古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

カテゴリ: 世界経済

 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生の書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 アメリカ経済は堅調で、日米の金利差も大きいままで、ドル高円安(ドルを買って円を売る)状態が続いている。強いドル(購買力の高いドル)は、輸入製品が安くなり、アメリカ国民の生活のためには良いが、輸出は弱くなる。円安はその逆ということになる。アメリカは物価上昇が続いており、インフレ状態にあるが、実質賃金も上昇している。日本の物価がインフレなのかどうかは議論が分かれているところだが、実質賃金は低下しており、家計に影響を与えている。

 アメリカはインフレ状態であるので、利上げの判断がどうなるかであるが、景気減速も怖いとなると、なかなか踏み出せない状態にある。インフレ状態が続き、強いドルを背景にして、海外からの輸入が増えていくと、ドルの海外への流出は増えていく。ここで怖いのは、アメリカの景気減速であるが、それよりももっと怖いのは、アメリカ国債の崩れやドルの信用不安だ。アメリカ国内では経済が堅調と言われながら、下記の記事のように、厳しい状態にある人々の数は増えている。財産もなく、生活するのがやっとの賃金しか得られないが、公的な補助を受ける基準よりは上という数が、景気が好調ということもあって増えている。

しかし、それは逆に、賃金は上がっても生活は厳しいまま、公的補助がない分、厳しいということになる。住む場所を失い、自動車の中で生活をしているほぼホームレス状態であるが、仕事があるというようなことが起きている。都市部の固定資産税と家賃の高騰で、生活が破綻する人々は増えている。以前であれば、アメリカでは、高校を卒業すれば、親元を離れて自立して生活する、進学したり、就職したりということが当たり前だった。大学進学も奨学金を受けたり、学生ローンを組んだりして、自分で何とかするということが自然だった。今では、若い人たちは大学を卒業して、親元、実家に戻り、そこで生活するようになった。一人暮らしの家賃を払うことや、学生ローンの返済は自力ではとてもできない状況になっている。

 経済格差が進み、勝者はより富裕となり、敗者はより貧しくなり、それが固定化、階級化されて再生産されるようになる。人間社会は階級社会であったので、昔に戻ったということになる。しかし、それでは現代社会は不安定になるばかりだ。現在の社会は階級社会ではないということで設計されているが、それが実際と合わないということになれば、人々の不安と不満は高まるばかりだ。それが政治の世界でのポピュリズムとなり、ドナルド・トランプ大統領の誕生と、民主党進歩主義派の登場につながった。

これまでアメリカのことを書いてきたが、より深刻なのは日本である。以下の記事にあるように、経済格差はアメリカやイギリスよりも大きいということだ。戦後、「一億総中流社会」と呼ばれた日本であるが(これは過大評価ではあるが)、21世紀に入って、小泉政権以降の自民党政権、自公政権の政策の誤りによって、格差が拡大し、少子化が進行し、経済も衰退していった。「経済のことは自民党とその裏にいる財務省に任せておけば安心だ」と無定見、無思想に自民党に投票し続けた、日本国民自身が招いた大惨事である。日本の亡国化の進行を止める、もしくはそのスピードを緩める第一歩は自民党と財務相に責任を取らせることである。

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●「アメリカでは「ALICE」が増えている職に就いているが資産がなく、生活費の支払いに苦労している人々」

Noah Sheidlower,Juliana Kaplan [原文] (翻訳:大場真由子、編集:井上俊彦)

May. 02, 2024, 10:30 AM  国際23,099

BUSINESS INSIDER

https://www.businessinsider.jp/post-285805

ALICEとは「資産に限りがあり、収入に制約がある雇用者」を指す。

・ほとんどのALICEは、政府の援助を受けるには収入がやや多いが、その収入はアメリカで日常生活を送るためには決して十分なものではない。

・彼らの存在は、アメリカが経済的に苦境にある人々を評価する方法にギャップがあることを示している。

フードスタンプ(食料品の配給システム)や障害者手当を受ける資格はない収入を得ていながらも、その収入が家賃や医療費が支払うには十分ではない場合、あなたは「ALICE」だということになる。

ALICEとは、非営利団体ユナイテッド・ウェイ(United Way)のプログラム「ユナイテッドフォーALICEUnited For ALICE)」が生み出した造語で、アメリカ人のうちで「資産が限られ(Asset Limited)、収入に制約がある(Income Constrained)被雇用者(Employed)」を表す言葉だ。4人世帯で31200ドル(約483万円)、個人で15060ドル(約233万円)という連邦貧困レベル(Federal Poverty Level)をわずかに上回る収入を得ながらも、基本的な生活の支払いに苦労しているアメリカ人を指す。

ALICEの多くは一般的に、得ている賃金が生活費をまかなうのに十分ではない労働者だ。つまり、彼らは給料ギリギリの生活をしている。中には、医療機関にかかるために、食費や保育料の支払いを犠牲にせざるを得ない人もいる。

ユナイテッドフォーALICEが、アメリカ国勢調査局(USCB)の全米地域調査(American Community Survey)のデータとユナイテッド・ウェイの推計によると、アメリカの世帯の約29%がALICEであり、13%が連邦貧困レベル以下にあるという。

政府の多くの取り組みは、人々が貧困から抜け出すことを支援しようとしてきた。だが、ユナイテッドフォーALICEでナショナルディレクターを務めるステファニー・フープス (Stephanie Hoopes)がBusiness Insiderに語ったように、連邦貧困レベルは多くの点で時代遅れであり、地域差や、人々の家計に占める食費の割合の変化を考慮していない。またフープスは、経済的には恵まれているが、将来のために投資することができない人々を支援することにあまり注意が払われていないとも話している。

アメリカ全体の貧困率はおおむね低下しており、これは一見、アメリカの労働者にとっては朗報のように思える。政府の支援は最も経済的に困窮するアメリカ人たちに届くかもしれないが、依然経済的に不安定なALICEへの給付金の打ち切りは、彼らを取り残してしまうことになるだろう。

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2010年から2021年の貧困率の変化

ALICEの割合はこの10年の間にアメリカ全土で増加しており、モンタナ州やアイダホ州などのパンデミックに起因したブームが起こった州ではその割合が大きく跳ね上がっている。これは、多くのアメリカ人の収入が増加したものの、インフレや住宅価格の高騰に追いついていない可能性があるからだ。

ALICEの広がりは、一見堅調に見える労働市場の根底にある経済的な問題を示しているのかもしれない。豊かさと支援の狭間に立たされるアメリカ人はますます増えており、国の政策はそのような人たちに応えるものにはなっていない。これは、さまざまな援助に対し受給資格を撤廃し、直接的な刺激策を提供していたパンデミック時の景気刺激策とは対照的だ。

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2010年から2021年のALICEの増減

「フラストレーションやストレス、難しい選択をしなければならない状況が毎日毎日続く中に身を置くことは本当につらいことだ」とフープスは言う。

「子どものために薬を買いに行くのか、それとも今夜の夕食を食べるのか。電気はつけたままにしておくのか、保育園に行くのか」

■貧困状態にあるアメリカ人は減少しているが、ALICEは増加している

例えば、低所得者用食料品購入支援プログラムであるSNAPSupplemental Nutrition Assistance Program)の受給資格を得るためには、連邦貧困レベルの約138%以下の所得、つまり4人家族の総所得が39000ドル(約602万円)以下でなければならない。

障害を持つアメリカ人に給付される補足的所得補償給付(Supplemental Security Income)の場合、受給できなくなるのは通常、年間の個人所得23652ドル(約365万円)からだ。州によっては、個人や家族が連邦貧困レベルの200%から250%の所得があっても受給できる場合もある。

ユナイテッドフォーALICEによると、これらの世帯は一般的なアメリカ人よりもインフレの影響を受けているという。消費者物価指数(CPI)は、アメリカのインフレを測る主な指標のひとつだが、外食、スポーツ用品、コンサートチケットなど、ALICEが頻繁に購入しない商品やサービスが多く含まれている。

ユナイテッドフォーALICEは、低所得世帯の生存予算をより詳細に追跡する「ALICE必需品指数」を開発した。基本的な支出のみのインフレ率を測定すると、ALICE必需品指数はCPIよりも速く上昇している。同時に、ALICEは過去12年間、賃金の上昇に遅れをとっている。

「我々の計算では、毎年同じものを買うだけなのに、遅れを取るようになることが分かった。ALICEは、その期間、これらの物を買うためにさらに丸1年働かなければならなかっただろう」とフープスは言う。

そして、ALICE内でも格差が見られる。

「黒人やヒスパニック系の世帯、障害を持つ人々に影響が大きく、若い世帯や高齢者世帯でもALICEの基準値を下回る可能性が高く、また子どものいる片親の世帯も、両親のいる世帯と比較すると基準値を下回る可能性が高い」

実際、多くのアメリカ人は必ずしも貧困に陥っているわけではないが、ALICEになる可能性は高まっている。フープスによると、ALICEというレッテルは労働者の間で共感を呼んでいるという。

「我々がプレゼンをすると、終わった後にみんながやって来て、『なぜ私が苦労しているのかを説明してくれてありがとう。私は自分が問題だと思っていた』と言われる」とフープスは言う。

「ここでは構造的な説明をするので、非常に現実的な形で人々に知らしめている」

このことは、ALICEの基準値を上回るアメリカ人の割合が、2010年から2021年にかけて、フロリダ州やユタ州を除く、ほぼすべての州で減少したことを意味する。フロリダ州とユタ州は、新型コロナウイルスのパンデミック中に沿岸部の富裕層が移住してきた州だ。

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2010年から2021年のALICE以上のクラスの割合の増減

ALICEが増えていることは、アメリカ人が良い経済指標に対して楽観的になれない理由の一つかもしれない。また、アメリカで苦しんでいるのはいったい誰なのかという型にはまったイメージに風穴を開けることにもなる。

「人々は、それは誰なのか、多くの型にはまったイメージを持っていて、それは怠け者であったり、努力していない人だったりする。人々には生活コストがあり、仕事の賃金がある。だがそれらの仕事のほとんどは、生活コストをカバーできる十分な賃金を支払っていないこと我々のデータは示している」とフープスは語った。

「これは数学的な方程式であり、構造的な問題だ。人々が努力していないわけではない」
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●「5100万世帯が日々の生活に苦慮、十分な収入得られず 米」

