古村治彦です。
今回は2つの論稿をご紹介する。1つ目は、ジョー・バイデンが今年9月に国連総会で演説したことを受けて書かれたものだ。創設75周年を迎える国連の総会での演説の中で、バイデンはアメリカの外交努力と成果を強調したが、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争に関しては、聴衆となった各国代表団からの反応は薄かった。世界は既に、アメリカが世界の諸問題解決には無力な存在になっていること、国連もまた形骸化し、第一次世界大戦後から第二次世界大戦直後まで存在した国際連盟のようになっている。国際的な諸問題を解決する場所ではなく、対立を激化するだけの場所になっている。
2つ目の論稿はジョー・バイデンが大統領選挙を継続し、再選に意欲を見せていた時期に書かれたものだ。重要なのは、大統領の健康状態はアメリカの外交政策に影響を与えるのかということだ。論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは歴史上の具体例を挙げて次のように指摘している。ウッドロー・ウィルソン大統領のように病状が隠され、他国がその無能力を利用することはなかったケースもあれば、フランクリン・ルーズヴェルト大統領のように身体的な衰弱が交渉に影響を与えたケースもある。一方で、アイゼンハワーやケネディのように、病気があっても政策に大きな影響を与えなかった大統領もいる。
これらの事例から、大統領の障害が必ずしも外交政策に影響を及ぼすわけではないということになる。
アメリカの外交政策の立案や実行は大統領個人に依存しておらず、ティームによって支えられている。また、既存の外交政策エスタブリッシュメントによってその意向が制約されることもある。ウォルトは他国が大統領の力の弱さ、健康状態の悪さを利用することがあると指摘している。現在のイスラエルがまさにそうだ。イスラエルは、ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、これらの組織を支援するイランに対する戦争に進もうとしている。戦争の段階を引き上げて、最悪の場合には核戦争になるかもしれないという非常に危険な動きをしている。イスラエルはアメリカのジョー・バイデン大統領と政権が動けないことを見越して、このような動きに出ている。これは、バイデン政権のレイムダック化(無力化)がもたらしていることだ、
国連が既に形骸化し、アメリカが中東の平和を保つことさえ難しいほどに無力化していることは現在の世界構造が大きく変化していく前兆を示している。私たちはそのことをきちんと認識しなければならない。
(貼り付けはじめ)
バイデンを置き去りにする世界(The World Is Leaving Biden
Behind)
-ジョー・バイデン大統領は国連(United Nations)での祝辞の中で、中心の維持を宣言した。しかし、物事は彼が追いつくよりも速く崩壊している。
マイケル・ハーシュ筆
2024年9月24日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/09/24/the-world-is-leaving-biden-behind/
ニューヨーク市の国際連合本部での国連総会で壇上から降りる際に手を振るジョー・バイデン米大統領(9月24日)
演壇のどちらの側でも、特に温かい別れはなかった。
火曜日に国連総会(U.N. General Assembly)で祝辞を述べたジョー・バイデン米大統領は、自身の半世紀に及ぶ公務について語り、自分の年齢について今ではもう聞き飽きたジョークを飛ばし、ほどほどの笑いを誘った。「自分がまだ40歳にしか見えないのは分かっている」とバイデンは言った。しかし、楽しかったのはそれだけだった。バイデンはその後、今後の世界的な課題についてぼんやりと話し始め、各国の国連代表団はほんのわずかな拍手でそれに応えた。彼がウクライナの防衛と中東戦争の終結について語ったとき、彼がアフガニスタンからの撤退を擁護したとき、沈黙があった。
バイデンのスピーチで最も印象に残ったのは、間違いなく終盤、81歳での再出馬を断念したことを示唆し、次のように宣言した場面だろう。「仲間の指導者たちの皆さん、政権を維持することよりも重要なことがあることを決して忘れないで欲しい。バイデンはこの台詞に持続的な拍手を受けたが、会場にいた多くの国の代表が、どんな犠牲を払っても権力の座に留まろうと必死な独裁者に率いられている現状を考えると、これはむしろ皮肉なことだった。
しかしその後、バイデン大統領がタートルベイの実際の舞台であり、同時に世界の舞台でもある舞台から降りるよう案内されると、別のことが明らかになった。バイデンが大統領として回復し再活性化することを望んでいた、破綻した世界システムは、ほぼ彼を追い越したのだ。それだけではない。大統領就任まで残り4カ月となったバイデンには、現在激化している血なまぐさい紛争を解決する見込みがほとんどない。アメリカの外交官がヒズボラの抑制をほぼ諦めている中、イスラエルがレバノンのヒズボラを攻撃し、紛争は日に日に激化している。ウォルター・ラッセル・ミードは月曜日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「バイデンは外交が大好きかもしれないが、外交は彼を愛してくれない(Biden may love diplomacy, but diplomacy doesn’t love him back)」と書いた。
