古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イラン

 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 アメリカでは11月末の感謝祭(Thanksgiving Day)のあたりから、ホリデーシーズンに入るという感じで、一年を振り返るということも行われる。世界での大きな出来事から個人的な出来事まで、色々なことがあった。私で言えば、昨年末ギリギリに『』を刊行し、それがご縁になって、佐藤優先生との共著『』を出すことができた。来年も著書が出せるように、それが皆様のお役に立つ者であるように精進したい。より個人的なことは差し控えるが、大病もせず(慢性的な病気はあるがその状態が悪化せず)、大きな怪我もせずというのはありがたいことだったと思う。

 2024年は世界各国で国政レヴェルの選挙が実施された。思い出せるだけでも、台湾、インドネシア、インド、フランス、イギリス、日本、アメリカといった国々で選挙が実施され、指導者が交代することになった国もある。なんと言っても、アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが当選し、『』の内容から「トランプ当選を当てましたね」と言われたのは大きかった。また、共和党がホワイトハウス、連邦上下両院、連邦最高裁、アメリカの行政、立法、司法の三権を握ることになった(クアドルプル・レッド状態)。2025年からの第二次ドナルド・トランプ政権がどのようになるか、注目される。

 世界での戦争は2024年中に終わる可能性はない。ウクライナ戦争と中東での戦争は、小休止という状態であるが、正式な停戦には至っていない。この状態で2025年を迎えることになりそうだ。

 私は以下のスティーヴン・M・ウォルトの論稿で、世界で核兵器が使用されなかったことは最低限のことであるが、良かったということに同意する。それは多くの人もそうだと思う。ロシアにしても、イスラエルにしても、核兵器を使うということは、ハードルがとても高いことであるが、可能である。それでも、状況が深刻化しても、核兵器使用はなかった。核兵器を使用すればよいという主張がなかった訳ではない。地域紛争においては核兵器を使用しないという前例の積み重ねも重要だ。それがモラル面でのハードルになり、抑止力になる。もっとも、非常に脆弱なものではあるが。

 このブログは2025年も続くか、なんとなく日本のホリデーシーズンに入った感もあるので、このような文章を書いた。

(貼り付けはじめ)

2024年で感謝すべき10の理由(10 Reasons to Be Thankful in 2024

-何はともあれ、今年、世の中には感謝すべきことがいくつかある。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/28/thanksgiving-10-reasons-thankful-geopolitics-governance-human-rights/

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ワシントンのホワイトハウスで感謝祭の七面鳥「ピーチ」に恩赦を与えるジョー・バイデン米大統領(11月25日)

今日はアメリカでは感謝祭(Thanksgiving)であり、この時期には感謝の気持ちをリストアップするのが私の習慣となっている。残念なことに、今回はその作業にもう少し努力が必要だ。

中東での紛争は、何千人もの罪のない人々の命を犠牲にし、アメリカの評判を落とし、将来のトラブルの種をまき続けている。ウクライナにおけるロシアの戦争は期待外れの結末に向かいそうだ。多くの国でポピュリストが台頭し、現代社会が直面する困難な課題に対する解決策をほとんど示さないまま、分裂と疑念(division and suspicion)をまき散らしている。地球は熱くなり続け、気候危機への対策は停滞している。

アメリカの有権者は、犯罪者を次期大統領に選んだばかりだ。彼は今、国民から金をむしり取り、自分たちを富ませようとする忠誠者、蓄財家、変わり者で構成される政府をせっせと任命している。いい時代ではないか?

それでも私は、ほろ苦いものもあるが、今年感謝すべき10の理由を見つけた。

(1)アメリカの選挙は異議を唱えられなかった(1. The U.S. Election Was Not Challenged

11月5日に行われた米大統領選挙の結果は、私が望んだものではなかったが、結果をめぐる長期にわたる揉め事や、選挙を盗もうとする別の努力に終始しなかったことに感謝している。もしドナルド・トランプ次期大統領が敗北していたら、彼と共和党は結果を覆そうとあらゆる手を尽くしたに違いない。しかし、民主党は、悲しい心で、しかし見事な潔さで結果を受け入れることで、その気品と合衆国憲法への関与を示した。トランプ2期目は国にとって良いことではないかもしれないが、秩序ある平和的な権力移譲(orderly and peaceful transfer of power)は行われた。

(2)(非常な) 老兵の退場(2. Out With the (Very) Old Guard

民主党について言えば、何十年もの間、民主党を支配してきた老人支配政治(gerontocracy)がついにその舞台を譲ることになり、私は感謝している。ジョー・バイデン大統領、ナンシー・ペロシ連邦下院議員、チャック・シューマー連邦上院議員、ステニー・ホイヤー連邦下院議員、クリントン夫妻、その他何人かが、理想よりも数年遅れて日没へと向かうのを見るのは残念でならない。これらの人々は、政治家としてのキャリアの中で良いこともしたし、それは私たちも感謝すべきことだが、アメリカ国民との関係が希薄になる中で権力にしがみついたことも事実だ。新しい血と新しいアイデアが必要な時だ。

新鮮な思考がアメリカの外交政策にも及ぶことを願っている。アントニー・ブリンケン国務長官やジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官を含むバイデンチームは、リベラルな覇権(libera hegemony)という失敗した戦略を少し手直しして復活させようとした。時代遅れの信念や政策にしがみついた結果、ウクライナやガザ地区で悲惨な結果を招いた。こうした考え方が今後のアメリカの外交政策に与える影響は少ない方がいい。

(3)有権者が見逃したソフトランディング(3. The Soft Landing That U.S. Voters Missed

バイデン政権の外交政策ティームの全員がひどいパフォーマンスだったわけではない。ジャネット・イエレン財務長官、ジャレド・バーンスタイン経済諮問委員会委員長、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が新型コロナウイルス不況後のアメリカ経済を管理していたことに感謝している。彼らは多くの識者があり得ないと想定していた「ソフトランディング(soft landing)」を成し遂げた。もちろん彼らの実績は完璧ではなかったが、もっと悪くなる可能性もあった。

有権者がバイデンの功績を高く評価しなかったのは残念だが、その理由の1つは、バイデンが高齢のため、一般市民に説明することができなかったことだ。不平等と住宅費の上昇に対処するためのより大きな努力は助けになっただろうが、これらの問題を解決するための真剣な対策が連邦議会を通過したり、地方の障壁を乗り越えたりすることはなかった。アメリカの有権者は11月5日に感謝の念を抱かなかったのは明らかだが、私は感謝している。

(4)生殖の自由の反撃(4. Reproductive Freedom Battles Back

トランプ陣営の明らかな女性差別、安全な妊娠中絶を事実上不可能にするプロジェクト2025の計画、女性の身体以外のあらゆるものを規制緩和しようと急ぐ連邦最高裁の判例を無視する姿勢を考えれば、今年の選挙がリプロダクティブ・フリーダム、女性の健康、そして、ジェンダーの権利にとってより広範に何を意味するのか、多くの人々が落胆したのは当然である。

しかし、選挙戦の様相はまったく暗澹たるものではなかった。女性の健康と権利を守るための投票イニシアティヴは、それが検討されていた10州のうち7州で可決され、中絶の権利を支持する候補者が、トランプ大統領を支持した州を含む重要なレースで勝利した。ささやかな慰めかもしれないが、今年はもらえるものは何でももらうつもりだ。

(5)大量破壊兵器のタブーは守られてきた(5. The WMD Taboo Held Up

核兵器を保有する国々が関与する暴力的な紛争が継続・拡大しているにもかかわらず、大量破壊兵器(weapons of mass destructionWMD)が使用されることなく今年も1年が過ぎたことに、私たちは感謝しなければならない。しかし、私たちの感謝は、核兵器、そしておそらく他の大量破壊兵器の敷居が低くなっているという知識によって和らげられるべきである。アメリカを含むいくつかの国の強硬なタカ派は、核兵器の使用について公然と語り始めている。来年の感謝祭のリストにこの項目を入れられればいいのだが、年々その可能性が低くなっているのが心配だ。

(6)国際刑事裁判所の逮捕令状(6. The ICC Arrest Warrants

国際刑事裁判所(International Criminal CourtICC)が政治的圧力に屈することなく、ハマス軍最高責任者のモハメド・デイフ(彼はもう生きていないかもしれない)、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相、ヨアヴ・ギャラント元イスラエル国防相に逮捕状を発行したことに感謝したい。この逮捕令状は、戦争犯罪や人道に対する犯罪を命じたり犯したりした人間が、国際社会から特別扱いされ、制裁を受ける可能性があることを示す希望的な兆候である。

私は、リアリストとして、このような措置が一部の指導者の悪行を止めるものではないことを認識している。しかし、執行メカニズムが弱いか存在しない、食うか食われるか(dog-eat-dog)の国際政治においても、国家は政府が罪のない市民に故意に過度の残虐行為を加えることを阻止しようとすることはできる。今回の逮捕状によって、ハマスやイスラエルの指導者たちが選んだと思われる暗い道に向かわないよう、将来の指導者たちが何人かでも説得されるのであれば、私たちはそれにも感謝しなければならない。

(7)公務員(7. Civil Servants

政治家や専門家たちは、お役所仕事で社会を窒息させ、私たちに自分たちの好みを押し付けていると思われる政府関係者を批判するのが大好きだ。彼らは格好の標的だが、多くの場合、不十分なリソースを使いながら、私たち全員の状況をより良くするために毎日働いている、ほとんど献身的でほとんど政治に無関心で組織的に低賃金の何千人もの公務員なしでは社会は機能しない。

