古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:イラン

 古村治彦です。

 第二次世界大戦後から1991年のソヴィエト連邦崩壊まで、アメリカとソ連は激しく対立した、資本主義と共産主義というイデオロギー上の対立から、世界各地で代理戦争が勃発した。しかし、同時に、米ソは直接戦うことはなく、核戦争の危機を回避するために、米ソ両国の首脳はホットラインを設置し、核兵器削減のための枠組みを構築した。冷戦期は、「長い平和(Long Peace)」という評価もある。

 冷戦後は、冷戦に勝利したアメリカの一極(unipolar)支配状態が続いたが、21世紀に入り、アメリカ支配への反発(ブローバック)が起き、アメリカはテロとの戦争(war on terror)の泥沼にはまり込んだ。そして、中国の台頭という新たな局面にも直面している。中国の台頭は、世界構造を「西側諸国(the West、ザ・ウエスト)」対「西側以外の国々(the Rest、ザ・レスト)」の対立構造へと変化させた。これは、グローバルノース対グローバルサウスの対立と言い換えることもできる。現在は、米中両国による新冷戦時代へ突入しつつあるという見立てがある。これは正しい見立てということになる。米中による二極(bipolar)構造、G2体制が形成されつつある。

 ここで重要なのは、米中が直接戦うことがなく、世界大戦も核戦争も起きなかった、冷戦期から教訓を引き出すことである。米中両国の直接の戦い、熱い戦い(hot war)を防ぐことが何よりも重要だ。

 下記論稿の著者アジーム・イブラヒムは、中国が中国であることが理由による敵意を高めず、協力の可能性を追求することが重要だと指摘している。しかし、同時に、西側諸国は、中国に対して過度に依存することなく、戦略的物資供給や技術独立を重視しなければならない。中国に対する抑止力のバランスや明確な交戦規則が重要であり、中国による民主国家への不干渉が、中国との共存に不可欠だとしている。米ソ冷戦時代のように、熱い戦争を避けるため、冷静な判断と宥和を選択すべきであるとしている。

 米中関係は相手の意図を読み取り、コミュニケーションを途切れさせず、世界の諸問題や衝突を深刻化させない、エスカレーションさせないという協力の枠組みが必要だ。アメリカが国力を減退させ、中国が国力を増進させる中で、長期的に見れば、米中逆転が起きる可能性は高まっている。そうした中で、アメリカによる一極支配から米中による二極構造へと変化していく。そうした中で、世界が戦争を避けるために、冷戦時代に培った教訓を活かす時期が来ている。

(貼り付けはじめ)

新たな冷戦には独自のルールが必要となる(A New Cold War Needs Its Own Rules

-中国との衝突は避けられないが、コントロールは可能だ。

アジーム・イブラヒム筆

2024年66

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/06/06/china-cold-war-rules-competition/

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ワシントンのホワイトハウスで中国の習近平国家主席とのヴァーチャル会談に参加するジョー・バイデン米大統領(2021年11月15日)。

ソヴィエト連邦との冷戦の記憶は薄れつつある。多くの人は、中国と新たな冷戦が始まるという考えや、差し迫った核による絶滅の脅威(threat of imminent nuclear annihilation)が頭上に漂う世界に戻っているという考えに躊躇(ためら)いを抱いている。専門家の一部は、中国との貿易から戦略物資を削減する取り組みは行き過ぎだと考えている。

残念なことに、多くの人が、中国の人権侵害や地政学的な挑発に対して、それらに対処することで、世界の国々が統合されている貿易関係が混乱することを避けることと求めており、何の影響も発生しないことを望んでいる。

サルマン・ラシュディやシャルリー・エブドに対して団結し、そして今度は再びイスラエルに対しても立ち上がったイスラム世界ですら、中国に対して沈黙を選択している。西側諸国に住む私たちが、同じように宥和を求める圧力(same pressure to appease)から免れているなどと想像しないで欲しい。

新冷戦に代わる選択肢が、激戦であるならば、前者は後者よりも限りなく好ましい。これha,

私たちが直面している二分法(dichotomy)だ。戦争を回避するということは、中国の野望と戦うために何が必要なのかという現実を受け入れることを意味する。

中国とワシントンが、特に世界市場(global markets)で競争するのは当然のことだ。競争は建設的である場合もあれば、破壊的な場合もある。技術的および経済的な競争は、誰にとっても良い結果となる可能性がある。たとえば、アメリカとソ連の間の宇宙開発競争(space race)は、科学技術における恩恵だ。これとは対照的に、戦争は当然、私たち全員をより貧しくさせ、安全性を低下させることになるだろう。

台頭する大国が衰退する大国に遭遇すると、常に暴力が発生する可能性がある。大英帝国とアメリカの間の覇権(hegemonic power)の譲渡のような友好的な移行(transfer)はまれだ。 1990年代の活気に満ちた時代、更には2000年代においても、中国の台頭により中国がアメリカの敵ではなくパートナーになる可能性があるように思われた。ナイオール・ファーガソンのような著名な歴史家は、リーダーシップを共有する世界的な双子である「G-2」と「チャイメリカ(Chimerica)」について語った。これは中国の一部の人たちに受け入れられている考えだ。

しかし、そうした世界は、中国共産党(Chinese Communist PartyCCP)において、習近平が政権を掌握した2012年に終焉を迎えた。習近平は、中国が地球上で最も強力な国になる運命に揺るぎない信念を持ち、西側諸国に対する復興主義者の熱意(revanchist fervor)を持った漢民族至上主義者(Han supremacist)である。習近平は、他の最近の中国指導者よりも、この国の「屈辱の世紀(Century of Humiliation)」について中国の学校で教えられた教訓を吸収してきた。中国の教科書によると、この期間は、第一次アヘン戦争から中国共産党が権力を掌握するまでの期間のことである。この時期、西側諸国は中国の首を絞め続けた。

今日、再び熱い戦争が起こる可能性があるが、それに対しては冷戦がより良い選択肢だ。

習近平の中国共産党総書記(CCP general secretary)への昇格が実現したとき、中国政府は容赦ない地政学的競争の道を選択した。おそらく一部の前任者とは異なり、習近平は、既存のグローバル化した自由主義秩序(incumbent globalized liberal order)内での必然的な中国権力の台頭が中国の「正当な立場(rightful standing)」にとって十分であるとは考えていない。米大統領ジョージ・HW・ブッシュ、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュは皆、中国がグローバル化した世界経済の中心となる未来を予見し、黙認したが、その中で、アメリカは引き続きこの世界秩序のハードパワーの執行者であった。習近平は、そのような取り決めは中国の力と潜在力に不当な制約を課すものだと考えている。

言い換えれば、習近平は、前任者たちがそうしたように、アメリカが制定し強制する世界秩序が、中国の必然的な成功への道であるとは考えていない。むしろ、彼はそれを、挑戦しなければならない束縛(straitjacket)だと考えている。彼は同じように世界的にアメリカの力に挑戦したいと考えている。彼はウクライナでも同様のことを行っており、ロシアの軍産基盤を支援し、モスクワの侵略を非難することを拒否している。習近平はまた、ハマス、ヒズボラ、その他の代理勢力を通じて中東に大きな不安定化をもたらすテヘランの影響を考慮し、中国がイランの石油の主要顧客となり、イランの軍事近代化を支援している。習近平は、アメリカに対抗して深まりつつあるイランとの連携を維持するため、フーシ派反政府勢力(Houthi rebels)を巡る航路など共通の利益を犠牲にする用意がある。

もちろん、中国が自国の再建を可能にした貿易から利益を得ることを依然として望んでいるため、その全てが常にそうであるとは限らないが、現在の国際秩序の規範や制度が、中国共産党の気まぐれや企みを制約する可能性がある場合には、習近平の提唱している「チャイニーズ・ドリーム(Chinese Dream)」を確保するために、その全てに挑戦しなければならない。

現在の国際的な制度的秩序は、中国共産党だけでなく、グローバルイーストとグローバルサウスの大部分の動機ややり方と衝突する価値観や規範を前提としている。西側の偽善は、確かにそれらは偽善ではあるけれども、中国のレトリック攻撃に対して危険なほど脆弱になっている。アメリカによる、悲惨かつ誤った戦争の真最中にあるイスラエルへの支援により、アメリカの立場は世界的に弱体化している。アメリカ主導の秩序と協力してきた長い歴史を持つインド、パキスタン、インドネシアを含む第三世界の国々は、最近の国連総会での投票結果が示しているように、中国が西側の行動を牽制できるようになる、多極化世界を非公式に、あるいは公然と応援している。中国のソフトパワーは、残忍な人権侵害に対する抗議活動をかき消すほど遠く離れた北京において仲介された、サウジアラビアとイランの国交回復合意などの成果を上げている。

現在の中国共産党を支配している世界観は、西側諸国との対決、そして西側諸国が第二次世界大戦後に構築し、冷戦終結時に作り直した国際統治システムの転覆、占領、破壊に取り組んでいる。

西側諸国の指導者たちは、この現実を認識し、世界システムとその価値観に対する攻撃に適切に対応することができる。理由が何であれ、彼らがそうしないことを選択した場合、それは紛争の、善意による回避とはならない。それは、弱みを察知し、更なる要求をするだけの危険な権威主義体制に対する宥和(appeasement)に過ぎない。中国がより強力になり、抑制力を失っていることで、熱戦のリスクが増大している。

