古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:アメリカ外交

 古村治彦です。
sekaihakenkokukoutaigekinoshinsouseishiki001

※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になります。予約受付中です。よろしくお願いいたします。

 今回は2つの論稿をご紹介する。1つ目は、ジョー・バイデンが今年9月に国連総会で演説したことを受けて書かれたものだ。創設75周年を迎える国連の総会での演説の中で、バイデンはアメリカの外交努力と成果を強調したが、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス紛争に関しては、聴衆となった各国代表団からの反応は薄かった。世界は既に、アメリカが世界の諸問題解決には無力な存在になっていること、国連もまた形骸化し、第一次世界大戦後から第二次世界大戦直後まで存在した国際連盟のようになっている。国際的な諸問題を解決する場所ではなく、対立を激化するだけの場所になっている。

 2つ目の論稿はジョー・バイデンが大統領選挙を継続し、再選に意欲を見せていた時期に書かれたものだ。重要なのは、大統領の健康状態はアメリカの外交政策に影響を与えるのかということだ。論稿の著者スティーヴン・M・ウォルトは歴史上の具体例を挙げて次のように指摘している。ウッドロー・ウィルソン大統領のように病状が隠され、他国がその無能力を利用することはなかったケースもあれば、フランクリン・ルーズヴェルト大統領のように身体的な衰弱が交渉に影響を与えたケースもある。一方で、アイゼンハワーやケネディのように、病気があっても政策に大きな影響を与えなかった大統領もいる。 これらの事例から、大統領の障害が必ずしも外交政策に影響を及ぼすわけではないということになる。

アメリカの外交政策の立案や実行は大統領個人に依存しておらず、ティームによって支えられている。また、既存の外交政策エスタブリッシュメントによってその意向が制約されることもある。ウォルトは他国が大統領の力の弱さ、健康状態の悪さを利用することがあると指摘している。現在のイスラエルがまさにそうだ。イスラエルは、ガザ地区のハマス、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、これらの組織を支援するイランに対する戦争に進もうとしている。戦争の段階を引き上げて、最悪の場合には核戦争になるかもしれないという非常に危険な動きをしている。イスラエルはアメリカのジョー・バイデン大統領と政権が動けないことを見越して、このような動きに出ている。これは、バイデン政権のレイムダック化(無力化)がもたらしていることだ、

 国連が既に形骸化し、アメリカが中東の平和を保つことさえ難しいほどに無力化していることは現在の世界構造が大きく変化していく前兆を示している。私たちはそのことをきちんと認識しなければならない。

(貼り付けはじめ)

バイデンを置き去りにする世界(The World Is Leaving Biden Behind

-ジョー・バイデン大統領は国連(United Nations)での祝辞の中で、中心の維持を宣言した。しかし、物事は彼が追いつくよりも速く崩壊している。

マイケル・ハーシュ筆

2024年9月24日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/09/24/the-world-is-leaving-biden-behind/

joebidenatungeneralassembly2024001
ニューヨーク市の国際連合本部での国連総会で壇上から降りる際に手を振るジョー・バイデン米大統領(9月24日)

演壇のどちらの側でも、特に温かい別れはなかった。

火曜日に国連総会(U.N. General Assembly)で祝辞を述べたジョー・バイデン米大統領は、自身の半世紀に及ぶ公務について語り、自分の年齢について今ではもう聞き飽きたジョークを飛ばし、ほどほどの笑いを誘った。「自分がまだ40歳にしか見えないのは分かっている」とバイデンは言った。しかし、楽しかったのはそれだけだった。バイデンはその後、今後の世界的な課題についてぼんやりと話し始め、各国の国連代表団はほんのわずかな拍手でそれに応えた。彼がウクライナの防衛と中東戦争の終結について語ったとき、彼がアフガニスタンからの撤退を擁護したとき、沈黙があった。

バイデンのスピーチで最も印象に残ったのは、間違いなく終盤、81歳での再出馬を断念したことを示唆し、次のように宣言した場面だろう。「仲間の指導者たちの皆さん、政権を維持することよりも重要なことがあることを決して忘れないで欲しい。バイデンはこの台詞に持続的な拍手を受けたが、会場にいた多くの国の代表が、どんな犠牲を払っても権力の座に留まろうと必死な独裁者に率いられている現状を考えると、これはむしろ皮肉なことだった。

しかしその後、バイデン大統領がタートルベイの実際の舞台であり、同時に世界の舞台でもある舞台から降りるよう案内されると、別のことが明らかになった。バイデンが大統領として回復し再活性化することを望んでいた、破綻した世界システムは、ほぼ彼を追い越したのだ。それだけではない。大統領就任まで残り4カ月となったバイデンには、現在激化している血なまぐさい紛争を解決する見込みがほとんどない。アメリカの外交官がヒズボラの抑制をほぼ諦めている中、イスラエルがレバノンのヒズボラを攻撃し、紛争は日に日に激化している。ウォルター・ラッセル・ミードは月曜日、『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に「バイデンは外交が大好きかもしれないが、外交は彼を愛してくれない(Biden may love diplomacy, but diplomacy doesn’t love him back)」と書いた。