アメリカは、このような人々が、イデオローグや日和見主義者から指示を受ける忠誠者やハッカーに取って代わられるとどうなるかを発見しようとしているのかもしれない。この戦略は他の国ではあまりうまくいっておらず、今後数年で公共サーヴィスが劇的に低下すれば、アメリカ人は満足しないだろう。私が間違っていればいいと思う。今のところは、トップに任命された人たちの気まぐれや愚行にもかかわらず、公的機関の運営を維持してきた専門知識と献身に感謝することにしよう。

また、ジョシュ・ポール、アネル・シェリーン、ハリソン・マンといった政府関係者にも特別な感謝の意を表する。彼らは出世主義(careerism)よりも道徳と原則を優先し、バイデン政権によるイスラエルの虐殺に対する非良心的かつおそらく違法な支援に抗議して辞任した。もし彼らの上司の何人かが彼らの例に倣っていれば、アメリカの政策はより建設的な方向に舵を切ったかもしれない。

(8)著述家たち(8. Authors

幸運なことに、私は仕事上、たくさんの本を読む必要があり、私を教育し、挑戦し、インスピレーションを与え、楽しませてくれた多くの著述家に毎年感謝している。全員に言及することはできないが、ステイシー・E・ゴダード、エリン・ジェン、シーピン・タン、スティーヴ・コル、カルダー・ウォルトン、アダム・シャッツ、ジェイムズ・ゴールドガイアー、ダニエル・チャーデル、ヴィクトリア・ティンボア・フイ、ノーム・チョムスキー、ネイサン・ロビンソンに簡単に感謝の意を表したい。私は彼らが書いた全てに同意する訳ではないが、その全てに多くの価値があると感じた。

そして、ナターシャ・ウィートリーに特別な応援を送りたい。著書『国家の生と死(The Life and Death of States)』は、オーストリア=ハンガリー帝国の終焉と近代国家制度の創設のめくるめく歴史であり、法制史、哲学、法学などの多くの学問分野の並外れた組み合わせとなっている。決して軽い読み物ではないが、非常に読み応えがあり、深く考えさせられる内容だった。

軽めの作品としては、故ポール・オースター、ジュリアーノ・ダ・エンポリ、バリー・アイスラー、ボニー・ガーマス、そして特にジョージ・スマイリーを完全に満足のいく形で甦らせるという不可能に近い偉業を成し遂げたニック・ハーカウェイの作品に喜びを見出したことに感謝している。私の読書人生を豊かにしてくれた上記の全ての人々に感謝する。

(9)希望の光か?(9. A Silver Lining?

これは時期尚早かもしれないが、第二次トランプ政権が、敵対者たちが警告していた無能で執念深い、そして過度の傲慢さを示しているという初期の兆候に対して、暫定的に感謝の意を表したいと思う。はっきり言っておくが、私はアメリカに悪いことが起こることを望んでいる訳ではない。私の心配は、いずれにせよそれらが起こるのではないかということだ。

これが引き起こすであろう問題や、多くのアメリカ人が耐えることになる苦しみを私は喜ばないが、トランプ、イーロン・マスク、ロバート・F・ケネディ・ジュニア、そしてその他の人々が最終的に多大な損害を与えるのであれば、むしろそうするほうが良いと思う。それは迅速かつ誰の目にも明白だ。そうなれば、他の非自由主義的な独裁者たちがやったように、トランプとその手下たちが権力を維持するために選挙制度を再配線する前に反発が始まるかもしれない。興味がある方のために付け加えておくが、私は間違いであると証明されることを嬉しく思うし、物事がそのように進むのであれば喜んでそれを認めるつもりだ。

(10)個人的な幸せ(10. Personal Blessings

私は幸運にも今学期をウィーンの人間科学研究所 (IWM) のゲストとして過ごすことができた。考えたり書いたりするのにこれ以上良い環境はない。とても良いホストをしてくれたミーシャ・グレニー、イワン・クラステフ、そしてIWMのスタッフに感謝する。最後に、たとえあなたがコメントで私に課題を与えてくれた読者の一人であっても、このコラムを読むことを選択した全ての人に、私は深く感謝し続ける。

そして、以前はトゥイッターとして知られていた地獄のサイトに代わるサイトがあることに特に感謝している。今後は、@stephenwalt.bsky.social で私をフォローして欲しい。素晴らしい感謝祭になりますように!

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「Bluesky」アカウント:@stephenwalt.bsky、「X」アカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2023年10月以来、イスラエルと中東地域は戦争状態が続いている。共和党の支持者の過半数はイスラエルに対する支援を継続することを望んでいる。また、ドナルド・トランプ次期大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は良い関係と言われている。バラク・オバマ、ジョー・バイデン両民主党政権とは関係がうまくいっていなかったネタニヤフ首相は2023年10月以来、積極的に周辺諸国に攻撃を仕掛けている。これは、再選の道を断たれたジョー・バイデン大統領はレイムダック化(無力化)しているうちに、戦線を拡大しておきたいということ、自分と関係が良いドナルド・トランプが次期大統領になることで、支援は継続されて、攻撃を続けることができるという計算をしているということが考えられる。トランプは2024年10月21日にネタニヤフ首相と電話会談を行い、「(イスラエルの自衛のために)やるべきことをやれ」と述べたとされている。ネタニヤフ首相は「お墨付き」をいただいたような気持であっただろう。
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 イスラエルは、ガザ地区のハマスだけではなく、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、更には、これらの組織を支援するイランに対する空爆も行っている。それだけではなく、シリアのバシャール・アサド政権崩壊を受けて、シリア国内の民兵組織にも攻撃を加え、係争地ゴラン高原の緩衝地帯に侵攻し、ゴラン高原の確保を強化している。ネタニヤフ首相は自衛のための行為としているが、中東地域を不安定にさせる危険な動きである。イスラエルと中東のイスラム教国の対立という「中東戦争」になって困るのはトランプだ。

 いくらトランプがイスラエルを支援していると言っても、イランとの戦争状態は望まないだろう。イスラエルとイランが戦争状態になり、核戦争の危機も高まるとなれば、アメリカがこの戦争に引っ張り出される、巻き込まれるということは考えられる。アメリカ軍が派遣され、アメリカ軍に死傷者が出るとなると、トランプ政権にとって大きな打撃である。そこまで事態が悪化しないように、トランプとしては状況をコントロールしたいところだろう。ネタニヤフ首相は自身と家族のスキャンダルを抱えており、首相の座から離れてしまえば逮捕される可能性がある。戦争状態、緊張状態が続くことは彼自身にとっては利益であるが、これはイスラエルと中東地域、世界にとっては好ましい状況ではない。

 ネタニヤフ首相が辞退を悪化させる場合、トランプは態度を変えて、ネタニヤフ首相を支持せず、政敵のベニー・ガンツ元国防相を応援するということも考えられる。トランプ自身の動きは「予測不可能」であり、いつ「You are fired!(お前はクビだ!)」と言われるかは分からないのだ。

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トランプとネタニヤフは歩調を合わせないだろう(Trump and Netanyahu Won’t Get Along

-誰もがトランプとイスラエル首相の親密さを過大評価している。

スティーヴン・A・クック筆

2024年11月1日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/01/trump-and-netanyahu-wont-get-along/

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ドナルド・トランプ前米大統領とベンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相(2020年1月27日、ワシントンDC)。

『タイムズ・オブ・イスラエル』紙は最近、イスラエル人の3分の2がカマラ・ハリス米副大統領よりもドナルド・トランプ前米大統領を好むと報じた。彼らはトランプがバイデン・ハリス政権よりもイランに対してより厳しく、イスラエルの戦争努力を支持すると明白に信じているが、トランプもハリスもイランとの直接対決を望んでいないという事実を考えると奇妙なことである。

また、トランプとイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が互いに歩調を合わせているという考えが広まっていることも奇妙だ。

私が書評したジャレッド・クシュナーの回顧録の内容を信じるならば、ネタニヤフ首相とトランプ大統領との間には信頼関係が欠如していた。ネタニヤフ首相が1996年に首相として初めてワシントンDCを訪れた際、ビル・クリントン大統領は会談後にスタッフにこう尋ねたと伝えられている。「ここにいる中で誰が超大国だ?」 バラク・オバマ大統領は明らかに、ネタニヤフと同じ部屋にいることに耐えられなかった。そしてトランプは、在任中に行われた一連のイスラエル選挙でベニー・ガンツを応援した。

トランプは明らかに、ハマスとの戦争を、選挙に勝った場合に最初に対処しなければならない問題にはしたくないようだ。だからこそ、トランプは最近になって、ネタニヤフ首相に対して、就任式の日までにガザ地区については決着をつけたほうがいいと述べた。これは以前から何度も言っていることで、イェルサレムの懸念をかき立てている。トランプのタイムラインは、ハマスに多くのダメージを与えたが、今後も続けるつもりのイスラエルのタイムラインとは必ずしも一致しないからだ。もしネタニヤフ首相が大規模な軍事作戦を終了させ、勝利宣言をすれば、国内の右派の同盟者たちとはうまくいかないだろう。

結論: 選挙結果がどちらに転んでも、アメリカ・イスラエル関係に緊張が走る可能性は高い。

※スティーヴン・A・クック:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。外交評議会エニ・エンリコ・マッテイ記念中東・アフリカ研究上級研究員。最新作に『野望の終焉:中東におけるアメリカの過去、現在、将来』は2024年6月に刊行予定。ツイッターアカウント:@stevenacook

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(終わり)

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年の大統領選挙までは、「ドナルド・トランプとカマラ・ハリスではどちらが勝つか」という質問を受けることばかりだった。選挙が終わって1か月ちょっと過ぎている今まででは、「トランプが大統領になってアメリカはどうなるか、世界はどうなるか、日本はどうなるか」という質問を受ける。予言者ではない身としては答えるのに難しい質問ばかりだ。そこで、ハーヴァード大学のスティーヴン・M・ウォルトはどう考えているかを見ていきたい。ウォルトもまたトランプを「予測不可能だ(unpredictable)」と言っているのではあるが。是非下の論稿を読んで欲しい。