中国自体も、道徳的にも戦略的にもより強硬な姿勢を正当化するほどの深刻な国内課題に直面している。最近の中国共産党中央委員会政治局(Politburo)の粛清、景気低迷、信用危機、企業や資本逃避(capital flight)の取り締まりにより、中国は特に制裁に対して脆弱になっている。習主席は久しぶりに、アメリカがいくつかの重要な難題、特に半導体への技術禁輸問題を解決し、アメリカ企業の中国からの投資引き揚げの流れを逆転させることを求めている。西側諸国は譲歩(concessions)を強要し、中国の軍事技術を後追いの状態においておけるだけの影響力を持っている。

中国との新冷戦は、紛争と競争を確立された範囲内に厳密に制限し、真の紛争に波及する可能性を制限するだろう。ソ連に対する冷戦から私たちが学べる貴重な教訓がある。

第一に、冷戦は慎重に行われた熱戦であるかのように語られてはならない。中国政府の敵対的な立場を認めて適切に対応することと、中国であるという理由だけで中国に対する敵意を高めることにイデオロギー的に関与することは別だ。冷戦が示すように、一般的な正反対の対立の中には、アメリカとソ連がポリオワクチンで協力している場合でも、現在中国と気候変動やパンデミックで協力している場合でも、協力の例が含まれる可能性がある。これは、世界の人権や国際秩序に対する中国の攻撃に全面的に従うことを要求するものではなく、問題を慎重に切り離し、独自のスペースを作り出すことを要求するものだ。

1990年代と2000年代の経験が示すように、アメリカと中国の間で協力は可能だった。将来の中国政権が西側諸国およびルールに基づく国際秩序(rules-based international order)とのより友好的で協力的な関係を選択できるよう、私たちは扉を開いたままにしておくべきである。習近平が権力を握っている間に、これが起こる可能性は低いが、中国が現在の行動を撤回する限り、西側諸国はそれが可能であるとシグナルを送り続ける必要がある。

中国はソ連ではない。ソ連のように、戦争の失敗や軍拡競争によって経済的に挫折することはない。モスクワに対して有効だった解決策は、中国に対しては有効ではないかもしれない。それは、特に北京もまた、冷戦に関する歴史書を読むことができるからだ。

しかし、私たちが長期に​​わたる紛争に陥っているという現実を考慮すると、戦略的物資供給(strategic supplies)を中国に依存しないことが絶対に必要となる。中国はアメリカの技術から戦略的に、特に軍事的に独立するために、最善を尽くしている。西側諸国も同様に、中国の技術、バリューチェイン、製造業の戦略的独立性を発展させなければならない。西側経済と防衛力に対する、非対称的なレバレッジは災厄を招くことになる。抑止力の安定したバランスにより、ソ連との対決中に大惨事は避けられた。中国に対してもまたそうなる可能性がある。

紛争から抜け出す道を提供すること(providing a path out of conflict)は、この新たな競争において何が許容され、何が許容されないか、そして最終的にどのようなステップが紛争につながるのかについて明確な一線を引くことを意味する。曖昧さがあるとエスカレーションが起こる。エスカレーションはすぐに手に負えなくなる可能性がある。民主政治体制国家への不干渉により、中国は受け入れ可能な世界的パートナーとなり、無数の敵対的な国家行動にもかかわらず、アメリカとの共存が可能になるだろう。経済戦争やサイバー戦争(economic and cyberwarfare)といった現在の敵対行為、特にイギリス選挙管理委員会やアメリカ軍施設などを標的とした行為には、長期にわたるエスカレーションのリスクが伴う。しかし、西側諸国は、これらの犯罪行為を非難以上にエスカレートさせるつもりはないことを既に示しており、おそらくそれが私たちにできる最善のことである。

これまでのところ、戦略的曖昧さ(strategic ambiguity)が唯一明確に機能している例は、台湾に対するアメリカの立場である。そしてその場合、台湾に間違った動機を与えたり、無用な不安を煽ったりしないように、政策を維持することができる。しかし、それ以外の場合は全て、アメリカが中国の何らかの行動を懸念するのであれば、その懸念を明確に説明し、一線を越える場合に、どのようなコストを課す準備ができているかを事前に正確に述べるべきだ。明確な交戦規則(clear rules of engagement)は冷戦時代の紛争管理に有益だった。それらは新冷戦にも役立つだろう。

このような見立ては西側の人々の懸念を掻き立てることだろう。それは、私たちの思考と内省を研ぎ澄ますはずだ。しかし、宥和は有益な選択肢でも道徳的な選択肢でもない。私たちは、直接的な軍事衝突、つまり熱い戦争への不必要なエスカレーションを避けるために必要な行動について、冷静に判断しなければならない。

冷戦は恐ろしい時代だった。しかし、私たちが思っているよりもうまく管理されていた。戦争は避けられた。熱い戦争はなかったし、現在もあってはならない。実際、中国は冷戦時代のソ連のように激しい代理戦争(proxy wars)に資金を提供してはいない。中東におけるイランの植民地獲得の野心やソ連のイデオロギー闘争とは異なり、中国の目標はより独善的であるが、恐ろしいほど偽りのないものである。

そして、少なくとも、その意味では、政府、学者、軍隊内の「冷戦の心性(Cold War mentality)」は、本能的な宥和、あるいはその恐ろしい2つの要素、制御不能なエスカレーション(uncontrolled escalation)を避けるためにまさに必要なものなのかもしれない。私たちは、この新冷戦を正確に把握し、それに応じて行動する準備をしなければならない。

※アジーム・イブラヒム:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。アメリカ陸軍大学戦略研究所研究教授。ワシントンのニューラインズ戦術・政策研究所部長。著書に『過激な起源:なぜ私たちはイスラム過激派との戦いに敗れつつあるのか(Radical Origins: Why We Are Losing the Battle Against Islamic Extremism)』と『ロヒンギャ族:ミャンマーの隠された大量虐殺の内側(The Rohingyas: Inside Myanmar’s Hidden Genocide)』がある。ツイッターアカウント:@azeemibrahim

(貼り付け終わり)

(終わり)

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イスラエルのガザ地区での攻撃について、アメリカの各大学で抗議活動が盛んに行われているは日本でも盛んに報道されている。大学当局が排除する様子も映り、「せっかく一流大学に入っているのに、退学の危険があるのにどうしてこんなことをするのか」というコメンテイターがいた。暴力的、破壊的な抗議活動は批判されるべきだが、平和的な抗議活動は、大学のキャンパス内で行われるのは自然なことだ。日本でも学生運動が盛んだった時代もあるが、過激化、尖鋭化したために、暴力的、破壊的な運動になって、かえって、こうした活動ができにくくなってしまった。私の同郷のある友人は、東京のとある大学に進学する際に、「少々のギャンブルやお酒での失敗、恋愛関係での失敗は大丈夫。ただ、学生運動とか、政治に関心を持つとかは止めるように」と言われたと教えてくれた。

 ハーヴァード大学の教授であるスティーヴン・M・ウォルトは、抗議活動を行う学生たちに賛意を示しながら、「抗議活動でやるべきではないこと」をまとめた論稿を発表している。論稿の内容は、政治活動や抗議活動全般に言えることだと思う。

 ウォルトは、主流メディアやソーシャルメディアの影響や抗議活動の戦術について述べ、多くの学生たちと彼らの親族が卒業式での行動に慎重であるべきだと述べた。祝辞の邪魔をしたり、他の学生が卒業証書を受け取るのを序増したりはすべきではないとしている。また、学生たちに対し、自分たちの主張を表明する自由はあるが、他者の権利を尊重するようにと忠告している。根拠のない、過激な主張は支持を得られないので、そこにも注意するように求めている。ウォルトの忠告は非常に有益である。

(貼り付けはじめ)

アメリカ国内のパレスティナ支持の抗議者たちがすべきこととすべきではないこと(What America’s Palestine Protesters Should and Shouldn’t Do

-一人の同情を持つ観察者から大学生たちに向けたハウトゥガイド。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年5月6日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/06/what-americas-palestine-protesters-should-and-shouldnt-do/

シカゴで行われたパレスティナ支持のデモの中、シカゴ美術大学、ルーズベルト大学、コロンビア・カレッジ・シカゴの学生や教職員たちを阻止しようとする警察(4月26日)。

世捨て人(hermit)でないなら、全米の大学キャンパスが学生のデモで騒然となっているのをご存知だろう。そのデモでは、広場やその他の公共スペースにテントを張って野営するのが一般的だ。デモ参加者たちはガザ地区でのイスラエルの行動と、それに対するアメリカの支援に抗議し、即時停戦(immediate cease-fire)を要求し、時には、大学がイスラエルへの投資から撤退し、他の方法で距離を置くよう要求している。大学管理者たちは現在、理想主義的で情熱的な学生、怒りを持っている寄付者、イスラエル・ロビーの影響力のあるグループ、陰険な連邦議員、そして学問の自由の重要な要素が危険にさらされていると懸念する教員らの間で板挟みになっていることを認識している。

