古村治彦です。
2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。
バイデン政権はインテリジェンス外交(intelligence diplomacy)ということで、国家情報長官も参加させての外交を行おうとしている。ウクライナ戦争直前にロシア軍の動きをウクライナ側に通報するということで、その成果を挙げたと言われている。
インテリジェンスが外交の場で重要な役割を果たすということはこれまでもあった。代表的な例としては、日中国交正常化の交渉過程において、アメリカは軍事偵察衛星から撮影した中ソ(当時)国境のソ連赤軍の配備が分かる写真を中国側に提供し、これを見た毛沢東が米中国境正常化を最終決断したという話が残っている。「敵(ソ連)の敵は味方」ということで、共通の敵をつくり、それを認識させるために、インテリジェンスが重要であった。
米中国交正常化やニクソンショックに関して、日本は情報収集ができず、アメリカからも情報を得ることができず、寝耳に水の状態で、慌てて対応しなければならなかった。日本は、情報諜報を軽視しがちと言われてきた。太平洋戦争開戦前、戦時中において、日本は情報部門を軽視し、情報を分析することを怠ったために、国が亡ぶという結果を招いたと言われている。しかし、日本には忍者の伝統があり(忍者は現在で言えば情報将校であり、スパイである)、日露戦争において、明石元次郎大佐(後に大将)がスウェーデンのストックホルムに拠点を置いて、ロシアに対する諜報上活動と後方かく乱に従事し、ロシア国内に混乱をもたらすことで、戦勝に貢献したことは知られている。日本には優秀な情報将校の伝統もある。しかし、それが何故か、一番重要なアメリカに対して機能しなかったのは、そこに何らかの意図があったのではないか、機能しないように仕組まれたのではないかと疑わざるを得ない。
インテリジェンス外交によって、機密情報が各国で「交換」されることになり、そのために、セキュリティクリアランスが設定されたということもある。アメリカは、正確な情報を同盟諸国に与え、それを各国の行動の誘因にしようとしている。米中国交正常化交渉の時は、衛星写真であったが、今は各種情報となっているだろう。セキュリティクリアランスの運用に関しては、国家や政府に都合の悪い情報を機密情報に指定して、国民に知らせないということが起きる危険がある。自衛隊の日報問題ということがあったが、そのようなことが起きる危険がある。ここで重要なのは、シヴィリアン・コントロール(文民統制)、国民に選ばれた政治家がコントロールすることである。そして、国会がきちんとした権限を持つことだ。現在の弛緩しきった自民党にそうした緊張感を持ったコントロールができるかどうか、心もとない。こうしたことがしっかりできなければ、他国からの信頼も得られない。
(貼り付けはじめ)
インテリジェンス(情報諜報)外交の時代(The Age of Intelligence
Diplomacy)
-イラク戦争はそのリスクを浮き彫りにした。ロシアのウクライナ戦争はその機会を示した。
ブレット・M・ホルムグレン筆
https://foreignpolicy.com/2024/02/19/russia-ukraine-us-intelligence-diplomacy-invasion-anniversary/
私は残りの人生で、2022年2月22日のことを忘れることは決してないだろう。その日の夕刻、国務省内の、盗聴などから遮断された、安全が確認された部屋で、閣僚級の人々、そしてホワイトハウスの国家安全保障会議(National Security Council、NSC)の幹部クラスの人々が集まっての会議が招集された。私はアントニー・ブリンケン米国務長官とともに出席した。会議の冒頭で行われた通常の情報ブリーフィングでは、厳しい警告が発せられた。
ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始する姿勢を鮮明にしていた。
その前の数カ月間、アメリカはロシアの計画についてウクライナと世界に警告するため、戦略的に情報の機密性の格下げ(downgrading)と機密解除(declassifying)を行っていた。会議が行われた夜、国務省で国家安全保障会議の指導者たちは、新たな緊急脅威情報を直ちにウクライナと共有する必要があるとの結論に達した。