 対中国に関しては、核兵器を使った戦争も辞さないと考える人たちがいる一方で、関わるべきではない、国内問題を優先すべきだと考える人たちもいる。トランプはその間を行ったり来たりするだろうというのがウォルトの見立てである。私は、トランプは中国との戦争を望まないだろうと考える。そして、アメリカが中国と戦うまでには何段階かあり、その中には、日本がけしかけられる形で、中国と戦うという段階があると思われる。そうなれば、世界経済は崩壊してしまうだろうと考えると、トランプは経済面での中国との貿易戦争を行う可能性は高いが、実際の戦争はない。

トランプ自身は戦争を損だと考えると思われるので、ウクライナ戦争も、そして中東地域でも戦争の拡大を望まないだろう。ウクライナ戦争はトランプ政権下で停戦ということになり、NATOに関しては、各国の負担増大を強く望むことになるだろう。中東地域におけるイスラエルの動きは気になるところだ。イランはイスラエルとの全面戦争を望まないだろうが(これはイスラエルもそうだろう)、現状のように押しまくられている状態で、どこかで反撃ということも考えられる。核戦争の脅威があるという懸念がある限り、アメリカはイスラエルを見捨てることはできないだろうが、現在のベンヤミン・ネタニヤフ首相があまりにも戦争を拡大させるようであれば、アメリカは歯止めをかける動きに出るだろう。大きな戦争は起きないだろうが、アメリカの国力の低下と威信の低下によって、各地域での役割が縮小することによって、各地域内での未解決の問題に関して、「自力救済」を求める動きが出て、不安定化したり、小競り合いが起きたりすることがあるだろう。

 トランプは日本に対してあまり関心を持たないだろう。アメリカ国内への投資とアメリカからの輸入増大、更には防衛費の増額(アメリカの負担の軽減)にしか関心がないと言ってよい。現在、日本では防衛費負担増額のための増税が進められているが、これは「防衛費を対GDPの2%まで倍増させよ」というトランプ政権以来の「厳命」に沿った動きである。「予測不可能な」トランプである。「2%?それはまだ低すぎる、3%だ」ということを言ってくる可能性もある。「それに加えて、アメリカ国内に工場を作れ」ということにもなるだろう。更には、「アメリカが産出する石油と天然ガスを買え」という要求も出てくるだろう。これらについて「条件を交渉する」役割が石破茂首相には求められる。石破氏は、トランプにとって、「ゴルフもやらない、おべっかも言わない」初めての日本の首相となる訳だが、タフな交渉相手であるところを見せれば、かえって好意を持つ可能性はある。「話せる奴」という評価を得ることが重要だ。

 アメリカ国内においては、関税引き上げによる経済への影響は気になるところだ。物価高を引き起こし、インフレ懸念が高まる。経済成長と人々の収入の増大を伴う物価高は望ましいが、そうではない場合には、アメリカ国内に生活苦からの不安定な状況が生み出さされる可能性がある。予断を許さない状況だ。

(貼り付けはじめ)

2024年のアメリカの選挙が外交政策に及ぼす10の影響(The 10 Foreign-Policy Implications of the 2024 U.S. Election

-トランプ2.0について考えるべきこと

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年11月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/11/08/10-foreign-policy-implications-2024-election/

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ミシガン州グランドラピッズでの集会に登場する共和党大統領候補ドナルド・トランプ(11月5日)

映画ファンは、ある映画の続編が良いものであることはほとんどなく、第一作よりも暗い展開になることが多いことを知っている。トランプの大統領としての最初の作品は多くの人を失望させ、一部の人にとっては致命的であった。それが、2020年の選挙でトランプが負けた理由である。リメイク版は更に悪いものとなるだろう。2024年のアメリカ大統領選挙がもたらすであろう影響トップ10を以下に挙げていく。

(1)アメリカ政治はミステリーだ(U.S. politics is a mystery)。
まだ明らかでなかったとしても、今や、誰もアメリカの選挙政治がどのように機能するのか理解しておらず、このテーマに関する従来の常識の多くが大間違いであることは火を見るより明らかだ。世論調査は当てにならないし、「地上戦(ground game)」の重要性についての定説は当てはまらないし、何が起こるか分かっていると思っていた賢い人たちは皆、間違っているだけでなく、大きく外れていた。2016年と同様、ドナルド・トランプ前米大統領とそのティームも、私たちと同様に驚いたのではないかと思う。私の粗雑な見解では、アメリカのエリートたちは、国民(body politic)の中にどれほどの白熱した怒りと恐怖が存在し、その多くが自分たちに向けられているのかをまだ過小評価している。民主党にとって何が問題だったのか、なぜ専門家たちはまたもやそれを見逃してしまったのか、その場しのぎの分析が延々と続くだろう。しかし、同じ「専門家」たちはこれを解明するのに8年を費やしており、今でも検討中である。

(2)トランプは予測不可能であろう(Trump will be unpredictable)。その通りだ。トランプは、予測不可能であることで、他者を不安にさせ続けることができる資産とみなしており、彼の不規則な行動に対する評判は十分に高く、一貫性がないことを批判するのは難しくなっている。このため、支持者を含め、誰も彼が何をするか正確に知っていると自信を持ってはならない。彼が個人的な政治的・経済的利益にならないことはしないのは確実だが、それがどのように政策に反映されるかは計算ができない。選挙期間中、彼はおかしなことをたくさん言ったが、そのどれだけが威勢のよいハッタリで、どれだけが本心なのかはまだ分からない。

更に言えば、共和党内には、いくつかの重要な問題、とりわけ中国をめぐって、重要な分裂がある。リアリストたちは、ヨーロッパ(とおそらく中東地域)から離れて、アジアに集中し、台湾に対するアメリカの関与を強化したいと考えている。一方、アイソレイショニストやリバータリアンたちは、ほとんど全ての地域から離れ、アメリカの行政国家の解体(dismantling the administrative state back home)に集中したいと考えている。そして、これらの人々の中には、アジアでの核兵器の使用について、かなり恐ろしい考えを持っている人たちもいる。誰がどの役職に就くのかに注目して欲しいが、政権内部には両方の派閥が存在し、トランプはその間を単に行ったり来たりかもしれないので、これを知っていても全てが分かるものでもない。

また、トランプが外交問題にどれほどの関心を払うつもりなのかも不明だ。主に民主党のライヴァルへの復讐と、悪名高い「プロジェクト2025」に書かれた過激な国内政策の追求に力を注ぐのか、それとも世界中でアメリカの政策を変革しようとするのか? あなたの推測は私の推測と同じだ。しかし、覚えておいてほしい。トランプはまた、エネルギーと集中力が目に見えて衰えてきている人物でもある(しかも、これらは最初の任期中はそれほど印象的ではなかった)。彼の任命した人たちは、何かがうまくいかなくなり、責任を取らなければならなくなるまで、多くの自由裁量権(latitude)を持つだろう。結論としては、私を含め、誰もトランプが何をするか分かっていると自信を持つべきではないということだ。

(3)リベラルな覇権は死んだ(Liberal hegemony is dead)。
ジョー・バイデン米大統領、アントニー・ブリンケン国務長官、ジェイク・サリバン国家安全保障問題担当大統領補佐官、カマラ・ハリス副大統領、そしてその他の人々は、冷戦終結以来アメリカの外交政策を導いてきたリベラルな覇権という戦略を復活させ、修正しようとしてきた。彼らの試みは以前のヴァージョン以上に成功せず、有権者は決定的な拒絶を示した。トランプに投票した人々は、民主政治体制を広めることに興味がなく、人権に関心がなく、自由貿易に懐疑的で、外国人を国内に入れたがらず、グローバルな制度に警戒心を抱いている。彼らは、トランプが公然と敵対している訳ではないにせよ、これら全てに無関心であることを知っている。

私がこの失敗した戦略に固執している民主党と共和党の両方を繰り返し批判してきたことを考えると、私が選挙結果に満足していると思う人がいるかもしれない。私は満足していない。なぜなら、トランプ大統領の外交・内政政策へのアプローチは、アメリカ国民を更に貧しく、より分断し、より脆弱なままにすると信じているからだ。そして、現在状況が悪いことが、状況が更に悪化することはないと意味することはないからだ。

(4)来るべき貿易戦争に気をつけろ(Beware the coming trade war)。

トランプ大統領が選挙戦で語った、1930年代にあった関税を全ての人に課すという話は、単なる威勢だけのハッタリだった可能性がある。ロバート・ライトハイザーのような保護主義者にこの問題を委ねるのか、それとも比較的開かれた市場とグローバルなサプライチェインに依存する新しい技術者仲間の意見に耳を傾けるのかにもよる。トランプは現代経済の仕組みについて洗練された理解を示したことがないため、もし彼が深刻な貿易戦争に踏み切った場合、多くの意図しない悪影響が予想される(財政赤字の増加、債券市場の圧力、インフレなど)。彼は自分自身を責めるしかないが、どこかで都合のいいスケープゴートを見つけるだろう。

(5)ヨーロッパは困難な状況にある(Europe is screwed)。
トランプはアメリカのヨーロッパの同盟諸国を戦略的資産とは見ておらず、以前から公然とEUを敵視している。過去にはEUを敵視し、ブレグジット(イギリスのEU離脱)は素晴らしいアイデアだと考えていた。なぜなら、EUは経済問題で声を一つにすることができて団結できるので、アメリカがEUを押し切ることが難しくなると理解していたからだ。共和党は、全てではないにせよ、ほとんどの形の規制に反対しており、イーロン・マスクのような人々は、ヨーロッパのデジタル・プライバシーに関するより厳しい規則に反対している。トランプはブリュッセルを無視し、アメリカがはるかに強い立場にあるヨーロッパ諸国それぞれとの二国間関係に焦点を当て、EU自体を弱体化させたり分裂させたりするためにできることは何でもやるだろう。この危険性によって、(フランスのエマニュエル・マクロン大統領が提唱し続けているように)ヨーロッパ諸国が結束して反対する可能性もあるが、それよりも可能性が高いのは、どの国も自分たちのために気を配るということだ。

