古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:アメリカ

 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 20世紀は「アメリカの世紀」と言ってよいだろう。アメリカが世界の中心となって、覇権国となって、世界の政治や経済を動かしてきた。その中心的な考えとなったのは、リベラル国際主義(liberal internationalism)であった。これは第二次世界大戦前までのアイソレイショニズムを放棄して、戦争終結後もアメリカが世界の安定に寄与するために、世界各国と同盟関係を結び、戦後世界秩序を構築した。しかし、ドナルド・トランプ大統領の出現によって、アメリカの外交政策は大きく変化している。リベラル国際主義は戦後の長い間、つまり、アメリカの世紀においては主流となる考え方だったが、トランプが二期目の政権に就くことで大きく変化している。リベラル国際主義への懐疑論は政治的な立場を超えて広がりを見せている。

アメリカの国際的な役割が問われる中、トランプ大統領のもとでの政策の一貫した批判や不安が高まっている。下記論稿では、その背景に、過去の戦争や秘密作戦による国民の信頼の損失があることも指摘されている。戦後世界秩序を守るためには、常に継続的な努力が求められてきたが、トランプ政権の下で、その基盤が特に急速に揺らいでいる現実が浮き彫りになっていると下記論稿では指摘されている。

 戦後世界におけるアメリカの役割が大きかったことを否定する人は少ないだろう。しかし、その負の側面もまた指摘しなければならない。そして、アメリカの国力が低下する中で、アメリカの役割が変化することは自然な流れである。アメリカ国民が内向きになることは自然なことだ。トランプ大統領は、アメリカの国家としての生命力とアメリカ国民の内向き意識を汲み取り、外交政策を大きく転換しようとしている。それは混乱や不信感を生み出しているが、大きくとらえるならば、時代が変化する中で、新しい時代を生み出すための「陣痛」と言えるかもしれない。

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第二次世界大戦後の体制は常に脆弱だった(The Post-World War II System Was Always Fragile

-フランクリン・D・ルーズヴェルトは平和な時期においてもアメリカの世界に対する義務は継続すると警告を発した。

ジュリアン・E・ゼリザー筆

2025年5月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/05/12/post-world-war-two-international-system-fragile/

第二次世界大戦が終結してから80年が経過した。第二次世界大戦の終結という歴史的な瞬間は、祝賀ムードと高揚感、そして人類全体の安堵をもたらした。壊滅的な戦争はついに終結し、ファシズムは敗北したかに見えた。アメリカの当時の雰囲気を最もよく表しているのは、1945年8月14日、日本降伏のニューズが報じられた後、ニューヨーク市のタイムズスクエアでアメリカ海軍の水兵が女性にキスをしているという象徴的な写真だろう。

しかし、アメリカ人が国際的な脅威がまだ終わっていないことに気づくのに、それほど時間はかからなかった。第二次世界大戦後、ソ連とアメリカ合衆国の間に、冷戦が急速に広がった。核兵器の出現により、全面衝突(full-scale confrontation )を回避することのリスクは劇的に高まった。

これに対し、ハリー・S・トルーマン大統領(民主党)とドワイト・D・アイゼンハワー大統領(共和党)は、リベラル国際主義(liberal internationalism)のヴィジョンを推進した。2人の大統領は連邦議会と協力し、2025年まで存続する一連の制度と政策を構築した。この戦後秩序は、人類が想像しうる最悪の軍事紛争(the worst military conflict)を阻止し、ヨーロッパに一定の安定をもたらした。これはアメリカの国家安全保障と経済力にとって不可欠であることが証明された。

今日、第二次世界大戦後のシステム全体が深刻な脅威に晒されている。ドナルド・トランプ大統領は、トルーマン大統領とアイゼンハワー大統領が築き上げたものに、組織的な攻撃を開始した。アメリカ政治の多くの要素と同様に、トランプ大統領は長年の前提の脆弱性(fragility)を露呈させた。アメリカ大統領による正面攻撃を受けたことで、外交政策の根幹は崩れ始めた。

トランプ大統領はわずか数カ月で主要な国際関係を深刻に緊張させ、あるいは断絶させ、カナダの敵意さえ招いた。イーロン・マスクは米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSID)にチェーンソーを振りかざした。トランプ大統領はNATOについて辛辣な批判を繰り返し、同盟への関与の維持に懸念を表明する一方で、ロシアやハンガリーといった独裁国家(autocratic countries)を称賛している。トランプはテレビでウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領を侮辱し、ロシアとの戦争におけるウクライナへのアメリカの支援期限が迫っていることを明らかにした。

トランプ大統領は1940年代後半に確立された国家安全保障機構の多くを空洞化させてしまった。ヘンリー・キッシンジャーが1973年と1975年にリチャード・ニクソン大統領とジェラルド・フォード大統領の下で国家安全保障問題担当大統領補佐官と国務長官を務めていた当時、政府機関において1人の人物が絶大な影響力を持つと考えられていた。今月初め、マルコ・ルビオが2つの職を兼任する史上二人目の人物となった際、専門家のほとんどは、ルビオの役割は大統領の望むことを何でも承認することだと合理的に推測した。

第二次世界大戦終結以前から、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領は、アメリカの世界に対する義務は継続すると警告していた。1945年1月の最後の就任演説で、ルーズヴェルトは次のように述べた。「私たちは、恐ろしい代償を払って教訓を学び、そこから利益を得るだろう。私たちは、平和に1人で生きることはできないこと、私たち自身の幸福は遠く離れた他国の幸福にかかっていることを学んだ。私たちは、ダチョウのようにも、飼い葉桶の中の犬のようにもならず、人間として生きなければならないことを学んだ。私たちは、世界市民(citizens of the world)、人類社会のメンバー(members of the human community)となることを学んだ。エマーソンが述べたように、『友人を持つ唯一の方法は、友人になることだ(The only way to have a friend is to be one)』という単純な真実を学んだ。猜疑心や不信感を抱いたり、恐怖心を抱いたりして平和に近づいても、永続的な平和を得ることはできない」。

1945年以来、このヴィジョンはあらゆる困難と挫折に直面してきたが、観察者の多くは、その基本的前提は維持されていると考えていた。ネオ・アイソレイショニズムは終焉を迎えたとみなされ、リベラル国際主義が主流となった。トランプ政権の最初の任期後も、その基盤は生き残ったように見えた。

しかし、トランプが二期目に、数十年にわたりアメリカの外交政策を導いてきた国際システムを解体しようとしている今、その基盤の弱さ(the foundation’s weakness)が際立ってきている。

歴史的に見れば、リスクは常に存在していた。国家安全保障体制が構築され始めた初期の頃、リベラル国際主義者たちは、永続的な国際的関与を主張し、激しい抵抗に直面した。国防総省、国家安全保障会議、中央情報局を創設した1947年の国家安全保障法をめぐる連邦議会審議の際、推進派は「兵営国家(garrison state)」がアメリカが反対すると主張する全体主義そのものを助長するのではないかという懸念を克服しなければならなかった。

歴史家マイケル・ホーガンの著書『鉄の十字架(A Cross of Iron)』は、その抵抗の根深さを詳細に描いている。トルーマンの公約に反対したオハイオ州選出のロバート・タフト連邦上院議員のような保守派共和党員、ソ連との不必要なエスカレーションを懸念したヘンリー・ウォレス副大統領のような進歩主義派、そして連邦政府資金による研究の制約を懸念する大学の科学者たちなど、抵抗の根深さが見て取れる。1945年から1953年の間、トルーマンは中道(middle path)、すなわち新たな制度を制限し、文民の国防長官を軍事担当に任命するなど、安全保障措置を講じる道を模索した。連邦議会は、元将軍または元海軍提督が連邦議会の許可なしに任命される資格を得るには最低10年の勤務期間が必要であると定めた。

トルーマン大統領は、恒久的な戦時体制は予算を膨れ上がらせるという財政保守派の懸念を払拭するため、国内政策の予算削減も受け入れた。トルーマン大統領は、自らが望んでいたより野心的な国民皆兵訓練(universal military trainingUMT)プログラムではなく、戦時における兵員補充のための平時における選抜徴兵制度(Selective Service System)を採用した。国民皆兵訓練は、18歳になると全ての男性に軍事訓練を受けることを義務付けるものだった。アメリカ社会主義労働党から全米教育協会に至るまで、幅広い反対派連合が国民皆兵訓練を建国の理念に反するとして攻撃していた。

北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty OrganizationNATO)に対する懸念も長年続いていた。連邦上院におけるNATOに関する議論の最中、タフト連邦上院議員は次のように宣言した。「非常に遺憾ではあるが、北大西洋条約の批准に賛成票を投じることはできないという結論に至った。なぜなら、この条約には、我が国の費用で西ヨーロッパ諸国の軍備増強を支援する義務が伴うと考えるからだ。この義務は、世界における平和ではなく戦争を促進するものだと私は考えるからだ(with that obligation I believe it will promote war in the world rather than peace)」。

NATO設立に貢献した軍事指導者のアイゼンハワーでさえ、ヨーロッパの同盟諸国に対し、より多くの責任を負うべきだと考え、非公式に不満を表明した。NATOへの批判は、1990年代初頭の冷戦終結後、ますます強まった。ソ連の脅威が後退するにつれ、アメリカの外交政策を他国の利益に縛り付ける根拠を疑問視する声が高まった。

NATOの拡大はロシアを不必要に刺激するのではないかと懸念する人たちもいた。1997年、軍備管理協会(Arms Control Association)は当時のビル・クリントン大統領に対し、「最近のヘルシンキ・サミットとパリ・サミットの焦点となっている、アメリカ主導のNATO拡大への取り組みは、歴史的な規模の政策的誤りである。NATOの拡大は同盟諸国の安全保障を低下させ、ヨーロッパの安定を揺るがすと私たちは考えている」と警告した。

国連もまた、長らくNATOの標的となってきた。1964年、共和党の大統領候補だったバリー・ゴールドウォーター連邦上院議員は、国連は無力だと批判した。ジョン・バーチ協会(the John Birch Society)は1960年代、アメリカの脱退を求めるキャンペーンを展開した。1984年、ロナルド・レーガン大統領は、ユネスコの腐敗と反西側偏向を非難し、アメリカを脱退させた。 2000年の改革党大会で、パット・ブキャナンは当時の国連事務総長コフィ・アナンに言及し、「コフィ氏よ、失礼ながら年末までに出て行かなければ、荷造りを手伝うために数千人の米海兵隊員を派遣する」と述べ、アメリカからの国連の立ち退きを求めた。

リベラル国際主義への懐疑論は、右派に限ったことではない。ジョンソン首相がヴェトナム戦争をエスカレートさせると、多くのリベラル派や進歩主義者は外交政策のコンセンサスに反旗を翻した。この戦争は、デイヴィッド・ハルバースタムの言葉を借りれば、「ベスト・アンド・ブライティスト」の信用を失墜させ、アメリカの指導者たちが帝国ではなく民主政治体制の名の下に(in the name of democracy rather than empire)真に行動しているという信頼を揺るがした。学生運動家や連邦議会の支持者たちは、アイゼンハワー大統領が退任演説で「軍産複合体(military-industrial complex)」と呼んだもの、つまり請負業者、連邦議員、国防当局者による不道徳な同盟が、予算の肥大化と戦略の逸脱を生み出していると非難した。

