古村治彦(ふるむらはるひこ)の政治情報紹介・分析ブログ

SNSI研究員・愛知大学国際問題研究所客員研究員の古村治彦(ふるむらはるひこ)のブログです。翻訳と評論の分野で活動しています。日常、考えたことを文章にして発表していきたいと思います。古村治彦の経歴などについては、お手数ですが、twitter accountかamazonの著者ページをご覧ください 連絡先は、harryfurumura@gmail.com です。twitter accountは、@Harryfurumura です。よろしくお願いします。

タグ:インド太平洋

 古村治彦です。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 2023年12月27日に『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行しました。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

 アメリカは外交政策において、インド太平洋(Indo-Pacific)という地域概念を持ち出して、中国とロシアを封じ込めようとしている。これはバラク・オバマ政権時代のヒラリー・クリントン国務長官から顕著になっている。「アジアへの軸足移動(Pivot to Asia)」という概念と合わせて、アメリカの外交政策の基盤となっている。

 インド太平洋から遠く離れたヨーロッパ諸国がインド太平洋でプレイヤーとなろう、重要な役割を果たそうという動きを見せている。国際連合(the United NationsUN、正確には連合国)の常任理事国であり、空母を備える海軍を持つイギリスとフランスを始めとして、オランダ、ドイツなどの小規模な海軍国が艦船をインド太平洋地域に派遣している。昨年には、NATOの東京事務所開設という話が出て、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の反対によって、いったん白紙となった。ヨーロッパから遠く離れたインド洋、太平洋地域でヨーロッパが全体として役割を果たそう、プレイヤーになろうという動きが高まっている。
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 ヨーロッパ側の主張、理由付けは、インド太平洋地域の航行の自由を守ることが、自分たちの貿易を守ることにつながるというものだ。これは、中国の存在を念頭に置いて、中国が航行の自由を阻害するという「被害妄想」でしかない。その「被害妄想」を理由にして、何もないインド太平洋地域にまで艦船を送るというのはご苦労なことである。

 ヨーロッパがインド太平洋地域において役割を果たすというのは、アメリカの手助けをするという理由もある。アメリカが中国と対峙している地域であり、ここでアメリカを助けることが必要だということである。更に言えば、アメリカの要求によって、ヨーロッパ各国は国防費の大幅増額、倍増を求められているが、艦船を派遣することで、「取り敢えず頑張っています」という姿勢を見せることで、少しでもこうした動きを和らげようということであろう。

 しかしながら、ヨーロッパはまず自分の近隣地域の平和な状況を作り出すことを優先すべきだ。ユーロピアン・アイソレイショニズム(European Isolationism、地域問題解決優先主義)を採用すべきだ。ロシアとの平和共存を目指し、ロシアの近隣諸国の中立化(武装解除ではない)を行い、ロシアとの関係を深化させることで、相互依存関係(interdependency)を構築し、戦争が起きる可能性を引き下げることだ。

 落語などでもよく使われる表現に「自分の頭の上のハエも追えない癖に、人様の世話ばかりしやがって」というものがある。ヨーロッパはまず、自分の近隣地域の安全も実現できていないのに、他人様の家にずかずか入り込んでくるものではない。まさに「何用あってインド太平洋へ」である。

(貼り付けはじめ)

ヨーロッパはインド太平洋のプレイヤーになりたいと考えている(Europe Yearns to Be an Indo-Pacific Player

-ヨーロッパ地域で戦争が続いているが、ヨーロッパの戦略的・海軍的な願望は世界の裏側にある。

キース・ジョンソン筆

2024年3月19日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2024/03/19/europe-navy-indo-pacific-strategy-maritime-security/

地政学的なアイデンティティを探し続けた年月を経て、ヨーロッパは国際関係において最も争いが頻発している分野でより大きなプレイヤーになることを目指し始めている。ヨーロッパが目指しているのはアジア地域を含む海洋安全保障分野(maritime security)での主要なプレイヤーである。

長年にわたる貧弱な国防費とハードパワーへの嫌悪感から立ち直り、ヨーロッパ全体、そしてヨーロッパの主要国の多くは、身近なところから地球の裏側まで、海洋安全保障への関心を急速に高めている。それは、ブリュッセル、パリ、ロンドンから矢継ぎ早に発表される野心的な戦略文書だけでなく、ヨーロッパ諸国の小さいながらも有能な海軍が、より多くの場所で、より多くのことを行い、争いの絶えない水路を確保し、自由航行と世界的なルールの尊重を取り戻すために、配備を拡大していることからも明らかである。

ヨーロッパの海軍は既にイエメンからのフーシ派ミサイル攻撃に対抗するために紅海で任務遂行をしており、ますます多くのヨーロッパのフリゲート艦や航空母艦が、大陸全体でのより大規模で広範囲にわたる責任への移行の一環として太平洋を巡行している。

10年ほど前の地中海での海上警備活動から始まったヨーロッパ連合(European UnionEU)の活動は、現在ではインド洋を含むさらに遠方への野心的な展開へと広がっている。先月、ヨーロッパ連合は紅海、ペルシャ湾、アラビア海で航路を確保するための海軍作戦を開始したばかりだが、これは同じ海域でより好戦的な米英の作戦とは別のものだ。

ウクライナでの大規模な陸上戦争が3年目を迎えている現在でも、ヨーロッパはインド太平洋の安全保障においてより大きな役割を果たすことにますます真剣になっている。ヨーロッパ連合はインド太平洋戦略と、この地域に改めて重点を置く新たな海洋安全保障戦略の両方を掲げている。

ブリストル大学の海軍専門家であるティモシー・エドマンズは、「ヨーロッパ連合の最新の海洋安全保障戦略で印象的なのは、海洋における国家間の紛争や対立の重要性と、そして政治的ダイナミクスの変化を認識し、本格的な転換を図ろうとしていることだ。特にインド太平洋地域とその中でのヨーロッパ連合の役割がそうだ」と述べている。

個々の国もまた、この活動に参加している。イギリスはアジアへの「傾斜(tilt)」を更に強化しようとしている。ヨーロッパ連合加盟国で唯一インド太平洋に領有権を持つフランスは、中国の台頭とバランスを取り、フランスとヨーロッパの重要な経済的利益を守るため、インド太平洋地域における海軍と外交のプレゼンス強化に全力を挙げている。ドイツやオランダのような中堅の地政学的プレイヤーでさえ、インド太平洋戦略を持っている。イギリス、フランス、その他いくつかのヨーロッパ諸国は、遠く離れた太平洋の海域に艦船を置いて、その願望をバックアップしている。

フランス国際関係研究所の軍事部門の研究員ジェレミー・バシュリエは、「インド太平洋における安全保障環境の悪化は、フランスとヨーロッパの利益に重大な脅威をもたらしている。インド太平洋における抑止力と軍事的対応努力は主にアメリカに依存しているが、ヨーロッパ連合加盟諸国は今や、台湾海峡、北朝鮮、南シナ海における危機や紛争など、この地域における危機や紛争の世界的影響を十分に理解しなければならない」と述べている。

ウクライナ戦争は、ヨーロッパの関心と武器を吸収した。それでもなお、ヨーロッパの東方シフト(European shift to the east)は続いており、その勢いは増している。それは、ウクライナ戦争がヨーロッパにとって紛争の真のリスク、特に世界の多くの国々と同様にヨーロッパが依存している世界貿易とエネルギーの流れの要であるインド太平洋における紛争の真のリスクについて警鐘を鳴らしたからでもある。

ハーグ戦略研究センターのポール・ファン・フフトは「インド太平洋地域におけるヨーロッパの存在感を高めようという意図は、ヨーロッパでの戦争にもかかわらず、まだ生き続けている。ウクライナ戦争がなければ、資源を確保するのは簡単ことだろうが、その一方で、今は新たな深刻な問題が出ている」と述べている。ヨーロッパのアジアへの軸足移動(The European pivot to Asia)が注目されるのは、フランスとおそらくイギリスを除けば、ヨーロッパ諸国がもともとインド太平洋地域のプレイヤーではないからだ。しかし、フランスとイギリスの空母に加え、ドイツ、イタリア、オランダの小型水上艦船がこの地域に派遣されている

ヨーロッパが、目の前に多くの課題があるにもかかわらず、地球半周分も離れた地域の争いに力を入れている理由はいくつかある。それらは、攻撃的な中国の台頭、商業とエネルギーの自由な流れを保護する必要性、そして、アメリカが、旧大陸が今後数十年間に形成されつつある重大な安全保障上の諸問題において、さらに前進し、主要な役割を果たすことができるという願望である。

長年にわたり、ヨーロッパは中国との間でバランスを取ろうと努め、中国からの投資を歓迎する一方で、北京に対するワシントンの好戦的な姿勢をますます強めていることから距離を置いてきた。しかし、中国による略奪的な貿易や経済慣行、南シナ海での威圧、太平洋における自由航行への脅威、そして台湾併合というあからさまな計画の組み合わせは、今やヨーロッパを、より明確なアプローチへと押しやっている。