NATOに関しては、トランプは完全に脱退することを決めるかもしれない。しかし、NATOはまだ多くのアメリカ人に人気があり、正式な脱退は国防総省や連邦議会共和党の一部から多くの反発を受けるだろう。それよりも可能性が高いのは、トランプがNATOにとどまりながら、ヨーロッパ諸国が十分なことをしていないと非難し続け、アメリカの兵器購入などにより多くの防衛費を費やすよう働きかけることだろう。そのようなアプローチを採用するアメリカ大統領は、トランプが初めてではないだろう。バイデン時代のぬるま湯の後、トランプ2.0はアメリカのヨーロッパのパートナー諸国にとって冷たいシャワーのように感じるだろう。

(6)ウクライナは本当に困難な状況にある(Ukraine is really screwed)。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、米国の支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、米国の援助を打ち切り、ウクライナは自分たちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治資金を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのプーチン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

もしハリスが当選していたら、ウクライナでの戦闘の終結を強く求めていただろうし、可能な限り最良の取引もやはりキエフにとってはかなり不利なものだっただろうと思う。しかし、彼女はウクライナに多少なりとも有利な条件を引き出すために、アメリカの支援が継続されるという見通しを利用しようとしただろうし、ロシアとの取引が成立した後も、いくらかは安全保障上の支援を提供しただろう。トランプ大統領は、アメリカの援助を打ち切り、ウクライナはあなたたちの問題だとヨーロッパに言う可能性が高い。トランプは確かに、連邦議会が再び大規模な支援策に賛成するよう説得するために政治的資本を使うことはないだろう。世論は彼を支持するだろうし、彼の唯一の懸念は、ロシアがウクライナの他の地域を制圧し、彼が腑抜けで弱く、世間知らずだと思われることかもしれない。しかし、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が恒久的な分裂を受け入れ、名目上は独立したもののNATO加盟には向かわず、傷ついたウクライナが残ることになれば、ほとんどのアメリカ人はページをめくって前に進むだろう。そうなれば、トランプは戦争終結の手柄を独り占めすることになる。

(7)中東紛争は続く(Middle East strife will continue)。

バイデンとブリンケンの中東への誤った対応は、非人道的で非効果的な政策から距離を置こうとしないハリスの姿勢と同じくらいに、選挙でハリスを苦しめた。とりわけこの立場は、トランプを人権や民主政治体制、法の支配を気にしない危険な過激派として描こうとする彼女の試みを台無しにした。しかし、トランプが大統領に就任したからといって、事態が好転すると錯覚する人はいないはずだ。彼は最初の任期中、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に望むものを全て与え、イランの核兵器保有を阻止する協定から離脱し、ガザ地区、レバノン、占領下のヨルダン川西岸地区で罪のない人々が直面している悲劇的な損失には涙ひとつ流さないだろう。イスラエルがイランを攻撃するのを手助けするのを嫌がるかもしれないが(特に、彼の友人であるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン王太子がそうしないように助言するならば)、そうでなければイスラエルはパレスティナ人を根絶やしにしたり追放したりする青信号を持ち続けるだろう。

トランプ大統領が自らを偉大な和平交渉者(grand peacemaker)として位置づけ、失敗に終わったアブラハム合意に沿って、ある種のスーパーチャージされた大取引を追求していると想像する人もいるかもしれない。一期目の任期中に北朝鮮の指導者である金正恩と会談したのと同じように、トランプがイランの新大統領やその最高指導者とさえ喜んで会談すると発表するところを想像することさえできた。しかし、トランプには実際の交渉を行うための忍耐力も余裕もないため、このようなことは、音と怒りに満ちた、何の意味も持たない大々的な宣伝以外には何も生まれないだろう。

(8)縛られない中国(China unbound)。

前述したように、トランプ大統領のアドバイザーたちは中国をどう扱うかについて意見が一致していないため、トランプ大統領が中国にどう対処するか正確に知ることはできない。貿易問題で強硬手段に出るのはほぼ確実で、中国企業への半導体チップなどの技術移転規制を撤回するとは考えにくい。中国への敵意は、おそらくワシントンに残された唯一の超党派の問題であり、そのことがワシントンと北京の間の重要な取引交渉(grand bargain、グランド・バーゲン)を想像しにくくしている。

残念なことに、トランプ大統領はアジアの同盟諸国にも喧嘩を売る可能性が高く、台湾が直接脅かされたり攻撃されたりした場合に台湾を支持するかどうかについては、既に疑念をまき散らしている。中国に立ち向かうためには、アジアのパートナーが不可欠であり、それはアメリカが海を隔てているという明白な理由からである。中国政府関係者はトランプ大統領の再選にやや二律背反的な感情を抱いているかもしれない。しかし彼らは、トランプが衝動的で無能な経営者であり、1期目のアジアへのアプローチが支離滅裂で効果的でなかったことも知っている。トランプの2期目は、バイデンとブリンケンがアジアで達成した成果(これが彼らの外交政策における最大の成果だった)を覆す可能性が高く、北京はそれを歓迎するだろう。

(9)気候に関する危機()。

これは簡単なことだが、やはり憂慮すべきことだ。トランプは気候変動に懐疑的で、化石燃料の「掘れ、ひたすら掘れ」が正しいエネルギー政策だと信じている。この問題に対する世界的な進展は遅れ、アメリカにおけるグリーン転換を加速させる努力は後退し、人類の未来を確保するための長期的な努力は短期的な利益に道を譲ることになるだろう。このようなアプローチは、グリーン技術の優位性を中国などに譲り、アメリカの長期的な経済的立場を弱めるかもしれないが、トランプは気にしないだろう。

(10)分断社会における統一権力(Unified power in a divided society)。

トランプの勝利は国民の団結の証であり、ほとんどのアメリカ人がトランプを全面的に支持していることの表れだと見る人たちもいるだろう。この見方は重大な誤解を招く。民主党はMAGAのアジェンダを受け入れるつもりはないだろうし、特に国内においては、プロジェクト2025で概説された施策は、政治的な分裂をより拡大させるだろう。政敵を追及し、経口中絶薬ミフェプリストンを禁止して、中絶をほとんど不可能にし、ワクチン反対派を重要な公衆衛生機関の責任者に据え、何百万人もの人々を国外追放しようとし、市民社会の他の独立した機関を攻撃しても、国をまとめることにはつながらない。

同時に、統一された行政部を創設するという共和党の長期にわたる取り組みは今や実現に近づき、ホワイトハウス、連邦最高裁判所、連邦上院、そして連邦下院を完全に掌握している。統一されたチェックされていない権力の問題は、間違いを検出して時間内に修正することが難しいということだ。アメリカでは既に説明責任の仕組みが本来よりも弱くなっており、今回の選挙で更にその仕組みが弱体化することが確実視されている。

国民の健康、安全、女性の権利、中央銀行の自主性などに対する国内的な影響とは別に、分極化の深まりは政府の効果的な外交政策能力をも脅かしている。振り子がこれほど大きく揺れ続けているとき、どの国もアメリカが約束したことを政権1期以上続けてくれるとは期待できない。政府が国内の敵の根絶やしに夢中になり、有益な雇用を得ている何百万人もの住民を強制送還し、経験豊かな公務員を忠誠心のあるハッカーに置き換えるような状況では、対外的に賢明なアプローチを行う能力は必然的に弱まる。深く分裂したアメリカはまさに敵の望むところであり、トランプ大統領がそれを悪化させる以外のことをすると考える理由はない。

アメリカの世界的な役割の大きさを考えると、アメリカ人を含む世界の人々は、人間による被験者の規制を全く受けずに行われる大規模な社会実験に参加しようとしている。この実験でいくつかの前向きな結果が得られると信じたいが、たとえささやかな成果が得られたとしても、自らが負った一連の傷によって埋もれてしまうのではないかと懸念している。冬がやって来る。私が警告しなかったとは言わないで欲しい。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

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(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。
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※2024年10月29日に佐藤優先生との対談『世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む』(←この部分をクリックするとアマゾンのページに飛びます)が発売になりました。よろしくお願いいたします。

 2024年も世界各地で戦争が続いた。ウクライナ戦争は2年以上も経過し、3年目に入ろうとしている。2023年に始まったイスラエルとガザ地区を実効支配するハマスとの戦闘は続いており、加えて、レバノンのヒズボラやイランとの紛争も継続中だ。シリアにおいては10年以上継続した内戦が新たな段階を迎え、50年以上続いたアサド家による独裁体制は終焉したが、シリアの状況は予断を許さない。これらが示しているのは、アメリカの国力が低下し、アメリカが世界の警察官であることを止めたことで、アメリカの力による問題解決ができなくなり、各国は「自力救済」を志向する傾向が出てきたということだ。シリアに関して言えば、イスラエルが一番の受益者ということになる。イスラエルは恐らく、反体制派へ武器と情報の支援を実施し、電光石火のアサド政権崩壊を導いたのだろう。

スティーヴン・M・ウォルトによると、世界政治においては、2つの相反する傾向が存在する。これらの傾向が互いに影響し合うことで、多くの国々が判断を失敗する原因となっている。第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大である。過去には、敵に損害を与えるために軍隊を破る必要があったが、今日では強力な国家が数百マイル離れた目標を爆破する能力を持っている。核兵器やミサイルがその代表であり、無人機の使用による遠隔攻撃も増えている。アメリカやロシア、イスラエルはこうした高い能力を保有している。