そうではなく、国連そのものが、そして国連がかつて象徴していたもの全てが、かつての国際連盟(League of Nations)のように無用の存在になりつつあるということだ。一方はアメリカ、もう一方はロシアと中国である。つまり、国連安全保障理事会(U.N. Security Council)の拒否権(veto)を持つ5カ国のメンバーのうち3カ国が、国連を再び大国のサッカーのフィールドであり、対立と果てしない膠着状態の場としている。この状況は、ソ連がほとんど全てに拒否権を発動していた冷戦の最盛期を彷彿とさせる。(マーシャル・プランと朝鮮戦争決議ではソ連代表団は両日とも欠席し、キプロスなどでの小規模な停戦監視任務など、いくつかの重要な例外はあるが、拒否権発動が多く行われた。

国連総会に関しては、かつて人類の議会(the Parliament of Man)として神格化されていた(apotheosized)この組織は、地域政治や小国の演説や些細な馴れ合い、そしてしばしば反イスラエルの暴言によって、これまで以上に機能不全に陥った場所となっている。かつては、1975年にアラブ諸国がシオニズムを人種差別と決めつけた決議案がその象徴だった。火曜日、バイデンに続いて登壇したトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と彼の「大量殺人ネットワーク(mass murder network)」をアドルフ・ヒトラーになぞらえた暴言を吐いた。エルドアンはまた、安全保障理事会とその常任理事国5カ国を非難し、「世界は5カ国よりも大きい(The world is bigger than five)」と述べた。

バイデンは自身のスピーチで、今日の不安定な世界情勢を、彼が29歳で初めて連邦上院議員に当選し、ヴェトナム戦争と冷戦がまだ続いていた頃と比較しようとした。バイデンは次のように述べた。「アメリカと世界はあの時を乗り越えた。簡単でも単純でもなかったが、大きな失敗もなかった。しかし、軍備管理を通じて核兵器の脅威を減らし、冷戦そのものを終結させることができた。イスラエルとエジプトは戦争に突入したが、その後歴史的な和平を結んだ。私たちはヴェトナム戦争を終結させた」。

「私は歴史の驚くべき広がりを見てきた」とバイデンは宣言し、公職に就いたときと同じように楽観的に公職を去ると語った。そしてバイデンは、ウィリアム・バトラー・イェイツの有名な詩「再臨(The Second Coming)」を引用し、「単なる無政府状態(mere anarchy)」が「世界に放たれ(loosed upon the world)」、「中心(the center)」が保てなかった第一次世界大戦の時代よりは、今日の混乱があっても状況はましだと述べた。

バイデンは「決定的な違いが見られる。私たちの時代でも、中心は維持されてきた」と述べた。バイデンは、自身のリーダーシップの下、世界はここ100年で最悪のパンデミックに対して、「ページをめくった」と述べ、ウクライナにおける国連憲章を擁護し、アメリカは気候変動とクリーンエネルギーに対して史上最大の投資を行ってきたと述べた。バイデンは「私たちを引き離す力よりも、私たちを結びつける力の方が強いことを確認して欲しい」と述べた。

それは、現在のところ、バイデンと彼のティームが追いつくよりも早く、物事がバラバラになっているように見えるからだ。

国連創設に関する著書『創造の行為(アクト・オブ・クリエイション)』の著者スティーヴン・シュレジンジャーは、「これは遺産となる演説だった。バイデンは、政権が国連憲章への関与を精力的に示してきたことを強調し、最も重要なのは、ロシアによるウクライナへの残酷かつ違法な侵略に対するウクライナの防衛を支援することだった」と語った。伝統的なリベラルな民主党大統領として、バイデンはまた、世界の保健福祉、食料不安、干ばつ、貿易とテクノロジー、サイバースペースに関する規範、企業に対する世界最低税(global minimum tax)、インド太平洋の安全保障など、組織内での主要優先事項のリストにチェックを入れた。また、枠組み、サプライチェーン、債務免除、人権、テロリズムを重視した

しかし、結局のところ、「バイデンは新しい政策を提示しなかった」とシュレジンジャーはEメールで語った。彼は続けて次のように述べた。「ウクライナでもガザ地区でも、和平解決についての新しいアイデアを提示することはなかった。また、国連がこれらの危機に対処できなかったことを非難することもなかった。バイデンの演説は何かを変えるものではなく、世界の舞台における組織の重要性をアメリカ人に再認識させ、将来のアメリカ大統領に目印を残すための努力の行為であった」。

実際、軍事的覇権(military hegemony)から外交に移行しようとするバイデンの努力は、ほとんどの戦線で失敗しており、ミードが指摘するように、中東以外の分野では失敗している。 「アメリカの歴史上、これほど中東外交に力を入れた政権はない」とミードは書いた。ミードは続けて次のように書いている。「しかし、アメリカの歴代政権の外交官がこれほど成功しなかったことがかつてあっただろうか? バイデンはイランをアメリカとの核合意に戻そうと試みたが失敗し、イスラエルとパレスティナの新たな対話を軌道に乗せようとしたが失敗した。彼はスーダンの内戦を止めようとしたが失敗した」