CNN

2018.05.19 Sat posted at 18:07 JST

https://www.cnn.co.jp/usa/35119435.html

5100万世帯が十分な収入を得られず、家計のやりくりで苦労しているとの調査結果が発表された

ニューヨーク(CNNMoney) 米国の世帯数の43%が月々の家計のやり繰りに苦労し、住宅費、食費、子どもの世話、健康保険、交通費や携帯電話利用料などの支払いに困らないほど十分な収入を得ていないことが全米規模の最新調査で19日までにわかった。

43%は約5100万世帯に相当する。今回調査の実施組織は「United Way ALICE Project」で、貧困層とされる1619万世帯や、「ALICE」と呼んでいる、勤めてはいるものの資産が限られ、所得額に限界がある家庭の3470万世帯が含まれる。

今回調査の責任者は米国経済は一見、好転の兆しを示しているが、世帯の経済的な困窮は広範な問題であり続けていることが裏付けられたと指摘した。

家計の調整に困っている世帯数を州別に見た場合、カリフォルニア、ニューメキシコ、ハワイ各州がそれぞれ49%と最大だった。最小はノースダコタ州の32%だった。

これら世帯の多数は保育関連分野、在宅介護、事務所補助員や店舗従業員で構成され、低賃金に直面し、貯金もほとんどない。米国内の職種の約66%の報酬は時給20ドル(約2220円)以下としている。

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●「相対的貧困率とは 日本15.4%、米英より格差大きく」

きょうのことば

日本経済新聞 20231119 2:00

▼相対的貧困率 国や地域の中での経済格差を測る代表的な指標のひとつ。所得が集団の中央値の半分にあたる貧困線に届かない人の割合を指す。税金や社会保険料を除いた手取りの収入を世帯の人数で調整した「等価可処分所得」が比較の物差しになる。

厚生労働省の国民生活基礎調査によると、貧困線は直近の2021年に127万円だった。相対的貧困率は15.4%で、30年前より1.9ポイント高い。経済協力開発機構(OECD)によると、米国は21年に15.1%、英国は20年に11.2%だった。日本は米英と比べると国内の経済格差がやや大きい状況といえる。
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日本で子どもの相対的貧困率はピークの12年に16.3%と、おおよそ6人に1人の割合だった。21年は11.5%まで下がった。子どもがいる世帯で大人が一人だけの場合は44.5%と、大人が二人以上いる場合の8.6%を大きく上回る。ひとり親世帯などが経済的に苦しい傾向にあることを示している。

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 「有志連合(coalitions of the willing)」という言葉を聞くようになって久しい。このことを別名では「ミニラテラリズム(minilateralism)」とも言う。この言葉は比較的新しい言葉だ。一極主義(unilateralism)、二極主義(bilateralism)、多極主義(multilateralism)と似たような言葉があるが、二極主義と多極主義の間に入るのがミニラテラリズムだ。ミニラテラリズムは、簡単に言えば、3から6の国が集まって枠組みを作って、世界で起きる様々な問題に対処するということだ。アメリカのジョー・バイデン政権はこうしたミニラテラリズムに基づいた数カ国からなる有志連合を外交政策の中心に据えている。それは、国連は既に機能不全に陥っており、国際問題への効果的な対処が難しい状況になっているからだ。そして、これは、戦後の世界構造が変化しつつあることも関係している。
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 国連において最重要期間は国連安全保障理事会(国連安保理)である。その中でも、安保理常任理事国5カ国、アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアが意思決定において優越的な地位を占めている。これらの国々には拒否権(veto)が認められている。国際連合(the United Nations)は、第二次世界体制の戦勝側である、連合国(the United NationsAllies)が国連なのである。戦時中の下のポスターを見て欲しい。ここには「The United Nations Fight for Freedom(連合国は自由のために戦う)」と書かれている。国連とは、第二次世界大戦の戦勝側が優越的な地位を占めるための国際的な枠組みなのである。そして、戦争で大きな犠牲を払った主要諸大国(powers)が世界の方向を決めるという仕組みになっている。
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 しかし、米ソ対立から冷戦が始まり、国連は協調の場ではなく、米ソ対立を基にした争いの場になってきた。そして、現在は、米英仏対中露、西側諸国対それ以外の国々、ザ・ウエスト(the West)対ザ・レスト(the Rest)の争いの場に変容しつつある。

 国連では何も決められない。問題にも対処できない。アメリカの国力がダ充実していたころは、一極的な行動もできたが、今はそれも難しい。だから、「ある程度お金や力を持っている気の合う仲間」を誘い合わせて、有志連合を形成する方向に進んでいる。パートナーは、西側の仲間内で見つけるということになる。各地域で有志連合を作り、それを重層的なネットワーク化しようとしている。こうした動きはザ・レスト側にもあり、その基本がブリックス(BRICS)ということになる。戦後世界構造の変化の中で、国際的な枠組みにも変化が起きている。

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バイデンの「有志連合」外交ドクトリン(Biden’s ‘Coalitions of the Willing’ Foreign-Policy Doctrine

-アメリカ外交の最新の動きは、大統領がいかに「ミニラテラリズム(minilateralism)」を重視しているかを示している。

ロビー・グラマー筆

2024年4月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/11/biden-minilateralism-foreign-policy-doctrine-japan-philippines-aukus-quad/

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2023年3月13日、オーカス(AUKUS)の三カ国首脳会談の後の記者会見でのオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相、ジョー・バイデン米大統領、リシ・スナク英首相

ジョー・バイデン米大統領が今週、ワシントンで日本とフィリピンの両国首脳を招き、史上初の3カ国首脳会議を開催する一方で、バイデン政権のアントニー・ブリンケン米国務長官は来週、イタリアで開催されるG7外相会議の準備を進めている。何千キロも離れており、議題も大きく異なっているにもかかわらず、この2つの会議はいずれもバイデン外交のドクトリンの特徴となっているミニラテラリズム(minilateralism)の一環である。

ミニラテリズムとは、本誌フォーリン・ポリシーの複数の記事で最初に広まった、奇妙な用語で、国連や世界貿易機関(WTO)のような大規模で動きの遅い伝統的な多国間機関ではなく、共通の利益を持つ、より小規模でよりターゲットを絞った国々のグループが関与する国際協力の一形態を指す。および。これはまさにバイデン政権が追求してきたアプローチであり、冷戦後の世界秩序がいかに崩壊しつつあるかを示すこれまでで最も明らかな兆候を表している。

この戦略は、民主党の外交政策の伝統的な理念からの大幅な転換を示している。バラク・オバマ政権時代、ワシントンは国連システムや他の主要な多国間ブロック(multilateral blocs)を通じて主要な外交政策の取り組みを推進することに重点を置いていた。2011年のNATOによるリビアへの介入については、最初は国連安全保障理事会のゴーサインを得ようと努力したし、バラク・オバマ大統領の気候変動への取り組みについても、主要な国連内部の会議を通して行おうとした。

その代わりに、バイデン・ティームは、主要な危機に関する特定の政策課題を推進するために、より小規模で目的に合った「有志連合」(smaller, fit-for-purpose “coalitions of the willing”)にますます頼るようになっている。

ヨーロッパでは、G7を利用してウクライナ戦争に対するロシアへの徹底的な経済制裁を実施し、ウクライナへの軍事援助を数十カ国間で調整するための暫定的な新組織、いわゆるラムシュタイン・グループ(Ramstein group、訳者註:ウクライナ防衛のための40カ国以上が参加した国際会議)を設立した。アジアでは、中国の台頭を食い止めようと、日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)、AUKUS、そして日本とフィリピンとの三国間イニシアティヴ(今週首脳会談が実施された)など、重複する小さなグループのパッチワークをバイデン政権は採用している。

新アメリカ安全保障センター上級研究員リサ・カーティスは、「このような3、4カ国によるミニラテラルな会合(minilateral meetings)は、安全保障関係の緩やかなネットワーク(a loose network of security relationships)を発展させるというバイデン政権の戦略の特徴となっている」と述べている。

カーティスは、バイデンが2期目を勝ち取るかどうかにかかわらず、ミニラテラリズムのアプローチはバイデン政権が終わってからも、より長続きする可能性が高いと述べた。インド太平洋に関するバイデンとトランプのドクトリンは、驚くほどよく似ていると指摘している。加えて、中国に対抗するためのAUKUSのような構想は、ワシントンの政治的スペクトルを超えて広く普及しており、ドナルド・トランプの共和党にしても、国連と政界貿易機関(WTO)のシステムに深い懐疑的な見方をしている。

この戦略が功を奏しているかどうかはまだ明らかになっていない。バイデン政権は、インド太平洋地域でこうした外交的イニシアティヴの「格子細工(latticework)」と呼ばれるものを立ち上げ、一定の勝利を収めたが、それらが実際に中国を地政学的に制限できるかどうかはまだ分からない。

しかし、ワシントンが注意深くなければ、こうしたミニラテラルな取り組みも暗礁に乗り上げる可能性がある。「ASEANウォンク・ニュースレター」の発行人であるラシャンス・パラメスワランは次のように述べている。「もし将来の米政権が、気候や経済といった分野での各国のニーズも認識した、より包括的なアジェンダを維持するのではなく、アメリカ主導のミニラテラリズムの焦点を中国への対抗だけに絞った場合、アメリカは北京に対して僅かな勝利を得ることはできても、この地域の多くを失うリスクがある」。

パラメスワランは続けて次のように述べている。「ミニラテラルに参加する国々は、物事を成し遂げるために、より柔軟な連合を構築する。しかし、ミニラテラルは、二国間(bilateral)、もしくは多国間(multilateral)での関与を調整したときにこそ最も効果を発揮するため、既存の制度を弱体化させる一連の排他的なクラブのようには見えない。中国はじしんが発するメッセージの一部を使って、ミニラテラルを厄介者のように印象付けようとしている」。

いずれにせよ、バイデン政権の内部関係者たちによれば、新しいミニラテラリズム(minilateralism)のアプローチは、アメリカが何十年にもわたって築き上げ、維持してきた第二次世界大戦後の国際システムが、もはや目的にそぐわなくなっていることを端的に反映したものだという。

