古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

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タグ:イラン

 古村治彦です。

 佐藤優・古村治彦著『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』(ビジネス社)が発売になります。発売日は2026年9月1日です。

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世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』←クリックするとアマゾンのページに移動します

 『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』は佐藤先生との2冊目の対談だ。今回の対談はイラン戦争開戦後に行われ、イラン戦争、米中首脳会談、高市早苗政権について分析を行った。その中で、私たちは「宗教」や「使命感」といったアプローチの重要性について話した。今回の対談は非常に内容の濃い内容となっている。

 以下に、まえがき、目次、あとがきを掲載します。参考にしていただき、是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

(貼り付けはじめ)

まえがき   佐藤優(さとうまさる)

 ロシア・ウクライナ戦争と米イラン戦争によって、世界は新しい時代に入った。1991年12月のソ連崩壊後、アメリカを中心とする民主主義、人権、市場経済などの価値観を基準とする外交は過去の時代のものとなった。これに代わって、力の均衡を原理とするリアリズム(現実主義)外交が主流を占めるようになった。

 実は、この変化に日本外交は、西側諸国の中では適切に対応している。ロシア・ウクライナ戦争に関し、日本は政治的にウクライナを支持しているが、ロシアからLNG(液化天然ガス)を輸入し続けている。ウクライナに殺傷能力を持つ装備品を供与していないG7(日米英仏独伊加)中唯一の国だ。米イラン戦争に関し、日本はアメリカを支持しているが、イランとも比較的良好な関係を維持し、日本のタンカーがホルムズ海峡を通過することを革命防衛隊が認めている。

 このような外交を展開できているのは、日本のインテリジェンス能力が高いからだ。具体的には、国家情報局(2026年7月31日、内閣情報調査室を改組・格上げ)の情報収集と分析の能力が高いからだ。インテリジェンスの要は近未来情勢分析にある。政策とインテリジェンスは分離されている。同時に、国家情報局が首相に示した近未来情勢分析の枠組みから外れる政策を採用しても、それが成果を出す可能性は低い。外交には立場がある。日本の場合、日米同盟は、いわば数学でいう公理系を形成しており、その前提を崩すような政策を日本が取ることはできない。この制約条件を無視した外交は、評論家や学者が行う頭の体操ならばともかく、政治家や職業外交官としては無責任だ。アメリカの基本的立場と国際政治のリアリズムの間で均衡点を見いだすのが、国家を担う政治指導者の責任なのである。

 日本のインテリジェンスが比較的成果を出しているのには、私が見るところ、二つの要因がある。第一は、価値観ではなく、現実の力関係に基づいて情勢を分析するリアリズムだ。第二は、各国の指導者が持つ内在的論理を尊重することだ。国家指導者には、さまざまな性格の人がいる。合理性を重視する人もいれば、感情的な人もいる。さらに、それぞれの国家を成り立たせている基本原理がある。

 現在、国際政治の主要なプレイヤーになっているのは、トランプ米大統領、習近平中国国家主席、プーチン・ロシア大統領、ネタニヤフ・イスラエル首相、モジタバ・ハメネイ・イラン最高指導者、金正恩・朝鮮労働党総書記らだが、本書ではこのうち一神教文明(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)に属するトランプ、プーチン、ネタニヤフ、モジタバを扱った。程度の差はあれ、ヨーロッパ、北アメリカ、日本では、宗教が人間の行動規範ではなくなる世俗化が進んでいる。しかし、ストレートに信仰と政治を一体化させているモジタバだけでなく、一見すると世俗化されたように見えるが、その背後で宗教的な超越性が強く表れているトランプ、ネタニヤフ、プーチンの内在的論理を解明することに本書では力を入れた。

本対談に丁寧にお付き合いいただいた古村治彦氏に深甚なる謝意を表します。また、本書の刊行にあたっては、ビジネス社の小笠原豊樹氏、フリーランスの編集者兼ライターの水波康氏に多大なお力添えをいただきました。心より御礼申し上げます。

2026年7月31日、曙橋(東京都新宿区)の自宅にて、

佐藤優(さとうまさる)

=====

世界は「宗教戦争」に突入した「神に選ばれた」支配者の使命と論理目 次

まえがき(佐藤 優) 2

第1章 世界は「宗教戦争」に突入した──イラン戦争の〝合理〟を超える〝使命〟 11

■トランプはなぜイラン攻撃を決断したのか 12

ホルムズ海峡封鎖で世界は一変した 12

ネタニヤフのプレゼンテーション 18

「対ナチス戦」に転換したトランプ 23

崩壊した「軍事大国イラン」という神話 27

イランが狙うパキスタンの核 32

■神に選ばれた確信と使命 38

死者との連帯を強調したモジタバ・ハメネイ 38

トランプ版聖書が意味するもの 45

ネタニヤフが担う「ユダヤ民族存続」の使命 51 対立する「神に選ばれた確信」 58

■始まった21世紀の宗教戦争 63

トッドの「宗教ゼロ」は当てはまらない 63

目に見えない価値観の闘いがイラン戦争の本質 67

第2章 トランプは変節していない──宗教で読み解く「支配者の論理」 71

■トランプはなぜ止められないのか 72

トランプの政権基盤は揺らいでいない 72

第3次世界大戦を阻止したトランプ 84

トランプの「ダークトライアド」と「理性の狡知」 89

トランプは神の召命に逆らえない 94

■メディアが報じないイランの脅威 98

イランは特殊なイデオロギーの国 98

47年間続くアメリカとの戦争 103

モジタバ・ハメネイの危険な意思決定 110

トランプが放棄したオバマの核合意 114

■クリスチャン・シオニズムの謎を解く 118

『エクソダス』が変えたアメリカ人のユダヤ観 118

終末論が生んだ親イスラエル思想 123

イスラエルはなぜ戦い続けるのか 127

第3章 世界は敗北していない──「西洋の敗北」から米中ロ3極体制へ 131

■台湾カードを握る中国 132

米中首脳会談の基本は協商関係 132

米中は対等な関係となった 138

台湾カードを握る中国 145

■アメリカはなぜ敗北し続けるのか 149

見えてきたアメリカの限界 149

アメリカの国力が落ちている理由 156

イラン戦争はアメリカにとっての世界最終戦になるはずだった 163

■米中ロ世界3極体制の出現 168

ウクライナ戦争が独ロ戦になる怖さ 168

アメリカを側面から支援したロシア 172

世界は米中ロの3極体制となる 179

第4章 大変革する世界、日本の選択──高市戦略は国益にかなうか 185

■高市政権と孤立する日本の危機 186 高市政権が持つ「偽物の強さ」 186

協商は同盟を壊す ── 日本だけが気づかない米中協商 192

日本が行う「周回遅れの喧嘩外交」 195

日本外交は無能ではない 200

ホルムズ危機が直撃する日本 205

日本が米中共通の敵とされる危険性 209

■世界と日本は連動している 216

明の成立と南北朝の動乱 216

トルデシリャス条約と「徳川の平和」 221

アヘン戦争と天皇親政 226

■世界の大変革に日本はどう立ち向かうか 230

メディアや国民は日本の危機を理解できていない 230

「本を読まない人」にお金が集まる時代 235

反・新自由主義が日本の生き残り策 240

あとがき(古村治彦) 245

=====

あとがき                 古村治彦(ふるむらはるひこ)

 本書は、佐藤優先生との2冊目の対談本である。現代の日本を代表する知識人である佐藤先生との対談の機会をいただけることは私にとって光栄なことだ。また、絶好の挑戦の機会ともなる。そして、自分自身の力不足を痛感し、改めて精進を誓う。佐藤先生に深く感謝申し上げます。

 今回の対談は、アメリカとイスラエルによるイランへの大規模攻撃が実施され、その後、60日間の停戦の覚書MOUが締結された後に行われた。アメリカとイランは停戦に合意したが、その後もアメリカ軍とイラン革命防衛隊の双方による攻撃は続き、ホルムズ海峡の状況も先行き不透明ということになっている。ホルムズ海峡の迂回ルートとなっている紅海 Red Seaのバブ・エル・マンデブ海峡 Bab al-Mandab Straitでは、イエメンの新イラン組織フーシ派がサウジアラビアのタンカーに攻撃を実施した(2026年7月23日)。紅海の状況も不安定になると、世界経済への悪影響は増大する。覚書締結で楽観ムードが流れたが、イラン戦争は収束していない。アメリカはウクライナ戦争に加え、イラン戦争でも出口を見いだせない状態になっている。

 トランプ政権の2期目は「アイソレイショニズムIsolationism」「アメリカ・ファースト」という、トランプ政権の基礎となる考え方である「アメリカ国内問題の解決を優先し、海外では戦争を起こさない」から外れ、ヴェネズエラへの奇襲攻撃とニコラス・マドゥロ大統領夫妻の拘束とイスラエルと共同でイランへの大規模攻撃を実施した。その他にもカナダやグリーンランドの併合に言及したり、キューバに対して厳しい経済制裁を科したりしている。「海外には関わらないと言っていたのに」とトランプを支持したアメリカ国民ですら不可解に感じている。

 トランプ政権のこうした一連の行動について様々な分析や評論がなされている。今回の対談を通じて、私たちは、「宗教」や「信念」、「使命感」というアプローチから、イラン戦争に関わる重要人物であるドナルド・トランプ大統領、ベンヤミン・ネタニヤフ首相、モジタバ・ハメネイ師の行動について分析した。「経済合理性」や「利益」を前提にしてばかりでは理解が上辺(うわべ)だけになってしまう。その基底(きてい)にある宗教や文化について私たちは知識を持ち、社会を見る目を養うようにするべきだ。そうすることで、本質を明確に捉えることができ、将来を見通すことができる。

 アメリカ帝国が衰退し、中国が台頭し、米中G2体制が構築されつつある中で、西洋近代600年の培った価値観やシステムが揺らいでいる。アメリカ国内でも自由、平等、人権、法の支配 rule of law(ルール・オブ・ラー)、民主政治体制 democracy(デモクラシー)、資本主義 Capitalism(キャピタリズム)に対する疑念が生まれている。暗黒啓蒙Dark Enlightenment(ダーク・エンライトンメント)やポストリベラリズム Postliberalismと呼ばれる「反動的な reactionary(リアクショナリー)」思想潮流が生まれている。また、左派では民主社会主義 Democratic Socialism(デモクラティック・ソーシャリズム)が勢いを増している。これからは私たちがこれまで培ってきた常識 common sense(コモン・センス)が通用しなくなってくる。佐藤先生が指摘しておられるように、日本は「本を読まない人にお金が集まる」社会になってしまっているが、複雑化する社会をより深く理解するためには、やはり本、できれば古典を読み、基礎教養を学ぶことが必要となる。本書がその手助けとなれば望外の喜びだ。

 ビジネス社の小笠原豊樹氏と水波ブックス代表の水波康氏には対談の調整とまとめをしていただいた。記して感謝申し上げます。

2026年7月

古村治彦(ふるむらはるひこ)

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 スティーヴン・M・ウォルトが昨年に発表した論考をご紹介したい。イラン戦争が始まる前の論考であり、そんなものを今更読んでどうするのかという考えもあるだろうが、イラン戦争を突然起きた、突発的な事件と捉えるのではなく、中東地域の大きな構造と中期的な地域内での動きの中でとらえることもまた必要である。ウォルトは中東について、変化は起きているが、中東は大きく変化していないと主張している。
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 ウォルトは、「新しい中東」が出現しつつあると多くの人々が考える理由を4つを挙げている。それらは以下の通りだ。

第一に、新しい側面として「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」と呼ばれる、イラン、ハマス、ヒズボラ、イラク民兵、アサド政権、フーシ派が劇的に弱体化したことが挙げられる。イスラエルはハマスの10月7日攻撃を契機に各構成員に大規模攻撃を仕掛け、ハマスやヒズボラの戦力は低下し、シリアの武器庫やイランの標的にも空爆が及んだ。しかし枢軸は完全には消滅しておらず、各勢力はいまだに抵抗し続けている点が重要であるとウォルトは指摘している。この部分については異論がある。抵抗の枢軸は弱体化していると述べているが、現在もまだ頑強に抵抗している。また、これまでの通常兵器で言えばアメリカ軍やイスラエル軍に歯が立たないが、ドローンなど安価で大量に配備できる兵力で打撃を与えている。

第二に、アラブ世界内部での権力と影響力の緩やかなシフトが進行している。エジプトやイラクの相対的地位は低下し、サウジアラビアやUAEなど湾岸の産油王国が経済の近代化と外交的野心を高めているため、これらの国々が地域の仲介役や新たな影響の担い手として台頭する可能性がある。ただし彼らは何より「安定」を求めており、現状の紛争やイスラエルの軍事行動はその安定志向に反することが多い。中東地域の「安定」志向とイスラエルが「ならず者国家」となっている現状はこれまでこのブログでもご紹介している。

第三に、ロシアの地域的影響力は低下している。シリアにおけるアサド政権の崩壊を防げず、ウクライナ戦争の重圧下でモスクワは従来のような力を行使できなくなっており、これは地政学的な転換点を示す。ここに出てきているのは、中国である。中国が仲介役を果たして、サウジアラビアとイランの国交正常化を成功させたことは記憶に新しい。

第四に、外部大国の役割、とりわけアメリカの関与は変質しつつある。トランプ政権下で一時的に攻撃的姿勢を示したり、イランへの圧力を強めたりする一方で、アメリカ内外でイスラエルへの支持は弱まっており、世論や主要メディア、国際社会の批判が高まった結果、アメリカの政策と支援のあり方にも変化が生じている。トランプが石油富豪の歓心を買う姿勢を示すならば、イスラエルに対する抑制的圧力がかかる可能性もある。中東地域におけるアメリカの影響力低下はその通りであり、アメリカが完全に撤退してしまう前に、イスラエルとしてはイランを叩いておこうという意図もあり、イラン戦争を開戦したとも考えられる。その目論見は見事に失敗してしまったが。

こうした理由はあるが、ウォルトは、中東が「新しく」根本的に変わったとは言えないと主張している。その理由として、中東地域において地域覇権を確立できる国家は存在せず、そのために無秩序な武力闘争が続くという点を指摘している。軍事力的に見ればイスラエルが地域覇権を握りそうだが(アメリカの手厚いバックアップもある)、ウォルトは、イスラエルに対しては批判的な評価をしている。ウォルトは、イスラエルについて、数百万人規模の非ユダヤ系人口を抱える現状とアメリカ依存の現実、そして枢軸諸勢力の存続と抵抗性を鑑みれば、永続的支配は現実的ではないと指摘している。イスラエルは根本的に永遠に武力紛争に巻き込まれ続け、平安を手に入れることはできない。

ウォルトは、中東地域に恒久的な安定秩序をもたらすには、力と正統性のより均衡のとれたバランス、すなわち正義、公平性、政治的権利の保障が不可欠であり、これらが欠けている限り、変化は表面的にとどまるという悲観的な見方をしている。

 アメリカのドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランに対する大規模攻撃によって、イランを弱体化させ、あわよくばイランの体制転換までできれば、イラン戦争が「最後の戦争」になると考えていたが、それは失敗した。イスラエルがガザ地区とヨルダン川西岸地区でアパルトヘイト的、かつ非人道的な政策を続ける限り、中東地域に平和と安定は訪れない。

(貼り付けはじめ)

古くからの中東地域と同じである新しい中東と出会う(Meet the New Middle East, Same as the Old Middle East

-この地域では全てが変わったが何も違っていない。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2025年8月7日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2025/08/07/new-middle-east-israel-palestine-saudi-iran-lebanon/

ここ数年の激動の出来事を考えると、「新たな中東(new Middle East)」の出現を予感させる誘惑に駆られる。しかし、私たちは一体何度そのような言葉を耳にしただろうか? 第三次中東戦争(六日間戦争)は重要な転換点だと考えた人もいた。イスラエルのアラブ諸国は今頃和平を結ぶはずだと。しかし、それは実現しなかった。エジプト・イスラエル和平条約、第一次湾岸戦争、オスロ合意、アメリカのイラク侵攻、そしてアラブの春も同様である。しかし、9月11日の同時多発テロ、シリア内戦、2023年10月7日のハマスによる攻撃、ガザ地区における継続的なジェノサイド、レバノンの度重なる破壊、フーシ派による紅海船舶への攻撃、そして最近のイランへの空爆といった出来事は、今もなお続いている。

