古村治彦です。
2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
アメリカはインドネシアとより緊密な関係を築くべきだ。これが下に掲載した論稿の筆者の主張だ。そのためには、二国間の自由貿易協定から始めることができる。インドネシアはこれまでに何度も紹介したが、電気自動車のバッテリーの原材料であるニッケルの産出で世界をリードしている。精製されたニッケルの輸出を行っている。アメリカは、電気自動車の分野で中国と競争しているが、インドネシアとの関係を軽視している。一方で、中国は既にインドネシアに多額の投資を行っている。
アメリカの電気自動車メーカーであるテスラを率いるイーロン・マスクが先月中旬、インドネシアを訪問した。イーロン・マスクが展開している衛星通信サーヴィスであるスターリンクのインドネシアでの運用を行うための訪問であったが、訪問の目的はそれだけではないだろう。バッテリー工場の建設など、電気自動車に関することも話し合われたことだろう。イーロン・マスクは中国を訪問して、中国最高指導部層と緊密な関係を築くなど、独自の動きをしている。彼にはインドネシアの重要性が分かっている。
インドネシアは、中国一辺倒でもなく、アメリカ一辺倒でもない。全方位外交とも言うべき方針で、実力を貯めて、21世紀中の大国化を目指している。東南アジア地域の地域大国となっているが、ブリックスでの地位向上、G20での地位向上を通じて、世界政治での大国の立場を獲得することになるだろう。アメリカとしては、中国包囲網の重要なピースとして考えているようだが、20世紀のように、アメリカが一声かければ、誰でもついていくという時代ではない。インドネシアは、グローバルサウスに属しながら、西側諸国ともうまく付き合っていく。力関係が大きく変化していく中で、賢い選択を行っている。
アメリカが中国包囲網にインドネシアを組み込むためには、それ相応の見返りが必要であるが、アメリカにインドネシアが満足するだけの見返りを与えるほどの力はないし、インドネシアは既に施しをもらって喜ぶ段階にはない。世界は大きく変化している。
(貼り付けはじめ)
インドネシアはアメリカのインド太平洋戦略にとって欠けている部分だ(Indonesia
is the missing piece in America’s Indo-Pacific strategy)
フィリップ・シェトラー=ジョーンズ筆
2024年6月9日
『ザ・ヒル』誌
週末にシンガポールで開催されたシャングリラ対話年次総会(annual
Shangri-La Dialogue)の結果から判断すると、中国がインド太平洋地域で覇権を獲得するのを阻止する、アメリカの戦略は前進している。
アメリカの支持が確実視される中、基調講演者であるフィリピン大統領フェルディナンド・“ボンボン”・マルコスは、「フィリピンは中国からの圧力に屈しない」と宣言した。アメリカ、日本、韓国の三国間の防衛協力を深めるための新たな取り組みが発表された。インド太平洋地域における不用意なエスカレーションを防ぐため、米中軍事対話は2年間の中断を経てトップレヴェルで再開された。
しかし、満足する余地はほとんどない。アメリカのインド太平洋政策には、依然として矛盾が多すぎる。これらの矛盾を未解決のまま放置すると、時間の経過とともに、同盟諸国を中立的な方向へ、現在および潜在的なパートナーを更に悪い方向へと押しやる可能性がある。このリスクはインドネシアに関して最も顕著だ。
西側諸国の間で、インドネシアの重要性を理解し、研究している人がほとんどいないことを理解するには、今年初めにインドネシアの現国防大臣であるプラヴウォ・スビアントが9600万票を超える票を獲得して、インドネシアの大統領選挙に勝利したことを考えてみよう。
この選挙結果だけでも、世界第2位と第3位の民主政体国家間の密接な関係を示す理由になるはずだ。特に、中国が西側型の民主政治体制が中国の経済発展への道とは相容れないことをグローバルサウスに説得しようと努めている場合にはそうだ。
それでも、単に選挙を実施するだけでは、その国はアメリカの同盟国にはなれない。しかし、国際ルールに基づく秩序に関しては、インドネシアはまったく警戒していない。ジョコ・ウィドド現大統領が2023年11月にジョー・バイデン米大統領と会談した際、共同声明はロシアに対しウクライナ領土からの完全撤退を求めた。
