古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:イスラム教

 古村治彦です。

 

 現在、アメリカのマスコミでは、共和党の大統領選挙候補者ドナルド・トランプに対するバッシングが吹き荒れ、「トランプが立候補を辞退するのではないか、共和党が圧力をかけているのではないか、そうなった場合についての対応について共和党内部で研究が進められているのではないか」ということまで報道されています。ここまでのトランプ叩きが行われると、必然的に、トランプの支持率が急落してしまいます。最新の世論調査では10%以上の差をつけて、民主党の候補者ヒラリー・クリントンがリードしているという結果が出ています。

 

 今回のトランプに対するバッシングの原因は、民主党全国大会最終日に登壇した、イスラム教徒のカーン夫妻の夫が行った演説です。カーン夫妻の息子はイラクで爆弾テロの犠牲となって戦死しました。「トランプが入国を禁止しろと叫ぶ、アメリカでは弱い立場のイスラム教徒で息子はヴァージニア大学(アメリカ建国の父トマス・ジェファーソンの大学として尊敬を集める)を卒業してアメリカ軍に法務官を目指して入隊し、仲間を助けるために戦死した、年老いた両親」という「非の打ちどころのない絶対的正義」の存在がトランプを民主党全国大会の壇上で批判しました。

 

 これに対して、トランプはいつもの調子で批判し返しました。これに対して民主党、共和党から激しい攻撃が行われています。この絶対的な正義に対しては、関わるべきではありませんでした。うまくごまかして進むべきでした。しかし、トランプは引っかかってしまいました。これを民主党側から見れば、うまく仕掛けに引っかかったということになります。

 

 しかし、民主党のこのやり方はとても危険なものです。なぜなら、絶対的に批判されない存在を政治の場に出すことは、アンフェアです。水戸黄門の印籠と同じで、何も抵抗できなくなってしまいます。このような存在を政治の場に出してきて、自分たちの立場を有利にすることは禁じ手だと思います。日本で言えば戦前、野党は天皇の大権に絡むことで政府与党を攻撃し、政治が不安定化し、政党政治も短期間で終わってしまいました。繰り返しになりますが、政治の場に絶対的正義の存在が出てくることは危険なことです。

 

 また今回、カーン夫妻はトランプに「私はアメリカに大きな犠牲を供した。あなたは何かを犠牲にしたか?」と問いかけました。この発言もまた危険なものです。それは、政治指導者になるには何か大きな犠牲を払わねばならないという不文律のようなものが出てくるからです。今回、民主、共和両党の副大統領候補の息子たちはそれぞれ現役の海兵隊将校です。これは偶然だと思いますが、「子供たちが軍務に就いている」ということは、カーン夫妻が問いかける「犠牲」には十分な資格となります。しかし、これが過度に強調されると、政治指導者になるためには、家族が軍務に就いていることが望ましいということになり、そして、政治指導者になることを望む人間はその人自身が軍務に就く、もしくは家族が軍務に就くことが当然ということになると考えるのは考えすぎかもしれませんが、徴兵制などと考え合わせると危険な方向だと考えます。

 

 トランプはまた、共和党の指導的な立場にある、ポール・ライアン連邦下院議長とジョン・マケイン連邦上院議員が再選を控えているのに、彼らを支持することを拒否しました。これについても共和党内部から激しい批判が寄せられています。確かにこの2人はトランプに批判的でしたが、最終的には渋々でもトランプ支持を表明しました。それに対して、「俺の強さを思い知らせてやる」式の意趣返しは、いつものトランプ一流の計算とは思えない行動です。

 

 こうしたトランプの動きに対して、副大統領候補ペンスは、apologist-in-chiefと呼ばれるほどに、トランプに尻拭いを行っています。カーン大尉の家族には敬意を払い、ライアンとマケインは友人であり、再選を支持すると発言しています。

 