私は学生たちに同情するが、彼らの行動全てや一部の学生の発言全てに同意してはいない。私は、ハマスが10月7日にイスラエルで行ったことは、犯罪的で間違っていると疑ったことは一度もないが、その犯罪はイスラエルの無差別で意図的に残酷な過剰反応(Israel’s indiscriminate and deliberately cruel overreaction)を正当化するものでは決してない。また、ハマスの犯罪を理由に、パレスティナ人が数十年にわたって経験してきた苦しみや避難を無視するべきではない。これらの抗議活動に参加している、少数の人々は非難されるべき発言をしているが、参加者の大多数(かなりの数の若いユダヤ系アメリカ人を含む)は反ユダヤ主義(antisemitism)ではなく、苦境(plight)に立たされたガザ地区の住民たちの窮状に対する同情、アメリカがイスラエルに与え続けている支援に対する嫌悪感(disgust)、そして、パレスティナ人とイスラエル人双方のために平和の大義を推進したいという願望から行動していることは、複数の証言から明らかである。特に驚くべきことではないにしても、学生たちを批判する人々が、3万5000人のパレスティナ人の無差別殺害(indiscriminate killing)やイスラエルの重要な政府高官たちが表明した虐殺感情(genocidal sentiments)よりも、少数の無知な短気の嘆かわしい発言に腹を立てているように見えるのは、皮肉で憂慮すべきことである。一方の、少数の過激派の発言を非難するつもりなら、公平性を保つためには、もう一方の過激派も非難する必要がある。

これらの抗議運動は、その様々な目的を達成するのだろうか? 私には分からない。イスラエルの略奪(predations)とアメリカの共犯行為(complicity)に注目を集めることに成功した今、私は、特に大学の卒業式が始まろうとしている今、彼らが集めた共感と支持を知らず知らずのうちに損なうような行動を取るのではないかと心配している。

この件に関する私の考えは、私が住むマサチューセッツ州のあるリベラルアーツ・カレッジ(liberal arts college)での最近の経験に一部基づいている。私は元国務省職員とともにアメリカの中東政策に関する公開イヴェントに出席し、司会の教授による質問に答えるのに1時間ほど費やした。いくつかの点では同意したが、他の点では大きく意見が食い違ったものの、全体としては敬意を払いつつ、実りある意見交換となった。私は、アメリカの過去および現在の政策は大きく誤っており、アメリカは今やイスラエルが犯している犯罪に加担していると考えていることを明確にした。

イヴェントは質疑応答まで何事もなく終わった。他のスピーカーと私が聴衆からのいくつかの質問に答えた後、1人の学生指されて、立ち上がり、ガザ地区で起きていることを非難する長い声明を読み始めた。そのスピーチは、それまでの1時間に私たちが話した内容には何ら反応しておらず、要約して質問を投げかけるよう何度も要求されたにもかかわらず、その学生は声明を最後まで読み上げ、その後、おそらく十数人の他の学生のグループとコール・アンド・レスポンスで唱和(chant)を始めた。昭和はさらに数分間続き、数人の警備員が到着し、学生たちは立ち上がって自主的に行進して去っていった。

質疑応答は再開されたが、数分後、別の学生が指され、立ち上がり、同じ発言を繰り返し、もう1人の学生とともに再び唱和を始めた。最初のグループとは異なり、2人の学生はステージの前方を占拠し、立ち去ろうとしなかった。さらに数分後、主催者はイヴェントを終了させた。

学生たちの発言や唱和には、攻撃的なものや脅迫的なものは何もなかった。もし私たちに反論する機会があれば、彼らの言っていることの多くに同意すると言っただろう。しかし、そうすることで他の聴衆を敵に回してしまったのだから、イヴェントを強制終了させたのは重大な戦術ミスだと感じた。最初の中断の後に抗議が終わっていれば、抗議者たちは自分の主張を行い、パネリストたちは彼らの主張に反論し、聴衆はその応酬から利益を得ただろう。しかし、結果的には、聴衆の大半は、早々に終了せざるを得ないほどイヴェントが中断されたことに、目に見えて苛立っていた。

私自身、アメリカとイスラエルの関係についてかなり物議を醸すような激しい主張を行い、また、意見の異なる人々を含む聴衆の前でかなりの数の講義を行ってきたが、大学(およびアメリカ)にパレスティナ人の権利にもっと注意を払い、イスラエルの行動から距離を置くよう求めている学生たちに、頼まれもしないがアドヴァイスをしたい。

(建設的な行動についての追加的な提案については、ニコラス・クリストフのコラムを参照して欲しい)。

第一に、既にあなたの方向に傾いている人々の本能を強化し、まだ決心していない人々を説得しようとしていることを決して忘れないようにして欲しい。あなたは、熱心なシオニストたちに意見を変えるよう説得しようとはしないだろう。同様に、シオニストたちがあなたの意見を変えることもないだろう。しかし、まだ決心していない人々は通常、事実(facts)、論理(logic)、理性(reason)、証拠(evidence)に惹かれる。私の経験では、彼らは怒り(anger)、無礼(rudeness)、不寛容(intolerance)、そして特に、より知りたいという自分の欲求(desire)を邪魔する人にうんざりする。15年前、私がイスラエル・ロビー(Israel Lobby)について公開講演をしていたとき、聴衆の誰かが私に向かって怒鳴ったり、人身攻撃を始めたりするのはいつも助けになった。それはなぜだろうか? それは、聴衆の残りの人々がそのような行動を無礼で、私が言ったことへの反論に何の裏付けもないと見なし、したがって私がおそらく正しいと結論付けたからだ。

第二に、主流メディアにもソーシャルメディアにも十分にアクセスできる、潤沢な資金を持ち、組織化され、献身的な敵対勢力に立ち向かっていることを認識することだ。彼らは、行き過ぎた行為(excesses)、残念な出来事(regrettable incidents)、不注意(careless)や憎悪に満ちた発言(hateful statements)、怒りの表現(expressions of anger)などを利用して、運動全体の信用を落とそうとするだろう。それがうまくいかなければ、でっち上げるだろう。従って、相手側に更なる弾みを与えるような行動を取らないことは理にかなっている。

第三に、卒業式のとき、出席者たちがあなたに反対するほどに式典を妨害するのは間違いだ。出席する学生や家族のほとんどは、あなたほどこれらの問題に関心がなく、彼らの多くはガザ地区の破壊と、アメリカがそれを可能にしている方法について明確な意見を持っていないかもしれない。ほとんどの学生は、両親、祖父母、兄弟、友人の誇らしげな視線の下で、自分の成果を祝うために卒業式に出席する。それらの人々は皆、その祝賀を不可能にする人に対して怒りを覚えるだろう。確かに、彼らの怒りはパレスティナ人が苦しんでいることに比べれば、大きなことではないが、それは重要ではない。目標は、できるだけ多くの人々をあなたの側に引き入れることであり、あなたが達成しようとしていることを支持してくれるかもしれない人々を遠ざけることではない。

まとめよう。希望するなら、カフィエ(訳者註:アラブの頭に着ける四角い布)を着用。卒業証書(diploma)を受け取るために壇上を横切るとき、「今すぐ停戦だ(cease-fire now)」と叫ぶのも自由だ。しかし、他の人々がそのエリアに入るのを妨げたり、卒業式のスピーカー(たち)の声が聞こえないようにしたり、出席者がガザ地区で起きていることに腹を立てるのではなく、あなたに対して腹を立てるような環境を作ったりしてはならない。なぜなら、卒業式を台無しにしたところで、学生仲間やその家族は、ジョー・バイデン大統領やイスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフに腹を立てることはないからだ。彼らはあなたに腹を立てるだろうし、それこそが相手側が望んでいることなのだ。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

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20211129sankeiad505

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 古村治彦です。
 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 イランは核兵器保有を目指して、核開発を続けており、それを中東各国は脅威に感じている。特にイスラエル(核兵器を既に保有していると言われている)はその脅威を強く感じている。イスラエルは、1981年にイラクに建設中だった原子力発電所を空爆し、破壊した(オペラ作戦)。イスラエルは自国の核保有を否定も肯定もしない形で、核兵器による優位な立場を堅持してきた。イラン側にすれば、核兵器を持つことで、他国からの攻撃を抑止しようという核抑止力(nuclear deterrence)の獲得を目標にしている。

 国際関係論のネオリアリズムの大家として知らエルケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz、1924-2013年、88歳で没)は、最晩年の2000年代に、「核兵器を持つ国が増えれば世界は安定する」という主張をして、論争が起きた。

ウォルツは、核抑止力は安全保障を確保し、他国への攻撃を抑止すると主張した。ウォルツは核抑止が戦争を抑制する要因とし、冷戦時代の成功例を挙げている。ある国が核武装をすると、周辺諸国も追随する可能性があり、そこに核バランスが生まれ、平和的共存を促す可能性もあるとしている。

指導者たちは核兵器を使った際の惨禍については知識があり、そのために核兵器使用は慎重になる。更には、核兵器による反撃があるとなれば、なおさら使用を躊躇する。しかし、人間は完璧ではなく、徹底して合理的な存在でもない。何かの拍子で核兵器発射のボタンを押すことも考えられる。

 こうした考えを敷衍すると、イランが核兵器を持てばイスラエルとの間にバランスが生じて、中東地域は安定するということになる。しかし、同時に核兵器開発競争を中東知己にもたらす可能性もある。核兵器による抑止力がどこまで有効かということを考えると、イスラエルにしても、アメリカにしても、核兵器を保有しているが(保有していると見られる)、通常兵器による攻撃を抑えることはできていない。だからと言って、イスラエルもアメリカも核兵器を使うことはできない。しかし、それは合理的な考えを持っている場合ということになる。どのようなことが起きるか分からない。

 核拡散には「nuclear proliferation」「nuclear spread」の2つの表現がある。どちらも拡散と訳している訳だが、微妙に異なる。「proliferation」は、虫や病原菌が増えることに使う表現であり、「蔓延」と訳した方が実態に即していると思う。「spread」は、ある考えの「拡大」「普及」に使われる。ウォルツは「spread」を使っている。「核不拡散(核拡散防止)条約」は、「Non-Proliferation TreatyNPT」の訳語であるが、これは、「核兵器を持つのは世界政治を動かす諸大国(powers)≒国連安保理常任理事国に限る、それ以外の小国には認めない」という意味も入っている。「合理的に動けない小国に核兵器が蔓延することは危険だ」という考えが基本にある。