1973年の徴兵制度の廃止は、ほとんど抗議されることなく可決された。そして、1975年から1976年にかけて、フランク・チャーチ連邦上院議員率いる委員会がCIAFBIによる国内監視や無許可の暗殺を含む秘密作戦を暴露すると、国民の信頼は地に落ちた。最終報告書は次のように結論づけている。「諜報機関は国民の憲法上の権利を侵害してきた。その主な理由は、憲法の起草者が説明責任を果たす(assure accountability)ために設計した抑制と均衡の仕組みが適用されていないためだ」。

政府機関の指導者たちは信頼回復に努めたものの、依然として脆弱な状態が続いていた。911事件以降、監視と拷問(surveillance and torture)に関する暴露は国民の信頼をさらに損なわせた。2004年、CBSのダン・ラザー記者は、黒いマントとフードをかぶった囚人が機械に指を繋がれた状態で小さな段ボール箱の上に立たされている映像が放映された際、厳粛な声で「アメリカ人はイラク人囚人にこのようなことをした(Americans did this to an Iraqi prisoner)」と述べた。ラザー記者によると、囚人は小さな箱から落ちれば感電すると告げられたという。イラクにおける連合軍作戦担当副部長マーク・キミットは「兵士たちを常に誇りに思える日ばかりではない(Some days we’re not always proud of our soldiers)」と認めた。アブグレイブ収容所での暴露が例外的な事態ではなく、政府の戦略の一部であることが明らかになると国民の怒りはより高まった。

共和党の大統領と同様に、民主党も同盟諸国の対応が不十分だと攻撃してきた。熱心な国際主義者だった当時のバラク・オバマ大統領は、2016年に『アトランティック』誌のジェフリー・ゴールドバーグに対し、「フリーライダーは私を苛立たせる()free riders aggravate me」と語った。

厳しい真実は、戦後の国際秩序が確固たる政治的基盤の上に築かれたことは決してなかったということだ。抵抗は当初から存在していた。トルーマンとアイゼンハワーが築き上げたものを守るには、常に継続的な努力が必要だった。批判は、時にはシステムの中核原則(core principles)に向けられ、また時には、破滅的な政策や制度の濫用に端を発した。いずれにせよ、トランプがアメリカの統治の柱であるこの秩序を標的にしたとき、多くの外交政策のヴェテランが予想していたよりも急速に崩壊し始めた。

リベラル国際主義の欠点を明確に理解していたとしても、その貢献については否定することはできない。第二次世界大戦後に生まれた同盟(alliances)、制度(institutions)、そして、関与(commitments)は、核による惨事を防ぎ、世界情勢を安定させ、アメリカの経済力を支え、国家危機の際には経験豊富な助言を提供してきた。

戦後システムの支持者たちは今、途方もない闘いに直面している。反対の声は声高であるだけでなく、深く根付いている。彼らが自分たちのヴィジョンを守り、正当な批判に率直に反応できない限り、彼らが生涯をかけて守ってきた世界秩序が崩壊し、アメリカ・ファーストの深淵に取って代わられるのを、彼らはすぐに目撃することになるかもしれない。

※ジュリアン・E・ゼリザー:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。プリンストン大学歴史学・公共問題教授。独自の視点のニューズレター「ザ・ロング・ヴュー」の著者。Xアカウント:@julianzelizer

(貼り付け終わり)

(終わり)
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『トランプの電撃作戦』
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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 アメリカの外交政策に関する考えについては大きな分類、グループ分け、潮流が存在する。私は、人道的介入主義派・ネオコン対リアリズムの対立があると分類している。これは、「世界各国に介入して各国の体制を変革する」ことを目指す介入主義(Interventionism)と「アメリカのパワーを国益のために使うことを最優先し、外国に介入することには抑制的であるべきだ」と考えるリアリズムの対立である。

 以下の論稿では、昨年の大統領選挙の共和党の立候補者たち(当時は民主党はジョー・バイデン前大統領が現職で2期目を目指すということで民主党には有力候補者はいなかった。栄枯盛衰、会者定離)と歴代の大統領たちの外交政策に関する考えを6つに分類して紹介している。大きくは、「国際主義者(internationalists)」対「非国際主義者(non-internationalirs)」の2つである。国際主義者はアメリカの影響力を行使し、世界に積極的に関わると考えるグループで、非国際主義者は世界に関わるのは抑制的であるべきだと考える。国際主義者の中には、(1)一極主義的国際主義者(Unilateral Internationalists)、(2)民主政体志向国際主義者(Democratic Internationalists)、(3)リアリスト国際主義者(Realist Internationalists)、多極主義的国際主義者(Multilateral Internationalists)の4つのグループがあり、非国際主義者には、(5)後退者(Retractors)と(6)抑制主義者(Restrainers)の2つのグループがある。

(1)の一極主義的国際主義者は、「アメリカの優位性と行動の自由が最も重要であると信じ、同盟(alliances)や国際協定(international agreements)に制約されないアメリカの一極主義的行動を優先し、戦略的利益を推進する」という考えだ。(2)の民主政治体制志向国際主義者は、「民主政治体制の擁護はアメリカと世界の安全保障の維持に不可欠であり、共通の価値観とルールに基づく民主政治体制秩序の推進のため、志を同じくする同盟諸国との協力を優先すると信じている」。(3)のリアリスト国際主義者は、「アメリカの力はより限定的な戦略的利益の防衛に活用されるべきであり、世界と地域の安定を維持するために、全ての国々との実際的な関与を優先すべきだと考えている」。(4)の多極主義的国際主義者は、「他国との平和共存(peaceful coexistence)を主要な目標とすべきであり、国連やその他の多国間機関を通じて地球規模の課題を解決し、国際規範を遵守することを優先するべきだと考えている」。(5の後退者は、「世界がアメリカを利用していると考え、アメリカを国際社会の公約から引き離し、金銭的利益(pecuniary benefits)を最大化することを目指す、より取引中心の外交政策(a more transactional foreign policy)を支持する」。(6)の抑制主義者は、「アメリカが過剰な負担と過剰な関与を強いられていると考え、より抑制的な外交政策を支持し、それによってアメリカの国際的影響力を大幅に縮小する」。

 冷戦期からポスト冷戦期にかけてのアメリカの外交政策の主流は当然のことながら、国際主義者だった。しかし、アメリカの国力の衰退や世界構造の変化によって、国際主義者の中でもリアリズム系が台頭し、また、非国際主義者も勢力を増しつつある。その象徴がトランプ大統領だ。長い論稿ではあるが、是非以下の論稿を読んで一緒に勉強してもらえたらと思う。

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アメリカの外交政策思考の混乱したスペクトラム(The Scrambled Spectrum of U.S. Foreign-Policy Thinking

-大統領、政府関係者、候補者は党の方針に従わない6つの陣営に分類される傾向がある。

アシュ・ジェイン筆

2023年9月27日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/09/27/republican-debate-trump-biden-foreign-policy-ideology/
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共和党大統領予備討論会では外交政策が大きく取り上げられそうだ。8月の討論会では、候補者たちは、アメリカの対ウクライナ支援継続を支持するかどうかという質問で激しい議論を行った。フロリダ州のロン・デサンティス知事は以前、ロシアのウクライナ戦争はアメリカにとって「重大な(vital)」国益ではないと示唆していたが、実際も懐疑的なようで、代わりにヨーロッパに対して更なる対応を求めた。起業家のヴィヴェク・ラマスワミは、そのような援助にもっと率直に反対し、アメリカが「他国の国境を越えた侵略から守る(protecting against an invasion across somebody else’s border)」ことは「悲惨な(disastrous)」ことだと述べた。一方、マイク・ペンス元副大統領とニッキー・ヘイリー元国連大使は、ウクライナ支援への強い支持を表明し、ロシアの侵略に対抗するジョー・バイデン大統領の取り組みを事実上支持し、アメリカに更なる努力を求めた。

政治のもう一方の側においては、民主党所属の連邦議員の中にはバイデンのウクライナ政策を警戒する人たちもいる。それは、進歩主義的な民主党所属の連邦議員たちが大統領宛に送った、紛争の外交的終結とロシアに対する制裁緩和の可能性を求める書簡(後に撤回された)からも明らかである。

今日の分極化した政治的雰囲気の中では、このような横断的な見解は混乱に見えるかもしれない。たいていの国内政策問題では、政治指導者たちの名前の横にR(共和党)とD(民主党)がついているかどうかが、特定の問題に対する彼らの考え方を示す良い目安になることが多い。しかし、外交政策に関しては、通常の政治ルールは適用されない。むしろ、政治指導者たちが外交政策イデオロギーのスペクトラムのどこに位置するかが、より大きな意味を持つ。
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このスペクトラムを構成する複数の学派は、世界におけるアメリカの役割について根本的に異なる見解を反映しており、影響力は大きいが、あまり理解されているとは言えない。

外交政策の立場を区別しようとするとき、メディアはしばしば「タカ派対ハト派(hawks versus doves)」といった決まり文句(cliches)や、「アイソレイショニスト(isolationist)」「ネオコンサヴァティヴ(neoconservative)」といった流行語(buzzwords)に頼る。しかし、これらの用語は単純化されすぎたり(oversimplified)、誇張されたりする(exaggerated)傾向があり、有益な情報はほとんど伝わらない。国際関係論(international relations)もそれほど役に立たない。「リアリズム(realism)」は、国家がどのように行動すべきかではなく、どのように行動することが期待されるかを予測する学問的概念と日常的に混同されている。また、「アイデアリズム(idealism)」や「コンストラクティヴィズム(constructivism)」といった他の理論も、現実世界の意思決定を理解する上で役立つことは限られている。

しかし、政策立案者たちが世界をどのように捉え、アメリカの外交政策の方向性に影響を与えようとしているかには、決定的な違いがある。例えば、アメリカの影響力は概ね肯定的であり、アメリカは世界情勢において積極的な役割を果たすべきであると考える人々と、アメリカの傲慢さは往々にして悪い結果をもたらすと考え、アメリカの海外での関与を縮小したいと考える人々との間には、明確な二分法が存在する。

アメリカは民主政治隊の価値観と規範の推進を優先すべきだと考える人々と、より限定的な戦略的利益の擁護を信条とする人々との間にも、大きな隔たりがある。また、アメリカはロシアや中国といった敵対諸国に対して毅然とした態度を取るべきか、それとも共通の基盤を見出すべきなのかについても、見解は大きく分かれている。

私は、アメリカの世界における役割に関する主要な考え方を代表する6つの外交政策陣営を整理した。これらの陣営は、国際的な関与のスペクトラムに沿って位置づけることができる。そのうち4つは、このスペクトルの中でもより積極的な側、「国際主義者(internationalists)」に属し、アメリカは影響力を行使し、国際情勢に積極的に関与すべきだと考えている。そして、残りの2つは「非国際主義者(non-internationalists)」に属し、アメリカは国際社会への関与を縮縮小し、より前向きでない外交政策を採用すべきだと考えている。

●国際主義者(INTERNATIONALISTS

(1)一極主義的国際主義者(1. Unilateral Internationalists)