偶然にも、ウクライナのドミトロ・クレバ外相がブリンケン国務長官との会談の後、国務省に来ていた。ブリンケン、ジェイク・サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官、そしてアヴリル・ヘインズ国家情報長官(Director of National Intelligence、DNI)は、私と、ヘインズ長官の分析担当副官モーガン・ミュアに国家安全保障会議を抜け出し、情報機関と協力してウクライナと共有できる文言を明確にするよう要請した。許可を得た後、私たちは国務省の7階にいるクレバ外相を探し出し、情報を伝えた。クレバは絶望の表情を浮かべながら、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に戦争の準備をするよう電話をかけた。
最終的に、ロシアの計画を事前に暴露しても戦争を回避することはできなかった。しかし、アメリカの情報公開はウクライナの自衛を可能にし、同盟諸国やパートナー諸国を動員して、キエフを支援させ、国民の目にはロシアの偽情報(disinformation)を無力化させ、世界の人々に対して、アメリカからの情報、そしてアメリカの信頼性を回復させた。イラク戦争がインテリジェンス(情報諜報)外交のリスクを浮き彫りにしたとすれば、ウクライナにおけるロシアの戦争はその機会を示した。
アメリカは常に外国のパートナーと脅威に関する情報を共有しており、情報は長い間、アメリカの外交官たちにとって貴重なカードであった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は、アメリカの外交に対する情報諜報(インテリジェンス)支援の規模、範囲、スピードの著しい進化を象徴するものだった。それはまた、アメリカの国家安全保障上の利益を支援するために情報活動を行う18の機関で構成されている、アメリカ情報諜報(インテリジェンス)コミュニティの世界的な信頼性の転換点ともなった。
ロシアのウクライナ侵攻に対するアメリカと同盟諸国の対応を可能にする上で、戦略的で、承認された情報開示が中心的な役割を果たした。情報開示のおかげで、ウィリアム・バーンズCIA長官は2021年11月、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領に対し、アメリカはウクライナにおけるモスクワの意図を認識しており、断固とした対応を取るだろうと警告を与えることができた。また、ロシアの計画についてウクライナの人々や世界に警告を発した。そのような情報開示の一例として、モスクワがウクライナ侵攻を正当化するためにいわゆる「偽旗(fake flag)」残虐行為をでっち上げるかもしれないというアメリカの情報があった。
ロシアの陰謀を暴く諜報機関の正確さと成功を考慮して、政府、メディア、一般大衆の多くは、情報開示が他の世界的な紛争や課題における外交手段として利用される可能性があると認識している。
「インテリジェンス(情報諜報)外交(intelligence diplomacy)」について、一般的に受け入れられている定義は存在しない。ある人はこの概念を、外国のパートナーとの伝統的な情報共有という狭い意味で捉えている。また、情報外交をパブリック・ディプロマシー活動(public diplomacy campaigns)を強化するための手段、あるいはプレス・リリースなど政府高官の発言に注目を集めるための手段と考える人もいる。国務省では、情報諜報外交を「外交活動やパブリック・ディプロマシーを支援するための情報活用であり、アメリカの外交目的を推進し、パートナーに情報を提供し、同盟関係を構築し、協力を促進し、アプローチや見解の収斂を促し、条約を検証するためのもの」と定義している。
戦略的かつ責任を持って使用された後に、機密性のレヴェルが下げられた、もしくは機密解除された情報は、アメリカの外交政策を強力に後押しすることができる。例えば、1962年10月、アメリカは国連安全保障理事会に機密解除された情報を提出し、キューバにソ連の攻撃用ミサイルが存在することを暴露した。2017年4月、ホワイトハウスは対シリア攻撃への支持を集めるため、シリア政権による自国民への化学兵器使用を詳述した情報の機密指定を解除した。
しかし、適切な保護措置や監視がなければ、インテリジェンス外交は国家安全保障へのリスクを高め、外国のパートナーとの信頼を損ない、アメリカの利益を損なうような使われ方をすることもある。最も悪名高いのは、2003年にイラク侵攻を開始する前に、ジョージ・W・ブッシュ政権が、イラクの指導者サダム・フセインが大量破壊兵器を保有していることを主張するために機密情報を公開したことである。この情報は不正確であることが判明し、情報諜報コミュニティは一世代(30年)にわたって世界的な評判を落とした。