そうではなく、国連そのものが、そして国連がかつて象徴していたもの全てが、かつての国際連盟(League of Nations)のように無用の存在になりつつあるということだ。一方はアメリカ、もう一方はロシアと中国である。つまり、国連安全保障理事会(U.N. Security Council)の拒否権(veto)を持つ5カ国のメンバーのうち3カ国が、国連を再び大国のサッカーのフィールドであり、対立と果てしない膠着状態の場としている。この状況は、ソ連がほとんど全てに拒否権を発動していた冷戦の最盛期を彷彿とさせる。(マーシャル・プランと朝鮮戦争決議ではソ連代表団は両日とも欠席し、キプロスなどでの小規模な停戦監視任務など、いくつかの重要な例外はあるが、拒否権発動が多く行われた。
国連総会に関しては、かつて人類の議会(the Parliament of Man)として神格化されていた(apotheosized)この組織は、地域政治や小国の演説や些細な馴れ合い、そしてしばしば反イスラエルの暴言によって、これまで以上に機能不全に陥った場所となっている。かつては、1975年にアラブ諸国がシオニズムを人種差別と決めつけた決議案がその象徴だった。火曜日、バイデンに続いて登壇したトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と彼の「大量殺人ネットワーク(mass murder network)」をアドルフ・ヒトラーになぞらえた暴言を吐いた。エルドアンはまた、安全保障理事会とその常任理事国5カ国を非難し、「世界は5カ国よりも大きい(The world is bigger than five)」と述べた。
バイデンは自身のスピーチで、今日の不安定な世界情勢を、彼が29歳で初めて連邦上院議員に当選し、ヴェトナム戦争と冷戦がまだ続いていた頃と比較しようとした。バイデンは次のように述べた。「アメリカと世界はあの時を乗り越えた。簡単でも単純でもなかったが、大きな失敗もなかった。しかし、軍備管理を通じて核兵器の脅威を減らし、冷戦そのものを終結させることができた。イスラエルとエジプトは戦争に突入したが、その後歴史的な和平を結んだ。私たちはヴェトナム戦争を終結させた」。
「私は歴史の驚くべき広がりを見てきた」とバイデンは宣言し、公職に就いたときと同じように楽観的に公職を去ると語った。そしてバイデンは、ウィリアム・バトラー・イェイツの有名な詩「再臨(The Second Coming)」を引用し、「単なる無政府状態(mere
anarchy)」が「世界に放たれ(loosed upon the world)」、「中心(the center)」が保てなかった第一次世界大戦の時代よりは、今日の混乱があっても状況はましだと述べた。
バイデンは「決定的な違いが見られる。私たちの時代でも、中心は維持されてきた」と述べた。バイデンは、自身のリーダーシップの下、世界はここ100年で最悪のパンデミックに対して、「ページをめくった」と述べ、ウクライナにおける国連憲章を擁護し、アメリカは気候変動とクリーンエネルギーに対して史上最大の投資を行ってきたと述べた。バイデンは「私たちを引き離す力よりも、私たちを結びつける力の方が強いことを確認して欲しい」と述べた。
それは、現在のところ、バイデンと彼のティームが追いつくよりも早く、物事がバラバラになっているように見えるからだ。
国連創設に関する著書『創造の行為(アクト・オブ・クリエイション)』の著者スティーヴン・シュレジンジャーは、「これは遺産となる演説だった。バイデンは、政権が国連憲章への関与を精力的に示してきたことを強調し、最も重要なのは、ロシアによるウクライナへの残酷かつ違法な侵略に対するウクライナの防衛を支援することだった」と語った。伝統的なリベラルな民主党大統領として、バイデンはまた、世界の保健福祉、食料不安、干ばつ、貿易とテクノロジー、サイバースペースに関する規範、企業に対する世界最低税(global minimum tax)、インド太平洋の安全保障など、組織内での主要優先事項のリストにチェックを入れた。また、枠組み、サプライチェーン、債務免除、人権、テロリズムを重視した
しかし、結局のところ、「バイデンは新しい政策を提示しなかった」とシュレジンジャーはEメールで語った。彼は続けて次のように述べた。「ウクライナでもガザ地区でも、和平解決についての新しいアイデアを提示することはなかった。また、国連がこれらの危機に対処できなかったことを非難することもなかった。バイデンの演説は何かを変えるものではなく、世界の舞台における組織の重要性をアメリカ人に再認識させ、将来のアメリカ大統領に目印を残すための努力の行為であった」。
実際、軍事的覇権(military hegemony)から外交に移行しようとするバイデンの努力は、ほとんどの戦線で失敗しており、ミードが指摘するように、中東以外の分野では失敗している。
「アメリカの歴史上、これほど中東外交に力を入れた政権はない」とミードは書いた。ミードは続けて次のように書いている。「しかし、アメリカの歴代政権の外交官がこれほど成功しなかったことがかつてあっただろうか?