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一極主義的国際主義者:ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ジョン・ボルトン

■定義的な世界観(Defining worldview):一極主義的国際主義者は、アメリカの優位性と行動の自由が最も重要であると信じ、同盟(alliances)や国際協定(international agreements)に制約されないアメリカの一極主義的行動を優先し、戦略的利益を推進する。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、特に最初の任期中にこの考え方に近づいたが、この学派を直接的に支持したアメリカ大統領はいない。

■主な特徴(Key attributes):

・中国とロシアを国際システムにおけるアメリカの優位性に対する最大の脅威と見なし、アメリカの敵対勢力に対抗し、アメリカの力を誇示するために最大限の圧力をかけようとする。

・同盟諸国を犠牲にしてもアメリカの国益を優先し、民主政治体制的な価値観や「ルールに基づく秩序(“rules-based order)」よりも戦略的利益を重視する。しかし、同盟諸国の行動意欲には懐疑的ながらも、アメリカの同盟諸国を支持する。

・国連や国際協定に不信感を抱き、米国の力と主権への制約を回避するために、必要に応じて国際機関から米国が脱退することを支持する。

米国の利益を促進するために軍事力を使用することを支持する。

国連や国際協定に不信感を抱いており、アメリカの力と主権への制約を回避するために、必要に応じて国際機関からアメリカが脱退することを支持する。

・アメリカの利益のために軍事力を使用することを支持する。

■著名な発言者たち:ディック・チェイニー、ドナルド・ラムズフェルド、ジョン・ボルトン

■最近の米大統領:いない

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

(2)民主政体志向国際主義者(2. Democratic Internationalists)

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民主政体志向国際主義者:マデリーン・オルブライト、ジョン・マケイン、ミット・ロムニー、クリス・クーンズ、G・ジョン・アイケンベリー、ハル・ブランズ、ハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ、ジョー・バイデン、クリス・クリスティ、ニッキー・ヘイリー、マイク・ペンス

■定義的な世界観(Defining worldview):民主政治体制志向国際主義者は、民主政治体制の擁護はアメリカと世界の安全保障の維持に不可欠であり、共通の価値観とルールに基づく民主政治体制秩序の推進のため、志を同じくする同盟諸国との協力を優先すると信じている。この学派は、ハリー・トルーマン大統領が「自由で独立した国家が自由を維持できるよう支援する」ことがアメリカの政策であると宣言して以来、民主、共和両党を問わず、アメリカの選出指導者の間で主流となっている。

■主な特徴(Key attributes):

・民主政治体制と独裁政治の戦略的競争を国際システムの主要な断層線(the major fault line)と捉え、中国とロシアといった修正主義独裁国家(revisionist autocracies)に対抗するための積極的な措置を支持する。

民主政治体制同盟と連帯(democratic alliances and solidarity)を強く擁護し、「自由世界のリーダー(leader of the free world)」としてのアメリカの役割を維持することに熱心である。

・民主的価値観と人権を推進し、独裁政権の戦争犯罪と暴力的弾圧の責任を問うための強力な取り組みを支持する。

・民主政治体制とルールに基づく秩序を守るために、必要であれば武力行使も検討する用意がある。

■著名な発言者たち:マデリーン・オルブライト、ジョン・マケイン、ミット・ロムニー、クリス・クーンズ、G・ジョン・アイケンベリー、ハル・ブランズ

■最近の米大統領:ハリー・トルーマン、ジョン・F・ケネディ、ロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ、ジョー・バイデン

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:クリス・クリスティ、ニッキー・ヘイリー、マイク・ペンス

(3)リアリスト国際主義者(3. Realist Internationalists)

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リアリスト国際主義者:ヘンリー・キッシンジャー、ブレント・スコウクロフト、ロバート・ゲイツ、リチャード・ハース、スティーヴン・クラズナー、チャールズ・カプチャン、リチャード・ニクソン、ジョージ・HW・ブッシュ、ロン・デサンティス

■定義的な世界観(Defining worldview):リアリスト国際主義者は、アメリカの力はより限定的な戦略的利益の防衛に活用されるべきであり、世界と地域の安定を維持するために、全ての国々との実際的な関与を優先すべきだと考えている。元国家安全保障問題担当大統領補佐官のブレント・スコウクロフトとヘンリー・キッシンジャーは、この学派の典型的な実践者であり、彼らが仕えた大統領たちもこの考え方を支持した。

■主な特徴(Key attributes):

・大国間競争(great-power rivalry)は世界システムにおいて不可避であると認識し、アメリカの同盟関係と、ライヴァル諸国を抑止し世界秩序を維持するための積極的な取り組みを支持する。

・戦略目標の推進のため、政治体制の種類に関わらず、敵対諸国と対峙し、あらゆる国と協力する用意がある。

・安定した勢力均衡(a stable balance of power)を達成するために、ライヴァル諸国と相互に妥協するか、分断を図る用意がある。

・「世界をあるがままに受け入れる(accept the world as it is)」傾向があり、アメリカの介入や民主政治体制促進の取り組みに警戒感を抱いている。

・アメリカの強力な防衛態勢を支持し、重要な国益を守るために必要であれば武力行使も辞積極的に行う。

■著名な発言者たち:ヘンリー・キッシンジャー、ブレント・スコウクロフト、ロバート・ゲイツ、リチャード・ハース、スティーヴン・クラズナー、チャールズ・カプチャン

■最近の米大統領:リチャード・ニクソン、ジョージ・HW・ブッシュ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:ロン・デサンティス

(4)多極主義的国際主義者(4. Multilateral Internationalists)

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多極主義的国際主義者:ジョン・ケリー、ブルース・ジョーンズ、バラク・オバマ

■定義的な世界観(Defining worldview):多極主義的国際主義者は、他国との平和共存(peaceful coexistence)を主要な目標とすべきであり、国連やその他の多国間機関を通じて地球規模の課題を解決し、国際規範を遵守することを優先するべきだと考えている。バラク・オバマ大統領の外交政策はこの学派に深く根ざしており、現在、アメリカの気候変動対策首席交渉官を務めるジョン・ケリー元国務長官がその代表を務めている。

■主な特徴(Key attributes):

・大国間の対立や戦略的競争を警戒し、敵対諸国に「手を差し伸べる(extend a hand)」ことで共通点を見出すことに熱心である。

・国際規範、良い統治、人権の推進に向けたアメリカの積極的な関与を支持する。

・国境を越えた課題への対応において、全ての国と協力することを目指し、特に気候変動(climate change)を優先する。

・包摂的な制度を通じた関与を優先するが、ルールに基づく秩序の促進のためにアメリカの同盟諸国と協力することを支持する。

・軍事力の使用には消極的(disinclined)であり、国連安全保障理事会の承認を得た場合にのみ検討する。

■著名な発言者たち:ジョン・ケリー、ブルース・ジョーンズ

■最近の米大統領:バラク・オバマ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

●非国際主義者(Non-Internationalists

(5)後退者(1. Retractors)

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後退者・非国際主義者:マイケル・アントン、ドナルド・トランプ、ヴィヴェック・ラマスワミ

■定義的な世界観(Defining worldview):後退者は、世界がアメリカを利用していると考え、アメリカを国際社会の公約から引き離し、金銭的利益(pecuniary benefits)を最大化することを目指す、より取引中心の外交政策(a more transactional foreign policy)を支持する。ドナルド・トランプ大統領の外交政策はまさにこの学派の典型である。しかし、この学派の支持者は、1990年代後半の共和党大統領候補パット・ブキャナンや、アメリカを第二次世界大戦に巻き込ませまいとした1930年代のアメリカ・ファースト運動にまで遡ることができる。

■主な特徴(Key attributes):

・価値観や規範に対して非常に懐疑的で、陰謀論を信奉し、それに陥りやすく、アメリカの政策を操作する「ディープステート(deep state)」の役割を疑っている。

・同盟関係に批判的で、特にヨーロッパにおけるアメリカの同盟諸国を軽蔑し、国際機関を通じた協力の取り組みはナイーブで自滅的だと考えている。

・独裁政権との「取引と合意(make deals)」を求め、民主的な価値観や国際規範を軽視している。

・他国が「アメリカを騙す(ripping America off)」のを防ぐため、経済保護主義(economic protectionism)と国境封鎖を強調している。

・アメリカは軍事的に過剰な関与をしていると確信しているが、「強硬な態度(act tough)」を取り、アメリカの実力を示すために、時折限定的な軍事行動を行うことを支持している。

■著名な発言者たち:マイケル・アントン

■最近の米大統領:ドナルド・トランプ

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:ドナルド・トランプ、ヴィヴェック・ラマスワミ

(6)抑制主義者(2. Restrainers)

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抑制主義者・非国際主義者:ランド・ポール、バーニー・サンダース、アンドリュー・ベスヴィッチ、スティーヴン・M・ウォルト、ステファン・ヴェルトヘイム

■定義的な世界観(Defining worldview):抑制主義者は、アメリカが過剰な負担と過剰な関与を強いられていると考え、より抑制的な外交政策を支持し、それによってアメリカの国際的影響力を大幅に縮小する。この学派は依然として周縁的存在ではあるものの、近年、クインシー記念責任国家戦略研究所とその支持者たちの台頭に見られるように、ある程度の存在感を増している。

■主な特徴(Key attributes):

・国際システムにおけるアメリカの力と影響力に不信感を抱いており、欠陥のある民主政治体制、偽善(hypocrisy)、帝国主義(imperialism)を基礎にして考えると、アメリカには民主的価値観やルールに基づく秩序を推進する立場はないと考えている。

・アメリカは敵対諸国と不必要な戦い(unnecessary fights)を仕掛けており、海外における軍事態勢、同盟、制裁政策はしばしば過度に挑発的であると考えている。

・中国とロシアによる脅威を「誇張(inflating)」することを警戒し、敵対諸国と協力し相互妥協に至る外交努力を支持し、国家主義的な外交政策は傲慢で不快だと考えている。

・海外におけるアメリカ軍のプレゼンスの削減、NATOやその他の同盟諸国への関与の縮小を求め、武力行使に強く反対している。

■著名な発言者たち:ランド・ポール、バーニー・サンダース、アンドリュー・ベスヴィッチ、スティーヴン・M・ウォルト、ステファン・ヴェルトヘイム

■最近の米大統領:いない

■今回の大統領選挙(2024年)の共和党候補者:いない

この分析からいくつかの重要な点が導き出される。第一に、確かにこれらの陣営の境界線は曖昧であり、政策立案者たちは、特定の問題においては、これらの陣営のいずれか、あるいは複数の陣営にまたがっている場合が多い。しかしながら、これら6つの学派は十分に明確に区分されており、アメリカが外交政策をいかに進めるべきかという現代の議論に影響を与えている主要な世界観を代表している。

第二に、これらの学派の多くは党派の垣根を越える傾向がある。例えば、民主政治体制志向国際主義は、与野党の政治指導者たちから熱烈に支持されており、国際共和研究所(International Republican Institute)や全米民主研究所(National Democratic Institute)といった民主政治体制志向機関に見られるように、超党派の強力な支持基盤を有している。リアリズムもまた、アメリカの外交政策において長い伝統を持ち、民主、共和両党の国家安全保障担当者の共感を呼んでいる。同様に、抑制者は、左派の進歩主義者と、ワシントンの国際的関与の縮小を求めるリバータリアンの両方から支持を集めている。一方、一極主義的行動主義は主に保守派に支持され、多国主義的国際主義は主にリベラル派の支持を得ている。近年、トランプ支持派の共和党員の間では、こうした姿勢の撤回が主流となっている。