前述のティモシー・エドマンズ「中国との関係の方向性は、ヨーロッパ連合全体で変化している。海外投資(foreign investment)であれ、一帯一路構想(the Belt and Road Initiative)であれ、太平洋での活動であれ、中国の破壊的な役割がますます認識されるようになっている。それらの国々の目からは日々鱗が剥がれ続けている状況だ」と語った。

オランダのような中堅諸国は、インド太平洋における自国の将来を、戦争に参加して実際に戦う海軍国としてではなく、むしろ投資、能力開発、安全保障支援を活用して、アジア諸国を中国の支配に対する防波堤となりうるより広範なグループへと呼び込むことができる外交国になるようにと考えている。ファン・フフトは「私たちにできることは、パートナー諸国に対して、“私たちは本当に気にかけているが、支援は別の形でなければならない”と伝えることだ」と述べている。

エマニュエル・マクロン大統領の下、フランスは長年にわたり、多くの人がバランシング姿勢とみなすものを追求しようとしてきたが、インド太平洋で何が起こるかについて、より現実的な見方にますます傾いている、と前述のジェレミー・バシュリエは述べている。「フランス政府は、アメリカ、インド、日本、オーストラリアで構成されるクアッド(Quad)のようなグループにはまだ正式に参加していないが、インドとのラ・ペルーズ海軍演習のような、考えを同じくする国々と以前よりも多くの演習に参加している」とバシュリエは語っている。

台湾や西太平洋をめぐる潜在的な紛争だけでなく、フランスやその他のヨーロッパ諸国が特に懸念しているのは、自由航行(free navigation)やエネルギーなどの重要物資の自由な流れ(free flow)に対する脅威である。これは、紅海における数ヶ月に及ぶフーシ派の活動や、イランによるホルムズ海峡閉鎖の威嚇によって浮き彫りにされ、世界有数の輸送量を誇る航路を自分専用の湖(a private lake)に変えようとする中国の明白な意志によって強調されている。このことは、海洋法を守り、自国の近くだけでなく、ヨーロッパに影響を及ぼすあらゆる場所で海運を保護したいというヨーロッパ共通の願望につながる。

ファン・フフトは「航路がますます攻撃に対して脆弱になっていることは誰の目にも明らかであり、海洋安全保障の関心は必然的にインド太平洋へと移行しつつある。依存関係(dependencies)を考えれば、航路を確保するという問題を無視することはできない」と語っている。

海洋での取り組みを拡大するというヨーロッパの取り組みは、アジアのパートナー諸国や潜在的なライヴァルだけでなく、アメリカにもメッセージを送っている。数十年とは言わないまでも、何年もの間、米政府はヨーロッパのNATO加盟諸国に防衛費を増額する必要性について説得しており、遅ればせながら、増額を始めている国もある。しかし専門家たちは、特にヨーロッパの近隣地域と、それを遠く越えた地域での海洋安全保障能力の強化は、ヨーロッパ全体がアメリカに真の支援を提供できる分野の1つであると主張している。

これには紅海やホルムズ海峡でのヨーロッパ諸国の任務のような巡回活動が含まれるが、米空母打撃群の長期間の派遣を具体化するためのヨーロッパ諸国からの水上艦艇の定期派遣も含まれる。

ファン・フフトは「これらの任務は全て、大国ではない国の海軍でも役割を果たすことができる、非常に具体的な方法である」と述べている。

しかし、より正確には、どのような役割となるのだろうか? ヨーロッパで最も強力な2つの海軍、イギリス海軍とフランス海軍は、合わせて3隻の中規模空母と40数隻の主要な水上艦艇を保有している。アメリカ海軍は、太平洋艦隊だけでも常時それ以上の数を保有している。イタリア、スペイン、ドイツ、オランダといった国々のより小規模な海軍は、ほとんどが小型のフリゲート艦と一握りの水陸両用艦で構成されている。それでも、フランスとイギリスの空母は、他のヨーロッパ諸国の艦船に護衛されながら、今年後半から来年にかけてインド太平洋に向かう予定であり、どちらもアメリカ軍との相互運用性(interoperable with U.S. forces)を高めるための訓練を受けている。

しかし、だからといって、台湾や南シナ海をめぐって太平洋戦争が勃発した場合、ヨーロッパの軍艦がアメリカやパートナー諸国の海軍を直接支援できるかというと、そうではないとバシュリエは主張している。ヨーロッパ北西部から南シナ海までは到着までに約2週間かかり、南シナ海での後方支援もないため、ヨーロッパの海軍はたとえその意志があったとしても、紛争が起きた場合に大きな役割を果たすことは難しいだろう。

より間接的ではあるが、アジアの海洋環境を形成する上で最終的により有益な役割は、もう少し身近なところで果たせるかもしれない。紅海やインド洋西部で既に海賊やテロリストに対する活動を開始しているヨーロッパ諸国の海軍は、シーレーン保護(sea lane protection)の任務を全面的に担うことができ、アメリカとそのパートナー諸国海軍は太平洋に集中することができる。

バシュリエは「アジアで紛争が発生した場合、ヨーロッパはおそらく、海上交通の安全保障と管理を確保し、スエズ運河とマラッカ海峡の間の“後方基地(rear bases)”を監視しなければならなくなるだろう」と語っている。

バシュリエは更に「バブ・エル・マンデブ海峡からベンガル湾のマラッカ海峡の開口部までの範囲で活動するヨーロッパの海軍は、ヨーロッパのエネルギー権益を維持しつつ、北京の戦略的供給を制約することができる」とも述べている。

※キース・ジョンソン:『フォーリン・ポリシー』誌記者(地経学・エネルギー担当)。ツイッターアカウント:@KFJ_FP

(貼り付け終わり)

(終わり)
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ビッグテック5社を解体せよ

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 2023年12月27日に最新刊『バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる』(徳間書店)を刊行いたしました。前半はアメリカ政治、後半は世界政治の分析となっています。2024年にアメリカはどうなるか、世界はどうなるかを考える際の手引きになります。是非手に取ってお読みください。よろしくお願いいたします。

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バイデンを操る者たちがアメリカ帝国を崩壊させる

 今回は地政学の大きな流れをまとめた優れた論稿をご紹介する。著者のハル・ブランズはジョンズ・ホプキンズ大学教授で、『フォーリン・ポリシー』誌や『フォーリン・アフェアーズ』誌に多くの論稿を発表し、著書『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』(飛鳥新社)もある。ハルフォード・マッキンダー、アルフレッド・セイヤー・マハン、ニコラス・スパイクマン、カール・ハウスホーファーといった、地政学の大立者の思想を簡潔にまとめている。また、現代にまで引き付けて、分析を加えている。

 地政学の有名な理論としては、「ランドパワー・シーパワー」「ハートランド・リムランド」「生存権(レーベンスラウム)」といったものがあるが、簡潔に述べるならば、「イギリス、後にはアメリカが、世界を支配するためには、ユーラシア大陸から有力な挑戦者が出てこないようにする」ということである。地政学がドイツに渡れば、「ドイツが生き残るためには拡大していかねばならない」ということになった。
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 現在に引き付けて考えてみると、「ロシアと中国を抑え込むために、アメリカは、ヨーロッパ(とイギリス)、日本を使う」ということであり、「インド太平洋」という概念を用いるということになる。これは逆を返して考えれば「ユーラシアでロシアと中国が団結して強固な結びつきで一大勢力となって、アメリカやイギリス、日本を“辺境化”する」ということになる。今、私たちは世界の中心がアメリカやイギリスであると考えるが、ユーラシアに世界の中心が移れば、アメリカもイギリスも世界の外れということになる。世界は大きな構造変化を起こしつつある。これからはユーラシア大陸の時代ということになるだろう。

 世界を大きく、俯瞰で見るために地政学は有効である。地政学的な素養は学者だけではなく、多くの人々にとっても必要である。現在の世界を説明するために、そして、新たな状況の出現を予測したり、考えたりすることは有意義なことだ。そして、新たな時代には新が地政学の思想が出てくることだろう。それが今から楽しみだ。

(貼り付けはじめ)

地政学は期待と危機の両方をもたらす(The Field of Geopolitics Offers Both Promise and Peril

-世界で最も悲惨な学問(science)は、ユーラシア大陸を非自由主義や略奪にとって安全なものにするかもしれないし、そうした力から守るかもしれない。

ハル・ブランズ筆

2023年12月28日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2023/12/28/geopolitics-strategy-eurasia-autocracies-democracies-china-russia-us-putin-xi/

アレクサンドル・ドゥーギン(Aleksandr Dugin、1962年-、62歳)はちょっとした狂人だ。このロシアの知識人は2022年、ドゥーギン自身を狙ったと思われる、ウクライナの工作員が仕掛けたモスクワの自動車爆弾テロで、彼の娘が殺害され、西側で大きな話題となった。ドゥーギンが標的にされたのは、ウクライナでの大量虐殺を伴う征服戦争(genocidal war of conquest in Ukraine)を何年も前から堂々と提唱していたからだろう。「殺せ! 殺せ! 殺せ!」。2014年、ロシアのウラジーミル・プーティン大統領が初めてウクライナに侵攻した後、彼はこう叫んだ。更に、「これは教授としての私の意見だ」と述べた。娘の葬儀でも、ドゥーギンはメッセージに忠実だった。幼児だった娘の最初の言葉の中に、「私たちの帝国(our empire)」という言葉があったと彼は主張した。