過去10年間、特に2023年10月7日以降、私たちは驚くべき展開を目の当たりにしてきた。しかし、この地域が長きにわたり紛争に苛まれてきた根本的な状況は、依然として変わっていない。一部の勢力は去り、他の勢力は権力を増減し、多くの勢力は異なる政策を採用したが、より根本的な不安定要因は依然として存在している。

従って、新しい中東という言葉を聞くと、私は懐疑的になってしまう。

その理由を理解するには、まず何が新しく、次に何が変わらないのかを考えてみよう。

ここ数年で最も明白かつ重要な展開は、「抵抗の枢軸(Axis of Resistance)」(イラン、ハマス、ヒズボラ、イラク民兵、シリアのバッシャール・アサド政権、イエメンのフーシ派)の劇的な弱体化だ。2023年10月7日のハマスによるイスラエルへの残忍な攻撃を受けて、イスラエルはこの緩やかな連合のあらゆる構成員に対して大規模な攻撃を開始し、大きな効果を上げた。ハマスは深刻な弱体化を遂げたが、まだ壊滅には至っておらず、イスラエルの大量虐殺行為に抵抗し続けている。ヒズボラの最高指導者の多くは殺害され、その軍事力は2年前よりもはるかに弱体化している。支援を失ったアサド政権は崩壊し、イスラエルはこの好機を捉えてシリアの武器庫を爆撃し、イスラエルの領土の拡大を図った。イエメンではフーシ派と空爆を繰り広げた。そして、イスラエルは6月にイランに対する野心的な空爆作戦を開始した(その後、アメリカが支援を強化した)。これは、イランの核インフラを破壊し、ひいてはイスラム教シーア派政権そのものを転覆させることを狙ったものだ。アサド政権を除くと、いわゆる「枢軸(axis)」を構成する勢力はいずれも壊滅しておらず、いずれも頑強に抵抗を続けている。しかし、各勢力は数年前と比べて大幅に弱体化している。

第二に、アラブ世界における権力と影響力の緩やかな移行が挙げられる。エジプトとイラクからサウジアラビアやペルシア湾岸の裕福な産油国へと勢力が移りつつある。エジプトは依然として経済的に苦境に立たされている一方、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)は経済の近代化と多角化、そしてより積極的な外交的役割の発揮を急いでいる。当然のことながら、一部の専門家は、これらの国々が、たとえ必要に迫られてであっても、地域における仲介役を担う可能性があると考えている。

第三に、シリアのアサド大統領の失脚と、長期にわたる多大な犠牲を伴うウクライナ戦争の重圧により、ロシアの地域における影響力は大きく低下した。モスクワはアサド政権の崩壊を防ぐことができず、ウクライナ戦争勃発以来、イランがロシアに様々な形で支援を提供してきたにもかかわらず、イランへの支援はほとんど行っていない。ウラジーミル・プーティン大統領率いるロシアは、ここ数十年果たしてきたような影響力を行使できなくなっており、この変化はもう一つの重要な転換点と言えるだろう。

最後に、アメリカを含むその他の外部勢力の役割が大きく変化しつつある。アメリカは数十年にわたりイランに敵対的な姿勢をとってきたが、ドナルド・トランプ政権がイスラエルの爆撃作戦に積極的に参加するという決定は、特にトランプ大統領はイランが核兵器開発に邁進すれば攻撃を再開すると脅迫していることを考えると、重大な一歩と言える。イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相とアメリカのイスラエル・ロビーの一部は長年この動きを推し進めており、ついにその望みが叶った。

しかし同時に、イスラエルによるガザ地区攻撃の残虐性は、アメリカの民主、共和両党および世界中でイスラエルへの政治的支持を弱体化させている。元イスラエル外交官のアロン・ピンカスが最近『ニューリパブリック』誌で指摘したように、現在アメリカ人の60%がイスラエルのガザ地区作戦に反対しており、最近の世論調査では過半数(53%)がイスラエルに対して好ましくないイメージを持っていることが示されている。主要新聞各紙はイスラエルの行動をますます頻繁に非難しており、イスラエル国内を含む著名なジェノサイド専門家も、イスラエルをこの凶悪な犯罪で告発するケースが増えている。たとえこの特定の用語を拒否するとしても、イスラエルが大規模な戦争犯罪を起こしたことは疑いの余地がない。ハマスが10月7日に自ら罪を犯したという事実は、無力な住民を爆撃し飢餓に陥れ続けることを正当化するものではない。民主党はこの問題で深刻な分裂状態にあり、かつては揺るぎない支持基盤であった共和党の親イスラエル感情も崩れつつある。タッカー・カールソン、スティーヴ・バノン、そして筋金入りのトランプ支持派であるマージョリー・テイラー・グリーン連邦下院議員といった人物を失った時点で、状況が変わりつつあることは明らかだ。

同様の傾向は世界中で見られる。ピュー・リサーチ・センターが最近実施した24カ国を対象とした世論調査では、24カ国中20カ国でイスラエルに対する否定的な見方が多数を占め、フランス、イギリス、カナダ、そしておそらくオーストラリアの政府はパレスティナ国家の承認を表明している。トランプ大統領はイスラエル(あるいは他のどの国に対しても)に特別な愛着を持っておらず、むしろ裕福なアラブの石油王たちの歓心を買うことに関心があることを考えると、アメリカがついにその影響力を行使し、イスラエルに無益な戦争を止めさせ、ヨルダン川西岸を併合した「大イスラエル(greater Israel”)」建国への試みを中止させる可能性は十分にある。

こうした状況を総合すると、なぜ一部の人々がこの地域で大きな変化が起きていると考えているのか理解できる。確かに重要な要素は変化しているだろうが、「新しい中東」が到来したと言えるだろうか? そう簡単にはいかない。

そもそも、中東は依然として無秩序で多極的な状況にあり、秩序を確立できるような支配的な覇権国は存在しない。ブッシュ政権は、アメリカの短い「一極支配の時代(unipolar moment)」にこの地域を変革しようと試みたが惨めに失敗した。ネタニヤフ首相をはじめとするイスラエルの強硬派は、最近の勝利によってこの地域の覇権国としての地位を確立できると期待していたかもしれないが、以前のコラムで説明したように、約750万人のユダヤ人(約200万人のイスラエル系アラブ人を含む)によって統治され、依然としてアメリカの寛大な支援に大きく依存している国家が、数億人のアラブ系およびペルシア系イスラム教徒に対する永続的な支配を確立できるはずがない。繰り返すが、ハマス、ヒズボラ、フーシ派、そしてイランは消滅しておらず、いずれも依然として反抗的である。湾岸諸国やアラビア半島で影響力を増している国々も、イスラエルの最近の行動に満足していない。なぜなら、彼らは何よりも安定を求めており、イスラエルが提供しているのはまさにその安定ではないからだ。

つまり、中東地域は今後も様々な国家が力、安全保障、そして影響力を巡って争う地域であり続けるということだ。イランは依然としてイスラエルに対抗するために潜在的な核兵器保有能力を望んでおり、イスラエルとアメリカによる爆撃作戦の後、自国の抑止力への欲求は間違いなく高まっている。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、エジプトはアラブ世界における地位と影響力を巡って競争を続け、トルコは自国の利益を守るために時折介入するだろう。そしてこれらの国々は全て、自国の立場を強化するために外部勢力に接近しようとするだろう。ここ数年の出来事はいずれも、この地域政治のこうした繰り返される特徴を変える可能性は低く、由緒あるアラブ連盟や、ほぼ機能不全に陥っている湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council)のような組織は、大きな変化をもたらすにはあまりにも弱体化している。

さらに言えば、アメリカは依然としてこの地域に存在している。アメリカの指導者たちは、ワシントンがアジアに注力するためという理由もあって、中東地域から撤退しようと繰り返し試みてきたが、いずれも成功していない。トランプ大統領は最初の任期中にシリアからのアメリカ軍撤退を試みましたが失敗に終わり、アメリカ軍の駐留規模は2017年の就任当時とほぼ変わっていない。前述の通り、イランへの直接攻撃というトランプ大統領の決定は、決して撤退の兆候とは言えず、アメリカ特殊部隊は最近、アサド政権崩壊後のシリアでイスラム国残党の指導者らを攻撃した。トランプ大統領はフーシ派への爆撃も行ったが(効果はほとんどなかった)、スティーヴ・ウィトコフ大統領特使はガザ地区の惨状を終わらせようと、今のところ成果のない努力を続けている。そして、国民の不満が高まっているにもかかわらず、アメリカ政府は依然としてイスラエルに資金と武器を注ぎ込んでいる。「変われば変わるほど、何も変わらない(Plus ça change; plus c’est la même chose)」という状況だ。

残念なことに、このような状況はイスラム過激主義の再燃を招く絶好の機会であり、過去数年間の出来事を受けて新たなテロの波が起こらないとしたら、それは奇跡と言えるだろう。その恐怖こそが、アラブ産油国がイスラエルの行動にこれほど警戒している理由の一つだ。彼らはパレスティナ人に対して真の同情心を持っているわけではないかもしれないが、パレスティナ人の窮状が過激派にとって強力な勧誘手段であり、自らがこの問題に対処できていないことを浮き彫りにしていることを認識しているのだ。

変わらないことがもう一つある。パレスティナ問題の政治的解決には全く近づいておらず、むしろ遠ざかっている可能性が高いということだ。2023年10月以降、ガザ地区とヨルダン川西岸地区で殺害された6万人以上のパレスティナ人を考慮しても、イスラエルが支配する地域には依然としてほぼ同数のパレスティナ系アラブ人とイスラエル系ユダヤ人が暮らしている。これらのパレスティナ人のほとんどは政治的権利を持たず、主体性もほとんどなく、自らの国家を持つ現実的な見込みもない。この状況が変わるまで、彼らの一部は、シオニストがイギリスに対して行ったように、また、もし立場が逆であれば今日のイスラエル系ユダヤ人が行うであろうように、イスラエルの支配者に対してできる限りの抵抗を続けるだろう。もし、おそらくそうなるであろうように、二国家解決がもはや実現不可能であれば、イスラエル人、パレスティナ人、そして世界の他の人々は、他のヴィジョンを模索しなければならないだろう。(こうした提案の一例として、マイケル・シェーファー・オメルマンとサラ・リー・ウィットソンによる近刊の研究を参照して欲しい)。彼らがそうしない限り、この地域紛争の根源は依然として存在し続けるだろう。

まとめると、中東地域は依然として深刻な政治的分断を抱えた地域であり、最も力のある勢力が他の勢力を支配し、権利、主体性、そして承認を否定している。制裁、非承認、地域外交努力からの排除、そして最近では空爆といった手段でイランを孤立させようとする度重なる試みに、その実態が表れている。パレスティナ人に自らの国家を否定する(あるいは「パレスティナ国家など存在しない」と主張する)長年のキャンペーンにも、その実態が表れている。そして、アラブ世界内部においても、君主や軍事独裁政権がより大きな開放と政治的権利を求める声に抑圧を続けている(アラブの春を覚えているだろうか?)。

こうした状況は必然的に反発を生み出し、それがさらに厳しい弾圧行為へとつながり、ひいては不安定な状況の継続を招くことになる。成功体験をひたすら繰り返す(Rinse and repeat)。安定した地域秩序には、力と正統性のより均衡のとれたバランス(a more even balance between power and legitimacy)が必要であり、正当性には最終的に一定の正義、公平性、そして政治的権利の保障が不可欠である。これらの特徴が残る限り、「新しい」中東は古い中東とほとんど変わらないだろう。このことをしっかりと心に留めておけば、歌にあるように「二度と騙されることはない(won’t get fooled again)」。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

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 古村治彦です。

 以下のスティーヴン・M・ウォルト教授の論考は、是非多くの方々に読んでいただきたい内容だ。タイトルの通り、「戦争は無意味(pointless)になってきている」という内容だ。冷戦期から現在まで、アメリカは多くの戦争を戦ってきた。大きな戦争で言えば、朝鮮戦争やヴェトナム戦争であるが、これらの戦争は多額の戦費を支出し、多くの人命を失いながら、勝利することはできなかった。最近で言えば、アフガニスタン戦争やイラク戦争、イラン戦争について評価をすると、敗北となる。アメリカは自分が必ず勝てると「事前評価」をしている国に対してのみ軍事行動を取っている。それなのに失敗続きである。例外は、ジョージ・HW・ブッシュ政権下での第一次湾岸戦争である。この時はイラクをクウェートから排除するという目的を堅持し、それ以上に拡大しなかったこともあり、戦争を無駄に拡大せずに成功を収めた。アメリカは多くの戦争を戦いながら、目的を達成できず、かえって外交での方が成功を収めている。米中国交正常化やオスロ合意、イランとの核開発に関する合意などである。

 今回のイラン戦争について考えてみると、軍事力の面で言えば、アメリカが圧倒している。イランは中東地域に限れば、軍事大国であるが、それでもアメリカには遠く及ばない。しかし、世界にとって重要なチョークポイントであるホルムズ海峡を確保し、レバノンのヒズボラ、ガザ地区のハマス、イエメンのフーシ派といった新イラン勢力を支援しながら、アメリカとイスラエル、ペルシア同盟諸国に揺さぶりをかけ、こちらも紅海の出入り口として重要なチョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡にも影響を与えるという戦術で、アメリカとイスラエルに対抗し、成功している。イランも国内数千カ所を攻撃され、最高指導者アリ・ハメネイ師をはじめとする最高指導層を殺害され、また、子供を含む多くの民間人にも犠牲が出ているが、崩れることなく、対抗している。ナショナリズムと宗教の強靭さとドローンやAIなどのテクノロジーの低コストがイランに味方をしている。まさに「アメリカは戦闘(battle)には勝っているが、戦争(war)には負けている」ということになる。
 アメリカや日本でも米中戦争を懸念するふりをして、使嗾している勢力がいる。しかし、米中戦争は最も無意味な戦争になるだろう。そして、日本がそれに巻き込まれて、唆されて、中国と軍事衝突するなどということも無意味である。

 19世紀のアメリカ、そして、現在の中国は戦争から遠ざかることで国力の充実に成功した。このことを私たちは教訓として拳拳服膺すべきである。そして、日本が日本国憲法で定めている「戦争放棄」、専守防衛こそはこの教訓に当てはまるものであるということを再認識したい。

(貼り付けはじめ)

戦争は無意味なものとなってきている(War Has Become Pointless

-軍事紛争(miliary conflict)はこれまで常に存在してきた。それがもはや意味をなさなくなってきている。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2026年7月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/06/war-iran-ukraine-israel-united-states-russia-pointless/

vladimirputinbenjaminnetanyahudonaldtrump2025001

アラスカ州アンカレッジでのロシアのウラジーミル・プーティン大統領(2025年8月15日);ワシントンでのイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相(2025年4月7日);ワシントンでのドナルド・トランプ大統領(2025年8月14日)

『戦争論(On War)』を読んだことがなくても、カール・フォン・クラウゼヴィッツの有名な格言「戦争とは他の手段による政治の延長である(war is the continuation of politics by other means)」は知っているかもしれない。彼の主張しているポイントは、戦争には常に明確な政治的目的が必要であり、その目的こそが戦略の選択や軍事力の行使のあり方を導くべきだということだ。望ましい政治的成果をもたらさない限り、戦場での華々しい戦果も無意味なものとなる。

私は最近この問題についてよく考えているが、現代世界における戦争はますます無意味なものになりつつあるのではないかと考え始めている。その様に述べるのにはかなりの躊躇がある。それは、戦争はコストが増大し、発生頻度は減るだろうという過去の予測は、ことごとく外れてきたからだ。例えば、1849年、ラルフ・ワルド・エマーソンは「戦争はもはや末期状態にあり、文明が野蛮に打ち勝つことが確実であるのと同様に、普遍的な平和もまた確実である(War is on its last legs, and universal peace is as sure as is the prevalence of civilization over barbarism)」と書いた。第一次世界大戦前には、ポーランドの銀行家ジャン・ド・ブロッホが、軍事技術の進歩によって戦争はあまりに危険なものとなり、「自滅という代償を払う以外には」不可能になりつつあると論じた。