一部の外交筋によれば、特にネタニヤフ首相はもはやバイデンらの言うことなどまったく聞いていない。その代わり、イスラエルはカマラ・ハリスであれ、ドナルド・トランプであれ、次の米大統領が就任するまでエスカレートした戦争を続けるだろうとの見方が中東には強いという。イスラエル人にとってもアラブ人にとっても、ある外交官が言うように「バイデンに何らかの勝利を与えても政治的利益はない(here is no political gain in giving Biden any kind of victory)」のだ。

国連そのものについては、追悼記事(obituaries)を書くにはまだ早すぎる。国際連盟は第二次世界大戦の勃発とともに休止状態に入ったが(正式に解散したのは1946年)、国際原子力機関や国連開発計画など、国連の諸機関は今も世界の安定を守るために重要な役割を果たしている。毎年開催される国連気候変動会議もまた、不可欠なフォーラムである。そして、国連が果たすべき役割、つまり世界的な集団安全保障の維持という、国際主義者の一部が信じている役割において、国連が完全に失敗していることは事実であるが、世界機関は第三次世界大戦を防ぐために一役買ってきたし、またそうするかもしれない。

シュレジンジャーはそのように主張する。「国連は、過去75年間で最大かつ最も危険な対立、キューバ危機の解決に直接的な役割を果たした」と、彼は2020年の国連創設75周年に際してのインタヴューで私に語った。実際、当時のアドレイ・スティーヴンソン米国連大使は、キューバにロシアのミサイルがある証拠を突きつけ、安全保障理事会でソ連国連大使に「あなたは今、世界世論の法廷に立っている」と言い放ち、米ソ間の核戦争を回避することに貢献した。

現在、ロシアや中国とそのような対立が差し迫っている訳ではないが、ホワイトハウスは今週発表したファクトシートで次のように指摘している。「私たちは国連総会で141カ国を集め、ロシアの国際法違反を非難した。私たちは国連安全保障理事会の討論を利用して、ロシアの違法な戦争と残虐行為にスポットライトを当てた。国連人権理事会からロシアを追い出すよう国連総会に迫った。私たちは、国連の幹部人事を拒否し、国連諸機関への選出を阻止することで、ロシアを孤立させた」。

シュレジンジャーは、より大規模な戦争に発展しかねない地域紛争や地方紛争を防ぐため、国連が平和構築の役割を果たした事例を、その歴史の中で30件ほど数えている。アンゴラ、カンボジア、クロアチア、グアテマラ、モザンビーク、ナミビア、セルビア、南アフリカなどである。国連はまた、ワシントンが指揮を執ることに関心がなく、めったに話題にならないような人道支援プロジェクト(ガザ地区における評判の悪い国連救済事業機関など)のための連絡機関としての役割も果たしている。

しかし、11月5日に誰が次期米大統領に選出されるかに大きく左右されるだろう。ハリスは一貫して国連憲章に具体化された国際ルールや規範の擁護を主張してきたが、トランプはそれを軽視する傾向にある。好むと好まざるとにかかわらず、国連は、将来の中国、イラン、ロシアを国際システムに取り込むための、あるいは少なくとも国際システムに残された唯一の現実的なフォーラムである。

※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻勢:ワシントンの賢人たちはどのようにしてアメリカの未来をウォール街に渡し、我々自身と戦争を行ったのか(How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall Street and At War With Ourselves)』と『何故アメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』の2冊の本の著者でもある。ツイッターアカウント:@michaelphirsh

=====

バイデンの弱さはアメリカを危険に晒すことはない(Biden’s Frailty Doesn’t Endanger America

-大統領の体の弱さが国家をより脆弱にしない理由を挙げる。

スティーヴン・M。ウォルト筆

2024年7月11日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/07/11/bidens-old-frailty-election-national-security-america/

彼はやるのか、それともやらないのか? 最近のアメリカ政治で最も注目されているのは、ジョー・バイデン大統領が2024年の大統領選挙から撤退するのかどうかということだ。バイデンはこれまでその呼びかけに反抗してきたが、彼と民主党が最終的にどう決断するか、あるいはそれが11月の選挙にどう影響するかは誰にも分からない。政治評論家たちは、この騒動の主な受益者であり、今や悪名高い6月27日の討論会以来、政治的なスペクトルを超えたコメンテイターたちが残業して走り書きをしている。

バイデンの討論会でのパフォーマンスを受けて、あまり注目されなくなった疑問は、彼の身体的・認知的な限界が、現実のものであれ、認識されているものであれ、アメリカの外交政策そのものに何らかの影響を与えるかどうかということである。彼がカマラ・ハリス副大統領を支持して大統領職を辞任しないと仮定すると(私はその可能性は極めて低いと考えている)、バイデンは少なくとも2025年1月20日までは大統領であり続けることになる。その間におよそ6カ月、つまり大統領任期の8分の1がある。敵対国、さらにはアメリカの同盟国の一部が、もはや最善の策を提示していないと信じている大統領を利用しようとする可能性があるだろうか?