本当かどうかは別として、このコメントはプーティン大統領の外交政策を形作る熱狂的なナショナリズムを知る窓となった。それはまた、よく誤解されている伝統である、地政学(geopolitics)への窓でもある。単に力の政治(power politics)の同義語として使われることも多い地政学は、実際には19世紀後半から20世紀初頭にかけて現れた、国際関係に対する独特の知的アプローチであり、その洞察(insights)と倒錯(perversions)が現代を深く形作ってきた。

ドゥーギンは1990年代、アメリカに対抗するためにユーラシア帝国を再建することで、落ちぶれた(down-and-out)ロシアがその偉大さを取り戻すことができると主張し、一躍有名になった。これは、1904年にイギリスの地理学者ハルフォード・マッキンダー(Halford John Mackinder、1861-1947年、86歳で没)が提唱した「これからの時代はユーラシアに依拠する侵略者とオフショアのバランサーとの衝突(clashes between Eurasian aggressors and offshore balancers)によって定義される」という論文の奇妙な世界への応用であった。マッキンダーの論文は、地政学という学問分野の確立に貢献した。ドゥーギンの暴言やプーティンの犯罪が示すように、地政学は今日でも知識人や指導者に影響を与えている。

地政学は、地理学が、テクノロジーと相互作用するかを研究する学問であり、グローバルパワーをめぐる絶え間ない争いに関して研究する学問である。地政学が注目されるようになったのは、ユーラシア大陸という中心的な舞台を支配することで、現代世界を支配しようとする巨人同士の衝突の時代が始まってからだ。そして、冷戦後の時代に地政学が時代遅れのものに思えたとしても、酷い戦略的対立関係が再登場している今、その重要性は急劇に高まっている。しかし、20世紀の歴史と現代の戦略的要請を理解するには、地政学の伝統は1つではなく、2つあることを理解する必要がある。

マッキンダーと彼の知的継承者たちに代表される、地政学の民主的な伝統が存在する。これは恐ろしいが悪とは​​言い難い。それは、猛烈な無政府状態の世界で自由主義社会がどのように繁栄できるかを理解することを目的としているからだ。そして、ドゥーギンに象徴される独裁的な地政学学派があり、それはしばしば純粋かつ単純な毒である。この独裁学派地政学はプーティン大統領と中国の習近平国家主席の政策によく表れている。民主諸国家の政策立案者たちが新たな時代を形作るには、自らの地政学の伝統を再発見する必要がある。

経済学が陰鬱な学問だとすると、地政学はそれほど明るい科学ではない。地政学は1890年代から1900年代にかけて出現した。この時代は、帝国間の競争が激化し、交通と通信の革命により世界が1つの戦場となり、戦略家たちが危険で相互につながりのある世界で生き残るための絶対条件を見極めようとしていた時代だった。地政学の研究は常に、世界中の自由の運命の中心となりつつある超大陸であるユーラシアに特別な焦点を当ててきた。

マッキンダーが論文「歴史の地理的軸(The Geographical Pivot of History)」で説明しているように、テクノロジーはユーラシア大陸の地理を紛争の温室(hothouse of conflict)にしてきた。鉄道の普及は軍隊の移動時間を大幅に短縮し、野心的な国家、特に急速に近代化する独裁国家が陸地の端から端まで覇権を求める時代を予見していた。それらの国家が資源豊富な超大陸を征服した後は、比類なき海軍の建設に目を向けることになる。

マッキンダーの厳しい予測は、大陸の諸大国がユーラシア大陸を支配することを目指し、やがて世界を支配するというものだった。マッキンダーは、やがてロシアが世界を支配すると懸念していた。マッキンダーの言う、リベラルな超大国は、ユーラシア大陸の分断を維持することで、この世界的専制主義(global despotism)を阻止しなければならない。マッキンダーにとって、そのリベラルな超大国はイギリスだった。イギリスは、陸と海で覇権を狙う国々をけん制しながら、その周辺では、危険に晒されている「橋頭堡(bridge heads)」を保持しなければならないとマッキンダーは考えた。

アルフレッド・セイヤー・マハン(Alfred Thayer Mahan、1840-1914年、74歳で没)は、アメリカに出現したマッキンダーの分身のような存在であった。シーパワー(sea power)の伝道師であるマハンは、中米地峡に運河を建設し、戦艦軍団を編成し、難攻不落の海洋強国を築き上げるようアメリカに働きかけ、知的キャリアを積んだ。しかし、マッキンダーのように、マハンも超大陸を神経質に見つめていた。彼は次のように見ていた。蒸気の時代(age of steam)には、ユーラシア大陸の統合は海を隔てた国々を脅かすかもしれない。もしかしたら、ロシア皇帝が中東や南アジアを突破して、より温暖な海域とより広い地平線を目指すかもしれない。あるいは、日本やドイツが自国内の支配を確立した後、海を越えてさらに遠くを見据えるかもしれない。

マッキンダーが卓越した陸の力が卓越した海の力につながると考えたとすると、マハンはユーラシア大陸内の危険をコントロールするには、その周辺の海域を支配する必要があると考えた。そこでマハンは、米英の海洋同盟(maritime alliance between the United States and Britain)に狙いを定め、2つの海洋民主政治体制国家が海を取り締まり、それぞれの自由の伝統にふさわしい世界システムを維持することを目指した。マハンは1897年、「英語を話す民族の心情の統一(unity of heart among the English-speaking races)」こそが、「この先の疑わしい時代における人類の最良の希望となる(lies the best hope of humanity in the doubtful days ahead)」と書いている。

地政学の闘技場で重要な3人目の人物は、第二次世界大戦の世界的混乱の中で頭角を現したオランダ系アメリカ人の戦略家であるニコラス・スパイクマン(Nicholas J. Spykman、1893-1943年、49歳で没)だ。スパイクマンはマッキンダーの主張や考えを次のように改造した。最も鋭い挑戦は、荒涼としたロシアの「ハートランド(heartland)」ではなく、ユーラシア大陸に深く切り込みながら、隣接する海を越えて攻撃することができるダイナミックで工業化された、「リムランド(rimland)」の国々、すなわちドイツと日本だ。鉄道がマッキンダーを魅了し、戦艦がマハンを夢中にさせたとすれば、スパイクマンを悩ませたのは爆撃機(bomber)であった。ひとたび全体主義国家がヨーロッパとアジアを制圧すれば、彼らの長距離航空戦力(long-range airpower)が新世界(西半球)の海洋進入路を支配し、その一方で封鎖と政治戦争がアメリカを弱体化させ、殺戮に向かうとスパイクマンは考えた。ユーラシア大陸内のパワーバランスを冷酷に調整することによってのみ、ワシントンは致命的となりかねない孤立を避けることができると主張した。

現在、これらの思想家たちを分析することは憂鬱であり、逆行的でさえある。マハンは誇らしげに自らを「帝国主義者(imperialist)」と呼び、マッキンダーは中国に「黄禍(yellow peril)」のレッテルを貼った。地政学が拠り所とする二重の決定論(dual determinism)、すなわち地理が世界の相互作用を強力に形成し、世界は過酷で容赦のない場所であるということを、全員が受け入れていた。スパイクマンは1942年に「国家が生き残れるのは、絶えずパワーポリティックスに献身することによってのみである」と書いている。

それは正しくなかった。マッキンダー、マハン、そしてスパイクマンは、新しいテクノロジーと、より凶暴な暴政の夜明けによって、より恐ろしくなった世界規模での対立の時代を乗り切ろうとしていた。マハンが言うところの「個人の自由と権利(the freedom and rights of the individual)」を尊重する民主的な社会が、「個人の国家への従属(the subordination of the individual to the state)」を実践する社会からの挑戦を生き残ることができるかどうか、3人とも最終的にはそれを懸念していた。つまり3人とも、どのような戦略、マッキンダーの言葉を借りれば「権力の組み合わせ(combinations of power)」が、許容可能な世界秩序を支え、ユーラシア大陸の統合が新たな暗黒時代の到来を告げるのを防ぐことができるかを見極めようとしていた。

この民主学派地政学(democratic school of geopolitics)は、非自由主義的な諸大国によって運営される超大陸を、避けるべき悪夢とみなした。権威主義学派地政学(authoritarian school)は、それを実現すべき夢と考えた。

自由主義の伝統に彩られた地政学が英米の創造物であるとすれば、より厳しく独裁的な倫理観を持つ地政学はヨーロッパ大陸で生まれたものだ。後者の伝統は、19世紀後半にスウェーデンの学者ルドルフ・チェーレン(Rudolf Kjellen、1864-1922年、58歳で没)とドイツの地理学者フリードリヒ・ラッツェル(Friedrich Ratzel、1844-1904年、59歳で没)が始まりである。これらの思想家たちは、ヨーロッパの窮屈で熾烈な地理学の産物であり、当時の最も有害なアイデアのいくつかを生み出した。

