古村治彦です。
イラン戦争は停戦状態となって二週間以上が経過した。その間に和平交渉が行われたが、合意には至らなかった。現在は動きが見えない状況にある。アメリカのドナルド・トランプ大統領は暴言を発したり、引いてみたりと尻尾を掴ませないように、世界を煙に巻いている。和平交渉はいきなり代表同士が会って話すものではない。双方の事務当局、外務担当の職員たちが条件を話し合いながら、叩き台を作っていく。現在はその作業が進められているのだろうが、双方の最高幹部クラスの意向が全く嚙み合わなければ、叩き台作り作業も難航するだろう。
アメリカとしてはイランの核兵器製造能力を完全に除去したいというところだ。イランは体制の継続保証が欲しいところだ。ここにイスラエルの意向も絡んでくるので、話が複雑になる。また、現状では、イランのほうが有利な立場を保持しているという感じになっている。総合格闘技の試合を見た人は多いだろうが、体格が大きくて強い選手が相手を打撃で倒して上から覆いかぶさったところで、倒された選手が下から関節技や首の絞め技(チョークスリーパーなど)でかえって相手からギヴアップを奪うということがあるが、現状はそれに近い。アメリカとイスラエルの大規模空爆で、イランは大きな被害を受けた(最高指導者アリ・ハメネイ師まで殺害された)が、世界にとって重要なチョークポイントであるホルムズ海峡を封鎖する(絞め上げる)ことで、世界経済とアメリカ経済に悪影響を与え、対抗している。アメリカは戦闘(battle)で勝っているが、戦争(war)には負けているという状態になっている。
このような状況で、イランは簡単に妥協しない。そして、アメリカに消耗を強いて、嫌気がさすまで長引かせることによって、かえってアメリカから妥協や良い条件を引き出すという目論見を持っている。これは、大国と小国の間や宗主国と植民地の間などの、非対称的な戦争において採用されてきた戦略である。事態を打開しようとして、更に強硬な作戦、核兵器の使用や地上軍の投入を行えば、泥沼(quagmire)にはまり、事態は悪化してしまう。そのこともヴェトナム戦争が示している。イラン戦争は開始されるべき戦争ではなかった。そのことはトランプ以外のトランプ政権とアメリカ政府の最高幹部クラスは分かっていたが止められなかった。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の懐柔策と操縦が見事にはまり、トランプ大統領はイラン攻撃を決定した。この経緯については、このブログでもすでにご紹介した。
トランプは長所である、自分の言葉や過去の行動に縛られない、無反省と定見のなさで、ピート・へぐセス国防長官当たりに開戦の責任を押し付けて更迭し、和平合意にゴーを出すべきだ。そして、外交政策はJ・D・ヴァンス副大統領に任せるようになって欲しい。その代わり、アメリカと世界は、トランプをあやすために、最高の栄誉や賞賛を与えるということはやるべきかもしれない。ノーベル平和賞を与えるのもその一つの方策かもしれない。
(貼り付けはじめ)
今、イランが主導権を握っている(Iran Is Calling the Shots
Now)
―テヘランはヴェトナムにおけるホー・チ・ミンの戦略に従っている。
マイケル・ハーシュ筆
2026年4月23日
『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2026/04/23/iran-united-states-vietnam-trump-oil-war/
テヘランで行われた式典で、故アリ・ハメネイ師(左上)と新最高指導者モジタバ・ハメネイ師の肖像画の下で敬礼しているイランの男子生徒(2026年4月1日)
イランはまだ「もう一つのヴェトナム(another Vietnam)」ではない。アメリカ軍地上部隊が耐え難いほどの犠牲者を出している訳でもなく、週ごとの死者数を報じる見出しもなく、アメリカ国内の街頭で大規模な反戦デモが起きている訳でもない。そしてもちろん、打ちのめされたリンドン・ベインズ・ジョンソンではなく、現アメリカ大統領ドナルド・J・トランプは、この戦争に参戦してまだ数カ月しか経っていないと誇らしげに語っている。ちなみにヴェトナム戦争については「即座に(very quickly)」勝利できたはずだと豪語している。
しかし、テヘランがドナルド・トランプ大統領にかけている圧力は、ヴェトナム戦争でジョンソン大統領を困惑させた圧力と非常によく似ているように感じられる。具体的に言えば、それは北ヴェトナムの象徴的指導者ホー・チ・ミンが執拗に追求した勝利戦略(the winning strategy)に酷似している。
戦争の早期終結に向けた協議を拒否し、トランプ大統領に停戦を無期限に延長するよう迫ることで(大統領は数日前までは延長しないと断言していた)、イラン指導部(それが誰であれ)はホー・チ・ミンの戦略を踏襲しているように見える。
クアンチ省近郊のある地域で、ヴェトナム戦争でこの地域で戦死した兵士たちを追悼するアメリカ第一騎兵師団の兵士たちが礼拝を行う野外礼拝堂として利用されている