同様の文脈で、1909年に初版が出版されたノーマン・エンジェルの『大いなる幻想(The Great Illusion)』は、相互依存関係(interdependence)にある以上、大国間戦争(great power war)がもたらすコストは、得られるいかなる利益をも上回るだろうと警告した。より最近では、ジョン・ミューラーやスティーヴン・ピンカーといった学者たちが、戦争は「時代遅れ(obsolete)」とまではいかなくとも「廃れつつある(obsolescent)」と論じたが、彼らの予想をはるかに超える規模の新たな紛争が勃発するのを目の当たりにすることになった。軍事史家の故マイケル・ハワードは、ミューラーの著書『破滅からの後退(Retreat from Doomsday)』の書評の中で、戦争が消滅しつつあるという記述を読んだ慎重な人物なら、「自分の防空壕がきちんと整備されているか確認するだろう」と皮肉を込めて述べている。

従って、戦争が消滅しつつあるとは私は言わない。戦争がなくなることはない。ただ、その無意味さが増しているだけだ。近年の歴史について考えてみよう。

第二次世界大戦以降、アメリカは数多くの戦争を行ってきたが、対等なライヴァルや他の大国を相手にした戦争はなかった。その代わり、強力な同盟国を持たない弱小国を相手に戦うことがほとんどだった。それにもかかわらず、1991年の第一次湾岸戦争や、1983年の強力なグレナダへの取るに足らない侵攻を除けば、その戦績は芳しいものではない。朝鮮戦争は引き分けに終わり、ヴェトナム戦争は明らかな敗北だった。湾岸戦争で勝利できたのは、アメリカが戦争を始めたのではなく、多くの同盟諸国の支援があり、そしてジョージ・HW・ブッシュ大統領が「イラクをクウェートから追い出し、その軍事力を大幅に解体する」という限定的な政治目標を堅持するという賢明な判断を下したことが大きな要因だった。ソマリアへの介入は屈辱的な撤退に終わり、コソヴォ紛争は実質的に引き分け、そして現在「終わりのない戦争(forever war)」として知られるイラクやアフガニスタンでの紛争は、多大な犠牲を伴う敗北となった。ドナルド・トランプによるイランへの愚かな攻撃は戦略的な大失敗であり、支持者たちは必死になって(しかし説得力に欠ける形で)それを否定しようとしている。

これらの戦争のほとんどは、アメリカをより安全にしたり繁栄させたりするどころか、むしろ戦わなかった場合よりも悪い状況を招いた。このリストには、ピート・ヘグセス国防長官による、ラテンアメリカからの麻薬密輸容疑者を標的とした殺人を伴う作戦も加えられるだろう。この作戦は数十億ドルの費用を費やし、罪のない人々を殺害し、国際法に違反しているにもかかわらず、違法薬物の供給にはほとんど、あるいは全く効果を上げていない。一言で言えば、これらの戦争は無意味なのだ。

それでは、旧ソ連や今日のロシアはどうだろうか? 1979年のアフガニスタン侵攻は、ソ連の経済問題を悪化させ、最終的な崩壊の可能性を高めることになった大きな失策だった。2022年のウクライナ侵攻も同様に、多大な犠牲を伴う泥沼の戦いとなっている。4年にわたる戦争と数十万人の死傷者を出した末にウラジーミル・プーティンが得たものといえば、ウクライナの当初の領土の約20%に過ぎない。ロシアがこの戦争を始めた主な狙いは、ウクライナが西側諸国に接近するのを阻止することにあったかもしれないが、プーティンは自軍の能力、ウクライナ側の抵抗の粘り強さ、そしてキエフが他国から支援を取り付ける能力を明らかに読み違えていた。たとえこの戦争が、ロシア側の切実な安全保障上の懸念に一部起因していたとしても、今となってはその意義はますます失われているように見える。さらに忘れてはならないのは、シリアのバシャール・アサド政権を支えようとしたロシアの試みが結局は失敗に終わったこと、そしてアフリカ各地の独裁者への支援も、最近になって考えると、決して得策とは言えない状況にあるということだ。

イスラエルについて考えてみよう。イスラエルは数多くの戦術的勝利を収めてきたが、それらが永続的な戦略的利益をもたらすことはないようだ。ガザ地区でのジェノサイドはハマスを壊滅させていないし、幾度となく繰り返される爆撃やレバノン南部への再占領も、ヒズボラを排除するには至っていない。爆撃によって勝利を手にできるという信念は、イスラエルを安全にするどころか、むしろ「ならず者国家(a pariah state)」へと変貌させ、アメリカとの特別な関係を危うくしている。ヨルダン川西岸地区におけるパレスティナ人への継続的な不当な扱いに加え、イスラエルの戦争中毒(Israel’s addiction to war)は、近隣諸国の多くとの関係正常化を阻んでいる。本来なら、こうした国々との終わりのない戦争よりも、関係正常化こそがイスラエルの長期的な未来にとって遥かに有益なはずなのだ。(ちなみに、ハマスについても同様のことが言える。2023年10月7日にイスラエルに対して行った殺戮を伴う攻撃は戦争犯罪であり、パレスティナ独立国家の樹立という目標を前進させることには何も貢献しなかった。)

実際、どこを見ても、無意味な紛争の例ばかりを目にする。サダム・フセインは2つの戦争、イランへの侵攻と1990年のクウェート占領を始めたが、そのどちらも完全な失敗に終わった。スーダンやリビアの内戦における各勢力は、自国を疲弊させただけであり、最終的に勝利を収める側にとっても、それは「ピュロスの勝利(a pyrrhic victory、訳者註:損害ばかりが大きく割に合わない勝利)」となるだろう。サウジアラビアのイエメン介入は、数万人もの不必要な死者を出した以外には何の結果ももたらさなかったし、インドとパキスタンが時折繰り広げる国境衝突も、成功や決定的な成果とは程遠いものだ。長引くコンゴ紛争に至っては語り始めるのも嫌なほどだ。

その一方で、誰がうまくやっているだろうか? それは中国だ。それは、中国はこうした戦争の全てに関与せず、国内での国力増強(building power at home)に専念してきたからだ。科学と技術における支配の追求(pursuing scientific and technological dominance)、貿易、投資、多国間外交の場での関与、そしてグリーン技術の提供を通じて、世界的な影響力を築き上げてきた(building global influence through trade, investment, diplomatic engagement at multiple forums, and the provision of green technologies)。19世紀の大半を通じてアメリカがそうであったように、他の大国が破滅的な戦争で互いに消耗し合う間に、距離を置いて関与を避けるというのは賢明な戦略である(remaining aloof while the other major powers punch themselves out in ruinous wars turns out to be a smart strategy)ことが証明されている。

今は何が起きているだろうか? なぜ、クラウゼヴィッツの基準である、開戦者が明確な政治的目標を掲げ、それを妥当なコストで達成できたという基準を満たす戦争を見つけるのはこれほど難しいのだろうか? 考えられる理由は少なくとも4つある。

第一に、核兵器の存在が理由として挙げられる。主要大国(および一部の他の国々)にとって、核兵器を保有していることは、他国が自国に対して行える行動に明確な制約を課すことになる。核兵器は実際の戦争遂行にはあまり役に立たないが、他国による征服の試みを抑止する上では極めて有効だ。確かに、核保有国が攻撃を受けた例はある(1973年10月のエジプト・シリアによるイスラエル攻撃や、インド・パキスタン間の深刻な国境紛争など)。しかし、こうしたケースで攻撃を仕掛けた側は限定的な目標しか持っておらず、相手国を征服しようとは考えていなかった。核兵器の影が「決定的な勝利(decisive victories)」を不可能にするため、戦争の政治的目標は必然的に限定的なものとならざるを得ない。しかし、戦争で達成できる目標が限定的であれば、その目標達成のために国家が費やそうとするコストもまた、自ずと制限されることになる。

第二に、決定的な政治目標の達成をさらに困難にしているのが、現代のナショナリズムの力だ。ナショナリズムは、外国からの侵略者に対して社会が猛然と戦うよう駆り立てるからだ。アメリカはこのことをヴェトナム戦争で思い知らされたが、その教訓をすぐに忘れ、イラクやアフガニスタンで再び思い知らされることになった。プーティンもウクライナで同様の過ちを犯した。イスラエルのシオニストとパレスティナのナショナリストは互いに、相手側の国民的アイデンティティの強靭さや、自らの共同体を守るために戦う意志の強さを過小評価してきた。これこそが、あの紛争が最終的な解決を見ないまま続いている理由の1つだ。

第三に、戦争はますます無意味なものとなっているのは、グローバライゼイションと相互依存(globalization and interdependence)によって、国家は領土を拡大しなくても豊かになれるようになったからだ。アメリカは、グリーンランドのような地域を支配しなくても、そこに存在する資源や資産から利益を得ることができる。真に有望な機会があればアメリカ企業が投資を行えばよいし、あるいはそうした投資を行う外国企業とアメリカが貿易を行えばよい。また、アンドリュー・コーやジョナサン・マーコウィッツが示したように、たとえ(豊富な油田のような)極めて価値の高い領土を征服したとしても、すでに大規模かつ多様な経済を持つ国家にとって、そこから得られる経済的利益は比較的小さいものだ。極端な例を挙げれば、もし中国が台湾を円滑に併合したとしても、中国のGDP全体に上乗せされるのはわずか5%に過ぎない。これは決して無視できない数字ではあるが、それ単独で情勢を一変させるようなものではない。しかも台湾は、すでに高度に発展した経済を持っている。小規模な経済圏を持つ国では計算が異なるが、そうした国々にとっても、経済的利益のために領土を奪取するより、国内の発展を通じて豊かになる方がはるかに賢明な選択と言える。

注意:私は経済的な相互依存によって戦争が不可能になったと言わないし、ホルムズ海峡のような重要な地理的チョークポイント(chokepoints)を支配することが、一部の国家に強力な交渉力を与えるという事実を否定することもない。私が指摘したいのは、単に、国家にとって戦争よりも貿易を通じて目的を達成する方が一般的に容易だということだ。さらに、他国が「相互依存を武器化(weaponize interdependence)」できるという事実は、戦闘のコストを増大させ、大国を含むあらゆる国家にとって野心的な政治目標の達成を困難にする可能性がある。国家は今後も戦争を行うだろうが、だからといってそれが賢明な選択であるとはならない。

そして、テクノロジーとそれが現代の戦場に与える影響についても考える必要がある。F-35が誇る驚異的な技術力や、アメリカやイスラエルなどが実施する複雑な諸兵科連合(combined arms、訳者註:歩兵、戦車、航空機など異なる兵科を連携させ効果を向上させる戦術)作戦の能力に目を奪われるあまり、戦争の様相が、一見して圧倒的に優勢な敵を相手にする場合であっても、徐々に地元の防衛側に有利な方向へと変化していることを見落としてしまいがちだ。アメリカはイラクやアフガニスタンにおいて、制空権を確保し、複雑な戦場をリアルタイムで監視する能力を持ち、圧倒的な火力を誇っていたが、それでも敗北した。ロシア軍はウクライナ軍を数で圧倒しており、2022年以降、その軍事的な遂行能力も大幅に向上させているが、それでも領土を1平方キロ獲得するたびに甚大な損害を被っている。

こうした傾向は、安価でありながら高度化が進むドローンの登場(もちろんそれらも重要だが)だけが原因ではない。小火器の拡散、標的捕捉・監視能力の向上、即席爆発装置(IED)の開発、そして自爆攻撃の利用といった要因も関係しており、これら全てが敵対的な地域の占領や維持を困難にしている。言い換えれば、こうした事態の進展は、かつてアメリカが支配していた「グローバル・コモンズ(the global commons)」の範囲を縮小させ、MITのバリー・ポーゼンが「係争地帯(contested zone)」と呼んだ領域を拡大させた。この領域では、より弱い敵対勢力であっても、強大な力を持つ大国に対して甚大なコストを強いることが可能だ。アメリカ海軍は依然として強力な戦力だが、今日、ペルシア湾内を自由に航行していないのには理由がある。こうした戦争の様相の変化は、強力なナショナリズムと相まって、外国政府に圧力をかけたり、不穏な動きを見せる住民を鎮圧したりすることを、より困難なものにしている。

誤解しないで欲しいのだが、私は各国が安全保障への懸念を捨て、剣を鋤に持ち替えて軍備を放棄すべきだと言っているのではない。結局のところ、ある国が自衛のための備えを固めているからこそ、他国は費やすコストに見合うだけの利益を得ることが難しくなる。つまり、有利な勢力均衡(a favorable balance of power)を維持し、信頼に足る抑止力(a credible deterrent)を備えておくことは、依然として重要だということだ。しかし、私たちはこの状況が何を意味するのかを認識する必要がある。それは、自衛(self-defense)は容易になる一方で、侵略戦争(aggressive wars)はますます無意味になりつつある。侵略戦争は、アメリカにとっても、その他のどの国にとっても、うまくいっていない。よって、ある国について、「直ちに阻止しなければならない致命的な脅威(mortal danger that must be stopped immediately)」と「容易に崩れ去る砂上の楼閣(a fragile house of cards that will be easy to topple)」ということを同時に主張する、言葉巧みなシンクタンクの研究員やロビイスト、あるいは私利私欲に走る外国の指導者が説いてきたときは、このことを思い出して欲しい。彼らの主張は間違っているということを。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ウォルトは現代世界を読み解くために不可欠な主要概念を解説する5つのパートを持つニューズレター・マスタークラス『新しい地政学(The New Geopolitics)』の著者。Blueskyアカウント:@stephenwalt.bsky.socialXアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)

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 古村治彦です。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルの失敗(敗北)という評価で定まっている。そのために犠牲になった人々のことを思うとやりきれない気持ちになり、ご冥福をお祈りすることしかできない。人間はなんと愚かであろうかということを認識するとともに、ドナルド・トランプとベンヤミン・ネタニヤフの誤った判断に関しては、政治指導者としてそれ相応の責任を負わせることが必要だ。

 今回のイラン戦争に関して中国は表舞台で目立った活動はしていない。米中首脳会談やイランのアッバース・アラグチ外相の訪中があり、そこでイラン戦争について議論されたことはあるだろうし、アメリカとイランによる和平交渉実現には、パキスタンが仲介国として大きな役割を果たしたが、同時に裏方として中国がサポートをしたことは知られている。
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 また、アメリカがイラン戦争で失敗することで、相対的に中国が成功を収めることになっている。それは、中東地域におけるアメリカの存在感と影響力が低下しており、イラン戦争がそれに拍車をかけることになっているからだ。中東地域はイランを除いて、親米の国々ばかりであり、石油取引は米ドルのみで行うというペトロダラー体制によってウィンウィン関係になっていた。しかし、世界経済で少しずつであるが「脱ドル化(dedollarization)」の動きが始まっている。サウジアラビアは中国向けの石油取引で人民元での取引を行うようになっているのはその一例だ。

 下記論考にある通り、中国は「棚ぼた(windfall)」で相対的な成功を収めている。そして、イラン戦争は、国際政治の構造に大きな影響を与える。それは、アメリカへの信頼性の低下によって、アメリカの世界支配の終焉を早めるということになる。アメリカとイスラエルが大規模攻撃を行ったことで始まったイラン戦争であり、和平となるためには、アメリカとイスラエルがイランの提示する条件を受け入れることが基本となる。もちろん核開発に関しては国際的に受け入れがたいものはあるが、賠償やホルムズ海峡の管理については、イランの条件を受け入れるべきということになる。アメリカはイランに対して、再度の大規模攻撃がしにくい状況であり、イラン側としてはある程度交渉を引き延ばして、アメリカの苦境を長引かせることも可能となる。そうなると、アメリカへの信頼性も揺らぎ、同盟関係が変化していくことになる。そうなれば、相対的に中国の存在感と信頼性が高まることになる。