しかし、プラヴウォはシャングリラでの演説の中で、ガザ紛争に対するインドネシアの立場は、同じ国際秩序の遵守を前提としていると述べた。プラヴウォは、多くのグローバルサウス諸国の間で幻滅が高まっていることを警告し、インドネシアの外交政策の原理原則は、アジアにおけるルールに基づく秩序の強化ということである、と述べた。これは、アメリカの利益に有利に働いているという、見落とされているが重要な真実をほのめかしたことである。
インドネシアを揺るぎないパートナーにするためには、インドネシア人が大切にしているものについてもっと譲歩する必要がある。民主党も共和党もこれを優先する必要がある。人口約3億人のイスラム教徒が多数を占めるこの国は、2050年までに世界第4位の経済大国になると予測されている。東南アジアにおける影響力をめぐる地政学的競争において、インドネシアは究極のアメリカの帰趨を決める国家(swing state)である。
より良い連携を図るために、アメリカは貿易から始めるべきだ。残念ながら、この政策分野におけるバイデン政権のアプローチは、インドネシアを疎外させ、アメリカの主な競争相手との関係を緊密化させる危険性がある。そして、バイデン大統領のインフレ抑制法(Inflation Reduction Act、IRA)が最大の妨害要因(spoiler)である。
インフレ抑制法は、重要な鉱物がアメリカまたは自由貿易協定(free trade
agreement、FTA)を結んでいる国から供給される場合、アメリカの製造業者に税額控除を認めている。しかし、こうした贅沢な補助金が共謀して、インドネシアのような国をサプライチェーンから締め出している。インドネシアは回避策として重要な鉱物のみを対象とする限定的なFTAを提案している。しかし、完全に否定されていないものの、アメリカ政府の鈍行状態にある。
これは自分の足を2回撃つ事件のようなものだ。これはG20諸国に、その重要な鉱物産出量に飢えている他の国々との経済連携を深めるよう促すだけでなく、アメリカが自国の電気自動車(EV)産業を創設するために必要な主要なサプライチェーンから切り離すことにもなる。 EVにはニッケルが必要で、インドネシアには世界最大の埋蔵量がある。2030年までに世界の供給量の65%を占めるようになり、ヴァリューチェーンの上位への移行を支援するパートナーを探している。アメリカはこの機会を捉えるべきだ。その後、加工済みの原材料をインドネシアから調達し、アメリカの消費者が米国製のEVを購入できるようにする。それが中国の言うところの「ウィンウィン(win-win)」だ。
第二に、アメリカはインドネシアとの防衛関係にもっと努力しなければならない。中国は、日本、フィリピン、ヴェトナム、マレーシアとの領土紛争に関して、国際法に何の根拠もなく組織的に一方的な主張を行っている。南シナ海のインドネシアのナトゥナ諸島に狙いを定めるのも時間の問題だ。
インド太平洋におけるインドネシアの重要な位置を考慮すると、アメリカは海洋安全保障協力に関する二国間作業計画への投資を強化すべきである。これは、領土の隅々まで、そして国際法によって認められた海洋経済的権利のあらゆる側面を保護するための、列島国家の海洋安全保障能力を囲い込むことになるだろう。アメリカのインド太平洋戦略の観点から見ると、より有能なインドネシアは、マラッカの要所をより強固に守り、オーストラリアの上空を守る盾となる。プラヴウォが2023年11月にロイド・オースティン米国防長官と署名した防衛協力協定を完全に履行するには一刻の猶予もない。
インドネシアは、アメリカの政策がインド太平洋における優先事項と交差する目的でどのように機能するかを例示している。世界秩序と経済が崩壊する中、重要な同盟を維持し発展させるために、政府の全ての部門が同じ方向に取り組む必要がある。アメリカは、世界で2番目に大きい民主政体国家であるインドネシアを経済的に受け入れることから始めることができる。
※フィリップ・シェトラー=ジョーンズ:世界で最古の、イギリスにある国防と安全保障専門のシンクタンクである英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute、RUSI)国際安全保障担当上級研究員(博士)。最近の研究テーマはインド太平洋地域安全保障である。
(貼り付け終わり)
(終わり)
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