歴史を見てみると、その判断は様々だ。ウッドロー・ウィルソン大統領(当時)は1919年10月に体を衰弱させる脳卒中を患ったが、彼の妻と医師はその病状を隠しており、外国がウィルソンの無能力を利用しようとすることはなかった。

一方、フランクリン・ルーズヴェルト大統領は、1945年4月に致命的な脳卒中で倒れるまでの数年間、明らかに衰弱しており、その2ヵ月前に開催されたヤルタ・サミットでは、力の衰えによって交渉の効率が大幅に低下していた可能性がある。ドワイト・アイゼンハワーは1955年9月に深刻な心臓発作に見舞われたが、政府運営に影響はなく、1956年に再選を果たし、2期目を成功のうちに終えた。ジョン・F・ケネディはアジソン病とその他いくつかの深刻な病気を患っていたが、この隠れた病気は公私ともに彼の活動に支障をきたすことはなかったようだ。

リチャード・M・ニクソン大統領は、1973年のアラブ・イスラエル戦争中、当時のエドワード・ヒース英首相からの電話に出ることができず、キッシンジャー米国務長官や他の高官に重要な決断を委ねたと伝えられている。また、ロナルド・レーガンは2期目の任期中にアルツハイマー病の初期段階にあったかもしれないが、その病状がアメリカの政策や他国の行動に大きな影響を与えたという証拠はほとんどない。

これらの例を見ると、大統領の障害は、人々が当初考えていたほど深刻な問題ではないことが分かる。アメリカの大統領が重要な存在であることは言うまでもないが、政策の立案や実行は決して大統領1人だけの責任ではない。全ての大統領にはティームがあり、様々なシナリオに対する政策の選択肢や可能性のある対応は、多くの場合、実施に先立って議論される。また、大統領に多少の障害があっても、部下(例えば、国務長官や国防長官、国家情報長官、国家安全保障会議議長など)が後を引き継ぐ。

また、若くて精力的な大統領であっても、外交政策機構のあらゆる側面を手なずけることはできない。「ブロブ(Blob)」(国家の外交政策分野のエスタブリッシュメント)には、大統領がやろうとすることを薄めたり、抵抗したり、方向転換させたりする、様々な方法がある。その結果、たとえ大統領が100%以下の力で行動していたとしても、敵対勢力はアメリカが直接的な挑戦に応じないと確信することはできない。実際、政権が挑発に過剰反応する可能性は、過小反応する可能性と同じくらい高く、単に大統領の状態が悪用されないことを示すだけである。

バイデンの状況がどうであれ、他の国家が既にヘッジをかけている(リスクを回避する)ため、バイデンの状況はそれほど重要ではない。アメリカの二極化(polarization)の現状と、いくつかの重要な外交政策問題についての民主党と共和党の間の鋭い相違を考えると、バイデン政権が今から11月までの間に行うかもしれない公約を重視する外国の指導者はいないだろうし、特にそれが共和党の推定候補者であるドナルド・トランプ前大統領の方向性と対立するものであればなおさらだ。

バイデンは明日、ホワイトハウス記者団全員の前で腕立て伏せを50回行い、円周率の小数点以下の最初の50桁を暗唱することもできるだろうし、他の政府もアメリカの保証に基づいて約束をする前に11月を待つことになるだろう。そして、たとえバイデンが30歳若かったとしても、今から選挙までの間に政権が大きな外交政策に着手するとは予想できないだろう。

十分に機能していない大統領が大きな影響を及ぼす可能性のあるシナリオを2つ考えてみよう。アメリカが、1962年のキューバ・ミサイル危機のような長期化し、大きなリスクを伴う課題に直面し、大統領が、ケネディ大統領が暫定的な「国家安全保障会議執行委員会(Executive Committee of the National Security CouncilExComm)」を通じて行ったような、長期化し、激しい審議を主導することができなかったと想像してみて欲しい。

あまり関与していない大統領であれば、最終的に異なる選択をするかもしれない(例えば、キューバに海軍の検疫を課すというケネディの決定は、空爆を開始するという最初の考えよりもはるかにエスカレートしていなかった)が、そのような選択がどうなるかを予測することは不可能である。先ほどの繰り返しになるが、潜在的な挑戦者は 潜在的な挑戦者は、もし大統領が内部の議論を積極的に誘導していなければ、アメリカの対応がより強硬になる可能性を考慮しなければならない。大統領が弱体化したからといって、必ずしも対応が弱くなるとは限らない。そうでないと考えるのは、大統領は常に、その大統領に仕える人々よりもタカ派で毅然としていると思い込むことであり、賢明な敵対者はそう思い込むべきでない。

精力的でなく、集中力も、有能でもない大統領は、より多くの努力を部下に委任する必要があり、現CIA長官ウィリアム・バーンズのような経験豊富で有能な交渉人でさえ、大統領と全く同じ権限で話すことはできないだろう。ただし、この違いは程度の問題である可能性がある。たとえ大統領が電話対応に多くの時間を費やすことができなかったとしても、アメリカ外交が行き詰まるわけではない。

更に言えば、トップの人物は不安定であるという認識が利点となる場合もある。もしアメリカの交渉担当者が相手に譲歩させようとしているなら、「大統領は年老いて自分のやり方に凝り固まっているし、この問題に関する彼の見解は決して変わらないだろう。あなたが私にもっと何かを与えない限り、私が彼を動かせる方法はない」と述べることができる。したがって、場合によっては、大統領が全盛期を過ぎたという認識をアメリカの外交官が利用できる巧妙なものになる可能性がある。