 核兵器を所有しても核抑止力が期待できない、そもそも核兵器使用はハードルが高いとなれば、核兵器を所有することのメリットは少ない。あまり意味がない。ケネス・ウォルツも世界中の国々が核兵器を持つべきとは言っていない。これから世界構造が大きく変化していく中で、これまでの核兵器「信仰」は考え直されるべきだろう。

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イランが核兵器を保有して以降の時代(The Day After Iran Gets the Bomb

-学者や政策立案者たちは、テヘランが核兵器を獲得した後に何が起こるかを理解しようとして努力している。

スティーヴン・M・ウォルト筆

2024年5月14日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/14/iran-nuclear-weapon-strategy/

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短・中距離ミサイルの試射中に双眼鏡を覗き込むイランの最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイと当時のイラン軍トップ、ハッサン・フィルーザバディ(2004年9月8日)

イランが核兵器を保有することはあるのか? もしそうなったらどうなるのか? 最初の質問に対する答えは、ますますイエスになりつつあるようだ。しかし、2つ目の疑問の答えは相変わらず不明確である。

イスラム共和国としてのイランは、1979年に国王(シャー、shah)を打倒した革命以来、45年間にわたり、アメリカおよび多くの近隣諸国と対立してきた。アメリカはイラン・イラク戦争中(バグダッドが戦争を始めていたにもかかわらず)サダム・フセインを支援した。紛争)、そして当時のジョージ・W・ブッシュ米大統領はイランを悪名高い「悪の枢軸(axis of evil)」に含めた。バラク・オバマ政権は最終的にイランと核合意を結んだが、イスラエルとも協力して、イランの濃縮インフラに大規模なサイバー攻撃を行った。それに劣らずに、当時のドナルド・トランプ大統領も最終的にはイスラム革命防衛隊コッズ部隊司令官カセム・スレイマニ将軍を殺害する無人機攻撃を承認し、「最大限の圧力(maximum pressure)」プログラムを通じて政権を弱体化させようとした。

イランは、シリアのバシャール・アサド政権を支援し、ロシアや中国に接近し、レバノン、イラク、イエメン、ガザで民兵を武装・訓練することで、こうしたさまざまな活動やその他の活動に対応してきた。また、ラファエル・S・コーエンが最近、『フォーリン・ポリシー』誌で概説したように、イスラエルとイランの秘密戦争は今後も長く続きそうであり、更に悪化する可能性もある。

ここで問題が起こる可能性は明らかだ。1人の著名な国際関係理論家は、それを軽減する明白な方法があると考えた。故ケネス・ウォルツが最後に発表した論文によると、この地域を安定させる最も簡単な方法は、イランが独自の核抑止力(nuclear deterrent)を獲得することだという。うぉるつは、イランが核兵器を保有すれば、イランの安全保障への懸念が軽減され、イランが他国に迷惑をかける理由が減り、地域のライヴァル諸国に対し、不用意に核兵器攻撃につながる可能性のある形でのイランに対する武力行使を自制させることができると主張した。ウィンストン・チャーチルが冷戦初期に述べたように、安定は「恐怖の頑丈な子供」になるだろう(stability would become “the sturdy child of terror.”)。

ウォルツは、基本的な核抑止理論に基づいて、この議論の中心的な論理を説明した。彼の説明がなされた著書は1981年に出版させ、物議を醸した。彼は、無政府状態(anarchy)にある国家は、主に安全保障に関心があるというよく知られた現実主義的な仮定(realist assumption)から説明を始めた。核兵器のない世界では、そのような恐怖はしばしば誤算(miscalculation)、リスクの高い危険な行動(risky behavior)、そして戦争(war)につながる。核兵器は、最も野心的、もしくは攻撃的な指導者でさえも尊重しなければならないレヴェルの破壊力で脅かすことで、この状況を一変させた。ウォルツは核抑止力が究極の安全保障の保証(a nuclear deterrent as the ultimate security guarantee:)となると考えた。賢明な指導者であれば、核武装したライヴァルを征服したり、打倒したりしようとはしないだろう。そうするためには、核攻撃の危険が避けられないからである。自国の複数の都市を失うほどの政治的利益は考えられないし、核兵器による反撃の可能性が低いながらも存在するだけでも、他国の独立に対する直接攻撃を抑止するには十分だろう。核兵器を使った攻撃がどのような影響をもたらすかは、最低限の知性を持った人なら誰でも容易に理解できるため、誤算の可能性は低くなるだろう。したがって、安全な第二攻撃能力(secure second-strike capability)を持つ国家は、自国の生存についてそれほど心配することはなく、国家間の競争は、相互の恐怖(mutual fear)によって(消滅されはしないものの)制約されることになる。

ウォルツは、核抑止力が安全保障競争の全要素を排除するとは示唆しなかった。また、どの国も原爆を持ったほうが良いとか、核兵器の急速な拡散が国際システムにとって良いことになるとも主張しなかった。むしろ、核兵器のゆっくりとした拡散は状況によっては有益である可能性があり、それを阻止するための全面的な努力よりも望ましい可能性さえあると示唆した。ウォルツは、冷戦時代にアメリカとソ連が直接の武力衝突を回避するのに役立ち、インドとパキスタン間の戦争の規模と範囲を縮小させた、エスカレーションに対する相互の恐怖は、戦争を含む他の場所でも同様の抑制効果をもたらすだろうと考えていた。戦争で引き裂かれた中東でも同じだった。

ウォルツの逆張りの立場は多くの批判を呼び、彼のオリジナルの著書は最終的にスタンフォード大学教授のスコット・セーガンとの広範で啓発的な交流につながった。懐疑論者たちは、新たな核保有国は、抑止できない非合理的、あるいは救世主的な指導者によって率いられる可能性があると警告したが、それらが既存の核保有国の指導者たちよりも合理的であったり、用心深かったりするかどうかは決して明らかではない。また、新興核保有国には高度な安全対策や指揮統制手順が欠如しており、そのため兵器が盗難や不正使用に対してより脆弱になるのではないかと懸念する人たちもいた。タカ派の人々は、既存の核保有国で、これまで成功した例がないにもかかわらず、新興核保有国が他国を脅迫したり、侵略の盾(shield for aggression)として核使用をちらつかせて脅迫したりする可能性があると主張した。他の批評家たちは、イランによる核開発により、近隣諸国の一部が追随することになるだろうと予測したが、初期の「拡散カスケード(proliferation cascades)」の証拠はせいぜい複雑だった。

もちろん、アメリカ政府はウォルツの立場を受け入れようと考えたことはなく、もちろんイランのような国に関してもそうではなかった。それどころか、アメリカはほぼ常に他国が自国の核兵器を開発するのを思いとどまらせようとしており、イランがそうするのを阻止するために時間をかけて取り組んできた。民主党所属と共和党所属の歴代大統領は、イランが実際の核爆弾を製造しようとする場合にはあらゆる選択肢がテーブルの上にあると繰り返し述べて、イランに濃縮計画を放棄するよう説得しようとしたが、こうした試みはほぼ失敗に終わり、ますます厳しい経済制裁を課している。バラク・オバマ政権は最終的に、イランの濃縮能力を大幅に縮小し、核物質の備蓄を削減し、イランの残存する核活動の監視を拡大する協定(2015年の包括的共同行動計画[Joint Comprehensive Plan of ActionJCPOA])を交渉した。驚くべき戦略的失敗により、ドナルド・トランプ大統領は2018年に協定を破棄した。その結果はどうなったか? イランはさらに高レヴェルなウラン濃縮を開始し、今では、これまで以上に爆弾の保有に近づいている。

JCPOAとは別に、アメリカ(そしてイスラエル)は、イラン政府に、自国の抑止力なしには安全を確保できないことを説得するために、あらゆることをしてきた。連邦議会はイラン亡命団体への資金提供など、イランを対象とした「民主政治体制促進(democracy promotion)」の取り組みに資金を提供している。アメリカ政府は、関係改善を目指すイランのいくつかの試みを阻止し、ペルシャ湾でイラン海軍と衝突し、イラン政府高官を意図的に暗殺し、イラン国内で一連の秘密活動を行ってきた。アメリカ政府は、この地域における反イラン連合(anti-Iranian coalition)の結成を公然と支持しており、(ロシア、中国、そしてアメリカの同盟諸国のほとんどとは異なり)テヘランとは外交関係を持っていない。イラン政権について誰がどう考えても、そしてイラン政権には嫌な点がたくさんあるが、こうした措置やその他の措置により、イスラエル、パキスタン、北朝鮮を含む他の9カ国が現在享受しているのと同じ抑止力の保護に対するイランの関心が高まっていることは間違いない。

では、なぜイランはまだ核保有の一線を超えていないのか? その答えは誰にも分からない。1つの可能性は、最高指導者アリ・ハメネイ師が核兵器はイスラム教に反しており、一線を越えることは道徳的に間違っていると心から信じているというものだ。私自身はその説明にはあまり興味を持てないが、その可能性を完全に排除することはできない。また、特にイラク、アフガニスタン、リビア、その他数カ所での体制変更(regime change)に向けたアメリカの悲惨な努力について考慮すると、イランの指導者たちは(公の場で何を言おうと)アメリカの直接攻撃や侵略についてそれほど心配していない可能性もある。彼らは、誰がアメリカ大統領になるにしても、そのような経験を追体験したいとは思わないだろうし、特にイラクのほぼ4倍の面積と2倍の人口を有する国イランを相手にしたい訳ではないだろうと認識しているかもしれない。アメリカは危険な敵ではあるが、存在の脅威ではないため、急いで爆弾を使って狙う必要はない。テヘランはまた、実用的な兵器を製造する試みが探知される可能性が高く、イランが多くの犠牲を払って構築した核インフラを、アメリカやイスラエル(あるいはその両方)に容易に攻撃されてしまう可能性がある限り、予防戦争(preemptive war)の脅威によって抑止される可能性がある。緊急の必要がなく、状況が好ましくない場合、イランにとっては核拡散ラインのこちら側に留まる方が理にかなっている。