 私はトランプ大統領を「アメリカの世界支配を終わらせる墓掘り人」と表現したことがある。しかし、それは、アメリカの内向き志向をさらに強めるという意味であった。まさか、海外への介入で大きな失敗をして、アメリカの衰退を加速させる役割を果たすとは思っていなかった。しかし、現実にはトランプはそのような役割を果たしている。「敵に塩を送る」どころではない、利敵行為ということになる。

(貼り付けはじめ)

イラン戦争は中国への「贈り物」だ(The Iran War Is a Gift to China

-一発の銃弾も撃つことなく、中国は湾岸地域における行動の自由を拡大し、自国産業の促進と新たな信頼を手に入れた。

ファリード・ザカリア筆

2026年7月17日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/07/17/iran-war-china-benefit-united-states-energy-economics-geopolitics-trump-xi/

xijinpingaiworldconference20260717001

北京のショッピングモールの屋外大型スクリーンに映し出された世界人工知能大会の開会式で演説する中国の習近平国家主席(7月17日)

イランとの戦闘が激化と沈静化(blows un and cools down)を繰り返す中、1つの傾向が明らかになっている。それは、この紛争から最大の利益を得ているのが中国ということだ。

中国は一発の銃弾を撃つ必要もなく、巨額の資金を投じる必要もなく、政治的資本を費やす必要なかった。しかし、過去30年間でどの危機よりも多くのものをこの事態から得ている。この紛争は、中国が長年掲げてきた3つの目標の実現を加速させた。すなわち、アメリカへの依存度が低い中東地域の実現、中国の重要技術への依存度が高い世界、そして真剣かつ安定した世界大国としての中国の評価の確立(a Middle East less dependent on America; a world more dependent on critical Chinese technology; and a reputation for Beijing as a serious and steady world power)だ。

中国政府は、中東地域における軍事的な安全保障の保証者としてアメリカに取って代わろうとはしていない。そうした役割には多大なコストを伴う関与が必要だからだ。中国の狙いはもっと単純かつ巧妙なものだ。それは、ペルシア湾岸諸国をアメリカの影響圏からある程度引き離すことにある。そして、ドナルド・トランプ大統領が、中国の習近平国家主席のためにその役割の多くを担ってくれている。

アメリカのペルシア湾岸の同盟諸国は、アメリカが混乱したやり方でこの戦争を遂行し、現地の都市やインフラ、経済に及ぶ被害をほとんど顧みない様子を目の当たりにしてきた。現在、ペルシア湾岸地域は2つの陣営に分かれつつある。アラブ首長国連邦(UAE)はイスラエルやアメリカとの関係を深めている。しかし、サウジアラビアを筆頭に、カタール、オマーン、さらにはイラクやトルコを含むより大きなグループは、バランスを取ることで長期的な安全を確保しようとするだろう。つまり、アメリカとの関係を維持しつつ、イランとの対話や中国との関係改善も図るということである。

これこそが、北京が志向してきた地域秩序そのものだ。2023年、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介した。それ以来、サウジアラビアはアメリカ主導のデータセンターや半導体関連のプロジェクトへの参加を見送ってきた。サウジアラビアは中国製のミサイルやドローンを購入し、中国海軍との合同演習を実施したほか、戦闘ドローン「翼竜(Wing Loong)」の現地生産についても検討を進めている。2016年から2025年にかけて、中国から中東地域への防衛関連輸出の80%以上をペルシア湾岸諸国が占めた。アメリカの安全保障の枠組みに取って代わろうとする国は存在しないが、各国は選択肢を求めており、選択肢が増えることはアメリカの影響力を低下させることになる。

中国にとってより大きな成果と言えるのは地形学分野での勝利だ。一見すると、石油の約7割を輸入に頼る中国は、この戦争による最大の敗者の1人になるはずだった。しかし、長年にわたる備えのおかげで、中国はこの衝撃を他国の多くよりも巧みに乗り切った。中国は供給源を多角化し、世界最大級と推定される石油備蓄を構築し、石炭の利用を継続し、原子力発電を拡大するとともに、他の主要国が追随できない規模で経済分野における電化を進めてきた。

現在、中国のエネルギー消費に占める電力の割合は約30%に達しており、これはアメリカやヨーロッパを4割近く上回る水準だ。2024年には、世界で新たに導入された風力および太陽光発電設備の半分以上を中国が占めるまでになった。こうした要因が重なり、中国は戦時中、石油の輸入量を日量約400万バレル削減することができた。

イラン戦争は、中国の重要技術にとって巨大な宣伝の場となっている。世界各国の政府が、太陽光発電、蓄電池、風力タービン、電気自動車(EV)、送電網の整備を進めようとしている。中国は世界の太陽光パネル製造能力の約91%、リチウムイオン電池製造能力の約89%を掌握している。ブルームバーグが追跡調査しているクリーンエネルギー関連技術のほぼ全てにおいて、中国企業が少なくとも70%の製造を担っている。エネルギー供給への不安が長引くほど、世界は中国が支配的な地位にある産業への依存を強めることになるだろう。

また、この戦争は中国の重要な目標である「世界貿易における米ドルの支配力の弱体化(weakening the dollar’s hold over global commerce)」を後押ししている。報道によれば、イランはホルムズ海峡を通過する一部のタンカーに対し、取引を中国の人民元[renminbi](または暗号通貨[cryptocurrency])で決済することを条件に許可を与えた。中国とそのパートナー国は、アメリカの制裁によるリスクを低減するため、人民元建ての貿易を事実上拡大させている。移行は緩やかなものとなるだろうが、米ドル支配からの脱却という傾向は今や明白となっている。

最後に、評判の面での「棚ぼた(windfall)」とも言える利益がある。ドナルド・トランプ政権は、体制転換(regime change)、イランの核開発計画の破棄、弾道ミサイル能力および地域内の代理勢力への支援の終了といった壮大な目標を掲げてこの戦争に臨んだ。しかし、そのいずれも恒久的な成果としては達成できていない。それどころか今や、事態が始まる前から開かれていたホルムズ海峡を単に開放することさえも希望するような状況になっている。

トランプ大統領はこの対立を選び取った結果、数百億ドルを費やし、アメリカの弾薬を浪費し、アジアから軍事資産を転用し、同盟諸国を動揺させた。そして、アメリカの圧倒的な力をもってしても、誤った戦略と一貫性のない戦術では悪い結果しか生まないことを露呈させた。

一方、中国の動きは極めて限定的だ。イラン産原油の購入を続け、湾岸諸国との関係を維持しながら、イランの防衛や湾岸地域の警備に伴うコストは回避した。これこそ北京が志向するアプローチであり、劇的な対立を避け、着実に影響力を蓄積していく方法だ。

過去25年間、アメリカが中東地域での3つの大規模な軍事介入で疲弊する一方で、中国は製造業の力、技術力、そして外交関係を蓄積してきた。ワシントンが行動するのに対し、北京は機会を待つという姿勢を取った。もちろん、中国もエネルギー価格の高騰、サプライチェインの混乱、世界的な需要の減退といった形で、この対立による代償を支払っている。

しかし、力とは常に相対的なものだ。アメリカの目標、同盟関係、そして信頼性が受けた損害と比較すれば、中国は優位に立ったと言えるだろう。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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(終わり)



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世界覇権国 交代劇の真相 インテリジェンス、宗教、政治学で読む

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 イラン戦争は、アメリカの脆弱さと共に、イランの強靭さを明確に示した。長年にわたる経済制裁によって厳しい状況にありながら、アメリカとイスラエルによる大規模攻撃に寄ってもイランは崩れなかった。もちろん、国内の締め付け、弾圧があることは承知している。そのために国民が声を上げられない、行動できないということはあるだろう。しかし、アメリカとイスラエルが事前に期待していた、イラン国内での反政府運動の発生や民衆蜂起は起きなかった。イラン国民は、もちろんイラン政府に対して不満を持っているだろうが、それよりもアメリカとイスラエルへの反撃と政府への支持のためにまとまってしまったようだ。アメリカとイスラエル、特にイスラエルの事前の期待は大きく外れることになった。

 それは、イランが、イスラム体制であると同時に、ペルシア帝国以来の「誇り」を保持して言うことを示している。紀元前550年のアケメネス朝ペルシアが成立した。アケメネス朝ペルシアは世界初の帝国(広大な領土と他民族を支配する中央集権的な政治体制)である。イランでは、イスラム体制になって、それまでの歴史、特にイスラム前の歴史について否定的な評価をして、そのように教育していた時代もあったが、今では、肯定的な評価となっている。イラン国内にはナショナリズムが残っている。その後の歴史では、モンゴルやトルコなどの侵略を受けながらも、独自の言語や文化を守ってきたという誇りがある。
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 「ペルシア以来の歴史」と「イスラム体制」の2つがイランのアイデンティティとなっており、それに対する外部からの攻撃はイラン国民を団結させることになる。そして、どんなに苦しくても、外部勢力に対抗するということになる。それは命がけの行為となる。今回のイラン戦争で亡くなった人々は犠牲者(victims)であるにとどまらず、殉教者(martyr)である。イスラム今日の側面と殉教者であると同時に、ペルシア帝国以来の歴史の殉教者ということになる。こういった分析を『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で行っている。是非お読みいただきたい。
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 イランは誇り高く、独立を守るということに最上の価値を置いている。そのための犠牲は殉教ということになる。これでは安易に手を出して、攻撃をしてしまうと、大変なことになる。容易に戦争は終わらない。アメリカとイスラエルが敗北を認め、謝罪し、イラン側の条件をのまない限り、戦争は終わらない。そんなことはできないので、ズルズルとなってしまう。アメリカとしては泥沼に引きずり込まれ、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡封鎖の責任を取らされるということになる。イラン側もあまり条件を吊り上げると、アメリカとイスラエルが嫌気をさして大規模攻撃を行う可能性があるので、出方を注意しなければならない。そのためには中国とロシアと連携し、ドナルド・トランプ政権の意向をうまくくみ取る必要がある。

(貼り付けはじめ)

世界はイランに間違った質問を投げかけ続けている(The World Keeps Asking Iran the Wrong Question

-イスラム共和国が成立する以前からこの国は常に同じことを望んできた。

アリ・ハシェム筆

2026年5月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/19/iran-politics-strategy-war-sanctions-hormuz/?tpcc=recirc_featured_horizontal051524

過去半世紀にわたり、イランに関する本格的な分析の多くを方向づけてきた問いは、「イスラム共和国は何を求めているのか」というものだった。これは合理的な疑問だが、正しい疑問ではない。イスラム共和国の歴史は47年だが、現代のまとまりある政治的実体としてのイランの歴史は5世紀続いている。この2つを混同したことが、半世紀近くにわたるアメリカの政策の失敗、合意の崩壊、そして現在の形で予測した者がほとんどいなかった戦争を招く結果となった。

より有益な問いは、「イランは何を求めているのか」というものだ。ここで言うイランとは、現在の政府や最高指導者のことではなく、革命よりはるか以前にその戦略的本能が形成され、それ以降のあらゆる体制の変化を生き抜いてきた国家そのもののことだ。サファヴィー朝、ガージャール朝、パラヴィー朝、そしてイスラム共和国は、いずれも同じ地理的・歴史的遺産を基盤として活動してきた。政府は変わっても、その論理は変わらなかった。

イラン高原は西をザグロス山脈、北をアルボルズ山脈に囲まれ、世界でも有​​数の過酷な砂漠によって分断されており、中央アジア、南アジア、中東の結節点に位置している。主要な陸上帝国は全て、この土地に関与しなければならなかった。インド洋への野心を抱く海洋勢力も全て、その南端にある海峡を考慮に入れざるを得なかった。

こうした地理的条件は、歴代の王朝に一貫した教訓をもたらした。それは「内陸部を守るだけでは内陸部を確保できない」ということだ。高原内部に戦略を限定した支配者は、やがてその一部を失うことになった。一方、外へと勢力を広げ、高原を単なる標的(a target)からハブ(hub、拠点)へと変えた支配者こそが、最も長く存続した。

現代において、この論理が最も明確に表れているのがホルムズ海峡だ。世界の石油供給の約5分の1がこの海峡を通過している。2026年のイラン戦争の初期段階でイランが通航制限の動きを見せた際、実際にタンカーが停止させられる前に、エネルギー市場は反応を示した。核兵器を持たず、アメリカに対抗しうる通常戦力も持たない国であっても、その地理的位置ゆえに世界の市場を動かすことができる。これこそが地理的遺産(a geographical inheritance)であり、政府の交代によって崩れ去るものではない。

誰が権力を握ろうとも、イランの戦略的行動を貫く3つの確信がある。

第一の確信は、弱さは他国からの介入を招くという認識である。1813年のグリスタン条約と1828年のトルクメンチャーイ条約により、イランはコーカサス地方の領土を奪われた。1907年の英露協約では、イラン側の意向を無視して勢力圏に分割された。それ以降の歴代政権は、これらの出来事を構造的な警告として捉えてきた。すなわち、抑止力(deterrence)を発揮できない国家は、その主権(sovereignty)を外部から管理されることになるという教訓である。核開発計画、地域的なネットワーク、そしてミサイル戦力といった要素は、ある側面において、いずれもこの警告に対する対応策なのである。

第二の確信は、主権は決して譲歩の対象にはなり得ないという点だ。1890年代初頭のタバコ・ボイコット運動や1951年のアングロ・イラニアン石油会社の国有化は、単発的な出来事ではない。それらは時代を超えて繰り返された、同一の反射的反応であった。1976年、リチャード・ヘルムズ駐イラン米大使がヘンリー・キッシンジャー国務長官に行った報告の中で、この点が的確に表現されている。「核をめぐる緊張が存在するのは、イランが、自国の主権を損ないかねない外部からの干渉を一切容認しようとしないからである」。この一文は、2015年、2021年、そして、2026年に行われた核交渉に関するあらゆる報告書においても、そのまま当てはまるものであった。

そして第三の確信であり、最も一貫して過小評価されてきたのが、イランは自らを単なる「地域大国(a regional power)」とは見なしていないという点である。1979年の革命は、一般的に地域的な文脈シーア派政治勢力の台頭、湾岸地域の安全保障体制の再編、統治勢力としての政治的イスラムの出現で語られることが多い。

しかし、その革命がもたらした最も直接的かつ重大な影響は、世界規模のものだった。わずか1年の間に、イランはワシントンにとっての極めて重要な戦略的パートナーという立場から、超大国とは異なる「第三の道(a third path)」を追求する国家へと変貌を遂げた。人質事件は、その後一世代にわたってアメリカの国内政治のあり方を変えた。イラン・イラク戦争には、米ソ超大国やヨーロッパ諸国の大部分の諜報機関や兵器産業が巻き込まれた。イラン製の無人機「シャヘド(Shahed)」は、ヨーロッパでの戦争にまで投入されるに至った。2026年の紛争は世界のエネルギー市場を動かし、複数の海上ルートにおける海運保険に混乱を招き、湾岸地域の石油に依存するあらゆる経済―すなわち世界の大多数の経済―に、戦略の再考を迫ることとなった。最高指導者であったルーホッラー・ホメイニ師は、革命を世界の隅々にまで輸出すると語った。彼は本気だった。

半世紀の隔たりがある2つの発言が、その継続性を如実に物語っている。1つ目は1960年代、イラン秘密警察の中東担当局長モジタバ・パシャイ大佐によるものだ。彼は、シャー(shah、国王)がレバノンの諸政党を支援していた理由をこう説明した。「イラン国内での流血を防ぐためには、地中海東岸において(ナセル主義[Nasserism]という)脅威と戦い、これを封じ込めなければならない」。2つ目は2016年1月、最高指導者アリ・ハメネイ師がシリアやイラクで戦死した兵士の遺族に向けて語った言葉である。「もし彼らが現地へ赴き敵と戦っていなかったら、敵は国内に侵入していただろう。私たちはケルマンシャーやハマダーンで敵と戦わなければならなくなっていただろう」。2つの発言の論理は、両政権の性質は異なっていたとしても、同一である。