最後に、バイデンの今後6ヶ月間の職務遂行能力に対する疑念は、トランプがアメリカの外交政策を監督した際に示した資質とのバランスを取る必要がある。トランプ大統領の1期目に関するインサイダーたちの証言によれば、彼は不規則で、気まぐれで、細部に関心がなく、ほとんどの外交問題に持続的な注意を払うことができないと言われている。中国と対決する必要性、アフガニスタンからの撤退、ヨーロッパに国防を強化させる必要性など、いくつかの直感は正しかったが、その他の問題(環太平洋パートナーシップ、イラン核合意など)に対する彼の見解は不見識であり、彼が採用した政策の多くは約束通りに実現できなかったか、アメリカを弱い立場に追いやった。

「認知能力」が大統領の職務遂行能力を測るリトマス試験紙だとするなら、要するに、有力な候補者2人、トランプとバイデンのどちらにも熱意を持つのは難しいことになる。これが非常に多くのアメリカ人(1月時点で67%)が候補者たちを支持できないと答えた理由であり、更には民主党が支持者たちに選択肢を提供するくらいに賢明であることの理由である。もちろん、この選択肢にロバート・F・ケネディ・ジュニアは入っていない。良いニューズは、大統領の病弱さが、今から2025年1月までの間にそれほど大きな違いを生むことはないということだ。それ以降は、11月にどの政党が勝とうとも、全てはギャンブルのようなものだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

bidenwoayatsurumonotachigaamericateikokuwohoukaisaseru001

バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
bigtech5shawokaitaiseyo501
ビッグテック5社を解体せよ

akumanocybersensouwobidenseikengahajimeru001

 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

ダニエル・シュルマン
講談社
2015-11-25



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12



 

 古村治彦です。

 

 現在のアメリカの外交について、「弱腰」「妥協的(宥和的)」という評価があります。日本でも「早くオバマが辞めて次の大統領に、できたら共和党の候補者になって欲しい」という意見があります。

 

 私は拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)でも書きましたが、オバマ政権の外交政策(ヒラリー・クリントン前国務長官は除いて)こそは現実主義(Realism)外交だと考えます。この現実主義外交は、アメリカの国力と世界の状況を注視して、出来ることをやって「完璧さを求めるのではなく、少しでもより良い状況を作る」ということです。

 

 外交におけるリアリズムについて、私はウェブサイト「副島隆彦の学問道場」()の「郷のぼやき・会員ページ」で「「1528」 アメリカのネオコン・人道主義的介入派とは全く別の流れであるリアリストの現在の動きについてご紹介します 古村治彦 2015年5月9日」と題して書きました。お読みになりたい方は、是非、学問道場の会員になっていただければと思います。

 

外交における現実主義の真骨頂は、「not let the perfect be the enemy of the good」です。直訳すれば、「完璧さを良い目的の敵にしてはいけない」となります。これは「完璧さを求める余りにかえって良い目的の達成を阻害してはいけない(本末転倒してはいけない、角を矯めて牛を殺すようなことをしてはいけない)」という意味になります。英語では、「The best is the enemy of the good(最高を目指すことが良い目的の敵となる)」という言葉もあります。これはフランスの啓蒙思想家であるヴォルテールの言葉です。

 

 オバマ外交の「つまらなさ」こそがリアリズム外交の真骨頂なのです。

 

==========

 

オバマの外交政策は一言の引用でまとめられる(Obama’s Foreign Policy Summed Up in One Quote

 

エリアス・グロール筆

2015年2月9日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/02/09/obamas-foreign-policy-summed-up-in-one-quote/

 

 大統領に就任して6年、バラク・オバマの外交政策は多くの名前が付けられてきた。彼は「(野球で言う)単打と二塁打ばかり」と言われたり、側近の一人は「大統領は“後ろから率いる”という考えを信じている」と述べたり、「結局のところ、臭い物にはふたをするということしかしていない」と批判されたりしている。

 

 オバマに対する批判者たちは、オバマは無定見であり、人々を納得させられず、世界に対処するための戦略を持っていないと批判する。インターネットのニュースサイト「ヴォックス」とのインタビュー記事が月曜日に発表された。彼はインタビューの中で、これまでで最も簡潔に外交政策について語っている。

 

 オバマはヴォックスの編集責任者マット・イグレシアスを相手に次のように語った。「勝てるとなったらきちんと勝つ。それで物事はほんの少し良い方向に向かう。ほんの少し悪くなるよりはずっと良いでしょう。アメリカが衰退しているという考えに対して妥協している訳でもないし、私たちにできることは少ないと考える訳でもないんですよ。私がやっているのは、世界がどのように動いているかについての現実的な判定をするということなんです」。

 

 こうしたオバマの外交政策に関する考えに対しては、右派と左派からそれぞれ厳しく批判されている。ネオコン派右翼は、オバマ大統領はこうした考えを持っているから、国際的な舞台で「指導力」に欠けているし、オバマ大統領がどのように指導力を発揮すべきかということを議論することすらできない、と主張する。人権活動家たち左派は、オバマが勝利を確実なものにしようとして行動することで、エジプトやミャンマーの政府と人権状況に関して妥協してしまっていると批判する。

 