情報諜報コミュニティと政策立案者たちにとっての課題は、この種の誤用や悪用を防ぎながら、インテリジェンス外交の利点を最大限に活用することだ。インテリジェンス外交の将来を考えるとき、イラクの教訓を決して忘れてはならない。同時に、ロシアの本格的なウクライナ侵攻に対するアメリカの対応において、なぜインテリジェンス外交があれほど成功したのかを概説する価値がある。
第一の理由は、ジョー・バイデン大統領の決然たる指導力だ。2021年後半、ロシアが軍を動員し、情報諜報コミュニティが明らかにウクライナへの攻撃が間近に迫っていると評価する下地が整えられつつあったとき、バイデンはモスクワの計画と意図に関する情報を、機密レヴェルを下げるように指示した。ウクライナをはじめとするアメリカの同盟諸国やパートナー、そして一般市民が、アメリカが見ているものを正確に理解できるようにするためだ。
第二に、アメリカの政策意図は、戦争を防ぐという原則的かつ明確なものだった。サリヴァン国家安全保障問題担当大統領補佐官が2022年初頭、ホワイトハウスでの記者会見の場で述べたように、「イラク情勢では、戦争を始めるために、まさにこの演壇から情報が利用され、展開された。私たちは戦争を止め、戦争を防ぎ、戦争を回避しようとしている」。ブリンケン国務長官は、ロシアが侵攻する数日前に、国連安全保障理事会で同様のメッセージを発した。
第三に、ロシアとウクライナに関するアメリカの情報は、具体的で一貫性があり、正確であり、そして今後もそうであり続ける。情報諜報機関のアナリストたちは、ロシアの活動と意図に関して収集した情報の信頼性と確実性に大きな自身を持っており、これは収集と分析能力に対する長年の投資の結果である。
第四に、商業画像やソーシャルメディアなど、ロシアの活動に関する新たなオープンソースデータによって、情報諜報コミュニティは、より機密性の高い収集源や方法を発覚の危険に晒すことなく、信頼できる情報の機密レヴェルを下げたり、機密扱いを解除したりして、外国のパートナーや一般市民と共有することができるようになった。
ブリンケンのリーダーシップの下、国務省は、より多くの外交にインテリジェンス(情報諜報)を注入するため、集中的かつ計画的なアプローチを採用し、実行してきた。その際、国務省は情報諜報機関と緊密に連携してきた。大使をはじめとする外務官僚から次官、副長官、そしてブリンケン自身にいたるまで、国務省の多くの高官が、格下げされた、あるいは機密解除された情報を、国際的な関与や公の場での発言、外交上の方策(diplomatic demarches)に利用する機会を定期的に探し求めている。
ブリンケン国務長官は、2022年7月に国家情報長官室で行った講演の中で、「我が国の情報諜報活動と外交との間の深い相乗効果(profound synergy between our intelligence and our diplomacy)」についてほのめかした。ブリンケンは続けて「私たちは、ウクライナに対するロシアの侵略に関してだけでなく、全般的に、インテリジェンス外交を我々の思考の一部に組み入れ続ける必要があると考える」と述べた。
2023年9月、ブリンケンは、冷戦後の秩序の終焉から、民主政治体制と独裁政治の闘いによって定義される戦略的競争の新時代へと移行する際のアメリカの外交アプローチについて概説した。この戦略の核心は、「アメリカの最大の戦略的資産である同盟とパートナーシップを再参加させ、活性化させ、再構築すること」だとブリンケンは語っている。
インテリジェンス(情報諜報)は、これらの関係をサポートし、発展させる上で重要な役割を果たす。情報を共有することで信頼を築き、信頼できる情報に基づく共通の見解を確立し、パートナー間の協力のための新たな分野を開くことが可能となる。同盟関係の強化は、アメリカ情報諜報機関にとっても重要な資産となる。バイデン政権の国家安全保障戦略と国家情報長官の最近の国家情報諜報戦略はいずれも、権威主義的、もしくは修正主義的な諸大国に対するアメリカの戦略的競争においてインテリジェンス外交が中心的な役割を果たすことを明らかにしている。
国務省当局者や外交官たちによる膨大な量の格下げ(downgrade)および機密解除(declassification)要求は、この新たな現実を浮き彫りにしている。たとえば、2021年には、情報諜報機関の格下げまたは機密解除を求める要求が900件以上もあった。