外部から見れば、シャーの親欧米的な姿勢はこのパターンから逸脱しているように見えたかもしれない。だが、実際はそうではなかった。彼もまた、イスラム共和国と同様の論理に基づいて核能力の獲得を追求していた。シャーはイスラエルとの軍事提携も模索した。ワシントンが外部の監視を伴う核の安全保障措置を求めた際、彼がそれに抵抗したのはイデオロギー上の理由からではない。そのような監視を受け入れることは、過去どの時代のイランの統治者も決して容認できなかった「従属的な地位(a subordinate status)」を認めることになってしまうからだった。

同じパターンは現在も見られる。パキスタンでの協議において、最高指導者モジタバ・ハメネイ師は、他者が設定した条件でイランが交渉に応じることはないと同席した当局者たちに明言した。ワシントンとテルアビブは、核開発計画、ミサイル、地域的なネットワークへの圧力といった形で事態を「封じ込める(contained)」ことを意図して2026年の戦争に臨んだ。しかし、イランはその枠組みを拡大させた。軍事的圧力が一定の閾値に達すると、テヘランはホルムズ海峡を封鎖し、対立を世界的な経済危機へと変貌させたのである。ワシントンが「ゲームのルール(the rules of the game)」を定めようとするたびに、テヘランは「競技の場(the playing field)」そのものを変えてしまうのだ。

包括的な制裁、特定の対象を狙った制裁、暗殺作戦、サイバー戦、代理勢力への支援、直接的な軍事行動―これら全てが試みられてきた。しかし、いずれも当初期待されたような戦略的変革をもたらすことはなかった。それどころか、それらは一貫して(この一貫性自体が重要なデータとして扱われるべきだが)事態を加速させる結果を招いた。すなわち、核開発の加速、地域ネットワークの深化、そして政治体制のさらなる強固化である。

2002年の「悪の枢軸」演説(“axis of evil” speech)は、最も明確なケーススタディとなる。911同時多発テロ後の数ヶ月間、テヘラン(イラン政府)はアフガニスタン問題で協力し、アフガニスタンの政治的将来を議論するボン会議に参加し、ワシントンとの間接的な対話ルートを開設した。モハンマド・ハタミ大統領を中心とする改革派陣営は、こうした行動を取ることで、国内政治における現実的なリスクを負った。イラン当局者は、自らが歩み寄りの姿勢を示した以上、相手からの応酬(互恵性[reciprocity])も期待できると考えていた。ロイヤル・ホロウェイ(ロンドン大学)で行った私自身のこの時期に関する研究でも、ジョージ・W・ブッシュ米大統領の演説について、ジャック・ストロー元英外相の表現と同様の証言が一貫して得られた。それは「彼らが冒したリスクに対する裏切り(a kick in the teeth for the risks they had taken)」というものだ。イランのモハンマド・ジャヴァド・ザリフ元外相は後に、わずか数日のうちに「協力の政策(policy of cooperation)」が「対立の政策(policy of confrontation)」に変貌した経緯を語っている。

その後に続いた事態は、構造的に予測可能なものでした。ワシントンの目的は共存ではなく体制転換(regime change)にあるというハメネイ師の確信は、この出来事によって揺らぐどころか、むしろ裏付けられる結果となった。核開発計画は加速し、地域的なネットワークは深化し、抑止の枠組みは拡大した。これは強硬派がその局面を操作したからではなく、協力の申し出が無視された瞬間に、根底にある論理が再び支配的になったからである。

圧力をかけられているイランの行動は、主にイデオロギーに基づくものではなく、戦略的なものだ。イランに対し抑止の枠組みを解体するよう要求することは、イスラム共和国に穏健化(to moderate)を求めている訳ではない。それは、過去5世紀の歴史が「破局を招く条件(the condition from which catastrophe comes)」であると示してきた状況を、イランに受け入れるように迫ることに等しい。いかなるイラン政府もそれを受け入れることはできない。なぜなら、それを受け入れることは、「弱さは介入を招く(Weakness invites intervention)」という根本的な教訓を認めることになるからだ。譲歩(concession)を引き出すための圧力が、かえって阻止しようとしていた行動を誘発している。

キッシンジャーはヴェトナム問題の処理に長年携わった末に、北ヴェトナムが彼自身の想定とは全く異なるもの―すなわち時間、忍耐、そして米国の政治的意志の漸進的な摩耗―のために戦っているのだと結論付けた。テヘランも同じ論理で動いている。イランはこの局面での勝利を目指しているのではない。アメリカが「出口(exit)」を必要とする時が来た際に、存続可能な状態を維持しようとしている。ヴェトナムにおけるキッシンジャーの過ちは、紛争を拡大させたことではなく、相手も自分と同じ「勝利(victory)」の定義を共有していると思い込んだことにあった。ドナルド・トランプ政権も今、同様のディレンマに直面している。国内で正当化できる条件で戦争を終わらせることもできなければ、テヘランが拒否し続けている枠組みなしに撤退することもできない。対立が長引けば長引くほど、その痛みはイランや石油市場、海運、サプライチェイン、そして湾岸地域の安定に依存する経済圏の枠を超えて広がっていく。ホルムズをめぐる問題で打撃を受けるのは、イランだけではない。

核拡散のリスクは現実のものだ。その地域的ネットワークは、実際に暴力を引き起こしてきた。分析上の見解を修正したからといって、こうした懸念が消え去る訳ではない。修正によって変わるのは、それらの懸念に対処するための条件だ。

真の安全保障を保証し、イランを単なる「管理すべき問題(a problem to be managed)」ではなく「正当な抑止の利益を持つ当事者(a party with legitimate deterrence)」として扱い、さらに、歴史的経緯から構造的に受け入れがたい「従属的な地位(subordinate status)」をイランに強いないような取り決めであれば、それは維持される可能性がある。一方、イランが近代史を通じてあらゆる時代に拒絶してきた条件を強いるような取り決めは、どの政府が担当しようともうまくいかないだろう。自国の戦略的論理が禁じていることを実行できるイランの政府など存在しないからだ。

ワシントンが現在直面している困難は、テヘランに対話の相手がいないことではない。依然として、間違った問いを立てていることにある。

※アリ・ハシェム:中東地域における戦争、外交、政治の変革を取材するジャーナリスト・研究者。アルジャジーラの特派員、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ・イスラム教・西アジア研究センター研究員。Xアカウント:@alihashem

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 イラン戦争は一時的に停戦になっているが(その期間は60日間)、最終的な戦争終結の見通しは立っていない。アメリカ軍とイラン革命防衛隊は相互に攻撃を繰り返したり、攻撃を停止したりしている。ドナルド・トランプ大統領は激しい言葉遣いでイランを非難し、イランへの大規模攻撃を示唆するかと思えば、攻撃を中止すると述べるなど、一貫性に欠ける振る舞いを続けている。「トランプは最後の最後には弱腰になって逃げる(Trump Always Chickens OutTACO)」という言葉が出てきた所以である。

 イラン戦争はアメリカとイスラエルによって開始され、圧倒的な戦力を用いて各戦闘でイランに対して大きな被害を与えた。しかし、イランを屈服させることはできなかった。イランの体制転換や政権転覆を実現することはできなかった。イランからの反撃で湾岸諸国やイスラエルで被害が出た。アメリカが提供する防衛システムも完璧ではないということが明らかになった。

 さらに言えば、イランがホルムズ海峡を封鎖し、イエメンの新イラン組織フーシ派が公開の出入り口であるバブ・エル・マンデブ海峡でも武力攻撃が発生することで、世界経済に悪影響を与えている。戦争を開始することでアメリカの影響力や指導力は低下している。「アメリカは戦闘(battle)では勝利しているが、戦争(war)に負けている」ということになる。
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 ヴェトナム戦争はアメリカの外交再作に大きな影響を与えた。国力が低下し、「アメリカの衰退(decline)」という言葉が囁かれるようになる原因となった。イラン戦争はヴェトナム戦争よりもより深刻な影響をアメリカに与える可能性がある。アメリカがイラン戦争の泥沼に足を取られることで、他の地域への関与が制限される。具体的にはアジアへの関与が減少することになる。アメリカが進めようとしている「中国封じ込め(containment of China)」は厳しい状況となる。世界覇権国アメリカの地位は脅かされることになる。

 ドナルド・トランプ大統領はアイソレイショニズム、「アメリカ・ファースト(アメリカ国内問題解決優先主義)」を主張して大統領になった。それにもかかわらず、ヴェネズエラ、キューバ、グリーンランドへの野心をあらわにして批判をした。しかし、これは「西半球(Western Hemisphere)」支配、「ドンロー主義」という観点からすればまだ理解できる。しかし、イラン戦争に関しては全く主義主張と反する。アメリカの国力を削り、アメリカの影響力を減少させる行為である。このような政策の選択を行ったトランプをただ非難することは簡単だ。その裏側にあるものは何かについて、私は佐藤優先生との2冊目の対談『世界は「宗教戦争」に突入した 「神に選ばれた」支配者の使命と論理』で検討した。是非お読みいただきたい。
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イランはヴェトナム以上の敗北である(Iran Is a Bigger Defeat Than Vietnam

-選択戦争(a war of choice)がワシントンにとって戦略的な大失敗に転換した。

ポウル・マスグレイヴ筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/iran-vietnam-strategy-defeat/

ドナルド・トランプ米大統領は2期目の就任演説で、「先の大統領選挙が我が国の歴史上、最も偉大で最も重要な選挙として記憶されること」を望むと語った。しかし、彼が起こした「湾岸戦争(Gulf War)」に敗北したことで、トランプはその目標を皮肉な形で達成してしまった。イランに対する軍事行動を起こすという決断は、周囲からの後押しもあったとは言え、あくまで彼自身の意志によるものだった。その結果招かれた事態の逆転は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの敗北をはるかに上回る戦略的な大惨事(a strategic calamity)となっている。

イランとの戦争における敗北は、一見したところ、アメリカの過去の軍事的敗北とは全く異なる様相を呈している。戦争の展開の速さと、戦場が遠く離れているという地理的条件が、この一連の出来事全体にどこか現実味の薄い雰囲気を漂わせているからだ。1814年のようにホワイトハウスが焼き払われた訳でもなければ、存在しない徴兵制に対する抗議デモが起きている訳でもない。ドーハに拠点を置く私自身、最初の数週間は頭上を飛び交うミサイルを目にし、その音を耳にしていたにもかかわらず、ここ数週間の状況には戸惑いを覚えている。食料品を買い出し、まだ安価なガソリンを給油し、遠く離れた場所にいる共著者たちとZoomで打ち合わせをする中で、私は何度も自問した。「ここは戦地なのだろうか(Is this a war zone?)」。

この紛争においてアメリカ軍側に大きな人的被害が出ていないこともまた、アメリカの敗北の規模を覆い隠している。確かに、この戦争は多くの命を奪った。戦闘員や民間人を含め、数千人ものイラン人が犠牲になった。しかし、アメリカ側の死者ははるかに少ない。現時点でアメリカ軍将兵の死者は20人未満であり、その多くは一度の攻撃によるものだった。

それに比べれば、ヴェトナムの人々が「アメリカ戦争(the American War)」と呼ぶあの紛争の規模は、圧倒的かつ衝撃的なものだった。東南アジアの空やジャングルの広範囲を舞台に10年以上続いた戦闘で、数百万人が命を落としたが、そのうちアメリカ人は6万人弱に過ぎなかった。

その経験があまりに痛ましいものだったため、ある世代の人々にとって、「ヴェトナム」という言葉は、その名を冠した現実の国や社会を指すものではなくなっていた。長年にわたる紛争を経てもなお、彼らはその国や社会についてほとんど無知なままだったからだ。アメリカにおける用法として、「ヴェトナム」は主に、アメリカが経験したある種の出来事を表す比喩や象徴として理解されていたのだ。

多くの一般のアメリカ人にとって、それは個人的な悲しみを意味するものだった。一部のエリート層にとって、ヴェトナム戦争は権力の傲慢さ(the hubris of power)に対する教訓となる出来事であり、また別の人々にとっては、現代における適切な戦略的判断を妨げる過ちでもあった。しかし、ヴェトナム戦争が国家の歴史に刻まれた「汚点(a stain)」であるという点では、国民的な合意が存在していた。シカゴ・グローバル・アフェアーズ評議会が2014年に行った世論調査では、アメリカ人の58%がヴェトナム戦争を「暗い時代(dark moment)」と捉えていたのに対し、誇るべきものと答えたのはわずか12%にとどまった。

今日の視点からあの紛争を理解する上で最も難しいのは、ワシントンにとって最終的にはさほど重要ではなかったにもかかわらず、なぜアメリカがあれほど激しく戦ったのかという点かもしれない。当時戦争を遂行したアメリカの政策立案者たちは、現代では到底考えられないほどの犠牲を容認していたが、その戦争におけるアメリカの敗北は、結局のところ、アメリカのより広範な戦略目標にとって大した問題ではなかった。実際、ヴェトナム戦争と結びつけて語られることになる「ドミノ理論(domino theory)」(ある国が共産化すれば近隣諸国もそれに続くという考え方)については、早くも1964年の時点で、アメリカ政府内部の議論において疑問が呈されていた。

この戦争がアメリカ人にとって最終的に無関係なものであったからといって、それが重要ではなかった訳ではない。東南アジアの不安定化は重大な問題であった。カンボジアの集団墓地は、ヴェトナムの国境を越え、和平協定が正式に調印された後もなお波及し続けた紛争の犠牲を、無言のうちに物語っている。戦争の結果はヴェトナムにとって重大な意味を持ったし、その後の数年間に逃亡した難民たちの絶望もまた同様であった。

しかし、そうした事実を踏まえても、アメリカ自身にとっては、多大な犠牲を伴う敗北の結果は、長期的には比較的軽微であり、国内的な問題にとどまるものであったという事実は変わらない。アメリカは、より広範な冷戦において勝利を収めた。今日のヴェトナムは、アメリカに対して驚くほど好意的な国となっている。

この状況を、トランプの戦争の余波と比較してみよう。アメリカは、自ら選択して始めたこの戦争の開戦時と比べて、間違いなく弱い立場に置かれており、アメリカの核心的な戦略目標も損なわれている。

この紛争における軍事的な戦いぶりを、イラクのサダム・フセイン大統領によるクウェート占領を覆すためにアメリカ主導の連合軍が行った戦争と比較してみると、その対照は際立っている。1990年から1991年にかけての紛争では、イラク軍があっけなく壊滅させられたように見えたその様子が、世界に衝撃を与えた。

対照的に、イランとの紛争においてアメリカの兵器が示した技術的に優れた性能は、アメリカの兵器備蓄の不足という問題によって影が薄くなり、イラン・イスラム共和国よりも強力な敵との紛争に対するアメリカの備えに疑問を投げかける結果となった。この紛争におけるハイテク戦闘の記憶として長く残るのは、データベースの誤作動と思われる事態の結果として命を落とした、血にまみれたイランの女子生徒たちの遺体が入った袋の姿だろう。また、アメリカの防衛システムはイランのミサイルや片道攻撃型ドローンに対して良好な性能を発揮したものの、イランはそれらのシステムを突破して大きな打撃を与えることに成功した。このことは、より集中した攻撃を行う敵や、長期にわたる紛争において、それらのシステムがどれほど通用するのかという疑問を抱かせるものとなった。

戦略的な観点から見れば、その結果はさらに深刻である。アメリカはある種の「政権交代(regime change)」を実現したとはいえ、テヘランを従順的属国(a pliable client)に変えるどころか、戦争によってイランをより強硬な姿勢へと追い込み、事実上、イスラム革命防衛隊に国の主導権を握らせる結果となった。イスラエルとアメリカの兵器は、開戦当初こそ残酷なまでに高い効果を発揮したが、最終的には武力行使による解決の限界を露呈させ、結果としてイランに大きな利益をもたらした。イランの核開発計画は、これまでにイスラエルとアメリカによる2度の共同空爆に耐え抜いてきた。3度目の空爆が行われたとしても、それ以上の成果が得られる可能性は低いと思われる。

国際システムにおけるアメリカの指導力への影響は、さらに甚大なものであった。この軍事行動に反対していたとされる地域の同盟諸国が、戦闘に伴う負担の大部分を負うことになったからだ。何よりも重要なのは、イランがホルムズ海峡を封鎖する能力を行使することで、世界規模での経済的影響力を行使できると学んだことである。