アメリカやその他の国々が事態をこのまま維持したいのであれば、イランが兵器保有能力を回避し続ければイランは攻撃されないという保証と、ライン突破の試みによって起こり得る結果についての警告を組み合わせる必要がある。イスラエルとイランの間の秘密戦争を鎮圧することも同様に役立つだろうが、ネタニヤフ政権がその道を選択したり、バイデン政権からそうするよう大きな圧力に直面したりすることは想像しにくい。

私の頭を悩ましていることがある。現在の敵意のレヴェルが続くなら、イランが最終的に独自の核抑止力が必要だと決断しないとは信じがたいが、そのとき何が起こるかは誰にも分からない。それは再び中東戦争を引き起こす可能性があり、それは誰にとっても最も避けたいことだ。イランが独自の核爆弾製造に成功すれば、サウジアラビアやトルコなどの国も追随する可能性がある。

そうなれば何が起きるか? それは、ウォルツがずっと正しかったこと、そして中東における核のバランスが荒いことで、絶え間なく争いを続ける国々が最終的には敵意を和らげ、平和的共存(peaceful coexistence)を選択するよう仕向けるであろうということを明らかにするかもしれない。しかし、正直に言うと、これは私がやりたくない社会科学実験(social science experiments)の1つでもある。

※スティーヴン・M・ウォルト:『フォーリン・ポリシー』誌コラムニスト。ハーヴァード大学ロバート・アンド・レニー・ベルファー記念国際関係論教授。ツイッターアカウント:@stephenwalt

(貼り付け終わり)

(終わり)
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 パレスティナのガザ地区を実効支配している武装組織であるハマスがイスラエルとの紛争状態に入り、ガザ地区での戦争が続いて既に8カ月になろうとしている。イスラエルはハマスを徹底的にせん滅するまで作戦を続けるとしているが、同時に、10月7日のハマスによる攻撃で連れ去られた人質の奪還も目指している。人質の奪還のためには、交渉も必要となる。
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 現在の中東の国際関係を見れば、イスラエル対ハマス・ヒズボラ・これらを支援するイランということになる。ガザ地区での紛争がイスラエル・イランの戦争に拡大し、新たな中東戦争になるのではないか、両者が核兵器を撃ち合うことになるのではないかという懸念の声は、昨年の紛争ぼっ発直後から出ている。アメリカはイランと国交を持たないために、影響力、交渉力が限定的であり、イランとイスラエルの仲介をすることはできない。仲介することができるとすれば、両国と関係を持つロシアということになる。
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 イスラエル、イラン両国の指導者層は、核兵器を使った本格戦争まで望んでおらず、両国間関係を悪化させないようにしている。両国は国境を接しておらず、本格戦争となれば、戦闘機やミサイルによる攻撃ということになる。しかし、ハマス、ヒズボラといった武装組織がイランの代理勢力としてイスラエルと対峙している。この点では、イスラエルの方が直接対峙している分、厳しい状況となる。イスラエルはこれらの武装組織を支援している、イランのイスラム革命防衛隊の担当者たちを殺害することで報復をしている。

 イランとしては、後方にロシア、そして中国の支援を期待できる状態であり、紛争がエスカレーションしないように管理しながら、紛争を続けることができる。イスラエルとしては、外敵からの脅威をアピールすることで、国民の納得も得られやすい。現状は、両国にとって、ある面では非常に望ましい状態である。「誰も大規模な中東戦争を望んでいない」という前提のもとで、現状は維持される。問題は突発的な、予想外の、計算違いのことが起きる可能性があるということだ。そうなれば、どうなるか分からない。最終的に必要なのは、イランの持つ恐怖、不安感を持たせないようにすることで、それにはアメリカとイスラエルとの間に意思疎通のチャンネルを開くということが必要である。

 日本は民間、経済レヴェルでイランとの関係が深い国であり、その関係は今も続いている。この点で、日本は国際関係に貢献できるところがある。

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イラン・イスラエル戦争は始まったばかりだ(The Iran-Israel War Is Just Getting Started

-イラン・イスラエル両国が紛争し続ける限り、同盟諸国がどのような助言をしても、両国は打撃を与え合うことになるだろう。

ラファエル・S・コーエン筆

2024年4月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/04/22/israel-iran-attack-war-retaliation-escalation/

4月13日の早朝、2つの小さな奇跡が起った。1つ目としては、イスラエルが、イギリス、フランス、ヨルダン、アメリカの支援を受けて、驚くべき技術的能力を発揮し、主にイランからイスラエルに向けて発射された約170機の無人機、約120発の弾道ミサイル、約30発の巡航ミサイルを迎撃し、99%の成功率を記録し、迎撃の効果は大きく、人命やインフラへの被害は最小限度に抑えられたという報告があった。2つ目としては、何ヶ月にもわたって主に否定的なメディア報道と国際的圧力の高まりを受けてイスラエルは苦しい立場にあったが、今回のイランからの攻撃で、イスラエルはある程度の同情と肯定的な報道を享受できた。攻撃の撃退とイスラエルのイメージ向上という二重の成功を踏まえ、ジョー・バイデン米大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相に次のように助言したと伝えられている。「あなたは1つの勝利を手にした。最終的な勝利を掴め(You got a win. Take the win)(訳者註:イランとの紛争に入るな)」。他の多くの同盟諸国の指導者たちや専門家たちもイスラエルに対して同様のアドバイスをした。

しかし、イスラエルはこの助言を受け入れることにほとんど関心を示していない。報じられているところによると、即時反撃(immediate counterattack)を中止し、バイデン大統領が要請してきていた通りに「事態を遅らせる(slow things down)」ことに満足しているようだ。しかし、ヨアヴ・ガラント国防相、ヘルジ・ハレヴィイスラエル国防軍司令官、ベニー・ガンツ戦時内閣閣僚、そしてネタニヤフ自身を含むイスラエル指導者たちは全員、報復を約束した。そして、金曜朝、イスラエルはイラン中部のイスファハーンにあるイラン空軍基地の防空システムに対する反撃を実施した。この攻撃は主に象徴的なものだったようだが、それにもかかわらず、「なぜイスラエルは再びアメリカや他の同盟諸国の意見に従わないのか、そもそもこれらの国々はイスラエルの支援をしているのに?」という疑問が生じている。

結局のところ、イスラエルが反撃した理由については、悪いものが多く挙げられている。しかし、重要な良い点も1つある。それは、イスラエルとイランはもともと戦争状態にあり、この戦争は今日以降も続くという事実だ。この紛争が続く限り、この紛争の操作ロジックはエスカレーションに向かって進む。

なぜイスラエルが反撃したのかという疑問に対する答えは、ネタニヤフ首相の野心に帰着するという人もいる。この物語によれば、彼は単に自分自身を救おうとしているだけのこととなる。ネタニヤフ首相はイスラエル国内で非常に不人気だ。彼の支持率はわずか15%に過ぎない。彼の政治的正統性の主な源泉である、イスラエルの安全保障を保証するという彼の主張は、10月7日のハマスによる虐殺とその後に起こったあらゆる出来事によってひどく打ち砕かれている。したがって、当然のことながら、イランの現政権を含む、観察者の一部は、ネタニヤフ首相が国内でのイメージを回復するため、あるいは少なくとも10月7日の大惨事からの政治的清算を長引かせるため、イランとの戦争を望んでいると主張している。このプロセスにより、彼の政治的生存の可能性が高まるということになる。

ネタニヤフ首相は絶望しているのかもしれないが、報復への動きは彼だけから出ている訳ではない。実際、反撃を求めるイスラエル国内の大きな声の一部は、ガンツやギャラントをはじめとする、ネタニヤフの失敗で政治的に最大の利益を得る、ネタニヤフの政敵たちからのものだった。世論調査の結果によると、今日選挙が行われればガンツが首相になる可能性が高い。

また、イランに対する攻撃がネタニヤフ首相や他の誰かにとって良い政治的行動であるかどうかも明らかではない。ヘブライ大学が先週発表した世論調査によると、イスラエル人の約74%が「同盟諸国とのイスラエルの安全保障同盟を損なう場合には」、イランに対する反撃に反対すると答えた。同じ世論調査では、イスラエル人の56%が、「長期にわたって持続可能な防衛システムを確保する」ために、イスラエルは「同盟諸国からの政治的、軍事的要求に積極的に対応すべき」と回答していることが判明した。ネタニヤフ首相の連立政権内でさえ、金曜日のイスラエルの限定的な反撃は明確な政治的勝利と考えない閣僚がいた。例えば、右翼のイタマール・ベン・グヴィル国家安全保障相は、X(ツイッター)上で、今回の行動を「不十分(lame)」であると批判した。