バイデンはイランをアメリカとの核合意に戻そうと試みたが失敗し、イスラエルとパレスティナの新たな対話を軌道に乗せようとしたが失敗した。彼はスーダンの内戦を止めようとしたが失敗した」
一部の外交筋によれば、特にネタニヤフ首相はもはやバイデンらの言うことなどまったく聞いていない。その代わり、イスラエルはカマラ・ハリスであれ、ドナルド・トランプであれ、次の米大統領が就任するまでエスカレートした戦争を続けるだろうとの見方が中東には強いという。イスラエル人にとってもアラブ人にとっても、ある外交官が言うように「バイデンに何らかの勝利を与えても政治的利益はない(here is no political gain in giving Biden any kind of victory)」のだ。
国連そのものについては、追悼記事(obituaries)を書くにはまだ早すぎる。国際連盟は第二次世界大戦の勃発とともに休止状態に入ったが(正式に解散したのは1946年)、国際原子力機関や国連開発計画など、国連の諸機関は今も世界の安定を守るために重要な役割を果たしている。毎年開催される国連気候変動会議もまた、不可欠なフォーラムである。そして、国連が果たすべき役割、つまり世界的な集団安全保障の維持という、国際主義者の一部が信じている役割において、国連が完全に失敗していることは事実であるが、世界機関は第三次世界大戦を防ぐために一役買ってきたし、またそうするかもしれない。
シュレジンジャーはそのように主張する。「国連は、過去75年間で最大かつ最も危険な対立、キューバ危機の解決に直接的な役割を果たした」と、彼は2020年の国連創設75周年に際してのインタヴューで私に語った。実際、当時のアドレイ・スティーヴンソン米国連大使は、キューバにロシアのミサイルがある証拠を突きつけ、安全保障理事会でソ連国連大使に「あなたは今、世界世論の法廷に立っている」と言い放ち、米ソ間の核戦争を回避することに貢献した。
現在、ロシアや中国とそのような対立が差し迫っている訳ではないが、ホワイトハウスは今週発表したファクトシートで次のように指摘している。「私たちは国連総会で141カ国を集め、ロシアの国際法違反を非難した。私たちは国連安全保障理事会の討論を利用して、ロシアの違法な戦争と残虐行為にスポットライトを当てた。国連人権理事会からロシアを追い出すよう国連総会に迫った。私たちは、国連の幹部人事を拒否し、国連諸機関への選出を阻止することで、ロシアを孤立させた」。
シュレジンジャーは、より大規模な戦争に発展しかねない地域紛争や地方紛争を防ぐため、国連が平和構築の役割を果たした事例を、その歴史の中で30件ほど数えている。アンゴラ、カンボジア、クロアチア、グアテマラ、モザンビーク、ナミビア、セルビア、南アフリカなどである。国連はまた、ワシントンが指揮を執ることに関心がなく、めったに話題にならないような人道支援プロジェクト(ガザ地区における評判の悪い国連救済事業機関など)のための連絡機関としての役割も果たしている。
しかし、11月5日に誰が次期米大統領に選出されるかに大きく左右されるだろう。ハリスは一貫して国連憲章に具体化された国際ルールや規範の擁護を主張してきたが、トランプはそれを軽視する傾向にある。好むと好まざるとにかかわらず、国連は、将来の中国、イラン、ロシアを国際システムに取り込むための、あるいは少なくとも国際システムに残された唯一の現実的なフォーラムである。
※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻勢:ワシントンの賢人たちはどのようにしてアメリカの未来をウォール街に渡し、我々自身と戦争を行ったのか(How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall
Street and At War With Ourselves)』と『何故アメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』の2冊の本の著者でもある。ツイッターアカウント:@michaelphirsh
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バイデンの弱さはアメリカを危険に晒すことはない(Biden’s Frailty
Doesn’t Endanger America)
