陽光発電システムのようなクリーンエネルギー製品でさえ、特に高度な技術を要するものではなく、他国でも(コストは高くなるものの)同様の製品を製造することが可能である。

ヴァーグルとブルックスは、これらの洞察の深遠さ(the profundity of these insights)を分かりやすくモデル化している。台湾を巡る西側諸国と中国の急激なデカップリングをシミュレーションした6つの異なるシナリオにおいて、中国の短期的なGDP損失は米国の4.7倍から11.1倍に達し、損失率は15.4%から50.8%に達するのに対し、アメリカは2.8%から7.6%にとどまる。デカップリングは双方にとって極めて大きな痛手となることは間違いない。アメリカのGDPが短期的に約5%減少するという事態は決して軽視できるものではない。しかし、米中両国が全面戦争に突入した場合、中国はアメリカよりもはるかに大きな損失を被ることになる。

著者たちは、2つの警告的かつ不吉な予言とも言える注意点を指摘している。アメリカが同盟諸国を伴わずに単独で中国からデカップリングした場合、短期的なGDP損失は中国の70%と、アメリカとほぼ同等になるという。また、レアアースなどの重要鉱物の生産における中国の優位性を、交渉材料として活用できる可能性も指摘している。しかし、ヴァーグルとブルックスの見解はやや楽観的すぎるかもしれない。彼らは、レアアース産業は低価値で比較的小規模(60億ドル)な産業であり、中国国外で再構築できる可能性があり、これらの鉱物を備蓄することが効果的な緩和策であると正しく主張している。

しかし、彼らは供給体制の再構築にかかる時間(ほとんどの鉱山は生産開始までに少なくとも10年はかかる)と、このチョークポイント(choke point)が持つ特異な効果を軽視している。中国は自国への損失を最小限に抑えつつアメリカへの輸出を遮断することができ、同時に、産業生産ラインに必要な供給が枯渇することで、短期的にはアメリカに甚大な損害を与えることができる。

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二国間会談のために会場へ向かうトランプ大統領と中国の習近平国家主席(2025年10月30日、韓国釜山)

しかし、これはまさにトランプ政権が2025年に実行した実験である。中国との包括的な貿易戦争を仕掛け、同盟諸国を敵に回した。西側諸国が中国以外の代替サプライチェインを再構築したり、十分な備蓄を確保したりする時間もないまま、中国は非対称的なレアアース兵器を発動した。一方的な関税は、中国が輸出先を他国市場に転換し、過去最高の1兆2000億ドルの貿易黒字を計上することで容易に回避できる、弱い手段であることが証明された。経済力の均衡が明らかにアメリカと同盟諸国にある経済競争において、ワシントンは準備不足のまま単独行動に出るという、極めて不利な戦略を選択し、予想通りの結果を招いた。

しかし、アメリカには、絶望の中で過ちを繰り返し学ぶのではなく、そこから学び、適応する機会がある。アメリカと中国が長期的な競争関係に突入するならば、経済的影響力は、西側諸国が自国の利益に反すると考える中国の行動に対抗するための重要な手段となるだろう。逆に、経済的抑止力を維持することで、西側諸国は、中国の過剰生産能力を阻止するための貿易障壁の設置など、自国の利益になると考える政策を、中国からの報復を恐れることなく追求できる。ヴァーグルとブルックスが正しく指摘しているように、戦略的あるいは経済的な緊張がエスカレートし、報復合戦に発展した場合、アメリカは中国に対してより多くの切り札を持っている。中国がレアアース問題で強硬な措置を取った場合、アメリカは厳しい金融制裁、あるいは中国の輸出を支える重要な技術や投資の流れを遮断することで対抗できる可能性がある。

そうした措置は短期的には自国に経済的苦痛を与えることになるだろう。しかし、アメリカが経済的抑止力(economic deterrence)を回復し、中国の経済的圧力によってアメリカの政策が左右されるのを阻止することに真剣に取り組むのであれば、反撃に際して何らかのコストを負担する覚悟が必要であり、その代償として消費者や企業に補償を行い、痛みを和らげる必要があるかもしれない。

同盟諸国との連携もまた極めて重要である。短期的な交流であれ、分裂しつつある世界経済において長期的にアメリカ陣営を強化することであれ、同盟諸国はアメリカに圧倒的な経済力をもたらす。西側諸国にとって最大の課題は調整(coordination)にある。その優位性を真に活かすためには、ワシントンは西側パートナー諸国と経済安全保障同盟(an economic security alliance)を構築すべきだ。この同盟において、中国によるいかなる経済的圧力に対しても互いに支援し合い、対抗策、輸出規制、さらには相互経済援助を共同で計画することを誓約すべきだ。西側諸国は、ロシアによるウクライナへの本格的な侵攻に先立ち、まさにこのような協調的な制裁政策を効果的に実施した。

将来の政権はこれを教訓とすべきだ。アメリカがパートナー諸国の協力を得て断固として反撃し、企業や経済面での反発をある程度受け入れる覚悟があれば、実際には中国に対して経済的なエスカレーションにおいて優位に立つことができる。ワシントンが自らの同盟関係を分裂させることでその優位性を無駄にしてはならない。