 トランプ陣営の建て直し(トランプの動きを少し抑制すること)のために共和党最高幹部内のトランプ支持者たちが陣営に直接介入するということになっているようです。

 

 しかし、トランプ自身は行動を抑えられるのを極端に嫌うでしょう。そうなると、またそのことをマスコミで面白おかしくかつ大々的に報じられ、支持率を下げるという悪循環になってしまいそうです。

 

=====

 

共和党全国委員会:トランプは候補者にとどまり続けるだろう(RNC: Trump will be on ballot

 

ジョナサン・イースリー、ジョナサン・スワン筆

2016年8月3日

『ザ・ヒル』誌

http://thehill.com/homenews/presidential-campaign/290336-rnc-trump-will-be-on-ballot

 

共和党全国委員会は、共和党の職員たちが、ドナルド・トランプが大統領選挙投開票日までに立候補を取りやめた場合に代わりを立てるのにはどうしたらよいのかということを研究しているという報道の信ぴょう性をきっぱりと否定した。

 

共和党全国本部の人間は誰も最悪のシナリオについて研究するように指示されていない、と共和党全国委員会ストラティジストであるシーン・スパイサーは語っている。また、共和党全国委員会がトランプに対して立候補を辞退するように圧力をかけたという事実も見つかっていないと述べた。

 

スパイサーは11月の本選挙にはもう誰も出られないと語った。

 

スパイサーは本誌の取材に次のように答えた。「ドナルド・トランプは共和党の候補者なのだ。それが事実だ。それ以外のことはメディアと学者の捏造だ」。

 

トランプ陣営では、陣営内部、更に共和党内部で争いが起きているという報道はメディアの作り話だと非難している。

 

トランプ陣営の責任者ポール・マナフォートは、フォックスニュースのインタヴューに答えて、トランプ陣営では7月で8000万ドル(約80億円)を集めたと述べた。これはこれまでの最高額であった。更には、選挙運動は、主要な激戦州各州で激しく展開している最中だと語った。

 

マナフォートは、共和党全国委員会のレインス・プリーバス委員長とその他の幹部たちが、トランプを正しい方向に戻すために「介入」する計画を立てているという報道を否定した。

 

マナフォートは次のように述べた。「私たちに必要な介入とは、メディアの一部に対するものであろう。そうした一部のメディアは真実ではないことを垂れ流している」。

 

現在、共和党の指導者たちは、トランプが道を大きく外して大きな騒動と批判を起こしていること、その結果として共和党員の間に秋の本選挙で惨敗するのではないかという懸念を持たせていることを心配して、トランプを何とか引き戻そうと躍起になっている。

 

ある共和党関係者は本誌の取材に対して、プリーバス委員長はトランプがここ数日戦死した米軍将校の両親を批判していることと連邦下院議長ポール・ライアン(ウィスコンシン州選出、共和党)への支持を拒否したことについて、「怒り狂って」いると述べた。

 

プリーバスはライアンの親友であり、ウィスコンシン州選出同士である。彼らの支持者たちは、トランプを支持しているのに、トランプから馬鹿にされることで、フリーバスとライアンの再選が危険に晒されていると考えている。

 

プリーバスは、マナフォートや選対幹部たちに向かって、「トランプが共和党の指導部を攻撃するのではなく、ヒラリー・クリントンに攻撃を加えるようにさせろ」と怒り狂って電話を掛けた

 

トランプに近い人々もまた同様のことをトランプに求めている。

 

トランプ陣営に近いある人物は本誌に対して、マナフォートとトランプの成人した子供たちは、先週からトランプの周辺で無秩序に陥っていることに「取り乱して」いると語った。マナフォートとトランプの子供たちは、トランプに対する最も影響力を持つ顧問団を形成している。

 

前述の人物は次のように語っている。マナフォートとトランプの成人した子供たちは非公式にトランプに対して、カーン大尉の家族に対する攻撃を止めるように、共和党の指導者たちや再選のために動いている政治家たちに対する攻撃を止めるように求めている。そして、トランプに呼ぶ選挙での勝利をもたらしたメッセージに戻るように求めている。