航行の自由(freedom of navigation)は、2世紀以上にわたりアメリカの戦略的な中核的目標(a core U.S. strategic objective)をなしてきた。19世紀初頭には、トマス・ジェファーソン大統領が地中海沿岸諸国への貢納金の支払いを停止させるために海軍を派遣したほどである。ホルムズ海峡の自由な通航が失われる可能性は、貿易ルートが「兵器化(weaponization)」される兆候となり、世界貿易に永続的かつ甚大な被害をもたらす恐れがある。

戦争の終わり方は、その始まり方と同じくらい多くのことを物語るものだ。ヴェトナム戦争後、アメリカはヴェトナムやその近隣諸国から事実上背を向け、より戦略的に重要な地域に注力することができた。世界的なグリーンエネルギーへの移行とアメリカの炭化水素(石油・ガス)生産の拡大という組み合わせにより、ワシントンの一部の人々にとっては、湾岸地域からの同様の撤退が魅力的に映るかもしれない。しかし、ヴェトナム戦争後のような撤退を再現することは困難だろう。

何と言っても、今日の世界経済は1970年代よりもはるかに相互に深く結びついており、経済ネットワークにおいて湾岸地域が果たす役割は、かつてのインドシナが担っていた役割よりもはるかに大きなものとなっている。世界のサプライチェインは、湾岸地域の炭化水素だけでなく、ヘリウム、肥料、アルミニウムにも依存する構造になっている。その結びつきは経済的なものだけにとどまらない。アメリカとイスラエルとの継続的な関係は、中東地域からの完全な撤退を非現実的なものにすると同時に、さらなる、そしておそらくはより激しい紛争の可能性を高めている。イランのミサイル開発や、潜在的な核開発計画の進展は、中東地域のみならず、ヨーロッパや南アジアにとっても、2030年代の展望をはるかに深刻なものにしている。

どのような政権下であれ、アメリカは国内外で自らの力が弱まる中で、こうした事態に直面することになるだろう。同盟諸国はアメリカの能力に対する信頼を失い、国民は有益な関与であってもそのコストを負担しようとはしなくなり、競合国はワシントンの意志に挑戦する可能性を高めることになるだろう。そうした結果は、ヴェトナム戦争におけるアメリカの失敗よりもはるかに長期的かつ深刻なものとなるだろう。

しかし、1つだけ似ている点がある。数十年後、このアメリカの紛争を振り返る学生たちは、私がかつてヴェトナム戦争について抱いたのと同じ疑問を抱くことになるはずだ。「なぜこの戦争が起きたのか?」。学者たちは綿密な調査に基づいた多くの答えを提示するだろう。しかし、最終的に誰もが納得できるような答えは1つとして示されないだろう。

※ポウル・マスグレイヴ:カタール・ジョージタウン大学政治学准教授。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻したことで始まったウクライナ戦争と、2026年2月28日にアメリカとイスラエルによる大規模攻撃で始まったイラン戦争はアメリカ軍の武器弾薬、装備品の貯蔵(stockpiles)に大きな影響を与えている。これらの戦争を支援し、攻撃を実行し、また、相手の攻撃を防ぐために、武器が次々と使われている。それにかかる予算は莫大なものとであるが、それ以上に、武器弾薬、装備品の貯蔵が減少している。これはアメリカの防衛計画にも影響を与えるほどのレヴェルになっている。


 なんでもそうだが、武器や弾薬を製造するということはその設備投資や人員確保に時間がかかる。また、おいそれと投資をして生産量を増やすということも難しい。設備投資や雇用を行い、増産を始めるとなった段階で、停戦となって「武器がいらなくなりましたので増産は必要ありません」となると請け負った民間企業は大きな赤字を抱えることになる。そのようなことがないように調整をしなくてはならない。太平洋戦争において、日本の軍部は当時の財閥系の重工業企業に対して、増産を要請した。特にミッドウェイ海戦での敗北は生産拡大が急務となった。しかし、当時の財閥系企業の幹部たちは、「報道によれば、日本軍は連戦連勝、この勢いでいけば時期に戦争は日本の勝ちで終わるでしょう。そうなったら武器はいらなくなります。今から増産を準備していざ始めるとなった時に戦争に勝ったらむだになりますから」と増産に消極的だった。日本軍部は「報道での連戦連勝は嘘だ」と言えずに苦労したという話も残っている。経営者はやはり投資に慎重になる。これは現代でも同じだ。

 ドナルド・トランプ大統領は強気で、何度もイランに大規模な攻撃を行うと警告しているが、実際にどんどんと武器を使用してしまうと、アメリカ軍の手持ちがなくなって厳しい状況になる。そもそもが既存の軍需産業に対して、「あいつらはミサイル一発で大儲けする、自分は彼らを儲けさせる気はない」と訴えて選挙に当選しておきながらのこの状態である。ある意味では自業自得である。アメリカにとっても一日も早い停戦こそが望ましいが、イラン側、そして世界中に見透かされている。アメリカが望む形での停戦は厳しいだろう。戦争は始めるよりも終わらせることの方がはるかに難しい。勇ましいことをいくら言っても駄目だ。私たちはそのことを学ばねばならない。

(貼り付けはじめ)

イランとの紛争の完全な終結が見通せない中でアメリカの兵器備蓄は減少の一途をたどっている(US weapons stockpiles continue to dwindle with permanent end to Iran war nowhere in sight

デイヴィス・ウィンキー、ザッカリー・コーエン筆

CNN

2026年7月29日

https://edition.cnn.com/2026/07/29/politics/us-weapons-stockpiles-dwindle-iran-war

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韓国・平沢(ピョンテク)のアメリカ軍基地に配備されたアメリカ軍のパトリオット・ミサイル防衛システム(2026年3月10日)

米国防総省の最新データや外部アナリストによる新たな報告書に詳しい3人の情報筋によると、ここ数週間でイランとの紛争が激化したことを受け、アメリカ軍の兵器備蓄(重要な防空ミサイルを含む)は依然として著しく枯渇した状態にある。

紛争を終結させるための実質的な解決策は見通しが立っておらず、こうしたミサイルの不足は、他の戦域におけるアメリカ軍の対応能力に影響を及ぼす可能性がある。

シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)の複数の研究員は月曜日に発表した報告書の中で、アメリカ軍の備蓄に残る「パトリオット」迎撃ミサイルは827発未満、「THAAD(サード、高高度防衛ミサイル)」弾道ミサイル迎撃ミサイルは278発未満であると推定した。アメリカ軍の備蓄状況について語るために匿名を条件とした前述の3人の情報筋は、CNNに対し、CSISの推定値は政府内部の数値に近いものであると述べている。

これらの数字は、戦前の備蓄が大幅に減少していることを示している。CSIS(戦略国際問題研究所)の推定によれば、戦前の備蓄量は「パトリオット」ミサイル(このシステムの最新鋭2タイプ)が約2200発、THAADミサイルが452発だった。これらは飛来する敵の弾道ミサイルを迎撃するためのアメリカ軍の主要な迎撃手段であり、迎撃ミサイルは1発あたり数百万ドルの費用がかかる。

CSIS報告書の執筆者たちは次のように書いている。「備蓄の減少により、アメリカと同盟諸国は迎撃において、より大きなリスクを負わざるを得なくなる可能性がある。弾道ミサイル防衛において、パトリオットやTHAADに代わる有効な手段は存在しない。こうした脅威を迎撃可能な『スタンダード』ミサイル(Standard Missiles)を搭載した海軍艦艇は、通常、現場から遠く離れた場所に位置しているからだ」。

ドナルド・トランプ米大統領は月曜日、エアフォース・ワン(大統領専用機)の機内で弾薬の備蓄について問われた際、「より高度な装備(the more sophisticated stuff)」を補充したいとの意向を示しつつも、現在の在庫状況は「非常に良好である」と主張した。一方、統合参謀本部議長ダン・ケイン大将は先週、連邦上院議員たちに対し、要請している追加予算がなければ国防総省は必要な「弾薬を確保できない(not get the munitions)」と述べた。

CNNの以前の報道によると、ケイン大将は金曜日にトランプ大統領と会談した際、弾薬備蓄の減少について言及した。この会談は、大統領が紛争の大規模な激化を検討していた際に行われた。紛争拡大に伴うさらなるリスクについてケイン大将などから説明を受けたトランプ大統領は、会談後にイランへの攻撃を一時停止すると発表した。しかし、その停止措置は短期間で終わった可能性がある。火曜日、アメリカ軍とサウジアラビア軍はイラク国内のイランの代理勢力に対して共同攻撃を実施した。また、アメリカ軍は、中東地域のアメリカ軍部隊に対するイランからの「奇襲攻撃(surprise attack)」を迎撃したと発表した。

この報告書の筆頭執筆者であるCSISの防衛アナリストであるマーク・キャンシアン(元海兵隊大佐)は今月初め、CNNに対し、イランとの戦闘が続けば備蓄が極度に枯渇し、中国や北朝鮮との戦闘能力にまで影響が及ぶ恐れがあると語った。

NBCニューズは、迎撃ミサイルを無駄にしたくないという判断から、アメリカ軍の指揮官たちが、中東地域のアメリカ軍基地内の無人エリアに着弾する軌道にあるイランの飛翔体については、あえて迎撃しない選択をしていると報じた。今回報告された戦術は、中東地域における従来の防空・ミサイル防衛の運用からの変化を示すものだ。これまでの運用例としては、2025年6月、カタールのアル・ウデイド空軍基地(当時、人員の大部分は退避済み)において、アメリカ軍が運用するパトリオット部隊がイランによる弾道ミサイルの波状攻撃を迎撃・防御した事例が挙げられる。

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カタールのアル・ウデイド基地をミサイルで標的にしたとイラン軍が発表した後で迎撃が行われた(2025年6月23日)

国防総省はここ数カ月、迎撃ミサイルの増産に向けた取り組みを加速させており、今週も「パトリオット」や「THAAD(サード)」のロケットモーター製造を拡大する2件の契約を締結した。しかし、広報担当者は、この増産がいつ具体的な成果につながるかという質問への回答を避けた。

アナリストたちは、パトリオット・ミサイルのような高性能兵器の在庫を完全に補充するには、その製造にかかるリードタイム(準備・製造期間)を考慮すると、数年を要する可能性があると指摘している。

国防総省のショーン・パーネル報道官は、4月以降CNNに送付された同件に関する2つの声明と同一の内容を7月28日に発表し次のように述べた。「アメリカ軍は世界最強であり、大統領が選択した時と場所で任務を遂行するために必要なあらゆる能力を備えている。私たちは、国民と国益を守るための強固な能力を維持しつつ、各統合軍(コンバタント・コマンド)を通じて数多くの作戦を成功させてきた」。

トランプ大統領とピート・ヘグセス国防長官は、弾薬不足の主な原因はジョー・バイデン前政権にあると主張している。しかし、この問題はイランとの紛争によってさらに深刻化した。戦略国際問題研究所(CSIS)の分析によると、この紛争の間にアメリカ軍は主要な迎撃ミサイルであるパトリオットとTHAADの在庫の60%以上を使用した。

国防総省が求めている追加の防衛予算案には、在庫に関連するいくつかの条項が含まれている。ヘグセス長官は先週、追加予算に関する連邦上院歳出委員会の公聴会で、バイデン政権について次のように主張した。「バイデン政権は弾薬を(在庫から)そのままウクライナへ送った一方で、その補充には、あまりに遅く、即時の補充ができない官僚的なプロセスを使い続けようとした」。

しかし、民主、共和両党の議員たちは、この不足問題は特定の政権の責任にとどまるものではなく、解決には超党派の協力が必要だと主張している。

「弾薬不足の問題は、以前からこの委員会に周知されていた」とメイン州選出の共和党所属スーザン・コリンズ連邦上院議員は先週火曜日の歳出委員会公聴会で述べた。「この弾薬不足(munitions shortfalls)は長年にわたって蓄積されてきた問題だが、今やその緊急性はますます高まっている」。

CNNのケヴィン・リプタク、ジム・スキットはこの記事の作成に貢献した。

CNNにおけるデイヴィス・ウィンキーの活動は、アウトライダー財団とジャーナリズム・ファウンディング・パートナーズ(JFP)の提携により支援されている。報道に関する編集上の決定権は全面的にCNNが保持している。

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●「イラン、米軍が攻撃停止なら報復停止 米は弾薬枯渇懸念か」

Parisa Hafezi, Phil Stewart, Raphael Satter

2026727日午前 7:09 GMT+92026727日更新

https://jp.reuters.com/world/ukraine/HOUKMG7VPJJIPPWDAYVYGWOAHY-2026-07-26/

[ドバイ/ワシントン 26日 ロイター] - イラン高官は26日、米国の攻撃停止が続く間はイランも攻撃を控えるとロイターに述べた。トランプ米大統領は側近から、標的が尽きつつあるほか、米軍の兵器備蓄が枯渇する恐れがあるとの懸念を伝えられ、作戦の一時停止を決定した。

米軍は24日、前日まで13日連続で実施していたイランへの空爆を見送り、25日と26日も米軍の攻撃は報告されていない。米国の攻撃が行われるたびに近隣の米軍基地受け入れ国に報復攻撃を実施してきたイランも、今のところ2日間にわたり攻撃を控えている。

イラン高官は匿名を条件に、同国の立場は「『攻撃には攻撃で応じる』ということに変わりはない。攻撃が止まれば、イランも作戦を停止する。このメッセージはすでに米国に伝えられている」と述べた。

ウォルツ米国連大使は、FOXニュースなど米メディアに対し、トランプ氏が外交により多くの時間を与えるために攻撃の一時停止を決定したとし、「大統領は交渉に一定の余地を与えている」と述べた。

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匿名を条件に語ったある米当局者によると、米軍当局者はここ数日、ホルムズ海峡の船舶に対するイランの脅威を抑止するため過去2週間実施してきた空爆により、事前に選定していた標的がおおむね尽きたと警告していた。

また、大規模な戦闘作戦の再開は依然として選択肢の一つだが、ケイン統合参謀本部議長はトランプ氏に対し、弾薬の備蓄に悪影響を与えることを踏まえるとリスクを伴うと非公式に警告したという。同当局者は、これには中東で米国の防空システムに使われる迎撃ミサイルも含まれると述べた。

ウォルツ氏はNBCの番組で、米軍は「必要なものを全て備えている」と述べる一方、ヘグセス国防長官がトランプ政権下で就任した際には「枯渇した状況を引き継いだ」とも語った。

イラン高官は、トランプ氏の攻撃停止決定が米国の交渉姿勢の大きな転換を意味するとの期待はあまり抱いていないと述べた。

「攻撃停止については楽観よりも懐疑の見方が強い。今回の停止は本心からではなく戦術的なものであるとの見方が支配的だ。イランは米国の欺瞞(ぎまん)と見なす行為について十分に苦い経験を積み重ねてきた」と語った。

複数のメディアによると、トランプ氏の攻撃停止決定は24日に開かれた会議を受けたもので、その席上、ケイン氏や他の軍事・政治顧問らが懸念を示したという。

CNNはバンス副大統領が難色を示したと報じた。アクシオスによると、中央軍のクーパー司令官は空爆作戦が効果の限界に達したとして、作戦停止を進言した。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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 古村治彦です。

 イラン戦争については、2026年6月19日に停戦に関する覚書に署名がなされて、一応停戦することになった。60日間の間にイランの核開発をめぐる交渉を行い、最終的な和平合意に向けて進むことになっていた。これは、戦争の終結を意味していない。あくまで一時的な停戦、休戦(truce)でしかない。実際に、覚書の照明が実施された後も、アメリカとイラン双方による攻撃が続いている。さらに、ペルシア湾のチョークポイントであるホルムズ海峡の封鎖に関する状況も不透明となっている。加えて、迂回航路となっている紅海のバブ・エル・マンデブ海峡(Bab al-Mandab Strait)で、イエメンの親イラン勢力フーシ派によるサウジアラビアのタンカー攻撃が発生した。フーシ派による紅海封鎖ということになり、世界経済への影響もさらに深刻化する。繰り返しになるが、イラン戦争はまだ終わっていない。