あるバイデン政権幹部は匿名上条件に、次のように率直に意見を述べた。「私たちが80年間構築し、依存してきた多国間秩序(multilateral order)は、あまりにも時代遅れ(old-timey)で扱いにくくなっている(unwieldy)。国連やその他の大きな機関における絶え間ない行き詰まりに対する回避策を見つけなければならない」。

新しい方策のために、バイデン政権は熱狂的なペースで取り組んでいる。政権の高官たちとこの問題に詳しい複数の外交官たちによれば、バイデンは来週イタリアで開かれるG7外相会議に続いて、6月にイタリアで開かれるG7サミットと、今年後半にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力サミット(Asia-Pacific Economic Cooperation summit)に出席する予定だという。複数のバイデン政権関係者はまた、11月下旬か12月上旬にニューデリーで開催される日米豪印戦略対話首脳会議(Quad Summit)のためのインド訪問の可能性も視野に入れ、その下準備を進めている。この計画はバイデンが再選されるかどうかにかかっている。

この言葉は比較的新しいかもしれないが、国連のような組織における外交的膠着状態を回避する方法としてのミニラテラリズムという考え方は、決して新しいものではない。たとえばG7はもともと、1973年の石油危機をきっかけにして、フランス、ドイツ、日本、イギリス、アメリカの主要先進工業国が、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)の厳格なシステムの枠外で、主要な金融問題に取り組むためのフォーラムとして1970年代初頭に設立された。後にイタリアとカナダが加盟し、ヨーロッパ連合(EU)も「数に挙げられていないメンバー(non-enumerated member)」として加わった。

しかし、近年ワシントンの一部では、ロシアのウクライナ紛争をめぐる行き詰まり、ミャンマー紛争への対応の失敗、国際機関における中国の影響力拡大に対する不信感、スーダンが内戦に突入した際の不手際など、注目される国際機関の失敗や失策が後を絶たないため、ミニラテラリズムはさらに魅力的なものとなっている。こうしたことから、民主党内の伝統的な制度の熱心な支持者でさえ、解決策を他に求めるようになっている。

経済面では、アメリカはG7レヴェルにおいて、対ロシア制裁を調整することを選択した。ウクライナ戦争の主要な侵略者が常任理事国(permanent member)であり、拒否権(veto)を持つ国連安全保障理事会(U.N. Security Council)では、そのような努力は効果を上げないと予測していたからだ。バイデン政権はまた、世界貿易機関(WTO)や国際通貨基金(IMF)などの機関ではなく、G7という場を利用して世界的な法人税制の見直しを行い、中国の「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)に対抗して、国際インフラ投資プログラム(international infrastructure investment program)を立ち上げて注目を集めた

インターナショナル・クライシス・グループの国連担当部長のリチャード・ゴーワンは、「ホワイトハウスは世界をよく観察し、多くの制度が綻びを見せているのを見て、かなり重要な問題に関して国連から望むものを引き出すのは非常に難しいと見ている」と述べている。

現在世界で最も大きな地政学的引火点の2つ、ウクライナ戦争とインド太平洋の緊張には、いずれも国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアと中国が関与しており、それらの緊張に対処するための国連の取り組みを阻止するために、中露両国は拒否権を行使することに何の躊躇もしない。(つい先月、ロシアは、ウクライナ戦争を支援するための武器供与と引き換えに北朝鮮との関係を強化する中、成立すると広く考えられていた対北朝鮮制裁を監視する15年間の計画を頓挫させた。)

アメリカはまた、世界で3番目に大きな地政学的火種であるイスラエルとハマスの戦争に対処する努力において、国連から距離を置いている。先月、ようやく1つの決議が可決されたが、アメリカが棄権したため、緊密なパートナーであるイスラエルは怒ったが、イスラエルの戦争戦略に全く変更は行われなかった。

2022年の歴史的な国連総会の投票では、世界の圧倒的多数がロシアのウクライナ侵攻を非難したが、それまでと同様にモスクワの戦争に関する計算を変えさせることはできなかった。

そして今週、アメリカがイランによるイスラエル攻撃の可能性に警告を発した時、アントニー・ブリンケン米国務長官は、イランが常設の外交拠点を持つ国連にその懸念を持ち込まず、むしろ従来のシステムを回避してトルコ、中国、サウジアラビアの外相に電話をかけ、緊張緩和のためにテヘランに水面下で働きかけを行うように促した。

インド、南アフリカ、ブラジルなどの中堅・新興大国(middle and rising powers)は、国連安全保障理事会は時代遅れであり、いわゆるグローバル・サウス(global south)が国際問題で果たす役割の高まりを反映していないと主張しているが、制度改革の努力は全てが失敗に終わっている。

表向きは大国(列強)間競争(great-power competition)に関与していない問題、たとえばハイチの安全保障危機やエチオピアとスーダンの戦争でさえ、バイデン政権は国連に可能な役割は存在しないと見ている。2021年にバイデン政権の国連大使に就任したリンダ・トーマス=グリーンフィールドは、エチオピア北部ティグライ地方での致命的な戦争に安保理が正式に対処するよう強く働きかけた。しかし、この危機に関する公開会合が開かれるまでに数カ月が必要だった。

前述のゴーワンは、このため、当初はバイデン政権がトランプ政権後の世界機構に大きな再投資を行うことを期待していた国連外交官たちは、バイデン政権のミニラテラリズムへの軸足移動(Biden’s pivot to minilateralism)に失望することになった、と主張している。

ゴーワンは次のように述べている。「バイデン政権は、大多数の国にウクライナの主権に対するリップサービスを求めたいときには国連は役に立つが、実際に何かを成し遂げたいときには、別の場所に行く方が賢明だと考えている。国連では、『トランプの嵐を乗り切って、バイデンが晴れをもたらしてくれると思ったのに、代わりに霧雨が降ってきた』という感覚があるようだ」。

※ロビー・グラマー:『フォーリン・ポリシー』誌外交・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@RobbieGramer

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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。世界構造の大きな転換について詳述しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年1月15日に「名目GDPで日本がドイツに抜かれて世界4位に転落」という報道がなされて話題になった。1968年に当時の西ドイツを抜いて世界第2位に躍進したが、2010年に中国に抜かれて第3位となり、今回ドイツに抜かれて4位に転落となった。このことは昨年から既に言われていたことだ。何故なら、最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)にこのことを書いたからだ。「日本は経済成長がない国であり、ドイツは高々2%の経済成長率なのに日本を抜く」ということを書いた。そのことを今更声高に叫ぶ必要もない。5位のイギリスに抜かれることはないだろうが、現在6位のインドにも抜かれて、5位に転落するのはここ10年から20年以内の出来事となるだろう。日本は残念なことだが衰退の道を着実に歩んでいる。
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●「日本のGDP4位転落、ほぼ確実に ドイツに抜かれる見通し」

朝日新聞 1/15() 18:13配信

https://news.yahoo.co.jp/articles/3477c4492a7de21be7d26064cb879c2c9606c716

 2023年の名目国内総生産(GDP)で日本がドイツに抜かれ、世界4位に転落することがほぼ確実になった。米ドル換算で比べるため、日本のGDPが円安で目減りする一方、ドイツは大幅な物価高でかさ上げされることが要因だ。ただ、長期的にドイツの経済成長率が日本を上回ってきた積み重ねの結果という面もある。

 名目GDPはその国が生み出すモノやサービスなどの付加価値の総額。経済規模を比べる時に使う代表的な指標で、1位は米国、2位は中国だ。

 ドイツが15日発表した23年の名目GDPは、前年比63%増の41211億ユーロ。日本銀行が公表している同年の平均為替レートでドル換算すると、約45千億ドルとなる。

 大幅に伸びた要因は、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰などで、日本以上に激しい物価上昇に見舞われたことだ。物価の影響を除いた実質成長率は03%減と、3年ぶりのマイナス成長になった。

 一方、日本の23年の名目GDPは来月発表されるが、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算では591兆円(約42千億ドル)とドイツを下回る。円ベースでは前年比で57%増えるが、円安が進んだことでドル換算では12%減ると予測されている。

 日本はすでに19月期の実績で、ドイツに約2千億ドル(約28兆円)の差をつけられている。追いつくには1012月期に約190兆円を積み上げる必要があるが、前年同期が約147兆円だったことを踏まえると、実現はほぼ不可能だ。

 長期的にみるとドイツの成長率は日本を上回っており、経済規模の差は縮まってきていた。国際通貨基金(IMF)のデータから0022年の実質成長率を単純平均すると、ドイツの12%に対し、日本は07%にとどまる。

 各国の経済規模をめぐっては、日本は1968年に西ドイツ(当時)を国民総生産(GNP)で上回り、世界2位の経済大国となった。だが2010年にGDPで中国に抜かれて3位になっていた。(寺西和男=ダボス、米谷陽一)

(貼り付け終わり)

 日本はこれから貧しくなっていく。二極化が進むが、外国から見れば、いくら日本で勝ち組だ何だと威張ってみても、「負け組の船に乗るかわいそうな人たち」というひとくくりの評価だ。私の母方の曽祖父は戦前、アメリカのロサンゼルスに出稼ぎに行って、仕送りをして、子供たちを育て学校に行かせた。ガーデナーといわれる庭師、肉体労働をしていたそうだ。ハリウッドの映画スターの家で働きぶりが良いということで、お菓子をもらったり、子供たちの洋服のおさがりをもらったりして、それを日本に送ってもらって、それを皆で食べた、お古とは言えきれいな洋服を着て目立ってしまったという話を祖母から聞かされた。

そういうことがまた起きるだろう。しかし、今の日本人に何ができるだろう。外国語(英語や中国語など)ができなければ、デスクワークなどはできない。それなら肉体労働はどうだろうか。今の日本人に肉体労働ができるだろうか。はなはだ心もとない。そうなれば、使えない人間ということになる。元先進国の国民で体が動かないというのは、江戸幕府瓦解後の武士階級みたいなものだ。

 各国の経済力や経済成長を見てみると、やはり、非西側諸国(the Rest、ザ・レスト)の勢いが凄まじい。その中核であるBRICSのさらに中核BRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国)は、名目GDPで見てみると世界トップ20位以内に入っている。更に、ジョコ・ウィドド大統領の下で進境著しいインドネシアも躍進している。