チェーレンとラッツェルは社会ダーウィニズム(social Darwinism)の影響を受けていた。彼らは、国家を拡大しなければ滅びる生命体とみなし、国民性を人種的な用語で定義した。彼らの一派は、1901年にラッツェルが作り出した「生存圏(Lebensraum)」、生活空間(living space)の探求を優先した。この伝統は、大陸の征服と開拓に成功したアメリカからインスピレーションを得ることもあったが、帝国ドイツのように、拡張主義的なヴィジョンと非自由主義的、軍国主義的な価値観が両立していた国々で最も開花した。そしてその後の数十年の歴史が示すように、この反動的でゼロサムの傾向を持つ地政学は、前例のない侵略と残虐行為の青写真(blueprint)となった。

このアプローチの典型は、カール・ハウスホーファー(Karl Haushofer、1869-1946年、76歳で没)である。彼は第一次世界大戦時には砲兵司令官を務め、1918年の敗戦後、ドイツ復活(German resurrection)の大義を掲げた。ハウスホーファーにとって、地政学は拡大と同義だった。第一次世界大戦後、ドイツは連合国によって切り刻まれた。ドイツが取るべき唯一の対応は、「現在の生活空間の狭さから世界の自由へと爆発することだ(out of the narrowness of her present living space into the freedom of the world)」と彼は書いている。ドイツは、ヨーロッパとアフリカにまたがる資源豊富な自国の帝国を主張しなければならない。抑圧され、持たざる国、すなわち日本とソヴィエト連邦が、ユーラシア大陸と太平洋の他の地域でも同様のことをすると、彼は信じていた。

ハウストホーファーが「汎地域(pan-regions)」と呼ぶものを統合することによってのみ、修正主義諸国は敵に打ち勝つことができた。また、協力することによってのみ、敵、すなわちイギリスによる分割統治(divide-and-conquer)を阻止することができた。この地政学の目標は、独裁的な軸によって支配されるユーラシアであった。マッキンダーが警告していたことを、ハウシュホーファーは彼の著作から惜しみなく借用し、実現する決意を固めた。

騒乱や殺人なしにこれが達成できるという気取りはなかった。ハウスホーファーは「世界は、政治的な整理整頓(political clearing up)、権力の再分配を必要としていた。小国はもはや存在する権利がない」と書いている。ハウストホーファーは、1930年代後半から1940年代初頭にかけてドイツが行った「生存圏」の獲得という殺人行為を支持することになった。

ハウスホーファーは、アドルフ・ヒトラーが1920年代に収監されている間、アドルフ・ヒトラーの相談役を務めていた。ヨーロッパのライヴァルを排除することの重要性、東方における資源と空間の必要性など、ヒトラーの『我が闘争(Mein Kampf)』の中心的主張は、純粋なハウスホーファーの主張であったと歴史家のホルガー・ヘルヴィッヒは書いた。ヒトラーが英米のシーパワーへの回答として提唱した広大なユーラシア陸軍帝国も、同様にハウスホーファーの思想に影響を受けたものだった。歴史上最も大胆な土地強奪は、ヒトラーの誇大妄想(megalomania)、病的な人種差別主義、権力への壮大な渇望に起因する。それはまた、悪の地政学(geopolitics of evil)に支えられていた。

国家と国家の衝突は思想の衝突である。20世紀を解釈する1つの方法は、民主学派地政学が独裁主義的な地政学を打ち負かしたということである。

第一次世界大戦、第二次世界大戦、そして冷戦において、根本的に修正主義的な諸国家(radically revisionist states)は、ハウストホーファーの脚本をそのまま実行に移した。ドイツ、日本、ソヴィエト連邦はユーラシア大陸の広大な土地を占領し、近隣の海と争った。支配地域は、時には殺人的な残虐性をもって統治された。しかし、リベラルな超大国が指揮を執り、民主国家が持つ最高の地政学的洞察に導かれた世界連合によって、彼らは最終的に敗北した。

マッキンダーによれば、これらのオフショア(ユーラシア大陸から離れた)諸大国(offshore powers)は、ユーラシア大陸の捕食者たちが超大陸を蹂躙し、彼らの注意が完全に海洋に向くのを防ぐために、陸上に同盟諸国を育成した。マハンが予見したように、米英は大西洋を支配し、ワシントンの圧倒的なパワーを発揮させるために同盟を結んだ。そして、スパイクマンが推奨したように、アメリカは大西洋と太平洋にまたがる同盟関係を構築し、かつての同盟国であったソ連を封じ込めるために、日本とドイツという改心した敵を利用することで、ユーラシア大陸の分断を維持することに最終的に関与することになる。

実際、こうした闘いでは道徳的な妥協が繰り返された。西側民主政体諸国は、第二次世界大戦ではソ連の指導者ヨシフ・スターリンと、冷戦後期では中国の指導者毛沢東と悪魔の取引(devil’s bargains)をした。彼らは、封鎖、爆撃、クーデター、秘密介入といった戦術を用いたが、それはより高い善への貢献によってのみ正当化できるものだった。スパイクマンは、「全ての文明的生活は、最終的にはパワーにかかっている。と書いている。民主政体諸国は、世界最悪の侵略者が最も重要な地域を支配するのを防ぐために、冷酷にパワーを行使した。

1991年のソヴィエト連邦の戦略的敗北と解体によって頂点に達したこれらの勝利の報酬は、繁栄する自由主義秩序と、グローバル化と民主化によって地政学が時代遅れになったという感覚であった。しかし残念なことに、世界は今、独裁的な挑戦者たちが古い地政学的思想を武器とする、新たな対立の時代に突入している。

プーティンの新帝国主義プログラム(neoimperial program)について考えてみよう。1990年代から、ドゥーギンは、ロシアは覇権主義的な「大西洋主義者」連合(“Atlanticist” coalition)によって存在を脅かされていると主張し、ロシアの安全保障エリートたちの間でその名を知られるようになった。ハウホーファーと同様、ドゥーギンはマッキンダーを逆転させることで活路を見出した。ドゥーギンは2012年に、モスクワにとっての最良の戦略は「私たち自身の手でロシアのために偉大な大陸ユーラシアの未来を作ることだ(great-continental Eurasian future for Russia with our own hands)」と書いている。旧ソ連の諸共和国を取り戻し、不満を抱く他の国々と結びつきを強めることで、ロシアはユーラシア修正主義者のブロック(bloc of Eurasian revisionists)を構築することができる。「ロシアの核心地域(The heartland of Russia)」は「新たな反ブルジョア、反米革命の舞台(“staging area of a new anti-bourgeois, anti-American revolution)」だとドゥーギンは1997年に書いた。西側諸国ではプーティンとドゥーギンの結びつきはしばしば誇張されてきたが、後者の著作は前者が何をしたかを知る上で悪くない指針となる。

プーティンのロシアは、その支配から逃れようとした近隣諸国(グルジアとウクライナ)の領土を分割し、一方で毒殺、戦略的腐敗、その他の戦術を駆使して他のポスト・ソヴィエト諸国を従属させ、隷属させてきた。西側諸国の政治的不安定を煽り(これもドゥーギンが提唱した共同体を崩壊させる戦術である)、その一方で、プーティンの言葉を借りれば、「現代世界の両極の1つ(one of the poles of the modern world)」として機能しうるユーラシアの制度を構築しようとしている。その一方で、プーティンはユーラシアを独裁的で反米的な大国の要塞とすることを目指して、中国やイランと擬似的な同盟関係を結んでいる。プーティンはまたもやドゥーギンの言葉を引用し、ロシアは「リスボンからウラジオストクまで」広がる「共通地帯(common zone)」を作らなければならないと述べている。プーティンはまた「ユーラシア超大陸は、ロシアが守るべき“伝統的価値”の避難所(a haven for the “traditional values”)であり、ロシアが利用すべき“大いなる機会”の源泉(a source of “tremendous opportunities”)である」と述べた。

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻は、広々としたユーラシア大陸の中心地とダイナミックなヨーロッパ大陸の縁を結ぶウクライナを征服することで、この計画を加速させることを意図していた。ここでプーティンは、ドゥーギンが規定した血なまぐさい倫理観をもって、ロシアの「偉大な大陸ユーラシアの未来(great-continental Eurasian future)」を追求した。拷問、強姦、殺人、去勢、大量拉致、ウクライナの民族的アイデンティティを抹殺する組織的な努力は、専制的な政権の残虐性を帯びたユーラシア拡張の地政学の再来を示している。

中国の国家運営もまた、おなじみの弧を描いている。第二次世界大戦以来最大の海軍増強を行うことで、北京は台湾を奪取し、スパイクマンが西太平洋の「限界海域(marginal seas)」と呼ぶ重要な海域を支配する力を身につけようとしている。この目標を達成すれば、中国はユーラシア大陸で最も活気のある地域の覇者となる。また、世界中に基地を持つブルーウォーター・ネイヴィー(外洋海軍)への投資を自由に行うことで、習近平の言葉を借りれば「海洋大国(great maritime power)」となる。マハンが生きていれば、きっとこの中国の動きに注目していたことだろう。