 覚書の内容を見れば、アメリカの大幅な譲歩(concession)である。大規模な攻撃直後に、アメリカのドナルド・トランプ大統領もイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が主張した、イラン国内の体制転換(regime change)を達成することができず、イランの反撃能力を排除することもできず、イランによるホルムズ海峡封鎖を引き起こし、世界経済への悪影響を生み出すことになってしまった。イラン戦争は失敗である。核兵器開発を止めた、止めたと宣伝しているが、攻撃前にイランが核兵器を開発したということはなく、核兵器開発に関しては交渉で止めることは可能であった。イラン戦争の意味はなく、かえって、アメリカとイスラエルにとっては「敗北」に近いものとなった。

アメリカの交渉担当は、トランプ大統領の古くからの盟友でビジネス経験豊富のスティーヴ・ウィトコフとトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーである。彼らは「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というビジネス的な手法を用い、イランに対し「ウラン濃縮停止や革命の輸出停止と引き換えに、3000億ドル規模の民間投資や近代化」を提示している。カタールの特使アル・サワディが交渉のキーマンとなり、交渉の仲介し、ペルシア以来の「時間をかけて相手を消耗させる交渉術」やイランの複雑な官僚機構・内部事情を深く理解しながら調整を行っているということだ。イラン国内では、現実的な最終合意を目指す勢力(ガリバフ国会議長など)と革命路線を維持しようとする強硬派との間で権力闘争が激化している。

 イランが近代的な中央集権的な国家体制ではないところが交渉において難しいポイントになる。そうした中で、何とか戦争の「出口(exit)」を見つけることが必要だ。イラン戦争だけではないが、どの戦争でもそうだが、戦争は終わることが何よりも難しいということになる。

(貼り付けはじめ)

ドナルド・トランプ政権はいかにしてイランからの出口を構築したか(How the Trump Administration Built Its Exit Ramp in Iran

-紆余曲折を経た交渉(zigzag bargaining)が投資家への売り込み(an investor pitch)を脆弱な和平合意(a fragile peace deal)へと変化させた。

デイヴィッド・イグナティウス筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/trump-iran-cease-fire-deal-nuclear-program-negotiation-hormuz/

アメリカとアラブ諸国の交渉担当者たちが、過去5カ月にわたるイランとの長きにわたる紆余曲折の交渉の内幕を語るのを聞いていると、日曜日に発表された枠組みは、この物語の終着点ではなく、中間段階に過ぎないという印象を受ける。それは、最終的には惨憺たる失敗に終わる可能性もあれば、トランプ政権が期待するように、近代イランへの劇的な変革の始まりとなる可能性もある。

率直に言って、外交的に言えば、この合意は、多大な犠牲を伴い、国民の支持も得られなかった戦争からの出口(an exit ramp)であり、勝利のパレード(a victory parade)ではない。この合意は、ドナルド・トランプ大統領が当初語っていた政権交代(regime change)や無条件降伏(unconditional surrender)には足りない。トランプ大統領の側近の一人でさえ、「現時点では結論は出ていない。大成功とも失敗とも言えない」と認めている。

答えよりも疑問点の方が多い。テヘランの核開発計画を制限する具体的な内容はまだ交渉されていない。ホルムズ海峡は再開されつつあるが、それは一時的なものに過ぎないかもしれない。合意はレバノンに適用されるようだが、イスラエルやヒズボラがそれに従うとは限らない。そして何よりも懸念されるのは、テヘランに強硬派政権(a hard-line regime)が依然として存在し、アラブ諸国やイスラエルを脅かす力を持っていることだ。

アメリカ側の主要な交渉担当者は、トランプ大統領の特使であるジャレッド・クシュナーとスティーヴ・ウィトコフだ。それぞれ大統領の義理の息子と親友である。彼らは外交官ではなく投資家である。そのため、この交渉は特異なリスクとリターンの性質(a peculiar risk-reward character)を呈している。外交官のブリーフィングというよりは、投資家への売り込み(an investor pitch rather than a diplomat’s brief)という様子だ。「形式的な手続きを踏む(check the boxes)」のではなく、「金銭と引き換えに交渉を進める(pay to play)」というテーマが中心となっている。

交渉関係者によると、クシュナーは4月にイスラマバードでイランのモハマド・バゲル・ガリバフ国会議長と会談した際、「ロールス・ロイス並みの価格を望むなら、ロールス・ロイス並みの製品が必要だ」と率直に告げたという。つまり、イランがホルムズ海峡の開放を維持し、ウラン濃縮を20年間停止し、革命輸出を止めれば、数千億ドルもの利益を得られるということだ。

アメリカの提案は、事実上、イランの近代化に向けた3000億ドル規模の民間投資計画を通じて、イランの資本増強を図るものだ。例えば、クシュナーはイラン側に対し、イランの国営石油・ガス会社はサウジアラムコよりも規模が大きくなる可能性があるが、それはイランが革命活動を停止した場合に限られると伝えたと関係者は述べている。安定と法の支配(stability and rule of law)がなければ、イランは脆弱なままであり、これらの変化が実現すれば、戦後復興の好景気を享受できるだろう。

ここで、適切な懐疑心を持つべきだろう。イランの指導者たちは、最も強力な強硬派だ。彼らはイスラエルの爆撃や暗殺未遂を生き延びてきた。多くは敬虔な宗教信者であり、西側諸国とその価値観を軽蔑している。彼らの気質は、ウーバーCEOのダラ・ホスロシャヒのような亡命イラン人実業家よりも、北朝鮮の金正恩に近い。彼らが関心を持っているのは、レバレッジド・バイアウトではなく、復讐なのだ。

しかし、クシュナーとウィトコフは、カタールのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アル・サーニ首相の戦略問題担当相アリ・アル・サワディという並外れた仲介者を通して交渉を進めてきた。アル・サワディは、中東地域とその文化に対する稀有な理解をもたらしている。ある情報筋によると、彼は和平枠組みを固めるために、過去10日間で4回もテヘランを訪問している。アル・サワディは一般にはほとんど知られていない人物だが、ガザ和平交渉、ヴェネズエラ問題、そしてトランプ政権のその他6つのプロジェクトにおいて重要な特使を務めた。また、ジョー・バイデン政権との調停活動にも携わった。

「私たちが心に留めておくべき最も重要なメッセージは、イランは過去47年間、世界から孤立してきた国であり、国民は文字通り自分たちのコミュニティ以外とは一切コミュニケーションを取っていないということ」と調停ティームに近い関係者は説明した。「私たちは彼らに、世界はもっと広く、彼らもそこで受け入れられる可能性があることを示さなければならない」。

アメリカ人はイランを最高指導者の決定が絶対的な神権政治国家だと想像している。しかし、中東地域の人々は、イランを幾重にも重なる官僚機構を持つ、極めてゆっくりとした動きをする制度国家(an institutional country with layers of bureaucracy that move agonizingly slowly)だと認識している。支配組織であるイスラム革命防衛隊でさえ、派閥や個性的な人物が入り乱れる多層構造になっている。こうした文化を理解しているカタール、そしてサウジアラビアやアラブ首長国連邦からの特使たちは、巧みに交渉を進めてきた。

トランプ大統領のようなアメリカ人は迅速な結果を求めているが、アル・サワディはそのプロセスを遅らせることに成功している。調停ティームに近い関係者はこう説明する。「忍耐(patience)はペルシア人のDNAに組み込まれている。彼らと接する際には忍耐が必要だ。なぜなら、それが彼らの秘密兵器(secret weapon)だからだ。彼らは相手を苛立たせて追い詰め、消耗させてから、最大限の成果を引き出すことができるのだ」。アル・サワディが日曜日にテヘランで行った最後の交渉は17時間に及んだ。

クシュナーとウィトコフにとって、この交渉は数カ月前から始まっていた。2月26日、イランのアッバス・アラグチ外相との会談で合意に近づいた。イランは枠組み合意案を提示したが、「網に8つの穴が開いていて、そのうち5つを塞ごうとしているようなものだった」と交渉関係者は振り返る。

アメリカ側は、交渉が「時間切れになる可能性がある」と警告した。その2日後、イスラエルが戦争を開始し、アメリカも参戦した。イラン当局者によると、戦争が始まった当時、イランはミサイル生産を増強しており、月に最大100発のミサイルを製造し、2025年6月の「ミッドナイト・ハンマー」作戦で破壊されたものを「急速に再建」していたという。

戦争は政権の結束を強めた。しかし、イスラマバードでの停戦合意後、最終合意を目指すイラン指導者と、革命路線を維持しようとする指導者の間で亀裂が生じ始めた。

ガリバフはイスラマバードでの21時間に及ぶ交渉において、理性的で分別のある人物であることを示し、アメリカ側に好印象を与えた。しかし、テヘランに戻った後、武装勢力に襲撃され、一時的に政界から遠ざけられた。イスラマバード後の指導権争いは「まるでジャンプボールのようだった」と交渉関係者は語る。

この関係者は、「私たちは、イランの政権内部に緊張を生み出すような状況を作り出した」と説明する。ガリバフとその支持者たちは現在、主導権を握っているように見える。彼は金曜日にジュネーブで枠組み合意に署名する予定だが、政権内部の権力闘争は今後も続く可能性が高い。

ホルムズ海峡という重要な問題について、アメリカ政府当局者は、イランの国家安全保障会議議長を務め、戦争初期にイスラエル軍の爆撃で殺害されたアリ・ラリジャニの発言を回想した。「彼は、西側諸国の反応を考えると、海峡を封鎖することは一度しか使えない切り札だと述べた(He said closing the strait was a card they could only play once)」とこの当局者は語った。その評価は正しかったと当局者は述べた。戦後の変化により、海峡の防衛が強化され、石油を海上タンカーではなく陸上のパイプラインで輸出する代替ルートが確保されるだろう。

アメリカ政府当局者によると、ここ数週間であまり注目されていない進展の1つは、「プロジェクト・フリーダム」として知られるタンカー護衛計画がひっそりと継続されていることだという。この計画はサウジアラビアの反対を受けて5月に正式に棚上げされていた。当局者によれば、限定的な形で継続されており、湾岸地域を経由して1日700万バレルの原油輸出が認められている。

交渉関係者によると、アメリカの交渉担当者は、イランが和平合意後に経済投資と近代化の機会を捉えることを期待しているが、同時にそれは賭けであるとも認識している。「彼らが政治的な駆け引きをうまくこなし、実際にそれを実行できるかどうかは、時間が経てば分かるだろう。今後数カ月で明らかになるだろう。・・・私たちは可能な限り最も変革的な選択肢を目指している」と当局者は述べた。

私がこの地域を取材して見てきたが、中東における数々の壮大な計画が失敗に終わるのを見てきた者であれば、この壮大な変革構想が成功するかどうか疑問に思わざるを得ないだろう。しかし、イランの運命を革命から責任ある近代国家(a responsible modern state)へと転換させることこそが最大の課題であり、政権交代の失敗を鑑みると、トランプ政権が提案している案以上に良い道筋は見当たらないというのが率直な見解だ。

イラン和平交渉の中心人物であるこの高官は、交渉担当者としての自身の見解を要約するよう求められ、トランプとその和平案に対する評価に関わらず、おそらく全ての関係者が共有するであろう見解を述べた。「私が得た最大の教訓は・・・戦争を始めるのは非常に簡単だが、そこから抜け出すのは非常に難しいということだ(My biggest lesson … is it’s very easy to start a war and it’s really hard to get out)」。

※デイヴィッド・イグナティウス:『ワシントン・ポスト』紙コラムニスト。彼の記事は頻繁に『フォーリン・ポリシー』誌に転載される。

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 古村治彦です。

 「イラン戦争において勝者はいない」という主張が出てきている。それはその通りだ。攻撃を仕掛けたアメリカとイスラエルは戦争の目的を達成しておらず、それどころか、イランから厳しい反撃に遭い、ホルムズ海峡封鎖をされて、世界経済に大きなダメージを与えている。60日間の停戦合意の覚書が交わされた後もアメリカとイラン双方の攻撃は続いている。戦争は終わっていない。「イラン戦争に勝者はいない」となっているが、戦争を継続することを望んでいたイスラエルは覚書が無効化される方向に動いていることもあり、「勝者」と言うことができる。その代償として、イスラエルに対しての世界各国からの批判の声は大きくなるということはあるが、そんなことよりも自分たち(と言うよりもベンヤミン・ネタニヤフ首相)の利益ということであり、状況はイスラエルの望む方向に進んでいる。

 アメリカは「戦闘では勝ちながら、戦争では負ける」という状況であり、軍事力の強さを見せつけてはいる。しかし、戦争自体は自分たちの望むような形で臨む時期に終わらせることができていない。そして、そのような姿を世界中に見せてしまっている。特に中国とロシアが注目し、戦争のデータを集め、分析し、判断している。アメリカは簡単に攻撃をしてしまい、武器を供与していることで、データを中国やロシアに与えていることにもなる。

 さらに言えば、中東地域において、アメリカが秩序を構築し、同盟諸国を防衛するという能力を欠いているということが明らかになったことで、中東地域の不安定さを増大させてしまった。中東地域は世界にとって石油資源の重要な供給地である。中東地域の一応の安定は非常に重要であるが、それが確立できないということになれば、世界経済に大きな影響を与える。そして、アメリカとイスラエルが中東地域の安定を損なう要因となってしまったことは両国にとって大きなマイナスと言うことになる。「ならず者国家」などと言って、他国を攻めていたが、お前たちこそがそうではないかということになる。

 今回のイラン戦争には今のところ、イスラエル以外には「勝者」はいない。ここで私たちにとって重要なのは、そのような「言葉遊び」に現(うつつ)を抜かすことではない。物事の本質を見ることだ。それは、アメリカとイスラエルこそが「ならず者国家」になりさがってしまったということだ。少なくとも世界各国はイラン戦争について、アメリカとイスラエルの責任を厳しく問い、ドナルド・トランプ大統領とベンヤミン・ネタニヤフ首相の退陣を求めるという強い姿勢が必要だ。

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イランとの戦争で全員が敗者になった(Everyone Lost the War With Iran

-数カ月に及ぶ争いによって明らかになったのは複数の国がコストを強いることはできても秩序を確立できる国は1つもないという事実だ。

ウィル・トッドマン筆

2026年6月16日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/06/16/iran-war-trump-gulf-china-russia-israel-ceasefire-deal/

イランとの戦争を終結させるための枠組み合意が発表されたことで、アメリカとイスラエルが敗北したということが常識になりつつある。

この視点に立てば、アメリカ軍とイスラエル軍が戦術的・作戦的に収めた成功は、より深刻な戦略的敗北を覆い隠すものに過ぎなかったと言える。両国とも、そもそも戦争を正当化するために掲げた政治的目標を達成できなかったからだ。イランの体制は存続しただけでなく、より強硬な姿勢を強め、ホルムズ海峡封鎖という新たな強力な交渉カードを手にした。アメリカは再び中東地域での多大な犠牲を伴う紛争に巻き込まれ、その結果、パートナーからの信頼を損ない、敵対勢力に対する抑止力を弱め、インド太平洋地域における即応態勢を低下させることとなった。一方、サウジアラビアやその他の湾岸アラブ諸国との関係正常化を進めようとしていたイスラエルの取り組みはさらに後退したと見られ、戦後の地域秩序においてイランの脅威を排除することにも失敗した。

しかし、アメリカとイスラエルの敗北にばかり目を向けていては、関与したほぼ全ての当事者が敗者となったという事実を見落とすことになる。結局のところ、この戦争は、主要な当事者全てにとって自分たちが望む戦略的最終状態を得ることができないという結果となった。戦争は明確な勝者や、より安定した地域秩序をもたらすことはなかった。それどころか、分断を加速させ、不安定さを増大させ、イラン、湾岸アラブ諸国、ロシア、中国を含む、関与した地域および世界の主要国全てに多大なコストを強いることとなった。この戦争は、いかなる国家も、世界的な無秩序という新たな時代を無傷で乗り切ることはできないということを示したのである。