 オバマがいみじくも喝破しているように、この議論は、アメリカがどの程度世界の出来事に対して影響を与える能力を実際に有しているのかということに行きつく。アメリカの力は無制限ではないと認めることはアメリカ政治では受け入れがたい主張である。オバマを批判する人々は、世界のあちこちで火の手が上がっているのに、オバマ大統領は慎重すぎるので、絶好の機会を失ってしまっていると主張している。そして、オバマ大統領は「アメリカは偉大である」という考えを放棄していると批判している。中東にアメリカの意向に沿う民主政体を導入しようとして失敗したイラク戦争を経験して、オバマ大統領は、革命ではなく穏健な改良を目指す哲学を追い求めているのだ。

 

 オバマは次のように語った。「素晴らしい外交政策の目標は、ヴィジョンと大きな希望、そして理想を持つことだと思います。しかし、同時に世界をあるがままに認識し、その状況を確認し、どうすれば以前よりも少しでも改善できるか、そのポイントを理解することもまた重要だと思います。完璧を求めるのではなく、より良い状況を求めるということになると思います」。

 

 シリア内線では20万人の死者が出ている。ウクライナ東部ではロシアが支援している反体制運動に巻き込まれている。イスラム国はシリアとイラクの大きな部分を支配している。こうした状況で、世界の「より良い部分」に目を向けることは難しい。オバマは、「この惑星の進む方向は、暴力の削減、寛容の増大、争いと貧困の減少である」と発言している。それぞれの危機について、人々はオバマが何もしないことで状況が悪化していると批判している。しかし、彼らはアメリカがこれらの危機がコントロール不能に陥る前に良い方向に導くだけの力を持っているはずだと単純に確信しているのだ。

 

 オバマが毎日直面し対処していることについて、何かを言うことは本当に難しい事なのだ。彼は次のように語った。「私の許には人々の死亡、破壊、紛争、無秩序に関する分厚い報告書が届けられます。私は毎朝、この報告書を読みながら朝のお茶を飲んでいるのです」。

 

(終わり)







野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック



アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23

 

 古村治彦です。

 

 アメリカ外交こぼれ話を皆様にご紹介します。USAIDについては、拙著『アメリカ政治の秘密』(PHP研究所、2012年)、2つ目の記事に出てくるヴィクトリア・ヌーランドについては副島先生の『日本に恐ろしい大きな戦争が迫り来る』(講談社、2015年)をお読みください。

amerikaseijinohimitsu001


nihonniosoroshiiookinasensougasemarikuru001

 

==========

オバマは側近ゲイル・スミスを
USAIDの運営のために送る(Obama Taps Insider Gayle Smith to Lead USAID

 

デイヴィッド・フランシス筆

2015年4月30日

『フォーリン・ポリシー』誌

http://foreignpolicy.com/2015/04/30/obama-taps-insider-gayle-smith-to-lead-usaid/?utm_content=buffer5a164&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 バラク・オバマ大統領はヴェテランのアフリカ専門家で、側近でもある人物に米国国際開発庁(USAID)の運営を任せると発表した。この動きは、スキャンダルにまみれた支援専門の政府機関をホワイトハウスに近づけようとするものだ。

 

 ゲイル・スミスは現在、国家安全保障会議(NSC)開発問題担当上級部長であり、長年にわたり大統領国家安全保障問題担当補佐官スーザン・ライスと一緒に仕事をしてきた。元ジャーナリストのスミスはビル・クリントン元大統領とも深い関係があり、クリントン政権では国家安全保障会議のアフリカ担当上級部長とUSAID顧問を務めた。

gaylesmith001
ゲイル・スミス

 

 連邦上院の承認を受けた後、スミスは、ここ数年スキャンダルが頻発している、予算総額220億ドルの巨大政府機関を運営することになる。また、USAIDは世界規模の災害に対してうまく対応できなくなっている。

 

 昨年、USAIDは、ソーシャル・メディアのアカウントを使ってキューバの若者たちに向かってカストロ政権を転覆するように訴えたと批判されている。同時期、オバマ政権はキューバとの外交関係を再構築しようとしていた。その数カ月後、USAIDのラジヴ・シャー長官はアメリカとキューバとの間の歴史的な展開が発表される数時間前に辞任した。この際、辞任理由は発表されなかった。シャーは5年にわたりUSAID長官を務めた。

 

 2013年、複数の捜査の結果、2006年から2012年までの間にUSAIDによってアフリカに送られたマラリア薬の20%(6000万ドル分)が裏市場に流れたことが明らかになった。

 

 しかし、医者でもあるシャーは実績も残した。彼は昨年アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱に対する対応に成功した。その際にいくつかの医療上の新展開も起きた。その中には医療従事者向けの新たな防御スーツも含まれている。現在、USAIDは世界中に展開しており、チベットの大地震からシリアの難民問題など様々な危機に対処している。

 

 木曜日に発表された声明の中で、オバマ大統領は、スミスの「エネルギーと情熱はアメリカの国際開発政策を主導する力となってきた」と述べた。ジョン・ケリー国務長官はスミスの「責任感は変革の時期に必要なものであり、変革を起こすために必要なものだ」と述べた。

 