第三に、近年の米大統領がこのスペクトルのどこに位置づけられるかは自明ではない。就任当初は特定の陣営に傾倒するかもしれないが、ほとんどの大統領は純粋主義者(purists)ではなく、政権を担う中で、多くの大統領が、一貫性があり予測可能な外交政策の理念を維持することを困難にする実際的かつ政治的な現実に直面することになるだろう。

例えば、バラク・オバマはリアリスト国際主義に傾倒していたように見え、ロシアとの関係を「リセット(reset)」しようとし、後にシリアのバシャール・アサド大統領による化学兵器使用の責任追及のためのアメリカ軍派遣を拒否した。しかし、オバマがキューバやイランといった敵対諸国への関与や国連を通じた活動を重視していたことを考えると、彼の外交政策の主眼は多極主義的国際主義とより整合しているように見えた。

ジョージ・W・ブッシュもまた、様々な立場に立脚していた。世界的な対テロ戦争の開始に際し、ブッシュはアメリカの優位性を主張しようと決意し、一極主義的国際主義に傾倒しているように見えた。しかし、イラクとアフガニスタンにおける民主政治体制の推進、彼の代名詞である「自由のアジェンダ(Freedom Agenda)」、そして2回目の就任演説における「世界の専制政治の終焉(ending tyranny in our world)」の訴えなど、ブッシュの全体的な世界観はより、民主政治体制志向国際主義に根ざしているように見えた。

バイデンがどの立場を取るかは依然として議論の余地がある。現在、バイデン政権の国家安全保障ティームは、アフガニスタンからの撤退とサウジアラビアのムハンマド・ビン・スルタン王太子との交渉再開を求めるリアリストと、大統領による民主政治体制サミット開催の取り組みを支持する民主政体志向国際主義者に分裂している。しかし、バイデンがNATOと協力して民主的なウクライナを守るという揺るぎない決意と、世界は「民主政治体制と独裁政治の世界規模での闘争()global struggle between democracy and autocracy」に直面しているという確信を踏まえると、これまでのバイデン政権の外交政策の大筋は、民主政治体制志向国際主義とより整合しているように思われる。もっとも、より明確な判断は、バイデンの任期満了まで待たなければならないだろう。

それでは、現在の共和党候補者たちはどうなるのだろうか? ペンス、ヘイリー、そしてニュージャージー州元知事のクリス・クリスティは、ロシアの侵略に立ち向かうよう訴え、中国の人権侵害を非難しており、まさに民主政治体制志向国際主義陣営に属している。ドナルド・トランプには、もちろん独自の路線がある。一方、デサンティスとラマスワミは、アメリカの国際社会への関与に懐疑的な共和党支持者からの支持獲得に苦戦する中で、リアリズムとトランプの撤回との間で板挟みになっているように見える。デサンティスはウクライナから中国への軸足を移すことを支持しており、これはトレードオフについて非常に現実的な考え方と言える。ロシアと中国を分断する戦略を提唱してきたラマスワミは、時折リアリストのようにも聞こえるが、ロシア・ウクライナ戦争へのアメリカのいかなる関与も回避し、台湾を中国に譲渡する可能性、そして「アメリカの利益を最優先する(interests of America first)」という彼の姿勢は、彼が撤回に向かっていることを示唆しているように思われる。

有権者たちは次期大統領を選ぶ際に外交政策を中心的な要素とは考えていないかもしれないが、アメリカの指導者が世界とどのように関わっていくかは、アメリカ国民の安全と繁栄にとって極めて重要である。最も影響力のある外交政策の学説をより明確に理解することで、有権者たち、そして候補者たち自身も、より情報に基づいた選択を行うことができるようになるだろう。

※アッシュ・ジェイン:米国土安全保障省(U.S. Department of Homeland SecurityDHS)職員。最近まで、アトランティック・カウンシル(大西洋評議会)傘下のスコウクロフト戦略安全保障センターで民主秩序担当部長を務めていた。ここで表明された見解は、米国土安全保障省(DHS)、またはアメリカ政府に帰属するものではない。Xアカウント:@ashjain50

(貼り付け終わり)

(終わり)
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※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 第2次ドナルド・トランプ政権がトランプ関税を発表して1カ月ほど経過している。大きな混乱の後、政権側が譲歩したことで、事態は安定している。しかし、高関税政策によって、短期間でアメリカの影響力は大きく損なわれた。株価、債券、ドルの価値が同時に下落し、アメリカの信頼性が損なわれることになった。そして、西側以外の国々をけん引する中国に対する信頼が高まることになった。

 このことでトランプを批判する声が高まっている。確かにその通りだ。しかし、重要なことは、トランプはアメリカ国民によって選ばれた大統領であり、トランプは自身の公約である、アメリカ国内問題解決(「アメリカ・ファースト))のために政策を実行している。これまで彼が進めてきた政策は、彼が大統領選挙期間中に繰り返し訴えてきたことだ。何も突然思いついてやっている訳ではない。政府効率化省による政府予算の削減や職員の削減、高関税はアメリカの抱える双子の赤字である財政赤字と貿易赤字を減らすための方策である。そして、これらを実行しようとして、経済面での不安が出てきた。株式や債券、ドルが下落するということが起きた。何かを抑えようとして、別の弱い場所に影響が出る。これは、アメリカが抱える問題の複雑さと根深さを示している。単純な処方箋で解決することはできない。そして、これらの方策で、アメリカの衰退を押しとどめることはできないということを示している。

 アメリカの衰退は既に軌道に乗ってしまっている。トランプが少々何かをやったところで止まらない。そして、これは誰が何をやっても同じである。トランプではない他の人物が大統領になっていても(昨年の大統領選挙で言えばカマラ・ハリス)、何かをうまくやれたとは考えにくい。トランプが混乱を引き起こしたという見方は表層的である。誰がやっても混乱は起きていた。そこまでの状況になっていることを理解すべきだ。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ大統領就任100日で「ストロングマンの統治」のこれまでにない弱点が露呈されている(Trump’s First 100 Days Reveal a ‘Strongman’s’ Unprecedented Weakness

-これほど急速に世界的な力を放棄した米大統領はかつてない。

マイケル・ハーシュ筆

2025年4月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/04/28/trump-first-100-days-strongman-weakness-russia-china-trade/

ドナルド・トランプ米大統領は、アメリカ政府を動揺させ、国内の政敵を威嚇するという自身の強力な政策について、「誰もこのようなことは見たことがない(Nobody has ever seen anything like it)」と頻繁に述べている。

彼の言うことは正しいかもしれない。しかし、世界の舞台において、強権を標榜する人物がこれほど前例のない弱さを見せたのは誰も見たことがないのも事実だ。しかも、わずか100日間で露呈した。

国家安全保障であれ経済であれ、トランプは短期間のうちに、特にヨーロッパとインド太平洋地域におけるアメリカの圧倒的な力と影響力を一方的に放棄する方向に大きく前進した。おそらく、このことを最もよく示すのは、株価、債券、ドルの価値が同時に下落していることだろう。これは滅多に起こらない現象であり、投資がアメリカから幅広い分野で撤退していることを示唆している。

これはまさに、トランプが就任演説で約束した「アメリカの新たな黄金時代(golden age of America)」、つまり投資が流入し「我が国は再び繁栄し、世界中で尊敬されるようになる(our country will flourish and be respected again all over the world)」という公約とは正反対だ。

ところが、トランプの一連の政策のせいで、投資家の目に映るアメリカは、究極の安全な避難所(the ultimate safe haven)から、法の支配が疑わしい予測不可能な荒野(an unpredictable wilderness where the rule of law is in doubt)へと、徐々に格下げされつつある。

JPモルガンのアナリストは、「これは米ドルの没落なのか?(Is this the downfall of the U.S. dollar?)」と題した最近の分析で、「アメリカの政策に関する不確実性の急激な高まり(A sharp rise in U.S. policy uncertainty)は、アメリカ資産に対する投資家の信頼を揺るがし、世界の主要な準備通貨としての米ドルの役割をめぐる議論さえも巻き起こしている」と述べている。

シタデル・ヘッジファンドの最高経営責任者ケン・グリフィンなどトランプ大統領のビジネス界の支持者の中にも、トランプ大統領の「無意味な(nonsensical)」貿易戦争によってアメリカの「ブランド」に永久的なダメージが与えられると警告する人たちもいる。グリフィンは「与えられたダメージを修復するには一生涯かかるかもしれない」と述べている。

科学と教育への投資を削減し、移民を無差別に国外追放し、主要大学に自身の右翼的なポリティカル・コレクトネスを浸透させるよう脅迫することで、トランプはかつて想像もできなかったような頭脳流出(brain drain)を加速させている。トランプが復興を訴えている製造業の能力そのものを衰退させる恐れがあるのは言うまでもない。

アメリカは、優秀な人材を自国に引き寄せることで、特にソ連やナチス・ドイツといった敵国を幾度となく打ち負かしてきた国である。しかも、トランプが国内の法の支配に与えた影響は別として、誰もが適正手続きなしに逮捕・追放され、国内テロリストが大量に恩赦を受け、有罪判決を受けた犯罪者が政府の高官職(通商担当補佐官ピーター・ナヴァロや駐フランス大使に指名されたチャールズ・クシュナーなど)に就くような土地に、頭脳明晰で才能豊かな外国人が来る可能性は低くなる。

これら全ては、トランプが脅迫して沈黙させた政党、共和党の沈黙した支持と、自分たちの立場が理解できない野党・民主党の支離滅裂な抵抗によって起こっている。裁判所はトランプの政策の多くに反対の声を上げており、その声はしばしば説得力に富んでいるが、トランプはほとんど耳を傾けていない。

大統領にとって唯一重要なのは各市場であり、今やそれが彼の進む方向を変える唯一の希望かもしれない。

米国の二大ライヴァルであるロシアと中国は、超大国としての自滅を目指すワシントンの試みを大いに喜んでいる。

かつてトランプが「1日で解決する」と豪語したロシアによるウクライナ侵攻問題において、トランプはロシアのウラジーミル・プーティン大統領への徹底的な宥和政策を追求してきた。奇妙なことに、トランプは、アメリカの13分の1の経済規模を持つプーティン大統領への媚びへつらう態度と、これまでワシントンによるロシア抑制を支援してきたヨーロッパの同盟諸国への拒絶を結びつけている。

こうして、トランプ米大統領は、ウクライナのウォロディミール・ゼレンスキー大統領についてよく言うように、交渉のテーブルで「使えるカードがない(has no cards to play)」のはトランプ自身である可能性を高めている。