第二の傾向は、地域のアイデンティティや国家意識の強化である。過去500年の歴史の中で、共通の文化や言語に基づく集団が自らの統治を求めてきた。国家意識が高まると、人々はそのために大きな犠牲を払うことを厭わなくなる。第一の傾向の武器の強靭化をもってしても、人々の意志を挫くことは困難だ。

これら2つの傾向は相反するもので、強力な国家が遠方で破壊的な手段を持つ一方で、地域のアイデンティティが強化されることで、敵対する国民の結束が高まる可能性がある。空爆は民間人の士気を打ち砕くどころか、逆に団結感を育むことが歴史的に示されている。高い攻撃能力を持っていても、それが政治的影響力や戦略的勝利をもたらすことは少ないとウォルトは分析している。私たちが既に見ているように、ウクライナやパレスティナの人々は屈服していない。

単に爆弾を投下することは、根本的な政治的問題の解決にはならないことは明らかだ。特に、イスラエルによるガザ地区への攻撃は、その破壊力が何らかの解決に結びつくとは考えられない。問題を解決するためには、根本的な政治的原因への対処と国民の統治意識を認めることが必要であり、単なる破壊的な力だけでは目的を達成できないことを理解する必要がある。

 アメリカは世界最強の軍事力を誇り、それを背景として、価値観外交を展開し、敵対する国々の体制転換(regime change)を行ってきたが、失敗の連続という結果に終わった。軍隊では問題の根本解決はできないということを考え、アメリカは、軍隊の役割を限定するということが必要になってくる。その根本的な原理となるのが「アイソレイショニズム」であり、「アメリカ・ファースト」だ。

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世界の二大潮流は対立している(The Two Biggest Global Trends Are at War

-世界の指導者たちは新たな世界秩序の矛盾を乗り越える術を学ばなければならない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年8月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/08/06/trends-war-drones-identity-gaza-ukraine-houthis/

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ウクライナのキエフ地方でテスト飛行中のポーランドの偵察用ドローン「フライアイWBエレクトロニクスSA」を打ち上げる軍関係者(2022年8月2日)

ドナルド・トランプやカマラ・ハリスなど、世界のリーダーを目指す人たちが外交政策について私に助言を求めてきたら、喜んで話をしたいことはたくさんある。気候変動、中国との付き合い方、保護主義が愚かな理由、ガザ地区をどうするか、規範の役割、脅威の均衡理論(balance of threat theory)が本当に意味するもの、その他多くのトピックがある。しかし、私はまず、世界政治における2つの相反する傾向に注意を喚起することから始めるだろう。この2つの潮流は、重要な点で互いに対立しており、この2つの潮流がどのように影響し合っているかを理解しなかったために、多くの国々が道を踏み外すことになった。

第一の傾向は、現代兵器の射程、精度、致死性の増大だ。1世紀ほど前、空軍力は初期段階にあり、ロケット弾や大砲は精度が低く、射程も限られていた。敵に多大な損害を与えるには、敵の軍隊を破り、包囲軍で都市を包囲する必要があった。しかし今日、強大な国家は、たとえ目標が数千マイルではなく、数百マイル離れたところにあるとしても、物事を爆破することに非常に熟練している。核兵器と大陸間ミサイルはこの傾向のモデルだが、ありがたいことに、これらの兵器は1945年以来抑止目的のみに使用されてきた。しかし、長距離航空機、弾道ミサイル、巡航ミサイル、無人機、および精密誘導技術の着実な進歩により、現在では、戦闘員が数百マイル離れた目標を破壊することが可能になっている。一部の非国家主体(イエメンのフーシ派など)さえもこの行為に参加している。

制空権(command of the air)によって、強力な国家は、敵対する軍隊や無力な市民に甚大な損害を与えることができるようになった。アメリカが第一次湾岸戦争の初期に行ったこと、ロシアがウクライナで行っていること、イスラエルが現在ガザ地区で行っていることは、破壊的パワーを投射する能力(ability to project destructive power)が時代とともに飛躍的に高まっていることを示している。このリストに、いわゆる識別特性爆撃(シグネチャーストライク、signature strikes)でテロリストと疑われる人物を殺害したり、イランの精鋭部隊コッズ部隊(Quds Force)のトップであるカセム・スレイマニのような外国高官を暗殺したりするための無人機の使用を加えることができるだろう。先週レバノンでヒズボラの高官フアド・シュクルを殺害したイスラエルの攻撃は、最新の例にすぎない。世界最強の国家にとって、遠隔地で殺傷力を行使する能力はかつてないほど高まっている。また、洗練されたサイバー兵器によって、たとえ標的が地球の反対側にあったとしても、マウスをクリックするだけで相手の重要インフラを攻撃できるようになるかもしれない。つまり、一部の国家にとっては、破壊する能力がグローバルな範囲に広がっている。

二つ目の傾向はまったく異なる。それは、地域のアイデンティティと忠誠心、特に国家としての意識の政治的顕著性(political salience)と粘り強さ(tenacity)の深化だ。以前にも述べたように、「人間は共通の言語、文化、民族性、自己認識に基づいて異なる部族を形成しており、そのような集団は自らを統治できるべきであるという考えが、過去500年の歴史を形作ってきた。多くの人がまだ十分に理解していない形で何年も経っている」。国家意識の広範な出現と、そのような集団が他者に支配されるべきではないという信念が、多国籍のハプスブルク帝国とオスマン帝国がそれぞれ1918年と1922年以降存続できなかった主な理由の1つだ。イギリス、フランス、ポルトガル、ベルギーの植民地がなぜ独立したのか。そして、なぜソ連とワルシャワ条約機構も最終的に解体してしまったのかなどの理由になる。

国家としてのアイデンティティに対する強力な意識が国民の中に根付くと、国家へのより大きな一体感と忠誠心を築くために政府がしばしば奨励するプロセスであるが、国民はますます「想像上の共同体(imagined community)」のために多大な犠牲を払うことを厭わないようになるだろう。北ベトナム人は独立を獲得し国家を統一するために、日本、フランス、アメリカと50年間戦った。アフガニスタンのムジャヒディーンは最終的にソ連に自国からの軍隊撤退を強制し、タリバンの後継者たちはアメリカに同じことをするよう説得した。今日、数と武器で劣るウクライナ人がロシアの侵略に抵抗し続けている一方、パレスティナ人の抵抗とアイデンティティを破壊しようとするイスラエルの努力は、彼らを更に強くするだけのように思われる。

その結果、ある種の矛盾が生じる。強力で技術的に進んでいる先進諸国は、遠距離から他国に損害を与える効果的な手段をますます手に入れているが、この破壊的な能力は永続的な政治的影響力をもたらしたり、意味のある戦略的勝利をもたらしたりすることはない。アメリカは1992年から2010年までイラク上空を制圧し、望むときはいつでも航空機、ミサイル、無人機をイラクの敵国に向けて投入することができた。しかし、その技術的に優れた能力は、アメリカ軍が反政府勢力を排除したり、親イラン民兵組織の影響力を弱めたり、国家の政治的発展を決定したりすることを可能にするものではなかった。

これら2つの傾向、つまり遠く離れた場所で物事を爆発させる能力がますます増大していることと、地元のアイデンティティの頑固な力が相反する理由の1つは、遠隔地攻撃能力を使用すると地元のアイデンティティが強化される傾向があるからだ。初期の空軍力理論家たちは、空爆は民間人の士気を打ち砕き、敵対者を迅速に降伏させるだろうと予測していたが、経験上、民間人に爆弾を投下する方が強力な団結感(sense of unity)と抵抗の精神(spirit of resistance)を育む可能性が高いことを示している。無防備な人々に死と破壊を与えることは、実際、犠牲者の間に共通のアイデンティティの感覚を築くための理想的なるつぼだ。爆弾やミサイルでウクライナのインフラを破壊することには、ある程度の軍事的価値があるかもしれないが、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領は、ウクライナ国民にロシアとの「歴史的団結(historical unity)」を説得するために、これ以上悪い方法を選択することはできなかったはずだ。戦争が最終的にどのように終結しても、彼はウクライナとロシアの間に数十年続く可能性が高い亀裂を生み出した。

なぜ私は、志ある国家指導者たちにこれら2つの傾向について伝えたいのだろうか? なぜなら、強国の指導者たちは、物事を爆破する「衝撃と畏怖(shock and awe)」の能力があれば、弱い国民を従わせることができると考える傾向があるからだ。弱い敵に爆弾を投下したり、ミサイルやドローンを発射したりすることで、自国民へのリスクを最小限に抑えることができるため、これは魅惑的な考えだ。歴史家のサミュエル・モインが主張しているように、指導者は、精度と正確さによって悪者を排除し、民間人を救うことができると自分自身に納得させることさえでき、それによって致死的な武力の使用が良性で承認されやすくなる可能性さえある。もしあなたが何らかの厄介な外交政策問題を抱えている強国であり、自国民に大きなリスクを与えることなくその問題に空軍力を投じることができるのであれば、「何かをする」ことはより魅力的なものとなる。

残念ながら、物事を爆破したり(場合によっては多くの無実の人々を殺害したりすることも)、そもそも紛争を引き起こした根本的な政治的問題には対処できない。過去10カ月にわたってイスラエルがガザ地区に加えた大規模な虐殺を見て欲しい。イスラエルが示した破壊力に疑問を呈する人は誰もいない。今日のガザ地区のヴィデオ映像を見るだけで分かる。しかし、これによってガザ地区やヨルダン川西岸、その他の場所にいる何百万ものパレスティナ人が自身の統治への欲求を放棄することになると本気で信じている人がいるだろうか? もちろん、同じことは逆にも当てはまる。ヒズボラは20年前よりもイスラエルを攻撃する能力が高まっているが、その破壊能力によって条件を決定したり、イスラエルとの紛争を引き起こしている、より深い政治問題を解決したりすることはできない。そして、イスラエルとより広範な地域戦争の危険に晒されている。