 

陣営に近いある人物は、「先週、トランプはカーン大尉の家族に対する攻撃を止めることはできなかっただろうし、メッセージに戻ることはできなかっただろう」と述べた。

 

この人物は更に次のように語った。「トランプの周辺はトランプに対して止めるように忠告している。トランプは“分かった”と言うが、人々の前に出て、意図的にカーン大尉の家族に対する攻撃を話し始めるのだ。周辺の人物や家族はまだ、トランプを元に戻すことが出来るという希望を持っている。これが私の話せることの全てだ」。

 

マナフォートもトランプの子供たちの報道担当もコメントを出さなかった。

 

トランプ選対と共和党全国委員会は水曜日に危機モードに陥った。水曜日、多くのメディアが選対内部の対立とトランプが選挙自体から撤退することを考えている可能性について言及した。

 

トランプ選対は、先週から起きている騒動の渦中にいる。トランプは、民主党全国大会に登場してトランプを批判したイラクで戦死した米軍将校の父親かザール・カーンと公の場でいさかいを起こした。これが騒動になった。

 

トランプの協力者たち、ベン・カーソン、ニュート・ぎんぐりっじ、クリス・クリスティなどは、ゴールドスター勲章を授与された家族を批判していることと気を散らせていることをたしなめた。

 

ギングリッジは水曜日にCNBCの取材に対して次のように答えた。「問題は、トランプ急ぎ過ぎないようにし、深呼吸をして、自分のやっていることを立て直すことが出来るかどうかだ。そうすることで彼は大統領選挙候補者らしくできるのだ。彼はこれまでそうしたことが出来ていない。これまで彼の支持者たちはこうした姿を見て落胆しているのだ」。

 

共和党と民主党は、トランプがカーン大尉の家族とのいさかいを起こしたことを一緒になって非難している。トランプは突飛過ぎて大統領にふさわしくないと批判している人々にとってこれは新しい材料になっている。

 

オバマ大統領は火曜日、ホワイトハウスから事態について言及した。大統領は、カーン大尉の家族に関する騒動について言及した。民主党は選挙戦を有利に進め、共和党の指導者たちはこれに圧力を感じている。選挙を控えている共和党の政治家たちはトランプとのつながりを絶とうとしている。

 

火曜日、連邦下院議員リチャード・ハンナ(ニューヨーク州選出、共和党)は、共和党所属の連邦議員の中で初めて、ヒラリー・クリントンに投票することになるだろうということを表明した。

 

その他の共和党の最高幹部たちもまた今週になって、彼らは今回の大統領選挙に関して共和党を離党すると表明している。その中には実業家の女性メグ・ホイットマンがいる。彼女はヒラリーのために資金集めをすると表明している。

 

トランプは彼が抱える問題を悪化させた。共和党員の猜疑心を掻き立てた。トランプは火曜日に『ワシントン・ポスト』紙のインタヴューに答えた。その中で、トランプはこれまでトランプに対して批判的であったが最終的にトランプ支持を表明したライアンの再選への支持を拒絶した。

 

連邦議会内のトランプの協力者たちは、来週に予備選を控えているライアンとどうして争いを起こすのかと困惑している。

 

トランプを支持している連邦下院議員ダンカン・ハンター(カリフォルニア州選出、共和党)は次のように発言した。「トランプにはより大きなテントとより広い心が必要だ。彼は共和党の候補者であり、より多くを許せるようにならねばならない。今回の騒動に関しては、より大きな人間となって対処すべきなのだ」。

 

トランプの2つの騒動はマスメディアにトップニュースとして取り上げられている。これがトランプの協力者を苛立たせ、批判者に新しい弾薬を与えている。

 