トランプ支持者たちは、プーティン大統領への熱心な働きかけとロシアとの正常化に向けた努力は、ヘンリー・キッシンジャーのように、モスクワを中国との同盟から引き離す巧妙なリアリズムに等しいと述べている。トランプ政権のスタッフは、いわゆるリアリストや「抑制派(restrainers)」で占められており、彼らは大国主義的な現実政治(great-power realpolitik)への回帰を訴え、トランプの前任のジョー・バイデン米大統領がアメリカの対ロシア戦略政策を事実上ゼレンスキー大統領に委任することでモスクワとの交渉から自らを閉ざしたことを批判している。

この批判には一理ある。しかし、ロシアからいかなる譲歩も引き出さずに、プーティン大統領のクリミア半島をはじめとするウクライナ領土に対する主張を先制的に承認したことで、トランプは紛れもなく弱腰に見える。また、将来の軍事的領土奪取を事実上正当化し、国際法に基づく戦後領土規範の残滓を破壊しようとしている。こうした将来の侵略には、中国による台湾の併合、トランプ自身のグリーンランドへの野望の実現も含まれる可能性がある。

ここ数日、トランプ大統領は、ロシアの指導者プーティンが自分を騙そうとしている可能性があると認め、プーティン大統領に対し、ウクライナの都市への残虐な攻撃をやめるよう懇願するに至った。

トランプ大統領は4月26日のトゥルース・ソーシャルへの投稿で次のように述べた。「プーティン大統領がここ数日、民間地域や都市、町にミサイルを撃ち込んだ理由は何もなかった。もしかしたら、彼は戦争を止めたいのではなく、ただ私を誘導しているだけなのかもしれない。『銀行制裁(Banking Sanctions)』や『二次的な制裁(Secondary Sanctions)』といった別の方法で対処する必要があるのではないか?」

それでは、中国はどうだろうか? 北京は、トランプの政策を公然と嘲笑している。トランプの政策は、大言壮語の後、混乱と撤退に終わったに過ぎない。トランプ大統領が中国に対して課した最低145%の関税(棚が空っぽになり価格が急騰すると警告したアメリカの大手小売業者との会談も含む)に市場が衝撃と恐怖を示したことを受け、トランプ大統領は方針を転換し、現在中国と関税を「実質的に(substantially)」削減する(pare back)交渉を行っていると発表した。

しかし、北京はそのような協議は行われていないと屈辱的に否定した。中国はさらに、アメリカへの多くのレアアース金属の輸出を禁止するという強硬手段に出たこともあって、ドローンやバッテリー駆動車の製造にこれらの鉱物を依存する防衛関連企業を含む、それらなしでは生産ラインを稼働できない主要産業にパニックをもたらした。

ダートマス大学の国際関係論の専門家、ウィリアム・ウォールフォースは、これら全てはトランプとそのチームが「内臓を抜き取り奪取する(gut and grab)」戦略を追求しようとする、不器用な試みだと指摘した。つまり、第二次世界大戦以降支配されてきたアメリカ主導の世界秩序を骨抜きにし、トランプにとっての英雄であるウィリアム・マッキンリーのような19世紀の大統領たちのやり方に倣い、領土のパイのより大きな部分を自ら奪い取ろうとする戦略だ。

ウォールフォースによると、問題はトランプ支持者たちが何をしているのか分かっていないように見えることだ。

ウォールフォースは電子メールで「ロシアへの先制的な譲歩(preemptive concessions)、つまりロシアにはアメを与え、ウクライナとヨーロッパにはムチを与えるというアプローチは、交渉戦略として間違っている。トランプ大統領は中国との関税をめぐるチキンレースで、まさにその隙を突いたようだ」と述べている。

そして今、これまで同盟国がほとんどなかった中国は、自らを世界システムの安定した新たな中心として見せかけることで、この好機を捉えようとしている。習近平国家主席が3月下旬、アメリカ、日本、韓国のビジネスリーダーたちに語ったように、中国は「理想的で安全かつ有望な投資先()an ideal, safe and promising investment」の選択肢だ。これは、歴代米大統領(最初の任期のトランプ大統領を含む)が数十年にわたり、中国に対し、開放と不公正な貿易慣行の撤廃を迫ってきた後のことだ。

トランプが大統領に就任するまで、中国とロシアは事実上、同盟諸国を切望する2国でした。モスクワは、取るに足らないベラルーシからのみ、揺るぎない忠誠を得ていた。そして近年では、孤立し、厳しい制裁を受けているイランと北朝鮮という2つの国と同盟を結んでいる。中国もまた、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)やその他の債務負担(debt encumbrances)によって小国を従わせようと努めながらも、主に北朝鮮との結びつきを誇っていた。

その後、モスクワと北京は互いに協力関係を築き、西側諸国へのカウンターウェイト(釣り合い)として、主要新興国5カ国(当初はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)からなるBRICSフォーラムの拡大に向けて、散発的な努力を重ねてきた。しかし、参加に意欲的な国はほとんどいない。新たにBRICSに加盟・招待された国の中には、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプトなどがあり、依然としてアメリカの緊密な安全保障パートナー諸国がいる。同様のアルゼンチンは後に不参加を決定した。

一方、トランプが登場するまで、アメリカは世界中に50カ国以上の同盟国と戦略的パートナーを有しており、その中には世界で最も裕福な国のほとんどが含まれている。しかし今、ドイツから韓国に至るまでの主要同盟諸国は、トランプが絶えず撤退をちらつかせ、帝国への貢物要求(demands for imperial tribute)を突きつける中、ワシントンとは別に独自の防衛力整備を進めようとしている。これはアメリカの防衛産業に大きな打撃を与え、核拡散(nuclear proliferation)の新たな危険な時代を脅かすことになる。

トランプの常套句は、同盟諸国は「私たちを騙す(rip off us)」ことしかしていないというものだ。そして、トランプの功績として、NATO同盟諸国と台湾に対し、自国の防衛費増額案を提出するよう圧力をかけている。しかし、2013年のランド研究所の報告書によれば、日本(75%)、クウェート(58%)、カタール(61%)、サウジアラビア(65%)などの受入国が負担するアメリカ軍基地の費用の割合を考慮すると、ワシントンはインド太平洋地域と中東で大部分においてかなり良い取引をしている。

より大きな問題は、こうした政策がアメリカの世界的なリーダーシップと経済的優位性を維持していることだ。

戦後世界秩序(postwar global order)の専門家であるプリンストン大学のジョン・アイケンベリーは、トランプ政権の最初の任期中、大統領がアメリカ主導の国際システムへの最初の断続的な攻撃を開始した際に私に次のように語った。「トランプは、この秩序を不動産のように捉えているのかもしれない。アメリカの秩序は、70年にわたる投資を体現し、莫大な利益を生み出してきた。この秩序を破壊すること、つまり貿易体制、同盟、制度、そして信頼を弱体化させることは、最も収益性の高いホテルの資産を取り壊すようなものだ」。

実際、トランプの行動に歴史的前例を見出すのは難しいとアイケンベリーは述べている。アイケンベリーは近日発表予定の論文で次のように述べている。「なぜアメリカは自らの覇権秩序(hegemonic order)を破壊しようとするのか? なぜ世界システムにおいて最強の国家が、自らを弱体化させ、貧しく、不安定にしようと積極的に行動するのか?。大国が興亡を繰り返すことは周知の事実であり、世界の時代は終わり、新たな時代が始まる。しかし、国際秩序がこのように自らの創造主によって破壊されるのを見たことがあるだろうか? 歴史を振り返ると、大国は自殺ではなく、殺人によって終焉、あるいは消滅する傾向にあった」。

これまで止めようのない勢いを見せていたアメリカ経済に関して言えば、トランプはあまりにも自己破壊的な一連の政策を採用しており、これもまたトランプのお決まりの表現を使うならば、誰もかつて経験したことのない事態となっている。これらの政策が相まって、驚くほど短期間のうちにアメリカ経済の力を弱体化させたのだ。

実のところ、わずか100日だ。4月初旬に発表されたCNBCの調査によると、CEOの過半数(69%)が景気後退(recession)を予想している。

景気後退のスパイラルは、トランプ大統領によるアメリカ支援プログラムの放棄と同盟諸国への非難から始まった。しかし、4月初旬、トランプ大統領が関税と貿易戦争という誤った概念を明らかにしたことで、この傾向は急速に勢いを増した。

一部の国に対する厳しい貿易圧力によって、バイデン前政権が中国、東南アジア、その他の地域に逃がしてしまったアメリカの製造業の一部が回復する可能性があると信じる理由が再び現れた。

しかし、トランプ大統領は、税収を徴収する以外に明確な計画もなく、約90カ国に関税を課した。そしてすぐに、トランプ大統領は、他国がアメリカに課したとしている「各種関税(tariffs)」は、各国政府の実際の政策ではないことが明らかになった。それは、当該国のアメリカへの物品輸出量をアメリカの対外貿易赤字で割ったという粗雑な計算に基づいていた。これは、貿易はゼロサムゲームであり、国の貿易赤字は企業の損失に等しいという、トランプ大統領の誤った重商主義的考え(Trump’s false, mercantilist idea)に基づいているように思われる。

地球上で最も権力のある人物が経済学の基礎さえ理解していないことに、世界中が一挙に気づいたかのようで、市場は急落した。確かに、市場はそれを認識していた。

トランプ大統領は更に、新たな貿易協定を交渉する間、ほとんどの関税を90日間停止すると発表したことで、事態を更に悪化させた。しかし、新たな貿易協定は成立しそうになく、貿易専門家たちは、この短期間でそのような協定を交渉するのは事実上不可能だと指摘している。

一方、アメリカからの資金流出は続いている。1月20日のトランプ大統領就任式以来、米ドルは9%近く下落し、1970年代初頭のいわゆるニクソン・ショック以来50年以上ぶりの大打撃を受ける恐れがある。これは決して軽視できない問題だ。トランプ大統領の関税措置と同様に、これはインフレを加速させる可能性がある。

今日と同様に、当時のニクソン大統領は、戦後の金融システムの柱であった他国のドル準備金を金に交換することを停止することで、アメリカの国際的な評判を危険に晒した時期だった。

究極の皮肉は、トランプが大統領の権力と世界中の尊敬を取り戻すというストロングマン政治を目指しているように見えることかもしれない。しかし、彼は他国を威圧して屈服させるという自身の能力を過度に過大評価して大統領に就任したようだ。アトランティック誌との100日間のインタビューで彼は「私は国と世界を動かしている(I run the country and the world)」と述べた。

しかし、アメリカの力は軍事力と経済力だけでなく、ソフトパワーによる影響力にも大きく依存している。トランプはこの最後の部分を理解していなかったようだ。グリーンランドを占領し、カナダを併合すると宣言すれば、両国の国民を結束させて彼に対抗するだけだということを理解していなかったようだ。

就任前、トランプはバイデンをはじめとする歴代米大統領の政策について語る際、「世界は私たちを嘲笑している(The world is laughing at us)」とよく言っていた。

当時はそうではなかった。少なくとも、それほど頻繁にはそうではなかった。今は違う。あるいは、世界の多くの人々が笑うどころか泣いているのかもしれない。考えてみて欲しい。米国国際開発庁(U.S. Agency for International DevelopmentUSIDA)とその多くのプログラムを廃止することで、トランプ政権は最終的に、ウラジーミル・プーティン大統領がウクライナでもたらしたのと同じくらい多くの罪のない人々の死をアフリカや発展途上国で引き起こす可能性がある。そして、再びアメリカの影響力と威信を犠牲にすることになる。