私は、現代の航空戦力に価値がないとか、国家が絨毯爆撃(carpet-bombing)やより粗雑な長距離攻撃(cruder forms of long-range attack)に頼らざるを得なくなった方が世界が良くなるなどと言っているのではない。有能な地上軍と組み合わされれば、航空戦力は十分に選択された政治目的を推進する上で極めて効果的である。例えば、アメリカの航空戦力は、イスラム国を、短期間続いたカリフ国から追い出すのに重要な役割を果たしたが、それはイラクとイランの地上軍がその地域を奪還し、平和にするために存在していたからである。

軍事理論家カール・フォン・クラウゼヴィッツは正しかった。戦争は政治の継続であり、破壊力だけで政治的目的を達成できることはほとんどない。成功するかどうかは、何よりもまず現実的な目的を選択するかどうかにかかっているが、それと同時に、根本的な政治的原因に対処し、各国が自国を統治しようとする意欲を認めるかどうかにもかかっている。勝利への道を空爆で切り開こうと考えるような人間に国家を運営する資格はない。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。「X」アカウント:@stephenwalt

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 2011年以来、内戦が続き、多くの難民が出ているシリアで、反体制派が攻勢を強め、シリア政府軍を各所で撃破し、首都ダマスカスまで到達し、バシャール・アサド政権が崩壊した。アサド大統領と家族はモスクワに飛行機で非難し、ロシアは「人道上の理由で」亡命(asylumexile)を受け入れた。1971年に父ハーフィズ・アル=アサドが打ち立てた独裁体制は半世紀で幕を閉じることになった。

 今回の反体制派の電光石火の攻勢とアサド政権の崩壊は、専門家たちの予想を超えていたようだ。シリアには、アメリカ、ロシア、トルコ、イランといった諸外国が介入し、国内の反体制派もいくつかのグループに分かれ、更に、イスラム国も入り込んで、複雑な様相を呈していた。その後、状況は落ち着いて、分断がそのまま凍結されるような形で、一種の静穏状態になっていたが、今回、HTS(ハヤト・タリハール・アル=シャーム)という反体制派のグループが攻勢を強め、それが成功したようだ。シリアには、クルド系のシリア民主軍やシリア国民軍など、いくつかの反体制グループがある。アサド政権が崩壊したことで、これからは新体制、新政権に動くことになるが、これが厄介である。

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 新体制、新政権構築のための会議に、誰がどのような資格で参加するか、誰を参加させないかを決めるところから始まるが、イスラム国の残党が参加したいと主張してきた場合にはどうするのか、現在のシリア政府の幹部だった人々で自前のグループを構築している人たちは参加できるのかということもある。憲法をどのように定めるか、誰が大統領職を継承するのか、そもそも、大統領制をそのまま続けるのかということが問題になる。そして、新体制、新政権のための会議を誰が主導するのか、主催するのかという問題もある。これは、中立的な仲介人を務めることができる外国、もしくは国連が出なければならないということも考えられる。アサド政権とイスラム国を共通の敵として戦ってきた、各反体制グループが協力できるのかということが問題になる。HTSは西側ではテロリスト認定を受けており、HTS主導の新体制では、西側との関係から経済制裁などの対象となる可能性もある。

 中東地域の各国はこのような突然の事態の急変や困難な状況の発生を憂慮して、アサド政権の延命を支持してきたようだ。そして、シリア政府支援は、ロシアやイランが担ってきた。しかし、ロシアもイランもそれぞれウクライナ戦争とイスラエルとの対立を抱えて、シリア支援まで行えないということになったようだ。アメリカのトランプ次期大統領は、「これは私たちの戦争ではない」として、関与しない方針だ。ジョー・バイデン政権が残り1カ月で何かできるということもない。これからは、シリアにおいて、ポスト・アサド政権の勢力争いが激化する可能性がある。中東地域の不安定要因が増えることになる。戦時内閣で、戦争の段階を引き上げてきたイスラエルの思い通りの展開になっているようだ。今回のHTSの間隙を突いての急襲のお膳立てをしたのはイスラエルだろう。中東での戦争はエネルギー価格にも影響を与えるため、世界は厳しい状況で2025年を迎えることになりそうだ。

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世界はシリアをどのように誤解したか(How the World Got Syria Wrong

-国際社会はアサド政権の強さを誤って判断しており、対外的な政治プロセスへの執着は国内の出来事に取って代わられつつある。

チャールズ・リスター筆

2024年12月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/08/syria-assad-regime-collapse-geneva-astana-un-wrong/?tpcc=recirc_trending062921

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占領された中西部の都市ハマの通りでトラックが倒れたシリア前大統領故ハーフィズ・アル=アサドの像の頭を引っ張る(12月6日)

12月8日、バシャール・アル=アサド大統領はシリアから逃亡し、54年近い家族による統治に終止符を打ち、国内外の何百万人ものシリア人に幸福感と安堵感をもたらした。11月27日にアレッポ西方で始まった反政府勢力の武装攻撃は、12日間にわたり、政権の前線が劇的に次々と崩壊するきっかけとなった。反政府勢力が南下し始めると、全国のシリア人が蜂起し始めた。12月7日の夜までに、アサド大統領の敗北は決定的となった。

アサド政権の急速な崩壊に誰もが驚いた。国際社会は何年もの間、シリア人の変化要求が実現する可能性を全て無視し、その代わりに「紛争の凍結(frozen conflict)」という概念を採用し、徐々に注目と資源をシリア政策から遠ざけてきた。2023年、アラブ世界のほとんどの人々がアサドを再び受け入れ、その褒賞としてアサドにアラブ連盟への復帰の座を与え、彼とその政権に地域全域での注目を集める公的訪問を許可した。

実際のところ、国際社会は近年シリア情勢について誤った判断を行ってきた。地図に引かれた線と外交の停滞により、アサド大統領がここに留まり、統治を強化しているとの思い込みが生じたが、実際には政権は内部から崩壊し、分裂しつつあった。多くの意味で、アサド政権が2020年初頭以来深刻な軍事的挑戦に直面していないという事実が、腐敗が根付く状況を作り出した。

過去2週間にわたる出来事により、シリアに対する国際的なアプローチ全体がひっくり返った。現在、適応と再評価の迅速なプロセスが進行中だ。今週末、カタールのドーハで急遽開催された一連のハイレヴェル会合では、アラブ各国政府が新たな現実に適応するのに苦労している。

12月7日遅くにシリア人がダマスカス郊外を掌握し、アサド大統領が逃亡の準備をしている中、サウジアラビア、エジプト、ヨルダン、イラク、カタールの外相は停戦と政治交渉を呼び掛けた。1週間前には意味があったのに、数時間以内には意味がないと思われた。その後の現場での会議では、アラブ諸国が現場の出来事に単に当惑し、先を越されていることが明らかだった。

一方、国連とシリア担当特使ゲイル・ペダーセンは急遽行動を開始し、いわゆるアスタナ・グループ[Astana group](ロシア、イラン、トルコ)、アラブ諸国、アメリカ、ヨーロッパと集中的に関与して、チャートを作成した。国連安全保障理事会決議2254号 を中心に前進する道筋を進めようとした。

2015年12月に定められたその義務は、最終的には自由で公正な選挙につながる移行期間を求めている。ジュネーブでのシリア和平交渉再開の計画は既に始まっているが、アサド政権の代表者は参加せず、また、有意義な進展を阻止するためだけに出席していた。それにもかかわらず、迅速な行動喚起にもかかわらず、国連がどのような形式をジュネーブに持ち込むつもりなのか、誰が、何人のシリア人が参加するのか、正確には不明のままだ。

政治プロセスをめぐる審議が続いている一方で、現場では事態が急速に進展している。12月8日早朝、迅速かつ非暴力的な政権移行を実施するという計画のさなか、シリア南部の武装戦闘員がシリアのモハメッド・ガーズィ・アル=ジャラリ首相をダマスカスのフォーシーズンズホテルまで護送した。

その日遅く、最初の攻撃を開始した最も強力な武装集団であるハヤト・タハリール・アル=シャーム(Hayat Tahrir al-ShamHTS)の指導者アブ・モハメド・アル・ジョラニがダマスカスに到着し、シリアの有名なウマイヤ・モスクに向かい勝利を宣言した。アサド政権の沿岸部の中心地であるタルトゥースとラタキアでは、地元住民がアサド家の銅像を倒すために街頭に出て、反政府派戦闘員が軍事基地を占拠した。

HTSとその広範な軍事作戦連合に関係する4人の情報提供者によると、シリアの政治移行は既に進行しており、内部で管理されているという。彼らの見解は、海外で設計され決定される国連主導のプロセスは不必要であり、それを拒否するというものだ。ダマスカスに到着した彼らの1人は私に次のように述べた。「私たちは国際社会の支援を歓迎するが、私たちが既に実施しているプロセスを彼らに製造してもらう必要はない。別の人物は「私たちは過去の罠に足を踏み入れることを拒否する」と述べた。

内部と外部の関係者の異なるヴィジョンは重大な問題の存在を示している、同時に驚くべき速さの発展がいかに起こっているかを単純に反映している。

今のところ、国際社会にとっての優先事項は、武装グループと民間人を問わず、できるだけ多くの関係者とのコミュニケイション構築を行う必要がある。シリア全土の多くの町や都市は現在、長年存続してきた地方議会、宗教団体、国家機関によって運営されている。

ダマスカスで進行中と思われる移行期やジュネーブでの国連の協議計画にそれらがどのように適合するかは誰にも分からない。シリアの将来を決定するための国際主導の別のプロセスを考案する前に、地域当局者や国連当局者は、既にシリアを形成している現地勢力の声に耳を傾け、コミュニケイションをとることが賢明だろう。

※チャールズ・リスター:中東研究所シリア・プログラム、対テロリズム・過激主義研究プログラム上級研究員、ディレクター。「X」アカウント:@Charles_Lister

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アサドが倒れた。シリアと中東で次に何が起きるだろうか?(Assad Has Fallen. What’s Next for Syria and the Middle East?