 名目GDP以外に、購買力平価(purchase power parity)によるGDPという指標もある。購買力平価とは「一つの物品の価格は一つ(一物一価)」という考えから、例えば、ハンバーガーがアメリカでは1ドルで買えて、日本では120円で買えるとすると、1ドル=120円という為替価値が妥当だとする考えだ。購買力平価は短期的な為替ではなく、長期的な動きを示すということになる。そして、この購買力平価によるGDPの評価ということもなされている。こちらの方が実態に近いという説もあるが、名目GDPの方がまだよく使われる指標になっている。購買力平価GDPで見てみると、名目GDPよりもより驚くべき順位が出る。中国がアメリカを抜いて世界第1位であること、インドが既に世界第3位で、日本は4位であること、7位にインドネシアが入っていること、トップ10にBRICが全ては言っていることなど、下記の順位を見て驚く人も多いだろう。これがある側面で見た世界の現実である。
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 ここで重要なのは、インドネシアである。インドネシアは、世界第4位の2億7000万の人口を誇り、名目GDPは世界16位、購買力平価GDPは世界7位となっている。名目GDPが1兆ドル(約143兆円)を突破し、「1兆ドルクラブ」入りを果たした。インドネシア国民の平均年齢は約31歳(日本は約48歳)、これから消費者、生産者として活発に活動していく人々が多く存在する。これを「人口ボーナス」と呼ぶ。一方日本は「老人ホーム」となっていく。日本はこれから旺盛な経済活動を行う、西側以外の国々に抜かされていくだろう。ドイツに抜かされたくらいで悲観的になっていては身が持たない、これからこのようなニューズに何度も何度も接することになるのだから。
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(終わり)


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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 平成に入ってから、日本では「改革!改革!」の掛け声が響き渡った。これまでの非効率な日本式のやり方ではダメで、アメリカのような国にならねばならない、という論調が席巻した。アメリカやイギリスのような二大政党制になって、重要なことを決めやすい政治を行うべきだということで、小選挙区制と比例代表を並立させる現行の選挙制度(定数などは異なる)を導入した。経済では、市場に任せればうまくいくということで、規制緩和と民営化、雇用の流動化などが進められた。

デフレが進行し、その結果が成長なき平成時代30年となり、日本の中間層は減少し、何より、少子高齢化が促進された。就職氷河期世代、団塊ジュニア世代の被った被害は大きく、彼らが前の世代のように生活でき、結婚し、子供を産み育てていればと思うけれども、もう後の祭りだ。日本のアメリカ化、アメリカ従属化を進めた小泉純一郎と司令塔、実質的には小泉よりも実力者だった竹中平蔵の罪は万死に値する。生まれてくるはずだった日本人を生れまなくし(その数を考えると、虐殺者という言葉さえも使いたくなる)、日本を現状に追い込んだことの罪は万死に値する。

 ジョー・バイデン政権は、発足後、新型コロナ対策を進めながら、もう1つ産業政策を進めようとしてきた。産業政策とは、国家がある産業分野の成長を促し、あるいは産業構造を変化させる政策である。アメリカで言えば、クリーンエネルギー部門の成長を促そうとしているし、自動車産業ではこれまでのガソリン車から電気自動車への転換を促そうとしている(それに不安を持っている自動車産業労働者たちが全米規模でストをしている)。

 こうした産業政策の本家本元は日本である。何度も書いているが、チャルマーズ・ジョンソンが『通産省と日本の奇跡』(1975年)で明らかにした。その政策を最も忠実に行っているが中国である。中国の成功を見れば、産業政策の有効性は確かだ。アメリカも、「中国もやっている、中国に後れを取ってはいけない」ということで産業政策を行っているが、政策実行の効率性では中国には及ばない。

 日本は日本らしい、日本型資本主義(コーポラティズムに近い)で繁栄したが、1980年代からのに米経済摩擦によって、アメリカに骨抜きにされ、破壊された。日本はどこまで行ってもアメリカの属国である。戦争でアメリカに惨敗を喫した敗戦国である。日本に関しては、アメリカはコントロールすることができる。しかし、中国はそういう訳にはいかない。

 残念なのは、日本はアメリカの属国として、本格的にアメリカされてしまって、経済は衰退し、もはやそれを取り戻すことは困難である。後は、これまでの資産を食いつぶしながら、衰退のスピードにブレーキをかけながら、ヨーロッパの元世界帝国(スペインやオランダなど)のようになっていくしかない。しかし、より懸念されるのは更に衰退していくことだ。日本人が出稼ぎに行き、東アジア、東南アジアの国々から、「日本の労働力は安くて優秀だ」ということで生産拠点づくりをされることだ。それはそれでありがたいことだが、数十年前に日本が東南アジアでやったことをやられるというのは、「因果は巡る糸車」ということになる。しかし、その頃には日本の労働可能人口は減っていて、日本は魅力的な投資先ではなくなっているかもしれない。どこまで行っても先行き暗い話になってしまう。

(貼り付けはじめ)

日本経済は新自由主義経済学が失敗だったことを証明しているのか?(Does Japan’s Economy Prove That Neoliberalism Lost?

-ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)が躓(つまづ)いている中で、経済学者たちは東アジアの「奇跡(miracle)」について考え直している。

マイケル・ハーシュ筆

2023年9月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/14/japan-economy-neoliberalism-east-asia-washington-consensus-imf/?tpcc=recirc_trending062921

日本は上昇している一方で、中国は下降し、日本と同様のデフレーション(Japan-like deflation)に陥る危機に直面している。アメリカは日本型の保護主義と産業政策(Japanese-style protectionism and industrial policy)を実践しているが、日本はかつてワシントンが促進していた、より新しく、より開かれた貿易ルールを支持している。

これらの潮流は、ソヴィエト共産主義(Soviet communism)の崩壊により政府主導の経済成長(government-directed economic growth)という考え方全体の信用が失墜したように見えた冷戦終結以来、私たちが慣れ親しんできた新自由主義的な主張の事実上の逆転を示している。その後、1990年代初頭に日本のバブル経済が崩壊し、東アジアの「奇跡(miracle)」の発祥である日本の、長期にわたるゆっくりとした高齢化が始まった。しかし、経済学の専門家たちは、グローバライゼーション(globalization)のこの長く奇妙な旅が始まって以来、非常に多くの悪い判断をしてきたため、事態の進展についていくことができていない。それは、主流派経済学者の多くが、自由市場原理主義(free-market fundamentalism)のモデルである「ワシントン・コンセンサス(Washington Consensus)」が、いくつかの側面で壊滅的に失敗したことを、いまだに認めることができないからだ。

EU離脱がイギリスにとって災難であることが判明し、アメリカは悪化の一途をたどる不平等に苦悩している一方で、日本は、史上まれに見る戦後の歴史の新たな章に入ったのかもしれない。2023年第2四半期の年率5%近い成長や、物価と賃金の若干の上昇など、新たな活況を享受している。日本政府が年次白書で述べているように、これらの指標は「経済が25年にわたるデフレとの戦いの転換点に達しつつあることを示唆している」ということだ。日本はまた、アメリカ人がうらやむほど社会的に安定している。なぜなら、アメリカは悩ませているような巨大な所得格差(huge income inequality)の問題に悩まされていないからだ。もちろん、日本は民族的多様性は大きくない。日本は完璧なモデルとは言えず、たとえば女性の権利を認める点ではまだ遅れているが、人間開発指数は富裕国の中で上昇している。経済史家のアダム・トゥーズは、平等、平均余命、あるいは2.7パーセントという驚異的な失業率で測っても、日本は今日、「世界で最も裕福で最も成功した社会の最上位に位置しており、現在その位置にいる期間がアメリカよりも7年半長い」と述べている。

市場の動きに敏感な政府による産業支援(market-sensitive government industrial support)という日本や東アジアの「中間の道(middle way)」を長い間唱えてきた他の経済学者たちも同意している。ノーベル経済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツは、「日本の四半世紀の経済成長率を高く評価することはできないが、多くの人々を置き去りにしなかったこと(not leaving as many people behind)は評価できる。日本が持っていた大きな利点は、停滞期(malaise)に入る前に、はるかに平等主義的な国家(egalitarian state)を実現していたことだ」と述べている。あるいは、国際通貨基金(IMF)のエコノミスト、フアド・ハサノフとレダ・チェリフが最近の論文で結論づけているように、アジアの奇跡の経済モデル[Asian miracles’ economic models](主に香港、韓国、シンガポール、台湾で使われているもの)は、「ほとんどの先進国のそれよりもはるかに低い市場所得不平等をもたらした」ということだ。

東アジアはどうやったのか? 輸出競争力(export competitiveness)を重視し、補助金を受けている企業(subsidized firms)にもグローバル市場での競争を強いることで、これらの国々は中産階級(middle class)のために良い雇用を創出し、ラテンアメリカからアフリカに至るまで、過去の悪しき産業政策の特徴であった失敗した「輸入代替」政策(“import substitution” policies)の落とし穴を回避した。そのうえで、累進課税制度(progressive tax systems)を導入した。

対照的に、中国の景気減速の原因の一つは、独裁的な指導者である習近平が経済の市場部分を厳しく取り締まり過ぎ、1970年代後半に始まった政府対市場コントロールの微妙な均衡(balance of government-vs.-market control)を乱したことにあるという意見もある。スティグリッツは、「習近平は、政府の使える手段を微妙に、あるいは市場の枠組みの中で使う方法を知らないようだ」と述べている。

それは、東アジア型の市場介入(East Asian-style market intervention)を主張する人々との政策論争では、つい最近までワシントン・コンセンサスが圧倒していたからだ。日本や他の東アジア諸国が実践してきたような「産業政策(industrial policy)」は有害であり、特にアメリカでは、目立たない形で実践されるしかなかった。ワシントンの民主、共和両党の主張により、資本移動(capital flows)は世界中で無頓着に解き放たれ、市場障壁(market barriers)は撤廃された。1990年代後半にアジア金融危機が起こると、新自由主義者たちは当初、腐敗した縁故資本主義(corrupt crony capitalism)と政府の過剰な干渉(heavy government interference)が原因だとして、正当性を主張した。しかし、2008年の大暴落でウォール街が沈没し、アメリカの金融システム全体が崩壊した後、この危機が実際にはグローバル資本主義と新自由主義の行き過ぎによるものであることが明らかになった。アメリカとアジアの両方の問題は政府の強権(heavy hand of government)ではなく、むしろその逆だった。それは、まったく規制されていない資本の流れと金融市場、そして言うまでもなく、アメリカのウォール街とキャピタルゲイン獲得者を優遇する逆進的な税制政策(regressive tax