それでも、少し立ち止まって、新大統領の任期100日という指標が常に疑わしいものであったことを指摘しておこう。最悪の事態を招いたトランプは、自分が引き起こした損害の一部を認識し、調整するかもしれない。最新の世論調査によると、彼の支持率は、このような調査が初めて実施されて以来、どの新任大統領よりも最低水準に急落している。

多くの歴史家は、就任後100日間を、主にメディアが見出しを作るために仕掛けた策略と見なしている。大統領史家リチャード・ノイシュタットは、この指標を「現代の大統領が就任後3カ月で何を計画し、何を成し遂げたいかを示す指標としては不十分だ」と述べ、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領とニューディール政策に特有の基準であると主張した。彼が直面した危機の深刻さ、すなわち大恐慌の深刻さがその理由だったのだ。(「100日間」はもともと、フランスの指導者ナポレオン・ボナパルトがエルバ島から脱出してから没落するまでの期間を指す言葉として始まったが、1933年7月にルーズヴェルト大統領はこの概念を復活させ、「ニューディール政策の始動に捧げられた100日間の出来事の山場(the crowding events of the hundred days which had been devoted to the starting of the wheels of the New Deal)」と表現した。)

ジョージワシントン大学の政治学者ララ・ブラウンは2021年、ジョー・バイデン大統領の最初の100日間を評価する際に筆者に次のように語った。「ある意味では、100日という数字は、大統領の初期のリーダーシップスタイルを見るという意味で重要な指標だ。しかし、実際のパフォーマンス、つまりこの人物が成功するかどうかという点では、非常に近視眼的だと思う。現代のほとんどの大統領にとって、最初の100日間は彼らの物語の終わりではなく、始まりに過ぎないと言えるだろう」。

更に悪いことに、100日という基準は、新大統領が次々と大きな成果を上げようとする中で、機能不全(dysfunction)と不安定さ(unsteadiness)というメッセージを世界に発信するだけだ。これは特に、冷戦コンセンサスが崩壊し、各大統領が前任者の政策を覆そうとした過去数十年間において顕著であり、トランプとバイデンほどその傾向が顕著な人物はいない。

バイデンは就任初日に少なくとも50件の大統領令に署名したが、その約半数はパリ協定離脱、移民政策、国境の壁建設、イスラム教徒が多数を占める国への渡航禁止措置など、トランプ政権の政策を覆すものだった。

当時、バイデンは「私は新しい法律を作っているのではない。悪い政策を排除しているのだ」と述べた。

トランプはバイデンを凌駕し、1月以降に100件以上の大統領令に署名している。その多くはバイデン政権の政策を覆すものであり、バイデンを「アメリカ史上最悪の大統領(the worst president in U.S. history)」と繰り返し呼んでいる。

トランプ自身も100日という指標(the 100-day metric)を喜んで受け入れている。彼はこの指標を、2期目の目覚ましい躍動感を表現する際にしばしば引用している。4月8日には「我が国史上最も成功した100日間(the most successful 100 days in the history of our country)」と称した。

これは幻想だ。トランプは決して認めないだろうが、ここ数日、後退の兆し(signs of retreat)を見せている。スコット・ベセント財務長官は、かつて「恒久的(permanent)」とされていた関税は今や交渉の余地が十分にあると世界に安心感を与えた。数週間にわたり、自らの「行政の単一性理論(unitary theory of the executive)」を究極の試練にかけ、連邦準備制度理事会(FRB)の独立性を破壊する可能性を示唆し、それが再び市場の暴落につながった後、トランプは今やFRB議長ジェローム・パウエルの解任計画を否定している。

これは、ウォルマート、ターゲット、ホーム・デポのCEOたちが4月21日に大統領執務室でトランプに経済破綻の危機を警告したメッセージに続くものだ。

彼が方向転換するにはまだ遅くはない。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻勢:ワシントンの賢人たちはどのようにしてアメリカの未来をウォール街に渡し、我々自身と戦争を行ったのか(How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street and At War With Ourselves)』と『何故アメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』の2冊の本の著者でもある。Xアカウント:@michaelphirsh

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※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 マイク・ウォルツ国家安全保障問題担当大統領補佐官の解任(更迭)・国連大使転身に関する優れた分析記事を以下に掲載する。韓国の進歩主義派・リベラルの有力紙『ハンギョレ新聞』に掲載されている。是非、アクセスしてお読みいただきたい。韓国や中国の新聞は記事の日本語訳を掲載している場合が多く、韓国語や中国語ができない読者にとっては非常にありがたい。

 以下に記事では、マイク・ウォルツ大統領補佐官の更迭は、ウォルツが政権内で、イラン攻撃などの強硬な意見を主張し続けたために、他の政府高官たちと衝突したということが書かれている。そして、その背景には、共和党内部の外交政策分野における3つのグループの存在があり、それぞれで角逐しているということだ。3つのグループについて、以下の記事から以下に引用する。

(引用はじめ)

(略)トランプ氏が2016年の共和党大統領候補の選出によって米国の保守陣営に勢力を伸ばして以来、政府と共和党では対外政策をめぐり覇権主義者(primacist)、優先主義者(prioritizer)、抑制主義者(restrainer)という3グループが角逐してきた。抑制主義者や優先主義者の位置づけがさらに固まったと言えるだろう。

伝統的な共和党の主流路線である覇権主義者は、米国が世界的な指導力と軍事力を維持でき、維持し続けなければならないとする立場だ。上記のとおり、これらの人々は第2次トランプ政権発足後にほとんどが排除されたうえ、ウォルツ氏の更迭によって決定的な打撃を受けた。しかし、共和党内では依然として勢力を保っている。優先主義者は、中東と欧州から米国の介入と役割を撤退させ、中国への対処に集中すべきだとするグループだ。抑制主義者は、海外における米国の軍事介入を可能な限り縮小し、自制すべきだとする立場だ。

(貼り付けはじめ)

 この3つのグループ分けは、現在、国防総省序列第3位の国防次官(政策担当)によって提唱されたものだ。私はこれまで、アメリカの外交政策分野について、2つのグループ、介入主義(Interventionism)とリアリズム(Realism)という分け方をしていたが、現在では、このグループ分けが取り上げられるようになっている。しかし、大筋ではほぼ同じだ。

 マイク・ウォルツは覇権主義者のグループで、このグループは第1次トランプ政権に多くが参加していたが、第2次トランプ政権ではもともと少なく、それがマイク・ウォルツ補佐官の辞任(更迭)で決定的になったということだ。優先主義者(対中強硬派)と抑制主義者が主導権を握った形であるが、優先主義者は対中強硬姿勢を強めようとしているが、これはうまくいっていない。ドナルド・トランプ大統領の考えに近いのは抑制主義者であり、覇権主義者グループが勢力を落とす中で、今度は優先主義者と抑制主義者の争いになることが予想される。厄介なのは、優先主義者と抑制主義者の間の違いが曖昧になっていることだ。

 大きく言えば、優先主義者も抑制主義者もどちらも抑制主義ということになる。「中国と戦争をすることまでは望んでいない(そんなことはできない)」という優先主義者は多い。彼らは中国の拡大を抑制することを目標にしているが、トランプ高関税での失態で明らかになっているように、中国を封じ込めることはもはや不可能である。優先主義者が画策をして、中国からアメリカに何かを仕掛けるように仕向けようとすることも考えられるが、中国はそれに乗ることはないだろうし、中国とアメリカの緊張が高まることで、経済的にもアメリカも相当な損失を出すことになる(既に出ている)。

 アメリカと中国が「仲良く喧嘩する」という関係を築くことで、世界は安定する。世界の大きな流れは世界覇権国の交代へと向かっている。アメリカをできるだけ穏やかに退位させて、中国をできるだけスムーズにその座に就ける。これが理想であるが、現実はそのようにいかないだろう。

(貼り付けはじめ)

●「伝統的な米国タカ派の没落…「トランプ主義者」だけが残る」

登録:2025-05-06 09:34 修正:2025-05-06 11:05

https://japan.hani.co.kr/arti/international/53118.html

[チョン・ウィギルのグローバル・パパゴ]  

米国の対外政策、トランプ主義を深化

マイケル・ウォルツ前大統領補佐官(国家安全保障担当)が先月30日、ホワイトハウスの閣議に参加した際の様子。1日、米国のドナルド・トランプ大統領はウォルツ氏を更迭して国連大使に指名する計画を明らかにした。米国の軍事介入に積極的なウォルツ氏の更迭でトランプ政権における伝統的タカ派の位置づけはさらに縮小されることになった=ワシントン/UPI・聯合ニュース

<チョン・ウィギルのグローバル・パパゴとは

「パパゴ」は国際公用語のエスペラント語で「オウム」の意味。鋭い洞察力と豊富な歴史的事例を備えたチョン・ウィギル先任記者が、エスペラント語で鳴くオウムとなって国際ニュースの行間をわかりやすく解説します。>

 

[何が起きているのか]

 米国ホワイトハウスのマイケル・ウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)が更迭されたことによって、ドナルド・トランプ政権内では、米国の海外軍事介入を主張する伝統的タカ派の影響力がよりいっそう縮小されることになった。

 ウォルツ氏の更迭は、同氏がイランに対する軍事攻撃など伝統的なタカ派の見解を主張し、米国の軍事海外介入に懐疑的なトランプ大統領の対外政策の哲学に反したためだと、ワシントン・ポストが3日報じた。特に、ウォルツ前補佐官は2月初め、米国を訪問したイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と事前に面会し、イランに対する軍事攻撃案を協議し、トランプ大統領の怒りを買ったと同紙は報じた。()ウォルツ氏は3月初め、米軍によるイエメンのアンサールッラー(フーシ派)に対する攻撃を議論する国家安全保障チームの高官たちが参加する民間の通信アプリ「シグナル」のチャットルームに、誤ってアトランティック誌の記者を招待した「シグナル・ゲート」をきっかけに退陣の圧力を受けていたが、トランプ大統領は同氏の更迭を拒否していた。同紙は、ウォルツ氏更迭の背景には、彼が任期当初から米国の海外軍事介入を好む伝統的タカ派の見解を主張し、ホワイトハウス内外で他の官僚らと衝突していた点にあると指摘した。(ハンギョレ54日付)

Q.「シグナル・ゲート」の当事者であるウォルツ氏がとうとう更迭された。トランプ氏の対外政策を後押しできなかったのが理由だったのであれば、シグナル・ゲートのときに更迭しておけばもっと格好がついたのではないか。

 

A.トランプ氏がシグナル・ゲートでウォルツ氏を更迭するとなると、国家の機密セキュリティーがずさんだったことを自ら認めることになり、都合が悪い。トランプ氏は2016年の大統領選挙の際、民主党のヒラリー・クリントン候補が国務長官を務めていた際に私用の電子メールを使ったとして猛攻撃を浴びせた。しかし、シグナル・ゲートは、ヒラリー氏の私用電子メールの使用よりひどいセキュリティー事故だ。これを認めたくなかったのだ。ただしシグナル・ゲートは、米国の海外軍事介入を主張する伝統的な共和党タカ派の見解を持ったウォルツ氏に対するトランプ氏の信任を決定的に失わせたようだ。