-大統領の体の弱さが国家をより脆弱にしない理由を挙げる。
スティーヴン・M。ウォルト筆
2024年7月11日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2024/07/11/bidens-old-frailty-election-national-security-america/
彼はやるのか、それともやらないのか? 最近のアメリカ政治で最も注目されているのは、ジョー・バイデン大統領が2024年の大統領選挙から撤退するのかどうかということだ。バイデンはこれまでその呼びかけに反抗してきたが、彼と民主党が最終的にどう決断するか、あるいはそれが11月の選挙にどう影響するかは誰にも分からない。政治評論家たちは、この騒動の主な受益者であり、今や悪名高い6月27日の討論会以来、政治的なスペクトルを超えたコメンテイターたちが残業して走り書きをしている。
バイデンの討論会でのパフォーマンスを受けて、あまり注目されなくなった疑問は、彼の身体的・認知的な限界が、現実のものであれ、認識されているものであれ、アメリカの外交政策そのものに何らかの影響を与えるかどうかということである。彼がカマラ・ハリス副大統領を支持して大統領職を辞任しないと仮定すると(私はその可能性は極めて低いと考えている)、バイデンは少なくとも2025年1月20日までは大統領であり続けることになる。その間におよそ6カ月、つまり大統領任期の8分の1がある。敵対国、さらにはアメリカの同盟国の一部が、もはや最善の策を提示していないと信じている大統領を利用しようとする可能性があるだろうか?
歴史を見てみると、その判断は様々だ。ウッドロー・ウィルソン大統領(当時)は1919年10月に体を衰弱させる脳卒中を患ったが、彼の妻と医師はその病状を隠しており、外国がウィルソンの無能力を利用しようとすることはなかった。
一方、フランクリン・ルーズヴェルト大統領は、1945年4月に致命的な脳卒中で倒れるまでの数年間、明らかに衰弱しており、その2ヵ月前に開催されたヤルタ・サミットでは、力の衰えによって交渉の効率が大幅に低下していた可能性がある。ドワイト・アイゼンハワーは1955年9月に深刻な心臓発作に見舞われたが、政府運営に影響はなく、1956年に再選を果たし、2期目を成功のうちに終えた。ジョン・F・ケネディはアジソン病とその他いくつかの深刻な病気を患っていたが、この隠れた病気は公私ともに彼の活動に支障をきたすことはなかったようだ。
リチャード・M・ニクソン大統領は、1973年のアラブ・イスラエル戦争中、当時のエドワード・ヒース英首相からの電話に出ることができず、キッシンジャー米国務長官や他の高官に重要な決断を委ねたと伝えられている。また、ロナルド・レーガンは2期目の任期中にアルツハイマー病の初期段階にあったかもしれないが、その病状がアメリカの政策や他国の行動に大きな影響を与えたという証拠はほとんどない。
これらの例を見ると、大統領の障害は、人々が当初考えていたほど深刻な問題ではないことが分かる。アメリカの大統領が重要な存在であることは言うまでもないが、政策の立案や実行は決して大統領1人だけの責任ではない。全ての大統領にはティームがあり、様々なシナリオに対する政策の選択肢や可能性のある対応は、多くの場合、実施に先立って議論される。また、大統領に多少の障害があっても、部下(例えば、国務長官や国防長官、国家情報長官、国家安全保障会議議長など)が後を引き継ぐ。
また、若くて精力的な大統領であっても、外交政策機構のあらゆる側面を手なずけることはできない。「ブロブ(Blob)」(国家の外交政策分野のエスタブリッシュメント)には、大統領がやろうとすることを薄めたり、抵抗したり、方向転換させたりする、様々な方法がある。その結果、たとえ大統領が100%以下の力で行動していたとしても、敵対勢力はアメリカが直接的な挑戦に応じないと確信することはできない。実際、政権が挑発に過剰反応する可能性は、過小反応する可能性と同じくらい高く、単に大統領の状態が悪用されないことを示すだけである。
バイデンの状況がどうであれ、他の国家が既にヘッジをかけている(リスクを回避する)ため、バイデンの状況はそれほど重要ではない。アメリカの二極化(polarization)の現状と、いくつかの重要な外交政策問題についての民主党と共和党の間の鋭い相違を考えると、バイデン政権が今から11月までの間に行うかもしれない公約を重視する外国の指導者はいないだろうし、特にそれが共和党の推定候補者であるドナルド・トランプ前大統領の方向性と対立するものであればなおさらだ。