※セオドア・ブンゼル:ラザード・ジオポリティカル・アドバイザリーのマネージングディレクター兼責任者。在モスクワ国大使館政治部と米財務省に勤務した経験を持つ。2008年から2010年までは、ズビグニュー・ブレジンスキーの研究助手を務めた。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 ドナルド・トランプ大統領のきまぐれで、汚い言葉を使った発言にアメリカ国民、そして世界の人々は驚き、嫌悪感を持つ。彼はこれまでの人生で数限りない嘘をついてきたが、一面で非常に正直で、単純な人間である。嫌な思いをすればそれに対して素直に不満を表明する。退屈だと思えば、ある程度は我慢できるが(さすがに大人だから)、やはり態度に出てしまう。分かりやすく、単純な人間でもある。

 トランプの特徴は自分以外の人間を蔑視し、罵ることが得意である点だ。過剰な自信を持ち、自分は素晴らしいが、ほかの人間はダメだという形でこき下ろす。敵とみなせば、それまでどんなに友人関係であった人でも、口汚く罵ることになる。トランプは長年にわたり民主党員であり、ビル・クリントン、ヒラリー・クリントン夫妻とは長年にわたり家族ぐるみの友人関係であった。トランプの娘イヴァンかとクリントン家の娘チェルシーは長年にわたり親友であったが、親たちが敵同士となったことで、その関係は終わりを迎えた。

 敵認定したり、無能認定したりすれば、口汚く罵る。それは大統領になっても変わらずで、外国や外国の政治指導者たちに対してもそうだった。最新の例で言えば、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相を罵ったということもあった(仲が良いので率直な物言いになったということもあるだろうが)。

 下記論考で、著者ファリード・ザカリアはトランプのこうした外国への蔑視や軽蔑が外国のアメリカ離れを引き起こしていると書いている。しかし、それはトランプになんでも責任をかぶせてしまう考え方である。外国の政治指導者や外国政府は馬鹿ではないし、トランプの発言や態度にいちいち目くじらを立てるほど狭量でもなく、暇でもない。ヨーロッパ諸国やカナダが軍事面でのアメリカ依存から脱却しようとしているのは、アメリカが世界帝国の地位を維持できないと判断しているからだ。アメリカは西半球に撤退するということになれば、ヨーロッパからアメリカ軍のプレゼンスがなくなるということだ。逆に、カナダにしてみれば、アメリカが西半球での支配を強めるということになれば、「属国化」を懸念することになる。アメリカ離れの動きはアジア地域や中東地域にも波及している。中国との関係改善や関係強化に動いている国もある。

 アメリカ離れは短期的な現象ではない。トランプが馬鹿なことばかり言って、馬鹿なことばかりをやっているから起きている現象ではない。長期的なアメリカの国力衰退、酒井は建国、世界帝国の地位の維持の困難さを世界各国が認識しているから起きている。そうした中で、いつまでも20世紀の冷戦期の思考で、何でもかんでもアメリカに従っておけば安心だ、大丈夫だという、時代遅れでおめでたい政治指導者と国民の国が極東に存在する。ご多分に漏れず、この国もまた衰退の途を順調に進んでいる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプの蔑視の代償が明らかになり始めている(The Costs of Trump’s Contempt Are Starting to Show

-ヨーロッパからアジアまで各国政府は不安定で予測不能な(unreliable and erratic)アメリカの力に対抗するための対策を講じている。

ファリード・ザカリア筆

2026年4月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/04/24/trump-united-states-allies-partnerships-insult-contempt-europe-canada-china-asia/

先日、中国の産業の中心地である深圳を訪れ、中国の伝説的な実業家の1人と話をする機会があった。イラン戦争について尋ねると、彼の返答は私を驚かせました。彼は次のように語った。「私たちにとって、ドナルド・トランプ大統領のイラン攻撃は、グリーンランド攻撃の脅迫ほど重大な問題ではない。彼がアメリカの最も古い同盟国に対してそのような脅迫をした時、ヨーロッパはアメリカの対中政策に追随しないだろうと私は確信した」。

アメリカにおいて、ドナルド・トランプ大統領がヨーロッパに対して定期的に浴びせる侮辱(periodic insults)は、ホワイトハウスという名のリアリティ番組の一部、日常的な癇癪(routine tantrums)として扱われる傾向がある。しかし、ヨーロッパでは、こうした侮辱(abuse)の積み重ねが限界点(a tipping point)に達している。保守的で、(通常は)熱烈な親米雑誌である『スペクテイター』誌のイギリス版にダニエル・デペトリスは最近寄稿し、次のように書いている。「イラン戦争は・・・ヨーロッパに毅然とした態度を取ることを強いた。ヨーロッパの指導者たちは、もはやトランプ大統領の機嫌を取るためにひざまずいて媚びへつらうことに興味はない」。ヨーロッパは言葉だけでなく行動に移しつつある。