2023年には、そのようなリクエストは1100件以上あり、週あたり20件以上のリクエストがあった。
国務省はウクライナ戦争以降もインテリジェンス外交を展開してきた。2023年だけでも、ウクライナ戦争を支援するためにロシアに致死性殺傷兵器を提供した場合の結果について中国に警告するために、格下げまたは機密解除された情報が公に、そして外交ルートで、非公開で利用された。つい最近、国務省は、アメリカとの二国間協定に違反して中国製軍事装備品の輸入を検討している国に方向転換を促す大規模な取り組みの一環として、格下げされた情報を利用した。そして国務省は、人権侵害に関係する政府への監視技術の拡散を防ぐために各国と連携するために、格下げされた情報に大きく依存してきた。
インテリジェンス外交に万能のアプローチはない。アメリカ国内外の様々な政府機関が、それぞれの権限や目的、そして少なくともアメリカにおいては、国家情報長官のガイダンスに沿ったモデルを開発し、展開している。国務省としては、インテリジェンス外交の厳密性、規律、そして慎重さをもって、いつ、どのようにインテリジェンス外交を行うべきかについて、最善の実行手段(best practice)を制度化するためにいくつかのステップを踏んできた。
第一のステップとして、私たちは国務省職員による情報の開示または公表の要求を通知するのに役立つ指針を確立した。これら7つの核となる原則は、国家情報長官によって設定された既存の情報諜報コミュニティの開示ポリシーを補完するものだ。
インテリジェンス外交は、明確な政策目標を支援し、国力の他の要素と整合性を保ちながら、国力を強化し、同盟関係やパートナーシップの強化を優先し、アメリカの信頼性を維持するために、信頼性が高く、理想的には複数のソースからの情報に依拠し、オープンな情報源では得られないような新しくユニークな情報の共有に努めるべきだ。更には、外交を支援するために使用される情報は、明確で理解しやすく、伝えられる側に伝わりやすいものでなければならない。また、インテリジェンス外交の提案は、情報源や方法に対する潜在的なリスクと期待される利益を慎重に比較検討すべきだ。
2024年1月、私たちは、職員の意識を高め、将来の世代の外務官僚や公務員たちに指針を提供するために、国務省の内部政策の中に、インテリジェンス外交を活用するためのこれらの原則とガイドラインを成文化し、追加した。
第二のステップとして、テクノロジーを活用し、国務省の機密・非機密ネットワークを通じてリソースや情報共有ツールをオンラインで利用できるようにすることで、国内外の米外交官たちのインテリジェンス外交へのアクセスを拡大した。
最後のステップは、新任の外交官や大使を対象に、インテリジェンス外交について、またこの能力を世界各地の米在外公館での外交活動にどのように組み込むかについて教育するための研修の開発に着手したことである。
結論は次のようなものだ。インテリジェンス外交は、アメリカの外交政策を担う主要機関である国務省の使命を支え、それを可能にする上で、ますます不可欠になっている。しかし、それは国家の安全保障とアメリカの価値観に合致した形で活用されなければならない。ガードレールがなければ、インテリジェンス外交が誤用されたり、悪用されたりする危険性がある。
2022年2月の厳粛な夜のことを思い出すと、世界がどれほど変わったか、そして情報諜報活動と外交の関係がほんの2、3年の間にどれほど進化したかを思い知らされる。もはや情報を分析資源としてのみ捉える余裕はない。むしろ情報は、戦略的敵対国との競争の最前線において、アメリカの外交を可能にする重要な手段と見なされなければならない。適切な保護措置が講じられれば、インテリジェンス外交はアメリカの未来を守る上で重要な役割を果たすことになる。
※ブレット・M・ホルムグレン:米国防省情報諜報(インテリジェンス)・研究局(Intelligence
and Research、INR)担当国務次官補。米国防省情報諜報(インテリジェンス)・研究局は、INRは情報諜報コミュニティの18の構成機関の1つであり、アメリカで最古の文官系情報機関だ。
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(終わり)
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