-シリアの大統領は逃亡し、国の将来について計り知れない不安を残している。

エイミー・マキノン、ジョン・ホルティワンガー筆

2024年12月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/08/assad-flees-syria-damascus-fallen-rebels-capture-future/

syriancivilwar20241208001
ダマスカスのウマイヤド広場でシリア反体制派の旗を振って喜ぶ女性(12月8日)

シリアのバシャール・アル=アサド大統領は現地時間の日曜日未明、反体制派連合による電光石火の進撃により、アサド一族による50年にわたる残忍な支配に突然の終止符を打ち、国外に逃亡した。このニューズは、ダマスカスの街角で歓喜を巻き起こしたが、同時に、深く問題を抱えたシリアの将来に対する計り知れない不安も呼び起こした。

イスラム主義勢力ハヤト・タハリール・アル=シャーム(Hayat Tahrir al-ShamHTS)が主導したこの驚くべき攻勢は、長年の戦闘で戦意喪失し混乱したシリア政府軍が急速な後退を見せる中、武装反体制派が2週間足らずでアレッポ、ハマ、ホムスの主要都市を制圧した。一方、アサドの最も強力な同盟諸国もまた、迅速な進撃に不意を突かれたようだ。ロシアはウクライナで泥沼にはまり、イランの代理勢力はイスラエルとの衝突で著しく弱体化した。

アサド政権の予期せぬ崩壊により、外交官たちは事態の把握に追われるとともに、武装グループ、イスラム過激派、外国勢力が影響力をめぐって長い間争ってきた、この国での突然の権力の空白がもたらす潜在的な影響を理解しようと躍起になっている。

国連シリア担当特使のゲイル・ペダーセンは日曜日、ダマスカスからは「矛盾したメッセージ(contradictory messages)」が出ていると述べたが、「流血を避ける(avoid bloodshed)」必要性を強調し、対話(dialogue)と暫定統治機構(transitional governing structure)の準備を呼びかけた。

国際社会にとって当面の優先事項は、化学兵器が武装勢力の手に渡るのを防ぐためにシリアでの化学兵器の備蓄を確保することだろう。

トルコのハカン・フィダン外相は日曜日の記者会見で、「可能性のある化学兵器の在庫や関連物資は全て確保しなければならない」と述べた。

イスラエル空軍は、シリアの化学兵器工場が反政府武装勢力の手に渡るのを防ぐために攻撃したと『イェルサレム・ポスト』紙は日曜日に報じた。

トルコは、HTSが主導する攻撃を許可したと広く信じられているが、公式には関与を否定しており、アサドがアンカラとの協力を拒否していることに不満を抱いている。勝利した反体制勢力の中でトルコ政府の主要な代理人は、HTSと複雑な関係を持つ民兵の連合体であるシリア国民軍(Syrian National Army)であり、アンカラは今後シリアで大きな影響力を行使する姿勢だ。

「シリアの新政権は秩序ある方法で樹立されなければならない。包括性の原則(principle of inclusiveness)は決して妥協してはならない。復讐を望むようなことがあってはならない」とフィダン外相は語り、トルコ政府はアサドとは接触していないと付け加えた。

今後数週間から数ヶ月の間に繰り広げられるであろう複雑な力学の1つを予感させる発言として、フィダン外相はクルド人主導のシリア民主軍(Syrian Democratic ForcesSDF)がトルコの将来に入り込む余地はないと述べた。トルコは、アメリカの支援を受け、シリア北東部の国土の約3分の1を支配するこのグループを、宿敵であるクルド労働者党(Kurdistan Workers’ PartyPKK)の延長と考えている。シリアのクルド人については、この国全体がそうであるように、前途は予断を許さない。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は土曜日にカタールで開催されたドーハ・フォーラムで演説し、モスクワはシリアで「テロリスト(terrorists)」が優勢になることがないよう、あらゆる手段を講じていると述べた。HTSは国連とアメリカによってテロリスト集団に指定されているが、指導者たちは近年、より穏健な姿勢を示そうとしている。

ラヴロフ外相は土曜日、首脳会談の傍らでイランとトルコの首脳たちと会談し、シリア情勢について話し合った。3カ国の当局者らはいずれも近年シリア情勢の形成に努めており、夕方にはアラブ5カ国の外相と再び会談し、シェラトンホテルの会議室で夜遅くまで集まり、会議を行った。

会談後に発表された共同声明の中で、外相たちは軍事作戦の停止と、2015年に採択され停戦と政治的解決を求めた国連安全保障理事会決議2254号に基づく危機の政治的解決を求めた。

日曜日の朝、アサド大統領の姿は既になく、後にロシア外務省の声明で出国が確認された。ロシアのインタファクス通信は、匿名のクレムリンの情報源の話として、アサドとその家族はモスクワに到着し、「人道的理由から(on humanitarian grounds)」ロシアへの亡命を認められたと報じた。

ワシントンに本部を置く中東研究所でシリア・プログラムのディレクターを務めるチャールズ・リスターは、「一方では、過去最悪の戦争犯罪人の1人が逃亡したことは驚くべきことだ。しかし、率直に言って、今のところ誰も展望を見いだせないような事態を招いた」と述べた。アサドは戦争犯罪で有罪判決を受けた訳ではないが、人権団体や多くの外国政府によって集められた広範な証拠が、アサド政権による広範な虐待を記録している。

もう1つの当面の懸念は、かつてシリアとイラクの広範囲に血なまぐさい支配を及ぼしたイスラム国が、この状況を利用しようとする可能性だとリスターは述べている。また、今後の交渉にHTSを含めるかどうかという問題もある。

土曜日、国連特使のペダーセンは、ジュネーブで緊急の協議を呼びかけたが、協議の中で誰が国や各派閥の代表となるかはまだ不明だ。

ペダーセンは日曜日、「HTSがリストアップされたグループであるという事実は、困難を生じさせている」と述べ、HTSのテロリスト指定を解除するための国連内のプロセスは、彼の責任を超えていると指摘した。

ペダーセンは、「私たちは、既に述べているように、可能な限り包括的なプロセスを確保できるよう努力を続けていく。しかし、正直に言うと、これは進行中の作業だ」と付け加え、現場の現実(realities on the ground)は「常に変化している(changing all the time)」と述べた。

シリア内戦は、影響力を競い合い、自国の利益を増進しようとして、紛争に参加している各種の勢力を支援する多くの他国が関与してきたことを特徴としている。

「私たちはまた、多くの外部アクターがシリアのコミュニティ内で自分たちの支持する政党や代理人を選び直す段階にあり、それは危険な点でもある」とリスターは言う。

2015年にロシアが反政府勢力の支配地域に懲罰的な空爆という形で紛争に介入したことは、アサドの権力掌握を強化する上で極めて重要であることを証明した。一方、イランの最も強力な代理人であるヒズボラはシリア政府軍とともに戦った。

不吉な前兆を感じて、イランは金曜日、シリアから軍司令官と要員の撤退を開始し、長年の同盟者であるアサドを彼自身の運命に委ねた。

英チャタムハウスの中東・北アフリカプログラム・ディレクターであるサナム・ヴァキルは、「イランは損切りをする選択をした。イランは空気を読んだ。反政府側に大きな勢いがあり、政府軍に戦う準備ができていないことを認識したのだ」と述べている。

アメリカは2014年にイスラム国に対する空爆で紛争に介入し、シリア民主軍を支援するために、シリア北東部に約900人の小規模部隊を駐留させた。

アサド政権の崩壊は、ドナルド・トランプが1月にホワイトハウスに戻ることになった時同時に起きた。トランプは最初の任期中、シリアからアメリカ軍を撤退させようとしたが、イランとロシアがその穴を埋めようとするだろうと警告した補佐官たちによって、その動きに反対するよう説得された。トランプはまた、アサドに対する攻撃を何度も命じた。

土曜日、トランプはシリアを「混乱(mess)」と表現し、アメリカの「友人」ではないと述べた。「アメリカはシリアと無関係であるべきだ。これは私たちの戦いではない(THE UNITED STATES SHOULD HAVE NOTHING TO DO WITH IT. THIS IS NOT OUR FIGHT)」とXへの投稿に書いた。

シリア政府の崩壊は、2023年10月7日にハマス主導でイスラエルが攻撃され、中東を根底から覆す連鎖が起きてからほぼ14カ月後のことだった。イランのいわゆる「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」は、イスラエルによるガザ地区とレバノンでの作戦で大きなダメージを受け、イスラエルによるイランへの直接攻撃は、イランのミサイル生産を狂わせ、多くの防空システムを破壊したと伝えられている。トランプが再び大統領に就任し、彼の支援者たちがイランへの最大限の圧力キャンペーンの再開を約束している今、テヘランは「深刻な弱点(profound weakness)」を抱えているとヴァキルは分析している。

ジョー・バイデン政権のイスラエルとヒズボラとの和平交渉の指南役(point person)であるアモス・ホフスタインは、土曜日のドーハ・フォーラムでのイヴェントで、シリアの将来が依然不透明である一方で、この状況は隣国レバノンにも「大きな影響(massive implications)」を与えると語った。

シリアは、レバノンを拠点とするヒズボラへのイランの武器輸送の主要な陸路(main land route)である。

ホフスタインは、「シリアで起きたことは、もちろん停戦開始の翌日に起きたことだが、ヒズボラにとって新たな弱点になっていると思う」と述べている。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は日曜日、アサド政権の見事な政治的終焉を祝い、その業績を主張した。イスラエルとヒズボラの対立は、テヘランが支援する過激派組織を大きく衰退させた。戦闘の結果、ヒズボラの長年の指導者であるハッサン・ナスララが死亡し、ヒズボラの軍事力は大きく後退した。イスラエルとヒズボラは、最近の停戦合意にもかかわらず、戦闘を続けている。