ヨーロッパ連合(EU)の「欧州再軍備計画/2030年即応計画(ReArm Europe/Readiness 2030 plan)」では、今後数年間で約8000億ユーロ(約9350億ドル)を防衛費に投資する予定だ。かつては、アメリカがヨーロッパの安全保障を担い、ヨーロッパ諸国はアメリカ製兵器に多額の資金を投じるという構図だった。しかし今、ヨーロッパ諸国は、より多くの資金を国内に留め、ヨーロッパ企業やサプライチェインの構築に充てることで、ワシントンからの戦略的自立を目指している。

同様の論理は防衛分野を超えて広がりつつある。ヨーロッパ決済イニシアティヴ(European Payments InitiativeEPI)は、ヴィザ(Visa)とマスターカード(Mastercard)に代わるヨーロッパ全域規模の決済システムを構築している。ヨーロッパの諸機関は、スゥイフト(SWIFT)、ペイパル(PayPal)、その他のアメリカ主導の金融プラットフォームに代わる手段を模索している。フランスは金準備(gold reserves)をニューヨークからパリに移し、ドイツとイタリアの政治家たちは自国も同様の措置を取るべきかどうかを議論している。ヨーロッパ各国政府は、アメリカ企業が将来的に重要なサーヴィスを停止するよう命じられることを懸念し、アメリカ製ソフトウェアに代わる手段を探している。これらは全て単なるポーズだと片付けることもできるが、ヨーロッパは世界第2位の経済規模を誇り、世界第2位の基軸通貨を保有している。その行動は重大な意味を持つ。

おそらく最も顕著な変化は、ヨーロッパの右派に見られる。かつて反米主義は左派の教義であり、パリの知識人、学生運動家、反戦政党などが担っていた。右派は本能的に大西洋主義(Atlanticist)の信奉者だ。そして、ヨーロッパのポピュリスト右派はかつてトランプを自分たちの守護聖人(patron saint)と見なしていた。しかし、グリーンランド問題、イラン問題、そしてトランプのヨーロッパに対する全般的な軽蔑は、ヨーロッパの政治スペクトラム全体において、トランプを政治的に忌避される存在にしてしまった。『ワシントン・ポスト』紙は、イギリスのナイジェル・ファラージ、フランスのマリーヌ・ルペン、イタリアのジョルジア・メローニ、そしてドイツの「ドイツのための選択肢(AfD)」党員など、多くのポピュリストがトランプとアメリカの政策から距離を置いていると報じた。ハンガリーでさえ、当時のヴィクトル・オルバン首相のためにJD・ヴァンス副大統領が行った演説は、オルバン首相の選挙の見通しに悪影響を与えた可能性がある。

これはヨーロッパだけにとどまらない。カナダでは、マーク・カーニー首相がアメリカ市場への依存度を下げることを明確に打ち出している。彼はすでに中国を含む20以上の経済・安全保障協定に署名し、アメリカ以外の輸出を拡大しようとしている。カナダ国民もアメリカ製品の購入を減らし、アメリカへの休暇旅行も減らしている。

ヨーロッパとカナダは、中国をすぐに受け入れるつもりはない。ヨーロッパとカナダはウクライナ、補助金、電気自動車、重要鉱物、市場アクセスをめぐって北京と深刻な対立を抱えている。しかし、可能な限り中国との関係を良好に保つだろう。ヨーロッパとカナダはリスクヘッジを行う。ワシントンとは必要な時に、北京とは都合の良い時に、そして可能な限り他の国々とは交渉するだろう。中国の学者である達巍が最近『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿したエッセイで、北京にとっての新たな地政学的事実は、今やヨーロッパとアメリカの間に深刻な分断が生じており、それを利用できる状態にあることだと論じている。

アジアでは、アメリカの同盟諸国が最も大きな打撃を受けている。ホルムズ海峡を通過する石油と天然ガスの80%以上がアジア向けだった。現在、アジア大陸の多くの国々は、半世紀、いやおそらく史上最悪のエネルギー危機に苦しんでいる。その結果、日本や韓国といった同盟諸国は、ロシアやイランといった敵対国に頭を下げて、国内の電力供給を維持するための燃料確保を交渉せざるを得なくなっている。さらに追い打ちをかけるように、彼らはトランプ大統領から非難を浴びている。トランプ大統領は、これらの国々がイランとの戦争に積極的に参加しなかったことを理由に、事前に相談も受けていないにもかかわらず、非難しているのだ。現在、多くの国々がエネルギー安全保障やグリーンテクノロジーについて北京と協議を行っている。

トランプ政権の外交政策に関して繰り返し問われているのは、その影響はどれほど永続的なものになるのかという点だ。アメリカは同盟諸国との信頼関係の喪失から立ち直ることができるだろうか? 各国はすでに長期的な政策転換を始めており、これらの動きはやがて独自の展開を見せ始めるだろう。彼らは、自分たちの安全と幸福をワシントンに委ねていたことに気づき、ワシントンはその依存を利用して彼らを苦しめてきた。だからこそ、彼らは頼りにならないアメリカから身を守るために保険に加入することを決めたのだ。そして、誰が彼らを責めることができるだろうか。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

(貼り付け終わり)

(終わり)



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