 各支援団体はスミスのUSAID長官の指名を歓迎している。スミスは連邦上院の承認を受けられると確実視されている。USグローバル・リーダーシップ・コアリションのリズ・シュレイヤー会長は、「共同体、アメリカ政府、世界各国と彼女は良好な関係を持ち、尊敬を集めている。それによって、USAID指導部はスムーズに交替し、うまく運営していくことが出来るだろう」と述べた。オックスファム・アメリカ政策とキャンペーン担当副会長ポール・オブライエンもスミスの指名を賞賛した。

 

 スミスはアフリカの専門家であり、彼女の専門性はUSAIDの新たな展開にとって必要なものだ。オバマ政権は二期目のスタート当初、予算70億ドルを割いてパワー・アフリカ・イニシアティヴを始めると発表した。パワー・アフリカ・イニシアティヴはアフリカ大陸全体で電気使用を拡大させようとする計画であるが、完全な成功を収めてはいない。

 

(終わり)

 

=====

 

米国務省幹部外交官はトルコの政府官僚たちとの間で「アホなブロンド」事件を起こした(Senior U.S. Diplomat Raises ‘Dumb Blonde’ Incident with Turkish Officials

 

ジョン・ハドソン

2015年5月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2015/05/01/victoria-nuland-raises-dumb-blonde-incident-with-turkish-officials/?utm_content=buffer11424&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

トルコの首都アンマンの市長は、警察の暴力について選択的に批判を行った米国務省報道官マリー・ハーフを「馬鹿なブロンド」と呼んだ。これに対して米国務省は非難とユーモアの混ざった対応を行った。

 

 悪役を買って出たのはヨーロッパ・ユーラシア問題担当国務次官補ヴィクトリア・ヌーランドだった。金曜日、ワシントンDCフォギー・ボトムにある米国務省の報道官はヌーランドが「トルコの政府高官たちについて不適切なコメントをした」と述べた。

 

 好漢、より正確には道化役を演じたのが駐トルコ米大使ジョン・バスだ。バスはSNSのインスタグラムに加工した写真を掲載した。その写真はバスが金髪になった写真でその下に「アメリカの外交官:私たちは全員金髪です」とキャプションが付けられていた。

 

 バスの連帯を示すための滑稽な行動に対して、アンカラ市長メリウ・ゴチェックは今週初めにソーシャル・メディアを使って、米国務省に対してボルティモアでの警察の暴力に関する偽善を批判した。

 

ハーフと米国務省の幹部たちは2013年にイスタンブールで起きた抗議活動に対するトルコ政府の厳しい弾圧を批判した。フレディ・グレイの死に対して抗議活動が今週ボルティモアで発生した。これを受けてトルコの与党である「正義と発展」党の幹部であるゴチェックはツィッターで、トルコの政府系新聞が掲載したハーフの写真と記事のタイトルを掲載した。そのタイトルは「トルコの警察が過大な暴力を行使していると述べたアホなブロンド女はどこにいる?」というものであった。

 

ゴチェックは英語で次のようなコメントを付けた。「ブロンド女よ、今すぐ答えろ」。

 

 今回の事件について木曜日に定例記者会見で質問された時に、ハーフは、「私は何か反応を示すことで、彼らの行為を際立たせるようなことはしたくないのです」と述べた。

 

(終わり)









 
このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック





アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



==========

オバマの書かれない歴史(
Obama’s Unwritten History

 

ジェフリー・フランク(Jeffrey Frank)筆

2014年7月15日

ニューヨーカー(New Yorker)誌

http://www.newyorker.com/news/daily-comment/obamas-unwritten-history?utm_source=tny&utm_campaign=generalsocial&utm_medium=facebook&mbid=social_facebook

 

 アメリカの有権者たちは怒りを持っている。しかし、キュニピアック大学による最新の世論調査の結果は驚きをもって迎えられた。バラク・オバマ大統領は戦後の歴代大統領12名の中で最低の支持率を記録した。12人中12番目であった。オバマ大統領の支持率は40%の辺りを上下しており、これが救いになるかもしれないが、オバマ大統領の支持率は急激に低下している。現在はテキサスで絵画にいそしんでいるジョージ・W・ブッシュ大統領(35%)よりはましだし、ウォーターゲイと事件の時のリチャード・ニクソン大統領(27%)よりはかなりましだ。更には、大統領の任期末期のハリー・トルーマン大統領(23%で最低記録)の2倍はある。それでも、ブッシュ、ニクソン、トルーマンはそれぞれ最新の調査で11番目、10番目、1番目を記録している。世論調査員たちの質問が回答を導き出すとすると、オバマ大統領についての数字は、人々がオバマ大統領は自分の仕事をきちんと果たしていないと考えていることを反映しているようだ。

obamaselfie001
 
 

 国家の団結が必要とされる時期、特に戦争や悲劇的な出来事の発生時を除き、大統領の支持率が高いのは珍しいのである。平時の政権の場合、国民の心理や社会空間を占める問題の数は多すぎるのだ。大統領だった人物がその地位を去って長い時間が経過してはじめて私たちはその人のことを好きになるというのが普通だ。トルーマンの場合がそうだ。また、任期途中で殺害されてもそうだ。ジョン・F・ケネディ大統領がそうだ。誰が大統領になっても、大統領職の興奮は収まっていくものだし、ある程度、大統領の周辺がそのようにする場合もある。現在のバラク・オバマ大統領が置かれている状況がまさにそれだ。力が使い尽くされていながら、同時に人々を苛立たせている。; 国内外の彼に対する敵対者たちの注意はオバマ大統領から離れていくものだ。そして、任期の残り30カ月は、トルーマンが「野心と名声の白色の巨大な墳墓」と呼んだ状態になる。