マッキンダーの思想を応用した考えが中国の戦略にも反映されている。習近平の「一帯一路(the Belt and Road)」構想は、それに続くいくつかのプログラムと同様、東南アジアから南ヨーロッパ、そしてそれより遠方の国々を、経済的、技術的、外交的、そしておそらくは軍事的な影響力で包み込むことを意図している。これがうまくいけば、中国は中国中心の超大陸の周縁部(periphery of a Sino-centric supercontinent)にしがみつこうとしているヨーロッパに対して、圧倒的な地位を占めることになり、おそらくは北京が管理するシステムの中で、アメリカを二流の地位に追いやることさえできるだろう。学者ダニエル・S・マーキーは著書『中国の西方水平線』の中で、「ユーラシア大陸の資源、市場、港湾へのアクセスは、中国を東アジアの大国から世界の超大国へと変貌させる可能性がある」と書いている。習近平の中国は、人民解放軍の劉亜州上将が2004年に提言したように、「世界の中心を掌握する(seize for the center of the world)」ことを決意した。

しかし、中国の国家運営がマハンとマッキンダーの見識を採用しているとすれば、その意味するところは独裁的な伝統に沿ったものということになる。中国の外交官たつは、台湾が中国と統一された後に台湾の住民を「再教育(reeducate)」することを約束しているが、この脅しは20世紀最悪の犯罪の記憶を呼び起こさせる。中国が支配するユーラシア大陸は、ハウスホーファーが誇りに思うような権威主義的な汎地域となるだろう。北京とモスクワは、時には上海協力機構(Shanghai Cooperation Organization)を通じて協力し、中央アジアにおける潜在的なカラー革命(color revolutions)を阻止し、国境を越えて逃亡する反体制派を追い詰めてきた。その一方で、専制政治の近代化は北京の積極的な援助によって続けられている。「中国のデジタル・シルクロード(China’s Digital Silk Road)」は、最先端の監視装置を装備することで、非自由主義的な政府を強化している。

膨張と抑圧がどのように相互作用しているかを示す最も明確な例は、中国国内において見られる。習近平政権は新疆ウイグル自治区を、ウイグル族を強制収容所に押し込め、容赦ないデジタル弾圧を実施することで、人道上のホラーショーと化している。北京は「独裁の器官(organs of dictatorship)」を駆使し、「絶対に容赦しない(absolutely no mercy)」と習近平は2014年に指示した。この政策の根拠は地政学にある。新疆ウイグル自治区は、中国のユーラシア大陸への重要な輸送ルートの上に位置しているため、「新疆ウイグル自治区は特別な戦略的意義を持つ(Xinjiang work possesses a position of special strategic significance)」と習近平は述べている。それは、中国の力によって残虐行為が拡散することを予感させるものだ。

ハウホーファーの後継者たちは、非自由主義と略奪にとって安全なユーラシアを求めている。民主世界はその試練に応えるため、自らの地政学的系譜を復活させる必要がある。

ワシントンは今、マハンが夢見たような艦隊のような戦艦を必要としているわけではない。

技術革新は、その本質ではないにせよ、ライヴァル関係のリズムを変化させる。今日の競争は、新しい能力と新しい戦争領域を特徴としており、かつてないほど長距離の敵を攻撃することが容易になっている。しかし、いくつかの現実は変わらない。グローバル秩序を安定させるには、その中心にある悪意ある覇権主義(hegemony)を回避する必要がある。民主学派地政学は、このように常に変化しながらも、私たちが考えているほど斬新ではない世界をナビゲートするための心象地図(mental map)と一連の原則を提供している。

第一に、地政学とリベラルな価値観は相反するものではない。後者を守るには前者をマスターすることが不可欠だ。自由主義世界は理性、道徳、進歩を称賛するが、地政学的伝統は闘争と争いを強調する。しかし、西側の自由主義秩序の前提条件は、二度の世界大戦と冷戦において、自由の最も恐ろしい敵を打ち砕くか封じ込める力の組み合わせを生み出すことであった。世界が、ほんの数年前に出現した、破滅的な戦争や独裁的な優勢から安全ではなくなっていることを考えると、リベラルな価値観の隆盛には、パワーポリティックスにおいて地政学をスムーズに応用できる能力を国家が持つことが再び必要となるだろう。

地政学を学ぶ者なら、2つ目の洞察も理解できるだろう。スパイクマンは、ユーラシア大陸が枢軸諸国(the Axis)に制圧されそうになっていた1940年代初頭に、彼の代表的な著作を執筆した。リベラル勢力がどん底状態に陥ったことが、ユーラシア大陸の均衡が新たに崩れないようにすることで、次の戦争を防ぐ戦略を求めるスパイクマンの主張につながった。

スパイクマンが着想した戦略の歴史的成果のおかげで、西側諸国は、プーティンがウクライナに強硬に攻撃しないように、重要な援助を提供することで、東ヨーロッパの奥深くでロシアと均衡を保つことができるようになった。ワシントンとその同盟諸国は、中部太平洋ではなく台湾海峡で北京の力を牽制することができる。このような立場を維持するための軍事的・外交的要求は重いが、修正主義者たちが勢いづいた後に、より弱い立場からバランスを取ることに比べれば、その要求が少ないことは確かである。

ポジションを維持するためには、第3の原則を守る必要がある。それは、地政学とは同盟政治(alliance politics)であり、ユーラシア大陸の覇権をめぐる戦いは、同盟の構築と破棄の競争ということだ。スパイクマン、マッキンダー、マハンが把握していたように、海外の大国は、たとえ超大国であっても、最前線の同盟国の助けがあって初めてユーラシア大陸の情勢を調整することができる。逆に、覇権国家を目指す国は、海外からの支援を阻止し、隣国を孤立させることによってのみ、隣国を制圧することができる。

したがって、ユーラシア大陸のバランスは、アメリカが旧世界の周辺地域に介入するために必要な主権的、軍事的優位性を維持できるかどうかにかかっている。しかし、たとえ強制、賄賂、選挙妨害、その他の介入戦術を用いる敵対者に対して、遠く離れた大陸にアクセスし、影響力を与え、追加の能力を与える同盟と安全保障ネットワークをワシントンが適応させて強化すればそれは問題ではない。それらの同盟は全く別のもとして考える必要がある。

マッキンダーが思い起こさせるように、パートナーのタイプや場所も重要である。中国との戦いは主に海洋問題である。しかし、これは4つ目の教訓であるが、ランドパワーとシーパワーは、たとえその相対的なメリットが際限なく議論されるとしても、互いに補完し合うものである。ワシントンが太平洋で孤立無援の敵に直面することを望むならば、ヴェトナムや特にインドなど、中国の脆弱な陸上国境に沿ってディレンマを生み出すような友好諸国の存在が必要になる。

ヴェトナムもインドも理想的なパートナーではないが、これは第5の原則を強調している。アメリカにとって戦略とは、民主的な団結と卑劣な妥協を融合させる技術である(art of blending democratic solidarity with sordid compromises)。ユーラシア大陸の大西洋と太平洋の縁に広がる自由民主諸国は、ワシントンの連合の中核である。しかし、バランスを維持するには、常に非自由主義的なアクターたちと非自由主義的な行為が関与してきた。

この世代の修正主義者たちを封じ込めるには、シンガポールからサウジアラビア、トルコに至るまで、友好的な、あるいは単に二律背反的な権威主義者の弧に対峙する必要がある。ライヴァル関係の激化によって、ワシントンが秘密裏の謀略、経済的妨害工作、代理戦争に手を染めることになっても、ショックを受ける必要はない。覇権をめぐる争いは、比較的立派な民主国家に醜いことをさせるものである。

しかし、第6の教訓を忘れてはならない。ユーラシアの争いは一次元的なものでも、単地域的なものでもない。マハン、マッキンダー、そしてスパイクマンはみな、ユーラシア大陸を巨大で相互に結びついた舞台と見なしていた。最近では、アメリカにとって本当に重要なのは台湾だけであり、軍事力だけが真に重要なパワーの一種であるという、より還元主義的な見方(reductionist view)をする分析者たちもいる。西太平洋で中国に敗戦した場合の結果は、確かに画期的なものとなるだろう。しかし、自由世界が直面している問題はそれだけではない。

今日のウクライナにおける仮定の話ではない戦争の結果は、バルト海から中央アジアまでの戦略的バランスを形成し、ユーラシアの独裁国家とそれに対抗する自由民主政体国家との間の優位のバランスを形成する。だからこそ、ウクライナを切り離せという声は、ワシントンの最も脆弱な西太平洋の同盟諸国からはほとんど聞こえてこないのだ。