日本の榊原英資元財務・国際担当副大臣は、当時私に次のように語っていた。「世界の資本市場にかなりの程度責任がある。いわゆるアジア危機を見ると、根本的な原因はマレーシア、タイ、韓国、中国への巨大な資本流入にある。そして突然、それらの国々から資本が流出した。借り手は無謀な借金をし、貸し手は無謀な融資をした。日本の銀行だけではない。アメリカの銀行もヨーロッパの銀行も同様だ」。榊原が正しかったことが証明された。そして、似たようなことが、いや、もっと悪い出来事が、約10年後にアメリカ経済を襲ったのだ。

それ以上に、この30年の間に、中国が貿易ルールにほとんど注意を払わず、産業スパイ(industrial espionage)、投資コントロール、為替操作(currency manipulation)、知的財産の窃盗(intellectual property theft)などの組織的な違反を展開していたことも明らかだった。同じ時期、アメリカは、自国のハイテクの優位性が自動的に中産階級の新たな製造業の時代につながると考えていたが、それは大きな間違いだった。海外に流出したのはアメリカの資本だけではなかった。1990年代半ばまでには、シリコンヴァレー式の新興企業では経済が大きく発展しないことは明らかだった。

新自由主義はそれ以来瀕死の状態にあり、ドナルド・トランプとジョー・バイデンが新自由主義に対して死に至るような打撃を与えた。おそらく最も重大な失敗は、純粋に経済的なものではなく、社会的、政治的なものだった。アメリカだけでなく、イギリスなど他の西側主要経済大国でも、新自由主義的思考へのほとんど宗教的な傾倒によってもたらされた不平等の深刻化が、右派と左派に衝撃的な社会的不安定とポピュリズムを生み出していることが明らかになった。トランプとボリス・ジョンソン元英国首相は、戦後の世界経済システムを築いた2つの民主政体国家を反グローバリズムの内向き連合国(anti-globalist, inward-looking confederacies)に変えた。トランプは貿易戦争の開始と世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)の機能不全に怒りの矛先を向け、ジョンソンはヨーロッパ連合(European Union EU)から離脱した。なぜこのような混乱に陥ってしまったのだろうか? 少し歴史を振り返ってみよう。

これまでずっと世界の舞台で繰り広げられてきたことは、経済発展に対するこれまでにないアプローチの歴史的な試練に他ならず、また社会の安定に対する前例のない試練でもあった。

約30年前、ビル・クリントン米大統領がソ連崩壊の勝利主義的余波の中で大統領に就任し、彼のようなかつて進歩的だった民主党員でさえも、市場とグローバライゼーションが解決策であると決断した時に新自由主義的経済政策が始まった。政府が指令を下す経済(command economies)は完全に信用されなくなった。アメリカの大きな政府も同様だった。そして発展途上国では、政府の介入、いわゆる輸入代替、つまり国内産業の支援と外国に対する貿易障壁の閉鎖は、特にアフリカとラテンアメリカでは、腐敗と貧困の蔓延(corruption and endemic poverty)を招き、悲惨な失敗となった。

しかし、東アジアには奇妙な異端児がいた。東アジアの「虎たち(Tigers)」は、戦後の管理経済の覇者である日本に触発され、元素の火で遊ぶ悪魔のように市場原理に手を加え、大成功を収めた。その頃、世界銀行の白鳥正樹専務理事は、東アジアの類まれな成功、つまり政府による巧みな市場促進を組み合わせたユニークで巧妙な成功について研究するよう熱心に働きかけていた。

世界銀行(World Bank)は350ページにも及ぶ長大な報告書を作成し、「市場に親和性のある国家介入(market-friendly state intervention)」は時に有効かもしれないと躊躇しながらも結論づけた。しかし、その結論はあまりにも保険をかけている内容で、インパクトはほとんどなかった。特にアメリカ市場がすでに攻撃を受けていると見られ、クリントンが「雇用、雇用、雇用」と説いていたときにはなおさらだ。また、アメリカの政策立案者たちは、ロシアのような国々が、政府が指令を下す経済から抜け出すために中途半端な改革しかできない言い訳を見つけることを望まなかった。

主流派の経済学者たちは、東アジアに有力な代替案があるという考えに対し、大鉈を振るった。ポール・クルーグマンは、1994年の『フォーリン・アフェアーズ』誌に掲載した記事「アジアの奇跡の神話(The Myth of Asia’s Miracle)」の中で、国内の産業に資本をつぎ込んでも「収穫逓増(diminishing returns)」をもたらすだけだと主張し、アジアをソ連と比較して、「ソヴィエト帝国の経済実績がかつてどれほど印象的で恐ろしいものであったかを人々は忘れている」と述べた。クルーグマンは特に、経済学者のアルウィン・ヤングとローレンス・ラウの研究を引用し、東アジアの「全要素生産性(total factor productivity)」の数字が示すように、東アジアの経済成長は効率性の改善(improved efficiency)ではなく、労働力の急激な増加などの「投入」(“inputs” such as rapid labor force increases)によるものだと主張した。ヤングは1993年、『インスティテュートナル・インヴェスター』誌のインタヴュー記事の中で、東アジアの経済成長は「ステロイドを使った経済成長(economic growth on steroids)」にすぎないと語り、「見た目は立派だが、中身は腐っている(You look impressive, but inside you’re rotting)」と述べた。

ヤングや他の経済学者たちは、その証拠として日本の低経済成長期を指摘したが、東アジア経済モデルの超長期的な時間軸、つまり、これらの国々が後に生産性と効率性を向上させるための制度的基礎を築いていたという事実を考慮していなかったそしてその間ずっと、新自由主義は、アメリカ資本の外国への流出と、より安価な労働力によってゆっくりと損なわれつつあった。クリントンとその擁護者たちが見落としていたのは、「資本が国際的に流動し、その所有者や経営者が本拠地を含む特定の国民経済に長期投資することにあまり興味を示さなくなっている」ということだった。世界銀行エコノミスト(当時)のロバート・ウェイドは、当時そう主張した。彼は主流派と考えを変えた人物だった。

もちろん、ウェイドたちは無視された。新自由主義の歴史的潮流はあまりに強力で、日本人は自分たちの意見を主張することに対してあまりにおとなしすぎた。日本は相変わらず、「日本の経済的成功から普遍的な理論を形成する(forming universal theories from the economic success of Japan)」ことが苦手な国だった。この国の伝説的な官僚の一人だった天谷直弘は、私が日本に住んでいた1992年に私に次のように語った。それは実用主義の文化ということだ。日本人には独自のケインズやマルクスがいなかった。そして率直に言って、機敏なテクノクラート階級と儒教(Confucian)の奉仕の伝統を持つ東アジアの官僚ほど賢明な官僚はほとんど存在しなかった。例えば、ネルー式の社会主義で成長したインドは、誰かが事業を始めようとするたびに官僚的なもつれを伴う「ライセンス統治(license raj)」の下で何十年も苦しんできた。

しかし、この長年定着してきた経済の「知恵」の多くが今、ひび割れつつある――それは、新自由主義資本主義が地球上で猛威を振るう間に促進してきた氷河の融解と同じだ。シェリフとハサノフが『名前を明かさない政策の復活』で書いているように、「50年間の発展を総括すると、相対的または絶対的貧困から先進経済の地位に到達した国はわずか数か国だけであった」。政府は大きな変化をもたらすことができないという考え。東アジアはそれが可能であることを証明したが、「最近まで、アジアの奇跡の経験は、少なくとも標準的な開発経済学の観点からは、模倣できないし、模倣すべきではない『偶然』と考えられてきた。」

Yet much of this long-entrenched economic “wisdom” is now cracking—much like the melting glaciers that neoliberal capitalism, during its rampage across the planet, has helped to promote. As Cherif and Hasanov write in “The Return of the Policy That Shall Not Be Named”: “Our summary of 50 years of development showed that only a few countries made it from relative or absolute poverty to advanced economy status,” giving rise to the idea that government can’t make much of a difference. East Asia proved that it could, but “until recently, the experiences of the Asian miracles have been mostly considered as ‘accidents’ that cannot and should not be emulated, at least from the point of view of standard development economics.”

それはもはや事実ではない。良くも悪くも、新しい世界経済のコンセンサスが生まれつつある。ジョン・メイナード・ケインズが『雇用・利子・貨幣の一般理論(The General Theory of Employment, Interest, and Money)』の序文で次のように書いている。「困難は、新しい考えにあるのではなく、古い考えから抜け出すことにある」。

経済学の新たな見方は、2つの関連する要因によって推進されている。1つは、グローバライゼーションとテクノロジーの進歩の世界中への広がりによって打撃を受けている西側中産階級の怒りであり、もう1つは中国の台頭である。冷戦後の極端な楽観的な夢から集団として目覚めたかのように、アメリカの政治に関心を持つ人々は、数年のうちに、両政党を超えて、レーガン時代の自由市場の考え方を捨て去り、冷戦初期の考え方を再び受け入れた。特に中国の脅威は、長い間埋もれていた当時の産業政策がいかに成功したかという記憶を呼び覚ました。

東アジア研究の原点の一つである『市場を統治する(Governing the Market)』の著者であるウェイドが指摘しているように、アメリカが現在も世界で最も革新的な経済大国であるのは、密かに進められてきた産業政策によるところが少なくない。国防高等研究計画局(The Defense Advanced Research Projects Agency)、国立衛生研究所(the National Institutes of Health)、その他いくつかの連邦政府機関は、「汎用技術(general purpose technologies)」においてアメリカが画期的な進歩を遂げるのを支援してきた。なかでも、全米科学財団(the National Science Foundation)はグーグルの検索エンジンを支えるアルゴリズムに資金を提供し、アップルへの初期の資金提供は中小企業技術革新研究プログラム(the Small Business Innovation Research program)からもたらされた。経済学者マリアナ・マズカートは、2013年に出版された著書『起業家的国家:公的部門対民間部門対立という神話を覆す(The Entrepreneurial State: Debunking Public vs. Private Sector Myths)』の中で、iPhoneを「スマート」にしているテクノロジーは、インターネット、ワイヤレスネットワーク、全地球測位システム、マイクロエレクトロニクス、タッチスクリーンディスプレイ、音声認識パーソナルアシスタントSIRIなど、全て国家が資金を提供しているものだと指摘している。