 

 しかし、物事を正さないということと物事を間違った方向に進めるということは全く違ったものである。これは、戦後4代目の大統領であったリンドン・ジョンソンが語っていた言葉だ。リンドン・ジョンソンは最新の世論調査で歴代4番目にランクされている。しかし、彼がヴェトナムでやったことは、ヴェトナムにおける米軍将兵の数を50万以上に増やした。それから10年前にはフランス軍がヴェトミンと植民地戦争を戦い、植民地戦争に勝利できないということを明らかにした後の愚行であった。ジョージ・W・ブッシュ大統領は、アメリカを気軽に2つの戦争に引きずり込んだ。アフガニスタンでの戦争は計画が杜撰だったために、オサマ・ビン・ラディンと彼の部下たちを取り逃がした。イラクでの戦争は泥沼化した。ブッシュにしても、ディック・チェイニー副大統領にしても、そして政権内の誰も中東地域を全く理解しないままに戦争に突き進んだ。ここのような状況は再び繰り返されるのだろうか?

 

 オバマ大統領を批判する人々は、「オバマ大統領のせいでアメリカの威光、影響力、尊敬、国力が減退している」と批判している。この前提を正しいとすると、彼らが主張する解決策はどれも同じだ。地球上の真の超大国(この考えが示しているのは、アメリカの力が衰えていないということだ)は、状況が悪くなりつつある地域にアメリカが関与すべきだということだ。それは、「穏健派」や「反体制派」に武器を供与したり、空爆を行ったり、「民主化」勢力を支援したりということを意味する。

 

 現代の歴史は理解されていない。国際貿易センタービルとペンタゴンに対する攻撃とその余波が、アメリカが戦った2つの悲惨な戦争に向かうターニング・ポイントになったと人々が考えるのだろうかまだ分からない。そして、「世界規模でのテロリズムとの戦い」は、2001年9月11日に起きた出来事と私たちの対応が生み出した人々やグループとの間の衝突(現実のもしくは非現実の)を意味するのかということもまだ分かっていない。それでも、タリバンやヴェトナムのゲリラと同様、彼らは戦い、逃げ、姿を消し、アメリカの衰退というイメージを際限なく強化し続けることだろう。

 

 65年以上前の冷戦初期、ウォルター・リップマンは世界規模での「封じ込め」政策に狙いを定めた一連のコラムを執筆した。封じ込め政策は、ジョージ・ケナンが生み出したもので、歴史家のジョン・ルイス・ギャディスは「戦後のソ連の行動を説明する上で最も影響力を持った理論」と呼んだ。リップマンは、「ソ連はアメリカの力に対峙するところまで力を膨張させるだろう」と考えた。そして、現実主義的な彼は、「アメリカの軍事力は、ソ連の封じ込めという政策を実行するほどの力ではない。封じ込めは、休みなく長期間にわたって行われなければならないが、それに見合うだけの力はない」と主張した。ヴェトナム戦争やアフガニスタンにおけるムジャヒディンへの武器供与によって数十億ドルが支出される数十年前、リップマンは、世界規模で行われた封じ込め政策を「戦略的な怪物」と呼んだ。現在、テロリズムの脅威に対して疑問を持つ人はほとんどいないだろう。しかし、「テロリズムに対する世界規模での戦争」には内戦や冷酷な政権に対する対応も含まれている。人々の苦しみが見ていられないほどの場所にまで介入するにしても、それの目的と結果は不確かなものだ。

 

 オバマ政権は言葉遣いが一定しなかったために、敵対者と支持者たちが誤解する危険性を排除することができなかった。例えば、2011年8月、オバマ政権は「シリアの人々のために、アサド大統領は退陣すべき時が来た」と発表したり、2014年3月、ロシアはクリミア半島を併合したことの「代償を支払うことになる」と述べたりした。しかし、このような間違いを犯しながらも、オバマ政権は、現実的に軍事力を用いる前に正しく自問自答することができた。彼らは次のような疑問について考え続けた。「私たちが実際に軍事力を用いるとして、いったいどういう結果になるだろうか?現在の悪い状況をさらに悪化させることにならないか?軍事力を用いるとして、それをどのように停止するか?リップマンの言葉遣いにならうなら、私たちの実力と権威を浪費することになるのではないか?」ジョージ・W・ブッシュ政権の人々は短期間でアメリカの国力と名声を浪費してしまった。

 

 回避された戦争や発射されなかった巡航ミサイルについては多くのことは書かれない。しかし、書かれない歴史こそがオバマ大統領の達成した偉大な業績なのである。最新の世論調査での低評価も、時間と共に変化して、順番も上がっていくことだろう。

 

※ジェフリー・フランク:ニューヨーカー誌の上級編集者。著書に『アイクとディック:奇妙な政治的結婚の肖像(ke and Dick: Portrait of a Strange Political Marriage)』がある

 

(終わり)









 

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

このページのトップヘ