更に言えば、マッキンダーが1904年の論文で書いたように、中国は対外的にも対内的にも拡大することができる。ユーラシア大陸に進出すれば、「偉大な大陸の資源に海洋の出入り口を加える(add an oceanic frontage to the resources of the great continent)」ことができる。また、スパイクマンが付け加えるように、政治戦争(貿易、技術、その他の非軍事的手段の利用)は、戦争そのものと同様に敵を軟化させることができる。つまり、これらの思想家たちは、北京の経済的・技術的影響力を封じ込めることは、その軍事力を牽制するのと同じくらい重要であり、ワシントンがユーラシア大陸の一部分に焦点を当て、他の地域を排除するような単純なことはできないということを理解している。

その多くは、将来に対する厳しい見通しを示している。しかし、民主学派地政学が冷徹なパワーに関する計算の専門知識を必要とするのであれば、それだけに限定することはできない。最後の洞察は、世界的な危機は創造の機会であるということだ。

20世紀において、ユーラシア大陸における挑戦諸国の活動は、世界の民主国家に前例のない協力を呼び起こした。ユーラシアの挑戦諸国の活動は、世界の民主国家にかつてない協調を呼び起こし、侵略の計画を退けるとともに、世界の多くの地域にかつてない繁栄と幸福をもたらした自由主義秩序の基礎を築いた。現在の対立関係の中で成功する連合とは、20世紀の時と同様に、地球規模のグループが、かつてないほど軍事的、経済的、技術的、外交的に団結して、この時代の最も差し迫った課題に対処するものである。マッキンダーは、「反感を買う個性(A repellent personality)」には「敵を団結させる(uniting his enemies)」という美点があると書いた。民主学派地政学の目標は、今日また新たな時代の創造を可能にする安全保障を提供することであるべきだ。

ハル・ブランズ:ジョンズ・ホプキンズ大学ポール・H・ニッツェ記念高等国際関係大学院(SAIS)ヘンリー・A・キッシンジャー記念特別教授、アメリカン・エンタープライズ研究所上級研究員。ツイッターアカウント:@HalBrands
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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
20211129sankeiad505

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 古村治彦です。

 ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問し、それに中国が反発、軍事演習を行うなど緊張が高まった。しかし、アジア太平洋の国々は、少数のおっちょこちょいを除いて冷静に反応した。今回はそのことについての記事をご紹介する。

 台湾(中華民国)が国連での加盟資格を喪失して以降、台湾は多くの国々との正式な外交関係を喪失している。もちろん、そうした国々との非公式な関係、経済関係は持っているので、世界から完全に孤立している訳ではない。半導体の生産拠点として確固たる地位を築いている。しかし、公式的には外交上の関係はない国がほとんどだ。

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台湾と正式な外交関係を結んでいるのは十数カ国に過ぎない。それらの国々は中米と太平洋地域に多い。近年では中国の外交攻勢もあって、台湾との正式な外交関係を終了させる国々も出ている。これらについては以下の地図を見て欲しい。

pacificislandnationsmap512
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 今回、ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問したことは中国を苛立たせた。しかし、それ以上の影響も効果もなかった。ペロシ議長が訪台したからと言って、台湾に対してより肩入れをする国は出現しなかった。インド太平洋地域において、台湾防衛を明言し、アメリカと一緒にやってやるぞと意気込む国は出てこなかった。アメリカと日本とオーストラリアがややそれに近い態度を示したが、クアッド4カ国の枠組みで重要な参加国であるはずのインドは日米豪の共同声明には加わらなかった。また、米韓同盟でアメリカとは緊密な関係を持つ韓国の場合には、ペロシが訪問しても大統領が直接会うことはなかった。アメリカの勢い込んだ態度に付き合わされて馬鹿を見るのは嫌だ、という考えが明らかだった。

 東南アジア諸国連合(ASEAN、アセアン)加盟の国々も静観の構えだった。フィリピンだけがややアメリカ寄りの姿勢を示したが、それ以上ではなかった。こうして見ると、台湾をめぐっては、「中国対アメリカ・日本・オーストラリア」という構図になっていることが分かる。日本とオーストラリアのおっちょこちょいぶりもなかなかなものだが、アメリカの属国である以上は仕方がない行動でもある。「台湾をめぐって戦争なんか起こすなよ。中国も手荒な真似をせずに徐々に吸収するようにしたら良いし(今もそうしているではないか)、台湾もアメリカを引き込んで大々的に中国と戦うなんて馬鹿なことを考えるなよ(そんなことになったら支持しないからな)」というのが大勢(たいせい)の考え方である。

 ウクライナ戦争勃発当時、「ウクライナの次は台湾だ」という標語を掲げて騒いでいる向きもあったが、「台湾を次のウクライナにしてはいけない」のである。そのために過激な手段を用いることになる機会を作らないようにするのが肝心だ。アメリカに火遊びをさせない、アメリカの軽挙妄動に付き合わない、という大人の態度が重要で、インド太平洋地域全体がそのことが分かっているようであるのは安心材料だ。日本も大きくは分かっているが、それだけでは済まない事情があり、そのこともまた地域全体で分かっているだろうから、それもまた別の意味で安心ということになる。

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ペロシの訪問後、インド太平洋地域の大半の国々が中国の側についている(After Pelosi’s Visit, Most of the Indo-Pacific Sides With Beijing

-地域のほぼ全体が中国を支持している。しかし、中国の行動はまた台湾への支持を純化させている。

デレク・グロスマン筆

2022年8月22日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/08/22/china-taiwan-pelosi-crisis-missiles-indo-pacific-allies-support/

ナンシー・ペロシ米連邦下院議長が台湾を訪問した。これをきっかけに、中国は台湾を四方から取り囲み、ミサイルを発射するなど、前例のない軍事訓練を実施し、極めて積極的な姿勢を示した。台湾海峡の緊張が高まったことで、インド太平洋地域の他の国々も予想通り、圧倒的に北京の「一つの中国(One China)」原則(台湾は中国本土の一部である)を支持する反応を示している。しかし、今回のペロシ訪問で、アメリカの主要な同盟諸国も台湾を強く支持していることが明らかになった。特に、台湾をめぐる戦争の可能性に直面した場合、北京の主張的な行動は、他の国々を確実に遠ざけていることが示唆された。

台湾支持の急先鋒は日本とオーストラリアである。東南アジア諸国連合(Association of Southeast Asian NationsASEAN、アセアン)外相会議で、アメリカとともに共同声明を発表し、「国際平和と安定に重大な影響を与える中国の最近の行動に懸念を表明」し、「軍事演習を直ちに中止するよう北京に要請」した。この声明は、オーストラリア、日本、米国が「それぞれの“一つの中国”政策に変更はない」とも述べているが、この点は明らかに焦点とはなっていない。

もう1つの重要な同盟国である韓国は、全く異なるカードを使っていた。ペロシは台北の次にソウルに向かったが、韓国の尹錫烈(ユン・スギョル)大統領は休暇中であると主張し、代わりにペロシとの電話会談を選んだが、これは一部の人々には「無視(sub)」だと解釈された。台湾に関する韓国側の公式声明はない。コメントを求められた大統領府の関係者は、中国や台湾に言及することなく「当事者間の緊密なコミュニケーション(close communication with relevant parties)」を促し、台北への支援を控えた北京に有利な発言であった。

同様に、韓国の朴振外相は、「台湾海峡の地政学的対立の激化は、地域の政治的・経済的安定を阻害し、朝鮮半島に負の波及効果をもたらす」と指摘し、無難な表現に終始している。ペロシが台湾と韓国を訪問した翌週、朴外相は初めて中国を訪問しており、この重要な台湾への中国への関与の直前に、ソウルが北京との間で揺れ動くことを避けたかったことが伺われる。

インド太平洋地域の大半は中国を支持しているが、北京の行動に危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もいくつかある。

ペロシ訪台はカンボジアで開催されたASEAN外相会議の期間中に行われたため、ASEAN外相会議は「ASEAN加盟諸国がそれぞれの“一つの中国”政策を支持することを改めて表明する」という声明をすぐに発表することができた。台湾については全く言及されなかった。

また、多くのASEAN加盟諸国が個別に声明を発表したが、いずれも台湾の状況を支持するものではなかった。例えば、インドネシアは「挑発的な行動を控えるよう(to refrain from provocative actions)」呼びかけ、「一つの中国」政策を引き続き尊重するとした。シンガポールは「米中両国が共存の道を歩み、自制し、緊張をさらに高めるような行動を慎む(U.S. and China can work out a modus vivendi, exercise self-restraint and refrain from actions that will further escalate tensions)」ことを望んだ。アメリカの重要なパートナーとして急成長しているヴェトナムは、過去の声明を踏襲し、「ヴェトナムは“一つの中国”原則の実施を堅持し、関係者が自制し、台湾海峡の状況をエスカレートさせず、平和と安定の維持に積極的に貢献することを期待する」と述べた。マレーシアとタイも同様の声明を出し、台湾への支持を控えている。