従って、少なくとも政策立案者たちの間では、経済学的に言えば、新しい常識が戸棚から出てきた。ダートマス大学の経済学者で、ピーターソン国際経済研究所の非常勤シニアフェローであるダグラス・アーウィンは、「政府補助金と貿易制限によって特定の国の産業を発展させるという、新しいワシントン・北京・ブリュッセル・コンセンサスが出現していると述べている。また、ワシントン・コンセンサスの代わりに、私たちは「ワシントン・コンステレーション(Washington Constellation)」と呼ばれる、多くの異質な経済成長理論コンセプトの集合体の台頭を目の当たりにしている、とも述べている。

しかし、経済学の専門家たち自身は、新自由主義的な信念を捨てるべきかどうか、まだ確信が持てないでいる。オックスフォード大学の若手経済学者で、韓国の重工業への国家投資の成功を新古典派経済学で説明した画期的な論文を書いたネイサン・レインは次のように語っている。「今起こっているのは非常に不快なことだ。過去数十年で経済学が経験的な方向に転換した。ワシントン・コンセンサスにイデオロギー的に結びついていない私のような人々は、『我々はただの経験主義者だ(We’re just empiricists)。これを調べてみよう』と言っていた。人々は、『そんなことはやめなさい』と言った。人々は、それがうまくいくかどうかという質問をするだけでも、敏感に反応する」。

かつてワシントン・コンセンサスの顔であり代弁者であったIMFでは、過去数十年間、産業政策の受け入れは苦しい戦いであった。だからこそ、ハサノフとチェリフは2019年、ワーキングペーパーに、「名前を言ってはいけない政策の復活(The Return of the Policy That Shall Not Be Named")」という中身のはっきりしないとしたタイトルをつけざるを得なかった。その1年後、彼らはさらに上位の部門から論文「産業政策の原則(The Principles of Industrial Policy)」を発表した。しかし、IMFはこの6月にアーウィンによる反論を発表した。

アーウィンは次のように書いている。「産業政策をめぐる議論は長い間膠着状態(stalemate)にあった。産業政策は生産性の向上と構造改革(structural transformation)に不可欠であるという意見もあれば、腐敗を助長し非効率を助長する(abetting corruption and fostering inefficiency)という意見もある」。アーウィンは、何世代にもわたる新自由主義的な考え方に共鳴し、「定量的モデル(quantitative models)は、最適に設計された産業政策から得られる利益は小さく、変革をもたらす可能性は低いことを示唆している」と結論づけた。

しかし、ここ数年の新たな実証データは、数十年前からの東アジアの産業政策投資の多くが大きな成果を上げていることを示している。プリンストン大学のアーネスト・リューのような若い経済学者たちは、市場の歪みに関する新たな尺度がまさにそれを提供できることを示すことで、産業政策に対する古い偏見の一部の間違いを暴いていると主張している。古い偏見とは、「適切なセクターを支援対象にするために必要な信頼できる情報が不足している」というものだ。

バイデン政権は産業政策を全面的に採用しているが、産業政策と言う言葉の代わりに「産業戦略(industrial strategy)」という言葉を使っている。ギタ・ゴピナスIMF第一副専務理事が今月初めの講演で述べたように、IMFのアドヴァイスは「慎重に行動すること(to tread carefully)」である。歴史には、コストがかかるだけでなく、よりダイナミックで効率的な企業の出現を妨げたIP(産業政策)の例が数多くある。

産業政策の成功が、今日の世界で台湾ほど大きな役割を果たしているところはない。アメリカと中国が国家としての台湾の将来をめぐって争う中、台湾が地政学的にこれほどホットな問題になっている理由の一つは、世界のチップの60%以上を生産するという驚異的な世界一の半導体産業の存在である。1987年に設立された台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(Taiwan Semiconductor Manufacturing CompanyTSMC)は、最初の資金調達の少なくとも半分を政府から受け、その後数十年にわたって先進的なチップのトップメーカーとなった。韓国では、世界銀行が鉄鋼総合企業の設立は韓国の比較優位(comparative advantage)にないと助言したことがある。しかし、ポスコ(旧浦項製鉄、Pohang Iron and Steel Company)は「かなり早く、世界で最も効率的な製鉄所になった」とウェイドは述べている。

つまり、かつてタブー視されていた政府主導の産業補助金、半閉鎖市場(semi-closed markets)、台湾のような経済ナショナリズムが、各方面で受け入れられつつあると結論づけざるを得ない。これらの各要素を取り上げた、経済学者のレカ・ジュハシュ、ネイサン・レイン、ダニ・ロドリックの3人による論文「産業政策の新しい経済学(The New Economics of Industrial Policy)」は、主流派の『アニュアル・レヴュー・オブ・エコノミクス』誌から来年初めに出版される予定である。レインによれば、バイデンの経済諮問委員会の委員長であり、進歩的経済学者としてのキャリアの長いジャレド・バーンスタインは、共著者たちを今月末に同諮問委員会で講演するよう招待したということだ。

過去2年半で、バイデンは、国家経済会議前委員長ブライアン・ディーズが、主に「4つの基本法」を構成要素とする「現代アメリカの産業戦略(modern American industrial strategy)」と呼ぶ政策を策定した。4つの基本法とは、経済を瀬戸際からの回復させたアメリカ救済法、そして最近成立した超党派のインフラ協定、CHIPSと科学法、そしてインフレ抑制法(この法律の下でワシントンは低炭素技術に補助金を出し、自国製の技術的リーダーシップを優先している)である。

ディースに寄ればこれが意味するのは、政府は「個人の収益だけを考えている人々の個別の決定が主要分野で私たちを後追いすることを運命として受け入れる」のではなく、「それらの分野での長期的な戦略的投資を計画している」ということである。それは今後数十年間の、「我が国の経済成長の根幹を形成するものであり、我が国の生産能力を拡大する必要がある分野だ」とディースは述べている。初期段階では有望な成果がいくつかある。アメリカの製造業の雇用は2000年代初頭以来の最高水準に達し、ホワイトハウスは6月、バイデン政権下で製造業の新規雇用が80万人近く創出されたと自画自賛した。また、バイデンが大統領に就任して以降、民間部門は、製造業とクリーンエネルギーへの投資を4800億ドル以上行ったと発表した。

重要な要素は次の通りだ。政府がスタートから主導する高度な産業セクターの構築(building sophisticated industrial sectors with government seeding)、輸出志向(export orientation)、競争(competition)、受けた支援に対する説明責任(accountability for the support received)。この政策はまだ完全には明確になっていないが、バイデン政権はアジアの奇跡の成功の重要な原則のいくつかを模倣しようとしていると同時に、新自由主義の欠陥も認識しようとしている。

元世界銀行エコノミストのナンシー・バードソールは、教育、再訓練、その他の大規模な投資について言及し、次のように語った。「新自由主義が不平等を生み出すのであれば、政府が敗者に補償する必要がある。しかし、アメリカではそんなことは起こらなかった。政府は、過去20年間にアメリカに雇用が移動したチャイナ・ショックへの対処には及ばない、ある種の内容の薄い小さなプログラムを考案しただけだった」。

ピーターソン研究所所長のアダム・ポーゼンは、『フォーリン・ポリシー』誌に発表した最近の論稿において、産業政策は時には役立つものの、産業政策が採用する「ゼロサム」経済学は、「4つの大きな分析上の誤謬」に基づいて必ず裏目に出ると主張した。ポーゼンは「自己取引(self-dealing)は賢い方法である(訳者註:自己取引とは、弁護士、管財人、会社役員、その他の受託者が、取引においてその立場を利用し、信託の受益者、会社の株主、または顧客の利益ではなく、自分自身の利益のために行動すること)。自給自足(self-sufficiency)は達成可能だ。補助金(subsidies)は多ければ多いほど良いということ。そして重要なのは国内生産(local production )だ」と述べている。

ディースは、産業政策に対するこうした一般的な新自由主義的な反対意見に対処しようとしている。バイデン政権は勝者を選び出して、民間投資を締め出しているのではなく、むしろ、「公共投資を利用して、より多くの民間投資を呼び寄せ、企業の累積的な利益を確保しようとしている」と主張した。ディースは「この投資により国家収益が強化される」と述べている。これは、ディースが「文字通り民間投資の基礎を築く」交通インフラを意味する。政府資金による技術革新が行われ、また政府は全国の学校や大学における STEM 教育とトレーニングに投資している。ディースは、冷戦時代の栄光の時代を思い出しながら、バイデンは「ジョン・F・ケネディ大統領時代に人類を月に連れて行ったアポロ計画よりも多額の投資を技術革新に対して行っている」と述べている。

産業政策のもう1つの主要分野はクリーンエネルギーだとディースは語った。ディースは次のように語っている。「気候危機は市場の力だけでは対処できないことを私たちは知っている。私たちは、公的リーダーシップと投資が解決の鍵であることを知っている。それでも何十年もの間、我が国は傍観し続けてきた。しかし現在、我が国の産業戦略により、“民間部門による大規模な投資を奨励する”ために、クリーンエネルギーへの国家史上最大規模の投資を行っている」。

しかし、新しい政策スキームには依然として一貫性のない部分が残っている。バイデン大統領の計画におけるそのような分野の1つは、トランプ大統領が策定した関税の受け入れである。ハサノフのような経済学者たちは、競争を維持するために世界中に活発な輸出市場が存在する場合、東アジアモデルははるかにうまく機能すると述べている。

こうした矛盾は部分的には、「主流派が依然として、他の“良い”投資を締め出すという偽りの議論を考え出していることが原因」だとスティグリッツは述べている。「恥ずかしい話だ。アメリカは理性を失い、自分を抑えられなくなっている(all over the place)。共和党には、市場が中国と競争できないこと以外に、産業政策の役割について考えるための一貫した枠組みがない。民主党は、ジョー・マンチン連邦上院議員の政治的な動きのせいで、必要とされる一貫したアプローチを考えることができない。産業政策は私たちが議会を通じて得られるものの全てだ」とスティグリッツは述べた。