ホー・チ・ミンと、1960年代に彼の後継者となったレ・ズアンは、西側帝国主義国家であるフランス、そしてアメリカという二つの勢力を打ち破った。彼らは、テヘランが理解していると思われる事実、すなわち、どれほど強力な侵略者であっても、遠く離れた地からの侵略者は、自分たちよりもずっと早く戦争に飽きるということ(Aggressors from far away, no matter how powerful, will tire of war
well before you do)を理解していた。ホーは1946年、フランスの植民地主義者たちにこう言い放った。「私たちがあなた方の兵士を一人殺すごとに、あなた方は私たちの兵士を一人殺すかもしれない。しかし、たとえそのような不利な状況でも、あなた方は負け、私たちは勝つだろう」。
そして、テヘランが今トランプ大統領を屈辱に陥れているように、ジョンソン大統領のますます切迫した交渉要請を繰り返し拒否したのも、ホーとレ・ズアンだった。
1967年にジョンソン大統領に宛てた書簡の中で、ホー・チ・ミンは「アメリカの爆撃およびその他のあらゆる戦争行為の無条件停止(the
unconditional cessation of U.S. bombing raids and all other acts of war)」が実現するまで交渉に応じるつもりはないと明言し、「ヴェトナム国民は決して武力に屈服せず、爆撃の脅威の下での交渉も決して受け入れない(Vietnamese people will never submit to force, they will never accept
talks under threat of bombs)」と付け加えた。
1960年代、ジョンソン大統領は軍事会議でハノイの頑固さを度々非難し、ローリングサンダー作戦から始まった空爆の強化と継続的な爆撃作戦がなぜ北ヴェトナム指導部を交渉のテーブルに着かせることができなかったのかと疑問を呈した。「彼らは決して諦めないだろう(I don’t believe they’re ever going to quit)」と、ある時、ロバート・マクナマラ国防長官に語った。
同様にイランでも、トランプ大統領が「深刻な分裂状態(seriously
fractured)」と呼んだ指導部の兆候が見られるものの、モハマド・バゲル・ガリバフ国会議長は、テヘランは「脅迫の下での交渉は受け入れない(not accept negotiations under the shadow of threats)」と宣言した。今週、イランの交渉担当者はトランプ大統領とJ・D・ヴァンス副大統領をホワイトハウスで不安げに待たせたままだった。結局電話はかかってこなかった。さらに、イスラム革命防衛隊(IRGC)の指揮官たちよりも穏健派とされるガリバフは、テヘランは停戦を利用して「戦場で新たな切り札を見せる(to reveal new cards on the battlefield)」準備をしていると述べた。
トランプ大統領は4月21日、トゥルー・ソーシャル上で「イラン側からの提案が提出されるまで停戦を延長する(extend the Ceasefire until such time as their proposal is submitted)」と発表した。つまり、イランが主導権を握っているように見えるということだ(Iran now seems to be calling the shots)。
ハーヴァード大学ケネディ・スクールのグローバル・ヴェトナム戦争研究イニシアティヴの共同創設者兼ディレクターであるハイ・グエンは、「ヴェトナム戦争終結から50年、アメリカはイランとの戦争で再び同じ過ちを繰り返している」と述べた。
「ヴェトナム戦争時のヴェトナムと同様に、非対称戦争(an asymmetric war)において、イランはアメリカが想像もできないほどの優位性を持っている」とグエンは私に語った。彼は続けて次のように述べた。「イランは、アメリカが何千トンもの爆弾を投下することはできても、長期戦に耐えるだけの忍耐力がないことを理解している。ヴェトナムの革命家たちと同様に、イランは国家資源に関して多大な犠牲を払ってでも長期戦を戦う覚悟ができているようだ。言い換えれば、イランはアメリカにとってのアキレス腱を理解している(Iran, in other words, understands the Achilles’ heel of the U.S)」。
「これが降伏の姿だ」と元NATO米大使のイヴォ・ダールダーはブログ記事に書いた。「停戦を望んだのはトランプ大統領だった。さらなるエスカレーションをしてしまうと、イランが譲歩しないと悟り、戦争継続(長期化)による経済的・政治的な影響を恐れたからだ。もしトランプ大統領が停戦を無期限に延長するなら、イランはそれで構わない。現状では、あらゆる面で優位に立っているのはイランであり、トランプ大統領ではない。アメリカ大統領に残された唯一の切り札は、望まない戦争を再開することだけだ(The US president’s only card is restarting a war he doesn’t want)。一方、イランは残りの切り札を全て握っている(Meanwhile, Iran holds the rest of the cards)」。