バイデンは明日、ホワイトハウス記者団全員の前で腕立て伏せを50回行い、円周率の小数点以下の最初の50桁を暗唱することもできるだろうし、他の政府もアメリカの保証に基づいて約束をする前に11月を待つことになるだろう。そして、たとえバイデンが30歳若かったとしても、今から選挙までの間に政権が大きな外交政策に着手するとは予想できないだろう。
十分に機能していない大統領が大きな影響を及ぼす可能性のあるシナリオを2つ考えてみよう。アメリカが、1962年のキューバ・ミサイル危機のような長期化し、大きなリスクを伴う課題に直面し、大統領が、ケネディ大統領が暫定的な「国家安全保障会議執行委員会(Executive Committee of the National Security Council、ExComm)」を通じて行ったような、長期化し、激しい審議を主導することができなかったと想像してみて欲しい。
あまり関与していない大統領であれば、最終的に異なる選択をするかもしれない(例えば、キューバに海軍の検疫を課すというケネディの決定は、空爆を開始するという最初の考えよりもはるかにエスカレートしていなかった)が、そのような選択がどうなるかを予測することは不可能である。先ほどの繰り返しになるが、潜在的な挑戦者は
潜在的な挑戦者は、もし大統領が内部の議論を積極的に誘導していなければ、アメリカの対応がより強硬になる可能性を考慮しなければならない。大統領が弱体化したからといって、必ずしも対応が弱くなるとは限らない。そうでないと考えるのは、大統領は常に、その大統領に仕える人々よりもタカ派で毅然としていると思い込むことであり、賢明な敵対者はそう思い込むべきでない。
精力的でなく、集中力も、有能でもない大統領は、より多くの努力を部下に委任する必要があり、現CIA長官ウィリアム・バーンズのような経験豊富で有能な交渉人でさえ、大統領と全く同じ権限で話すことはできないだろう。ただし、この違いは程度の問題である可能性がある。たとえ大統領が電話対応に多くの時間を費やすことができなかったとしても、アメリカ外交が行き詰まるわけではない。
更に言えば、トップの人物は不安定であるという認識が利点となる場合もある。もしアメリカの交渉担当者が相手に譲歩させようとしているなら、「大統領は年老いて自分のやり方に凝り固まっているし、この問題に関する彼の見解は決して変わらないだろう。あなたが私にもっと何かを与えない限り、私が彼を動かせる方法はない」と述べることができる。したがって、場合によっては、大統領が全盛期を過ぎたという認識をアメリカの外交官が利用できる巧妙なものになる可能性がある。
最後に、バイデンの今後6ヶ月間の職務遂行能力に対する疑念は、トランプがアメリカの外交政策を監督した際に示した資質とのバランスを取る必要がある。トランプ大統領の1期目に関するインサイダーたちの証言によれば、彼は不規則で、気まぐれで、細部に関心がなく、ほとんどの外交問題に持続的な注意を払うことができないと言われている。中国と対決する必要性、アフガニスタンからの撤退、ヨーロッパに国防を強化させる必要性など、いくつかの直感は正しかったが、その他の問題(環太平洋パートナーシップ、イラン核合意など)に対する彼の見解は不見識であり、彼が採用した政策の多くは約束通りに実現できなかったか、アメリカを弱い立場に追いやった。
「認知能力」が大統領の職務遂行能力を測るリトマス試験紙だとするなら、要するに、有力な候補者2人、トランプとバイデンのどちらにも熱意を持つのは難しいことになる。これが非常に多くのアメリカ人(1月時点で67%)が候補者たちを支持できないと答えた理由であり、更には民主党が支持者たちに選択肢を提供するくらいに賢明であることの理由である。もちろん、この選択肢にロバート・F・ケネディ・ジュニアは入っていない。良いニューズは、大統領の病弱さが、今から2025年1月までの間にそれほど大きな違いを生むことはないということだ。それ以降は、11月にどの政党が勝とうとも、全てはギャンブルのようなものだ。
※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt
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