対照的に、イスラエルは反撃が象徴的な内容にとどまった理由を述べている。イスラエル政府高官たちはテヘランに「メッセージを送り」、「教訓を教える」必要性について語った。しかし、イスラエル自身の最近の歴史は、しっぺ返しの暴力(tit-for-tat violence)が意図した教育効果をもたらすことはほとんどないことを示している。10月7日の虐殺が如実に示したように、今回の戦争以前のガザ地区でのイスラエルによる4回の限定的な軍事作戦は、その間に更に限定的な攻撃を挟んだが、ハマスを排除したり抑止したりすることはできなかった。そしてイランは、イスラエルへの攻撃を正当化するために、シリアやその他の地域にいる工作員を攻撃しないようイスラエルに「教える」必要があるというほぼ同じ言葉を使っている。これら全てが、今度は、イスラエルがイランを「教える」努力をもっと効果的に行うことができるかどうかという疑問を提起する。

公平を期すために言うと、イスラエルが実際に敵対者に教訓を教えることに成功した例は数例ある。おそらくその最良の例は、ヒズボラ工作員がイスラエルに侵入し、8人のイスラエル兵を殺害し、残り2人を誘拐した後に始まった2006年のレバノン戦争だろう。紛争後、ヒズボラ指導者のハッサン・ナスララは記者団に対し、作戦開始の決定を遺憾に思うと語った。ナスララは「もしこの作戦がそのような戦争につながることを事前に知っていたら、私はそれを実行するだろうかと質問しているのか。その答えはノーで、絶対に実行しなかったと言える」と述べた。しかし、この教訓のために、121人のイスラエル兵士、数百人のヒズボラ戦闘員、1000人以上の民間人の命が犠牲となり、イスラエル・レバノン双方で100万を超える人々が避難した、34日間にわたる本格的な非常に破壊的な戦争が含まれていた。イスラエルがイランに対して行ったばかりの限定的攻撃とは程遠いものだった。

もちろん、イスラエルがイランを攻撃したいという背後には、より基本的な動機がある、それは復讐(revenge)である。結局のところ、攻撃が最終的に効果などなかったとしても、イランは約60トンの爆発物をイスラエルに直接投げつけ、イスラエルとイランの影の戦争(Israel-Iran shadow war)の不文律を打ち破り、たとえ一夜限りとはいえ、国全体を緊張状態に保ったのだ。当然のことながら、一部のイスラエル人は反撃を望んでおり、反撃したいと考え続けている。

しかし、ブレット・スティーブンスが『ニューヨーク・タイムズ』紙で読者に思い出させたように、「復讐は忘れたころにするのが良い(revenge is a dish best served cold、復讐は冷めてから出すのが最良の料理だ)」。一般に、感情的な決定は賢明な戦略にはならない(emotional decisions do not make for a prudent strategy)。地域戦争が勃発した場合、イスラエルと地域全体の軍事的・外交的利害を考慮すると、これは特に妥当性を持つ言葉だ。そして実際、イスラエルによる、イスファハーンに対する攻撃はそのようなエスカレーションを引き起こさないように意図的に調整されているように見える。

更に言えば、イスファハーン以前から、あるレヴェルでは既にバランスシートは均衡していた。結局、イランはイスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)の高級幹部7人を失った。モハマド・レザー・ザヘディ将軍は、2020年にアメリカがイラクでカセム・スレイマニを殺害して以来、殺害された最高位のコッズ部隊メンバーである。ザヘディダマスカスのイラン外交施設に対するイスラエルの攻撃で死亡した。イスラエルはイランの攻撃によって、これに匹敵するものを何も失っていない。

しかし、現在および将来のイスラエルによるイラン攻撃には悪い理由がたくさんあるとしても、少なくとも1つの良い理由がある。それはイスラエルとイランが戦争状態にあるということだ。この戦争は何年間もほぼ秘密にされてきたが、10月7日以降、影から姿を現した。ハマス、ヒズボラ、フーシ派、そして半年以上にわたってイスラエルを攻撃してきた他の組織の共通点は、程度の差こそあれ、いずれもイランから資金提供、訓練、装備を受けていることだ。その結果、イランとヒズボラおよびアサド政権との関係を調整したザヘディを含む7人の革命防衛隊工作担当者たちが3月下旬にダマスカスに現れたとき、イスラエルは、彼らがシリアの複数のレストランで試食するために来たのではないと結論づけた。これは、おそらく正しい結論である。

イランの報復集中砲火とイスラエルの反撃の後、この奇妙にパフォーマンス的な軍事力の誇示というゲームにおいては、ボールはイラン側にある状態である。最初の兆候は、イランが少なくとも当分の間、ボールに触らない可能性があるということだ。そうなれば、アメリカも地域も安堵のため息をつくだろう。

しかし、残念なことに、どんな休息も長くは続かないだろう。イスラエルは、イランから代理勢力への物的・戦略的支援の流れを断ち切る、あるいはおそらく妨害するためだけでも、海外のイラン工作担当者たちに対する攻撃を続ける必要があるだろう。「問題は解決したと見なせる」というイランの主張に反して、イランが代理勢力を支援し続け、その代理勢力がイスラエルとの紛争に関与し続ける限り、ダマスカスのイラン大使館でのような攻撃の作戦上の必要性は残ることになる。

そして、くすぶっている従来の紛争がイスラエルの対イラン軍事行動を促す十分な理由でないとすれば、イランの核開発という、より大きな理由が迫っていることになる。イラン核合意としても知られる包括的共同行動計画が崩壊して以来、イラン政府は核兵器保有に一歩ずつ近づいている。イスラエルの指導者たちは、核武装したイランが、イスラエルを全面的に攻撃するために兵器を使用しないとしても、代理勢力への支援を増加させる勇気を得るのではないかと長年懸念してきた。多くのイスラエル人にとって、先週末のイラン攻撃はそうした不安を強めるだけだった。結局のところ、広く疑われているイスラエルの核兵器が、イランの通常攻撃を抑止するには不十分であることが現時点で証明されているのであれば、なぜイスラエルは、ひとたび核兵器を持てばイランを首尾よく抑止できると信じられるだろうか? このため、いくつかの重大な軍事的課題にもかかわらず、イスラエルがイランの核開発計画に対して先制攻撃を行う可能性が一層高まっている。

その観点からすれば、イスラエルは、たとえ疑わしい政治的動機、あいまいな抑止力の考え方、あるいは単なるありのままの感情を取り除いたとしても、イランの目標を攻撃し続ける必要があるだろう。イスラエルとイランが紛争を継続する限り、米国や他の同盟国が激化を避けるためにイスラエルにどのような助言をしようとも、両国は打撃を与え合うことになるだろう。

結局のところ、アメリカとヨーロッパが中東での地域戦争の可能性を未然に防ぎたいのであれば、イランに対して、代理勢力の力を抑制し、核開発計画について何らかの措置を講じるよう説得する必要があるだろう。そうしないと、紛争はさらにスパイラル化するだろう。

※ラファエル・S・コーエン:ランド研究所「プロジェクト・エア・フォース」戦略・ドクトリンプログラム部長。

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。『週刊現代』2024年4月20日号「名著、再び」(佐藤優先生書評コーナー)に拙著が紹介されました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2024年5月19日に、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相、他に政府高官たちが乗ったヘリコプターが墜落事故を起こし、搭乗員たちが全員死亡した。大統領と外相という最重要の政府高官たちが同じヘリコプターに登場していたというのは、安全管理の面から解せないところであるが、ライシ大統領の事故に、アメリカやイスラエルが絡んでいるということはひとまずないようだ。
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 今回の事故で、イランとイスラエルとの間の状況がさらに悪化するということはないと考えられる。これまで、イスラエルがシリアのダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、イスラム革命防衛隊の司令官クラスを殺害している。報復として、イランはイスラエルにドローンやミサイルによる攻撃を行った。両国間の関係が悪化し、より大規模な戦闘ということになれば、両国が直接領土を接してはいないので、航空機やミサイルによる攻撃が主体となり、最後は核兵器使用ということまで考えられる。ライシ大統領は、イランの国家最高指導者であるアリ・ハメネイ師の意向に沿って、強硬な態度を取ってきた。しかし、同時に、状況がさらに悪化しないように、細かい点で配慮を見せてきた。この流れは変わらないようだ。しかし、イスラエルと対峙する、レバノンのヒズボラとガザ地区のハマス、それらを支援するイスラム革命防衛隊を強化することは忘れないだろう。
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 イランにしてみれば、イスラエルとそれを支援するアメリカが国際世論の批判に晒されて、孤立することが望ましい。実際に、イスラエルによるガザ地区での作戦実行が過剰な防衛であって、一般市民に大きくの犠牲者が出ているということは、批判を招いている。ハマスについては、パレスティナ内部でも決して大きな支持を集めている訳ではないが、パレスティナの代表のような振る舞いをし、イランにとって有効な存在になっている。ハマスとヒズボラを使って、イスラエルを攻撃するということはイランにとって重要な戦略となっている。
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更には、イランが紅海の入り口にあるイエメンのフーシ派も支援していることも大きい。これによって、貿易海運に影響が出ており、アメリカが率いる西側諸国にとっては頭が痛い問題である。

イランが中国やロシアの支援を受けて、中東での動きを活発化させている。それは、中国が仲介してのサウジアラビアとの国交正常化合意が実現したことが大きい。サウジアラビアも向米一辺倒から脱却しており、中東におけるアメリカとイスラエルの重要性が縮小している。重要なのは、中東の現状が核兵器使用の大きな戦争にまで進まないようにコントロールすることであり、イランもそれを望んでいるようだ。
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イランがイスラエルに勝てると信じているその理由(Why Iran Believes It’s Winning Against Israel