指導部の大部分が壊滅したにもかかわらず、イラン・イスラム共和国はホルムズ海峡へのアクセスを掌握しており、そのコントロールをさらに強めているようだ。今週、複数の船舶を拿捕し、アメリカの海上封鎖をかいくぐって航行している。『フィナンシャル・タイムズ』紙は、貨物追跡会社ボルテクサの情報として、火曜日時点でイラン関連の石油タンカー約34隻が海上封鎖を通過したと報じている。
一方、米国防総省国防情報局長官ジェイムズ・H・アダムス海兵隊中将は、連邦議会証言の中で、イランが「数千発」のミサイルと無人攻撃機を保有していることを認めた。CBSは4月22日、4月8日の停戦開始時点で、イランの弾道ミサイルと発射システムの備蓄の約半分が依然として無傷であり、海峡の混乱に用いられるイスラム革命防衛隊(IRGC)海軍部隊の約60%も同様に無傷で残っていると報じた。
これらの数字は、停戦開始当日に「壮大な怒り作戦は戦場における歴史的かつ圧倒的な勝利だった」と宣言したピート・ヘグセス国防長官の発言と矛盾する。
左:1964年4月26日、ワシントンで行われた記者会見で発言するロバート・マクナマラ米国防長官。背後には、様々な軍事施設を示すヴェトナムの地図が掲げられている。
右:3月2日、ピート・ヘグセス米国防長官が、ワシントンのペンタゴンで行われたイランにおけるアメリカ軍の軍事行動に関する記者会見で発言している。
実際のところ、現在、ヴェトナム戦争を最も彷彿とさせるのは、ヘグセス長官による日々の戦場での勝利宣言だろう。彼は、ヴェトナム戦争でアメリカが勝利していると国民を繰り返し欺いた「ベスト・アンド・ブライティスト(best and brightest)」マクナマラ元国防長官の漫画版のような存在だ。マクナマラは「死者数(body counts)」などの戦場における消耗戦の統計的証拠を引用することで悪名高かった。同様に、ペンタゴン職員から「愚かなマクナマラ(Dumb McNamara)」というあだ名をつけられているヘグセス長官も、破壊したミサイル、発射装置、艦船の数、そして殺害した指導者の数を挙げることで、イランにおけるワシントンの「決定的な軍事的勝利(decisive military victory)」を数値化することに熱心だ。
しかし、それはもはや1、2カ月前ほど重要ではなくなっている。1969年のヴェトナム和平に関するパリ会談について、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は次のように記している。「私たちは軍事戦争(a military war)を戦ったが、敵は政治戦争(a political one)を戦った。私たちは物理的な消耗戦(physical attrition)を狙い、敵は私たちの心理的な疲弊(psychological
exhaustion)を狙った」。
ヴェトナムは、アメリカがヴェトナム国内で十分な消耗戦を成功させるずっと前に、ワシントンにおける敵の疲弊をすでに達成していた。その結果、会談開始時にハノイは妥協を許さない姿勢を取り、キッシンジャー自身も南ヴェトナム陥落前に「和平は間近だ(peace is at hand)」と誤った宣言をするに至った。
The Vietnamese achieved exhaustion of their
enemy in Washington well before the Americans
現在、イランでも同様の力学が働いている可能性がある。おそらく主な違いは、イランがホルムズ海峡を封鎖することで、経済攻撃と政治戦争の両方でトランプ大統領を急速に疲弊させようとしている点だろう。特に中間選挙まであと6カ月という時期に、これはトランプ大統領と彼の党に深刻な打撃を与える可能性がある。
「テヘランはハノイと同じ計算をしている可能性が高い。つまり、アメリカの空爆による懲罰を耐え忍び、真剣な交渉を拒否すれば、長期化する決着のつかない戦争(protracted indecisive war)に対するアメリカ国民の支持は徐々に低下し、ワシントンは交渉でより多くの譲歩を迫られることになるだろう」と米海軍兵学校の歴史家ブライアン・ヴァンデマークは述べている。
ヴェトナム戦争は経済的にもジョンソン大統領に打撃を与えた。戦争支出はジョンソン大統領と彼が熱望した「偉大な社会(Great Society)」プログラムにとって財政危機を招き、最終的には高インフレと民主党の壊滅的な選挙敗北につながった。
しかし、イランが握っている支配力(the chokehold)は、かつてホー・チ・ミンが享受していたものよりもはるかに強固で、即座に効力を発揮し、世界中のエネルギー価格を高騰させている。国際通貨基金(IMF)によると、ホルムズ海峡の封鎖は既に史上最悪の石油供給途絶(oil supply
disruption)であり、世界的な景気後退につながる可能性がある。