 

Q.ところでウォルツ氏はなぜ、トランプ氏とその支持層の不満を集めたのか。何を主張したのか。

A.トランプ氏は政権1期目の際には、伝統的な共和党主流の人物たちを外交安全保障チームに起用した。国務長官のレックス・ティラーソンに続きマイク・ポンペオ、国防長官にはジェームズ・マティス、大統領補佐官(国家安全保障担当)にはハーバート・マクマスターに続きジョン・ボルトン、ホワイトハウス首席補佐官にはジョン・ケリーなど、共和党主流の要人もしくはネオコンを起用した。彼らは国際秩序における米国の責任と覇権を重視し、そのためには米国の海外軍事介入もためらわなかった。第1次トランプ政権内で「大人の軸」と呼ばれた彼らは、対外政策でトランプ氏と衝突し、最終的には全員辞任した。事実、トランプ氏が強引に進めた北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長との首脳会談が実を結ばなかったのは、ボルトン氏らの妨害が原因によるものだった。

 トランプ氏は、国際秩序維持に米国が責任を負い、費用を支払う必要があることに同意しない。そのため、米国の海外軍事介入には懐疑的だ。これは、トランプ氏を支持する米国の中下流層の白人が主軸である「米国を再び偉大に(MAGA)」陣営の見解だ。そのため、トランプ氏は大統領再選後、外交安全保障チームをトランプ主義者でほぼ固めた。就任前から息子のトランプ・ジュニア氏はネオコンを政権から排除すると公言していた。実際にトランプ氏は、入閣が期待されていたマイク・ポンペオ氏やニッキー・ヘイリー氏らはあえて起用しないと発表した。かわりに、国防長官にフォックス・ニュースの司会者出身で熱烈なMAGA支持者であるピート・ヘグセス氏、国務長官には共和党タカ派からトランプ忠誠派に転向したマルコ・ルビオ氏を起用する一方、ホワイトハウスと国防総省・国務省の実務官僚や幹部もトランプ主義者で固めた。

 陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の隊員を務め、ジョージ・ブッシュ政権の官僚出身のウォルツ氏は、今回の事件前から、トランプ氏の路線に反する見解を示しており、対立があったと報じられた。シグナル・ゲートの直後にウォルツ氏がアフガニスタンとシリアからの米軍撤収に反対し、米国によるウクライナ防衛を支持するなど、トランプ氏の現在の外交・安全保障政策に反していた事実が、敵対者によって暴露され広められた。ウォルツ氏は、共和党内でトランプ氏を最も強く非難した政敵であるリズ・チェイニー前下院議員とは安全保障関連の法律の制定で一緒に仕事をしており、2016年の大統領選挙の際に「トランプを阻止すべき」と発言している動画などが拡散された。トランプ氏としては、第1次政権のときに起用した伝統的な共和党主流あるいはタカ派の人たちとの対立を再現させまいとして、ウォルツ氏を更迭したとみるべきだろう。

Q.トランプ氏が就任からわずか100日ほどで、最高の要職である大統領補佐官(国家安全保障担当)を更迭したのは、それだけトランプ氏の対外政策が混乱していることを物語っているのではないか。

A.そうみなすこともできるが、米国の保守陣営や対外政策において、トランプ氏とMAGA陣営の掌握力が確固たるものになっているという側面の方が重要だと思われる。トランプ氏は政権1期目のときは、ほぼ任期終了近くまで共和党主流派の人物たちを起用して頼りにした。しかし今回は、任期初めからすべての政権閣僚と実務官僚をトランプ主義者で固め、伝統的な観点でみれば穏健派とも言えるウォルツ氏までも切った。

 ウォルツ氏の更迭前に、すでに外交・安保分野では粛清が進められていた。トランプ氏は4月初めに、国家安全保障局局長であり、サイバー司令部司令官であるティモシー・ホーク空軍大将、国家安全保障局のウェンディ・ノーブル副局長、国家安全保障会議(NSC)内の国際機構局長ら局長級4人など、少なくとも10人の外交・安保の高官を解任した。トランプ氏はホーク局長を解任した当日に「われわれはいつでも人を交替する」としたうえで、「われわれが好まなかったり、利益を得ようとしたり、他人に忠誠を尽くそうとする人たち」が対象だと述べ、この解任が粛清作業であることを示唆した。

 特にトランプ氏は、側近であり極右の陰謀論者であるローラ・ルーマー氏に会った後、ルーマー氏の助言で粛清を進めたと、米国メディアは報じている。ルーマー氏はXなどのソーシャルメディアで、ホーク将軍と副局長のノーブル氏はトランプ政権に非協調的であり、忠誠心が足りなかったと主張した。ルーマー氏はマーク・ミリー前統合参謀本部議長を反逆者だと主張しているが、ホーク将軍はミリー氏によって起用され、ノーブル副局長はトランプ氏の批判者であったジェームズ・クラッパー前国家情報局長と近い関係という点も問題にされた。

Q.ならば、ウォルツ氏の更迭はトランプ政権の外交・安保チームがトランプ主義者一色に変わる変曲点になるのだろうか。

A.トランプ氏が2016年の共和党大統領候補の選出によって米国の保守陣営に勢力を伸ばして以来、政府と共和党では対外政策をめぐり覇権主義者(primacist)、優先主義者(prioritizer)、抑制主義者(restrainer)という3グループが角逐してきた。抑制主義者や優先主義者の位置づけがさらに固まったと言えるだろう。

 伝統的な共和党の主流路線である覇権主義者は、米国が世界的な指導力と軍事力を維持でき、維持し続けなければならないとする立場だ。上記のとおり、これらの人々は第2次トランプ政権発足後にほとんどが排除されたうえ、ウォルツ氏の更迭によって決定的な打撃を受けた。しかし、共和党内では依然として勢力を保っている。優先主義者は、中東と欧州から米国の介入と役割を撤退させ、中国への対処に集中すべきだとするグループだ。抑制主義者は、海外における米国の軍事介入を可能な限り縮小し、自制すべきだとする立場だ。

 抑制主義者の代表的人物としては、米国の情報機関を総括する国家情報局長に起用されたトゥルシー・ギャバード氏、JD・バンス副大統領、ランド・ポール上院議員、スティーブン・バノン元ホワイトハウス首席戦略官、北朝鮮担当特使と言えるリチャード・グレネル特使らがいる。優先主義者としては、理論的リーダーであるエルブリッジ・コルビー国防総省政策次官、ジョシュ・ホーリー上院議員が代表格だ。コルビー氏は在韓米軍を北朝鮮抑止でなく中国との対決に回すべきだとまで主張している。

Q.優先主義者や抑制主義者の勢力拡大が対外政策に及ぼす影響は何か。

A.優先主義者と抑制主義者は、トランプ氏のMAGA運動が勢力を拡大するなかで、自分たちを「米国第一主義の保守現実主義者」だと称する勢力が分化していったとされる。そのため、優先主義者と抑制主義者の境界は実際にはあいまいだ。優先主義者の理論的リーダーであるコルビー氏は、米国は中国に集中すべきだが、台湾をめぐって中国との戦争まで辞さないとする考えには懐疑的な抑制主義者だという点によく表れている。

 特に国防総省では、マイケル・ティミノ中東担当副次官補をはじめ、ジョン・アンドリュー・バイヤーズ南アジア及び東南アジア担当副次官補、オースチン・ダーマー戦略担当副次官補、コルビー次官のシニアアドバイザーを務めるアレクサンダー・ベレズ=グリーン氏など、優先主義者と抑制主義者を行き交う人たちが、中心的な実務官僚に配置された。ウォルツ氏の更迭は、これらの者たちの影響力をさらに強化するとみられる。しかし何より、対外政策においてはトランプ氏本人の独走がよりいっそう進むのは明らかだ。トランプ氏にとっては、対外政策の決定と執行を調整する国家安全保障担当の大統領補佐官とNSCの必要性がいっそう下がったためだ。

チョン・ウィギル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 古村治彦です。

※2025年3月25日に最新刊『トランプの電撃作戦』(秀和システム)が発売になりました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
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 第2次ドナルド・トランプ政権は、発足後100日を過ぎて、イーロン・マスクが政権を離れるという報道が出るなど、ひと段落を突けるという状況になっている。政権内部の影響力争いもあり(特に高関税政策において)、マスクが外れ、誰がトランプ大統領に対して影響力を持つかが分からない状況になっている。当初の怒涛の勢いはさすがに続かない。しかし、連邦政府の縮小と関税交渉はこれからなお続く。

 下記論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは、ジェイムズ・スコットの傑作『国家のように見る:人間の状態を改善するための特定の計画はいかにして失敗したか(Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed)』を敷衍して、トランプ政権が政策に失敗するであろうと予測している。スコットは著書の中で、重大な政策の失敗の原因を 「抑制されない権力(unchecked power)」と「強力な「ハイモダニズム」イデオロギー(“high modernist” ideologies)、つまり合理的かつ準科学的な基盤に基づいているとされる世界観に導かれていたこと」に求めており、結果として、「これら2つの要素が組み合わさると、自信過剰で、細部に頓着せず、地域の状況に無関心で、反対圧力にも動じない指導者が生まれる。このような状況下では、政府は自らの自覚すらなく、甚大かつ永続的な損害を与える可能性がある」としている。ウォルトは、トランプが抑制されない権力を求めているが、ハイモダニズム・イデオロギーには基づかないとしている。そして、以下のように書いている。「白人キリスト教ナショナリズム(ピート・ヘグゼスなど)の宗教的過激主義(the religious extremism)と、シリコンバレーのテクノ・リバタリアン的未来主義[Silicon Valley techno-libertarian futurism](イーロン・マスクなど)が融合しているからである。前者は多様性への攻撃、女性や少数派の権利を後退させようとする動きの原動力であり、後者は政府の制度や政策に対する軽率な破壊工作の背後にいる。この運動のどちらの勢力も、自分たちが神の意志を実行していると信じているか、あるいは自らを、テクノロジーを駆使して未来を操れる魔法使いだと信じているかのどちらかで、自らが正しいと確信している。彼らは大統領が全権を握ることに満足している。それは、彼らのユートピア的な(そして場合によっては利己的な)計画を実行するための手段だからだ」

 このウォルトの分析は需要だ。それは、トランプ政権内部の大きなグループ分けを示しているからだ。白人ナショナリズムとテクノリバータリアニズムの同居ということになる。これら2つのグループが呉越同舟である時は良いが、問題は、トランプ政権の施策が人々の支持を失う時だ。トランプ政権の施策はアメリカ国民を甘やかすものではない。「製造業の雇用を作れと言うからそのようにしている。実際にあなたたちはきちんと働いて、諸外国の労働者と競争しなくてはいけない(あなたたちは自分たちが世界一の労働者だと言っているのだからできるだろう)」ということになる。しかし、アメリカを外から眺める目で見てみれば、アメリカの労働者が世界一の質であるなどと考える人は少数だろう。