トランプの副大統領候補のインディアナ州知事マイク・ペンスは2つの騒動について、トランプの失敗の尻拭いをしている。

 

ペンスは先週末に声明を発表した。その中で、フマユン・カーン大尉を「英雄」と呼び、カーンの家族は「尊重される」べきだと述べた。

 

水曜日、ペンスは、ライアンの再選を「強く」支持すると発表した。

 

(終わり)





 
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アメリカ政治の秘密
古村 治彦
PHP研究所
2012-05-12




野望の中国近現代史
オーヴィル・シェル
ビジネス社
2014-05-23



 古村治彦です。

 今回は、世界各国の宗教と政治に関する短い論稿をご紹介します。


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世界各国の国家元首に必須の宗教に関する条件を解説する(Religious Requirements on Heads of State Around the World

 

トニー・パポウセク筆

2014年7月24日

フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)誌

http://blog.foreignpolicy.com/posts/2014/07/24/interactive_map_religious_requirements_on_heads_of_state_around_the_world?utm_content=buffer1c0ec&utm_medium=social&utm_source=facebook.com&utm_campaign=buffer

 

 現在、ガザではイスラエルによる軍事作戦が展開され、シリアでは悲惨な内戦が続いている。イラクはイスラム原理主義者たちと戦っている。こうした状況下で、レバノンの政治の停滞に関するニュースが新聞の一面に掲載されないというのは理解できることだ。しかし、2014年7月23日、レバノンの国会議員たちは大統領の選出に失敗したのだが、これが8回目という体たらくだ。レバノンにおいては多くの宗教グループの間で複雑な勢力均衡を保たねばならず、大統領はマロン派キリスト教徒が就任するという決まりになっている。このような国家元首就任に宗教に関する条件が必要になるというのはそこまで一般的ではないという訳ではない。


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 ピュー・リサーチセンターの最新の分析によると、30カ国で国家元首は特定の宗教の信者でなければならないという条件を設けているということだ。そのうち17カ国で、国家元首はイスラム教徒でなければならない。2カ国では仏教徒ということだ。インドネシアの場合は、国家元首はパンカシラを信じていなければならない。パンカシラとは国家創設のイデオロギーである。その中には神の存在を信じるということも含まれている。8カ国で聖職者が国家を支配する地位に就くことを禁止している。

 

 ピュー・リサーチセンターの調査では、他の19カ国が別のカテゴリーに入れられている。それは、それらの国々が王制であるからだ。こうした国々でも執政は特定の宗教の信者である必要がある。しかし、この数字は少しずつだが増えている。それは、このうちの16カ国が英連邦・コモンウェルス(Commonwealth of Nations)のメンバーであり、国家元首は、イギリス国教会の形式上の最高指導者エリザベス二世となるのだ。エリザベス二世が持つ様々な肩書の中には、「信仰の守護者」というものがある。これは彼女の宗教上の特別な役割を示すものだ。その他の三つの王国であるスウェーデン、デンマーク、ノルウェーは特定のキリスト教の宗派の信者が王位に就かねばならないとしている。

 

パンカシラ(Pancasila)はインドネシアの最高指導者が持たねばならない指導哲学である。このパンカシラは、社会、宗教、統治などに関する5つの原理から成り立っている。レバノンに関して言えば、政府の役割は様々な宗教グループに分割されている。レバノンの最高指導者は大統領だ。大統領はマロン派キリスト教徒でなければならない。行政府の長である総理大臣はスンニ派イスラム教徒でなければならない。国会議長はシーア派イスラム教徒でなければならない。国会の副議長と行政府の副首相はギリシア正教徒でなければならない。更に言えば、参謀総長はドゥルーズ教徒でなければならない。国会議員の割合はキリスト教徒とイスラム教徒の割合が6対5と決められている。

 

 世界の残りの国々は、政治家の宗教上の資格を必須としていないか、宗教上のテストを行うことを非合法化している。

 

(終わり)







 
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