それでも、株式市場をはじめとする各種指数は堅調に推移しており、トランプ大統領は劣勢を示唆する様子を全く見せていない。まるで時間には余裕があるかのように振る舞っている。4月21日のCNBCのインタヴューで、トランプ大統領は第一次世界大戦以降のアメリカの過去の戦争への関与に関する疑わしい数字を羅列し、現在の紛争はまだ「5カ月」しか経っていないと主張した(実際には3カ月程度)。「ヴェトナム戦争はもっと早く勝てたはずだ。もし私が大統領だったら、イラク戦争も私たちが勝利したのと同じ期間で勝てたはずだ。なぜなら、私たちはここで実質的に勝利したのだから」と彼は述べた。
しかし、今のところ、勝利したと言えるものはほとんどないようだ。
テヘランでイスラエルとアメリカの共同攻撃現場を清掃する作業員たち(4月7日)
大国が小国に侵攻しすぎると、911以降、ワシントン自身も痛感したように、大国が犯す戦略的な過ちはあまりにもよくある。実際、トランプ政権は、地上部隊の派遣を可能な限り避けることで、イラクとアフガニスタンの泥沼化を回避しようとしてきたことを明確にしている。
アフガニスタンでは、アメリカが20年にわたる断続的な平和維持活動の末に撤退する前、タリバンは「あなたたちは時計を持っているが、私たちには時間がある(You have the watches, but we have the time)」とよく言っていた。ヴェトナム、イラク、アフガニスタンに共通するのは、ヴェトコン、イラクのジハード主義者、タリバンといった民族主義的な抵抗勢力は、強力な外国の占領者でさえも、その存続期間を凌駕することが多いという点だ。
前述のグエンが述べたように、「戦後、マクナマラは、アメリカがヴェトナムで敗北した理由の一つは、ヴェトナムが長年にわたり侵略と戦ってきた歴史を理解していなかったことだと述べた」。
昨年6月、トランプ大統領がイランの核施設に対するアメリカ・イスラエル共同作戦に関与した後、こうした紛争に懐疑的なことで知られるヴァンス副大統領は演説で次のように述べた。「私が『トランプ・ドクトリン(Trump Doctrine)』と呼ぶものは至って単純だ。第一に、明確なアメリカの国益を表明する。この場合、それはイランが核兵器を保有してはならないということだ。第二に、その問題を積極的に外交的に解決しようと試みる。そして第三に、外交的に解決できない場合は、圧倒的な軍事力を用いて解決し、長期戦に発展する前にさっさと撤退する」。
左:リンドン・B・ジョンソン米大統領はヴェトナム戦争に関する演説の準備のためホワイトハウス閣議室の机上の書類に目を通している
右:ドナルド・トランプ米大統領は3月16日、ワシントンDCのホワイトハウス大統領執務室で書類に署名する準備をしている
トランプ大統領は、この件に関して明確な目標について言及しておらず、もし最終的にイランを交渉のテーブルに着かせたとしても、アメリカはバラク・オバマ元大統領が2015年に締結した核合意と同様の妥協を受け入れざるを得なくなる可能性が高まっている。これには、イランが保有する核兵器開発寸前の濃縮核物質(Iran’s nearly-bomb-ready enriched nuclear material)をどう扱うかという問題も含まれる。トランプ大統領が破棄する前の合意では、イランは核物質の98%を国外に搬出することが義務付けられていた。現在、トランプ大統領はイランが核物質を引き渡すと主張し続けているが、テヘラン側はそのような譲歩(concession)は一切していないと述べている。
アトランティック・カウンシルのステラティジストC・アンソニー・プファフ退役米陸軍大佐は「強国の利益が限られている場合、弱い国が強い国に勝つケースはよくある。なぜなら、強い国の方が弱い国よりも先に撤退の限界点(its threshold to quit)に達するからだ」と述べた。
プファフは続けて「今回のやり取りもまさにそうだ。たとえ私たちがテヘランに対して、彼らの視点から見て妥当な要求を提示したとしても、彼らはさらなる譲歩を求めるだろう」と語った
※マイケル・ハーシュ:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。『資本攻勢:ワシントンの賢人たちはどのようにしてアメリカの未来をウォール街に渡し、我々自身と戦争を行ったのか(How Washington’s Wise Men Turned America’s Future Over to Wall
Street and At War With Ourselves)』と『何故アメリカはより良い世界を築くチャンスを無駄にしているのか(Why America Is Squandering Its Chance to Build a Better World)』の2冊の本の著者でもある。Xアカウント:@michaelphirsh
(貼り付け終わり)
(終わり)

シリコンヴァレーから世界支配を狙う新・軍産複合体の正体

『トランプの電撃作戦』

『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』