 状況が悪化していけばおそらく仲間割れを起こして、政権内は混乱するだろう。そうなったときに、トランプがどのような選択をするかである。トランプが3期目を目指すという話も出ているが、彼はそこまでは自分の仕事ではないと思っているはずだ。泥船のアメリカを劇的に救うことなど神様でもない限りできないだろう。そんな仕事を後7年もやるなんて、そんなバカげたことはない。トランプは何とか条件を整えるだけで精一杯だろう。そして、アメリカ国民は失敗してしまうだろう。そして、アメリカは世界覇権国の座から退いていく。それが国家の繁栄と衰退のサイクルということになるだろう。

(貼り付けはじめ)

アメリカは自らの最大の敵だ(America Is Its Own Worst Enemy

-強大な国家が自らの足を撃つことは前例のないことではない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年2月12日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/02/12/trump-democracy-america-own-worst-enemy/

外交政策や国際安全保障を取り扱っている私たちは、主に外部からの脅威と、それを最小化し、抑止し、打ち負かすために何ができるかに焦点を当てがちである。しかし最近、私は奇妙な理由から、指導者が自ら愚かな行動(a foolish course of action)を選択し、手遅れになるまで軌道修正することができないか、あるいはしようとしない場合に、国が自らに与える甚大な損害について考えている。

もちろん、国家には外敵を心配する十分な理由がある。外敵の危険を真剣に受け止め、それらに知的に対応することを怠れば、痛ましい結果を招きかねない。自己満足も危険の1つだが、不必要な戦争を仕掛けて外的危険に過剰反応する国も、第二次世界大戦でドイツや日本が、イラクでアメリカが、そしてウクライナでロシアがしたように、大きな代償を払うことになる。したがって、私のような人間が国際的な問題を評価し、それに対処する様々な方法を提案することに多くの注意を払うのは当然のことである。

しかし、誤った外交政策や国家安全保障政策だけが国家が問題に陥る原因ではない。毛沢東が率いた、気まぐれで強引な中国共産党指導部は、40年近く経済発展を阻害し、1958年の大躍進政策(the Great Leap Forward)や1960年代の文化大革命(the Cultural Revolution)といった愚かな運動は何百万人もの不必要な死をもたらし、中国を本来よりもはるかに貧しく弱体化させた。ヨシフ・スターリンによる集団農業の強制(collectivized agriculture)はソ連でも同様の影響を及ぼし、ニキータ・フルシチョフによる、1950年代の考えなしの「処女地」計画(“Virgin Lands” program)も同様の影響を及ぼした。アルゼンチンは20世紀初頭には1人当たりの所得が世界第12位を誇り繁栄していたが、数十年にわたる政治の機能不全と度重なる政策ミスが発展を阻み、度重なる経済危機を引き起こした。ヴェネズエラはかつて南米で最も豊かな国だったが、ウゴ・チャベスとニコラス・マドゥロ政権の無能な指導力によって経済は破壊され、数百万人が国外に逃れる事態となった。これらの惨事の主たる責任は外国の敵ではなく、ほぼ全てが権力者たちが負うべきだ。

同様に、いかなる外国の敵がアメリカに対して、アメリカが自らに与えたほどの損害を与えたとは言い難い。死傷者数で言えば、南北戦争は依然としてアメリカ史上最も犠牲の大きい紛争である。アルカイダは2001年9月11日に約3000人を殺害し、数十億ドルの物的損害を引き起こしたが、世界的な対テロ戦争は、はるかに多くのアメリカ人の命と莫大な費用を費やす結果となった。1990年以降、100万人以上のアメリカ人が銃による暴力で亡くなっている。これは他のどの先進国よりも人口に占める割合がはるかに高い。そして、この悲惨な統計は、もっぱら国内政策の決定によるものだ。少なくとも50万人の死者を出したオピオイド危機は、主に製薬会社の強欲の結果であり、現在のフェンタニルの危険性は、薬物乱用を公衆衛生問題ではなく、外国の犯罪者に対する戦争として扱うという長年の傾向に大きく起因している。アメリカが中国の世界貿易機関(WTO)加盟を時期尚早に支持したり、金融業界の規制緩和を強制して金融危機を不可避にするような事態を招いたりした外国人は誰もいない。また、外国の敵が次の危機の引き金となり得る仮想通貨やミームコインの熱狂を煽っている訳でもない。

この状況はそれほど驚くべきものではない。アメリカは豊かで強力であり、地理的にも有利なため、いかなる外国勢力もアメリカに、アメリカが自らに与えるほどの損害を与えることは難しい。そこで当然の疑問が浮かぶ。アメリカの指導者が自国に打撃を与える可能性を高める条件とは一体何なのか?

以前にも述べたように、この問題を最もよく理解するための手引きの1つは、故ジェイムズ・スコットの傑作『国家のように見る:人間の状態を改善するための特定の計画はいかにして失敗したか(Seeing Like a State: How Certain Schemes to Improve the Human Condition Have Failed)』である。本書は、各国が自らの判断で、これらの政策が劇的で好ましい結果をもたらすと確信し、破滅的な政策を実行した一連の事例を検証している。

ジェイムズ・スコットは、これらの重大な政策の失敗は主に2つの要因に起因すると主張する。1つ目は、抑制されない権力(unchecked power)である。これらの国の指導者たちは、やりたいことを何でも自由に行うことができ、彼らに誤りを正すよう強制できる強力な機関は存在しなかった。2つ目は、これらの指導者たちは、強力な「ハイモダニズム」イデオロギー(“high modernist” ideologies)、つまり合理的かつ準科学的な基盤に基づいているとされる世界観に導かれていたことである。スターリンと毛沢東の両方を導いたマルクス・レーニン主義は、社会問題に対する唯一の真の答えを提供すると主張した点で、まさにその好例である。これら2つの要素が組み合わさると、自信過剰で、細部に頓着せず、地域の状況に無関心で、反対圧力にも動じない指導者が生まれる。このような状況下では、政府は自らの自覚すらなく、甚大かつ永続的な損害を与える可能性がある。

さて、話を今日のアメリカ合衆国に戻そう。スコットの洞察は、私たちの目の前で展開している出来事について何を示唆しているのだろうか?

良いことは何もない。

ドナルド・トランプ大統領が抑制されない行政権を望んでいることは今や明白であり、連邦下院も連邦上院も、合衆国憲法が連邦議会に与えている権限を奪取しようとする政権の試みに抵抗する意志も能力も持ち合わせていないようだ。資格のない閣僚任命を承認すること自体が懸念材料だが、政府支出に関する権限を放棄することはさらに深刻だ。

裁判所はこの権力掌握を阻止するだろうか? おそらくそうするだろう。しかし、最高裁判事の過半数が行政府の権限拡大を支持しており、連邦最高裁判所がトランプの行動を阻止するほどの力を発揮するとは思えない。それでは、もし阻止しようとしたらどうなるだろうか? 重要な訴訟で最高裁が政権に不利な判決を下し、トランプが任命した職員に判決を無視して命令を実行するよう命じたとしよう。一部のキャリア官僚は従わないかもしれないが、休職処分や解雇の対象になる可能性がある。FBI、司法省、シークレットサーヴィス、連邦保安官、軍が最高司令官の命令に従うのであれば、ジョン・ロバーツやエレナ・ケーガン、その他の判事たちは、特に任命された職員が、後に法的トラブルに巻き込まれたとしても大統領が恩赦を与えてくれると知っていたとしたら、行政府の行動を阻止するために何をするだろうか?

第二に、政権の指針となっているのは、知識の限界、予期せぬ結果の必然性、現代社会の複雑さ、あるいは地域事情を考慮する必要性(スコットなら助言しただろう)といった認識ではなく、共産主義者やファシスト、その他の狂信者たちと同様に、自分たちがあらゆる問題に対する唯一の真の答えを持っているという信念である。これはスコットが用いた意味でのハイモダニズム(high modernism)とは全く異なる。白人キリスト教ナショナリズム(ピート・ヘグゼスなど)の宗教的過激主義(the religious extremism)と、シリコンバレーのテクノ・リバタリアン的未来主義[Silicon Valley techno-libertarian futurism](イーロン・マスクなど)が融合しているからである。前者は多様性への攻撃、女性や少数派の権利を後退させようとする動きの原動力であり、後者は政府の制度や政策に対する軽率な破壊工作の背後にいる。この運動のどちらの勢力も、自分たちが神の意志を実行していると信じているか、あるいは自らを、テクノロジーを駆使して未来を操れる魔法使いだと信じているかのどちらかで、自らが正しいと確信している。彼らは大統領が全権を握ることに満足している。それは、彼らのユートピア的な(そして場合によっては利己的な)計画を実行するための手段だからだ。

数週間前、私は「トランプのピーク」が既に到来しつつあると述べ、政権が当初立て続けに打ち出した大統領令や突飛な提案は、最終的には裁判所、連邦議会、そして日々の統治の現場で行き詰まるだろうと予測した。しかしながら、連邦議会がトランプの行動に承認を与えることに甘んじ、裁判所の動きは鈍く、第四権力は分裂して無知であり、大学や有力な専門家団体は身を守ろうとしているように見えることから、既存のアメリカの諸機関がその任務を果たせるかどうかについては、ますます自信を失っている。高校の社会科の授業で習った抑制と均衡(the checks and balances)の仕組みは、今のところあまりうまく機能していないようだ。

この取り組みを崩壊させる可能性が高いのは、組織的かつ非暴力的な市民の抵抗とともに、現実世界での出来事だろう。白人のキリスト教ナショナリストとテック・ブラザーズとの間の便宜的な結婚(the marriage of convenience between the white Christian nationalists and the tech bros)は長続きしないかもしれない。特に、国内情勢が膠着し始め、トランプ大統領が非難するスケープゴートを必要とした場合(あなたのことだよ、イーロン)。もっと重要なのは、政権が現在進めている政策が、何百万人もの人々に深刻な悪影響を及ぼすということだ。連邦政府の予算が枯渇し、庶民は職を失い、病院は削減され、基本的なサーヴィスは脅かされる。中国の大学や研究機関が新たな高みへと急上昇しているように見える今、科学研究は機能不全に陥るだろう。かつては頼もしい親米だった国々も距離を置き始め、新たな市場や、場合によっては新たな友好国を探し始めるだろう。トランプ大統領の関税フェチが完全には実行に移されないとしても、国内外の企業は彼の予測不可能性を警戒し、脆弱性を減らすことに目を向けるだろう。私たちが向かうかもしれない先についての恐ろしい予測は、ノーベル賞受賞者ダロン・アセモグルが『フィナンシャル・タイムズ』紙に寄稿した、あまりにも現実的なエッセイをご覧いただきたい。

スコットや他の著名な学者たちが警告しているように、抑制のきかない権力の危険性は、独裁者が(部下や下僕が言わないために)自分たちの政策が失敗していることに気づかない可能性があること、そして、たとえ言われたとしてもそれを止められる立場にある者が誰もいないことだ。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が、トルコ経済に甚大なダメージを与える異例の経済政策を追求するのを誰も止めることができなかった。最終的に軌道修正を余儀なくされたのは、高騰するインフレと世界市場の反応だった。

アメリカの民主政治体制、アメリカ経済、そして過去の成功の原動力となった知識生産機関へのダメージが修復不可能になる前に、事態が一刻も早く悪化することを願ってやまない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント: @stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

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