-イラン政府は、地域秩序の再構成(regional reordering)が進行中であると結論づけた。大統領と外務大臣が亡くなってもその流れは変わらないだろう。

アリ・ヴァエス、ハミドレザ・アジジ筆

2024年5月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-israel-war-deterrence-raisi-crash/?tpcc=recirc_latest062921

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バグダッドのイラン大使館前にて、イランの故エブラヒム・ライシ大統領を弔う人々のキャンドルリストの横で警備するイラク軍兵士(5月20日)

日曜日(5月19日)、イランのエブラヒム・ライシ大統領とホセイン・アミール=アブドラヒアン外相を含む数名の政府高官がヘリコプター墜落事故で死亡した。この事件は、4月にイランとイスラエルの間で前例のないエスカレーションが起こった後に発生し、イランの地域政策と現在進行中のイスラエルとの対立に潜在的な影響を与えるのではないかという予測が出ている。

イラン行政府のトップに突然空白が生じたにもかかわらず、イランの外交・地域政策の戦略的方向性は、主に最高指導者アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)によって決定され、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)の影響を受けており、今後も変わらないと見られている。しかし、イランとイスラエル間の最近の事態悪化は、既にイランの戦略的思考(strategic thinking)と地域的計算(regional calculations)に影響を与えている。

イランにとって、イスラエルが4月1日にダマスカスにあるイラン大使館を攻撃し、高級指揮官を含む、イスラム革命防衛隊メンバー数人を殺害したことは一線を越えた。イランの立場からすれば、標的の幹部と施設の性格の両方が、イスラエルによる容認できない、事態悪化を意味する。

当面の問題として、テヘランは、イランが主権領土に相当すると見なしている場所への攻撃を放置すれば、イスラエルがイラン領内で、更に多くのイラン政府高官を標的にする可能性があると考えている。しかし、おそらく、より重要なことは、イラン政府関係者たちが、ダマスカスにあるイラン大使館攻撃を、ヒズボラの後方支援を断ち切ることを目的としたものであり、イスラエルによるレバノン侵攻という、より大きな目的に向けての中間的な動きと認識したことであろう。

2023年12月にイスラエルがダマスカス郊外で、イスラム革命防衛隊のラジ・ムサビ准将を殺害したことで、レヴァント地域におけるイランの非国家同盟組織の支援を担当する、イランの後方支援担当責任者(chief of logistics)が排除された。2024年1月の同様の攻撃で、シリアにおけるイスラム革命防衛隊の情報諜報責任者が解任され、4月1日にはモハメド・レザ・ザヘディ将軍が殺害されたことで、レヴァント地域の作戦責任者が排除された。

イランはまた、国内および地域の同盟国、組織の面子を保つ必要もあった。4月のダマスカス攻撃後、一部の強硬派は指導部を公然と批判し始めた。そのため、テヘランは武力で対応しなければならないと考えたが、戦争を引き起こすことなく、ある程度の抑止力を回復する必要があった。

414日未明、イスラエルに対し、高度に電波誘導を用いた大規模な無人機とミサイルによる攻撃を実施することで、戦争にならない範囲での報復を行った。優先事項は死と破壊ではなく、むしろイスラエルの領土を直接攻撃する勇気があることを示すことであった。もちろん、攻撃の規模を考えると、死と破壊の危険が当然のこととしてあった。イラン政府はおそらく、イスラエルとアメリカの防衛能力に関する重要な情報を収集しながら、自国が持つ能力のどの部分を公開するかを選択した可能性が高い。

イスラム革命防衛隊の航空宇宙戦隊司令官は、イランが今回の作戦のために準備した能力の20%未満しか投入しなかったのに対し、イスラエルは、アメリカや他の同盟諸国の支援を受け、防衛兵器をフル動員しなければならなかったと示唆した。これらの主張が少しでも正確であれば、イランがより高度な兵器を用いて、更なる大規模な攻撃を行う場合、特に奇襲的で長期間に及ぶような攻撃の場合、今回成功した防衛を再現できるのかという疑問が生じる。

イスラエルとそのパートナーたちは、この攻撃をほぼ無力化すること(neutralizing)に成功したが、テヘランは支持者・支援者の間での立場を強め、おそらくアラブ各国の路上で、パレスティナの権利擁護を公言し実行しているという評判を高めた。ガザでの戦争の惨状から国際的な関心をそらすことなく、このようなことが成し遂げられた。この事実は、アメリカやヨーロッパ諸国の大学キャンパスで行われた親パレスティナ派の抗議行動によって、より浮き彫りにされた。

この観点からすると、今回のイランによる攻撃の成功は、その限定的な軍事的成果からではなく、より強力な超大国の支援を受けている、強力な敵を直接標的にしたという事実そのものからもたらされた。ハメネイ師が主張しているように、イランがイスラエルに送った重要なシグナルは、イスラエルがイラン軍を切り崩し、レヴァントでの行動ができないようにすることを目的とする、今後の作戦を抑止するために、テヘランはある程度のリスクを受け入れることができるということであった。

しかし、この攻撃の直後に、イスラム革命防衛隊の最高司令官が設定したレッドライン(イランの標的に対するいかなる攻撃も、イランがイスラエルを再び直接攻撃する原因となる)は、イスラエルが現地時間4月19日にイスファハンで行った空対地ミサイル攻撃(イラク領空からS-300ミサイル防衛システムのレーダーを空対地ミサイルで攻撃、ナタンツの機密核施設に近接)に照らして、すぐに空威張りであることが示された。

イランにとって、イスラエルとの暗闘が現状に戻ることは、おそらく受け入れられる結果だろう。テヘランからすれば、せいぜい、シリアにおけるイランの武器輸送と施設を標的とするイスラエルのマバム(「戦争の中の戦争[war within the wars]」)キャンペーンの範囲を制限する方法を見つけることだろう。イランは少なくとも、イスラエルがイランの上級指揮官を標的にすること、そして、イラン国内で屈辱的な秘密工作を行うのを止めさせたいと考えている。イランがこれらの目的を達成できるかどうかを判断するのは時期尚早である。

今、重要なのは、イスラエルとイランの二国間の対立(bilateral rivalry)が、より広い地域情勢の中でどのように位置づけられるかということである。イスラエルとアメリカは、アラブ諸国との一時的な地域協力関係(ad hoc regional cooperation with Arab states)を活性化させ、ミサイルの一斉射撃を阻止したと自慢することができた。しかし、関係するアラブ諸国は、イスラエルから名指しされたり、味方についたと見られたりすることを避けたがった。イスラエルがアラブ諸国の行動を、自国に有利な反イラン地域同盟(anti-Iran regional alliance)の出現を示唆するものだと決めつけようとしたのとは反対に、アラブ諸国の指導者たちは、イスラエルとイランとの間の緊張が、自国を銃撃戦に巻き込む可能性があるという、以前から恐れていたことが証明されたと考えたのである。

イランの指導者たちは、ヒズボラという地域的な槍の先端を使わなかった、自分たちの報復が、更なる事態悪化の可能性を軽減することに成功したと、今のところは確信しているようだ。イランの攻撃からイスラエルを守るには10億ドル以上の費用がかかり、少なくとも5カ国が参加する大規模なティームワークが必要であるのに対し、イランには攻撃に2億ドルの費用がかかったということは、イスラエルもアメリカも、更なる戦闘を求めていないことを暗示している。したがって、イスラエルとアメリカ軍がおそらく同じことをしているのと同じように、イランには学んだ教訓に焦点を当てる余地がある。

イランがパンチを手加減してやったと主張しているにもかかわらず、アメリカ政府当局者たちは、その目的は「明らかに重大な損害と死者を引き起こすことであった」と評価している。今回の場合、パンチは当たらなかった。これは攻撃の脆弱性と防御力の両方の結果であると思われる。長距離を飛行するイランの無人機はほぼリアルタイムで探知され、発射体の多くはイスラエル領土に到達する前に迎撃されたからだ。かなりの割合(おそらく半分程度)が迎撃された。弾道ミサイルのうち多くが、自然に失敗して到達できなかったと報じられている。

これらの欠陥を正すために、イランはイスラエルに近い地域で武器の開発と備蓄を強化し、シリアでのプレゼンスの強化を必要とするだけでなく、将来の攻撃手段の一環として極超音速ミサイルを含むより先進的なミサイルの開発を加速させようとする可能性がある。

イスラエルによるイランへの報復は、イスラエルがイランの核施設に重大な損害を与える能力を持っていることをイランの指導者たちに思い知らせるものだった。また、イラン国内における、S-400のような、より高性能な防空システムの欠如や、近隣の空域に侵入するイスラエルの本質的に揺るぎない能力といった、テヘランの主要な欠点も露呈した。前者の欠点に対処するため、テヘランは、イランとヨーロッパの関係を更に悪化させることになるとしても、弾道ミサイルと引き換えにロシアの最新兵器を入手する努力を強化するだろう。

後者の欠点に対処するために、特にシリアでは、ロシアに助けを求める可能性もある。しかし、イラクではアメリカ軍が立ちはだかり、イランは、イラクの民兵組織にアメリカ軍基地を狙い続けるよう促し、イラク政府への政治的圧力を強めることで、イラクから約2500人のアメリカ軍を追い出そうとする動機をより高める可能性が高い。

テヘランはまた、シリアのユーフラテス川以東で、既に不安定な状態にあるクルド人主導のシリア民主軍の支配を緩めるための努力を強化する可能性が高い。これにより、イランは、シリアへの(そしてその先のレバノンへの)陸上アクセスポイントを増やし、同時にユーフラテス川西岸のデイル・エゾル州での影響力を強化することができる。最後に、テヘランは度重なる諜報活動の失敗により、国外にいる上級指揮官の所在が明らかにされてしまったことや、国内が脆弱になったことへの対処にも注力するだろう。