東南アジアのリスク回避の明らかな例外は、中国との条約上の同盟国であり、中国の海洋権益をめぐって公然と対立しているフィリピンの対応であった。ブリンケン米国務長官はASEAN会議後の8月上旬にマニラを訪れ、新大統領のフェルディナンド・マルコス・ジュニアと会談し、台湾危機について「アメリカとフィリピンの関係の重要性を示しているにすぎない。私たちは、私たちが見てきた全ての変化に直面して、その関係を進化させ続けることを願っている」と述べた。

一方、インドは非常に興味をそそられるケースであることが判明している。インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外務大臣は、ニューデリーはインドへの潜在的な影響について「評価し、監視する」と述べた。しかし、ニューデリーは「一つの中国」という言葉を口にすることを拒否し、その代わりに「インドの関連政策はよく知られており一貫している。改めて説明する必要はない」と述べるにとどまった。ニューデリーが言葉を濁すのは、おそらく、2020年5月に過去数十年で最も大きな衝突が発生した「実質支配線(Line of Actual Control)」として知られる係争中の陸上国境に沿って、インドが中国と独自の不満を抱えているためだろう。更に、近年、インドと台湾の非公式な関係は、特に経済面で拡大しており、ニューデリーが北京に対して強硬策を取ろうとしていることがうかがえる。しかし、中国への対抗を非公式な目的とする日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security DialogueQuad)に4カ国が参加しているにもかかわらず、日米豪3カ国声明に署名しなかったことは重要である。ニューデリーはまだ北京との友好関係を維持したいようだ。

他の南アジア諸国では、台湾を支持する動きは見られず、中国だけが支持されている。例えば、北京の「鉄の兄弟(iron brother)」であるパキスタンは、主権国家の「内政不干渉(non-interference in international affairs)」の重要性について、中国に台湾の計画を決定させるための慣用句を使った。バングラデシュ、モルディヴ、ネパール、スリランカも同様に、この危機状況における北京の権利を擁護している。

太平洋諸島の中では、不気味な沈黙が支配している。例外はバヌアツで、「バヌアツは台湾が中国の領土の不可侵の一部であることを再確認する」と発表している。心配なのは、台湾の4つの外交パートナーのうち、マーシャル諸島、ナウル、パラオ、ツバルだけが、これまで台北への支持を表明してきたことである。マーシャル諸島は、台湾の「真の友人であり同盟国(a true friend and ally)」であり続けると述べ、中国を具体的に名指しすることなく「台湾海峡における最近の軍事行動(recent military actions in the Taiwan Strait)」を非難した。しかし、台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外相は、台湾に残る14の外交パートナー(うち4カ国は太平洋地域)の全てが、中国よりも台湾に固執していると主張した。台湾は2019年だけでソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋島嶼国を中国に奪われており、さらなる外交上の変化が現実的な懸念材料となっている。

アメリカの太平洋地域における緊密なパートナーであり、時に中国に甘いと見られてきたニュージーランドも曖昧な表現に留まるものの、何らかの意見を表明した。ナナイタ・マフタ外相はASEAN会議の際に中国の王毅外相と会談し、「状況のエスカレート防止、外交、対話の重要性」を強調したが、「一つの中国」もしくは台湾への支持を改めて表明することはなかった。その数日前、危機の前にニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相は中国に関する演説を行い、「より強硬な態度(more assertive)」の北京とでも協力関係を続けていくと述べた。アーダーン首相の今後の中国への訪問計画が、ウェリントンの寛容なメッセージに一役買っているのかもしれない。

最後に、インド太平洋諸国には、何の声明も出さないか、あるいは北京への支持を二転三転させている国がいくつかある。モンゴルは台湾をめぐる米中間の緊張が高まっていることにまだ触れていないが、北京は北の隣国が「一つの中国」を再度支持していると主張している。当然のことながら、北朝鮮とミャンマーの軍事政権は、ともに中国の強力な同盟国であり、中国を支持することを表明し、アメリカがこの地域で問題を起こしていることを非難している。

インド太平洋地域の大半の国々が中国を支持しているのは確かだが、オーストラリアと日本、それにインドなど、北京の振る舞いに危機感を募らせ、直接・間接的に台湾を支援している国もある。通常、北京はこのグループを忠誠の海の中の少数の反対勢力と見なすことができる。しかし、問題はこの3カ国がアメリカとともに日米豪印戦略対話を構成しているが、これらの国々は中国以外のこの地域の主要国であることだ。この3カ国を無視することはできず、北京は今後の戦略を見直すことを検討すべきかもしれない。どちらかといえば、北京は台湾を支持するあからさまな民主国家連合を設立することを避けたいだろう。むしろ、これらの強国の1つ、あるいは複数が台湾への支持を薄めることができれば大きな勝利であり、中国の言う統一への野望を否定できないことの証拠となる。幸いなことに、これらの国々の反対は根強く、その声は大きくなるばかりである。

デレク・グロスマン:ランド研究所上級防衛担当アナリスト、南カリフォルニア大学非常勤講師、米国防次官補(アジア・太平洋安全保障問題担当)の概況説明者(情報担当)を務めた経験を持つ。ツイッターアカウント:@DerekJGrossman

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 悪魔のサイバー戦争をバイデン政権が始める
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 古村治彦です。

 クアッドという言葉が日本国内でも多く報道されるようになっている。このクアッド(Quad)は、正式名称は日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)であり、日本、アメリカ、インド、オーストラリアが参加している枠組みである。これら4カ国で地域における様々な問題解決に協力していこうという建前になっている。実際には対中封じ込めの枠組ということになる。このクアッドが対象とする地域はインド洋、東南アジア、太平洋となっている。中国が進める「一帯一路計画(One Belt, On Road)」に対抗する形になっているのは地図を見れば明らかだ。
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 地政学で言えばランドパワーとシーパワーの戦いということになるが、ユーラシア大陸という最重要の地域(ハートランド)を中国が獲得しつつある中で、アメリカ、オーストラリア、日本がそれに対抗するためにインドを引き込んで中国と対峙するという形になる。しかし、インドはしたたかだ。一帯一路計画にも参加している。どちらか一方に賭けるということではなく、両方で良い関係を保つということを行っている。ランドパワーとシーパワーのはざまにいる国としては極めて合理的な行動を取っている。

 クアッドによって、日本とオーストラリアはこれまで「隣接地域」と考えてこなかった地域で活動を行う、より具体的に言えば中国に対抗するということを行わねばならなくなった。これはアメリカの国力が減退し、一国のみで世界管理を行うことができなくなったことによるものだ。そして、アメリカが超大国として世界を管理し、繁栄を享受するという第二次世界大戦後の世界構造が大きく変化する前触れであることを示しいている。中国の台頭はアメリカにとって大きな懸念材料であるが、既にここまで大きくなってしまった存在をどのように扱うかについては、協調していくべきという考えと叩きのめすべきという考えが分立している。

 日本はインドをお手本にすべきだ。どちらともうまく付き合っていくということだ。日本もインドと同様に、中国とアメリカのはざまにいる存在だ。現状ではアメリカの意向に逆らうことはできないが、それでも裏のチャンネルなりあらゆる手段を講じて、中国とは意思疎通を図り、正面衝突するというような馬鹿げたことにならないようにしておくことが重要だ。

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クアッドは西を目指す(The Quad Looks West

-東京で開催された首脳会議で、クアッドはインド洋地域を含むことで戦略的な焦点を当てる。

マイケル・クーグルマン筆

2022年5月26日

『フォーリン・ポリシー』誌

https://foreignpolicy.com/2022/05/26/quad-tokyo-south-asia-indian-ocean-region/

『フォーリン・ポリシー』誌の「南アジアブリーフ」にようこそ。

今週のハイライト:日米豪印戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)イニシアティヴがインド洋地域に範囲を拡大、パキスタンのイムラン・カーン前首相がイスラマバードでデモ行進、スリランカの首相が緊縮財政を公約。

●クアッドはインド洋に焦点を拡大

「日米豪印戦略対話(Quad、クアッド)」に参加している国々(オーストラリア、インド、日本、アメリカ)の首脳たちが今週、東京で4回目の会合を開いた。共同声明では、新型コロナウイルスワクチン計画からサイバーセキュリティーの協力に至るまで、継続的な協力を約束した。このグループは近年、大きな勢いを見せているが、これはメンバー国が中国との関係をここ数十年で最低のレベルにまで悪化させていることが理由の一つである。
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quadmeetingintokyo20220524511
自然災害から漁業の違法操業まで、海洋をめぐる諸問題を監視するプログラムには、インド洋、東南アジア、太平洋諸島の情報・資源共有センターが含まれる。これは、インド洋地域において中国の存在感を高めていることに懸念を抱いているインドにとって戦略的関心の高い地域に、クワッドの関心が拡大していることを示している。また、4つのメンバー国全てにとっての最重要分野において、クワッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