歴代のイスラエル首相の顧問を務めたシャローム・リプナーは、イスラエルはアサド政権の崩壊を慎重に楽観視しているようだが、アサド政権が残した権力の空白を埋めるための競争を注意深く監視しているだろうと述べた。リプナーは「この事態が収まれば、誰が後を引き継ぐのか、様々な懸念があるのは明らかだ。これはイスラエルだけの問題ではなく、国際的な問題なのだ」と述べた。

エイミー・マキノンはカタールのドーハから、ジョン・ホルティワンガーはニューヨークから報告した。

※2024年12月8日更新。この記事はアサドの居場所についての最新のニューズを更新していく。

※エイミー・マキノン:『フォーリン・ポリシー』誌国家安全保障・情報諜報担当特派員。「X」アカウント:@ak_mack

※ジョン・ホルティワンガー:『フォーリン・ポリシー』スタッフレポーター。「X」アカウント:@jchaltiwanger

(貼り付け終わり)

(終わり)

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アサド政権はなぜこれほど急速に崩壊しているのか?(Why Assad’s Regime Is Collapsing So Quickly

-誰も見ていない間にシリア政権はますます空洞化(hollowing out)していた。

チャールズ・リスター筆

2024年12月5日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/12/05/syria-assad-regime-collapsing-quickly/?tpcc=recirc_trending062921

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トルコとシリア間のバブ・アル=ハワ国境ゲートのシリアのバシャール・アル=アサド大統領の引き裂かれた写真(2012年7月21日)

過去1週間にわたり、バシャール・アル=アサド政権の将来が真っ向から疑問視されている。

武装反体制派連合はシリア北部で攻勢を開始し、約250の都市、町、村を制圧し、支配下の領土を2倍以上に拡大した。シリア政権の前線が次々と崩壊し、シリア第二の都市アレッポは24時間で占領された。 5年近くにわたって国中の領土支配線が凍結された後としては、これらは劇的な、状況を一変させる発展ということになる。

しかし、それらは何も驚くべきことではない。アサドは自国の内戦に真に「勝利」したことがないだけでなく、これまでに、彼の支配も弱体化している。彼の立場はこれまで以上に脆弱になっている。

長年にわたり、シリアに関する常識としては、シリアの危機は凍結されており、敵対行為は過去のものであり、アサド政権は必然的に勝利者となると考えられてきた。それとともに国際的な注目は薄れ、シリア重視の外交はほぼ終了し、各国政府はシリアを対象とした政策や他の世界的課題に資源を徐々に振り向けた。一方、シリア情勢が悪化する中、アラブ諸国政府は2023年から集団的にアサドに再関与する措置を講じ、中東全域でアサドの地位を事実上正常化した。

アメリカの政策立案者にとって、地域のアクターたちがシリア問題を担当しているようだという事実は心強い兆候であり、安心材料だった。つい最近、ヨーロッパ連合のアサド孤立政策への反対とアサドの確固たる勝利への信念に動かされて、イタリア主導の欧州10カ国グループが協力してアサド政権への再関与と外交と難民のシリア帰還への道筋を探求している。

これら全ての展開は、シリアの状況は悪いものの、危機自体は凍結され封じ込められている、そしてアサド自身も自らの立場を強化しているだけでなく、固めているという仮定によって支えられていた。その仮定は間違っていた。

シリア経済は長年にわたって混乱に陥っている。2020年初頭に、それぞれが対立する側を支援するトルコとロシアが合意した停戦により紛争線が凍結されたとき、1ドルは約1150シリアポンドに相当した。反政府勢力の攻撃は1週間前に始まり、シリアポンドの価値は14750シリアポンドに下落した。1週間の新たな敵対行為を経た12月4日には、1ドルは1万7500シリアポンドになった。

10年以上にわたる戦争の後、国を安定させ、シリア民間人に休息を与えるどころか、2020年の合意成立以来、シリア人道危機は悪化しており、国連の報告によると、シリア人の少なくとも90%は現在貧困ラインの下で暮らしている。アサド政権による組織犯罪の容認は、わずか1種類の合成覚醒剤の販売から毎年少なくとも24億ドルの利益をもたらしているが、そのどれもがシリア国民の助けにはなっていない。実際、燃料と食料に対する国の補助金は近年大幅に削減されている。

しかし、アサドにはもはや国家破産から救ってくれる存在はいない。ロシア経済はウクライナ戦争の影響で大きな打撃を受けており、イラン経済も悪化している。

必ずしもこうである必要はなかった。もしアサド大統領が、2023年にシリアとの国交を正常化した中東の各国政府と建設的に関わっていたら、そして今年初めにトルコの正常化への寛容さを受け入れていたら、シリアは今日、著しく違った状況になっていただろう。

シリアの人道危機はかつてないほど悪化し、世界の援助意欲と能力もかつてないほど低下しているため、シリア国民は苦しんでいる。トンネルの先には光がないことを悟ったシリア人たちは街頭に戻り、アサド打倒を訴え始めた。

そして数カ月前、6年前の合意に基づいて政府と「和解(reconciled)」した元反体制派の戦士たちが再び政権軍に挑戦し、勝利を収め始めた。

一方、シリア経済が崩壊している中で、組織犯罪や産業レヴェルの麻薬生産と密売がアサド政権の治安機構の中核に侵入している。実際、アサド政権は現在、キャプタゴンとして知られるアンフェタミンの製造を専門とする世界最大の麻薬国家である可能性がある。

麻薬取引はシリアの精鋭部隊である第4師団(アサド大統領の弟マヘルが指揮官)によって運営されているが、そのネットワークは事実上シリアの軍と支持派民兵ネットワークの隅々まで広がっている。これにより、組織犯罪と軍閥主義(warlordism)により、シリア治安国家内にわずかに残っていた団結力が引き裂かれてしまった。

一方、ロシアのウクライナ戦争と、2023年10月以来のイスラエルとイランとその代理ネットワークを敵視している地域的な敵対行為により、ロシアとイランの注意はシリアの安全保障関係者を結びつけることから逸らされてしまっている。ロシアとイランの両国、そしてレバノンに本拠を置くヒズボラは、11月27日に反政府勢力の攻撃が始まったとき前線にいて、いずれも初期に死傷者を出した。

しかし、前線に組み込まれた外部主体として、混乱に陥るシリア政権軍をまとめるためにシリア支援者にできることはほとんどなかった。反政府勢力ハヤト・タハリール・アル=シャーム(Hayat Tahrir al-ShamHTS)民兵組織の計画は10月中旬から知られており、その計画を阻止しようとしてトルコが介入し、これに応じてロシアが数日にわたる大規模な空爆を実施したことを考えると、攻撃そのものに驚く人はいなかっただろう。

最近の出来事は、アサド政権軍の再建に対するロシアの8年間の投資が、攻撃の圧力を受ける中で効果的に戦う能力にほとんど影響を与えていないことも示している。ロシアの努力により、第25特別任務師団など一部の部隊内で効果的な能力がある程度強化されたものの、シリア軍全体としては依然としてバラバラで連携が不十分なままだ。ほぼ全ての点で、アサド政権の軍事機構は近年停滞しており、内部からは衰退し、外部は断片化している。アサド政権に忠実な民兵の不定形なネットワークはおそらく軍そのものよりも優れた軍事能力を示している。ロシアが近年アサド軍に追加した唯一の定性的能力は、自爆攻撃用無人機の使用であるが、規模と効果の点ではHTSの新たに明らかになったカタイブ・シャヒーン(またはファルコンズ旅団)無人機部隊が大幅に上回っている。過去1週間にわたって、政権の前線基地、戦車、大砲、上級指揮官に数百の装置を発射した。

これは、HTSと他の武装反政府勢力が2020年以来、自らの能力を強化するために集中的に取り組んできた、線の反対側の顕著な対照を浮き彫りにしている。特に HTS は、ここ数日の戦場での状況をほぼ一変させた全く新しい部隊を設立した。アサイブ・アル・ハムラ(またはレッド・バンド)として知られるHTSの特殊部隊型部隊は日中作戦の最前線部隊であり、その一方でサラヤ・アル・ハラリ(またはサーマル旅団)は毎晩結果的な成果をあげている。HTSによると、約500名の戦闘員全員が暗視スコープを備えた武器を携行しているという。

カタイブ・シャヒーンとして知られる別のHTS旅団は前線全域で政権軍の重兵器を破壊しているが、その爆発力はトラック自爆爆弾に匹敵する国産の巡航ミサイルも使用している。偵察用ドローンの編隊が年中無休で空を飛んでおり、HTSとその他の同盟者たちはシリア政権軍を完全に上回っている。

今後を展望すると、HTS主導の攻撃がハマ県中部で少なくとも2つの軸に沿って南下を続ける中、アサド政権は厳しく困難な戦いに直面することになる。シリア全土での政権の急激な人気の低下と反政府勢力の劇的な上昇も、全国の武装勢力が結集して行動を起こすよう促している。南部のダラア、中部のホムス、東部のデリゾールでは、政権側の町と軍事前線の全てが挑戦を受けている。

アサド大統領が最後に領土支配に対する複数の協調的な挑戦に対処しなければならなかったのは2015年だった。アサド政権は限界点にまで追い込まれており、アサド大統領を救うためにはロシアが軍事介入しなければならなかった。今ではそんな救世主(savior)はいないだろう。

※チャールズ・リスター:中東研究所シリア・プログラム、対テロリズム・過激主義研究プログラム上級研究員、ディレクター。「X」アカウント:@Charles_Lister

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(終わり)

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