今日、皮肉なことに、日本はワシントンがそうしていない中で、自由貿易の旗を掲げる国の1つとなっている。トランプ政権時代、日本政府はトランプが離脱を決めた後の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の復活に貢献し、後継となる環太平洋パートナーシップに関する包括的かつ先進的な協定の再交渉にカナダなど他の加盟国と協力した。 2019年のインタヴューで、当時のカナダ国際貿易大臣ジェームズ・カーは、「ルールに基づいた多国間貿易システムと公正な貿易に対する日本の立場、態度、支持は模範的であり、非常に重要だった」と私に語った。今年、日本は多国間暫定控訴仲裁取り決めに参加することでWTOを救済しようと努めた。この取り決めは、加盟国間でWTO紛争を解決できるようにすることで、WTOの上級委員会に相当する多国間枠組みを作ろうとするものだ。

ヨーロッパ連合も産業政策を採用している。グリーンディール産業計画とネットゼロ産業法を策定している。これは、加盟国に対して、民間投資家たちを促して、IRAの下で利用可能な外国補助金と同等の補助金を提供するためのより大きな柔軟性を与えることで、バイデン政権のIRAを模倣している。また、ヨーロッパ委員会は最近、ヨーロッパ経済の様々な分野にわたる重要な原材料の特定とアクセスの確保を支援するために、ヨーロッパ重要原材料法を制定し、人工知能とデジタル技術における複数の取り組みを主導している。現在、躍進しているのは政策立案者たちであり、経済学者たちは後れを取っている。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本大攻勢:ワシントンの賢人たちはいかにしてアメリカの将来をウォール街に売り渡したか(Capital Offense: How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street)』と『自分たちとの戦争:なぜアメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか』の2冊の著作がある。ツイッターアカウント:@michaelphirsh

(貼り付け終わり)

(終わり)

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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 アメリカは高いインフレ率に見舞われ、その対処のために利上げを行っている。高校の現代社会、倫理政経の授業で行うような説明をすれば、利上げを行うことで、社会に出回っているお金が金融機関に預けられることになり、出回るお金が少なることで、物価が下がるということになる。しかし、物価が下がるというのは景気後退を伴う。アメリカは来年に景気後退ということになるかもしれない。アメリカで景気後退ということになれば、世界でも旺盛な需要のアメリカで需要が落ちるということになり、それが世界全体に影響を与えることになる。日本を含めてアメリカとの貿易関係が対外貿易に大きな割合を占めている国々にとってアメリカの景気減速はそのマイナスの影響を大きく受けるという懸念が出てくる。

 ジョー・バイデン政権の国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めるジェイク・サリヴァンは補佐官就任以前に複数の論稿で、「産業政策(industrial policy)」について書いている。産業政策とは国家が特定の産業を保護し育成するというものだ。産業政策と言えば、戦後日本がその成功例である。チャルマーズ・ジョンソン著『通産省と日本の奇跡: 産業政策の発展1925-1975』こそは産業政策をアメリカに知らせて、「日本の経済政策はこうなっているのか」ということをアメリカ政府に知らせた歴史的な書籍である。この本が出た時、通産省では「誰が日本にとって最も重要な秘密をアメリカに知らせるような行為に協力したのか」という犯人捜しのようなことが行われたという逸話が残っている。アメリカは自由市場、政府の介入を嫌うということを基本にしてきたが、それが変化しつつある。補助金などを通じて産業政策で中国と対抗すること、特に半導体分野での競争をもくろんでいる。政府補助金は自由貿易体制を侵害するものだという批判は当然出てくる。

 中国も生後日本の奇跡の経済成長を研究し、自国に政策に応用し、成功させている。中国は国内では自由市場体制を採用していないが、対外貿易では、自由貿易体制の恩恵を受けてきた。アメリカの内向きな政策、保護主義的な政策について「自由貿易体制を侵害する」として反対している。対外貿易の面で見れば、中国が自由貿易体制の擁護者という奇妙な状態になっている。そして、日本の産業政策から学んだであろう米中両国が産業政策を使って対決するという構図になっているのも何とも奇妙な形である。

(貼り付けはじめ)

バイデンの「アメリカ・ファースト」経済政策はヨーロッパとの間に溝を生む恐れがある(Biden’s ‘America First’ Economic Policy Threatens Rift With Europe

-ヨーロッパ諸国では、自動車、クリーンエネルギー、半導体に対するアメリカ政府による膨大な補助金供与が自国の経済にとって危険であると考えられている。

エドワード・アルデン筆

2022年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/12/05/biden-ira-chips-act-america-first-europe-eu-cars-ev-economic-policy/

ジョー・バイデン米国大統領の就任以降、2年近くの蜜月が続いたが、経済政策をめぐってワシントンとヨーロッパの同盟国の間に大きな亀裂が入りつつある。この対立をうまく処理しなければ、アメリカがヨーロッパやアジアの同盟諸国やパートナーと協力して中国やロシアの野心を抑えるというバイデン政権の新しい世界経済秩序の構想は競合する経済ブロックの世界へと堕落してしまうかもしれない。

数カ月の間、静かに続いていた対立は、先週ついに表に姿を現した。ヨーロッパ連合(EU)の域内市場委員であるティエリー・ブルトンは、今週メリーランド州で開かれる大西洋横断経済政策の重要な調整機関であるアメリカ・EU貿易技術評議会(U.S.-EU Trade and Technology Council)の会合から離脱することを発表した。「評議会の議題は、多くの欧州産業界の閣僚や企業が懸念している問題について十分な議論ができるものではなくなった」と述べ、電気自動車やクリーンエネルギーに対するアメリカの新たな補助金がヨーロッパの自動車メーカーやその他の企業に不利になっているというEUの苦情を指摘した。ブルトンは「欧州の産業基盤の競争力を維持することが急務であるという点に焦点を当てる」と述べた。

先週、新型コロナウイルス感染拡大後初めて開催されたホワイトハウスの公式晩餐会に出席するためワシントンを訪れたフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、米国の補助金は「アメリカ経済にとって非常に良いものだが、ヨーロッパ経済と適切に調整されていなかった」と述べた。訪問に先立ち、フランスのブルーノ・ル・メール経済・財務相は、アメリカが中国式の産業政策を追求していると非難した。

今回問題となった補助金は、今年初めにアメリカ連邦議会で可決された2つの巨大法案、インフレイション削減法(Inflation Reduction ActIRA)とCHIPS・科学法だ。前者は、アメリカでクリーンエネルギーをより早く導入するために3700億ドルもの補助金を提供するものだ。その中には、米国で電気自動車を購入した場合の税額控除も含まれているが、これはその電気自動車が北米で組み立てられ、その部品がアメリカまたはその他の「自由貿易パートナー諸国(free-trade partners)」で製造された場合に限られる。このような表現をすると、フォルクスワーゲンやBMWといったヨーロッパの自動車会社が打撃を受けることになるだろう。後者は、半導体メーカーがアメリカに高性能製造工場を新設に対して520億ドル支援するものだ。ヨーロッパ各国の指導者たちは、どちらの法律もアメリカ企業に不当な補助金を与え、ヨーロッパ大陸の競争力問題を悪化させ、アメリカや中国と費用のかかる補助金競争へとヨーロッパを追い込む可能性があると考えられている。

オランダ政府は先週、チップ製造装置の主要メーカーであるASMLASMインターナショナルに対して、中国との関係を断つよう求めるアメリカの圧力に公然と反撃した。アメリカは、高性能の半導体とチップ製造装置の中国への販売を阻止するため、徹底的なキャンペーンを展開しているが、日本やオランダのような同盟諸国を説得するには至っていない。オランダの経済大臣ミッキー・アドリアンセンスは『フィナンシャル・タイムズ』紙に対し、オランダは中国との関係について「非常に前向き」であり、中国への輸出規制については欧州とオランダが「独自の戦略を持つべき」であると述べた。

バイデン大統領とヨーロッパの指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許すわけにはいかないことを十分承知している。

分裂が拡大しているのは、ロシアのウクライナ戦争が一因である。アメリカとヨーロッパは対ロシア制裁とウクライナへの軍事支援で一致団結しているが、ヨーロッパはこの紛争ではるかに高い経済的代償を払っている。ヨーロッパ各国の天然ガス価格は米国の10倍程度に高騰し、ヨーロッパの産業界は大きな不利益を被っている。アメリカは、ヨーロッパがロシアのガスの損失を液化天然ガス(liquefied natural gasLNG)の輸出で埋めるのを助けているが、それは現在高騰している市場価格で販売されている。在ワシントン・フランス大使のフィリップ・エチエンヌは、『フォーリン・ポリシー』誌の取材に対して、「アメリカがヨーロッパに液化天然ガスを提供してくれるのはありがたいが、価格については問題がある」と述べた。

より長期的に見れば、バイデン政権の産業政策(industrial policies)の相反する目標が争点の中心になる。一方では、アメリカは、将来の産業にとって重要な技術や投入物を供給する中国の役割を減らし、強固なサプライチェインを構築することを望んでいる。そのためには、無駄な重複を防ぎ、供給の弾力性を高めるために、同盟諸国との密接な協力、つまり、政権が「友人たちとの共有(フレンドシャアリング、friendshoring)」と呼んでいるものが必要である。一方、中国との競争もあって製造業が失われたことは、アメリカの安全保障を弱め、経済に悪影響を与えたと考え、アメリカの製造業の復活を切望している。また、ミシガン州、ペンシルヴァニア州、ウィスコンシン州などの各州では、製造業の雇用喪失が民主党への支持を低下させた。アメリカの新たな措置はいずれも、企業がヨーロッパや他の緊密なパートナー諸国ではなく、アメリカに投資することを有利にするものだ。

バイデン政権の商務長官であるジーナ・ライモンドは、自分の父親はロードアイランド州にあるブローヴァの時計工場で28年間勤めていたが、同社が生産を中国に移したことで失業したと先週マサチューセッツ工科大学で行ったスピーチで述べた。ライモンドは「これからは、未来の技術をアメリカで発明するだけでなく、その製造もアメリカで行うようにすべきだ」と述べた。このような考え方は、アメリカの同盟諸国やパートナー国にとって都合の悪いものだ。それは、アメリカがこれらの国々に対して新たな規制を受け入れるよう主張し、多国籍企業が安価なエネルギーと寛大な補助金を利用するためにアメリカに移転したり生産を拡大したりすることで、中国市場を失うという可能性に直面することになるからだ。