共同声明ではインドにとって良い兆しとなる内容である新しいイニシアティヴについて言及されている。自然災害から漁業の違法操業まで海洋問題を監視するプログラムに言及されている。更に、このプログラムにはインド洋地域のみならず、東南アジアと太平洋島しょ地域における情報・資源共有センターも含まれる。これは、インド洋地域における中国の存在感の高まりに懸念を抱いているインドにとって、戦略的関心の高い地域にクアッドの地理的焦点が広がっていることを示している。また、4つのメンバー国全てにとって最も重要な分野で、クアッドがより多くの活動を行おうとしていることも示している。

クアッドは、2004年にインド洋で発生した地震と津波で大きな被害を受けたアジア諸国に人道支援を行うために発足した。しかし、東南アジア諸国連合(ASEAN)への支持を確認し、東シナ海と南シナ海における海洋問題への懸念を表明し、太平洋諸島への支援を約束するなど、最近のグループの戦略的焦点の多くは東アジアと東南アジアに当てられている。クアッドの代表的なプロジェクトであるワクチン・パートナーシップは、特に東南アジアと太平洋諸島を対象としている。しかし、新しい海洋イニシアティヴは、インド太平洋を地理的に一つの地域として定義し、それぞれの部分に同等の重点を置いている。

クアッド加盟諸国は、中国が東南アジア諸国との商業的関係を深め、南シナ海の領有権争いを軍事化することを懸念している。これは当然のことだ。海洋監視イニシアティヴは、インド洋地域における北京の存在感の増大に対する懸念も反映している。中国は、バングラデシュ、モルディヴ、スリランカでインフラ投資を活発化させている。インド洋のあちこちに中国の漁船が現れ、インドは昨年、領有するアンダマン諸島の近くで中国の調査船を発見したと発表した。

また、中国は軍事的な存在感も拡大している。東アフリカのジブチに軍事基地を設置した。インド海軍によれば、インド洋北部では常時6~8隻の中国海軍の軍艦が活動しているということだ。南アジアの安全保障研究者であるサミア・ラルワニは、「10 年以内に、中国はマラッカ海峡(Malacca Strait)からバブ・エル・マンデブ海峡(Bab-el-Mandeb strait)に広がる重要な空間における海軍の支配勢力として自らを位置づけることができるだろう」と最近書いている。
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これまでクアッド加盟国の一部は、インド洋地域を戦略的に重要視してこなかった。例えば、オーストラリアの戦略文書では、オーストラリアの隣接地域(immediate region)はインド洋の北東部までと定義されている。アメリカは正式なインド洋戦略を持っていない。しかし、この点については変化の兆しがある。アメリカ政府高官は最近、インド太平洋全体に関する議論の中で、インド洋地域を強調するようになっている。

クアッドの新しい海洋イニシアティヴは、クアッドの基本的な目標である安定の促進と公共財の提供の2つが、インド洋地域とそれにまたがる国々により深く浸透していく可能性を示している。

●私たちがフォローしている事柄

パキスタンで更なる政治ドラマが発生。経済的な問題が山積する中、パキスタンの政治的な温度は急上昇している。先月の不信任投票で失脚したイムラン・カーン前首相は、5月25日にイスラマバードへのデモ行進を行い、現政権が早期選挙に同意するまでそこに留まると発表していた。今週末、警察は複数の野党指導者たちの自宅を家宅捜索し、別の指導者を不明朗な容疑で逮捕した。火曜日には、政府はカーンのデモ行進を進めることはできないと宣言した。

カーンとパキスタン・テヘリク・エ・インサフ(PTI)党内の支持者たちは、水曜日にイスラマバードへ向かった。PTI支持者の一部は警察から催涙ガスを浴びせられ、2000人近くが逮捕された。また、PTI支持者による暴力行為も報告された。しかし、木曜日、カーンは突然、方針を転換した。イスラマバードを離れ、政府が早期投票に応じない場合は6日後に戻ると発表した。

この変化は、更なる暴力を避けるためかもしれないが、早期選挙につながるような交渉が政府との間で行われていることも示唆している。政府は早期投票実施の決定を既に行っていることを示唆している可能性がある。メディアの報道と複数の与党指導者によれば、ここ数日、選挙の可能性のある日程について話し合いが持たれている。そして木曜日、国民議会は、PTI支持者の多くを占める在外パキスタン人による投票の選択肢を制限する新法を可決した。

アフガニスタンのジャーナリストたちは抵抗している。タリバンは最近、女性ニュースキャスター全員が放送中に顔を覆わなければならないと発表し、女性の自由に対する他の強硬な制限に続いて、女性の自由を制限している。一部の男性ジャーナリストは今、テレビ出演の際にも顔面マスクを着用することで彼らとの連帯を表明することを選択し、タリバンがその命令を取り消すまでそうするつもりだと述べている。ハミド・カルザイ元大統領を含む他の著名なアフガニスタン人たちは、女性司会者たちにこの命令に逆らうよう呼びかけている。

昨年8月にタリバンが政権を掌握して以降、アフガニスタンのジャーナリストと女性たちは苦しんでいる。アフガニスタンの記者たちはタリバンに殴打されたり脅迫を受けたりしており、その多くが国外に逃亡している。タリバンによる国内のジャーナリストたちを弾圧をしているのは、タリバンが外国人ジャーナリストたちをより自由に扱ってきたのとは対照的だ。その結果として、タリバン政権のソフトな側面を世界に映し出すことになったようだ。例えば、先週、CNNのクリスティアン・アマンプールは、タリバン幹部のシラジュディン・ハッカニにインタヴューを行った。

スリランカ首相が予算削減を公約した。ロイター通信によると、スリランカの新らしい首相ラニル・ウィクレミンゲは、6週間後に発表予定の暫定予算で、大幅な削減を約束した。首相は、新たな救済措置のための資金をより多く確保するため、インフラプロジェクトの削減を含む削減を行うと述べた。スリランカは一周して元の場所に戻った形だ。現在の経済危機の根源は、2009年の内戦終結時にインフラプロジェクトを優先し、その資金調達のために巨額の融資を受けたことに遡る。

また、スリランカ政府は今週、巨額の債務を再構築するために国際的なアドヴァイザーを採用したことを発表した。スリランカが現在、国際通貨基金(IMF)と交渉している救済策を受けるためには、緊縮財政と債務再編の両方の動きが必要である。

火曜日、タリバンは、アフガニスタンのヘラート、カンダハル、カブールの各都市の空港の地上業務を管理するため、アラブ首長国連邦に拠点を置く航空会社GAACソリューションズと合意に達した。タリバンが以前、カタールやトルコと空港取引をめぐって交渉していたことを考えると、この動きはやや意外だ。しかし、昨年のタリバンによる制圧以来、GAACはカブール空港の地上業務を管理してきた。

タリバンがGAACとの取り決めを延長した理由の一つは、同社がアフガニスタンの空港でいかなる警備員も活動させないことに同意したからだろう。タリバンは長い間、アフガニスタンに外国の治安部隊は存在し得ないと主張してきた。

この新しい合意はタリバンにとって最良のシナリオであり、空港の運営能力を強化し、タリバン支配以降頻発している国際的な戦闘をより多く行う機会を増やすことができる。この取引はタリバンの広報活動にとっても好都合である。国際社会は、逆行する社会政策にもかかわらず、タリバン政権とビジネスをする意思があることを示している。

タリバン政権は今後も外国企業からの援助を求めるだろうが、これは新しい戦略ではない。1990年代、タリバンはアメリカのエネルギー企業ユノカルと数年にわたり、パイプラインプロジェクトの可能性について交渉していた。ユノカル社は、タリバンとアルカイダとの結びつきに対する米国の懸念が強まったため撤退した。

●各地域の声

建築家のアダム・ジラー・モーシェッドは、『デイリー・スター』紙上で、ダッカの悪名高い交通問題の解決には、信号機の改善といった技術的な解決策よりもはるかに多くのことが必要だと論じている。バングラデシュの首都ダッカの交通渋滞は、「社会文化的な要因、合理的な土地利用の欠如、誤った都市統治の複雑な組み合わせの結果である」と、彼は書いている。

環境保護運動活動家ネハ・パンチャミアは『プリント』誌で、インドでは適切な場所を見つけることは難しいが、絶滅危惧種を野生に戻すことが重要だと書いている。彼女は「飼育下で一生を過ごし、休息もなく既に崩壊しつつあるシステムに負担をかけるよりも、生存のためのセカンドチャンスを得る方がより良い」と書いている。

『パキスタン・トゥディ』紙コラムニストであるナジム・ウディンは、イムラン・カーン前首相を支持することはパキスタンの若者たちにとって良い行動ではないと警告している。ウディンは「若者たちは、自分たちを操ることができる人物の前に忠誠を誓うのではなく、合理性、証拠、現実に従うべき時だ」と主張した。

※マイケル・クーグルマン:『フォーリン・ポリシー』誌週刊「南アジアブリーフ」記者兼ワシントンにあるウィルソン・センターのアジア・プログラム副部長兼南アジア担当上級研究員。ツイッターアカウントは@michaelkugelman

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※6月28日には、副島先生のウクライナ戦争に関する最新分析『プーチンを罠に嵌め、策略に陥れた英米ディープ・ステイトはウクライナ戦争を第3次世界大戦にする』が発売になります。


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