イランは体制の崩壊を避けることができたが、その代償として将来の選択肢を狭めることになった。体制の存続と引き換えに、同盟国・友好国からの信望の低下、抑止環境の不安定化、経済の壊滅的打撃、そして国家再建への道のりの減少という代償を支払った。中国もロシアも、アメリカやイスラエルの攻撃からイランを積極的に守ろうとはしなかった。このことは、それらの関係が真の同盟関係ではなく、あくまで利害に基づく取引的な関係に過ぎないことを浮き彫りにした。戦後、イランはパートナーへの依存を強める必要に迫られるだろうが、それは以前よりも弱体化し、交渉力が低下した立場でのこととなる。

イランにとって、この戦争がもたらす経済的コストは、国家の生き残りに関わるほどになるだろう。戦争は通貨リアルの暴落を加速させ、インフレを助長し、製鉄所、造船所、電力インフラといった主要な産業基盤に打撃を与えた。紛争中に100万人以上の雇用が失われたとする現在の推計が正確であれば、この紛争はイラン・イスラム共和国の歴史において、経済を最も不安定化させた出来事の1つとなるかもしれない。戦後、イラン政権は、軍事力の再建を優先するか、それとも国民が直面する深刻な経済危機への対処を優先するかという選択を迫られることになるだろう。

イラン政権がより安全になったということでもない。戦争はイランの軍・治安エリートへの権力集中を促し、短期的には政権の支配力を強化したように見える。しかし、治安機関が支配する体制は、時間の経過とともに、国民の不満への対処、経済改革の推進、政治的な適応といった能力が低下する傾向がある。したがって、イランは戦争を経て、より「安全保障重視(securitized)」の体制となる一方で、より脆弱な国家として再出発することになるかもしれない。

また、この戦争は、アラブ湾岸諸国が最も恐れていた事態の一部を現実のものとした。湾岸諸国の指導者たちがイランとの大規模な戦争に反対したのは、事態の激化を制御できない一方で、その結果として生じる多くの代償を自らが負うことになるのを理解していた。イランによるホルムズ海峡の封鎖は、地理的条件こそが湾岸諸国の経済モデルの根幹にある根本的な脆弱性であることを露呈させた。湾岸諸国は数十年にわたり、金融、物流、観光、技術の世界的ハブとして、さらには近年では世界的なAIインフラの拠点として自国の地位を転換しようと努めてきた。しかし、戦争は、紛争地域における「安定のオアシス(an oasis of stability)」という彼らのイメージを打ち砕き、イランの攻撃に対する脆弱性が依然として残っていることを明らかにした。この戦争は、炭化水素収入への依存からの脱却と経済の多角化を加速させる必要性を再認識させた一方で、その実現に向けた彼らの構想に課題を突きつけることになった。

さらに、この紛争は湾岸諸国とアメリカの間の不信感を深める結果となった。戦争はアメリカの安全保障の傘(security umbrella)の限界を浮き彫りにし、ワシントンが自国の安全保障上の懸念を十分に優先しなかったことに対する湾岸諸国の不満を増大させた。アラブ湾岸諸国は、アメリカがイランの抑止や制裁において助けとなり得ることを以前から理解していたが、今回の戦争は、テヘランとの対立がもたらす影響から自国の経済やインフラをアメリカが守り切ることはできないという事実を浮き彫りにした。今や彼らは、自国の防衛能力への投資を進めつつ、経済多角化の計画から資源を振り向けざるを得ない状況にある。

ロシアの立場は、当初見られたよりも複雑なものとなっている。モスクワは、原油価格の一時的な上昇や限定的な制裁緩和の恩恵を受けた。しかし一方で、この戦争は中東地域におけるロシアの影響力を弱める傾向を加速させている。イランに配備されたロシア製の防空システムは、アメリカやイスラエルの攻撃に対して無力であることが露呈した。その一方で、ウクライナはこの紛争を利用し、現代戦の最前線に立つ国としての地位を誇示した。ウクライナのゼレンスキー大統領は、ドローン防衛に関して湾岸の主要国やシリアと提携を結び、中東におけるロシアの戦略的地位をさらに制約することとなった。また、この戦争は、イランとアラブ湾岸諸国との関係のバランスを保つロシアの能力にも試練を突きつけた。ロシアによるイランへの支援、とりわけホルムズ海峡の再開を目指す4月7日の国連安全保障理事会決議に対して拒否権を行使した決定は、アラブ湾岸諸国の激しい怒りを招いた。さらに、モスクワが紛争の行方を左右する上で重要な役割を果たせなかったことから、ロシアの外交的影響力にも限界があることが明らかになった。したがって、ロシアが得た短期的な経済的利益の陰で、中東地域の戦略的地位は徐々に低下している。

中国が得た短期的な利益も同様に、長期的な課題を覆い隠している。中国は、この紛争においてアメリカよりも安定し、抑制的な姿勢をとっているように見せることで利益を得てきた。また、紛争によってアメリカが大量の弾薬を消費し、インド太平洋地域における即応態勢が弱まったことは、中国の相対的な地位を高める結果となった。しかし、中国は重要な痛手も被っている。この紛争は、「一帯一路」構想(Belt and Road Initiative)の一環として中国がイランに行ってきた数十億ドル規模の投資を危うくした。また、アラブ湾岸諸国との関係にも緊張をもたらした。中国はイランを説得してホルムズ海峡を再開させることはできず、それどころかロシアと共にホルムズ海峡に関する国連安保理決議に拒否権を行使した。このことは、テヘランに対する中国の影響力の限界を露呈させ、アラブ湾岸諸国の指導者たちの怒りを買った。彼らは、中国が自国の経済的利益や投資を守る意思も能力もなく、また広範な地域の経済的安定を維持するための行動もとらないと感じたからである。

より広い視点で見れば、この戦争は中国の将来の経済的利益を脅かすものである。中国は、既存の秩序の一部を修正しようと試みてきたとはいえ、世界経済システムの相対的な予測可能性から最大の恩恵を受けてきた国の1つである。今回の戦争は、そうした利益を脅かす危険な「パンドラの箱(Pandora’s box)」を開けてしまったのだ。戦略的チョークポイントの武器化、民間人の生活に不可欠なインフラへの攻撃、そして経済的威圧の常態化、これらは全て、最終的には競合相手と同等か、あるいはそれ以上に中国自身に不利益をもたらしかねない前例を作り出している。

イランとの戦争が示した教訓は、中東地域における新たな地政学的環境下では、いかに強大な国家であっても、軍事的優位を政治的支配へと転換することはできないという点にある。この戦争は、新たな勢力均衡に基づく中東の秩序再編をもたらすことはなかった。むしろ、あらゆる主体が他者に代償(コスト)を強いることはできても、誰も秩序を確立することはできないという、この地域の現実を浮き彫りにしたのである。

※ウィル・トッドマン:戦略国際問題研究所(CSIS)の地政学・外交政策部門の主任スタッフ兼中東プログラムの上級研究員。

(貼り付け終わり)

(終わり)



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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める

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 古村治彦です。

 アメリカとイランとの間で60日間の停戦とその間で核開発に関する交渉を行うという覚書が交わされたが、その後、ホルムズ海峡ではアメリカとイラン双方による攻撃が続いている。事態は沈静化に進んでいない。ドナルド・トランプ大統領はイランが自分の暗殺を企てており、もし暗殺されれば、イランに対してこれまでにない規模の攻撃を実施するように指示しているという報道も出ている。イランがトランプ大統領を暗殺するメリットはないが、そのような話も出てきており、せっかく和平に向けた動きとなっているのに、予断を許さない状況となっている。戦争継続を望むイスラエル、そして、イランとアメリカのそれぞれの強硬派が状況を悪化させているということも考えられる。

 そもそも、アメリカは、イラン革命発生、そして、イスラム共和国成立後のイランの存在を正式には認めていない。外交関係もない。しかし、実際にはこれまで非公式には交渉や取引を実施している。古くはロナルド・レーガン大統領時代のイラン・コントラ事件、新しくはバラク・オバマ大統領時代の核開発をめぐる合意成立である。

イラン・コントラ事件は複雑な事件だ。まず、1985年にレバノンでシーア派組織ヒズボラにアメリカ人兵士が捕らえられた。その解放を目的として、アメリカ側はイラン側と交渉を行い、裏取引を行った。当時、イラン・イラク戦争で劣勢に立っていたイランに対して、アメリカは武器を供与するという条件を出した。当時、イラン・イラク戦争で、アメリカはイラクのサダム・フセイン政権を支援していた。そして、実際にアメリカ側からイランへ武器を売却された。この武器の代金は、ニカラグアの反共右派ゲリラ「コントラ」への支援に流用された。アメリカは支援していたイラクを裏切り、イランと交渉して武器を売却するという取引を行っていた。しかし、表向きにはイランと敵対し、イランを激しく非難していた。「敵と裏でつながる」ということは政治の世界では必要なことである。オバマ政権はイラン側と交渉し、核兵器開発につながる核開発を断念させる代わりに、アメリカから支援を行うということで合意に達した。アメリカにとってイランのイスラム革命政権は不倶戴天の敵であったが、交渉相手として認め、その生存を認めるということになった。

 今年、アメリカとイスラエルはイランの体制転換(regime change、レジーム・チェンジ)を引き起こそうとして、大規模な攻撃を行ったが、その目的を達成することはできなかった。イランからは手ひどい反撃を受け、ホルムズ海峡の封鎖が実施され、世界経済にも大打撃を与えている。そして、アメリカのドナルド・トランプ大統領は体制転換をしようとした相手であるイスラム革命政権と交渉をしなければならなくなった。これはとんだ赤っ恥であり、実質的な敗北である。存在を認めないと攻撃をした相手と交渉をして、譲歩もしなければならなくなった。イラン側から見れば、これは千載一遇の好機である。この機会を最大限に利用するというのは当然のことである。そして、このような隙を与えたアメリカのドナルド・トランプ大統領とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相の責任は極めて大きく、それぞれ指導者の地位から退任して責任を取るということも必要になってくる。

(貼り付けはじめ)

ワシントンが解決を拒むイランのディレンマ(The Iran Dilemma Washington Refuses to Resolve

-アメリカの政策において2つの目標が半世紀近くにわたり対立し続けてきた。

ファリード・ザカリア筆

2026年5月8日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2026/05/08/iran-war-united-states-nuclear-weapons-regime-change-donald-trump-foreign-policy/

なぜ世界最強の国が、経済制裁(economic sanctions)や軍事攻撃(military strikes)で疲弊した、はるかに小さく弱い国に対して、自らの意図通りに事を運べないのだろうか? アメリカが直面するイラン問題の構図を理解する最も単純な方法は、ゲーム理論(game theory)を用いることだ。ドナルド・トランプ大統領は、イランとの間で「チキンゲーム(a game of “chicken”)」(2人のドライヴァーが互いに正面から車を走らせて衝突を避ける度胸試し)を演じる道を選んだ。こうした状況では、一方にとっての賭け金(stakes)が国家の存亡に関わるものであるのに対し、もう一方にとってはそれほど大きくない場合、通常は賭け金のより大きい側が勝利を収める。イランの現体制にとって、もし敗北すれば、体制が崩壊し、指導者たちが殺害される可能性が高いからだ。一方、トランプにとっての代償といえば、マール・ア・ラーゴ(別荘)で不快な週末を過ごす程度のことだろう。このチキンゲームにおいて、なぜイラン側の方がハンドルを固定して譲らない覚悟を決めやすいのかは明らかだ。

しかし、アメリカがイランへの対応にこれほど苦労しているのには、トランプや今回の無謀な対立といった個別の事案を超えた、より根本的な理由がある。イランでイスラム体制が権力を掌握して以来、アメリカはその扱いをめぐって常に2つの相反する姿勢の間で揺れ動いてきた。一方では、人質の解放から核開発の制限に至るまで、解決を望む具体的な課題を抱えている。しかし他方では、単なる交渉相手としてではなく、体制そのものの打倒を望んでもいる。これら2つの態度の間にある緊張関係は、半世紀近くにわたりアメリカの外交政策の根底に流れてきた。ワシントンが求めているのは、イランの特定の政策を変えることなのか、それともイランという国そのものを変えることなのだろうか?

もしワシントンがテヘランと交渉すれば、必然的に「ギブ・アンド・テイク(a give-and-take)」が生じ、双方が譲歩(concessions)し、敵対関係もいくぶん緩和されることになる。何よりも、交渉に関与するということは、アメリカ政府がイスラム共和国にある程度の正当性を与え、対等な交渉相手として扱い、国際舞台においてイランの現体制がイランを代表する存在であることを認めることになる。しかし、こうした承認は、アメリカのエリート層の一部にとっては受け入れがたいものだ。彼らは、イスラム共和国は正当ではない存在であり、本来あるべきではないと考え、ワシントンがとるべき唯一の政策は体制の打倒であると信じているからだ。それにもかかわらず、ワシントンが望むもののうち、イランにしか実現できない事柄が存在する。だからこそ、ロナルド・レーガン大統領でさえ、公の場ではイランの聖職者たちを激しく非難しながら、裏では彼らと秘密裏に交渉を行っていたのだ。

トランプの対イラン政策に見られる緊張関係は、ほぼ日常的に目にすることができる。あるソーシャルメディアへの投稿では、イランの文明を破壊し、47年にわたる「悪(evil)」に終止符を打つと脅しをかける一方で、同じ日に別の投稿では、イランとの交渉が進展していると語ることもある。トランプは交渉の席に着き、合意に向けて楽観的な姿勢を見せたかと思えば、交渉の合間にテヘランとの戦争を始めたり、イラン国民に政権打倒を促したりしている。そして1週間もしないうちに、自身の要求を受け入れればイランには明るい未来が待っていると約束する。

アメリカはかつて、ソヴィエト連邦に対しても同様に矛盾した態度をとっていた。1917年に共産主義者たちがロシアの権力を掌握すると、ワシントンは関係を断絶し、小規模ながらも政権転覆を試みることさえあった。ソ連の存在を承認し、モスクワと大使を交換するに至ったのは、それから16年近く経って、フランクリン・D・ルーズヴェルト大統領の代になってからのことだった。第二次世界大戦後、再び緊張が高まった。1970年代、ヘンリー・キッシンジャーによる対ソ交渉政策は、「悪の帝国(an evil empire)」の地位を強化するものと見なされ、右派から激しい批判を浴びた。それに対するキッシンジャーの答えは常に次のようなものだった。アメリカはソ連とイデオロギー的に対立しているものの、核兵器の管理といった特定の国益に関しては、モスクワとの合意なしには対処できないというものだった。

イランをめぐる議論において、キッシンジャーに相当する役割を果たしたのはバラク・オバマ大統領だった。オバマ政権こそが、ある種の決断を下した政権だった。オバマ政権は、イランに別の体制が望ましいとは考えつつも、アメリカの国益に対する最大の脅威(ソ連の場合と同様、核兵器が関わる問題)に対処するには、現行の体制と向き合うほかないと判断した。イラン核合意は、イランの外交政策の中で最も危険な要素を取り上げ、無力化しようとする試みであり、その点では成功を収めた。しかし、保守派の多くにとっては、その代償として、ある意味でイラン体制を正当化してしまうという問題があった。そこで、トランプは合意から離脱したが、その結果、ハッサン・ロウハニ大統領の求心力が低下し、テヘランでは強硬派が復権してウラン濃縮活動を拡大させる事態となった。こうしてトランプは、再び同じディレンマに直面することになった。すなわち、「合意を結ぶべきか、それとも強硬な姿勢を貫くべきか?」での間の選択だ。

現時点において、トランプが合意を望んでいることは明らかだ。しかし、合意に至る過程で、彼は結果として、イラン・イスラム共和国が47年間にわたって追い求めてきたものを与えてしまうことになるかもしれない。それは、アメリカ国内の最も強硬な勢力からさえも「無条件に認められる」という地位だ。テヘランにとって、それこそは多くの譲歩をしてでも手に入れる価値のある「賞品(a prize)」なのだ。

※ファリード・ザカリア:CNNの番組「ファリード・ザカリアGPS」の司会者であり、近著に『革命の時代(Age of Revolutions)』がある。彼は『ワシントン・ポスト』紙に週刊コラムを執筆しており、そのコラムは『フォーリン・ポリシー』誌にも配信されている。Xアカウント:@FareedZakaria

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