このような懸念を抱いているのはヨーロッパだけではない。世界貿易機関(World Trade OrganizationWTO)のンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長は、無差別規範(貿易相手国が平等に扱われるという条件)を保護しようとしている。イウェアラは、バイデン政権が提示する二者択一を受け入れる国はほとんどないと主張する。「多くの国は2つのブロックのどちらかを選ぶことを望んでいない」と彼女はオーストラリアのロウリー研究所でのスピーチで述べた。このような選択を強いることは、アメリカ、中国、その他の国々が協力せざるを得ない問題での進展を損なう恐れがある。彼女は、「弾力性と安全保障の構築を目的とした政策による分断(デカップリング)は、結局は自己目的化してしまい、気候変動、新型コロナウイルス感染拡大、政府債務危機などの集団的課題に対する協力に悪影響を及ぼす可能性がある」と警告した。

バイデンは、マクロンとの公式晩餐会に先立って、ヨーロッパ各国の懸念を認識し、それを改善しようとする意思を示す言葉を発している。バイデンは、米仏両首脳が「私たちのアプローチを調整し、連携させるための実際的な手段を議論することに合意した。大西洋の両側で製造と革新が強化されるようにした」と述べた。マクロンは、「両首脳は、私たちのアプローチを再び同調して進めることに合意した」と繰り返した。バイデンは「私たちは、存在するいくつかの違いを解決することができる。私はそれを確信している」と述べた。

しかし、その詳細は簡単に解決できるものではないだろう。バイデンは、上記の法律には修正すべき「不具合」があることを率直に認めた。しかし、例えば、自由貿易パートナーが生産する商品への補助金の拡大に関するインフレイション削減法の文言を拡張して、EUを含めることができるかどうかは不明だ。また、議会や政権、鉄鋼や太陽光発電などの業界には、アメリカは製造業の復活が遅れていると考え、この法案の「アメリカ第一」原理にこだわる人々が多い。彼らは、この法律の過度に寛大な解釈に反発するだろう。

バイデン大統領とヨーロッパ各国の指導者たちは、大西洋を横断する根本的な亀裂を許す訳にはいかないことを十分承知している。冷戦の最盛期以降で、ロシアと中国の二重の脅威が、アメリカとヨーロッパに、エアバス社とボーイング社への補助金をめぐる長い論争のように、ストレスの少ない時代には何年もくすぶっていたかもしれない経済問題を協力し解決することを迫っているのである。

この大きな賭けは、両者が解決策を見出すことを示唆している。マクロン大統領は「この状況下では、私たちは協力する以外に選択肢はないのだ」と述べた。

※エドワード・アルデン:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト、ウエスタン・ワシントン大学非常勤教授。外交評議会上級研究員。著書に『調整の失敗:アメリカは如何にして世界経済を置き去りにするのか(Failure to Adjust: How Americans Got Left Behind in the Global Economy)』がある。ツイッターアカウント:@edwardalden

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世界各国がインフレイションを下げようと躍起になっている中で世界規模での景気後退に起きると国連が警告(UN warns of a global recession as countries race to lower inflation

トバイアス・バーンズ筆

2022年10月4日

『ザ・ヒル』誌

https://thehill.com/policy/3673894-un-warns-of-a-global-recession-as-countries-race-to-lower-inflation/

国連は、アメリカやヨーロッパなどの先進諸国の規制当局が高騰するインフレイションを抑えようとする中、月曜日に世界的な景気後退の発生を警告した。

国連は、アメリカ連邦準備制度(U.S. Federal Reserve)をはじめとする中央銀行に対し、「軌道修正し、これまで以上に高い金利に頼ることで物価を下げようとする誘惑を避けるように」と呼びかけた。

アメリカ連邦準備制度は、新型コロナウイルスの感染拡大による世界的な経済活動停止を受けて、景気が減速し、40年ぶりの高水準にあるインフレイション率を下げようと、金利を引き上げている。3月以降、金利は0%前後から3から3.25%へと上昇している。

しかし、国連の主要な経済関連団体をはじめに、世界各国の金融当局の姿勢を見直すことを求める声が高まっている。彼らは、インフレイション目標を下げることは、継続的な金利引き上げの痛みに見合わないと主張している。アメリカ連邦準備制度の中央値予想によれば、来年の金利は4.6%に達すると見られている。

国連貿易開発会議U.N. Conference on Trade and DevelopmentUNCTAD)は月曜日に発表した報告書の中で、中央銀行に対し、今後の景気後退は「政策によるもの(policy-induced)」であり「政治的意思(political will)」の問題であるとし、軌道修正するよう促した。

国連貿易開発会議のグローバライゼイション部門の部長であるリチャード・コズル・ライトは声明の中で、「政策立案者たちが直面している本当の問題は、あまりにも多くのお金があまりにも少ない商品を追いかけることによるインフレイション危機ではない。あまりにも多くの企業が高すぎる株式配当を支払い、あまりにも多くの人々が給料日から給料日までの間の生活に苦労し、あまりにも多くの政府が債券支払いから債券支払いまで何とか生き残っているという、分配に関する危機的状況である」と述べている。

月曜日の国連貿易開発会議報告書は、世界経済における最後の高インフレイション期との比較を軽んじ、今日の経済状況は1970年代とは本質的に異なり、両者の間に類似点を見出すことは「過ぎ去った時代の経済の内臓を調べ上げること」に等しいと述べている。

具体的には、賃金上昇が物価上昇をもたらし、その逆もまた同じだ(物価上昇が賃金上昇をもたらす)という賃金価格スパイラルは、今日の世界の価格ダイナミクスにとって重要な力ではないとしている。

UNCTADの報告書は、「1970年代を特徴付けた賃金価格スパイラルが存在しないにもかかわらず、政策立案者たちは、ポール・ヴォルカーが率いていたアメリカ連邦準備制度が追求したのと同じ規模ではないにしても、短期間の鋭い金融ショックが、不況を引き起こすことなくインフレ期待を固定するのに十分であると期待しているようだ」と述べている。

同時に報告書は次のように書いている。「しかし、多くの国で起きている深い構造的・行動的変化、特に金融化、市場集中、労働者の交渉力に関する変化を考えると、過ぎ去った時代の経済的内臓をふるいにかけても、ソフトランディングに必要なフォワードガイダンス(forward guidance 訳者註:中央銀行が将来の金融政策の方針を前もって表明すること)は得られそうにない」。

アメリカ国内のコメンテーターたちの中にも、40年前にインフレイションを引き起こした賃金と物価のスパイラルを軽視し、今日の経済のグローバライゼイションを強調し、同様の見解を示す人たちがいる。

ウエストウッドキャピタルの経営パートナーであるダン・アルパートはインタヴューで次のように語った。「インフレが賃金価格スパイラルを引き起こすと考えるギリシャの大合唱がある。しかし、それは供給サイドを無視しており、賃金価格スパイラルが発生した1970年代と今日の供給状況の大きな違いを無視している。今日、私たちは膨大な量の外生的な供給と商品、つまり世界中から商品がやってくるのだ」。

米連邦準備制度は7月の会合議事録で、「賃金価格スパイラルの欠如」と指摘し、国内経済では賃金上昇と物価上昇の相互強化が作用していないことを認めている。

しかし、ジェローム・パウエルFRB議長は、講演や公的な発言でこの2つの概念をしばしば結びつけている。9月の記者会見では、FRBの金利設定委員会の委員たちが「労働市場の需要と供給が時間の経過とともに均衡し、賃金と物価に対する上昇圧力が緩和されることを期待する」と述べた。

パウエル議長は、「アメリカ人は利上げによる経済的痛みを感じるための準備をいつまで続けるべきか?」と質問され、「いつまでか? それは、賃金に影響を与え、それ以上に物価に影響を与えるまでだ。インフレが下がるのにどれだけ時間がかかるかによる」と答えた。

より大きく言えば、パウエル議長は、景気後退や経済減速の痛みは2つの悪のうち小さい方で、大きい悪は米国の消費者にとって常に物価が上昇することだと主張している。

パウエルは8月に「金利の上昇、経済成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させるが、家計や企業には痛みをもたらす。これらはインフレを抑えるための不幸なコストだ。しかし、物価の安定を回復できなければ、はるかに大きな痛みを意味する」と述べている。

共和党はインフレに対してタカ派的なスタンスをとっており、賃金価格スパイラルは景気後退に直面しているアメリカ経済にとって依然としてリスクであると主張している。

連邦下院歳入委員会の共和党側幹部委員ケヴィン・ブレイディ連邦議員(テキサス州選出、共和党)は月曜日にCNBCのテレビ番組に出演し、「確かに、賃金スパイラルはかなり危険だ。どの国もそうでありたいとは思わないが、私たちは深くその中にいる。私たちは伝統的な定義のスタグフレイションの状態にある」と語った。

ブレイディ議員は「私が懸念しているのは、FRBがインフレを減速させるために必要な失業率を知っているかどうかということだ。つまり、インフレ減速を達成するために経済成長をどの程度減速させるべきか、彼らが知っていると私には思えない。私は、彼らがここで手探り状態になっていることを心配している」と述べた。

インフレがもたらすリスクについては違いがあるものの、共和党所属の政治家たちや国連のエコノミストの中には、過去10年間の超緩和的な金融政策は行き過ぎだったという意見を一致して述べる人たちがいる。

パット・トゥーミー連邦上院議員(ペンシルヴァニア州選出、共和党)はインタヴューの中で、「私たちはあまりにも長い間非常に金融緩和政策を採用していたので、資産価格は高騰し、少しやり過ぎということになった。そして今、金利を正常化しているので、風をいくらか弱める傾向にある」と述べた。

国連のエコノミストたちも、月曜日の報告書とともに発表された声明の中で、ほぼ同じことを述べている。

UNCTADは「超低金利の10年間で、中央銀行は一貫してインフレ目標を下回り、より健全な経済成長を生み出すことができなかった」と書いている。

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