イラン指導部は、イランが10月以来実証してきた能力、つまり地域パートナーの非対称戦闘能力と、イスラエル上空を飛ぶイランのミサイル弾頭の永続的なイメージが、ガザ紛争の余波と相まって、地域秩序の再構成の前兆となる可能性があると信じている。

イラン政府の目には、イスラエルは世界的にますます排斥されると映っている。ロシア、中国、インドのような他の大国が影響力を拡大するにつれ、アメリカはもはやこの地域の最も重要なプレーヤーではなくなるだろう。そしてペルシア湾岸アラブ諸国(Gulf Arab states)は、イランに対して団結することを避け、代わりにシリアやヒズボラなどのイランの同盟国や組織との関係改善を目指すことになるだろう。

イラン指導部は、短期間に核弾頭を開発できる、制限核兵器保有国(threshold nuclear weapons state)としてのイランの地位を強化したいという願望でこのヴィジョンを補完している。特に、西側諸国が効果的で持続的な経済制裁緩和を行う能力があるかについてのテヘランの悲観的な見方を考慮すれば、イランの核能力の大幅な縮小を目的とした将来の合意は困難ということになるだろう。

しかし、イランの指導者たちは、永続的な現実が彼らの強気な物語を台無しにし、短期および中期の両方のリスクをもたらすことに気づくかもしれない。イランとイスラエルがゲームの新しいルールをまだ完全に定義してテストしていないことを考えると、特にイランは自慢の戦略的忍耐力(strategic patience)を放棄し、より攻撃的な姿勢に置き換えるべきだと信じる、政府内の人々が優勢であるように見えるため、両国は誤算を示す可能性がある。これらの強硬派は、イスラエルが、近いうちにイランが越えてはならない一線を堅持する姿勢を試すことになり、イランがそれに失敗すれば、4月14日に取った多大なリスクから得られる利益は失われると信じている。

そうなれば、双方の誤算(miscalculation)のリスクが高まり、壊滅的な打撃を与えかねない状況悪化の連鎖につながりかねない。中期的には、イランが中東で消滅しつつあるパクス・アメリカーナ(Pax Americana、アメリカによる平和)に代わる新たな秩序が生まれつつある、と見ていることが、かえってペルシア湾岸アラブ諸国が、アメリカの安全保障をより強固なものにする要求を倍加させ、テヘランが直面する脅威に対する認識を深めることになりかねない。

※アリ・ヴァエス:インターナショナル・クライシス・グループのイランプロジェクト部長、ジョージタウン大学外交学部非常勤講師。ツイッターアカウント:@AliVaez

※ハミドレザ・アジジ:ジャーマン国際・安全保障問題担当研究所訪問研究員。シャヒド・バレスティ大学地域研究助教(2016-2020年)。テヘラン大学地域研究学部訪問講師(2016-2018年)。ツイッターアカウント:@HamidRezaAz

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ライシ大統領の死がイランの未来に意味するもの(What Raisi’s Death Means for Iran’s Future

-ヘリコプター墜落事故によるライシ大統領の突然の死は、地域的な混乱の中でイランに不確実性をもたらす。

ジャック・ディッチ筆

2024年5月20日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/05/20/iran-president-helicopter-crash-raisi-politics-supreme-leader/

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イラン大統領エブラヒム・ライシがシリアのダマスカスを訪問(2023年5月3日)

イランのエブラヒム・ライシ大統領は日曜日、他のイラン政府高官たちの一団を乗せたヘリコプターがイラン北部の山中に不時着した事故で死亡し、イランと中東地域の将来に大きな疑問を生じさせた。

イラン国営のイスラム共和国通信が確認したところによると、ホセイン・アミール=アブドラヒアン外相と他の高官たちもイランの東アゼルバイジャン州を移動中に墜落し死亡した。墜落現場が発見されるまでの数時間、濃霧が捜索・救助活動を妨げた。霧は非常に濃く、イラン側はヘリコプターの位置を特定するためにヨーロッパ連合(EU)の衛星の支援を要請せざるを得なかった。

ライシ大統領の死は、イランが強硬な方向(hard-line direction)に進み、中東を地域戦争(regional war)の危機に晒される恐れがあったイラン政治の短い変革の時代(transformative era)に終止符を打った。ライシは政権の座に就いて約3年間、イランの国内政治と社会政策をより保守的な方向に動かし、2017年の大統領選挙でライシを破った前任者のハッサン・ロウハニの後、イランをこの地域における明らかなアメリカの敵対者の立場へと更に推し進めた。ロウハニは、代理攻撃(proxy attacks)を強化する前に、まずイランの核開発をめぐる西側諸国との緊張緩和を模索した。

イスラム法学者で、アリ・ハメネイ師(Ayatollah Ali Khamenei)との緊密な関係で知られ、多くの当局者や専門家たちが高齢化する最高指導者の後継者候補とみなされてきた、ライシの大統領在任期間中、イランはウラン濃縮(uranium enrichment)を加速させ、包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action)の交渉を遅らせた。アメリカはライシが大統領に就任する3年前の2018年に協定を離脱した。

ライシ政権下のイランはまた、シャヘド自爆ドローンや大砲の大規模な輸出でウクライナに対するロシアの戦争を支援し、ハマスによる2023年10月のイスラエルへの越境攻撃の後、アメリカとイスラエルに対する地域の代理民兵組織(regional proxy militias)による攻撃を増加させ、ライシの死のわずか1カ月前には、イスラエルに対して大規模なドローンとミサイル攻撃を開始した。

複数の専門家によれば、ライシの後任が誰になろうとも、彼が追求した戦略はイランの政治的・聖職的指導部の上層部の間で堅持されており、変わることはないだろうという。

民主政治体制防衛財団(Foundation for Defense of DemocraciesFDD)のイラン上級研究員ベーナム・ベン・タレブルーは次のように述べている。「ライシがいてもいなくても、政権は10月7日以降の中東の成り行きに満足している。イランは、アメリカとイスラエルに対して、代理人を使って直接攻撃したが、4月に見られたような、一触即発(tit-for-tat)の状況にも何度か直面しながら、状況を有利になるように進めている」。

イラン憲法では、選挙が実施されるまでの50日間は、ムハンマド・モクバー筆頭副大統領が政権のトップを務めることになっている。アナリストによれば、最近の議会選挙は記録的な低投票率だったという。更に、2021年の前回の大統領選挙では、ライヴァルたちを追い落とし、ライシ候補の勝利を確実にするために、ハメネイと協力者たちは多大な努力を行った。

ライシは大統領に就任する前、1988年に推定5000人の反体制派の処刑を担当した、イラン検察委員会の委員を務めていた。ライシは国連から人道に対する罪で告発され、米財務省から制裁を受けていた。そして、その強圧的なアプローチは、2022年9月にイラン道徳警察が、22歳のマフサ・アミニが公共の場で適切にヒジャブを着用しなかったとして交流した後に死亡した事件がそれに続き、これが全国的な抗議活動を引き起こした。

臨時選挙や来年に予定されている正式な大統領選挙という地平線の先には、イランの支配層のトップに激震が走る可能性がある。国家元首(head of state)の息子であるモジタバ・ハメネイ以外に、85歳のハメネイの後継者となりうる人物は限られているため、ライシの死はイランの政治的未来を更なる混乱に陥れる可能性がある。

イラン経済の主要部分を支配するイラン国軍最大の部隊である、イスラム革命防衛隊(Islamic Revolutionary Guard CorpsIRGC)も、この混乱を利用して自らの力を増大する可能性がある。

米国防大学近東アジア戦略研究センター教授で退役米陸軍大佐のデービッド・デ・ロシュは、「ライシがいなくなってしまう場合、後継者は明白になっていない。本当に興味深いのは、イスラム革命防衛隊が基本的に、スローモーションクーデター(slow-motion coup)を完了するかどうかを見ることだ」と述べている。

救助隊が墜落したライシのヘリコプターを捜索中に、国営メディアはイラン国民にライシのために祈るよう求めた。その代わりに、墜落の報道を受けて、イラン国民の一部は祝賀の花火を上げ、強硬派の指導者の死について歓喜したようだ。

米海軍大学院准教授で、ヴェテランのイラン専門家であるアフション・オストヴァールは、ライシ大統領の死去が確認される前に、「今日の墜落とライシ大統領と外相の死亡の可能性はイラン政治を揺るがすだろう」とXへの投稿で書いた。オストヴァールは続けて、「原因が何であれ、不正行為(foul play)の認識は政権内に蔓延するだろう。野心的な分子が利益を求めて圧力をかけ、政権の他の部分からの反発を強いられる可能性がある。このような事態が起きることに備えておくべきだ」。

専門家たちは、臨時選挙でも2025年のイラン大統領選挙でも、自由化を進める人物が現れる可能性は低いとしながらも、ライシの死は、水面下で続いてきた抗議運動の復活にわずかな隙を残す可能性があると述べている。

「民主政治体制防衛財団の専門家ベン・タレブルーは、「講義運動は死んでいない。これらの運動は、ストライキや労働組合など、低レヴェルの周辺地域で活動している。全国的な引き金になるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。しかし、イランの抗議運動の物語はいつ起こるか、起きるかどうかの問題でもある」と述べた。

※ジャック・ディッチ:『フォーリン・ポリシー』誌国防総省・国家安全保障担当記者。ツイッターアカウント:@JackDetsch

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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